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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B24B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B24B
管理番号 1341076
異議申立番号 異議2017-700346  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2018-05-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6016301号発明「単結晶SiC基板の表面加工方法,その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6016301号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4,14〕,5,〔6-13〕について訂正することを認める。 特許第6016301号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6016301号の請求項1ないし13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成25年2月13日に特許出願され,平成28年10月7日にその特許権の設定登録がされ,平成29年4月10日に特許異議申立人柘植達吉(以下「申立人」という。)より請求項1ないし13に対する特許異議申立書が提出され,平成29年7月6日付けで取消理由通知がされ,平成29年9月7日に特許権者昭和電工株式会社及び国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正請求がされ,平成29年11月8日に申立人より意見書が提出され,平成29年12月20日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,平成30年2月20日に特許権者より意見書の提出及び訂正請求がされたところ,当審は期間を指定して申立人に意見を求めたが,申立人は指定した期間に意見書を提出しなかった。
なお,平成30年2月20日に訂正請求がされたため,特許法第120条の5第7項の規定により,平成29年9月7日にされた訂正請求は,取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否
1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容
訂正請求の趣旨は,特許第6016301号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし4及び請求項14,訂正後の請求項5,並びに訂正後の請求項6ないし13からなる一群の請求項について訂正することを求めるものであり,具体的な訂正の内容は以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示すために当審で付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について,
「【請求項1】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と記載されているのを
「【請求項1】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について,
「【請求項2】
クーラントが純水であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と記載されているのを
「【請求項2】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
クーラントが純水であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について,
「【請求項3】
クーラントを用いないか,又は,クーラントとして用いる純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と記載されているのを
「【請求項3】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い,
クーラントを用いないことを特徴とする単結晶単結晶SiC基板の表面加工方法。」
及び
「【請求項14】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
クーラントが純水であり,
前記クーラントとして用いる前記純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4について,
「【請求項4】
被加工物テーブルの回転方向が研削プレート回転方向と逆方向であり,硬質パッドはセグメント化されたものであり,被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と記載されているのを
「【請求項4】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5について,
「【請求項5】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有することを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。」
と記載されているのを
「【請求項5】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有し,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6について,
「【請求項6】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されていることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。」
と記載されているのを
「【請求項6】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されており,
前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。」
と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0015】について,
「 【0015】
本発明は,以下の手段を提供する。
(1)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(2)クーラントが純水であることを特徴とする(1)に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(3)クーラントを用いないか,又は,クーラントとして用いる純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする(1)に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(4)被加工物テーブルの回転方向が研削プレート回転方向と逆方向であり,硬質パッドはセグメント化されたものであり,被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする(1)?(3)のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(5)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有することを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
(6)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されていることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
・・・・・(中略)・・・・・
(13)前記砥粒の固定は,固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6?12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。」
と記載されているのを
「 【0015】
本発明は,以下の手段を提供する。
(1)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(2)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,クーラントが純水であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(3)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い,クーラントを用いないことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(4)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(5)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有し,前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
(6)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されており,前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
・・・・・(中略)・・・・・
(13)前記砥粒の固定は,固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6?12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(14)平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,クーラントが純水であり,前記クーラントとして用いる前記純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張,変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1に「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行う」という発明特定事項を付加するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また,上記の発明特定事項は,願書に添付した明細書の段落【0034】及び【0037】に記載されているから,訂正事項1に係る訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項1に係る訂正により,訂正後の請求項1は減縮され,発明のカテゴリーは訂正の前後で一致しているから,訂正事項1に係る訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項2が,訂正前の請求項1を引用するものであったところ,訂正前の請求項1に係る発明特定事項を記載することにより,他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
また,訂正事項2に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正前の請求項3が,択一的な発明特定事項を有していたところ,その択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して訂正後の請求項3及び14に変更し,また,訂正前の請求項3が,訂正前の請求項1を引用するものであったところ,訂正前の請求項1に係る発明特定事項を記載することにより,他の請求項の記載を引用しないものとし,さらに,訂正前の請求項3について,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い,」という発明特定事項を新たに付加するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
また,新たに付加した発明特定事項は,願書に添付した明細書の段落【0034】及び【0037】に記載されており,択一的な発明特定事項や訂正前の請求項1に係る発明特定事項が,願書に添付した特許請求の範囲に記載されていることは明らかであるから,訂正事項3に係る訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項3に係る訂正により,訂正後の請求項3及び14は減縮され,発明のカテゴリーは訂正の前後で一致しているから,訂正事項3に係る訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正前の請求項4が,訂正前の請求項1ないし3のいずれか1項を引用するものであったところ,訂正前の請求項1に係る発明特定事項を記載することにより,他の請求項の記載を引用しないものとし,さらに,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,」という発明特定事項を新たに付加するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
また,新たに付加した発明特定事項は,願書に添付した明細書の段落【0034】に記載されており,訂正前の請求項1に係る発明特定事項が,願書に添付した特許請求の範囲に記載されていることは明らかであるから,訂正事項4に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項4に係る訂正により,訂正後の請求項4は減縮され,発明のカテゴリーは訂正の前後で一致しているから,訂正事項4に係る訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は,訂正前の請求項5に「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmである」という発明特定事項を付加するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また,上記の発明特定事項は,願書に添付した明細書の段落【0034】及び【0039】に記載されているから,訂正事項5に係る訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項5に係る訂正により,訂正後の請求項5は減縮され,発明のカテゴリーは訂正の前後で一致しているから,訂正事項5に係る訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は,訂正前の請求項6に「前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものである」という発明特定事項を付加するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また,上記の発明特定事項は,願書に添付した明細書の段落【0039】に「通常の研削装置では被加工物テーブルの回転中心は研削プレートの外周部に当たるように配置され,被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と逆方向であるため,研削プレート全面に砥粒があると,被加工物中央部への砥粒の接触頻度が高くなり,中央部だけが削れてしまうので,これを防ぐための適切なセグメント化は有効である。」との記載があり,研削プレートの外周側で砥粒の接触頻度を低くするようにセグメント化することが示されており,さらに図1には,径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる直角三角形状にセグメント化された研削プレートが記載されているから,訂正事項6に係る訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項6に係る訂正により,訂正後の請求項6は減縮され,発明のカテゴリーは訂正の前後で一致しているから,訂正事項6に係る訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は,訂正事項1ないし6による,特許請求の範囲の訂正に合わせて明細書の記載を訂正するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
また,訂正事項7に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

3.一群の請求項について
訂正前の請求項2ないし4は,訂正前の請求項1を引用しているので,訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項である。そして,訂正事項1ないし4は,訂正前の請求項1ないし4を訂正するものであるから,一群の請求項ごとにしたものである。
また,訂正前の請求項7ないし13は,訂正前の請求項6を引用しているので,訂正前の請求項6ないし13は一群の請求項である。そして,訂正事項6は,訂正前の請求項6ないし13を訂正するものであるから,一群の請求項ごとにしたものである。

4.むすび
したがって,訂正請求による訂正事項1ないし7に係る訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1,3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-4,14〕,〔5〕,〔6-13〕について訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり,訂正請求が認容されるから,特許第6016301号の請求項1ないし14に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定される,次のとおりのものである(以下,各請求項に係る発明を「特許発明1」などといい,特許発明1ないし14をまとめて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項2】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
クーラントが純水であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項3】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い,クーラントを用いないことを特徴とする単結晶単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項4】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項5】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有し,
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し,
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり,前記硬質パッドはセグメント化されたものであり,前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項6】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されており,
前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項7】
前記金属酸化物が酸化セリウム,酸化チタン,酸化珪素,酸化アルミニウム,酸化鉄,酸化ジルコニウム,酸化亜鉛,酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項8】
前記金属酸化物が少なくとも酸化セリウムを含むことを特徴とする請求項7に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項9】
前記砥粒の比表面積が0.1m^(2)/g?300m^(2)/gであることを特徴とする請求項6?8のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項10】
前記軟質パッドが,不織布系またはスエード系であることを特徴とする請求項6?9のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項11】
前記硬質パッドが,発泡ポリウレタン系であることを特徴とする請求項6?10のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項12】
前記砥粒を結合剤及び/又は接着剤で固定されたものであることを特徴とする請求項6?11のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項13】
前記砥粒の固定は,固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6?12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項14】
平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって,前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し,前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い,
クーラントが純水であり,
前記クーラントとして用いる前記純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。」


第4 提出された証拠に係る刊行物の記載
申立人が提出した証拠(甲号証及び参考資料)に係る刊行物及び特許権者が提出した証拠(乙号証)に係る刊行物は,次のとおりである(以下,これらの甲号証,参考資料及び乙号証をまとめて「全証拠」という。)。

