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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B
管理番号 1341905
審判番号 不服2016-10418  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-08 
確定日 2018-07-04 
事件の表示 特願2015-512917「機械的ヒューズを備える半導体パッケージ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月3日国際公開、WO2014/004009、平成27年8月13日国内公表、特表2015-523220〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年6月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月29日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成27年10月30日付け :拒絶理由の通知
平成28年2月9日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年3月4日付け :拒絶査定
平成28年7月8日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書
の提出
平成29年8月3日付け :拒絶理由の通知
平成29年11月2日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし28に係る発明は、平成29年11月2日に提出された手続補正書により補正され、その請求項1及び2に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
半導体パッケージと、
該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ懸架部分を有する微小電気機械システム(MEMS)デバイスと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記MEMSデバイスの前記懸架部分に結合させられる機械的ヒューズとを含み、
前記MEMSデバイスの前記懸架部分は、有効バネ定数及び/又は共振周波数を有し、前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、対応する事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に選択的に変更可能である、
半導体構造。」(以下「本願発明1」という。)

「【請求項2】
前記半導体パッケージは、バンプレスビルドアップレイヤー(BBUL)基板を含む、請求項1に記載の半導体構造。」(以下「本願発明2」という。)

第3 当審で通知した拒絶理由の概要

当審が平成29年8月3日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

(理由1)本願発明1及び本願発明2は、「プログラムされる」という語句がどのような意味で用いられているのか、という点で明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(理由2)本願発明1は、その出願前に外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

(理由3)本願発明2は、その出願前に外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載される公知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許第6501107号明細書
引用文献2:米国特許出願公開第2011/0316140号明細書

第4 当審の判断

1. 理由1について

(1)当審の判断
本願発明1の「前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、対応する事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に選択的に変更可能である」との発明特定事項は、「前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって変更可能であるようプログラムされる」との発明特定事項を補正したものであり、平成29年11月2日提出の意見書によると、係る補正は、出願当初明細書の段落【0012】?【0017】及び図3A?3Cの記載に基づくとされていると認められる。
しかしながら、補正後の「対応する」が、「事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数」に対して「対応する」ものが存在することを前提とするものであることは、日本語の解釈として明らかであるところ、何に「対応する」のかは、本願発明1のその他の発明特定事項との関係を検討しても、また、補正の根拠とされたいずれの記載を参照しても、明確でない。
よって、本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2は平成29年11月2日に提出された手続補正書による補正によっても、依然として明確でない。

(2)請求人の主張について
請求人は、平成29年11月2日付け意見書の「3.補正の概要及び根拠」において、「この補正は、例えば、明細書段落0012-0017の記載及び図3A-3Cの例示によってサポートされています。」と主張し、また、同意見書の「4.理由1(明確性)」において、「上述の通り、請求項1、10、20及び28中の「前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって変更可能であるようプログラムされる」という記載を「前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、対応する事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に選択的に変更可能である」(下線は補正箇所)とより一層明確にしました。」旨も主張する。
しかしながら、上記アで指摘したとおりの理由で明確でない。
よって、上記主張は採用できない。

