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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1341764
審判番号 不服2017-5205  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-12 
確定日 2018-06-27 
事件の表示 特願2015-113698「薬学的組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-155479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1. 手続の経緯
本願は、平成22年10月12日(パリ条約による優先権主張 2009年10月13日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2012-534277号の一部を、平成27年6月4日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月12日付で拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年12月5日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成29年4月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
その後、平成29年5月9日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年9月15日付けで付で、拒絶理由を通知したところ、それに対し、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2. 本願発明
本願の請求項1?24に係る発明は、平成29年12月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、下記のとおりのものである。

「 【請求項1】
(a)ラデゾリド又はその薬学的に許容される塩、
(b)クエン酸及びクエン酸塩を含む緩衝剤、
(c)水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤、並びに
(d)水
を含む、静脈内投与または注射投与のための薬学的組成物であって、該薬学的組成物がシクロデキストリンを含まない、薬学的組成物。」

第3. 刊行物に記載された事項
1.
当審において平成29年9月15日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2003-527207号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)
「 【請求項1】 グラム陽性オキサゾリジノン剤のIV水性溶液用容器であって、少なくとも50%ポリオレフィンで作製されている容器-溶液接触表面材を有することを特徴とする該容器。 」(特許請求の範囲)
(1-2)
「【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、湿熱滅菌の間およびその後に医薬上有用な抗菌オキサゾリジノン剤と接触するIV容器における材料としてのポリオレフィンの使用である。」(【0002】)
(1-3)
「【0011】
オキサゾリジノンは抗菌剤として、特に、グラム陽性生物に対して有用であることは当業者にはよく知られている。米国特許第5,688,792号はオキサゾリジノンをIV投与し得ることを開示する。リネゾリドIV溶液の好ましい配合は:
リネゾリド 2.0 mg/mL
クエン酸ナトリウム・二水和物(USP) 1.64mg/mL
クエン酸無水物(USP) 0.85mg/mL
デキストロース・一水和物(USP) 50.24mg/mL
塩酸(10%) pH4.8(pH4.6ないし5.0)にq.s.
水酸化ナトリウム(10%) pH4.8(pH4.6ないし5.0)にq.s.
注射用水(USP) (q.s.ad 1.0mL)」(【0011】)

同じく、当審において平成29年9月15日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2004-506699号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)
「【請求項1】
感染症を有する又は感染症の危険性がある対象に投与するための薬剤組成物であって、(a)生理的に適合するpHにおける実質的等張性水溶液中のオキサゾリジノン抗微生物薬の溶解度の実際の限界を超える有効濃度である濃度のオキサゾリジノン抗微生物薬、及び(b)このような薬物濃度において該薬物を溶解状態で維持するために充分な濃度での製薬的に受容されるシクロデキストリン化合物を、その中に溶解状態で有する水性キャリヤーを含む前記組成物。
・・・
【請求項5】
静脈内注射又は注入に適している、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
薬物濃度が約3?約100mg/mlである、請求項1記載の組成物。」
(3-2)
「【0003】
発明の背景
治療的及び/又は予防的に有用な抗生物質的又は抗微生物的、特に抗菌的効果を有する、非常に多くのオキサゾリジノン化合物が報告されている。このような化合物のなかには、各々が本明細書に個別に援用される下記特許に具体的に開示された化合物が含まれる:Bricknerへの米国特許第5,164,510号、Bricknerへの米国特許第5,231,188号、BarbachynとBricknerへの米国特許第5,565,571号、Riedl等への米国特許第5,627,181号、Barbachyn等への米国特許第5,652,238号、Barbachyn等への米国特許第5,652,238号、Barbachyn等への米国特許第5,688,792号、Riedl等への米国特許第5,698,574号、Bettsへの米国特許第6,069,145号。
【0004】
上記米国特許第5,688,792号に開示された化合物は、例えば、本明細書においてリンゾリドとも呼ばれる化合物(S)-N-[[3-[3-フルオロ-4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-オキソ-5-オキサゾリジニル]メチル]アセトアミドを包含する。リンゾリド(linezolid)は式(I):
【0005】
【化1】


