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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01Q
管理番号 1341822
審判番号 不服2017-9348  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-27 
確定日 2018-07-05 
事件の表示 特願2013-172391「走査型プローブ顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 2日出願公開、特開2015- 40785〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年1月5日付け : 拒絶理由通知(最初)
平成28年3月8日 : 意見書及び手続補正書の提出
平成28年8月16日付け: 拒絶理由通知(最後)
平成28年10月17日 : 意見書及び手続補正書の提出
平成29年3月28日付け: 平成28年10月17日にされた手続補正
についての補正の却下の決定及び拒絶査定
平成29年6月27日 : 審判請求書及び手続補正書の提出
平成30年4月18日 : 電話応対による審尋
平成30年4月24日 : FAXによる回答書の提出

第2 原査定の概要
平成29年3月28日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項1-4
引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項5-6
引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献1. 国際公開第2012/033131号
引用文献2. 特開平8-94643号公報

第3 本願発明の認定
本願請求項1-6に係る発明は、平成29年6月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
試料を搭載するステージと、
前記試料の表面の走査領域を、接触した状態で走査して、前記試料の特性を測定するプローブと、
前記試料の特性の測定中における前記プローブの走査軌道の少なくとも一部を直角又は鋭角に屈曲させるように前記プローブと前記ステージとを相対的に方向転換させるコントローラとを備え、
前記走査軌道に含まれる隣接する測定軌道の間の距離が、前記測定軌道の幅以下であり、
前記プローブは、方向転換の際に、前記走査軌道の外側に前記試料から生じた摩耗粉を取り残す走査型プローブ顕微鏡。」

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項((引1a)?(引1c))が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

(引1a)「 [0009] 上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
走査型プローブ顕微鏡を用いて試料の表面を加工する加工装置であって、
前記試料を載置するステージと、
前記試料の表面に対向して設けられるカンチレバーと、
前記カンチレバーの変位を測定する変位測定手段と、
前記カンチレバーと前記試料との相対位置を変化させながら、前記変位測定手段によりカンチレバーの変位を測定することにより、前記試料の表面性状画像を取得する表面性状画像取得手段と、
前記試料の表面と前記カンチレバーの先端に設けられた探針との間に、前記カンチレバーの系とは異なる系から外力を印加することにより、前記探針により前記試料の表面を加工する表面加工手段と、を有し、
前記表面性状画像取得手段による表面性状画像の取得と前記表面加工手段による表面加工とを交互に繰り返す、 ことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡を用いた表面加工装置。」

