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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1341966 |
異議申立番号 | 異議2017-701020 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-25 |
確定日 | 2018-05-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6121887号発明「噴霧型化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6121887号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、8について訂正することを認める。 特許第6121887号の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許を維持する。 特許第6121887号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第6121887号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年11月25日に出願され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月26日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許の全請求項について、同年10月25日に特許異議申立人 中谷 浩美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月26日付けで取消理由が通知され、同年3月26日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 特許権者は、本件特許の特許請求の範囲を平成30年3月26日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求める。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は以下の(1)?(5)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 請求項1に「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤および親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物」と記載されているのを「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物」に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2?4、6及び7も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項5を削除する。 (3)訂正事項3 請求項6に「請求項1ないし請求項5」と記載されているのを「請求項1ないし請求項4」に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項7に「請求項1ないし請求項6」と記載されているのを「請求項1ないし請求項4及び請求項6」に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項8に「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤および親水性凝集性高分子を混合してゲル化させ」と記載されているのを「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を混合してゲル化させ」に訂正する。 3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か (1)訂正事項1について 請求項1についての訂正は、請求項1に係る発明の「ゲル化物」を形成する成分の一つについて、訂正前に「親水性凝集性高分子」とあったものを、「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」であると特定し限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記限定事項は、訂正前の請求項5及び本件特許明細書【0030】に記載されている。 したがって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、訂正後の請求項2?4、6?7は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、請求項2?4、6?7についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について この訂正は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (3)訂正事項3及び4について この訂正は、請求項5の削除にともない、請求項5を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項5について この訂正は、請求項8に係る発明の「混合してゲル化させ」る成分の一つについて、訂正前に「親水性凝集性高分子」とあったものを、「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」であると特定し限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記限定事項は、訂正前の請求項5及び本件特許明細書【0030】に記載されている。 