で示される構造を有し、Pharmacia Corporationの商標Zyvox(登録商標)で薬剤として商業的に用いられている。リンゾリドは下記属の微生物を包含するグラム陽性微生物に対して強い抗菌活性を示す:ブドウ球菌属(Staphylococcus)(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis))、レンサ球菌属(Streptococcus)(例えば、ストレプトコッカス・ビリダンス(Streptococcus viridans)、ストレプトコッカス・ニューモニアエ(Streptococcus pneumoniae))、腸球菌属(Enterococcus)(例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus fecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium))、バシラス属(Bacillus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、クラミジア属(Chlamydia)及びナイセリア属(Neisseria)。多くのこのようなグラム陽性微生物は他の抗生物質に対して顕著なレベルの耐性を発現させている。オキサゾリジノン抗生物質は例えばバクテロイデス属(Bacteroides)及びクロストリジウム属(Clostridium)の微生物のような嫌気性微生物並びに例えばマイコバクテリウム属(Mycobacterium)の微生物のような耐酸性微生物に対しても一般に有効である。」
(3-3)
「【0033】
本明細書では、特にリンゾリドに関連して、本発明を例示するが、本明細書に述べる組成物及び方法において、必要に応じて、任意の他のオキサゾリジノン抗微生物薬を全体的に又は部分的にリンゾリドの代わりに、濃度及び投与量範囲を適当に調節して用いることができることは、理解されるであろう。」
(3-4)
「【0040】
例えば酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸及び塩酸のような酸;例えば水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム及びトリス-ヒドロキシメチルアミノメタンのような塩基;例えばクエン酸塩/デキストロース、クエン酸塩/リン酸塩、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムのような緩衝剤を含めた、1種類以上の製薬的に受容されるpH調節剤及び/又は緩衝剤を本発明の組成物に含めることができる。特に組成物が非経口的デリバリーを予定される場合に、組成物のpHを生理的に許容される範囲内に維持するために必要な量で、このような酸、塩基及び緩衝剤は包含される。」
(3-5)
「【0063】
これらの条件下での2か月間の貯蔵後に沈殿も変色も見られなかった。
実施例5
直接静脈内(IV)注入に適した4製剤X、A、B及びCと、標準IV希釈剤(例えば、生理食塩水又は5%デキストロース)による希釈に適した1製剤Dとを調製する、これらの各々は600mg量のリンゾリドを含有する。シクロデキストリンを含有しない製剤Xを比較のために含める。製剤Xと、製剤A?Dとの組成を表2に示す。
【0064】
表2.製剤XとA?Dの組成(mg/ml)
【0065】
【化5】


^(*)シクロデキストリンの不存在下で等張性溶液を得るために必要な濃度
q.s.=示した総量に構成するために充分な量
リンゾリドの600mg用量を生じるIV溶液量の非常に実質的な減少がSB-β-CDの添加によって可能となることが、上記表2に明確に見られる。」

同じく、当審において平成29年9月15日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物であるE.Burak et al. Radezolid, A Novel Oxazolidinone, Accumulates in Infected Thigh Tissue, A1-1938, 49th ICAAC[online],2009年 9月(以下「引用文献7」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用文献7は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(7-1)
「背景:ラデゾリド(RDZ)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む様々なグラム陽性菌に対する優れたインビトロおよびインビボ活性を有する治験用オキサゾリジノンである。・・・リネゾリド(LNZ)・・・方法:標準技術を用いて、好中球減少および非好中球減少CD-1マウスにおいて、MRSA11540(USA300)を用いてマウス大腿感染を確立した。細菌負荷の2時間後および12時間後に静脈内に投与した(50mg/kg/投与一回)。・・・MRSA11540に対するRDZおよびLNZのMICは、それぞれ1および2mg/Lであった。」(Abstruct)

2. 引用発明
引用文献7には、標準技術を用いて、好中球減少および非好中球減少CD-1マウスにおいて、MRSA11540(USA300)を用いてマウス大腿感染を確立し、細菌負荷の2時間後および12時間後に、50mg/kg/投与一回で静脈内投与したところ、MRSA11540に対するラデゾリドのMICが、1mg/Lであったことが記載されていることからみて、以下の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。

