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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03B
管理番号 1341447
審判番号 不服2017-4362  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-28 
確定日 2018-06-14 
事件の表示 特願2015-252855「照明光学系および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 57644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年7月6日に特許出願された特願2011-150077号の一部を分割して、平成27年12月25日に新たな特許出願として出願したしたものであって、その後の経緯は、以下のとおりである。

平成27年12月25日 手続補正書、上申書
平成28年 8月23日 拒絶理由通知(同年8月30日発送)
平成28年 9月29日 意見書・手続補正書
平成28年12月26日 拒絶査定(平成29年1月10日送達)
平成29年 3月28日 審判請求書
平成29年12月21日 拒絶理由通知(同年12月26日発送、
以下「当審拒絶理由通知」という。)
平成30年 2月23日 意見書・手続補正書

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成30年2月23日付け手続補正により補正された請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1は以下のとおりである。
「一方向に対して大きな発散角を有する複数の光源を、第1軸方向の発散角が大きくなるようにして、前記第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置するアレイ光源と、
前記アレイ光源から入射する光線を前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第1レンズを前記第1軸方向に並べて配置する第1のレンズアレイと、
前記第1のレンズアレイから入射する、前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限された光線を前記第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第2レンズを前記第2軸方向に並べて配置する第2のレンズアレイと、
前記第2のレンズアレイから入射する光線を重畳して被照射面に照射するインテグレータ光学系と、
を備える照明光学系。」(以下「本願発明」という。)

3 当審拒絶理由通知
当審拒絶理由通知で通知した拒絶理由の概要は、本件出願の特許請求の範囲の請求項1-10に係る発明は、その遡及出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その遡及出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



刊行物
特開平10-293545号公報(以下「引用文献1」という。)
特開2009-182353号公報(以下「引用文献2」という。)
特開2001-108940号公報(以下「引用文献3」という。)

4 引用発明等
(1)引用文献1
ア 本願の遡及出願前に公開され、当審拒絶理由通知で引用した引用文献1には、以下の記載がある(当審注:下線は、当審が付加した。以下、同様である。)。
(ア)請求項1の記載
「光源部と、光源部から出力された光束を画像情報に応じて変調し、光学像を形成する二次元光変調装置と、前記光学像をスクリーン面に投射する投射レンズとを備えた投射型表示装置において、
前記光源部が、
複数の半導体レーザー素子をマトリクス状に配置したレーザーアレイと、
前記レーザーアレイから出力される複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行化するコリメートレンズアレイと、
前記二次元光変調装置の画像表示面と平面形状が相似した複数個の単レンズ部を、前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第1のレンズ板と、
この第1のレンズ板の単レンズ部と同じ個数の単レンズ部を前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第2のレンズ板と、
前記二次元光変調装置の光入射側に配置したフィールドレンズとを備え、
前記第1のレンズ板に入射する複数のレーザー光束のうち少なくとも1本の光束が、前記第1のレンズ板の隣合う単レンズ部間にまたがって照射されるように構成されていることを特徴とする投射型表示装置。」

(イ)実施形態の記載
「【0033】図2は、青色半導体レーザー光源装置103の基本構成図で、まず、青色のレーザー光を発生する複数の半導体レーザー素子を同一面内にマトリクス状に配置した半導体レーザーアレイ201と、この半導体レーザーアレイ201の各半導体レーザーのそれぞれに対応してマトリクス状に配置した複数の凸レンズ部を有し、各半導体レーザー素子のそれぞれから出力される複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行光化するためのコリメートレンズアレイ202とを備え、これを光源部とする。
【0034】次に、この光源部から出力される光束の主軸に垂直な面内に、複数の凸レンズ部を配列させてなる第1のレンズ板203及び第2のレンズ板204と、単一の凸レンズ部からなる第3のレンズ205を用い、これらをフィールドレンズ123及び二次元光変調装置106に向かって順次配列してある。
【0035】これにより、まず半導体レーザーアレイ201から出力される複数のレーザー光は、コリメータレンズアレイ202によって、それぞれ個々に平行光束に変換された後、第1のレンズ板203に入射される。
【0036】これら第1のレンズ板203と第2のレンズ板204は、それぞれ同数同形の単レンズ部を有し、第1のレンズ板203の単レンズ部と第2のレンズ板204の単レンズ部をそれぞれ1対1に対応させ、これにより、第1のレンズ板203の対応する単レンズ近傍の像が、二次元光変調装置106の表示部に重畳して結像されるようにする。

