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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1341823
審判番号 不服2017-9450  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-28 
確定日 2018-07-05 
事件の表示 特願2015-183157「有機半導体素子用液状組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016- 15335〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月14日(優先権主張平成22年1月15日)に出願した特願2011-5994号の一部を平成27年9月16日に新たな特許出願としたものであって、同年10月15日に手続補正がなされ、平成28年8月19日付けで拒絶理由が通知され、同年10月21日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成29年3月23日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 本件発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成28年10月21日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。
「1気圧、25℃において固体である有機化合物を、1気圧、25℃において液体であり、臭素を含む化合物を含み、該臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下である有機溶媒に溶解させる工程を包含する有機半導体素子用液状組成物の製造方法であって、
該有機溶媒は、180℃以上の沸点を有する有機溶媒、及び180℃未満の沸点を有する有機溶媒を含み、
該180℃以上の沸点を有する有機溶媒がブチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、デカリン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン、フェノキシトルエン、4-フェニル-1,3-ジオキサン、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアセトン、5-メチル-2-オクタノン及びシクロヘプタノンから成る群から選択される少なくとも一種であり、
該180℃未満の沸点を有する有機溶媒がオクタン、エチルベンゼン、クメン、プソイドクメン、メシチレン、ジブチルエーテル、アニソール、メチルアニソール、1-ペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-ヘプタノール、シクロヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヘプタノン、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、5-メチル-3-ヘプタノン、2-メチルシクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、3-メチルシクロヘキサノン及び4-メチルシクロヘキサノンから成る群から選択される少なくとも一種であり、
該有機化合物が、燐光を発光する有機化合物であり、
該有機化合物が、三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体または白金錯体、および該金属錯体を高分子量化した化合物から成る群から選択される少なくとも一種である有機半導体素子用液状組成物の製造方法。」(以下、「本件発明」という。)


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引用文献等一覧>
1.特表2008-516421号公報
2.独国特許出願公開第102004032527号明細書
(参考文献として)
3.国際公開第2005/084083号(周知技術を示す文献)
4.特開2006-66294号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2009-267299号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-226686号公報(周知技術を示す文献)
7.国際公開第2010/005009号(周知技術を示す文献)
8.特開2008-16297号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2009-140922号公報(周知技術を示す文献)
10.特表2009-540574号公報(周知技術を示す文献)


第4 引用刊行物の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表2008-516421号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付与した。以下同様。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素、および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
少なくとも1種の反応性のハロゲンが関与する反応により得られた少なくとも1種の有機半導体を含み、前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素、および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種、特に反応に関与したハロゲンの含有量が20ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
有機発光ダイオード若しくはポリマー発光ダイオード、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機集積回路、有機太陽電池、有機電界クエンチデバイス(field-quench device)、有機発光トランジスタ、発光電気化学セル、または有機レーザダイオードから成る群から選択される請求項1および/または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記有機半導体中の臭素含有量が20ppm未満であることを特徴とする請求項1?3の一項以上に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素およびヨウ素の含有量が、いずれの場合においても20ppm未満であることを特徴とし、但しこの限定はフッ素には、フッ素が前記有機半導体の化学構造の構成部分ではない場合にのみ適用される請求項4に記載の電子デバイス。

(中略)

【請求項14】
電子デバイスにおける、ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素またはヨウ素のうちの少なくとも1種、特に臭素の含有量が20ppm未満である有機半導体の使用。
【請求項15】
以下の工程:
a)反応性ハロゲンとの反応、特にスズキカップリング、スティル(Stille)カップリング、ヤマモトカップリング、ヘックカップリング、ハートウィッグ-ブッフバルト(Hartwig-Buchwald)カップリング、ソノガシラカップリング、ネギシカップリング、ヒヤマカップリング、またはギルヒ(Gilch)カップリングを用いる前記有機半導体の製造と、
b)a)からの前記有機半導体の任意の単離と、
c)前記有機半導体中のハロゲン、特に臭素の含有量を低減させるような前記有機半導体の後処理
とを含む方法により得られる有機半導体であって、前記ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素またはヨウ素のうちの少なくとも1種、特に臭素の含有量が20ppm未満であることを特徴とする有機半導体。
【請求項16】
前記有機半導体が固体として単離され、前記後処理(工程c))が別個の反応工程において行われることを特徴とする請求項15に記載の有機半導体。
【請求項17】
前記後処理(工程c))が、ハロゲンを低減させ、かつこれらを水素と交換する還元剤を用いて行われることを特徴とする請求項15および/または16に記載の有機半導体。
【請求項18】
用いられる前記還元剤が、単純な水素化物、三元系水素化物、アラン、ボラン、単純な遷移金属水素化物、錯体遷移金属水素化物、または主族元素水素化物であり、任意にルイス酸と組み合わされることを特徴とする請求項17に記載の有機半導体。
【請求項19】
用いられる前記還元剤がヒドリド源または水素であり、任意に加圧下で、均一系遷移金属触媒または不均一系遷移金属触媒を用いることを特徴とする請求項17に記載の有機半導体。
【請求項20】
前記後処理(工程c))が、トランスメタル化に関与する有機金属試薬を用いて為されるか、または前記ハロゲンを金属原子と交換する反応性金属を用いて為されることを特徴とする請求項15および/または16に記載の有機半導体。
【請求項21】
メタル化された中間体が、プロトン性化合物を用いる加水分解により未置換の化合物に変換されているか、または臭化アリール若しくはヨウ化アリールを用いる金属を触媒とするカップリング反応によりアリール置換された化合物に変換されていることを特徴とする請求項20に記載の有機半導体。
【請求項22】
前記後処理(工程c))が、遷移金属触媒下でのビニル-H化合物とのカップリング、アリールボロン酸誘導体とのカップリング、アリール-スズ誘導体とのカップリング、芳香族アミンとのカップリング、アセチレン-H化合物とのカップリング、アリールシリル化合物とのカップリング、またはハロゲン化アリールとのカップリングにより為されることを特徴とする請求項15および/または16に記載の有機半導体。
【請求項23】
複数の同一のまたは異なる後処理工程(工程c))が続けて行われることを特徴とする請求項15?22の一項以上に記載の有機半導体。
【請求項24】
1種以上の溶媒中の請求項15?23の一項以上に記載の1種以上の有機半導体の溶液。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
最も広い意味で電子産業の範囲内に分類され得る一連の様々なタイプの用途において、機能性材料としての有機半導体の使用はかねてから現実のものとなっており、また近い将来に期待される。例えば、有機電荷輸送材料(一般的にトリアリールアミンに基づく正孔輸送体)はコピー機においてこの数年間用途を既に見出されている。有機トランジスタ(O-TFT、O-FET)、有機集積回路(O-IC)、および有機太陽電池(O-SC)の開発は既に非常に進歩した研究段階にあり、従って市場への導入がここ数年の間に期待され得る。有機エレクトロルミネセンスデバイス(OLED)は、例えばパイオニア社製のカーラジオや、有機ディスプレイを有するコダック社製のデジタルカメラにより示されるように既に市場に導入されている。ポリマー発光ダイオード(PLED)の場合にも、最初の製品が、フィリップスN.V.社製のかみそりおよび携帯電話の小さなディスプレイの形態で市販されている。このようなPLEDの一般構造は、WO 90/13148 に記載されている。あらゆる進歩に関らず、これらのディスプレイを現在市場のトップを走る液晶ディスプレイ(LCD)に対する真の競合物とするため、またはこれらを上回るためには、明確な改善がなお必要である。
【0002】
これらのデバイスの特に寿命と効率とは今日までなお不十分であり、従って、上記した比較的単純なデバイスが既に商品として入手できる一方で、例えばラップトップ、テレビ等のための高価値で長寿命のデバイスを実現することが今日まで未だに可能ではない。これらの性質を改善するために、用いられる材料の化学構造およびデバイス構造の双方において最適化がここ数年で始められている。このことは、明確な進歩を達成することを既に可能にしている。しかしながら、これらの材料を高価値なデバイスにおいて用いることを可能にするためには、さらなる改善がなお必要とされている。
【0003】
有機電子デバイスのための材料純度の重要性は文献に既に述べられている。

