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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1341815
審判番号 不服2017-3970  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-17 
確定日 2018-07-05 
事件の表示 特願2014-101635「無機偏光板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-219319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-101635号(以下「本件出願」という。)は、平成26年5月15日に出願された特許出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年 4月28日付け:手続補正書
平成28年 3月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年 5月13日付け:意見書、手続補正書
平成28年 7月26日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月 3日付け:意見書、手続補正書
平成28年12月15日付け:拒絶査定
平成29年 3月17日付け:審判請求書、手続補正書
平成29年10月30日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年3月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 使用帯域の光に対して透明な基板と、
前記光の波長より短い間隔で前記基板上に離間して配列された複数の金属線とSiO_(2)層とを有するワイヤーグリッド層と、を有し
前記複数の金属線の各頂部が実質的に同一平面内にあり、
前記SiO_(2)層が前記基板と前記金属線の間にあり、
前記ワイヤーグリッド層が、
前記ワイヤーグリッド層における一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の一方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(L))の間の領域(R_(L))における前記基板の厚み方向の距離(D_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の他方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間の領域(R_(R))における前記基板の厚み方向の距離(D_(R))とが、下記式(1-2)を満たし、
前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(W_(L))の間隔(G_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間隔(G_(R))とが、下記式(2-2)を満たしている、非対称な形状であって、
更に、前記間隔(G_(L))に対する前記距離(D_(L))の比(S_(L))と、前記間隔(G_(R))に対する前記距離(D_(R))の比(S_(R))とが、下記式(3)を満たし、
完全に無機の材料だけから構成されたことを特徴とする無機偏光板。
0nm<(D_(R)-D_(L))≦8nm 式(1-2)
0nm<|G_(R)-G_(L)|≦20nm 式(2-2)
1.05≦S_(R)/S_(L)≦1.30 式(3)」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年10月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「使用帯域の光に対して透明な基板と、
前記光の波長より短い間隔で前記基板上に離間して配列された複数の金属線とSiO_(2)層とを有するワイヤーグリッド層と、を有し
前記複数の金属線の各頂部が実質的に同一平面内にあり、
前記SiO_(2)層が前記基板と前記金属線の間にあり、
前記ワイヤーグリッド層が、
前記ワイヤーグリッド層における一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の一方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(L))の間の領域(R_(L))における前記基板の厚み方向の距離(D_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の他方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間の領域(R_(R))における前記基板の厚み方向の距離(D_(R))とが、下記式(1-2)を満たし、
前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(W_(L))の間隔(G_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間隔(G_(R))とが、下記式(2-2)を満たしている、非対称な形状であって、
更に、前記間隔(G_(L))に対する前記距離(D_(L))の比(S_(L))と、前記間隔(G_(R))に対する前記距離(D_(R))の比(S_(R))とが、下記式(3)を満たす、
ことを特徴とする無機偏光板。
0nm<(D_(R)-D_(L))≦8nm 式(1-2)
0nm<|G_(R)-G_(L)|≦20nm 式(2-2)
1.05≦S_(R)/S_(L)≦1.30 式(3)」

2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本件出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-310250号公報(平成19年11月29日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤグリッド偏光子の製造方法等に関し、より詳しくは、特に、ワイヤグリッドの間隔が微小であるワイヤグリッド偏光子の製造に適したワイヤグリッド偏光子の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の進展を背景に、画像をスクリーンに拡大投影する装置として、従来のスライドプロジェクタやオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)に代わり、電子データを直接投影できる投射型液晶表示装置が利用されている。かかる投射型液晶表示装置においては投影画像の照度を向上させることができ、従って、明るい室内での投影が可能である。
そして、明るく高精細な画像を表示するために、投射レンズの改良や、高輝度ランプの改良が進められている。また、液晶パネルを均一に照明するために、インテグレータレンズの改良が進められている。更に、偏光方向をそろえて光の利用効率を向上させるために、偏光変換光学系の改良等が進められている。
【0003】
投影画像の照度を向上させる有力な方法としては、光源に超高圧水銀ランプ等の高輝度ランプを用いる方法が一般的である。このような高輝度ランプを用いる場合には、レンズ、偏光変換素子等の光学素子の耐熱性を高める必要性が生じる。従って、耐熱性の高い偏光変換素子として、光透過性の基板上に多数の金属細線を固定したワイヤグリッド偏光子が開発されている。」

