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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1341857
審判番号 不服2017-189  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-06 
確定日 2018-07-24 
事件の表示 特願2013-547671「レーザー切断方法及びこれにより製造された物品」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月5日国際公開,WO2012/092478,平成26年4月3日国内公表,特表2014-508313,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2013-547671号(以下「本件出願」という。)は,2011年(平成23年)12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年(平成22年)12月30日 米国)に出願されたものとみなされた特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成26年12月22日付け:手続補正書
平成27年 9月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年 4月 6日付け:意見書
平成28年 4月 6日付け:手続補正書
平成28年 8月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 1月 6日付け:審判請求書
平成29年 1月 6日付け:手続補正書
平成29年12月 6日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月29日付け:意見書
平成30年 5月29日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1及び請求項2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
フィルム体を細分化する方法であって,
(a)(1)第1の主表面及び第2の主表面を有する光学スタックと,(2)前記主表面のうちの少なくとも1つの上の,ポリカーボネート又はポリカーボネートブレンドからなるポリマースキン層と,を備えるフィルム体を提供する工程,ここで前記光学スタックは層間粘着性及び異なる屈折率を有するミクロ層を複数含み,前記ミクロ層は,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸のコポリマーもしくはブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸のコポリマーもしくはブレンド,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体,ポリブチレンテレフタレート,並びにこれらのコポリエステル及びブレンドからなる群より選ばれるポリマーを含み,前記光学スタックは9.1?9.2μmのピーク吸光度を有し,前記光学スタック及びポリマースキン層は異なる吸光度スペクトルを有する,
(b)前記フィルム体を切断配向に構成する工程,及び
(c)前記フィルム体が切断配向にある間に,前記フィルム体に1つ以上の切断を生成し,かつ縁部分を画定するためにパルスレーザー放射を前記フィルム体に方向付ける工程,ここで前記パルスレーザー放射が9.2?9.3μmの波長,少なくとも400インチ/秒のレーザー合焦スポット走査速度,及び224W以上のレーザー平均出力電力を有し,前記フィルム体はパルスレーザー放射が照射される面にプレマスク層を有しない,
を含む,方法。

【請求項2】
以下の項目
(a)前記レーザー放射は,9.25μmの波長を有する,
(b)前記レーザー放射は,50%以下のパルスデューティサイクルを有する,
(c)前記レーザー放射は,250μm以下の合焦スポットを有する,
(d)前記レーザー放射は,少なくとも20kHzのパルス繰返し数を有する,又は
(e)前記レーザー放射は,20マイクロ秒以下のパルス幅を有する,
の少なくとも1つを特徴とする,請求項1に記載の方法。」

