ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J |
---|---|
管理番号 | 1341741 |
審判番号 | 不服2016-3970 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-15 |
確定日 | 2018-06-27 |
事件の表示 | 特願2013-505104「架橋膜表面」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日国際公開、WO2011/130428、平成25年 6月17日国内公表、特表2013-523997〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2011年4月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2010年4月13日(3件)、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月14日に手続補正書が提出され、平成27年1月26日付で拒絶理由が通知され、同年6月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月11日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成28年3月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 その後、平成28年5月23日付けで審査官により前置報告書が作成され、平成29年3月10日付けで上申書が提出され、当審において平成29年4月4日付けで拒絶理由が通知されるとともに審尋がされ、これに対し平成29年10月10日に意見書、誤訳訂正書及び回答書が提出されたものである。 第2.本願の請求項に記載された事項 平成29年10月10日に提出された誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲には、次のとおり記載されている。 「【請求項1】 粒子ビーム・デバイスを用いて、ポリマー材料を選択的に架橋する方法であって、 架橋部分を生成するために充分な期間の粒子ビームで前記ポリマー材料の部分を選択的に処理するステップと、 前記粒子ビームが前記ポリマー材料の前記部分に浸透する深度を選択的に予め定めるステップであって、該選択された深度は、総厚みの40%ないし60%である、ステップと、 を含み、 前記ポリマー材料における前記処理の結果が、30%ないし80%の平均架橋密度であり、 前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有し、 前記ポリマー材料は、多官能基アクリル酸エステル、多官能基メタクリル酸エステル、ポリブタジエン、ポリエチレン、および、ポリプロピレン、のうちの1つ以上を含み、 前記特性は、抗張力、圧縮、断裂エネルギー、負荷、弾力、輸送特性、形態、融点、ガラス転移温度、ミキシング挙動、接着特性、劣化、耐薬品性、および、熱抵抗力のうちの1つ以上を含む、 方法。 【請求項2】 前記粒子ビーム・デバイスは、少なくとも1つのフィラメントを備える、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 150KV以上の動作電圧が、複数の粒子をつくるために、フィラメントに印加される、請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記複数の粒子は、12.5ミクロンの厚さを有する薄箔を突き通る、請求項3に記載の方法。 【請求項5】 前記ポリマー材料は、3メガラド(Mrads)ないし12メガラド(Mrads)の線量で処理される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 【請求項6】 前記複数の粒子は、前記ポリマー材料の前記部分に総厚みの50%の深度まで浸透する、請求項3に記載の方法。 【請求項7】 前記部分は、前記ポリマー材料の単一の表面を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 前記部分は、前記ポリマー材料の2つの単一の表面を含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 前記ポリマー材料の前記部分は、前記単一の表面の中心部分を含む、請求項7に記載の 方法。 【請求項10】 前記ポリマー材料の端部は、未処置のままにされる、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 前記動作電圧は、150kVないし300kVの範囲にある、請求項3に記載の方法。 【請求項12】 前記薄箔は、チタン箔である、請求項4に記載の方法。 【請求項13】 前記ポリマー材料の質量密度は、100g/m^(2)ないし200g/m^(2)の範囲にある、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の方法。 【請求項14】 前記ポリマー材料の質量密度は、135g/m^(2)ないし155g/m^(2)の範囲にある、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の方法。 