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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C10M
管理番号 1341963
異議申立番号 異議2016-700632  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-20 
確定日 2018-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5845304号発明「潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5845304号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5845304号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5845304号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成21年6月4日に出願した特願2009-135366号の一部を特許法第44条第1項の規定に基いて分割して平成26年4月7日に新たな特許出願にしたものであって、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年7月20日に特許異議申立人の中嶋なは代(中嶋はな代)より特許異議の申立てがなされ、平成28年12月16日付けで取消理由通知を特許権者に通知したところ、特許権者より平成29年2月20日付けの訂正請求書・意見書が提出され、これに対して、特許異議申立人より同年4月6日付けの意見書が提出され、さらに、同年6月29日付けで取消理由通知を特許権者に通知したところ、特許権者より同年9月4日付けの意見書が提出され、また、異議申立人より、「中嶋なは代」(誤記)を「中嶋はな代」に補正する同年8月17日付けの手続補正書(方式)が提出され、そして、同年11月6日付けで取消理由通知(決定の予告)を特許権者に通知したところ、特許権者より平成30年1月9日付けの意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正事項
平成29年2月20日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
訂正前の特許請求の範囲の請求項1の
「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上であるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有し、」「であることを特徴とする潤滑油組成物。」を、
訂正後の特許請求の範囲の請求項1の
「下記式(1)で表される構造単位の割合が10モル%以上70モル%以下であり、かつ、^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有し、」「であることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】




[式(1)中、R^(1)はメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上50以下の直鎖または分枝状の炭化水素基を示す。]」(当審注:下線は、特許権者が付与した。)と訂正する。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び、一群の請求項について
上記「1」で示した訂正事項は、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤について、ポリメタアクリレート系粘度指数向剤と限定し、この粘度指数向上剤に含まれる構造単位を限定し、さらに、M1/M2の上限値を限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的にするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明において用いられる粘度指数向上剤は、ポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、かつ、下記式(1)で表される構造単位の割合が0.5?70モル%の重合体であることが好ましい。粘度指数向上剤は、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良い。
【化1】 省略
[式(1)中、R^(1)は水素またはメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上の直鎖または分枝状の炭化水素基、あるいは、酸素および/または窒素を含有する炭素数16以上の直鎖または分枝状の有機基を示す。]」(【0059】)、「また、上記粘度指数向上剤において、ポリマー中の一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、上述の通り0.5?70モル%であることが好ましく、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下であり、特に好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、特に好ましくは10モル%以上である。70モル%を超える場合は粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがあり、0.5モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。」(【0061】)、「全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味する。」(【0056】)、「M1/M2はポリメタクリレート側鎖の特定のβ分岐構造と特定の直鎖構造の割合を意味するが、同等の結果が得られるのであればその他の方法を用いてもよい。」(【0057】)、「また、M1/M2は好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.0以下であり、最も好ましくは0.8以下である。M1/M2が0.20未満の場合は、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。また、M1/M2が3.0を超える場合は、必要とする省燃費性が得られない恐れがあり、溶解性や貯蔵安定性が悪化する恐れがある。」(【0054】)、「(添加剤)
A-1:ポリメタアクリレート(M1=0.60、M2=0.95、M1/M2=0.64、ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、MW=400,000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)」(【0104】)等の記載があり、これらからして、上記訂正事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項であるので、新規事項の追加に該当するものではない。
そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8(以下、「訂正後の請求項1」ないし「訂正後の請求項8」という。)について訂正することを認める。

第3 特許発明
上記「第2」で示したように、本件訂正請求による訂正は認められたので、特許第5845304号の訂正後の請求項1ないし8に係る発明(以下、これらの発明をまとめて「本件訂正特許発明」という。)は、それぞれ、訂正後の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】
100℃における動粘度が1?20mm^(2)/sであり、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上である潤滑油基油と、
下記式(1)で表される構造単位の割合が10モル%以上70モル%以下であり、かつ、^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有し、100℃におけるHTHS粘度が5.0mPa・s以下であり、150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比(150℃におけるHTHS粘度/100℃におけるHTHS粘度)が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】




[式(1)中、R^(1)はメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上50以下の直鎖または分枝状の炭化水素基を示す。]」
【請求項2】
前記粘度指数向上剤が、PSSIが40以下、重量平均分子量とPSSIの比が1×10^(4)以上のものであるであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
重量平均分子量が10万以下のポリ(メタ)アクリレートをさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
40℃における動粘度が4?50mm^(2)/sであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油基油の流動点が-10℃以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑油基油のヨウ素価が3以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油基油の%CPが70以上であること特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。」

