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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1341700
審判番号 不服2016-1410  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-29 
確定日 2018-06-20 
事件の表示 特願2012-534227「植物細胞に生体分子を送達するためのデンドリマーナノテクノロジーの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年4月21日国際公開、WO2011/046786、平成25年3月7日国内公表、特表2013-507919〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成22年10月6日(パリ条約による優先権主張 2009年10月16日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成26年12月12日付け 拒絶理由通知書
平成27年 4月13日 意見書・手続補正書
平成27年 9月25日付け 拒絶査定
平成28年 1月29日 審判請求書・手続補正書
平成28年 3月17日 手続補正書(方式)
平成28年10月28日付け 当審の拒絶理由通知書
平成29年 3月31日 意見書・手続補正書
平成29年 5月22日付け 当審の拒絶理由通知書(最後)
平成29年11月22日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願発明は、平成29年11月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであり、その請求項17に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項17】
プラスミドDNAを植物細胞に移行させる方法であって、
加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを生成する工程、
前記部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマー及び1つ又はそれ以上のCPPをプラスミドDNAと相互作用させて、活性化されたデンドリマー構造を形成する工程、及び
前記活性化されたデンドリマー構造と無傷の壁保有植物細胞とを、前記植物細胞への前記活性化されたデンドリマー構造の取り込みを可能にする条件下で接触させる工程を含む方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 引用例の記載
1 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された特開2004-33070号公報(以下、「引用例B」という。)には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
(1) 発明の詳細な説明
ア 課題を解決するための手段
「第3の発明は、細胞壁の有る状態の緑藻ヘマトコッカス(Haematococcus)にデンドリマーを用いたトランスフェクション法にて外来遺伝子を安定的に導入する方法である。」(段落【0008】)
イ 発明の実施の形態
(ア) 「1.4本研究の目的」
「・・・本研究では、本緑藻における高濃度アスタキサンチン生産と培養が安易な菌株の取得を行うために、外来遺伝子導入法の確立を目的とした。本研究では電気穿孔法及びリポソーム法を用いたH. pluvialisの形質転換の可能性についての検討を行った。
・・・また、電子穿孔法の有効性の確認のためデンドリマーという高分子を用いたリポソーム法による形質転換も行った。この方法は、特別な装置を必要とせず、容易に形質転換が行える。今回用いたQIAGENのSuper fect Transfection Reagentという試薬は、わずか5?10分でトランスフェクション複合体形成し、広範囲の細胞タイプに適応し、斬新な分子デザインでトランジェントあるいはステーブルトランスフェクションにも高い効率を示し、活性型デンドリマーの均一なサイズと形状により非常に高い再現性を得る事のできる試薬である。原理は、SuperFect Reagentが、一定の形状の活性型デンドリマー分子から形成し、これらの分子は中心から枝分かれし、末端にはプラスに電荷したアミノ基を有しており、核酸のリン酸基(マイナスに荷電)と相互作用し結合する。SuperFect ReagentはDNAを細胞に導入しやすいようにDNAをコンパクトな形に凝縮する。細胞にいったん入ると、エンドソームと融合後、SuperFect Reagentの緩衝作用によりpHを変化させ、リソソームのヌクレアーゼ活性を阻害する。SuperFect-DNA複合体の安定性がこのメカニズムにより確実になり、インタクトなDNAが効率良く核に導入される。SuperFectは登録商標である。」(段落【0033】?【0034】)
(イ) 「2.実験方法」
a 「2.1 使用菌株
国立公害研究所微生物系統保存施設(Microbial Culture Collection,The Natioal Institure For Environmental studies)より分譲されたHaematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)を用いた。」(段落【0037】)
b 「2.6 高分子デンドリマー(SupreFect Transfection Reagent,QIAGEN製)を用いたリポソーム法による形質転換
高分子デンドリマーを用いた、H. pluvialisの形質転換を以下の方法で行った。
(1) TE buffer及び滅菌水に溶解したプラスミドDNAの5μg(0.1μg/μl)を滅菌済培地で希釈し、最終容量150μlにし、ミックスした後、数秒間スピンダウンして溶液を収集する。
(2) SuperFect Transfection Reagent20μlをプラスミドDNA溶液に添加する。10秒間ボルテックスした後、スピンダウンして溶液を収集する。
(3) DNA複合体形成のために室温(15?25℃)で5?10分間インキュベートする。
(4) 細胞培養液1mlをトランスフェクション複合体を含むチューブに添加する。ピペットで2回アップダウンを行いミックスする。
(5) 複合体が均一に行き渡るように静かに撹拌する。
(6) 2?3時間インキュベートする。
(7) 2回遠心洗浄し、滅菌済培地に細胞を懸濁する。」(段落【0053】?【0060】)
(ウ) 「4.実験結果および考察」
a 「4.3.2 通常細胞におけるデンドリマーを用いた形質転換
電気穿孔法の場合と同様に2種類のプラスミドpSmRS-GFP(図7)とpHyg-e-GFP(図6)を用いて、デンドリマーによるH. pluvialisの形質転換を行った。(図20)デンドリマ-を用いた場合においても電気穿孔法の場合と同様に、H. pluvialis細胞におけるGFPの発現が確認できた。また、その効率については、電気穿孔法の場合とほぼ同じ程度だった。」(段落【0128】)
b 表2(段落【0130】)