1.甲号証及び参考資料に係る刊行物
(1) 甲第 1号証:特開2012-253259号公報
(2) 甲第 2号証:特開2011-9737号公報
(3) 甲第 3号証:特開2004-255467号公報
(4) 甲第 4号証:特開2005-277130号公報
(5) 甲第 5号証:特許第4757891号公報
(6) 甲第 6号証:特開平6-77185号公報
(7) 甲第 7号証:特開平6-21028号公報
(8) 甲第 8号証:特開2000-311874号公報
(9) 甲第 9号証:特開2003-48164号公報
(10)甲第10号証:国際公開第2001/80296号
(11)甲第11号証:特開平11-198045号公報
(12)甲第12号証:特表2009-502533号公報
(13)甲第13号証:特開平11-235659号公報
(14)甲第14号証:国際公開第2012/115020号
(15)甲第15号証:国際公開第2012/102180号
(16)甲第16号証:山内正裕,安永暢男,「TiO_(2)砥粒によるSiC
ウェハのメカノケミカルポリシング」,
2005年度精密工学会春季大会学術講演会
講演論文集,社団法人精密工学会,2005年
3月1日発行,第823及び824ページ
(17)甲第17号証:渡辺茂,土肥俊郎,池野順一,清木彰彦,
尾形謙次郎,Ara Philipossian,
Darren DeNardis,河西敏雄,
「新しいBell-jar型CMP装置による
加工特性の検討(第9報)」,2005年度
精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,
社団法人精密工学会,2005年9月1日発行,
第339及び340ページ
(18)甲第18号証:大下格,神崎壽夫,山本悟,
「SiC単結晶ウェハのメカノケミカル
鏡面加工」,2006年度精密工学会
春季大会学術講演会講演論文集,
社団法人精密工学会,2006年3月1日発行,
第551及び552ページ
(19)甲第19号証:佐藤誠,奥田和弘,「砥粒内包研磨パッドの開発
(5)」,2007年度精密工学会春季大会
学術講演会講演論文集,社団法人精密工学会,
2007年3月1日発行,
第219及び220ページ
(20)甲第20号証:佐藤誠,蛭子博志,野浪亨,「SiC単結晶研磨に
おけるヒドロキシルラジカルの影響」,
2008年度精密工学会春季大会学術講演会
講演論文集,社団法人精密工学会,2008年
3月3日発行,第207及び208ページ
(21)甲第21号証:周立波,戸井田勲,清水淳,江田弘,「電気泳動法
によるCMG砥石の開発とその性能評価」,
砥粒加工学会誌,第50巻第3号,
2006年3月1日発行,第7ないし10ページ
(22)甲第22号証:佐藤誠,「SiC単結晶基板の材料加工
プロセス」,光技術コンタクト,第44巻
第12号,社団法人日本オプトメカトロニクス
協会,2006年12月20日発行,
第47ないし54ページ
(23)甲第23号証:佐藤誠,山口幸男,「砥粒内包工具によるSiC
単結晶の研磨の試み」,名古屋工業大学
セラミックス基盤工学研究センター年報,第7巻,
名古屋工業大学セラミックス基盤工学研究
センター,2008年3月31日発行,
第49ないし53ページ
(24)甲第24号証:加藤智久,「第2節 SiCウェハの研磨技術」,
SiCパワーデバイスの開発と最新動向 -普及に
向けたデバイスプロセスと実装技術-,
S&T出版株式会社,2012年10月30日
発行,第275ないし283ページ
(25)甲第25号証:佐藤誠,「SiC単結晶の研磨工程の高能率化」,
MATERIAL STAGE,第9巻第6号,
株式会社技術情報協会,2009年9月10日発行
第50ないし53ページ
(26)甲第26号証:長谷川政裕,本間寅二郎,石山慎吾,神田良照,
「メカノケミカル重合反応による無機微粉体の
表面改質」,化学工学論文集,第17巻第5号,
社団法人化学工学会,1991年9月10日発行,
第1019ないし1025ページ
(27)甲第27号証:粉体工学会,「粉体工学叢書 第2巻
粉体の生成」,日刊工業新聞社,
2005年9月30日発行,
第137ないし164ページ
(28)甲第28号証:特開平10-321572号公報
(29)甲第29号証:特表2009-512566号公報
(30)甲第30号証:国際公開第2012/141111号
(31)甲第31号証:特開2006-55964号公報
(32)甲第32号証:特開2000-190235号公報
(33) 参考資料1:(財)日本規格協会,「JIS工業用語大辞典
【第4版】」,1998年7月15日,
第9ないし12,520,533及び982ページ
(34) 参考資料2:特開2012-160683号公報
(35) 参考資料3:特開2004-193377号公報
(36) 参考資料4:特開2005-142441号公報
(37) 参考資料5:特開平7-130687号公報
(38) 参考資料6:特開平11-170167号公報
(39) 参考資料7:特開2005-288552号公報
(各甲号証や各参考資料については,以下「甲1」,「参1」などという。)

2.乙号証に係る刊行物
(1) 乙第 1号証:貴堂高徳,ほか10名,「単結晶SiCウェハ
加工プロセスへの研削加工適用の優位性と
大口径化への課題」,SiC及び関連ワイド
ギャップ半導体研究会第21回講演予稿集,
第72及び73ページ
(2) 乙第 2号証:欧州特許出願公開第465868号明細書
(3) 乙第 3号証:欧州特許出願公開第223920号明細書
(4) 乙第 4号証:米国特許第5257478号明細書

3.甲1の記載事項並びに甲1の方法の発明及び物の発明
(1)甲1の記載事項
甲1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,理解を容易にするために当審で付したものである。
ア.「【0002】
従来,半導体デバイスの製造プロセスにおいて優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として,化学的機械的研磨法,所謂CMP(Chemical Mechanical Polishing)が広く採用されている。」
イ.「【0005】
研磨パッドとしては,一般的に不織布が使用され,例えばシリカなどの遊離砥粒を含んだ研磨液(スラリー)を供給しながら被研磨物の表面を研磨する。
【0006】
また,炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)から成る単結晶基板のような難加工材料に対しては,CMP法による研磨加工において,酸化性の研磨液の存在化において砥粒内包研磨パッドを用いて研磨することで十分な研磨能率が好適に得られることが知られている。・・・・・」
ウ.「【0009】
本発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであり,その目的は,CMP研磨加工により高研磨レートを達成し,良好な研磨面を得ることができるCMP研磨加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明は,CMPの研磨加工において,固定砥粒研磨パッドと新規の酸性研磨液でSiCウェーハを研磨する方法を要旨とする。・・・
・・・
【0012】
本発明は,過マンガン酸カリウムと酸化性無機塩とを混合させた酸性研磨液をSiCウェーハと固定砥粒研磨パッドの間に放出しつつ,SiCウェーハを研磨することで,高研磨レートを達成できるとともに,生産性の向上を図ることができる。」
エ.「【0014】
図1に示す研磨加工装置1は,SiCウェーハ2等の各種被加工物の表面にできた凸凹を平坦化させる装置である。研磨加工装置1は,SiCウェーハ2の一方の面である非研磨面2aに貼り付けた保護テープ2c側を保持するチャックテーブル3と,SiCウェーハ2の他方の面である研磨面2bを研磨する研磨ホイール10とスピンドル6とを備えた研磨手段14から構成されている。
【0015】
図1に示すように,チャックテーブル3は,その上部に微小の孔を無数に設けた多孔質保持部材4を備えている。また,チャックテーブル3の中央部には,SiCウェーハ2の非研磨面2a側を吸引するための吸引口5が一定幅に形成され,吸引口5の連結口5aが多孔質保持部材4の下部に連結している。
【0016】
図1に示すように,スピンドル6の下端に形成されたマウント6aの両端部にボルト7を挿入して,スピンドル6と研磨ホイール10を固設している。研磨ホイール10は,基台9と固定砥粒研磨パッド11とから構成され,その基台9の下部に当該固定砥粒研磨パッド11が固着されている。スピンドル6と基台10の中央には,貫通した研磨液供給口8が形成され,当該研磨供給口8の下端部に連結口8aが形成されている。連結口8aは固定砥粒研磨パッド11の中央部に連結されており,研磨液が連結口8aを通過して,固定砥粒研磨パッド11に流れるようになっている。
【0017】
スピンドル6は,その中心部を中心軸として矢印A方向に回転駆動可能となっている。また,チャックテーブル3もその中心部を中心軸として矢印B方向に回転駆動可能となっている。さらに,スピンドル6と多孔質保持部材4は,上記の回転駆動と同時に横矢印C1,C2方向に水平移動できる構成としている。
【0018】
固定砥粒研磨パッド11は,イソシアネートとポリオールとからなるポリウレタン樹脂を母材として形成され,母材の内部には,無数のシリカ砥粒が固定されている。」
オ.「【0020】
以下に,本発明にかかる研磨加工について,図2乃至図4を参照しながら説明する。
・・・
【0024】
図4に示すように,該研磨ステップにおいては,本発明に係る過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))と酸化性無機塩とを混合させた酸性研磨液13が,研磨液供給口8を通じて,さらに供給溝12を通過して固定砥粒研磨パッド11とSiCウェーハ2の研磨面2bとの間に均一に供給される。これにより,酸性研磨液13の有する化学的作用と固定砥粒研磨パッド11の有する機械的作用とが相まって,固定砥粒研磨パッド11が接触するSiCウェーハ2の研磨面2bを高い研磨能率で平坦に研磨することができる。」
カ.段落【0026】の表1
表1には,スピンドル回転数が495rpmであることが記載されている。

