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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1341445 |
審判番号 | 不服2017-2639 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-02-23 |
確定日 | 2018-06-14 |
事件の表示 | 特願2015-256601「光学積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月11日出願公開,特開2016-126348〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2015-256601号(以下「本件出願」という。)は,平成27年12月28日(優先権主張 平成26年12月26日)に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成28年 1月18日付け:手続補正書 平成28年 3月31日付け:拒絶理由通知書 平成28年 5月27日付け:意見書 平成28年 5月27日付け:手続補正書 平成28年 7月27日付け:拒絶理由通知書 平成28年 9月29日付け:意見書 平成28年 9月29日付け:手続補正書 平成28年11月24日付け:拒絶査定 平成29年 2月23日付け:審判請求書 平成29年 2月23日付け:手続補正書 (この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。) 平成29年12月25日付け:拒絶理由通知書(当合議体) 平成30年 3月12日付け:意見書 2 本願発明 本件出願の請求項1-請求項8に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,次のものである(以下「本願発明」という。)。 「【請求項1】 偏光子を含む偏光板と,帯電防止層と,粘着剤層と,金属含有層とを前記の順で含み, 前記帯電防止層が前記粘着剤層に直接積層されており, 前記帯電防止層は,帯電防止剤を含有する層(ただし,帯電防止剤を含有する粘着剤層を除く。)であり, 前記粘着剤層における帯電防止剤の含有量がベースポリマーの固形分100重量部に対して0.05重量部以下であり, 前記金属含有層は,メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり, 前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である,光学積層体。」 3 拒絶の理由の概要 本願発明に対して当合議体により通知された拒絶の理由は,概略,本願発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:特開2013-105154号公報 引用文献2:特開2013-84026号公報(周知技術を示す文献) 第2 当合議体の判断 1 引用文献1について (1) 引用文献1の記載 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,当合議体の拒絶の理由において引用した前記引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層と, 前記液晶層の視認側に配置された第1偏光板と, 前記第1偏光板と前記液晶層との間に配置された静電容量センサと, 前記第1偏光板と前記静電容量センサとの間に配置され,且つ前記第1偏光板に合着された帯電防止層とを備え, 前記静電容量センサは,透明基板と,前記透明基板上に形成された透明電極パターンと,前記透明電極パターンを埋設するように前記透明基板上に形成された第1接着層とを有し, 前記帯電防止層の表面抵抗値は,1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□であることを特徴とする入力表示装置。 【請求項2】 前記帯電防止層と前記第1接着層との間に配置され,視認側からの視野角を広げる位相差フィルムを更に備えることを特徴とする,請求項1記載の入力表示装置。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,指やスタイラスペン等の接触によって情報を入力することが可能な入力表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来,液晶パネルをディスプレイとして備えたモバイル機器等の入力表示装置は,小型化あるいは薄型化の要望から,ディスプレイの表示面にタッチパネルを搭載するものが実用化されている。 …(省略)… 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら,静電容量方式における液晶層として,電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層を用い,タッチセンサとして静電容量センサを用いた場合,しばしば表示不良や誤作動を生じるという問題がある。 