ウ 図面の簡単な説明
(ア) 図6
「Map of pHyg-e-GFPを示す図である。」
(イ) 図7
「Map of pSmRS-GFPを示す図である。」
(ウ) 図20
「通常細胞におけるデンドリマーによる形質転換を示す図である。」
(2) 図面
ア 図6及び7

イ 図20


2 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された国際公開第2008/148223号(以下、「引用例2」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) Abstract(要約)
「本発明は植物細胞の形質導入及び/又はトランスフェクションのための新規な方法を提供する。細胞透過性ペプチド(CPP)が、タンパク質及びオリゴヌクレオチドを単一の植物細胞小胞子及び多細胞の接合胚に送達するためのナノキャリアとして首尾よく使用された。」(フロントページ下から4?2行)

(2) SUMMARY OF THE INVENTION(発明の概要)
「本発明は、遺伝子及び/又はタンパク質を植物細胞へ送達する新規な方法の必要性に対応する。細胞透過性ペプチドは、所望のカーゴを植物細胞の内部へ送達するために使用される。」([0010])

(3) DETAILED DESCRIPTION(詳細な説明)
「本発明はカーゴを植物細胞へ送達するための新規な方法を提供する。
カーゴは標的細胞で発現する核酸分子であってもよく、また、ポリペプチドであってもよい。・・・
本発明の方法において、カーゴは、本明細書において『キャリア』又は『キャリア部分』とも呼ばれる細胞透過性ペプチド(CPP)と結合している。キャリアはカーゴと複合化され、そしてカーゴを細胞の中に運ぶ。
つまり、キャリア部分とカーゴとから成る複合体が形成される。キャリア部分は植物細胞膜及び/又は細胞壁を横断することができる物質である。
本発明に使用される好ましいキャリアは、細胞透過性ペプチド(CPP)である。本発明の方法及び複合体に有用なCPPは、HIV tat、pVEC、トランスポータン、ペネトラチン、Pep-1、及びそれらの断片が含まれるが、これらには限定されない。
カーゴ部分は核酸又はポリペプチドである。キャリアと結合することができる核酸の例は、mRNA、tmRNA、tRNA、rRNA、siRNA、shRNA、PNA、ssRNA、dsRNA、ssDNA、dsDNA、DNA:RNAハイブリッド;プラスミド、人工染色体、遺伝子治療構築物、cDNA、PCR産物、制限断片、リボザイム、アンチセンス構築物、又はそれらの組合せを含む。好ましい一態様では、核酸はDNAである。」([0024]?[0028])

