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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A44B 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A44B 審判 全部無効 2項進歩性 A44B |
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管理番号 | 1341346 |
審判番号 | 無効2016-800092 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-07-29 |
確定日 | 2018-04-02 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5908938号発明「耐水性スライドファスナーおよびその作成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5908938号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5908938号の請求項1及び3に記載された発明に係る特許についての本件審判の請求は成り立たない。 特許第5908938号の請求項2、4-14についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、その14分の2を請求人の負担とし,14分の12を被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第5908938号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成11年9月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成10年9月25日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2000-571795号の一部を平成20年5月26日に新たな特許出願とした特願2008-136701号の一部を平成23年9月1日に新たな特許出願とした特願2011-190741号について、さらにその一部を平成26年4月16日に新たな特許出願とした特願2014-84284号に係るものであって、平成28年4月1日に特許権の設定登録(請求項の数14)がなされたものである。 また、本件審判の請求に係る経緯は、以下のとおりである。 平成28年 7月29日 本件審判請求 平成28年11月14日 移転登録申請書の提出 平成28年12月 1日 答弁書の提出 平成28年12月 8日 手続続行通知 平成28年12月19日 審理事項(1)通知 平成29年 1月31日 請求人口頭審理陳述要領書の提出 平成29年 1月31日 被請求人口頭審理陳述要領書(1)の提出 平成29年 2月 2日 審理事項(2)通知 平成29年 2月17日 両者口頭審理陳述要領書(2)の提出 平成29年 2月20日 口頭審理当日進行メモ 平成29年 2月22日 口頭審理 平成29年 2月27日 被請求人上申書の提出 平成29年 4月 7日 審決の予告 平成29年 7月18日 訂正請求書及び上申書の提出 平成29年 9月 6日 弁駁書の提出 平成29年12月 8日 補正許否の決定 なお、本審決において、「・・・」は記載の省略を意味する。証拠方法については、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。また、例えば甲1に記載された発明を甲1発明のように略記し、甲1に記載された事項を甲1事項のように略記する。行数は、行数を示す記載があるときはそれに従い、そのような記載がないときは空白行は除いて数えた行数によることとする。 第2.訂正の請求について 1.訂正の内容 平成29年7月18日付け訂正請求書による訂正は、「特許第5908938号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記ストリンガテープ(14,16)を互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素(22)と、 前記第1および第2の面(18,20)のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素(22)を覆う耐水性の層(26)と を含み、」 とあるのを、 「前記ストリンガテープ(14,16)を互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素(22)と、 前記第1および第2の面(18,20)のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素(22)を覆う耐水性の層(26)と、 前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)であって、前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する、切断線(42)と、 を含み、」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項12を削除する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項13を削除する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項14を削除する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「スライドファスナー」について、「前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)であって、前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する、切断線(42)」を含むという限定事項を追加するものである。 よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.また、上記アのとおり訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項の規定によって準用される同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0020】の「方形である端面52、54をそれぞれ有するフィルムのセクション50を提供するために、フィルム26および切断線42は好ましくは設けられる」との記載、段落【0044】の「耐水性(防水性)のスライドファスナー10が閉じられ時にその他の方形の端部あるいは面54に接着あるいは近接して隣接するポリウレタンフィルムの平らな面52(図1)に適度に方形な端部を提供できる。」との記載、及び、図1、図3に示す切断線42が第1及び第2のセクション50を分割していることの図示、図1に示す第1および第2のセクション50の形状に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項の規定によって準用される同法第126条第5項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2?13について 訂正事項2?13は、それぞれ訂正前の請求項2及び4?14を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 よって、訂正事項2?13については、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項の規定によって準用される同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)一群の請求項 訂正前の請求項2?14は、直接あるいは間接に請求項1を引用するものであるから、請求項1?14は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。 したがって、請求項1?14についての訂正事項1?13は、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。 3.まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第3項、並びに同条第9項の規定によって準用される同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正を認める。 第3.本件特許に係る発明 上記第2.に示したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?14に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明14」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 耐水性のスライドファスナーであって、 一対のストリンガテープ(14,16)であって、各ストリンガテープは、第1および第2の対向する面(18,20)を有しており、前記ストリンガテープ(14,16)は、前記ストリンガテープ(14,16)に内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のストリンガテープ(14,16)と、 前記ストリンガテープ(14,16)を互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素(22)と、 前記第1および第2の面(18,20)のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素(22)を覆う耐水性の層(26)と、 前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)であって、前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する、切断線(42)と、 を含み、 前記耐水性の層(26)が、多層構造を有するポリウレタンフィルムを含み、前記多層構造が、前記ストリンガテープ(14,16)に対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層(60)と、第2のショアA硬度を有する外側層(62)とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい、こと を特徴とする、耐水性のスライドファスナー。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記スライドファスナー(10)が、30cm以下のクラーク硬さを示すこと を特徴とする、請求項1に記載のスライドファスナー。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) 【請求項13】(削除) 【請求項14】(削除)」 第4.請求人の主張及び証拠方法 1.請求人は、「特許第5908938号の請求項1乃至14についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、請求人が主張する無効理由の概要は、以下のとおりである。 なお、無効理由3については平成29年2月22日の口頭審理において取り下げられた(平成29年1月31日付け請求人口頭審理陳述要領書の「6(4)」及び第1回口頭審理調書の「請求人4」)。また、平成29年9月6日付け弁駁書における無効理由8、9の追加は、平成29年12月8日付け補正許否の決定により、許可しないものとされた。 (1)無効理由1(甲1を主引例とする進歩性の欠如) 本件発明1、3は、甲1発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2、4?14は、甲1発明と甲2、5、6事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1?14は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1?14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](1)」) (2)無効理由2(甲3を主引例とする進歩性の欠如) 本件発明1、3は、甲3発明及び甲2、26、27、1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2、4?14は、甲3発明及び甲1、2、5、6事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1?14は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(平成29年9月6日付け弁駁書の「7(1)」)。 (3)無効理由3(甲4を主引例とする進歩性の欠如) 本件発明1、3は、甲4発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2は、甲4発明と甲2、5、6事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4?14は、甲4発明と甲1、2、5、6事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1?14は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1?14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](3)」) (4)無効理由4(特許法第36条第4項第1号違反) ア.