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審決分類 審判 全部申し立て 1項1号公知  F16J
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16J
管理番号 1341112
異議申立番号 異議2018-700215  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-12 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6195949号発明「ピストンリング」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6195949号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6195949号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成28年2月26日に特許出願され、平成29年8月25日に特許の設定登録がされ、同年9月13日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年3月12日に、その請求項1?11に係る特許に対し特許異議申立人杉山彰(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?11の特許に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」?「本件発明11」という。)。
「【請求項1】
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部とを有する環状の本体部を備えたピストンリングであって、
前記外周面は、
前記一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する傾斜面と、
前記傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する当たり面と、を有し、
前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W1は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W2の80%以上150%以下であり、
前記本体部において、前記合口部の中心位置を通る第1軸方向の直径d1と、前記第1軸方向に直交する第2軸方向の直径d2との間の二軸差(d2-d1)は、-0.25mmより大きく、+0.36mm未満である、ピストンリング。
【請求項2】
前記外周面の最表面として、前記本体部よりも高い硬度を有する硬質膜が前記本体部の周方向に延在している、請求項1記載のピストンリング。
【請求項3】
前記硬質膜は、物理気相成長膜である、請求項2記載のピストンリング。
【請求項4】
前記硬質膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、クロム膜、チタン膜、及びダイヤモンドライクカーボン膜からなる群より選ばれる少なくとも一つの膜を含む、請求項2又は3記載のピストンリング。
【請求項5】
前記硬質膜の厚さは、1μm以上30μm以下である、請求項2?4のいずれか一項記載のピストンリング。
【請求項6】
前記合口部の前記中心位置を0°として前記本体部の位置を角度で表したとき、
一方の前記合口端部における前記当たり面は、0°?15°の範囲に位置する部分であり、
他方の前記合口端部における前記当たり面は、345°?360°の範囲に位置する部分であり、
前記合口端部以外の部分における前記当たり面は、15°より大きく345°よりも小さい範囲に位置する部分である、請求項1?5のいずれか一項記載のピストンリング。
【請求項7】
前記最大幅W1は、前記合口端部以外の部分において150°?210°の範囲の前記当たり面の最大幅の80%以上150%以下である、請求項6記載のピストンリング。
【請求項8】
前記最大幅W2は、前記本体部の幅の1%以上50%以下である、請求項1?7のいずれか一項記載のピストンリング。
【請求項9】
前記最大幅W2は、0.005mm以上0.5mm以下である、請求項1?8のいずれか一項記載のピストンリング。
【請求項10】
前記本体部において、前記他側面と前記外周面とがなす角部には、切欠部が前記本体部の周方向に延在している、請求項1?9のいずれか一項記載のピストンリング。
【請求項11】
前記ピストンリングは、セカンドリングである、請求項1?10のいずれか一項記載のピストンリング。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記の甲第1?5号証を提出し、本件発明1、2、6?11は、甲第1及び2号証に基いて、本件特許の特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であって、特許法第29条第1項第1号に該当し、特許を受けることができないから、また、本件発明1、3?5は、甲第1?5号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?11に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:納品請求書(作成者:株式会社ホンダカーズ)
甲第2号証:実験報告書(作成者:高橋勲)
甲第3号証:特開2002-323133号公報
甲第4号証:特開2012-154465号公報
甲第5号証:再公表特許第2012/118036号

第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、第1行に「納品請求書 Honda Cars」と、
第4行に「受付月日16/01/29」と、
第11行に「ご納車日 1月29日」と、それぞれ記載されており、
更に、中央の表において、「No.1」として、整備内容の「(部品名又は作業名)」の欄に「部品用品単体販売 リングセツト,ピストン」と、整備内容の「(部品番号)」の欄に「1301159B014」と、「作業」の欄に「補充」と、「数量」の欄に「1.0」と、それぞれ記載されている(以下、「甲1記載事項」という。)。