(中略)

【0010】
これらの記載から、言及した純度の必要条件および精製は材料の性質を改善することができるが、これらは上記の問題を解決することが未だに出来ないということが明らかになる。特に、以下により正確に明示されるある種の不純物は、非常に少量であっても、電子デバイスの機能、特に寿命を明らかに妨害し得ることが見出されている。特定の理論に拘束されることを望まないが、これらは遊離の不純物のみでなく、特に有機半導体または半導体副生成物に結合している不純物、または反応から残存し得る不完全に反応した反応物質、特にハロゲンであると推測している。これらの共有結合した不純物は上記の方法により除去することができない。他方では、反応性ハロゲンは有機半導体またはその前駆体の合成にしばしば関与し、従って典型的に不純物として有機半導体中に様々な含有量で存在する。従って、これらについての技術的な改善を提供することが本発明の目的である。
【0011】
本発明は、少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスを提供する。
【0012】
有機半導体は、典型的に特にその合成において、反応性の臭素または反応性のヨウ素若しくは塩素が以下の反応、特にスズキカップリング、スティル(Stille)カップリング、ヤマモトカップリング、ヘックカップリング、ハートウィッグ-ブッフバルト(Hartwig-Buchwald)カップリング、ソノガシラカップリング、ネギシカップリング、またはヒヤマカップリングのうちの1つに関与するものである。有機半導体は、典型的には特にその合成において、反応性の塩素がギルヒ(Glich)反応に関与するものである。この反応性ハロゲンを反応中に除去する。
【0013】
従って本発明は、反応性ハロゲンが関与した反応により得られる少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中の前記ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスを特に提供する。とりわけ、有機半導体を合成する反応に関与したハロゲンの含有量は20ppm未満である。
【0014】
少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスは、好ましくは、ごくわずかの用途を挙げると、有機発光ダイオードおよびポリマー発光ダイオード(OLED、PLED)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機集積回路(O-IC)、有機太陽電池(O-SC),有機電界クエンチデバイス(field-quench device)(O-FQD)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機発光電気化学セル(LEC)、または有機レーザダイオード(O-laser)から成る電子デバイスの群から選択される。有機半導体中の臭素の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスが好ましい。
【0015】
さらに、全ての層における全ての有機半導体が20ppm未満の臭素を含有することを特徴とする電子デバイスが好ましい。
【0016】
さらに、有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素およびヨウ素の含有量がいずれの場合にも20ppm未満であることを特徴とし、但しこの制限は、フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でない、すなわち有機半導体の構造中に実用的な目的で含まれていない場合にのみフッ素については適用される有機電子デバイスが好ましい。
【0017】
この用途との関連で、有機半導体は、固体としてまたは層として半導体性質を有する、すなわち伝導帯と価電子帯との間のエネルギギャップが1.0?3.5eVである低分子量の、オリゴマーの、樹枝状のまたはポリマーの有機化合物または有機金属化合物である。ここで用いられる有機半導体は、純粋成分であるか2種以上の成分の混合物のいずれかであって、これらの中の少なくとも1種は半導体性質を有する必要がある。しかしながら混合物を使用する場合には、成分のそれぞれが半導体性質を有する必要はない。例えば、電子的に不活性な化合物、例えばポリスチレンを半導体化合物と共に用いることも可能である。」

ウ 「【0018】
本発明の好ましい実施形態において、電子デバイス中の有機半導体はポリマーである。本発明に関連して、ポリマー有機半導体は特に、
(i)EP 0443861、WO 94/20589、WO 98/27136、EP 1025183、WO 99/24526、WO 01/34722 および EP 0964045 に開示されている置換されたポリ-p-アリーレンビニレン(PAV)、
(ii)EP 0842208、WO 00/22027、WO 00/22026、DE 19981010、WO 00/46321、WO 99/54385 および WO 00/55927 に開示されている置換されたポリフルオレン(PF)、
(iii)EP 0707020、WO 96/17036、WO 97/20877、WO 97/31048、WO 97/39045 および WO 03/020790 に開示されている置換されたポリ-スピロ-ビフルオレン(PSF)、
(iv)WO 92/18552、WO 95/07955、EP 0690086、EP 0699699 および WO 03/099901 に開示されている置換されたポリ-パラ-フェニレン(PPP)またはポリ-パラ-ビフェニレン、
(v)WO 05/014689 に開示されている置換されたポリジヒドロフェナントレン(PDHP)、
(vi)WO 04/041901 および WO 04/113412 に開示されている置換されたポリ-トランス-インデノフルオレンおよびポリ-シス-インデノフルオレン(PIF)、
(vii)EP 1028136 および WO 95/05937 に開示されている置換されたポリチオフェン(PT)、
(viii)T.ヤマモト等、J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 4832 に開示されているポリピリジン(PPy)、
(ix)ゲリング(Gelling)等、Polym. Prepr. 2000, 41, 1770 に開示されているポリピロール、
(x)DE 102004020298.2 に開示されている置換されたポリフェナントレン、
(xi)例えば DE 102004032527.8 に記載されているリン光ポリマー、
(xii)WO 02/10129 に記載されている架橋可能なポリマー、
(xiii)例えば WO 02/077060 に記載されている、クラス(i)?(xii)の2つ以上に由来する構造単位を有する置換された可溶性コポリマー、
(xiv)Proc. of ICSM '98, Part I & II (in: Synth. Met. 1999, 101/102)に開示されている共役ポリマー、
(xv)例えば、R.C.ペンウェル(Penwell)等、J. Polym. Sci., Macromol. Rev. 1978, 13, 63-160 に開示されている置換されたおよび無置換のポリビニルカルバゾール(PVK)、および
(xvi)例えば、JP 2000-072722 に開示されている置換されたおよび無置換のトリアリールアミンポリマー
である。」

エ 「【0023】
有機電子デバイスの電子性質、とりわけ寿命と効率を、ハロゲンの低い含有量に加えて、有機半導体中の不純物または副生成物中に存在し得る他の元素の含有量がある含有量よりも低い場合に、さらに高めることができるということが見出された。」

オ 「【0046】
本発明は1種以上の溶媒中の1種以上の本発明の有機半導体の溶液をさらに提供する。溶媒中の上記の不純物の割合が、同様に、上記の限定値以下である場合が好ましい。」