「ラデゾリドを含み、MRSA11540に対するMICが1mg/Lである、静脈内投与される薬学的組成物。」

第4. 対比
本願発明1と引用発明7を対比すると、引用発明7の「ラデゾリド」及び「MRSA11540に対するMICが1mg/Lである、静脈内投与される薬学的組成物」は、各々、本願発明1の「(a)ラデゾリド又はその薬学的に許容される塩」、「静脈内投与または注射投与のための薬学的組成物であって、該薬学的組成物がシクロデキストリンを含まない、薬学的組成物」に相当するから、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「(a)ラデゾリド又はその薬学的に許容される塩、
を含む、静脈内投与または注射投与のための薬学的組成物であって、該薬学的組成物がシクロデキストリンを含まない、薬学的組成物。」

(相違点1)
薬学的組成物について、本願発明1は、「(b)クエン酸及びクエン酸塩を含む緩衝剤」を含むものとされているのに対し、引用発明7は、このような特定を有していない点。

(相違点2)
薬学的組成物について、本願発明1は、「(c)水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤」を含むものとされているのに対し、引用発明7は、このような特定を有していない点。

(相違点3)
薬学的組成物について、本願発明1は、「(d)水」を含むものとされているのに対し、引用発明7は、このような特定を有していない点。

第5. 判断
1. 相違点1?3について
静脈内投与される薬学的組成物は、通常液体であって、水を含むから、相違点3は、実質的な相違点ではない。

また、静脈内に投与される組成物を実際に製造する際に、緩衝剤を加えることができることや、水性溶剤を使用する場合にpHを調節するため無害の酸又はアルカリを加えることができることは、本願優先権主張日当時の周知技術であり、クエン酸およびクエン酸塩を含む緩衝剤や、水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤も、同じく周知のものの一つである(必要なら、例えば、「第十三改正 日本薬局方解説書 1996」 廣川書店 「[A] 5.製剤総則 18.注射剤」の項(特に、A-113頁)、「医薬品添加物事典 2000」 株式会社薬事日報社 クエン酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸の項、を参照。)。
してみると、引用発明7の薬学的組成物を実際に製造する際に、上記周知技術の中からクエン酸およびクエン酸塩を含む緩衝剤や、水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤を適宜選択し、これらを含有するものとすることは、当業者であれば、上記周知技術に基づき容易になし得たことである。

しかも、ラデゾリドは、オキサゾリジノン系抗菌剤であるところ、オキサゾリジノン系抗菌剤を有効成分とする静脈内投与される薬学的組成物について、引用文献3には、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム及びクエン酸塩を選択肢に含むpH調節剤及び/または緩衝剤を含有させることができること(摘示(3-4))、及び、オキサゾリジノン系抗菌剤としてリネゾリドを有効成分とする静脈内投与される薬学的組成物において、クエン酸及びクエン酸塩であるクエン酸ナトリウムを含む具体例(摘示(3-5))が記載されており、引用文献1にも、オキサゾリジノン系抗菌剤としてリネゾリドを有効成分とする静脈内投与される薬学的組成物において、クエン酸及びクエン酸塩であるクエン酸ナトリウム並びにpHを4.8前後に調節する成分として水酸化ナトリウムを含有させた具体例(摘示(1-3))が記載されている。
してみると、引用発明7の薬学的組成物を実際に製造する際に、ラデゾリドがオキサゾリジノン系抗菌剤に含まれるものであることに基づき、緩衝剤やpH調整剤について、引用文献3や同1においてオキサゾリジノン系抗菌剤に対して使用することができるとされている、あるいは、実際に使用されたとされている緩衝剤やpH調整剤を使用することを着想し、クエン酸およびクエン酸塩を含む緩衝剤や、水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤を含有するものとすることは、引用発明7に接し、引用文献3または1を併せ見た上記当業者であれば、なおのこと容易になし得たことである。