2 甲第2号証
甲第2号証には、第1ページ第1?4行に「実験報告書 平成30年2月28日 実験者 高橋 勲」と、
第1ページ第9?11行に「2.1 実験例1 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの外観観察を行った。」と、
第1ページ第12?14行に「2.2 実験例2 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの外周面形状測定を行った。」と、
第1ページ第19?21行に「2.3 実験例3 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの当たり幅の測定を行った。」と、
第1ページ第28?30行に「2.4 実験例4 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの二軸差の測定を行った。」と、
第2ページ第4?6行に「2.5 実験例5 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの硬さ測定を行った。」と、
第2ページ第10?12行に「2.6 実験例6 2016年1月29日に納品されたリングセット,ピストン(部品番号 1301159B014)の2ndリングの本体部の幅測定を行った。」と、
第2ページ第16行?第4ページ下から15行に「3.実験結果・・・(中略)・・・本体幅の18.76%である。」と、
第4ページ下から14行?5ページ17行に「上記実験結果からも明らかなように、2016年1月29日に納品されたセットリング,ピストン(部品番号 1301159B014)は、以下の点が確認された・・・(中略)・・・『前記ピストンリングは、セカンドリングである』こと。」と、それぞれ記載されており、
また、第2ページの下段左には、ピストンリングの全体を、一側面側より写した写真(以下、「甲2写真」という。)が掲載されている(以下、「甲2記載事項」という。)。

3 甲第3号証
甲第3号証には、「圧力リング用線材及び圧力リングとその製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0017】線材の製造方法としては、ダイスによる引き抜き加工やロールによる成形法が用いられる。
【0018】本発明の圧力リングの製造は、上述した圧力リング用線材をコイリングする工程と、コイリングされた線材を切断してリングを得る工程と、リングに表面処理を施す工程と、表面処理工程の前又は前後にリングの上下面と外周面及び合口端面の研磨加工を行う工程とを有していることを特徴とする(請求項10)。
【0019】上記製造方法によって、リング外周のテーパ面がロール成形やダイス引き抜き成形時の塑性加工面のままか、あるいは塑性加工面上に表面処理を施した面であり、平坦面がラッピング等による研磨加工面あるいは研磨加工面上に表面処理を施した面である圧力リング(請求項9)を得ることができる。これにより、テーパ面の研磨加工が不要で、平坦面の研磨加工の時間も短縮でき、安価な圧力リングを提供できる。なお、上記表面処理としては、燐酸塩皮膜処理、四三酸化鉄皮膜処理、硬質Crめっき、窒化、PVD等が適宜使用される。」

(2)「【0021】線材1は工具鋼からなり、ダイス引き抜き成形によって製造されている。線材1は図1に示す断面形状を有しており、リングの外周面となる面2、リングの内周面となる面3、リングの上面となる面4、及びリングの下面となる面5とで構成されている。リングの外周面となる面2は、テーパ面2Aと、平坦面2Bと、端部外側突出防止面2Cとで形成されている。テーパ面2Aは平坦面2Bに連続し、リングの内周面となる面3側に傾斜している。テーパ面2Aの傾斜角は2°である。平坦面2Aの幅は0.2mmである。端部外側突出防止面2Cは平坦面2Bに連続した滑らかな傾斜面であり、平坦面2Bよりもリングの内周面となる面3側に引っ込んでいる。端部外側突出防止面2Cは平坦面2Bの端部から0.01mmでリングの内周面となる面3側への変位が0.001、平坦面2Bの端部から0.04mmでリングの内周面となる面3側への変位が0.005mmである。」

(3)【図1】?【図3】を参照すると、圧力リング9は、リングの上面となる面4からリングの下面となる面5に向かうにつれて径方向外方に張り出すテーパ面2A、及び、テーパ面2Aのリングの下面となる面5側に設けられ、リングの内周面となる面3と平行に延在する平坦面2Bを備えていることが看取される。

上記記載事項及び認定事項を総合して、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、【図1】?【図3】に示された一実施形態として、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「リングの内周面となる面3及びリングの外周面となる面2と、リングの上面となる面4及びリングの下面となる面5と、合口端面を有する圧力リングであって、
前記リングの外周面となる面2は、
前記リングの上面となる面4から前記リングの下面となる面5に向かうにつれて径方向外方に張り出すテーパ面2Aと、
前記テーパ面2Aのリングの下面となる面5側に設けられ、リングの内周面となる面3と平行に延在する平坦面2Bと、を有する、圧力リング。」

4 甲第4号証
甲第4号証には、「ピストンリング」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0002】
通常のピストンリングは、高温・高負荷運転時、リングとシリンダの温度差及び材料の違いによる熱膨張差によってピストンリング周長の増加量がシリンダ内周長の増加量より大きくなると、合口端部での面圧が高くなる。その結果、ピストンリングは合口端部で摩耗が多くなり、合口端部でのスカッフィングや表面処理皮膜の剥離等の不具合が発生する場合がある。」

(2)「【0005】
特許文献1に記載されているピストンリングは、高温域において縮径させてリング溝内に収めてしまい、シリンダ内周面とは接触しない。一方、特許文献1には、シリンダ内周面と摺動させる第二のピストンリングが記載されているが、このピストンリングは、高温時に拡径するため、高温時に面圧が高くなり、摩耗の増大やスカッフィングを生じる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、合口端部の摩耗の増大やスカッフィングを防止するピストンリングを提供することである。」