本件発明2は「前記第1のショアA硬度は、82PTPU以下であり、前記第2のショアA硬度は、93PTPU以上である」ものであり、本件発明4は「前記内側層(60)が、82PTPU以下のショアA硬度を有し、前記外側層(62)が、93PTPU以上のショアA硬度を有する」ものである。 しかし、内側層と外側層を含む多層構造のポリウレタンフィルムにおいて、内側層と外側層とを分離することができないことから、内側層及び外側層の各々のショアA硬度を測定することはできず、また、ポリウレタンフィルムがストリンガテープに付いた状態ではストリンガテープが硬度に影響を与えるため、ポリウレタンフィルムの内側層及び外側層の各々の硬度を測定することができない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、本件発明2、4をどのようにして実施するのか理解することができない。 イ.請求項7?9の「前記耐水性の層が、孔あきなしに、少なくとも・・・ストール摩耗サイクルに耐えることができる」との記載は、具体的な構成を記載したものではない。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、耐水性の層が、孔あきなしに、少なくとも200ストール、500ストール及び1000ストール摩耗サイクルに耐えることができるようにするためには、どのように実施するのか理解できない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、本件発明7?9をどのようにして実施するのか理解することができない。 ウ.以上より、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2、4、7?9に関して、特許法第36条第4項1号の要件を満たさないものであるから、本件発明2、4、7?9に係る特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](4)」) (5)無効理由5(特許法第36条第6項第1号違反) 請求項7?9には「前記耐水性の層(26)は、孔あきなしに、少なくとも・・・ストール摩耗サイクルに耐えることができる」との記載があり、本件発明7?9の特定に「ストール摩耗サイクル」という特殊なパラメータを用いている。 ここで、特殊パラメータのサポート要件に関する知財高判平17年11月11日(平成17年(行ケ)第10042号、パラメータ大合議判決)の判示によると、いわゆるパラメータ発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当であるところ、本件特許明細書の記載を見ても、本件発明7?9におけるストール摩耗サイクルの数値が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されておらず、また、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されていない。 してみると、本件発明7?9はサポート要件に適合していない。 以上より、請求項7?9の記載は、特許法第36条第6項1号の要件を満たさないものであるから、本件発明7?9に係る特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](5)」) (6)無効理由6(分割要件違反・刊行物に記載された発明による新規性の欠如) 本件発明1の「前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」なる発明特定事項は本件特許明細書の【0038】にも記載はなく、一般的・抽象的な記載であり、「原出願の出願当初の明細書等に記載された事項」とはなっておらず、本件発明1は分割要件に違反している。 してみると、本件特許出願は特許法第44条柱書きに規定する分割要件を満たさないから、本件特許出願の新規性等の判断基準日は本件原出願の時まで遡及することはなく、その出願日は現実の出願日である。よって、本件発明1?14は、原出願の公開特許公報に対して、新規性を有していない。 以上より、本件発明1?14は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、本件発明1?14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](6)」) (7)無効理由7(特許法第36条第6項第2号違反) ア.請求項3には「前記スライドファスナー(10)が、30cm以下のクラーク硬さを示すことを特徴とする、請求項1に記載のスライドファスナー」との記載があるが、スライドファスナーのどの部分の硬さを意味しているのか理解できない。 よって、本件発明3は不明確である。 イ.請求項7?9には「前記耐水性の層(26)が、孔あきなしに、少なくとも・・・ストール摩耗サイクルに耐えることができる」との記載があるが、これらの記載は、いずれも達成される効果を記載したものであり、具体的な構成を記載したものではない。 よって、本件発明7?9は不明確である。 ウ.請求項12には「前記ストリンガテープ(14,16)の全体の強度より大きな前記ストリンガテープ(14,16)に対する接着性」との記載があるが、何を意味するのか不明確である。 よって、本件発明12は不明確である。 エ.以上より、請求項3、7?9、12の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないものであるから、本件発明3、7?9、12に係る特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。(請求書の「7.[3](7)」) (8)無効理由8(甲26を主引例とする進歩性の欠如) 本件発明1及び3は、甲26発明と甲1?甲4、甲12の1、甲12の2、甲14、甲19の1?甲20、甲24の1及び甲25事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1?14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(平成29年9月6日付け弁駁書の「7(3)」 ) (9)無効理由9(甲27を主引例とする進歩性の欠如) 本件発明1及び3は、甲27発明及び甲1?甲4、甲14、甲19の1?甲20、甲24の1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1?14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(平成29年9月6日付け弁駁書の「7(4)」) 2.証拠方法 審判請求書に添付して甲1?7が提出され、平成29年1月31日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲8?甲23が提出され、平成29年2月17日付け口頭審理陳述要領書(2)に添付して甲23?甲25が提出され、平成29年9月6日付け弁駁書に添付して甲26?甲31が提出された。なお、◎は文字Rの周囲を○で囲った文字をさらに上付きあるいは下付き文字にした文字を表す。 甲1 国際公開第98/18359号 甲2 米国特許第5709766号明細書 甲3 実願昭59-87882号(実開昭61-5119号)のマイクロフィルム 甲4 特開昭60-246704号公報 甲5 米国特許第3711903号明細書 甲6 米国特許第3993725号明細書 甲7 特開2008-194533号公報 甲8 「大辞林 第二版 新装版」、株式会社三省堂、1999年10月1日第一刷発行、271、280、1444、1687、2681頁 甲9 「郁文堂 独和辞典」、株式会社郁文堂、1993年2月1日第2版第1刷発行、1704、1705、1828頁 甲10 日本ミラクトラン株式会社ウェブページ、“熱可塑性ポリウレタンエラストマー「ミラクトラン◎」 標準品Eタイプ 特性一覧表”、“熱可塑性ポリウレタンエラストマー「ミラクトラン◎」 標準品Pタイプ 特性一覧表”(http://www.miractran.co.jp/images/pdf/20140415_miractranCatalog.pdf#search=%27Miractran+%E7%86%B1%E5%8F%AF%E5%A1%91%E6%80%A7%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%BC+%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%27) 甲11 weblio辞書ウェブページ、「軟化点」(https://www.weblio.jp/content/%E8%BB%9F%E5%8C%96%E7%82%B9)(検索日2017年1月10日) 甲12の1 特開平9-302219号公報 甲12の2 特開平9-302060号公報 甲13 旭化成株式会社ポリエチレン事業部サンファイン営業部ウェブページ “サンファイン技術資料:PE004 ポリエチレンの基礎知識(4)”(http://www.ak-sunfine.com/jpn/PEpdf/pe-004.pdf) 甲14 特開平1-288439号公報 甲15 特許庁、“明細書及び特許請求の範囲の記載要件の改訂審査基準” 1?57頁 甲16 ウェブページ「J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)における「ストール」かつ「磨耗サイクル」たる文言が特許明細書で用いられている特許文献の検索結果 甲17 実願昭59-68414号(実開昭60-180516号)のマイクロフィルム 甲18の1 特開昭59-108502号公報 甲18の2 特開昭59-111705号公報 甲18の3 特開昭64-46402号公報 甲18の4 実公平4-34727号公報 甲19の1 特開平7-266373号公報 甲19の2 特公昭60-16344号公報 甲19の3 特開平8-127531号公報 甲19の4 特公平6-41599号公報 甲19の5 実願平3-106234号(実開平5-53074号)のCD-ROM 甲20 特開2001-233161号公報 甲21の1 「スライド・ファスナー専科」、吉田工業株式会社、8、9、16、17頁、1986年 甲21の2 “販促ツール(印刷物)作成マニュアル”、2013年2013年11月8日更新 甲21の3 「Fastening ファスニング」、YKK吉田工業株式会社、10、11、20、21頁、1991年 甲21の4 「FASTENING専科」、YKK、10、11、14、15、28、29頁、1995年 甲22 日本ミラクトラン株式会社ウェブページ「カタログ」 (http://www.miractran.co.jp/product/catalog.html)(検索日2017年1月30日) 甲23 「This is YKK 2016-2017会社概要」、YKK株式会社 甲24の1 Peter Durst、“PU Transfer Coating of Fabrics for Leather-Like Fashion Products”、JOURNAL OF COATED FABRICS、Volume 14、1985年4月、227?241頁 甲24の2 科学技術振興機構 科学技術総合リンクセンター「J-GLOBAL」ウェブページでの検索結果 (http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902009311722459) 甲25 「オータイト◎ TZ水密・気密ファスナー 8CWT簡易防水ファスナー」、YKK株式会社、1996年 甲26 米国特許第4308644号明細書 甲27 特公昭56-53361号公報 甲28 大木道則他編集、「化学大辞典」株式会社東京化学同人、第1版第5刷 1998年6月1日 甲29の1 株式会社KDAウェブページ 「PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂基本情報」(http://www.kda1969.com/materials/pla_mate_pvc.htm) 甲29の2 ダイヤモンドホイール・ダイヤモンド砥石・CBN工具・CBN砥石と研削研磨の情報サイト ウェブページ 「ポリ塩化ビニル(PVC)の物性と用途、特性について」(http://www.toishi.info/sozai/plastic/pvc.html) 甲30 「JOINT LETTER REGARDING JAPAN PATENT OFFICE ADVANCED NOTICES OF TRIAL DECISIONS」、請求人及び被請求人他、2017年6月6日 甲31 特許庁、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第17版]」、社団法人発明協会、平成20年5月30日、358、359頁 なお、甲1?甲25の成立について、被請求人は口頭審理において積極的に否認するものではないとしており(第1回口頭審理調書の「被請求人」の「1」)、甲26?甲31についても、否認する旨の主張はされていない。その後も否認はなされていない。 第5.被請求人の主張 1.主張の概要 被請求人は、平成28年12月1日付け答弁書において「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由は理由がないものであると主張する。 2.証拠方法 被請求人は、平成29年1月31日付け口頭審理陳述要領書(1)に添付して、乙1ないし乙2を提出した。 なお、乙1ないし乙2の成立に争いはない(請求人要領書(2)の「6(1)」)。 