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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
管理番号 1341937
異議申立番号 異議2017-700686  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2018-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6056862号発明「圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6056862号の明細書、特許請求の範囲を訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6056862号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第6056862号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2014年 4月 8日(優先権主張2013年 4月19日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年12月16日に特許権の設定登録がされ、平成29年 1月11日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、請求項1?4に係る特許に対し、平成29年 7月11日に特許異議申立人松本紀子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において、同年 9月28日付けで取消理由を通知し、同年11月14日付けで、特許権者より、意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年12月28日差出の意見書が提出され、当審において、平成30年 1月18日付けで取消理由を通知し、同年 3月23日付けで、特許権者より、意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年11月14日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。」とあるのを、
「前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の【0012】に、
「1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。」とあるのを、
「前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0045】に記載された「外形」を、「外径」に訂正する。

2 訂正の可否について
2-1 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。」との発明特定事項について、当該鉄損の測定条件を明確化するものである。
したがって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)新規事項の追加の有無
明細書の【0045】には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。
「【0045】
ついで、これらの鉄粉に対して、シリコーン樹脂による絶縁被覆を施した。シリコーン樹脂をトルエンに溶解させて、樹脂分が0.9質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、さらに、粉末に対する樹脂添加率が0.15質量%となるように、粉末と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させた。乾燥後に、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行うことにより圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉(被覆鉄基軟磁性粉末)を得た。これらの粉末を、成形圧:15t/cm^(2)(1471MPa)で、金型潤滑を用いて成形し、外形:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製した。
かようにして作製した試験片に、窒素中で650℃、45minの熱処理を行い、試料とした後、巻き線を行い(1次巻:100ターン、2次巻:40ターン)、直流磁化装置によるヒステリシス損測定(1.0T、メトロン技研製 直流磁化測定装置)と、鉄損測定装置による鉄損測定(1.0T、400Hz及び1.0T、1kHz、メトロン技研製 高周波鉄損測定装置)を行なった。
表4に、試料の磁気測定を行なって得た測定結果を示す。
なお、本実施例では、1.0T、400Hzでの鉄損の合格基準を、特許文献1および特許文献2の実施例に示された合格基準(50W/kg以下)よりも、さらに低い30W/kg以下とし、加えて、1.0T、1kHzでの鉄損合格基準を、特許文献3の実施例に示された鉄損の最小値(117.6W/kg)よりもさらに低い、90W/kg以下とした。」
ここで、「外形:38mm」との記載は、下記2-3で検討するように、「外径:38mm」の明らかな誤記である。
また、【0045】では、「成形圧」、「成形し」と記載されているところ、訂正後の請求項1では「成型圧」、「成型し」と訂正されているが、【0045】では、金型を用いて「成型する」との意味で用いられており、「形」は「型」の誤記である。
したがって、訂正事項1によって訂正した事項は全て上記【0045】の下線部に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

2-2 訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は、上記訂正事項1において、請求項1における鉄損の測定条件を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものである。
したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)新規事項の追加の有無
訂正事項2は、上記2-1(3)での検討と同様に、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

2-3 訂正事項3について
(1)訂正の目的
願書に最初に添付した明細書の【0045】における「外形:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片」との記載から、上記「外形:38mm」は、「外径:38mm」の誤記であることは、明らかである。
したがって、訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の規定に適合するものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)新規事項の追加の有無
上記(1)で検討したように、訂正事項3は、明らかな誤記の訂正であるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

2-4 一群の請求項について
訂正に係る本件訂正前の請求項2?4は、請求項1を引用するものであって、訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2-5 明細書又は図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項2は、訂正事項1に伴い、明細書の記載を整合させるためのものであるから、一群の請求項1?4に係る訂正である。
訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものであり、一群の請求項1?4に係る訂正である。
したがって、訂正事項2及び訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

2-6 独立して特許を受けることができるものであること
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、訂正事項1?3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-7 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号、第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する特許法第126条第4項、第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕及び明細書について、訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アトマイズ法によって得られる鉄を主成分とする粉末であって、該粉末中の酸素量が0.05質量%以上、0.20質量%以下で、かつ該粉末の断面において、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下であり、
前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。
【請求項2】
請求項1に記載の圧粉磁芯用鉄粉に、さらに絶縁被覆を施した圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【請求項3】
前記絶縁被覆が、前記圧粉磁芯用鉄粉に対する添加率で、少なくとも0.1質量%以上である請求項2に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【請求項4】
前記絶縁被覆がシリコーン樹脂である請求項2または3に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。」

2 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第第1号証?甲第6号証を提出し、以下の理由により、訂正前の請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(特許異議申立書第4頁第11行?第20行)
訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2(特許異議申立書第4行?第11行)
訂正前の請求項1?4に係る発明は、明確でないから、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

(3)申立理由3
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

(4)申立理由4
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2012-140679号公報
甲第2号証:国際公開第2008/093430号
甲第3号証:特開平8-269501号公報
甲第4号証:特開2006-233295号公報
甲第5号証:特開2002-329626号公報
甲第6号証:西田卓彦et al.「電磁鉄心用噴霧鉄圧粉体の磁気特性」日本金属学会誌(1978)第42巻第6号p.593-599
以下、それぞれ「甲1」?「甲6」という。

3 平成29年 9月28日付け取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年 9月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(上記申立理由2を採用したもの)
訂正前の請求項1?4に係る発明は、下記の理由で、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。



