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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1341079
異議申立番号 異議2017-700068  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-27 
確定日 2018-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5963814号発明「摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5963814号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第5963814号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第5963814号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5963814号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、特願2014-157769号として審査され、平成28年7月8日にその特許権の設定登録がされ、同年8月3日にその特許掲載公報が発行され、その後、当該発行日から6月以内にあたる平成29年1月27日に特許異議申立人である杉山猛より特許異議の申立てがなされ、同年5月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月7日に意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年9月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年10月4日に意見書が提出され、同年10月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年12月18日に意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、平成30年2月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年2月27日に意見書が提出されるとともに訂正請求がなされたものである。
なお、平成30年2月27日になされた訂正請求に対し、特許異議申立人に意見を述べる機会を与えたが応答はなかった。

第2 本件訂正の適否について

当審は、平成30年2月27日になされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、適法になされたものとして認容できると判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、平成29年7月7日及び同年12月18日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正事項
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?3を訂正の対象とするものであるところ、具体的な訂正事項は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「劈開性鉱物粒子」とあるのを「平均粒子径が50?700μmの劈開性鉱物粒子」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「炭素質系潤滑材として、薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し2?4重量%」を含む限定、及び、「前記非ウィスカー状のチタン酸塩が不定形状のチタン酸カリウムである」点の限定を加える。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する。

2 本件訂正についての当審の判断
訂正事項1は、本件明細書の【0038】の記載に基づき、本件訂正前の請求項1に記載されていた劈開性鉱物粒子について、その平均粒子径に関する限定を付加するものである。また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項3に記載されていた炭素質系潤滑材に関する限定を、請求項1に直列的に付加するとともに、本件訂正前の請求項1に記載されていた非ウィスカー状のチタン酸塩について、本件訂正前の請求項2に記載されていた当該非ウィスカー状のチタン酸塩の形状及び物質に関する限定を付加するものである。さらに、訂正事項3は、一部の請求項を削除するものである。
そうすると、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。また、これらの訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
したがって、訂正事項1?3は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号の目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものであるから、適法になされたものということができる。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、適法になされたものであるから、結論のとおり、本件訂正後の請求項〔1ないし3〕についての訂正を認める。

第3 本件発明・本件特許

上記のとおり、本件訂正は許容できるものであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を単に「本件発明」といい、当該請求項1に係る特許を「本件特許」という。)。
「【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、前記摩擦材組成物は、鉄、鉄合金、鉄化合物を原料として添加せず、チタン酸塩として、非ウィスカー状のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として、平均粒子径が1.0?4.0μmの酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として平均粒子径が50?700μmの劈開性鉱物粒子を摩擦材組成物全量に対し4?6重量%と、炭素質系潤滑材として、薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し2?4重量%含み、
前記非ウィスカー状のチタン酸塩が不定形状のチタン酸カリウムであることを特徴とする摩擦材。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断

当審は、平成29年10月18日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。その取消理由は、概略、次のとおりである(なお、平成29年7月7日になされた訂正請求による訂正は、不適法なものであるため、認容しなかった。)。
すなわち、本件訂正前の請求項1に係る発明は、特許異議申立人が提出した甲第1号証に記載された発明(後記「甲1発明」)あるいは甲第3号証に記載された発明(後記「甲3発明」)に該当するか、当該甲1発明あるいは甲3発明のいずれかからも容易想到のものであるとともに、本件訂正前の請求項2、3に係る発明についても、当該甲1発明あるいは甲3発明から容易想到のものである。
しかしながら、当該取消理由は、本件訂正後の請求項1に係る発明(本件発明)に対しては妥当しないものであるから、理由がないというべきである。
以下、その判断理由について詳述する。
なお、当審は、平成30年2月20日付けで別の取消理由を通知しているところ、当該取消理由は、特許請求の範囲の記載の軽微な不備を指摘するものであって、上記本件訂正により解消している。