2. 効果について
本願明細書には、本願発明1がいかなる効果を奏したのかについて、何らの記載も見いだせない。わずかに、本願明細書に以下の記載
「微生物感染症を治療するための抗菌剤の送達は、特別な難題を引き起こし得る。治療効果を得るために、一般に、抗菌剤を患者に投与して、血流又は標的器官において最小阻止濃度(すなわちMIC)を超える全身濃度を、標的となる特定の微生物(単数又は複数)に対して十分な時間得ることが望ましい。したがって、in vivo投与用に適切に処方しないと、通常は有効な抗菌プロファイルをin vitroで示す抗菌剤が無効となり、有害にさえなり得る。
したがって、薬物有効成分、特に抗菌剤の安全で有効な送達に適した薬学的組成物の開発及び製造は、重要であり、継続的に必要とされる。本発明は、これら及び他の要求を満足することが理解されるであろう。
本発明は、患者における微生物感染症の治療、予防又はリスク低減のための投与に有用である薬学的組成物に関する。本発明は、これらの薬学的組成物を製造する方法、及び患者における微生物感染症の治療、予防又はリスク低減のための医薬品の調製における薬学的組成物の使用にも関する。」
(段落【0004】?【0006】)
があり、この記載からみて、患者における微生物感染症の治療、予防又はリスク低減のための投与に有用である薬学的組成物を提供し得たという効果を本願発明1が奏した、とされているらしいことが推測される。
しかしながら、引用文献7には、好中球減少および非好中球減少CD-1マウスにおいて、MRSA11540(USA300)を用いてマウス大腿感染を確立し、細菌負荷の2時間後および12時間後に、50mg/kg/投与一回で静脈内投与したところ、MRSA11540に対するラデゾリドのMICが、1mg/Lであったことが記載されているから、引用文献7には、ラデゾリドを含む何らかの静脈内投与に適した薬学的組成物が作成され、これを上記マウスに上記の用法・用量で静脈内投与することにより、確立したMRSAの感染を治療し得たことが記載されているといえる。そうすると、かかる記載から、患者における微生物感染症の治療、予防又はリスク低減のための投与に有用である、ラデゾリドを含む薬学的組成物を提供できることは、当業者が予測し得る範囲のことである。

してみると、本願明細書の記載を検討しても、本願発明1が、引用文献1、3及び7の記載に基づき当業者が予測し得ない優れた効果を奏したものとはいえない。

3. 請求人の主張について
請求人は、当審において通知した拒絶の理由に対する上記意見書において、「4-3.本願発明が、引用文献7と引用文献1および3とに基づいては、容易に想到し得ない理由」と題して、以下の(1)及び(2)の主張をし、また、「4-4.本願発明の効果が、引用文献1、3、7からは予測し得ないものであること」と題して、以下の(3)の主張をし、また、「4-5.当業者は、安全なラデゾリド組成物はもちろんのこと、いずれもの安全な組成物に想到することに合理的な成功の予測を有するものではないこと」と題して、以下の(4)の主張をしている。

(1)「・・・
引用文献1および引用文献3では、リネゾリドに対する好ましさが明確に指摘されているので、当業者は、これらの引用文献に記載される組成物において使用するために、引用文献7に記載されるラデゾリドではなく、リネゾリドを選択する方へ誘導されると理解することが合理的であると思料します。」

(2)「引用文献3には、開示されるオキサゾリジノン抗生物質薬とシクロデキストリンとの組成物に含有させるための多数の可能性のある添加剤が記載されており、その添加剤には、水溶解性ポリマー、酸、塩基、緩衝剤、塩、糖、水溶性有機溶媒および第二の抗生物質薬が含まれています(段落0037、0040、0043、0049等)。
・・・
同様に、引用文献1も、pH調節剤として、リン酸の使用を開示していません。さらに、引用文献1には、水酸化ナトリウムの使用が、わずか1回のみ開示されるに過ぎません(段落0011)。しかも、この水酸化ナトリウムの記載は、先行技術としてのリネゾリド製剤を説明する文脈におけるものであり、引用文献1の実施例(段落0024?0029)においては、水酸化ナトリウムは使用されていません。当業者であれば、引用文献に開示される製剤に従おうとする動機付けがあることを考慮すれば、従来技術のリネゾリド製剤というよりは、実施例に従うと理解することが最も合理的な判断であると思料します。
・・・
引用文献1、3および7の開示によれば、何千という可能性のある活性化合物と添加物との組み合わせがあるにも拘わらず、合議体は、当業者であれば、本願発明において規定する特定の成分の組み合わせを選択するはずであるというための、合理的な理由をも論理的にご指摘になったとはいえないと思料します。」