訂正前の請求項1の「1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯」は、磁芯の構成であって、鉄粉の構成ではないところ、磁芯の鉄損は、磁芯の製造条件によって変動するものであり、所定の鉄粉は、磁芯の製造条件によって、本件発明1の範囲内となったり、範囲外となるものであるから、訂正前の請求項1の範囲は、明確でない。

そこで、上記磁芯の製造条件について、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の記載をみてみる。
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。
「【0045】
ついで、これらの鉄粉に対して、シリコーン樹脂による絶縁被覆を施した。シリコーン樹脂をトルエンに溶解させて、樹脂分が0.9質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、さらに、粉末に対する樹脂添加率が0.15質量%となるように、粉末と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させた。乾燥後に、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行うことにより圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉(被覆鉄基軟磁性粉末)を得た。これらの粉末を、成形圧:15t/cm^(2)(1471MPa)で、金型潤滑を用いて成形し、外形:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製した。
かようにして作製した試験片に、窒素中で650℃、45minの熱処理を行い、試料とした後、巻き線を行い(1次巻:100ターン、2次巻:40ターン)、直流磁化装置によるヒステリシス損測定(1.0T、メトロン技研製 直流磁化測定装置)と、鉄損測定装置による鉄損測定(1.0T、400Hz及び1.0T、1kHz、メトロン技研製 高周波鉄損測定装置)を行なった。
表4に、試料の磁気測定を行なって得た測定結果を示す。
なお、本実施例では、1.0T、400Hzでの鉄損の合格基準を、特許文献1および特許文献2の実施例に示された合格基準(50W/kg以下)よりも、さらに低い30W/kg以下とし、加えて、1.0T、1kHzでの鉄損合格基準を、特許文献3の実施例に示された鉄損の最小値(117.6W/kg)よりもさらに低い、90W/kg以下とした。」

上記摘記のように、発明の詳細な説明には、鉄粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120分の樹脂焼き付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で、成型し、外形:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を、窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻100ターン、2次巻40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯が記載されている。
ここで、例えば、絶縁被覆の種類、添加量、圧粉の成型圧力、圧粉磁芯の形状、大きさ、成型後の熱処理条件が異なると、磁芯の歪みが異なるし、巻き線の巻き数によっても、鉄損は変動するから、圧粉磁芯の製造条件が異なると、鉄損は変動するものである。

よって、上記圧粉磁芯の製造条件について、何ら特定されていない訂正前の請求項1に係る発明の範囲は、明確でない。
また、訂正前の請求項1を引用する、訂正前の請求項2?4に係る発明も、同様に明確でない。

4 平成29年12月28日差出の申立人の意見の概要
申立人は、証拠として甲第第11号証?甲第14号証を提出し、以下の理由により、訂正後の請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由5(平成29年12月28日差出の申立人の意見書第2頁第5行?最終行)
訂正後の請求項1?4に係る発明は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。

(2)申立理由6(平成29年12月28日差出の意見書第3頁第1行?第25行)
訂正後の請求項1に係る発明は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていないし、訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[証拠方法]
甲第11号証:信越化学工業株式会社の「シリコーンレジン」のカタログ、2006年8月
甲第12号証:東レ・ダウコーニング株式会社の「塗料・コーティング用シリコーン」のカタログ、2006年5月
甲第13号証:特開2002-83709号公報
甲第14号証:特開2013-187480号公報

5 平成30年 1月18日付け取消理由の概要
訂正後の請求項1?4に係る特許に対して平成30年 1月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(1)取消理由2(上記申立理由5を採用したもの)
訂正後の請求項1?4に係る発明は、明確でない。
その理由は、平成29年12月28日差出の特許異議申立人による意見書の第2頁第5行?最下行のとおりである。

なお、本件特許明細書の実施例において使用されたシリコーンについて、具体的な分子式、商品名や製品番号について、意見書で釈明されたい。その際に、再現実験データ等があることが、望ましい。

そして、平成29年12月28日差出の特許異議申立人による意見書の上記箇所には、以下の旨の記載がある。
本件発明1の「前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成形圧:15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する」との特定事項のうち、当該作製方法によって作成された圧粉体の鉄損は、用いられるシリコーン樹脂の種類によって異なる場合があり、このシリコーン樹脂の種類によって、鉄損が、本件発明1の範囲内となったり範囲外となるものであり、本件発明1は、明確でない。
また、請求項1を引用する本件発明2?4も、同様に明確でない。

6 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(取消理由1、2)について
ア 特許権者は、平成30年 3月23日提出の意見書において、以下の主張をしている。
「『シリコーン樹脂』としては、東レ・ダウコーニング株式会社製の『SR2400』を使用しております。
前記『SR2400』は、市販のシリコーン樹脂であり、例えば、乙第1号証?乙3号証にも記載されているように、圧粉磁芯用鉄粉の技術分野において絶縁被膜形成のために一般的に用いられている樹脂です。」

イ そして、特許権者は、証拠方法として、以下の乙第1号証?乙第3号証を提出した。
乙第1号証:特開2003-142310号公報
乙第2号証:特開2003-303711号公報
乙第3号証:国際公開2011/126120号
以下、それぞれ「乙1」?「乙3」という。

ウ 乙1?乙3に記載されるように、上記アの特許権者の主張のとおり、「SR2400」が市販のシリコーン樹脂であり、圧粉磁芯用鉄粉の技術分野において、絶縁被膜形成に一般的に用いられることは、当業者の技術常識である。

