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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1341967
異議申立番号 異議2017-700268  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-14 
確定日 2018-05-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5991394号発明「蓋体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5991394号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?3]について訂正することを認める。 特許第5991394号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第5991394号の請求項2及び3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成22年 9月 3日 特願2010-198062号(以下「原出願」
という。)の出願
平成26年12月 4日 原出願の拒絶査定
平成27年 3月 9日 原出願の一部を新たな特許出願(特願2015-
46301号)として出願
平成28年 8月26日 特許権の設定登録(特許第5991394号(以
下「本件特許」という。))
平成29年 3月14日 特許異議申立人久門享(以下「申立人」という。
)による特許異議の申立て
平成29年 6月 6日 取消理由通知
平成29年 8月 4日 訂正の請求、意見書提出(特許権者)
平成29年 9月27日 意見書提出(申立人)
平成29年11月29日 取消理由通知
平成30年 2月 2日 訂正の請求、意見書提出(特許権者)

なお、平成30年2月2日付け訂正の請求による訂正事項について、特許異議申立人からは意見が提出されなかった。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年2月2日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第5991394号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は以下の(1)?(6)のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
なお、平成29年8月4日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記積層シーラントは、
前記基材シート側から順に、前記アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン-酸コポリマー層と、
前記エチレン-酸コポリマー層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、
前記エチレン-酸コポリマー層と前記基材シートとの接着強度は、前記低温シーラント層と前記開口部との接着強度より高く、」とあるのを、
「前記積層シーラントは、
前記基材シート側から順に、前記アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と前記基材シートとの接着強度は、前記低温シーラント層と前記開口部との接着強度より高く、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に
「前記蓋体の一部の領域には、前記低温シーラント層の前記開口部にシールされる側の最表面から前記下層の前記上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画するハーフカットが形成されており、
前記ハーフカットが形成された前記一部の領域にある前記上層を前記下層から剥離除去することによって、前記下層及び前記積層シーラントを貫通する前記湯切り孔が形成され、
前記上層の前記下層側の最表層はポリエチレンテレフタレート層であり、前記下層の前記上層側の最表層はポリエチレン層であることを特徴とする、蓋体。」とあるのを、
「前記蓋体の一部の領域には、
前記低温シーラント層の前記開口部にシールされる側の最表面から前記下層の前記上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、
前記蓋体には、前記基材シートの他方面側の最表面から前記下層の内部の位置にまで形成され、前記一部の領域と前記一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、
前記第1のハーフカットが形成された前記一部の領域にある前記上層を前記下層から剥離除去することによって、前記下層及び前記積層シーラントを貫通する前記湯切り孔が形成され、
前記上層の前記下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、前記下層の前記上層側の最表層はポリエチレン層であり、前記下層は、前記ポリエチレン層と前記アルミ二ウム層との間に第2のポリエチレンテレフタレート層が積層され、
前記第2のハーフカットが、前記基材シートの他方面側の最表面から、前記下層の前記ポリエチレン層を貫通し、前記下層の前記第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されていることを特徴とする、蓋体。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に
「エチレン-酸コポリマー層」とあるのを、
「エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または2に記載の蓋体。」とあるのを、
「請求項2に記載の蓋体。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0007】に
「本発明は、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体に関する。蓋体は、基材シートと、基材シートの一方面に貼着され、開口部をシールするための積層シーラントとを備える。基材シートの一方面側の最表層はアルミニウム層であり、積層シーラントは、基材シート側から順に、アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン-酸コポリマー層と、エチレン-酸コポリマー層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、エチレン-酸コポリマー層と基材シートとの接着強度は、低温シーラント層と開口部との接着強度より高い。基材シートは、積層シーラント側から順に、下層と、下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、蓋体の一部の領域には、低温シーラント層の開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、蓋体には、基材シートの他方面側の最表面から上層の下層側の最表面にまで達し、一部の領域と一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、第2のハーフカットに沿う形で、第1のハーフカットが形成された一部の領域にある上層を下層から剥離除去することによって、下層及び積層シーラントを貫通する湯切り孔が形成され、下層は、積層シーラント側から、アルミニウム層と、ポリエチレンテレフタレート層と、ポリエチレン層とがこの順で積層されている。また、本発明は、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体に関する。蓋体は、基材シートと、基材シートの一方面に貼着され、開口部をシールするための積層シーラントとを備える。基材シートの一方面側の最表層はアルミニウム層であり、積層シーラントは、基材シート側から順に、アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン-酸コポリマー層と、エチレン-酸コポリマー層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、エチレン-酸コポリマー層と基材シートとの接着強度は、低温シーラント層と開口部との接着強度より高い。基材シートは、積層シーラント側から順に、下層と、下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、蓋体の一部の領域には、低温シーラント層の開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画するハーフカットが形成されており、ハーフカットが形成された一部の領域にある上層を下層から剥離除去することによって、下層及び積層シーラントを貫通する湯切り孔が形成され、上層の下層側の最表層はポリエチレンテレフタレート層であり、下層の上層側の最表層はポリエチレン層である。」とあるのを、