カ 「【0047】
上記したように一般に臭素またはハロゲンの含有量、および適切な場合には他の不純物の含有量が限定値である少なくとも1種の有機半導体を含む本発明の電子デバイスは、いくつかの重要な利点を有する。
【0048】
1.電子デバイスの寿命と効率とは改善される。このことは、長寿命で高価値な電子デバイスの開発に不可欠である。これらの説明は例3?5、8および9に詳述する。
【0049】
2.本発明の電子デバイスの他の利点は、しばしば観察される「初期低下(initial drop)」が存在しないことである。これは、他の減衰がほぼ指数関数により記載され得る以前の、OLEDまたはPLEDの寿命の最初の数時間におけるルミネセンスの急峻な減衰を指す。初期低下の原因は未だに不明であるが、同じ組成の有機半導体またはポリマーの場合においてこの再生不可能な事象は問題であった。従って、初期低下が存在しないことは、有機電子デバイスを再現性よく製造することを可能にする。
【0050】
3.有機反応の変換率は必ずしも完全には制御できず、また再現できない。つまり、小さなばらつきは常にある。しかしながら、例えば99.8?99.9%変換の範囲にある、より一層非常に小さいばらつきでさえも、特に重合反応においてはポリマー中に存在する末端基の数に大きな違いを有することがある。スズキ重合におけるこれらの末端基はハロゲン、特に臭素とボロン酸誘導体である。本発明による工程および有機半導体の別個の後処理はこれらを除去することを可能にし、これは全体的な重合反応(または有機合成)のより優れた再現性をもたらす。
【0051】
本明細書および以下に続く例においては、特に有機発光ダイオードおよびポリマー発光ダイオードおよび対応するディスプレイが目的である。記載のこの限定に関らず、当業者はいかなる他の発明力を必要とすることなしに、他のデバイス、例えば、ごくわずかな用途を挙げると、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機集積回路(O-IC)、有機太陽電池(O-SC)、有機電界クエンチデバイス(field-quench device)(O-FQD)、有機発光トランジスタ(O-LET)、発光電気化学セル(LEC)、または有機レーザダイオード(O-laser)の製造に対応する有機半導体を用いることができる。」

(2) 引用文献1に記載された発明
引用文献1の段落【0012】?【0016】(記載事項イ)の記載からみて、引用文献1の段落【0046】(記載事項オ)に記載された「上記の不純物」及び「上記の限定値」が指す「上記」には、少なくとも、引用文献1の段落【0014】及び【0015】(記載事項イ)に記載された「臭素」及び「20ppm」が含まれると理解される。
また、引用文献1の段落【0014】(記載事項イ)の記載からみて、引用文献1の段落【0046】(記載事項オ)に記載された「本発明の有機半導体」は、電子デバイスを提供するために用いられるものといえる。
そうすると、引用文献1の段落【0046】(記載事項オ)には、以下の発明が記載されていると認められる。
「電子デバイスを提供するために用いられる、1種以上の溶媒中の1種以上の有機半導体の溶液の提供方法であって、溶媒中に含有する臭素が20ppm未満である方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2009-140922号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スリット状吐出口から塗工液を吐出する塗布法に用いられる塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略することがある。)を構成する発光層等の薄膜を形成する方法として、キャピラリーコート法等のスリット状吐出口から塗工液を吐出する塗布法が知られている。この塗布法に用いる塗工液として、薄膜の材料となる有機化合物と、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、クロロホルム、水等の170℃未満の沸点を有する溶媒とを含む塗工液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004-164873号公報 (段落[0059])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の塗工液を用いて、上記の塗布法で薄膜を形成した場合、得られる薄膜の平坦性が必ずしも十分ではなかった。本発明は、薄膜を形成する際に、薄膜の平坦性を十分に高くすることのできるスリット状吐出口から塗工液を吐出する塗布法用の塗工液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の塗工液、塗工方法、有機EL素子の製造方法および有機EL素子を提供するものである。
【0006】
〔1〕スリット状吐出口から塗工液を吐出する塗布法用の塗工液であって、20℃において固体である有機化合物と、170℃未満の沸点を有する第1の溶媒と170℃以上の沸点を有する第2の溶媒とを含む塗工液。

(中略)

【発明の効果】
【0007】
本発明のスリット状吐出口から塗工液を吐出する塗布法用の塗工液を用いて、該塗布法により薄膜を形成すると、薄膜の平坦性を十分に高くすることができる。本発明の塗工液は、有機エレクトロルミネッセンス素子等の製造に有用であり、工業的に極めて有用である。」

(2) 「【0012】
<有機化合物>
本発明の塗工液を有機EL素子の製造に用いる場合、該塗工液が含む有機化合物としては、有機発光材料、有機正孔輸送材料、有機正孔注入材料、有機電子ブロック材料、有機電子輸送材料、有機電子注入材料、有機正孔ブロック材料等があげられる。これらの材料の中でも、有機発光材料は有機EL素子に必須の材料であり、本発明の塗工液を用いて有機発光材料を含む薄膜を製造することが製造コストの面から好ましい。
【0013】
有機発光材料としては、蛍光を発光する材料と燐光を発光する材料があげられる。蛍光を発光する材料には、高分子蛍光材料と低分子蛍光材料がある。燐光を発光する材料としては、金属錯体を含む基を主鎖、側鎖若しくは末端に有する高分子化合物および金属錯体等があげられる。

(中略)

【0016】
<燐光を発光する材料>
燐光を発光する材料としては、イリジウム錯体、白金錯体、タングステン錯体、ユーロピウム錯体、金錯体、オスミウム錯体、レニウム錯体等の金属錯体、これらの金属錯体を含む基を主鎖、側鎖若しくは末端に有する高分子化合物等があげられる。
【0017】
本発明の塗工液を用いて有機発光材料を含む薄膜を製造する場合、塗工液の粘度の観点からは、該塗工液が高分子蛍光材料を含むかまたは燐光を発光する材料であって金属錯体を含む基を主鎖、側鎖若しくは末端に有する高分子化合物を含むことが好ましい。」