エ また、特許権者は、平成30年 3月23日付けの意見書(第3頁下から第5行?第6頁第1行)において、平成30年 1月18日付けの取消理由通知の示唆に基づいて行われた再現実験について説明している。
当該再現実験では、本件特許明細書の表1?3における試料記号Cの鉄粉を製造し、絶縁被膜を形成するためのシリコーン樹脂として上記「SR2400」を使用し、リング状試験片の作製と鉄損の評価を行ったことが記載されており、試料記号「C’」として記載されている。
そして、特許権者は、当該再現実験の結果について、以下の主張をしている。
「今回行った再現実験である試料記号「C’」の鉄損は、400Hzおよび1kHzのいずれの測定条件においても、本件特許明細書の実施例における試料記号「C」の鉄損との差が1.5%未満であり、実質的に一致する結果となっております。」
「なお、上記再現実験(C’)における鉄損は、本件特許明細書の実施例(C)における鉄損の値と、完全には一致しておらず、1%程度の誤差があります。この誤差は、再現実験を行うために完全に同一の鉄粉を製造することが難しいという実験上の理由に起因するものです。」

オ 本件発明1は、本件訂正により、鉄損の測定を行う磁芯の製造条件が特定され、さらに、当該磁芯を製造する際に用いる「シリコーン樹脂」は、上記ア?エのとおり、東レ・ダウコーニング株式会社製の「SR2400」であることが理解できる。

カ 以上ア?オより、鉄損の測定を行う磁芯の製造条件は明確であり、磁芯の鉄損の値は一義的に決まるといえるから、本件発明1?4は、明確である。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 上記申立理由1について
特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(ア) 申立人は、特許異議申立書第4頁第11行?第20行において、発明の詳細な説明の【0045】?【0048】を参酌すると、シリコーン樹脂による絶縁被覆を施した鉄粉のみが鉄損の低い圧粉磁芯を製造できるという課題を解決できることが開示されているに過ぎず、所定の絶縁被覆を施していない鉄粉の場合、圧粉磁芯における鉄粉間の絶縁が不十分となり、渦電流損が大きくなり、所望の鉄損の圧粉磁芯が製造できない可能性が高く、課題を解決できないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている旨主張している。

(イ) しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の【0032】、【0034】には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。
「【0032】
さらに、前記した鉄粉は、絶縁被覆を施すことにより圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉となる。
粉末に施す絶縁被覆は、粒子間の絶縁性を保てるものであれば何でも良い。その様な絶縁被覆としては、シリコーン樹脂、リン酸金属塩やホウ酸金属塩をベースとしたガラス質の絶縁性アモルファス層や、MgO、フォルステライト、タルクおよびAl_(2)O_(3)などの金属酸化物、或いはSiO_(2)をベースとした結晶質の絶縁層などがある。」
「【0034】
さらに、耐熱性、柔軟性(成形時に、粉末の塑性変形に追随させる必要性がある)の点で、絶縁被覆はシリコーン樹脂が好ましい。」

(ウ) 上記(イ)の摘記によれば、粉末に施す絶縁被覆は、粒子間の絶縁性を保てるものであれば何でも良く、シリコーン樹脂に限らず、リン酸金属塩やホウ酸金属塩をベースとしたガラス質の絶縁性アモルファス層や、MgO、フォルステライト、タルクおよびAl_(2)O_(3)などの金属酸化物、或いはSiO_(2)をベースとした結晶質の絶縁層などが用いられ、シリコーン樹脂はあくまで好ましい一例である。
そうすると、シリコーン樹脂による絶縁被覆を施した鉄粉でなければ、鉄損の低い圧粉磁芯を製造できないとはいえない。

(エ) よって、上記特許異議申立人の主張は採用できず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。

イ 上記申立理由6について
特許法第36条第6項第2号(明確性)
特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(ア) 申立人は、平成29年12月28日差出の意見書第3頁第1行?第25行において、本件発明1は、表面に絶縁被覆を有する圧粉磁芯用鉄粉を含むものであり、本件発明1は、例えば中間層として、絶縁性アモルファス層を表面に有する圧粉磁芯用鉄粉に、さらにシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉を成形した鉄損が本件発明1の規定数値範囲内である場合も、本件発明1の範囲に含まれるが、発明の詳細な説明には、上記中間層を有する圧粉磁芯用鉄粉が記載されておらず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているし、表面に絶縁被覆を有するものも含むと解される本件発明1は、明確でない旨主張している。

(イ) しかしながら、当該主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して実質的に新たな内容を含むものであるから、採用できない。

ウ 上記申立理由3、4について
特許法第29条第1項第3号(新規性)
特許法第29条第2項(進歩性)
(ア)申立人は、特許異議申立書第5頁第1行?第9頁第12行において、証拠として、甲第1号証?甲第6号証を提出し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2?4に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許を取り消すべきものである旨主張している。

(イ)本件発明1について
本件発明1と、甲1に記載された発明とを対比すると、甲1には、以下の事項が記載されていない。
(a):鉄を主成分とする粉末の「粉末中の酸素量が0.05質量%以上、0.20質量%以下」である点。
(b):「粉末の断面において、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下」である点。
(c):「1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉」である点。