1 異議申立人が提出した証拠
特許異議申立人が提出した証拠は、次のとおりである。
(1) 主引用例として提出されたもの
・甲第1号証:特許第5051330号公報
・甲第3号証:国際公開第2014/112440号
(2) 副引用例として提出されたもの
・甲第2号証:国際公開第2014/115594号
・甲第4号証:特開平8-217434号公報

2 甲1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証には、ディスクブレーキパッドの作製に使用した、下記表1の摩擦材組成物を成形した摩擦材が記載されている(【0036】?【0038】)。

なお、同表中の各種材料は次のとおりである(【0037】)。
「(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業(株)製(商品名 HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名 FF-1056)
・SBR粉
(無機充填剤)
・マイカ:イメリス社製(商品名 325HK、平均粒子径25μm、最大粒子径100μm)
・硫酸バリウム:堺化学(株)製(商品名 BA)
・チタン酸カリウム:(株)クボタ製(商品名 TXAX-MA、板状チタン酸カリウム)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名 KS75)
・硫化錫:Chemetall社製(商品名 Stannolube)
・水酸化カルシウム
・酸化ジルコニウム
(繊維基材)
・ウォラストナイト(無機繊維):Minpro Industries製(商品名 HYCON S-3、平均繊維径5μm、平均繊維長50μm)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン(株)製(商品名 1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名 #0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名 SCA-1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名 RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)」
そうすると、甲第1号証には、ディスクブレーキパッドに使用される、同表の実施例2?6の摩擦材組成物を成形した摩擦材に係る発明が記載されているといえる(以下、当該実施例2?6の摩擦材組成物を成形した摩擦材をまとめて「甲1発明」という。)。

3 甲3号証に記載された発明(甲3発明)
甲第3号証には、乗用車用ディスクブレーキパッドの作製に使用した、下記表1に示す組成の摩擦材組成物を成型した摩擦材が記載されている([0036]、[0037])。

そうすると、甲第3号証には、乗用車用ディスクブレーキパッドに使用される、同表の実施例6の摩擦材組成物を成型した摩擦材に係る発明が記載されているといえる(以下、当該実施例6の摩擦材組成物を成型した摩擦材を「甲3発明」という。)。