なお,本願発明1及び本願発明2は,原査定時の請求項3及び請求項4に係る発明を減縮したものに相当する。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち,原査定時の請求項3及び請求項4に係る発明に対するものは,以下の理由1及び理由2である。
理由1:(新規性)本件出願の請求項3及び請求項4に係る発明は,本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特表2005-526997号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本件出願の請求項3及び請求項4に係る発明は,本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である上記引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4 当合議体の拒絶の理由
平成29年12月6日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由(以下「当合議体の拒絶の理由」という。)は,以下の理由3及び理由4である。
理由3:(サポート要件)本件出願の請求項1及び請求項2(原査定時の請求項3及び請求項4)に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,本件出願は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
理由4:(明確性)本件出願の請求項1及び請求項2(原査定時の請求項3及び請求項4)に係る発明は,明確であるということができないから,本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である前記引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
少なくとも1枚の多層光学フィルムを含む多層光学フィルム本体のロールを巻き出すことにより前記多層光学フィルム本体を提供する工程と,
第1および第2のライナを前記多層光学フィルム本体の両側の主面に被着する工程と,
前記第1のライナおよび前記多層光学フィルム本体の複数のピースを画定する切断線を作成するよう適合されたレーザー線を,前記第1のライナを通して前記多層光学フィルム本体に方向付ける工程と,
前記多層光学フィルム本体の複数のピースが前記第2のライナにより支持された状態で,前記第1のライナの複数のピースを前記多層光学フィルム本体の複数のピースから除去する工程と,
方向付けおよび除去工程後に前記多層光学フィルム本体および前記第2のライナをロールに巻き取る工程と
を含む多層光学フィルム本体を小分割する方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,多層光学フィルムを含む光学本体を複数のより小さいピースへと切断または小分割する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層光学フィルム,すなわち,異なる屈折率のマイクロ層の配列により少なくとも部分的に所望の透過および/または反射特性を与えるフィルムは知られている。
…(省略)…
【0003】
最近,多層光学フィルムは,交互のポリマー層の共押出しにより作成されている。…(省略)…かかるフィルムは大量生産プロセスにより製造でき,大きなシートやロール物品で作成することができる。
【0004】
しかしながら,多くの製品用途では,比較的小さい数多くのフィルムピースが必要とされる。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って,多層光学フィルムおよびかかるフィルムを含む物品を小分割する改善された方法が必要とされている。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は,多層光学フィルムを含む多層光学フィルム本体を1つ以上の分離したピースへと小分割または切断する方法を開示している。単純な場合,多層光学フィルム本体は,多層光学フィルムから実質的になっている。これ以外の場合,多層光学フィルム本体はまた,多層光学フィルムにラミネートされた1層以上の追加の層を含むこともできる。第1および第2のライナは,多層光学フィルム本体の両側主面に除去可能に被着されている。第1のライナおよびフィルム本体の複数のピースを画定する切断線を作成するよう適合されたレーザー線を,ライナの1枚(任意で指定した第1のライナ)を通してフィルム本体に方向付けることが好ましい。一般的に,レーザー線は,ワークピース,この場合は第1のライナ上に羽毛状の煙を生成したり,異物を蒸着させる。その後,多層光学フィルム本体のピースが第2のライナにより支持された状態で,第1のライナの複数のピースを(異物と共に)多層光学フィルムの複数のピースから除去する。第1のライナを接着テープと接触させて,テープを多層光学フィルム本体から引っ張ることによって除去することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
…(省略)…
【0012】
図1に,多層光学フィルム本体20を示す。
(当合議体注:図1は以下の図である。

)
フィルム本体は個々のマイクロ層22,24を含んでいる。マイクロ層は,異なる屈折率特性を有しており,近接するマイクロ層間の界面でいくらか光が反射する。…(省略)…フィルム外側表面のスキン層や,マイクロ層のパケットを分離するフィルム内に配置された保護境界層といった,これより厚い層も含めることができる。
…(省略)…
【0017】
適切な屈折率差と,適切な層内接着を与える2種類のポリマーの組み合わせとしては次のものが例示される。(1)優先的単軸伸張によるプロセスを用いて作成される偏光多層光学フィルムについては,PEN/coPEN,PET/coPET,PEN/sPS,PET/sPS,PEN/Eastar(商標)およびPET/Eastar(商標)であり,「PEN」とはポリエチレンナフタレートのことであり,「coPEN」とはナフタレンジカルボン酸ベースのコポリマーまたはブレンドのことであり,「PET」とはポリエチレンテレフタレートのことであり,「coPET」とはテレフタル酸ベースのコポリマーまたはブレンドのことであり,「sPS」とはシンジオタクチックポリスチレンおよびその誘導体のことであり,Eastar(商標)はイーストマンケミカル社(Eastman Chemical Co.)より市販されているポリエステルまたはコポリエステル(シクロヘキサンジメチレンジオール単位とテレフタレート単位を含むと考えられる)である。
…(省略)…
【0021】
図2に,多層光学フィルム本体30のシートの一部を平面図で示す。
(当合議体注:図2は以下の図である。

)
フィルム本体30は,特定の最終用途に望ましいよりも大きな横寸法で製造および販売または供給される。従って,フィルム本体30を小さなピースへと小分割することが,フィルムをその用途に適合させるのに必要である。所望のサイズおよび形状のピースは様々である。簡単にするために,図2に,2つの交差組の平行な切断線32および34により画定されたピースを示す。
…(省略)…
【0022】
出願人は,切断線で大幅に層剥離することなく,ポリマー多層光学フィルム本体を切断し小分割するのに有用なレーザー線を見出した。レーザー線は,光学フィルムの材料の少なくともいくつかが大幅に吸収される波長を有するように選択されて,吸収された電磁線が切断線に沿ってフィルム本体を蒸発させることができる。それ以外では,レーザー線は,波長がフィルムの意図する操作範囲内にある他の入射光と全く同じように透過または反射される。レーザー線はまた,好適な集束光学により成形されて,狭い切断線に沿って蒸発を行える好適な出力レベルまで制御される。レーザー線はまた,事前にプログラムされた指示に従ってワークピースを横断して即時にスキャンされて,スイッチオン・オフすることができ,任意の形状の切断線をこれに追随させることができる。これに関して有用であることが分かっている市販のシステムは,ミネソタ州セントポールのLasXインダストリーズ社(LasX Industries Inc.,St.Paul,MN)よりレーザーシャープ(LaserSharp)ブランドとして販売されているレーザー処理モジュールである。これらのモジュールは,ワークピースを切断するのに約10.6μm(約9.2?11.2μm)の波長で操作されるCO_(2)レーザー源を用いる。
【0023】
出願人はまた,レーザー線切断プロセス中に蒸発した材料が異物としてワークピース上に堆積する可能性があることも知見した。かかる異物は,フィルムのピースを意図する用途には受け入れらない範囲まで堆積する可能性がある。この問題を排除するために,レーザー切断操作の前に,第1のライナを多層光学フィルム本体に被着することができる。
…(省略)…
【0026】
図3はこれに関する例である。
(当合議体注:図3は以下の図である。