(a)について
訂正後の明細書には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。
「【0011】
発明者らは、圧粉磁芯の鉄損低減について鋭意検討を重ねた結果、以下の事実を突きとめた。
すなわち、
(I) 酸素量の増加によって鉄損が増加するのは、酸素が介在物の形態で粒内に存在しているためであり、粒内介在物が十分に低減されていれば、たとえ酸素を多く含んでいても鉄損の低い圧粉磁芯が得られること、
(II) 介在物が十分に低減された鉄粉の場合、酸素量が低いものよりも、一定量の酸素を含有している鉄粉の方がむしろ低鉄損となること、
である。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。」
「【0023】
鉄損のもう一つの因子である渦電流損は、粒子間の絶縁性に影響を受ける損失である。そのため、粒子間の絶縁が不十分だと、渦電流損が大幅に増加してしまう。
発明者らが粒子間の絶縁性につき検討したところ、鉄粉中の酸素量を0.05質量%未満としてしまうと、絶縁被覆を施して成形し、さらに歪取焼鈍を行った後の粒子間の絶縁性が保たれずに、かえって、渦電流損が増加してしまうことが分かった。
【0024】
この現象の詳しいメカニズムは不明であるが、鉄粉中の酸素は、鉄粉表面を覆う薄い酸化鉄の状態で存在しているため、鉄粉中の酸素量がある程度存在しないと、酸化鉄と絶縁被覆による二重の絶縁層が粒子間の絶縁性を高められないからと考えられる。そのため、酸素は0.05質量%以上含有している必要がある。好ましくは、酸素は0.08質量%以上である。
一方、鉄粉に対し、過度に酸素を含有させると、鉄粉表面の酸化鉄が過度に厚くなって、成形時に絶縁被覆ごと剥離してしまうことで渦電流損が増加することに加え、鉄粉粒内にも非磁性の酸化鉄粒子が生成することで、ヒステリシス損が増加してしまうおそれがある。そのため、酸素の含有量は最大で0.20質量%程度とするのが好ましい。より好ましくは、酸素の含有量は0.15質量%未満である。」
以上の記載から、本件発明1では、鉄粉表面に酸化鉄と絶縁被覆による二重の絶縁層を存在させることで、粒子間の絶縁性を高めて、渦電流損を低減するという技術思想に基づいて、鉄粉末中の酸素量の下限を0.05質量%と特定している。

一方、甲2?甲6には、鉄粉中の酸素量が記載されているものの、これら甲号証いずれにおいても、酸素は不純物として記載されているのみであって、絶縁性の向上のために一定量以上含有させるという上記技術思想に基づいて、鉄粉中の酸素量の下限を特定することについては、記載されていない。

(b)について
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。
「【請求項1】
圧粉磁心用の鉄基軟磁性粉末であって、前記鉄基軟磁性粉末の粒子断面を走査型電子顕微鏡で観察したとき、円相当直径:0.1?3μmの介在物個数が1×10^(4)個/mm^(2)以下であり、且つ円相当直径:3μm超の介在物個数が10個/mm^(2)以下であることを特徴とする圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末。」
「【0021】
一般的な鉄粉では、1×10^(6)個/mm^(2)程度の介在物が存在することになり、その大きさ(円相当直径)は0.01?3μmに分布している。また、大きさが3μmを超えるような介在物(大きさの上限は10μm程度)もまれに観察され、その存在数は10個/mm^(2)程度までである。介在物は、基本的な作用として磁壁をピンニングするので、保磁力を増加させることが知られている。しかしながら、微細な介在物は磁壁のピンニング力は小さいものと考えられている。
【0022】
本発明者らが検討したところによれば、円相当直径が0.1μm未満の介在物ではピンニング力が小さいこと、また円相当直径が3μmを超えるような介在物もピンニング力が小さいこと、且つ円相当直径で3μmを超えるような介在物は事実上その個数が少なく、磁気特性に対して影響が非常に小さいことが判明した。
【0023】
そこで、円相当直径が0.1?3μmの介在物に着目し、介在物の個数と磁気特性との関係について検討したところ、粉末粒子断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、円相当直径が0.1?3μmの介在物の個数を、1×10^(4)個/mm^(2)以下、および円相当直径が3μmを超える介在物の個数を10個/mm^(2)以下となるように制御すれば、磁気特性を優れたものとできることを見出した。」
「【0060】
【表1】


ここで、【0060】の表1を参酌すると、試験No.1、2、3、7、8は、円相当直径が0.1?3μmの介在物、円相当直径が3μmを超える介在物が、いずれも1mm^(2)当たり0個であることが記載されている。

申立人は、特許異議申立書第7頁第24行?第8頁第3行において、甲1の表1の上記記載から、甲1には、母相の面積に占める介在物の面積分率が0%であることが記載されている旨主張している。
しかしながら、甲1には、上記試験No.1、2、3、7、8について、円相当直径が0.1?3μmの介在物、円相当直径が3μmを超える介在物が、いずれも1mm^(2)当たり0個であることが記載されているものの、円相当直径が0.1μm未満の介在物については、記載がなく、上記甲1の【0021】を参酌すると、一般的な鉄粉では、円相当直径0.1μm未満の介在物も存在することが記載されているから、甲1の上記試験No.1、2、3、7、8についても、円相当直径0.1μm未満の介在物も存在すると考えられ、円相当直径が0.1?3μmの介在物、円相当直径が3μmを超える介在物、いずれも1mm^(2)当たり0個であることが記載されているからといって、ただちに、介在物全体の、母相の面積に占める介在物の面積分率が0%であるということはできないから、甲1に、粉末の断面において、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下であることが記載されているとはいえない。
また、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下であることについて、甲2?甲6のいずれにも記載も示唆もされていない。