第4 本件特許明細書の発明の詳細な説明
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、次のとおりである。
1 解決課題
「【0004】
・・・従来の潤滑油は省燃費性の点で必ずしも十分とは言えない。
【0005】
例えば、一般的な省燃費化の手法として、潤滑油の動粘度の低減および粘度指数の向上(低粘度基油と粘度指数向上剤の組合せによるマルチグレード化)が知られている。しかしながら、かかる手法の場合、潤滑油またはそれを構成する基油の粘度の低減に起因して、厳しい潤滑条件下(高温高せん断条件下)での潤滑性能が低下し、摩耗や焼付き、疲労破壊等の不具合の発生が懸念される。つまり、従来の潤滑油においては、耐久性等の他の実用性能を維持しつつ、十分な省燃費性を付与することが困難である。
【0006】
そして、上記の不具合を防止して耐久性を維持しつつ、省燃費性を付与するためには、150℃におけるHTHS粘度(「HTHS粘度」は「高温高せん断粘度」とも呼ばれる。)を高く、その一方で40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低くすることが有効であるが、従来の潤滑油ではこれらの要件全てを満たすことが非常に困難である。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供することを目的とする。」

2 課題解決手段
「【0008】
・・・本発明は、100℃における動粘度が1?20mm^(2)/sである潤滑油基油と、^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上である粘度指数向上剤と、を含有し、100℃におけるHTHS粘度が5.0mPa・s以下であることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。」

「【0010】
さらに、上記粘度指数向上剤は、PSSIが40以下、重量平均分子量とPSSIの比が1×10^(4)以上のものであることが好ましい。
【0011】
ここで、本発明でいう「PSSI」とは、ASTM D 6022-01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278-02(Test Metohd for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。」

3 発明の効果
「【0013】
・・・本発明によれば、150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供することが可能となる。例えば、本発明の潤滑油組成物によれば、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃におけるHTHS粘度を所望の値に維持しながら、十分な省燃費性を発揮することができる。」

4 実施形態
「【0053】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、核磁気共鳴分析(^(13)C-NMR)により得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積(M1)と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積(M2)の比、つまりM1/M2が0.20以上となるものである。」

「【0056】
全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積(M1)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分岐構造に由来する積分強度の割合を意味し、全ピークの合計面積に対する化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積(M2)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味する。」

「【0059】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、ポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、かつ、下記式(1)で表される構造単位の割合が0.5?70モル%の重合体であることが好ましい。粘度指数向上剤は、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良い。
【化1】 省略
[式(1)中、R^(1)は水素またはメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上の直鎖または分枝状の炭化水素基、あるいは、酸素および/または窒素を含有する炭素数16以上の直鎖または分枝状の有機基を示す。]
【0060】
一般式(1)中のR^(2)は、炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数18以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは炭素数20以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数20以上の分枝状炭化水素基である。また、R^(2)で表される炭化水素基の炭素数の上限は特に制限されないが、炭素数100以下の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは50以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは30以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは30以下の分枝状の炭化水素であり、最も好ましくは25以下の分枝状の炭化水素である。
【0061】
また、上記粘度指数向上剤において、ポリマー中の一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、上述の通り0.5?70モル%であることが好ましく、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下であり、特に好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、特に好ましくは10モル%以上である。70モル%を超える場合は粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがあり、0.5モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0062】
上記粘度指数向上剤は、一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位以外に任意の(メタ)アクリレート構造単位もしくは任意のオレフィン等に由来する構造単位を含むことができる。
【0063】
上記粘度指数向上剤の製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(M-1)とモノマー(M-2)?(M-4)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0064】
上記粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は50以下であることが好ましく、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは35以下であり、特に好ましくは30以下である。また、5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは15以上であり、特に好ましくは20以上である。PSSIが5未満の場合には粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、PSSIが50を超える場合にはせん断安定性や貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0065】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は100,000以上であることが好ましく、より好ましくは200,000以上であり、さらに好ましくは250,000以上であり、特に好ましくは300,000以上である。また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下であり、さらに好ましくは600,000以下であり、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が100,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0066】
上記粘度指数向上剤の数平均分子量(Mn)は50,000以上であることが好ましく、より好ましくは800,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは120,000以上である。また、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下であり、特に好ましくは200,000以下である。数平均分子量が50,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が500,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0067】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(Mw/PSSI)は、0.8×10^(4)以上であることが好ましく、好ましくは1.0×10^(4)以上、より好ましくは1.5×10^(4)以上、さらに好ましくは1.8×10^(4)以上、特に好ましくは2.0×10^(4)以上である。Mw/PSSIが0.8×10^(4)未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0068】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mnは、0.5以上であることが好ましく、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.1以上である。また、Mw/Mnは6.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。Mw/Mnが0.5未満や6.0を超える場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0069】
上記粘度指数向上剤の40℃と100℃における動粘度の増粘比ΔKV40/ΔKV100は、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下、もっとも好ましくは2.3以下である。また、ΔKV40/ΔKV100は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは2.0以上である。
ΔKV40/ΔKV100が0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、4.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔKV40はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、40℃における動粘度の増加分を意味し、ΔKV100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃における動粘度の増加分を意味する。
【0070】
上記粘度指数向上剤の100℃と150℃におけるHTHS粘度の増粘比ΔHTHS100/ΔHTHS150は、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.55以下である。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0 以上であり、さらに好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、2.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔHTHS100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃におけるHTHS粘度の増加分を意味し、ΔHTHS150はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、150℃におけるHTHS粘度の増加分を意味する。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は100℃におけるHTHS粘度の増加分と150℃におけるHTHS粘度の増加分の比を意味する。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。また、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。」

