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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1341461
審判番号 不服2017-3229  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-03 
確定日 2018-07-03 
事件の表示 特願2015-217748「熱可塑性樹脂フィルム原反」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日出願公開、特開2016- 29503、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成19年9月28日に出願した特願2007-256818号の一部を、平成23年12月28日に新たな特許出願である特願2011-288013号とし、さらに、その一部を平成25年7月2日に新たな特許出願である特願2013-138904号とし、さらに、その一部を平成26年9月24日に新たな特許出願である特願2014-193658号とし、さらに、その一部を平成27年11月5日に新たな特許出願としたものである。
そして、平成27年12月2日に手続補正がされ、平成28年9月15日付けで拒絶理由が通知され、同年11月24日に意見書の提出とともに手続補正がされ、同年12月9日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。
その後、当審において、平成30年2月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、これに対し、同年5月1日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がされた。


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
本件出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献A?Dに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A:特開平9-143352号公報
引用文献B:特開2006-96960号公報(周知技術を示す文献)
引用文献C:特開2005-22766号公報(周知技術を示す文献)
引用文献D:特開2000-1246号公報 (周知技術を示す文献)


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

理由1(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
本件出願の請求項1?6に係る発明は、いずれも、フィルム幅や巻き取り時の張力などの条件を特定しておらず、巻芯及びフィルムにかかる荷重を直接特定するものでもない。弾性率が2/3となる10GPaである場合や、フィルムの膜厚が1/4となる10μmや、長さが約1/8となる500mである場合でも課題が解決できるとする根拠を見いだすことができない。

理由2(進歩性)
本件出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2007-127892号公報
引用文献2:特開平9-272148号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平9-143352号公報(周知技術を示す文献・原査定の引用文献A)
引用文献4:特開2006-96960号公報(原査定の引用文献B)
引用文献5:特開2005-22766号公報(原査定の引用文献C)


第4 本件発明
本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
1枚以上の保護フィルムと偏光子とを有する偏光板における保護フィルムに用いられ、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルム原反であって、
前記熱可塑性樹脂フィルム中における前記ラクトン環含有重合体の含有割合が90?100質量%であり、
弾性率10?15GPaの巻芯に巻き回してなり、
前記巻芯に巻き取られるフィルム長が500m以上であり、前記熱可塑性樹脂フィルムの膜厚が10μm?40μmであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂フィルム中における前記ラクトン環含有重合体以外の重合体の含有割合が0?10質量%である請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂フィルムがさらに芳香族ビニル系単量体単位を有する共重合体を含有する請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項4】
前記芳香族ビニル系単量体単位を有する共重合体が、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを有する共重合体である請求項3に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルム原反のフィルムの引張強度が30MPa以上100MPa未満である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項6】
前記巻芯が、両端部の円周長の平均よりも中央部の円周長が、1.0mm?3.0mmの範囲で長い巻芯である、請求項1?5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。
【請求項7】
フィルム幅が1350mm以上である、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム原反。」(以下、請求項1?7に係る発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)


第5 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1
(1)引用文献の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本件出願前の平成19年5月24日に頒布された引用文献1(特開2007-127892号公報)には、以下の記載事項がある(下線は合議体が付与した。以下同様。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の少なくとも片面に、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムが、ポリアルキレンイミンおよび架橋剤を配合した接着剤で貼合されていることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記ラクトン環含有重合体が、下記式(1):
【化1】