(c)について
申立人は、特許異議申立書第8頁第5行?第18行において、甲1には、励磁磁束密度1.0T、周波数400Hzの条件で測定した鉄損が30W/kg以下のものが記載されており、甲1には、1kHzでの鉄損については明記はされていないが、甲1の圧粉磁芯にあっても「1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損」である蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、なぜ甲1の圧粉磁芯にあっても「1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損」である蓋然性が高いといえるのか、その根拠については何ら説明、立証されていないから、上記主張は採用できない。
また、本件発明1の鉄損を測定した磁芯の製造条件と、甲1の鉄損を測定した磁芯の製造条件(甲1の【0053】?【0056】)とは、絶縁被覆の鉄粉に対する添加割合、圧粉成形圧力、成形体の大きさ、成形体の焼鈍条件、巻き線の巻き数等が異なっており、これら製造条件が異なると、鉄損が異なることは、技術常識であるから、(c)について、甲1に記載されているに等しいということはできない。
また、1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉について、甲2?甲6のいずれにも記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1は、(a)?(c)の事項を有している点で、甲1に記載された発明ではないし、甲1?甲6に記載された発明から、当業者が容易になし得たものでもない。

(ウ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の特定事項を全て有するものであるから、上記(イ)における本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1?甲6に記載された発明から、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、本件発明2?4は、甲1?甲6に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性に優れる圧粉磁芯が得られる圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータやトランスなどに用いられる磁芯には、磁束密度が高く鉄損が低いといった特性が要求される。従来、このような磁芯には電磁鋼板を積層したものが用いられてきたが、近年では、モータ用磁芯材料として、圧粉磁芯が注目されている。
【0003】
圧粉磁芯の最大の特徴は、三次元的な磁気回路が形成可能な点である。電磁鋼板は、積層によって磁芯を成形するために、形状の自由度に限界がある。しかしながら、圧粉磁芯であれば、絶縁被覆された軟磁性粒子をプレスして成形されるため、金型さえあれば、電磁鋼板を上回る形状の自由度を得ることができる。
【0004】
また、プレス成形は、鋼板の積層に比べて工程が短く、かつコストが安いため、ベースとなる粉末の安さも相まって、優れたコストパフォーマンスを発揮する。さらに、電磁鋼板は、鋼板表面が絶縁されたものを積層するため、鋼板面方向と面垂直方向で磁気特性が異なり、面垂直方向の磁気特性が悪いという欠点を有するが、圧粉磁芯は、粒子一つ一つが絶縁被覆に覆われているため、あらゆる方向に対して磁気特性が均一であって、3次元的な磁気回路に用いるのに適している。
【0005】
このように、圧粉磁芯は、三次元磁気回路を設計する上で不可欠な素材であって、かつコストパフォーマンスに優れることから、近年、モータの小型化や、レアアースフリー化、低コスト化などの観点より、圧粉磁芯を利用し、三次元磁気回路を有するモータの研究開発が盛んに行われている。
【0006】
このような粉末冶金技術によって高性能の磁性部品を製造する場合、成形後の優れた鉄損特性(低ヒステリシス損および低渦電流損)が要求されるものの、この鉄損特性は磁芯材料に残留する歪や、不純物、結晶粒径等の影響を受ける。特に、不純物のうち、酸素は、鉄損に大きな影響を与える元素の一つであるが、鉄粉は、鋼板に比べて酸素量が高いため、可能な限り低減することが好ましいことが分かっている。
【0007】
上述した背景を受け、特許文献1、特許文献2および特許文献3では、鉄粉中の酸素量を0.05wt%未満に低減することによって、成形後の磁芯材料の鉄損を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-209469号公報
【特許文献2】特許第4880462号公報
【特許文献3】特開2005-213621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されたような、鉄粉中の酸素の低減を行なったとしても、モータ用磁芯として用いるための鉄損の低減幅としては未だ不十分であった。
【0010】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、鉄損が低い圧粉磁芯を製造するための圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、圧粉磁芯の鉄損低減について鋭意検討を重ねた結果、以下の事実を突きとめた。
すなわち、
(I) 酸素量の増加によって鉄損が増加するのは、酸素が介在物の形態で粒内に存在しているためであり、粒内介在物が十分に低減されていれば、たとえ酸素を多く含んでいても鉄損の低い圧粉磁芯が得られること、
(II) 介在物が十分に低減された鉄粉の場合、酸素量が低いものよりも、一定量の酸素を含有している鉄粉の方がむしろ低鉄損となること、
である。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.アトマイズ法によって得られる鉄を主成分とする粉末であって、該粉末中の酸素量が0.05質量%以上、0.20質量%以下で、かつ該粉末の断面において、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下であり、
