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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07J
管理番号 1341756
審判番号 不服2016-18939  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-16 
確定日 2018-06-27 
事件の表示 特願2015-502084「ジンセノシドC-Kの2つの結晶形およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日国際公開、WO2013/149571、平成27年 4月20日国内公表、特表2015-511608〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2013年4月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年4月1日(CN)中国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月28日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月4日付けで拒絶査定がされ、同年12月16日に拒絶査定不服審判が請求され、平成29年2月8日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、同年9月20日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成29年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項7】
ジンセノシドC-KのH型結晶であって、XRPDパターンにて5.53、6.71、11.11、13.36、14.64、15.59、15.97、17.25、18.18、19.67、20.76、22.40、23.80、24.69、26.60、および28.22の2θ値(°)(ここで2θ値の誤差範囲は±0.2である)で回折ピークのあることを特徴とする、ジンセノシドC-KのH型結晶。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成29年9月20日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の理由3の概要は、「この出願の請求項1?10、13に係る発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」は、刊行物1として提示されたCrystal Research and Technology, 2012年1月31日, Vol.47, p.377-384(原審における引用文献1、以下「刊行物1」という。) である。本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項1?10、13のうちの請求項7に係る発明に相当する。

第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:Crystal Research and Technology, 2012年1月31日, Vol.47, p.377-384
刊行物3:PHARM STAGE 2007, Vol.6, No.10, p.20-25(原審における引用文献15)
刊行物4:芦澤一英編著,「医薬品の多形現象と晶析の科学」,丸善プラネット株式会社,2002年9月20日,p.3-16
刊行物5:仲井由宣,花野学編,「新製剤学」,2刷,南山堂,1984年4月25日,p.102-103,232-233
刊行物6:玉虫文一,富山小太郎,小谷正雄,安藤鋭郎ら編,「岩波 理化学辞典 第3版増補版」,岩波書店,1981年10月20日,p.487
刊行物7:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,2003年1月,p.178
刊行物8:日本化学会編,「実験化学講座(続)2分離と精製」,丸善,昭和42年1月25日,p.159-178,186-187
刊行物9:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物10:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(同引用文献17)
刊行物11:平山令明編,「有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-」,丸善株式会社,2008年7月25日,p.37-40,45-51,57-65
刊行物3?11は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物の記載事項

ア 刊行物1
訳文で示す。
(1a)「新規ジンセノシド化合物k水和物及びメタノール溶媒和物の単離、特徴付け及び相転移」(表題)
(1b)「1 イントロダクション
オタネニンジンの根の主成分であるジンセノシド化合物K(CK)は、プロトパナキサジオールサポニンの経口投与後に血液中に検出される代謝産物の1つである。これは、通常、ヒト腸内細菌によるプロトパナキサジオールジンセノシドの発酵によって得られる。近年、癌治療における高い生物活性(抗炎症、抗アレルギー、肝保護作用)が注目されている[1,2]。その化学構造を図1に示す。

