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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04Q
管理番号 1341621
審判番号 不服2016-18754  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-13 
確定日 2018-06-21 
事件の表示 特願2011-148749「基地局装置、移動局装置、処理方法及び集積回路」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日出願公開、特開2013- 17060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年7月5日の出願であって、平成26年7月3日に手続補正され、平成27年7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年4月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月9日付けで補正の却下の決定がされ、同日付けで拒絶査定されたところ、同年12月13日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。その後当審において平成30年1月4日付けで拒絶理由が通知され、同年2月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年2月20日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「 移動局装置に複数セルを割り当て、通信中に前記移動局装置がランダムアクセス情報を使用してランダムアクセスプリアンブルを送信し、前記移動局装置からの前記ランダムアクセスプリアンブルを検出する基地局装置であって、
前記複数セルの中のただ1つのセルであるプライマリセルに対する設定情報に、競合ベースのランダムアクセス手順で使用される第一のランダムアクセス情報を含め、
前記複数セルから前記プライマリセルを除いた残りの少なくとも1つのセカンダリセルの中のあるセカンダリセルに対する設定情報に、前記競合ベースのランダムアクセス手順のみで使用される特定のパラメータ群を含めずに、非競合ベースのランダムアクセス手順で使用される第二のランダムアクセス情報を含めて、前記移動局装置に送信するように構成され、
前記複数セルを構成する各セルは、前記プライマリセルを含む第一のセルグループとセカンダリセルのみで構成される第二のセルグループとを含む複数のセルグループのいずれかに属し、
前記少なくとも1つのセカンダリセルの各々が前記複数のセルグループのうちのどのセルグループに属するかを示す情報を、前記移動局装置に送信するように構成され、
前記第一のランダムアクセス情報は、ランダムアクセスプリアンブル生成のために使用されるCAZACシーケンスの番号情報およびランダムアクセスチャネルRACHの配置情報から構成されるランダムアクセスチャネル設定情報、ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報、ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報、及び、ランダムアクセスレスポンス受信に関する情報、並びに、前記特定のパラメータ群である、ランダムプリアンブル数もしくはランダムプリアンブルのグループ情報のランダムプリアンブルを選択もしくは生成するための情報から構成されるランダムプリアンブル設定情報、コンテンションレゾリューション受信に関する情報、及び、メッセージ3送信に関する情報を含み、
前記第二のランダムアクセス情報は、前記ランダムアクセスチャネル設定情報、前記ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報および前記ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報を含んでいる、ことを特徴とする基地局装置。」


第3 拒絶の理由

平成30年1月4日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1?7に対して
・引用文献:1?5(引用文献等については、引用文献等一覧参照。)
<引用文献等一覧>
1.特開2011-124713号公報
2.Panasonic,RACH on SCell for supporting Multiple Timing Advance[online],3GPP TSG-RAN WG2#74 R2-112806,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_74/Docs/R2-112806.zip>,2011年5月2日
3.Nokia Siemens Networks, Nokia Corporation,Multiple TA[online],3GPP TSG-RAN WG2#74 R2-112945,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_74/Docs/R2-112945.zip>,2011年5月3日
4.特開2011-35860号公報
5.Huawei,E-UTRAN TDD Random access test case[online],3GPP TSG RAN WG4♯50bis R4-091143,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_50bis/Documents/R4-091143.zip>,2009年3月19日