前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼き付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。
【0013】
2.前記1に記載の圧粉磁芯用鉄粉に、さらに絶縁被覆を施した圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【0014】
3.前記絶縁被覆が、前記圧粉磁芯用鉄粉に対する添加率で、少なくとも0.1質量%以上である前記2に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【0015】
4.前記絶縁被覆がシリコーン樹脂である前記2または3に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄粉粒内の介在物および鉄粉の酸素含有量を調整することによって、鉄損の低い圧粉磁芯を製造する為の圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。なお、本発明では、鉄を主成分とする粉末を用いるが、本発明において、鉄を主成分とする粉末とは、鉄が粉体中50質量%以上含有していることを意味する。また、その他の成分は、従来公知の圧粉磁芯用鉄粉に用いられる成分組成および比率で良い。
【0018】
ここに、鉄損は大きく分けてヒステリシス損と渦電流損の2種類からなる。
このうち、ヒステリシス損は、磁芯を磁化した際、磁芯中に磁化の妨げとなる因子が存在することによって発生する損失である。磁化は、磁芯の組織内を磁壁が移動することによって起こるが、このとき、組織内に微細な非磁性粒子が存在すると、磁壁が非磁性粒子にトラップされてしまい、そこから離脱するために余分なエネルギーが必要となる。その結果、ヒステリシス損が大きくなる。例えば、酸化物粒子は、基本的に非磁性であるため、上記した理由によりヒステリシス損増加の要因となる。
【0019】
また、粉末内に、酸化物粒子のような介在物が存在すると、再結晶時にピニングサイトとなり、粒成長を抑制するため好ましくないだけでなく、介在物自体が再結晶粒の核生成サイトとなり、成形、歪取焼鈍後の結晶粒を微細化する。そして、上述したように、介在物自身がヒステリシス損の増加要因ともなる。
【0020】
そこで、発明者らが、介在物とヒステリシス損との関係を鋭意検討したところ、介在物の面積分率が粉末の母相の面積の0.40%以下、好ましくは0.2%以下としたとき、圧粉磁心のヒステリシス損を十分に低減することが可能であることが判明した。
なお、下限に特に限定はなく0%であっても良い。また、粉末の母相の面積とは、ある粉末の断面を観察したとき、当該粉末の粒界により囲まれた面積から当該粉末の粒界内の空孔部の面積を引いたものである。
【0021】
一般に、鉄粉中に含まれる介在物としては、Mg、Al、Si、Ca、Mn、Cr、TiおよびFe等を、1種または2種以上含む酸化物が考えられる。なお、本発明では、介在物の面積分率を以下の手法によって求めることができる。
【0022】
まず、被測定物である鉄粉末を、熱可塑性樹脂粉に混合して混合粉とする。ついで、この混合粉を適当な型に充填し、加熱して樹脂を溶融させたのち冷却固化し、鉄粉含有樹脂固形物とする。この鉄粉含有樹脂固形物を、適当な断面で切断し、切断した面を研磨して腐蝕したのち、走査型電子顕微鏡(倍率:1k?5k倍)を用いて、鉄粉粒子の断面組織を反射電子像で観察および撮像する。得られた像画中、介在物は黒いコントラストとなって現れるので、像画に画像処理を施すことで、介在物の面積分率を求めることができる。なお、本発明では、これを少なくとも5視野以上で行い、これら観察視野の介在物の面積分率を求め、その平均値を用いる。
【0023】
鉄損のもう一つの因子である渦電流損は、粒子間の絶縁性に影響を受ける損失である。そのため、粒子間の絶縁が不十分だと、渦電流損が大幅に増加してしまう。
発明者らが粒子間の絶縁性につき検討したところ、鉄粉中の酸素量を0.05質量%未満としてしまうと、絶縁被覆を施して成形し、さらに歪取焼鈍を行った後の粒子間の絶縁性が保たれずに、かえって、渦電流損が増加してしまうことが分かった。
【0024】
この現象の詳しいメカニズムは不明であるが、鉄粉中の酸素は、鉄粉表面を覆う薄い酸化鉄の状態で存在しているため、鉄粉中の酸素量がある程度存在しないと、酸化鉄と絶縁被覆による二重の絶縁層が粒子間の絶縁性を高められないからと考えられる。そのため、酸素は0.05質量%以上含有している必要がある。好ましくは、酸素は0.08質量%以上である。
一方、鉄粉に対し、過度に酸素を含有させると、鉄粉表面の酸化鉄が過度に厚くなって、成形時に絶縁被覆ごと剥離してしまうことで渦電流損が増加することに加え、鉄粉粒内にも非磁性の酸化鉄粒子が生成することで、ヒステリシス損が増加してしまうおそれがある。そのため、酸素の含有量は最大で0.20質量%程度とするのが好ましい。より好ましくは、酸素の含有量は0.15質量%未満である。
【0025】
次に、本発明品を得るための代表的な製造方法を記す。無論、後述する方法以外によって本発明品を得ても構わない。
本発明に用いる鉄を主成分とする粉末は、アトマイズ法を用いて製造する。その理由は、酸化物還元法、電解析出法によって得られる粉末は、見掛密度が低く、たとえ介在物の面積分率や酸素量が、本発明の条件を満たしていたとしても、成形時に大きく塑性変形するために、絶縁被覆が剥離して渦電流損が大きく増加してしまうからである。
【0026】
他方、アトマイズ法であれば、ガス、水、ガス+水、遠心法など、その種類は問わないが、実用面を考えると安価な水アトマイズ法、もしくは水アトマイズ法よりは高価であるものの、比較的大量に生産が可能なガスアトマイズ法を用いるのが好ましい。以下、代表例として水アトマイズ法を適用した場合の製造方法について述べる。
【0027】
アトマイズを行なう溶鋼の組成は、鉄を主成分とするものであれば良い。しかしながら、アトマイズ時に多量の酸化物系介在物が生成する可能性があるため、易酸化性金属元素(Al、Si、MnおよびCr等)の量は少ない方が良く、それぞれ、Al≦0.01質量%、Si≦0.07質量%、Mn≦0.1質量%およびCr≦0.05質量%とするのが好ましい。無論、これ以外の易酸化性金属元素も可能な限り低減しておくことが好ましい。というのは、上記よりも多く易酸化性元素が添加されていると、介在物面積率が増加して0.4%超えとなりやすく、後工程で介在物面積率を0.4%以下とするのは極めて困難であるからである。