3 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布されたFEBS Lett, 2007, Vol.581, pp.1891-1897.(以下、「引用例3」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例3は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) 表題
「プロトプラストを調製することのない、アルギニンリッチ細胞内送達ペプチドによる植物細胞へのプラスミドDNAのトランスフェクション及び発現」(1891ページ)
(2) Abstract(要約)
「植物細胞への外来遺伝子の送達及び発現は、植物研究及びバイオテクノロジーにおいて特に関心事項であった。本報告では、植物における単純なDNAトランスフェクションシステムを示す。タンパク質導入ドメインである、短いアルギニンリッチ細胞内送達ペプチドは、共有結合していないプラスミドDNAを、生きている植物細胞に送達することができた。このペプチド媒介DNA送達は、核標的化、非毒性効果、プロトプラストを用いない調製の容易さといったいくつかの利点を与えた。したがって、この新しい技術は、in vivoでの遺伝子機能を調べる強力なツールを提供し、将来的にトランスジェニック植物の生産の基礎を築く。」(1891ページ)

4 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された米国特許出願公開第2008/0199960号明細書(以下、「引用例4」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例4は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) DETAILED DESCRIPTION(詳細な説明)
ア 「代表的なデンドリマー構造は、スターバーストポリアミドアミン(PAMAM)のようなカチオン性ポリマー・・・であり得る。」([0163])
イ 「コンジュゲート部分として働く他のペプチドには、比較的大きな極性分子(ペプチド、オリゴヌクレオチド及びタンパク質を含む)を、細胞膜を越えて輸送する能力を有する送達ペプチドが含まれる。送達ペプチドの例には、HIV Tatタンパク質由来のTatペプチド及びショウジョウバエ触覚タンパク質由来のAntペプチドがある。」([0185])
(2) EXAMPLES(実施例)
ア Example 4 Delivery of Oligonucleotides with the Tat-PAMAM Dendrimeric Bioconjugate(実施例4 Tat-PAMAMデンドリマーバイオコンジュゲートによるオリゴヌクレオチドの送達)
(ア) 「PAMAMデンドリマーは、遺伝子及びオリゴヌクレオチドの細胞への送達に既に使用されているカチオン性ポリマーである。我々は、オリゴヌクレオチド(一本鎖及び二本鎖)の送達における、PAMAMデンドリマーとペプチドの結合の効果を調査した。PAMAMデンドリマーによるsiRNAの送達も調査した。」([0297])
(イ) 「4.1 Tat-PAMAMデンドリマーバイオコンジュゲートの調製
Tat-ペプチドの合成:・・・
TatペプチドとPAMAMのコンジュゲートの調製(BPT)(図14参照):・・・」([0298]?[0299])
(ウ) 「4.5 siRNA送達の結果
図15に示すように、PAMAMデンドリマーはsiRNAを送達することができ、NIH 3T3 MDR細胞でのP糖タンパク質の発現の減少が、免疫染色及びフローサイトメトリで確認できた。デンドリマー単独の効果は、最適用量のLipofectamine 2000を使用した場合ほどは高くはなかったが、有効であった。デンドリマーとTATペプチドのコンジュゲートは、免疫染色プロフィールが左側にシフトしていることから判断できるように、有効性がさらに増加した。コントロールのsiRNAは効果がなかった(データは示さず)。したがって、正に荷電したPAMAMデンドリマーは、siRNAオリゴヌクレオチドを細胞に送達することができ、これらのオリゴヌクレオチドは標的遺伝子の発現を下方制御できると結論付けることができる。PAMAMデンドリマーコンジュゲートは、siRNA送達をさらに増強する。」([0303])
(エ) 「4.6 アンチセンスオリゴヌクレオチド送達の結果
図16に示すように、PAMAMデンドリマーはアンチセンスオリゴヌクレオチドを送達することができ、NIH 3T3 MDR細胞でのP糖タンパク質の発現の減少が、免疫染色及びフローサイトメトリで確認できた。また、PAMAMデンドリマーは、最適用量のLipofectamine 2000を使用した場合よりも多少効果が低かった。デンドリマーとTATペプチドのコンジュゲートは、免疫染色プロフィールが左側にシフトしていることから判断できるように、有効性が増加した。コントロールのアンチセンスは効果がなかった(データは示さず)。それ故、正に荷電したPAMAMデンドリマーは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞に送達することができ、これらのオリゴヌクレオチドは標的遺伝子の発現を下方制御できる。PAMAMデンドリマーコンジュゲートは、siRNA送達と比較して、アンチセンス送達をより増強する。
PAMAMデンドリマー製剤は、いずれもカチオン性脂質Lipofectamine 2000ほど有効ではなかった。しかし、デンドリマー複合体はカチオン性脂質複合体よりもサイズが小さく、毛細血管を閉塞しないので、in vivoでの送達では有利である。」([0304]?[0305])