)
この図面の断面図において,ポリマー多層光学フィルム本体40は単純化のために単一層として図示されている。第1のライナ42および第2のライナ44は,フィルム本体40の両側主面と密着するように被着されている。ライナ44は,後述する理由のために,2つの層44a,44bを含むものとして示されている。レーザー線46a,46b,46cは,それぞれ切断線48a,48b,48cでライナ42を通してフィルム本体40に方向付けられる。好適なビーム形状光学および出力制御(図示せず)が提供されて,狭いギャップがライナ42とフィルム本体40の蒸発により図示されたようにして形成され,一方,ライナ44は実質的に無傷のままである。蒸発した材料の一部は第1のライナ42に異物50として堆積する。
…(省略)…
【実施例】
【0043】
ポリマー多層干渉フィルムを,約277℃でポリエチレンナフタレート(PEN)/ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の90/10コポリマーから作成された低溶融coPENの交互の層を共押出しすることにより製造して,低溶融coPENから構成された2枚の外側スキン層の間に挟まれた224枚の別の層を有する押出し物を形成した。…(省略)…光学構造の外側のスキン層は厚さ約11μm(0.43ミル)の低溶融coPENであった。
…(省略)…
【0046】
第2のライナは,高感圧接着剤を備えたポリエチレンの薄層が接着された高モジュラス紙であった。
…(省略)…
【0047】
第1のライナは厚さ約2ミル(50μm)の高モジュラス紙であり,片側をシリコーン処理した。
…(省略)…
【0048】
…(省略)…CO_(2)レーザーのスポットサイズは約8ミル(0.2mm)であり,これが幅が約13?14ミル(0.35mm)のキスカットとスルーカット線を生成した。以下の種類の切断線に以下の設定を用いた。
【0049】
【表1】

【0050】
この表において,「CW」とは,クロスウェブ方向に延在する切断線のことを指し,「DW」とはダウンウェブ方向に延在する切断線のことを指す。さらに,各特徴について,出力は100%に設定し,デューティサイクルは50%に設定し,ジャンプ速度は5000mm/秒に設定した。」

(2) 引用発明
引用文献1の【請求項1】に係る発明の「第1のライナ」,「多層光学フィルム本体」及び「レーザー線」に関して,引用文献1の発明の詳細な説明の記載からは,以下ア?エの事項が理解できる。
ア 引用文献1の【0007】の下線を付した箇所の記載からは,「レーザー線は,第1のライナ上に羽毛状の煙を生成したり,異物を蒸着させ」ることが理解できる。
イ 引用文献1の【0012】の下線を付した箇所の記載及び【図1】からは,「多層光学フィルム本体は,個々のマイクロ層を含んでおり,異なる屈折率特性を有するマイクロ層を複数含」んでいることが理解できる。
ウ 引用文献1の【0017】の下線を付した箇所の記載からは,「多層光学フィルム本体のマイクロ層の材料としては,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸ベースのコポリマー又はブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸ベースのコポリマー又はブレンド,あるいは,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体が例示され」ることが理解される。
エ 引用文献1の【0022】の下線をした箇所の記載からは,「ポリマー多層光学フィルム本体を切断し小分割するのに有用なレーザー線は,約10.6μm(約9.2?11.2μm)の波長で操作されるCO_(2)レーザーである」ことが理解される。