【請求項15】 前記ポリマー材料は、多官能基アクリル酸エステル、多官能基メタクリル酸エステル、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、それらの混合物から選択される、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の方法。 【請求項16】 前記ポリマー材料は、エラストマー材料を更に含む、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法。 【請求項17】 前記エラストマー材料は、天然ゴムあるいは合成ゴム、または、それらの混合物から選択される、請求項16に記載の方法。 【請求項18】 前記ポリマー材料は、エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー(EPDM)、天然ゴム混入ポリエチレン、合成ゴム混入ポリエチレン、天然ゴム混入ポリプロピレン、合成ゴム混入ポリプロピレンから選択される、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法 。 【請求項19】 前記ポリマー材料は、熱可塑性ポリオレフィン・ルーフィング膜である、請求項1ないし18のいずれか1項に記載の方法。 【請求項20】 前記ポリマー材料の平均架橋密度は、40%を超えている、請求項1ないし19のいずれか1項に記載の方法。」 第3.原査定の拒絶理由及び当審で通知した拒絶理由 1.原査定の理由は、平成27年1月26日付け拒絶理由通知に記載した理由2であり、概略、以下のとおりである。 『(理由)2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1 ・引用文献1 ・・・ 引用文献等一覧 1.特開昭51-061570号公報 』 2.また、当審における平成29年4月4日付けの拒絶理由通知は、概略、以下の拒絶の理由を含むものである。 (なお、この拒絶理由通知において、進歩性等の特許要件についての審理を留保していることが付記されているから、原審で指摘した進歩性に関する上記「(理由2)」についての判断を留保していることは明らかである。) 『●理由1(特許法第36条第6項第2号) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ・・・ (2)請求項1ないし20について(「平均架橋密度」の点) 請求項1には、「前記ポリマー材料における前記処理の結果が、30ないし80%の平均架橋密度であり、」との記載があるが、発明の詳細な説明には、「平均架橋密度」という物性値に関し、その具体的な定義や測定方法が記載されておらず、技術常識を考慮しても、どのように定義された値であるのか、またどのように算出ないし測定された値を意味するのか理解できず、不明確である。 (3)請求項1ないし20について(「ポリマー材料がより高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」点) 請求項1には、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」との記載があるが、この記載は以下の点で明確でない。 ・・・ B.この記載からは、「前記処理されたポリマー材料」と、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」とが同一の化学組成を有するものとされているが、後者のポリマー材料は、前者のポリマー材料に比して、高い架橋密度を有するものであるから、同一の化学組成を採り得ることができず、この記載は不明確である。 C.上記記載は「前記処理されたポリマー材料」と、「同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料」とが同じ特性を有するということを意味するものと解されるが、単に「より高い架橋密度を有するポリマー材料」との記載のみでは、例えば、ポリマー材料の層全体にわたって完全に架橋されたような、高度に架橋されたポリマー材料や、「前記処理されたポリマー材料」よりも少しだけ高く架橋されたような、比較的架橋の度合いが低いポリマー材料、又は、例えば段落【0070】のように、線量のみを増加させて、一部分のみの架橋密度を増加させたようなポリマー材料等のように、架橋密度の度合いを特定できないポリマー材料が包含されることから、この記載のみでは、「前記処理されたポリマー材料」と比較の対象となる、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」が一義的に特定することができない結果、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」という記載が不明確なものとなっている。 』 第4.当審の判断 事案に鑑み、まず、当審にて通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第2号違反)について検討を行った後、拒絶査定における理由(特許法第29条第2項違反)について、順次検討を行う。 1.