(2)甲1の方法の発明及び物の発明
上記ア.ないしカ.に示す記載事項を技術常識をふまえて整理すると,甲1には,それぞれ以下の発明が記載されているということができる。

「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された研磨ホイール10であって,前記固定砥粒研磨パッド11のポリウレタン樹脂の内部に単結晶SiCよりも柔らかくかつバンドギャップを有するシリカ砥粒が固定された研磨ホイール10を研磨加工装置1に装着し,酸性研磨液13の有する化学的作用と前記固定砥粒研磨パッド11の有する機械的作用とで表面の研磨を行い,
前記研磨加工装置1は,前記研磨ホイール10を回転可能に装着するスピンドル6と単結晶SiC基板を固定するチャックテーブル3を有し,
前記表面の研磨は前記研磨ホイール10を495rpmの回転速度で回転させて行う単結晶SiC基板の表面研磨法。」(以下「甲1の方法の発明」という。)

「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された研磨ホイール10であって,前記固定砥粒研磨パッド11は,ポリウレタン樹脂の内部に単結晶SiCよりも柔らかくかつバンドギャップを有するシリカ砥粒が固定されている単結晶SiC基板の表面加工用研磨ホイール10。」(以下「甲1の物の発明」という。)


4.甲2の記載事項
「【0049】
柔軟層は,好ましくは研磨パッドの最下層に相当する。その上に,好ましくは,接着剤層によって柔軟層上に固定される,例えばポリウレタンからなるフォーム層が存在する。該PUフォームの上には,より硬質な剛性材料からなる層,好ましくは硬質プラスチックからなる層が存在しており,該層には,例えばポリカーボネートが適している。この剛性層の上には,微細反復構造を有する層,すなわち実際の固定砥粒層が存在する。
【0050】
しかしながら,該柔軟層は,フォーム層と剛性層との間又は固定砥粒層の真下に位置していてもよい。
【0051】
種々の層の互いの固定は,好ましくは感圧接着剤層(PSA)によって行われる。」

5.甲4の記載事項
「【0028】
図2に示すように,研磨テーブル102a?102c上には,それぞれ研磨パッド104が設けられている。」
「【0036】
下層側のパッド層103bは,独立した気泡が敢えて導入されていないウレタンにより構成されている。下層側のパッド層103bの硬さは,上層側のパッド層103aの硬さより軟らかくなっている。このような研磨パッド104としては,例えば東洋紡績株式会社製の研磨パッド(型番:NP2000)を挙げることができる。」

6.甲5の記載事項
「【0017】
<〔II〕スラリーレス研磨パッド>
CMPに使用する研磨パッドとしてはさらに以下の技術が公知である。・・・(3)研磨表面が設けられており,前記研磨表面に隣接し選択した厚さ及び剛性の剛性要素が設けられており,前記剛性要素へ実質的に一様な力を付与するために前記剛性要素に隣接して弾性要素が設けられており,前記剛性要素及び前記弾性要素が前記研磨表面へ弾性的屈曲力を付与して前記研磨表面に制御した屈曲を誘起させ,それが前記加工物の表面の全体的な形状に適合し且つ前記加工物表面の局所的な形状に関して制御した剛性を維持することを特徴とする研磨用パッド(特開平06-077185号公報)。・・・」

7.甲6の記載事項
「【0025】
【課題を解決するための手段】本発明は,半導体ウエハを研磨するのに適した研磨用パッド,及び半導体ウエハを研磨するための研磨用パッドの使用方法を提供している。本発明の研磨用パッドは,研磨用層と,剛性層と,弾性層とを有している。研磨用層に隣接する剛性層は,研磨用層に対して制御した剛性を与えている。剛性層に隣接する弾性層は,該剛性層に実質的に一様な力を与えている。動作中,該剛性層及び弾性層は,研磨用層に対して弾性的な屈曲力を付与し,該研磨用層に制御した屈曲を誘起させて,ウエハ表面の全体的なトポグラフィと馴染ませ,一方ウエハ表面の局所的トポグラフィに亘っては制御した剛性を維持する。」

8.甲13の記載事項並びに甲13の方法の発明及び物の発明
(1)甲13の記載事項
甲13には,以下の事項が記載されている。なお,丸付き数字(丸で囲った数字)を「○1」のように表記する。
ア.「【0007】○3ワーク表面で軟質砥粒が触媒的な作用を営んで,真実接触点の酸化を促進し,この酸化層が除去される。軟質砥粒として,化学的な活性の高い酸化クロムが用いられる場合が多い。こうしたメカノケミカルポリッシングは固体同士の反応性に強く依存する加工法であり,反応能率は必ずしも高くない。したがって,メカノケミカルポリッシングでは通常の研磨に比べて加工時の面圧を高く設定して加工領域を発熱しやすい環境にしている。」

イ.図7




(2)甲13の方法の発明及び物の発明
甲13の図7の「加工対象」の欄の下から2つめの行には,左から,「加工対象」として「単結晶炭化珪素 多結晶炭化珪素」が記載され,「分類」が「○3」,「ポリッシャ・工具」及び「研磨材・雰囲気」が「Cr_(2)O_(3)粉含有樹脂定盤,乾式」と記載されており,上記ア.には,酸化クロムによりワーク表面の酸化を促進させて酸化層を除去する旨の事項が記載されているから,これらの記載事項を技術常識をふまえて整理すると,甲13には,それぞれ以下の発明が記載されているということができる。

「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤であって,樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定された樹脂定盤を研磨装置に装着し,前記樹脂定盤によって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研磨を行う単結晶SiC基板の表面加工方法。」(以下「甲13の方法の発明」という。)

「酸化クロム粉を含有する表面加工用研磨樹脂定盤であって,樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定された単結晶SiC基板の表面加工用研磨樹脂定盤。」(以下「甲13の物の発明」という。)

9.参1の記載事項
(1)第533ページ
「研磨 ^(*)けんま sanding,grinding,polishing
研削,磨きの総称. [H0201]」

(2)第982ページ
「セグメント研削といし ^(*)せぐめんとけんさくといし segment grinding wheel
数個を組み合わせ,主として正面で研削する断片状のといし.[R6004]」

10.参7の記載事項
(1)「【0029】
図1は,本発明の一実施例のコランダム用研磨工具( 以下,単に研磨工具という) 10の全体を示す斜視図である。図において,研磨工具10は,平坦な取着面を備えた工具本体である取付孔12を備えた円板状の金属製台板14と,砥粒が所定の結合剤で結合されることにより構成され,ウエハ状のワークすなわち被研磨部材である単結晶サファイヤ板28の仕上げ面に摺接させられる複数個の砥石片16と,一面においてその複数個の砥石片16が配設され,他面において上記金属製台板14の取着面にたとえば両面接着テープ等の接着剤を介して固着された弾性変形可能な円形の弾性シート17とを備えている。・・・
【0030】
・・・台板14の表面すなわち上面には平坦に加工された円形の取着面が備えられ,前記複数個の砥石片16はその平坦な取着面に弾性シート17を介してエポキシ樹脂等の接着剤を用いて固着されている。
【0031】
上記弾性シート17は,ゴム硬度(A)が60乃至100程度の緻密な無気孔の合成ゴムであって,・・・
【0032】
上記砥石片16は,例えば,砥粒が熱硬化性樹脂等の樹脂結合剤によって結合された矩形板状すなわちタイル状の所謂レジノイド砥石であり,上記弾性シート17の一面上において10乃至20mmの範囲内で定められた一定のピッチで縦列方向および横列方向に配置され,弾性シート17に対して個々独立に接着されている。・・・それら砥石片16の上面が研磨工具10の平坦な研磨加工面18を構成している。
【0033】
上記砥石片16は,・・・組織内に砥粒が略一様に分散させられている。・・・」

(2)図1



第5 特許法第29条第2項に係る当審の判断
1.特許発明1について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の対比
特許発明1と甲13の方法の発明を対比すると,甲13の方法の発明の「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」と特許発明1の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「表面加工用プレート」という点で一致する。
また,酸化クロムが金属酸化物であることは明らかであるから,甲13の方法の発明において「樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されていることと,特許発明1において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されている点で一致する。
また,甲13の方法の発明の「研磨装置」と特許発明1の「研削装置」は,「表面加工装置」という点で一致する。