そうしてみると,引用文献1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 少なくとも1枚の多層光学フィルムを含む多層光学フィルム本体のロールを巻き出すことにより多層光学フィルム本体を提供する工程と,
第1および第2のライナを多層光学フィルム本体の両側の主面に被着する工程と,
第1のライナおよび多層光学フィルム本体の複数のピースを画定する切断線を作成するよう適合されたレーザー線を,第1のライナを通して多層光学フィルム本体に方向付ける工程と,
多層光学フィルム本体の複数のピースが第2のライナにより支持された状態で,第1のライナの複数のピースを多層光学フィルム本体の複数のピースから除去する工程と,
方向付けおよび除去工程後に多層光学フィルム本体および第2のライナをロールに巻き取る工程と
を含む多層光学フィルム本体を小分割する方法であって,
レーザー線は,第1のライナ上に羽毛状の煙を生成したり,異物を蒸着させ,
多層光学フィルム本体は,個々のマイクロ層を含んでおり,異なる屈折率特性を有するマイクロ層を複数含み,
多層光学フィルム本体のマイクロ層の材料としては,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸ベースのコポリマー又はブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸ベースのコポリマー又はブレンド,あるいは,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体が例示され,
ポリマー多層光学フィルム本体を切断し小分割するのに有用なレーザー線は,約10.6μm(約9.2?11.2μm)の波長で操作されるCO_(2)レーザーである,
多層光学フィルム本体を小分割する方法。」

(3) 対比
本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア フィルム体を提供する工程
引用発明は,「少なくとも1枚の多層光学フィルムを含む多層光学フィルム本体のロールを巻き出すことにより多層光学フィルム本体を提供する工程」(以下「工程A」という。)を具備する。
ここで,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,その文言のとおり,光学的なものであり,多層のものであるから,光学スタックということができる。また,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,フィルムであるから,「第1の主表面」及び「第2の主表面」と称することができる表面を有するといえる。
そうしてみると,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,本願発明1の「光学スタック」に相当する。また,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,本願発明1の「光学スタック」における,「第1の主表面及び第2の主表面を有する」という要件を満たす。

また,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,その文言のとおり,フィルム状の物であるから,フィルム体ということができる(引用発明の「多層光学フィルム本体」は,本願発明1の「フィルム体」に対応付けることもできる。)。
そうしてみると,引用発明の上記「工程A」と本願発明1の「フィルム体を提供する工程」は,「(a)(1)第1の主表面及び第2の主表面を有する光学スタック」「を備えるフィルム体を提供する工程」の点で共通する。

イ 光学スタック
引用発明の「多層光学フィルム本体は,個々のマイクロ層を含んでおり,異なる屈折率特性を有するマイクロ層を複数含み」,「多層光学フィルム本体のマイクロ層の材料としては,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸ベースのコポリマー又はブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸ベースのコポリマー又はブレンド,あるいは,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体が例示され」る。また,これら材料は,互いに類似したものであるから,層間粘着性を具備するものといえる。
そうしてみると,引用発明の「多層光学フィルム本体」は,本願発明1の「光学スタック」における,「層間粘着性及び異なる屈折率を有するミクロ層を複数含み,前記ミクロ層は,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸のコポリマーもしくはブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸のコポリマーもしくはブレンド,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体,ポリブチレンテレフタレート,並びにこれらのコポリエステル及びブレンドからなる群より選ばれるポリマーを含み」という要件を満たす。

ウ 切断配向に構成する工程
引用発明は,上記「工程A」の後,「第1のライナおよび多層光学フィルム本体の複数のピースを画定する切断線を作成するよう適合されたレーザー線を,第1のライナを通して多層光学フィルム本体に方向付ける工程」(以下「工程C」という。)を具備する。
また,本件出願の明細書の【0032】には,「フィルム体がロール形状で提供される実施形態では,本体を切断配向に設定することは,ロールから一部の巻きをほどくことと,これを効果的な位置及び配向で切断区域内に配置することとを含む。」と記載されている。
ここで,引用発明の上記「工程A」は,「多層光学フィルム本体のロールを巻き出すこと」を含む。また,上記「工程C」に際して,引用発明の「多層光学フィルム本体」が,切断線を作成するために適した位置及び向きで切断が行われる場所に,あらかじめ配置されることは,技術的にみて明らかである。
そうしてみると,引用発明は,本願発明1の「(b)前記フィルム体を切断配向に構成する工程」(以下「工程B」という。)に相当する構成を具備するといえる。