【0006】 本発明の目的は,自然な操作感を損なうことなく,表示不良の発生を低減しつつ誤作動の発生も低減することができる入力表示装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 …(省略)… 【0008】 好ましくは,本発明の入力表示装置は,前記帯電防止層と前記第1接着層との間に配置され,視認側からの視野角を広げる位相差フィルムを更に備える。 …(省略)… 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば,電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層と第1偏光板との間に,表面抵抗値が1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□である帯電防止層が配置される。これにより,静電気等に起因する第1偏光板の帯電が抑制されて,液晶層における液晶分子の配向不良を抑制することができる。また,表面抵抗値を上記範囲とすることにより,静電容量センサが,透明電極パターンと使用者の指との間で生じる電気容量の変化を正確に検知することができる。したがって,自然な操作感を損なうことなく,表示不良の発生を低減しつつ誤作動の発生も低減することができる。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0013】 以下,本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。 【0014】 図1は,本実施形態に係る入力表示装置の構成を概略的に示す断面図である。尚,図1では,説明の便宜上,入力表示装置を構成する各層の厚みを実際の寸法と異ならせて記載しているが,各層の厚みは図1のものに限られないものとする。」 (当合議体注:図1は以下の図である。) エ 「【0015】 本発明の入力表示装置1は,図1に示すように,電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層2と,該液晶層の視認側に配置された偏光板(第1偏光板)3と,該偏光板と液晶層2との間に配置された静電容量センサ4と,該静電容量センサと偏光板3との間に配置され,且つ偏光板3に合着された帯電防止層5とを備えている。 【0016】 静電容量センサ4は,透明基板6と,該透明基板上に形成された透明電極パターン7と,該透明電極パターンを埋設するように透明基板上に形成された接着層(第1接着層)8とを有している。 …(省略)… 【0023】 (液晶層) 本発明に用いられる液晶層は,電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む,いわゆるIPS(In-Plane Switching)方式と呼ばれる液晶層である。 …(省略)… 【0025】 (偏光板) 本発明に用いられる偏光板は,液晶層の視認側に配置される。 …(省略)… 【0026】 上記偏光板は,上記の機能を有するものであれば特に制限はないが,好ましくは,二色性元素を含有するポリビニルアルコール系樹脂の延伸フィルムと,該延伸フィルムの一方の側に配置された保護フィルムとを含む積層体である。 …(省略)… 【0027】 (帯電防止層) 本発明に用いられる帯電防止層は,偏光板と静電容量センサとの間に配置され,且つ偏光板に合着される。この帯電防止層の厚みは,例えば0.1μm?80μmである。上記帯電防止層の単位面積当りの表面抵抗値は,1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□(ohms per square)である。帯電防止層の表面抵抗値が1.0×10^(9)Ω/□未満であると静電容量センサの誤作動が生じ,一方,表面抵抗値が1.0×10^(11)Ω/□を超えると液晶層の表示不良が生じる。 【0028】 したがって,表面抵抗値が上記範囲にある帯電防止層を用いることにより,偏光板が静電気で帯電した際に生じる液晶層の表示不良と,静電容量センサの誤作動とを同時に低減できる。 【0029】 上記帯電防止層は,例えばアクリルを主成分とする材料であり,好ましくは帯電防止剤を含む。この帯電防止層は,帯電防止剤を分散させた感圧接着剤(PSA)を,偏光板に貼着することにより形成してもよいし,任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布して形成してもよい。 【0030】 上記帯電防止層の厚みは,帯電防止剤を分散させた感熱接着剤を用いる場合は,例えば10μm?80μmであり,帯電防止剤をコーティング剤若しくは溶剤に混合して又は原液のまま直接塗布することにより形成する場合は,例えば0.1μm?10μmである。 …(省略)… 【0034】 (静電容量センサ) 本発明に用いられる静電容量センサは,偏光板と液晶層との間に配置される。 …(省略)… 【0035】 尚,上記静電容量センサは,図2に示すように,透明基板6に関して透明電極パターン7の反対側に,透明電極パターン7’及び該透明電極パターンを埋設するように形成された接着層8’を有していてもよい。この場合,透明基板6,透明電極パターン7,7’及び接着層8,8'は静電容量センサ4’を構成する。