擬多形とも呼ばれる溶媒和物は、同じ結晶格子内に親化合物と1つ以上の溶媒を含む分子付加物である[3]。溶媒分子の存在は、生物学的利用能に影響を与える可能性がある溶解度、安定性、溶解速度、自由エネルギー、晶癖などの様々な物理化学的特性に影響を与えることはよく知られている[4,5]。この影響は結晶多形に類似しており、溶媒和物は製薬、食品、化学業界で一般的である。したがって、溶媒和物を形成する有機化合物の相対数が劇的に増加している[6]。
溶媒和物の信頼できる単離方法は、異なる結晶化方法または異なる溶媒で得ることができる所望の生成物を得るために重要である。粉末X線回折(PXRD)、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、走査電子分光法、顕微鏡(SEM)、ラマン分光法のようなオフライン特性評価技術が、異なる溶媒和物の分析及び特性評価に使用されてきた[7]。さらに、安定な溶媒和物は、準安定な溶媒和物の転移から得ることができ、それらの間の転移は、しばしば液相または気相によって媒介される[3,8]。転移の最終段階は、生成物の競合核生成及び成長によって決定され、様々なプロセスパラメータ(例えば、温度、種晶添加、溶媒組成、攪拌など)によって影響を受ける[9-11]。理想的な産物を得るためには、転移プロセスを理解することが非常に重要である。近年、パーティクルビジョン測定(PVM)、全反射フーリエ変換赤外分光法(ATR-FTIR)、集束ビーム反射率測定(FBRM)及びラマン分光法が、変換を監視するプロセス分析技術(PAT)ツールとしてますます使用されている[12-15]。
われわれの知るところでは、CKの溶媒和物(二水和物及びメタノール-水溶媒和物)の2つの結晶構造のみが報告されているが[16,17]、CKを単離する結晶化方法に関する情報はほとんどない。ここでは、2つの新しい溶媒和物(非化学量論的水和物/ CKH及びメタノール溶媒和物/ CKM)の信頼できる単離方法が本論文で開発された。それらは異なる溶媒中で冷却結晶化によって得られ、CKMもCKHからの転移によって調製することができた。さらに、PAT(ATR-FTIR、FBRM、PVM)により、メタノールとアセトンの混合溶媒中のCKHからメタノール溶媒和物(CKM)へのスラリー転移についても検討した。温度、初期溶液濃度及び種晶添加の転移速度への影響を調べた。」(377頁24行?378頁27行)
(1c)「2 実験
材料 粗物質ジンセノシド化合物Kは、Zhejiang Hisun Pharmaceutical社、中国、より供給され、純度99.0%以上であり、使用された溶媒はすべて分析用であった。脱イオン水は私たちの研究室で準備され、全体を通して使用された。
機器及び装置 インペラー(200rpmの攪拌速度を有する)を備えた200mLのジャケット付きガラス晶析装置を、すべての溶液結晶化及び転移実験に使用した。転移実験では、質量比1:10のメタノールとアセトンの混合溶媒にCKHを添加し、CKRからCKMへの変換をATR-FTIR、FBRM及びPVMによってモニターした。
溶媒和物のPXRDスペクトルを、D / MAX 2500回折計(CuKα放射、λKα1=1.5406Å)により100mA及び40kVで収集した。試料は、0.02°のステップで2θで2°と50°の間で記録され、ドエルタイムは1秒であった。」(378頁28?38行)
(1d)「3 結果及び考察
2つの新しい溶媒和物の単離方法 2つの溶媒和物は、異なる溶媒中で得られた。 CKHは、アセトン及び水の混合溶媒中の粗物質の冷却結晶化によって調製され、CKMは、制御された冷却結晶化によってメタノールから得られた。粗物質を溶媒和物中に添加して55℃で飽和透明溶液を生成し、次いでそれらを5℃に冷却して生成物を得た。撹拌速度は全工程で200rpmであった。さらに、メタノール-アセトン混合溶媒において、存在するメタノールが少量であっても(8%未満であっても)、メタノールとの相互作用が強いため、CKHはCKMに変換することができることがわかった。その結果、CKMはメタノール-アセトン混合溶媒中のCKHの変換によっても得ることができた。生成物を50℃で真空乾燥した。走査型電子顕微鏡(SEM)、示差走査熱量計(DSC)、熱重量分析(TGA)、粉末X線回折(PXRD)及びフーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって2種の溶媒和物を分析した。図2から、2つの溶媒和物は、異なる極性の溶媒との相互作用のために異なる晶癖を示す。CKMはブロック形状であり、CKHは角柱形状である。」(379頁13?26行)
(1e)「図4は、2つの新しい溶媒和物のデータのPXRDを示す。PXRD回折図は報告された溶媒和物(二水和物及びメタノール-水溶媒和物)と著しく異なり、2つの溶媒和物、CKM及びCKHもまた非常に異なる特徴を示す。CKMの特徴的なピークは、4.4±0.2,5.2±0.2,6.4±0.2,7.5±0.2,9.1±0.2,10.6±0.2,12.0±0.2,13.4±0.2,14.7±0.2,15.3±0.2,17.2±0.2度であり、対してCKHは、5.4±0.2,6.6±0.2,11.0±0.2,12.6±0.2,13.2±0.2,14.5±0.2,15.5±0.2,15.9±0.2,17.1±0.2,20.6±0.2度に特徴的なピークを、それぞれ有する。異なる特徴的なピークは、2つの溶媒和物の異なる結晶構造を裏付ける。」(379頁39?45行)
(1f)「