以上から,特許発明1と甲13の方法の発明は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点A>
「表面加工用プレートであって,表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定された表面加工用プレートを表面加工装置に装着し,前記表面加工用プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う単結晶SiC基板の表面加工方法。」

<相違点1>
表面加工装置が,特許発明1は「研削装置」であるのに対して,甲13の方法の発明は「研磨装置」である点。
<相違点2>
表面加工用プレートが,特許発明1は「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」であるのに対して,甲13の方法の発明は「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」である点。
<相違点3>
特許発明1は,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行う」ものであるのに対して,甲13の方法の発明は,研削装置の構成や,研削プレートの回転速度が不明な点。

(2)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の相違点の判断
ア.相違点1について
参1(上記第4の9.(1))を参照すると,「研磨」という用語が,研削を含む磨きの総称を意味することは技術常識であるといえるから,甲13の方法の発明の「研磨装置」を「研削装置」ということもでき,上記相違点1は表現上の相違にすぎず,実質的な相違点ではない。
イ.相違点2について
上記ア.で説示するとおり,研磨は研削を含む用語であるから,甲13の方法の発明の研磨用樹脂定盤を研削プレートということもできるところ,研削プレートとして,「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された」ものは,例えば甲2(上記第4の4.),甲4(上記第4の5.),甲5(上記第4の6.)及び甲6(上記第4の7.)に示すように周知の技術的事項であるから,当該周知の技術的事項を適用して,甲13の方法の発明の研削プレートを「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された」ものとすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
ウ.相違点3について
(ア)特許発明1において,バンドギャップを有する金属酸化物の砥粒を用いて単結晶SiC基板を研削すること,砥粒を固定した研削プレートによって酸化生成物が生じること,及び研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させることの技術的な関連性や技術的な意義について,特許請求の範囲の記載だけでは明らかとはいえない。
(イ)そこで,特許明細書を参照すると,バンドギャップをもつ砥粒が被加工物との機械的摺動によりエネルギーが与えられ,非常に酸化力の強い活性種が生じて試料表面を酸化させるというメカノケミカル作用が生じること(段落【0010】),被加工物が単結晶SiCの場合,酸化生成物はSiO_(2)・nH_(2)OとCOまたはCO_(2)であり,砥粒によって除去して表面を鏡面に加工でき,このメカノケミカル作用をトライボ触媒作用と定義すること(段落【0010】)及び研削プレートの回転速度は300rpmより小さいと砥粒に与えられる機械的エネルギーが小さすぎてトライボ触媒作用が現れないこと(段落【0036】)を理解できる。
(ウ)そうすると,特許発明1について,研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させ,その機械的エネルギーにより,バンドギャップを有する金属酸化物の砥粒と単結晶SiC基板との間にトライボ触媒作用が生じ,SiC基板に酸化生成物が生じて,これを砥粒によって除去して基板を研削するという技術的な関連性や技術的な意義を理解でき,また,機械的エネルギーが高い程,トライボ触媒作用も高まることを理解できるといえる。
(エ)特許発明1についてのこのような技術的な意義を前提に,甲13を見ると,甲13には,メカノケミカル作用を高める条件として,「メカノケミカルポリッシングでは通常の研磨に比べて加工時の面圧を高く設定して加工領域を発熱しやすい環境にしている」(上記第4の8.(1)ア.)こと,すなわち面圧を高めて発熱させることが記載されているだけであり,研削プレートの回転速度を高めることの記載や示唆がないから,甲13に接した当業者が,甲13の方法の発明において,メカノケミカル作用を高めるように,研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させることを試みるとはいえない。
また,他に,甲13の方法の発明のようなメカノケミカル作用を高めるように,研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させることを示す証拠はないから,相違点3は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)甲13の方法の発明を主引用例とした場合のむすび
以上のとおり,相違点3は当業者が容易に想到できたものとはいえないから,特許発明1は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(4)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の対比
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,特許発明1と甲1の方法の発明を対比すると,甲1の方法の発明の「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された研磨ホイール10」と特許発明1の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「平坦面を有する台金上にパッドが貼付された表面加工用プレート」という点で一致する。
また,シリカが金属酸化物であることは明らかであるから,甲1の方法の発明において「前記固定砥粒研磨パッド11のポリウレタン樹脂の内部に単結晶SiCよりも柔らかくかつバンドギャップを有するシリカ砥粒が固定」されていることと,特許発明1において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有するシリカからなる砥粒が固定」されている点で一致する。
また,甲1の方法の発明の「研磨加工装置」と特許発明1の「研削装置」は,「表面加工装置」という点で一致する。
また,甲1の方法の発明において,「前記研磨加工装置1は,前記研磨ホイール10を回転可能に装着するスピンドル6と単結晶SiC基板を固定するチャックテーブル3を有し」ていることと,特許発明1において,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し」ていることは,「前記表面加工装置は前記表面加工用プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し」ている点で一致する。
また,甲1の方法の発明において,「前記表面の研磨は前記研磨ホイール10を495rpmの回転速度で回転させて行う」ことと,特許発明1において,「前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行う」ことは,「前記表面の加工は前記表面加工用プレートを所定の回転速度で回転させて行う」という点で一致する。

以上から,特許発明1と甲1の方法の発明は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点B>
「平坦面を有する台金上にパッドが貼付された表面加工用プレートであって,表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有するシリカからなる砥粒が固定された表面加工用プレートを表面加工装置に装着して表面の研削を行い,
前記表面加工装置は前記表面加工用プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,
前記表面の加工は前記表面加工用プレートを所定の回転速度で回転させて行う単結晶SiC基板の表面加工方法。」

<相違点4>
特許発明1は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う」ものであるのに対して,甲1の方法の発明は,「酸性研磨液13の有する化学的作用と前記固定砥粒研磨パッド11の有する機械的作用とで表面の研磨を行う」ものである点。
<相違点5>
表面加工装置が,特許発明1は「研削装置」であるのに対して,甲1の方法の発明は「研磨加工装置」である点。
<相違点6>
表面加工用プレートが,特許発明1は「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」であるのに対して,甲1の方法の発明は「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された研磨ホイール10」である点。
<相違点7>
所定の回転速度が,特許発明1は「500rpm以上」であるのに対して,甲1の方法の発明は「495rpm」である点。

(5)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の相違点4の判断
上記(2)ウ.(ウ)で説示したように,特許発明1は,研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させ,その機械的エネルギーにより,トライボ触媒作用を生じさせて,SiC基板に酸化精製物が生じるという技術的意義を有している。
これに対して,甲1の方法の発明は,「CMP研磨加工により高研磨レートを達成し,良好な研磨面を得ることができるCMP研磨加工方法を提供すること」(上記第4.の3.(1)ウ.)を課題とする発明であり,当該CMPは,「酸化性の研磨液の存在」(上記第4.の3.(1)イ.)を前提とするから,甲1の方法の発明の「酸性研磨液13の有する化学的作用」は,研磨液によってSiC基板に酸化生成物を生じさせる化学的作用であると解するほかない。
研磨液による当該化学的作用は,CMP研磨加工における「Chemical 」(上記第4.の3.(1)ア.)を担保する作用であるから,仮に,この化学的作用を特許発明1のようなトライボ触媒作用に置き換えれば,CMP研磨加工ではなくなってしまい,甲1の方法の発明の「CMP研磨加工により高研磨レートを達成し,良好な研磨面を得ることができるCMP研磨加工方法を提供すること」という課題に反することになる。
したがって,甲1の方法の発明において,「酸性研磨液13の有する化学的作用と前記固定砥粒研磨パッド11の有する機械的作用とで表面の研磨を行う」ことを,特許発明1のように「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う」ように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(6)甲1の方法の発明を主引用例とした場合のむすび
以上のとおり,相違点4は当業者が容易に想到できたものとはいえないから,相違点5ないし7について検討するまでもなく,特許発明1は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

2.特許発明2について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の対比
特許発明2と甲13の方法の発明を対比すると,甲13の方法の発明の「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」と特許発明2の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「表面加工用プレート」という点で一致する。
また,酸化クロムが金属酸化物であることは明らかであるから,甲13の方法の発明において「樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されていることと,特許発明2において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されている点で一致する。
また,甲13の方法の発明の「研磨装置」と特許発明2の「研削装置」は,「表面加工装置」という点で一致する。

以上から,特許発明2と甲13の方法の発明は,上記一致点A(上記1.(1))で一致し,以下の点で相違する。

<相違点8>
表面加工装置が,特許発明2は「研削装置」であるのに対して,甲13の方法の発明は「研磨装置」である点。
<相違点9>
表面加工用プレートが,特許発明2は「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」であるのに対して,甲13の方法の発明は「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」である点。
<相違点10>
特許発明2は,「クーラントが純水」であるのに対して,甲13の方法の発明は,クーラントが不明な点。