当審にて通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第2号違反)について (1) 特許法第36条第6項第2号について 特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。 そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)理由1(2)(「平均架橋密度」の点)について まず、請求項1には、「前記ポリマー材料における前記処理の結果が、30ないし80%の平均架橋密度であり、」との記載があるが、発明の詳細な説明には、「平均架橋密度」という物性値に関し、「架橋密度」の具体的な定義や測定方法が記載されておらず、本願の出願時の技術常識を考慮しても、どのように定義された値であるのか、またどのように算出ないし測定された値を意味するのか理解できないし、「架橋密度」の「平均」の具体的な定義や測定方法が発明の詳細な説明には記載されておらず、本願の出願時の技術常識を考慮しても、どのように定義された値であるのか、またどのように算出ないし測定された値を意味するのか理解できず、一義的に物性値を特定することができない。また、「30ないし80%」とは、何を100%とした値であるのか明瞭でないから、不明確である。 なお、上記第3でも述べたとおり、当審において平成29年4月4日付の拒絶理由通知によって、「平均架橋密度」という物性値に関し、請求人に意見を述べる機会を与えたところ、請求人は平成29年10月10日提出の意見書において、次のとおり主張をしている。 (なお、下線は当審で付したものである。) 「(1)、(2)審判長殿は、・・・密度の測定方法が不明であると述べておられます。 ・・・ 加えて、標準的な電子ビーム線量測定手続きを記載する2つの文書を添付します。文書の1つは、請求人自身の手続きです。 本願明細書段落[0071]-[0074](当審注:本願発明の詳細な説明には、段落[0072]-[0074]は存在しないので、その後の文章の説明内容から見て、国際公開公報の段落[0071]-[0074]、すなわち、本願の発明の詳細な説明の段落【0066】-【0069】を実質的に意味するものと解した。)に記載したように、その線量測定技術は、染料の強度または光学濃度を測定することができます。測定された光学濃度は、線量計の事前の補正によって、メガラド(Mrads)における量に換算することができます(補正については、添付の書類に記載されています)。 本願明細書段落[0069]に記載のように、グラム/m^(2)における架橋の密度は、メガラド(Mrads)における量から決定されます。」 しかしながら、本願明細書の上記箇所や、意見書に添付された資料には、「平均架橋密度」の具体的な定義や測定方法について何ら記載されていないし、本願明細書の段落【0069】には、平均架橋密度の数値(約40%%より大きい)及びメガラドの量(10メガラド)自体は記載されているものの、どのようにして、メガラドの量から、どのようにして平均架橋密度を導出したのかについては何ら記載されていない。そうすると、請求人の主張をみても、依然として「平均架橋密度」がどのように定義された値であるのか、またどのように算出ないし測定された値を意味するのか理解できず、一義的に物性値を特定することができない。 以上のことから、本願請求項1の「平均架橋密度」については、特許請求の範囲及び明細書の記載、出願日の時点での技術常識並びに請求人の主張を踏まえても、依然としてどのように定義された値であるのか、またどのように算出ないし測定された値を意味するのか理解できず、一義的に物性値を特定することができない。よって、当該「平均架橋密度」の定義や測定方法が明確でない以上、当該「平均架橋密度」の数値範囲によって特定される請求項1に係る発明も明確でないといわざるを得ない。そして、第三者の利益が不当に害されることがあり得るものである。 (3)理由1(3)B及びC(「ポリマー材料がより高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」点)について ア 理由1(3)Bについて 請求項1には、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」との記載がある。 この記載からは、「前記処理されたポリマー材料」と、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」とが同一の化学組成を有するものとされているが、後者のポリマー材料は、前者のポリマー材料に比して、高い架橋密度を有するものであるから、同一の化学組成を採り得ることができず、この記載は不明確である。 すなわち、まず、「化学組成」という用語については、化合物あるいは混合物の構成成分の名称とその量的割合を意味することが技術常識である(大木道則他3名編、「化学大辞典」第1版第5刷 株式会社東京化学同人発行、1998年6月1日、409頁の「化学組成」の項)から、請求項1の上記記載は、前者の「処理されたポリマー材料」と、後者の「より高い架橋密度を有するポリマー材料」との構成成分の名称とその量的割合が同一であることを意味するものである。 