」(図4)

イ 刊行物3
(3a)「Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には,冷却法,貧溶媒法(Precipitation),蒸発法,スラリーコンバーション法(溶媒媒介転移法)がある。核生成のために必要な過飽和の溶質濃度は,準安定形の方が最安定形よりも高いことから,いずれの方法においてもより高い過飽和の溶質濃度を生成する結晶化条件で,準安定形が得られやすい傾向があると考えられる(例えば,冷却法では速い冷却速度,大きい温度差など)。また,準安定形は,より自由エネルギーの低い準安定形,最安定形へ転移する性質(Ostwald則)を持つことから,結晶化期間も得られる多形に影響する。」(22頁左欄11?21行)

ウ 刊行物4
(4a)「結晶の多形現象は,医薬だけでなく,固体の物質科学の中で一般的に観測されている現象であるが,医薬品においては有効性,安全性,品質の観点から考慮すべき極めて重要な項目の一つになっている。すなわち,固体状態における結晶多形や疑似多形,結晶化度の違い,水や賦形剤との相互作用などの分子状態の差は,水や水溶液に対する溶解度や溶解速度,また,融解温度,融解熱や格子エネルギー等の物理的及び化学的諸性質に影響する。例えば,多形転移に基づく結晶成長のために,剤形破壊や適用性の低下が起こり得るし,また,分子レベルの観点から考えた場合には,結晶中の分子間,または原子間距離の違いによって,多形間で化学反応性に差異が生じ,原薬および製剤の保存等において化学的安定性が異なることも考えられる。したがって,このような医薬品研究のマテリアルサイエンスに従事する人々においては,医薬品の多形現象などの結晶物性について,熟知しておくことは当然必要なことである。
まず,医薬品における結晶多形とは何か,ということから話を進めることとする。医薬品は複雑な化学構造を持っているために,固体の医薬原薬の70%が結晶多形を示すと言われている。」(3頁9?20行)
(4b)「原薬の塩・結晶形は,溶解度,固体安定性,分散性,固液分離特性(精製効率)などに大きく影響する。特に経口薬では,その溶解性がバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす事から,医薬品の開発研究において極めて重要な検討項目の一つである。」(14頁下から6?下から4行)

エ 刊行物5
(5a)「多形とは同じ化学組成を持ちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう.すなわち結晶中の原子あるいは分子の空間的な配列の違いによって多形がおこるので,融解したり溶解した場合には区別はできない.
多形を示す物質としては・・・医薬品では酢酸コルチゾン,プロゲステロン,プレドニゾロン,バルビタール,フェノバルビタールなどがあり,とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている.
多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在はX線回折法,密度測定法,偏光顕微鏡法,赤外吸収スペクトル法により知ることができる.また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ.ある薬品に多形があるとき,一般に融点の高い方が安定形である溶解度は低い.融点の低い方の準安定形は安定形よりも高い溶解度をもっているが実際には測定中に安定形結晶が生じ易く,このときは溶解度は安定形結晶によって決められて準安定形の溶解度は得られない.」(102頁下から6行?103頁10行)

オ 刊行物6
(6a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.精製の方法としてしばしば使われる.結晶を析出させるためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合その大部分が溶液中に残るので精製の目的が達せられる.」(487頁左欄27?36行)

