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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21G
管理番号 1341439
審判番号 不服2016-3488  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-07 
確定日 2018-06-14 
事件の表示 特願2012-525413「核変換方法及び核変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日国際公開、WO2012/011499〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
平成23年 7月20日 国際特許出願(優先権主張、
特願2011-17452号、2011年1月31日、日本国、
特願2010-239591号、2010年10月26日、日本国
特願2010-162874号、2010年7月20日、日本国)
平成25年 2月15日 手続補正書
平成27年 4月10日 拒絶理由通知(同年4月14日発送)
平成27年 6月11日 意見書・手続補正書
平成27年11月30日 上申書(別紙に実験成績証明書を添付)
平成27年11月30日 拒絶査定(同年12月8日送達)
平成28年 3月 7日 本件審判請求・手続補正書
平成28年 7月20日 上申書
平成28年10月20日 上申書
平成28年10月20日 物件提出書(実験成績証明書提出)
平成28年11月28日 前置報告書
平成29年 9月 7日 拒絶理由通知(同年9月12日発送、以下「当 審拒絶理由通知」という。)
平成29年12月11日 意見書

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年3月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「ステンレス製及び鉄製のうち、いずれか一種からなる反応セル内を無酸素状態雰囲気とし、前記反応セル内に反応剤を加え、前記反応セルを加熱して反応剤から微粒子を反応セル内に飛散せしめるとともに前記反応セル内に水を供給するようにして核変換を起こさせることを特徴とする核変換方法。」(以下「本願発明」という。)

3 当審拒絶理由の概要
本願発明は、「核変換を起こさせること」を発明特定事項とする発明であるところ、本願の明細書及び図面の記載からは核変換が起きるとは認められないし、常温における核融合反応や核変換は技術常識ではない。したがって、本願発明の装置により、核融合反応、核変換が起こるものとは認められないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
ところで、信頼し得る第3者の再現実験により、本願発明の装置により核融合反応や核変換が確認できる場合にはこの限りではないが、そのような実験成績期証明書は提出されていない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 当審の判断
(1)本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付加した。以下同様である。)。
ア 核変換システムS_(1)と核変換システムS_(1)を用いた実験例の記載
「【0016】
図1は、核変換システムS_(1)の基本概念を示し、円筒中空の反応セル1の天面には、注水のための水パイプ2と反応ガスを排出するためのガス排水管3と、熱電対4を保持するための保持筒5が取付けられ、前記反応セル1は面状ヒータ6に覆われている。また、前記排出管3には反応セル1内のガス圧を測定するための圧力計4が取付けられている。
【0017】
前記反応セル1の材質は金属であり、例えばSUS304(18%Cr-8%Ni-残Fe)あるいは鉄製(一般構造用圧延鋼材SS400;P0.05以下、S0.05以下、残Fe)であり、前記面状ヒータ6は反応セル1を700℃以上に加熱する能力を有している。また、反応セル1内は、空気除去装置としての真空ポンプV・Pによって真空に引かれ(0.1Pa)、空気中の酸素はほぼ完全に除去されている。
【0018】

実験例1
前記反応セル1の材質をSUS304とし、内径を11.5cm高さは18cm肉厚3mmで真空引きした後に、常温から700℃前後迄加熱した。一回の供給水量を0.5ccとし、25日間で94回の注水をし、総水供給量23.5ccで総水素発生量は73リットルであった。なお、94日の注水後も安定して水素は発生していたが、良好な状態のまま中断した。水注入後は排出管3のバルブを閉じ、平均で0.054MPa迄、反応セル1内のガス圧(水蒸気と水素ガスとの圧力)を上昇させてから前記バルブを開放した。その結果最低491℃で水素が発生し、600℃以上で安定して水素が発生した。前記反応セル1の反応後のガスを質量分析器で質量数に対する原子比(M/eスペクトル)を求めたところ、図2に示すように、水素H_(2)が95.4%でその他のガスはほとんど検出されなかった。
【0019】
また、図3に示すように、反応セル1の壁を実験後に長手方向に切断して切断片7を取り出しその外面7aと内面7bとを同位体顕微鏡システム、電界放射一透過型分析電子顕微鏡及び多重エックス線励起蛍光電子顕微鏡で分析した…。

