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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1341505
審判番号 不服2017-9597  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2018-07-03 
事件の表示 特願2012-270669「採光シート、採光装置、建物、及び採光シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月26日出願公開、特開2014-115534、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年12月11日の出願であって、平成28年9月13日付けで拒絶理由が通知され、同年11月21日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成29年4月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成30年4月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、同年5月10日に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


第2 本件発明
本件の請求項1?10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
建物の開口部に備えられた透光性を有する板状のパネルと、該パネルに貼合され、光を透過する採光シートと、を備え、
前記採光シートは、
シート状のシート本体と、
該シート本体の一方の側に配置され、前記パネルと前記採光シートとを粘着する粘着剤を含有する粘着層と、を備え、
前記シート本体は、透光性を有する基材層と、該基材層の一方の面に形成され、光を散乱する光散乱層と、を備えており、
前記光散乱層は、
前記基材層の一方の面に沿って並列された、光を透過する複数の光透過部と、
隣り合う前記光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が全体に亘って分散して充填された光散乱部と、を有し、
前記粘着層によって前記採光シートを前記パネルに貼合させたとき、前記粘着層と前記シート本体との間の粘着力が、前記粘着層と前記パネルとの間の粘着力より強く、
前記粘着層は、前記パネルとの貼合面において、気温60℃かつ相対湿度90%の雰囲気、または、気温80℃かつ常湿の雰囲気で、1000時間加熱した後の粘着力が1N/25mm以上20N/25mm以下である、採光パネル。
【請求項2】
前記光散乱層は、表面のうち前記光散乱部が形成された部分に厚さ方向に1μm以上6μm以下の凹部を有している、請求項1に記載の採光パネル。
【請求項3】
前記光散乱部が透明な樹脂と、該樹脂に分散された前記顔料又は前記粒子と、を含む組成物によって構成され、
前記光透過部が透明な樹脂によって構成されており、
前記光散乱部に含まれる前記樹脂と前記光透過部を構成する前記樹脂とが異なる組成の樹脂である、請求項1または2に記載の採光パネル。
【請求項4】
前記基材層が前記シート本体の一方の最表面にあり、前記基材層の前記光散乱層が形成された側とは反対側の面に前記粘着層が配置されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の採光パネル。
【請求項5】
透光性を有する保護層が前記シート本体の一方の最表面にあり、該保護層の一方の面側に前記粘着層が配置され、該保護層の他方の面側に他の粘着層を介して前記光散乱層が貼合されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の採光パネル。
【請求項6】
前記パネルに貼合される側とは反対側の最表面にハードコート層を有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の採光パネル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の採光パネルと、
少なくとも前記パネルの周囲を囲むように配置された枠と、を備える採光装置。
【請求項8】
開口部に請求項7に記載の採光装置が設置された建物。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の採光パネルの製造方法であって、
前記シート本体の最外層となる層の表面に前記粘着剤を含む組成物を直接塗工して前記粘着層を形成する粘着層形成工程を備える、
採光パネルの製造方法。
【請求項10】
前記粘着層形成工程の後に、前記最外層となる層のうち前記粘着層が形成された側とは反対の面側に、前記シート本体に含まれる他の層を形成する、
請求項9に記載の採光パネルの製造方法。」(以下、請求項1?10に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明10」という。


第3 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前の平成24年2月23日に頒布された刊行物である特開2012-38626号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある(摘記した記載事項中の下線は合議体が付与した。以下同様である。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、
前記第1の面に対向する第2の面と、
前記第1の面および前記第2の面で規定される第1の領域の内部に配列される複数の反射面と
を備え、
前記複数の反射面が、前記第1の面に垂直な第1の方向に第1の長さを有し、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
前記第1の面または前記第2の面のうち、一方の面に入射した光が、前記複数の反射面により他方の面に向けて反射され、
下記の(1)式および(9)式を満たす光学素子。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n_(p):第1の面および第2の面で規定される領域の内部の屈折率、n_(air):空気の屈折率、α:光学素子に入射する光の入射角、ψ:第1および第2の方向を含む面において、反射面の任意の点における接線と第1の方向とのなす角。)
【数1】

【数2】


(中略)

【請求項9】
請求項1?7のいずれか1項に記載の光学素子を備える窓材。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光や人工光などの採光器として使用される光学素子およびその製造方法ならびに照明装置、窓材および建具に関する。

(中略)

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽光採光器の分野においては、光の取り込み効率あるいは上方への光線出射効率の向上が望まれている。しかしながら、上記各特許文献に記載の構成では、入射光を効率よく指向的に出射させるには採光器の厚みを大きくする必要があり、薄いフィルムで採光器を構成することは困難であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、光の取り込み効率を改善でき、薄型化にも対応することができる光学素子およびその製造方法ならびに照明装置、窓材および建具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、複数の反射面を有し、複数の反射面の1次元方向の長さ、配列ピッチおよび入射光の入射角が所定の関係を満たすようにされた構造層を具備する光学素子および照明装置を見出すに至った。
【0008】
しかしながら、製造工程上の理由により、構造層が設計値形状からの崩れを有することがある。反射面の形状の設計値からの崩れは、期待される光学特性に好ましくない影響を及ぼしてしまう。
【0009】
そこで、本発明者らは、反射面の形状に設計値からの崩れが存在する場合であっても所望の光学特性が得られるようにすべく鋭意検討した。その結果、設計値形状からの崩れと光学特性との間の関係を定量評価することにより、所定の関係式を満たすように反射面の形状が設計された光学素子およびその製造方法ならびに照明装置、窓材および建具を見出すに至った。
【0010】
したがって、第1の発明は、第1の面と、
第1の面に対向する第2の面と、
第1の面および第2の面で規定される第1の領域の内部に配列される複数の反射面と
を備え、
複数の反射面が、第1の面に垂直な第1の方向に第1の長さを有し、第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の面または第2の面のうち、一方の面に入射した光が、複数の反射面により他方の面に向けて反射され、
下記の(1)式および(9)式を満たす光学素子である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n_(p):第1の面および第2の面で規定される領域の内部の屈折率、n_(air):空気の屈折率、α:光学素子に入射する光の入射角、ψ:第1および第2の方向を含む面において、反射面の任意の点における接線と第1の方向とのなす角。)
【数1】

【数2】



ウ 「【0020】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る光学素子を窓に用いた例を示す室内の概略斜視図である。光学素子1は、屋外から照射される太陽Dからの入射光L1を室内Rへ取り込む太陽光採光器として構成され、例えば、建屋の窓材に使用される。光学素子1は、上空から照射される入射光L1を室内Rの天井Cに向けて指向的に出射する機能を有する。天井Cに向けて取り込まれた太陽光は、天井Cにおいて拡散反射されて室内Rを照射する。このように太陽光が室内の照明に用いられることで、日中における照明器具ILの使用電力の削減が図られることになる。
【0021】
[光学素子の概略的構成]
図2は、光学素子1の構成を示す概略断面図である。光学素子1は、第1の光透過層3、第2の光透過層5および基材11の積層構造を有する。図2において、X軸方向は光学素子1の厚み方向であり、光入射面S1と垂直の方向である。Y軸方向は光学素子1の表面における水平方向、そしてZ軸方向は上記表面における上下方向を意味する。
【0022】
第1の光透過層3は、例えば、透明性を有する材料を主成分とする。第1の光透過層3の材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose〔TAC〕)、ポリエステル(Polyester、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(Thermoplastic Polyester Elastomer〔TPEE〕))、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephtalate〔PET〕)、ポリイミド(Polyimide〔PI〕)、ポリアミド(Polyamide〔PA〕)、アラミド、ポリエチレン(Polyethylene〔PE〕)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(Polypropylene〔PP〕)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(Polymethylmethacrylate〔PMMA〕))、ポリカーボネート(Polycarbonate〔PC〕)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、これらに限られない。
【0023】
第2の光透過層5は、第1の光透過層3と対向する一方の面15aに、後述する構造層15が形成されている。このため、形状転写性に優れた樹脂材料を用いることで、形状精度に優れた構造層を形成することができる。形状転写性に優れた樹脂材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または紫外線硬化樹脂などのエネルギ線硬化性樹脂組成物を挙げることができる。本願明細書において、エネルギ線硬化性樹脂組成物とは、エネルギ線を照射することによって硬化させることができる樹脂組成物を意味する。ここで、エネルギ線とは、紫外線、可視光線等に代表されるエネルギ線を意味する。
【0024】
第2の光透過層5の面15aは、例えば、透明な接着層7を介して第1の光透過層3に接合されている。これにより、構造層15を内包する透明層21が形成される。透明層21は、第1の光透過層3、第2の光透過層5および接着層7で構成される。なお、本願明細書にいう接着層には、粘着層が含まれるものとする。
【0025】
第2の光透過層5は、例えば、透明性を有する材料を主成分とする。第2の光透過層5は、第1の光透過層3と同種の樹脂材料で形成されてもよいが、第2の光透過層5は、紫外線硬化樹脂を主成分とすることが好ましい。また、第2の光透過層5は、ガラスで形成されてもよい。
【0026】
紫外線硬化樹脂は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有する。また、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤、酸化防止剤、離型剤などがさらに含まれてもよい。アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることができる。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタアクリロイル基のいずれかを意味する。オリゴマーとは、分子量500以上6000以下の分子をいう。光重合開始剤としては、例えば、ベンフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。
【0027】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、メラミン樹脂、ナイロン系樹脂などが挙げられる。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。いずれも、透明性の高い材料が好ましい。
【0029】
基材11は、第2の光透過層5の他方の面15b(第2の面)に積層された、光透過性の樹脂フィルムで形成されている。基材11は、保護層としての機能をも有し、例えば、透明性を有する材料を主成分とし、例えば、第1の光透過層3と同種の樹脂材料を主成分としている。基材は、第2の光透過層5の外表面だけでなく、第1の光透過層3の外表面にも積層されてもよい。
【0030】
以上のような積層構造を有する光学素子1は、窓材Fの室内側に積層される。窓材Fには各種ガラスが用いられ、その種類は特に限定されず、フロート板ガラス、合わせガラス、防犯ガラス等が適用可能である。本発明の一実施形態に係る光学素子1においては、第1の光透過層3の外表面が光入射面として形成され、基材11の外表面が光出射面として形成される。なお、基材11は必要に応じて省略可能であり、この場合、第2の光透過層5の表面15bが光出射面として形成されることが好ましい。
【0031】
(構造層)
次に、構造層15の詳細について説明する。
【0032】
構造層15は、上下方向(Z軸方向)に所定ピッチで配列された空隙151の周期構造を有する。空隙151は、X軸方向(第1の方向)に深さd(第1の長さ)、Z軸方向(第2の方向)に幅w(第2の長さ)を有し、Z軸方向に配列ピッチpで形成されている。また、空隙151は、Y軸方向に直線的に形成されている。
【0033】
図2において空隙151各々の上面は、光入射面S1から入射した光L1を光出射面S2に向けて反射する反射面151rを形成する。すなわち、反射面151rは、第2の光透過層5を構成する樹脂材料(第1の媒質)と空隙151内の空気(第2の媒質)との界面で形成される。本発明の一実施形態では、第2の光透過層5の相対屈折率が例えば1.3?1.7とされ、空隙151内の空気(屈折率1)との屈折率差を有する。なお、上記第2の媒質は空気に限られない。例えば、空隙151内に第2の光透過層5よりも低屈折率の材料が充填されることで反射面151rが形成されてもよい。」
合議体注:図1及び図2は以下のとおりである。

エ 「【0061】
以上のように作製される光学素子1は、窓材Fに貼り付けられることで使用されるが、光学素子1単体で使用されてもよい。本発明の一実施形態によれば、構造層15の各反射面151rに対して上方から所定の角度範囲で入射する入射光を効率よく光出射面S2から上方へ向けて出射させることができる。したがって、上記光学素子1を太陽光採光器として使用することで、太陽光を屋内の天井に向けて効率よく取り込むことができる。」

オ 「【0164】
[第4の変形例]
照明器具のほか、採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して光学素子を適用してもよい。図28Aは、採光部に光学素子を備える建具の一構成例を示す斜視図である。図28Aに示すように、建具501は、その採光部504に採光部材502を備える構成を有している。具体的には、建具501は、採光部材502と、採光部材502の周縁部に設けられる枠材503とを備える。採光部材502は枠材503により固定され、必要に応じて枠材503を分解して採光部材502を取り外すことが可能である。建具501としては、例えば障子を挙げることができるが、この例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0165】
図28Bは、採光部材の一構成例を示す断面図である。図28Bに示すように、採光部材502は、基材511と、光学素子1とを備える。光学素子1は、基材511の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。光学素子1と基材511とは、接着層または粘着層などの貼合層などにより貼り合わされる。なお、障子502の構成はこの例に限定されるものではなく、光学素子1を採光部材502として用いるようにしてもよい。建具として、サッシに備えられた窓材に、光学素子と同様の構成を適用してもよい。」
合議体注:図28は以下のとおりである。

カ 「【0172】
図30Aは、空隙を有する光透過層5を接着層7を介して直接窓材Fに貼り付けた例を示す図である。基材11は、図30Eに示すように省略されてもよい。図30Bは、光透過層5の空隙の形成面に、基材11を貼設して窓材Fに貼り付けた例を示す図である。この例では、光透過層5の成形後、熱溶着などによって光透過層5と基材11とが一体化される。この場合、両フィルム間に界面が存在しないように溶着させることができる。また、この例によれば、接着層7の空隙部内への侵入を回避することができる。」
合議体注:図30は以下のとおりである。

キ 「【0176】
また、光学素子は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層は、光学素子1の光入射面および光出射面のうち、窓材などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成されることが好ましい。光学素子は、光出射面に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層を備えてもよい。そのほか、光学素子は、熱線カット層、紫外線カット層、表面反射防止層などの機能層と併用して用いることができ、窓材などの被着体に貼り合わされる側の面に、粘着層と剥離層がさらに積層されていてもよい。このようにすることで、窓材などの被着体に容易に貼り合わせることができる。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項ウに基づけば、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「屋外から照射される太陽からの入射光を室内へ取り込む太陽光採光器として構成される光学素子を貼り付けた窓材であって、
光学素子は、第1の光透過層、第2の光透過層および基材の積層構造を有し、第2の光透過層は、第1の光透過層と対向する一方の面に、構造層が形成され、第2の光透過層の第1の光透過層と対向する面が第1の光透過層に接合されることにより、構造層を内包する透明層が形成され、構造層は、上下方向に所定ピッチで配列された空隙の周期構造を有し、空隙各々の上面は、光入射面から入射した光を光出射面に向けて反射する反射面を形成し、反射面は、第2の光透過層を構成する樹脂材料(第1の媒質)と空隙内の空気(第2の媒質)との界面で形成され、第2の媒質は空気に限られず、空隙内に第2の光透過層よりも低屈折率の材料が充填されることで反射面が形成されてもよく、基材は、第2の光透過層の他方の面(第2の面)に積層された、光透過性の樹脂フィルムで形成されており、
以上のような積層構造を有する光学素子は、建屋の窓材に使用され、窓材の室内側に積層される、光学素子を貼り付けた窓材。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前の平成23年7月14日に頒布された刊行物である特開2011-137978号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネルから出射された光を制御して観察者側に出射する、複数の層を有する光学シートであって、
第1基材層上に形成された、光を透過可能にシート面に沿って並列されて形成されるプリズム部と、前記プリズム部間に光を吸収可能に並列される光吸収部と、を有する光学機能シート層、
第2基材層上に形成された、電磁波を遮断する機能を有する電磁波シールド層、及び、
所定の波長の光をフィルタリングする機能を有する波長フィルタ層、を少なくとも備えており、
粘着剤層、前記第1基材層、前記光学機能シート層、前記第2基材層及び前記電磁波シールド層が列記した順で前記プラズマディスプレイパネルに積層され、
前記光学機能シート層に接しない層が前記波長フィルタ層を兼ねる、又は前記光学機能シート層に接しない位置に別に前記波長フィルタ層を備えている、光学シート。
【請求項2】
前記粘着剤層と前記第1基材層との間の粘着力が、前記粘着剤層と前記プラズマディスプレイパネルとの間の粘着力より強い、請求項1に記載の光学シート。」

(2)「【0023】
図1は1つの実施形態にかかる本発明の光学シート10の一部の断面を示し、その層構成を模式的に表した図である。図1では、見易さのため繰り返しとなる符号は一部省略している(以降に示す各図において同じ。)。光学シート10は、ここに入射した映像源側からの光を観察者にとって適切な映像光として透過させ、出射させるシート状の部材である。
【0024】
光学シート10は、複数の層を有しており、そのうち少なくとも1層が、第1基材層11上に形成された光学機能シート層12であり、第1基材層11の光学機能シート層12が形成されていない面側には粘着剤層17が備えられている。以下に各層について説明する。
【0025】
第1基材層11は、後で詳しく説明する光学機能シート層12を形成するための基材層としての層で、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分としている。すなわち、光学機能シート層12と一体で形成されているものである。第1基材層11はPETを主成分として含有しているが、他の樹脂が含まれてもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。一般的な添加剤としては、フェノール系等の酸化防止剤、ラクトン系等の安定剤等を挙げることができる。ここで「主成分」とは、基材層を形成する材料全体に対して上記PETが50質量%以上含有されていることを意味する(以下、同様とする。)。
【0026】
第1基材層の主成分は、必ずしもPETであることは必要なく、その他の材料でもよい。これには例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸-イソフタル酸-エチレングリコール共重合体、テレフタル酸-シクロヘキサンジメタノール-エチレングリコール共重合体等のポリエステル系樹脂、ナイロン6等のポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。また、これら樹脂中には、必要に応じて適宜、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤等の添加剤を加えても良い。
本実施形態では、性能に加え、量産性、価格、入手可能性等の観点からPETを主成分とする樹脂を好ましい材料であるとして説明した。
【0027】
光学機能シート層12は、映像光源側からの映像光の光路を制御するとともに、迷光や外光を適切に吸収する機能を有する層である。光学機能シート層12は、図1に示した断面を有して紙面奥/手前側に延在する形状を備える。すなわち、図1に表れる断面において断面が略台形であるプリズム部13、13、…と、該プリズム部13、13、…の間に配置される光吸収部14、14、…とを備えている。図2に、図1に示した光学シート10のうち、光学機能シート層12の1つの光吸収部14とこれに隣接するプリズム部13、13を拡大して示した。図1、図2及び適宜示す図を参照しつつ光学機能シート層12についてさらに説明する。
【0028】
プリズム部13、13、…は、光透過部として機能する部位で、略台形断面における短い上底及び長い下底が光学シート10のシート面に沿う方向に配置されている。そして、略台形断面における長い下底が基材層11側に面する向きである。また、プリズム部13、13、…は、屈折率Npを有する光透過性樹脂で構成されている。当該樹脂として例えば、電離放射線、紫外線等により硬化する特徴を有する例えばウレタンアクリレートを挙げることができる。
【0029】
光吸収部14、14、…は、プリズム部13、13、…の間に配置され、図1、図2に表れる断面において略三角形断面を有する要素である。当該三角形断面の底辺に相当する面がプリズム部13、13、…の上底間に並列されている。従って光吸収部14、14、…の底辺、及びプリズム部13、13、…の上底により光学シート10の一方の面が形成されている。ここで、光吸収部14、14、…の三角形断面における斜辺は、光学シート10のシート面の法線方向に対して0度より大きく、10度以下の角度をなしていることが好ましい。
【0030】
また、光吸収部14、14、…の上記斜辺の傾きは必ずしも一定である必要はなく折れ線状であってもよいし、曲線状であってもよい。図3に光学機能シート層の変形例である光学機能シート層12a、12bのうち、光吸収部14a、14bの断面を示した。図3では、図3(a)は斜辺が折れ線状とされた例、及び図3(b)は斜辺が曲線状とされた例である。
【0031】
図3(a)に示した場合には、光吸収部14aの斜辺(プリズム部13a、13aの斜辺)は、1つの辺からではなく、2つの辺から構成されている。すなわち断面において折れ線状の斜辺を有している。詳しくは、底辺側の斜辺は光学シート10のシート出光面の法線に対して角度θ1をなしている。一方、頂点側(第一基材層11側に配置される斜辺は光学シート10のシート出光面の法線に対して角度θ2をなしている。この角度は、θ1>θ2の関係であるとともに、いずれも0度より大きく10度以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましい角度は0度より大きく6度以下である。また、当該2つの斜辺は、図3(a)に示したように、光学機能シート層12aの厚さ方向(紙面左右方向)には、それぞれT1とT2の大きさを有している。T1とT2とは同じ大きさであることが好ましい。
また、図3(a)の例は2つの斜辺により構成されている例であるが、さらに多くの辺で折れ線状が構成されてもよい。
【0032】
図3(b)に示した場合には、光吸収部14bの斜面(プリズム部13b、13b、…の斜辺)は曲線状で構成されている。このように光吸収部における断面形状略三角形である斜辺が曲線状であってよい。この場合でも、当該曲線と光学シートのシート出光面の法線とのなす角は、光吸収部の底辺側より第一基材層11側の方が小さいことが好ましい。さらにその角度もいずれの部分でも0度より大きく10度以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましい角度は0度より大きく6度以下である。ここで、曲線のある部分がシート出光面の法線との成す角は、曲線を10等分し、各端部同士を結ぶ線と、シート出光面の法線との成す角により定義される。
【0033】
その他、光吸収部の形状は本実施形態のものに限定されるものではなく、外光を適切に吸収することが可能であれば適宜変更することが可能である。これには、例えば断面形状が矩形である場合等を挙げることができる。
【0034】
また、光吸収部14、14、…は、プリズム部13、13、…の屈折率Npと同じ、又は小さい屈折率Nbを有する所定の材料により構成されている。このようにプリズム部13、13…の屈折率Npと光吸収部14、14、…の屈折率NbとをNp≧Nbとすることにより、所定の条件でプリズム部13、13、…に入射した光源からの映像光を光吸収部14、14、…とプリズム部13、13、…との界面で適切に反射させ、観察者に明るい映像を提供することができる。NpとNbとの屈折率の差は特に限定されるものではないが、0以上0.06以下であることが好ましい。
また、本実施形態では上記のようにNp≧Nbの関係が好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、プリズム部の屈折率を光吸収部の屈折率よりも小さく形成することも可能である。
【0035】
加えて、本実施形態における光吸収部14、14、…は、光吸収粒子16、16、…を含有したバインダが当該光吸収部14、14、…に充填されることにより構成されている。すなわち、当該バインダが充填されてなるバインダ部15の中に光吸収粒子16、16、…が分散されている。これにより、光吸収部14、14、…において、プリズム部13、13、…と、光吸収部14、14、…との界面で反射せずに光吸収部14、14、…の内側に入射した映像光を光吸収粒子16、16、…で吸収することができる。さらには所定の角度で入射した観察者側からの外光を適切に吸収することができ、コントラストを向上させることも可能となる。
このときバインダ部15のバインダ剤が上記の屈折率Nbである材料により構成される。バインダ剤として用いられるものは特に限定されないが、これには例えば、電離放射線、紫外線等により硬化する特徴を有するエポキシアクリレート等を挙げることができる。また、光吸収粒子16、16、…は、平均粒径が1μm以上であることが好ましい。当該粒子は光吸収性を有していれば特に限定されるものではないが、黒色であることが好ましく、これには市販の粒子を用いることもできる。
【0036】
光を吸収させるための手段は本実施形態のように光吸収粒子による方法に限定されるものではない。他には例えば、顔料や染料により光吸収部全体を着色することを挙げることができる。
【0037】
図1に戻って、粘着剤層17は、第1基材層11の光学機能シート層12が形成されていない面側に備えられる層である。粘着剤層17は、光透過性、粘着性、耐候性を有する。また、粘着剤層17は、ガラス板と貼合した後24時間以上経過後の粘着力が1N/25mm以上10N/25mm以下となる粘着剤で構成されていることが好ましい。粘着剤層17のガラス板と貼合した後、常温常湿で24時間以上経過後の粘着力の上限は、好ましくは7N/25mm以下であり、より好ましくは5N/25mm以下である。このように粘着剤層17の粘着力を適当に調整することにより、道具を使わなくても光学シート10を剥がすことができるようになる。そのため、粘着剤層17を備えた光学シート10を被着体に貼った後に異物混入等不良に気付いた場合、光学シート10を該被着体から容易に剥がすことができ、該被着体を無駄にしなくて済む。なお、粘着力の下限を1N/25mmとしたのは、粘着力が弱すぎると自然に剥離する虞があるからである。
【0038】
また、粘着剤層17は、ガラス板に貼合して気温60℃かつ相対湿度90%の雰囲気または気温80℃かつ常湿の雰囲気で、1000時間加熱した後の1N/25mm以上20N/25mm以下となる材料で構成されていることが好ましい。当該条件での粘着剤層17の粘着力の上限は、好ましくは7N/25mm以下であり、より好ましくは5N/25mm以下である。本発明の光学シートを備えた製品を海外輸送する場合には、赤道直下等を長期間に亘って航行する船で輸送することが想定される。上記のような厳しい条件でも適当な粘着力を維持できるようにすることによって、海外輸送後でも光学シート10を剥がすことができるようになる。
【0039】
さらに、粘着剤層17の粘着力は、光学シート10を構成する複数の層に含まれる他のいずれの層同士の粘着力よりも弱いことが好ましい。かかる形態とすることによって、光学シート10を構成する層を分離させることなく、光学シート10を被着体から剥がすことが容易になる。
【0040】
光学シート10は、第1基材層11の光学機能シート層12が形成されていない面側に粘着剤層17が備えられる。この場合の光学シート10の製造方法としては、まず、粘着剤層17を構成する粘着剤を第1基材層11に直接塗工し、該粘着剤にセパレーター(剥離フィルム)をラミネートしてエージングし、粘着剤層17を形成する。または、粘着剤層17を構成する粘着剤をセパレーターに直接塗工し、該粘着剤に第1基材層11をラミネートしてエージングし、粘着剤層17を形成する。その後、第1基材層11の粘着剤層17とは反対側の面に光学機能シート層12を形成する。かかる方法によって光学シート10を製造することによって、第1基材層11と粘着剤層17との間の密着力が強固になり、粘着剤層17をガラス板等に貼合した場合に、粘着剤が該ガラス板に残らないように、該ガラス板と粘着剤層17との間で光学シート10を剥がすことが容易になる。
【0041】
また、上記のようにして粘着剤層17を形成することによって、粘着剤層17を単独で作製する場合に比べて製造工程が簡略化されるため好ましい。すなわち、粘着剤層17を単独で作製する場合は、粘着剤層17の両面にセパレーターをラミネートし、一方のセパレーターを剥がして第1基材層11に粘着剤層17を貼合する等して光学シート10を作製した後、他方のセパレーターを剥がして光学シート10をガラス板等に貼合しなければならないが、上記のようにして粘着剤層17を形成することによって、セパレーターをラミネートする工程を1回減らすことができる。また、粘着剤層17の両面にラミネートするセパレーターの剥離差をつける必要がなくなる。
【0042】
光学シート10は、図1に示すように、第2基材層22上に形成された、電磁波を遮断する機能を有する電磁波シールド層20、及び、所定の波長の光をフィルタリングする機能を有する波長フィルタ層(不図示)も備えている。粘着剤層17、第1基材層11、光学機能シート層12、第2基材層22及び電磁波シールド層20は列記した順でPDP2に積層され(図4参照)、光学機能シート層12に接しない層が波長フィルタ層を兼ねる、又は光学機能シート層12に接しない位置に別に波長フィルタ層を備えている。かかる形態とすることによって、光学機能シート層12に含まれる重合開始剤から発生するラジカルが波長フィルタ層に含有される近赤外線やネオン線を吸収するための色素を劣化させることを、防止できる。すなわち、粘着剤層17が波長フィルタ層を兼ねる場合は、光学機能層12に含まれる重合開始剤が波長フィルタ層へ移行することを、第1基材層11が防止する。また、第2基材層22より観察者側に波長フィルタ層が備えられる場合は、光学機能層12に含まれる重合開始剤が波長フィルタ層へ移行することを、第2基材層22が防止する。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前の平成20年4月10日に頒布された刊行物である特開2008-83317号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマテレビに用いられ、映像源の観察者側に配置されて映像光や外光を適切に制御することができる光学シートに関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】

(中略)

【0008】
そこで本発明では、PDPの観察者側に配置され、モアレ縞を発生することなしにコントラストを向上させる等の光学機能を有する光学シート、及び該光学シートを備えた表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】

(中略)

【0010】
発明者らは鋭意検討の結果、当該モアレ縞の原因の1つとして次のようなものがあることを見い出した。すなわち非点灯時等において、光学シートに入射した外光の一部がプリズム部を透過してPDPに達し、該外光がPDP表面で反射する。そしてこれが光学シートの入光面に達し、ここで反射して再びPDPへ達する。このように、一部の外光は、光吸収部とPDPとの間で複数回に渡りその強度をあまり低下させずに反射して最終的にプリズム部から外に投射される。このような反射を経た光は、例えばPDPで1度反射してそのままプリズム部から外に投射される等する他の光との間で、光路差を生じ、外光の波長との関係でモアレ縞を発生させる1つの原因となる。そこで、発明者らはこれら知見に基づき、鋭意検討して次のような発明を完成させた。
【0011】
請求項1に記載の発明は、プラズマディスプレイパネル(2)の映像投射側に、該プラズマディスプレイパネルの映像投射面から所定の間隔を有して配置され、入射した光を制御して投射する複数の層が積層された光学シート(10、20)であって、断面形状が略台形で、シート面に沿って配列されるプリズム部(12、12、…、22、22、…)と、プリズム部間にプラズマディスプレイパネル側に断面形状で幅広の底面を有して配置される光吸収部(13、13、…、23、23、…)とを備え、光吸収部の幅広の底面に光拡散作用を有する光拡散手段(15、15、…、23a、23a、…)が具備されることを特徴とする光学シートを提供することにより前記課題を解決する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光学シート(20)の光拡散手段が光吸収部(23、23、…)の底面(23a、23a、…)の形状によることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光学シート(20)の底面(23a、23a、…)の形状がプラズマディスプレイパネル(2)側と反対側に凸である多面体又は曲面であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の光学シート(20’)の底面(23a’、23a’、…)がマット面であることを特徴とする。
【0015】
ここで「マット面」とは、表面に微小な凹凸を有する面を意味する(以下同様)。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の光学シート(10)の光拡散手段が光吸収部(13、13、…)の底面に積層された光拡散層(15、15、…)であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光学シート(10)の光吸収部(13、13、…)と、光拡散層(15、15、…)との界面がプラズマディスプレイパネル(2)側と反対側に凸である多面体、又は曲面であることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の光学シート(10)の光拡散層(15、15、…)のプラズマディスプレイパネル(2)側面がマット面とされることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の光学シート(10)の光拡散層(15、15、…)に光拡散粒子(15b’、15b’、…)が含有され、該光拡散粒子の一部がプラズマディスプレイパネル(2)側に突出して配置されることにより前記マット面が形成されることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項5?8のいずれか一項に記載の光学シート(10)の光拡散層(15、15、…)が光吸収部(13、13、…)の底面に積層された白色の層であることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項1?9のいずれか一項に記載の光学シート(10、20)のヘーズ値が18.0%より大きいことを特徴とする。
【0022】
ここで「ヘーズ値」とは、JIS K7105に規定されたものを意味し、全光線透過率に対する拡散透過率の割合である。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項1?10のいずれか一項に記載の光学シート(10、20)の光吸収部(13、13、…、23、23、…)の断面形状の底面端部からシート厚方向に延在する斜面部分と、シート出光面の法線との成す角が、シート厚方向の一方と他方とで異なるように、斜面部分が曲線及び/又は折れ線状の断面形状を有することを特徴とする。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項1?10のいずれか一項に記載の光学シート(10、20)の光吸収部(13、13、…、23、23、…)の断面形状の底面端部からシート厚方向に延在する斜面部分と、シート出光面の法線との成す角が、シート厚方向の一方と他方とで異なるように、斜面部分が折れ線状の断面形状を有し、成す角がいずれの位置でも0?10度であることを特徴とする。
【0025】
請求項13に記載の発明は、請求項1?12のいずれか一項に記載の光学シート(10、20)の光吸収部に平均粒径が1μm以上の光吸収粒子(16、16、…、26、26、…)を含有することを特徴とする。
【0026】
ここで「平均粒径が1μm以上」であることにおける「1μm」とは、重量分布法による粒度測定で得られる値である。
【0027】
請求項14に記載の発明は、請求項1?13のいずれか一項に記載の光学シートのプリズム部及び光吸収部が、断面形状を有して長手方向に延在して形成されており、プリズム部及び光吸収部からなる光学機能シート層が、長手方向が直交するように2層積層されることを特徴とする。
【0028】
ここで、「断面形状を有して長手方向に延在して」とは、上記の断面形状を維持しつつ、長手方向である1つの方向に延在して形成される概念である。
【0029】
請求項15に記載の発明は、請求項12に記載の光学シートのプリズム部及び光吸収部が、断面形状を有して長手方向に延在して形成されており、プリズム部及び光吸収部からなる光学機能シート層が、長手方向が直交するように2枚積層され、2枚の光学機能シート層の一方の光学機能シート層で、光吸収部が垂直に配置される側の光学機能シート層の該光吸収部の斜面が成す角の平均角度が、他方の光学機能シート層で、光吸収部が水平に配置される側の光学機能シート層の該光吸収部の前記斜面が成す角の平均角度より大きく形成され、又は、光吸収部が垂直に配置される側の光学機能シート層の該光吸収部のシート厚み方向の大きさが、光吸収部が水平に配置される側の光学機能シート層の該光吸収部のシート厚み方向の大きさよりも小さく設けられることを特徴とする。
【0030】
ここで「平均角度」は次のように算出する。始めに、光吸収部の横断面においてシート厚さ方向に形成された辺の1つを10等分する。次に該10等分された各々の部分の両端を結ぶ直線を得る。従って上記辺に対して連続した10本の直線を得ることができる。そして、各直線の各々について該直線が光学シートの法線と成す角をさらに得る。最後にこのようにして得られた10の成す角を平均し、これを上記「平均角度」とする。
【0031】
請求項16に記載の発明は、請求項1?15のいずれか一項に記載の光学シートが備えられることを特徴とする表示装置(1)を提供することにより前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、点灯時にはコントラスト向上等の光学的機能を有しつつ、非点灯時等には外光に起因するモアレ縞を抑制することが可能な光学シート及び表示装置を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、光拡散手段が光吸収部の底面側にのみ設けられ、映像光が透過するプリズム部には配置されない。これにより、主要な映像光は光拡散手段の影響を受けないので、透過率の低下等の不具合を防止することができる。また、映像光の解像度の低下を防止することも可能となる。
【0034】
さらに、本発明の光学シートでは、光拡散手段で反射した光は少なくともその一部は最終的に観察者側に透過するので、拡散反射されずに光吸収部で多くの光を吸収してしまう光学シートよりも透過率を向上させることができる。」

(2)「【0037】
図1は第一実施形態にかかる本発明の光学シート10の断面を示し、その層構成を模式的に表した図である。図1では、見易さのため繰り返しとなる符号は一部省略している(以降に示す各図において同じ。)。光学シート10は、光学機能シート層11と、基材層としてのPETフィルム層17と、粘着剤層18とをこの順に積層されて有している。上記各層は図1で示した断面を維持して紙面奥/手前方向に延在するように形成されている。以下に各層について説明する。
【0038】
光学機能シート層11は、光学シート10のシート面に直交する断面において断面が略台形であるプリズム部12、12、…と、該プリズム部12、12、…の間に配置された光吸収部13、13、…と、光吸収部13、13の底面に設けられた光拡散層15、15、…とを備えている。図2に1つの光吸収部13及びこれに隣接するプリズム部12、12に着目した拡大図を示した。図1、図2、及び適宜示した図を参照しつつ光学機能シート層11について説明する。
【0039】
プリズム部12、12、…は上底、下底をPDP2側、観察者側(図8参照)に面するように配置された略台形断面を有する要素である。また、プリズム部12、12、…は、屈折率Npを有する光透過性樹脂で構成されている。これは通常、電離放射線、紫外線等により硬化する特徴を有する例えばエポキシアクリレート等により形成されている。
【0040】
光吸収部13、13、…は、上述したようにプリズム部12、12、…の間に配置される部位である。該光吸収部13、13、…は、屈折率Nbを有する物質が充填されたバインダー部14、14、…と、バインダー部14、14、…に混入された光吸収粒子16、16、…とを備えている。
【0041】
バインダー部14、14、…に充填されるバインダー材は、プリズム部12、12、…の屈折率Npよりも低い屈折率であるNbである材料により構成される。NpとNbとの屈折率の差は特に限定されるものではないが、0?0.06であることが好ましい。そして該バインダー材として用いられるものも特に限定されないが、これには例えば、電離放射線、紫外線等により硬化する特徴を有するウレタンアクリレート等を挙げることができる。
【0042】
光吸収粒子16、16、…は、平均粒径が1μm以上の粒子で、カーボン等の顔料又は赤、青、黄等の染料にて所定の濃度に着色されている。これには例えば市販の着色樹脂微粒子を使用することもできる。当該光吸収粒子16、16、…の屈折率Nrは特に限定されるものではない。
【0043】
光拡散層15、15、…は、光吸収部13、13、…の底面に配置され、図2の紙面左側面が光拡散作用を有するように微細の凹凸を有するマット面15aを備えた層である。該マット面15aは、光拡散作用を有する面として形成されていればその形態は特に限定されるものではない。図3に例を示した。図3(a)は本実施形態の光拡散層15、及びマット面15aを示し、図3(b)は変形例の光拡散層15’、及びマット面15a’を模式的に示した図である。
【0044】
図3(a)に示した光拡散層15は、バインダー部14と接する面と反対側面がギザギザの凹凸を有することによりマット面15aが形成されている。かかる構成によりマット面15aに到達した光は散乱反射して拡散される。光拡散層15は例えば紫外線硬化樹脂により成型され、マット面15aは成型時において金型に当該凹凸に対応する凹凸が付けられていることによりこれが転写されて形成される。凹凸の程度は適切に光が拡散されれば特に限定されるものではないが、表面粗さの指標で平均粗さが1?10μmであることが好ましい。
【0045】
図3(b)に示した光拡散層15’は、該光拡散層15’において紫外線硬化樹脂に光拡散ビーズ15b’、15b’、15b’を添加したものである。このとき光拡散ビーズ15b’、15b’、15b’の一部をバインダー部14と接する面と反対側面に突出させるように添加することにより図3(b)のようなマット面15a’を形成することができる。光拡散ビーズとしては例えばシリカビーズを挙げることができ、その粒径は1?20μmであることが好ましい。
【0046】
光学機能シート層11の形状は、図1、図2に示したように、プリズム部12、12、…が略台形断面を有し、これらに挟まれて形成される光吸収部13、13、…は三角形断面を有している。しかし、適切に光を制御するためにこれら形状は特に限定されることなく適宜適切な形状が採用される。図4に他の変形例を示した。図4は図2に対応する図で、1つの光吸収部13’’と、その両側に配置されるプリズム部12’’、12’’に注目して示した図である。図4からわかるように、光吸収部13’’の斜面(プリズム部12’’、12’’の斜面)は、1つの平面からではなく、2つの平面から構成されている。すなわち断面において折れ線状の斜面を有している。詳しくは、光拡散層15’’側(紙面左側)に配置される斜面は光学シートのシート出光面に対して角度θ_(1)を有している。一方、PETフィルム層17側(紙面右側)に配置される斜面は光学シートのシート出光面に対して角度θ_(2)を有している。この角度は、θ_(1)>θ_(2)の関係であるとともにいずれも0?10度の範囲であることが好ましい。さらに好ましい角度は0?6度である。また、2つの斜面は、光学機能シート層12の厚み方向にT_(1)とT_(2)に分ける位置で交差する。T_(1)とT_(2)とは同じ大きさであることが好ましい。」
合議体注:図1?3は以下のとおりである。


第4 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「建屋の窓材」は、本件発明1の「建物の開口部に備えられた透光性を有する板状のパネル」に相当する。

イ 引用発明の「基材」は、「光透過性の樹脂フィルムで形成」されることから、透光性を有するといえる。したがって、引用発明の「基材」は、本件発明1の「透光性を有する基材層」に相当する。

ウ 引用発明の「透明層」は、透明層を構成する第1の光透過層、第2の光透過層と、基材とが、積層構造を有することから、本件発明1の「該基材層の一方の面に形成され」るとする要件を具備している。また、引用発明の「透明層」は、「第2の光透過層の第1の光透過層と対向する面が第1の光透過層に接合される」ことにより「上下方向に所定ピッチで配列」された「構造層を内包」していることから、「基材層の一方の面に沿って並列された、光を透過する複数の光透過部」を有するといえる。
したがって、引用発明の「透明層」と、本件発明1の「前記基材層の一方の面に沿って並列された、光を透過する複数の光透過部と、隣り合う前記光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が全体に亘って分散して充填された光散乱部と、を有」する「光散乱層」とは、「前記基材層の一方の面に沿って並列された、光を透過する複数の光透過部を有」する「層」である点で共通する。

エ 引用発明の「光学素子」は、「窓材の室内側に積層される」ものであるから、建屋の窓材に貼合されるものであり、「積層構造」を有し「屋外から照射される太陽からの入射光を室内へ取り込む太陽光採光器」として機能するものである。したがって、引用発明の「光学素子」は、本件発明1の「該パネルに貼合され、光を透過する採光シート」に相当する。
また、引用発明の「光学素子」は、その形状からみて、本件発明1の「シート状のシート本体」を構成するといえる。

オ 引用発明の「屋外から照射される太陽からの入射光を室内へ取り込む太陽光採光器として構成される光学素子を貼り付けた窓材」は、「光学素子」を「窓材の室内側に積層」して構成されるものであって、その構造からみて、パネル状の形状を有するといえる。したがって、引用発明の「光学素子を貼り付けた窓材」は、本件発明1の「採光パネル」に相当する。

カ 以上より、本件発明1と引用発明とは、
「建物の開口部に備えられた透光性を有する板状のパネルと、該パネルに貼合され、光を透過する採光シートと、を備え、
前記採光シートは、
シート状のシート本体と、
を備え、
前記シート本体は、透光性を有する基材層と、該基材層の一方の面に形成される層と、を備えており、
前記基材層の一方の面に形成される層は、
前記基材層の一方の面に沿って並列された、光を透過する複数の光透過部を有する、採光パネル。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、シート本体の一方の側に配置され、パネルと採光シートとを粘着する粘着層を備え、前記粘着層によって前記採光シートを前記パネルに貼合させたとき、前記粘着層と前記シート本体との間の粘着力が、前記粘着層と前記パネルとの間の粘着力より強く、前記粘着層は、前記パネルとの貼合面において、気温60℃かつ相対湿度90%の雰囲気、または、気温80℃かつ常湿の雰囲気で、1000時間加熱した後の粘着力が1N/25mm以上20N/25mm以下であるのに対し、引用発明は、粘着層を備えるとされていない点。
[相違点2]本件発明1は、基材層の一方の面に形成される層が光散乱層であり、隣り合う光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が全体に亘って分散して充填された光散乱部を有するのに対し、引用発明は、基材層の一方の面に形成される層が透明層であり、隣り合う光透過部間に配置され、空隙内に第2の光透過層よりも低屈折率の材料が充填されることで反射面が形成されてもよいとされる構造層を有する点。

(2)判断
事案に鑑みて、上記[相違点2]について検討する。本件発明1における光散乱層の「光散乱部」は、「光を散乱する顔料又は粒子が全体に亘って分散して充填」されることにより、光を散乱する機能を有するものである。一方、引用発明における透明層の「構造層」は、その上面において第2の光透過層との間で「反射面」を構成するものであって、「構造層」の機能は、引用文献1の記載事項ウの段落【0020】に記載されているように「上空から照射される入射光L1を室内Rの天井Cに向けて指向的に出射する機能」である。そうすると、引用発明の入射光を天井に向けて指向的に出射する「構造層」は、光を散乱する本件発明1の「光散乱部」とは異なる機能を有するものである。
してみれば、引用文献2、3に記載のように、低屈折率材料であるシリカ粒子又は空隙を散乱粒子として分散充填した拡散層が本件出願時における周知技術であったとしても、引用発明において、光を散乱させるための上記周知技術を採用しようとする動機付けを見いだすことができない。そして、仮に上記周知技術を採用したとすると、入射光を天井に向けて指向的に出射するという、引用発明が前提とする機能を失うこととなるのであるから、上記周知技術の適用には阻害要因があるといわざるを得ない。
したがって、引用発明において、[相違点2]に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たということはできない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本件発明2?10について
本件発明2?10は、何れも、引用発明1の上記[相違点2]に係る光散乱層が、隣り合う光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が全体に亘って分散して充填された光散乱部を有するという構成を備えるものである。したがって、本件発明2?10も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定の概要は、本件補正前の請求項1?10について、引用文献1?3に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、本件発明1?10は、いずれも、前記第4の1(1)に記載した[相違点2]の構成を備えるものである。そして、前記第4の1(2)に記載したとおり、引用発明において、[相違点2]に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たということはできない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審拒絶理由の概要は、本件補正前の請求項1における粘着力についての数値限定が、何れの面の粘着力を特定しているのかが明らかでなく、本件補正前の請求項3における散乱剤と請求項1における顔料又は粒子が同じ部材を示しているのかが特定できないとし、このため、特許を受けようとする発明が不明確となっているから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。
本件補正によって、請求項1における粘着力を特定する面が「前記パネルとの貼合面」であることを明らかとし、請求項3における散乱剤を「前記顔料又は前記粒子」に変更したことにより、当審拒絶理由は、何れも解消された。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?10は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2012-270669(P2012-270669)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福村 拓小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 採光シート、採光装置、建物、及び採光シートの製造方法  
代理人 山本 典輝  

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