エ 方向付ける工程
前記ウで述べたとおり,引用発明において,「多層光学フィルム本体」が,切断線を作成するために適した位置及び向きで切断が行われる場所に,あらかじめ配置され,この状態で上記「工程C」が行われることは,明らかである。
そうしてみると,引用発明の上記「工程C」は,「多層光学フィルム本体」が切断させるべく配置されている間に,「多層光学フィルム本体」にレーザー線により切断線が生成され,その結果,切断箇所に「縁」と称しうる部分が形成されるように,「レーザー線を,第1のライナを通して多層光学フィルム本体に方向付ける工程」ということができる。
したがって,引用発明の上記「工程C」と本願発明1の「方向付ける工程」は,「(c)前記フィルム体が切断配向にある間に,前記フィルム体に1つ以上の切断を生成し,かつ縁部分を画定するために」「レーザー放射を前記フィルム体に方向付ける工程」の点で共通する。

オ 方法
以上ア?エの対比結果を勘案すると,引用発明の「多層光学フィルム本体を小分割する方法」は,本願発明1の「フィルム体を細分化する方法」に相当する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 フィルム体を細分化する方法であって,
(a)(1)第1の主表面及び第2の主表面を有する光学スタックを備えるフィルム体を提供する工程,ここで前記光学スタックは層間粘着性及び異なる屈折率を有するミクロ層を複数含み,前記ミクロ層は,ポリエチレンナフタレート,ナフタレンジカルボン酸のコポリマーもしくはブレンド,ポリエチレンテレフタレート,テレフタル酸のコポリマーもしくはブレンド,シンジオタクチックポリスチレン及びその誘導体,ポリブチレンテレフタレート,並びにこれらのコポリエステル及びブレンドからなる群より選ばれるポリマーを含み,
(b)前記フィルム体を切断配向に構成する工程,及び
(c)前記フィルム体が切断配向にある間に,前記フィルム体に1つ以上の切断を生成し,かつ縁部分を画定するためにレーザー放射を前記フィルム体に方向付ける工程,
を含む,方法。」

イ 相違点
本願発明1の発明が解決しようとする課題に関して,本件出願の明細書の【0007】には,「多層光学フィルム体及びかかるフィルムからなる製品の細分化のための改善された方法に対する必要性がある。好ましくは,この方法は,切断線若しくはフィルム縁部で,層剥離,又は色変化,又は黄色化を生成せず,フィルム上に実質的な切りくずの蓄積なしに,フィルムを清浄に切断し,かつ自動的かつ/又は連続的な加工プロセスに対応することとなる。」と記載されている。
そして,本願発明1の課題を解決するための手段に関して,本件出願の明細書の【0036】には,「典型的には,本発明で使用されるレーザー放射は,約9.2?約9.3μm,好ましくは約9.25μm,の波長を有することになる。発明者らは,驚くべきことに,上記のように,この波長,すなわちポリカーボネートは強く吸収するが,比較して主光学コアのピーク吸光度の9.1?9.2の範囲より高い波長を使用して,光学フィルム体の優れた切断が得られることを見出した。結果として,かかるフィルム体の効果的な切断が,切断端部において予想される光学的な性能の実質的な劣化を被ることなくレーザー放射で達成されることが,驚くべきことに見出された。」と記載されている。
そうしてみると,本願発明1は,ポリマースキン層の材料,光学スタックのミクロ層の材料,並びに,レーザーの種類及びレーザー放射の条件を,本願発明1が具備する特定の構成のものとすることにより,プレマスク層を有しないにも関わらず発明が解決しようとする課題を解決したものと理解されるから,これら構成は,ひとまとまりの構成として理解すべきものである。
そうしてみると,本願発明1と引用発明の相違点は,次のものである。
(相違点)
本願発明1は,[A]「フィルム体」が「(2)前記主表面のうちの少なくとも1つの上の,ポリカーボネート又はポリカーボネートブレンドからなるポリマースキン層」を備え,[B]「前記光学スタックは9.1?9.2μmのピーク吸光度を有し,前記光学スタック及びポリマースキン層は異なる吸光度スペクトルを有する」とともに,[C]「レーザー放射」が「パルスレーザー放射」であり「9.2?9.3μmの波長,少なくとも400インチ/秒のレーザー合焦スポット走査速度,及び224W以上のレーザー平均出力電力を有し」,そして,[D]「前記フィルム体はパルスレーザー放射が照射される面にプレマスク層を有しない」ものであるのに対して,引用発明は,上記[A]?[C]の構成を具備するとは特定されておらず,また,上記[D]の構成を具備しない(第1のライナを具備する)点。