【0028】
ついで、アトマイズ後の粉末は、脱炭、還元焼鈍を実施する。還元焼鈍は、水素を含む還元性雰囲気中での高負荷処理とすることが好ましく、例えば、水素を含む還元性雰囲気中で900℃以上1200℃未満、好ましくは1000℃以上1100℃未満の温度で、保持時間を1?7h、好ましくは2?5hとし、水素を含む還元性雰囲気ガスの導入量を鉄粉1kgに対して3L/min以上、好ましくは4L/min以上とする熱処理を、1段または複数段施すことが好ましい。これにより、水素が粉末内部まで浸透して、粉末内部の介在物が還元されるので、介在物面積分率を低減することができる。また、粉末の還元だけでなく、粉末内の結晶粒径を効果的に粗大化させることができる。なお、雰囲気中の露点は、アトマイズ後の粉末に含まれるC量に応じて選択すれば良く、特に限定する必要はない。
【0029】
本発明において、仕上還元焼鈍後の酸素が目標範囲から外れている場合は、酸素量調整の為の追加熱処理を行なうことができる。
仕上還元焼鈍後の酸素量が目標を下回っているために、粉末中の酸素量を増加させる場合は、水蒸気を含む水素雰囲気中での熱処理を実施すれば良い。その際、熱処理条件は、仕上還元焼鈍後の酸素量に応じて選択されれば良いが、露点:0?60℃、熱処理温度:400?1000℃、均熱時間:0?120minの範囲内で実施するのが好ましい。露点が0℃よりも低いと、脱酸が起こって酸素量が更に下がってしまい、60℃よりも高いと、粉末の内部まで酸化してしまうからである。また、熱処理温度が400℃より低いと酸化が不十分となる一方で、1000℃より高いと酸化のスピードが早く、酸素量の制御が難しくなる。さらに、均熱時間が120minよりも長いと、粉末の焼結が進み解砕が困難になる。
【0030】
他方、仕上還元焼鈍後の酸素量が目標を上回っているために、粉末中の酸素量を低減させる場合は、水蒸気を含まない水素雰囲気中で熱処理を実施すれば良い。その際の熱処理条件は、仕上還元焼鈍後の酸素量に応じて選択できるが、熱処理温度:400?1000℃、均熱時間:0?120minの範囲内で実施するのが好ましい。熱処理温度が400℃より低いと還元が不十分となり、1000℃より高いと還元のスピードが早く、酸素量の制御が難しくなるからである。また、均熱時間が120minよりも長いと粉末の焼結が進み解砕が困難になるからである。
なお、後述の歪取焼鈍を実施する場合は、歪取焼鈍の条件を調整することで目標酸素量としても構わない。
【0031】
本発明では、上記した脱炭や、還元焼鈍後にハンマーミルやジョークラッシャー等の衝撃式粉砕機による粉砕を行なう。粉砕後の粉末に対しては、必要に応じて追解砕や歪取焼鈍を行なうことができる。
【0032】
さらに、前記した鉄粉は、絶縁被覆を施すことにより圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉となる。
粉末に施す絶縁被覆は、粒子間の絶縁性を保てるものであれば何でも良い。その様な絶縁被覆としては、シリコーン樹脂、リン酸金属塩やホウ酸金属塩をベースとしたガラス質の絶縁性アモルファス層や、MgO、フォルステライト、タルクおよびAl_(2)O_(3)などの金属酸化物、或いはSiO_(2)をベースとした結晶質の絶縁層などがある。
【0033】
本発明では、上記絶縁被覆を圧粉磁芯用鉄粉に対する添加率(質量比率)で、少なくとも0.1質量%以上とすることが、粒子間の絶縁性を保つためには好ましい。
一方、上記添加率の上限は、特に限定されないものの、0.5質量%程度とするのが、製造コストなどの点から好ましい。
【0034】
さらに、耐熱性、柔軟性(成形時に、粉末の塑性変形に追随させる必要性がある)の点で、絶縁被覆はシリコーン樹脂が好ましい。
【0035】
粒子表面に絶縁被覆を施された圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉は、金型に充填され、所望の寸法形状(圧粉磁芯形状)に加圧成形され、圧粉磁芯とされる。ここで、加圧成形方法は、常温成形法や、金型潤滑成形法など通常の成形方法がいずれも適用できる。なお、成形圧力は用途に応じて適宜決定されるが、成形圧力を増加すれば、圧粉密度が高くなるため、好ましい成形圧力は10t/cm^(2)(981MPa)以上、より好ましくは15t/cm^(2)(1471MPa)以上である。
【0036】
上記した加圧成形に際しては、必要に応じ、潤滑材を金型壁面に塗布するかあるいは粉末に添加することができる。これにより、加圧成形時に金型と粉末との間の摩擦を低減することができるので、成形体密度の低下を抑制するとともに、金型から抜出す際の摩擦も併せて低減でき、取出時の成形体(圧粉磁芯)の割れを効果的に防止することができる。その際の好ましい潤滑材としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸、脂肪酸アミド等のワックスが挙げられる。
【0037】
成形された圧粉磁芯は、加圧成形後に、歪取りによるヒステリシス損の低減や成形体強度の増加を目的とした熱処理を行なう。この熱処理の熱処理時間は5?120min程度とすることが好ましい。なお、加熱雰囲気としては、大気中、不活性雰囲気中、還元雰囲気中あるいは真空中が考えられるが、いずれを採用してもなんら問題はない。また、雰囲気露点は、用途に応じ適宜決定すればよい。更に、熱処理中の昇温、あるいは降温時に一定の温度で保持する段階を設けても良い。
【実施例】
【0038】
鉄粉No.1?7のSi量の異なるアトマイズ鉄粉を用いた。各鉄粉のSi量は、表1に示すとおりである。Si以外の成分は、全ての鉄粉でC<0.2質量%、O<0.3質量%、N<0.2質量%、Mn<0.05質量%、P<0.02質量%、S<0.01質量%、Ni<0.05質量%、Cr<0.05質量%、Al<0.01質量%およびCu<0.03質量%であった。これらの粉末に対して水素中1050℃×2hでの還元焼鈍を実施した。
【0039】
【表1】