【0021】

前記外面7aは、SUS304の成分を有するが、内面7bには、存在するはずのないナトリウム(Na5.9%)、アルミニウム(Al4.2%)、ランタン(La2.7%)およびセリウム(Ce2.7%)が観察され、この代わりに鉄成分(51.7%)の減少が見られた。
…」

イ 核変換システムS_(2)と核変換システムS_(2)を用いた実験例の記載
「【0036】
図4は、核変換システムS_(2)を示し、このシステムS_(2)は図1のシステムS_(1)から水パイプ2を除去し、反応セル1の底部に反応剤8を収納したものである。反応剤8の表面からは反応剤のナノオーダー径の微粒子10が反応セル1内に飛散して反応空間Rを形成している。…」
実験例3
システムS_(2)において、反応剤8として、500℃で個体のチタン酸カリウム(K_(2)TiO_(3))又はチタン酸ナトリウム(Na_(2)TiO_(3))を使用したところ、水を全く注入しなくても500℃前後で水素が発生しており、そのガス成分を測定したところ、図5に示す通り、窒素40%、水素36%、酸素9%であることが判明した。なお、反応剤8としては、500℃で液体の水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KoH)でも良好な結果が得られる。この窒素40%、酸素9%はガス採集時に空気が入ったものと思われる。…」

ウ 核変換システムS_(3)と核変換システムS_(3)を用いた実験例の記載
「【0038】
図6は、核変換システムS_(2)を示し、このシステムS_(2)は、横型円筒形の反応セル11を有し、この反応をセル11は、水パイプ21と、ガス排出管12とを有している。前期反応セル11の端面には、反応セル10の反応空間R内の温度を検出するための熱電対13を保持する保持筒20が固定されている。また、反応セル11は、面状ヒーター15で加熱され、反応セル11内には、反応剤16が収納され、この反応剤16として水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)が好適である。この場合も、反応空間Rには、反応剤の微粒子が充満している。
実験例4
図1、図4の縦型の反応セル1のみならず、図6に示すような横型の反応セル11においても、排出管3、12から排出されるガスの温度が、常温に近いことから、温度低下が反応セルのどこかで生じていることとなる。…すなわち、常温の水素ガスを排出するためには、ガス排出管12の径を反応セルの横断面より小さくして絞ってガスの流れを速くする必要がある。」

エ 核変換システムS_(4)と核変換システムS_(4)を用いた実験例の記載
「【0039】
図10は、核変換システムS_(4)を示し、このシステムS_(4)は反応セル100を備え、この反応セル100は円筒状をなし、ステンレス鋼SUS304(18Cr-8Ni-残Fe)で形成されている。前記反応セル100の上面には水管102と水素管103の端部がそれぞれ支持され、水管102の下端は反応セル100の底部に設けられた水受けポット105に臨まされ、この水受ポット105内に水が供給される。前記水管102には、チュービングポンプ106が設けられ、このチュービングポンプ106は水タンク107からの水を一定量水受けポット105に送って水蒸気を生成する。
【0040】
前記水素管103は冷却器108にバルブ109を介して接続され、この冷却器108は、その周囲に設けた冷媒110によって-70℃以下の温度に冷却され、ここで反応セル100から水素とともに流失した水蒸気が冷却されて除去される。前記冷却器108から流失した水素は流量計111を通って、一方の分岐管112aに取付けた質量分析器112から外部に放出される。また、他方の分岐管112bには、真空ポンプ113が取付けられ、この真空ポンプ113は、分岐管112aに取付けたバルブ114を閉じた状態で核変換システムS_(4)を真空とするものである。
【0041】
前記反応セル100は面状発熱体115で被われ、この面状発熱体115は反応セル100を300?500℃に加熱する。前記反応セル100の底部には、親水性の非常に高い反応剤120が収納され、この反応剤120の温度が温度計121で検出されるとともに、反応セル100の反応空間R内の圧力が圧力計122で測定され、前記チュービングポンプ106、面状発熱体115、圧力計122、バルブ109及び流量計111がコントローラ123に接続される。なお、前記反応セル100の底部には、反応場を作るためのSUS304からなるフィン124が収納されている。