(3) 「【0018】
<溶媒>
【0019】
本発明の塗工液が含む第1の溶媒の沸点は、170℃未満であり、保存安定性の観点からは、沸点が35℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明の塗工液が含む第2の溶媒の沸点は、170℃以上であり、スリットの目詰まりを防ぐ観点からは180℃以上であることが好ましい。溶媒を揮発させるプロセスの観点から、沸点が300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の塗工液が含む溶媒としては、以下の溶媒があげられる。
第1の溶媒としては例えば、以下の溶媒のうち170℃未満の沸点を有するものがあげられ、第2の溶媒としては、以下の溶媒のうち、170℃以上の沸点を有するものがあげられる。
クロロホルム(沸点61℃)、塩化メチレン(沸点40℃)、1,1-ジクロロエタン(沸点57℃)、1,2-ジクロロエタン(沸点83℃)、1,1,1-トリクロロエタン(沸点74℃)、1,1,2-トリクロロエタン(沸点113℃)等の脂肪族塩素系溶媒、クロロベンゼン(沸点132℃)、o-ジクロロベンゼン(沸点180℃)、m-ジクロロベンゼン(沸点173℃)、p-ジクロロベンゼン(沸点174℃)等の芳香族塩素系溶媒、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、1,4-ジオキサン(沸点101℃)等の脂肪族エーテル系溶媒、アニソール(沸点154℃)、エトキシベンゼン(沸点170℃)等の芳香族エーテル系溶媒、トルエン(沸点111℃)、o-キシレン(沸点144℃)、m-キシレン(沸点139℃)、p-キシレン(沸点138℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)、p-ジエチルベンゼン(沸点184℃)、メシチレン(沸点211℃)、n-プロピルベンゼン(沸点159℃)、イソプロピルベンゼン(沸点152℃)、n-ブチルベンゼン(沸点183℃)、イソブチルベンゼン(沸点173℃)、s-ブチルベンゼン(沸点173℃)、テトラリン(沸点208℃)、シクロヘキシルベンゼン(沸点235℃:737mmHgで測定)等の芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン(沸点81℃)、メチルシクロヘキサン(沸点101℃)、n-ペンタン(沸点36℃)、n-ヘキサン(沸点69℃)、n-へプタン(沸点98℃)、n-オクタン(沸点126℃)、n-ノナン(沸点151℃)、n-デカン(沸点174℃)、デカリン(cis体は沸点196℃、trans体は沸点187℃)、ビシクロヘキシル(沸点217?233℃)等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン(沸点56℃)、メチルエチルケトン(沸点80℃)、メチルイソブチルケトン(沸点117℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、2-ヘプタノン(沸点150℃)、3-ヘプタノン(沸点147℃:765mmHgで測定)、4-ヘプタノン(沸点144℃)、2-オクタノン(沸点174℃)、2-ノナノン(沸点195℃)、2-デカノン(沸点209℃)等の脂肪族ケトン系溶媒、アセトフェノン(沸点202℃)等の芳香族ケトン系溶媒、酢酸エチル(沸点77℃)、酢酸ブチル(沸点120?125℃)等の脂肪族エステル系溶媒、安息香酸メチル(沸点200℃)、安息香酸ブチル(沸点213℃)、酢酸フェニル(沸点196℃)等の芳香族エステル系溶媒、エチレングリコール(沸点198℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点125℃)、1,2-ジメトキシエタン(沸点85℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,2-ジエトキシメタン(沸点124℃)、トリエチレングリコールジエチルエーテル(沸点222℃)、2,5-ヘキサンジオール(沸点218℃)等の脂肪族多価アルコール系溶媒及び脂肪族多価アルコールの誘導体からなる溶媒、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)等の脂肪族アルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド(沸点37℃)等の脂肪族スルホキシド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(沸点202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等の脂肪族アミド系溶媒が例示される。
【0021】
本発明の塗工液が含む溶媒としては、有機化合物の溶解性、薄膜の平坦性、粘度特性等の観点からは、芳香族化合物が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族エステル系溶媒、脂肪族エステル系溶媒、芳香族ケトン系溶媒、脂肪族ケトン系溶媒、芳香族エーテル系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒が好ましい。第1の溶媒としては、薄膜の平坦性の観点からは、芳香族化合物が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族エステル系溶媒、芳香族ケトン系溶媒および芳香族エーテル系溶媒からなる群から選ばれる芳香族化合物であることがより好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アニソールおよびメシチレンが好ましく、キシレン、アニソールおよびメシチレンがより好ましい。第2の溶媒としては、薄膜の平坦性の観点からは、芳香族化合物が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族エステル系溶媒、芳香族ケトン系溶媒および芳香族エーテル系溶媒からなる群から選ばれる芳香族化合物であることがより好ましく、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンおよびテトラリンが好ましく、シクロヘキシルベンゼンおよびテトラリンがより好ましい。第1の溶媒と第2の溶媒との組み合わせとしては、第1の溶媒がキシレンであり、第2の溶媒はシクロヘキシルベンゼンである場合、第1の溶媒がキシレンであり、第2の溶媒はテトラリンである場合、第1の溶媒がアニソールであり、第2の溶媒はシクロヘキシルベンゼンである場合、第1の溶媒がアニソールであり、第2の溶媒はテトラリンである場合、第1の溶媒がメシチレンであり、第2の溶媒はシクロヘキシルベンゼンである場合、第1の溶媒がメシチレンであり、第2の溶媒はテトラリンである場合が好ましい。」

(4) 「【0058】
<実施例1>
有機発光材料Lumation GP1300(Green1300)(サメイション社製)1gにアニソール(沸点154℃)50gおよびシクロヘキシルベンゼン(沸点235?236℃)50gを加え、キャピラリーコート塗工液1を調製した。有機発光材料の重量はキャピラリーコート塗工液の総重量に対して1.0重量%であった。キャピラリーコート塗工液1の粘度は6.3mPa・sで、表面張力は32.1mN/mであった。キャピラリーコート塗工液1を、塗工速度0.3m/min、液面高さ10mm、塗工ギャップ220μmの条件で塗工した。
連続塗工回数評価の結果、10回目まで全て問題無く塗工できた。成膜後の膜の平坦性について評価した結果を表1に示す。
キャピラリーコート塗工液1を用いた場合、塗工特性、成膜後の膜の平坦性とも十分、実用レベルに達するものであった。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表2009-540574号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、有機活性材料を液相堆積するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電子デバイスにおける関心が高まってきている。有機電子デバイスの例としては有機発光ダイオード(OLED)が挙げられる。OLEDは高電力変換効率および低加工費であるためにディスプレイ用途として有望である。フルカラーディスプレイを製造する場合、各表示ピクセルが3つのサブピクセルに分解され、そのそれぞれが三原色の赤、緑、および青の1つを発する。OLED中に使用される層の形成にさまざまな堆積技術を使用することができる。次第に、印刷などの液相堆積技術が使用されるようになっている。
【0003】
層を印刷するための技術としては、インクジェット印刷および連続印刷が挙げられる。インクジェット印刷は、正確な量の液体を供給できるので、フルカラーOLEDディスプレイの形成において広範囲に使用されてきた。インクジェットプリンタは、液体を液滴として供給する。連続印刷は、電子デバイスの層の印刷への使用が始まったばかりである。連続印刷は、ノズルを有する印刷ヘッドを使用して行うことができる。このノズルの直径は約10?50ミクロンの範囲内とすることができる。

(中略)

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、いずれの液相堆積方法においても、1つの層の堆積が、先に堆積した層を破壊する可能性がある。このことは、3つのサブピクセルカラーの堆積において問題となりうる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
沸点が160℃を超える第1の液体5?35重量%と、沸点が130℃未満の第2の液体65?95重量%とを含む液体媒体中に分散した少なくとも1種の有機活性材料を含む組成物を提供する。
【0008】
一実施形態においては、第1の液体は、そのそれぞれの沸点が約170℃を超える複数の液体の組み合わせである。」

(2) 「【0029】
(2.液体材料)
本発明の液体媒体は、高沸点成分である第1の液体と、低沸点成分である第2の液体とを含む。
【0030】
第1の液体は、約160℃を超える沸点を有する。一実施形態においては、沸点は約170℃を超える。一実施形態においては、第1の液体は芳香族液体である。一実施形態においては、第1の液体は低級アルキル置換アニソールから選択される。一実施形態においては、第1の液体は、1、2、または3個のメチル置換基を有するアニソールである。一実施形態においては、第1の液体はジメチルアニソールである。
【0031】
一実施形態においては、第1の液体は、それぞれの沸点が約170℃を超える複数の液体の組み合わせである。
【0032】
一実施形態においては、第1の液体は、約5?35重量%の濃度で液体媒体中に存在する。一実施形態においては、第1の液体は10?20重量%である。
【0033】
第2の液体は、約130℃未満の沸点を有する。一実施形態においては、沸点は約120℃未満である。一実施形態においては、第2の液体は芳香族液体である。一実施形態においては、第2の液体は、ベンゼンおよびその誘導体、ならびにトルエンおよびその誘導体から選択される。一実施形態においては、第2の液体は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トルエン、およびトリフルオロトルエンから選択される。一実施形態においては、第2の液体はトルエンである。」