「本発明は、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体に関する。蓋体は、基材シートと、基材シートの一方面に貼着され、開口部をシールするための積層シーラントとを備える。基材シートの一方面側の最表層はアルミニウム層であり、積層シーラントは、基材シート側から順に、アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と基材シートとの接着強度は、低温シーラント層と開口部との接着強度より高い。基材シートは、積層シーラント側から順に、下層と、下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、蓋体の一部の領域には、低温シーラント層の開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、蓋体には、基材シートの他方面側の最表面から下層の内部の位置にまで形成され、一部の領域と一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、第1のハーフカットが形成された一部の領域にある上層を下層から剥離除去することによって、下層及び積層シーラントを貫通する湯切り孔が形成され、上層の下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、下層の上層側の最表層はポリエチレン層であり、下層は、ポリエチレン層とアルミニウム層との間に第2のポリエチレンテレフタレート層が積層され、第2のハーフカットが、基材シートの他方面側の最表面から、下層のポリエチレン層を貫通し、下層の第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されている。」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてするものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するのみであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであり、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4は、エチレン-酸コポリマー層の材料について、エチレンと重合する酸成分が特定されていなかったものを、メタクリル酸またはアクリル酸に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2及び4について、訂正前の本件特許の請求項1及び2には、「前記積層シーラントは、前記基材シート側から順に、前記アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン-酸コポリマー層と、前記エチレン-酸コポリマー層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され」ることが記載され、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】には「積層シーラント30は、基材シート20側の最表層から順に、第1のシーラント層31と、第2のシーラント層32とが積層されたものである」ことが記載されているから、訂正前の本件特許の請求項1及び2に記載されたエチレン-酸コポリマー層は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された第1のシーラント層31に相当することが明らかである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には「第1のシーラント層31は、厚み15μmのエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂(以下、「EMAA」という)からなる。」及び「尚、第1のシーラント層31には、EMAAの代わりに、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)を用いても良い。」と記載されているから、「エチレン-酸コポリマー層」を「エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層」に訂正することは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。したがって、訂正事項2及び4は、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2及び4は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、「一部の領域と一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカット」、「第2のポリエチレンテレフタレート層」、及び「第2のハーフカットが、基材シートの他方面側の最表面から、下層のポリエチレン層を貫通し、下層の第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成される」という発明特定事項を直列的に付加して、蓋体の構造を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】の「この切断線41によって、領域61(右上がり斜線部)と領域62(右下がり斜線部)とが区画される。」との記載されている。同じく段落【0028】には「下層22は、上層21側の最表層から順に、PE、アンカーコート剤、PETフィルム、接着剤、アルミニウム箔を積層したシートからなる」と記載されている。加えて、図7(a)及び図7(b)からも、下層22において、アルミニウム箔とPE層との間にPET層が積層されていることが看取される。同じく図7(a)からすれば、切断線41が基材シート20の他方面側の最表面から、下層22のポリエチレン層を貫通し、下層22の第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されていることが看取される。したがって、訂正事項3は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項1の訂正に伴い、請求項1又は2の記載を引用する請求項3の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1?5の訂正に伴い訂正される請求項1?3の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項6は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明からかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項3は請求項1又は2を引用するものであって、訂正事項1?4によって記載が訂正される請求項1又は2に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
また、訂正事項6による本件特許明細書の訂正に係る請求項は、請求項1?3であり、本件訂正請求は、同法第120条の5第9項において準用する同法126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。