イ 「【0006】
一方、特許文献3には、金型を用いてワイヤグリッド偏光子を製造する方法が記載されている。同文献において、上記金型は目的のワイヤグリッド偏光子のパターンに一致する微細パターンを表面に備える金型である。また、当該微細パターンは、電子線描画装置(EB描画装置)を用いて形成されたものである。
当該方法は、金型の凹凸形状をワイヤグリッド用基板表面に転写するプロセスを含むものである。そして、一度金型を作製すればその金型を何度でも使用できるため、当該方法は、ワイヤグリッド偏光子に用いる基板を大量生産するのに適している。
【0007】
【特許文献1】特表2003-502708号公報
【特許文献2】特開2002-328222号公報
【特許文献3】特開平11-183727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法によれば、ワイヤグリッドの間隔が微小であるワイヤグリッド偏光子が得られるものの、一つのワイヤグリッド偏光子を作製するのにその都度フォトリソグラフィー技術を用いてワイヤグリッドを形成する必要があり、量産性の点から改善の余地があった。
また、特許文献2記載の方法によれば、狭幅の導電体層(ワイヤグリッド)を形成することができるものの、隣接するワイヤグリッド間の幅を狭幅に形成することはできない。即ち、透明基板上に形成された凹部にワイヤグリッドが各々形成されることとなるので、ワイヤグリッドの周期自体は当該凹部の周期よりも小さくはならない。
一方、特許文献3記載の方法は、量産性の観点からは好適であるものの、同文献において採用される微細加工用のEB描画装置は非常に高価であり(1台で数億円?数10億円程度)、ワイヤグリッド用金型を作製する製造コストが高くなる傾向となる。EB装置の減価償却費を考慮しても、1つのワイヤグリッド素子のコストはまだまだ高いと云わざるを得ない。
なお、光ディスク用金型などの作製に使用されてきた一般的なレーザ光源を用いてワイヤグリッド用金型を作製する場合には、光の回折限界(光の波長λに比例し、レンズの性能指数NAに反比例する)の存在により、通常、100nm程度の溝を安定に形成することは不可能である。
【0009】
本発明は、このような従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ワイヤグリッドの間隔が微小であるワイヤグリッド偏光子を簡便に製造することが可能な、ワイヤグリッド偏光子の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、偏光特性に優れるワイヤグリッド偏光子を提供することにある。」

ウ 「【0014】
また、本発明をワイヤグリッド偏光子と捉え、本発明のワイヤグリッド偏光子は、透明基板と、透明基板の表面に並列して設置される複数の帯状導電体と、を備えたワイヤグリッド偏光子であって、帯状導電体は、透明基板の表面に積層される誘電体層と、誘電体層上に積層される導電体層とを備え、隣接する帯状導電体間の距離と、誘電体層の膜厚とが同等であることを特徴としている。
ここで、隣接する帯状導電体間に、誘電体層と実質的に同一の材料にて形成された誘電体層が充填されることを特徴とすることができる。」