【0040】
熱処理の昇温過程および均熱の前半10minは湿水素雰囲気とし、その後乾水素に切り替えた。前半の湿水素焼鈍において、鉄粉No.1は、露点:40℃、50℃および60℃の3水準及び水素流量3L/min/kgと1L/min/kgの2水準、それ以外の鉄粉は、全て露点:60℃の湿水素及び水素流量3L/min/kgでの焼鈍を実施した。焼鈍後の焼結体をハンマーミルで粉砕し、10種の純鉄粉を得た。表2に、A?Jの10種の純鉄粉の元となった鉄粉No.および還元焼鈍の条件について示す。
【0041】
【表2】

【0042】
上記手順で得られた鉄粉に対し、ハイスピードミキサー(深江パウテック社製LFS-GS-2J型)を用いた1000rpm×30minの解砕、および、乾水素中850℃×60minでの歪取焼鈍をそれぞれ実施した。
これらの鉄粉の酸素量分析値および走査電子顕微鏡による断面観察により求めた介在物面積分率の測定結果を、それぞれ表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
さらに、これらの鉄粉をJIS Z 8801-1に規定される篩で分級し、粒度を45?250μmとした。分級した鉄粉の一部に対してさらに見開き:63μm、75μm、106μm、150μmおよび180μmの篩での分級を実施し、篩上の粉末重量を測定することで粒度分布を求め、得られた粒度分布から、重量平均粒子径D50を算出した。また、JIS Z 2504に規定される試験方法によって見掛密度を測定した。
その結果、全ての粉末でD50:95?120μm、見掛密度≧3.8g/cm^(3)であった。
【0045】
ついで、これらの鉄粉に対して、シリコーン樹脂による絶縁被覆を施した。シリコーン樹脂をトルエンに溶解させて、樹脂分が0.9質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、さらに、粉末に対する樹脂添加率が0.15質量%となるように、粉末と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させた。乾燥後に、大気中で、200℃、120minの樹脂焼付け処理を行うことにより圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉(被覆鉄基軟磁性粉末)を得た。これらの粉末を、成形圧:15t/cm^(2)(1471MPa)で、金型潤滑を用いて成形し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製した。
かようにして作製した試験片に、窒素中で650℃、45minの熱処理を行い、試料とした後、巻き線を行い(1次巻:100ターン、2次巻:40ターン)、直流磁化装置によるヒステリシス損測定(1.0T、メトロン技研製 直流磁化測定装置)と、鉄損測定装置による鉄損測定(1.0T、400Hz及び1.0T、1kHz、メトロン技研製 高周波鉄損測定装置)を行なった。
表4に、試料の磁気測定を行なって得た測定結果を示す。
なお、本実施例では、1.0T、400Hzでの鉄損の合格基準を、特許文献1および特許文献2の実施例に示された合格基準(50W/kg以下)よりも、さらに低い30W/kg以下とし、加えて、1.0T、1kHzでの鉄損合格基準を、特許文献3の実施例に示された鉄損の最小値(117.6W/kg)よりもさらに低い、90W/kg以下とした。
【0046】
【表4】

【0047】
同表より、発明例は全て、1.0T、400Hzおよび1.0T、1kHzでの上記した鉄損合格基準を満たしていることが分かる。
【0048】
また、ヒステリシス損と渦電流損に着目すると、酸素量が低い比較例は、発明例に比べて渦電流損が大幅に増加してしまったために、合格基準を満たせなかったことが、他方、酸素量および介在物面積分率が高い比較例は、発明例に比べてヒステリシス損と渦電流損のいずれか、または両方が増加してしまったために、合格基準を満たせなかったことが、それぞれ分かる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法によって得られる鉄を主成分とする粉末であって、該粉末中の酸素量が0.05質量%以上、0.20質量%以下で、かつ該粉末の断面において、母相の面積に占める介在物の面積分率が0.40%以下であり、
前記粉末に、該粉末に対する樹脂添加率が、0.15質量%であるシリコーン樹脂による絶縁被覆を施し、大気中で、200℃、120minの樹脂焼き付け処理を行い、圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を得て、当該圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉を、成型圧15t/cm^(2)(1471MPa)で成型し、外径:38mm、内径:25mm、高さ:6mmのリング状試験片を作製し、当該試験片を窒素中650℃、45分熱処理を行い、1次巻き100ターン、2次巻き40ターンの巻き線を行い、鉄損を測定した際に、1.0T、400Hzで30W/kg以下、かつ1.0T、1kHzで90W/kg以下の鉄損を有する圧粉磁芯用鉄粉。
【請求項2】
請求項1に記載の圧粉磁芯用鉄粉に、さらに絶縁被覆を施した圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【請求項3】
前記絶縁被覆が、前記圧粉磁芯用鉄粉に対する添加率で、少なくとも0.1質量%以上である請求項2に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
【請求項4】
前記絶縁被覆がシリコーン樹脂である請求項2または3に記載の圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-23 
出願番号 特願2014-532170(P2014-532170)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
P 1 651・ 121- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子川口 由紀子佐藤 陽一  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
結城 佐織
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6056862号(P6056862)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用絶縁被覆鉄粉  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 川原 敬祐  
代理人 大島 かおり  
代理人 市枝 信之  
代理人 大島 かおり  
代理人 市枝 信之  
代理人 川原 敬祐  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 杉村 憲司  

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