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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
管理番号 1341075
異議申立番号 異議2017-700634  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2018-04-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6047375号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6047375号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6047375号の請求項1?4に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6047375号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年11月25日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年6月21日に特許異議申立人泉美幸(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年9月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月6日に意見書が提出され、同年11月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年1月25日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年2月5日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年3月9日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正請求について
(1)訂正の内容
平成30年1月25日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、」とあるのを、「前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、」に訂正する(請求項1の記載を直接的は又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、」とあるのを、「前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、」に訂正する(請求項2の記載を直接的は又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。

(2)訂正の適否
(2-1)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、3及び4について、請求項3及び4は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、また、訂正事項2に係る訂正前の請求項2?4について、請求項3及び4は請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ショルダー領域」及び「センター領域」について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。また、本件明細書とともに図面を併せて「本件明細書等」という。)の段落【0041】及び図1、4、5等の記載を根拠に、「前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく」構成されていることを限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内において、「ショルダー領域」及び「センター領域」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「ショルダー領域」及び「センター領域」について、本件明細書の段落【0041】及び図1、4、5等の記載を根拠に、「前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく」構成されていることを限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内において、「ショルダー領域」及び「センター領域」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 小括
したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され、
前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され、
前記ショルダー領域の幅は、前記センター領域の幅の75%?85%に設定され、
前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積は、前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%に設定されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記細溝の幅は、前記主溝の幅の15%?40%に設定される請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記横溝は、タイヤ幅方向に対して平行又は30°以下の角度で交差するように配置される請求項1?3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。」

第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年11月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1
本件発明1、3及び4は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)取消理由2
本件発明1?4は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物1:特開2010-269769号公報
(特許異議申立人が提出した甲第2号証)

2 判断
2-1 取消理由通知(審決の予告)について
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【0001】
この発明は、トレッド部に、溝により区画してなるブロックを多数備える空気入りタイヤに関し、より具体的には、氷上性能を飛躍的に向上させるとともに他の性能とのバランスを図ろうとするものである。」
(1b)「【0005】
それゆえ、この発明は、これらの問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、トレッドパターンの適正化を図ることにより、氷上性能を飛躍的に向上させるとともに、他の性能とのバランスを確保可能な空気入りタイヤを提供することにある。」
(1c)「【0017】
図1に示すように、トレッド部1は、タイヤ幅方向に区分される第1?3領域S_(1)?S_(3)を備える。第1、3領域S_(1)、S_(3)は、トレッド端に隣接して配置され、第2領域S_(2)は、これら第1、3領域S_(1)、S_(3)の間に位置し、タイヤ赤道面Eを含む。第1?3領域S_(1)?S_(3)は、タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2aと、タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる複数本の横溝2bと、により形成されたブロック4が等ピッチで多数設けられている。各領域S_(1)?S_(3)はブロック4で満たされることにより複数(ここでは3つ)のブロック群G_(B1)、G_(B2)、G_(B3)が構成される。第2領域S_(2)は、タイヤ赤道面Eから左右にそれぞれタイヤ接地幅TWの10%?40%の領域であり、第1、3領域S_(1)、S_(3)は、トレッド端からタイヤ幅方向内方にタイヤ接地幅TWの10%?40%の領域である。
【0018】
また、トレッド部1には、少なくとも1本(ここでは2本)のタイヤ周方向に沿って直線状に延びるシースルー溝部分を含む周方向主溝5a、5bが設けられ、上記ブロック群G_(B1)?G_(B3)は周方向主溝5a、5bを境として配置され、第2領域S_(2)のブロック群G_(B2)と第1、3領域S_(1)、S_(3)のブロック群G_(B1)、G_(B3)とは周方向主溝5a、5bによって離隔され区分されている。周方向主溝5a、5bは接地時に閉じない。
・・・
【0021】
またここでは、2以上のブロック群のうちの少なくとも1つ(ここでは1つ)のブロック群G_(B2)にて各ブロック4の縦幅BL_(2)は横幅BW_(2)よりもそれぞれ大きく(BL_(2)>BW_(2))、残余のブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きい(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))。
・・・
【0025】
つまり、図1に示すトレッドパターンの場合、タイヤ赤道面Eを含むトレッド中央付近に、横幅BW_(2)よりも縦幅BL_(2)の大きいブロック4を配置することで、タイヤ周方向における剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面でのハンドリング性能を向上することができる。一方、トレッド端近傍に、縦幅BL_(1)、BL_(3)よりも横幅BW_(1)、BW_(3)の大きいブロック4を配置することで、トレッド両側区域の横方向におけるブロック剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面での操縦安定性向上とショルダー域の耐偏摩耗性を向上できる。
【0026】
なお、この実施形態のタイヤにあっては、トレッド部1に、タイヤ周方向に延びる周方向主溝5a、5bを配設したことから、排水性能の向上に加えて、かかる周方向主溝5a、5bによって第2領域S_(2)のブロック群G_(B2)と第1、3領域S_(1)、S_(3)のブロック群G_(B1)、G_(B3)とを離隔、区分でき、トレッド部1内でより明確に各ブロック群G_(B1)?G_(B3)による機能を分離できるので、目標性能の確保がより確実となる。」
(1d)「【0037】
実施例1のタイヤは、図1に示すトレッドパターンをトレッド部に有する、205/55R16サイズの乗用車用ラジアルタイヤである。トレッド部1の幅TWは190mmである。実施例1のタイヤは、第1、3領域S_(3)のブロック群G_(B1)、G_(B3)において、ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)が縦幅BL_(1)、BL_(3)よりも大きく(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))、第2領域S_(2)のブロック群G_(B2)において、ブロック4の縦幅BL_(2)が横幅BW_(2)よりも大きい(BL_(2)>BW_(2))。ブロック個数密度D_(1)?D_(3)はいずれも、0.003個/mm^(2)以上0.04個/mm^(2)以下の範囲内である。また、周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmである。実施例1のタイヤにおける詳細な諸元は表1に示すとおりである。
・・・
【0042】

