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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1341957
異議申立番号 異議2017-700831  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-01 
確定日 2018-05-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6089149号発明「薬剤包装用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6089149号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6089149号の請求項1?3、5?9に係る特許を維持する。 特許第6089149号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6089149号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成28年3月31日(優先権主張外国庁受理 2015年4月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月1日に特許異議申立人猪狩充により特許異議の申立てがされ、また同日に特許異議申立人猪瀬則之により特許異議の申立てがされ、平成29年10月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月15日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して特許異議申立人猪狩充から平成30年1月22日付けで意見書が提出され、また特許異議申立人猪瀬則之から同日付けて意見書が提出されたものである。


2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は以下のア?カのとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すもので、当審が付した。
ア 請求項1の「ポリビニルアルコール及び界面活性剤を含有する薬剤包装用フィルムであって、前記薬剤包装用フィルム100質量%に対して、前記界面活性剤を0.9?5質量%含有し、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であることを特徴とする薬剤包装用フィルム。」という記載を「ポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有する薬剤包装用フィルムであって、前記薬剤包装用フィルム100質量%に対して、前記ノニオン系界面活性剤を0.9?4.6質量%含有し、前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であり、前記ポリビニルアルコールが、無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする薬剤包装用フィルム。」に訂正する。
イ 請求項4を削除する。
ウ 請求項5の「請求項4記載の薬剤包装用フィルム。」という記載を「請求項1記載の薬剤包装用フィルム。」に訂正する。
エ 請求項6の「請求項1、2、3、4又は5記載の薬剤包装用フィルム。」という記載を「請求項1、2、3、又は5記載の薬剤包装用フィルム。」に訂正する。
オ 請求項7の「請求項1、2、3、4、5又は6記載の薬剤包装用フィルム。」という記載を「請求項1、2、3、5又は6記載の薬剤包装用フィルム。」に訂正する。
カ 請求項8の「請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の薬剤包装用フィルム。」という記載を「請求項1、2、3、5、6又は7記載の薬剤包装用フィルム」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 上記アの訂正は、界面活性剤について、その種類をノニオン系界面活性剤に限定するとともに、含有量を薬剤包装用フィルム100質量%に対して0.9?5質量%とされていたのを、0.9?4.6質量%に限定し、また、ポリビニルアルコールについて、その種類を無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されているものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記アの訂正は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項4、8、明細書の段落【0071】に記載された事項をそれぞれ請求項1に追加するものであるから、新規事項の追加に該当しない。
イ 上記イの訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
ウ 上記ウの訂正は、上記訂正イにより請求項4の記載が削除されるのに伴い、請求項5が引用する請求項を請求項4から請求項1に変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記訂正アにより請求項4の発明特定事項は請求項1に追加されているから、請求項5が引用する請求項を請求項4から請求項1に変更しても、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、また、新規事項の追加に該当しない。
エ 上記エの訂正は、上記訂正イにより請求項4の記載が削除されるのに伴い、請求項6が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5から請求項1、2、3、5に変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記訂正アにより請求項4の発明特定事項は請求項1に追加されているから、請求項6が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5から請求項1、2、3、5に変更しても、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、また、新規事項の追加に該当しない。