エ 「【0017】
以下、適宜図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、断りの無い限り、製造プロセスの説明図は構造断面図を示す。
[実施の形態1]
図1?3は、本実施の形態が適用されるワイヤグリッド偏光子の一の製造プロセス例を説明するための図である。なお、実施の形態1においては、ワイヤグリッド用金型表面に形成された凹凸形状をワイヤグリッド用基板に転写する方法として、光ナノインプリント法を利用する。また、最終的に得られるワイヤグリッド偏光子の特徴としては、導電体層の幅と導電体層間の距離とがほぼ同じとなるものである。
【0018】
(第1の工程)
図1においてワイヤグリッド用基板10は、約120mm角で厚さ約2mmの透明な石英基板11上に、誘電体層としての二酸化ケイ素(SiO_(2))層12が積層され、更に、光反応性の転写層としての光硬化性樹脂層13が積層されてなる(図1(a))。本実施の形態において、SiO_(2)層12は、スパッタ法により約80nmの厚みで形成されるものである。また、光硬化性樹脂層13は、スピンコート法により約150nmの厚みで形成されるものである。
なお、本実施の形態において、ワイヤグリッド用基板10を準備する工程を、「第1の工程」と呼ぶことがある。
【0019】
(第2の工程)
一方、図3は、本実施の形態において用いられるワイヤグリッド用金型23の製造方法について説明するための図である。
図3において、ワイヤグリッド用金型23を形成するための金型用基材20は、平らな表面を持つ石英基板21上に、ポジ型レジスト層22が積層されてなるものである(図3(a))。ここで、石英基板21は、約120mm角で厚さが約6mmの透明基板である。また、ポジ型レジスト層22は、スピンコート法により約200nmの厚みで形成されるものである。
【0020】
まず、金型用基材20のポジ型レジスト層22に対してアルゴン(Ar)レーザLを照射し、ポジ型レジスト層22を部分的に変質(化学的な変化)させてポジ型レジスト変質部221を形成する(図3(b))。なお、レーザLの照射は、Arレーザを搭載した露光装置を用い、自動焦点制御(AF)をかけながら絞り込みレンズを通じて行う。
そして、目的の幅、及び周期となるようにArレーザLの照射パワー及び基板の移動を制御し、所望の露光パターンを有するポジ型レジスト層22を形成する。本実施の形態においてポジ型レジスト変質部221は平面視帯形状を有すると共に、ポジ型レジスト変質部221は一定間隔の未露光部を介して平行に配置されている(図3(c))。
【0021】
なお、図3(c)に示す通り、ArレーザLの露光部の幅がD、未露光部の幅がW、露光周期がTである。なお、ここでのDは、ポジ型レジスト変質部221の幅とほぼ同じである。かかるポジ型レジスト変質部221は、ArレーザLを照射しながら金型用基材20を一方向(例えば、紙面の手前から奥に向かって)に移動させた後、決められた距離だけ照射方向に対して直角方向に移動(例えば、左側へ)させ、同様な照射を行い、これを繰り返し行うことで形成される。上記直角方向への移動距離が、上記露光周期Tとなる。
【0022】
次に、無機系の現像液を用いた現像処理により、ポジ型レジスト変質部221を除去する(図3(d))。
次いで、石英基板21上に残存するポジ型レジスト層22(未露光部)をマスク層として、石英基板21に対するドライエッチング処理を行い、加工石英基板211を形成する(図3(e))。なお、上記ドライエッチング処理としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素系の反応性ガスを使用したリアクティブ・イオン・エッチング処理(RIE処理)等を適宜採用し得る。
【0023】
更に、加工石英基板211上に残存するポジ型レジスト層22を除去し、ワイヤグリッド用金型23を得る(図3(f))。なお、ポジ型レジスト層22の除去方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸素ガスを用いたドライエッチング処理等を採用することができる。
図3(f)において、ワイヤグリッド用金型23表面に形成された凸部の幅(W1)は約80nm、隣接する凸部間に存する溝の幅(D1)は240nmである。また、隣接する凸部の周期(T1)は約320nmである。本実施の形態では、W1=W、D1=D、T1=Tがほぼ成り立っている。
なお、本実施の形態において、ワイヤグリッド用金型23表面には、レーザ露光パターンに対応する凹凸溝が形成されている。レーザ光の照射により得られた露光パターンに対応する凹凸面を表面に有するワイヤグリッド用金型23を準備する工程を、「第2の工程」と呼ぶことがある。
【0024】
(第3の工程)
次いで、ワイヤグリッド用基板10の転写層面(光硬化性樹脂層13側の面)に対し、ワイヤグリッド用金型23の凹凸面を密着・加圧する(図1(b))。かかる密着により、光硬化性樹脂層13は十分に変形し、光硬化性樹脂層13にワイヤグリッド用金型23の凹凸形状が正確に転写される。
次いで、ワイヤグリッド用金型23の背面側から紫外光Bmを連続的に照射し、光硬化性樹脂層13を均一に硬化させて光硬化層131を形成する(図1(c))。
更に、ワイヤグリッド用基板10からワイヤグリッド用金型23を剥離する(図1(d))。光硬化層131には、ワイヤグリッド用金型23の凹凸面の形状が正確に転写された凹凸形状が形成される。
【0025】
(第4の工程、第1帯状導電体の積層体を準備する工程)
ここで、光硬化層131表面に形成された凹凸形状の凹部底面に、SiO_(2)層12の表面が露出していない場合には、必要に応じてドライエッチング処理を施し、予めSiO_(2)層12の表面を露出させる。なお、ここでいうドライエッチング処理としては、例えば酸素ガスを用いたドライエッチング処理(RIE処理)等を用いることができる。
次いで、光硬化層131表面に約100nmの層厚を有するアルミニウム層14を積層する(図1(e))。このアルミニウム層14の積層により、上記凹凸面の凹部に導電性材料であるアルミニウムが帯状に導入され、第1帯状導電体層141が形成される。
なお、アルミニウム層14を光硬化層131の表面に積層する方法としては、上記凹部に導入されるアルミニウム層14と、上記凹凸面の凸部上に積層されるアルミニウム層14とが互いに接続され、後のリフトオフ法が阻害されないようにする為に、凹部の側壁にアルミニウム層14が形成されにくい、スパッタ法あるいは蒸着法が好適に採用される。