」(1e)刊行物1には、以下の図が示されている。



(2)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、摘示(1a)のとおり、「トレッド部に、溝により区画してなるブロックを多数備える空気入りタイヤ」に関する技術について開示されているところ、摘示(1c)によれば、上記空気入りタイヤの実施の態様として、
トレッド部1は、タイヤ幅方向に区分される第1、第2及び第3領域S_(1)、S_(2)、S_(3)を備え、前記第1、3領域S_(1)、S_(3)は、トレッド端に隣接して配置され、前記第2領域S_(2)は、これら第1、3領域S_(1)、S_(3)の間に位置し、タイヤ赤道面Eを含み、前記第1?3領域S_(1)?S_(3)は、タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2aと、タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる複数本の横溝2bと、により形成されたブロック4が等ピッチで多数設けられ、前記第1?3領域S_(1)?S_(3)はブロック4で満たされることにより複数のブロック群G_(B1)、G_(B2)、G_(B3)が構成されること(【0017】)、
前記トレッド部1には、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるシースルー溝部分を含む周方向主溝5a、5bが設けられ、前記ブロック群G_(B1)?GB3は前記周方向主溝5a、5bを境として配置されること(【0018】)、
前記ブロック群G_(B2)にて各ブロック4の縦幅BL_(2)は横幅BW_(2)よりもそれぞれ大きく(BL_(2)>BW_(2))、前記ブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きい(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))こと(【0021】)、及び、
前記周方向主溝5a、5bによって第2領域S_(2)のブロック群G_(B2)と第1、3領域S_(1)、S_(3)のブロック群G_(B1)、G_(B3)とを離隔、区分していること(【0026】)、が明らかである。
イ また、摘示(1d)によれば、上記アの「空気入りタイヤ」を「乗用車用ラジアルタイヤ」として構成した実施例1について、
周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmであること(【0037】)、
第1領域S_(1)及び第3領域S_(3)において、ブロック群の幅W1、W3は55.9mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N1、N3は19.3%であること、及び、第2領域S_(2)において、ブロック群の幅W2は58.29mm、ブロック幅方向長さBW_(2)は15.0mm、ブロック間距離BGW_(2)は9.0mm、ブロック間距離BGO_(2)は1.5mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N2は20.1%であること(【0042】の表1)、が明らかである。
ウ さらに、図1(摘示(1e))には、上記イの「乗用車用ラジアルタイヤ」が示されており、かかる図より、
周方向主溝5a、5bは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接するように設けられること、複数の縦溝2aは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接する少なくとも一対の縦溝2a、2aを含むこと、及び、タイヤ赤道面Eに位置するブロック列のブロック4は、タイヤ幅方向で隣接されるブロック4とタイヤ周方向で重なる重なり部を備えること、が看取できる。

以上によれば、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「トレッド部1は、タイヤ幅方向に区分される第1、第2及び第3領域S_(1)、S_(2)、S_(3)を備え、
前記第1、3領域S_(1)、S_(3)は、トレッド端に隣接して配置され、前記第2領域S_(2)は、これら第1、3領域S_(1)、S_(3)の間に位置し、タイヤ赤道面Eを含み、
前記第1?3領域S_(1)?S_(3)は、タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2aと、タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる複数本の横溝2bと、により形成されたブロック4が等ピッチで多数設けられ、
前記第1?3領域S_(1)?S_(3)はブロック4で満たされることにより複数のブロック群G_(B1)、G_(B2)、G_(B3)が構成され、
前記トレッド部1には、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるシースルー溝部分を含む周方向主溝5a、5bが設けられ、
前記ブロック群G_(B1)?G_(B3)は前記周方向主溝5a、5bを境として配置され、
前記ブロック群G_(B2)にて各ブロック4の縦幅BL_(2)は横幅BW_(2)よりもそれぞれ大きく(BL_(2)>BW_(2))、
前記ブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きく(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))、
前記周方向主溝5a、5bによって第2領域S_(2)のブロック群G_(B2)と第1、3領域S_(1)、S_(3)のブロック群G_(B1)、G_(B3)とを離隔、区分し、
前記周方向主溝5a、5bは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接するように設けられ、
前記複数の縦溝2aは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接する少なくとも一対の縦溝2a、2aを含み、
タイヤ赤道面Eに位置するブロック列のブロック4は、タイヤ幅方向で隣接されるブロック4とタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmであり、
第1領域S_(1)及び第3領域S_(3)において、ブロック群の幅W1、W3は55.9mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N1、N3は19.3%であり、
第2領域S_(2)において、ブロック群の幅W2は58.29mm、ブロック幅方向長さBW_(2)は15.0mm、ブロック間距離BGW_(2)は9.0mm、ブロック間距離BGO_(2)は1.5mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N2は20.1%である、
乗用車用ラジアルタイヤ。」