(3)「もし、仮に、当業者が、引用文献3および引用文献1に記載される組成物のリネゾリドを引用文献7に記載されるラデゾリドに置換し、且つ本願発明において必須である特定の成分を選択および併用することを動機付けられたとしても(そのような動機付けがないことは、上述したとおりです。)、当業者といえども、そのような置換、選択および併用が成功裏になされるという合理的な期待をいだくものではないと思料します。すなわち、本願発明により奏される作用効果(安全で有効な送達に適した薬学的組成物(段落0005等))、は、当業者といえども予測し得ないものです。
合議体は、本願発明と引用文献7に記載の発明との差異(相違点1および2)に関連して、以下のようなご認定と説示をされました。
引用文献3には、リネゾリドを含有する静脈内投与のための薬剤組成物が記載されており(摘示3-1)、リネゾリドに関連して、…任意の他のオキサゾリジノン抗微生物薬を…リネゾリドの代わりに、…用いることができる(摘示3-3)ことをご指摘になり、そのようなリネゾリド含有組成物がクエン酸、…のような酸、水酸化ナトリウム、…のような塩基、クエン酸塩/デキストロース、…のような緩衝剤を含めた、1種類以上の製薬的に許容されるpH調節剤および/または緩衝剤を本発明の組成物に含めることができる(摘示3-4)等の開示がされており、実際に、引用文献3には、これらの緩衝液およびpH調節剤を含有する組成物が開示されている(摘示3-5)等のご認定の上で、『そうすると、静脈内投与または注射投与のための薬学的組成物に相当する引用発明3において、組成物のpHを生理的に許容されるpH調節剤を含むものとすることは、当業者であれば適宜なし得ることであると認められる。』
このような説示を審判請求人が判断すると、合議体は、当業者であれば、リネゾリド製剤由来の賦形剤を、ラデゾリド製剤にも使用したであろうと結論づけられた理由は、単に、リネゾリドとラデゾリドとの両者が、オキサゾリジノン抗菌剤であるというもののみであると思料します。このような理由により容易想到と判断することは、失当です。その理由を以下に説明します。
当業者であれば、ラデゾリドとリネゾリドとのように、化学構造がわずかに異なっても、生物学的活性、薬理学的動態性質、薬理学的特性(例えば、製剤科学)および安全性に関して、大きな差異が度々生じることを周知しています。したがって、当業者であれば、異なる活性化合物が、所与の医薬組成物において同じように挙動することは期待しないはずです。本出願時において、当業者によって十分に理解されているとおり、様々な医薬的賦形剤と併用される所与の活性化合物の挙動は、予め予測することができず、その中に含有される活性化合物を安全且つ有効に送達できるように、医薬組成物は、正確且つ個々に製剤化されなければなりません。このことは、実際、今日においてもいえることです。審判請求人は、いずれもの特定のクラスの化合物が、本質的に「万能薬」である医薬組成物というものを知りません。
例えば、ある化合物の固体状態の構造の空間定位における差異でさえ、薬学的製剤の物理化学的特性および薬物動態に影響を及ぼし得る変化をきたし得ます。例えば、同一の化合物の異なる多形(すなわち、化学的には同一であるが、結晶構造における分子の物理的配置が異なる結晶性組成物)は、個々の製剤を必要とするような異なる特性を有し得ます。審判請求人が、平成29年5月9日付物件提出書によりその写しを提出した参考資料7をご参照ください。ほんの一例として、薬剤製品であるノルヴィル(Norvir)は、活性成分リトナビル(ritonavir)の特定の多形を含有するカプセル製剤として、1996年に合衆国食品医薬品局(FDA)によって承認されました。ノルヴィルは、1990年代に、成功裏に市販され且つHIVの治療に使用されました。しかしながら、1998年、カプセル中でリトナビルが新たな多形に転化した結果、この薬剤は、製剤から沈殿し始め、その生物利用可能性が5%未満に低下しました(参考資料7の第17頁右欄「POLYMORPHISM」の欄)。リトナビルは、問題が理解され且つ解決されるまで、市場から撤退を余儀なくされました(参考資料7の第16頁右欄から左欄にまたがる「INTRODUCTION」の欄)。リトナビルの新たな多形は、非常に異なる溶解特性を呈し、それによって、この薬剤の生物利用可能性と治療効果に影響を与え、その薬効を劇的に低下させていたことが最終的に測定されました(参考資料7の第16頁右欄「PHYSICAL FORMS OF PHARMACEUTICAL SOLIDS」の欄)。その結果、十分な溶解特性と生物的利用可能性を保証するための新たな多形のために、新たなカプセル製剤が開発され、その後、この薬剤は、市場に戻ることができました(参考資料7の第16頁右欄から左欄にまたがる「INTRODUCTION」の欄)。
上記例は、有効な医薬組成物の活性化合物は、合理的な成功の予測を伴って、構造的に異なる活性化合物とは単純には置換できないことを例証しています。当業者であれば、構造上の違いは、活性化合物における異なる特性をもたらすことを理解しているので、リネゾリドを含有する医薬組成物とラデゾリドを含有する医薬組成物とは、異なる挙動をし得ることを予測するはずです。そのような当業者であれば、リネゾリドとラデゾリドは、以下に示す四角で囲んだ構造上の差異:


を有することを理解しています。したがって、当業者であれば、引用文献3や引用文献1に開示される異なる化合物であるリネゾリドの医薬組成物において、引用文献7において使用されるラデゾリドを使用することを動機付けられるものではなく、また、合理的な成功の期待も有さないはずです。すなわち、本願発明において規定する各成分の組み合わせにより、安全かつ有効な組成物となることは、当業者といえども予測し得ないものです。
さらに付言するならば、このような、構造上異なる化合物の製剤においてある化合物を使用することについての、動機の欠如および成功の合理的期待の欠如は、引用文献1および3と引用文献7に関しては、より顕著です。なぜならば、ラデゾリドとリネゾリドとは、オキサゾリジノン化合物であり、このクラスの化合物は、製剤に影響を及ぼすかもしれない特性が大きく変化することが知られているからです。例えば、審判請求人が、平成29年5月9日付の物件提出書により、その写しを参考資料3として提出した、国際公開第2005/058886号(以下、「WO'886」ともいう。)の第67頁と第68頁にまたがる表(Table 3)には、30種のオキサゾリジノン化合物の溶解度(Solubility)が記載され、10μg/mL(Compound 10)から50mg/mLを超える(Compound 44)範囲、すなわち、5,000倍に亘る範囲の溶解度が示されています。合議体の便に供するため、WO'886のTable 3を以下に再現します(矢印は、審判請求人が付した。)。


医薬製剤の当業者であれば、異なる化合物は異なる特性(溶解度を含む)を有し、且つこれらの特性は所与の製剤において製剤の性能に影響を与えるので、複数の化合物は、個々に製剤化されなければならないと理解しています。具体的には、そのような当業者であれば、引用文献3に開示されているとおり、複数の活性化合物はそれぞれ異なる溶解度を有するので、各化合物を製剤化するために顕著に異なるアプローチを適用する必要が生じると理解するはずです。例えば、良好な溶解度を有する化合物は、水中に直接製剤化して、注射用とするかもしれません。他方で、より低い溶解度を有する化合物に対しては、水の体積を高め得る場合もあるかもしれませんが、静脈内投与し得る体積には実用上の限界が存在します。したがって、より低い溶解度を有する化合物には、pH調整剤、有機共溶媒、非イオン性界面活性剤、糖および糖アルコール、緩衝剤、抗酸化性酸、非酸抗酸化剤、キレート剤ならびにシクロデキストリンのような、適切な溶解度を付与し、許容し得る体積で化合物を所望する用量で送達するための賦形剤とともに製剤化することが必要となるかもしれません。さらに、これらの賦形剤のいくつかは、ある種の化合物に対して十分な溶解度を与えるかもしれませんが、それらの賦形剤は、他の化合物に対して十分な溶解度を必ずしも与えないこともあります。さらに、ある賦形剤は、ある種の化合物に対して十分な溶解度を与える一方で、その化合物の別の特性には不利に作用するかもしれません。例えば、pH調整剤を使用すると、製剤をその化合物がより溶解できるpHにすることができるかもしれませんが、そのpHが生理学的pHよりもあまりに乖離したならば、様々な耐用性への負の作用があるかもしれません。さらには、賦形剤は、化合物の溶解度を向上させる一方で、その溶解度に対して負の影響を及ぼすかもしれません。
したがって、医薬製剤の当業者であれば、オキサゾリジノン化合物がそうであるように、溶解度のような特性が異なる場合は特に、化合物は、個々に製剤化されなければならないことを理解しています。
よって、引用文献3に記載の薬学的組成物において、本願発明において規定する特定の添加物を使用することは、当業者といえども適宜なし得るものではありません。」