【0026】
次に、隣接する第1帯状導電体層141間に存する光硬化層131、及び光硬化層131上に積層されたアルミニウム層14を、リフトオフ法により除去する(図1(f))。更に、第1帯状導電体層141をマスク層として、SiO2層12に対するドライエッチング処理を行い、石英基板11の表面を露出させる(図1(g))。
なお、ドライエッチング処理としては、例えば、フッ素系の反応性ガスを使用したRIE処理等を採用し得る。また、当該ドライエッチング処理により、SiO_(2)層12が帯状に残存して第1帯状誘電体層121が形成される。
【0027】
このようにして、複数の第1帯状導電体層が互いに略平行となるように、透明基板表面にそれぞれ凸状に形成され、当該第1帯状導電体層を含めて凹凸面が形成された積層体が形成される。なお、第1帯状導電体層141と第1帯状誘電体層121との積層体を、単に「第1帯状導電体」と呼ぶことがある。
また、図1(g)において、第1帯状導電体の幅(W2)は約80nm、隣接する第1帯状導電体間に存する溝の幅(D2)は240nmである。更に、隣接する第1帯状導電体の周期(T2)は約320nmである。ここで、第1帯状導電体の幅(W2)、溝幅(D2)、及び周期(T2)は、ワイヤグリッド用金型23の表面に形成された凸部の幅(W1)、溝幅(D1)、及び周期(T1)にほぼ等しい。このような光ナノインプリント法は、短時間で溝形状の転写が完了する為、製造プロセス時間を短くすることが可能となる。
【0028】
(皮膜形成工程)
次に、上述のようにして形成された積層体の凹凸面に対して、液相析出法により皮膜層15を積層し、第1帯状導電体層141に略平行な帯状の凹部を形成する(図2(h))。なお、本実施の形態における皮膜層15は、第1帯状誘電体層121と同じSiO_(2)にて形成されるものである。また、図2(h)に示すように、皮膜層15は液相析出法により形成されるため、石英基板11、及び石英基板11上に形成された第1帯状導電体の表面を均一に覆うように形成される。
【0029】
なお、液相析出法としては、特に限定されるものではないが、例えば、SiO_(2)が過飽和状態で含有されるH_(2)SiF_(6)溶液を用いて、第1帯状導電体の側面、及び上面、更には、石英基板11の上面の各表面に、同じ析出速度で皮膜層15を等方的に析出させることができる。
また、本実施の形態においては、液相析出法により形成する皮膜層15の層厚を、溝の幅(D2)の3分の1の値(約80nm)に設定している。この層厚は、第1帯状誘電体層121の層厚とほぼ同じ膜厚である。
【0030】
(第2帯状導電体形成工程)
次に、前記帯状の凹部に導電性材料としてのアルミニウムを充填することにより、第1帯状導電体層141と略平行な第2帯状導電体層161を形成する(図2(j))。
即ち、まず、皮膜層15上にアルミニウム層16を積層する(図2(i))。この場合、積層厚みについては、皮膜層15により形成される前記帯状の凹部が十分に充填されるように、第1帯状導電体層141の厚さと第1帯状誘電体層121の厚さの合計よりも厚くなるように設定する。
次いで、積層されたアルミニウム層16の表面側に研磨処理、又はドライエッチング処理等を施し、第1帯状導電体層141を露出させると共に第2帯状導電体層161を形成する(図2(j))。
【0031】
なお、このような方法において、アルミニウム層16の積層厚みとしては、例えば約200nmに設定される。また、アルミニウム層16の形成方法としては、特に限定されるものではないが、スパッタ法を採用することができる。
更に、上記研磨処理の方法としては、特に限定されるものではないが、研磨布(パッド)上にアルミニウム層16面を当てるように配置し、石英基板11側から均一に荷重をかけつつ、パッド-アルミニウム層16間に研磨液(スラリー)を供給しながら研磨を行う方法を採用し得る。当該方法を用いることにより、第1帯状導電体層141の上面よりも上方に位置する皮膜層15、及びアルミニウム層16を除去することができる。一方、ドライエッチング処理の方法としては、例えば、フッ素系の反応性ガスを使ったRIE処理等が挙げられる。
なお、皮膜層15により構成される前記帯状の凹部への、アルミニウム層16の積層厚みについては、第1帯状導電体層141の層厚みとほぼ等しい厚み程度に設定することも可能である。
【0032】
(光路形成工程)
図2(j)において、隣接する第1帯状導電体層141と第2帯状導電体層161との間には、皮膜層15を構成するSiO_(2)層を通じるスリット状の光路が形成されている。ここで、より光学損失を低減させる観点からは、当該SiO_(2)層を除去することが好ましい。
即ち、第1帯状導電体層141、及び第2帯状導電体層161をマスク層として、皮膜層15に対するドライエッチング処理を行うことにより、石英基板11表面を底面とする溝部が形成される。かかる溝部の形成により、第1帯状誘電体層121が露出し、また、第2帯状誘電体層151が形成されることとなる(図2(k))。そして、このようにして形成されるワイヤグリッド偏向子100は、隣接する帯状導電体間に、より光学損失が低減されたスリット状の光路を有する偏光子となる。
なお、図4は、直線溝基板を正方形に加工したワイヤグリッド偏光子100の概略平面図を示したものである。
【0033】
なお、上記ドライエッチング処理としては、例えば、フッ素系の反応性ガスを使用したRIE処理等を採用し得る。
また、本実施の形態において、第2帯状導電体層161と第2帯状誘電体層151との積層体を、単に「第2帯状導電体」と呼ぶことがある。
更に、図2(j)において、隣接する第1帯状導電体と第2帯状導電体との間には皮膜層15としてSiO_(2)層が狭持されているが、当該SiO_(2)層を光路として採用する場合には、上記ドライエッチング処理を行わなくとも良い。
【0034】
ワイヤグリッド偏光子100は、図2(k)に示すように、第1帯状導電体及び第2帯状導電体が共に約80nmの幅(W3)を有し、また、隣接する第1帯状導電体と第2帯状導電体との間には約80nmの溝幅(D3)を有し、更に、第1帯状導電体及び第2帯状導電体が約160nmの周期(T3)で設置されている。
なお、図2(j)における第1帯状導電体層141と第2帯状導電体層161との間の距離と、図2(k)における溝幅(D3)とは、ほぼ等しい。また、最終的に得られるワイヤグリッド偏光子100において、第1帯状導電体、及び第2帯状導電体の幅がほぼ等しく、溝幅(D3)も一定であるため、偏光子としての特性は良好である。」

