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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05K |
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管理番号 | 1341092 |
異議申立番号 | 異議2017-700900 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-22 |
確定日 | 2018-05-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6098688号発明「電磁波シールドシートおよびプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6098688号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6098688号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年9月17日に特許出願され、平成29年3月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月22日に特許異議申立人高橋雄一郎により特許異議の申立てがされ、当審において同年12月4日付けで取消理由を通知し、平成30年2月5日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第6098688号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 絶縁層、および導電性接着剤層(I)を備え、 前記絶縁層に印字がされる電磁波シールドシートであって、 前記絶縁層が、熱硬化性樹脂(A1)、硬化剤(A2)、および黒色系着色剤を含有する黒色樹脂組成物により形成され、 前記絶縁層中、黒色系着色剤の含有量が2?15重量%であり、 前記熱硬化性樹脂(A1)が、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、付加型ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれるいずれかであり、 前記絶縁層の表面は、水との接触角が70?100°、かつ85°光沢度が15?50であり、 前記絶縁層の厚みは、3?20μmであることを特徴とする電磁波シールドシート。 【請求項2】 導電性接着剤層(I)が、熱硬化性樹脂(B1)、硬化剤(B2)、および導電性フィラーを含有する導電性接着剤(i)により形成されてなることを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドシート。 【請求項3】 導電性接着剤層(I)が異方導電性であって、さらに等方導電性である導電層を備えることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波シールドシート。 【請求項4】 黒色樹脂組成物が、さらに表面調整剤を含有することを特徴とする、請求項1?3いずれか1項記載の電磁波シールドシート。 【請求項5】 請求項1?4いずれか1項記載の電磁波シールドシート、カバーコート層、ならびに信号配線および絶縁信頼性基材を有する配線板を備え、前記電磁波シールドシートの絶縁層に印字がされていることを特徴とするプリント配線基板。 【請求項6】 印字が白色であることを特徴とする請求項5記載のプリント配線基板。」 3.取消理由の概要 当審において、請求項1ないし6に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 本件特許発明1ないし6は、少なくとも印字視認性に優れた絶縁層を有する電磁波シールドシートを提供することを課題とするものである。 そして、本件特許明細書の上記印字視認性に関連する記載からみて、印字視認性に優れた絶縁層を提供するためには、絶縁層の「厚み」「水接触角」「動摩擦係数」「85°光沢度」「L*値」「反射率」、黒色系着色剤の「平均一次粒子径」「含有量」、黒色系着色剤と表面調整剤との添加重量の「比率」という9つの事項を、それぞれ特許明細書に記載の数値範囲内にする必要があると認められる。 これに対して、本件の特許請求の範囲の請求項1においては、上記9つの事項のうち絶縁層の「厚み」「水接触角」「85°光沢度」、黒色系着色剤の「含有量」については、数値範囲が特定されているが、絶縁層の「動摩擦係数」「L*値」「反射率」、黒色系着色剤の「平均一次粒子径」、黒色系着色剤と表面調整剤との添加重量の「比率」については何ら記載がなく、数値範囲も特定されていない。また、上記請求項1の従属請求項である請求項2ないし6にも、絶縁層の「動摩擦係数」「L*値」「反射率」、黒色系着色剤の「平均一次粒子径」、黒色系着色剤と表面調整剤との添加重量の「比率」については記載がない。 したがって、請求項1ないし6には、課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。 よって、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 4.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について 本件特許明細書の「FPCは、積層された電磁波シールドシートの絶縁層に製品番号やロット番号を印字することが行なわれているが、従来の電磁波シールドシートでは、通常用いられる印字用インキのにじみが発生することにより、小さい文字を印字した場合、作業者が印字を視認しにくいという印字視認性の問題があった。」(【0006】)及び「本発明は、印字視認性と、印字用インキの密着力およびインキ耐性に優れた絶縁層を有し、FPCに張り合わせた場合においても反発力が低い電磁波シールドシートを提供することを目的とする。」(【0007】)という記載に加えて、特許権者が平成30年2月5日付け意見書において課題に関する記載として挙げた「そのため、絶縁層に印字された文字は、様々な角度から見易くなるため視認性が向上する。」(【0030】)という記載も参酌すると、本件特許発明1ないし6が解決しようとする課題は、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させることであると認められる。(なお、上記各下線は、当審で付与した。) そして、本件特許明細書の【0121】には、印字の視認性の評価基準について、 「◎:20°、45°、90°すべて視認可能 非常に良好な結果である。 ○:45°、90°で視認可能 良好な結果である。 △:90°で視認可能 実用上問題ない。 ×:すべての角度で視認不可能 実用不可」 と記載されており、上記◎及び○という評価であれば、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという上記課題は解決できているということができる。 そこで、本件特許発明1に含まれる実施例の視認性の評価結果について、本件特許明細書に記載の表2ないし4の記載に基づいて検討すると、本件特許発明1の発明特定事項である「絶縁層中、黒色系着色剤の含有量が2?15重量%」「絶縁層の表面は、水との接触角が70?100°、かつ85°光沢度が15?50」「絶縁層の厚みは、3?20μm」という数値範囲を全て満たす実施例は、視認性の評価結果がいずれも◎又は○であるから、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという上記課題を解決できていると認められる。 また、特許権者が平成30年2月5日付け意見書において主張するとおり、絶縁層の「動摩擦係数」「L*値」「反射率」、黒色系着色剤の「平均一次粒子径」、黒色系着色剤と表面調整剤との添加重量の「比率」は、視認性に関連するものではあるものの、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという課題を解決するために必須のものであるとまではいうことはできない。 したがって、本件特許発明1ないし6は、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという課題を解決するための手段が反映されているから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになってはいない。 よって、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、本件特許発明1ないし6が解決しようとする課題は、印刷にじみを無くすることであるとした上で、本件特許明細書には、印刷にじみについての評価がないため、本件特許発明1ないし6が印刷にじみを無くするという課題を解決できているか否かは不明であり、したがって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないと主張している。 しかしながら、上記(1)で述べたとおり、本件特許発明1ないし6が解決しようとする課題は、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させることであり、様々な角度からの見易さには、印刷にじみだけでなく、絶縁層表面の光沢等も影響すると認められる。(なお、特許異議申立人も、特許異議申立書において「複数の角度から視認できるかどうかは、光を絶縁層表面で適度に散乱させることで光沢感を適度に抑制し、絶縁層に印字された文字を様々な角度から見易くするための光沢度が大きく影響する評価方法である。」(第6頁第1行ないし第4行。下線は当審で付与した。)と述べている。) そして、本件特許発明1ないし6が、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという課題を解決できるものであることは、上記(1)で述べたとおりであるから、当該課題を生じさせる要因の1つである印刷にじみについて、それ単独の評価がなされていないからといって、本件特許発明1ないし6は、様々な角度から見易くすることによって視認性を向上させるという課題を解決するための手段が反映されていないということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-05-15 |
出願番号 | 特願2015-183980(P2015-183980) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H05K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 遠藤 邦喜 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
國分 直樹 酒井 朋広 |
登録日 | 2017-03-03 |
登録番号 | 特許第6098688号(P6098688) |
権利者 | 東洋インキSCホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 電磁波シールドシートおよびプリント配線板 |
代理人 | 家入 健 |