(3)対比
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「周方向主溝5a、5b」、「トレッド部1」及び「タイヤ赤道面E」は、本件発明1の「主溝」、「トレッド部」及び「タイヤ赤道」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明の「前記トレッド部1には、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるシースルー溝部分を含む周方向主溝5a、5bが設けられ」という構成は、本件発明1の「タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え」という構成に相当し、また、引用発明の「前記周方向主溝5a、5bは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接するように設けられ」という構成は、本件発明1の「前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる」という構成に相当するものといえる。
(イ)引用発明は「タイヤ幅方向に区分される第1、第2及び第3領域S_(1)、S_(2)、S_(3)を備え」、「前記第1?3領域S_(1)?S_(3)はブロック4で満たされることにより複数のブロック群G_(B1)、G_(B2)、G_(B3)が構成され」、「前記ブロック群G_(B1)?G_(B3)は前記周方向主溝5a、5bを境として配置され」ることから、上記周方向主溝5a、5bの中心間に第2領域S_(2)が配設されることは明らかである。
したがって、引用発明の「これら第1、3領域S_(1)、S_(3)の間に位置し、タイヤ赤道面Eを含」む「第2領域S_(2)」と、「周方向主溝5a」におけるその中心から第2領域S_(2)側の領域と、「周方向主溝5b」におけるその中心から第2領域S_(2)側の領域とは、本件発明1の「タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域」に相当するものといえる。
(ウ)引用発明の「トレッド端に隣接して配置され」る「第1領域S_(1)」と、「周方向主溝5a」におけるその中心から第1領域S_(1)側の領域とは、本件発明1の「ショルダー領域」に相当し、また、引用発明の「トレッド端に隣接して配置され」る「第3領域S_(3)」と、「周方向主溝5b」におけるその中心から第3領域S_(3)側の領域とは、本件発明1の「ショルダー領域」に相当する。
したがって、かかる「ショルダー領域」は、本件発明1の「該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域」に相当するものといえる。
(エ)引用発明の「タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2a」は、「前記第2領域S_(2)において」「ブロック間距離BGO_(2)は1.5mm」であるから、上記「縦溝2a」の溝幅は「1.5mm」と理解することができる。
また、引用発明において、「前記周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmであ」るから、上記周方向主溝5a、5bよりも上記縦溝2aが幅狭に構成されていることも明らかである。
したがって、引用発明の上記「タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2a」は、本件発明1の「タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝」に相当するものといえる。
(オ)引用発明の「複数本の横溝2b」は、「タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる」ものであるから、本件発明1の「タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝」に相当するものといえる。
(カ)引用発明において、「第2領域S_(2)」に設けられる「ブロック4」は、「タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2aと、タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる複数本の横溝2bと、により形成され」、「ブロック4で満たされることにより」、「ブロック群G_(B2)」が構成されるものであるところ、上記ブロック4の配設態様が、並列するブロック列を複数備えたものとなることは技術的に明らかである(摘示(1e)の図1にもそのように示されている。)。
したがって、引用発明の「第2領域S_(2)」の構成は、上記(エ)及び(オ)をも踏まえると、本件発明1の「前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え」という構成に相当するものといえる。
(キ)引用発明において、「第1領域S_(1)」と「第3領域S_(3)」に設けられる「ブロック4」は、「タイヤ周方向に延びる複数本の縦溝2aと、タイヤ幅方向で隣り合う縦溝2a同士を相互に連結しつつタイヤ幅方向に延びる複数本の横溝2bと、により形成され」、「ブロック4で満たされることにより」、「ブロック群G_(B1)」及び「ブロック群G_(B3)」が構成されるものであるところ、かかるブロック4の配設態様が、並列するブロック列を複数備えたものとなることは技術的に明らかである(摘示(1e)の図1にもそのように示されている。)。
したがって、引用発明の「第1領域S_(1)」及び「第3領域S_(3)」の構成は、上記(オ)をも踏まえると、本件発明1の「前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え」という構成に相当するものといえる。
(ク)引用発明において、上記「ブロック群G_(B2)」に設けられた「ブロック4」の「縦幅BL_(2)」及び「横幅BW_(2)」は、本件発明1のセンター領域における「タイヤ周方向の寸法」及び「タイヤ幅方向の寸法」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明の「前記ブロック群G_(B2)にて各ブロック4の縦幅BL_(2)は横幅BW_(2)よりもそれぞれ大きく(BL_(2)>BW_(2))」という構成は、本件発明1の「前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく」という構成に相当するものといえる。
(ケ)引用発明の「前記複数の縦溝2aは、タイヤ赤道面Eを挟んで隣接する少なくとも一対の縦溝2a、2aを含み」という構成は、本件発明1の「細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ」という構成に相当するものといえる。
(コ)引用発明の「タイヤ赤道面Eに位置するブロック列のブロック4は、タイヤ幅方向で隣接されるブロック4とタイヤ周方向で重なる重なり部を備え」という構成は、本件発明1の「タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え」という構成に相当するものといえる。
(サ)引用発明において、「重なり部」の幅は、「3.0mm」(=(「ブロック幅方向長さBW_(2):15.0mm」-「ブロック間距離BGW_(2):9.0mm」)/2)である。また、「タイヤ赤道面Eに位置するブロック列のブロック4」の幅は、15.0mm(「ブロック幅方向長さBW_(2):15.0mm」)であるから、上記「重なり部分」の幅は、上記ブロック4の幅の「20%」(=3.0mm×100/15.0mm)に設定されたものといえる。
したがって、上記「重なり部」の構成は、本件発明1の「前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され」という構成に相当するものといえる。
(シ)引用発明の「乗用車用ラジアルタイヤ」は、本件発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、
「タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定される、
空気入りタイヤ。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく」構成されているのに対し、引用発明は、「前記ブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きく(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))」構成されている点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され」るものであるのに対し、引用発明は、「ブロックの高さは8.5mm」として特定されているが、縦溝2aと周方向主溝5aの深さの関係について特定されていない点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定される」ものであるのに対し、引用発明は、「前記周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmであり、第1領域S_(1)及び第3領域S_(3)において、ブロック群の幅W1、W3は55.9mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N1、N3は19.3%であり、第2領域S_(2)において、ブロック群の幅W2は58.29mm、ブロック幅方向長さBW_(2)は15.0mm、ブロック間距離BGW_(2)は9.0mm、ブロック間距離BGO_(2)は1.5mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N2は20.1%である」点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
a 引用発明は、トレッドパターンの適正化を図ることにより、氷上性能を飛躍的に向上させるとともに、他の性能とのバランスを確保可能な空気入りタイヤを提供する、という課題を解決しようとするものである(摘示(1b))。
より具体的には、刊行物1に「つまり、図1に示すトレッドパターンの場合、タイヤ赤道面Eを含むトレッド中央付近に、横幅BW_(2)よりも縦幅BL_(2)の大きいブロック4を配置することで、タイヤ周方向における剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面でのハンドリング性能を向上することができる。一方、トレッド端近傍に、縦幅BL_(1)、BL_(3)よりも横幅BW_(1)、BW_(3)の大きいブロック4を配置することで、トレッド両側区域の横方向におけるブロック剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面での操縦安定性向上とショルダー域の耐偏摩耗性を向上できる。」(摘示(1c)【0025】)と記載されているとおり、引用発明は、「第1?3領域S_(1)?S_(3)はブロック4で満たされることにより複数のブロック群G_(B1)、G_(B2)、G_(B3)が構成され」ることを前提とし、「前記ブロック群G_(B2)にて各ブロック4の縦幅BL_(2)は横幅BW_(2)よりもそれぞれ大きく(BL_(2)>BW_(2))」構成(以下「構成A」という。)することで、タイヤ周方向における剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面でのハンドリング性能を向上させるとともに、「前記ブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きく(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))」構成(以下「構成B」という。)することで、トレッド両側区域の横方向におけるブロック剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面での操縦安定性向上とショルダー域の耐偏摩耗性を向上させたものと理解することができる。
b そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の構成が当業者にとって容易想到であるというためには、引用発明において、上記構成Aは維持しつつも、上記構成Bについては、「横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きく」構成していたものを、それに反して「縦幅BL_(1)、BL_(3)は横幅BW_(1)、BW_(3)よりもそれぞれ大きく」構成しなければならないことになるが、そのように構成すると、上記構成Bによる、レッド両側区域の横方向におけるブロック剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面での操縦安定性向上とショルダー域の耐偏摩耗性を向上させるという作用効果が失われてしまうことになり、引用発明の上記課題を解決することができない。
c ここで、特許異議申立人は、平成30年3月9日付けの意見書で、ショルダー領域において、ブロックのタイヤ周方向の寸法がタイヤ幅方向の寸法よりも大きいものは周知技術であるから、引用発明に周知技術を適用することは当業者にとって容易である旨、及び、引用発明は、ショルダー領域のブロックの横幅を縦幅よりも大きくすることを必須としているものではないので、引用発明のショルダー領域に周知技術を適用することは、当業者が適宜選択し得る設計事項である旨主張する(1頁下から7行?2頁6行)。
しかし、上記aで述べたとおり、引用発明は、上記構成Aを採用することで、タイヤ周方向における剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面でのハンドリング性能を向上させるとともに、上記構成Bを採用することで、トレッド両側区域の横方向におけるブロック剛性を大きくでき、ドライ・ウェット路面での操縦安定性向上とショルダー域の耐偏摩耗性を向上させるものであって、上記構成Aと上記構成Bとが相俟って、それら構成の相互作用によって、氷上性能を飛躍的に向上させるとともに、他の性能とのバランスを確保可能な空気入りタイヤを提供する、という課題を解決するものである。
そして、上記bで述べたとおり、上記構成Bの「横幅BW1、BW3は縦幅BL1、BL3よりもそれぞれ大きく」構成していたものを、それに反して「縦幅BL1、BL3は横幅BW1、BW3よりもそれぞれ大きく」構成すると、引用発明の課題を解決することができなくなることは技術的に明らかであるから、ショルダー領域において、ブロックのタイヤ周方向の寸法がタイヤ幅方向の寸法よりも大きいものが周知技術であるとしても、かかる周知技術を引用発明に適用する動機付けがあるとはいえず、むしろ、阻害要因があるというべきである。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
d よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成が当業者にとって容易想到であるということはできない。