第4 引用発明と公知技術

1.引用発明
当審から通知した拒絶理由に引用された特開2011-124713号公報(平成23年6月23日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、移動局装置、無線リンク状態管理方法及び集積回路に関し、特に、移動局装置が複数の周波数帯域を用いて基地局装置と無線接続している場合の無線リンク状態管理方法に関する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0003】
Advanced EUTRAでは、EUTRAとの互換性を維持しつつ、より高速なデータ伝送が可能な技術として、キャリア・アグリゲーション(Carrier Aggregation)が提案されている。キャリア・アグリゲーションとは、複数の異なる周波数帯域(キャリア周波数、コンポーネントキャリア(Component Carrier)とも称する)で送信された送信装置のデータを、異なる周波数帯域に対応する受信装置においてそれぞれ受信することで、データレートを向上させる技術である。なお、以後は下りリンク送信における受信装置のことを移動局装置、送信装置のことを基地局装置と記載し、上りリンク送信における受信装置のことを基地局装置、上りリンク送信における送信装置のことを移動局装置と記載するが、本発明の適用範囲はこれらの装置に限定する必要は無い。」(下線は当審で付加した。以下同様。)

イ.「【0045】
ランダムアクセスチャネル(PRACH; Physical Random Access Channel)は、プリアンブル系列を通知するために使用されるチャネルであり、ガードタイムを持つ。ランダムアクセスチャネルは、移動局装置の基地局装置へのアクセス手段として用いられる。移動局装置は、上りリンク制御チャネル未設定時の送信データのスケジューリング要求や、上りリンク送信タイミングを基地局装置の受信タイミングウィンドウに合わせるために必要な送信タイミング調整情報の要求にランダムアクセスチャネルを用いる。送信タイミング調整情報を受信した移動局装置は、送信タイミング調整情報の有効時間を設定し、有効時間中は送信タイミング調整状態、有効期間外は、送信タイミング非調整状態となる。なお、それ以外の物理チャネルは、本発明の各実施形態に関わらないため詳細な説明は省略する。
・・・・・・
【0051】
移動局装置は基地局装置に対して何れかのランダムアクセスチャネルの送信理由が発生した場合に、ランダムに選択したプリアンブル系列、または基地局装置が割り当てたプリアンブル系列を、ランダムアクセスチャネルを用いて基地局装置へと送信する。このとき、基地局装置がランダムアクセスチャネルを識別できないなどの理由で一定時間内に基地局装置からランダムアクセスチャネルに対する応答が返ってこない場合、移動局装置は、再びランダムアクセスチャネルを送信する。移動局装置は、ランダムアクセスチャネルの送信回数をカウントし、送信回数が規定値(最大送信回数)を超えた場合に上りリンクの品質劣化を示すランダムアクセス問題が検出されたと判定する。なお、移動局装置はランダムアクセス問題を検出しても、ランダムアクセスの停止などの指示が出されるまでは基地局装置に対して同じパラメータでランダムアクセスチャネルを送信し続ける。ランダムアクセスの停止の指示は、典型的にはRRCからMACに対して行なわれる。
・・・・・・
【0055】
・・・・・基地局装置2の送信装置によって制御される各周波数帯域の通信可能範囲はセルとしてみなされ、空間的に同一のエリアに存在する。このとき、各周波数帯域がカバーするエリア(セル)はそれぞれ異なる広さ、異なる形状であっても良い。
【0056】
ただし、後述する記載において、基地局装置2が形成するコンポーネントキャリアの周波数でカバーされるエリアのことをそれぞれセルと称して説明するが、これは実際に運用される通信システムにおけるセルの定義とは異なる可能性があることに注意する。例えば、ある通信システムでは、キャリア・アグリゲーションによって用いられるコンポーネントキャリアの一部のことを、セルではなく単なる追加の無線リソースと定義するかもしれない。本発明でコンポーネントキャリアをセルと称することで、実際に運用される通信システムにおけるセルの定義と異なる場合が発生したとしても、本発明の主旨には影響しない。なお、移動局装置1は、リレー局装置(またはリピーター)を介して基地局装置2と無線接続されても良い。」