2. 理由2について

(1)本願発明1について
上記1.に記載したとおり、本願発明1は平成29年11月2日に提出された手続補正書による補正によっても、依然として明確でない。
ここで、係る補正の根拠とされた、出願当初明細書の段落【0012】?【0017】及び図3A?3Cの記載から具体的に読み取れる事項を検討すると、特に、段落【0013】における「実装されるMEMSデバイス加工後のためにプロセス変動からの剛性及び共振周波数の変化を補償し得る。ある実施態様において、そのような補償は、MEMSデバイスの関連するヒューズをプログラムすることによって、例えば、工場又は消費者現場での設計によって達成される。1つのそのような実施態様において、プログラミングは、図1A-1Cと関連して上述したように、機械的ヒューズを選択的に破壊することによって行われる。」との記載から、プロセス変動による剛性及び共振周波数の変化を補償するために、機械的フューズを選択的に破壊することが読み取れ、また、段落【0013】における図3A?3Cを説明する「プロット302及び304の各々は、銅の厚さのプロセス変動(例えば、15μm+/-5μm)の故に、最大値(302A及び304A)、公称値(302B及び304B)、最小値(302C及び304C)のための結果を示しており、そのためのプロセスを以下に詳細に記載する。」との記載からは、プロセス変動により具体的には銅の厚さにばらつきが生じ、それ故、公称値に対するばらつきも生じることが読み取れる。
そして、これらの記載や、公称値が、設計段階等で設定されるものであること、すなわち事前に設定されるものであること、及び、機械的ヒューズの選択的な破壊により剛性及び共振周波数も選択的となることが、技術的に明らかであることを踏まえると、段落【0012】?【0017】及び図3A?3Cには、剛性及び共振周波数が、機械的ヒューズの選択的な破壊によって、事前設定された剛性及び共振周波数に対応するように、選択的に変更可能であることが記載されていると理解できる。
そこで、本願発明1が、特許法第29条第1項第3号の規定を満たすか否かを判断するにあたり、本願発明1を、以下のように読み替えて検討する。

「半導体パッケージと、
該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ懸架部分を有する微小電気機械システム(MEMS)デバイスと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記MEMSデバイスの前記懸架部分に結合させられる機械的ヒューズとを含み、
前記MEMSデバイスの前記懸架部分は、有効バネ定数及び/又は共振周波数を有し、前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に対応するように、選択的に変更可能である、
半導体構造。」(下線は当審で付与した。)

(2)引用文献の記載事項及び引用発明

ア 引用文献1の摘記事項及び図示事項
当審の拒絶の理由で引用された、引用文献1には、図面と共に次の記載がある。

(ア)「BACKGROUND OF THE INVENTION
1. FIELD OF THE INVENTION
This invention pertains to fuse arrays, and more particularly fuse arrays that can be fabricated on integrated circuits and electrically modified to vary their electrical and mechanical properties.」(第1欄第7行?第13行)
(当審訳: 発明の背景
1.発明の属する分野
本発明は、フューズアレイ、より詳細には、集積回路上に製造され、さらに、電気的及び機械的特性を変化させるために電気的に改良され得るフューズアレイに関する。)

(イ)「Early mechanical filters were primarily large isolated resonators. More recently electromechanical filters have been incorporated into electrical circuits as MEMS. Because these mechanical structures are circuit mounted, they are designed and installed to operate at a specific center frequency and bandwidth. Customizing the resonate filter after incorporation into a circuit has heretofore been substantially impractical.」(第2欄第10行?第17行)
(当審訳:初期の機械的フィルターは、主に大きな分離された共振器である。最近になって、電気機械的フィルターがMEMSとして電気回路に組み込まれるようになっている。そのため、これらの機械構造は組み込まれた回路であり、特定の中心周波数及びバンド幅で動作するように設計及び設置されている。回路に組み込まれた後に共振フィルターをカスタマイズすることは、これまで実質的に実際的ではなかった。)

(ウ)「In addition, even "identical" micromechanical resonators, fabricated on the same die, will have variations in their respective resonant frequencies.Thus, such micromechanical resonators must be tuned prior to use. 」(第2欄第22行?第25行)
(当審訳:加えて、同一のダイ上に製造された、同一の微小機械共振器であっても、それぞれの共振周波数は、ばらつくだろう。それ故、このような微細機械共振器は、使用前に同調しなければならない。)

(エ)「In FIGS. 6-8 , the present invention is shown applied to different embodiments of resonators 100 . In each exemplary embodiment of FIGS. 6-8 , the resonators are two mass 102 a and 102 b (collectively 102 ) resonators resting on substrates 104 , or conductive regions 105 , and driven by electrostatic comb drives 106 a and 106 b (collectively 106 ). 」(第10欄第59行?第64行)
(当審訳:図6?8では、本発明が、共振器100の種々の実施例に適用して示されている。図6?8のそれぞれの例示的な実施例において、共振器は、基板104又は導電領域105に配置された2つのマス102a及び102b(102と総称する)からなる共振器であり、電気櫛部駆動装置106a及び106b(106と総称する)によって駆動される。)