(3)「【0013】
ピストンリング1(図1参照)は合口隙間2を有している円環形状をなすリングであり、形状記憶合金からなる。形状記憶合金としては、マルテンサイトからオーステナイトへの変態温度が40℃?100℃(例えば50℃?65℃)で形状変化するもの(例えばニッケルチタン合金)が使用される。ピストンリング1は外周面がシリンダ内周面に常に接するようにして使用される。
【0014】
ピストンリング1はオーバリティが130℃?200℃で-0.2?0である。オーバリティは、フレキシブルテープ(例えば厚さ0.08?0.10mmの金属製テープ)の中へピストンリングを入れ、所定の合口隙間になるまでピストンリングを閉じたときの、合口方向の直径D1と、その90度方向の直径D2との差(D1-D2)をいう。
【0015】
図2?図4は各オーバリティでのピストンリングの面圧分布を示している。オーバリティは図2が-0.2、図3が0、図4が0.3である。オーバリティが-0.2であると、図2に示されているように合口端部での面圧は低いが、オーバリティが0.3になると、図4に示されているように合口端部での面圧が高くなる。」

上記記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が開示されている。
「合口隙間を有する円環形状をなすピストンリングにおいて、高温・高負荷運転時に熱膨張差によって合口端部で面圧が高くなることにより、合口端部で摩耗が多くなるのを防止するために、合口方向の直径D1と、その90度方向の直径D2との差(D1-D2)であるオーバリティを、130℃?200℃で-0.2?0とすること。」

5 甲第5号証
甲第5号証には、「ピストンリング」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「甲5記載事項」という。)。
(1)「【請求項1】
外周面形状がテーパフェースであり、且つ径方向断面形状がレクタンギュラリング、スクレーパリング及びナピアリングのいずれかとなるように形成された、内燃機関用ピストンリングの第2圧力リングであって、
ピストンリング基材と、該ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面に設けられた硬質皮膜とを有し、
前記ピストンリング基材はビッカース硬度Hv350以上Hv550以下の炭素鋼材又は低合金鋼からなり、
前記外周摺動面は前記ピストンリング基材の上端から下端に向けて漸次外側に張り出すテーパ状に形成され、且つ、テーパ状に形成された前記外周摺動面の外縁端部と、該外縁端部から軸方向の下端に向かって漸次内側に縮径する曲面がリング下面と平行な下端面又は下端部と接する仮想線との間の軸方向の長さが、0.01mm以上0.30mm以下形成され、
前記硬質皮膜は膜厚5μm以上30μm以下、空孔率0.5%以上1.5%以下及びビッカース硬度Hv800以上Hv2300以下のイオンプレーティング皮膜からなり、当該硬質皮膜が前記ピストンリング基材の表面に成膜されていることを特徴とするピストンリング。」

(2)「【0047】
(硬質皮膜)
硬質皮膜20は、イオンプレーティング法により形成されるイオンプレーティング皮膜であり、Cr-N膜又はCr-B-N膜等が挙げられる。図1(A)?図1(C)に示すように、ピストンリング基材10の少なくとも外周摺動面14に設けられる。ただし、ピストンリング基材10の外周摺動面14の他、上面11,下面12及び内周面13に設けても構わない。」

(3)「【0049】
このピストンリング1では、硬質皮膜20は、その膜厚が5μm以上30μm以下で形成される。硬質皮膜20の膜厚が5μm未満であると、耐摩耗性が不十分である。一方、硬質皮膜20の膜厚が30μmを超えると、硬質皮膜20に欠けが生じやすくなるという難点がある。」

第5 判断
1 特許法第29条第1項第1号(新規性)について
(1)本件発明1について
甲1記載事項より、2016年1月29日(平成28年1月29日)に、Honda Carsが、部品番号「1301159B014」の「リングセツト,ピストン」を、「補充」のために販売したことが認められる。
ここで、甲1記載事項に示される2016年1月29日(平成28年1月29日)に販売された上記「リングセツト,ピストン」を、以下「甲1販売リング」という。