(引1b)「[0016] 本実施形態のシステム構成を図1に示す。カンチレバー3は先端部に探針8を有しており、試料4の表面に探針8が接するようにカンチレバー3が配置される。カンチレバー3のばね定数は、例えば0.15N/mである。レーザ1及び4分割光検出器2はカンチレバー3のたわみを検出するものであり、レーザ1からのレーザ光をカンチレバー3の先端部に照射し、その反射光の変化を4分割光検出器2で検出する光てこ法によりカンチレバー3のたわみ量を検出する。そして、カンチレバー3のたわみ量によって探針8のZ軸方向(試料表面に垂直な方向)の変位を検出する。
[0017] 試料4は、シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7に載置されていて、これらのスキャナによりXYZ方向に移動可能になっている。図3に示すように、シェア型スキャナ6は高速走査軸であるX軸方向に移動し、チューブスキャナ7は低速走査軸であるY軸方向に移動する。試料表面に垂直な方向であるZ軸方向については、チューブスキャナ7により移動される。これらのスキャナは駆動回路14により制御される。
[0018] 試料4の下部には、探針8に外力を印加するための電極5が設けられている。カンチレバー3及び探針8は導電性を有するように構成されており、カンチレバー3と電極5との間に図2のように電圧を印加すると、試料4の表面と探針8との間に電界が生じる。この電界により、探針8に試料表面方向への静電力が生じ、この静電力を試料4の表面の加工のための押圧力として用いる。このようにすることにより、カンチレバー3のばね力を用いることなく試料4の表面の加工が可能となる。カンチレバー3と電極5との間の電圧を制御することにより、探針8の試料表面への押圧力を制御可能である。この制御は、外力印加回路15により行われる。試料表面への押圧力の制御は、単純なON/OFF制御でも良いし、探針8のZ軸変位測定と後述の力覚操作を用いたフィードバック系により制御しても良い。試料表面への押圧力の印加は、直流的に印加しても良いし、交流的に印加しても良いし、タッピングしても良い。
[0019] AFMによる高速画像取得は、例えばコンタクトモードによる方法を用いる。これは試料4に対して探針8の先端で高速に走査した際のカンチレバー3の瞬時のたわみ、すなわち図1におけるI/V回路11からのカンチレバー3のたわみ信号から試料4の表面情報を得ることができ、AFM画像を高速に取得できる。また、走査中は従来のAFMフィードバックシステム(フィードバック回路12)によっておよそ1フレームの中で平均化した一定力を維持するように制御される。試料表面の高速走査は、シェア型スキャナ6によりX軸走査と、チューブスキャナ7によりY軸走査の組み合わせにより行われる。図6(a)に走査の軌跡の例を示す。高速走査が必要なX軸方向走査にはシェア型スキャナ6を用い、比較的低速な走査で良いY軸方向走査にはチューブスキャナ7を用いる。なお、AFMによる画像取得はコンタクトモードに限られず、タッピングモードを用いても良い。」
[0020] 本システムはナノマニピュレータとして、人間の手に力を提示する力覚フィードバックデバイスであるハプティックデバイス10(PHANTOM omni, SensAble Technologies)を、この高速AFMシステムに組み込んでいる。ハプティックデバイス10はPC13と接続されており、ペン型のハンドルを動かすことでAFM探針8を試料4の表面の任意の場所に移動させ、その間カンチレバー3が検出した表面凹凸形状を感じることができる。これにより、高速画像取得と任意の位置の力覚操作の両方を可能とするシステムを実現する。
[0021] 本システムでは高速AFM用システムとして、例えば、図4に示すメモリ搭載のA/D・D/A変換ボードを用いたデータ収集システムを用いる。A/D変換の動作は、D/A変換ボードからのクロック信号により走査信号と同期して同じタイミングで行われる。画素データは一旦A/D変換ボードのメモリに格納され、その後、データ処理され、A/D変換ボードのメモリに1フレーム分の画素データが溜まった後にまとめてPCに転送する。このシステムでは1フレームのデータごとにPCのCPUにデータを転送するという方式をとっているので、従来の1点の画素ずつの処理方法に比べてCPUのデータ処理回数が減り、大幅に時間を短縮することができる。
[0022] 実際に本システムにより取得した高速AFM画像の例を図5に示す。図はDVD表面の凹凸(ピット)を計測したものであり、(a)は高速AFMにより0.5秒で取得した画像を、(b)は従来型のAFMにより300秒で取得した画像を示す。図からわかるように、高速AFMでも十分に表面の凹凸を計測可能である。
[0023] 続いて、図6及び図7により、高速AFMによる画像取得と力覚操作による表面加工とを組み合わせた本システムの動作について説明する。なお、説明を簡単化するために探針8やカンチレバー3が移動するように記載しているが、実際には試料4の方を移動させている。本システムでは1つのカンチレバー3で(a)高速AFMモード(高速で試料表面の2次元画像を取得)と(b)表面加工モード(加工対象20に探針8を移動させ表面加工)とを交互に繰り返すことにより、2次元表面画像取得と表面加工とを行う。例えば、高速AFMモードによる画像取得は0.1秒で終了するので、1フレーム/秒で画像取得・表示を行うようにすれば、高速AFMによる画像取得の終了と次の画像取得の開始までの間に0.9秒の空き時間ができる。この空き時間の間に探針8を加工対象20に移動させ表面加工を行う。高速AFM動作中は表面加工は行えないが、高速AFM走査の開始前に探針8の座標を記憶しておき、高速AFM走査終了時に記憶した座標に探針8を復元することにより、見かけ上連続して表面加工を行うことができる。図6(c)にタイミング図を示す。
[0024] 図7のフローチャートにより本システムの動作を説明する。 まず、探針8の表面加工座標及び加工押圧力を初期化する(ステップ31)。例えば、初期座標として表面加工座標が画面の中央位置に設定され、加工押圧力は0に設定される。 続いて、高速AFMにより表面形状画像(2次元)の取得・表示を行う(ステップ32)。試料4とカンチレバー3の相対位置を高速に移動させて、試料表面を2次元的に走査することにより表面形状画像(2次元)を取得する。取得に要する時間は種々の条件により変わるが、本実施形態では0.1秒で1画像分を取得する。 高速AFMによる画像取得終了後、カンチレバー3は高速AFMの走査終了位置にあるので、これを高速AFM走査前の表面加工座標に移動させて加工押圧力を印加し(ステップ33)、高速AFM走査前のハプティックデバイスによる表面加工操作を引き続いて継続する(ステップ34)。 ハプティックデバイスによる表面加工操作を0.9秒程度継続した後、次の高速AFM走査の開始前に、現在の探針8の表面加工座標と加工押圧力を記憶する。なお、表面加工の押圧力は上述の静電力により発生され、外力印加回路15により制御される。 ステップ32?ステップ35を繰り返すことにより、見かけ上、1つカンチレバー3で、高速AFMで取得した画像上で探針8により表面加工を行っているように操作することができる。これにより、2次元AFM画像を見ながら、画像上の加工対象20の表面加工を行うことが可能となる。なお、表面形状画像を取得する時間と表面加工を行う時間とは、取得する画像の解像度や表面加工の内容によって適宜決定すれば良く、例えば、表面形状画像を取得する時間と表面加工を行う時間とをそれぞれ0.5秒ずつとすることもできる。」