(イ)以上のとおり、本件発明1は引用発明と上記相違点1?3において相違するものであるところ、上記相違点1に係る本件発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点2及び3を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明とを対比する。
上記「(3-1)ア」の対比関係を考慮すれば、本件発明2と引用発明とは、
「タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定される、
空気入りタイヤ。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
本件発明2は、「前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく」構成されているのに対し、引用発明は、「前記ブロック群G_(B1)、G_(B3)にて各ブロック4の横幅BW_(1)、BW_(3)は縦幅BL_(1)、BL_(3)よりもそれぞれ大きく(BW_(1)>BL_(1)、BW_(3)>BL_(3))」構成されている点。
<相違点B>
本件発明2は、「前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され」るものであるのに対し、引用発明は、「ブロックの高さは8.5mm」として特定されているが、縦溝2aと周方向主溝5aの深さの関係について特定されていない点。
<相違点C>
本件発明2は、「前記ショルダー領域の幅は、前記センター領域の幅の75%?85%に設定され、前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積は、前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%に設定される」ものであるのに対し、引用発明は、「前記周方向主溝5a、5bの溝幅W5a、W5bはいずれも10mmであり、第1領域S_(1)及び第3領域S_(3)において、ブロック群の幅W1、W3は55.9mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N1、N3は19.3%であり、第2領域S_(2)において、ブロック群の幅W2は58.29mm、ブロック幅方向長さBW_(2)は15.0mm、ブロック間距離BGW_(2)は9.0mm、ブロック間距離BGO_(2)は1.5mm、ブロックの高さは8.5mm、ネガティブ率N2は20.1%である」点。