(3) 「【0036】
(3.有機活性材料)
本発明の有機活性材料は、電気活性、光活性、または生物活性の材料である。有機活性材料の例としては、電荷輸送材料、導電性材料、および半導体材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。層、材料、部材、または構造に関して言及される場合、用語「電荷輸送」は、そのような層、材料、部材、または構造が、比較的効率的かつ少ない電荷損失で、そのような層、材料、部材、または構造の厚さを通過するそのような電荷の移動を促進することを意味することを意図している。
【0037】
一実施形態においては、活性材料は光活性材料である。一実施形態においては、活性材料はエレクトロルミネッセンス材料である。エレクトロルミネッセンス(「EL」)材料としては、小分子有機蛍光化合物、蛍光性およびリン光性の金属錯体、共役ポリマー、ならびにそれらの混合物が挙げられる。蛍光化合物の例としては、ピレン、ペリレン、ルブレン、クマリン、それらの誘導体、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属錯体の例としては、トリス(8-ヒドロキシキノラト)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物;ペトロフ(Petrov)らの米国特許公報(特許文献1)ならびに(特許文献2)および(特許文献3)に開示されるようなフェニルピリジン配位子、フェニルキノリン配位子、フェニルイソキノリン配位子、またはフェニルピリミジン配位子を有するイリジウム錯体などの、シクロメタレート化されたイリジウムおよび白金のエレクトロルミネッセンス化合物、ならびに、たとえば(特許文献4)、(特許文献5)、および(特許文献6)に記載されるような有機金属錯体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。共役ポリマーの例としては、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリ(スピロビフルオレン)、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレン)、それらのコポリマー、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2009-267299号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物および有機EL素子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機EL)は、応答速度の早い自発光素子であり、発光材料の選択により、赤、緑、青、更には白色発光が得られることから、フルカラーディスプレイや照明機器としての応用が期待されている。また、既に、小型のディスプレイなどで実用化も進んでいる。
【0003】
高精細、大面積の有機ELディスプレイを低コストで製造する方法として、インクジェット法による画素形成法がある。これは、有機EL素子の発光材料やその他の機能性有機材料を溶剤に溶解または分散してインク組成物を調整し、インクジェット法を用いて画素領域上に塗布し、その後溶剤成分を除去することによって、薄膜を作製して、赤、緑、青の画素を形成する方法である(特許文献1?3)。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、低分子系材料や主鎖にビニル基などを持つ非共役系高分子は、発光効率の高い有機EL素子を作製することができるが、インク組成物内の濃度を上げても粘度があまり上がらず、インクジェット法で良好な塗布成膜ができないという問題があった。分子量を増加させることにより、粘度もある程度増加させることができるが、その場合、粘弾性が発現し、ノズルからの吐出が困難となった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、低分子系材料や分子量の低い非共役系高分子をインクジェット法により良好に塗布成膜することができるインク組成物、該インク組成物を用いた有機EL素子の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
本発明のインク組成物は、インクジェット法により有機EL素子用の有機薄膜層を形成するために用いられるインク組成物であって、前記インク組成物は、有機EL素子用有機材料が0.1質量%以上4質量%未満の濃度でインク用溶媒に溶解されてなり、4?20mPa・sの粘度を有しており、前記有機EL素子用有機材料は質量平均分子量が50万以下であり、前記インク用溶媒は、前記有機EL素子用有機材料を溶解する第1溶媒と、20mPa・s以上の粘度を有するとともに前記第1溶媒よりも低い沸点を有する第2溶媒と、の少なくとも2種類以上の溶媒を含むことを特徴とする。」

(2) 「【0026】
<有機EL素子用有機材料>
有機EL素子用有機材料は、電荷輸送材料(正孔輸送材料、電子輸送材料など)、発光材料あるいは正孔阻止材料などのような機能性有機材料である。インク組成物がインクジェット法により素子基板上に吐出された後、前記インク組成物から溶媒が除去されることにより、有機EL素子用有機材料が素子基板上に残留されて有機薄膜層3を形成する。
たとえば、電荷輸送材料は、電子または正孔を輸送する能力に優れる材料が用いられ、電荷輸送層を形成する。また、発光材料は、発光効率に優れた材料が用いられ、発光層を形成する。これらは、低分子系または高分子系の有機材料のいずれをも選択することができ、低分子系発光材料、高分子系発光材料、低分子系電荷輸送材料、高分子系電荷輸送材料などがある。

(中略)

【0028】
有機EL素子用有機材料は、低分子系材料または非共役系高分子であることが好ましい。低分子系材料または非共役系高分子を用いることにより、有機EL素子の電荷輸送能を向上させたり、発光効率を向上させることができる。
【0029】
<低分子系材料>
低分子系発光材料としては、有機EL素子に一般的に使用されるテトラフェニルブタジエン(TPB)、クマリン、ナイルレッド、オキサジアゾール誘導体、金属錯体などがある。金属錯体は、蛍光性発光材料のほかに燐光性発光材料があり、燐光性発光材料としては、イリジウム錯体、プラチナ錯体などを挙げることができるが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。

(中略)

【0031】
<非共役系高分子>
高分子系材料としては、たとえば、ポリメチルメタククリレート(PMMA)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)や、側鎖に電荷輸送能を有する置換基やイリジウム錯体などのような重原子化合物からなる発光性置換基が接合された共重合非共役系高分子などを挙げることができるが、非共役系高分子であれば、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。
特に、イリジウム錯体などのような重原子化合物からなる発光性置換基が接合された共重合非共役系高分子を、有機EL素子の発光材料として用いた場合には、有機EL素子から高効率な燐光発光を得ることができ、有機EL素子の発光効率を向上させることができる。」