(2)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の相違点10の判断
事案に鑑みて,相違点10について検討すると,甲13の図7には,「研磨材・雰囲気」が「Cr_(2)O_(3)粉含有樹脂定盤,乾式」(上記第4の8.(1)イ.)と記載されているから,甲13の方法の発明は「乾式」,すなわちクーラントを用いていないといえる。
また,甲13には,「メカノケミカルポリッシングでは通常の研磨に比べて加工時の面圧を高く設定して加工領域を発熱しやすい環境にしている」(上記第4の8.(1)ア.)ことが記載されているから,クーラント,すわなわち冷却剤で加工領域を冷却させることは,「加工領域を発熱しやすい環境にしている」ことに反するといわざるを得ない。
したがって,甲13の記載に接した当業者が,甲13の方法の発明において,クーラントとして純水を用いるように構成することは,容易に想到できた事項とはいえない。

(3)甲13の方法の発明を主引用例とした場合のむすび
以上のとおり,相違点10は当業者が容易に想到できたものとはいえないから,相違点8及び9について検討するまでもなく,特許発明2は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(4)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の判断
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,当該理由についても判断すると,特許発明2は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うというものであるが,上記1.(5)で説示する理由と同様の理由により,甲1の方法の発明において,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明2は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

3.特許発明3について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の判断
特許発明3は,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し,前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行う」ものであるが,上記1.(2)ウ.で説示する理由と同様の理由により,甲13に接した当業者が,甲13の方法の発明において,メカノケミカル作用を高めるように,研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させることを試みるとはいえない。
したがって,特許発明3は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(2)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の判断
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,当該理由についても判断すると,特許発明3は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うというものであるが,上記1.(5)で説示する理由と同様の理由により,甲1の方法の発明において,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明3は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

4.特許発明4について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の対比
特許発明4と甲13の方法の発明を対比すると,甲13の方法の発明の「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」と特許発明4の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「表面加工用プレート」という点で一致する。
また,酸化クロムが金属酸化物であることは明らかであるから,甲13の方法の発明において「樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されていることと,特許発明4において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されている点で一致する。
また,甲13の方法の発明の「研磨装置」と特許発明4の「研削装置」は,「表面加工装置」という点で一致する。

以上から,特許発明4と甲13の方法の発明は,上記一致点A(上記1.(1))で一致し,以下の点で相違する。

<相違点11>
表面加工装置が,特許発明4は「研削装置」であるのに対して,甲13の方法の発明は「研磨装置」である点。
<相違点12>
表面加工用プレートが,特許発明4は「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」であり,「前記硬質パッドはセグメント化されたもの」であるのに対して,甲13の方法の発明は「酸化クロム粉を含有する研磨用樹脂定盤」である点。
<相違点13>
特許発明4は,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し」,「前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり」,「前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmである」のに対して,甲13の方法の発明は,研削装置の構成や,被加工物テーブルの回転方向や回転速度が不明な点。

(2)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の相違点13の判断
事案に鑑みて,相違点13について検討すると,甲13には,メカノケミカル作用を前提とする研磨において,被加工物テーブルの回転方向を研削プレートの回転方向と逆方向として,被加工物テーブルの回転速度を30rpm?300rpmとすることの記載や示唆はない。
また,他に,メカノケミカル作用を前提とする研磨において,被加工物テーブルの回転方向を研削プレートの回転方向と逆方向として,被加工物テーブルの回転速度を30rpm?300rpmとすることを示す証拠はないから,相違点13は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)甲13の方法の発明を主引用例とした場合のむすび
以上のとおり,相違点13は当業者が容易に想到できたものとはいえないから,相違点11及び12について検討するまでもなく,特許発明4は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(4)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の判断
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,当該理由についても判断すると,特許発明4は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うというものであるが,上記1.(5)で説示する理由と同様の理由により,甲1の方法の発明において,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明4は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

5.特許発明5について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の判断
特許発明5は,「前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し」,「前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり」,「前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmである」というものであるが,上記4.(2)で説示する理由と同様の理由により,甲13の方法の発明において,被加工物テーブルの回転方向を研削プレートの回転方向と逆方向として,被加工物テーブルの回転速度を30rpm?300rpmとすることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明5は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(2)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の判断
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,当該理由についても判断すると,特許発明5は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うというものであるが,上記1.(5)で説示する理由と同様の理由により,甲1の方法の発明において,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明5は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

6.特許発明6について
(1)甲13の物の発明を主引用例とした場合の対比
特許発明6と甲13の物の発明を対比すると,甲13の物の発明の「酸化クロム粉を含有する表面加工用研磨樹脂定盤」と,特許発明6の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「表面加工用プレート」という点で一致する。
また,酸化クロムが金属酸化物であることは明らかであるから,甲13の物の発明において「樹脂定盤の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されていることと,特許発明6において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定」されている点で一致する。

以上から,特許発明6と甲13の物の発明は,以下の点で一致及び相違する。

<一致点C>
「表面加工用プレートであって,前記表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する酸化クロムからなる砥粒が固定されている単結晶SiC基板の表面加工用プレート。」

<相違点14>
「表面加工」が,特許発明6は「研削」であるのに対して,甲13の物の発明は「研磨」である点。

<相違点15>
「表面加工用プレート」が,特許発明6は,「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された」ものであって,「前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものである」のに対して,甲13の物の発明は,「酸化クロム粉を含有する」ものである点

(2)甲13の物の発明を主引用例とした場合の相違点の判断
ア.相違点14について
参1(上記第4の9.(1))を参照すると,「研磨」という用語が,研削を含む磨きの総称を意味することは技術常識であるといえるから,甲13の物の発明の「研磨」を「研削」ということもでき,上記相違点14は表現上の相違にすぎず,実質的な相違点ではない。

イ.相違点15について
上記ア.で説示するとおり,研磨は研削を含む用語であるから,甲13の物の発明の表面加工用研磨樹脂定盤を研削プレートということもできるところ,研削プレートとして,「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された」ものは,例えば甲2(上記第4の4.),甲4(上記第4の5.),甲5(上記第4の6.)及び甲6(上記第4の7.)に示すように周知の技術的事項である。
また,といしを断片状,すなわちセグメント状に構成することは,参1(上記第4の9.(2))に示すように周知の技術的事項であるし,台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された構成を前提として,硬質パッドを断片状,すなわちセグメント状に構成することは,参7(上記第4の10.)に示すように公知の技術的事項である。
しかし,硬質パッドをセグメント化する際の具体的な形状として,研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状は,全証拠のいずれにも示されていないから,申立人の提出した証拠によっては,上記相違点15に係る構成について,当業者が容易に想到できたものということはできない。
したがって,特許発明6は,甲13の物の発明,周知の技術的事項及び全証拠の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)甲1の物の発明を主引用例とした場合の対比
特許発明6と甲1の物の発明を対比すると,甲1の物の発明の「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された研磨ホイール10」と,特許発明6の「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された研削プレート」は,「表面加工用プレート」という点で一致する。
また,シリカが金属酸化物であることは明らかであるから,甲1の物の発明において「ポリウレタン樹脂の内部に単結晶SiCよりも柔らかくかつバンドギャップを有するシリカ砥粒が固定」されていることと,特許発明6において「前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定」されていることは,「表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有するシリカからなる砥粒が固定」されている点で一致する。

以上から,特許発明6と甲1の物の発明は,以下の点で一致及び相違する。

<一致点D>
「平坦面を有する台金上にパッドが貼付された表面加工用プレートであって,前記表面加工用プレートの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有するシリカからなる砥粒が固定されている単結晶SiC基板の表面加工用プレート。」

<相違点16>
「表面加工」が,特許発明6は「研削」であるのに対して,甲1の物の発明は「研磨」である点。

<相違点17>
「表面加工用プレート」が,特許発明6は,「平坦面を有する台金上に軟質パッド,硬質パッドが順に貼付された」ものであって,「前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものである」のに対して,甲13の物の発明は,「平坦面を有する基台9上に固定砥粒研磨パッド11が固着された」ものである点

(4)甲1の物の発明を主引用例とした場合の相違点の判断
相違点16は,上記(2)ア.に示す理由と同様の理由により,実質的な相違点ではないが,相違点17は,上記(2)イ.に示す理由と同様の理由により,当業者が容易に想到できた事項であるとはいえない。
したがって,特許発明6は,甲1の物の発明,周知の技術的事項及び全証拠の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