したがって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)一群の請求項ごとか否か 本件訂正に係る訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が訂正の請求の対象である請求項1を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1?7〕、8についての訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4、6?8に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子を含有する組成物を、ミスト状に噴霧する機構を有する容器に充填してなることを特徴とする噴霧型化粧料。 【請求項2】 ミクロゲル粒子を含有する組成物の25℃における粘度が1000?15000mPa・sである請求項1記載の噴霧型化粧料。 【請求項3】 架橋剤が、水溶液中で多価金属イオンを生成する化合物である請求項1又は請求項2記載の噴霧型化粧料。 【請求項4】 親水性凝集性高分子の乾燥粉末状態での平均粒径が、150μm以下である請求項1ないし請求項3の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項6】 ミクロゲル粒子を含有する組成物中におけるミクロゲル粒子の平均粒径が0.05?1000μmである請求項1ないし請求項4の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項7】 ミスト状で皮膚に噴霧されるものである請求項1ないし請求項4及び請求項6の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項8】 少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を混合してゲル化させ、このゲル化物を微細化し、ミクロゲル粒子とする工程を含む噴霧型化粧料用ミクロゲル粒子を含有する組成物の製造方法。」 2 申立人の取消理由の概要 申立人は、証拠方法として以下の甲第1ないし5号証を提示し、概略、次の取消理由1?5を主張する。 (1)取消理由1 本件特許の請求項1、3、7、8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由2 本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)取消理由3 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?8の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (4)取消理由4 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?4、6?8の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (5)取消理由5 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?4、6?8の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (6)証拠方法 甲第1号証:南昌義、「増粘・ゲル化剤の物性」、フレグランスジャーナ ル、2012年3月号(Vol.40,No.3)通巻38 1、フレグランスジャーナル社、平成24年3月15日、5 7?62頁 甲第2号証:特開2005-82527号公報 甲第3号証:高橋禮治、「でん粉製品の知識」、幸書房、2006年6月 25日、46?71頁 甲第4号証:中塚昭男、森光裕一郎、「化粧品に適した新規アクリル系増 粘剤の開発」、フレグランスジャーナル、2012年4月号 (Vol.40,No.4)通巻382、フレグランスジャ ーナル社、平成24年4月15日、50?52頁 甲第5号証:島田邦男、「高分子の溶解法」、フレグランスジャーナル、 2012年7月号(Vol.40,No.7)通巻385、 フレグランスジャーナル社、平成24年7月15日、74? 77頁 (なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。) (7)付記 申立人は、特許異議申立書において特許法第120条の5第5項に係る意見書の提出を希望しているが、同項ただし書によれば、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、この限りではないとされている。 そこで、本件についてみると、本件訂正は、上記第2の3で述べたとおり、請求項1及び請求項8に、訂正前の請求項5に記載されていた発明特定事項を記載するとともに請求項5を削除したものであるから、実質的な内容の変更を伴うものでなく、本件特許異議の申立てについての実質的な判断に影響を与えるものでないから、上記特別の事情があるときに該当する。 よって、申立人に意見を提出する機会を与えないものとする。 3 合議体が通知した取消理由の概要 当合議体が、平成30年1月26日付けで通知した取消理由の概要は、請求項5について通知しなかったことを除き、上記申立人の取消理由3?5と同旨である。 4 取消理由1?5の当否について (1)取消理由1について(甲1を主引用文献とする新規性) 申立人は、本件訂正前の請求項5を取消理由1の対象としていなかったところ、本件訂正発明1は、上記請求項5にあった「親水性凝集性高分子が、球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である」との発明特定事項の全てを含むもの、すなわち、本件訂正前の請求項5に係る発明と同じである。 