[式中、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造を有する請求項1記載の偏光板。
【請求項3】
前記ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンおよび/またはその誘導体である請求項1または2記載の偏光板。
【請求項4】
前記架橋剤がエポキシ系架橋剤および/またはイソシアネート系架橋剤である請求項1?3のいずれか1項記載の偏光板。
【請求項5】
前記接着剤がポリビニルアルコール系樹脂を含有する請求項1?4のいずれか1項記載の偏光板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子に保護フィルムを接着剤で貼合してなる偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置(以下「LCD」ということがある。)は、主としてパソコンやテレビなどの屋内で使用する電子機器に幅広く用いられてきたが、最近では、カーナビゲーションシステムや携帯情報端末のように屋外で使用する電子機器に用いられることも多くなってきた。そこで、LCDは、高い表示特性に加えて、高温多湿などの過酷な雰囲気下における信頼性が強く求められている。
【0003】
一般に、LCDには、それを構成する部品として、偏光板が必要不可欠であり、偏光板は、透明電極を形成する2枚の電極基板間に液晶を封入した液晶セルの両面または片面に貼合して用いられる。偏光板は、偏光機能を有する偏光子の両面に保護フィルムが接着剤で貼合された積層構造を有する。偏光子の素材としては、主にポリビニルアルコール(以下「PVA」ということがある。)が使用され、例えば、PVAフィルムを一軸延伸してからヨウ素または二色性染料で染色するか、あるいは染色してから延伸し、さらにホウ素化合物で架橋することにより、偏光子が製造される。
【0004】
ところで、PVAフィルムは、透過軸方向に対する機械的強度が弱く、熱や湿気によって収縮することや、偏光機能が低下することがあるので、通常、PVAフィルムには、その両面に保護フィルムが貼合されている。一般に、保護フィルムは、複屈折性がなく、光線透過率が高く、耐熱性や耐湿性が良好で、機械的強度が高く、温度や湿度の変化による収縮率が小さく、表面が平滑で、解像度が高く、接着剤との相性が良好であり、外観に優れている、などの様々な性能が要求される。このような要求を満足する保護フィルムとして、現在のところ、複屈折性が低く、外観が良好であることから、トリアセチルセルロース(以下「TAC」ということがある。)の溶液流延フィルムが主に使用されている。通常、TACからなる保護フィルムは、PVAからなる偏光子の両面に水溶性の接着剤で貼合される。
【0005】
しかし、TACフィルムは防湿性が不充分であり、高温多湿の環境下、例えば、80℃、90RH%の雰囲気下では、PVAからなる偏光子が100時間程度で劣化し、偏光機能が低下してしまう。また、TACフィルムは、ガスバリヤー性も不充分であり、透過した酸素によって、ヨウ素または二色性染料が変質しやすいという問題がある。また、TACフィルムには、製膜性を付与するために可塑剤が添加されているので、耐熱性が充分ではないという問題もある。さらに、厚さ40μm以下のTACフィルムは、強度や耐久性が低いので、例えば、厚さ80μmのTACフィルムを使用する必要があり、偏光板の薄型化を阻害する一因となっている。

(中略)

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、偏光子に保護フィルムを接着剤で貼合してなる偏光板において、偏光子と保護フィルムとの接着強度が高く、優れた耐湿熱性を有する偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討の結果、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムを保護フィルムとして使用し、ポリエチレンイミンおよび架橋剤を配合した接着剤で偏光子に貼合すれば、優れた光学的特性に加えて、偏光子と保護フィルムとの接着強度が高く、優れた耐湿熱性を有する偏光板が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、PVA系偏光子の少なくとも片面にラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムがポリアルキレンイミンおよび架橋剤を配合した接着剤で貼合されていることを特徴とする偏光板を提供する。

(中略)

【発明の効果】
【0015】
本発明の偏光板は、優れた光学的特性に加えて、偏光子と保護フィルムとの接着強度が高く、優れた耐湿熱性を有するので、高温多湿などの苛酷な環境下に長期間放置しても、偏光子と保護フィルムが剥離しにくい。それゆえ、TACフィルムを保護フィルムとして使用した従来の偏光板の問題点を解決することができる。」

ウ 「【0018】
≪保護フィルム≫
本発明の偏光板において、偏光子には、その少なくとも片面に、保護フィルムとして、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムが貼合されている。

(中略)

【0086】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。

(中略)

【0092】
熱可塑性樹脂フィルムにおけるラクトン環含有重合体の含有割合は、好ましくは50?100質量%、より好ましくは60?100質量%、さらに好ましくは70?100質量%、特に好ましくは80?100質量%である。熱可塑性樹脂フィルム中のラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できないことがある。
【0093】
ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムには、その他の成分として、ラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
【0094】
熱可塑性樹脂フィルムにおけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0?50質量%、より好ましくは0?40質量%、さらに好ましくは0?30質量%、特に好ましくは0?20質量%である。