オ 上記オの訂正は、上記訂正イにより請求項4の記載が削除されるのに伴い、請求項7が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5、6から請求項1、2、3、5、6に変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記訂正アにより請求項4の発明特定事項は請求項1に追加されているから、請求項7が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5、6から請求項1、2、3、5、6に変更しても、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、また、新規事項の追加に該当しない。
カ 上記カの訂正は、上記訂正イにより請求項4の記載が削除されるのに伴い、請求項8が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5、6、7から請求項1、2、3、5、6、7に変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記訂正アにより請求項4の発明特定事項は請求項1に追加されているから、請求項8が引用する請求項を請求項1、2、3、4、5、6、7から請求項1、2、3、5、6、7に変更しても、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、また、新規事項の追加に該当しない。
キ そして、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、上記ア?カの訂正は、当該一群の請求項1?9に対し請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?9]について訂正を認める。


3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下「本件発明1?9」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
ポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有する薬剤包装用フィルムであって、前記薬剤包装用フィルム100質量%に対して、前記ノニオン系界面活性剤を0.9?4.6質量%含有し、前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であり、前記ポリビニルアルコールが、無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする薬剤包装用フィルム。
【請求項2】
水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0?8.0であることを特徴とする請求項1記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項3】
150℃の条件でヒートシールした際のSUS板との間の剥離強度が0.15N/15mm未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項6】
更に、ポリビニルアルコール100質量部に対して、可塑剤を3?15質量部含有することを特徴とする請求項1、2、3、又は5記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項7】
ポリビニルアルコールは、ケン化度が90モル%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、5又は6記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項8】
ポリビニルアルコールは、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする請求項1、2、3、5、6又は7記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項9】
親水性基を有する構成単位の含有量が0.2?10モル%であることを特徴とする請求項8記載の薬剤包装用フィルム。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して平成29年10月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
引用文献1:David R. Karsa編、Industrial Applications of Surfactants IV、イギリス、Royal Society of Chemistry、1999年、第175?176頁及び第179?181頁
引用文献2:米国特許第3316190号明細書
引用文献3:米国特許第3346530号明細書
引用文献4:米国特許第3374195号明細書
引用文献5:米国特許第3365413号明細書
引用文献6:日本エマルジョン株式会社「Product Information」(製品情報)の「EMALEX OE-10」
https://www.nihon-emulsion.co.jp/products/detail/EMALEX%20OE-10?lang=en
引用文献7:特許第5638533号公報
引用文献8:国際公開第2006/134657号公報
引用文献9:特許第2636644号公報
引用文献1?6は、それぞれ、特許異議申立人猪狩充の特許異議申立書の甲第1号証?甲第6号証である。
引用文献7?9は、それぞれ、特許異議申立人猪瀬則之の特許異議申立書の甲第1号証?甲第3号証である。
(取消理由ア)請求項1?4、8に係る発明は、引用文献2に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1?4、8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(取消理由イ)請求項1?5、7?9に係る発明は、引用文献2に記載の発明及び引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?5、7?9に係る特許は、取り消されるべきものである。