ウ.「【0065】
また、送信に先立ち、上位レイヤ110より制御部105へ移動局装置制御情報が入力され、送信に関する移動局装置制御情報が送信制御情報として、ランダムアクセス処理部106、符号部107、変調部108、送信部109へ適切に入力される。送信制御情報は、送信信号の上りリンクスケジューリング情報として、符号化情報、変調情報、送信周波数帯域の情報、各チャネルに関する送信タイミング、多重方法、無線リソース配置情報などの情報が含まれている。ランダムアクセス処理部106には、上位レイヤ110からランダムアクセスの無線リソース情報や最大送信回数などのランダムアクセスチャネルの送信に必要なランダムアクセス情報が入力される。また、ランダムアクセス処理部106は、ランダムアクセスチャネルの送信回数をカウントすることで、ランダムアクセス問題を検出した場合、ランダムアクセス問題が発生したことを示すランダムアクセス問題情報を上位レイヤ110へ通知する。符号部107には、上位レイヤ110より上りリンクトラフィックデータと上りリンク制御データ、ランダムアクセス処理部106からランダムアクセスデータとが入力される。符号部107は送信制御情報に従い、各データを適切に符号化し、変調部108に出力する。変調部108は、符号部107からの入力を変調する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0076】
基地局装置2は、移動局装置1に対して、下りリンクコンポーネントキャリア毎に物理レイヤ問題の検出に用いる下りリンク状態判定情報を設定することも出来る。典型的には、基地局装置2は、移動局装置1に下りリンク制御チャネルの監視を指示した下りリンクコンポーネントキャリアに対してのみ下りリンク状態判定情報を設定する。また、基地局装置2は、移動局装置1に対して、上りリンクコンポーネントキャリア毎にランダムアクセス情報を設定することも出来る。典型的には、基地局装置2は、移動局装置1に設定した上りリンク送信タイミングが異なる上りリンクコンポーネントキャリアのグループ毎に、少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定する。」

エ.「【0124】
また、移動局装置1は、基地局装置2から設定された上りリンクコンポーネントキャリアのうち、一つを特別な上りリンクコンポーネントキャリアとして設定する。ここで、当該上りリンクコンポーネントキャリアのことを上りリンクアンカーキャリアと称する。上りリンクアンカーキャリアは、基地局装置2から移動局装置1に対して個別に設定されても良いし、移動局装置1に設定された上りリンクコンポーネントキャリアのうち、受信確認情報(ACK/NACK)などを送信するための上りリンク制御チャネルの設定がされている上りリンクコンポーネントキャリアとして設定されても良い。」


上記ア.?エ.の記載並びに当業者の技術常識を考慮すると、

a.上記ア.の【0001】によれば、引用例1には移動局装置と複数の周波数帯域を用いて無線接続する基地局装置について記載されているといえる。ここで、複数の周波数帯域を用いて無線接続するとは、【0003】をみれば、複数のコンポーネントキャリアを用いたキャリア・アグリゲーションであることは明らかである。
また、上記エ.に記載されているように、基地局装置が移動局装置のコンポーネントキャリアを設定することは技術常識である。
したがって、基地局装置は、移動局装置にキャリア・アグリゲーションに使用する複数のコンポーネントキャリアを設定しているといえる。

b.上記ウ.の【0065】によれば、ランダムアクセス情報はランダムアクセスの無線リソース情報や最大送信回数などのランダムアクセスチャネルの送信に必要な情報であるから、ランダムアクセス情報を利用してランダムアクセスチャネルの送信を行っているということができる。ここで、上記イ.に記載されているように、ランダムアクセスチャネルを用いてプリアンブル系列が移動局装置から基地局装置に送信されることを踏まえれば、移動局装置がランダムアクセス情報を利用してプリアンブル系列を基地局装置に送信しているといえる。
そして、上記イ.の【0051】に「基地局装置がランダムアクセスチャネルを識別できないなどの理由で・・・」と記載されていることから、プリアンブル系列は基地局装置において識別されることを前提としていることが明らかである。

c.上記ウ.の【0076】によれば、基地局装置は、移動局装置に対して上りコンポーネントキャリア毎にランダムアクセス情報を設定するにあたり、移動局装置に設定した上りリンク送信タイミングが異なる上りリンクコンポーネントキャリアのグループ毎に、少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定している。