(5) 判断
ア 引用発明は,「ポリマースキン層」を具備するとは特定されない発明であるが,引用文献1の【0012】には,「フィルム外側表面のスキン層…も含めることができる」と記載されている。
しかしながら,引用文献1には,このスキン層が,「ポリカーボネート又はポリカーボネートブレンドからなる」ことについて,記載がない。また,「前記光学スタック及びポリマースキン層は異なる吸光度スペクトルを有する」ことについても,記載がない。そればかりか,引用文献1の【0043】には,スキン層の材料と多層光学フィルム本体の材料が同一(coPEN)であり,本願発明1の要件を満たさない実施例が開示されている。

イ また,引用発明は,レーザーの種類及びレーザー放射の条件が特定されない発明であるが,引用文献1の【0048】から【0050】には,パルスレーザーが開示されている。
しかしながら,引用文献1には,レーザー照射の条件を「9.2?9.3μmの波長,少なくとも400インチ/秒のレーザー合焦スポット走査速度,及び224W以上のレーザー平均出力電力」とすることについて,記載がない。そればかりか,引用文献1の【0049】には,レーザー線のプロセス速度が600?1800mm/sec(約24?71インチ/秒)であり,本願発明1のレーザー放射の要件(400インチ/秒)を満たさない発明が記載されている。また,引用文献1の【0050】には,ジャンプ速度が5000mm/秒(約200インチ/秒)であることが記載されており,ジャンプ速度ですら,本願発明1の「400インチ/秒」の半分程度に過ぎない。

ウ さらに,引用発明は,「レーザー線を,第1のライナを通して多層光学フィルム本体に方向付ける」ものであり,また,「レーザー線は,第1のライナ上に羽毛状の煙を生成したり,異物を蒸着させ」るものである。
ここで,引用発明の発明が解決しようとする課題に関して,引用文献1の【0006】には,「多層光学フィルムおよびかかるフィルムを含む物品を小分割する改善された方法が必要とされている。この方法は,切断線またはフィルム端部で層剥離を生じず,フィルムに異物をあまり蓄積することなく清浄に切断し,自動および/または連続製造プロセスを行えるものであるのが好ましい。」と記載されている。そして,課題を解決するための手段に関して,引用文献1の【0007】には,「本出願は,多層光学フィルムを含む多層光学フィルム本体を1つ以上の分離したピースへと小分割または切断する方法を開示している。…(省略)…一般的に,レーザー線は,ワークピース,この場合は第1のライナ上に羽毛状の煙を生成したり,異物を蒸着させる。その後,多層光学フィルム本体のピースが第2のライナにより支持された状態で,第1のライナの複数のピースを(異物と共に)多層光学フィルムの複数のピースから除去する。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明は,発明が解決しようとする課題においては,本願発明1と共通する側面があるとしても,課題を解決するための手段においては,本願発明1とは異なる手段を採用したものと理解される。

エ 以上ア?ウからみて,本願発明1と引用発明は,上記相違点において相違し,そして,引用文献1には,上記相違点に係る本願発明1の構成が,記載も示唆もされていないといえる。また,上記ウで述べたとおり,本願発明1と引用発明は,課題解決のための着眼点において,そもそも異なるものであるから,引用発明に基づいて本願発明1を発明するためには,発想の転換が必要と考えられる。
以上勘案すると,本願発明1は,たとえ当業者といえども,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたことであるということはできない。

(6) 本願発明2について
本願発明2も,前記相違点に係る本願発明1の構成を具備するものであるから,本願発明1と同じ理由により,たとえ当業者といえども,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 原査定について
前記「1」(1)?(6)で述べたとおりであるから,本願発明1及び本願発明2は,いずれも,引用文献1に記載された発明と同一ではなく,また,当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。
したがって,原査定を維持することはできない。

3 当合議体の拒絶の理由について
本件補正により,当合議体の拒絶の理由は,解消した。

第3 まとめ
以上のとおり,原査定の拒絶の理由及び当合議体の拒絶の理由によっては,もはや本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-10 
出願番号 特願2013-547671(P2013-547671)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
発明の名称 レーザー切断方法及びこれにより製造された物品  
代理人 青木 篤  
代理人 高橋 正俊  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  

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