乙1 “ABRASION RESISTANCE OF CLOTH; INFLATED DIAPHRAGM (STOLL) METHOD (METHOD 5302)”、1978年7月20日 乙2 “STIFFNESS OF CLOTH, DIRECTIONAL; SELF-WEIGHTED CANTILEVER METHOD(METHOD 5204)”、1978年7月20日 第6.無効理由についての当審の判断 1.無効理由1(甲1を主引例とする進歩性の欠如)について 1-1.本件発明 本件発明1及び3は、上記第3.に示したとおりのものである。 1-2.証拠記載事項 (1)甲1事項 甲1には、以下が記載されている。 ただし、aウムラウト等を「ae」等と代用表記し、エスツェットは「ss」と代用表記する。 ア.「METHOD FOR THE PRODUCTION OF A WATERPROOF AND GASPROOF ZIP FASTENER」(表紙最下欄のTitle) (日本語訳(訳は、請求人提出の甲1の翻訳を参照して当審が作成した。以下同様。)) 「防水性および気密性を持つファスナの製造方法」 イ.「The invention relates to a waterproof and gasproof zip fastener, more particularly a spiral zip fastener made of synthetic material, in which the spirals are coated with a thermoplastic elastomer which in each case is placed topside on the meeting edges of the zip fastener strips in the form of a profiled coating. The profiled coatings, which are deposited by an injection moulding procedure, are adjacently positioned and become tight under pressure when the zip fastener is closed.」(表紙最下欄のAbstract) (日本語訳) 「本発明は、特にプラスチック製スパイラル・ファスナであって、スパイラル部が熱可塑性エラストマにより押出しコーティングされ、これがそれぞれ角材状コーティング部材として両ファスナ・テープの相互に突合うエッジ上に取付けられており、ここで前記角材状コーティング部材がファスナの締結状態では圧着されて相互密着に接面し、また前記コーティングが射出成形法により取付けられている防水性および気密性を持つファスナの製造方法を提供する。」 ウ.「Die Erfindung betrifft einen wasser- und gasdichten Reissverschluss mit den Merkmalen des Oberbegriffs des Anspruchs 1.」(1ページ9行?11行) (日本語訳) 「本発明は請求項1記載の上位概念の特徴を持つ防水性および気密性を持つファスナの製造方法に関する。」 エ.「Aufgabe der vorliegenden Erfindung ist es, ein verbessertes Verfahren zur Herstellung eines wasser- und gasdichten Reissverschlusses zu schaffen, bei dem mit einfachen Mitteln ein solcher Reissverschluss preisguenstig mit vollstaendiger Dichtigkeit hergestellt werden kann. Erfindungsgemaess wird ein geschlossener Reissverschluss, bestehend aus zwei Reissverschlussbaendern mit spiralfoermigen Reissverschlusshaelften aus Kunststoff, im Spritzgussverfahren hergestellt. Der Reissverschluss wird in einem schrittweisen Vorschub abschnittsweise umspritzt. Weiter wird mindestens waehrend des Spritzvorgangs eine laterale Zugkraft auf die Reissverschlussbaender ausgeuebt. Erfindungsgemaess ist das Beschichtungsmaterial ein thermoplastisches Polyurethan, wobei die Beschichtung vor der ersten Trennung der Reissverschlussbaender wenigstens oben in Oeffnungsrichtung vorgeschlitzt wird. Die untere Beschichtung schliesst im wesentlichen mit der Unterseite der Reissverschlussbaender ab.」(1ページ20行?2ページ2行) (日本語訳) 「本発明の課題は、簡略な手段によりこのようなファスナが、廉価でまた完全な密閉性を持たせて製造できる、防水性および気密性を持つファスナの改良された製造方法を提供することである。 本発明によれば、プラスチック製でスパイラル状のファスナ半片を持つ2本のファスナ・テープから成る締結状態のファスナが製造される。 前記ファスナは、徐々に送り出されて段階的に押出し成形される。 さらには少なくとも押出し工程中に前記両ファスナ・テープに側面引張力がかけられる。 本発明によれば、前記コーティング部材は熱可塑性ポリウレタンであり、ここで前記成形は両ファスナ・テープの最初の分離前に、少なくとも上部から開口方向に予め切れ目が入れられる。前記コーティング部材下部は本質的(実質的)には前記ファスナ・テープ下側と共に閉じている。」 オ.「Fig. 1 zeigt schematisch einen beschichteten Reissverschluss, bestehend aus zwei Reissverschlussbaendern mit einem geschlossenen Spiralreissverschluss, der mit einer Beschichtungsmasse 2 umspritzt ist, wobei sich oben ein kastenfoermiges Profil aus dem Beschichtungsmaterial befindet und die untere Beschichtung im wesentlichen plan mit der Unterseite der Reissverschlussbaender ist. Der Reissverschluss ist ein abgelaengter Abschnitt eines schrittweise im Takt durch ein Spritzgiessverfahren hergestellten Reissverschlussstranges.」(3ページ24行?32行) (日本語訳) 「第1図はコーティング・コンパウンド2が押出しコーティングされた、締結状態の1個のスパイラル・ファスナを持つ2本のファスナ・テープから成る1個のファスナの概略を示す図である。ここで上部には角材状の前記コーティング部材があり、また前記コーティング部材下部は本質的に(実質的に)前記両ファスナ・テープ下側と同一面となっている。前記ファスナは、徐々に段階的に射出成形法により製造された長尺ファスナを切断したものである。」 カ.「In Fig. 2 ist der Reissverschluss auf die gewuenschte Laenge gekuerzt und am vorderen Ende befindet sich eine Ausklinkung 4 zur besseren Verbindung mit einem anzuspritzenden Hafen 6 (Fig. 3). Am hinteren Ende befindet sich ein der Ausklinkung entsprechender Vorsprung 3 zur besseren Verbindung mit einem Endanschlag 8 (Fig. 4). In Fig. 3 ist der Schnitt 5 angedeutet, mit dem die beiden Teilstraenge der Beschichtung 2 getrennt sind. Der Hafen 6 weist ein Hafenloch 7 auf und wird, wie der Endanschlag 8 in weiteren Spritzgssvorgaengen angespritzt. Fig. 5 zeigt einen Schieber 9 mit einem Schieberherz 10. In Fig. 6 ist der Hafen 6 vergroessert dargestellt. In dem Hafenloch 7 ist umlaufend eine Dichtlippe 11 fuer das Schieberherz 10 (Fig. 7) angeordnet. Eine zweite Dichtlippe 12 ist um das Hafenloch umlaufend oben auf dem Hafen 6 ausgebildet, so dass, wie in Fig. 7 dargestellt, eine doppelte Abdichtung zwischen den Dichtlippen 11, 12 des Hafens und dem Schieber 9 hergestellt ist. Fig. 7 zeigt auch eine Auskernung 13, die innen unten um das Hafenloch herum laeuft und eine verbesserte Dichtung gewaehrleistet. Der Uebergang 14 zwischen dem Reissverschluss und dem Hafen weist ein leichtes Uebermass auf, so dass die Schenkel des Schiebers einen groesseren lateralen Druck auf den Uebergang ausueben. In dem Uebergang ist der Schnitt 5 des Reissverschlusses in einem weiteren Teilschnitt 15 bis zum Hafenloch fortgesetzt.」(3ページ34行?4ページ17行) (日本語訳) 「第2図では、前記ファスナを希望の長さに短縮してあり、押出しコーティングにより取付けられた1個のポート6(第3図)との結合性向上のために、手前末端には1個の凹部4がある。後方末端には前記凹部に対応した、1個のストッパ8(第4図)との結合性向上のための1個の凸部3がある。第3図では、前記コーティング部材2の両テープ部分を分割する前記切込み5が示唆されている。前記ポート6は、1個のポート穴7を有し、また前記ストッパ8と同様に、以降の射出成形工程で押出しコーティングにより取付けられる。第5図は、1個のスライダ心柱10を持つ1個のスライダ9を示している。第6図では、前記ポート6が拡大描写されている。前記ポート穴7内周には、前記スライダ心柱10(第7図)のための1個のシール・リップ11が配置されている。第2のシール・リップ12は、前記ポート上部に前記ポート穴を取囲んで形成されていることにより、第7図に描写されている様に、前記ポート6のリール・リング11、12と前記スライダ9との間の二重のシーリングが作り出されている。第7図は、内部下側で前記ポート穴を取囲んで良好なシーリングを保証する離脱機構13を示している。前記ファスナと前記ポートとの間の移行部14の寸法はわずかに大きくなっており、その結果、前記スライダ開脚辺は、前記移行部へより大きな側面圧力を加えることになる。前記移行部において、前記ファスナの切込み5は、これとは別の1本の部分切込み15で前記ポート穴まで続いている。」 キ.「1. Verfahren zur Herstellung eines wasser- und gasdichten Reissverschlusses, insbesondere eines Spiralreissverschlusses aus Kunststoff, bei dem die Spiralen von einem thermoplastischen Elastomer umspritzt sind, das jeweils oben als profilartige Beschichtung an den aneinanderstossenden Kanten der Reissverschlussbaender aufliegt, und wobei die profilartigen Beschichtungen bei geschlossenem Reissverschluss unter Spannung dichtend aneinander anliegen, d a d u r c h g e k e n n z e i c h n e t, dass die Beschichtung ( 2 ) durch ein Spritzgussverfahren aufgebracht ist.」