「【0078】
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤としては、前記した粘度指数向上剤やポリ(メタ)アクリレートに加えて、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体を、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。」
5 実施例
「【実施例】
【0103】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0104】
(実施例1?5、比較例1?2)
実施例1?5および比較例1?2においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。基油O-1、O-2の性状を表1に示す。
(基油)
O-1(基油1):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油O-2(基油2):水素化分解鉱油
(添加剤)
A-1:ポリメタアクリレート(M1=0.60、M2=0.95、M1/M2=0.64、ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、Mw=400,000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)
A-2:分散型ポリメタクリレート(M1=0.46、M2=3.52、M1/M2=0.13、ΔKV40/ΔKV100=3.3、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.79、Mw=300,000、PSSI=40、Mw/Mn=4.0、Mw/PSSI=7500)
A-3:非分散型ポリメタクリレート(M1=0.61、M2=3.69、M1/M2=0.17、ΔKV40/ΔKV100=4.4、ΔHTHS100/ΔHTHS150=2.15、Mw=80,000、Mw/Mn=2.7、PSSI=5、Mw/PSSI=16000)
B-1:非分散型ポリメタクリレート(炭素数12?18のアルキル基を有するメタクリレートの共重合体、Mw=60,000,PSSI=0.1)
B-2:非分散型ポリメタクリレート(炭素数12?18のアルキル基を有するメタクリレートの共重合体、Mw=50,000,PSSI=0.1)
C-1:グリセリンモノオレエート
C-2:オレイルウレア
C-3:モリブデンジチオカーバメート
D-1:金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、消泡剤等。
【0105】
【表1】



【0106】
[潤滑油組成物の評価]
実施例1?5および比較例1?2の各潤滑油組成物について、40℃または100℃における動粘度、粘度指数、100℃または150℃におけるHTHS粘度、ならびに-40℃におけるMRV粘度を測定した。各物性値の測定は以下の評価方法により行った。得られた結果を表2に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)粘度指数:JIS K 2283-1993
(3)HTHS粘度:ASTM D-4683
(4)MRV粘度:ASTM D-4684
【0107】
【表2】



【0108】
表2に示したように、実施例1?5および比較例1?2の潤滑油組成物は150℃におけるHTHS粘度が同程度のものであるが、比較例1?2の潤滑油組成物に比べて、M1/M2が0.2以上の粘度指数向上剤を用いた実施例1?5の潤滑油組成物は、40℃動粘度、100℃HTHS粘度が低く、粘度指数が高く、粘度温度特性が良好であった。この結果から、本発明の潤滑油組成物が、省燃費性に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることができ、特に潤滑油の100℃HTHS粘度を低減し、-40℃におけるMRV粘度も改善することができる潤滑油組成物であることがわかる。」

第5 平成29年11月16日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載された取消理由について
決定の予告に記載された取消理由の要旨は、以下のものである。
1 特許法第36条第4項第1号について
ポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の入手について、技術常識に照らして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、当業者が、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するには、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比(ポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分子構造に由来する)M1/(ポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する)M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤」(本件訂正特許発明の発明特定事項)は、本件特許明細書において、本件課題の「150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供する」という目的を達成せしめるものとして実際的に裏付けられたものであるとはいえないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を、訂正後の請求項1ないし8の記載にまで拡張ないし一般化することはできず、訂正後の請求項1ないし8の記載は、特許法第36条第6項第1項の規定に適合するものではない。

第6 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号について
(1) 粘度指数向上剤の入手について
本件訂正特許発明は、潤滑油基油とポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を含有する潤滑油組成物であるところ、このポリメタアクリレート系粘度指数向上剤について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の化学構造、製造方法、製品名・商品名等の記載はなく(【0063】は、製造方法を特定する記載とはいい難い。)、また、【0104】に記載のM1/M2の値と【0078】【0107】の記載からみて、本件訂正特許発明にいう粘度指数向上剤の実施例として特定できるものは、【0104】に記載されたA-1のみであると認められるところ、A-1の具体的な化学構造、製造方法、製品名・商品名等についての記載はなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、式(1)のメタアクリレートモノマー構造単位(【0059】)、各種パラメーターが示されているだけである。
そこで、この本件特許明細書に接した当業者が、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤についての特定事項と技術常識から、当業者が過度な試行錯誤を要することなく製造(購入)して入手することができるかどうかについて、以下、検討する。