すなわち,上記帯電防止層は表面型静電容量方式のみならず投影型静電容量方式にも採用可能である。」 (当合議体注:図2は以下の図である。) オ 「【0036】 上記透明基板を形成する材料は,通常,ガラス又はポリマーフィルムである。 …(省略)… 【0037】 上記透明電極パターンは,代表的には,透明導電体により形成される。 …(省略)… 【0038】 透明電極パターンの形状は,櫛形状の他に,ストライプ形状やひし形形状など,用途に応じて任意の形状を採用することができる。透明電極パターンの高さは,例えば10nm?100nmであり,幅は0.1mm?5.0mmである。 【0039】 また,接着層は,上記透明電極パターンを埋設するように透明基板上に形成されている。この接着層を形成する材料としては,透明性に優れる点から,好ましくはアクリル系粘着剤である。上記アクリル系粘着剤の厚みは,好ましくは10μm?200μmである。接着層は,市販の光学透明粘着剤(OCA:Optical Clear Adhesive)を用いることも可能である。このアクリル系粘着剤は,例えば日東電工株式会社(製品名:LUCIACS(登録商標)CS9621T)より入手できる。 …(省略)… 【0042】 図3は,図1の入力表示装置の変形例を示す図である。 …(省略)… 【0044】 図1の構成と異なる点は,静電容量センサ14と帯電防止層15との間に,斜め方向から観測した場合に生じる偏光板の幾何学的な軸ずれを補償する位相差フィルム19を配置したことである。また,液晶層12に関して視認側とは反対側に,下部透明基板20と,該下部基板に第2接着層21を介して積層された第2偏光板22とが配置されている。 【0045】 本変形例によれば,上記同様の効果を奏することができると共に,電界が存在しない状態で完全な黒色化を実現でき,更には広視野角を実現することができる。」 (当合議体注:図3は以下の図である。) カ 「【産業上の利用可能性】 【0061】 本発明に係る入力表示装置は,その用途について特に制限はなく,好ましくはスマートフォンやタブレット端末(Slate PCともいう)等の携帯端末に採用可能である。」 (2) 引用発明 引用文献1の【請求項1】には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層と, 前記液晶層の視認側に配置された第1偏光板と, 前記第1偏光板と前記液晶層との間に配置された静電容量センサと, 前記第1偏光板と前記静電容量センサとの間に配置され,且つ前記第1偏光板に合着された帯電防止層とを備え, 前記静電容量センサは,透明基板と,前記透明基板上に形成された透明電極パターンと,前記透明電極パターンを埋設するように前記透明基板上に形成された第1接着層とを有し, 前記帯電防止層の表面抵抗値は,1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□である入力表示装置。」 (3) 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 偏光板 引用発明の「第1偏光板」は,「入力表示装置」において,「液晶層の視認側に配置された」ものである。また,偏光板が偏光子を含むことは技術常識である(引用文献1の【0026】の記載からも確認できる事項である。)。 ここで,本件出願の明細書の【0004】等の記載からみて,本願発明は,いわゆるオンセル方式によるタッチ入力式の液晶表示装置における,視認側の偏光板から,タッチパネルの透光性基板上に形成される電極パターンまでの部分の積層構造を取り出して,「光学積層体」と称したものである。 以上の機能及び位置関係からみて,引用発明の「第1偏光板」は,本願発明の「偏光板」に相当する。また,引用発明の「第1偏光板」は,本願発明の「偏光板」における「偏光子を含む」との要件を満たす。 イ 金属含有層 引用発明の「透明電極パターン」は,「静電容量センサ」における,「透明基板上に形成された透明電極パターン」である。また,「透明電極パターン」が金属含有層により形成されることは技術常識である(引用文献1の【0037】の記載からも確認できる事項である。)。 ここで,本願発明の「金属含有層」は,「静電容量センサ」の透光性基板上に形成された,(透明に見える)電極パターンのことである。 以上の機能及び位置関係からみて,引用発明の「透明電極パターン」は,本願発明の「金属含有層」に相当する。 (当合議体注:本件出願の明細書の【0136】の記載からみて,本願発明でいう「金属含有層」には,金属酸化物層も含まれる。ただし,「メタルメッシュ…」の点は,後記(2)イに記載のとおり相違点となる。) ウ 帯電防止層 引用発明の「帯電防止層」は,その文言のとおり,帯電を防止する層であるところ,帯電の防止が,帯電防止剤の含有により達成されることは,技術常識である(引用文献1の【0029】の記載からも確認できる事項である。)。また,引用発明の「帯電防止層」は,「前記第1偏光板と前記静電容量センサとの間に配置され」たものである。 以上の機能及び位置関係からみて,引用発明の「帯電防止層」は,本願発明の「帯電防止層」に相当する。また,引用発明の「帯電防止層」は,本願発明の「前記帯電防止層は,帯電防止剤を含有する層」「であり」という要件を満たす。 