【0046】
なお、核変換システムS_(4)は、水と反応剤と金属元素を使用する場合であり、核変換システムS_(1)は水と金属元素、核変換システムS_(2)は反応剤と金属元素を使用する場合であり、核変換システムS_(2)で使用できない、酸化ナトリウム(Na_(2)O)、チタン酸マグネシウム(MgTiO_(3))は、核変換システムS_(4)では使用できる。また、酸化チタン(TiO_(2))のみでは、いずれのシステムでも使用できない。すなわち、単なる酸化物のみでは、いずれのシステムでも使用できないが、例外的に酸化ナトリウム(Na_(2)O)の場合は、水の存在下で水酸化ナトリウム(NaOH)となり、使用可能となる。
実験例6
なお、KOH,NaOHと他の金属(水)酸化物とを反応させて脱水させた複合金属酸化物を反応剤とした場合の反応結果(発生水素量)を表11に示す。
【0047】
【表11】

ここで、◎は優良であり、○は良であり、△は僅かに水素が出たものであり、×は水素が全く発生しなかった。複数の酸化物が記載されているのは、それらの混合を意味する(例えば、表2のTiO_(2)、Cr_(2)O_(3)はこれらの両酸化物の混合を意味する)。これらの結果、KOHもNaOHの場合も、TiO_(2)、Cr_(2)O_(3)、MgOとの組合せが良好であることが判明している。すなわち、固体反応剤としてはそれらの組合せの結果生じるチタン酸カリウム(ナトリウム)、クロム酸カリウム(ナトリウム)、マグネシウム酸カリウム(ナトリウム)が好ましい。
実験例7
3)金属元素
核反応の場としては、金属元素の存在が有効であり、しかも反応セル100の材質と、フィン124の材質としては場の形成に大きく影響し、反応剤120の種類をNaOH(溶融塩)、KOH(溶融塩)、K_(2)Ti_(2)O_(5)(K_(2)TiO3)、Na_(2)Ti_(2)O_(5)(Na_(2)TiO_(3))(固体)とした場合の(これら4種類の反応結果に変化なし)反応セル100の材質とフィン124との関係を表12に示す。この結果No1、2、4、18、19、20のSUS304(18Cr-8Ni-残Fe)とSUS316L(18Cr-12Ni-2.5Mo-低C-残Fe)又は鉄(Fe)との組合せが良好であり、No.5のNiを含まないSUS430(18Cr-残Fe)同士の組合せは反応しないことが判る。…

【0050】

実験例8
前記反応セル100に水酸化ナトリウム(NaOH)を反応剤として使用し、バルブ109を閉じ、反応セル100内の圧力と水素の発生量との関係および水素発生量とセル内の温度との関係を求めたら図12及び図13に示すような結果となった。すなわち、以下のような操作によって実験がなされた。反応セル100は面状ヒータ115(温度計121とコントローラ123によって調整)によって300?500℃に加熱され、この温度で反応空間Rの金属元素表面近傍はプラズマ雰囲気となる。前記反応セル100の加熱前に真空ポンプ113を作動させて空気を完全に系外に排出させる。反応セル100が加熱された後に、水タンク107からの水がチュービングポンプ106により所定量水管102を通って水受け105内に送られ、水蒸気を発生させた。このとき、水素管103のバルブ109を閉じておき、反応空間R内で水素が発生して圧力が所定圧(例えば、圧力計122により3気圧を検出)以上になったときにバルブ109を開放するようにコントローラ123によってシステムを操作した。
【0051】
すなわち、反応空間Rの圧力と水素発生量は比例し、反応剤120の温度が450℃以上になると水素の発生量は急速に増大する(図13)。また、核反応の活発度は水素発生量に比例する。
【0052】
また、水素管103によって送られた水素は、冷却器108によって冷却され、もし、水素とともに未反応の水蒸気が出てきた場合には、ここで凍って氷として除去される。なお、この冷却器108内には、反応容器100内で主として酸素イオンが核変換して生じた種々の元素が捕捉され、実際に反応剤120をNaOHとし、反応セル100とフィン124をSUS304とした場合には、表13に示すような元素が冷却器108内で採集された。
【0053】
【表13】