その一方、電子線等の放射線の照射によりポリマーの架橋を行った場合には、水素の脱離が起こる結果、ポリマーを構成する構成成分の量的割合が変化することが、優先日の時点での技術常識であった(三田達監訳、「高分子大辞典」、丸善株式会社発行、平成6年9月20日、193?194頁、特に194頁の「架橋理論」の項の架橋の反応式)ことから、放射線架橋により高い架橋密度を有するポリマー材料は、必然的に、処理されたポリマー材料よりもポリマーを構成する構成成分の量的割合が異なる結果、同一の化学組成を採り得ることができず、上記記載は、技術的に不明確な記載といわざるを得ない。 イ 理由1(3)Cについて 請求項1には、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」との記載がある。 上記記載は「前記処理されたポリマー材料」と、「同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料」とが同じ特性を有するということを意味するものと解されるが、単に「より高い架橋密度を有するポリマー材料」との記載のみでは、例えば、ポリマー材料の層全体にわたって完全に架橋されたような、高度に架橋されたポリマー材料や、「前記処理されたポリマー材料」よりも少しだけ高く架橋されたような、比較的架橋の度合いが低いポリマー材料、又は、例えば段落【0070】のように、放射線の線量のみを増加させて、一部分のみの架橋密度を増加させたようなポリマー材料等のように、架橋密度の度合いを特定できないポリマー材料が包含されることから、この記載のみでは、「前記処理されたポリマー材料」と比較の対象となる、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」が一義的に特定することができないから、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」という記載は、不明確な記載といわざるを得ない。 ウ 意見書における請求人の主張 請求人は、平成29年10月10日提出の意見書において、次のとおり主張をしている。 「(3)審判長殿は、請求項1における、「ポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」という記載は不明確であると述べておられます。 請求項1に、「前記特性は、抗張力、圧縮、断裂エネルギー、負荷、弾力、輸送特性、形態、融点、ガラス転移温度、ミキシング挙動、接着特性、劣化、耐薬品性、熱抵抗力、のうちの1つ以上を含む」の記載を加えました。これにより、当該記載が明確になり、当該拒絶理由は解消したと考えます。」 しかしながら、請求項1に、上記のように特性に関する限定を行ったとしても、依然として、「前記処理されたポリマー材料」と、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」とは、同一の化学組成を採り得ることができないし、また、「前記処理されたポリマー材料」と比較の対象となる、「より高い架橋密度を有するポリマー材料」が一義的に特定することができないことから、上記訂正にかかわらず、依然として請求項1の記載は不明確である。 エ まとめ 以上のことから、本願請求項1の「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」との記載は、特許請求の範囲及び明細書の記載、優先日の時点での技術常識並びに請求人の主張を踏まえても、依然として明確でなく、当該事項によって特定される請求項1に係る発明も明確でないといわざるを得ない。そして、第三者の利益が不当に害されることがあり得るものである。 (4)小括 したがって、本願の請求項1の記載は、第三者の権利が不当に害されるほどに不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。また、請求項1を引用する請求項2ないし20の記載も同様である。 2 原審にて通知した拒絶理由(特許法第29条第2項違反)について (1)本願発明 本願請求項1の記載は、上記1(2)及び(3)に示したとおり、不明確であるものの、発明の詳細な説明の記載を考慮しつつ、請求項の文言に沿って解釈を行い、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記第2の請求項1に記載されたとおりのものであると認め、以下検討を進める。 (2)引用文献の記載事項 原審にて通知した拒絶理由通知において引用した、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭51-61570号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、記載事項中の下線は合議体によるものである。) ア「2.特許請求の範囲 (1) 放射線照射できる熱可塑性プラスチツク材料に予じめ透過深度の調整された放射線を照射することにより該プラスチツク材料中に熱融着しない架橋部分と熱融着する未架橋部分とを構成することを特徴とする熱融着可能なプラスチツクフイルムの製法。」(請求項1) イ「しかしながらこれらの接着性プラスチツクフイルムは価格が非常に高く、また製造工程も複雑である。またポリエステルとポリエチレンとの積層接着フイルムを製造するに際し、加熱温度が上昇してポリエチレンが熔融し使用できなくなる欠点がある。 上記欠点はポリ塩化ビニルとポリエチレンとの積層フイルムについても同様である。 