また、本件訂正発明8も同様に、上記請求項5の「親水性凝集性高分子が、球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である」との発明特定事項の全てを含むものである。 そうすると、上記第2のとおり本件訂正が認められたので、本件訂正発明1は、実質的に取消理由1の申立ての対象としていない請求項に係る発明になったといえるから、本件訂正発明1に対する申立人の取消理由1は、理由がない。 そして、本件訂正発明2?4、6?7は、本件訂正発明1を引用するため、また、本件訂正発明8は、本件訂正発明1と同旨の発明特定事項を有するため、本件訂正発明1について述べたところと同様に、これら発明に対する申立人の取消理由1も、理由がない。 (2)取消理由2について(甲1を主引用文献とする進歩性) ア 甲1の記載事項及び甲1記載の発明 (ア)甲1は、「増粘・ゲル化剤の物性」と題する論文であり、主にパーソナルケア分野で使用される増粘・ゲル化剤の特徴や、ジェランガムを使用したフルードゲルとキサンタンガムの併用による流動特性に関する技術を開示するものであるところ(57頁左欄9?11行)、甲1の「6.フルードゲル」の項目に、次のような記載がある。 a 「フルードゲルとは,あたかもゲルであるかのように含有成分を分散・安定させることができ,かつシェアをかけた場合,水に近い流動性を示すゲルのことである。ゲルの作成方法としては,加熱溶解したゲル水溶液を攪拌しながら冷却しゲル化させるか,固化したゲルを攪拌し細かく粉砕する。ゲルを細かく粉砕したものであるため,静置するとゲルに近い性質を示し,沈降防止効果が非常に大きい。シェアをかければ水に近い性質を示す。使用感としては,水に近くさっぱりしている。」(61頁左欄2?11行) b 「ケルコゲルCG-LA(本決定注:ジェランガム)を使用したフルードゲルの状態を図5に示す。写真からわかるように懸濁粒子は溶液中に沈降せずに浮遊しているが,スプレーも可能である。」(61頁右欄1?4行) 図5は、容器からスプレーしている写真であり、「スプレー噴霧が可能」と記載されている。 c 以下に示すジェランガムとキサンタンガムを併用したフレッシュローズスプレーの作成手順が記載されている(62頁表4)。 1. イオン交換水にクエン酸Naを添加し、プロペラ攪拌機を用いて溶解 させる。 2. Kelcogel CG-LA(ジェランガム)及びKeltrol CG-SFT(キサンタンガム)を攪拌しながら水溶液に添加し、分散 させる。 3. 58?60℃まで加熱し、ガム類を溶解させる。攪拌しながら塩化カ ルシウム水溶液(0.5M)を添加し、その後、Phytofleur Frensh Rose EC(水、グリセリン、ガリカバラ花エキス、 ダマスクバラ花油)、D-パンテノール及びアロエベラ液汁(10倍)を 添加する。 4. 攪拌しながら系を冷却する。 5. 室温でGeogard 221(デヒドロ酢酸、ベンジルアルコール )、6110658 Fresh Rose Fragrance W/ S(香料)、及びISP Captivates GL 7003(水、 アルギン酸Na、グンジョウ(CI77007)、キサンタンガム、塩化 Ca、PG、ベンジルアルコール)を添加する。必要に応じてpH調整す る。 6. 脱気後、容器に充填する。 d 「ケルコゲルCG-LA(本決定注:ジェランガム)を使用したフルードゲルはキサンタンガムと同様に大きなシュードプラスチック性を示す。・・・ 流動特性はほぼ同じでシュードプラスチック性が大きく沈降防止効果が大きい。水のようなさっぱりした感触からキサンタンガムの添加量が増えるにしたがってしっとりした感触になる。ジェランガムを使用したフルードゲルとほかの増粘剤を併用することでカルボキシビニルポリマーに近い感触の物の作成も可能であると思われる。」(62頁左欄1?13行) (本決定注:シュードプラスチック性とは、シェアの小さいところでは粘度が高く、シェアが大きくなると粘度が低くなる性質のことである。キサンタンガムやカルボキシビニルポリマーはシュードプラスチック性を示す。甲1の58頁左欄6?10行参照) (イ)甲1には、ジェランガムはネイティブジェランガムを脱アシル化して製造されるものと記載されているから(57頁右欄16?17行)、甲1のジェランガムは脱アシル型ジェランガムといえる。 また、ゲル化剤の特性について、金属イオンを添加してゲル化するものがあると説明され、ジェランガムのゲル化の必要条件としてCa^(2+)が挙げられていることから(60頁左欄1?5行及び表2)、上記(ア)cのフレッシュローズスプレーに配合されている塩化Caはジェランガムのゲル化剤、すなわち架橋剤である。 そして、上記フレッシュローズスプレーは、上記(ア)cの作成手順において、ジェランガムとキサンタンガムを加熱溶解し、架橋剤を添加した後、攪拌しながら冷却するものであり、上記(ア)aからみて、ジェランガムを使用したフルードゲルであるといえる。 (ウ)これらのことから、甲1には、本件訂正発明1に倣って書き表すと、次の発明(甲1発明)が記載されていると認める。 「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びにキサンタンガムから形成されるフルードゲルを含有する組成物を、容器に充填してなるフレッシュローズスプレー。」 イ 本件訂正発明1と甲1発明との対比 (ア)本件特許明細書の【0027】には、ミスト状に噴霧する機構を有する容器としては、ミスト状(霧状)に噴霧することができるものであれば限定されないと記載されている。 そして、甲1には、容器からスプレーしている写真とともに、フルードゲルがスプレー噴霧可能なものであることが示されている(上記ア(ア)b)。また、甲1は、パーソナルケア分野に関する技術を開示するものであることからも、フレッシュローズスプレーは化粧料といえる。 したがって、甲1発明の「容器に充填してなるフレッシュローズスプレー」は、本件訂正発明1の「ミスト状に噴霧する機構を有する容器に充填してなる噴霧型化粧料」に相当する。 (イ)本件訂正発明1の「ミクロゲル粒子」について、本件特許明細書の【0020】?【0021】には、脱アシル型ジェランガム、架橋剤及び親水性凝集性高分子を混合してゲル化し、ゲル化が完了した後に剪断力を与えるか、ゲル化を促す冷却中に剪断力を与えることでゲルを崩壊させて微細化することにより得られるものであることが記載されている。 一方、甲1発明のフルードゲルも、脱アシル型ジェランガム、架橋剤及びキサンタンガムを混合後、攪拌しながら冷却して得られるものであり(上記ア(ア)c)、フルードゲルは、ゲルを細かく粉砕したものであることも記載されている(上記ア(ア)a)。 そして、甲1発明の「キサンタンガム」と、本件訂正発明1の「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」とは、高分子化合物である点で共通する。 したがって、甲1発明の「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びにキサンタンガムから形成されるフルードゲル」と、本件訂正発明1の「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子」とは、「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子」で共通する。 (ウ)以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子を含有する組成物を、ミスト状に噴霧する機構を有する容器に充填してなることを特徴とする噴霧型化粧料。」である点 相違点: 「高分子」について、本件訂正発明1は「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」であると特定するのに対し、甲1発明は「キサンタンガム」である点 ウ 相違点についての検討 (ア)甲1発明は、ジェランガムを使用したフルードゲルとキサンタンガムを併用した処方例であるが、甲1には、フルードゲルについて、上記ア(ア)a、bに、静置するとゲルに近い性質を示し、シェアをかければ水に近い流動性を示すものであり、スプレー可能であることが記載されている。 また、上記ア(ア)dには、ジェランガムを使用したフルードゲルは、キサンタンガムと同様にシュードプラスチック性を示すことや、キサンタンガムと併用した場合に、キサンタンガムの量が増えるにしたがって、水のようなさっぱりした感触からしっとりした感触となること、キサンタンガムとは異なる他の増粘剤を併用することで、カルボキシビニルポリマーに近い感触のものも作成可能であると思われることが示されている。 さらに、甲1には、増粘剤の原料による分類が示され、キサンタンガムの他に加工デンプンや、合成品であるポリアクリル酸ソーダなどが例示されている(58頁の表1)。 しかしながら、甲1発明は、スプレー可能な処方であるところ、甲1の表1に記載されている増粘剤は、公知の増粘剤を原料によって分類したものに過ぎず、ジェランガムと併用してスプレー可能な流動性を示す増粘剤の候補として示されたものではない。 しかも、甲1には、増粘剤の候補として球状カルボマーNaもヒドロキシプロピルデンプンリン酸も記載されていない。 よって、甲1発明において、「キサンタンガム」に代えて「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」を採用する動機はない。 (イ)ここで、甲1には、カルボキシビニルポリマーがキサンタンガムと同様にシュードプラスチック性を示す増粘剤として記載されており(58頁左欄2?10行)、表1には、加工デンプンが示されている。 そして、甲4には、カルボマーの改良品として、化粧品に適した新規アクリル系増粘剤である既中和型カルボマーである球状カルボマーNaが記載されており(50頁右欄9行?51頁左欄22行)、甲5には、水系増粘剤としての代表的高分子をまとめた表1に、キサンタンガムと併記して、カルボマー(カルボキシビニルポリマー)及びヒドロキシプロピルデンプンリン酸(加工デンプン)が記載されている(75頁の表1)。 しかしながら、甲4及び甲5に記載の球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸が、ジェランガムを使用したフルードゲルと併用した場合に、キサンタンガムと同様にスプレー可能な処方を形成できるかどうかを予測することはできず、甲1発明において、甲4及び甲5に接した当業者が、「キサンタンガム」に代えて「球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子」を採用することを容易になし得るとまではいえない。 (ウ)そして、本件特許明細書によれば、本件訂正発明1の特定のミクロゲル粒子を含有する組成物を用いた噴霧型化粧料は、噴霧時に均一な液滴を生成させることができ、広範囲に渡って均一に噴霧できるものである(【0012】及び【0032】の【表1】)。 したがって、仮に、甲1発明において、キサンタンガムとは異なる増粘剤として、周知の増粘剤であるとして、甲4又は甲5に記載されている球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸を採用したとしても、甲1にはそもそも、スプレー可能な処方であることが記載されているに留まり、噴霧時に均一な液滴を生成させることができ、広範囲に渡って均一に噴霧できるものである噴霧型化粧料が得られるという、本件訂正発明1の奏する効果を予測することはできない。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲4?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 なお、甲2には、脱アシル型ジェランガムと架橋剤から形成されるゲル化物を粉砕したミクロゲルの平均粒径や25℃における粘度が記載されており、甲3には、デンプンの平均粒径が記載されているが、これらの証拠の記載を考慮しても本件訂正発明1が、甲1発明及び甲4?