以上を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 移動局装置に、キャリア・アグリゲーションに使用する複数のコンポーネントキャリアを設定する基地局装置であって、前記移動局装置がランダムアクセス情報を利用してプリアンブル系列を基地局装置に送信し、前記プリアンブル系列は基地局装置において識別され、
前記移動局装置に設定した上りリンク送信タイミングが異なる上りリンクコンポーネントキャリアのグループ毎に、少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定する、基地局装置。」


2.公知技術
(1)公知技術1
当審から通知した拒絶理由に引用された、「Panasonic,RACH on SCell for supporting Multiple Timing Advance[online],3GPP TSG-RAN WG2#74 R2-112806,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_74/Docs/R2-112806.zip>,2011年5月2日アップロード」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「1 Introduction
In the last RAN2 meeting, discussion on Multiple Timing Advance started as part of the Work Item on Carrier Aggregation Enhancements for Rel-11.
It was decided that work in RAN2 will be based on a RACH on SCell solution for supporting multiple TAs. This contribution discusses some of the properties of RACH on SCell that need to be decided in RAN2.
2 Discussion
2.1 RACH procedures on SCell for TA group support
In order to measure the correct timing advance it was decided in the last meeting that RACH procedure is supported on SCell. Following the proposal to introduce timing advance (TA) groups [1], in order to measure the timing advance for each TA group at least one cell in a TA group needs to support RACH procedure. Which cell supports RACH procedure is indicated by eNB.
Proposal 1: There is at least one cell per TA group supporting RACH procedure. eNB indicates the cells that support RACH procedure to UE.
・・・・・・・・・
A further simplification can be to limit the number of cells supporting RACH procedure to only one per TA group.
・・・・・・・・・
The TA group that includes the PCell is excluded from above behaviour. PCell-TA group follows Rel-10 behaviour, contention-based RACH procedure is only allowed on PCell.
Proposal 2: Only non-contention based RACH procedure following a PDCCH with RACH order is allowed in a TA group not containing PCell.」(当審訳:1 はじめに
前回のRAN2会議では、複数タイミング・アドバンスに関する議論が、Rel-11のキャリアアグリゲーション強化に関する作業項目の一部として開始された。
RAN2での作業は、複数TAをサポートするためのSCellソリューション上のRACHに基づいて行われることが決定された。この寄稿は、RAN2で決定される必要のあるSCell上のRACHの特性のいくつかについて論じている。
2 討論
2.1 TAグループサポートのためのSCellにおけるRACH手続き
正しいタイミング・アドバンスを測定するために、RACH手順がSCellでサポートされることが前回の会議で決められた。タイミング・アドバンス(TA)グループ[1]を導入する提案に続いて、各TAグループのタイミング・アドバンスを測定するために、TAグループ内の少なくとも1つのセルがRACH手順をサポートする必要がある。どのセルがRACH手順をサポートするかは、eNBによって示される。
提案1:TAグループごとに少なくとも1つのRACH手順をサポートするセルがある。eNBは、UEに対してRACH手順をサポートするセルを示す。
・・・・・・・・・
さらに単純化すると、RACH手順をサポートするセルの数をTAグループごとに1つに制限できる。
・・・・・・・・・
PCellを含むTAグループは上記の動作から除外される。 PCell-TAグループはRel-10動作に従い、競合ベースのRACH手順はPCellにおいてのみ許可される。
提案2:PCellを含まないTAグループにおいて、RACHオーダーを伴うPDCCHに続く非競合ベースのRACH手順のみが許可される。)