【0044】次に、この実施形態における各レンズ板の構成について説明する。まず、図3は、第1のレンズ板203の正面形状を示したもので、この実施形態では、図示のように、4個の単レンズ部203a、203b、203c、203dを備え、且つこれらの単レンズ部203a?の平面形状は、例えば、アスペクト比4:3の矩形からなる二次元光変調装置106の表示部の形状と相似形に作られている。
【0045】そして、これにより、半導体レーザーアレイ201の各レーザー素子から出射され、コリメートレンズアレイ202により平行化されたレーザー光束の断面形状は、この第1のレンズ板203上では、図形301で示すように、楕円形になる。

【0073】ここで、以上に説明した2枚のレンズ板を有する光学系としては、露光機などに一般に使用されるインテグレーターが好適であり、詳細については、例えば特開平3-111806号公報に詳しい説明がある。」

(ウ)図2、図3は以下のとおりである。

イ 引用発明
上記ア(イ)【0073】の記載によれば、2枚のレンズ板を有する光学系としては、インテグレーターが好適である。そして、上記ア(ア)の請求項1に記載された投写型表示装置が備える光源部に着目すると、引用文献1には以下の発明が記載されている。
「複数の半導体レーザー素子をマトリクス状に配置したレーザーアレイと、
前記レーザーアレイから出力される複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行化するコリメートレンズアレイと、
二次元光変調装置の画像表示面と平面形状が相似した複数個の単レンズ部を、前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第1のレンズ板と、
この第1のレンズ板の単レンズ部と同じ個数の単レンズ部を前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第2のレンズ板と、
前記二次元光変調装置の光入射側に配置したフィールドレンズとを備え、
前記第1のレンズ板に入射する複数のレーザー光束のうち少なくとも1本の光束が、前記第1のレンズ板の隣合う単レンズ部間にまたがって照射されるように構成されている光源部であって、
前記第1、第2のレンズ板を有する光学系としては、インテグレーターが好適である、
光源部。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 本願の遡及出願前に公開され、当審拒絶理由通知で引用した引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)背景技術の記載
「【0002】
プロジェクタやレーザプリンタなどのレーザ光源を利用する各種の光学装置において、小型で消費電力が小さく、出力が安定なレーザ光源装置が要求されている。」

(イ)第1の実施形態の記載
「【0016】…半導体レーザアレイ等の励起光源1から出射された例えば横マルチモードのレーザ光は、コリメータレンズ2及び3によって平行光線化される。これらのコリメータレンズ2及び3は、例えば半導体レーザのファスト軸及びスロー軸の各方向の発散をコリメートするシリンドリカルレンズを組み合わせて構成される。コリメータレンズ2としてファスト軸方向にコリメートする非球面シリンドリカルレンズ、コリメータレンズ3としてスロー軸方向にコリメートし、半導体レーザアレイの発光素子12の配列ピッチ及び発散角に合わせた球面シリンドリカルレンズアレイより構成できる。図1A及びBにおいて、半導体レーザアレイ等の励起光源1における発光素子12の配列方向、すなわち横マルチモードとされる励起光の長手方向をY軸方向とし、励起光源1から出射される光の光路に沿う方向をX軸方向とする。横マルチモードとされる光の短軸方向がZ軸方向となる。この場合、コリメータレンズ2によってX-Z平面のレーザ光束が平行化され、コリメータレンズ3によってY-Z平面のレーザ光束が平行化される。
半導体レーザを用いる場合、X-Z平面内ではY-Z平面内に比べて大きな発散角をもつが、各面について別個のシリンドリカルレンズを用いるので、出射ビーム径をそれぞれ独立に制御して所望のビーム形状にすることができる。」