(当合議体注:図1は以下の図である。)


(当合議体注:図2は以下の図である。)

(当合議体注:図3は以下の図である。)

オ 「【0038】
なお、本実施の形態におけるW3値又はD3値としては、通常、30nm?150nm、好ましくは50nm?100nmである。」

カ 「【0045】
本実施の形態で用いる透明基板としては、使用する偏光波長に対して透明な基板であれば良く、例えば、ガラス基板、樹脂基板、単結晶基板などを用いればよい。ただ、ワイヤグリッド偏光子用の基板としては、耐熱性が要求されるのでガラス基板が好ましい。特に、ドライエッチングなどで加工がしやすい石英基板が最も好ましい。また、基板形状としても特に限定されず、円形でなくても四角形以上の多角形状等、目的に応じて選定すれば良い。
更に、本実施例で用いる誘電体層は、使用する偏光波長においてほぼ透明で石英基板の屈折率とほぼ同じか、それよりも小さいものであることが好ましい。そのような特性を満たす素材としては、例えば、SiO_(2)、SiC等を挙げることができる。そして、第2帯状誘電体層151の形成を、液相析出法を通じて行うことが、本実施の形態における特徴の一つである。
なお、第1帯状誘電体層121と第2帯状誘電体層151とが同じ素材で形成されることが、光学特性、偏光特性の観点から好適である。」
・・・(省略)・・・

(3)引用発明
上記(2)からみて、引用文献1には、[実施の形態1](【0017】?【0048】)の各工程により製造されてなる「ワイヤグリッド偏光子」として、次の発明が記載されている。なお、用語を統一して記載するとともに、「石英基板11」と「石英基板21」の混同を防ぐため、後者を「金型用石英基板21」と記載する。