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということにはならない。 オ 本件訂正発明2?4、6?7について 本件訂正発明2?4、6?7は、本件訂正発明1を引用してさらに特定するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲4?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 カ 本件訂正発明8について 本件訂正発明8は、本件訂正発明1の噴霧型化粧料用のミクロゲル粒子を含有する組成物を製造する方法であって、前記ミクロゲル粒子が、少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を混合してゲル化させる工程を含む製造方法に関するものであるから、本件訂正発明1について検討したことと同様の理由により、噴霧型化粧料用のミクロゲル粒子を含有する組成物を製造する方法が、甲1発明及び甲4?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 キ 取消理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立人の主張する取消理由2は理由がない。 (3)取消理由3?5について(36条6項1号、36条6項2号及び36条4項1号) ア 取消理由4及び5について(36条6項2号及び36条4項1号) 申立人は、本件訂正前の請求項5を取消理由4及び5の対象としていなかったところ、上記第2のとおり本件訂正が認められたので、本件訂正後の請求項は、実質的に、取消理由4及び5の対象としていないものとなった。よって、申立人の取消理由4及び5は、理由がない。 イ 取消理由3について(36条6項1号) (ア)本件訂正発明1は、本件訂正前の請求項5の発明特定事項を全て含むものであるところ、申立人の主張する取消理由3のうち本件訂正前の請求項5に関する理由も含む理由は、要するに、次のa?cに集約されるものである。 a 本件特許明細書の実施例では、脱アシル型ジェランガムと、架橋剤と、球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子と、さらにキサンタンガムが併用されており、キサンタンガムが併用されていないものは、球状カルボマーNaを用いたわずか2例しかなく、しかも、球状カルボマーNaとは全く構造が異なるヒドロキシプロピルデンプンリン酸についてはキサンタンガムが併用されていない例はないため、キサンタンガムを含有しない場合でも本件訂正発明の課題が解決されるのかを当業者は理解できない。 b 甲1によれば、脱アシル型ジェランガムと架橋剤との組合せのみで、既に本件訂正発明の課題が解決されていると理解し得るところ、本件特許明細書の実施例を参酌しても、この2成分に、球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を組み合わせることで課題が解決されると理解できない。 c 本件訂正発明は、ミクロゲル粒子を形成することを課題解決の前提としているところ、他の成分も配合した実施例2?4では、ミクロゲル粒子が形成されたか否かも不明であるため、本件訂正発明の課題が解決されることを当業者は理解できない。 (イ)そこで検討するに、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 (ウ)これを本件訂正発明についてみると、本件特許明細書【0008】の記載から、本件訂正発明の解決課題は、粘性を有し、外観にとろみ感があり、使用時にヨレがなく、濃厚感に優れた粘性のある組成物でありながら、噴霧時に均一な液滴を生成させることができ、広範囲に渡って均一にミスト状で拡散可能である噴霧型化粧料を提供することと認められる。 そして、脱アシル型ジェランガムに架橋剤を加えて水性溶媒をゲル化させる際に、球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を加えると、架橋される脱アシル型ジェランガムの網目構造中に親水性凝集性高分子が取り込まれた状態でゲル化され、このゲル化物を更に崩壊させて微細化させたミクロゲル粒子を含有する組成物を噴霧型化粧料において使用すると、噴霧時に細かく均一なミストを生成することが可能であり、またミストの拡散性も優れているという知見に基づき、少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤及び球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子を含有する組成物とすることで上記課題を解決したものである。 また、上記組成物とすることで課題を解決できることは、実施例1?4において、脱アシル型ジェランガム、塩化カルシウム(架橋剤)及び球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を用いてミクロゲル粒子を含有する組成物を形成し、容器に充填したものについて、霧の細かさ(液滴の均一性)、霧の拡散性及び霧分布の均一性の評価が優れていたことや、ミストの均一な噴霧性及び拡散性に優れていたことによって示されている。 よって、本件訂正発明は、いわゆるサポート要件を満たしている。 (エ)申立人の上記主張a?cについて順に検討する。 a 本件特許明細書の実施例1の発明品1及び実施例4には、キサンタンガムを併用することなく球状カルボマーNaを用いてミクロゲル粒子を含有する組成物を調製し、評価した結果、霧の細かさ(液滴の均一性)、霧の拡散性及び霧分布の均一性の評価が優れていたことや、ミストの均一な噴霧性及び拡散性に優れていたことが示されている。 