(引1c) 図6(a)には、高速AFMにおける試料表面の走査の軌跡が記載されている。

ここで、図6(a)から、高速AFMモードでの走査の軌跡が直角に曲がっていることが読みとれる。

上記(引1a)?(引1c)より、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「高速AFMモード(高速で試料表面の2次元画像を取得)と表面加工モード(加工対象20に探針8を移動させ表面加工)とを交互に繰り返す走査型プローブ顕微鏡であって、
カンチレバー3は先端部に探針8を有しており、試料4の表面に探針8が接するようにカンチレバー3が配置され、
試料4は、シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7に載置されていて、これらのスキャナによりXYZ方向に移動可能になっており、これらスキャナは駆動回路14により制御され、
高速AFMモードでは、コンタクトモードで、試料4とカンチレバー3の相対位置を高速に移動させて、走査の軌跡が直角に曲がるように、試料表面を2次元的に走査することにより表面形状画像(2次元)を取得する、走査型プローブ顕微鏡。」

第5 対比(一致点、相違点の認定)
1 本願発明における「測定軌道の幅」については、明細書等において用語の意味が説明されておらず、必ずしも明瞭とはいえない。そこで、平成30年4月18日に、当審において、「測定軌道の幅」の用語の意味について明らかにするよう、電話応対による審尋を行ったところ、出願人は平成30年4月24日にFAXにて回答書を提出して、「2.「測定軌道の幅」は、プローブが試料の表面を走査しながらその試料の測定をしたときに、試料に形成される軌道の幅であり([0045])、隣接する軌道が重複していない場合の軌道の幅を示します。」と釈明した。この釈明における、「プローブが試料の表面を走査しながらその試料の測定をしたときに、試料に形成される軌道の幅」とは、本願の明細書段落【0048】の「測定軌道の距離W1は、測定軌道の幅W2以下である。このため、隣接する測定軌道部分の間には、非走査領域8が形成されない。したがって、試料3の走査領域32を隙間なく走査し、測定精度を向上させることができる。」という記載も参照すれば、プローブが試料表面を実際に測定する帯状の測定領域の幅であると解するのが相当である。
したがって、以下このように解して、検討する。

2 引用発明における「試料4」は、シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7に載置されていて、これらのスキャナによりXYZ方向に移動可能になっている。したがって、引用発明における「試料4」が「載置」された「シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7」は、本願発明における「試料を搭載するステージ」に相当する。

3 引用発明においては、試料4とカンチレバー3の相対位置を高速に移動させて、試料表面を2次元的に走査することにより表面形状画像(2次元)を取得しており、引用発明における「カンチレバー3」は、表面形状画像(2次元)を取得するために試料表面の特性を測定しているといえる。また、引用発明において、試料4は、探針8の先端でコンタクトモードにより走査されるため、探針8が試料4に接触した状態で走査が行われているといえる。したがって、引用発明における「先端部に探針8を有しており、試料4の表面に探針8が接する」ように配置されている「カンチレバー3」は、本願発明における「前記試料の表面の走査領域を、接触した状態で走査して、前記試料の特性を測定するプローブ」に相当する。

4 引用発明においては、シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7に載置された試料4とカンチレバー3の相対位置を高速で移動させて、走査の軌跡が直角に曲がるように、試料表面を2次元的に走査していることから、引用発明においては、カンチレバー3と、試料4が載置されたシェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7とを、相対的に方向転換させているといえる。また、引用発明において、「シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7」は「駆動回路14」によって制御されている。したがって、引用発明における、「表面形状画像(2次元)を取得する」際に、「試料4とカンチレバー3の相対位置を高速に移動させて、走査の軌跡が直角に曲がる」ように、「シェア型スキャナ6及びチューブスキャナ7」を制御する「駆動回路14」は、本願発明における「前記試料の特性の測定中における前記プローブの走査軌道の少なくとも一部を直角又は鋭角に屈曲させるように前記プローブと前記ステージとを相対的に方向転換させるコントローラ」に相当する。

5 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。
「試料を搭載するステージと、
前記試料の表面の走査領域を、接触した状態で走査して、前記試料の特性を測定するプローブと、
前記試料の特性の測定中における前記プローブの走査軌道の少なくとも一部を直角又は鋭角に屈曲させるように前記プローブと前記ステージとを相対的に方向転換させるコントローラとを備えた、
走査型プローブ顕微鏡。」