(取消理由ウ)請求項1、4、7、8に係る発明は、引用文献3に記載の発明及び引用文献2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1、4、7、8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(取消理由エ)請求項2、6に係る発明は、引用文献2に記載の発明及び引用文献5に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用文献3に記載の発明及び引用文献2、5に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項2、6に係る特許は、取り消されるべきものである。
(取消理由オ)請求項1?9に係る発明は、引用文献7に記載の発明及び引用文献8、9に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?9に係る特許は、取り消されるべきものである。
(取消理由カ)請求項1?9に係る特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、HLBの決定方法が記載されていないため、発明の詳細な説明の記載は、請求項1?9に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
(取消理由キ)請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明にHLBの決定方法が記載されていないため、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているため、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
(取消理由ク)請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明にHLBの決定方法が記載されていないため、その範囲を特定できないため、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

(3)引用文献の記載
引用文献には以下の事項が記載されている。なお、()内は、当審による訳である。
ア 引用文献2の第3欄「Example2」の欄には、「Example2 A film was cast from an aqueous solution of acetalized polyvinyl alcohol having a degree of polymerization of 550 in which 15 mol percent of the hydroxyl groups had been reacted with acetaldehyde and 5.0% by weight of a fatty acid ethylene oxide adduct type nonionic surface active agent having an HLB of 11.0.」(実施例2 15モル%の水酸基をアセトアルデヒトと反応させて得られる重合度550のアセタール化ポリビニルアルコール、及び、11.0のHLBを有する脂肪酸エチレンオキシド付加型ノニオン性界面活性剤5.0重量%の水溶液から、フィルムを成形した。)と記載されている。
ここで、引用文献2の第2欄第4行?第14行には、「Instead of an anionic surface active agent, any of the well known polyoxyethylene type nonionic surface active agents may be used. These compounds include the ethylene oxide adducts of fatty acids, fatty alcohols, and alkylphenols. These compounds may be represented by the formula: RO(CH_(2)CH_(2)O)_(n)H, wherein R is selected from the group consisting of alkyl radicals containing from about 8 to 20 carbon atoms, and alkylphenyl radicals in which the alkyl group contains from about 6 to 12 carbon atoms.」(アニオン性界面活性剤の代わりに、周知のポリオキシエチレン型ノニオン性界面活性剤のいずれかを使用することができる。これらの化合物には、脂肪酸、脂肪族アルコールおよびアルキルフェノールのエチレンオキシド付加物が含まれる。これらの化合物は、式:RO(CH_(2)CH_(2)O)_(n)H(式中、Rは、約8?20個の炭素原子を含むアルキル基、約8?20個の炭素原子を含むアルカノイル基、およびアルキルフェニル基(アルキル基が約6?12個の炭素原子を含む)からなる群から選択される)によって示されうる。)と記載されている。そうとすると、引用文献2の実施例2の「脂肪族エチレンオキシド付加型ノニオン界面活性剤」はポリオキシエチレン構造を有すると認められる。
以上の記載によれば、引用文献2の実施例2に着目すると、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「ポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有するフィルムであって、前記フィルム100質量%に対して、前記ノニオン系界面活性剤を5.0質量%含有し、前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、HLBが11.0であり、前記ポリビニルアルコールが、アセタール化ポリビニルアルコールであるフィルム。」
また、引用文献2の第1欄第11行?第16行には、「This invention relates to cold water-soluble polyvinyl alcohol compositions and films, and more particulaerly to novel polyvinlyl alcohol compositions and films which are both cold water-soluble and non-sticky at high humidity. Cold water-soluble polyvinyl alcohol films are known in the art.」(本発明は、冷水溶解性ポリビニルアルコール組成物及びフィルム<…途中省略…>に関する。冷水溶解性ポリビニルアルコールフィルムは当業界において公知である。)と記載されている。