(オ)「Alternatively, if the first and second combs are moved toward each other by external forces, a change in the capacitance across the first and second combs may be measured to sense the motion of a mass coupled to the second comb.」(第11欄第29行?第33行)
(当審訳:あるいは、第1および第2の櫛部が外力によって相対的に動かされれば、第1及び第2の櫛部の間の静電容量の変化は、第2の櫛歯に結合された質量の運動を検出するために測定することができる。)

(カ)「The bias members 116 a , 116 b , 116 c , and 116 d (collectively 116 ) are folded spring bias members that are coupled to respective masses 102 and anchored to the top of the conducting regions 105 at respective anchors 118 .」(第11欄第44行?第47行)
(当審訳:付勢部材116a、116b、116c、116d(116と総称する)は折り畳まれたバネであって、各マス102に結合し、各アンカー118で導電領域105の上面に固定される。)

(キ)「A third embodiment is shown in FIG. 8 . This embodiment includes the comb drives 106 a and 106 b and the masses 102 a and 102 b as described above in connection with other embodiments. In this embodiment, however, the coupler 122 , located between the masses 102 does not include fuse portions. Rather, the coupler 122 is shown fixedly coupled to the masses in an exemplary configuration.
Bias members 116 a - 116 d are coupled between conductive regions 105 g and 105 h and a frame 142 . The frame 142 is also fixedly coupled to the second combs 112 of respective comb drives 106 a and 106 b and the respective masses 102 a and 102 b .」(第13欄第33行?第44行)
(当審訳:第3実施例が図8に示されている。この実施例は他の実施例に関して上述したように、櫛部の駆動部106a、106bと、質量102a、102bとを含む。しかし、この実施例では、マス102との間に配置されるカプラ122は、ヒューズ部を含まない。カプラ122は、例示の構成において、マスに固定的に連結されて示されている。
付勢部材116a?116dは、導電性領域105g、105hとフレーム142との間に連結される。フレーム142はまた、それぞれの櫛部の駆動部106a,106bの第2の櫛部112と各マス102a,102bとに、固定的に連結されている。)

(ク)「Fuse beams 146 may be blown by inducing a current of sufficient amperage so that sufficient heat is generated at the fuse portion to cause the fuse portion to fuse. In this embodiment, the fuse beams may be addressed and blown substantially as in the fuse array embodiments of FIGS. 4 and 5 .
As stated, in this embodiment the fuse beams act as bias members and constrain motion of the masses 102 . By blowing fuse beams, the fuse array provides less resistance to motion of the masses 102 . Accordingly, the fuse beam array can be tuned to provide a desired response for the masses 102 and hence, the resonator 100 .」(第14欄第16行?第27行)
(当審訳:ヒューズビーム146は、フューズ部を溶断させるのに十分な熱をフューズ部で生成する電流量が誘導されることによって、切り離され得る。本実施例では、ヒューズビームは図4及び図5のヒューズアレイのように、実質的に選択的に溶断されてもよい。
上述したように、この実施形態において、ヒューズビームが付勢部材として機能して、マス102の運動を制約する。ヒューズを切り離すことにより、ヒューズアレイによる、マス102の動きに対する抵抗はより小さくなる。それによって、ヒューズビームアレイは、マス102ひいては共振器100が所望の応答をするように調整する。)

(ケ)「The resonators may be fabricated as a single layer, or multiple layers, in a MEMS fabrication process.」(第14欄第37行?第38行)
(当審訳:共振器は、MEMS製造プロセスで、単層または複数層として製造することができる。)

(コ)図8の図示によると、「ヒューズビーム146」が「マス 102」に結合している点が見て取れる。

イ 引用文献1に記載された発明

(ア)上記ア(ア)には、引用文献1に開示の技術が「集積回路」に関するものであることが記載されており、「集積回路」に関する技術分野において、「ダイ」が「半導体ダイ」を意味することは技術常識である。