ここに、系内に実験前には存在しないで、新たに発生した異常に量の多い元素は、Si、Cu、Caであり、酸素(O)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe),ニッケル (Ni)、クロム(Cr)のうち何れかの元素がこれら元素に変換しているものと思われる。特に、酸素の大部分が他の元素に変換しているものと思われる(以下に説明するように、ガス分析によると酸素は全く検出されない)。
【0054】
真空引き後(無酸素状態)に水を反応セル100内に供給した場合において、質量分析器112で測定すると、図14に示すように水素(H_(2))が97%以上占め、このとき窒素(N_(2))が0.6%以上観察されるが、原子量32の酸素(O_(2))は全く検出されない。
【0055】
しかしながら、真空引きすることなく反応セル100内に空気を入れたまま水を供給すると図15に示すように、水素(H_(2))が40%、窒素(N_(2))が30%、酸素(O_(2))が6%存在した。このときには核反応は起きないものと思われる。
【0056】
前記核変換システムS_(4)を10日間程度稼働させた後に反応セル100の内壁を観察してみた。図16に示すように、容器の側壁101aの内壁isには元のSUS304には存在しないようなアルミニウム元素が観察された。その結果を図17、18に示し、両図において縦軸は原子比(モル比%)を示し、横軸は側壁101aの高さを示している。反応剤120の表面の高さをD1とすると位置D1ではFeの原子比に対応してAlの原子比が著しく増大し、高さが高くなるに従ってAl量が減少しこれに反してFe量が増大する。4cm以上の高さでは、ほぼ本来のSUS304の成分に戻っている。図18は微小原子の原子比を示し、特に、Mn、CuはD1位置では減少し、高さが高くなるに従ってその量が増大している。なお、Caは高い位置で急に増大している。
【0057】
図19、20は同一材料の他の反応セルの実験後の内壁状態を示し、この場合には、位置D1付近ではFe量が少なく、Crは22?25%と高く、4cm付近では20%以下に下がり、Niは高さによっては殆んど変化がなく、Naがほぼ均一に分散している(図19)。なお、微小金属としては(図20)、Siの変化が激しくMnが1%弱検出されており、Alは少量(0.1%以下)検出されている。
【0058】
このように、反応セル100内の内壁はプラズマ雰囲気の影響を受け、核変換を起こして元素の成分割合が変化する。
【0059】
また、核変換が起きていれば、γ線や中性子が出ていると思われるので、それら放射線を測定してみると図21に示すように、バックグランド値より若干高い強度のものが検出された。すなわち、γ線のバッググランド値は0.057±0.0085μs/hであり、上限の0.063μs/hよりも若干高い部分が検出され、また、中性子のバッググラント値は0.119±0.022μs/hであり、上限の0.141μsv/hよりも若干高い部分が検出された。これらは、人体に大きな影響はない。
考察3
前記核変換システムS_(4)においては、反応セル100内に親水性の高い反応剤を収納し、更に水蒸気を供給して、反応剤からのナノオーダーの微粒子が反応空間R内に充満し、この親水性の微粒子は水蒸気を捕捉し、水蒸気で濡れた微粒子は金属表面に作用し、金属表面の金属イオン(Cr^(3+)、Ni^(2+)、Fe^(3+))のプラズマ雰囲気内で、微粒子内の酸素又は水蒸気内の酸素が、プラズマ雰囲気内の金属イオン(特にFe^(3+)、Cr^(3+))と酸化物を作るが、このときに周囲の電子を取り込み、ナノオーダーの微細な酸化物粒子を生成する。この微細酸化粒子内の電子は有効質量が大きくなり、重くなる。この重くなった電子は原子を収縮せしめ、微粒子自体に含まれる原子同士の核間距離を狭めるため核反応を起こし易くする。また、微粒子内の重い電子は、重い電子を含む原子の境界付近に他の原子(例えば、プラズマ雰囲気内では、酸素イオン、水素イオン等)に取り込まれその原子を収縮させ核変換を起こし易くする。特に、水蒸気の中には、重水が1/7000程度含まれており、この中の重水素は核変換が起こり易く、D-D反応が生じる場合がある。これにより、中性子が発生したり、プロトンが生じて、水素が発生する場合がある。
【0060】
このように、反応剤と水蒸気とを加えると、より水素の発生量が多くなるし、核反応を起こし易くし、熱エネルギーとしても取り出すことができる。」