甲2記載事項より、実験者である高橋勲が、甲2写真に示されるピストンリングについて、外観観察、外周面形状測定、当たり幅の測定、二軸差の測定、硬さ測定、及び本体部の幅測定を行い、その実験報告書を、本件特許についての出願日である平成28年2月26日より後である平成30年2月28日に作製したことが認められる。
ここで、特許異議申立書第10ページ第10?13行の「(イ)甲第2号証 製品リングセット,ピストン(製品番号:1301159B014)のセカンドリング(以下、『甲1製品』という。)の測定結果・・・(後略)」との記載に倣って、甲2写真に示され、甲2記載事項として実験結果が示されるピストンリングを、以下「甲1製品」という。

甲1販売リングは、2016年1月29日(平成28年1月29日)に、Honda Carsにより補充のために販売されたことが認められるが、甲2記載事項の実験者である高橋勲が、当該甲1販売リングを、いつ、どこで、どのように入手したかについて立証していないから、甲1販売リングと甲1製品とが同じものであると認めることはできない。
また、部品には寸法公差があり、更に、設計変更が行われる場合もあるから、たとえ部品番号が同じであったとしても、甲1販売リングにおける当たり幅及び二軸差の値と、甲1製品における当たり幅及び二軸差の値とが、それぞれ同じであるとはいえない。
そうすると、甲1販売リングの当たり幅及び二軸差の値は、甲第1及び2号証を参酌しても明らかでない。
したがって、甲1製品が販売されて公然知られたものであるか否かは明らかでない。
よって、甲1製品と本件発明1の同一性について具体的に検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に基いて、本件特許の特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるとはいえない。

(2)本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?11は、甲第1号証及び甲第2号証に基いて、本件特許の特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるとはいえない。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1製品(甲第2号証)を主引例とした場合
前記「1(1)」において記載したように、甲1製品(甲第2号証)は、その販売によって公然知られたものであるか不明であるから、本件発明1は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲3発明を主引例とした場合
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「リングの内周面となる面3」は、本件発明1の「内周面」に相当する。
以下同様に、「リングの外周面となる面2」は、「外周面」に、
「リングの上面となる面4」は、「内周面に略直交する一側面」に、
「リングの下面となる面5」は、「他側面」に、
「圧力リング」は、「ピストンリング」に、
「リングの上面となる面4から前記リングの下面となる面5に向かうにつれて径方向外方に張り出すテーパ面2A」は、「一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する傾斜面」に、
「テーパ面2Aのリングの下面となる面5側に設けられ、リングの内周面となる面3と平行に延在する平坦面2B」は、「傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する当たり面」に、それぞれ相当する。

また、甲3発明は「合口端面」を有する「リング」であるから、甲3発明は「互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部とを有する環状の本体部」を備えていることは、当業者であれば明らかである。

以上のことから、本件発明1と甲3発明とは次の点で一致する。
「内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部とを有する環状の本体部を備えたピストンリングであって、
前記外周面は、
前記一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する傾斜面と、
前記傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する当たり面と、を有する、ピストンリング。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本件発明1では、「前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W1は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W2の80%以上150%以下であり、前記本体部において、前記合口部の中心位置を通る第1軸方向の直径d1と、前記第1軸方向に直交する第2軸方向の直径d2との間の二軸差(d2-d1)は、-0.25mmより大きく、+0.36mm未満である」との構成を備えているのに対して、
甲3発明では、かかる構成を備えているか否か明らかでない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W1は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W2の80%以上150%以下」とする点については、甲第3?5号証のいずれにも、記載も示唆もされていない。

ところで、本件発明1における「二軸差」は、常温での値を前提としていることは、当業者であれば明らかである。
一方、甲4記載事項の「オーバリティ」は、本件発明1の「二軸差」に相当するから、甲4記載事項は、130℃?200℃で、二軸差を-0.2mm?0mmとすることを示唆するといえる。
そうすると、「二軸差」に関して、本件発明1においては、「常温」での値であるのに対して、甲4記載事項においては、「130℃?200℃」での値である点で、両者は、二軸差を規定する際の温度が異なる。
したがって、たとえ甲3発明に甲4記載事項を適用することにより、130℃?200℃で、二軸差を-0.2mm?0mmとしたとしても、本件発明1が前提とする常温においての二軸差が、「-0.25mmより大きく、+0.36mm未満」となるとはいえない。
更に、上記適用により、「前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W1は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W2の80%以上150%以下」になるともいえない。

以上のことから、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲3発明、並びに甲4及び5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のことから、本件発明1は、甲第1?5号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1?5号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-28 
出願番号 特願2016-35276(P2016-35276)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16J)
P 1 651・ 111- Y (F16J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉山 悟史  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
登録日 2017-08-25 
登録番号 特許第6195949号(P6195949)
権利者 株式会社リケン
発明の名称 ピストンリング  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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