(請求項1) (日本語訳) 「1.特にプラスチック製スパイラル・ファスナであって、スパイラル部分が熱可塑性エラストマで押出しコーティングされ、これが角材状コーティング部材としてファスナ・テープの相互に突合うエッジ上に取付けられており、ここで角材状コーティング部材がファスナの締結状態では圧着されて相互密着に接面する防水性および気密性を持つファスナの製造方法において、前記コーティング部材(2)が射出成形法により取付けられていることを特徴とする防水性および気密性を持つファスナの製造方法。」 ク.「4. Verfahren zur Herstellung eines wasser- und gasdichten Reissverschlusses nach einem der vorhergehenden Ansprueche, d a d u r c h g e k e n n z e i c h n e t, dass das Beschichtungsmaterial ein thermoplastisches Polyurethan ist.」(請求項4) (日本語訳) 「4.前記コーティング部材は、熱可塑性ポリウレタンであることを特徴とする請求項1ないし3記載の防水性および気密性を持つファスナの製造方法。」 ケ.「17. Verfahren zur Herstellung eines wasser- und gasdichten Reissverschlusses nach Anspruch 1, d a d u r c h g e k e n n z e i c h n e t, dass die Reissverschlussbaender vor der Beschichtung mit einer Vorbeschichtung oder Laminierung versehen sind.」(請求項17) (日本語訳) 「17.前記両ファスナ・テープは、前記コーティングの前にプレ・コーティングないしラミネートを施されることを特徴とする請求項1記載の防水性および気密性を持つファスナの製造方法。」 コ.「18. Verfahren zur Herstellung eines wasser- und gasdichten Reissverschlusses nach Anspruch 17, d a d u r c h g e k e n n z e i c h n e t, dass die Vorbeschichtung oder Laminierung Haftwerte von bis zu ueber 180 N/5 cm (DIN) aufweist.」(請求項18) (日本語訳) 「18.前記プレ・コーティングまたはラミネートは、180N/5cm(DIN)以上の付着力を有することを特徴とする請求項17記載の防水性および気密性を持つファスナの製造方法。」 サ.上記ア.?コ.の記載事項を踏まえると、FIG.1?4、7より、以下の事項が看取できる。 「一対のファスナ・テープ(上記エ.の記載事項における「スパイラル状のファスナ半片を持つ2本のファスナ・テープ」、FIG.3における符号(1)のうち、切込み(5)で切られた左右の部分)が、互いに対向する上面及び下面を有しており、内側端部(上記イ.、キ.の記載事項における「ファスナ・テープの相互に突合うエッジ」)および外側端部(FIG.1?4、7における左右の最も外側端部)を提供するために平行に並んで配置されている。」 シ.上記イ.、キ.の記載事項を踏まえると、FIG.4において、上面には「スパイラル状のファスナ半片」が現れていないことから、角材状のコーティング部材がスパイラル状のファスナ半片を覆うこと、すなわち以下の事項が看取できる。 「ファスナは、互いに対向する上面および下面のうちの上面上にあり、かつ内側端部(上記イ.、キ.の記載事項における「ファスナ・テープの相互に突合うエッジ」)および前記スパイラル状のファスナ半片を覆う角材状のコーティング部材を含む。」 (2)甲1発明 上記(1)の摘記事項より、甲1には、以下の甲1発明が記載されているものと認める。 「防水性および気密性を持つファスナであって、 一対のファスナ・テープであって、各ファスナ・テープは、互いに対向する上面および下面を有しており、前記ファスナ・テープは、前記ファスナ・テープに内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のファスナ・テープと、 前記ファスナ・テープを互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置されたスパイラル状のファスナ半片と、 前記互いに対向する上面および下面のうちの上面上にあり、かつ前記内側端部および前記スパイラル状のファスナ半片を覆う角材状のコーティング部材と、 を含み、 前記コーティング部材が熱可塑性ポリウレタンからなる、防水性および気密性を持つファスナ。」 (3)甲2事項 甲2には、以下が記載されている。 ア.「PROCESS FOR PREPARING A POLYURETHANE COATED FABRIC BACKGROUND OF THE INVENTION The invention relates to a process for preparing a polyurethane coated fabric, especially for preparing fabrics which are useful for manufacturing inflatables, medical products and the like.」(1欄1行?8行) (日本語訳(訳は、請求人提出の甲2の翻訳を参照して当審が作成した。以下同様。)) 「ポリウレタンをコーティングした生地を製造するための方法 本発明の背景 本発明は、ポリウレタンをコーティングした生地を製造するための方法に関するものであり、特に、空気膨張製品、医療製品などの製造のために使用することができる生地を製造するための方法に関するものである。」 イ.「DETAILED DESCRIPTION The invention relates to a process for preparing a polyurethane coated fabric, especially a polyurethane coated fabric for use in manufacturing inflatables, medical devices and the like. According to the invention, a process for providing a polyurethane coated fabric is provided which avoids multi step coating procedures and which provides simple and efficient coating of a fabric with the desired coating material. The process of the present invention is useful for coating a wide variety of fabrics for use in preparing a wide variety of end products. Suitable fabrics for use in accordance with the invention include woven or non-woven fabrics such as stretch fabric, textured fabric, dacron, nylon, polyester, cotton, kevlar, and mixtures thereof. The process of the present invention is particularly useful with the stretch fabrics and highly textured fabrics which are frequently desired for use in manufacturing inflatable products such as air mattresses, especially self-inflating air mattresses, medical products and the like. These types of materials are not well suited for coating in accordance with the prior art processes. The present invention provides a process for coating such fabrics in a single or at least reduced number of steps, while substantially reducing or eliminating the need for expensive adhesive materials used in accordance with the prior art.」(2欄30行?56行) 「好ましい実施例の詳細な説明 本発明は、ポリウレタンでコーティングされた生地を製造するための方法、特に(エアマットレスのような)空気膨張製品や、衣料製品を製造する際に使用するためのポリウレタンでコーティングされた生地を製造するための方法に関するものである。本発明によれば、ポリウレタンでコーティングされた生地を提供するための方法が提供されるが、この方法は、多工程のコーティング作業を回避し、所望のコーティング材料でもって生地を簡単且つ効率的にコーティングする技術を提供するのである。 本発明の方法は、広範囲の最終製品を提供する際に使用するための広範囲の生地をコーティングするために有益なのである。本発明に従って使用するために適切な生地は、伸縮生地、テクスチャード生地、DACRON、ナイロン、ポリエステル、綿、KEVLAR及びこれらの組み合わせ等の織成生地又は不織布を含むのである。本発明の方法は、エアマットレスのような空気膨張製品、特に、自動膨張するエアマットレスや、衣料製品などを製造する際にしばしば使用が望まれる伸縮生地や、高テクスチャー生地について有益に使用されているのである。これらのタイプの材料は、先行技術によるコーティング法には余り適合していなかったのである。本発明は、単一の工程又は少なくとも数を減らした工程でもってこの様な生地をコーティングするための方法であって、しかも、先行技術によれば高額な接着材料が必要であったのを、その必要性を減少させ、又、実質的にその必要性を無くするような方法を提供するのである。」 ウ.「Referring now to the drawings, the process of the present invention will be illustrated. According to the invention, fabric 10 is provided for coating in accordance with the present invention. Fabric 10 may be provided in individual webs or may preferably be provided in substantially continuous form, for example from a roll 12 as shown in the drawings. A first polyurethane film 14 is also provided in accordance with the invention and is preferably provided in the form of a continuous film from roll 16 as shown in the drawings. A second polyurethane film 18 may also be provided and may be provided as a continuous film from, for example, roll 20. According to the invention, fabric 10, film 14, and film 18 are fed to a laminating station 22 wherein films 14, 18 are laminated to fabric 10 so as to provide a polyurethane coated fabric 24 in accordance with the present invention.」(3欄30行?41行) (日本語訳) 「次に、図面について説明する。本発明の方法は、図面に開示されている。本発明によれば、本発明に従ってコーティングするために、生地10が提供される。生地10は、一枚一枚の生地の形で提供されても良いが、図面に開示されているように、例えば、ロールから実質的に連続した形で提供される方が好ましいのである。本発明によれば、第1ポリウレタンフィルム14が提供され、そして、図面において示されているように、ロール16から連続したフィルムの形で提供されることが好ましいのである。そして、第2ポリウレタンフィルム18を提供することも出来る。そして、例えばロール20から連続したフィルムの形として提供されても良いのである。 本発明によれば、生地10、フィルム14及びフィルム18は、ラミネートステーション22に供給される。