(2)以下、本願の明細書の上記記載について検討する。
ア 上記(1)の記載によれば、本願の発明の詳細な説明には、以下の核変換システムや実験例が記載されている。
(ア)核変換システムS_(1)は、SUS304あるいは鉄製の反応セル、注水のための水パイプ、反応セルを700℃以上に加熱する能力を有する面状ヒータ、反応セルを真空に引く真空ポンプ等を有すること。
該核変換システムS_(1)を用いた実験例1は、SUS304製の反応セル1を真空引きした後、常温から700℃前後迄加熱し、一回の供給水量0.5ccの水を25日間で94回注水した実験であり、最低491℃で水素が発生し、600℃以上で安定して水素が発生したこと、そして、反応セルの内面を同位体顕微鏡システム、電界放射一透過型分析電子顕微鏡及び多重エックス線励起蛍光電子顕微鏡で分析すると、存在するはずのないNa、Al、La、Ce、Cu、Znが観察され、鉄成分(51.7%)の減少や、Cr,Fe、Ni、Si、Caの同位体の分布の変化が見られたこと。

(イ)核変換システムS_(2)は、核変換システムS_(1)から水パイプ2を除去し、反応セル1の底部に反応剤8を収納したものであること。
該核変換システムS_(2)を用いた実験例3は、反応剤8としてチタン酸カリウム(K_(2)TiO_(3))、チタン酸ナトリウム(Na_(2)TiO_(3))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)を使用し、水を全く注入しなくても500℃前後で水素が発生したこと。

(ウ)核変換システムS_(3)は、横型円筒形の反応セル11、水パイプ21、面状ヒーター15、反応剤16(水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)が好適)等を備えること。
該核変換システムS_(3)を用いた実験例4でも水素が発生したこと。

(エ)核変換システムS_(4)は、SUS304製の反応セル100、水管102、水素管103、水受けポット105、真空ポンプ113、反応セル100の底部に収納された反応剤120等を有すること。
該核変換システムS_(4)を用いた実験例6は、アルカリ水酸化物(KOH,NaOH)と金属酸化物(TiO_(2)、Cr_(2)O_(3)、MgO)との組合せで良好に水素が発生したこと。
該核変換システムS_(4)を用いた実験例7は、SUS304(18Cr-8Ni-残Fe)とSUS316L(18Cr-12Ni-2.5Mo-低C-残Fe)又は鉄(Fe)との組合せで良好に水素が発生したこと。
該核変換システムS_(4)を用いた実験例8は、反応空間Rの圧力と水素発生量は比例し、反応剤120の温度が450℃以上になると水素の発生量は急速に増大し、核反応の活発度は水素発生量に比例すること。
該核変換システムS_(4)を10日程度稼働させると、反応セルの内壁に存在しないはずのAlが観察されたこと。
バックグランド値より若干高い強度の放射線が検出されたこと。