3.まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体であって、
基材シートと、
前記基材シートの一方面に貼着され、前記開口部をシールするための積層シーラントとを備え、
前記基材シートの前記一方面側の最表層はアルミニウム層であり、
前記積層シーラントは、
前記基材シート側から順に、前記アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と前記基材シートとの接着強度は、前記低温シーラント層と前記開口部との接着強度より高く、
前記基材シートは、前記積層シーラント側から順に、下層と、前記下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、
前記蓋体の一部の領域には、前記低温シーラント層の前記開口部にシールされる側の最表面から前記下層の前記上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、
前記蓋体には、前記基材シートの他方面側の最表面から前記下層の内部の位置にまで形成され、前記一部の領域と前記一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、
前記第1のハーフカットが形成された前記一部の領域にある前記上層を前記下層から剥離除去することによって、前記下層及び前記積層シーラントを貫通する前記湯切り孔が形成され、
前記上層の前記下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、前記下層の前記上層側の最表層はポリエチレン層であり、前記下層は、前記ポリエチレン層と前記アルミニウム層との間に第2のポリエチレンテレフタレート層が積層され、
前記第2のハーフカットが、前記基材シートの他方面側の最表面から、前記下層の前記ポリエチレン層を貫通し、前記下層の前記第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されていることを特徴とする、蓋体。
【請求項3】
前記低温シーラント層の厚みは、前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層の厚みよりも薄いことを特徴とする、請求項2に記載の蓋体。

2.取消理由の概要
本件発明1?3に対して、当審で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由はすべて通知した。

(1)本件発明1?3は、本件特許の出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)本件発明1?3は、本件特許の出願前に頒布された刊行物2に記載された発明、及び本件特許の出願前に頒布された刊行物3?7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用刊行物]
刊行物1:特開2012-51638号公報
刊行物2:特開2007-320580号公報
刊行物3:太田三郎他編、「2010 PPSデータベース 用途別包材構成例 Packaging Construction」、株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス、2010年4月1日、p.282-283,297
刊行物4:特開2002-128128号公報
刊行物5:特開2004-10146号公報
刊行物6:特開2008-7145号公報
刊行物7:特開2008-30775号公報

3.当審の判断
請求項1は、訂正により削除されたため、以下、本件発明2及び3について検討する。
(1)特許法第29条第1項第3号に係る取消理由について(上記2.(1))
本件特許に係る特許出願は、原出願に対して、その拒絶査定に対して拒絶査定不服審判を請求することなく、原出願の一部を新たな特許出願としたものであって、特許法第44条第1項第3号に規定の期間にされたものである。
そのため、本件特許の特許出願が原出願の時にしたものとされるためには、本件特許明細書に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であると共に、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内である必要がある。
そこで、上記について検討すると、本件訂正請求が認められることにより、特許請求の範囲及び明細書の段落【0007】の記載に関して、エチレン-酸コポリマー層の材料について、エチレンと重合する酸成分が特定されていなかったものが、メタクリル酸またはアクリル酸に特定されたことにより、本件特許明細書が、原出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であると共に、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内となった。
そうすると、本件特許の特許出願は、原出願の出願の時にしたものとみなされるから、刊行物1(特開2012-51638号公報)は、本件特許の出願前に頒布されたものということはできず、本件発明2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)特許法第29条第2項に係る取消理由について(上記2.(2))
ア 刊行物2の記載事項、及び引用発明
(ア)「【請求項1】
容器本体の開口の周縁部にヒートシールされて該開口を塞ぐ蓋材であって、
表面層と、ポリオレフィンと環状オレフィンコポリマーとを所定の比率で配合した混合樹脂で形成された混合樹脂層に接して積層されたポリエステル系フィルム層と、最下部に位置するシーラント層とを有し、前記ポリエステル系フィルム層と前記混合樹脂層との界面が剥離面となる積層体で構成され、
周縁部に開封用タブと開孔形成用タブとを備え、
前記開孔形成用タブの近傍には、液体通過孔を形成するための裏ハーフカットが少なくとも一つと、前記開孔形成用タブの両脇の周縁部を結ぶ裏ハーフカットとが、各々前記シーラント層側から設けられたことを特徴とする液体通過孔を形成可能な蓋材。
【請求項2】
周縁部の2箇所を結んで前記積層体を二つの領域に分割するように前記表面層から表ハーフカットが形成されており、
前記表ハーフカットで分割された領域の一方の周縁部に前記開封用タブを、他方の周縁部に前記開孔形成用タブを有し、
前記開孔形成用タブを備える領域に、前記液体通過孔を形成するための裏ハーフカットと、前記開孔形成用タブの両脇の周縁部を結ぶ裏ハーフカットとが設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体通過孔を形成可能な蓋材。
【請求項3】
前記ポリエステル系フィルム層は、PETフィルムで形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体通過孔を形成可能な蓋材。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体通過孔を形成可能な蓋材に関し、特に、液体通過孔形成後の美観に優れ、紙粉が発生しない蓋材及びそれを用いた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インスタント食品の一種として、食材に熱湯を注ぎ所定時間放置してから湯を排出することによって調理するものがある。
【0003】
このような食品を収容する容器は、容器自体を利用して調理(注湯・湯切り)できるように形成されるのが一般的である。」