イ 判断
上記相違点Aについて検討すると、上記相違点Aは、上記「(3-1)ア」の相違点1と実質的に同様であるから、上記「(3-1)イ」の判断と同様に、上記相違点Aに係る本件発明2の構成が当業者にとって容易想到であるということはできない。
したがって、本件発明2は引用発明と上記相違点A?Cにおいて相違するものであるところ、上記相違点Aに係る本件発明2の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点B及びCを検討するまでもなく、本件発明2は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1あるいは本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本件発明1あるいは本件発明2と同様に、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとはいえないから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。

2-2 取消理由通知(審決の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
(1-1)申立理由1
訂正前の請求項1、3及び4に係る発明は、以下の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書1?2頁の「(理由1)」、28頁8?20行)。
(1-2)申立理由2
訂正前の請求項1?4に係る発明は、以下の甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(特許異議申立書4?6頁の「(理由3)」、30頁下から2行?32頁下から3行)。
(1-3)申立理由3
訂正前の請求項1及び4に係る発明は、以下の甲第5号証に記載された発明及び周知技術(甲第6?8号証)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(特許異議申立書6?8頁の「(理由4)」、32頁下から2行?34頁11行)。
(1-4)申立理由4
訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の範囲が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである(特許異議申立書8頁の「(理由5)」、34頁12?末行)。

甲第1号証:米国意匠特許発明第458584号公報
甲第3号証:特開2012-20714号公報
甲第4号証:特開2009-126280号公報
甲第5号証:特開2006-341769号公報
甲第6号証:特開2008-201368号公報
甲第7号証:特開平11-34614号公報
甲第8号証:特開平2-179511号公報

(2)検討
(2-1)申立理由1について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には次の図面が示されている。

イ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の請求項1、3及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である旨主張するので、以下検討する。