イ 上記(1)の記載によれば、本願の発明の詳細な説明の【0059】には、核変換システムS_(4)を用いた実験例について、概ね、以下のように考察している。
反応剤からのナノオーダーの微粒子が水蒸気で濡れて金属表面に作用し、微粒子内の酸素又は水蒸気内の酸素が、周囲の電子を取り込み、プラズマ雰囲気内の金属イオンとナノオーダーの微細な酸化物粒子を生成する。この微細酸化粒子内の電子は有効質量が大きくなり、原子を収縮せしめ、微粒子自体に含まれる原子同士の核間距離を狭めるため核反応を起こし易くする。また、微粒子内の重い電子は、他の原子に取り込まれその原子を収縮させ核変換を起こし易くする。

ウ しかしながら、本願明細書には、各実験が行われた環境や詳しい手順、元素の分析方法、放射線の測定方法等の詳しい説明はなく、不純物の混入やノイズの影響等をどのように除去しているのか等、具体的に記載されていないこと、そして、本願発明の方法により核変換が生じること(上記イの考察のように核変換が生じること)は技術常識ではないことを総合すると、本願の発明の詳細な説明の記載により核変換が生じているであろうと、当業者が理解できるものではない。
ところで、信頼し得る第3者の再現実験により確認された実験成績証明書により、本願発明の核変換方法により核変換が生じていることを確認できればこの限りではないので、以下、実験成績証明書について検討する。

(3)請求人は、平成27年11月30日付けで実験成績証明書を提出している。該実験成績証明書によれば、東北大学と共同で行った実験結果と、発明者の実験ラボで行った実験結果が記載されているが、本願発明と同様の核変換方法の実験は、発明者の実験ラボで行われており(「次に、元素変換についての実験結果について説明する。なお、以下の実験は東北大学ではなく、発明者の実験ラボでの結果である。」(2頁8-9行参照。))、また、本願発明の核変換方法により核変換が生じていることを確認できるものではない。
また、請求人は、平成平成28年10月21日付けの物件提出書で実験成績証明書を提出している。この実験証明書は、発明者自身が作成した実験成績証明書(平成28年10月20日付け上申書には、「本件審判に係り、ステンレスと熱により核反応が起きることの証明を東北大学で行う予定でしたが、時間的に間に合いませんでしたので、本件発明者の研究所で行った実験データを提出致します。」と記載している。)であり、また、本願発明の核変換方法により核変換が生じていることを確認できるものではない。
してみると、いずれの実験成績証明書も、信頼し得る第3者の再現実験により確認された実験成績証明書ではないし、また、本願発明の核変換方法により核変換が生じていることを確認できるものではない。
よって、上記2つの実験成績証明書によっても、本願の発明の詳細な説明の記載により核変換が生じているであろうと、当業者が理解できるものではない。

(4)請求人は、平成29年12月11日付け意見書において、東工大の教授に実証実験を依頼するため6ケ月間の猶予をお願いしたい旨釈明している。しかしながら、信頼し得る第3者の再現実験により確認された実験成績証明書を提出することで、実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号違反)が解消するであろうことは、平成27年4月10日付けの拒絶理由通知で通知しており、当審においても、平成29年9月7日付け拒絶理由通知で通知している。してみると、最初の通知から約3年が経過し、当審の通知からも約半年が経過しているから、信頼し得る第3者の再現実験により確認された実験成績証明書を作成するのに、十分な時間的余裕があったものと認められる。

5 むすび
以上によれば、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確且つ十分に記載したものとは認められない。したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-05-02 
出願番号 特願2012-525413(P2012-525413)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G21G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一後藤 孝平長谷川 聡一郎関根 裕  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
小松 徹三
発明の名称 核変換方法及び核変換装置  
代理人 奥 和幸  

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