(ウ)「【0016】
〔積層構造材料の構成〕
図1(a)に、本発明において蓋材の材料として用いる積層構造材料の構成を示す。
蓋材は、表層側(容器外側)から順に、表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4及びシーラント層5が積層された積層材料を用いて構成される。なお、以下の説明においては、容器外側となる方向を上、容器内側となる方向を下と定義する。…」

(エ)「【0020】
本実施形態において混合樹脂層3は、ポリオレフィンに環状オレフィンコポリマー(COC)を所定の比率で混合した樹脂である。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられるが、低密度ポリエチレン(LDPE)を用いるのが好ましい。…」

(オ)「【0023】
中間層4は、蓋材の強度を向上させることを目的として設けられる層であり、アルミ箔、PET、PE、紙などを単層又は複層で用いることが可能である。なお、中間層4がなくとも蓋材50の強度を所望の強度とすることができるのであれば、中間層4は設けなくても良い。ただし、蓋材にデッドホールド性を付与するためにはアルミ箔の層を含んだ中間層4を設けることが好ましい。この場合にはシーラント層5と接するようにアルミ箔の層を設けると、デッドホールド性が最も良く発現するためより好ましい。」

(カ)「【0024】
シーラント層5は、蓋材を容器本体に接着(ヒートシール)するための層であり…」

(キ)「【0026】
…図1(a)に示すようにポリエステル系フィルム層2が上となる場合、表ハーフカット20は、最上層である表面層1から設けられ少なくともポリエステル系フィルム層2を貫通する。ただし、表ハーフカット20は、中間層4の略中央にまで達していても構わない。また、裏ハーフカット30は、最下層であるシーラント層5から設けられ少なくとも接着層6を貫通する。ただし、裏ハーフカット30はポリエステル系フィルム層2の略中央部にまで達していても構わない。…」

(ク)「【0030】
図2に示す積層構造体に形成する表ハーフカット20は、ポリエステル系フィルム層2と混合樹脂層3との界面にまで切り込むことが理想的であるが、蓋材の機能を損なわないのであれば、切り込みの深さが異なっても構わない。…
一方、裏ハーフカット30も混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面にまで切り込むことが理想的であるが、蓋材の機能を損なわないのであれば、切り込みが深さがこれと異なっても構わない。…」

(ケ)「【0037】
液体通過孔としての湯切り孔を形成する際には、開孔形成用タブ50rを保持し、蓋材50を容器本体90から遠ざける方向に力を加える。すると、図10に示すように剥離面が混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面に移る。
【0038】
混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面を剥離面として蓋材50をさらに剥離させていき、剥離が裏ハーフカット30aまで到達すると、図11に示すように、裏ハーフカット30aで囲まれた領域内では混合樹脂層3、中間層4及びシーラント層5が裏ハーフカット30aに沿った形状にくり抜かれて開孔が形成される。
【0039】
蓋材50をさらに剥離させ、剥離が表ハーフカット20aに到達すると、図12に示すように、表ハーフカット20aを境として開孔形成用タブ50r側の表面層1及びポリエステル系フィルム層2が蓋材50から脱落する。
【0040】
このようにして蓋材50に形成した開孔を湯切り孔として利用することが可能である。」

(コ) 引用発明
・記載事項(ア)及び(イ)によれば、刊行物2には、「熱湯を注ぎ調理(注湯・湯切り)するインスタント食品を収容する容器本体の開口の周縁部にヒートシールされて該開口を塞ぐ液体通過孔を形成可能な蓋材」が記載されている。

・記載事項(ウ)及び図1(a)から、この蓋材は、「表層側(容器外側)から順に、表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4」を備えている。

・記載事項(ウ)、(カ)及び図1(a)から、この蓋材は、「表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4の下面に積層され、蓋材を容器本体に接着(ヒートシール)するためのシーラント層5」を備えている。

・記載事項(オ)から、この蓋材の層構造のうち、「中間層4のシーラント層5と接する層はアルミ箔の層」である。

・記載事項(ア)、(ウ)及び図1(a)から、この蓋材の層構造のうち、「表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4は、シーラント層5側から順に、混合樹脂層3及び中間層4と、混合樹脂層3及び中間層4上に剥離可能に積層された表面層1及びポリエステル系フィルム層2とから構成されて」いる。