エ 粘着剤層 引用発明の「帯電防止層」は,「前記第1偏光板と前記静電容量センサとの間に配置され」たものである。また,引用発明の「前記静電容量センサは,透明基板と,前記透明基板上に形成された透明電極パターンと,前記透明電極パターンを埋設するように前記透明基板上に形成された第1接着層とを有」する。したがって,引用発明の「第1接着層」は,「帯電防止層」と「透明電極パターン」の間に位置する。 また,「接着」と「粘着」は,本来,異なる概念である。ただし,引用発明の「接着層」は,「透明電極パターンを埋設する」ものであり,実質的に粘着剤層である(引用文献1の【0039】の記載からも確認できる事項である。)。 以上の機能及び位置関係からみて,引用発明の「第1接着層」は,本願発明の「粘着剤層」に相当する。 オ 光学積層体 以上ア?エからみて,引用発明の「第1偏光板」,「帯電防止層」,「第1接着層」及び「透明電極パターン」は,この順で積層された物である(以下,便宜上「積層物」という。)。また,引用発明の「積層物」は,「第1偏光板」を含む点において,光学的機能を果たすものである。 以上の機能及び位置関係からみて,引用発明の「積層物」は,本願発明の「光学積層体」に相当する。また,引用発明の「積層物」は,本願発明の「光学積層体」の「偏光子を含む偏光板と,帯電防止層と,粘着剤層と,金属含有層とを前記の順で含み」という要件を満たす。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明(の積層物)は,次の構成で一致する。 「 偏光子を含む偏光板と,帯電防止層と,粘着剤層と,金属含有層とを前記の順で含み, 前記帯電防止層は,帯電防止剤を含有する層である,光学積層体。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は,「前記帯電防止層が前記粘着剤層に直接積層されており」という構成を具備するのに対して,引用発明は,これが特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1の「帯電防止層」は,「帯電防止剤を含有する粘着剤層を除く」ものであるのに対して,引用発明は,これが特定されていない点。 (相違点3) 本願発明1は,「前記粘着剤層における帯電防止剤の含有量がベースポリマーの固形分100重量部に対して0.05重量部以下」であるのに対して,引用発明は,これが特定されていない点。 (相違点4) 本願発明の「金属含有層」は,「メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり,前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である」のに対して,引用発明は,これが特定されていない点。 (5) 判断 ア 相違点1について 引用文献1の【請求項1】と【請求項2】の関係からみて,引用文献1は帯電防止層と第1接着層を直接積層することを排除していないことは明らかである。 そうしてみると,引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 (審判請求人の主張について) 相違点1に関して,審判請求人は以下のとおり主張する。 「相違点1に関し,仮に「帯電防止層と第1接着層を直接積層することを引用文献は排除している」とはいえないにしても,このような直接積層構造が引用文献1に明示的に開示されているとは言い難いですし,むしろ引用文献1の図1には,帯電防止層5と接着層8との間に他の層が介在することを示唆する「・・・」の表記が明示的に記載されており,さらには,具体的な実施例として引用文献1に開示されているのは,上記他の層として位相差フィルムが介在したもののみであり,直接積層構造の実施例はありません。 拒絶理由通知書は,「相違点1に係る構成(直接積層構造)を採用することは,引用文献1が示唆する範囲内の事項にすぎない」と判断していますが,直接積層構造は引用文献1によって明示的には示唆されていないと考えますし,仮に示唆されているとしても,引用文献1は,直接積層構造よりもむしろ,帯電防止層と接着層との間に他の層を介在させた構成をより強く開示・示唆しています。」 しかしながら,引用文献1の【請求項1】と【請求項2】の記載を見比べた当業者ならば,引用文献1の【請求項1】に係る発明(引用発明)に,帯電防止層と第1接着層が直接積層する態様が含まれることを,一見して理解することができる。 念のため,審判請求人が主張する,引用文献1の図1の「…」という記載に関して,発明の詳細な説明の記載を確認すると,以下のとおりである。 「図1の入力表示装置の変形例」(【0042】)である図3に関して,引用文献1の【0044】には,「図1の構成と異なる点は,静電容量センサ14と帯電防止層15との間に,斜め方向から観測した場合に生じる偏光板の幾何学的な軸ずれを補償する位相差フィルム19を配置したことである」と記載されている。 そうしてみると,図1における「…」は,位相差フィルム19が配置される態様と配置されない態様を兼ねるための表記と解するのが相当であり,そこに何かが必ずあると解するのは誤りである。 さらに念のため,図1における「…」の位置に位相差フィルム19を配置しない態様が,引用文献1の記載から具体的に想起できるか,確認する。 