本発明者は最近ポリエチレンフイルム、ポリ塩化ビニルフイルムなどの熱可塑性プラスチックフイルムに高エネルギー放射線を照射し、照射後のプラスチツクフイルムについて種々の溶媒に対する溶解性を検討した結果、熱溶媒例えばトルエン、キシレン、テトラヒドロフランへの溶解性が低下することがわかった。 この現象は熱可塑性プラスチツク材料に架橋結合が形成されることによるが架橋の程度によつては熱可塑性プラスチックを熱可塑性材料から高温度における流動性の低下したゲルに転化できることおよび約250℃の高温においても流動を起さない特性をもつ材料が得られることがわかつた。 本発明の目的は放射線照射できる熱可塑性プラスチツク材料に予じめ透過深度の調整された放射線を照射することにより該プラスチツク材料中に熱融着しない架橋部分と熱融着する未架橋部分とを構成させることよりなる熱融着可能なプラスチツクフイルムの製法を提供するにある。 本発明の他の目的は上記の如くして製造された熱融着可能なプラスチツクフイルムの未架橋部分同志を相互に熱融着させるか又は該フイルムの未架橋部分と他の材料の表面とを熱融着させた後更に放射線を照射して該接着部を完全に架橋する熱融着可能なプラスチツクフイルムの製法を提供するにある。 本発明方法で使用できる放射線照射可能な熱可塑性プラスチツク材料には例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ふっ素樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、セルローズトリアセテート、ポリメタクリル酸エステルなどがある。 共重合体には例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル-グラフト共重合体、エチレン-プロピレン共重合体とポリエチレンとのブレンドポリマーがある。また天然ゴムおよび合成ゴムも使用できる。更にポリエステルにポリエチレンをラミネートしたものも使用できる。 本発明の熱可塑性材料はフイルム状又は板状などであってもよく厚さには特に制限がないが、製造装置などの点から厚さ0.01mm?5mmのものが適当である。」(第1頁右下欄第8行?第2頁右上欄19行) ウ「実施例1. 塩化ビニル樹脂100部、三塩基性硫酸鉛5部、多官能性モノマー(ポリエチレングリコールジアクリレート)10部、ジオクチルフタレート(DOP)30部および重質炭酸カルシウム20部から成る配合物(比重1.4)を混練温度160℃にてテストロールにて混練し、厚さ約1mmのシートを作った。得られたシートを電子線照射装置にて5Mradの強度の放射線を照射して架橋した。 この場合加速電圧を変化することによつてどの程度の透過深度を得ることが出来るかをゲル分率から測定した。 浸漬乾燥後の試料の重量 ゲル分率% = ???????????? × 100 浸漬前の試料の重量 浸漬乾燥後の試料の重量とは溶剤テトラヒドロフランに80℃、18時間浸漬し、80℃にて約5時間乾燥後の試料の重量である。加速電圧(KV)とゲル分率%との関係は次の如くである。 試料番号 加速電圧(KV) ゲル分率(%) A 100 30 B 200 35 C 300 40 D 400 45 E 500 50 F 600 65 G 700 65 以上の結果から加速電圧が600KVまではAないしFに示す如く、加速電圧の上昇と共にゲル分率も上昇するが、加速電圧600KV以上ではEおよびFに示す如く加速電圧を上昇してもゲル分率は上昇しないで一定となる。 これによつて加速電圧600KVでは放射線は完全に被照射体を透過していることが推測できる。 上記の如くして得られた被照射体シートを第1図に示す如く未架橋部分(2、3)で貼り合せ、2Kgの荷重の下で160℃の温度に曝した後放冷し、剥離試験を行なつた場合、未架橋部分で剥離することは全くなかつた。 一方被照射体FおよびGについては試料A′およびB′は簡単に剥離した。上記の結果から厚さ1mmのシートの場合、加速電圧を500KVまで上昇させることによつて被照射体に電子線が透過しない部分と透過した部分とができ熱融着可能なビニルシートを製造することができた。」(第2頁右下欄10行?第3頁右上欄第15行) (3)引用発明 記載事項アによれば、引用文献1の請求項1に係る発明のプラスチックフィルムの製法は、熱可塑性プラスチック材料に予め透過深度の調整された放射線を照射することによって、プラスチック材料中に、熱融着しない架橋部分を構成することから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「放射線照射できる熱可塑性プラスチック材料に予じめ透過深度の調整された放射線を照射することにより該プラスチック材料中に熱融着しない架橋部分と熱融着する未架橋部分とを構成し、熱融着可能なプラスチックフィルムを製造する、熱可塑性プラスチック材料を架橋する方法。」 (4)対比 本願発明1と引用発明を対比する。 引用発明における「放射線」、「熱可塑性プラスチック材料」は、それぞれ、本願発明1における「粒子ビーム」、「ポリマー材料」に相当する。 また、引用発明においては、「予め透過深度の調整された放射線」を照射していることから、放射線がプラスチック材料に浸透する深度を予め定めているものといえる。 