7.特許発明7ないし13について
特許発明7ないし13は,特許発明6を直接又は間接に引用する発明であるから,特許発明6の発明特定事項を全て含むところ,上記6.に示すとおり,特許発明6は,甲13の物の発明又は甲1の物の発明,周知の技術的事項及び全証拠の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえないから,特許発明7ないし13についても同様に,甲13の物の発明又は甲1の物の発明,周知の技術的事項及び全証拠の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない

8.特許発明14について
(1)甲13の方法の発明を主引用例とした場合の判断
特許発明14は,「クーラントが純水」というものであるが,上記2.(2)で説示する理由と同様の理由により,甲13に接した当業者が,甲13の方法の発明において,クーラントとして純水を用いるように構成することは,容易に想到できた事項とはいえない。
したがって,特許発明14は,甲13の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。

(2)甲1の方法の発明を主引用例とした場合の判断
申立人は,甲1に係る発明を主引用例とする理由を主張しているので,当該理由についても判断すると,特許発明14は,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うというものであるが,上記1.(5)で説示する理由と同様の理由により,甲1の方法の発明において,「前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ,その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行」うように変更することには阻害要因があり,そのような変更は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって,特許発明14は,甲1の方法の発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものということができない。


第6 特許法第36条第6項第1号及び2号に係る当審の判断
申立人は,平成29年11月8日に提出した意見書において,特許発明1ないし3について,特許法第36条第6項第1及び2号に係る取消理由を主張しているので,当該主張を検討する。

1.特許発明1について
(1)特許法第36条第6項第1号についての申立人の主張
訂正により加えられた事項である「500rpm以上の回転速度で回転させ」る点は,研削プレートの回転速度範囲の下限値だけを限定していて,上限値は何ら限定されておらず,いわば無限大の回転速度まで研削プレートの回転速度範囲とする発明となっている。
また,上記の点は,研削プレートの回転速度だけを規定していて,研削プレートの径方向寸法を規定していないから,特許発明1は,500rpm以上の回転速度であればあらゆる径の研削プレートを包含することになる。
しかし,そのような発明は,特許明細書に記載も示唆もないから,明細書によりサポートされておらず,特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1号についての判断
申立人は,特許発明1について,研削プレートの回転速度の上限が限定されていないことや,研削プレートの径方向寸法が特定されていないことを根拠として,特許法第36条第6項第1号に係る取消理由を主張しているが,研削プレートの回転速度の上限は,訂正前の請求項1に記載された発明においても限定されておらず,研削プレートの径方向寸法は,訂正前の請求項1に記載された発明においても限定されていないから,申立人の根拠は,訂正の請求に付随して生じたものではない。
したがって,当該取消理由は,訂正の請求に付随して生じたものではなく,新たな取消理由であるから採用しない。

(3)特許法第36条第6項第2号についての申立人の主張
訂正により加えられた事項である上記(1)の点は,研削プレートの回転速度だけを規定していて,研削プレートの径方向寸法を規定していないから,特許発明1は,500rpm以上の回転速度であればあらゆる径の研削プレートを包含することになり,そのような発明は,特許明細書に記載も示唆もなく,発明が技術的に不明確となっており,特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(4)特許法第36条第6項第2号についての判断
上記(2)で説示したように,請求人が主張する取消理由の根拠は,訂正の請求に付随して生じたものではないから,当該取消理由は,訂正の請求に付随して生じたものではなく,新たな取消理由であるから採用しない。

2.特許発明2について
(1)特許法第36条第6項第1又は2号についての申立人の主張
特許発明2の最終行の「クーラント」は,いきなり登場しており,その上の5行に記載の事項との関係が不明確であるから,発明を特定することができず,特許法第36条第6項第1又は2号の規定を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1又は2号についての判断
申立人は,特許発明2において,「クーラント」がいきなり登場していることを根拠として,特許法第36条第6項第1又は2号に係る取消理由を主張している。
しかし,上記第2の2.(2)で説示したように,特許発明2に係る訂正は,訂正前の請求項2が,訂正前の請求項1を引用するものであったところ,訂正前の請求項1に係る発明特定事項を記載することにより,他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから,申立人が根拠とする,「クーラント」がいきなり登場していることは,訂正前の請求項2にも記載されており,訂正の請求に付随して生じたものではない。
したがって,当該取消理由は,訂正の請求に付随して生じたものではなく,新たな取消理由であるから採用しない。

3.特許発明3について
申立人は,特許発明3について,上記1.(1)及び(3)と同様の取消理由を主張しているが,上記1.(2)及び(4)に説示する理由と同様の理由により,当該取消理由は採用しない。