引用文献1の【0023】及び【0061】には,「本発明に用いられる液晶層は,…いわゆるIPS(In-Plane Switching)方式と呼ばれる液晶層である」及び「本発明に係る入力表示装置は,…好ましくはスマートフォンやタブレット端末(Slate PCともいう)等の携帯端末に採用可能である」と記載されている。ここで,スマートフォンやタブレット端末においては,薄型化が強く求められる一方で,広視野角を実現する必要はない(IPS液晶ならば,十分と考えられる。)。 そうしてみると,当業者が引用発明をスマートフォン等として実施するに際しては,「好ましくは,本発明の入力表示装置は,前記帯電防止層と前記第1接着層との間に配置され,視認側からの視野角を広げる位相差フィルムを更に備える」(【0008】)という構成は採用せず,「前記帯電防止層が前記粘着剤層に直接積層されており」という構成を採用するといえる。 イ 相違点2について 帯電防止層に関して,引用文献1の【0029】には,「任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布して形成してもよい」と記載されている。 そうしてみると,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 (審判請求人の主張について) 相違点2に関して,審判請求人は,以下のとおり主張する。 「相違点2に関し,たしかに引用文献1の[0029]には,「任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布して形成してもよい」との記載がありますが,帯電防止層として引用文献1に具体的に開示されているのは,帯電防止剤を分散させた感圧接着剤層のみです。このように,相違点2に関して,引用文献1は,任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布してなる帯電防止層よりもむしろ,帯電防止剤を分散させた感圧接着剤層をより強く開示・示唆しています。」 しかしながら,引用文献1の【0029】には,「任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布して形成してもよい」という選択肢が,明示されている。 念のため,「任意のコーティング剤若しくは溶剤に混合して,又は原液のまま偏光板に直接塗布して形成」する態様が,引用文献1の記載から具体的に想起できるか,確認する。 引用文献1の【0030】には,「上記帯電防止層の厚みは,帯電防止剤を分散させた感熱接着剤を用いる場合は,例えば10μm?80μmであり,帯電防止剤をコーティング剤若しくは溶剤に混合して又は原液のまま直接塗布することにより形成する場合は,例えば0.1μm?10μmである」と記載されている。 そうしてみると,当業者が引用発明を,薄型化が強く求められるスマートフォン等として実施するに際しては,「帯電防止剤をコーティング剤若しくは溶剤に混合して又は原液のまま直接塗布することにより形成する」という構成の方を採用するといえる。 ウ 相違点3について 接着層に関して,引用文献1の【0039】には,「接着層を形成する材料としては,透明性に優れる点から,好ましくはアクリル系粘着剤である。上記アクリル系粘着剤の厚みは,好ましくは10μm?200μmである。接着層は,市販の光学透明粘着剤(OCA:Optical Clear Adhesive)を用いることも可能である。このアクリル系粘着剤は,例えば日東電工株式会社(製品名:LUCIACS(登録商標)CS9621T)より入手できる」と記載されている。 この記載からみて,引用発明においては,接着層に帯電防止剤を含有させることは,予定されていないというべきである。 あるいは,引用文献1の【0027】には,「帯電防止層の単位面積当りの表面抵抗値は,1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□(ohms per square)である。帯電防止層の表面抵抗値が1.0×10^(9)Ω/□未満であると静電容量センサの誤作動が生じ,一方,表面抵抗値が1.0×10^(11)Ω/□を超えると液晶層の表示不良が生じる。」と記載されている。 そうしてみると,「前記帯電防止層の表面抵抗値は,1.0×10^(9)?1.0×10^(11)Ω/□である」という構成を具備した引用発明の接着層に,さらに帯電防止剤を含有させると,静電容量センサの誤作動が生じ得ることになる。 したがって,引用文献1の記載の示唆に従う当業者が,引用発明の接着層に帯電防止剤を敢えて含有させるようなことは,しないといえる。 エ 相違点4について 静電容量センサに関して,引用文献1の【0035】には,「上記帯電防止層は表面型静電容量方式のみならず投影型静電容量方式にも採用可能である」と記載されている。また,投影型静電容量方式の静電容量センサの透明電極パターンとして,「メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり,前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である」ものは,周知である(必要ならば,当合議体の拒絶の理由において引用した前記引用文献2の【0017】の記載等を参照。)