(中略)

【0097】
ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、従来公知の混合方法で充分に混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、これをフィルム成形することができる。あるいは、ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、それぞれ別々の溶液にしてから混合して均一な混合液とした後、フィルム成形してもよい。
【0098】
まず、熱可塑性樹脂組成物を製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記のフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0099】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。

(中略)

【0102】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150?350℃、より好ましくは200?300℃である。
【0103】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。

(中略)

【0109】
ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その厚さが好ましくは5?200μm、より好ましくは10?100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、偏光板の耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。」

エ 「【0155】
次に、保護フィルム、偏光子、接着剤の製造例について説明する。
【0156】
<保護フィルム>
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、10,000gの4-メチル-2-ペンタノン(メチルイソブチルケトン、MIBK)、5gのn-ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として5.0gのt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC-7、化薬アクゾ(株)製)を添加すると同時に、10.0gのt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートと230gのMIBKからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下、約105?120℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0157】
得られた重合体溶液に、30gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A-18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90?120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3?400hPa(10?300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出し機内で、さらに環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。

(中略)

【0159】
得られたペレットと、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂(トーヨーAS AS20、東洋スチレン(株)製)とを、質量比90/10で、単軸押出機(スクリュー30mmφ)を用いて混練押出することにより、透明なペレットを得た。得られたペレットのガラス転移温度は127℃であった。
【0160】
このペレットを、50mmφ単軸押出機を用い、400mm幅のコートハンガータイプTダイから溶融押出し、厚さ80μmのフィルムを作製した、このフィルムの光学特性を測定したところ、全光線透過率が93.16%、面内の位相差Δndが0.67nm、厚さ方向の位相差Rthが0.53nmであった。保護フィルムとしては、このフィルム(以下「保護フィルムA」ということがある。)を用いた。」

(2)引用文献に記載された発明
引用文献1の記載事項ウに基づけば、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「偏光子の少なくとも片面に貼合される保護フィルムとして用いられるラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムであって、熱可塑性樹脂フィルムにおけるラクトン環含有重合体の含有割合が80?100質量%であり、スチレン-アクリロニトリル共重合体などのラクトン環含有重合体以外の重合体の含有割合が0?20質量%であり、その厚さが10?100μmである、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って得た、ロール状のフィルム。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用され、本件出願前の平成9年10月21日に頒布された引用文献2(特開平9-272148号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【0015】前記のようなポリエステルフイルムをロール状に巻取る方法として、センターワインド方式とサーフェースワインド方式があるが、本発明のロールを得るためにはそのどちらの方式を選んでもよいが、巻取時の接圧が制御できるサーフェースワインド方式の方が好ましい。巻取条件も特に限定されないが、下記のような条件が一般的に用いられている。すなわち、巻取張力8?12Kg/m、巻取接圧30?60Kg/m、巻取速度100?200m/分とするとフイルムロールの外観、特に縦しわや横しわなどを防止する点で好ましい。特に、幅1m、長さ10、000mのフイルムを巻取る場合には、巻取張力10?12Kg/m、巻取接圧40?60Kg/m、巻取速度130?180m/分の範囲にすることが経時的に発生するしわを防止する点で好ましい。
【0016】本発明のポリエステルフイルムを製造する方法として、ロール状に巻き取り熱処理を施すことがフイルム平面性の悪化を防ぐのに有効であるが、熱処理条件として、熱処理温度は40℃から65℃で行なうことが好ましく、さらに好ましくは45℃から60℃である。熱処理温度が65℃より高い条件で熱処理を行うとフイルムの平面性が悪化する場合がある。また、40℃より低い条件で熱処理を行うとフイルムの80℃における長手方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。熱処理時の湿度は30%以下であることが好ましく、さらに好ましくは25%以下である。熱処理時の湿度が30%を越えた環境で熱処理を行うとフイルム-フイルムの密着が起こる、いわゆるブロッキング現象が起こる場合がある。
【0017】また、ポリエステルフイルムをロール状に巻き取り熱処理を施す際に、コア材として繊維強化プラスチック、アルミ、鉄などを用いることができるが、なかでも繊維強化プラスチックコアを用いて行うと、熱処理による巻き締まり、特にコア近傍での巻き締まりによるしわの発生が防止できる点で好ましい。
【0018】また、前記コア材の熱膨張係数は3×10^(-5)/℃以下であることが、フイルムロールの熱処理を行う際のコアの変形がコア近傍のフイルムに転写し、しわが発生することを防止する点で好ましく、さらに好ましくは1×10^(-5)/℃以下である。コア材の熱膨張係数をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、例えばコアの製造過程での成型温度、成型時間、アニール処理温度、アニール処理時間などを適宜調整することによって所望の値を達成できる。
【0019】また、前記コア材の軸方向曲げ強度は190MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは210MPa以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用するとフイルムを巻取り時にかかる張力と接圧により巻取コアが変形してしまうことがある。また、コア材の軸方向弾性率も9.8GPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは14.7GPa以上である。かかる範囲に満たないコア材を使用すると前記同様に巻取コアが変形してしまうことがある。巻取コアの強度をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、例えば繊維強化プラスチックコアの基材中の炭素繊維糸の量を適宜選ぶことなどにより調節でき、また基材の厚みを調節することによっても所望の強度が得られる。」