ウ 検討
本件発明1は、少なくとも「前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定されること」を発明特定事項(以下「事項A」という。)とするものである。
ここで、甲第1号証は、空気入りタイヤに係る意匠公報であり、上記アのとおりの図1?4が示されているところ、かかる意匠公報には、空気入りタイヤに形成される各溝の幅、深さ、断面形状などの具体的構造は明記されていないし、そこに示される図1?4から、そのような各溝の幅、深さ、断面形状などの具体的構造を特定することもできないことから、甲第1号証の記載から上記事項Aの「ゴム体積の比」や「幅の比」を算出することはできない。
したがって、甲第1号証には、少なくとも上記事項Aが記載されていると解すべき合理性はないから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
また、本件発明3及び4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(2-2)申立理由2について
ア 甲第3号証及び甲第4号証の記載事項
(ア)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には次の図が示されている。


(イ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には次の記載がある。
a「【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ10を図1にしたがって説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10のトレッド12には、タイヤ赤道面CLの両側に、タイヤ周方向に沿って延びるジグザグ状の第1の周方向主溝14が形成され、そのタイヤ軸方向外側にタイヤ周方向に沿って直線状に延びる第2の周方向主溝16が形成され、その外側にタイヤ周方向に沿って延びるジグザグ状の第3の周方向主溝18が形成され、1対の第1の周方向主溝14の間には、1対の第1の周方向主溝14、及び1対の第1の周方向主溝14同士を連結する第1のラグ溝20によってセンターブロック22が区画され、第1の周方向主溝14と第2の周方向主溝16との間には、第1の周方向主溝14、第2の周方向主溝16、及び第1の周方向主溝14と第2の周方向主溝16とを連結する第2のラグ溝24によって第2のブロック26が区画され、第2の周方向主溝16と第3の周方向主溝18との間には、第2の周方向主溝16、第3の周方向主溝18、及び第2の周方向主溝16と第3の周方向主溝18とを連結する第3のラグ溝28によって第3のブロック30が区画され、最外側の第3の周方向主溝18の外側にはタイヤ周方向に沿って延びるショルダーリブ32が配置されている。
・・・
【0024】
ここで、第1の周方向主溝14、第2の周方向主溝16、第2の周方向主溝16、第1のラグ溝20、及び第2のラグ溝24は、全て溝深さが同じに設定されているが、第3のラグ溝28は、他の溝よりも浅く形成されており、溝底28Aには、ラグ溝長手方向に沿って延びるサイプ34が、溝底28Aの幅方向中央部分に形成されている。なお、サイプ34の溝底位置は、第3のラグ溝28以外の他の溝の溝底位置と一致している。」
b 甲第3号証には次の図が示されている。


イ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するものであるところ、かかる主張の前提として、甲第3号証には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると主張しているので(特許異議申立書21頁1行?22頁16行)、以下検討する。
「A.タイヤ周方向に沿って延びる主溝(周方向主溝2a、2b)をトレッド部(トレッド部1)に備え、
B.前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
C.タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域(中央域3)と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域(側方域4a、4b)とを備え、
D.前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝(周方向細溝6a、6b)と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝(幅方向細溝8aから8c)とを備えることにより、タイヤ周方向にブロック(ブロック状陸部9a?9c)を並列するブロック列を複数備え、
F.前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
G.タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
H.前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%(約23%)に設定され、
I.前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定される(実施例2)」

ウ 検討
a 本件発明1について
(a)特許異議申立人は、甲第3号証の図3(上記ア(ア))から、「タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックの幅の実測値が21.5であり、重なり部の幅の実測値が5である」点が看取できるとし、甲3発明は、上記Hの構成を備えるものと主張するが(特許異議申立書20頁下から2行?22頁8行)、甲第3号証の図3は、あくまでも特許図面であって、設計図面のような精度をもって記載された図面ということはできないことから、図3の記載のみから、「ブロックの幅」が「21.5」であり、「重なり部の幅」の値が「5」であるとして特定することはできない。
したがって、甲第3号証の記載から、上記Hの構成を特定することはできない。
(b)さらに、甲第3号証には、図3に示されるトレッド部の構成について、トレッド部に形成される各溝の深さ、断面形状などの具体的構造は明記されていないし、図3から、そのような深さ、断面形状などの具体的構造を看取することはできないことから、甲第3号証の記載から甲3発明の上記Iの構成を特定することもできない。
(c)また、甲第4号証には、第1の周方向主溝14、第2の周方向主溝16、第3の周方向主溝18、第1のラグ溝20、第2のラグ溝24、及び第3のラグ溝28を具備する空気入りタイヤにおいて、上記第1の周方向主溝14、第2の周方向主溝16、第2の周方向主溝16、第1のラグ溝20、及び第2のラグ溝24は、全て溝深さを同じに設定し、上記第3のラグ溝28は、他の溝よりも浅く形成することが記載されているが(上記ア(イ))、かかる記載はそもそも甲第3号証の記載事項を説明するものではないから、甲第3号証に上記H及びIの構成が記載されているとする根拠となり得るものではないし、仮に、甲第3号証及び甲第4号証の記載を併せ考慮しても、甲第3号証の図3に示される各溝の断面形状は不明であるから、甲3発明の上記Iの構成を特定することはできない。
(d)そして、本件発明1は、少なくとも「前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され」ること、及び「前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定される」ことを発明特定事項とするものであるところ、かかる事項は、上記(a)?(c)で述べたとおり、甲第3号証には記載されておらず、さらに、甲第4号証を加味しても記載されているということはできないことから、本件発明1は、甲3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