・記載事項(ア)、(キ)、(ク)、(ケ)及び図1(a)、図2から、この蓋材は、「蓋材の開孔形成用タブ50rを備える領域には、最下層であるシーラント層5の下面から設けられ、混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面にまで切り込む、液体通過孔を形成する裏ハーフカット30が形成されて」いる。

・記載事項(ア)、(キ)、(ク)、及び図1(a)、図2から、「蓋材には、最上層である表面層1の上面から設けられ、混合樹脂層3及び中間層4の中間層4の略中央にまで切り込む、開孔形成用タブ50rを備える領域と、開封用タブ50qを備える領域との二つの領域に分割する表ハーフカット20が形成されて」いる。

・記載事項(ケ)から、この蓋材では、「混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面を剥離面として、表ハーフカット20aを境として開孔形成用タブ50r側の表面層1及びポリエステル系フィルム層2が蓋材50から脱落することによって、混合樹脂層3、中間層4及びシーラント層5が裏ハーフカット30aに沿った形状にくり抜かれて開孔が形成され」る。

・記載事項(ア)、(ウ)から、この蓋材の層構造のうち、「ポリエステル系フィルム層2はPETフィルム」である。

・記載事項(ウ)、(エ)、(オ)、(キ)、(ク)及び図1(a)から、この蓋材の層構造のうち、「混合樹脂層3及び中間層4の上層側の最表層は、低密度ポリエチレン(LDPE)に環状オレフィンコポリマー(COC)を所定の比率で混合した混合樹脂層3であり、表ハーフカット20が、最上層である表面層1から、混合樹脂層3を貫通して中間層4の略中央まで形成されている」。

・上記事項を、本件発明2に照らして整理すると、刊行物2には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「熱湯を注ぎ調理(注湯・湯切り)するインスタント食品を収容する容器本体の開口の周縁部にヒートシールされて該開口を塞ぐ液体通過孔を形成可能な蓋材であって、
表層側(容器外側)から順に、表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4と、
表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4の下面に積層され、蓋材を容器本体に接着(ヒートシール)するためのシーラント層5とを備え、
中間層4のシーラント層5と接する層はアルミ箔の層であり、
表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4は、シーラント層5側から順に、混合樹脂層3及び中間層4と、混合樹脂層3及び中間層4上に剥離可能に積層された表面層1及びポリエステル系フィルム層2とから構成され、
蓋材の開孔形成用タブ50rを備える領域には、最下層であるシーラント層5の下面から設けられ、混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面にまで切り込む、液体通過孔を形成する裏ハーフカット30が形成されており、
蓋材には、最上層である表面層1の上面から設けられ、混合樹脂層3及び中間層4の中間層4の略中央にまで切り込む、開孔形成用タブ50rを備える領域と、開封用タブ50qを備える領域との二つの領域に分割する表ハーフカット20が形成されており、
混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面を剥離面として、表ハーフカット20aを境として開孔形成用タブ50r側の表面層1及びポリエステル系フィルム層2が蓋材50から脱落することによって、混合樹脂層3、中間層4及びシーラント層5が裏ハーフカット30aに沿った形状にくり抜かれて開孔が形成され、
ポリエステル系フィルム層2はPETフィルムであり、混合樹脂層3及び中間層4の上層側の最表層は、低密度ポリエチレン(LDPE)に環状オレフィンコポリマー(COC)を所定の比率で混合した混合樹脂層3であり、表ハーフカット20が、最上層である表面層1から、混合樹脂層3を貫通して中間層4の略中央まで形成されている、蓋材。」

イ 刊行物3の記載事項
(ア) 「即席乾めん-ラーメン」の包装形態が「カップ-トップシール」として、「I-紙/PE(約15)/AL(7)/EMAA(28)/PE*(22) *エンボス加工 計約160μm」とした包材構成例(282頁の表の下から2つ目)

(イ) 「即席乾めん-ラーメン」の包装形態が「カップ-トップシール」として、「I-紙/PE(約15)/AL(7)/EMAA(28)/PE*(22) *エンボス加工 計約160μm」とした包材構成例(283頁の表の下から7つ目)

(ウ) 「即席乾めん-焼きそば」の包装形態が「カップ-トップシール」として、「I-紙/接/PET(12)/PE(20)/PET(9)/接/AL(7)/EMAA(18) 計約150μm」とした包材構成例(297頁の表の上から1つ目)