そして、当該ラミネートステーション22において、フィルム14とフィルム18は、生地10にラミネートされ、これによって、本発明に従って、ポリウレタンをコーティングした生地24を提供するのである。」 エ.「・・・and arranged for contact with side 40 of first film 14 so as to apply a substantially uniform wiping of bonding material onto side 40 of first film 14 so as to provide a wiped first film indicated at 46. (中略) As set forth above, fabric 10, wiped first film 46 and second film 18 are then preferably fed to laminating station 22, preferably with wiped first film 46 contacting fabric 10 with wiped side 40 positioned there between and with second film 18 positioned substantially adjacent to first film 14. In accordance with the invention, laminating station 22 preferably comprises a set of laminating nip rollers 48, 50, for laminating and bonding first film 46 and second film 18 to fabric 10 in accordance with the invention. First laminating nip roller 48 is preferably a heated roll and provides heat for laminating films 14, 18 together and further for activating the wiped bonding material on side 40 for bonding films 14, 18 to fabric 10.」(6欄7行?15行) (日本語訳) 「第1フィルム14の面4に接着剤を実質的に均一に塗布し、その結果、46で示された塗布された第1のフィルムを提供するのである。 (中略) そして、その際、接着剤が塗布された第1フィルム46は、接着剤が塗布された面40を第1フィルムと生地との間に配して生地10と接触し、そして、第2フィルム18は、第1フィルム14の実質的に近くに配されていることが好ましいのである。 本発明によれば、ラミネートステーション22は、本発明にしたがって生地10に第1フィルム46と第2フィルム18をラミネートし、そして、接着するための1セットのラミネートニップローラー48、50からなるのである。第1ラミネートニップローラー48は、加熱ロールであることが好ましく、そして、フィルム14、18をラミネートし、そして、当該フィルム14、18を生地10に接着するために、塗布された接着材料を活性化するために熱を加えるのである。」 オ.「The coated fabric according to the present invention is particularly well suited for the manufacture of inflatable products. Fabric 10 to be coated for use in making inflatable products may preferably be coated with films 14, 18, 60 and 62 wherein films 14, 62 are relatively low melting temperature films and films 18, 60 are relatively high melting temperature films. This configuration of films helps to prevent textured fabrics from pushing through the films during subsequent handling wherein temperatures may approach the melt temperature of low melt films 14, 62 without approaching the temperature of high melt films 18, 60.」(6欄下から16行?5行) (日本語訳) 「本発明によりコーティングされた生地は、空気膨張製品の製造のために特に適している。空気膨張製品を製造する際に使用するためにコーティングされる生地10は、フィルム14、18、60及び62でもってコーティングされることが好ましい。そして、フィルム14、62は、比較的低い融点のフィルムであり、そして、フィルム18、60は、比較的高い融点のフィルムである。この様なフィルムの構成は、高融点のフィルム18、60の融点には接近しないが、低融点のフィルム14,62の融点に接近するようなその後の何らかの取扱工程の際に、テクスチャード生地がフィルムを押し通すことがないように防ぐ効果があるのである。」 1-3.本件発明と甲1発明との対比 (1)甲1発明における「ファスナ」、「ファスナ・テープ」、「スパイラル状のファスナ半片」は、それぞれ本件発明1における「スライドファスナー」、「ストリンガテープ」、「一連の把持部材構成要素」に相当する。 甲1発明におけるファスナは、角材状コーティング部材がファスナの締結状態では圧着されて相互密着に接面することで防水性および気密性をなすものである(上記1-2.(1)キ.)から、本件発明1と同様に、「耐水性」のファスナである。 また、甲1発明におけるファスナ(スライドファスナー)は、ファスナ・テープ(ストリンガテープ)の互いに対向する上面および下面のうちの上面上にあり、かつ内側端部およびスパイラル状のファスナ半片(一連の把持部材構成要素)を覆う角材状のコーティング部材を含むものであり(上記1-2.(1)シ.)、この角材状のコーティング部材は、ファスナの締結状態では圧着されて相互密着に接面することで防水性および気密性をなすものである(上記1-2.(1)キ.)から、本件発明1における「前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素を覆う耐水性の部材」に相当する。 (2)一致点 よって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。 「耐水性のスライドファスナーであって、 一対のストリンガテープであって、各ストリンガテープは、第1および第2の対向する面を有しており、前記ストリンガテープは、前記ストリンガテープに内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のストリンガテープと、 前記ストリンガテープを互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素と、 前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素を覆う耐水性の部材と、 前記耐水性の部材の第1および第2のセクションを提供する前記耐水性の部材の切断線と、 を含み、 前記耐水性の部材がポリウレタンからなる、耐水性のスライドファスナー。」 (3)相違点 本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 耐水性の部材の切断線について、本件発明1では「第1および第2のセクションの各々は、耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面を有する」ものであるのに対し、甲1発明では、「ファスナの締結状態では圧着されて相互密着に接面する」ものではあるものの、その面の形状が「方形」であることは明らかでない点。 <相違点2> 耐水性の部材について、本件発明1では「多層構造を有するポリウレタンフィルムを含み、前記多層構造が、ストリンガテープに対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」「層」であるのに対し、甲1発明では熱可塑性ポリウレタンの角材状のコーティング部材であって、多層構造を有すること及び耐水性の部材の硬度については明らかでない点。 1-4.相違点に係る判断 事案に鑑み、まず相違点2について検討する。 甲2には、空気膨張製品、衣料製品などの製造のために使用することができる生地を製造するための方法は記載されているが(上記1-2.(3)ア.)、当該方法により製造された生地をスライドファスナーの製造のために使用することは記載されておらず、示唆する記載もない。 また、甲2事項は繊維の生地(上記1-2.(3)イ.)にポリウレタンのフィルムを接着する方法に関するものであって、プラスチック製のファスナ・テープ(FIG.1における符号1の部分)にコーティング部材2を射出成形工程で押出して取付けるものである甲1発明にこれを組み合わせる動機は存在しない。 そして、甲2事項は、生地にフィルムをラミネートニップローラー48、50によりラミネートするものであるから、ファスナ・テープに角材状のコーティング部材2を射出成形工程で押出して取付ける甲1発明にこれを組み合わせることには阻害事由がある。 以上のことから、甲1発明に甲2事項を組み合わせて本件発明1における相違点3のように構成することは、当業者が容易に想到できたことではない。 1-5.小括 よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、同様に、甲1発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号には該当せず、無効理由1により無効にすることはできない。 2.無効理由2(甲3を主引例とする進歩性の欠如)について 2-1.証拠記載事項 (1)甲3事項 甲3には、図面とともに、おおむね以下の事項が記載されている。 ア.「2.実用新案登録請求の範囲 一対のファスナーテープ1,1aの一方の面に弾性変形可能な防水シール材層4を付着し、他方の面にファスナーエレメント3を相対向して縫着固定した気密、防水性を有するスライドファスナーにおいて、一対のファスナーテープ1,1aの相対する両縁部に適宜高さの隆条部13,13aを設けると共に、該隆条部13,13aの相対向する外側面部に、前記弾性変形可能な防水シール材層4の端縁部4aを、ファスナーエレメント3の噛合中心線12よりも突出した状態で付着させて構成したことを特徴とする気密、防水性を有するスライドファスナー。」(明細書1ページ5行?下から3行) イ.「3.考案の詳細な説明 a. 産業上の利用分野 本考案は、気密、防水性を有するスライドファスナーにおける気密、防水性を付与する構造に関するものである。」(明細書1ページ下から2行?2ページ3行) ウ.「c. 考案が解決しようとする問題点 従来技術の米国特許第3501816号においては、密封片がファスナーエレメントの取付位置から離れた位置で互に密着するため、ファスナーエレメントの噛合による押圧力を十分に働かすことができず、また、密封片に働く押圧力を支えるものがないため十分な密封作用を得られない等の問題があり、また実公昭55-31939号の如く、ファスナーエレメントの取付位置の近くにおいて弾性遮水片を互に密着させたものがあるが、新たな取付部を必要とする特殊なファスナーエレメントを用いなくてはならず、スライドファスナー自体が嵩高となり取扱いにくく、またコスト面でも問題があった。本考案は、このような従来の問題点を解消するために考案されたもので、普通の縫着固定するファスナーエレメントを用い、簡単な構成で十分な密封作用が得られる気密、防水性を有するスライドファスナーを得ることを目的とするものである。」(明細書3ページ6行?4ページ5行) エ.「d. 問題点を解決する手段 本考案は、一対のファスナーテープ1,1aの相対する両縁部に適宜の高さの隆条部13,13aを設け、この隆条部13,13aの外側面部にも弾性変形可能な防水シール材層4(以下単に防水シール材層4という)の端縁部4aを、ファスナーエレメント3の噛合中心線12よりも突出した状態で付着させ、スライドファスナーを閉じた時に、この隆条部13,13aの外側面部で防水シール材層4を互いに密着させるようにしたもので、密着場所がファスナーエレメント3の取付位置に近く、しかも密着により生じた押圧力は隣接する隆条部13,13aによって支えることができるため、十分に密封作用を果すことができると共に、特別なファスナーエレメントの取付部を必要としないため、通常の縫着固定するファスナーエレメントを用いるスライドファスナーにも適用できるものである。」(明細書4ページ6行?5ページ4行) オ.「e. 実施例 次に本考案の実施例を図面に基づいて詳細に説明すると、第1図は本考案の第1実施例であって、1は第5図に示すような組織の経編組織によって編成されたファスナーテープであって、一方の面に防水シール材層4が全面に付着しており、その端縁部4aはファスナーテープ1の相対向する外側面部にまで及んでいる。そして他方の面には、コイル状のファスナーエレメント3が、芯紐6と共に縫糸5により縫着固定されている。縫目はファスナーテープ1の組織のウェールとウェールの間にあるように縫着されており、ファスナーテープの縁部寄りの縫目は、防水シール材層の端縁部4aとの間にウェールにより構成された隆条部13と隣接して配置され、隆条部13と共に押圧力を支えるように構成されている。