5 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布されたBioconjugate Chem, 1996, Vol.7, pp.703-714.(以下、「引用例6」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例6は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) 表題
「分解されたポリアミドアミンデンドリマーによるin vitroでの遺伝子送達」(703ページ)
(2) 要約
「表面に第一アミンを有し、内部に第三アミンを有する球状カチオン性ポリアミドアミンポリマー(星形デンドリマー)とDNAの複合体を用いる培養細胞へのトランスフェクションが報告されている。デンドリマーのトランスフェクション活性は、様々な加溶媒分解系溶媒(例.水、ブタノール)中での加熱処理により劇的に(50倍より大きく)高められる。この処理は、デンドリマーのアミド結合を著しく分解し、非常に低い(1500ダルトン未満)?数十キロダルトンの分子量を有する化合物のヘテロ分散集団をもたらす。トランスフェクションを促進する化合物は、分解生成物の高分子量成分であり、『破砕された』デンドリマーとして示される。トランスフェクション活性は、デンドリマーの初期サイズ及び分解の程度と関係がある。破砕されたデンドリマーは、pHが10.5から7.2に減少するにつれ、末端アミンのプロトン化により、還元粘度測定により求められる見かけの体積が増加するが、分解を受けていないデンドリマーではそうではない。不完全な枝分かれを有するデンドリマーが合成され、このトランスフェクション活性は、分解を受けていないデンドリマーと比較して改善されていた。一連の加熱処理デンドリマーにおいて、分解プロセスのランダムな開裂シミュレーションから計算された柔軟性とトランスフェクション活性との間に、相関がみられた。我々は、加熱後のトランスフェクションの増加は、主に、破砕されたデンドリマーがDNAと複合体を形成するときコンパクトになり、かつ、DNAを放出したときに膨潤することを可能する柔軟性の増加によるものであることを、示唆する。」(703ページ)
(3) INTRODUCTION(序論)
「カチオン性ポリアミドアミン(PAMAM)カスケードポリマーは、多種多様な培養細胞において、予想外に高レベルのトランスフェクション活性を示し(8)、この毒性は、比較的効果的な脂質ベースのシステムよりもかなり低い(未発表)。さらなる研究では、精密に合成され精製された単分散PAMAMデンドリマーは、低レベルのトランスフェクションしか示さないことがわかった。しかし、加溶媒分解によって部分的に分解されたPAMAMデンドリマーを用いれば、高いトランスフェクションを得ることができる。ここでは、これらデンドリマー様ポリマーのトランスフェクション活性を決定する特性について述べる。」(703ページ左欄17行?右欄2行)
(4) EXPERIMENTAL PROCEDURES(実験方法)
「カチオン性ポリマー 異なるコア分子:(1)アンモニア(・・・)、(2)エチレンジアミン(EDA)(・・・)、及び(3)トリス(2-アミノエチル)アミン(TAEA)(・・・)から、PAMAMデンドリマーを得た。」(703ページ右欄12?16行)
(5) RESULT(結果)
「デンドリマーの加熱処理
水中でのデンドリマーの加熱は、トランスフェクション活性を最大レベルまで上昇させる(図2)。さらに加熱を続けると、デンドリマーの過度の分解に対応し、活性が低下する。より低い世代のデンドリマーの最大トランスフェクション活性は、より高い世代のデンドリマーよりもわずかに低いが、より低い世代のデンドリマーは、少ない加熱時間で最大のトランスフェクション活性に達するようである。
最大活性を達成するための加熱時間は溶媒によって異なるが、加熱活性化は任意の加溶媒分解系溶媒中で行うことができる。水、並びに、1-ブタノール、2-ブタノール、2-エトキシエタノール及びそれらの混合物は、それらの加溶媒分解能に関連した割合で活性を誘導する。DMFのような非加溶媒分解溶媒中での加熱処理は全く活性を誘導せず、このことは、デンドリマー中のペプチド結合の加溶媒分解により分解が生じることを示唆する。」(706ページ右欄下から3行?707ページ左欄15行)
(6) DISCUSSION(考察)
「まとめると、カチオン性ポリマーの活性を決定する重要な物理的特性は、(1) DNAとの静電的相互作用を促進し、複合体を形成する、生理学的pHにおける高い正の電荷、(2) エンドソーム(pH5?6)中で中和される基の存在、及び、(3) 折り畳まれ、また、膨潤することを可能にする高度に柔軟な構造、である。柔軟に分枝したカチオン性ポリマーは、in vitroで遺伝子を動物細胞に移入するための、効果的で、再現性があり、比較的の毒性ない方法を提供する。それらは、トランスフェクションが困難であったいくつかの細胞株において有効であることが実証されている(8, 9)。ここで述べたそれらの物理的特性についての研究は、細胞にDNAを送達するメカニズムの解明に役立ち、また、他のポリマーの設計を容易にすることができる。」(713ページ右欄36?50行)