(2) M1/M2について
ア 本件出願の親出願の出願時の技術常識(当審注:以下、単に「技術常識」という。)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0056】には、粘度指数向上剤がポリメタアクリレートの場合、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積(M1)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分岐構造に由来する積分強度の割合を意味し、全ピークの合計面積に対する化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積(M2)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味するとの記載がある。
そして、ポリメタアクリレート系粘度指数向上剤は、潤滑油添加剤として汎用され(化学大事典編集員会編、「化学大事典6」、縮刷版第36刷、共立出版株式会社、1997年9月20日、903頁左欄の「ねんどしすう こうじょうざい 粘度指数向上剤」の項目参照)、多数市販もされており(VISCOPLEX○のR6-850 せん断安定多機能分散型粘度指数向上剤、EVONIK社、2008年10月、カタログ参照)(当審注:○のRは、○の中にRがある字体を表す。)、その単量体として炭素数1?24程度の炭素数の直鎖又は分枝状の炭化水素基を側鎖に有するメタアクリレートモノマーが使用されており(特開平5-287028号公報、特開2008-31459号公報、特開2008-179662号公報、特開2007-45850号公報参照)、直鎖構造を有する単量体とβ分岐構造を有する単量体とを共重合して製造され得ることも一般的に知られている(特開2003-147332号公報、特開平7-300596号公報参照)。
しかしながら、^(13)C-NMR(核磁気共鳴)とは、印加された高振動の磁場の中において、炭素の同位体であって天然存在比が1.1%である^(13)Cが、隣接原子の種類や結合様式などに応じて、異なる振動を起こすことを利用するものであって、基準物質TMS(テトラメチルシラン)の振動数に対する観察された振動数の相対位置(化学シフト)などから、分子構造の分析を行うものであり、このように、化学シフトの値と分子構造との間に一定の関係があるものの、例えば、「ジョーンズ有機化学(下)第3版」(奈良坂紘一ら監訳、株式会社東京化学同人、2006年3月28日発行)の「表15・5 13C化学リフト」(745頁)(下記「※1」参照)からして、ある分子構造が有する化学シフトの幅は相当に広く、ある値の化学シフトから直ちに特定の分子構造が導けるわけではない。例えば、同「※1」において、直鎖構造のアルキル基が有するメチレンの炭素の化学シフトは15?55ppm、メチン(β分岐構造の分岐点)の炭素の化学シフトは25?55ppm、エーテルやアルコールの炭素の化学シフトは50?90ppmであり、分子構造が異なっていても、化学シフトの値が重複することは実際にあることからして、化学シフトが特定されれば、直ちに、それに対応する分子構造が一義的に特定されるものではない。つまり、一般に、M1およびM2だけからポリメタアクリレート側鎖の具体的な分岐構造や直鎖構造を特定することができるとはいえないことは技術常識である。
※1



イ M1、M2及びM1/M2について
本件訂正特許発明の粘度指数向上剤のM1は、【0056】によると、「ポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分岐構造」を意味するところ、ここでいう「特定の」の内容を具体的に特定する記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明にあるとは認められないから、この「特定の」は、「ある、その」との趣旨の修飾語にすぎず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載においては、「特定のβ分岐構造」とは、単に、β分岐構造と同義のことをいうものと理解される。
同じく、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤のM2は、【0056】によると、「ポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造」を意味するところ、ここでいう「特定の」の内容を具体的に特定する記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明にあるとは認められないから、この「特定の」は、「ある、その」との趣旨の修飾語にすぎず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載においては、「特定の直鎖構造」とは、単に、直鎖構造と同義のことをいうものと理解される。

ウ 製造について
以上からすると、ポリメタアクリレート側鎖の具体的な分岐構造や直鎖構造は、M1、M2又はM1/M2だけからでは特定できず、そして、β分岐構造を有する炭化水素基をメタアクリレート側鎖にする単量体と直鎖構造を有する炭化水素基をメタアクリレート側鎖にする単量体とを共重合してポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を製造することは技術常識であり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0059】の式(1)のメタアクリレートモノマー構造単位のR^(2)の炭素数16以上(50以下)の直鎖状又は分枝状の炭化水素基は、極めて多数存することが想定されるから、これらの特定から製造され得るポリメタアクリレート系粘度指数向上剤は、多数ある周知のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤と特段変わるところはないといえる。
そして、その多数の粘度指数向上剤の中から、M1、M2の狭い範囲のピーク面積の比を制御するために、具体的に、どの単量体をどの比率で用いればようかについての手掛かりは、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。

(3) その他のパラメーター
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0064】ないし【0070】には、PSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量とPSSIの比、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)、40℃と100℃における動粘度の増粘比ΔKV40/ΔKV100、100℃と150℃におけるHTHS粘度の増粘比に関する記載があり、また、実施例には、「A-1:ポリメタアクリレート(・・・ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、Mw=400,000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)」【0104】との記載がある。
しかしながら、上記分子量となるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤は、極めて多数存することが想定され、また、重量平均分子量と数平均分子量の比は、分子量の不均一性を示すものであり、直ちに、ポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の化学構造を示唆するものではなく、さらに、これらのパラメータとポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の化学構造との間に関する何らかの相関関係があるとする技術常識も認められない。