(4)「仮に、当業者が、リネゾリド製剤において、リネゾリドをラデゾリドにスイッチすれば、同じ結果を達成できることを予測することがあったとしても(そのようなことはないと思料しますが)、そのような当業者といえども、引用文献7と、引用文献1および3との教示を組み合わせたとしても、本願発明の薬学的組成物のように、安全な組成物に想到する合理的成功の予測を有するものではないと思料します。
審判請求人は、平成28年9月26日付の意見書において、本発明の薬学的組成物が、明細書の段落0005等に記載されるとおり、イン・ビボにおいて安全であることを実験により示しました。合議体の便に供するため、参考資料2-1の翻訳である参考資料2-2の内容を以下に再現します。


参考資料2-1で示した実験では、ヒトに対するランダム二重盲検プラシーボをコントロールとする第I相臨床試験の結果を示すデータが示されています。参考資料2-1の表1に示すデータは、静脈内注射(IV)又は経口投与(PO)後の薬学的組成物の薬物動態を示すものであり、前者が本発明の態様に対応します。ここで、重要なことには、投与した組成物についての副作用イベントに関して、投与量に関連する傾向がないことです。同様に、これらの組成物の投与後に、臨床検査部の評価における治療又は投与量に関連する傾向、致命的兆候の観察、ECG結果又は健康診断所見がなかったことも重要です。
当業者といえども、これらの作用効果を予め予測することは不可能であり、引用文献の開示を、たとえ組合せたとしても、これらの性質を達成できることに、成功への合理的予測を抱くことはできないと思料します。特に、引用文献1および3は、イン・ビボ使用における安全なラデゾリド製剤はもとより、ラデゾリドを開示さえしていません。また、引用文献1および3においては、どのような化合物あるいは製剤についても、イン・ビボまたはイン・ビトロでの安全性に関する開示はありません。同様に、引用文献7は、炎症の動物モデルにおけるラデゾリドの製剤の細胞内蓄積を開示していますが、イン・ビボ使用において安全なラデゾリド製剤に関する示唆(ガイダンス)を提供していないことはもちろんのこと、どのようなラデゾリド製剤をも開示していません。
よって、引用文献7と引用文献1および3の教示に基づいては、これらの引用文献単独ではもちろんのこと、組み合わすことが可能であったとしても、特に、ラデゾリドの安全な製剤はもとより、いずれの化合物の安全な製剤を開発することに、合理的な期待を有するものではないと思料します。」


(1)の主張について
当審において通知した拒絶の理由であり、かつ、本審決における拒絶の理由は、引用文献7に記載されていると認められる、先に説示したとおりのラデゾリドを含む薬学的組成物である引用発明7を出発点とするものであり、当業者が引用文献1及び3においてラデゾリドを選択することを必要とする理由ではない。
したがって、請求人の(1)の主張は、上記拒絶の理由を正解しないことに基づくものであって採用できない。

(2)の主張について
1.で説示したとおり、本願優先権主張日当時の周知技術を備えた当業者ならば、引用文献1や3の記載を待つまでもなく、引用発明7の薬学的組成物を実際に製造する際に、上記周知技術の中からクエン酸およびクエン酸塩を含む緩衝剤や、水酸化ナトリウム及びリン酸から選択されるpH調節剤を適宜選択し、これらを含有するものとすることは、容易になし得たことである。
しかも、引用文献1や3には、オキサゾリジノン系抗菌剤を有効成分とする静脈内投与される薬学的組成物について、1.で説示したとおりの、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム及びクエン酸塩についての記載があるのであるから、その記載が引用文献1における先行技術についての1回のものであろうとも、あるいは、引用文献3に、請求人が指摘する他の成分が配合できることも記載されていようとも、引用発明7に接し、引用文献3または1を併せ見た上記当業者が本願発明1に容易に想到することを妨げるようなこととはいえない。また、請求人は、「引用文献1、3および7の開示によれば、何千という可能性のある活性化合物と添加物との組み合わせがある」とも主張するが、引用発明7に接し、引用文献3または1を併せ見た上記当業者が本願発明1に想到するに当たって着目する活性化合物は、引用発明7に含まれるラデゾリドのみであり、引用文献1や3に記載のオキサゾリジノン系抗菌剤に該当する種々の活性化合物を考慮することはないから、それらの化合物と引用文献1や3に記載の添加物との組み合わせが多数想定されるとしても、やはり、引用発明7に接し、引用文献3または1を併せ見た上記当業者が本願発明1に容易に想到することを妨げるようなこととはいえない。
したがって、請求人の(2)の主張も採用できない。