6 平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布されたSuperFect「R」 Transfection Reagent Handbook, December. 2002, QIAGEN, pp.1-32.(以下、「引用例A」という。なお、「R」は、Rを○で囲った上付き文字である。以下、同様。)には以下の事項が記載されている。(引用例Aは英語で記載されているので訳文で示す。)
(1) Introduction(序論)
ア 「SuperFect Transfection Reagentは、・・・低減された細胞毒性を提供する。」(7ページ5?10行)
イ Principle and procedure(原理と手順)
「SuperFect Transfection Reagentは、特別にデザインされた活性化デンドリマーである(1)。」(7ページ12行)
(2) References(参考文献)
「1. Tang,M.X., Redemann,C.T. and Szoka,Jr.,F.C. (1996) Invitro gene delivery by degraded polyamidoamine dendrimers. Bioconjugate Chem. 7, 703.」(28ページ19?20行)

第4 当審の判断
1 引用例Bに記載された発明
前記第3の1より、引用例Bには、「プラスミドDNAをHaematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)に導入する方法であって、QIAGEN社製のSupreFect Transfection ReagentというデンドリマーとプラスミドDNA(pSmRS-GFP又はpHyg-e-GFP)のトランスフェクション複合体を形成させる工程、Haematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)の細胞培養液を前記トランスフェクション複合体を含むチューブに添加し、ピペットで2回アップダウンを行い、複合体が均一に行き渡るように静かに撹拌し、2?3時間インキュベートし、2回遠心洗浄し、滅菌済培地に細胞を懸濁する工程を含む方法。」についての発明が記載されている。ここで、QIAGEN社が発行したSuperFect「R」 Transfection Reagentのハンドブック(引用例A)には、参考文献1を引用して、SuperFect Transfection Reagentは、特別にデザインされた活性化デンドリマーであることが記載されている(前記第3の6(1)イ)ところ、この参考文献1(これは前記第3の6(2)より、引用例6である)では、様々な加溶媒分解用溶媒中で加熱処理され、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーが、優れたトランスフェクション活性を有することが示されており、その特性について考察をしている(前記第3の5)。そうしてみると、引用例Bに記載のQIAGEN社製のSupreFect Transfection Reagentというデンドリマーは、加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーと認められる。
したがって、引用例Bには、「プラスミドDNAをHaematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)に導入する方法であって、加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーとプラスミドDNA(pSmRS-GFP又はpHyg-e-GFP)のトランスフェクション複合体を形成させる工程、Haematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)の細胞培養液を前記トランスフェクション複合体を含むチューブに添加し、ピペットで2回アップダウンを行い、複合体が均一に行き渡るように静かに撹拌し、2?3時間インキュベートし、2回遠心洗浄し、滅菌済培地に細胞を懸濁する工程を含む方法。」についての発明が記載されているものと認められる。(以下、この発明を「引用発明」という。)