そうとすると、上記引用発明2のポリビニルアルコールフィルムは冷水溶解性であると認められる。

イ 引用文献3の第1欄第11行?第16行には、「This invention relates to compositions of vinyl alcohol polymers plasticized with particular water-dispersible compounds, the compositions being particularly suitable for the preparation of water-dispersible film useful for packaging detergents, dyes, insecticides, bleaching agents and similar materials.」(本発明は、特定の水分散性化合物で可塑化されたビニルアルコールポリマーの組成物に関し、該組成物は、洗剤、染料、殺虫剤、漂白剤および同様の材料を包装するのに有用な水分散性フィルムの調製に特に適している。)と記載されている。
また、引用文献3の第2欄「Example1」の欄には、「Example1 One hundred parts of an aqueous 20% solution of a partially hydrolyzed polyvinyl acetate having a residual polyvinyl acetate content of 30% and a viscosity of 4.5 centipoises for a 4% aqueous solution at 20℃. is added to a suitable mixing vessel euipped with means for mechanical agitation. Into this solution is charged 4 parts of a commercial mixture of monophenyl ethers of polyethylene oxide having an average molecular weight of 270, a specific gracity at 25℃. of 1.119 and a rafractive index at 25℃. of 1.502.」(実施例1 30%の残留ポリビニルアセテート含量と20℃で4%水溶液の場合4.5センチポアズの粘度とを有する、部分的に加水分解されたポリビニルアセタートの20%水溶液100部を、機械的撹拌のための手段を備えた適切な混合容器に加えた。この溶液に、平均分子量270のポリエチレンオキシドモノフェニルエーテル(25℃での比重1.119、および25℃での屈折率1.502を有する)の市販混合物4部を装入する。)と記載されている。
ここで、引用文献3の第1欄第71行?第2欄第9行には、「The above and related objects are accomplished with a polyvinyl alcohol plasticized with particular polyoxyethylene compounds.<…途中省略…>The polyoxyethylene components of the compositions are the monophenyl ethers of polyoxyethylene containing from about 3 to about 15 ethylene oxide units per molecule.」(上記および関連する目的は、特定のポリオキシエチレン化合物で可塑化されたポリビニルアルコールで達成される。<…途中省略…>組成物のポリオキシエチレン化合物は、分子当たり約3?約15個のエチレンオキシド単位を含むポリオキシエチレンのモノフェニルエーテルである。)と記載されている。
薬とは、広く化学的作用を有する物質を意味することからすれば、引用文献3の第1欄第11行?第16行の記載における「洗剤、染料、殺虫剤、漂白剤」は薬剤といえる。また、化学的性質上、ポリビニルアセタートを加水分解すればポリビニルアルコールとなるから、引用文献3の実施例1による生成物は、ポリビニルアルコールを含有すると認められる。引用文献3の実施例1によれば、ポリビニルアセタートは加水分解されるにとどまるから、このポリビニルアルコールは無変性であると認められる。そして、引用文献3の実施例1における「ポリエチレンオキシドモノフェニルエーテル」は、引用文献3の第1欄第71行?第2欄第9行の記載からすれば、界面活性剤ではなく可塑剤として添加されていると認められるが、その化学的性質からすれば、ノニオン系界面活性剤として作用すると解する余地がある。
以上を踏まえれば、引用文献3の実施例1に着目すると引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「ポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤の作用を呈する可塑剤を含有する薬剤包装用フィルムであって、前記薬剤包装用フィルム100質量%に対して、前記ノニオン系界面活性剤の作用を呈する可塑剤を3.8質量%含有し、前記ノニオン系界面活性剤の作用を呈する可塑剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、前記ポリビニルアルコールが、無変性である薬剤包装用フィルム。」

ウ 引用文献4の第1欄第12行?14行には、「Polyvinyl alcohol is useful for packaging, coating, and other purposes, especially when formed into films or sheets.」(ポリビニルアルコールは、特にフィルムまたはシートに成形したときに、包装、コーティングおよび他の目的に有用である。)と記載されており、第1欄第19?24行には、「There is a large demend for such films in the manufacture of water soluble bags or pouches from which packets or the like are produced containing such materials as detergents, bleaches, insecticides, medicinals, chemicals, dyes, pigments, industrial additives and other materials.」(洗剤、漂白剤、殺虫剤、医薬品、化学薬品、染料、顔料、工業用添加剤および他の材料などの材料を含むパックなどが製造される水溶性バックまたはパウチの製造におけるこのようなフィルムの需要が大きい。)と記載されている。