カ 刊行物7
(7a)「おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ(原文はさんずいに戸)過性・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.」(178頁左欄22?27行)
(7b)「(iv)多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶が擬多形とよばれる.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.」(178頁右欄3?7行)
(7c)「晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・
(ii)貧溶媒晶析 目的物質の溶液に,その溶媒とは容易に混合しあうが目的物質との親和性は低い溶媒(貧溶媒)を添加する,あるいはその逆の操作で結晶を析出させるものであり,医薬品中間体などの製造に多用される.・・・」(178頁右欄25?43行)

キ 刊行物8
(8a)「沈殿と再結晶の技術は化合物の分離あるいは精製の手段として最も古くから知られている方法である科学の進歩に伴い種々の新しい分離法が登場し実用に供されてきたが,沈殿法および再結晶法はなお依然として分離・精製法の大部を占めており,その重要性はいささかも失われていない.
沈殿法は目的物質を含む溶液に試薬を加えてその物質を難溶性の化合物に変えて分離する操作である.したがって,沈殿法においては難溶性の化合物に変えるために常に化学変化を伴っている.これに対し,結晶法は溶液の状態から目的物質を濃縮あるいはその他の操作により主として物理的変化を利用して目的物を結晶化する方法である.化学反応による生成物が結晶性の沈殿であることも多いので,沈殿法と結晶法とが特に区別されずに用いられている場合も少なくない.」(159頁5?14行)
(8b)「分離・精製における溶媒の主要な役割は析出させるべき化合物を溶解し,ついでそれを冷却あるいは蒸発濃縮などによって沈殿(結晶)を析出させることである.
・・・・・・

」(166頁18行?168頁表5・1)

ク 刊行物9
(9a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1(原文は○中1。以下、「○2」?「○6」についても同様。)放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(9b)「

」(186頁表4・5)
ケ 刊行物10
訳文で示す。
(10a)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(945頁、標題)
(10b)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。
したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。
固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(945頁左欄1行?右欄15行)
(10c)「A.多形の形成?多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(946頁右欄19?28行)

コ 刊行物11
(11a)「3.5 筆者の研究室における溶液からの結晶化の実際
・・・
結晶化すべき分子の化学構造が予めわかっている場合には,まず文献を調査して溶解するのに適する溶媒を検索する.溶解に適する溶媒と結晶化に適する溶媒は必ずしも一致していない.情報が十分にない場合には,その分子の化学構造を含めて次のように溶媒を選択する.
(1)結晶すべき化合物が塩であるか,OH基を多く含む場合は,メタノール,アセトン,またはエタノールを試す.まずメタノール,エタノールの順序で試みるが、これらにすぐ溶けてしまう場合には,2-プロパノールを試みる.
・・・
(5)さっと溶ける溶媒より,多少溶け難い溶媒のほうが結晶化には適する.」(45頁1行?46頁12行)
(11b)「4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59頁2行?60頁最終行)
(11c)「

」(表4.1)
3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、ジンセノシド化合物K、すなわちジンセノシドCK(摘示(1b))の新規な水和物及びメタノール溶媒和物の単離、特徴付け及び相転移についての学術論文である(摘示(1a))。そして、ジンセノシドCKは、癌治療において高い生物活性(抗炎症、抗アレルギー、肝保護作用)を有することが記載されている(摘示(1b))。また、上記ジンセノシドCKの新規な水和物は、CKHと称される非化学量論的水和物であり(摘示(1b))、粗ジンセノシドCKをアセトン及び水の混合溶媒に添加して55℃で飽和透明溶液を生成し、次いでそれを5℃に冷却する冷却結晶化により調製されたこと(摘示(1d))が記載されている。さらに、当該CKHの粉末X線回折(XRPD)測定を行った結果として、図4の下半分に示されるXRPDパターンが示され(摘示(1c)(1f))、5.4±0.2、6.6±0.2、11.0±0.2、12.6±0.2、13.2±0.2、14.5±0.2、15.5±0.2、15.9±0.2、17.1±0.2、20.6±0.2度で特徴的なピークを有すること(摘示(1e))が記載されている。ここで、当該CKHは、「冷却結晶化」により調製されたこと(摘示(1d))、及び、XPRD等の特性分析がなされ、CKMと称されるメタノール溶媒和物と異なる「晶癖」や「結晶構造」を有すること(摘示(1d)(1e))が記載されることからみて、結晶の形態を有するものであると認められる。
したがって、刊行物1には、
「図4