隆条部13は主として鎖編組織のウェールからなり、緻密な構造とそれ自体で適度の硬さと高さを有しており、しかも強靱な編糸9aで編成しているため、スライドファスナーが閉じた時に防水シール材層の端縁部4aが互いに密着して生ずる押圧力に対しても十分な抵抗力を有するものである。そして互いに密着する防水シール材層の端縁部4aは、コイル状のファスナーエレメント3の噛合中心線12より噛合頭部寄りに突出して形成されており、スライドファスナーが閉じた時に第2図に示すように互いに密着し押圧しあい、隆条部13の抵抗によって外方に膨出して膨出部14を形成するように強く密着して十分な密封作用が得られるように構成されている。 第3図および第4図の実施例は、ファスナーテープとして織成テープ1aを用いたもので、防水シール材層の端縁部4aに隣接する隆条部13aは経糸に太い糸もしくは紐を用いて織成して形成したもので、編成テープ1と同様に適度の硬さと高さが得られ、防水シール材層の端縁部4aの押圧力に対して十分な抵抗力を有するものである。そして第1図および第2図の実施例と同様に隆条部13aに隣設してファスナーエレメントの縫着固定の縫目が配置されている。 ・・・ 第6図乃至第8図は本考案の気密、防水性を有するスライドファスナーの製造過程を示したもので、ファスナーテープ1の連結部2に沿った縁部にファスナーエレメント3を噛合わさずに分離した状態で対向させて一方の面に、芯紐6と縫糸5を用いて縫目が隆条部13に隣接するように縫着し、次いで第7図に示すようにファスナーエレメント3の固着面とは反対側の面に連結部2を含めて全面に防水シール材層4を付着し、第8図に示すように連結部2をファスナーエレメント3の噛合中心線12より噛合頭部寄りの位置でカッター7により切断して製造するものである。・・・なお防水シール材層4は例えば、シリコンゴム、ブチルゴム、ネオプレン、ポリウレタンゴム等の合成ゴムをコーティングして乾燥付着して形成したものである。」(明細書5ページ5行?8ページ下から5行) カ.「f. 考案の効果 本考案は一対の防水シール材層の相対向する端縁部が、ファスナーテープの相対する両縁部に設けた適宜高さの隆条部と隣接しているため、スライドファスナーを閉じた時に、防水シール材層の相対向する端縁部が隆条部に支えられて十分な押圧力をもって強く密着することができ、すぐれた気密、防水性機能を発揮することができるものであり、またファスナーエレメントの特殊な取付部を必要としないため、通常の縫着固定するスライドファスナーにおいても適用できるもので、簡単な構造でしかも安価にすぐれた気密、防水性を有するスライドファスナーを得ることができたものである。」(明細書8ページ下から4行?9ページ10行) (2)甲3発明 上記(1)の摘記事項より、甲3には以下の甲3発明が記載されているものと認められる。 「気密、防水性のスライドファスナーであって、 一対のファスナーテープであって、各ファスナーテープは、第1および第2の対向する面を有しており、前記ファスナーテープは、前記ファスナーテープに内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のファスナーテープと、 前記ファスナーテープを互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連のファスナーエレメントと、 前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連のファスナーエレメントを覆う防水シール材層と を含み、 防水シール層の端縁部がファスナーエレメントの噛合い中心線よりも突出した状態に製造されるように、ファスナーエレメントの噛合中心線より噛合頭部寄りの位置をカッターの切断位置として、スライドファスナーを閉じた時に、防水シール材層4の端縁部を互いに強く密着し押圧しあうようにしたものであり、 前記防水シール材層がポリウレタンからなる、気密、防水性のスライドファスナー。」 (3)甲26事項 甲26には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。) ア.「DETAILED DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT In the exemplary embodiment of the invention as shown in FIG. 1, a closed top end zipper generally designated 10 is shown to comprise an interdigitating zipper chain 11 with tapes 12 and 12a and a sealing gasket 13 with impermeable tapes 14 and 14a. Referring to FIG. 2, elements 19 and 19a have slots 18 and 18a adjacent the tapes 12 and 12a. A single plate slider 15, shown in cross section with the elements in open position in FIG. 3, has downwardly depending flanges 16 and 16a which carry reverse flanges 17 and 17a tracking in slots 18 and 18a in elements 19 and 19a. The zipper chain 11 is composed of two interlocking halves having elements 19 and 19a die cast, molded or otherwise formed and attached to zipper tapes 12 and 12a. These tapes can be of conventional fabric or the like and the elements 19 and 19a can be of metal, polymer or any conventional material. The interlocking portion 46 and 46a of each element 19 and 19a can be conventional and of any design although a type requiring a minimum of angle at interlocking would be preferable.」(明細書1ページ右欄(2欄)8?30行) (日本語訳) 「発明を実施するための形態 図1に本発明の例示的な実施形態を示しているが、符号10で概略的に示した上方端部閉鎖のファスナーは、テープ12及び12aを伴って相互に噛合うファスナーチェーン11と、不透過性テープ11及び14aを伴う密閉ガスケット13とを含む。図2を参照すると、エレメント19及び19aは、テープ12及び12aの近くに凹部18及び18aを有している。 これらエレメントを開口位置にしたときの単一プレートのスライダ15の断面図を図3に示しているが、これは下方に吊り下げられたフランジ16及び16aを有し、それらに逆に向けたフランジ17及び17aを支持させて、夫々エレメント19及び19aの凹部18及び18a内を追従させている。 ファスナーチェーン11は2つの相互に組み合う半分の対から構成されていて、これら半分の対は金型鋳造、鋳型、または他の仕方で形成されたエレメント19及び19aをファスナーテープ12及び12aに取付けて有している。っこれらテープは慣習的な織物または同様物でもよく、またエレメント19及び19aは金属、重合体、または他の慣習的な材料から形成することができる。各エレメント19及び19aの相互に組み合う部位46及び46aは、慣習的な任意の構成でもよいが、相互に組み合うときに最小の角度を必要とする形式が好ましい。」 イ.「The gasket 13, see FIG. 6, is molded, extruded or fabricated of the proper material to meet the requirements of the application, whether it is to be sealing against liquid, gas, toxic or dangerous atmospheres, thermal extremes, etc. The gasket 13 can be made as a solid unit with two integral impermeable tapes 14 and 14a, then slit, as at 29, either before or after assembly with the chain 11 for the length that the sealing zipper is desired to open. The slit opening 29 can be either perpendicular to the plane of the chain 11 or at an angle to it. Slitting the gasket at an angle aids in preventing leakage when the zipper chain is flexed. As shown in FIG. 6, the ends 30 and 31 of the gasket 13 can be left unslit so there is no need to bond them together at assembly as in known constructions. Gasket 13 is preferably of a width greater than the width of channel 21 between the ledges 35 and 35a so that the gasket 13 is under slight compression when the chain 11 is closed. 」(明細書2ページ左欄(3欄)8?26行) (日本語訳) 「図6を参照すると、ガスケット13は、液体、気体、毒性または危険な環境、激しい熱などから密封されるにせよ、適用対象の要求事項を合致するように、適当な材料から鋳型、押出し、または製造されている。ガスケット13は、2つの統合された不浸透性テープ14及び14aとともに固体部品として製造することができ、そして符号29で示すように、密閉ファスナーを所望に開口させる長さとして、チェーン11との組み付けの前又は後に切り開かれている。この切り開かれた開口部29は、チェーン11の平面に対して直角をなすか、またはそれに対して角度を付けることができる。角度を付けてガスケットを切り開くことで、ファスナーチェーンが曲げられるときに、漏れを防ぐのを助けることができる。 図6に示しているように、ガスケット13の端部30及び31は切り開かれないままに保つことができるので、公知の構造物のように、組み付け時にそれらを一体に接着する必要がない。好ましくは、ガスケット13は隆起部35及び35aの間の通路21の幅よりも広い幅を有し、チェーン11の閉鎖時に、ガスケット13をわずかな圧縮下に置く。」 ウ.また、Fig.6?9には、ガスケット13の切り開かれた開口部29が、チェーン11の平面に対して直角をなすものが記載されている。 エ.さらに、Fig.7?9からは、ファスナー10において不透過性テープ14はテープ12側の面にガスケット13を有し、ガスケット13とテープ12とは互いに固着されないことが看取される。 オ.以上ア?エを総合すると、甲26には以下の事項が記載されている。 「不透過性テープ(14,14a)の第1および第2のセクション(14,14a)を提供する液体等に対する不透過性テープ(14,14a)の開口部(29)であって,前記不透過性テープ(14,14a)の各々は、ファスナー(10)が閉じているときに方形である端面」 (4)甲27事項 甲27には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア.「本発明にかかるスライド・ファスナーを有する物品10が第1図に示されており、靴及び類似の製作に使用するヴイニールなどの熱接着性材から成るシート材料12、ならびに該シート材12とスライド・ファスナーの保護体もしくは裏地として役立つ熱接着性材料から成る裏打ちストリップ16との間に挾まれたスライド・ファスナー14から構成されている。スライド・ファスナーは適宜の構造のものでよく、第2,3及び4図に示す如く、各々が内縁に沿い相互係合エレメント22を担持している1対のテープ18及び20と、相互係合エレメントに沿って動き該エレメントの相互錠止を制御するスライダー24とから構成される。 シート材料12は、スライダー24を収容するだけの大きさを有しスライド・ファスナー14が閉鎖されるときスライダーを受入れるようスライド・ファスナーの上部止め装置(図示せず)に隣接する位置に設置した穴26を有している。シート材料12、スライド・ファスナー14ならびに裏地ストリツブ16は間隔を置いた1対の接着軌道28及び30に沿い一体として固着される、これらの軌道28及び30はスライド・ファスナーの閉鎖端に隣接する丸味の付いた端部31で接続せられU字状の形状を有するものとなっている。接着軌道28及び30は第4図に示す如くシート材料12に設けられた1対の細長い凹所となっている。 裏地ストリップ16はヴイニール若しくは類似品としてもよい。所望とあれば、裏地ストリップ16を物品に縫付けられたフェルトなどの布とすることもできる。 