第7 むすび
以上のとおり,特許発明1ないし14に係る特許については,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また,他に特許発明1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料であるSiC(炭化珪素)は、現在広くデバイス用基板として使用されているSi(珪素)に比べてバンドギャップが広いことから、単結晶SiC基板を使用してパワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等を作製する研究が行われている。
【0003】
上記単結晶SiC基板は、例えば、昇華法で製造された単結晶SiCインゴットを切断し、その後、両面を鏡面加工することで形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
切断された基板にはそり、うねりや加工歪が存在し、例えばダイヤモンド砥粒での研削加工でこれらを軽減した上でCMP(ケミカルメカニカルポリシング)で鏡面化することが行われているが、CMPの加工速度は小さいため、CMP前の加工歪層深さをできるだけ小さくすることが切望されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
SiC等の非酸化物セラミックスの鏡面加工にはメカノケミカルポリシング技術があり、例えば非特許文献2には、平均粒径0.5μm酸化クロム砥粒をアクリロニトリルやフェノールなどの樹脂で成形したポリシングディスク上で乾式研磨する手法と単結晶SiCの加工結果が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4499698号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】貴堂高徳、堀田和利、河田研治、長屋正武、前田弘人、出口喜宏、松田祥伍、武田篤徳、高鍋隆一、中山智浩、加藤智久:SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第21回講演予稿集、P72-73
【非特許文献2】須賀唯知:機械と工具、35,92-96(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に開示された方法では、小さな単結晶試料に0.34MPaという量産工程では現実的でない加工荷重を必要としており、6インチ径をターゲットとした現在のSiCパワー半導体の実用化に向けた取組みに適用できるものではなかった。さらに、ここで開示されるポリシングディスクはいわゆるレジンボンドの砥石であり、微小なキズの発生を回避できるものではなかった。
従って、非特許文献2に開示された方法に基づいて、現在、デバイスに使用可能な鏡面を有する単結晶SiC基板の量産に用いることができる鏡面加工方法を開発するためには少なくとも、加工荷重の問題と微小なキズの発生の問題を解決する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決すべく、本発明者は、鋭意検討を重ね、少なくとも以下に示す複数のステップを経て、本発明に想到した。
【0010】
非特許文献2では、加工のメカニズムとして酸化クロムを触媒として試料表面が酸化され、砥粒によって除去されることで加工が進行するというメカノケミカル作用が主たるメカニズムと予想されることが開示されている。本発明者はメカノケミカル作用の内容にさらに踏み込んだ考察を行った結果、バンドギャップをもつ材料で構成される砥粒が被加工物との機械的摺動によりエネルギーが与えられ、砥粒表面の電子が励起されて電子正孔対が生じ、光触媒材料で説明される内容と同様の機構で、スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、あるいは原子状酸素といった非常に酸化力の強い活性種が生じて試料表面を酸化させるというメカニズムに到達した。被加工物が単結晶SiCの場合、酸化生成物はSiO_(2)・nH_(2)OとCOまたはCO_(2)であると想定され、SiO_(2)・nH_(2)Oが砥粒によって除去されることで単結晶SiC基板の表面を鏡面に加工できるものと考えた。本明細書において、この作用をトライボ触媒作用と定義する。
本発明では、このトライボ触媒作用を有する砥粒を用いることによって、ダイヤモンド砥粒等を用いた機械的な除去作用に基づいて研削時に発生する単結晶SiC基板表面のキズの低減を図ることとした。
【0011】
トライボ触媒作用においては、機械的エネルギーを砥粒に効率的に与え、電子正孔対を大量に生ぜしめることが肝要である。電子正孔対の多くは、活性種生成に寄与することなく再結合して消滅してしまうので、活性種生成の確率を増大させることが必要になる。
本発明においては、大口径の単結晶SiC基板の加工を容易に量産に適用するため、研削装置に装着して用いることができることが必要である。研削装置を使用して砥粒のトライボ触媒作用を利用した加工を行うことは、これまで全く行われてこなかったので、トライボ触媒作用が効果的に発現する研削条件を新たに探索した。その結果、砥粒の種類、粒径の選定、クーラントの種類、供給速度、研削プレート回転速度等において、適切な範囲があることを見出した。
【0012】
また、従来、研削装置用の研削プレートとして一般的に使用されてきている、ボンド材で固めたいわゆる砥石を作製して使用した場合、微小なキズの発生は、トライボ触媒作用を利用した加工においても不可避であることがわかった。
そこで鋭意検討の結果、これまで研削装置には全く適用されることがなかったCMP用のパッドを研削プレートの基体として利用することに想到した。
【0013】
また、トライボ触媒作用を有する材料は種々あり、例えばダイヤモンドやSiC等もバンドギャップをもつ材料であるためトライボ触媒作用を示すが、単結晶SiCよりも軟らかくないため、単結晶SiC加工面にキズをつけてしまうので、不適である。
従って、本発明では、研削時に単結晶SiC加工面につくキズを低減するために、砥粒としては単結晶SiCよりも軟らかいものを用いることとした。
【0014】
本発明は、既存の研削装置を使用することで量産工程に適用可能であり、微小なキズの発生を抑制できる単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し、前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(2)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、クーラントが純水であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(3)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し、前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い、クーラントを用いないことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(4)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し、前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり、前記硬質パッドはセグメント化されたものであり、前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(5)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有し、前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し、前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり、前記硬質パッドはセグメント化されたものであり、前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
(6)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されており、前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(7)前記金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(6)に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(8)前記金属酸化物が少なくとも酸化セリウムを含むことを特徴とする(7)に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(9)前記砥粒の比表面積が0.1m^(2)/g?300m^(2)/gであることを特徴とする(6)?(8)のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(10)前記軟質パッドが、不織布系またはスエード系であることを特徴とする(6)?9のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(11)前記硬質パッドが、発泡ポリウレタン系であることを特徴とする請求項6?10のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(12)前記砥粒を結合剤及び/又は接着剤で固定されたものであることを特徴とする請求項6?11のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(13)前記砥粒の固定は、固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6?12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(14)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、クーラントが純水であり、前記クーラントとして用いる前記純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【0016】
本明細書において、「単結晶SiC基板」との語は表面研削前、表面研削中及び表面研削後のいずれのものに対しても共通に用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既存の研削装置を使用することで量産工程に適用可能であり、微小なキズの発生を抑制できると共に迅速に鏡面を得ることが可能な単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の研削プレートの構造を示す模式図である。
【図2】本発明の研削プレートを使用する表面研削装置の一例の構造の一部を示す模式図である。
【図3】本発明の第1の実施例における加工前の単結晶SiCインゴット表面の光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の第1の実施例における加工後の単結晶SiCインゴット表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートについて、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
(単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート)
図1は、本発明一実施形態に係る単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートの一例を示す模式図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
図1に示す研削プレート10は、平坦面を有する台金1と、その上に軟質パッド2、硬質パッド3が順に貼付され、硬質パッド3の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒(図示略)が固定されている。
この例では、軟質パッド2と硬質パッド3とは粘着シート4を介して貼付され、硬質パッド3は直角三角形状にセグメント化された8枚(3a)によって構成されており、台金1は、研削装置にネジで固定するためのネジ穴1aを有する。この場合、純水等のクーラントを用いるときの軟質パッドの吸水防止と硬質パッド貼付の安定化のため、粘着シート4を使用しているが、使用せずに硬質パッド3を軟質パッド2に直接貼付してもよい。
また、この例に示すように、軟質パッド2と粘着シート4は、ネジ穴1aに切粉やクーラントの侵入を防ぐための蓋をする目的で、ネジ穴1aに相当する部分に穴をあけない形態で用いてもよい。
【0021】
バンドギャップを有する砥粒は、単結晶SiC基板の表面研削中に被加工物との機械的摺動によりエネルギーが与えられ、砥粒表面の電子が励起されて電子正孔対が生じ、スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、あるいは原子状酸素といった非常に酸化力の強い活性種が生じて試料表面を酸化させ、生じたSiO_(2)・nH_(2)Oが砥粒によって除去されることで単結晶SiC基板の表面を加工できるというトライボ触媒作用を生じさせる。
トライボ触媒作用を生じさせるバンドギャップを有する材料として特に、金属酸化物は、いずれも単結晶SiCよりも軟らかい材料であり、ほとんどのものはバンドギャップを持つ材料であるため、砥粒や顔料、光触媒他の用途でトライボ触媒作用を持つ粉末が工業的に入手できるので好ましく、使用できる。
【0022】
より好ましく使用できる金属酸化物粉末は、工業的入手のしやすさとバンドギャップを持つ材料であるためトライボ触媒作用を持つことを鑑み、酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物粉末である。
【0023】
最も好ましく使用できる金属酸化物粉末は、工業的入手のしやすさ、バンドギャップを持つ半導体材料であるためトライボ触媒作用を持つこと、発揮する性能を鑑み、酸化セリウムである。
【0024】
砥粒はSiO_(2)・nH_(2)Oを除去する能力を備えている必要があるため、ある程度の一次粒子径をもつことが必要である。しかし、一次粒子径が大きいものでは比表面積が小さくなり、光触媒作用と同様にトライボ触媒作用も効率よく発揮できなくなるため適正な範囲がある。すなわち、砥粒の機械的除去能力を考えたとき、粒径が大きい、すなわち比表面積が小さいほうが有利であるということがあるが、一方で、トライボ触媒作用は、一般の触媒作用と同様に表面が関与するので、比表面積が大きい方が効果が高い。したがって、両者のバランスが取れた領域が適正な範囲ということになる。
【0025】
砥粒の比表面積は、0.1m^(2)/g?300m^(2)/gであることが好ましい。0.1m2/gより小さいとトライボ触媒作用が効率よく発揮できないおそれがあるためであり、300m^(2)/gより大きいと、SiO_(2)・nH_(2)Oを効率よく除去できないおそれがあるためである。
【0026】
砥粒の比表面積は、0.5m^(2)/g?200m^(2)/gであることがより好ましい。0.5m^(2)/g以上とすることにより、トライボ触媒作用がより効率よく発揮できるものとなり、200m^(2)/g以下とすることにより、SiO_(2)・nH_(2)Oをより効率よく除去できるためである。
【0027】
砥粒の比表面積は、1m^(2)/g?100m^(2)/gであることがより好ましい。1m^(2)/g以上とすることにより、トライボ触媒作用がさらに効率よく発揮できるものとなり、100m^(2)/g以下とすることにより、SiO_(2)・nH_(2)Oをさらに効率よく除去できるためである。
【0028】
この研削プレートは台金を備えているので、研削装置で使用するため研削装置に装着することが可能である。
台金としては公知のものを用いることができ、例えば、その材料がシルミン等のアルミニウム合金であるものを用いることができる。