(4) まとめ
以上のとおりであり、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識を考慮しても、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤の化学構造を知ることができず、結局、当業者は、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するために、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載におけるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤についての特定(M1およびM2については除く)と技術常識に基いてポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を製造(購入)した後、その^(13)C-NMRを測定し、M1/M2が0.20以上3.0以下の範囲に含まれるか否か確認するという作業を、極めて多数のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤について繰り返し行わなくてはならない。
また、M1/M2が0.20以上3.0以下のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を製造(購入)して入手しても、上記「第6 1 (2) ア」で示したように、一般に、M1およびM2だけからポリメタアクリレート側鎖の具体的な分岐構造や直鎖構造を特定することができるとはいえないことは、技術常識であることからして、本件訂正特許発明が本来意図している粘度指数向上剤(特に、β分枝構造を有するメタアクリレートモノマーを構造単位として含有する粘度指数向上剤)が入手できていない場合も想定される。
そうすると、当業者が、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するには、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず、特許法第36条第4項第1号の要件に適合するものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1) 序
特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載された発明で、明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである、または、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要であり、明細書のいわゆるサポート要件については、出願人(特許権者)が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)。

(2) 本件訂正特許発明が解決しようとする課題
上記「第4 本件特許明細書の発明の詳細な説明」の「1 解決課題」で示した【0004】ないし【0007】からして、本件訂正特許発明の目的は、「150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供する」ことであり、そして、本件訂正特許発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、この目的を達成することにあるということができる。

(3) 本件訂正特許発明の発明特定事項
訂正後の請求項1ないし8の記載からして、本件訂正特許発明は、「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤」を発明特定事項にするものである。そして、上記「第6 1」で述べたとおり、化学シフトが特定されれば、それに対応する構造が一義的に特定されるものではないし、2つのピークやそれぞれの合計面積の比M1/M2には範囲(幅)があることから、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤には、化学構造が異なる多数のものが包含されていると認められる。

(4) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載と技術常識から、当業者において、本件課題が解決できると認識できる範囲について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記「第4 本件特許明細書の発明の詳細な説明」の「2 課題解決手段」、「4 実施形態」及び「5 実施例」で示した記載をみたとしても、本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を用いることによって、なぜ、本件課題が解決できるのかといった、作用機序についての説明はなく、また、ただ1つの実施例として記載された「A-1:ポリメタアクリレート(M1=0.60、M2=0.95、M1/M2=0.64、ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、Mw=400,000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)」(【0104】)が記載されているにすぎない。そして、技術常識からして、ポリメタアクリレートは、その構造の違いによって、異なる特性を有すると考えるのが妥当であるから、上記実施例のものが、所望の作用効果を有するからといって、これとは化学構造の異なるものを広範に包含する本件訂正特許発明の粘度指数向上剤の全てがこれと同様の作用効果を奏するとは認められない。
さらに、上記「第6 1」で検討したように、「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤」を製造(購入)して入手するには、過度の試行錯誤が要されるといわざるを得ないことからして、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤(後記のとおり、特許権者が意見書において例示する特定の単量体からなる共重合体に限られるものではない。)に属する種々の化合物を用いること自体、技術常識であるということはできない。
上記からして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載と技術常識を参酌しても、当業者は、「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤」(本件訂正特許発明の発明特定事項)の全てについて、「150℃におけるHTHS粘度が十分に高く、40℃における動粘度、100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度が十分に低い潤滑油組成物を提供する」という目的を達成せしめる(本件課題を解決せしめる)ものと認識することはできない。

(5) まとめ
以上のとおりであるので、訂正後の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
したがって、訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

3 決定の予告に対する平成30年1月9日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)における特許権者の主張について
(1)特許権者は、当該意見書において、
「乙号証各号(下記※2)が示す技術常識は当業者自身がよく知っていることである(すでに当業者の脳の中にはその情報がある)から、『本件出願の明細書には、乙号証各号についての記載は全くなく』ても、『当業者が本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するにあたり、これらの文献を』改めて『参酌する』までもなく、当業者は、自身がよく知る乙号証各号が示す『技術常識』を『参酌することが容易にできた』といえる。乙第1?8号証は、^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、Ml、M2のそれぞれに対応する化学シフトのピークを示すメタアクリレートを当業者自身が技術常識としてよく知っていたことを裏付ける証拠として提出したものであり、このことを当業者自身が知っている以上、『本件出願の明細書には、乙号証各号についての記載は全くな』いことは、『当業者が本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するにあたり』、何の障壁にもならない。」、「当業者においては、67MAが側鎖にβ分岐構造を有するメタアクリレートと、直鎖構造を有するメタアクリレートとの混合物であることを技術常識として知っているのだから、本件特許の発明の詳細な説明の記載と合わせ、67MAが^(13)C-NMRスペクトルにおいて化学シフト36-38ppmと64-66ppmのピークを示すメタアクリレートの混合物であることが理解される。並びに、G67MA、オククデシルアクリレート、DTDAがそれぞれβ分岐構造を有するメタアクリレートであることを技術常識として知っているのだから、本件特許の発明の詳細な説明の記載と合わせ、G67MA等が^(13)C-NMRスペクトルにおいて化学シフト36-38ppmのピークを示すメタアクリレートであることが理解される。したがってこれらのメクアクリレートについては、分子構造から化学シフトを予測することを要しない。」、
また、「『直鎖構造』が、炭素原子が環状分枝分かれの構造ではなく、1本の鎖状に連なっている構造であることは当業者のいわば技術常識である。」、「β分枝構造を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)と、直鎖構造を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)とを共重合することによりポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を製造することは当業者の間でよく知られた技術であ」り、「本件特許の発明の詳細な説明には、『側鎖の骨格鎖(直鎖)のβ位の炭素に分枝がありさえすればよい構造』、『側鎖鎖の骨格鎖(直鎖)の各炭素における分枝の有無が任意である構造』を意味する記載(表現)はない。本件特許の発明の詳細な説明によれば、『直鎖』と『β分岐』は明らかに別概念であって『直鎖』は『β分岐』を包含しておらず、そして、技術常識を参照すると、『直鎖構造』は上述のとおりの意味であるから、『直鎖』が『側鎖の骨格鎖』と同じ意味であるとは当業者は理解しない。」、「当業者は、『β分枝構造及び直鎖構造』が同一の構造単位中に存在するものを想起する」ことはない、「乙号証各号において示されている、β分枝構造を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)と、直鎖構造を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)」は当業者の技術常識であるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、これらを『共重合することにより製造されたポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を想起する』。」、
そして、「本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤は、本件特許明細書の記載及び技術常識を参酌した当業者が容易に得ることができるものであり、その入手に際して過度の試行錯誤を要するものではない。」旨の主張をしている。