(3) 「【0035】
<インク用溶媒>
インク用溶媒は、有機EL素子用有機材料を溶解する第1溶媒と、20mPa・s以上の粘度を有するとともに第1溶媒よりも低い沸点を有する第2溶媒と、の少なくとも2種類以上の溶媒を含むことが好ましい。
【0036】
低分子系材料からなる有機EL素子用有機材料を芳香族化合物からなる溶媒に溶解させてインク組成物を作成した場合には、一般に、有機EL素子用有機材料の濃度を上げてもインク組成物の粘度をほとんど上げることができない。
非共役系高分子からなる有機EL素子用有機材料の場合には、有機EL素子用有機材料の濃度を増加させることによって多少粘度を増加させることができるがその程度は小さい。また、非共役系高分子からなる有機EL素子用有機材料の場合には、有機EL素子用有機材料の分子量を増加させることによって多少粘度を増加させることができるが、インク組成物に粘弾性が発現してしまい、ノズル殻の円滑な吐出が困難となる。
【0037】
インク用溶媒が先に記載した2種類以上の溶媒を含むことにより、低分子系材料または非共役系高分子からなる有機EL素子用有機材料であっても十分溶解させて均一なインク用溶媒とすることができるとともに、インク組成物の粘度を4?20mPa・sの粘度として、インクジェット法で好適に吐出させることができ、これにより有機EL素子用の有機薄膜層3を良好に形成することができる。
【0038】
<第1溶媒>
第1溶媒は、有機EL素子用有機材料の溶解能に優れた材料であることが好ましい。具体的には、第1溶媒100mlあたり有機EL素子用有機材料を2g以上溶解させるものがよい。これにより、有機EL素子用有機材料を析出させることなく十分に溶解することができ、均一なインク組成物を形成することができる。
【0039】
第1溶媒は、沸点が140℃以上であることが望ましく、200℃以上であることがより望ましい。沸点が140℃以上である場合には、ヘッド(ノズル)の目詰まりを発生しにくくすることができ、インクジェット法により有機EL素子用の有機薄膜層3を良好に形成することができる。また、沸点が200℃以上である場合には、ヘッド(ノズル)の目詰まりをより解消するとともに、薄膜の平滑性を向上させることができる。
【0040】
第1溶媒は、芳香族化合物であることが好ましい。芳香族化合物は、有機EL素子用有機材料の溶解能に優れた溶媒であるためである。
芳香族化合物としては、たとえば、キシレン、アニソール、o-ジクロロベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、o-ジメトキシベンゼン、トリクロロメチルベンゼン、フェニルシクロヘキサンなどを挙げることができる。これらは、沸点が140℃以上であり、有機EL素子用有機材料の溶解能に優れた溶媒である。
また、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性溶媒なども、第1溶媒として用いることができる。
【0041】
さらに、沸点が200℃以上であり、有機EL素子用有機材料の溶解能に優れた溶媒としては、o-ジメトキシベンゼン、トリクロロメチルベンゼン、フェニルシクロヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられるが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。
【0042】
<第2溶媒>
第2溶媒は、室温(25℃)で20mPa・s以上の粘度を有することが好ましい。
第2溶媒が20mPa・s以上の粘度を有する場合、粘度の上がらない有機EL素子用有機材料を溶解させた場合でも、インク組成物の粘度を4?20mPa・sの粘度とインクジェット法に適した粘度にすることができる。これにより、インクジェット法で好適に塗布成膜することができる。
【0043】
また、第2溶媒は、第1溶媒よりも低い沸点を有するものが好ましい。
第2溶媒が第1溶媒よりも低い沸点を有する場合には、第1溶媒よりも先に第2溶媒が蒸発するので、インク組成物を塗布し溶媒を除去したときに、平滑な有機薄膜層3を形成することができる。また、有機薄膜層3の有機EL素子用有機材料の純度を向上させることができる。
逆に、第2溶媒が第1溶媒よりも高い沸点を有する場合には、溶媒の除去工程において、有機材料に対して溶解性のある第1溶媒が第2溶媒よりも早く蒸発してしまい、有機EL素子用有機材料の析出などが発生して、平滑な有機薄膜層3を形成することができない。
なお、第2溶媒は、第1溶媒と容易に混合するものが好ましい。これにより、均一なインク組成物を作製することが出来る。」

5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2008-226686号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機トランジスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄型、全固体型、面状自発光及び高速応答であるといった特徴を有する発光素子として、例えばフラットパネルディスプレイやバックライトなどへの応用が期待されている。このような有機EL素子は、一般に表面に陽極層が形成された基板の上に、正孔注入輸送層や発光層などの機能層を形成し、この上に陰極層を形成することで作成される。
【0003】
ところで、正孔注入輸送層や発光層などの機能層を形成する際、従来のフォトリソグラフィ法による形成方法に代わり、例えばインクジェット法などの液相法を用いて、機能層材料を有機溶媒に溶解又は分散させた液状体を塗布し、これを乾燥させることによって正孔注入輸送層や発光層などの機能層を形成することが知られている。具体的には、1種類以上の溶媒を組み合わせてインク化した液状体をインクジェット法により塗布し、溶媒を乾燥させて除去した後に、焼成して機能層を形成しているものがある(例えば、特許文献1,2参照)。このように、機能層を液相法で形成することは、フォトリソグラフィ法に比べ、製造プロセス及び製造コスト等の面で有利である。
【特許文献1】国際公開第00/59267号パンフレット
【特許文献2】特開平11-339957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなインクジェット法等の液相法を用いた場合、微小な液滴を吐出して基板上に形成するため、液状体の乾燥制御が重要となる。つまり、上述した有機EL素子を製造する際に使用される有機溶媒は、機能層材料の溶解性や、塗布後の膜厚均一性、デバイス特性などを加味した上で決定されるもので、乾燥が速過ぎても遅過ぎても溶媒としては不適となる。
【0005】
例えば、溶解性に優れた溶媒であっても、沸点が高い溶媒を用いた場合には、乾燥性が悪くなり、乾燥工程に時間を要することになったり、乾燥工程において溶媒を完全に除去することが難しいため、乾燥後に所望の膜厚が得られなくなったりするなどの問題が発生してしまう。
一方、塗布された機能層を乾燥させる際には、沸点が低い溶媒ほど乾燥時間を短縮することができ、生産性の向上に繋がるため有利である。しかしながら、沸点の低い溶媒は、乾燥性に優れるものの、機能層の膜厚均一性が低下しやすいため、単一の溶媒だけでこれらの要求を満たすことは困難である。
また、有機半導体層を有する有機トランジスタを液相法で形成する場合にも同様の問題点がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、成膜性及び素子特性を向上させることができる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機トランジスタの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、基板上に第1の電極を形成する工程と、前記第1の電極上に機能層を形成する工程と、前記機能層上に第2の電極を形成する工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記機能層を形成する工程は、前記機能層の形成材料を有機溶媒に溶解または分散させた液状体を前記第1の電極上に塗布する工程と、前記第1の電極上の前記液状体を真空常温下で乾燥し前記有機溶媒を除去する工程と、前記有機溶媒を除去した後大気圧下で焼成する工程とを有し、前記有機溶媒は、主溶媒と、この主溶媒よりも沸点の低い少なくとも1種以上の副溶媒とを含むとともに、前記主溶媒の沸点は200℃以上であり、且つ、前記主溶媒と前記副溶媒との沸点差が100℃以下であることを特徴とする。
この構成によれば、機能層の形成材料が溶解または分散された有機溶媒が、沸点が200℃以上の主溶媒とこの主溶媒よりも沸点が低い副溶媒とを含むため、有機溶媒に溶解された機能層の液状体が一定の沸点を持たなくなり、有機溶媒の気化が緩やかになる。すなわち、主溶媒と副溶媒との沸点差を利用して乾燥速度に変化を持たせることができるため、乾燥速度をコントロールすることができる。
また、主溶媒と副溶媒との沸点差が100℃以下とすることで、副溶媒の乾燥後、主溶媒が乾燥せずに残存することを防ぐことができる。したがって、機能層の膜厚ムラの発生を防ぎ、成膜性と素子特性との双方を向上させることができる。また、機能層の液状体を真空常温下で乾燥した後、大気圧下で焼成を行うため、素子特性の低下を防ぐことができる。」


第5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「有機半導体」は、電子デバイスを構成するものであり、溶媒と共に溶液を構成するものであるから、常温常圧下において固体であることは明らかである。したがって、引用発明の「有機半導体」は、本件発明の「1気圧、25℃において固体である有機化合物」に相当する。