b 本件発明2について
(a)上記a(a)で述べたとおり、甲第3号証の記載から、上記Hの構成を特定することはできない。
(b)また、特許異議申立人は、甲3発明において、ショルダー領域におけるトレッド面から主溝の底の位置までのゴム体積が、センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%を含む範囲に設定することは、甲3発明及び甲第4号証に記載された技術事項より当業者にとって容易である旨主張するが(特許異議申立書32頁6?20行)、上記a(b)(c)で述べたとおり、甲第3号証には、図3に示されるトレッド部の構成について、トレッド部に形成される各溝の深さ、断面形状などの具体的構造は明記されていないし、さらに、甲第4号証の記載された技術事項を考慮しても、甲第3号証の図3に示される各溝の断面形状は不明であるから、特許異議申立人が主張する「ショルダー領域におけるトレッド面から主溝の底の位置までのゴム体積が、センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%を含む範囲に設定される態様」を導き出すことはできないし、かかる態様が当業者にとって容易想到と判断すべき合理性もない。
(d)そして、本件発明2は、少なくとも「前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され」ること、及び「前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積は、前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%に設定される」ことを発明特定事項とするものであるところ、かかる事項は、上記(a)及び(b)で述べたとおり、甲第3号証には記載されておらず、さらに、甲第4号証に記載された技術事項を考慮しても当業者にとって容易想到と判断すべき合理性もないことから、本件発明2は、甲3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

c 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1あるいは本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本件発明1あるいは本件発明2と同様に、甲3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2-3)申立理由3について
ア 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
トレッド面に、タイヤ赤道上をタイヤ周方向にジグザグ状でのびるセンター縦溝と、
このセンター縦溝の両側でタイヤ周方向にのびる一対のミドル縦溝と、
前記センター縦溝と前記ミドル縦溝との間を継ぐセンター横溝とが設けられることにより、前記センター縦溝の両側にセンターブロックが区画された空気入りタイヤであって、
前記センター縦溝は、タイヤ周方向に対して第1の向きに傾く第1の溝部と、前記第1の向きとは逆向きに傾く第2の溝部とが交互に接続され、かつ
前記センターブロックにおいて、前記第1の溝部の溝縁と前記第2の溝部の溝縁とは、タイヤ周方向と平行にのびる溝縁を介することなく接続されしかもタイヤ軸方向のジグザグ振幅をそのタイヤ周方向長さで除したジグザグ比が0.18よりも大かつ0.38よりも小、
かつ前記第1の溝部は第2の溝部に比して溝幅が大かつ溝長さが小で形成され、
さらにトレッド面全体のランド比が62?75%、かつ、タイヤ赤道を中心としたトレッド幅の25%の領域であるセンター領域のランド比が前記トレッド面全体のランド比の1.03?1.17倍であることを特徴とする空気入りタイヤ。」
(イ)「【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、タイヤ赤道上をジグザグにのびるセンター縦溝の形状やセンター領域のランド比などを適切に限定することを基本として、ウエット性能や雪上性能を損ねることなく転がり抵抗を低減しうる空気入りタイヤを提供することを目的としている。」
(ウ)甲第5号証には次の図が示されている。


イ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び4に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術(甲第6?8号証)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するものであるところ、かかる主張の前提として、甲第5号証には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると主張しているので(特許異議申立書26頁1?21行)、以下検討する。
「A.タイヤ周方向に沿って延びる主溝(ミドル縦溝3b)をトレッド部(トレッド面2)に備え、
B.前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
C.タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域(センター領域Cr)と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
D.前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝(センター縦溝3a)と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝(センター横溝4a)とを備えることにより、タイヤ周方向にブロック(センターブロック5a)を並列するブロック列を複数備え、
E.前記細溝の深さ(センター縦溝の最大溝深さ:16.3mm(一定)は、前記主溝の深さ(ミドル縦溝の溝深さ:16.8mm)の60%?100%(約97%)に設定され、
G.タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
H.前記重なり部の幅(実測値4.5mm)は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅(実測値22.5mm)の5%?25%(約20%)に設定される、
空気入りタイヤ。」