「 透明な石英基板11上に二酸化ケイ素層12を積層し、更に、光硬化性樹脂層13が積層されてなるワイヤグリッド層用基板10を準備する工程、
金型用石英基板21上にポジ型レジスト層22が積層されてなる金型用基材20に対してArレーザLを照射しながら金型用基材20を一方向に移動させた後、決められた距離だけ照射方向に対して直角方向に移動させ、同様な照射を行い、これを繰り返し行うことでポジ型レジスト変質部221を形成し、次に、無機系の現像液を用いた現像処理により,ポジ型レジスト変質部221を除去し、次いで、金型用石英基板21上に残存するポジ型レジスト層22をマスク層として、金型用石英基板21に対するドライエッチング処理を行い、加工石英基板211を形成し、更に、加工石英基板211上に残存するポジ型レジスト層22を除去することにより、凸部の幅が約80nmで、隣接する凸部間に存する溝の幅が240nmで、隣接する凸部の周期が約320nmであるワイヤグリッド用金型23を得る工程、
光硬化性樹脂層13側の面に対し、ワイヤグリッド用金型23の凹凸面を密着・加圧し、光硬化性樹脂層13を均一に硬化させて光硬化層131を形成し、ワイヤグリッド用金型23の凹凸面の形状が正確に転写された凹凸形状を形成する工程、
光硬化層131表面にアルミニウム層14を積層して凹凸面の凹部に導電性材料である第1帯状導電体層141を形成し、次に、光硬化層131及び光硬化層131上に積層されたアルミニウム層14をリフトオフ法により除去し、更に、第1帯状導電体層141をマスク層としてドライエッチング処理を行い、石英基板11の表面を露出させて二酸化ケイ素層12が帯状に残存した第1帯状誘電体層121を形成して、凹凸面が形成された積層体を形成する工程、
SiO_(2)が過飽和状態で含有されるH_(2)SiF_(6)溶液を用いて、液相析出法により被膜層15を積層し、第1帯状導電体層141に略平行な帯状の凹部を形成し、次に被膜層15上にアルミニウム層16を積層し、次いで研磨処理を施して第1帯状導電体層141を露出させると共に第2帯状導電体層161を形成する工程、
被膜層15を構成するSiO_(2)に対して、第1帯状導電体層141及び第2帯状導電体層161をマスク層としてドライエッチング処理を行い、石英基板11表面を底面とする溝部を形成して第2帯状誘電体層151を形成する工程により形成されてなり、
第1帯状導電体層141と第1帯状誘電体層121との積層体である第1帯状導電体、及び第2帯状導電体層161と第2帯状誘電体層151との積層体である第2帯状導電体が共に約80nmの幅を有し、また、隣接する第1帯状導電体と第2帯状導電体との間には約80nmの溝幅を有し、更に、第1帯状導電体と第2帯状導電体が約160nmの周囲で設置されている、
ワイヤグリッド偏光子100。」

(4)対比
ア 本件補正発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)基板
引用発明の「透明な石英基板11」は、「ワイヤグリッド偏光子100」の基板である。
そうしてみると、引用発明の「透明な石英基板11」が「ワイヤグリッド偏光子100」の使用帯域の光に対して透明であることは,技術的にみて明らかである(引用文献1の【0002】及び【0003】からも確認できる事項である。)。
したがって、引用発明の「石英基板11」は、本件補正発明の「基板」に相当する。また、引用発明の「石英基板11」は、本件補正発明の「基板」における「使用帯域の光に対して透明な」という要件を満たす。

(イ)金属線、SiO_(2)層及びワイヤーグリッド層
引用発明の「第1帯状導電体層141と第1帯状誘電体層121との積層体である第1帯状導電体」は、「光硬化層131表面にアルミニウム層14を積層して凹凸面の凹部に導電性材料である第1帯状導電体層141を形成し、次に、光硬化層131及び光硬化層131上に積層されたアルミニウム層14をリフトオフ法により除去し、更に、第1帯状導電体層141をマスク層としてドライエッチング処理を行い、石英基板11の表面を露出させて二酸化ケイ素層12が帯状に残存した第1帯状誘電体層121を形成して、凹凸面が形成された積層体を形成する工程」を経て形成されたものである。
そうしてみると、引用発明の「第1帯状導電体」は、「石英基板11」上に形成されたものである。また、引用発明の「第1帯状導電体層141」及び「第1帯状誘電体層121」の材質は、それぞれ、「アルミニウム」及び「二酸化ケイ素」である。そして、引用発明の「第1帯状導電体」は、二酸化ケイ素の層とアルミニウムである金属線の層が積層してなる層状のものである。加えて、引用発明の「第1帯状誘電体層121」は、「石英基板11」と「第1帯状導電体層141」の間にある。

次に、引用発明の「第2帯状導電体層161と第2帯状誘電体層151との積層体である第2帯状導電体」は、「皮膜層15上にアルミニウム層16を積層し、次いで研磨処理を施して第1帯状導電体層141を露出させると共に第2帯状導電体層161を形成する工程」及び「被膜層15を構成するSiO_(2)に対して、第1帯状導電体層141及び第2帯状導電体層161をマスク層としてドライエッチング処理を行い、石英基板11表面を底面とする溝部を形成して第2帯状誘電体層151を形成する工程」を経て形成されたものである。
そうしてみると、引用発明の「第2帯状導電体」も、「石英基板11」上に形成されたものである。また、引用発明の「第2帯状導電体層161」及び「第2帯状誘電体層151」の材質も、それぞれ、「アルミニウム」及び「二酸化ケイ素」である。そして、引用発明の「第2帯状導電体」も、二酸化ケイ素の層とアルミニウムである金属線の層が積層してなる層状のものといえる。加えて、引用発明の「第2帯状誘電体層151」は、「石英基板11」と「第2帯状導電体層161」の間にある。さらに、引用発明の「第1帯状導電体層141」及び「第2帯状導電体層161」の頂部は、実質的に同一平面内にあるといえる。