上記摘記事項及び当業者の技術常識によれば、次の事項が公知であると認められる(以下、「公知技術1」という)。

(公知技術1)
「キャリアアグリゲーションの強化策として、複数のTAグループをサポートし、TAグループ毎に1つのセルがRACH手順をサポートするものにおいて、PCellを含むTAグループでは、競合ベースのRACH手順がPCellに許可され、PCellを含まないTAグループでは、非競合ベースのRACH手順がSCellに許可される。」


(2)公知技術2
当審から通知した拒絶理由に引用された特開2011-35860号公報(平成23年2月17日出願公開。以下、「引用例3」という。)には以下の事項が記載されている。
「【0056】
スケジューリング部109は、ULスケジューリング部121、制御データ解析部119、制御データ作成部117、ランダムアクセス管理部123から構成され、制御データ作成部117は、制御データを作成し、制御データ抽出部111が受信した下りリンクのデータの応答を作成する。制御データ解析部119は、制御データ抽出部111からのデータを解析し、上りリンクデータのスケジューリング情報はULスケジューリング部121に渡し、基地局装置3から報知されるランダムアクセスに関する情報(ランダムアクセスチャネルRACHの位置、シーケンス情報、シーケンスグループに関する情報等)や基地局装置3からのランダムアクセス指示情報やランダムアクセスレスポンスのメッセージ内容をランダムアクセス管理部123およびランダムアクセスプリアンブル生成部113に渡す。ULスケジューリング部121は、上りリンクデータのスケジューリング情報をもとに送信データ制御部107を制御する。また、上位層からのスケジューリング情報を元にランダムアクセス管理部にランダムアクセスを指示する。」

上記摘記事項によれば、引用例3には次の事項(以下、「公知技術2」という。)について記載されているものと認められる。

(公知技術2)
「基地局装置から報知されるランダムアクセスに関する情報として、ランダムアクセスチャネルRACHの位置、及びシーケンス情報があること。」

(3)公知技術3
当審から通知した拒絶理由に引用された「Huawei,E-UTRAN TDD Random access test case[online],3GPP TSG-RAN WG4 #50bis R4-091143,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_50bis/Documents/R4-091143.zip>,2009年3月19日アップロード」(以下、「引用例4」という。)には以下の事項が記載されている。

「UE parameter values for random access:
The necessary values for contention based random access parameters: numberOfRA-Preambles, sizeOfRA-PreamblesGroupA, ra-ResponseWindowSize, PREAMBLE_TRANS_MAX,PREAMBLE_ INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER, POWER_RAMP_STEP, mac-ContentionResolutionTimer, maxHARQ-Msg3Tx,Pmax, which are defined in TS 36.331 and sent via system information or RRC message, are also defined in table A.6.2.1.1.1-2. In addition, the parameter Backoff Indicator subheader is indicated by MAC.
The necessary values for non-contention based random access parameters: ra-ResponseWindowSize, PREAMBLE_TRANS_MAX, PREAMBLE_ INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER, POWER_RAMP_STEP, Pmax, which are defined in TS 36.331and sent via system information or RRC message, are also defined in table A.6.2.1.1.2-2.」(当審訳:ランダムアクセスのためのUEパラメータ値:
競合ベースのランダムアクセスパラメータとして必要な値:numberOfRA-Preambles、sizeOfRA-PreamblesGroupA、ra-ResponseWindowSize、PREAMBLE_TRANS_MAX、PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER、POWER_RAMP_STEP、mac-ContentionResolutionTimer、maxHARQ-Msg3Tx、Pmax、これらはTS 36.331で定義され、システム情報又はRRCメッセージ経由で送信され、表A.6.2.1.1.1-2にも定義されている。さらに、パラメータBackoff Indicator subheaderはMACによって示される。
非競合ベースのランダムアクセスパラメータとして必要な値:ra-ResponseWindowSize、PREAMBLE_TRANS_MAX、PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER、POWER_RAMP_STEP、Pmax、これらはTS 36.331で定義され、システム情報又はRRCメッセージを介して送信され、表A.6.2.1.1.2-2にも定義されている。)