(ウ)図1は以下のとおりである。


イ 上記ア(ア)、(イ)の記載を踏まえて図1を見ると、引用文献2には、以下の技術手段が開示されている。
「半導体レーザアレイ等の励起光源から出射されたレーザ光を平行光線化する技術手段であって、
半導体レーザアレイ等の励起光源1における発光素子12の配列方向、すなわち励起光の長手方向をY軸方向とし、励起光源1から出射される光の光路に沿う方向をX軸方向とし、光の短軸方向をZ軸方向とした場合、
コリメータレンズ2としての非球面シリンドリカルレンズが、励起光源1から出射される光を、大きな発散角をもつX-Z平面でファスト軸方向にコリメートし、
その後、コリメータレンズ3としての球面シリンドリカルレンズアレイが、スロー軸方向にコリメートする、
技術手段。」(以下「引用文献2に開示された技術手段」という。)

5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)本願発明の「一方向に対して大きな発散角を有する複数の光源を、第1軸方向の発散角が大きくなるようにして、前記第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置するアレイ光源」と、引用発明の「複数の半導体レーザー素子をマトリクス状に配置したレーザーアレイ」を対比する。
引用発明の「半導体レーザー素子」は、本願発明の「光源」に相当し、引用発明の「レーザーアレイ」は、本願発明の「アレイ光源」に相当する。また、引用発明の「マトリクス状に配置」することは、本願発明の「第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置する」ことに相当する。
してみると、両者は、「複数の光源を、第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置するアレイ光源」の点で一致する。

(2)本願発明の「前記アレイ光源から入射する光線を前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第1レンズを前記第1軸方向に並べて配置する第1のレンズアレイと、前記第1のレンズアレイから入射する、前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限された光線を前記第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第2レンズを前記第2軸方向に並べて配置する第2のレンズアレイ」と、引用発明の「前記レーザーアレイから出力される複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行化するコリメートレンズアレイ」を対比する。
一般に、「半導体レーザー素子」が出力するレーザー光は、円錐状に拡がるビームである(例えば、引用文献1の図2参照。あるいは、安藤幸司著 「半導体レーザが一番わかる」 技術評論社 2011年6月25日 102頁1-4行参照。)。そうすると、引用発明において、レーザーアレイから出力されるレーザー光を平行化することは、第1軸方向と第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限することである。
してみると、両者は、「前記アレイ光源から入射する光線を、第1軸方向と第2軸方向の発散角が小さくなる方向方向に制限して出射するレンズアレイ」の点で一致する。

(3)本願発明の「前記第2のレンズアレイから入射する光線を重畳して被照射面に照射するインテグレータ光学系」と、引用発明の「前記二次元光変調装置の画像表示面と平面形状が相似した複数個の単レンズ部を、前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第1のレンズ板と、この第1のレンズ板の単レンズ部と同じ個数の単レンズ部を前記光源部から出力されるレーザー光束の主軸に垂直な面内に配置した第2のレンズ板」「を有する」「光学系」として「好適」な「光学系」である「インテグレーター」を対比する。
一般に、「インテグレーター」は、光源の持つビームのプロファイルや発光位置のばらつきによる揺らぎ要因を補正し、像面で均一な照度分布を達成するために挿入される素子である(例えば、岡崎信次他著 「はじめての半導体リソグラフィ技術」2006年10月15日 p71 10-12行参照。)ことを踏まえると、両者は、「レンズアレイから入射する光線を重畳して被照射面に照射するインテグレータ光学系」の点で一致する。

(4)本願発明の「照明光学系」と、引用発明の「光源部」を対比すると、両者は相当関係にある。

(5)以上によれば、本願発明と引用発明は、
「複数の光源を、第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置するアレイ光源と、
前記アレイ光源から入射する光線を、第1軸方向と第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射するレンズアレイと、
レンズアレイから入射する光線を重畳して被照射面に照射するインテグレータ光学系と、
を備える照明光学系。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明では、光源が「一方向に対して大きな発散角を有」し、複数の光源を、第1軸方向と前記第1軸方向と直交する第2軸方向との二次元アレイ状にして平面上に配置する際に「第1軸方向の発散角が大きくなるようにして」配置するのに対し、引用発明では、そのようなものなのか否か明らかでない点。