エ 引用文献7の段落【0001】には、「本発明はポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)系重合体フィルムおよびその製造方法ならびに当該PVA系重合体フィルムの保管方法に関する。」と記載されている。
引用文献7の段落【0018】には、「本発明において使用される界面活性剤(B)の種類に特に制限はないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。」と記載されている。
引用文献7の段落【0020】には、「ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。」と記載されている。
引用文献7の段落【0047】には、「[実施例1] けん化度99.9モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量2.4質量%のPVA(ポリ酢酸ビニルのけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬した後、遠心脱水を行いPVA含水チップを得た。得られたPVA含水チップ中の酢酸ナトリウム含量はPVAに対して0.1質量%であり、またPVA含水チップ中の揮発分濃度は70質量%であった。そのPVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対してグリセリン12質量部、界面活性剤を含む混合物(ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し、且つジエタノールアミンを不純物として含む混合物。当該混合物を水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpH(PVAフィルムの場合について上記したのと同様の方法により測定)は9.64。)0.3質量部、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)(フェノール系酸化防止剤)0.003質量部を添加し、さらに1mol/lのリン酸二水素カリウム水溶液をPVA100gに対して10mlとなる割合で添加した後、よく混合して混合物とし、これを最高温度130℃の二軸押出機で加熱溶融した。熱交換機で100℃に冷却した後、95℃の金属ドラム上に溶融押出製膜して乾燥することにより、フィルム幅1.2mで平均厚さ60μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。得られたPVAフィルムを用いて、水に溶解させた際のpHを上記した方法により測定したところ6.0であった。」と記載されている。
ここで、引用文献7の上記実施例1では、PVA(ポリビニルアルコール)を変性する工程が記載されていないから、PVAは無変性であると認められる。
以上を踏まえれば、引用文献7の実施例1に着目すると引用文献7には以下の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。
「ポリビリルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有するフィルムであって、前記ノニオン系界面活性剤は、ラウリン酸ジエタノールアミドであり、前記ポリビニルアルコールは無変性であるフィルム。」
また、引用文献7には【背景技術】として、段落【0002】に、「PVA系重合体を用いて形成されるPVA系重合体フィルムは、水溶性というユニークな特徴とその他の様々な優れた物性を生かして、偏光フィルム製造原料等の光学用途、農薬・洗剤等の化学薬品の包装用途、繊維製品の包装用途など、各種の用途に使用されている。」と記載されている。
そして、引用文献7の段落【0024】には、「PVA系重合体フィルムにおける界面活性剤(B)の含有率はPVA系重合体100質量部に対して0.001?1質量部の範囲内であることが必要であり、0.01?0.7質量部の範囲内であることが好ましく、0.05?0.5質量部の範囲内であることがより好ましい。上記含有率が0.001質量部より少ないと製膜時の膜面異常の低減効果が現れにくく、1質量部より多いとフィルム表面に溶出してブロッキングの原因になり取り扱い性が低下する。」と記載されている。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)上記取消理由アについて
本件発明1と引用発明2を対比すると、本件発明1はフィルムが薬剤包装用であるのに対し、引用発明2はフィルムが薬剤包装用であるか明らかでない点(以下、「相違点1-1」という。)で、少なくとも相違する。
ここで、引用発明2のポリビニルアルコールフィルムが冷水溶解性であり、引用文献4の第1欄第19?24行に記載されるように、水溶性のフィルムが薬剤包装用フィルムとして用いられることが公知であるとしても、引用文献4の第1欄第12行?14行に記載されるように、ポリビニルアルコールフィルムは包装用のほかにコーティングや他の目的に用いられることも公知であるから、引用発明2のポリビニルアルコールフィルムが包装用であること、ましてや、薬剤包装用であると認定すべき理由がない。
ゆえに、本件発明1は引用発明2と相違し、本件発明1は引用発明2ではない。
また、本件発明2、3、8は、上記本件発明1を引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているから、上記と同様の理由により、引用発明2ではない。
したがって、上記取消理由アによって、本件発明1、2、3、8に係る特許を取り消すことはできない。
(イ)上記取消理由イについて
本件発明1と引用発明2を対比すると、本件発明1では、上記相違点1-1の他に、本件発明1では、ノニオン系界面活性剤について、その含有量が薬剤包装用フィルム100質量%に対して0.9?4.6質量%であり、オキシエチレン基のモル数が5?13モルであるのに対し、引用発明2では、含有量が薬剤包装用フィルム100質量%に対して5.0質量%であり、オキシエチレン基のモル数が明らかでない点で相違し(以下、「相違点1-2」という。)、本件発明1では、ポリビニルアルコールが無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びアルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されているのに対し、引用発明2では、ポリビニルアルコールがアセタール化ポリビニルアルコールである点で相違する(以下、「相違点1-3」という。)。