(2)「【0033】実施例1
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールとを、エステル交換触媒として酢酸カルシウム、重合触媒として三酸化アンチモンを、安定剤としてリン酸を用いて常法により重合した。重合時、滑剤として平均粒径0.3μmの水ガラス法で合成した球状シリカ粒子を0.3重量%となるように添加して、固有粘度0.620のポリエチレンテレフタレートを得た(ポリエステルA)。
【0034】前記ポリエステルAを乾燥させ、押出機に供給し、280℃で溶融しスリットダイより冷却ロール上にキャストし、急冷固化させて厚さ210μmの無定形フイルムを得た。
【0035】次いで、これを115℃で縦方向に3.4倍、95℃横方向に3.4倍に延伸し、再度135℃で縦方向に1.7倍に延伸し、再度205℃で幅方向に1.2倍に延伸し、その後210℃で2秒間熱処理し、厚さ9μmの二軸配向フイルム原反を得た。このフイルム原反を長さが1200mm、熱膨張係数が1.4×10^(-5)/℃、軸方向曲げ強度が210MPa、軸方向弾性率が14.7GPa、表面粗度(Ra)が0.2μm、表面硬度が85°ショアの繊維強化プラスチック(FWP)コア(天龍工業(株)製FWP-10)にサーフェースセンターワインド方式のスリッタにより幅1m、長さ10,000mのフイルムロールに巻取張力10Kg/m、巻取接圧50Kg/m、巻取速度150m/分で巻上げた。」