さらに、引用発明においては、プラスチック材料中に、予め透過深度の調整された放射線を照射することにより、熱融着しない架橋部分と熱融着する未架橋部分とを構成していることから、当該操作は、架橋部分を生成するために充分な期間の放射線でプラスチック材料の架橋部分を選択的に処理するステップと、放射線が前記ポリマー材料の架橋部分に浸透する深度を選択的に予め定めるステップとを備えているといえ、引用発明は、ポリマー材料を選択的に架橋する方法であるといえる。 そうすると、これらのことから、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致している。 「ポリマー材料を選択的に架橋する方法であって、 架橋部分を生成するために充分な期間の粒子ビームで前記ポリマー材料の部分を選択的に処理するステップと、 前記粒子ビームが前記ポリマー材料の前記部分に浸透する深度を選択的に予め定めるステップと、 を含む、 方法。」 そして、本願発明1と引用発明とは、次の点で一応相違ないしは相違している。 (相違点1) 本願発明1は、粒子ビーム・デバイスを用いると特定されているのに対し、引用発明は、粒子ビーム・デバイスを用いると特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1は、粒子ビームがポリマー材料の部分に浸透する深度を選択的に予め定めるステップで、選択された深度は、総厚みの40%ないし60%であると特定されているのに対し、引用発明は、そう特定されていない点。 (相違点3) 本願発明1は、ポリマー材料における処理の結果が、30%ないし80%の平均架橋密度であると特定されているのに対し、引用発明は、そう特定されていない点。 (相違点4) 本願発明1は、ポリマー材料が、多官能基アクリル酸エステル、多官能基メタクリル酸エステル、ポリブタジエン、ポリエチレン、および、ポリプロピレン、のうちの1つ以上を含むと特定されているのに対し、引用発明は、プラスチック材料が熱可塑性材料と特定されている点。 (相違点5) 本願発明1は、処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有し、前記特性は、抗張力、圧縮、断裂エネルギー、負荷、弾力、輸送特性、形態、融点、ガラス転移温度、ミキシング挙動、接着特性、劣化、耐薬品性、および、熱抵抗力のうちの1つ以上を含むと特定されているのに対し、引用発明は、そう特定されていない点。 (5)相違点についての判断 ア 相違点1について 引用文献1の摘示エの実施例1においては、電子線照射装置により放射線を照射して架橋を行うことが記載されており、かかる「電子線照射装置」は、本願発明1における「粒子ビーム・デバイス」に相当する。 したがって、この相違点1は実質的な相違点とはいえないか、仮に相違するとしても、引用文献1の上記記載に基づいて、当業者が粒子ビーム・デバイスを用いて、ポリマー材料を架橋することは、当業者が容易に想到することができたものである。 イ 相違点2について (ア) 本願発明1及び引用発明の解決しようとする課題について 本願明細書の段落【0007】における「たとえば、ルーフィング産業において、表面層と屋根材のベース膜とを界面的に融解ブレンドすることが、重要である。この界面的融解は、表面層の架橋可能領域とベース膜の間のシームレスな接着を生じ、それは次に、屋根の表面により容易に付着する、より耐久性のある材料という結果となる。」の記載によれば、本願発明1の解決しようとする課題には、表面層の架橋可能領域と、ベース膜と界面的に融解される、架橋しない領域とを設けることにより、表面により容易に付着する材料を設けることが含まれるものといえる。 一方、引用文献1の摘示イからは、引用発明の解決しようとする課題の一つが、熱可塑性プラスチック材料、予め透過深度の調整された放射線を照射することにより、プラスチック材料中に熱融着しない架橋部分と熱融着可能な未架橋部分を設けることで、熱融着可能な未架橋部分を、他の部分と容易に融着させることが含まれることが読み取れることから、本願発明1の解決しようとする課題と、引用発明の解決しようとする課題は、同一であるか、類似するものであるといえる。 (イ) 相違点2に係る構成の想到容易性について 引用文献1には、予め放射線の透過深度を調整することにより、プラスチック材料中の熱架橋しない架橋部分と熱融着する未架橋部分とを構成することは記載されている(請求項1)ものの、プラスチックフィルムの透過深度を、プラスチックフィルムの総厚みの40%ないし60%とすることは記載されていない。 しかしながら、引用文献1の摘示イには、ポリエチレン等の熱可塑性プラスチックフィルムでは、加熱温度が上昇して溶融し、使用できなくなること、一方で、熱可塑性プラスチックフィルムに高エネルギー放射線を照射すると、熱溶媒への溶解性が低下すること、架橋の程度によっては、熱可塑性材料から高温度における流動性の低下したゲルに転化できることおよび約250度の高温においても流動を起さない特性をもつ材料が得られることが記載されている。 また、摘示ウの実施例1においては、厚さ1mmのシートに、加速電圧を100KVから700KVに100KV毎に変化させた、A?Gの7種類の試料を作製し、ゲル分率が、30%、35%、40%、45%、50%、65%、65%の試料を得たこと、また、加速電圧600KVでは、放射線は完全に非照射体を透過したことが推測されることが記載されており、加速電圧の強弱やゲル分率は、透過深度と正の相関を有することが技術常識であるから、加速電圧100KV?500KVである試料A?Eでは、浅いものから深いものまで、種々の透過深度を有するプラスチックフィルムが実際に試験されている。 