そして、引用発明において、「隣接する第1帯状導電体と第2帯状導電体との間には約80nmの溝幅を有し、更に、第1帯状導電体及び第2帯状導電体が約160nmの周期で設置されている」。また、「約80nmの溝幅」が「ワイヤグリッド偏光子100」の使用帯域の光の波長より短いことは、技術的にみて明らかである(引用文献1の【0002】及び【0003】からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明の「第1帯状導電体と第2帯状導電体」は、使用帯域の光の波長より短い間隔で石英基板11上に離間して配列されたワイヤグリッドということができる。

以上勘案すると、引用発明の「第1帯状導電体層141」及び「第2帯状導電体層161」は、いずれも本件補正発明の「金属線」に相当するとともに、「前記複数の金属線の各頂部が実質的に同一平面内にあり」という要件を満たす。
また、引用発明の「第1帯状誘電体層121」及び「第2帯状誘電体層151」は、いずれも本件補正発明の「SiO_(2)層」に相当するとともに「前記SiO_(2)層が前記基板と前記金属線の間にあり」という要件を満たす。
そして、引用発明の「第1帯状導電体」及び「第2帯状導電体」は、ともに本件補正発明の「ワイヤーグリッド層」に相当するとともに、「前記光の波長より短い間隔で前記基板上に離間して配列された複数の金属線とSiO_(2)層とを有する」という要件を満たす。

(ウ)無機偏光版
引用発明の製造工程全体からみて、引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」は、石英と、アルミニウムと二酸化ケイ素のみからなる。
そうしてみると、引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」は、本件補正発明の「無機偏光板」に相当するとともに、「完全に無機の材料だけから構成された」という要件を満たす。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(ア)本件補正発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 使用帯域の光に対して透明な基板と、
前記光の波長より短い間隔で前記基板上に離間して配列された複数の金属線とSiO_(2)層とを有するワイヤーグリッド層と、を有し
前記複数の金属線の各頂部が実質的に同一平面内にあり、
前記SiO_(2)層が前記基板と前記金属線の間にあり、
完全に無機の材料だけから構成されたことを特徴とする無機偏光板。」

(イ)本件補正発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点)
本件補正発明の「ワイヤーグリッド層」は、「前記ワイヤーグリッド層における一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の一方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(L))の間の領域(R_(L))における前記基板の厚み方向の距離(D_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記一の金属線とSiO_(2)層(W)の他方の隣りに配された金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間の領域(R_(R))における前記基板の厚み方向の距離(DR)とが、下記式(1-2)を満たし、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(WL)の間隔(G_(L))と、前記一の金属線とSiO_(2)層(W)、及び前記金属線とSiO_(2)層(W_(R))の間隔(G_(R))とが、下記式(2-2)を満たしている、非対称な形状であって、更に、前記間隔(G_(L))に対する前記距離(D_(L))の比(S_(L))と、前記間隔(G_(R))に対する前記距離(D_(R))の比(S_(R))とが、下記式(3)を満た」すものであるのに対して、引用発明の「第1帯状導電体」及び「第2帯状導電体」は、これら式の要件を満たすものであるか、判らない点。
(当合議体注:式(1-2)、式(2-2)及び式(3)は、以下の式である。)
0nm<(D_(R)-D_(L))≦8nm 式(1-2)
0nm<|G_(R)-G_(L)|≦20nm 式(2-2)
1.05≦S_(R)/S_(L)≦1.30 式(3)

(5)判断
引用発明は「ワイヤグリッド偏光子100」であるから、その偏光特性は、優れている方が望ましい。
そうしてみると、引用発明を実施する当業者ならば、引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」を、できるだけ精確に製造するといえる。また、そのようにしてなる引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」は、(D_(R)-D_(L))≒0、|G_(R)-G_(L)|≒0、S_(R)/S_(L)≒1であるといえる。
(当合議体注:DR等の諸量の定義は、引用発明においても同じ定義とする。)

