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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1341111
異議申立番号 異議2018-700062  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-06-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6174921号発明「タイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6174921号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等
特許第6174921号(設定登録時の請求項の数は3。以下「本件特許」という。)は,平成25年6月19日にされた特許出願に係るものであって,平成29年7月14日にその特許権が設定登録された。
そして,本件特許に係る特許掲載公報は平成29年8月2日に発行されたところ,特許異議申立人山内生平(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成30年1月25日,請求項1?3に係る特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。なお,請求項2?3の記載は,これを省略する。)。
「ワックスを0.9?1.5質量%,アミン系老化防止剤を0.9?1.5質量%,およびキノリン系老化防止剤を0.3?1.0質量%含有し,トレッドゴム成分中のブタジエンゴムの含有量が3質量%以上であるトレッドを含み,トレッドの溝底から最外層ベルト補強層までのゴム厚が0.1?2.0mmであり,
さらに,トレッド内にカーカスのタイヤ半径方向外側に配設されてタイヤ周方向に延びるベルトを備え,該ベルトが,タイヤ周方向に対するコードの角度が15?30度であるベルト層と,タイヤ半径方向外側に少なくとも1層のタイヤ周方向に対するコードの角度が0?5度の有機繊維コードから成るベルト補強層が設けられていることを特徴とするタイヤ。」

3 取消理由の概要
異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。
(1) 本件発明1?3は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である(本決定の便宜上,以下「取消理由1」という。)。すなわち,本件発明1?3は,甲1に記載された発明(特に,甲1の実施例8として記載されている発明)を主たる引用発明,甲2?5に記載された発明を従たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) そして,上記取消理由1には理由があるから,本件の請求項1?3に係る発明についての特許は,法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
(3) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1?5)を提出する。
・甲1: 国際公開第2008/074341号
・甲2: 特開2010-31110号公報
・甲3: 特開2008-213635号公報
・甲4: 特開平7-195904号公報
・甲5: 特開2004-26924号公報