上記の摘示イからは、未架橋の熱可塑性プラスチックフィルムを用いると、溶融により使用できなくなる一方、放射線により架橋される透過深度を深くすると、熱溶媒への溶解性の低下や、流動性の低下を招くことが理解でき、しかも、摘示ウにおいて、種々の透過深度を有するプラスチックフィルムが実際に試験されていることから、これらの要素を勘案しつつ、適切な架橋の度合いとなるよう、透過深度を適切に調整し、プラスチックフィルムの透過深度を、プラスチックフィルムの総厚みの40%ないし60%とその数値範囲を設定することは、当業者が容易に想到することができたものである。 ウ 相違点3について (ア)「平均架橋密度」の技術的意義について 上記第4 1(2)で指摘した理由により、本願発明1における「平均架橋密度」との物性値は、不明確であるものの、本願明細書の段落【0019】には、「また、架橋度は、浸透深さに依存していることが理解される。1つの実施形態において、浸透深さは、特定の架橋密度を達成するために変えられることができる。」と記載されていることから、浸透深さと架橋密度とは相関関係にあり、一般的には、架橋領域が増えることで、放射線架橋の浸透深さが深くなればなるほど、全体的な架橋の度合いが増すと考えられることから、浸透深さが深くなれば、深くなるに従って、平均架橋密度も大きくなるものと考えられる。 また、「架橋密度」という用語から見て、材料を全く架橋しない場合には、「平均架橋密度」が0%であると推測され、さらに、平均架橋密度が「100%」であるということは、「密度」そのものを表すのではなく、何らかで定義された架橋の度合いの最大値を意味するものと考えられる。 そうすると、上記段落【0019】の記載とあわせて考えると、本願発明1において、平均架橋密度を30ないし80%にしたということの技術的意義は、全く未架橋(0%)にするのではなく、その浸透深さを調節することで架橋領域と未架橋領域を作り、架橋の度合いを最大(100%)にせずに、浸透深さを中間の値に調整することで、架橋の程度を中間的にしたという点にあると判断される。 (イ)相違点3に係る構成の想到容易性について 一方、上記イ(相違点2)で検討したように、摘示イからは、未架橋の熱可塑性プラスチックフィルムを用いると、溶融により使用できなくなる一方、放射線により架橋される透過深度を深くしすぎると、熱溶媒への溶解性の低下や、流動性の低下を招くことが理解できる。 また、摘示ウの実施例1においては、厚さ1mmのシートに、加速電圧を100KVから700KVに100KV毎に変化させた、A?Gの7種類の試料を作製し、ゲル分率が、30%、35%、40%、45%、50%、65%、65%の試料を得たこと、また、加速電圧600KVでは、放射線は完全に非照射体を透過したことが推測されることが記載されており、ゲル分率は、架橋密度と相関を有するものであると考えられるから、加速電圧100KV?500KVである試料A?Eでは、架橋の度合いが低いものから、高いものまで、種々の平均架橋密度を有すると認められるプラスチックフィルムが実際に試験されている。 したがって、摘示イ及びウの記載を勘案しつつ、透過深度を適切に調整し、透過深度に依存する、架橋の度合いを意味する平均架橋密度という物性値を、30%?80%の数値範囲にすることは、当業者が容易に想到することができたものである。 エ 相違点4について 引用文献1の摘示イには、本発明方法で使用できる放射線照射可能な熱可塑性プラスチック材料の例示として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸エステル、エチレン-プロピレン共重合体とポリエチレンとのブレンドポリマーが記載されている。 したがって、この相違点4は実質的な相違点とはいえないか、仮に相違するとしても、引用文献1の上記記載に基づいて、引用発明の熱可塑性プラスチック材料として上記で例示された材料を選択することは、当業者が容易に想到することができたものである。 オ 相違点5について 上記第4 1(3)で指摘した理由により、請求項1の「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」との記載は不明確である。 しかしながら、本願明細書の段落【0069】の「・・・結果としてその膜は、・・・より高い平均架橋密度を有する同一材料と比較して、実質的に同様の特性を有した。」との記載を考慮して、上記請求項1の記載は、前者(処理されたポリマー材料)と後者(同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料)とが、同一材料であるが架橋の程度のみが異なる(すなわち、架橋密度の点が前者より後者の方が高く、架橋密度の点と、架橋により不可避的に生じる構造変化以外の差違はない)ということを意図しているものと一応解して、検討を行う。 本願発明1における「特性」には、請求項1の記載から明らかなように、「形態」が含まれるから、「前記処理されたポリマー材料は、同一の化学組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ形態を有する」ものを包含するものである。 