上記摘記事項によれば、引用例4には次の事項(以下、「公知技術3」という。)が記載されているものと認められる。

(公知技術3)
「E-UTRANのランダムアクセスにおいて、競合ベースのランダムアクセスパラメータとして、numberOfRA-Preambles、sizeOfRA-PreamblesGroupA、ra-ResponseWindowSize、PREAMBLE_TRANS_MAX、PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER、POWER_RAMP_STEP、mac-ContentionResolutionTimer、maxHARQ-Msg3Tx、Pmaxがあること。非競合ベースのランダムアクセスパラメータとして、ra-ResponseWindowSize、PREAMBLE_TRANS_MAX、PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER、POWER_RAMP_STEP、Pmaxがあること。」


第5 対比・判断
本願発明を引用発明と対比すると、

a.本願明細書の【0005】に「1つの下りリンクのコンポーネントキャリアと1つの上りリンクのコンポーネントキャリアを組み合わせて1つのセルを構成する。」と記載されていること踏まえれば、引用発明のキャリア・アグリゲーションに使用する「複数のコンポーネントキャリア」は本願発明の「複数セル」に相当する。
また、引用発明におけるランダムアクセス情報を利用して送信される「プリアンブル系列」は、本願発明の「ランダムアクセスプリアンブル」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「移動局装置に、キャリア・アグリゲーションに使用する複数のコンポーネントキャリアを設定する」ことは、本願発明の「移動局装置に複数セルを割り当て」ることと一致する。また、引用発明の「前記移動局装置がランダムアクセス情報を利用してプリアンブル系列を基地局装置に送信し、前記プリアンブル系列は基地局装置において識別される」ことは、通信中に適宜ランダムアクセスすることも可能であることも踏まえれば、本願発明の「通信中に前記移動局装置がランダムアクセス情報を使用してランダムアクセスプリアンブルを送信し、前記移動局装置からの前記ランダムアクセスプリアンブルを検出する」ことに相当する。

b.引用発明は、キャリア・アグリゲーションを行っているから、本願発明の「ただ1つのセルであるプライマリセル」に相当するコンポーネントキャリアと、その残りのセルであるセカンダリセルに対応するコンポーネントキャリアを有していることは、技術常識に照らして明らかである。
そして、引用発明は、リンクコンポーネントキャリアのグループ毎に少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定しているところ、設定したランダムアクセス情報は、移動局装置がランダムアクセス手順に使用できるよう、移動局装置に送信されるものと解されるから、本願発明とは「複数セルの中のただ1つのセルであるプライマリセルに対する設定情報に、ランダムアクセス手順で使用されるランダムアクセス情報を含め、前記複数セルから前記プライマリセルを除いた残りの少なくとも1つのセカンダリセルの中のあるセカンダリセルに対する設定情報に、ランダムアクセス手順で使用されるランダムアクセス情報を含めて、前記移動局装置に送信する」構成を有する点で共通する。

c.本願発明における複数のセルグループは、本願明細書【0076】を参照すれば送信タイミングを同じとするセルのグループであるから、引用発明における「上りリンク送信タイミングが異なる上りリンクコンポーネントキャリアのグループ」に相当する。
そして、上述したように引用発明のコンポーネントキャリアは、ただ1つのセルであるプライマリセルに相当するコンポーネントキャリアと、その残りのセルであるセカンダリセルに対応するコンポーネントキャリアから構成されていることを踏まえれば、引用発明と本願発明とは「前記複数セルを構成する各セルは、前記プライマリセルを含む第一のセルグループとセカンダリセルのみで構成される第二のセルグループとを含む複数のセルグループのいずれかに属」する構成を有する点で共通するといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 移動局装置に複数セルを割り当て、通信中に前記移動局装置がランダムアクセス情報を使用してランダムアクセスプリアンブルを送信し、前記移動局装置からの前記ランダムアクセスプリアンブルを検出する基地局装置であって、
前記複数セルの中のただ1つのセルであるプライマリセルに対する設定情報に、ランダムアクセス手順で使用されるランダムアクセス情報を含め、
前記複数セルから前記プライマリセルを除いた残りの少なくとも1つのセカンダリセルの中のあるセカンダリセルに対する設定情報に、ランダムアクセス手順で使用されるランダムアクセス情報を含めて、前記移動局装置に送信するように構成され、
前記複数セルを構成する各セルは、前記プライマリセルを含む第一のセルグループとセカンダリセルのみで構成される第二のセルグループとを含む複数のセルグループのいずれかに属する、
基地局装置。」