3 引用文献3
当審拒絶理由及び原査定に引用され、本件出願前の平成9年6月3日に頒布された引用文献3(特開平9-143352号公報)には、以下の記載がある。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 フイルムと巻取コアとを有するフイルムロールにおいて、フイルムの湿度膨張係数(β_(T) )が9×10^(-6)/%RH以下、巻取コアの表面粗さ(Ra)が0.6μm以下であるフイルムロール。
【請求項2】 前記巻取コアの表面硬度が65°ショア以上である請求項1に記載のフイルムロール。
【請求項3】 前記フイルムロールにおいて、フイルム厚さが20μm以下であって、かつフイルム層間空隙率が3%以下である請求項1または2に記載のフイルムロール。
【請求項4】 前記フイルムの少なくとも片面の3次元表面粗さ(SRa)が0.02μm以下である請求項1?3のいずれかに記載のフイルムロール。
【請求項5】 前記フイルムの熱膨脹係数(α_(T) )が6×10^(-6)/℃以下である請求項1?4のいずれかに記載のフイルムロール。
【請求項6】 前記フイルムがポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂よりなる群から選ばれた1種である請求項1?5のいずれかに記載のフイルムロール。
【請求項7】 前記ポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート、エチレン2,6ナフタレート、およびエチレンα,β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボキシレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種を主要な構造単位とする樹脂である請求項6に記載のフイルムロール。
【請求項8】 前記巻取コアの軸方向弾性率(Ya)が1000 kg/mm^(2) 以上である請求項1?7のいずれかに記載のフイルムロール。
【請求項9】 前記巻取コアの円周方向弾性率(Yr)が1000 kg/mm^(2) 以上である請求項1?8のいずれかに記載のフイルムロール。
【請求項10】 前記巻取コアが繊維強化プラスチックを基材とするコアである請求項1?9のいずれかに記載のフイルムロール。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はフイルムを巻取って形成したフイルムロールに関するものである。さらに詳しくは、フイルムと巻取コアとを有するフイルムロールにおいて、フイルムの湿度膨張係数(β_(T) )が9×10^(-6)/%RH以下、巻取コアの表面粗さ(Ra)が0.6μm以下であるフイルムロールとすることによって、湿度変化による巻取コア近傍のフイルムの平面性不良の発生を防止することができるフイルムロールに関する。

(中略)

【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記従来のフイルムロールは経時的に発生するしわやコアの凹凸がフイルム表面へ転写されるのを防止する技術であるが、フイルムの流通過程では、フイルムはロール状で様々な環境下に置かれる。特に湿度の変化によりフイルムの膨脹または収縮が生じ、その変形量がフイルム-フイルム層間に介在する空気層で吸収できる量を越してしまうとその歪み量がフイルムの平面性不良を引き起こす。この現象は、巻取コアの近傍で特に顕著に発生する。このため後工程でのフイルム加工にそのフイルムロールが使用できなくなることもあった。例えば、フイルムの平坦性が厳しく要求される磁気記録媒体用ベースフイルムとして、「花びら」の生じたフイルムロールを使用すると、磁気テープ製造過程でフイルム端部に発生する波形の変形は磁性層の塗布時にフイルムのばたつきを生じさせ、塗布むらを発生させてしまう。また、塗布ダイの端部にフイルムが接触することにより塗布ダイの端部に削れ粉が発生する。また、コンデンサー用フイルムとして使用すると積層体に歪みが生じ電気特性を著しく悪化させるなど様々な問題点があった。

(中略)

【0007】本発明はかかる課題を解決し、巻取コアの近傍のフイルムの平面性不良が生じにくいフイルムロールを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記、本発明の目的は、フイルムと巻取コアとを有するフイルムロールにおいて、フイルムの湿度膨張係数(β_(T) )が9×10^(-6)/%RH以下、巻取コアの表面粗さ(Ra)が0.6μm以下であるフイルムロールによって達成される。」

(3)「【0011】本発明における巻取コアは、その表面硬度が65°ショア以上であることが好ましく、さらに好ましくは70°ショア以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用するとフイルムの巻取り時にかかる張力と接圧により巻取コアの表面が変形し、その変形がフイルムへ転写し、平面性不良を生じさせることがある。巻取コアの表面硬度をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、例えばコア表面にエポキシ樹脂などの固い樹脂を用い、その厚みなどを適宜選ぶことにより調整できる。
【0012】また、巻取コアの軸方向弾性率(Ya)は1000 kg/mm^(2) 以上であることが好ましく、さらに好ましくは1500 kg/mm^(2) 以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用するとフイルムを巻取り時にかかる張力と接圧により巻取コアが変形してしまうことがある。また、巻取コアの円周方向弾性率(Yr)も1000 kg/mm^(2) 以上であることが好ましく、さらに好ましくは1500 kg/mm^(2) 以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用すると前記同様に巻取コアが変形してしまうことがある。巻取コアの上記各弾性率をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、例えば炭素繊維強化プラスチックコアの場合には、基材中の炭素繊維糸の量を適宜選ぶことなどにより調節でき、また基材の厚みを調節することによっても所望の強度が得られる。」