(イ)上記ア(ウ)及びア(ク)からみて、「共振器100」は「ダイ」上に製造されており、「集積回路」に関する技術分野において、「ダイ」は、半導体構造における「半導体パッケージ」内に収容して用いられることが技術常識であるから、引用文献1の「ダイ」、及び、「ダイ」上に製造された「共振器100」が、「半導体パッケージ」内に収容されていることは明らかである。

(ウ)上記ア(エ)ないしア(キ)及びア(ケ)からみて、「マス102」と「櫛部112」と「付勢部材116」と「カプラー122」と「フレーム142」が、MEMS製造プロセスで製造される「共振器100」の共振する部品であるのは明らかである。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、引用文献1において、半導体構造が、半導体パッケージと、該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、前記半導体パッケージ内に収容され且つマス102と櫛部112と付勢部材116とカプラー122とフレーム142とからなる部品を有するMEMS製造プロセスで製造される共振器100とを有しているのは明らかである。

(オ)上記(イ)及び(コ)からみて、引用文献1において、半導体構造が、前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記部品に結合させられるヒューズビーム146を有していることは明らかである。

(カ)上記ア(ク)の「切り離」しは、「ヒューズビーム146」への通電によってなされるものであるから、「切り離」しのために「共振器100」を分解する必要がない点、及び、上記ア(イ)には、「発明の背景」として、従来は実装後に「MEMS」における機械構造をカスタマイズすることが困難であったことが記載されている点を踏まえると、「切り離」しは、「共振器100」の「実装後に」なされていると認められる。

(キ)上記ア(ク)には、「ヒューズビームは・・・選択的に溶断されてもよい。」及び「ヒューズを切り離すことにより・・・共振器100が所望の応答をするように調整する」と記載されており、「共振器100」の応答を調整することは、「共振周波数」を変更することに他ならず、また、「ヒューズビーム146」の選択的な「切り離」しは、「共振器100」の共振する部品、すなわち、「マス102」と「櫛部112」と「付勢部材116」と「カプラー122」と「フレーム142」とからなる部品への拘束力を選択的に変更するものだから、「共振周波数」を選択的に変更することになるのみならず、結果的に、「懸架部分」の「有効バネ定数」も選択的に変更することになるのは明らかである。

(ク)上記ア(ウ)には、「発明の背景」として、同一の微細機械共振器であっても共振周波数のばらつきが存在し、そのばらつき故に、使用前に同調する必要があったことが記載されていることを踏まえると、上記(キ)からみて、当業者であれば、上記ア(ク)の「所望の応答をするように調整する」ことはすなわち、事前に設定された有効バネ定数及び共振周波数に対応するように変更することであると解するのが自然である。

(ケ)上記(カ)ないし(ク)からみて、引用文献1において、前記共振器100の前記部品が、有効バネ定数及び共振周波数を有し、前記部品の有効バネ定数及び共振周波数が、前記共振器100の実装後に、通電による前記部品からの前記ヒューズビーム146の選択的な切離しによって、事前に設定された有効バネ定数及び共振周波数に対応するように、選択的に変更されていることは明らかである。

(コ)そして、上記(ア)ないし(ケ)を総合すると、引用文献1には次の発明が記載されている。

「半導体パッケージと、
該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つマス102と櫛部112と付勢部材116とカプラー122とフレーム142とからなる部品を有するMEMS製造プロセスで製造される共振器100と、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記部品に結合させられるヒューズビーム146とを含み、
前記共振器100の前記部品は、有効バネ定数及び共振周波数を有し、
前記部品の有効バネ定数及び共振周波数は、前記共振器100の実装後に、通電による前記部品からの前記ヒューズビーム146の選択的な切離しによって、事前に設定された有効バネ定数及び共振周波数に対応するように、選択的に変更される、
半導体構造。」(以下、「引用発明」という。)