。 そうしてみると,引用発明において相違点4に係る本願発明1の構成を採用することは,引用文献1の記載の示唆に従う当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。 相違点4に関して,審判請求人は,以下のとおり主張する。 「相違点4に関し,投影型静電容量方式の静電容量センサとして,「メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり,前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である」ものが仮に周知であるとしても,当該分野において周知であるものの中には,「メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり,前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である」もの以外のものも存在すると考えられるところ,引用文献1は,これらの周知のものの中から,「メタルメッシュで構成される金属含有配線層であり,前記メタルメッシュの線幅が10μm以下である」ものを適用してみることの積極的な動機付けを与えません。周知技術というだけでは,適用することの動機付けとはなりません。」 しかしながら,引用文献1の【0035】には,「上記帯電防止層は…投影型静電容量方式にも採用可能である」と記載され,それ以上の記載はない。このような引用文献1の記載に接した当業者ならば,投影型静電容量方式の静電容量センサの透明電極パターンとして,周知のものを採用すると考えられる。 念のため,周知の投影型静電容量方式のメタルメッシュパターンを採用することが,引用文献1の記載から具体的に想起できるか,確認する。 引用文献1の【0061】には,「本発明に係る入力表示装置は,…好ましくはスマートフォンやタブレット端末(Slate PCともいう)等の携帯端末に採用可能である」と記載されている。また,スマートフォン等においては,多点入力可能なタッチパネル入力方式が強く求められる。 そうしてみると,当業者が引用発明をスマートフォン等として実施するに際しては,引用文献1に開示された各方式のうち投影型静電容量方式のメタルメッシュパターンの構成を採用するといえる。 (当合議体注:多点入力との関係については技術常識と考えるが,必要ならば,特開2014-241132号公報の【0003】及び【0025】,特開2014-203161号公報の【0002】及び【0092】,特開2014-16935号公報の【0004】及び【0034】を参照。) (6) その他の審判請求人の主張について ア 本願発明の課題について 本願発明の課題に関して,審判請求人は,以下のとおり主張する。 「本願発明の課題は,引用文献が着目してこなかった新規な課題です。そうである以上,少なくとも相違点1,2及び4を有する引用発明から出発して,当該新規な課題を解決すべく,相違点1,2及び4に係る本願発明1の構成の組み合わせを採用して,本願発明1の構成に想到することは,当業者において容易ではありません。」 しかしながら,帯電防止剤が,イオン性であるが故に金属を腐食するという課題は,一般的なものである。また,液晶表示装置に使用される粘着剤に限ったとしても,広く認識されていた事項である(必要ならば,特開2009-19161号公報の【0005】,特表2010-525098号公報の【0006】,特開2006-152235号公報の【0003】及び【0006】を参照。)。 そして,引用発明は帯電防止層と第1接着層とを別個に形成したものであるから,請求人が主張する課題は,当業者が,引用発明において解決済みであると直ちに理解できる課題にすぎない。 イ 本願発明の効果について 本願発明の効果に関して,審判請求人は,以下のとおり主張する。 「本願発明が奏する効果の顕著性(非予測性)は,とりわけ次の点からもご理解頂けるものと思料致します。 平成29年3月23日付で提出致しました手続補正書(理由補充)でも述べましたとおり,本願発明に係る光学積層体によれば,金属含有層の孔食を抑制できるという効果を良好に奏することができます。このことは,本願明細書の実施例によって具体的に実証されております。」 しかしながら,「金属含有層の腐食を防止できる光学積層体を提供することが可能となる」(【0010】)という効果は,引用発明の帯電防止層及び第1接着剤層の構成が奏する効果にすぎない。 なお,本願発明のメタルメッシュの金属材料には,金や白金が含まれる(【0136】)。 2 小括 本願発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-04-13 |
結審通知日 | 2018-04-17 |
審決日 | 2018-05-01 |
出願番号 | 特願2015-256601(P2015-256601) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 河原 正 |
発明の名称 | 光学積層体 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |