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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1341510
審判番号 不服2017-12212  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-17 
確定日 2018-07-03 
事件の表示 特願2015-143056「電子機器及び電子機器の動作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 27210、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成27年7月17日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年12月 5日付け :拒絶理由の通知
平成29年 2月13日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 5月17日付け :拒絶査定(原査定)
平成29年 8月17日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成30年 5月 7日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成30年 5月28日 :手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は,平成30年5月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
電話通信用のネットワークと通信する電子機器であって,
時刻を計測するリアルタイムクロックと,
記憶部と,
前記ネットワークから,現在時刻を示すネットワーク時刻が取得されるたびに,前記リアルタイムクロックでの第1時刻を取得し,取得した前記第1時刻を過去に記憶した前記第1時刻に置き換えて前記記憶部に記憶するとともに,取得された前記ネットワーク時刻を過去に記憶した前記ネットワーク時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する記憶制御部と,
現在のネットワーク時刻を推定する推定部と,
前記推定部で推定された現在のネットワーク時刻に基づいて,前記電子機器に対して付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する判定部と
を備え,
前記推定部は,現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする,電子機器。」

なお,本願発明2-5の概要は以下のとおりである。

本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明5は,本願発明1に対応する「電子機器の動作方法」の発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2011-257300号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

A 「【0001】
本発明は,ドライブレコーダ,デジタルタコグラフなどの車載記録装置に装着されている車載時計の時刻修正方法に関するものである。
…(中略)…
【0008】
このように,従来の車載記録装置では,運行履歴の非記録時(待機時)に車両がGPS電波を受信できない状況が長期にわたると,運行業務中(例えば,日中)も運行業務終了時(例えば,夜間)も車載時計の時刻修正が行えず,せっかく時刻修正機能を有していても徐々に車載時計の誤差が大きくなるという問題があった。
【0009】
本発明は,上述した事情に鑑みてなされたものであり,その目的は,車載時計の時刻修正が可能な時間帯にGPS情報を取得することができない場合でも,車載時計の時刻を近似的に修正し,誤差の蓄積による時計のずれの拡大を防止できる車載記録装置及び車載記録装置の時刻修正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために,本発明に係る車載記録装置は,下記(1)を特徴としている。
(1) 車載時計と,
標準時刻に係る情報を取得する標準時刻情報取得手段と,
前記標準時刻情報取得手段が取得した前記標準時刻に係る情報に基づいて,前記車載時計の時刻を修正する時刻修正手段と,
タイマーカウントを行う計時手段と,
を備えた車載記録装置であって,
前記計時手段は,直近に取得した前記標準時刻を起点とするタイマーカウントを開始し,
前記車載時計の時刻修正が可能な時間帯に,前記標準時刻情報取得手段が前記標準時刻に係る情報を取得できない場合において,前記時刻修正手段は,前記計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値を前記標準時刻に加算した内部基準時刻で前記車載時計の時刻を修正する,
こと。」

B 「【0017】
以下,本発明の実施の形態における車載記録装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は,本発明の実施の形態における車載記録装置の概略構成を示す模式図である。本実施形態の車載記録装置100は,主に,CPU10,GPSモジュール20,受信GPS時刻データ記録部31,計時データ記録部32,データ処理部40,カードインターフェース41,車載時計50,などで構成される。
【0019】
CPU10は,車載記録装置100のあらゆる動作を統括制御する制御部で,後述する時刻修正動作などの制御を行う。また,CPU10は,内部クロックを有し(図示省略),タイマーカウントを行う計時手段としての役割も担う。
【0020】
GPSモジュール20は,GPS衛星からの電波を受信してGPSデータを取得する。GPSデータは測位情報であるが,そのなかに現在時刻(標準時刻)情報を含み,当該時刻情報は,受信GPS時刻データ記録部31へ記録される。本実施の形態の車載記録装置100におけるGPSモジュール20は,標準時刻情報取得手段としての役割を担う。」

C 「【0022】
CPU10は,GPSモジュール20を介してGPSデータを取得すると,現在時刻情報を受信GPS時刻データ(Rt)として受信GPS時刻データ記録部31へ記録し,同時に,計時データ記録部32に記録する内部基準時刻(Gt)を受信GPS時刻データ(Rt)で置換する。
【0023】
その後,CPU10は,Rtで置換されたGtを起点として,所定周期(例えば,1秒間隔)でカウントアップを開始する(n=n+1)。カウント値を加算して更新された内部基準時刻(Gt=Gt+1)は,随時,計時データ記録部32に記録される。
【0024】
例えば,受信した現在時刻データが15:26:34(15時26分34秒)である場合,「15:26:34」が受信GPS時刻データ記録部31へ記録されると同時に,CPU10の内部クロックが1秒周期でカウントアップを開始する(n=n+1)。例えば,カウントアップ回数が3(n=3)のとき,計時データ記録部32に記録されている内部基準時刻(Gt)は,「15:26:37」となる。」

D 「【0046】
また,上記の実施の形態では,標準時刻情報取得手段としてGPSモジュール20を用いた例について説明したが,これに限定されるものではなく,車載時計50の基準となる標準時刻情報を取得可能な手段であればどのようなものであってもかまわない。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「車載時計と,
GPSデータに含まれる標準時刻に係る情報を取得し,受信GPS時刻データ記録部へ記録する標準時刻情報取得手段と,
前記標準時刻情報取得手段が取得した前記標準時刻に係る情報に基づいて,前記車載時計の時刻を修正する時刻修正手段と,
タイマーカウントを行う計時手段と,
を備えた車載記録装置であって,
前記計時手段は,直近に取得した前記標準時刻を起点とするタイマーカウントを開始し,
前記車載時計の時刻修正が可能な時間帯に,前記標準時刻情報取得手段が前記標準時刻に係る情報を取得できない場合において,前記時刻修正手段は,前記計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値を,前記受信GPS時刻データ記録部に記録されている前記標準時刻に加算した内部基準時刻で前記車載時計の時刻を修正する,
車載記録装置。」

2 引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-21882号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

E 「【0014】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
この発明の第1の実施形態は,CDMA移動通信端末において,再生有効期限が設定されたコンテンツ情報を再生する際に,基地局から放送されるシステム時刻データを受信する。そして,この受信したシステム時刻データをもとに内蔵時計を修正し,この修正された内蔵時計の計時時刻により上記コンテンツ情報の再生有効期限管理を行うようにしたものである。
【0015】
図1は,この発明に係わる情報端末装置の第1の実施形態である移動通信端末の構成を示すブロック図である。この移動通信端末MSは,基地局BSとの間の無線アクセス方式としてCDMA(Code Division Multiple Access)方式を採用したものである。」

F 「【0028】
時計19は,RTC(Real Time Clock)を用いて計時動作を行う。この時計19はユーザが手動操作により任意に時刻の修正が可能であり,さらに基地局BSから受信したシステム時刻データをもとに時刻修正が可能である。
なお,上記システム時刻データの受信は,受信チャネルをページングチャネルからシンクチャネルに一旦切り替え,基地局が送信するシンクチャネル信号を受信してこの受信されたシンクチャネル信号からシステム時刻データを抽出することにより行われる。」

G 「【0047】
以上述べたように第1の実施形態では,基地局BSからシステム時刻データを受信し,この受信したシステム時刻に基づいてコンテンツ情報の再生有効期限の判定が行われるため,上記時計19の計時誤差の影響を排除して正確な再生期限判定が可能となり,かつユーザによる意図的な計時時刻の可変の影響を排除してコンテンツ情報の不正使用を防止することができる。また,基地局BSからシステム時刻データの受信が不可能な場合においても,ユーザが時計19の計時時刻を手動修正しておらず,かつ時計19の現在時刻がシステム時刻データに基づく前回の修正時点から所定期間を経過していなければ,上記時計19の時刻とシステムの標準時刻との間に大きな誤差はないと判断され,時計19の現在時刻をもとにコンテンツ情報の有効期限の判定が行われる。したがって,システムの標準時刻データを受信できない場所にいるときにも不正使用を防止した上で,コンテンツ情報の再生を行うことができる。」

したがって,上記引用文献2には,「基地局と通信する移動通信端末は,基地局からのシステム時刻データで修正可能であってリアルタイムクロックRTCで計時される時計を備え,
基地局からの標準時刻データが受信不可能な場合において,時計の現在時刻が,基地局からのシステム時刻データに基づく前回の修正時点から所定時間経過していなければ,時計の現在時刻をもとに,コンテンツ情報の有効期限を判定する」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2012-221257号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

H 「【0004】
しかしながら,SED機能による情報漏洩防止技術では,ホスト装置と記憶装置との間の情報の流れからパスワードが読み取られる可能性があるため,改善の余地があった。また,ホスト装置と記憶装置との間でタイマを同期する技術では,両装置の接続関係を検証することが可能であるが,タイマ同期のための処理や機構が両装置で必要となる。そのため,正しい接続関係にある場合も含めて,より簡便に記憶装置のセキュリティを向上させることが可能な技術が望まれている。」

J 「【0098】
一方,前回受信時情報が記憶されていると判定した場合(ステップS162;Yes),時刻情報判定部202は,この前回受信時情報を記憶部206から読み出す(ステップS163)。次いで,時刻情報判定部202は,前回受信時情報に含まれるカウンタ値と,経過時間計測部130の現在のカウント値との差分から,前回の認証コマンドを受信してから今回の認証コマンドを受信するまでの経過時間を算出する(ステップS164)。
【0099】
続いて,時刻情報判定部202は,前回受信時情報に含まれた時刻情報にステップS164で算出した経過時間を加算し,計算時刻を導出する(ステップS165)。そして,時刻情報判定部202は,この計算時刻と入力された認証コマンドに含まれる時刻情報とを比較し,時刻情報の表す値(秒数)が,計算時刻の表す値(秒数)以上か否かを判定する(ステップS166)。
…(中略)…
【0104】
また,時刻情報が計算時刻以上の場合には(ステップS166;Yes),計算時間と時刻情報との時間的な関係に不整合が生じないため,時刻情報判定部202は正当(整合)と判断する。そして,時刻情報判定部202は,今回受信した認証コマンドに含まれる時刻情報と,この認証コマンドを受信した時の経過時間計測部130のカウンタ値とを対応付け,前回受信時情報として記憶部206に記憶し(ステップS168),図8のステップS17に移行する。」

したがって,上記引用文献3には,「装置間で,タイマを同期させる代わりに,前回受信した時刻情報と,受信時の経過時間計測部のカウンタ値を対応付けて記憶部に記憶しておき,
記憶されたカウンタ値と,経過時間計測部の現在のカウンタ値との差分から経過時間を算出し,
記憶された受信時刻情報に経過時間を加算して計算時刻を導出する」という技術的事項が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「車載記録装置」は,“電子機器”の一態様であり,「標準時刻に係る情報」含む「GPSデータ」を取得することから,“外部からデータを受信する電子機器”であるといえ,一方,本願発明1の「電話通信用のネットワークと通信する電子機器」は,「電話通信用のネットワーク」である“外部”からデータを受信するとみることができる。
そうすると,引用発明の「車載記録装置」は本願発明1の「電子機器」に対応し,両者は,後記する点で相違するものの,“外部からデータを受信する電子機器”である点で共通するといえる。

イ 引用発明の「車載時計」は,「車載記録装置」においてリアルタイムに時刻を計測する手段であることは明らかであるから,本願発明1の「リアルタイムクロック」に相当するといえる。

ウ 引用発明の「標準時刻情報取得手段」は,「GPSデータに含まれる標準時刻に係る情報を取得し,受信GPS時刻データ記録部へ記録する」ところ,時刻データを取得して記録することから,本願発明1の「記憶制御部」に対応し,引用発明の「受信GPS時刻データ記録部」は本願発明1の「記憶部」に相当する。
また,引用発明の「標準時刻」は,「車載時計」の時刻を設定するための外部から取得される基準時刻とみることができるから,引用発明の「標準時刻」と,本願発明1の「ネットワーク時刻」とは,上位概念では,“外部基準時刻”である点で共通するといえ,引用発明では,「受信GPS時刻データ記録部」に記録された「標準時刻に係る情報」は,次回取得された時に新たな「標準時刻に係る情報」に置き換えられると解される。
そうすると,引用発明の「標準時刻情報取得手段」は,“外部から,現在時刻を示す外部基準時刻が取得されるたびに,取得された前記外部基準時刻を過去に記憶した前記外部基準時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する”といえる。
一方,本願発明1の「記憶制御部」は,「ネットワークから,現在時刻を示すネットワーク時刻が取得されるたびに,…(中略)… 取得された前記ネットワーク時刻を過去に記憶した前記ネットワーク時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する」ことから,“外部から,現在時刻を示す外部基準時刻が取得されるたびに,取得された前記外部基準時刻を過去に記憶した前記外部基準時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する”とみることができる。
したがって,引用発明の「標準時刻情報取得手段」は本願発明1の「記憶制御部」に対応し,両者は,後記する点で相違するものの,“外部から,現在時刻を示す外部基準時刻が取得されるたびに,取得された前記外部基準時刻を過去に記憶した前記外部基準時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する記憶制御部”である点で共通するといえる。

エ 引用発明の「時刻修正手段」は,「標準時刻情報取得手段が取得した前記標準時刻に係る情報に基づいて,前記車載時計の時刻を修正」し,「計時手段は,直近に取得した前記標準時刻を起点とするタイマーカウントを開始し,…(中略)… 計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値を,前記受信GPS時刻データ記録部に記録されている前記標準時刻に加算した内部基準時刻で前記車載時計の時刻を修正する」ところ,“外部基準時刻”である「標準時刻」に基づいて時刻を推定しているとみることができるから本願発明1の「推定部」に対応し,引用発明の「受信GPS時刻データ記録部」は本願発明1の「記憶部」に相当する。
そして,引用発明では,「計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値」を「受信GPS時刻データ記録部に記録されている前記標準時刻」に加算して,「内部基準時刻」を算出していることから,加算される「計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値」は,「直近に取得した前記標準時刻を起点とする」ものであって,足し合わされる“記憶部内の外部基準時刻からの経過時間”といえ,推定される「内部基準時刻」は,“現在の外部基準時刻”とみることができる
そうすると,引用発明の「時刻修正手段」は,“現在の外部基準時刻を推定する推定部”であって,“前記推定部は,現在の外部基準時刻を推定するとき,前記記憶部内の前記外部基準時刻からの経過時間を,前記記憶部内の前記外部基準時刻に足し合わせ,それによって得られる時刻を現在の外部基準時刻とする”といえる。
一方,本願発明1の「推定部」は,「現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする」ところ,「取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間」は“記憶部内の外部基準時刻からの経過時間”といえ,「現在のネットワーク時刻」である「第3時刻」は,“現在の外部基準時刻”とみることができるから,本願発明1の「推定部」は,“現在の外部基準時刻を推定するとき,前記記憶部内の前記外部基準時刻からの経過時間を,前記記憶部内の前記外部基準時刻に足し合わせ,それによって得られる時刻を現在の外部基準時刻とする”といえる。
してみると,引用発明の「時刻修正手段」は本願発明1の「推定部」に対応し,両者は,後記する点で相違するものの,“現在の外部基準時刻を推定する推定部”であって,“前記推定部は,現在の外部基準時刻を推定するとき,前記記憶部内の前記外部基準時刻からの経過時間を,前記記憶部内の前記外部基準時刻に足し合わせ,それによって得られる時刻を現在の外部基準時刻とする”点で共通するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「外部からデータを受信する電子機器であって,
時刻を計測するリアルタイムクロックと,
記憶部と,
外部から,現在時刻を示す外部基準時刻が取得されるたびに,取得された前記外部基準時刻を過去に記憶した前記外部基準時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する記憶制御部と,
現在の外部基準時刻を推定する推定部と,
を備え,
前記推定部は,現在の外部基準時刻を推定するとき,前記記憶部内の前記外部基準時刻からの経過時間を,前記記憶部内の前記外部基準時刻に足し合わせ,それによって得られる時刻を現在の外部基準時刻とする,電子機器。」