事案にかんがみ、相違点1-2から検討する。引用発明2において、ノニオン系界面活性剤について、その含有量を薬剤包装用フィルム100質量%に対して5.0質量%とされていたのを、0.9?4.6質量%に低下させることは、ノニオン系界面活性剤による冷水溶解性の低下が予測されるから、当業者が容易になし得たことであるとはいえず、その上、オキシエチレン基のモル数を5?13モルとする動機ないし理由が認められない。また、本件発明1は、ノニオン系界面活性剤について、その含有量を薬剤包装用フィルム100質量%に対して0.9?4.6質量%とし、オキシエチレン基のモル数を5?13モルとすることで、ロール汚染を抑制する点、ヒートシール板からの剥離が容易となる点、成膜装置からの剥離性を向上する点、耐薬品性、水溶性、視認性を充分とする点という多くの点において、効果を奏する。そして、このような効果は、引用発明2から当業者が容易に予測し得たものではない顕著なものである。
次に、相違点1-3について検討する。引用発明2において、アセタール化ポリビニルアルコールにかえて、無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されたポリビリールアルコールを採用すべき、積極的な動機ないし理由が認められない。
そうとすると、本件発明1は、引用発明2及び引用文献4に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2、3、5、7?9は、上記本件発明1を直接的または間接的に引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているから、上記と同様の理由により、引用発明2及び引用文献4に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、したがって、上記取消理由イによって、本件発明1?3、5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。
(ウ)上記取消理由ウについて
本件発明1と引用発明3を対比すると、本件発明1では、ノニオン系界面活性剤は、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であるのに対し、引用発明3では、ノニオン系界面活性剤の作用を呈する可塑剤は、オキシエチレン基のモル数とHLBの値が明らかでない点で、少なくとも、相違する(以下、「相違点2」という。)。
上記相違点2について検討する。引用発明3において、ノニオン系表面活性剤の作用を呈する可塑剤について、オキシエチレン基のモル数を5?13モルとした上、HLBを9?14.5とする動機ないし理由が認められない。 特に、HLBに関し、引用発明3の可塑剤は、その化学的性質上、ノニオン系表面活性剤の作用を有すると解する余地があるだけであり、あくまで可塑剤であるから、可塑剤と使用目的が異なる界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であるHLBの好適化を想起することは、当業者であっても容易とはいえず、引用文献2にHLBを11.0とする記載があっても、この数値を採用することは、当業者であれば容易であるとはいえない。
そうとすると、本件発明1は、引用発明3及び引用文献2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明7、8は、上記本件発明1を引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているから、上記と同様の理由により、引用発明3及び引用文献2に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記取消理由ウによって、本件発明1、7、8に係る特許を取り消すことはできない。
(エ)上記取消理由エについて
本件発明2、6は、上記本件発明1を引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。そうとすると、本件発明2、6は、上記(イ)及び(ウ)で示した理由と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記取消理由エによって、本件発明2、6に係る特許を取り消すことはできない。
(オ)上記取消理由オについて
本件発明1と引用発明7を対比すると、本件発明1では、フィルムが薬剤包装用であるのに対し、引用発明7では、フィルムが薬剤包装用であるのか明らかでない点で相違し(以下、「相違点3-1」という。)、本件発明1では、ノニオン系界面活性剤について、その含有量がフィルム100質量%に対して0.9?4.6質量%であり、その種類がポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であるのに対して、引用発明7では、ノニオン系界面活性剤について、その含有量が不明であり、その種類がラウリン酸ジエタノールアミドである点で相違する(以下、「相違点3-2」という。)。
上記相違点3-1について検討する。引用文献7の段落【0002】には、ポリビニルアルコール系フィルムを薬剤包装用とすることが記載されていることからすれば、引用発明7のポリビニルアルコール系フィルムを薬剤包装用とすることは、当業者であれば容易である。
上記相違点3-2について検討する。引用文献7の段落【0024】の記載によれば、界面活性剤の含有量がフィルム100質量%に対して0.01?0.7質量%であることが好ましく、0.05?0.5質量%であることがより好ましいとされていることからすれば、引用発明7において、界面活性剤の含有量をフィルム100質量%に対して0.05?0.5質量とするのが自然であるが、界面活性剤の含有量が多いほど水溶性の向上が期待できることを踏まえると、段落【0024】に記載された0.001?1質量%の範囲から0.9?1質量%とすることは、当業者にとって容易である。