の下半分に示され、5.4±0.2、6.6±0.2、11.0±0.2、12.6±0.2、13.2±0.2、14.5±0.2、15.5±0.2、15.9±0.2、17.1±0.2、20.6±0.2度で特徴的なピークを有するXRPDパターンを有する、ジンセノシドCKの結晶」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4 対比
本願発明と、引用発明とを対比すると、引用発明における「ジンセノシドCK」は、本願発明における「ジンセノシドC-K」に相当する。また、本願発明における「H型結晶」中の「H型」なる記載は、ジンセノシドC-Kの結晶のうち、「XRPDパターンにて5.53、6.71、11.11、13.36、14.64、15.59、15.97、17.25、18.18、19.67、20.76、22.40、23.80、24.69、26.60、および28.22の2θ値(°)(ここで2θ値の誤差範囲は±0.2である)で回折ピークのある」結晶に対して付与された名称であるということの他に、何らかの技術的事項を特定するものであるとは認められない。
したがって、両者は、
「ジンセノシドC-Kの結晶」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明は、「XRPDパターンにて5.53、6.71、11.11、13.36、14.64、15.59、15.97、17.25、18.18、19.67、20.76、22.40、23.80、24.69、26.60、および28.22の2θ値(°)(ここで2θ値の誤差範囲は±0.2である)で回折ピークのある」ものであると特定されるのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点

5 相違点に係る容易想到性について

(1)結晶を得ることの動機付けについて
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することには強い動機付けがあり、医薬化合物を結晶として得るための条件や手法を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行っていたものと認められる。また、結晶化の条件や手法により得られる結晶が異なり、結晶毎に物理的化学的性質が異なることがある、すなわち、結晶多形が存在し得ることもよく知られている。特に、医薬品開発においては、結晶毎に安定性や溶解性、バイオアベイラビリティ等の性質が異なることから、擬多形と呼ばれる溶媒和物を含めた結晶多形の検討が重要であることが広く認識されている(摘示(4a)(4b)(7a)(10b))。
そして、引用発明におけるジンセノシドC-Kは、癌治療への用途が意図された医薬化合物であるから(摘示(1b))、不純物による不測の副作用の防止等のために高純度であることは当然に望まれることであるし、バイオアベイラビリティや安定性等の観点から、結晶多形を探索し、検討することは通常行われるものであるといえる。
さらに、刊行物1では、ジンセノシドC-Kについて、すでに知られる2つの結晶に加えて、引用発明を含む新たな2つの溶媒和物の結晶を得たことが記載されているのであるから(摘示(1b)(1d))、引用発明について、当業者が結晶を得るための条件や手法をさらに検討したり、得られた結晶の分析を行うことには、十分な動機付けが存在するものといえる。