(相違点)
(相違点1)
外部との通信に関し,本願発明1は,「電話通信用のネットワークと通信する電子機器」であるのに対して,
引用発明は,「GPSデータ」を受信する「車載記録装置」であるものの,外部のネットワークと通信することは特定されていない点。

(相違点2)
外部基準時刻の取得時の記憶制御に関し,本願発明1では,「ネットワークから,現在時刻を示すネットワーク時刻が取得されるたびに,前記リアルタイムクロックでの第1時刻を取得し,取得した前記第1時刻を過去に記憶した前記第1時刻に置き換えて前記記憶部に記憶するとともに,取得された前記ネットワーク時刻を過去に記憶した前記ネットワーク時刻に置き換えて前記記憶部に記憶する」のに対して,
引用発明では,外部基準時刻(標準時刻に係る情報)が取得されるたびに,取得された外部基準時刻(標準時刻に係る情報)を過去に記憶したものと置き換えて記憶するものの,リアルタイムクロック(車載時計)での第1時刻を取得し,過去に記憶した前記第1時刻に置き換えて記憶することについては言及されていない点。

(相違点3)
現在の外部基準時刻の推定に関し,本願発明1では,「現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする」のに対して,
引用発明では,直近に取得した外部基準時刻(標準時刻)を起点としてタイマーカウントしたタイマーカウント値を,記憶部(受信GPS時刻データ記録部)に記録されている外部基準時刻(標準時刻)に加算して現在の外部基準時刻(内部基準時刻)を算出する点。

(相違点4)
ライセンスの許諾期間の管理に関し,本願発明1では,「判定部」が「推定部で推定された現在のネットワーク時刻に基づいて,前記電子機器に対して付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する」のに対して,
引用発明では,算出された現在の外部基準時刻(内部基準時刻)をライセンスの許諾期間の管理に使用することについて言及されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点3について
事案に鑑みて,上記相違点3を先に検討すると,現在の外部基準時刻の推定に関し,引用発明では,「計時手段は,直近に取得した前記標準時刻を起点とするタイマーカウントを開始し,前記車載時計の時刻修正が可能な時間帯に,前記標準時刻情報取得手段が前記標準時刻に係る情報を取得できない場合において,前記時刻修正手段は,前記計時手段がタイマーカウントしたタイマーカウント値を,前記受信GPS時刻データ記録部に記録されている前記標準時刻に加算した内部基準時刻」を算出するところ,記憶部に記憶された外部基準時刻からの経過時間を,車載時計とは別の計時手段によりタイマーカウントするといえる。
そして,引用発明では,車載時計の誤差が大きいことを課題とし,受信GPS時刻データ記録部に記録された標準時刻からの経過時間をタイマカウントするための手段を別途に設けたと解されることから,現在の外部基準時刻を推定するときに,記憶部に記憶された外部基準時刻からの経過時間を,現在のリアルタイムクロックでの第2時刻を取得して,取得した前記第2時刻から,外部基準時刻を記憶部に記憶したときに同時に記憶したリアルタイムクロックでの第1時刻を差し引いて得られる時間により算出することの動機付けがあるとはいえない。
また,現在の外部基準時刻を推定するために,直前に受信した外部基準時刻を記憶したときに,同時にリアルタイムクロックでの第1時刻を記憶しておき,記憶された外部基準時刻からの経過時間を,現在のリアルタイムクロックの第2時刻から,第1時刻を差し引いて得られる時間により算出する旨の技術は,上記引用文献1-3には記載されておらず,本願出願前に当該技術分野において周知技術であったとまではいえず,記憶された外部基準時刻からの経過時間をリアルタイムクロックの時刻に基づき算出するか,経過時間をタイマカウントするための計時手段を別途設けるかは,当業者が適宜に選択し得た設計的事項であるとすることはできない。
そうすると,引用発明において,現在のネットワーク時刻を推定するとき,リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,記憶部内の第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内のネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とすること,すなわち,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