4 甲1発明に基づく本件発明の新規性進歩性の判断
(1) 対比
甲1発明の摩擦材は、その組成から明らかなように、アスベスト及びスチール繊維を含まないNAO材であって、銅成分はもとより、鉄、鉄合金、鉄化合物を原料として添加したものではない。また、甲1発明の「チタン酸カリウム」は、板状のものであり、本件発明の「非ウィスカー状のチタン酸塩」に相当し、甲1発明の「マイカ」は、本件発明の「劈開性鉱物粒子」に相当するものである。
そして、甲1発明の「酸化ジルコニウム」及び「マイカ」はともに、「摩擦調整材」として添加される無機充填材である(【0018】)。
しかしながら、本件発明と甲1発明とは、依然として、少なくとも、以下の相違点1?4において相違している。
・相違点1:本件発明の非ウィスカー状のチタン酸塩は、不定形状のチタン酸カリウムであるのに対し、甲1発明のチタン酸カリウムは、「(株)クボタ製(商品名 TXAX-MA、板状チタン酸カリウム)」である点。
・相違点2:本件発明の酸化ジルコニウムの平均粒子径は、1.0?4.0μmであるのに対し、甲1発明の酸化ジルコニウムの平均粒子径は不明である点。
・相違点3:本件発明の劈開性鉱物粒子は、平均粒子径が50?700μmのものであるのに対し、甲1発明のマイカは、「イメリス社製(商品名 325HK、平均粒子径25μm、最大粒子径100μm)」であり、平均粒子径が25μmである点。
・相違点4:本件発明は、炭素質系潤滑剤として薄片状黒鉛粒子を用いているのに対し、甲1発明において用いられている黒鉛粒子は、「TIMCAL社製(商品名 KS75)」であり、球体状である点。なお、特許権者が乙第1号証として提出した国際公開第2012/066968号の[0037]の記載から、当該「TIMCAL社製(商品名 KS75)」という黒鉛粒子の形状は、球体状であると解釈した。
(2) 相違点1?4についての検討
ア まず、本件発明の技術上の意義と効果について確認しておく。
(ア) 本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書には次のように記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、停止際異音の発生を抑制した摩擦材を提供することを課題とする。」
(イ) また、当該課題に係る停止際異音の発生メカニズムについて、明細書には次のように記載されている。
・「【課題を解決するための手段】
【0016】
この停止際異音は次のようなメカニズムで発生するものと推定される。
(a)銅成分が摩擦材に添加されていると、相手材表面に形成される銅の移着被膜と摩擦材表面との銅成分の凝着摩耗が支配的となるため相手材の摩耗粉は発生しにくいが、銅成分を排除すると、摩擦材に含まれる研削系の無機摩擦調整材によるアブレシブ摩耗が支配的となり、相手材の摩耗粉が発生しやすくなる。そして、相手材の摩耗粉により摩擦材の表面も研削されるため、摩擦材の摩耗粉の発生が促進される。
【0017】
(b)軽負荷の制動を繰り返すことにより、摩擦材と相手材の摺動面から排出されない摩耗粉がせん断力を受けて微細化する。
【0018】
(c)このような状態で摩擦材と相手材の摺動面に水分が入り込み、さらに軽負荷制動が繰り返されると、微細化した摩耗粉が水で練られ、摩耗粉凝集体が生成される。
【0019】
(d)この摩耗粉凝集体中に存在する相手材の摩耗粉や、摩擦材の摩耗粉に含まれる酸化鉄を起点として錆が発生し、摩耗粉凝集体の凝集力が強固となる。
【0020】
(e)そのような摩耗粉凝集体が摩擦材と相手材の摺動面に存在している状態で制動すると、せん断力により摩耗粉凝集体が崩れ、摩擦材と相手材の滑りが起こり、その振動により低周波異音が発生する。」
(ウ) そして、当該停止際異音の発生メカニズムと、本件発明の各発明特定事項との関係について、明細書には次のように略述されている。
・「【0021】
本発明者らは上記メカニズムに基づき、鋭意検討を行ったところ、摩擦組成物に錆の発生の原因となる原料を添加せず、相手材の摩耗を抑制するために特定のチタン酸塩及び特定の無機摩擦調整材を特定量添加し、かつ、摩耗粉凝集体の生成を抑制するために特定の無機摩擦調整材を特定量添加し、軽負荷制動において摩擦材と相手材の摺動面から摩耗粉が排出されやすくするために特定の炭素質系潤滑材を特定量添加することで停止際異音を抑制できることを知見し、発明を完成させた。」
(エ) さらに、当該関係について、本件明細書には次のように詳述されている。
・「【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、相手材の摩耗を抑制するため、摩擦材組成物に、チタン酸塩として、非ウィスカー状のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として、平均粒子径が1.0?4.0μmの酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し15?25重量%添加する。
・・・
【0029】
非ウィスカー状のチタン酸塩と、粒子径が小さな酸化ジルコニウムを摩擦材組成物に比較的多量に添加することにより、相手材の摺動面にチタン酸塩と酸化ジルコニウムとから成る被膜が形成される。
【0030】
この被膜により摩擦材に含まれる研削系の無機摩擦調整材が直接相手材の摺動面を研削することがなくなるため、相手材の摩耗粉の発生を抑制することができる。
【0031】
非ウィスカー状のチタン酸塩と酸化ジルコニウムの含有量が少なすぎると、十分な相手材の摩耗抑制効果が得られなくなるという問題が生じ、非ウィスカー状のチタン酸塩と酸化ジルコニウムの含有量が多すぎると、効きが不安定になるという問題が生じる。
・・・
【0034】