2 引用発明の「1種以上の溶媒」は、有機半導体の溶媒であるから、技術常識を考慮すると、常温常圧下において液体であるといえるものである。また、有機半導体に通常用いられる溶媒は有機溶媒である。さらに、引用発明の「1種以上の溶媒」は、「溶媒中に含有する臭素が20ppm未満である」とされている。ここで、溶媒中に存在する臭素原子は、臭素を含む化合物として存在していることは技術常識であり、また、「20ppm未満」という濃度は、臭素を含む化合物としてみても、その濃度は低いものといえる。
したがって、引用発明の「1種以上の溶媒」と本件発明の「1気圧、25℃において液体であり、臭素を含む化合物を含み、該臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下である有機溶媒」とは、「1気圧、25℃において液体であり、臭素を含む化合物の濃度が低い有機溶媒」である点で共通する。

3 引用発明の「溶液」は、技術常識からみて、「1種以上の溶媒」中に、「有機半導体」が溶解してなるものである。そうすると、引用発明の「1種以上の溶媒中の1種以上の有機半導体の溶液の提供方法」は、その前提として、「1種以上の溶媒」中に「有機半導体」を溶解させる工程を包含する方法といえる。したがって、引用発明の「1種以上の溶媒中の1種以上の有機半導体の溶液の提供方法」は、本件発明の「溶解させる工程」を有しているといえる。
さらに、引用発明の「1種以上の溶媒中の1種以上の有機半導体の溶液」は、有機半導体からなる「電子デバイスを提供するために用いられる」ものであるから、有機半導体素子用の液状組成物であるといえる。そうすると、引用発明の「1種以上の溶媒中の1種以上の有機半導体の溶液の提供方法」は、本件発明の「有機半導体素子用液状組成物の製造方法」に相当する。

4 以上より、本件発明と引用発明とは、
「1気圧、25℃において固体である有機化合物を、1気圧、25℃において液体であり、臭素を含む化合物の濃度が低い有機溶媒に溶解させる工程を包含する有機半導体素子用液状組成物の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]有機溶媒中の臭素を含む化合物に関して、本件発明は、有機溶媒が臭素を含む化合物を含み、該臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下であるのに対し、引用発明は、溶媒中に含有する臭素を20ppm未満とするものの、有機溶媒が臭素を含む化合物を含むかどうか、及び、化合物に換算した場合の臭素の濃度が100重量ppm以下となるかが明らかではない点。
[相違点2]有機溶媒を構成する成分について、本件発明は、「180℃以上の沸点を有する有機溶媒、及び180℃未満の沸点を有する有機溶媒を含み、該180℃以上の沸点を有する有機溶媒がブチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、デカリン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン、フェノキシトルエン、4-フェニル-1,3-ジオキサン、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアセトン、5-メチル-2-オクタノン及びシクロヘプタノンから成る群から選択される少なくとも一種であり」、「該180℃未満の沸点を有する有機溶媒がオクタン、エチルベンゼン、クメン、プソイドクメン、メシチレン、ジブチルエーテル、アニソール、メチルアニソール、1-ペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-ヘプタノール、シクロヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヘプタノン、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、5-メチル-3-ヘプタノン、2-メチルシクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、3-メチルシクロヘキサノン及び4-メチルシクロヘキサノンから成る群から選択される少なくとも一種であ」るのに対し、引用発明は、1種以上の溶媒であるものの、その成分を特定していない点。
[相違点3]有機化合物が、本件発明は、「燐光を発光する有機化合物であり」、「該有機化合物が、三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体または白金錯体、および該金属錯体を高分子量化した化合物から成る群から選択される少なくとも一種である」のに対し、引用発明は有機半導体を特定していない点。


第6 判断
1 [相違点1]について
引用文献1の段落【0010】及び【0011】(記載事項イ)には、「特に、以下により正確に明示されるある種の不純物は、非常に少量であっても、電子デバイスの機能、特に寿命を明らかに妨害し得ることが見出されている。特定の理論に拘束されることを望まないが、これらは遊離の不純物のみでなく、特に有機半導体または半導体副生成物に結合している不純物、または反応から残存し得る不完全に反応した反応物質、特にハロゲンであると推測している。」及び、「本発明は、少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスを提供する。」と記載されている。そうしてみると、引用発明は、臭素等のハロゲンを含む化合物の濃度を非常に少量とすることにより、寿命が妨害されることのない有機半導体の溶液を提供するものといえる。そして、化合物に換算した場合の臭素の閾値をどの程度まで低減させるかは、当業者が求める有機半導体の寿命等のメリットと、不純物を低減するコスト等のデメリットに応じて当業者が適宜設定しうることである。また、臭素を含む化合物の濃度が100重量ppmである場合を境界として、不純物を低減することの効果に臨界的な差異が生じるとする根拠も見いだせない。
したがって、引用発明において、溶媒中に含有する臭素の濃度を、化合物に換算して100重量ppm以下とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
あるいは、本件出願の明細書の段落【0159】には、実施例1として、有機半導体素子用液状組成物3を製造したことが記載されており、当該実施例で用いられたシクロヘキシルベンゼン及び4-メチルアニソールは、段落【0152】?【0156】の記載によれば、臭素原子の量がそれぞれ、67重量ppm及び10重量ppm未満とされている。このシクロヘキシルベンゼンを4mlと、4-メチルアニソールを1mlを混合して得られる混合溶媒における臭素原子の濃度は、(67ppm×4ml+10ppm未満×1ml)÷(4ml+1ml)=56重量ppm未満となる。臭素原子の量が56重量ppm未満である当該実施例1における混合溶媒は、本件発明の「臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下である」とする本件発明の要件を満たすものであるから、臭素原子の量が20ppm未満とされる引用発明の臭素を含む化合物の濃度も100重量ppm以下である蓋然性が高いといえる。
さらに、以下のとおり考えることもできる。
すなわち、本願の発明の詳細な説明の段落【0152】に記載された評価方法は、臭素原子を定量するものである。そうしてみると、本件発明の「該臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下である有機溶媒」という構成は、「臭素原子の濃度が100重量ppm以下である有機溶媒」という構成と等価であると考えることができる。
そうしてみると、引用発明の溶媒は、「溶媒中に含有する臭素が20ppm未満」であるから、本件発明でいう「該臭素を含む化合物の濃度が100重量ppm以下である有機溶媒」ということができる。
また、一般に溶媒中に不純物が全く存在しないことは考えがたく、市販品からも臭素が検出されること、微量に存在する不純物を完全に除去することが困難であることを考慮すれば、引用発明における溶媒も、臭素を含む化合物を含んでいるといえる。
以上より、上記[相違点1]は実質的な相違点とはいえないものであるか、当業者が適宜なし得たものである。