ヒドロキシプロピルデンプンリン酸について、キサンタンガムを併用しない実施例はないが、キサンタンガムを添加することは、外観の均一性及び経時安定性の向上に関与することが説明されているところ(【0023】)、実施例1の発明品7及び実施例2には、外観の均一性及び経時安定性以外の、霧の細かさ(液滴の均一性)、霧の拡散性及び霧分布の均一性の評価が優れていたことや、ミストの均一な噴霧性及び拡散性に優れていたことが示されており、このことから、キサンタンガムを添加しなくても、本件訂正発明の課題を解決し得ることを当業者は理解し得るといえる。 b 甲1には、脱アシル型ジェランガムと架橋剤との組合せによって、シュードプラスチック性を示しスプレー可能なフルードゲルが得られることが示されているに留まり、それに対し、本件訂正発明は、さらに球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を用いることで、本件特許明細書の実施例に示されるとおり、本件訂正発明の課題を解決し得たものである。 c 実施例2?4には、ミクロゲル粒子の粒径を測定した結果は示されていないが、実施例1の発明品1?7には、脱アシル型ジェランガムと架橋剤及び球状カルボマーNa又はヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子以外の成分を含む組成物におけるミクロゲル粒子の平均粒径を測定した結果が示されていることから、本件特許明細書に示される手法により、他の成分も含有する実施例2?4においても平均粒径を測定し得ることを当業者は理解できるといえる。 そして、実施例2?4についても、本件訂正発明の課題に対応する、ミストの均一な噴霧性及び拡散性に優れていたことが示されており、このことからも所望のミクロゲル粒子が得られていることを理解することができる。 d よって、申立人の主張はいずれも採用し得ない。 (オ)取消理由3についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立人の主張する取消理由3は、理由がない。 (4)合議体が通知した取消理由について(36条6項1号、36条6項2号及び36条4項1号) 上記3のとおり、当合議体が通知した取消理由は、本件訂正前の請求項5を対象としていなかったところ、上記第2のとおり本件訂正が認められたので、本件訂正後の請求項は、実質的に、当合議体が通知した取消理由の対象としていないものとなった。よって、当合議体が通知した取消理由は、理由がない。 第4 むすび 以上のとおり、申立人の主張する取消理由1?5及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?4、6?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?4、6?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、異議申立人の請求項5に係る特許についての特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、請求項5に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子から形成されるゲル化物を微細化させたミクロゲル粒子を含有する組成物を、ミスト状に噴霧する機構を有する容器に充填してなることを特徴とする噴霧型化粧料。 【請求項2】 ミクロゲル粒子を含有する組成物の25℃における粘度が1000?15000mPa・sである請求項1記載の噴霧型化粧料。 【請求項3】 架橋剤が、水溶液中で多価金属イオンを生成する化合物である請求項1又は請求項2記載の噴霧型化粧料。 【請求項4】 親水性凝集性高分子の乾燥粉末状態での平均粒径が、150μm以下である請求項1ないし請求項3の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項5】 ( 削 除 ) 【請求項6】 ミクロゲル粒子を含有する組成物中におけるミクロゲル粒子の平均粒径が0.05?1000μmである請求項1ないし請求項4の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項7】 ミスト状で皮膚に噴霧されるものである請求項1ないし請求項4及び請求項6の何れかの項記載の噴霧型化粧料。 【請求項8】 少なくとも脱アシル型ジェランガム、架橋剤並びに球状カルボマーNaまたはヒドロキシプロピルデンプンリン酸である親水性凝集性高分子を混合してゲル化させ、このゲル化物を微細化し、ミクロゲル粒子とする工程を含む噴霧型化粧料用ミクロゲル粒子を含有する組成物の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-10 |
出願番号 | 特願2013-242489(P2013-242489) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 853- YAA (A61K) P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 851- YAA (A61K) P 1 651・ 113- YAA (A61K) P 1 651・ 121- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岩下 直人、團野 克也 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
長谷川 茜 関 美祝 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6121887号(P6121887) |
権利者 | 株式会社コーセー |
発明の名称 | 噴霧型化粧料 |
代理人 | 特許業務法人 小野国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人小野国際特許事務所 |