イ まとめ
上記相違点1,2,4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の
「現在のネットワーク時刻を推定する推定部」であって,「前記推定部は,現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする」(以下,「相違点3に係る構成」という。)
と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5は,本願発明1に対応する「電子機器の動作方法」の発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,本願発明1の「相違点3に係る構成」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-5について上記引用文献1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかしながら,平成30年5月28日付け手続補正により補正された請求項1,5は,それぞれ
「現在のネットワーク時刻を推定する推定部」であって,「前記推定部は,現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする」こと,前記「推定部」に対応する構成を有するものとなっており,
上記のとおり,本願発明1-5は,引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
<特許法第36条第6項第2号について>
(1)当審では,請求項1の「リアルタイムクロック」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年5月28日付けの手続補正により,「時刻を計測するリアルタイムクロック」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項1を引用する請求項2-4についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。
さらに,請求項1に対応する請求項5についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項1の「現在時刻を推定する推定部」および「前記推定部で推定された現在時刻に基づいて,前記電子機器に対して付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する判定部とを備え,
前記推定部は,現在時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在時刻とする,」における「現在時刻」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年5月28日付けの手続補正により,
「現在のネットワーク時刻を推定する推定部」および「前記推定部で推定された現在のネットワーク時刻に基づいて,前記電子機器に対して付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する判定部とを備え,
前記推定部は,現在のネットワーク時刻を推定するとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻を取得し,取得した前記第2時刻から,前記記憶部内の前記第1時刻を差し引いて得られる時間を,前記記憶部内の前記ネットワーク時刻に足し合わせ,それによって得られる第3時刻を現在のネットワーク時刻とする,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項1を引用する請求項2-4についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

(3)当審では,請求項5の「現在時刻を推定する第2工程」および「前記第2工程で推定された現在時刻に基づいて,前記電子機器に対して付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する第3工程とを備え,
前記第2工程において,現在時刻が推定されるとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻が取得され,取得された前記第2時刻から,前記第1工程で記憶された前記第1時刻を差し引いて得られる時間が,前記第1工程で記憶された前記ネットワーク時刻に足し合わされ,それによって得られる第3時刻が現在時刻とされる,」における「現在時刻」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年5月28日付けの手続補正により,
「現在のネットワーク時刻を推定する第2工程」および「前記第2工程で推定された現在のネットワーク時刻に基づいて,前記電子機器に対して
付与されたライセンスにおける許諾期間が満了しているか否かを判定する第3工程とを備え,
前記第2工程において,現在のネットワーク時刻が推定されるとき,前記リアルタイムクロックでの第2時刻が取得され,取得された前記第2時刻から,前記第1工程で記憶された前記第1時刻を差し引いて得られる時間が,前記第1工程で記憶された前記ネットワーク時刻に足し合わされ,それによって得られる第3時刻が現在のネットワーク時刻とされる,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(4)当審では,請求項3の「前記推定部が前記現在時刻を推定したとしても,OS時刻を前記表示部に表示させる,」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年5月28日付けの手続補正により,「前記推定部が前記現在のネットワーク時刻を推定したとしても,リアルタイムクロックが計測する時刻またはネットワーク時刻,に基づき更新されるOS時刻を前記表示部に表示させる,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項3を引用する請求項4についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-5は,当業者が引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2015-143056(P2015-143056)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸島 弘詩脇岡 剛圓道 浩史  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 須田 勝巳
辻本 泰隆
発明の名称 電子機器及び電子機器の動作方法  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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