(3)本願発明1と引用発明との対比

ア 引用発明の「マス102と櫛部112と付勢部材116とカプラー122とフレーム142とからなる部品」は、本願発明1の「懸架部分」に相当し、以下同様に、「MEMS製造プロセスで製造される共振器100」は「微小電気機械システム(MEMS)デバイス」に、「ヒューズビーム146」は「機械的ヒューズ」に、それぞれ相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「半導体パッケージと、
該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ懸架部分を有する微小電気機械システム(MEMS)デバイスと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記MEMSデバイスの前記懸架部分に結合させられる機械的ヒューズとを含み、
前記MEMSデバイスの前記懸架部分は、有効バネ定数及び共振周波数を有し、前記懸架部分の前記有効バネ定数及び前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、事前設定された有効バネ定数及び共振周波数に対応するように選択的に変更可能である、
半導体構造。」の点で一致し、両者に差異は認められない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書の第2ページ第20行?第33行で「(2)専ら議論のために、審判官殿ご認定の通り、引用文献1の「die」が、請求項1の「半導体ダイ」に相当し、引用文献1の「resonator 100」が、請求項1の「MEMSデバイス」に相当し、引用文献1の「masses 102」、「combs 112」、「bias members 116」、「coupler 122」及び「frame 142」から成る部品が、請求項1の「懸架部分」に相当し、引用文献1の「fuse beams 146」が、請求項1の「機械的ヒューズ」に相当し、引用文献1の「blow」が、請求項1の「切離し」に相当し、引用文献1の「die」、「resonator 100」、「masses 102」、「combs 112」、「bias members 116」、「coupler 122」及び「frame 142」が、請求項1の「半導体構造」に相当すると仮定しても、引用文献1は「前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、対応する事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に選択的に変更可能である」(下線は強調)という請求項1に係る発明の特徴的な構成を何ら開示も示唆もしていません。」と主張している。
まず、「相当すると仮定しても」という文言の持つ意味は、一般に、「相当」しないことを前提として、それでも敢えて「仮定」する、ということであると解されるから、当審の「引用文献1の「die」が、請求項1の「半導体ダイ」に相当し、引用文献1の「resonator 100」が、請求項1の「MEMSデバイス」に相当し、引用文献1の「masses 102」、「combs 112」、「bias members 116」、「coupler 122」及び「frame 142」から成る部品が、請求項1の「懸架部分」に相当し、引用文献1の「fuse beams 146」が、請求項1の「機械的ヒューズ」に相当し、引用文献1の「blow」が、請求項1の「切離し」に相当し、引用文献1の「die」、「resonator 100」、「masses 102」、「combs 112」、「bias members 116」、「coupler 122」及び「frame 142」が、請求項1の「半導体構造」に相当する」との認定について、審判請求人は承服していないと解される。
しかしながら、どのような理由で「相当」しないと考えるのかは挙げられておらず、また、上記主張中の「(2)専ら議論のために、審判官殿ご認定の通り、・・・に相当すると仮定しても、」は、承服していないことを漠然と示すに留まり、具体的に、当審の上記認定についての反論を形成するものではない。
また、上記主張中の「引用文献1は「前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、対応する事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に選択的に変更可能である」(下線は強調)という請求項1に係る発明の特徴的な構成を何ら開示も示唆もしていません。」という点については、「対応する」に関する点で、上記第4の1.に示したように不明確であるところ、上記第4の2.(1)に記載したような読み替えを行えば、上記第4の2.(2)イ(オ)に記載したように、当業者であれば、引用文献1に記載されているに等しい事項であると解するのが自然である。
よって、上記主張は採用できない。

(5)結言
したがって、本願発明1は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.理由3について

(1)本願発明2について
上記2.(1)に記載したのと同様に理由により、本願発明1を引用する本願発明2が、特許法第29条第2項の規定を満たすか否か判断するにあたり、本願発明1を、上記2.(1)に示したとおりに読み替えて検討する。

(2)引用文献の記載事項及び引用発明

ア 引用文献1に記載された発明
上記2.(2)イ(カ)を参照。

イ 引用文献2の摘記事項
当審の拒絶の理由で引用された、引用文献2には、図面と共に次の記載がある。

(ア)「FIELD OF THE INVENTION
[0001] The disclosed embodiments of the invention relate generally to microelectronic packages and relate more particularly to bumpless build-up layer packages.」
(当審訳:発明の属する分野
本発明の開示された実施形態は、一般に、微小電気パッケージに関するものであり、特に、バンプレスビルドアップレイヤーパッケージに関するものである。)

(イ)「[0015] Referring now to the drawings, FIG. 1A is a plan view and FIG. 1B is a cross-sectional view of a microelectronic package 100 according to an embodiment of the invention. FIG. 1B is taken along a line B-B in FIG. 1A . As illustrated in FIGS. 1A and 1B , microelectronic package 100 comprises a substrate 110 and a die 120 that is embedded within substrate 110 . Die 120 has a front side 121 (i.e., the side on which the transistors (not shown) are located) and an opposing back side 122 . Die 120 further has therein a through-silicon-via (TSV) 123 that extends all the way to and is exposed at back side 122 . Substrate 110 comprises a plurality of build-up layers 130 (one of which is a dielectric layer 139 ) adjacent to and built up over (and around) front side 121 of die 120 .」
(当審訳:図面を参照すると、図1Aは本発明の一実施形態に関する微小電気パッケージ100の平面図であり、図1Bは断面図である。図1Bは、図1AのB-B線に沿っている。図1A及び1Bに記載されているように、微小電気パッケージ100は、基板110と、基板110内に埋設されているダイ120とを備えている。ダイ120はフロント側121(すなわち、トランジスタ(図示せず)が配置される側)と反対の背面側122とを有している。ダイ120はさらに背面側122まで延び露出するSi貫通電極(TSV)123を備える。基板110は、ダイ120のフロント側121上(及びその周辺)に隣接し構築された多数のビルドアップレイヤー130(そのうちの1つが誘電体層139である)を構成する。)

(ウ)引用文献2記載の技術
上記摘記事項から、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「微小電気パッケージ100における基板を、バンプレスビルドアップレイヤー130から構成する技術。」

(3)本願発明2と引用発明との対比
本願発明2と引用発明とは、
「半導体パッケージと、
該半導体パッケージ内に収容される半導体ダイと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ懸架部分を有する微小電気機械システム(MEMS)デバイスと、
前記半導体パッケージ内に収容され且つ前記MEMSデバイスの前記懸架部分に結合させられる機械的ヒューズとを含み、
前記MEMSデバイスの前記懸架部分は、有効バネ定数及び/又は共振周波数を有し、前記懸架部分の前記有効バネ定数及び/又は前記共振周波数は、前記MEMSデバイスの実装後に、前記懸架部分からの前記機械的ヒューズの選択的な切離しによって、事前設定された有効バネ定数及び/又は共振周波数に対応するように、選択的に変更可能である」点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明2では、「半導体パッケージは、バンプレスビルドアップレイヤー(BBUL)基板を含む」のに対し、引用発明では、半導体パッケージが、バンプレスビルドアップレイヤー基板を含むか否か、特定されていない点。

(4)相違点の検討

ア 引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項は、共に半導体パッケージに関するものであるから、引用発明に引用文献2に記載の公知の技術を適用し、引用発明の「半導体パッケージ」を、「バンプレスビルドアップレイヤー」からなる基板とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ したがって、本願発明2は、引用発明及び引用文献2に記載の従来公知の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

(5)審判請求人の主張について
上記した2.(4)を参照。

(6)結言
したがって、本願発明2は、引用発明及び従来公知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができず、さらに、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号にも該当するため特許を受けることができず、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定によっても特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-30 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-20 
出願番号 特願2015-512917(P2015-512917)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B81B)
P 1 8・ 113- WZ (B81B)
P 1 8・ 121- WZ (B81B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一福島 和幸  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 柏原 郁昭
平岩 正一
発明の名称 機械的ヒューズを備える半導体パッケージ  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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