(相違点1)
本願発明では、「プライマリセルに対する設定情報に、競合ベースのランダムアクセス手順で使用される第一のランダムアクセス情報を含め」、「セカンダリセルに対する設定情報に、前記競合ベースのランダムアクセス手順のみで使用される特定のパラメータ群を含めずに、非競合ベースのランダムアクセス手順で使用される第二のランダムアクセス情報を含め」、
当該「第一のランダムアクセス情報」及び「第二のランダムアクセス情報」に関し、本願発明では「前記第一のランダムアクセス情報は、ランダムアクセスプリアンブル生成のために使用されるCAZACシーケンスの番号情報およびランダムアクセスチャネルRACHの配置情報から構成されるランダムアクセスチャネル設定情報、ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報、ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報、及び、ランダムアクセスレスポンス受信に関する情報、並びに、前記特定のパラメータ群である、ランダムプリアンブル数もしくはランダムプリアンブルのグループ情報のランダムプリアンブルを選択もしくは生成するための情報から構成されるランダムプリアンブル設定情報、コンテンションレゾリューション受信に関する情報、及び、メッセージ3送信に関する情報を含み、
前記第二のランダムアクセス情報は、前記ランダムアクセスチャネル設定情報、前記ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報および前記ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報を含んでいる」のに対して、引用発明ではプライマリセルとセカンダリセルにどのようなランダムアクセス情報が設定されるか特定がない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記少なくとも1つのセカンダリセルの各々が前記複数のセルグループのうちのどのセルグループに属するかを示す情報を、前記移動局装置に送信するように構成され」るのに対して、引用発明では当該特定がない点。