(2)ジンセノシドC-Kの結晶の製造及び分析について
結晶を得るために、溶液から結晶化する方法は、化学物質の製造全般に広く用いられているものである。結晶化の操作としては、1)温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却する冷却法、2)溶媒を蒸発して濃縮する濃縮法、3)溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させる貧溶媒法が代表的であり(摘示(3a)(6a)(7c))、刊行物1では、1)の冷却法が用いられている(摘示(1c)(1d))。
また、結晶化に用いる溶媒については、6?十数種類程度の溶媒がよく知られており(摘示(8b)(9a)(10c)(11c))、摘示(9a)によると、一般に、水素結合性、極性を考慮すれば、ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、アセトン、エタノール、水の6種の溶媒の中から選択すればよく、さらにこの中間の極性のものがほしい場合には、2種の溶媒を混合したり、他の溶媒を選択することが検討されている。
ここで、本願発明の結晶を得るための方法について検討するに、この出願の明細書及び特許請求の範囲(以下「本願明細書等」という。)には、本願発明の結晶の製造方法として、本願の請求項11?13に係る方法が記載されている。なかでも請求項13には、
「請求項7?10のいずれか一項に記載のH型結晶の製造方法であって、
(1)ジンセノシドC-Kを有機溶媒に高温で溶かし、ここで有機溶媒はアセトン、ブタノン、酢酸エチル、酢酸ブチルおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;
(2)冷却し、放置して固体を得;
(3)濾過し、得られた固体を乾燥してジンセノシドC-KのH型結晶を得ることを含む、H型結晶の製造方法」
が記載され、この方法の実施例に相当する実施例6には、
「ジンセノシドC-K(2.3g)を容器に入れ、その中にアセトン(100ml)を加え、55℃まで加温した。攪拌により溶解した後、溶液を室温に冷却し、12時間放置して固体を成長させた。濾過した後、濾過ケーキを減圧下で乾燥し、ジンセノシドC-Kの結晶形Hを得た。そのXRPDパターンを図7に示した。」
と記載され、実際に本願発明の結晶が得られたことが示されている。
実施例6に記載される上記方法は、結晶化操作として、刊行物1と同様に上記の1)の冷却法を用い、溶媒として上記6種の溶媒のうちのアセトンを用いた方法に相当するから、結晶を得るために当業者が通常行う範囲内の手法であるといえる。
特に、医薬分子の結晶化に用いる溶媒の選択について、「結晶すべき化合物が塩であるか,OH基を多く含む場合は,メタノール,アセトン,またはエタノールを試す」という一般的な手がかりも知られており(摘示(11a))、ジンセノシドC-Kの化学構造は

であって、OH基を6個有することからみれば、結晶化溶媒として、メタノール、アセトン又はエタノールを選択することは、当業者がごく普通に行うことであるといえる。
また、刊行物1には、アセトン及び水の混合溶媒又はメタノールを用いた冷却法において、溶液にするために55℃に加温することが記載されており(摘示(1d))、アセトンをはじめとする溶媒を用いた冷却法において、室温で放置、徐冷した事例も知られていること(摘示(11b)(11c))からみれば、上記実施例6で用いられる条件が特殊なものであるともいえない。
そうすると、本願明細書等に記載される上記製造方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本願発明の結晶は、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物であるといえる。
さらに、刊行物1でも行われているとおり(摘示(1c)?(1f))、結晶多形の検討、同定のために、XRPD測定を行うこともごく一般的であるから(摘示(7b))、相違点に係る、特定の2θ値で回折ピークを有する点は、得られた結晶を分析するにあたり、当業者が通常用いるXRPD測定を行った結果を提示したに過ぎないものである。

(3)以上のことから、引用発明において、結晶を得るための条件や手法を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えた結晶に至ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

6 効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0040】に、表3とともに
「結晶形D、結晶形Hおよび結晶形Gの試料を、各々、80℃で1週間放置し、その後で結晶形の変化について測定した。その結果、かかる条件下で、結晶形Dおよび結晶形Hでは変化は観察されず、それに対して結晶形Gは結晶形Dに変わっており、このことは結晶形Hおよび結晶形Dが共に優れた熱安定性を有することを示した。」
と記載されることからみて、結晶形Gの結晶よりも優れた熱安定性を有することであると認められる。
しかし、結晶多形において準安定形や安定形のものが存在し得ることは広く知られているところ(摘示(3a)(5a))、本願発明の結晶が、結晶形Gの結晶よりも80℃において安定であるとしても、それが当業者にとって予期し得ない顕著なものとまではいえない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-29 
結審通知日 2018-01-30 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2015-502084(P2015-502084)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07J)
P 1 8・ 537- WZ (C07J)
P 1 8・ 113- WZ (C07J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 裕之  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 冨永 保
榎本 佳予子
発明の名称 ジンセノシドC-Kの2つの結晶形およびその製造方法  
代理人 鮫島 睦  
代理人 水原 正弘  
代理人 品川 永敏  
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