(2)以下、上記主張について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、乙号証各号についての記載が全くないことからして、当業者が本件訂正特許発明の粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するにあたり、これらの文献を参酌することが容易にできたものとは認められず、仮に、乙号証各号が当業界において周知であるとしても、以下のことがいえるものと認められる。
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤について、これが、β分枝構造を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)と、直鎖構造を有する(メタアクリレートモノマー)とを共重合することにより得られるものであることを何ら記載も示唆もするものではなく、また、仮に、乙号証各号が当業界において周知であるとしても、下記「イ」で示すように、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤について、共重合体ではないポリメタアクリレート系粘度指数向上剤が想起されることからして、乙号証各号をもって、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤が共重合体であるとまでは断定できない。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「直鎖構造」の定義について、何ら記載も示唆もするものではないことからして、1本の鎖から枝分かれがあるとしても、1本の鎖の内に幾らかでも直鎖部分があれば(例えば、分枝のない連続した炭素が2、3個であって、それ以外の炭素については分枝しているものであっても)、この直鎖部分を指して「直鎖構造」とみることを排除するものではないといえる。また、実際に、^(13)C-NMRの化学シフトは、これらの構造各々に起因して現れるものであるから、側鎖の中に「直鎖構造」と「β分枝構造」とが併存し、それぞれの構造に基く^(13)C-NMRの化学シフトが現れることは、格別不自然なことではない。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0059】には、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の構造単位をただ一つの構造式で表現しているのだから、むしろ、このような(共重合体ではない)ポリマーを当業者は想起するといえる。加えて、「R^(2)は炭素数16以上の直鎖または分枝状の炭化水素基、あるいは、酸素および/または窒素を含有する炭素数16以上の直鎖または分枝状の有機基を示す。」との記載からして、当該ポリマーの選択肢は極めて多数である。
また、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤が共重合体であるという仮定に到達したとしても、本件の「直鎖構造」は、「最低限の直鎖部分があるとした上で、1本の鎖の各炭素における分枝の有無が任意である構造」を含み得るものであるから、本件の「直鎖構造の側鎖を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)」の数は、極めて多数であり、同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「β分枝構造」について、「β位の炭素に分枝がありさえすればよい構造(同一の構造単位中にβ分枝及び直鎖が併存する構造)」を排除するものではないので、本件の「β分枝構造の側鎖を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)」の数も、極めて多数である。
ウ 上記「第6 1 (2) ア」で示したように、「分子構造が異なっていても、化学シフトの値が重複することは実際にあ」り、また、下記「※3」で示すように、乙第1、3号証の記載からすると、「36-38ppmの化学シフトは、β分枝構造のメタアクリレート側鎖のβ位の炭素に由来するものである、とまではいえ」ないことは明らかであり、さらに、64-66ppmの化学シフトと直鎖構造との関係について、64-66ppmの化学シフトが、側鎖のある箇所の(限定された)直鎖構造に由来するものであるかどうかは明らかではない(例えば、1本の鎖の20番目(α位、β位・・・20番目)の炭素に分枝があるときには64-66ppmの化学シフトは観測されないのかどうかは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び周知技術(乙号証各号)をみたとしても明らかではない)。
エ 上記「ア」ないし「ウ」からして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、乙号証各号に記載された内容を想起し、本件訂正特許発明のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を、極めて多数のものから「特定の直鎖構造の側鎖を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)」及び「特定のβ分枝構造の側鎖を有する構造単位(メタアクリレートモノマー)」を選択して共重合することで製造することは、当業者といえども困難であり、結局、極めて多数の候補のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の一つ一つについて、^(13)C-NMR解析を行う必要があるので、上記「第6 1」及び「第6 2」でも述べたとおり、「M1/M2が0.20以上3.0以下」のポリメタアクリレート系粘度指数向上剤を製造(購入)して入手するには、過度の試行錯誤が要されると考えるのが妥当である。
したがって、当該意見書における特許権者の主張を採用することはできない。
なお、当該意見書における特許権者の主張と、平成29年2月20日付けの意見書、同年9月4日付けの意見書における特許権者の主張とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識(乙号証各号)を基礎とする主張という点で同等であることからして、平成29年2月20日付けの意見書、同年9月4日付けの意見書における特許権者の主張についても同じく採用することはできない。