【0029】
この台金は被加工物と相対する向きに平坦面を有しており、研削プレートはこの平坦面の上に、軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された構造である。かかる構造を備えることにより、表面基準の加工が可能で、かつ被加工物である単結晶SiC基板の表面に発生するキズを最小限に抑えることができる。
【0030】
軟質パッドは、不織布系、またはスエード系のものとすることができる。
【0031】
硬質パッドは発泡ポリウレタン系のものとすることができる。
【0032】
研削プレートの加工に与る最表面には、硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されている。この砥粒は、結合剤や接着剤を使用して硬質パッド表面に固定したものとすることができる。
また、砥粒の固定は、市販の固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによって行うことができる。
【0033】
(単結晶SiC基板の表面加工方法)
本発明の一実施形態に係る単結晶SiC基板の表面加工方法は、平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うものである。
【0034】
研削プレートを装着する研削装置としては公知の研削装置を用いることができる。
図2は、本発明の研削プレートを装着する研削装置の一例の単結晶基板を研削する部分の構造を示す模式図である。図1に示した研削プレート10は 駆動部11に装着され、駆動部はモータベルトによって回転する。単結晶SiC基板12は、真空チャック装置(不図示)によって真空吸着により被加工物テーブル13に固定される。基板保持部14が被加工物テーブル13と共に回転しながら、研削プレート方向に送られることで基板の研削が行われる。
【0035】
研削条件を適切に選定することで、単結晶SiCに対する前記研削プレートのトライボ触媒作用を顕現せしめ、酸化生成物を生ぜしめることができる。
【0036】
研削プレートの回転速度は300rpm?3000rpmが好ましい。300rpmより小さいと砥粒に与えられる機械的エネルギーが小さすぎてトライボ触媒作用が現れないおそれがあるためであり、3000rpmより大きいと発熱や装置振動等の問題が無視できなくなるおそれがあるためである。研削装置にトライボ触媒作用をもつ研削プレートを適用した例はこれまで無かったため、既存の研削装置の仕様内でトライボ触媒作用が発現するかどうかは明らかでなかったが、鋭意検討の結果、一般的な研削プレート回転速度が適用できることが判明した。
【0037】
研削プレートの回転速度は500rpm?2000rpmがより好ましい。500rpm以上とすることにより、トライボ触媒作用をより十分な機械的エネルギーを生じさせることが可能となり、2000rpm以下とすることにより、発熱や装置振動等の問題をより確実に回避することが可能となるからである。
【0038】
被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と順方向とすることができる。この場合、被加工物テーブルの回転速度は研削プレート回転速度の80%?120%であることが好ましい。80%未満又は120%超とすると、加工面の除去量が不均一になるおそれがあるためである。
【0039】
被加工物テーブルの回転方向は、研削プレート回転方向と逆方向とすることができる。この場合、加工面の除去量を均一にするため、硬質パッドを適切な形状にセグメント化した上で、被加工物テーブルの回転速度は30rpm?300rpmであることが好ましい。
硬質パッドをセグメント化すなわち、適当なサイズに分離して貼付することにより、被加工物テーブルと逆方向に回転する研削プレート上の砥粒と被加工物加工面内の接触頻度を制御することができ、例えば被加工物中央部だけが多く削れてしまうといった不均一な加工を防ぐことができる。通常の研削装置では被加工物テーブルの回転中心は研削プレートの外周部に当たるように配置され、被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と逆方向であるため、研削プレート全面に砥粒があると、被加工物中央部への砥粒の接触頻度が高くなり、中央部だけが削れてしまうので、これを防ぐための適切なセグメント化は有効である。
また、30rpm未満又は300rpm超とすると、通常の研削装置の仕様外の運転となり、加工面の除去量が不均一になるおそれがあるためである。
【0040】
クーラントを用いる場合には純水を用いることが好ましい。不純物成分があるとトライボ触媒作用が現れなくなるおそれがあるためである。トライボ触媒作用は機械的エネルギーを効率的に電子正孔対の生成に寄与させることが重要であるが、不純物の介在そのものがこれを阻害するおそれがあり、また、水の潤滑作用を高めて摩擦抵抗を減らしてしまう結果、砥粒に与える機械的エネルギーを減らしてしまうおそれがある。また、不純物の介在は、酸化生成物を砥粒が効率的に除去するプロセスを阻害するおそれもある。
【0041】
クーラントを用いなくてもよく、クーラントとして純水を用いるときは純水の供給速度は100ml/min以下であることが好ましい。100ml/minを越えると、機械的摺動によって砥粒に与えられるエネルギーが小さくなりすぎてトライボ触媒作用が十分現れなくなるおそれがあるためである。また、純水の供給速度が大きすぎると、潤滑剤としての作用が大きくなり、摩擦抵抗を減らしてしまう結果、砥粒に与えるエネルギーが小さくなり、電子正孔対の発生も充分でなくなるおそれもあるためである。
【0042】
(単結晶SiC基板の製造方法)
本発明の一実施形態に係る単結晶SiC基板の製造方法は、平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有するものである。本願の方法は、SiC表面での酸化を利用するのでその酸化障壁の高さに関係し、SiC基板の(0001)面のC面において、好ましく適用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(第1の実施例)
秀和工業株式会社製研削装置MHG-2000に装着できるように準備されたM12のネジ穴をもつ外径150mmのアルミニウム合金製の台金の被加工物と相対する面を平坦に加工し、ニッタ・ハース株式会社製CMP用パッドSUBA600(軟質パッド)を貼付し、そのSUBA600の上に、アズワン株式会社製FEP粘着シートフィルムを介して30×40×50mmの直角三角形状にセグメント化したニッタ・ハース株式会製CMP用パッドIC1000(硬質パッド)を8枚貼付して研削プレート基体を作製した。この研削プレート基体を旭ダイヤモンド工業製コンディショナーCMP-M100Aを使用してツルーイングを行った。ツルーイングされたIC1000セグメント表面に、やはり30×40×50mmの直角三角形状にセグメント化した住友スリーエム株式会社製トライザクトフィルム酸化セリウムを貼付してトライボ触媒作用をもつ単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを作製した。
【0045】
次に、作製した研削プレートを研削装置MHG-2000に装着し、予め旭ダイヤモンド工業製ビトリファイドボンドダイヤモンドホイール(4000番)で平坦に研削加工されたタンケブルー製3インチ径のn型(000-1)4H-SiC(4°オフ)単結晶インゴット(C面)(単結晶SiC基板)を、真空チャックを用いて被加工物テーブルに固定し、表面加工を行った。
被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と逆方向とし、被加工物テーブルの回転速度とし、純水の供給速度は0ml/min、すなわち乾式で加工を行った。被加工物テーブルは手動でじわじわ送ることで行い、砥石回転用モーター電流の値が2.4?2.8Aの範囲内になるようにした。加工時間は3分間であった。
【0046】
単結晶インゴットの除去量は、加工前後のインゴット高さについてミツトヨ製ハイトメータを使用して面内9点の測定を行い、算出した結果、平均値で3.8μmであった。加工速度は1.3μm/minと高い値であった。加工後のインゴット高さの最大値と最小値の差は1.4μmであり、均一に加工されていた。
【0047】
図3に加工前のインゴット表面、図4に加工後のインゴット表面について、オリンパス製光学顕微鏡を使用し、暗視野観察を行った結果を示す。
加工前のインゴットで無数に観察された4000番ダイヤモンド砥粒による研削条痕は完全に消失しており、結晶欠陥や微小異物に起因する輝点のみが観察され、加工歪の無い鏡面が達成できていた。
【0048】
(第2の実施例)
第1の実施例で作製した単結晶SiC鏡面加工用研削プレートを使用して、純水供給量を10ml/min、50ml/min、100ml/minとした以外は第1の実施例と同一の研削条件で加工を行った。
加工速度はそれぞれ1.0μm/min、0.6μm/min、0.2μm/minであり、第1の実施例の場合と同様に、光学顕微鏡暗視野観察で研削条痕が完全に消失していることが確認された。
【0049】
(比較例1)
第1の実施例で作製した単結晶SiC鏡面加工用研削プレートを使用して、純水供給量を150ml/minとした以外は第1の実施例と同一の研削条件で加工を行ったところ、加工速度はほぼゼロであり、光学顕微鏡暗視野観察で研削条痕がほとんど消えていないことが確認された。純水供給量が150ml/minでは、機械的摺動によって砥粒に与えられるエネルギーが小さくなりすぎてトライボ触媒作用が現れなくなったと考えられる。
【0050】
(比較例2)
日本金剛砥石製レジンボンド酸化セリウム砥石を研削プレートとして使用し、第1の実施例と同様の加工を行ったところ、平均値としての加工速度は0.7μm/minであったが、インゴット中央部が多く削れるという不均一な削れ方であり、光学顕微鏡暗視野観察では、微小なキズが観察された。本発明と異なり、軟質パッドと硬質パッドの組合せの構成を持たないため、表面基準の加工ができず、さらに微小なキズの発生を抑えることができなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートは、単結晶SiC基板の作製に使用することができ、また、デバイスを形成した後の基板の裏面を加工して基板を薄くする工程に使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 台金
2 軟質パッド
3 硬質パッド
10 単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し、
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項2】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、
クーラントが純水であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項3】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する被加工物テーブルを有し、
前記表面の研削は前記研削プレートを500rpm以上の回転速度で回転させて行い、
クーラントを用いないことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項4】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し、
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり、前記硬質パッドはセグメント化されたものであり、前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項5】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有し、
前記研削装置は前記研削プレートを回転可能に装着する駆動部と単結晶SiC基板を固定する回転可能な被加工物テーブルを有し、
前記被加工物テーブルの回転方向が前記研削プレート回転方向と逆方向であり、前記硬質パッドはセグメント化されたものであり、前記被加工物テーブルの回転速度が30rpm?300rpmであることを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項6】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されており、
前記硬質パッドは研削プレートの径方向の外側に向かうにしたがって周方向の幅が狭くなる形状にセグメント化されたものであることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項7】
前記金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項8】
前記金属酸化物が少なくとも酸化セリウムを含むことを特徴とする請求項7に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項9】
前記砥粒の比表面積が0.1m^(2)/g?300m^(2)/gであることを特徴とする請求項6?8のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項10】
前記軟質パッドが、不織布系またはスエード系であることを特徴とする請求項6?9のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項11】
前記硬質パッドが、発泡ポリウレタン系であることを特徴とする請求項6?10のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項12】
前記砥粒を結合剤及び/又は接着剤で固定されたものであることを特徴とする請求項6?11のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項13】
前記砥粒の固定は、固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6?12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項14】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行い、
クーラントが純水であり、
前記クーラントとして用いる前記純水の供給速度が0ml/min超?100ml/min以下であることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-20 
出願番号 特願2013-26081(P2013-26081)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B24B)
P 1 651・ 121- YAA (B24B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 刈間 宏信
篠原 将之
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6016301号(P6016301)
権利者 昭和電工株式会社 国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明の名称 単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 三國 修  
代理人 鈴木 三義  
代理人 荒 則彦  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 荒 則彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 三國 修  
代理人 三國 修  
代理人 荒 則彦  

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