そして本発明では、摩耗粉凝集体の生成を抑制するため劈開性鉱物粒子を摩擦材組成物全量に対し4?6重量%添加する。
【0035】
摩擦材から排出される劈開性鉱物粒子の摩耗粉は板状を呈する粒子であり、この板状粒子が摩耗粉の凝集体に取り込まれると、板状粒子の近傍で摩耗粉間に滑りが生じ、摩耗粉凝集体が崩壊しやすくなるためであると推定される。
【0036】
劈開性鉱物粒子の含有量が少ないと、摩耗粉凝集体の生成の抑制効果が十分に得らなくなるという問題が生じ、劈開性鉱物粒子の含有量が多いと、相手材の摩擦面が鏡面化され、吸湿時に摩擦係数が急激に上昇して鳴きが発生しやすくなるという問題が生じる。
・・・
【0039】
そして本発明の摩擦材組成物は鉄成分を実質的に含まないので、摩耗粉凝集体の凝集力を高める要因となる錆の発生を抑制できる。ここで鉄成分を実質的に含有しないとは、鉄、鉄合金、鉄化合物等の鉄を主成分とする原料を摩擦材組成物に添加しないことを意味するものである。
・・・
【0041】
不定形状のチタン酸カリウムを使用すると、チタン酸カリウムが複雑に重なり合った状態で、酸化ジルコニウムとの複合被膜が相手材の摩擦面に形成される。この被膜は、板状のチタン酸塩を使用した場合に形成される被膜よりも強度が高く、より良好な相手材の摩耗抑制効果を得ることができる。
【0042】
さらに本発明では、軽負荷制動において摩擦材と相手材の摺動面から摩耗粉が排出されやすくするために摩擦材組成物に、炭素質系潤滑材として、薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し2?4重量%添加する。
・・・
【0044】
摩耗粉自体が潤滑性を持たないと、摩耗粉は摩擦材と相手材の摺動面から排出されないまま摩擦材や摺動面の微細な凹凸に溜まってゆき、異音の原因となる摩耗粉凝集体を生成しやすくなるが、薄片状黒鉛粒子を適量摩擦材組成物に添加することにより、発生した摩耗粉中にも薄片状黒鉛粒子が取り込まれ、摩耗粉自体に潤滑性が付与されるため、摩耗粉は前記凹凸に溜まることなく排出されやすくなる。」
(オ) そうすると、本件発明に係る「ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材」が具備する「前記摩擦材組成物は、鉄、鉄合金、鉄化合物を原料として添加せず」という発明特定事項は、上記メカニズム(a)、(d)に対処するものであり、同じく「チタン酸塩として、非ウィスカー状のチタン酸塩(不定形状のチタン酸カリウムであるもの)を摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として、平均粒子径が1.0?4.0μmの酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し15?25重量%」含むという発明特定事項は、上記メカニズム(a)に対処するものであり、同じく「無機摩擦調整材として(平均粒子径が50?700μmの)劈開性鉱物粒子を摩擦材組成物全量に対し4?6重量%」含むという発明特定事項は、上記メカニズム(c)、(e)に対処するものであり、同じく「炭素質系潤滑材として、薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し2?4重量%」含むという発明特定事項は、上記メカニズム(b)に対処するものであることが分かる。
(カ) そして、本件発明の各発明特定事項は、上記の技術上の意義を有するところ、それらをすべて具備する本件発明の効果について、明細書には次のように記載されている。
・「【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、軽負荷の制動を繰り返し、摩擦材と相手材の摺動面に水が浸入した後の車両が停止する間際の異音の発生を抑制できる摩擦材を提供することができる。」
(キ) その上、当該効果は、明細書の【0057】?【0065】に記載された実施例において、実際に検証されている。
(ク) 以上を総合すると、本件発明は、上記した各発明特定事項をすべて具備することにより、上記課題に係る停止際異音の発生メカニズム(a)?(e)の各々に対して、効果的に対処することができているということができるから、本件発明の各発明特定事項は、それらを有機的に結合させることによりはじめて、所期の効果を奏している(それらの組合せによる相乗的な効果を奏している)と解するのが合理的である。
そうである以上、上記相違点1?4に係る本件発明の各発明特定事項は、個別の容易想到性のみならず、それらを組み合わせることの動機付けが必要であるといえる。
イ そこで、特許異議申立人が提出した各証拠をみると、甲第2号証及び甲第3号証には、非ウィスカー状のチタン酸塩に関連する記載が、また、甲第4号証には、炭素質系潤滑材(薄片状黒鉛粒子)に関する記載が、それぞれ認められるものの、特許異議申立人が提出したいずれの証拠をみても、甲1発明において、上記相違点1?4に係る本件発明の各発明特定事項のすべてを具備せしめる動機付けとなるような記載は見当たらない。
したがって、上記相違点1?4は実質的な相違点であって、なおかつ、当該相違点に係る本件発明の各発明特定事項は、個別にみれば、上記甲各号証の証拠のいずれかに記載されているとしても、それらの組合せによる相乗的な効果を奏している本件発明が、当業者にとって容易想到のものであるということはできない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明と甲1発明の間には実質的な相違点が存在し、当該相違点に係る本件発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、甲1発明を主引用発明とする場合、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。