※2
乙第1号証(特に、【0021】ないし【0023】、【0045】ないし【0047】、【0054】ないし【0057】、【0060】、【0080】、【0212】ないし【0216】参照)には、ネオドール67(67MA)、ネオドール67の2量化アルコール(G67MA)を粘度指数向上剤のメタアクリレートモノマーとして使用すること、67MAは、側鎖(炭素数16?17)のα位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるものと、側鎖のα位とβ位の炭素に分枝がないものの両方からなる(混合物である)こと、G67MAは、側鎖(炭素数32?34)のα位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるものであること、67MAの^(13)C-NMRの化学シフトが(・・67.4,37.1・・)であること、及び、G67MAの^(13)C-NMRの化学シフトが(・・64.6,37.0・・)であることの記載があり、
乙第2号証(特に、【請求項1】、【0018】、【0085】、【0091】、【0112】ないし【0114】、【0116】、【図2】参照)には、ネオドール67の2量化アルコール(G67MA)を粘度指数向上剤のメタアクリレートモノマーとして使用すること、G67MAは、側鎖のα位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるものであること、及び、G67MAの13C-NMRの化学シフトが(・・67.4,37.1・・)であることの記載があり、
乙第3号証(特に、【請求項1】、【0005】、【0064】、【0080】参照)には、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート(DTDA)(側鎖の炭素数は24)を粘度指数向上剤のメタアクリレートモノマーとして使用すること、DTDAは、側鎖のα位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるものであること、及び、DTDAの^(13)C-NMRの化学シフトが(・・67.3,37.2・・)であることの記載があり、
乙第4号証(特に、「4.粘度指数向上剤」参照)には、市販ポリメタアクリレートの^(13)C-NMRのスペクトルの図示、特に、ポリメタアクリリレート側鎖のCH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-(CH_(2))n-CH_(2)-CH_(2)-CH_(3)のα位の炭素の化学シフトが65ppm程度であることの記載があり、
乙第5号証(特に、「TABLE 1」参照)には、ポリオクタデシルアクリレートの側鎖(炭素数18)は、α位とβ位の炭素に分枝がないものであること、この側鎖のα位の炭素のケミカルシフト(^(13)C-NMR)が「65.3(実測値) 65.7(予測値)」であることの記載があり、
乙第6号証(特に、「2204頁の下から4行?同2行」、「Tab.1」、「Fig.1」参照)には、ポリオクタデシルメタクリレート(PODMA)(側鎖の炭素数は18)の^(13)C-NMRのスペクトルを示す記載があり、
乙第7号証(特に、【請求項1】、【0015】ないし【0017】、【0021】、【0096】参照)には、ネオドール67(67MA)を粘度指数向上剤のメタアクリレートモノマーとして使用すること、ネオドール67(67MA)は、側鎖のα位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるものと、α位とβ位の炭素に分子がないものの両方からなる(混合物である)こと、及び、67MAの^(13)C-NMRの化学シフトが(・・64.6,37.0・・)であることの記載があり、
乙第8号証(特に、【請求項1】、【0014】ないし【0016】、【0020】、【0074】参照)には、MA-N67が、ネオドール67のメタアクリレートであることの記載がある。

※3
メタアクリレート側鎖がβ分枝構造を有しているG67MA(乙第1号証、側鎖の炭素数は32または34)の化学シフトと、同乙第3号証のDTDA(側鎖の炭素数は24)の化学シフトは、それぞれ「167.1,136.4,124.8,64.6,37.0,32.6,31.8,29.9,29.6,29.5,29.3,29.1,28.5,27.0,25.9,22.6,22.5,19.5,18.1,13.9」(G67MA)と、「167.6,136.7,125.0,67.3,37.2,31.8,31.3,29.8,29.6,29.5,29.5,29.3,26.6,22.5,18.1,13.9」(DTDA)であって、ほぼ一致している化学シフトとして、「37.0(G67MA)、37.2(DTDA)」以外にも、「124.8、125.0」、「31.8、31.8」、「29.9、29.8」、「29.6、29.6」、「29.5、29.5」、「29.3、29.3」、「22.6、22.6」、「22.5、22.5」、「18.1、18.1」、「13.9、13.9」があり、これらのほぼ一致している化学シフトの内の「37.0(G67MA)、37.2(DTDA)」のみを取り上げ、この一致が、G67MAとDTDAそれぞれが有している、メタアクリレート側鎖のα位に分枝がなくβ位の炭素に分枝があるβ分枝構造のβ位の炭素に基いているという理由が明らかにされていないので、「37.0(G67MA)、37.2(DTDA)」という一致だけをもって、36-38ppmの化学シフトは、β分枝構造のメタアクリレート側鎖のβ位の炭素に由来するものである、とまではいえない。