また、引用文献7の段落【0020】に、ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン構造を有するものが列挙されていることからすれば、引用発明7において、ノニオン系界面活性剤として、ラウリン酸ジエタノールアミドにかえて、ポリオキシエチレン構造を有するものを採用すること自体は、当業者にとって容易である。しかしながら、一般的な技術常識からすれば、界面活性剤の名称のみではモル数及びHLBの値を特定することができない(特開2013-231006号公報の段落【0023】参照)。そうすると、引用文献7の段落【0020】には、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等の名称が列挙されているだけであるから、モル数及びHLBの値は不明であるというべきである。よって、引用発明7において、ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレン構造を有するものを採用し、その上で、オキシエチレン基のモル数を5?13モル、かつ、HLBを9?14.5とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。また、引用文献8、9にも、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であるノニオン系界面活性剤が記載されていないから、引用発明7において引用文献8、9を参照しても、本件発明1のノニオン系界面活性剤とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。そして、本件発明1では、ノニオン系表面活性剤として、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数を5?13モル、かつ、HLBを14.5とすることで、ロール汚染を抑制するとともにヒートシール板からの剥離が容易になるという点で大きな効果を奏するものである。このような効果は引用発明7及び引用文献8、9に記載の事項から、当業者であっても容易に予測し得たとはいえず、顕著なものである。
そうとすると、本件発明1は、引用発明7及び引用文献8、9に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2、3、5?9は、上記本件発明1を直接的または間接的に引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているから、上記と同様の理由により、引用発明7及び引用文献8、9に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記取消理由オによって、本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。
(カ)上記取消理由カについて
ノニオン系界面活性剤のHLB値は、グリフィンの式にしたがって決定するのが通常である(特開平10-60421号公報の段落【0023】参照)。ゆえに、ノニオン系界面活性剤のHLB値は、特に決定方法に指定がない限り、グリフィンの式にしたがって決定されるのが通常と解されるから、HLBの決定方法が特に指定されていない本件においても、ノニオン系表面活性剤のHLB値はグリフィンの式にしたがって決定されると解するのが相当である。
そうとすると、本件の発明の詳細な説明は、HLBの決定方法が記載されていないからといって、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえないから、上記取消理由カによって、本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。
(キ)上記取消理由キについて
上記(カ)で検討したように、本件において、HLBの決定方法はグリフィンの式であると解するのが相当であるから、本件発明1?3、5?9に係る特許は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえず、上記取消理由キによって、取り消すことはできない。
(ク)上記取消理由クについて
上記(カ)で検討したように、本件において、HLBの決定方法はグリフィンの式である解するのか相当であるから、本件発明1?3、5?9に係る特許は、範囲が特定され明確であり、上記取消理由クによって、取り消すことができない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人猪瀬則之は、訂正前の特許請求の範囲に対し、「界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し」、「界面活性剤は、・・・オキシエチレン基のモル数が5?13モル」、「界面活性剤は、・・・HLBが9?14.5であること」、「界面活性剤の「0.9?5質量%」という含有量」について、本件明細書の実施例・比較例によってはサポート要件(特許法第36条第6項第1号)を欠く旨を主張している(同申立人による特許異議申立書の(4-4-1)?(4-4-4)及び(4-4-6)を参照。)。
しかしながら、界面活性剤の化学構造(親油基)や添加される可塑剤によって、多少の作用効果の差は予測されるものの、それは界面活性剤の作用効果を大きく減損ないし滅失させるものではない。そうとすると、本件実施例を参照すれば、上記のように特定された界面活性剤について、本件発明の課題を解決することができないとまではいえないことは、化学分野の当業者であれば容易に認識し得たことである。ゆえに、本件発明の界面活性剤について、サポート要件を欠くとはいえない。
また、同申立人は、ポリビニルアルコールの種類及び含有量について、本件明細書の実施例・比較例によってはサポート要件を欠く旨を主張している(同申立人による特許異議申立書の(4-4-5)を参照。)。
しかしながら、訂正後の本件発明では、「ポリビニルアルコールが、無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されちる」と特定されている。アミノ基及びカルボキシル基で変性されているポリビニルアルコールについても、本件実施例のスルホン酸基、ピロリドン環基で変性されているポリビニルアルコールと多少の作用効果の差は予測されるものの、親水基で変性されていることには変わりがないことから、本件発明の課題を解決することができないとまではいえないことは、化学分野の当業者であれば容易に認識し得たことである。また、無変性のポリビニルアルコールは、本件明細書の段落【0097】【0098】の実施例2によれば、一部(薬剤の漏出)の点で若干の効果の低下は見られるものの、総合的に見れば本件発明の課題を解決することができないとまではいえない。そして、本件明細書の段落【0013】には、「上記ポリビニルアルコールは、本発明の薬剤包装用フィルムの主たる構成成分となる。」と記載されており、本件発明はポリビニルアルコールを主成分として含有することが特定されていると解されることからすれば、本件発明の課題を解決することができないとまではいえない。ゆえに、本件発明のポリビニルアルコールについて、サポート要件を欠くとはいえない。