スライド・ファスナー14を蔽うシート材料12は、それぞれ接着軌道28及び30から延び出しスライド・ファスナーの相互係合エレメント22に中心を合わせ中心線36で会合する1対のフラップ32及び34を形成している。 中心線36は、物品10の上部から穴26を経て相互係合エレメント22に沿いスライド・ファスナー14の閉鎖端に達する切れ易い引裂線を形成するシート材料12の細長い弱化した凹入部分となっている。シート材料は引裂線36に沿いたやすく分離せられ第1図の38に示す如く物品10の開口を形成する。 シート材料12にスライド・ファスナー14を取付ける装置が第2及び3図に示され、細長い位置ぎめ凹所42を備えた支持部材もしくはアンビル40を有している。 なお凹所42は直立側壁44と、中心チャンネル48に側壁44を接続する下方に傾斜する表面46とを有している。側壁44相互間の幅はほぼスライド・ファスナー12と裏地ストリップ16との幅に対応し、チヤンネル48はスライド・ファスナーの相互係合エレメント22を受入れるに充分な寸法になっている。細長い成形部材50が凹所42に中心を合わせて中心位置でアンビル40の上に置かれ、相互に隔離されたシール突起52及び54を担持している、各シール突起は凹所42の傾斜面46の勾配に対応する勾配面を有する1対の扁平な歯を備え2重凹所付きの接着軌道28及び30を形成し得るように成されている。シール突起52及び54は、接着軌道の丸味付き端部31を形成するよう、端部で相互に接続されている。下方に垂下する鋭利な刃を有する切込み突起58を受入れ調節自在に位置ぎめする切欠き56がシール突起52と54との中間に置かれている。切込み突起58の刃に連続的な直線となっているか、或いは一連の交互に下方に延び出す部分と延び出さない部分(図示せず)とを形成し、一連の比較的弱い部分と強い部分と交互に配列させた引裂線を形成するように成されている。アンビル40と成形部材50との間の相対運動を制御し且つアンビルと成形部材との間にシート材料12、スライド・ファスナー14及び裏地ストリップ16を置く装置はよく知られており、簡単にするために図面にも明細書にも示されていない。 本発明の方法によれは、スライド・ファスナー14とシート材料12と、所望とあれば裏地ストリップ16とが重ね合わせてアンビル40と成形部材50との間に置かれ、成形部材50がアンビル40に相対的に動かされシート材料12に係合させられ、アンビルと成形部材との間でシート材料とスライド・ファスナーとを圧縮して接着軌道28及び30と中心引裂線36とを形成する。 第2図では、シート材料12、スライド・ファスナー14及び裏地ストリツブ16が相互に離隔した位置に示されているが、実際には裏地ストリップ16の上にスライド・ファスナー12を載置して裏地ストリップ16がアンビル40の凹所42に支持せられ、シート材料12がアンビル40の上に平らに置かれ凹所42を蔽っている。シール突起52及び54が凹所42に受入れられるように相互に離隔されている、成形部材50が下方に動かされ第3図に示す如くシート材料、スライド・ファスナー及び裏地ストリップを圧縮するときシール突起52及び54が傾斜面46と協働してそれぞれ接着軌道28及び30を形成できるように切込み突起58がシール突起の下方に延び出している。相互係合エレメント22がチャンネル48に受入れられ切込み突起58が相互係合エレメントの真上で中心線36に沿いシート材料を弱化し引裂線を形成する。第4図に示す如く外面に沿う切込み突起58による切込みによるのみならず内面に沿い相互係合エレメント22に接触することにより引裂線36が弱化される。 スライド・ファスナーのテープ18及び20と裏地ストリップ16とをシート材料12に固着するために接着工程に熱が使われる。然しなから、超音波振動など他の適宜の接着エネルギーを使用してもよい。」(3ページ左欄(5欄)40行?4ページ右欄(8欄)17行) イ.「シート材料12を凹所42の中に押込みシール突起52及び54と傾斜面46との間でシート材料を圧縮すると同時に、切込み突起58によりシート材料に圧縮力が加えられる、この際切込み突起58は裏地ストリップ16、スライド・ファスナー14及びシート材料12の厚さ、寸法、及び形状に従て切欠き56の中の固定位置に予めセットされている。切込み突起58の刃を形成する部分が鋭い角度を成しているために充分に発生させられる圧縮力が直線状に加えられる。・・・従って、相互係合エレメント22がしっかりと支持せられ、引裂線36を形成する際に切込み突起58のアンビルの役目をする。・・・中に置かれたシート材料12の諸部分を扁平に戻すような形状の位置ぎめ凹所があるからシート材料12が原の扁平形状を取る。」(4ページ右欄(8欄)25?5ページ左欄(9欄)1行) ウ.「スライド・ファスナーの取付けを完了した後には、単に指もしくは適宜の器具をシート材料12の穴26に挿入し引裂線に沿い指もしくは器具を動かしなから引裂線36の下側に僅かに持上げ力を加えることにより引裂線36がたやすく切断される。然しなから、取付けられたスライド・ファスナーがスライダー24を有するときは、接着工程の完了後スライダーの最初の使用により引裂線を切開くに必要な僅かに上向きの力が加えられる。シート材料に加工して靴もしくは類似品などの衣料にするためシート材料に加えられるすべての残りの工程が完了するまでは引裂線36には手を加えない。その後、仕上がり製品の検査作業の際に、上述の如く引裂線が最後に切り開かれる。」(5ページ左欄(9欄)10?23行) エ.「そのうえ、底部にチャンネル48を備えた位置ぎめ凹所42を使用することにより第4図に示す如くスライド・ファスナーが取付けられた後にシート材料に扁平な外観を保つことができ、商業的に一層望ましい製品を得ることができる。」(5ページ右欄(10欄)7?12行) オ.以上ア?エを総合すると、甲27には以下の事項が記載されている。 「シート材料(12)の第1および第2のセクションを提供するシート材料(12)の切断線であって、前記第1および第2のセクションの各々は、スライド・ファスナーが閉じているときに扁平形状である外観を保つ端面を有する、切断線。」 (5)甲1事項 甲1には、上記1-2.(2)のとおりの甲1発明が記載されている。 2-2.本件発明1について (1)本件発明1と甲3発明との対比 ア.本件発明1の「端面(52,54)」は、「前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)」により、「前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する」ものであることを踏まえると、甲3発明の防水シール材層4のファスナーエレメント3の噛合中心線12より噛合頭部寄りの位置でカッター7により切断(上記2-1.(1)オ.)された端縁部であって、スライドファスナーを閉じた時に、互いに密着し押圧しあい、外方に膨出して膨出部14を形成するように互いに強く密着した際の、その密着し押圧しあう端縁部の面が、本件発明1の「端面」に相当するといえる。 イ.一致点 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致する。 「耐水性のスライドファスナーであって、 一対のストリンガテープであって、各ストリンガテープは、第1および第2の対向する面を有しており、前記ストリンガテープは、前記ストリンガテープに内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のストリンガテープと、 前記ストリンガテープを互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素と、 前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素を覆う耐水性の層と を含み、 前記耐水性の層がポリウレタンフィルムを含む耐水性のスライドファスナー。」 ウ.相違点 そして、本件発明1と甲3発明とは以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明1は「耐水性の層が、多層構造を有するポリウレタンフィルムを含み、前記多層構造が、前記ストリンガテープに対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」ものであるのに対して、甲3発明は「防水シール材層」が多層構造を有するものであるか不明であり「防水シール材層」の硬度が不明である点。 <相違点4> 本件発明1は「前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)であって、前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する、切断線(42)」を有するものであるのに対して、甲3発明は防水シール層の端縁部がファスナーエレメントの噛合い中心線よりも突出した状態に製造されるように、ファスナーエレメントの噛合中心線より噛合頭部寄りの位置をカッターの切断位置として、スライドファスナーを閉じた時に、防水シール材層4の端縁部を互いに強く密着し押圧しあうようにしたものである点。 (2)相違点4に係る判断 事案に鑑み、まず相違点4から検討する。 甲3発明は、簡単な構成で十分な密封作用が得られる気密、防水性を有するスライドファスナーを得ることを目的として、防水シール材層の端縁部4aが、コイル状のファスナーエレメント3の噛合中心線12より噛合頭部寄りに突出して形成されるような位置をカッターの切断位置としたものであって、スライドファスナーが閉じた時に端縁部4aが互いに密着し押圧しあい、外方に膨出して膨出部14を形成するように強く密着させることで、十分な密封作用が得られるようにするものである。 そうすると、そのような状態の端縁部4aの形状は、少なくともカッターで切断した時の方形の端面を維持しているとはいえないし、互いに密着し押圧しあい、外方に膨出して膨出部14を形成するように強く密着された状態で、常に方形の端面を呈するものとも認められない。 そして、甲3発明において、スライドファスナーが閉じているときに方形である端面を有するようにするには、甲3発明のスライドファスナーが閉じたときに、外方に膨出する膨出部14が形成されるほどには強く密着させないようにするのであるから、それにより、甲3発明は十分な密封作用を得られないこととなる。そうすると、甲3発明において、相違点4における本件発明1に係る構成を備えるようにする動機はなく、また阻害要因があるというべきである。 そして、甲2、26、27、1にも、甲3発明について相違点4における本件発明1に係る構成のようにすることの記載や示唆は見あたらない。 これに対し本件発明1は、上記相違点4に係る構成を備えることにより、「可撓性があり、柔軟で、しなやかな封止を維持しつつ、接着プロセスによってフィルム26がストリンガテープ14、16に優れた接着強度および摩耗に対する抵抗性を提供できる」(本件特許明細書の段落0021)という効果を奏するものである。 (3)小括 したがって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲3発明及び甲2、26、27、1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2-3.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の特定事項をすべて含むものである。そして、上記2-2.に示したとおり本件発明1は、甲3発明及び甲2、26、27、1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定されたものである本件発明3は、甲3発明及び甲2、26、27、1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2-4.小括 以上のとおり、本件発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2により無効とすることはできない。 3.無効理由6(分割要件違反・刊行物に記載された発明による新規性の欠如)について (1)経緯 本件特許の出願は、特願2011-190741号を原出願(以下、「原出願1」という。)とする分割出願として、平成26年4月16日に出願された。 そして、特願2011-190741号は、特願2008-136701号を原出願(以下、「原出願2」という。)とする分割出願として、平成23年9月1日に出願され、特願2008-136701号は、特願2000-571795号を原出願(以下、「原出願3」という。)とする分割出願として、平成20年5月26日に出願された。 (2)本件特許出願及び原出願の明細書等の記載 本件特許出願に添付された特許請求の範囲の請求項1には、「前記多層構造が、前記ストリンガテープ(14,16)に対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」なる記載がある。 かかる記載は、本件特許出願直前の原出願1の明細書等に記載がない。 また、原出願1?3の明細書の段落0038には、「本発明によれば、内側層60は好ましくは低温溶融材料(low melt material)、例えば約82PTPU以下のショアA硬さを有する材料であり、一方、外側層62は耐摩耗層として設けられ、また約93PTPU以上のショアA硬さを有している。」の記載がある。また、かかる積層構造による効果について、同段落0039には、「このような積層により提供されるストリンガテープ14,16の繊維内へのフィルム材料の浸透により、本発明によるスライドファスナー10により例証される優れた接着性を提供でき、また摩擦係数を低減できて操作が容易化する。この点において、スリップ剤を硬質層内に組み込むことが同様に有用である。