2 [相違点2]及び[相違点3]について
引用文献1には、記載事項ウとして、有機半導体がポリマー有機半導体であることが記載されており、さらに、「(xi)例えば DE 102004032527.8 に記載されているリン光ポリマー」との記載されているように、燐光を発光する有機化合物とすることも示唆されている。そして、例えば、引用文献2には、記載事項(2)として、有機ELの製造に用いられる塗工液に含まれる有機発光材料として、燐光を発光する材料が挙げられること、燐光を発光する材料としては、イリジウム錯体、白金錯体等、これらの金属錯体を含む基を主鎖、側鎖若しくは末端に有する高分子化合物等が挙げられることが記載されている。また、引用文献3にも、記載事項(3)として、有機活性材料について、エレクトロルミネッセンス材料としては、リン光性の金属錯体が挙げられること、金属錯体の例として、フェニルピリミジン配位子を有するイリジウム錯体や白金のエレクトロルミネッセンス化合物が挙げられることが記載されている。さらに、引用文献4にも、記載事項(2)として、燐光性発光材料としては、イリジウム錯体、プラチナ錯体などを挙げることができること、イリジウム錯体などのような重原子化合物からなる発光性置換基が接合された共重合非共役系高分子などを挙げることができると記載されている。これらの有機化合物は、リン光を発するものであるから、三重項励起状態からの発光を有するものである。以上より、電子デバイスに用いられる有機半導体として、燐光を発生する有機化合物であり、三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体または白金錯体及び当該錯体を高分子量化した化合物から選択される化合物を用いることは周知技術であるといえる。
したがって、引用発明において、有機半導体として、周知の燐光を発生する有機化合物であり、三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体または白金錯体及び当該錯体を高分子量化した化合物から選択される化合物を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

また、電子デバイスを提供するために用いられる有機半導体の溶液を提供するにあたり、溶媒として沸点の低い有機溶媒と沸点の高い有機溶媒を混合して用いることは周知技術であるといえる。例えば、引用文献2には、記載事項(1)として摘記したとおり、有機EL素子の発光層形成に用いられる塗工液の溶媒に関し、「薄膜を形成する際に、薄膜の平坦性を十分に高くする」ために、「170℃未満の沸点を有する第1の溶媒と170℃以上の沸点を有する第2の溶媒とを含む」ことが記載されており、記載事項(3)として摘記した箇所にも、第1の溶媒の沸点は、170℃未満であること、第2の溶媒の沸点は、180℃以上であることが好ましいこと、アニソール(沸点154℃)等の芳香族エーテル系溶媒、o-キシレン(沸点144℃)、m-キシレン(沸点139℃)、p-キシレン(沸点138℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)、メシチレン(沸点211℃)、n-プロピルベンゼン(沸点159℃)、イソプロピルベンゼン(沸点152℃)、テトラリン(沸点208℃)、シクロヘキシルベンゼン(沸点235℃:737mmHgで測定)等の芳香族炭化水素系溶媒、n-オクタン(沸点126℃)、デカリン(cis体は沸点196℃、trans体は沸点187℃)等の脂肪族炭化水素系溶媒が例示されること、が記載されている。また、引用文献3にも、記載事項(1)として摘記したとおり、先に堆積した層を破壊することがないように、有機発光ダイオード中に使用される層の形成に、沸点が160℃を超える第1の液体と沸点が130℃未満の第2の液体とを含む液体媒体中に分散した有機活性材料を含む組成物を用いることが記載されており、記載事項(2)として摘記した箇所には、第1の液体について、沸点は約170℃を超えること、メチル置換にを有するアニソールであること、第2の液体について、約130℃未満の沸点を有すること、ベンゼンおよびその誘導体、ならびにトルエンおよびその誘導体から選択されることも記載されている。さらに、引用文献4には、記載事項(1)として摘記したように、有機ELディスプレイをインクジェット法による画素形成法により製造するにあたり、インク用溶媒が、「前記有機EL素子用有機材料を溶解する第1溶媒と、20mPa・s以上の粘度を有するとともに前記第1溶媒よりも低い沸点を有する第2溶媒と、の少なくとも2種類以上の溶媒を含む」ことが記載されており、記載事項(3)として摘記した箇所には、第1溶媒として、フェニルシクロヘキサンが挙げられること、第2溶媒は、インクジェット法に適した粘度にするとともに、第2溶媒が第1溶媒よりも低い沸点を有することにより、「第1溶媒よりも先に第2溶媒が蒸発するので、インク組成物を塗布し溶媒を除去したときに、平滑な有機薄膜層を形成することができる。」と記載されている。そして、引用文献5にも、記載事項(1)として摘記したとおり、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関して、インクジェット法などの液相法を用いて、機能層材料を有機溶媒に溶解又は分散させた液状体を塗布し、これを乾燥させることによって正孔注入輸送層や発光層などの機能層を形成するにあたり、成膜性及び素子特性を向上させることができるために、主溶媒と、この主溶媒よりも沸点の低い少なくとも1種以上の副溶媒とを含むとともに、前記主溶媒の沸点は200℃以上であり、且つ、前記主溶媒と前記副溶媒との沸点差が100℃以下である有機溶媒を用いることが記載されている。
そして、上記周知の燐光を発生するイリジウム錯体または白金錯体及び当該錯体を高分子量化した化合物を溶解するにあたり、各有機溶媒の種類は、溶解しようとする有機半導体との親和性に基づいて、周知の溶媒の中から適宜選択し得るものである。また、複数の溶媒としてどのような沸点の溶媒を選択するかは、塗膜における溶媒の蒸発速度が適切なものとなるように当業者が適宜なし得ることである。
したがって、引用発明における溶媒として、上記周知の燐光を発生する化合物を溶解することができ、かつ、平滑な層が得られるように、又は先に堆積した層を破壊することがないように、沸点の高い有機溶媒と沸点の低い有機溶媒を混合したものを採用することは、当業者が適宜なし得ることであるから、沸点の高い溶媒として180℃以上の沸点を有するシクロヘキシルベンゼン等を選択し、沸点の低い溶媒として180℃未満の沸点を有するメチルアニソール等を選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

3 効果について
(1)本件発明の効果について検討すると、本願明細書の段落【0023】に記載に基づけば、本件発明の効果は、「簡単な製造方法によって、有機層の品質が向上し、寿命が延長された有機半導体素子を製造することができる。」というものといえる。一方、引用文献1の記載事項カに基づけば、引用発明も、電子デバイスの寿命が改善されるという効果を奏するものである。そして、引用発明によって提供される有機半導体の溶液も、従来と同様の製造方法による電子デバイスの提供に用いられるものであるから、複雑な製造方法を要するものではない。
したがって、本件発明の効果は、引用文献1に記載された効果であって、格別なものとはいえない。

(2)また、請求人は、審判請求書の3.(1)の第6頁第3?22行において、「燐光発光化合物を有機溶媒中に溶解し、塗布法によって成膜する際に、沸点180℃以上のシクロヘキシルベンゼンと沸点180℃未満の4-メチルアニソールとの混合溶媒を使用した場合に、キシレン又は4-メチルアニソールを単独で使用した場合と比較して、形成される有機層表面の平坦性がより優れたものになることが、実験的にも確認された。」と主張している。しかし、上記2に記載したとおり、溶媒として沸点の低い有機溶媒と沸点の高い有機溶媒を混合して用いることは周知技術であり、平滑な層を得ることができるという効果も周知のものである。
したがって、請求人の主張する効果は、周知の効果を足し合わせたものに過ぎず、格別なものということはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-01 
結審通知日 2018-05-08 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2015-183157(P2015-183157)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
宮澤 浩
発明の名称 有機半導体素子用液状組成物の製造方法  
代理人 松谷 道子  
代理人 西下 正石  
代理人 鮫島 睦  

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