4 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,取消理由1には理由はないと判断する。
(1) 本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1には,16頁31行?17頁28行,26頁6行?27頁6行,29頁12行?31頁29行(特に実施例8),45頁1行?52頁21行(特に請求項1及び3)などの記載からみて,次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「ベルト構造体の半径方向外側の位置で円周方向に適用されるトレッドバンドを備えるタイヤであって,当該トレッドバンドは構成成分と含有量について;
・STR20(天然ゴム): 8重量部
・BR(ポリブタジエン): 20重量部(10.7質量%)
・HV3396(カーボンブラック): 30重量部
・エラストマー性ポリマー(フェノール樹脂であるオクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂でグラフトされたスチレン/1,3-ブタジエン共重合体。実施例5のもの): 79.2重量部
・X50S(シランカップリング剤): 5重量部
・アロマオイル: 4重量部
・Polyplastrol 6(亜鉛塩混合物): 2重量部
・Zeosil MP 1165(シリカ): 30重量部
・ステアリン酸: 2重量部
・ワックス(マイクロクリスタリンワックス): 1重量部(0.5質量%)
・TMQ(老化防止剤。2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体): 1重量部(0.5質量%)
・酸化亜鉛: 2.5重量部
・6-PPD(酸化防止剤。N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-p-フェニレンジアミン): 2重量部(1.1質量%)
からなるものであり,
上記ベルト構造はカーカスプライの外周に沿って適用され,2つのベルトストリップと半径方向の最も外側のベルトストリップ上に設けられた零度の補強層とからなり,
上記ベルトストリップは,外周方向に対して所定の角度を形成するように方向付けられており,
上記零度の補強層は,外周方向に対して0°から数度の角度で配列され,かつ,架橋されたエラストマー組成物によってコーディングされ溶着されたテキスタイルコードを組み込んでなるものである,タイヤ。」(下線は,当合議体により付与したもの。また,BR,ワックス,TMQ及び6-PPDの含有量について,決定の便宜上,重量部表記とともに質量%表記を併記する。)
なお,異議申立人は,外国語で作成された甲1について,その取調べを求める部分(特許法施行規則61条1項)として,平成30年3月19日付け手続補正書に添付された訳文(部分訳)のみ提出しているが,当合議体は,甲1発明を事実認定するにあたり,甲1の記載内容について,その一部を職権で取調べているところ,念のため付言する。
イ 一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「ベルトストリップ」は本件発明1の「ベルト層」に,「トレッドバンド」が「トレッド」に,「テキスタイルコード」を組み込んでなる「零度の補強層」が「有機繊維コード」から成る「ベルト補強層」にそれぞれ相当する。
また,トレッド(トレッドバンド)の構成成分について,甲1発明の「TMQ」が本件発明1の「キノリン系老化防止剤」に,「6-PPD」が「アミン系老化防止剤」にそれぞれ相当するのは明らかである。
さらに,ブタジエンゴム(BR),キノリン系老化防止剤(TMQ)及びアミン系老化防止剤(6-PPD)の含有量について,甲1発明は本件発明1の条件を満たす。
そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
「アミン系老化防止剤を0.9?1.5質量%,およびキノリン系老化防止剤を0.3?1.0質量%含有し,トレッドゴム成分中のブタジエンゴムの含有量が3質量%以上であるトレッドを含み,さらに,トレッド内にカーカスのタイヤ半径方向外側に配設されてタイヤ周方向に延びるベルトを備え,該ベルトが,タイヤ周方向に対するコードの角度が所定の角度であるベルト層と,タイヤ半径方向外側に少なくとも1層のタイヤ周方向に対するコードの角度が0?5度の有機繊維コードから成るベルト補強層が設けられているタイヤ。」である点
・ 相違点1
ワックスの含有量について,質量%換算で,本件発明1は「0.9?1.5質量%」と特定するのに対し,甲1発明は「0.5質量%」と特定する点
・ 相違点2
トレッド(トレッドバンド)のゴム厚について,本件発明1は「トレッドの溝底から最外層ベルト補強層までのゴム厚が0.1?2.0mm」であると特定するのに対し,甲1発明はそのような特定事項を有しない点
・ 相違点3
ベルト層(ベルトストリップ)のタイヤ周方向に対するコードの角度について,本件発明1は「15?30度」であると特定するのに対し,甲1発明は所定の角度を有するものの,その具体的な角度を特定していない点
ウ 相違点1についての検討
(ア) 異議申立人は,相違点1に係る構成について,甲2に記載されている技術を適用すること,具体的には,甲2の「参考例」の組成はブタジエンゴムを28.9質量%,アミン系老化防止剤を1.4質量%,キノリン系老化防止剤を0.6質量%,ワックスを1.2質量%を含むものであるから,甲2に接した当業者は,「0.5質量%」とされている甲1発明のワックスの含有量を「1.2質量%」とすることは容易になし得る旨主張するので,その当否について検討する。
(イ) 甲2の参考例において含有されるワックスは,当該参考例が引用する実施例6及び比較例1の記載から「ライスワックス(TOWAX 36F)」であるといえるところ,これは植物性ワックスである(【0011】)。
他方で,甲1発明の「ワックス」はマイクロクリスタリンワックスであるが,このマイクロクリスタリンワックスとは,石油精製プロセスの一部としてペトロラタムを脱油することによって製造されるワックスの一種であって石油資源由来であることは技術常識である。
そうすると,石油資源由来である甲1発明の「ワックス(マイクロクリスタリンワックス)」の含有量を検討するにあたり,石油資源由来でない植物性ワックスを用いた技術を適用する動機付けはないといわざるを得ない。
そもそも,甲2に開示の技術は,近年,非石油資源由来原材料を用いた材料開発が求められていること(【0002】),タイヤトレッド用ゴム組成物中には分散性が悪化するといった混合加工性や加硫時間遅延といった生産性の観点からシリカが含まれていないことが好ましいこと(【0005】)を前提に,シリカを含有しないタイヤ用ゴム組成物であっても,耐オゾン性等の点で,石油資源由来の合成ゴムを用いたものと同等程度を示すタイヤ用ゴム組成物を提供することを課題とし,その解決手段として,天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴム100重量部当り,シリカ以外の補強性充填剤10?130重量部および植物性ワックス0.1?4.5重量部,あるいは,鉱石系または動物性ワックス0.1?10重量部を配合し,非石油資源由来比率が90重量%以上のタイヤ用ゴム組成物とすることで上記課題を解決するものである(【0006】)。すなわち,甲2に開示されている技術は,石油資源由来原材料をなるべく用いないようにすることをその前提とするものである。
さすれば,石油資源由来のワックス(マイクロクリスタリンワックス)を用いている甲1発明において,そのワックスについて検討しようとする当業者が,石油資源由来原材料をなるべく用いないとの技術思想を前提とする甲2に記載されている技術を採用しようとする動機は見いだせない。
(ウ) また,甲1発明に甲2の技術を適用する動機付けがないのは,次に述べることからもいえる。
すなわち,甲1発明は,トレッドバンドの構成成分として「フェノール樹脂であるオクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂でグラフトされたスチレン/1,3-ブタジエン共重合体」であるエラストマー性ポリマーを主要成分(79.2重量部)とするものである。他方,甲2に開示の技術は,上述のとおり,石油資源由来原材料をなるべく用いないようにすることを前提に,非石油資源由来比率を90重量%以上とするものである。
そうすると,非石油資源由来を主要成分としない甲1発明において,甲2に記載されている技術を適用しようとすることの動機を見いだすことができない。
(エ) よって,甲1発明において,相違点1に係る構成が想到容易であるとはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから,相違点2及び3について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明から想到容易であるということはできない。
(2) 本件発明2?3について
請求項2?3の記載は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして,本件発明1が甲1発明から想到容易であるということはできないのは上記(1)で検討のとおりであるから,本件発明2?3も同様の理由により,想到容易であるということはできない。
(3) まとめ
以上のとおり,異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

5 むすび
したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-25 
出願番号 特願2013-128698(P2013-128698)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
須藤 康洋
登録日 2017-07-14 
登録番号 特許第6174921号(P6174921)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 タイヤ  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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