(4)「【0014】本発明におけるフイルム厚さは、特に限定されないが20μm以下のもので本発明の効果がより顕著に認められる。」

(5)「【0036】実施例1および2
添加剤として平均粒径0.3μmおよび0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合体架橋粒子をそれぞれ0.15重量%および0.01重量%含有するポリエチレンテレフタレートを調製し、押出機より溶融押出しして、スリットダイを介し冷却ロール上にキャストして未延伸シートを得た。この未延伸フイルムを100℃で長手方向に3.5倍延伸した。この一軸延伸フイルムをテンタを用いて長手方向延伸と同じ温度で幅方向に4.2倍延伸した後、更に長手方向に150℃で1.5倍延伸した後、定長下で180℃にて5秒間熱処理し、フイルム厚みが4μm、フイルム表面粗さ(SRa)が0.011μm、フイルムの湿度膨脹係数が7×10^(-6)/%RHのフイルム原反を得た。このフイルム原反を繊維強化プラスチック(FWP)コアAおよびコアB(天龍工業(株)製FWP-201およびFWP-01)にサーフェースセンターワインド方式のスリッタを用いて幅1m、長さ10、000mのフイルムロールに巻取張力10Kg/m、巻取接圧50Kg/m、巻取速度150m/分で巻上げた。
【0037】実施例3
添加剤として平均粒径0.2μmのコロイダルシリカ粒子0.3重量%および平均粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子0.01重量%を含有するポリエチレン2、6-ナフタレートを調製し、押出機より溶融押出しして、スリットダイを介し冷却ロール上にキャストして未延伸シートを得た。この未延伸フイルムを135℃で長手方向に4.1倍延伸した。この一軸延伸フイルムをテンタを用いて115℃で幅方向に4.5倍延伸した後、更に長手方向に150℃で1.2倍延伸した後、定長下で180℃にて5秒間熱処理し、フイルム厚みが4μm、フイルム表面粗さ(SRa)が0.008μm、フイルムの湿度膨脹係数が9×10^(-6)/%RHのフイルム原反を得た。このフイルム原反を繊維強化プラスチック(FWP)コアC(天龍工業(株)製FWP-02)に実施例1と同1条件でスリットし、フイルムロールを得た。」

(6)「【0044】本発明の要件を満たす実施例1?3のフイルムロールは、表1にまとめたように湿度変化による「花びら」の発生が小さく、フイルムを走行させてもばたつきの発生がなかった。これに対し比較例1?4のフイルムロールは、本発明の要件を満たさない例であるが、湿度変化による「花びら」の発生が大きく、フイルムを走行させた際のばたつきが生じ、削れ粉の発生があった。
【0045】
【表1】



4 引用文献4
当審拒絶理由及び原査定に引用され、本件出願前の平成18年4月13日に頒布された引用文献4(特開2006-96960号公報)には、以下の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用保護フィルム、光学フィルム、光学シートなどの光学用途に好適な、ラクトン環含有重合体を主成分として含む光学用面状熱可塑性樹脂成形体に関する。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔ラクトン環含有重合体〕
本発明にかかる光学用面状熱可塑性樹脂成形体は、ラクトン環含有重合体を主成分として含む。
ラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1?20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。)
ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5?90重量%、より好ましくは10?70重量%、さらに好ましくは10?60重量%、特に好ましくは10?50重量%である。ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が90重量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなることがあり、好ましくない。」

(3)「【0054】
光学用面状熱可塑性樹脂成形体中のラクトン環含有重合体の含有割合は、好ましくは50?100重量%、より好ましくは60?100重量%、さらに好ましくは70?100重量%、特に好ましくは80?100重量%である。光学用面状熱可塑性樹脂成形体中のラクトン環含有重合体の含有割合が50重量%よりも少ないと、本発明の効果を十分に発揮できないおそれがある。
本発明にかかる光学用面状熱可塑性樹脂成形体は、ラクトン環含有重合体以外の重合体(その他の重合体)を含んでいてもよい。
その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。」