しかしながら、引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」は、引用発明の各製造工程を経て、形成されるものである。
ここで、引用発明において、研磨処理及びドライエッチング処理の製造工程が、全くの誤差なく行われることは、技術的にみて考えられない。そうしてみると、当業者が引用発明において(D_(R)-D_(L))=0とすることは技術的にみて不可能であり、0nm<(D_(R)-D_(L))≦8nmの範囲にとどまるといえる。
また、引用発明の「ワイヤグリッド用金型23」は、「ArレーザLを照射しながら金型用基材20を一方向に移動させた後、決められた距離だけ照射方向に対して直角方向に移動させ、同様な照射を行い、これを繰り返し行う」ことにより製造される。そうしてみると、引用発明において|G_(R)-G_(L)|=0とすることも、技術的にみて不可能であり、0<|G_(R)-G_(L)|≦20nmの範囲にとどまるといえる。
加えて、引用文献1の【0038】の記載によると、引用発明における第1帯状導電体及び第2帯状導電体の幅、並びに、両者の間の溝幅である「約80nm」は、30?150nmの範囲で変更しても良い。そして、引用発明の「ワイヤグリッド用金型23」における上記の製造工程からみて、上記幅や溝幅の設計値が比較的小さい場合には、製造後の「ワイヤグリッド偏光子100」の幅や溝幅に比較的大きなばらつきが発生することは、避けられないといえる。そうしてみると、当業者が所望とする幅及び溝幅によっては、引用発明におけるS_(R)/S_(L)の値が、1.05<S_(R)/S_(L)≦1.30の範囲となることは、避けられないといえる。
(当合議体注:引用発明において、溝(溝幅)に±2.5%のばらつきが発生すると、(D_(R)-D_(L))=0であるとしても、S_(R)/S_(L)の値は1.05を越えることになる。)
そうしてみると、たとえ偏光特性に優れる「ワイヤグリッド偏光子100」を目標とする当業者といえども、式(1-2)、式(2-2)及び式(3)を満たす程度の誤差は、甘受しなければならないと考えられる。また、引用発明の第1帯状導電体と第2帯状導電体が、完全に対称な形状となることもないと考えられる。
したがって、相違点に係る本件補正発明の構成は、引用発明の「ワイヤグリッド偏光子100」を具体的に実施する当業者において、不可避的にもたらされる構成といえる。

(6)審判請求人の主張について
相違点に関して、審判請求人は、概略、引用発明は、ワイヤグリッドを対称形状にすることを目的とするものであるから、(D_(R)-D_(L))≒0、|G_(R)-G_(L)|≒0、S_(R)/S_(L)≒1.0になるようにするものである、また、たとえ意図せずに非対称になってしまうものであったとしても、引用発明はそもそもワイヤグリッドを対称形状にすることを目的とするものであるので、0nm<(D_(R)-D_(L))≦8nm、0nm<|G_(R)-G_(L)|≦20nm及び1.05≦S_(R)/S_(L)≦1.30という本件補正発明の条件のすべてを同時に満たすものにはならないであろうと当業者は合理的に理解する、と主張する。

確かに、引用発明は、ワイヤグリッドを対称形状にすることを目的とするものであるから、(D_(R)-D_(L))≒0、|G_(R)-G_(L)|≒0、S_(R)/S_(L)≒1.0を理想とするものといえる。しかしながら、引用文献1の【0008】及び【0009】の記載からみて、引用発明の「ワイヤグリッド用金型23」は、製造コストが高くならないように、簡便に製造することを考慮して製造されるものである。具体的には、引用発明は、EB描画装置等による微細加工によりワイヤグリッド用金型を作成することを排除し、光ディスク用金型などの作製に使用されてきた一般的なレーザ光源を用いてワイヤグリッド用金型を作製することを技術思想とするものである。
そうしてみると、引用発明における「≒」は、「=」に近いものではなく、前記(5)で述べたような誤差を具備する程度のものと解するのが相当である。
したがって、当業者が引用発明を具体化するに際して、前記相違点に係る本件補正発明の構成を具備するものを得ることは、「簡便に製造することが可能な、ワイヤグリッド偏光子の製造方法を提供すること」及び「偏光特性に優れるワイヤグリッド偏光子を提供すること」という、引用文献1の【0009】の記載が示唆する範囲内の事項にとどまるといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(7)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果に関して、本件出願の発明の詳細な説明の【0014】には、「本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ワイヤーグリッド層の金属線の両側の2つの領域が非対称形状であっても、前記非対称形状に起因するレイリー共鳴による透過特性の低下を防止できる無機偏光板、及びその製造方法を提供することができる。」と記載されている。
ここで、引用発明も上記(5)及び(6)のようなものであるから、本件補正発明の効果を奏するものといえる。

(8)小括
本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.まとめ
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年3月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成28年10月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本件出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献2:特開2007-310250号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「完全に無機の材料だけから構成された」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-01 
結審通知日 2018-05-08 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2014-101635(P2014-101635)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
清水 康司
発明の名称 無機偏光板及びその製造方法  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  

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