さらに、同申立人は、pH条件が必須構成要件として規定されておらず、サポート要件を欠く旨を主張している(同申立人による特許異議申立書の(4-4-7)を参照。)。
しかしながら、「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0?8.0である」というpH条件が満たされれば、黄変の抑制という点で大きな効果が期待される一方、このpH条件が満たされていなくても、pH条件以外の条件(界面活性剤の含有量や種類など)にかんがみれば、本願発明の課題が解決できなくなるとまではいえないことは、化学分野の当業者であれば容易に認識し得たことである。ゆえに、本件がpH条件を必須構成要件として規定されていないことをもって、サポート要件を欠くとはいえない。

ウ 本件訂正後に新たに主張された意見について
特許異議申立人猪狩充は、本件訂正後の平成30年1月22日付けの意見書において、本件特許について、「「薬剤」については・・・特性や形態の点で多種多様な化合物を含みうると解釈される。しかしながら・・・当業者であっても具体的にどのような薬剤であれば本件訂正発明の課題を解決しうるのか理解することはできない。」と主張している。
しかしながら、この主張は本件特許掲載公報の発行の日(平成29年3月1日)から6月以内の特許異議の申立ての期間内に主張することができたものであり、本件訂正後の平成30年1月22日になって初めて主張するのは、時機に後れた主張であり、もとより採用し得ないが、念のために検討する。
包装用フィルムは、被包装物を包むためのフィルムとして文献を挙げるまでもなく、従来周知であるところ、「薬剤包装用フィルム」とは、包装用フィルムのうち、「薬剤」の包装に適したフィルムであると、当業者は理解でき、また、そのような記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとはいえない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1?3、5?9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、第2項並びに第36条第4項第1号、第6項第1号及び第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号及び第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項4は、本件訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項4について、特許異議申立人猪狩充及び特許異議申立人猪瀬則之がした特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
ゆえに、本件特許の請求項4についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有する薬剤包装用フィルムであって、
前記薬剤包装用フィルム100質量%に対して、前記ノニオン系界面活性剤を0.9?4.6質量%含有し、
前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレン構造を有し、オキシエチレン基のモル数が5?13モル、かつ、HLBが9?14.5であり、
前記ポリビニルアルコールが、無変性であり、または、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする薬剤包装用フィルム。
【請求項2】
水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0?8.0であることを特徴とする請求項1記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項3】
150℃の条件でヒートシールした際のSUS板との間の剥離強度が0.15N/15mm未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項6】
更に、ポリビニルアルコール100質量部に対して、可塑剤を3?15質量部含有することを特徴とする請求項1、2、3、又は5記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項7】
ポリビニルアルコールは、ケン化度が90モル%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、5又は6記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項8】
ポリビニルアルコールは、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする請求項1、2、3、5、6又は7記載の薬剤包装用フィルム。
【請求項9】
親水性基を有する構成単位の含有量が0.2?10モル%であることを特徴とする請求項8記載の薬剤包装用フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-18 
出願番号 特願2016-521796(P2016-521796)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 536- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 西藤 直人
渡邊 豊英
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6089149号(P6089149)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 薬剤包装用フィルム  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
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