さらに、フィルム26に硬質ないし耐摩耗性の外側層62を設けることで、好都合なことに、本発明に係わるスライドファスナー10により例証されるように耐摩耗性を増大でき、また摩擦係数を低減できて操作の容易化が図れる。」なる記載がある。 (3)判断 上記記載によれば、原出願1?3の明細書に記載されたものは、上記内側層を、相対的に溶融温度が低く、ショアA硬さが小さいものとし、上記外側層を、相対的にショアA硬さが大きいものとすることにより、上記「このような積層により提供されるストリンガテープ14,16の繊維内へのフィルム材料の浸透により、本発明によるスライドファスナー10により例証される優れた接着性を提供でき、また摩擦係数を低減できて操作が容易化する。この点において、スリップ剤を硬質層内に組み込むことが同様に有用である。さらに、フィルム26に硬質ないし耐摩耗性の外側層62を設けることで、好都合なことに、本発明に係わるスライドファスナー10により例証されるように耐摩耗性を増大でき、また摩擦係数を低減できて操作の容易化が図れる。」との機能をその溶融温度及びショアA硬さに応じた程度に達成しうるものであると認められる。 そして、上記「約82PTPU」及び「約93PTPU」なる数値は単なる例示であって、上記明細書等には、かかる数値に臨界的意義を有するものがあるとの記載ないし示唆は見出せない。 してみると、前記多層構造においては、外側層が内側層に対して相対的に大きいショアA硬さを有していれば、上記機能を奏しうるものであることを踏まえると、上記原出願1?3の明細書等には、「第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」ことは、実質的に記載されているものと認められる。 したがって、本件特許の出願の新規性等の判断基準日は、原出願3の出願日である。そして、原出願1?3の公開特許公報は、本件原出願3の後に公開されたものであり、新規性欠如の根拠にはならない。 4.無効理由4、5及び7について 上記第2のとおり、請求項2及び4?14を削除する訂正が認められることにより、本件特許の請求項2及び4?14についての無効理由4、5及び7による本件審判の請求は、その対象が存在しないものとなった。 したがって、本件特許の請求項2及び4?14についての無効理由4、5及び7による本件審判の請求は、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第135条の規定により、却下すべきものである。 第7.無効理由8及び9について 上記第4.1に示したとおり請求人が平成29年9月6日付け弁駁書において主張する無効理由8及び無効理由9は、平成29年12月8日付け補正許否の決定により、許可しないものとされたが、念のため、以下に付言する。 1.無効理由8について (1)甲26発明 甲26には図面と共に上記第6.2-1.(3)に示したとおりの記載があり、これらの記載から、以下の甲26発明が記載されている。 「液体等から密封するファスナー(10)であって、 一対のテープ(12,12a)であって、各テープは、第1および第2の対向する面を有しており、前記テープ(12,12a)は、前記テープ(12,12a)に内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のテープ(12,12a)と、 前記テープ(12,12a)を互いに開放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連のエレメント(19,19a)と、 前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連のスライダ(15)を覆う不透過性テープ(14,14a)と、 不透過性テープ(14,14a)の第1および第2のセクション(14,14a)を提供する液体等に対する不透過性テープ(14,14a)の開口部(29)であって,前記不透過性テープ(14,14a)の各々は、ファスナー(10)が閉じているときに方形である端面と、 を含む、液体等から密封するファスナー(10)。」 (2)本件発明と甲26発明との対比及び判断 本件発明1と甲26発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点で相違する。 <相違点5> 本件発明1は「耐水性の層が、多層構造を有するポリウレタンフィルムを含む」ものであるのに対して、甲26発明は「不透過性テープ」が多層構造を有するものであるか不明である点。 <相違点6> 本件発明1は「前記多層構造が、前記ストリンガテープに対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」ものであるのに対して、甲3発明は「不透過性テープ」の硬度が不明である点。 甲2事項は、ラミネートステーション22において、ラミネートニップローラ48、50によって、生地10、第1フィルム46及び第2フィルム18を同時にラミネートするものである(上記「第6.2-1.(3)イ、ウ」)。一方、甲26発明は、ファスナー10において不透過性テープ14はテープ12側の面にガスケット13を有し、ガスケット13とテープ12とは互いに固着されないものであって(上記「第6.2-1.(4)エ」)、両者は基本的な構成において相違するものである。よって、甲26発明を甲2事項の方法によって製造することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、甲1、甲3、甲4、甲12の1、甲12の2、甲14、甲19の1?甲19の5、甲24の1、甲25にも、甲3発明において相違点5及び6のようにすることは、記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1及び本件発明1の特定事項をすべて含む本件発明3は、甲26発明及び甲1?甲4、甲12の1、甲12の2、甲14、甲19の1?甲20、甲24の1及び甲25事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 2.無効理由9について (1)甲27発明 甲27には、図面とともに、上記第6.2-1.(4)に示したとおりの記載があり、これらの記載から、以下の甲27発明が記載されている。 「スライド・ファスナー(14)を有する物品であって、 一対のテープ(18,20)であって、各テープは、第1および第2の対向する面を有しており、前記テープ(18,20)は、前記テープ(12,20)に内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のテープ(18,20)と、 前記テープ(18,20)を互いに開放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の相互係合エレメント(22)と、 前記第1および第2の面のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の相互係合エレメント(22)を覆うシート材料(12)と、 シート材料(12)の第1および第2のセクションを提供するシート材料(12)の切断線であって、前記第1および第2のセクションの各々は、スライド・ファスナー(14)が閉じているときに扁平形状である外観を保つ端面を有する、切断線、と、 を含むスライド・ファスナー(14)を有する物品。」 (2)本件発明と甲27発明との対比及び判断 本件発明1と甲27発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点で相違する。 <相違点7> 本件発明1は「耐水性の層が、多層構造を有するポリウレタンフィルムを含む」ものであるのに対して、甲26発明は「シート材料」が多層構造を有するものであるか不明である点。 <相違点8> 本件発明1は「前記多層構造が、前記ストリンガテープに対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層と、第2のショアA硬度を有する外側層とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい」ものであるのに対して、甲3発明は「シート材料」の硬度が不明である点。 甲2事項は、ラミネートステーション22において、ラミネートニップローロ48、50によって、生地10、第1フィルム46及び第2フィルム18を同時にラミネートするものである(上記「第6.2-1.(3)イ、ウ」)。一方、甲27発明は、スライド・ファスナー14を有する物品において、シート材料12と、テープ18・20及び相互係合エレメント22からなるスライド・ファスナー14と、裏地ストリップ16とを、位置決め凹所42を備えたアンビル44と、切込み突起58及びシール突起52・54を備えた成形部材50との間で圧縮して、接着軌道28及び30と中心引裂線36とを形成するものであるから、両者は基本的な構成において相違するものである。よって、甲27発明を甲2事項の方法によって製造することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、甲1?甲4、甲14、甲19の1?甲20、甲24の1にも、甲3発明において相違点7、8のようにすることは、記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1及び本件発明1の特定事項のすべてを含む本件発明3は、甲27発明及び甲1?甲4、甲14、甲19の1?甲20、甲24の1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 第8.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1、2及び6はいずれも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては本件発明1及び3に 係る特許を無効とすることはできない。 また、本件特許の請求項2及び4?14についての請求人の主張する無効理由4、5、7による本件審判の請求は、却下すべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第62条の規定により、その14分の2を請求人の負担とし,14分の12を被請求人の負担とする。 よって、結論の通り審決する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 耐水性のスライドファスナーであって、 一対のストリンガテープ(14,16)であって、各ストリンガテープは、第1および第2の対向する面(18,20)を有しており、前記ストリンガテープ(14,16)は、前記ストリンガテープ(14,16)に内側端部および外側端部を提供するために平行で並んで配置されている、一対のストリンガテープ(14,16)と、 前記ストリンガテープ(14,16)を互いに解放可能に固定するために前記内側端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素(22)と、 前記第1および第2の面(18,20)のうちの少なくとも1つの面上にあり、かつ前記内側端部および前記一連の把持部材構成要素(22)を覆う耐水性の層(26)と、 前記耐水性の層(26)の第1および第2のセクション(50,50)を提供する前記耐水性の層(26)の切断線(42)であって、前記第1および第2のセクション(50,50)の各々は、前記耐水性のスライドファスナーが閉じているときに方形である端面(52,54)を有する、切断線(42)と、 を含み、 前記耐水性の層(26)が、多層構造を有するポリウレタンフィルムを含み、前記多層構造が、前記ストリンガテープ(14,16)に対向して配置され第1のショアA硬度を有する内側層(60)と、第2のショアA硬度を有する外側層(62)とを含み、前記第2のショアA硬度が、前記第1のショアA硬度よりも大きい、こと を特徴とする、耐水性のスライドファスナー。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記スライドファスナー(10)が、30cm以下のクラーク硬さを示すこと を特徴とする、請求項1に記載のスライドファスナー。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) 【請求項13】(削除) 【請求項14】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2017-12-08 |
結審通知日 | 2017-12-13 |
審決日 | 2018-02-21 |
出願番号 | 特願2014-84284(P2014-84284) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YAA
(A44B)
P 1 113・ 536- YAA (A44B) P 1 113・ 537- YAA (A44B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼橋 杏子 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 谿花 正由輝 |
登録日 | 2016-04-01 |
登録番号 | 特許第5908938号(P5908938) |
発明の名称 | 耐水性スライドファスナーおよびその作成方法 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 佐藤 睦 |
代理人 | 阿部 豊隆 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 小林 理人 |
代理人 | 小林 理人 |
代理人 | 佐藤 睦 |
代理人 | 阿部 豊隆 |
代理人 | 大野 浩之 |
代理人 | 澤井 光一 |
代理人 | 澤井 光一 |