相違点2:「前記アレイ光源から入射する光線を、第1軸方向と第2軸方向の発散角が小さくなる方向方向に制限して出射するレンズアレイ」であって、「インテグレータ光学系」に「光線」を「入射する」「レンズアレイ」に関し、本願発明では、「前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第1レンズを前記第1軸方向に並べて配置する第1のレンズアレイと、前記第1のレンズアレイから入射する、前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限された光線を前記第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第2レンズを前記第2軸方向に並べて配置する第2のレンズアレイ」であるのに対し、引用発明では、「複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行化するコリメートレンズアレイ」である点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 一般に、半導体レーザ素子は、
(ア)半導体レーザ素子の出口のスポット形状が、横長の楕円形状であること、
(イ)半導体レーザの層方向(横方向)に平行に拡がる角度と、それに垂直な角度は相違し、通常の半導体レーザで層方向(横方向)に平行に拡がる角度は8°、それに垂直な角度は30°であること、
(ウ)半導体レーザの出口から数cm以上離れた位置でのスポット形状は縦長の楕円形状であること、
は、いずれも技術常識である(例えば、安藤幸司著 「半導体レーザが一番わかる」 技術評論社 2011年6月25日 102-103頁参照。)。

イ 上記技術常識を踏まえて検討する。引用発明は「半導体レーザー素子」を備えているところ、上記ア(イ)の技術常識によれば、半導体レーザの層方向(横方向)に平行に拡がる角度と、それに垂直な角度(縦方向に拡がる角度)は相違する。してみると、引用発明の「半導体レーザー素子」は、一方向に対して大きな「拡がる角度」を有していると言える。

ウ そして、上記4(1)ア(イ)【0045】の記載を踏まえて図3を見ると、平行化されたレーザー光束の第1のレンズ板203上の断面形状は横長の楕円形状であり、その長軸と短軸はそれぞれ同じ方向に、マトリクス状に並んでいることが看て取れる。そうすると、各半導体レーザーは、「拡がる角度」が大きい方向が、同じ方向になるように配置されていると言える。

エ してみると、引用発明は、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を実質的に備えているから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
発散角を有する光ビーム(例えば、半導体レーザからの光ビーム)を発散角が小さくなる方向方向に制限する(例えば、平行化する)技術手段として、個別に平行化する(凸レンズを有する)コリメートレンズを用いる技術手段(例えば、引用文献1の【0033】参照。)と、シリンドリカルレンズを用いて大きな発散角を持つ平面の光束をファスト軸方向にコリメート化し、その後、スロー軸方向にコリメート化する技術手段(「引用文献2に開示された技術手段」を参照。)は、いずれも周知の技術手段である。ここで、引用文献2に開示された技術手段の「励起光源1から出射される光を、大きな発散角をもつX-Z平面でファスト軸方向にコリメート」する「コリメータレンズ2としての非球面シリンドリカルレンズ」は本願発明の「前記第1軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する」「第1レンズ」に相当し、引用文献2に開示された技術手段の「スロー軸方向にコリメートする」「コリメータレンズ3としての球面シリンドリカルレンズアレイ」は本願発明の「前記第2軸方向の発散角が小さくなる方向に制限して出射する複数の第2レンズを前記第2軸方向に並べて配置する第2のレンズアレイ」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用発明の個別に平行化するコリメートレンズを用いる技術手段に代えて引用文献2に開示された技術手段を用いることは、当業者が適宜なし得ることであり、引用発明の「レーザーアレイ」は、「複数の半導体レーザー素子をマトリクス状に配置した」ものであるから、引用文献2に開示された技術手段を用いる際に、「コリメータレンズ2としての非球面シリンドリカルレンズ」を非球面シリンドリカルレンズアレイとすることに困難性はない。
したがって、引用発明の「複数のレーザー光をそれぞれ個別に平行化するコリメートレンズアレイ」に代えて引用文献2に開示された技術手段を用い、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