上記相違点1について検討する。
引用発明では「上りリンクコンポーネントキャリアのグループ毎に、少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定」している。ここで、上記「第4 2.(1)」において公知技術1としたように、複数のTAグループ(引用発明における「上りリンクコンポーネントキャリアのグループ」に対応。必要であれば引用例2の「4. Reference」に示された「R2-112819」(Panasonic, Time Alignment in case of multiple TA[online], 3GPP TSG-RAN WG2 Meeting #74, R2-112819, インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/wg2_rl2/tsgr2_74/Docs/R2-112819.zip>,2011年5月2日アップロード)を参照。)をサポートし、TAグループ毎に1つのセルがRACH手順をサポートするものにおいて、RACH手順の設定を、「PCellを含むTAグループでは、競合ベースのRACH手順がPCellに許可され、PCellを含まないTAグループでは、非競合ベースのRACH手順がSCellに許可される。」技術は公知である。
また、公知技術2としたように「基地局装置から報知されるランダムアクセスに関する情報として、ランダムアクセスチャネルRACHの位置、シーケンス情報があること。」は公知である。ここで、「ランダムアクセスチャネルRACHの位置」は、本願発明の「ランダムアクセスチャネルRACHの配置情報」に相当し、また「シーケンス情報」は具体的にどのような情報か明確ではないものの、引用発明がベースとしているEUTRAにおいてCAZACシーケンスが使用されることは技術常識であることを踏まえれば、公知技術2の「シーケンス情報」からCAZACシーケンスの番号情報は自然と想起される事項にすぎない。そして、「ランダムアクセスチャネルRACHの配置情報」と「CAZACシーケンスの番号情報」を合わせて「ランダムアクセスチャネル設定情報」と称するのは任意である。
また、公知技術3としたように、競合ベースのランダムアクセスパラメータとして、本願発明の「ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報」に相当する「PREAMBLE_TRANS_MAX」及び「PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER」、本願発明の「ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報」、「ランダムアクセスレスポンス受信に関する情報」、「ランダムプリアンブル数もしくはランダムプリアンブルのグループ情報のランダムプリアンブルを選択もしくは生成するための情報」、「コンテンションレゾリューション受信に関する情報」、及び、「メッセージ3送信に関する情報」にそれぞれ相当する、「PREAMBLE_TRANS_MAX」、「ra-ResponseWindowSize」、「numberOfRA-Preambles」、「mac-ContentionResolutionTimer」、及び「maxHARQ-Msg3Tx」が公知であり、また「numberOfRA-Preambles」を本願発明のように「ランダムプリアンブル設定情報」と称することは任意である。
さらに、公知技術3としたように、非競合ベースのランダムアクセスパラメータとして、本願発明の「ランダムアクセスプリアンブル送信電力情報」に相当する「PREAMBLE_INITIAL_RECEIVED_TARGET_POWER」及び「POWER_RAMP_STEP」、本願発明の「ランダムアクセスプリアンブルの最大送信回数の設定情報」に相当する「PREAMBLE_TRANS_MAX」が公知である。
そして、公知技術3において「numberOfRA-Preambles」、「mac-ContentionResolutionTimer」、及び「maxHARQ-Msg3Tx」は競合ベースのみのパラメータ(本願発明における「特定のパラメータ群」に相当する。)である。

そうしてみると、公知技術1と同様にコンポーネントキャリアのグループ毎にランダムアクセス情報を設定する引用発明に、公知技術1を適用し、プライマリセルに競合ベースのRACH手順を設定し、セカンダリセルに非競合ベースのRACH手順を設定することは当業者が容易に想到できた事項にすぎず、その際、公知技術2,3を参照すれば、本願発明のようなランダムアクセス情報のパラメータを適宜採用できた程度の事項にすぎない。また、「ランダムアクセスチャネル設定情報」を競合ベースと非競合ベースの両方のランダムアクセス手順で用いることは、実装に際し適宜構成できた程度の事項にすぎない。
また、セカンダリセルには非競合ベースのRACH手順が設定され、競合ベースのRACH手順のみに必要なランダムアクセス情報は必要ないから、セカンダリセルにはこれを除いて送信することは単なる設計事項である。
したがって、相違点1とした本願発明の構成は、引用発明、及び公知技術1?3に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

次に、相違点2について検討する。
引用発明は、「前記移動局装置に設定した上りリンク送信タイミングが異なる上りリンクコンポーネントキャリアのグループ毎に、少なくとも一つの上りリンクコンポーネントキャリアに対してランダムアクセス情報を設定する」ものであるから、基地局装置は、どの「上りリンクコンポーネントキャリア」がどの「グループ」に属しているか認識していることは明らかである。また、引用発明においては、コンポーネントキャリアの設定や、コンポーネントキャリアに対するランダムアクセス情報の設定を基地局装置が行っている。これらを踏まえれば、セカンダリセルの各々がどのセルグループに属するかの設定を基地局装置から移動局装置に情報を送信して行うように構成することは当業者が容易に想到できたものである。

そして、本願発明が奏する効果も、当業者が引用発明及び公知技術1?3から容易に予想できる範囲内のものである。


第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び公知技術1?3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-20 
結審通知日 2018-04-24 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2011-148749(P2011-148749)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 海江田 章裕
山本 章裕
発明の名称 基地局装置、移動局装置、処理方法及び集積回路  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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