ウ 検討
a 特許異議申立人は、甲第5号証の図3(上記ア(ウ))から、「タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックの幅の実測値が22.5であり、重なり部の幅の実測値が4.5である」点が看取できるとし、甲5発明は、上記Hの構成を備えるものと主張するが(特許異議申立書25頁下から2行?26頁21行)、甲第5号証の図3は、あくまでも特許図面であって、設計図面のような精度をもって記載された図面ということはできないことから、図3の記載のみから、「ブロックの幅」が「22.5」であり、「重なり部の幅」の値が「4.5」であるとして特定することはできない。
したがって、甲第5号証の記載から、上記Hの構成を特定することはできない。
b また、特許異議申立人は、トレッド部にブロックが形成された空気入りタイヤの技術分野において、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられた細溝は、周知技術(例えば、甲第6?8号証を参照。)であるから、甲5発明のセンター縦溝3aを、上記周知技術の一対の細溝に置換することは、当業者にとって容易である旨主張するが(特許異議申立書33頁12?18行)、甲第5号証には、その特許請求の範囲の請求項1に「トレッド面に、タイヤ赤道上をタイヤ周方向にジグザグ状でのびるセンター縦溝と、・・・前記センター縦溝の両側にセンターブロックが区画された空気入りタイヤであって、・・・タイヤ赤道を中心としたトレッド幅の25%の領域であるセンター領域のランド比が前記トレッド面全体のランド比の1.03?1.17倍であることを特徴とする空気入りタイヤ。」と記載され(上記ア(ア))、また、発明が解決しようとする課題として「本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、タイヤ赤道上をジグザグにのびるセンター縦溝の形状やセンター領域のランド比などを適切に限定することを基本として、ウエット性能や雪上性能を損ねることなく転がり抵抗を低減しうる空気入りタイヤを提供することを目的としている。」(上記ア(イ))と記載されているように、甲第5号証に記載された発明は、あくまでも「タイヤ赤道上をジグザグにのびるセンター縦溝」を備えることを基本構成した発明と解すべきであるから、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられた細溝が甲第6?8号証に記載されるように周知技術であるとしても、かかる基本構成に反してまで、甲第5号証に記載の「タイヤ赤道上をジグザグにのびるセンター縦溝の形状」を、「タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられた細溝」に置換する動機付けは存在するものではなく、むしろ、阻害要因があるというべきである。
c したがって、本件発明1、及び、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明4は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術(甲第6?8号証)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2-4)申立理由4について
特許異議申立人は、本件特許の請求項1には、「前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比」と記載され、また、請求項2には、「前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積は、前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%に設定される」と記載されているが、これら記載の「トレッド面から主溝の底の位置までのゴム体積」は、トレッド面から、主溝の底に対してタイヤ幅方向に平行な位置までのゴム体積を意味するのか、主溝の底に対してトレッド面に平行な位置までのゴム体積を意味するのか明らかでなく、その結果、発明の範囲が不明確である旨主張する(特許異議申立書34頁12?23行)。
しかし、本件明細書には、本件特許の請求項1及び2に記載された「ゴム体積」について、「各領域4,5のゴム体積V1,V2は、各領域4,5の幅W1,W2に、主溝3の深さD1と周長とを乗じ、主溝3、細溝6(後述する)及び横溝7(後述する)等の溝の体積を差し引いて算出される。」(【0029】)と記載され、上記「トレッド面から主溝の底の位置までのゴム体積」の意味は明確に理解することができるから、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(審決の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され、
前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積に対する前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の比は、前記センター領域の幅に対する前記ショルダー領域の幅の比よりも、大きく設定されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に沿って延びる主溝をトレッド部に備え、
前記主溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられる空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道を挟んで隣接する前記一対の主溝の中心間に位置するセンター領域と、該主溝の中心とトレッド面の端部との間に位置する一対のショルダー領域とを備え、
前記センター領域は、タイヤ周方向に沿って延び且つ前記主溝よりも幅狭な細溝と、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の横溝とを備えることにより、タイヤ周方向にブロックを並列するブロック列を複数備え、
前記ショルダー領域は、タイヤ幅方向に沿って延びる複数の溝を備えることにより、タイヤ周方向に並列する複数のブロックを備え、
前記センター領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記センター領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ周方向の寸法は、前記ショルダー領域の前記ブロックのタイヤ幅方向の寸法よりも、大きく、
前記細溝の深さは、前記主溝の深さの60%?100%に設定され、
前記細溝は、タイヤ赤道を挟んで隣接するように少なくとも一対設けられ、
タイヤ赤道上に位置するブロック列のブロックは、タイヤ幅方向で隣接されるブロックとタイヤ周方向で重なる重なり部を備え、
前記重なり部の幅は、タイヤ赤道上に位置する前記ブロック列のブロックの幅の5%?25%に設定され、
前記ショルダー領域の幅は、前記センター領域の幅の75%?85%に設定され、
前記ショルダー領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積は、前記センター領域における前記トレッド面から前記主溝の底の位置までのゴム体積の80%?95%に設定されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記細溝の幅は、前記主溝の幅の15%?40%に設定される請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記横溝は、タイヤ幅方向に対して平行又は30°以下の角度で交差するように配置される請求項1?3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-16 
出願番号 特願2012-243561(P2012-243561)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60C)
P 1 651・ 537- YAA (B60C)
P 1 651・ 113- YAA (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
氏原 康宏
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6047375号(P6047375)
権利者 東洋ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  

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