第7 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人(中嶋はな代)は、平成28年7月20日付け特許異議申立書及び平成29年4月6日付けの意見書のそれぞれにおいて、以下のように主張する。
証拠方法
・甲第1号証:特表2010-532805号号公報
・甲第2号証:米国特許出願公開第2012/0135900号明細書
・甲第3号証: H.E. Henderson et al.,Compositional Features of New High Performance Specialty Base Fluids ; 218th National Meeting, American Chemical Society, New Orleans, LA, August 22-26, 1999
・甲第4号証: www.neste.com:Nexbase 3000series properties
・甲第5号証: www.benzeneinternational.com:Group I characteristics
・甲第6号証: www.benzeneinternational.com:Group III characteristics
・甲第7号証:ASTM D6022
・甲第8号証:表1

本件(訂正)特許発明は、甲第1号証記載の発明と同一であるか、甲第2号証ないし甲第8号証記載の事項(周知技術)を鑑みて甲第1号証に記載されているに等しい発明であり、また、甲第1号証記載の発明と甲第2号証ないし甲第8号証記載の事項(周知技術)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
しかしながら、甲第1号証には、α位の炭素に分枝がなくβ位の炭素に分枝がある側鎖と、α位とβ位の炭素に分枝がない側鎖が存在する櫛形ポリマー(潤滑油組成物の成分)についての記載はあるものの、^(13)C-NMRにおける化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と、同化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2を計測することについての記載及び示唆は一切なく、また、特許異議申立人は、甲第1号証の【0132】【表1】の実施例2の櫛形ポリマー(水素化ポリブタジエン(hBMA)25質量%、ブチルメタクリレート(nBMA)64質量%、スチレン(Sty)12質量%からなるもの)のM1/M2を検証し、これが0.4であることを主張しているものの、そもそも、この実施例2の櫛形ポリマーの構成は、概略的なものであって、その具体的構造が明らにされていないので、このM1/M2=0.4(具体的構造が明らかでないものの値)に客観的合理性を認めることはできない。
次に、甲第2ないし8号証をみると、甲第2号証の公開日は、2012年5月31日であり、一方、本件出願の親出願の出願日は、2009年6月4日であるので、甲第2号証は、本件出願の親出願の出願日の前の文献(非公知文献)であり、そして、甲第1号証と同じく、甲第3号証ないし甲第7号証にも、^(13)C-NMRにおける化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と、同化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2を計測することについての記載及び示唆は一切なく、さらに、甲第8号証は、本件(訂正)特許発明と甲第1号証とを対比する表である。
そうすると、甲第1ないし8号証より、「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤」という事項を導き出すことはできないので、これを発明特定事項とする本件(訂正)特許発明は、「甲第1号証記載の発明と同一であるか、甲第2号証ないし甲第8号証記載の事項(周知技術)を鑑みて甲第1号証に記載されているに等しい発明であり、また、甲第1号証記載の発明と甲第2号証ないし甲第8号証記載の事項(周知技術)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。」及び「本件(訂正)特許発明は、依然として甲第1号証に記載された発明であり(甲第1号証記載の発明と同一であり)、また、本件(訂正)特許発明は、依然として甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」とはいえないと判断し、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由を採用しなかった。

第8 むすび
以上のとおり、訂正後の請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が1?20mm^(2)/sであり、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上である潤滑油基油と、
下記式(1)で表される構造単位の割合が10モル%以上70モル%以下であり、かつ、^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリメタアクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有し、100℃におけるHTHS粘度が5.0mPa・s以下であり、150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比(150℃におけるHTHS粘度/100℃におけるHTHS粘度)が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】

[式(1)中、R^(1)はメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上50以下の直鎖または分枝状の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
前記粘度指数向上剤が、PSSIが40以下、重量平均分子量とPSSIの比が1×10^(4)以上のものであるであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
重量平均分子量が10万以下のポリ(メタ)アクリレートをさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
40℃における動粘度が4?50mm^(2)/sであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油基油の流動点が-10℃以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑油基油のヨウ素価が3以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油基油の%C_(p)が70以上であること特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-23 
出願番号 特願2014-78674(P2014-78674)
審決分類 P 1 651・ 536- ZAA (C10M)
P 1 651・ 121- ZAA (C10M)
P 1 651・ 537- ZAA (C10M)
P 1 651・ 113- ZAA (C10M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5845304号(P5845304)
権利者 JXTGエネルギー株式会社
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 吉住 和之  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 中塚 岳  
代理人 平野 裕之  
代理人 黒木 義樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
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