そして、一般的に、ポリエチレンやポリプロピレン等の材料は、架橋によっては形態は変化するものではないことが、優先日の時点での技術常識であることから、引用発明において特定される、架橋部分と未架橋部分とを構成するプラスチックフィルムを更に架橋し、高い架橋密度を有する場合であっても、更なる架橋をする前と比して、その形態は架橋前と実質的に同じであることは明らかである。 したがって、相違点5は、実質的な相違点とはいえない。 カ 本願発明1の効果について 引用発明においても、プラスチック材料中に、熱融着しない架橋部分と、熱融着する未架橋部分とを有し、また、プラスチックフィルムを更に架橋した場合でも、実質的に同一の形態を有するものである。 また、本願明細書の記載を考慮しても、選択された深度を、総厚みの40ないし60%に特定し、平均架橋密度を30%ないし80%に特定することに、格別の臨界的意義を認めることができない。 したがって、本願発明1の効果は、引用発明から予測し得た程度のものであるか、引用発明が自明に有する効果であって、格別顕著なものであるとはいえない。 (6)請求人の主張 請求人は、平成29年3月10日付けで提出された上申書の特に「2.拒絶理由1(進歩性欠如)」において、次のとおり主張している。 「引用文献1は、本願発明の発明特定事項「処理されたポリマー材料が、同一の組成と、より高い架橋密度を有するポリマー材料と同じ特性を有する」を、開示・示唆していません。 出願人は、予想外にも、材料の一部分のみを(すなわち、請求項に述べているように、40%?60%の深さに)照射すると、完全架橋材料と同一の機能的最終用途特性を有する部分的架橋材料を生成することができることを発見しました。 この発見は、予想外ですが、引用文献1に対して進歩性を有することになります。 引用文献1を眺めた当業者は、部分的架橋材料は、同一の機能的最終用途特性を有することはないだろう、完全架橋材料とは、機能的に同一ではないだろうと予想するからです。 実際、当業者は、低架橋は、不十分あるいは劣位な最終用途特性を有する材料という結果となると予想するでしょう。 出願人は、予想外にも、請求項に記載されたようにポリマー材料の選択的かつ部分的架橋が、完全架橋ポリマーと同一の最終用途特性を有する機能的材料という結果になることを発見しました。 この進歩性の発見は、引用文献1には、開示・示唆されていません。」 上記請求人の主張について検討する。 上記(5)オの相違点5についての検討で指摘したとおり、請求項1で特定される「特性」が「形態」である場合には、相違点5は、実質的な相違点とはいえない。 また、平成29年4月4日付けの審尋の6(3)において、本願明細書中で実施例とされる[例1]で、具体的にどの特性が、より高い平均架橋密度を有する同一材料と比較して、実質的に同様の特性を有したのかを審尋したところ、それに対する回答として、平成29年10月30日付けで提出された回答書において、「請求人は、結果として生じる膜と、より高い平均架橋密度を有する同一材料との間で特性を比較する実験データを持っていません。しかしながら、請求人は、驚くほど良い結果を達成した、40%の架橋密度を有する膜を達成したこと、および、少なくとも、伸長特性が同一または実質的に同様であることを確認しました。」との回答がなされた。 上記回答によれば、請求人は、結果として生じる膜と、より高い平均架橋密度を有する同一材料との間で、伸張特性以外の特性を比較する実験データを持っていないことから、伸張特性以外の特性については、「材料の一部分のみを照射すると、完全架橋材料と同一の機能的最終用途特性を有する部分的架橋材料を生成することができる」という予想外の効果を主張する請求人の主張の根拠がないことは明らかである。 また、本願発明1で特定される「特性」には、(「伸張特性」とは多義的な用語であって、具体的にどのように定義された特性を意味するのか明瞭でないものの)「伸張特性」は含まれていないし、さらに、伸長特性が同一または実質的に同様であるとする具体的な実験データも確認できない。 したがって、上記請求人の主張は、採用できない。 (7)小括 以上のことからみて、本願発明1は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこれらの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-23 |
結審通知日 | 2018-01-30 |
審決日 | 2018-02-13 |
出願番号 | 特願2013-505104(P2013-505104) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08J)
P 1 8・ 537- WZ (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中山 基志、清水 晋治 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
堀 洋樹 橋本 栄和 |
発明の名称 | 架橋膜表面 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 森 啓 |
代理人 | 榎原 正巳 |
代理人 | 鶴田 準一 |