ウ 刊行物4の記載事項
(ア) 「【請求項1】少なくとも基材とシーラント層との積層体で形成され、該シーラント層が、低密度ポリエチレン100重量部に対してポリブテン-1が33?82重量部の割合で混合されてなる樹脂層(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体よりなる樹脂層(B)との共押し出し法による積層体で形成されると共に、該シーラント層の樹脂層(B)が基材と対向するように積層され、且つ、該樹脂層(A)のTD断面におけるポリブテン-1のフィルムの厚み方向の平均分散径が1?10μmであることを特徴とする易開封性包装材料。」

(イ) 「【0008】上記樹脂層(A)が、易開封性包装材料のピール層となるものであり、樹脂層(A)において、ポリブテン-1は低密度ポリエチレンと実質的に非相溶性であるため、その混合樹脂からなる樹脂層(A)は所謂海島構造を形成し、海成分の低密度ポリエチレン中に島成分のポリブテン-1が分散した状態となる。従って、樹脂層(A)の凝集力が適度に低下し、良好な凝集破壊タイプのイージーピール性が発現される。」

(ウ) 「【0011】また、樹脂層(B)のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、例えば、エチレン・メタクリル酸共重合体(以下、EMAA樹脂)、エチレン・アクリル酸共重合体(以下、EAA樹脂)を好適に使用することができる。このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の樹脂層(B)を、ピール層となる樹脂層(A)の基材側に接着層を介在させることなく隣接して設けることにより、開封時のピール層の凝集破壊を樹脂層(A)と樹脂層(B)の界面近傍に集中させることができ、ピール強度を安定化し、また、糸ひきの発生を防止することができる。…」

(エ) 「【0012】…また、前記樹脂層(B)のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、金属との熱接着性にも優れるため、基材の積層面がアルミニウム箔などの金属箔の場合でも、共押し出しコート法により、シーラント層を接着性よく積層することができる。」

(オ) 「【0015】前記樹脂層(A)の厚みは5?15μmの範囲が好ましく、樹脂層(A)の厚みが5μm未満の場合は、シール強度、ピール強度が不安定となり、挟雑物介在シール性も不充分となるため好ましくない。また、樹脂層(A)の厚みが15μmを超える場合は、開封時に糸ひきを生じやすくなるため好ましくない。また、前記樹脂層(B)の厚みは、樹脂層(A)の厚みと同じか、それ以上であることが好ましく、樹脂層(A)の厚みの5倍程度までの範囲の厚みが好ましい。…」

(カ) 「【0029】本発明の易開封性包装材料は、インスタントラーメンなどの即席麺、ヨーグルト、スナック食品、納豆などの食品用ポリエチレンコート紙カップ容器にヒートシールして用いる蓋材として、特に好適に使用できるほか、袋などの形態に加工して、易開封性容器としても使用できるものである。
【0030】
【実施例】以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔易開封性包装材料の作製〕
(実施例1)基材として、外側から上質紙(米坪70g/m^(2))/低密度ポリエチレン層(厚み15μm)/アルミニウム箔層(厚み7μm)が順に積層された積層フィルムを用い、そのアルミニウム箔面に、融点104℃の高圧法低密度ポリエチレン100重量部に対して融点125℃、MFRが3のポリブテン-1を54重量部の割合で混合した混合樹脂を前記樹脂層(A)に用い、融点98℃のEMAA樹脂を前記樹脂層(B)に用いて、その樹脂層(B)が対向するように、押し出し温度290℃で両者を共押し出しコートして積層し、下記構成の実施例1の易開封性包装材料を作製した。
上質紙(70g/m^(2))/低密度ポリエチレン層(厚み15μm)/アルミニウム箔層(厚み7μm)/EMAA樹脂による樹脂層(B)(厚み20μm)/混合樹脂による樹脂層(A)(厚み10μm)」

エ 刊行物5
刊行物5には以下の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項1】
紙カップの開口部を覆い、紙カップの口縁部に熱封緘される少なくとも紙を基材とし最内層にシーラント層が積層された蓋材であって、前記最内層のシーラント層が少なくとも2層以上の熱可塑性樹脂層から構成されていることを特徴とする、紙カップ用蓋材。」

(イ) 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、密封性と共に、易剥離性を必要とする、例えば、即席麺紙カップ容器に使用する蓋材に関する以上のような問題点に着目してなされたもので、耐熱性、易開封性を有し、特に紙カップの口縁部の段差を埋めて密封性、防湿性に優れた紙カップ用の蓋材を提供することを課題とする。」