2 本願発明と引用発明の対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。引用発明におけるHaematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)は、細胞壁の有る状態の緑藻ヘマトコッカス(Haematococcus)に属する植物であること(前記第3の1(1)ア)から、無傷の壁保有植物に該当する。また、本願発明における「活性化されたデンドリマー構造」は、「前記部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマー・・・をプラスミドDNAと相互作用させ」ることにより得られるものであるところ、本願の発明の詳細な説明には本願発明における「活性化」や「相互作用」を直接説明する記載はないものの、本願の特許請求の範囲には、「部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを対象の分子と相互作用させる工程が、前記対象の分子の負電荷を有する基を、前記部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーの末端の荷電アミノ基と相互作用させることを含む、請求項1に記載の方法。」(【請求項3】)と記載されていることから、本願発明における「活性化されたデンドリマー構造」とは、対象の分子の負電荷を有する基と部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーの末端の荷電アミノ基とが相互作用している状態の構造と認められる。そして、引用例Bには、「SuperFect Reagent・・・は中心から枝分かれし、末端にはプラスに電荷したアミノ基を有しており、核酸のリン酸基(マイナスに荷電)と相互作用し結合する。SuperFect ReagentはDNAを細胞に導入しやすいようにDNAをコンパクトな形に凝縮する。」(前記第3の1(1)イ(ア))と記載されていることから、引用発明においても、「部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーとプラスミドDNAのトランスフェクション複合体」は、本願発明でいう「活性化されたデンドリマー構造」にあるものと認められる。さらに、引用例Bでは、「デンドリマ-を用いた場合においても・・・H. pluvialis細胞におけるGFPの発現が確認できた」(前記第3の1(1)イ(ウ))ことから、引用発明におけるトランスフェクション複合体は、Haematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)に取り込まれているということができ、それ故、引用発明の「Haematococcus pluvialis Flotow(NIES-144)の細胞培養液を前記トランスフェクション複合体を含むチューブに添加し、ピペットで2回アップダウンを行い、複合体が均一に行き渡るように静かに撹拌し、2?3時間インキュベートし、2回遠心洗浄し、滅菌済培地に細胞を懸濁する工程」は、本願発明における「前記活性化されたデンドリマー構造と無傷の壁保有植物細胞とを、前記植物細胞への前記活性化されたデンドリマー構造の取り込みを可能にする条件下で接触させる工程」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、「プラスミドDNAを植物細胞に移行させる方法であって、加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを、プラスミドDNAと相互作用させて、活性化されたデンドリマー構造を形成する工程、及び、前記活性化されたデンドリマー構造と無傷の壁保有植物細胞とを、前記植物細胞への前記活性化されたデンドリマー構造の取り込みを可能にする条件下で接触させる工程を含む方法。」である点において一致し、本願発明が、「加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを生成する工程」を含むのに対し、引用発明では、「加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマー」を使用する点(相違点1)において相違し、また、「活性化されたデンドリマー構造」について、本願発明は、「1つ又はそれ以上のCPP」を含むのに対し、引用発明では、「1つ又はそれ以上のCPP」は含まれていない点(相違点2)において相違する。

(2) 判断
ア 相違点1
引用発明は、「加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた」、既に「部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマー」を出発物質として使用する方法であるが、これを、加溶媒分解前のカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを出発物質とし、このカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加溶媒分解用溶媒中で加熱処理して、「部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマー」を得た後に、プラスミドDNAを植物細胞に移行させる方法に使用することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