(3)作用効果について
本願発明が奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に開示された技術手段と技術常識に基づいて、当業者が容易に予測しうる程度のものであり、格別顕著なものとは認められない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、平成30年2月23日付け意見書において、
(ア)当業者による技術的理解によれば、ファスト軸方向とスロー軸方向とは、発散角の大きさによって規定される第1軸方向と第2軸方向とに関係しない、
(イ)引用文献2は、「コリメータレンズ2によってX-Z平面のレーザ光束が平行化され」を開示するが、図1を参照してX-Z平面(図1正面視の平面)を特定したときに、コリメータレンズ2がいずれの方向においてレーザ光束を平行化しているのか理解できない、
(ウ)引用文献2に記載のX-Z平面と請求項1に記載の第1軸方向とが同一であるとは認められない、
旨主張するので、以下検討する。

イ 上記ア(ア)について
引用文献2には、「【0016】…コリメータレンズ2としてファスト軸方向にコリメートする非球面シリンドリカルレンズ、…。…コリメータレンズ2によってX-Z平面のレーザ光束が平行化され、コリメータレンズ3によってY-Z平面のレーザ光束が平行化される。 半導体レーザを用いる場合、X-Z平面内ではY-Z平面内に比べて大きな発散角をもつ…。」との記載があり、図1によれば、励起光源1から出射したレーザ光は、コリメータレンズ2に入射し、その後、コリメータレンズ3に入射することが看て取れる。
以上によれば、引用文献2には、コリメータレンズ2は、励起光源1から出射したレーザ光が入射するレンズであり、大きな発散角を持つX-Z平面のレーザ光束を平行化する(言い換えると、ファスト軸方向に平行化する)ことが開示されている。してみると、引用文献2には、ファスト軸と発散角の大きさが関係づけられているから、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 上記ア(イ)について
図1Bは、励起光源1から出射される光の光路に沿う方向であるX軸と、励起光源1から出射される光の短軸方向であるZ軸方向を含む平面構成図であり、図1Bによれば、コリメータレンズ2は、励起光源1から出射した発散光であるレーザ光を平行化していることが看て取れる。
してみると、「コリメータレンズ2がいずれの方向においてレーザ光束を平行化しているのか理解できない」との請求人の上記主張は採用できない。

エ 上記ア(ウ)について
請求人の主張は、「平面」と「方向」を比較することを前提とする主張であり、その趣旨は必ずしも明確ではない。以下では、X-Z平面のレーザ光束が発散する方向が第1軸方向と同じではない旨の主張と解して検討する。
上記イで検討したとおり、引用文献2において、X-Z平面のレーザ光束が大きな発散角を持つところ、光路に沿う方向がX軸方向であるから、Z軸方向に大きく発散しているものと認められる。そして、本願発明の「第1軸方向」は、発散角が大きくなる方向であるから、X-Z平面のレーザ光束が発散する方向は、第1軸方向と同じであると認められる。よって、請求人の主張は採用できない。

オ 付記
以上のとおり、請求人の主張は引用文献2の記載に基づき採用できないが、半導体レーザが出射する光を利用する技術分野における技術常識に照らしても採用することができないことを、以下に付記する。
一般に、半導体レーザが出射する光は、ファスト軸方向の発散角がスロー軸方向の発散角よりも大きいこと、そして、該光を集束(平行光化)する際、まず、発散角が大きいファスト軸方向に集束(平行光化)することは、例えば、特開2000-19362号公報【0010】、特開平10-261825号公報【0012】?【0014】に記載されるよう、技術常識ともいえる事項である。
引用文献2には、請求人が、平成30年2月23日付け意見書(4)に記載するとおり、「引用文献2に記載のコリメータレンズ2は、ファスト軸方向にコリメートするレンズであることを開示…」する。ここで、ファスト軸方向の発散角がスロー軸方向の発散角よりも大きい旨の上記技術常識を踏まえれば、引用文献2のコリメータレンズ2は、発散角が大きいファスト軸方向の発散角を小さくなるようにコリメートするものと解される。してみると、「引用文献2は、…発散角の小さな第2軸方向の光を先にコリメータレンズ2で平行光化し、…する技術を開示しているものと思料いたします」との請求人の主張(平成30年2月23日付け意見書(4)参照。)は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に開示された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-26 
出願番号 特願2015-252855(P2015-252855)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 浩樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 小松 徹三
松川 直樹
発明の名称 照明光学系および画像表示装置  
代理人 服部 毅巖  

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