(ウ) 「【0025】
【実施例】
以下実施例により本発明の紙カップ用蓋材をさらに詳細に説明する。
〈実施例1〉
基材(11)として坪量64g/m^(2 )の片アート紙を、中間層(13)として厚さ9μmのAlを、それぞれ準備し、低密度ポリエチレン樹脂(図示せず)を介して溶融押し出しラミネート法により貼り合わせ(低密度ポリエチレン樹脂の厚さ15μm)、複合紙とした。
【0026】
別に、第1シーラント層(12a)を構成する樹脂として、低密度ポリエチレン樹脂80重量部に対してポリブテン樹脂20重量部を混合した混合樹脂を、また、第2シーラント層(12b)を構成する樹脂として、MFRが20g/10min.のEMAA樹脂をそれぞれ準備し、共押出し法により、厚さ30μmの第1シーラント層(12a)/厚さ30μmの第2シーラント層(12b)からなる厚さ60μmの共押出しフィルムであるシーラント層(12)を作製した。
【0027】
最後に、複合紙のAl面と共押出しフィルムの第2シーラント層面とを低密度ポリエチレン樹脂(図示せず)を介して溶融押し出しラミネート法により貼り合わせ(低密度ポリエチレン樹脂の厚さ15μm)、64g/m^(2 )片アート紙(11)/9μmAl(13)/30μmEMAA(12b)/30μm混合樹脂(12a)の構成からなる複合シート(10)を作製した。」

オ 刊行物6
刊行物6には以下の事項が記載されている。
(ア) 「【0001】
本発明は、生麺などの密封包装に使用する即席食品用容器の蓋材に関するものであり、さらに詳細には、容器に収納された袋入り生麺や具等を取り出し、その生麺を袋から取り出して再度容器中に入れ熱湯等でゆがいた後湯切りする湯切り機能付き蓋材に関するものである。」

(イ) 「【0059】
このように裏面シート(10)の構成を、最下層のシーラント層(16)とその上に積層されるアルミニウム箔(17)との積層体からなるものとすることによって、最下層のシーラント層(16)で容器本体(2)のフランジ部(21)にヒートシールでシールし容易に密封することができるものであり、その上のアルミニウム箔(17)は、遮光性とガスバリア性に優れることから、内容物であるやきそば等の保存性を高めることができる。かつまた、このアルミニウム箔(17)の存在は、例えば開封した時に折り曲げられた状態を維持する「デットホールド性」に優れているので、開封した状態を維持することによって、それが邪魔にならず、熱湯を注ぎ易くするなどの効果のある湯切り機能付き蓋材(1)とすることができる。さらに必要に応じ、例えば、アルミニウム箔(17)の上に中間層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルムを積層させ、破れなどに強い積層体とすることもできる。」

カ 刊行物7
刊行物7には以下の事項が記載されている。
(ア) 「【0001】
本発明は、紙カップ等の容器を用い、緑茶や紅茶などを飲用する際に、その紙カップ等を密封する蓋材であって、その蓋材を用い簡便に緑茶、紅茶などを漉すことのできる茶漉し蓋材に関するものである。」

(イ) 「【0049】
さらにまた、このアルミニウム箔(17)の存在は、例えば、開封した時に折り曲げられた状態を維持する「デットホールド性」に優れているので、このように開封した状態を維持することによって、その折り曲がった状態のものは邪魔になることがなく、よって熱湯を注ぎ易くするなどの効果のある湯切り機能付き蓋材(1)とすることができる。さらに必要に応じ、例えば、アルミニウム箔(17)の上に中間層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルムを積層させ、破れなどに対し強い積層体とすることもできる。」