イ 相違点2
引用例2には、HIV tat等の細胞透過性ペプチド(CPP)が、植物細胞へプラスミド等のオリゴヌクレオチドの送達するためのナノキャリアとして使用されたことが記載されている(前記第3の2)。また、引用例3にも、アルギニンリッチの細胞内送達ペプチドによって、プラスミドDNAを植物細胞にトランスフェクトできたことが記載されている(前記第3の3)ところ、当該アルギニンリッチのペプチドは、プラスミドDNAを植物細胞にトランスフェクトするものであることから本願発明におけるCPP(細胞透過性ペプチド)に相当することは明らかである。
加えて、引用例4には、Tat-PAMAMのデンドリマーコンジュゲートを調製し、当該コンジュゲートを用いてオリゴヌクレオチド(siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド)をNIH 3T3細胞に送達したことが記載されている。そして、デンドリマーコンジュゲートの方がデンドリマー単独よりも増強されたsiRNAの送達が見られたことも記載されている(前記第3の4(2))。ここで、上記Tat-PAMAMにおけるTatは、HIV tatペプチドであって、オリゴヌクレオチドの送達するためのペプチド(前記第3の4(1)イ)であることから、細胞透過性ペプチド(CPP)であり、また、上記PAMAMはポリアミドアミンデンドリマーである(前記第3の4(1)ア)。そして、上記NIH 3T3細胞は、マウスの細胞(動物細胞)であるものの、引用例4には、デンドリマーとCPPを併用することで増強された遺伝子の送達が可能となることが記載されている。
このように、核酸の細胞への送達のために細胞透過性ペプチド(CPP)を使用することは引用例2?4において公知であり、また、引用例4には、細胞透過性ペプチド(CPP)とカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを併用することにより、デンドリマー単独の場合と比較して遺伝子の送達が増強されることが公知であれば、引用発明において、増強されたプラスミドDNAの送達を可能とするために、細胞透過性ペプチド(CPP)を併用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

ウ 本願発明の効果について
本願の発明の詳細な説明には、「1.2 DNA/デンドリマー複合体の調製」という表題で実施例が記載されているが、この例では、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーは、引用例Bと同様、「SUPERFECT(商標)Transfection Reagent (Cat # 301305)として販売されているデンドリマーをQiagen(メリーランド州ジャーマンタウン)から入手し」ている(段落【0089】)し、また、本願の発明の詳細な説明には、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーと細胞透過性ペプチド(CPP)を組み合わせた実施例は示されていない。そうしてみると、本願発明が、引用発明と比較して、上記各相違点に基づく当業者が予測することができない顕著な効果を有しているものとも認められない。

エ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、デンドリマーがCPPの機能を妨害するかどうか、又はCPPがデンドリマーの機能を妨害するかどうかはこれまで知られていなかったので、当業者は本願発明に到達するのに合理的な期待を持っていなかったと主張する。しかし、前記イで述べたように、動物細胞による実験ではあるものの、引用例4には、デンドリマーとCPPを併用することで増強された遺伝子の送達が可能となることが記載されていることから、当業者は、デンドリマーとCPPを組み合わせることで遺伝子の送達が可能であることについての合理的な期待を持っていたというべきであって、請求人の主張を採用することはできない。
(イ) 請求人は、Ann N Y Acad Sci, 2006, Vol.1082, pp.18-26.(以下、「参考文献1」という。)に「一般に、PAMAMデンドリマーは幾分毒性(rather toxic)であることを我々は見出している。」と記載されていることを根拠に、当業者はカチオン性ポリアミノアミンデンドリマーをCPPと組み合わせないと主張する。しかし、平成29年5月22日付けの当審による拒絶理由通知において引用した引用例1(Biotechnol J, 2008, Vol.3, pp.1078-1082.)では、参考文献1の発行後においても、PAMAMデンドリマーを使用してプラスミドDNAを芝草細胞中に送達したことが示されており、このことは、参考文献1における記述によっても、カチオン性ポリアミノアミンデンドリマーを遺伝子送達に使用することが不適切であると当業者が理解したものとは認めことができず、請求人の主張には理由はない。なお、引用発明において使用される、加溶媒分解用溶媒中でカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーを加熱処理して得られた、部分的に分解されたカチオン性ポリアミドアミンデンドリマーは、毒性が低減されたものであり(前記第3の6(1)ア)、また、これを使用した方法は、「比較的の毒性ない方法(relatively nontoxic method)」である(前記第3の5(4))ことから、仮に、PAMAMデンドリマーに毒性があるとしても、そのことを理由に、引用発明において細胞透過性ペプチド(CPP)との組合せを否定することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例B、2?4、6及びAに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-19 
結審通知日 2018-01-23 
審決日 2018-02-05 
出願番号 特願2012-534227(P2012-534227)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 大宅 郁治
山本 匡子
発明の名称 植物細胞に生体分子を送達するためのデンドリマーナノテクノロジーの使用  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 小林 浩  
代理人 藤田 尚  

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