(4)「【0058】
本発明にかかる光学用面状熱可塑性樹脂成形体は、ASTM-D-882-61Tに基づいて測定した引張強度が10MPa以上100MPa未満であることが好ましく、より好ましくは30MPa以上100MPa未満である。10MPa未満の場合には、十分な機械的強度を発現できなくなるおそれがあるため好ましくない。100MPaを超えると、加工性が悪くなるため好ましくない。
本発明にかかる光学用面状熱可塑性樹脂成形体は、ASTM-D-882-61Tに基づいて測定した伸び率が1%以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、通常は100%以下が好ましい。1%未満の場合には、靭性に欠けるため好ましくない。」

5 引用文献5
当審拒絶理由及び原査定に引用され、本件出願前の平成17年1月27日に頒布された引用文献5(特開2005-22766号公報)には、以下の記載がある。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学用途に利用される光学フィルム(以下、単にフィルムともいう)原反及びその保存方法、輸送方法に関するものであり、特に液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム又有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム原反及びその保存方法、輸送方法に関するものである。」

(2)「【0038】
本発明においては、また、これらの幅広、かつ薄膜のセルロースエステルフィルムを巻芯に巻き取りフィルム原反とする場合、前記フィルム両端のエンボス加工に加え、セルロースエステルフィルム原反の巻芯の巻芯両端部の円周長の平均よりも中央部の円周長の方が、0.5mm以上10mm以下の範囲で長くすることが好ましく、1.0mm以上5.0mm以下がさらに好ましく、1.0mm以上3.0mm以下が最も好ましい。より長い方が前記馬の背故障を軽減する効果が大きく、短い方は、巻芯にフィルムを巻始めた初期のシワ発生が少ない。」


第6 当審拒絶理由の理由2(進歩性)についての判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム」は、「偏光子の少なくとも片面に貼合される保護フィルムとして用いられる」ものであって「ラクトン環含有重合体を主成分とする」ものである。したがって、引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム」は、本件発明1の「1枚以上の保護フィルムと偏光子とを有する偏光板における保護フィルムに用いられ、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルム原反」に相当する。

イ したがって、本件発明1と引用発明とは、
「1枚以上の保護フィルムと偏光子とを有する偏光板における保護フィルムに用いられ、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂フィルム原反。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]熱可塑性樹脂フィルム中におけるラクトン環含有重合体の含有割合が、本件発明1では、90?100質量%であるのに対し、引用発明では、80?100質量%である点。
[相違点2]フィルムを巻き回すに際し、本件発明1では、弾性率10?15GPaの巻芯に巻き回してなるのに対し、引用発明はフィルムを巻き回す際の軸芯を特定していない点。
[相違点3]フィルム長が、本件発明1では、500m以上であるのに対し、引用発明では、フィルム長を特定していない点。
[相違点4]熱可塑性樹脂フィルムの膜厚が、本件発明1では、10μm?40μmであるのに対し、引用発明では、10?100μmである点。