6 また、本願発明と引用発明とは、次の点で相違する。

(相違点1)本願発明は「前記走査軌道に含まれる隣接する測定軌道の間の距離が、前記測定軌道の幅以下であ」るのに対して、引用発明では、「走査の軌跡」の間の距離と、「走査の軌跡」の幅が、特定されていない点。

(相違点2)本願発明におけるプローブは、「方向転換の際に、前記走査軌道の外側に前記試料から生じた摩耗粉を取り残す」ものであるのに対して、引用発明における「先端部に探針8」を有する「カンチレバー3」は、「走査の軌跡が直角に曲がる」ときに、試料に接触した状態で走査され、直角に方向転換するものではあるが、走査の軌跡の外側に試料から生じた摩耗粉を取り残すことは特定されていない点。

第6 判断(相違点についての検討)
1 相違点1について
前記相違点1について検討する。走査型プローブ顕微鏡によって試料表面を測定する際に、非測定領域を設ける(すなわち、測定軌道間に隙間があるような測定軌道とする)か、非測定領域を設けない(すなわち、測定軌道間に隙間がない測定軌道とする)かは、測定の目的、時間、コスト等を勘案して決定した測定精度に応じて、当業者が適宜選択し得た事項である。また、引用文献1には、走査型プローブ顕微鏡での測定に際し、非走査領域を積極的に設けているとの記載は無い。したがって、引用発明において、非測定領域を設けず、「走査の軌跡」の間に隙間がないように、「走査の軌跡」の間の距離と「走査の軌跡」の幅を設定して、前記相違点1に係る本願発明の「走査軌道に含まれる隣接する測定軌道の間の距離が、測定軌道の幅以下である」発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
本願発明では、プローブが方向転換する際に走査軌道の外側に試料から生じた摩耗粉を取り残すための具体的な構成は、特定されていない。そこで、本願明細書を参酌すると、本願明細書には、試料に接触したプローブが走査されることにより摩耗粉が発生すること(本願明細書の【0038】、【0039】等を参照)、プローブが直角又は鋭角の角度で方向転換することにより走査軌道の外側に試料から生じた摩耗粉が取り残されること(本願明細書の【0040】-【0045】等を参照)、が記載されていると認められる。したがって、「プローブは、方向転換の際に、前記走査軌道の外側に前記試料から生じた摩耗粉を取り残す」とは、プローブが試料に接触した状態で走査され、直角又は鋭角の角度で方向転換することによって、プローブから摩耗粉が分離されることを意味するものと認められる。
そして、引用発明でも、「コンタクトモード」、すなわち、「探針8」が試料に接触した状態で走査され、「走査の軌跡が直角に曲がる」ものであり、この「走査の軌跡が直角に曲がる」際に、摩耗粉が「探針8」から分離されて、「走査の軌跡」外に取り残されるものと認められる。すると、相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。

3 本願発明の効果について
本願発明は、隙間無く走査することにより測定精度が向上するという効果を有する(本願明細書の【0048】を参照。以下、「本願発明の有する効果」という)。そして、本願発明の有する効果は、「走査の軌跡」の間に隙間があるか否かが特定されない引用発明の有する効果と比較して有利なものである。しかしながら、走査型プローブ顕微鏡において、測定軌道の密度を高めると測定精度が向上する関係にあることは当業者にとって当然のことであるから、本願発明の有する効果は出願時の技術水準から当業者が予測することができたものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
また、請求人は、平成28年10月17日付けの意見書にて、「本補正書の請求項1では、隣接する測定軌道は一部で重複しており、該隣接する測定軌道間の間隔はそもそも存在しません。即ち、本願発明では、隣接する測定軌道間に非走査領域は無く、走査線間の間隔を狭くして単に密度を高めているものとは異なります。このように、隣接する測定軌道を一部重複させて走査することによって、本願発明は、測定精度の向上だけでなく、既に測定の終了した測定軌道上に摩耗粉を取り残し、摩耗粉がプローブに堆積することを防ぐ、という効果をも奏します。([0048]、[0049])。」という効果がある旨主張している(同意見書における2.を参照)。しかし、本願発明は、本願の図2、図5?8に記載されるような種々の走査軌道があり、このうち、「既に測定の終了した測定軌道上に摩耗粉を取り残」すという効果を奏し得るのは、図5及び図7に記載される走査軌道のみであることを考慮すれば、本願発明が「既に測定の終了した測定軌道上に摩耗粉を取り残」すという効果を奏し得るとは認められない。したがって、出願人の主張は採用することができない。

4 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-10 
結審通知日 2018-05-11 
審決日 2018-05-23 
出願番号 特願2013-172391(P2013-172391)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 素川 慎司後藤 大思  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 東松 修太郎
渡戸 正義
発明の名称 走査型プローブ顕微鏡  
代理人 朝倉 悟  
代理人 赤岡 明  
代理人 関根 毅  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  

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