5 甲3発明に基づく本件発明の進歩性の判断
甲3発明の摩擦材は、その組成から明らかなように、アスベスト及びスチール繊維を含まないNAO材であって、銅成分はもとより、鉄、鉄合金、鉄化合物を原料として添加したものではない。また、甲3発明の「チタン酸塩が板状チタン酸カリウム」は、本件発明1の「非ウィスカー状のチタン酸塩が(不定形状の)チタン酸カリウム」に相当するし、甲3発明の「マイカ」は、本件発明1の「劈開性鉱物粒子」に相当するものである。
そして、甲3発明の「酸化ジルコニウム」及び「マイカ」はともに、甲3の表1のとおり、「無機摩擦調整材」として添加されるものである。
しかしながら、本件発明と甲3発明との間にも、上記相違点1?4と同様の、非ウィスカー状のチタン酸塩の形状、酸化ジルコニウムの平均粒子径、劈開性鉱物粒子の平均粒子径、及び、炭素質系潤滑剤の形状に関する実質的な相違点が存在するところ、特許異議申立人が提出したいずれの証拠をみても、甲3発明において、当該相違点1?4に係る本件発明の各発明特定事項のすべてを具備せしめる動機付けとなるような記載は見当たらないのであるから、本件発明は、当該甲3発明から容易想到のものであるということはできない。
したがって、甲3発明を主引用発明としても、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断

特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明は、上記甲3発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当する旨主張するが、本件発明と甲3発明との間に実質的な相違点が存在することは上述のとおりである。 したがって、当該主張も採用できない。

第6 結び

以上のとおりであるから、本件特許(本件訂正後の請求項1に係る特許)は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するとは認められないから、上記取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、上記のとおり、本件訂正により、請求項2、3は削除されたので

、これらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、前記摩擦材組成物は、鉄、鉄合金、鉄化合物を原料として添加せず、チタン酸塩として、非ウィスカー状のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として、平均粒子径が1.0?4.0μmの酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し15?25重量%と、無機摩擦調整材として平均粒子径が50?700μmの劈開性鉱物粒子を摩擦材組成物全量に対し4?6重量%と、炭素質系潤滑材として、薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し2?4重量%含み、
前記非ウィスカー状のチタン酸塩が不定形状のチタン酸カリウムであることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-24 
出願番号 特願2014-157769(P2014-157769)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 國島 明弘
日比野 隆治
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5963814号(P5963814)
権利者 日清紡ブレーキ株式会社
発明の名称 摩擦材  
代理人 船越 巧子  
代理人 船越 巧子  
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