(2)判断
事案に鑑みて、[相違点2]及び[相違点3]について検討する。
引用文献2には、記載事項(1)に「コア材の軸方向弾性率も9.8GPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは14.7GPa以上である。かかる範囲に満たないコア材を使用すると前記同様に巻取コアが変形してしまうことがある。」との記載があり、引用文献3には、記載事項(3)に「巻取コアの軸方向弾性率(Ya)は1000 kg/mm^(2) 以上であることが好ましく、さらに好ましくは1500 kg/mm^(2) 以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用するとフイルムを巻取り時にかかる張力と接圧により巻取コアが変形してしまうことがある。」との記載がある。上記記載事項に基づけば、フィルムロールの巻芯において、軸方向の剛性を高めること、すなわち、軸方向弾性率を9.8GPa以上、又は14.7GPa以上とすることにより、フィルムの巻き取り時における巻芯の変形を防ぐことが技術常識であったといえる。また、引用文献2には、記載事項(2)に、実施例として長さ10,000mのフィルムロールとしたことが記載されており、引用文献3にも、記載事項(5)に、長さ10.000mのフィルムロールとしたことが記載されている。上記記載に基づけば、500m以上の長さのフィルムをロールとして用いることも従来から知られていたといえる。
一方、本件発明1は、巻芯の弾性率の上限を15GPaとし、下限を10GPaとするものであって、本件明細書の段落【0008】の記載に基づけば、「熱可塑性樹脂フィルムを長期間にわたって保存しても、熱可塑性樹脂フィルム原反の面状故障が起こりにくく」なるという効果を奏するというものであり、段落【0025】の記載に基づけば、フィルム長が500m以上である場合に、より効果が優位であるといえる。そして、本件明細書には、実施例として、弾性率が本件発明1の上限値を超える50GPaとされる比較巻き芯-A1を厚さ40μm、幅1450mm、長さ4100mの未延伸ロールを巻芯に巻き取って30日間保存したところ、弾性率が15GPaである軸芯に巻き取った同じ条件のフィルム原反と比較して面状故障の個数が増加していること、弾性率が本件発明1の上限値を超える巻芯A-1及び比較巻芯-A1では、面状故障の個数が、ロールからフィルムを巻きなおした際の、外側からの長さが長い位置のサンプルほど増加しており、弾性率が上限値を超えないものとは異なるふるまいをすること(段落【0176】?【0192】)が示されており、フィルム長が長いフィルムロールの巻芯の弾性率の上限を15GPaと定めたことによる長期間保存時の面状故障を起こりにくくするという上記効果を裏付けているといえる。そして、本件発明1及び上記技術常識は、面状故障を防ぐという点で共通していたとしても、上記技術常識は巻き取り時の面状故障を防ぐものであるのに対し、本件発明1は長期保存時の面状故障を防ぐものであるから、引用発明及び上記技術常識からは予測できない異質な効果を奏するものというべきである。してみれば、上記技術常識に基づいたとしても、引用発明において、巻芯の弾性率の上限を15GPaとすることを当業者が容易に想定し得たということはできない。
よって、引用発明において、[相違点2]及び[相違点3]に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び上記技術常識に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1の弾性率10?15GPaの巻芯に巻き回してなること、及び、フィルム長が、500m以上であることを構成要件とするものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び上記技術常識に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 当審拒絶理由の理由1(サポート要件)についての判断
本件出願の明細書の段落【0025】には、「巻芯の弾性率を高くしすぎると巻芯に近いところを中心に面状故障が発生し、一方巻芯の弾性率を低くしすぎるとロールの外側を中心に面状故障が発生する傾向にあった。これは硬い巻芯にフィルムが巻き取られて巻芯に近いところに力が集中することによる影響と軟らかい巻芯では巻芯のゆがみによりロールの外側に力が集中する影響とのバランスとそこにフィルムの特性が重なって巻芯の弾性率の好ましい領域が決まるためと考えている。」と記載されている。上記記載及び平成30年5月1日に提出された意見書の「2.拒絶理由について(理由1 サポート要件について)」(特に、第1頁下から2行目?第5頁上から20行目)の記載を参酌すれば、本件発明1?7が本件発明の課題を解決することができることを理解することができる。
よって、本件出願は、特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。


第8 原査定についての判断
原査定の拒絶の理由において主たる引用文献として引用された引用文献A(当審拒絶理由の引用文献3)には、実施例2及び実施例3として、軸方向弾性率(Ya)が1450kg/mm^(2)(14.2GPa)の巻取りコアにフィルム厚みが4μmのポリエチレンテレフタレートフィルムロールを巻上げたフィルム原反、又は軸方向弾性率(Ya)が1500kg/mm^(2)(14.7GPa)の巻取りコアにフィルム厚みが4μmのポリエチレン2,6-ナフタレートフィルムロールを巻き上げたフィルム原反の発明が記載されているといえる。しかしながら、フィルムとしてラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性フィルムを採用する動機が見当たらず、また採用したことによる効果も予測することができない。したがって、原査定を維持することはできない。


第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2015-217748(P2015-217748)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 関根 洋之
宮澤 浩
発明の名称 熱可塑性樹脂フィルム原反  
代理人 特許業務法人航栄特許事務所  

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