(3)の主張について
(3)の主張は、「4-4.本願発明の効果が、引用文献1、3、7からは予測し得ないものであること」と題するものでありながら、その結論は、上記のとおり、
「よって、引用文献3に記載の薬学的組成物において、本願発明において規定する特定の添加物を使用することは、当業者といえども適宜なし得るものではありません。」
というものであるから、その趣旨が不明であるが、上記結論は、引用文献3に記載の薬学的組成物を出発点として本願発明に想到することは、当業者といえども適宜なし得るものではない、というものであると解されるところ、(1)において説示したように、当審において通知した拒絶の理由であり、かつ、本審決における拒絶の理由は、引用文献7に記載されていると認められる、先に説示したとおりのラデゾリドを含む薬学的組成物である引用発明7を出発点とするものであり、引用文献3に記載の薬学的組成物を出発点とする理由ではない。してみると、上記結論は、上記拒絶の理由を正解しないことに基づくものであって採用できない。
また、(3)の主張によれば、本願発明1の効果については、
「すなわち、本願発明において規定する各成分の組み合わせにより、安全かつ有効な組成物となることは、当業者といえども予測し得ないものです。」
なる主張が見受けられる。
しかしながら、上記2.で説示したように、引用文献7には、好中球減少および非好中球減少CD-1マウスにおいて、MRSA11540(USA300)を用いてマウス大腿感染を確立し、細菌負荷の2時間後および12時間後に、50mg/kg/投与一回で静脈内投与したところ、MRSA11540に対するラデゾリドのMICが、1mg/Lであったことが記載されているから、引用文献7には、ラデゾリドを含む何らかの静脈内投与に適した薬学的組成物が作成され、これを上記マウスに上記の用法・用量で静脈内投与することにより、確立したMRSAの感染を治療し得たことが記載されているといえる。すなわち、該薬学的組成物は、安全かつ有効な組成物であったといえる。その一方、ラデゾリドが安全かつ有効な組成物とすることができないものであることをうかがわせる記載は見いだせない。
したがって、上記主張も採用できない。
よって、請求人の(3)の主張も採用できない。

(4)の主張について
発明の容易想到性は、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けや阻害要因の有無のほか、当該発明における予測し難い顕著な効果の有無等も考慮して判断されるべきものである。そして、当該発明の効果を考慮するに当たっては、その効果が明細書に記載されていること、又は、その効果は明細書に記載されていないが、明細書又は図面の記載から当業者がその効果を推論できることが必要である(知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10003号判決より)。
そこで検討するに、2.で説示したように、本願明細書には、本願発明1がいかなる効果を奏したのかについて、何らの記載も見いだせない。わずかに、本願明細書の段落【0004】?【0006】の記載からみて、患者における微生物感染症の治療、予防又はリスク低減のための投与に有用である薬学的組成物を提供し得たという効果を本願発明1が奏した、とされているらしいことが推測されるにとどまる。
他方、本願明細書には、上記表1に示されるヒトに対するランダム二重盲検プラシーボをコントロールとする第I相臨床試験の結果等、本願発明1の組成物の副作用イベントに関して、投与量に関連する傾向がないことや、該組成物の投与後に、臨床検査部の評価における治療又は投与量に関連する傾向、致命的兆候の観察、ECG結果又は健康診断所見がないことについて明らかにした記載や、これを示唆する記載は存在せず、本願優先権主張日当時の技術水準に鑑みても、本願明細書の記載から、当業者において上記臨床試験の結果や該臨床試験における効果を推論できたことを認めるに足りる証拠は見出せない。したがって、本願発明1の顕著な効果の有無を判断する際に、上記結果や効果を本願発明1の効果として参酌することはできない。
したがって、請求人の(4)の主張も採用できない。

4.小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1、3及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。

第5.むすび
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1、3及び7に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項2?24に係る発明について検討するまでもなく、本願は、この理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-29 
結審通知日 2018-01-30 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2015-113698(P2015-113698)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 山本 吾一
蔵野 雅昭
発明の名称 薬学的組成物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
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