キ 本件発明2と引用発明との対比、一致点、相違点、及び相違点の検討
(ア) 本件発明2と引用発明とを対比すると、引用発明の「熱湯を注ぎ調理(注湯・湯切り)するインスタント食品」は本件発明2の「湯で加熱調理する食品」に相当する。以下同様に、「容器本体」は「カップ容器」に、「開口の周縁部」は「開口部」に、「ヒートシールされて該開口を塞ぐ」は「封止する」に、「液体通過孔を形成可能な蓋材」は「湯切り機能付き蓋体」に、「表面層1、ポリエステル系フィルム層2、混合樹脂層3、中間層4」は「基材シート」に、「下面」は「一方面」に、「積層」は「貼着」に、「中間層4のシーラント層5と接する層」は「基材シートの一方面側の最表層」に、「アルミ箔の層」は「アルミニウム層」に、「混合樹脂層3及び中間層4」は「下層」に、「表面層1及びポリエステル系フィルム層2」は「上層」に、「開孔形成用タブ50rを備える領域」は「一部の領域」に、「液体通過孔」及び「開孔」は「湯切り孔」に、「形成」は「区画」に、「裏ハーフカット30」は「第1のハーフカット」に、「最上層である表面層1の上面から設けられ、混合樹脂層3及び中間層4の中間層4の略中央にまで切り込む」は「基材シートの他方面側の最表面から前記下層の内部の位置まで形成され、」に、「開封用タブ50qを備える領域」は「一部の領域以外の他の領域」に、「二つの領域に分割する」は「区画する」に、「表ハーフカット20」は「第2のハーフカット」に、「表ハーフカット20aを境として」は「第2のハーフカットに沿う形で」に、「混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面を剥離面として」「開孔形成用タブ50r側の表面層1及びポリエステル系フィルム層2が蓋材50から脱落する」は「第1のハーフカットが形成された前記一部の領域にある前記上層を前記下層から剥離除去する」に、「くり抜かれて」は「貫通する」に、「PETフィルム」は「第1のポリエチレンテレフタレート層」に、「低密度ポリエチレン(LDPE)に環状オレフィンコポリマー(COC)を所定の比率で混合した混合樹脂層3」は「ポリエチレン層」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「蓋材を容器本体に接着(ヒートシール)するためのシーラント層5」と本件発明1の「開口部をシールするための積層シーラント」とは、開口部をシールするためのシーラントという限りにおいて一致する。
さらに、引用発明の「最下層であるシーラント層5の下面から設けられ、混合樹脂層3とポリエステル系フィルム層2との界面にまで切り込む」ことと本件発明1の「低温シーラント層の前記開口部にシールされる側の最表面から前記下層の前記上層側の最表面にまで達」することとは、シーラントの開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達するという限りにおいて一致する。

(イ)本件発明2と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体であって
基材シートと、
基材シートの一方面に貼着され、開口部をシールするためのシーラントとを備え、
基材シートの一方面側の最表層はアルミニウム層であり、
基材シートは、シーラント側から順に、下層と、下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、
蓋体の一部の領域には、シーラントの開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、
蓋体には、基材シートの他方面側の最表面から下層の内部の位置にまで形成され、一部の領域と、一部の領域以外の他の領域との区画する第2のハーフカットが形成されており、
第1のハーフカットが形成された一部の領域にある上層を下層から剥離除去することによって、下層及びシーラントを貫通する湯切り孔が形成され、
上層の下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、
下層の上層側の最表層はポリエチレン層であり、
第2のハーフカットが、基材シートの他方面側の最表面から、下層のポリエチレン層を貫通している、蓋体。」

<相違点1>
本件発明2の積層シーラントは、「基材シート側から順に、アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と基材シートとの接着強度は、低温シーラント層と開口部との接着強度より高い」ものであるのに対して、引用発明のシーラント層5は、そのような層構造及び接着強度であるのか特定されていない点 。

<相違点2>
本件発明2は、下層が、シーラント側から、アルミニウム層と、第2のポリエチレンテレフタレート層と、ポリエチレン層とがこの順で積層されているとともに、「第2のハーフカットが、基材シートの他方面側の最表面から、下層のポリエチレン層を貫通し、第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されている」のに対して、引用発明は、混合樹脂層3及び中間層4が、シーラント側から、シーラント層5と接するように設けたアルミ箔の層を含んだ中間層4と、低密度ポリエチレン(LDPE)に環状オレフィンコポリマー(COC)を所定の比率で混合した混合樹脂層3がこの順で積層され、表ハーフカット20が、表面層1から、混合樹脂層3を貫通して、中間層4の略中央まで形成されているが、混合樹脂層3と中間層4のアルミ箔との間に、ポリエチレンテレフタレート層を有することが特定されておらず、表ハーフカット20が形成される位置も不明である点。

(ウ)相違点について検討する。
<相違点1>
刊行物3?5の記載事項からみて、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器を封止する蓋体(トップシール)のシーラントとして、アルミニウム層と接するエチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)またはエチレン・アクリル酸共重合体(EAA)からなる層と、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレン・アクリル酸共重合体とは異なるポリエチレンなどからなる層とから構成された積層シーラントが、従前から周知であったと認められる。また、上記積層シーラントの、ポリエチレンなどからなる層の厚みは、エチレン・メタクリル酸共重合体などからなる層の厚み以下であるから、エチレン・メタクリル酸共重合体などからなる層と基材シート(アルミニウム層)との接着強度は、ポリエチレンなどからなる層と開口部との接着強度より高いと認められる。
引用発明の蓋材においても、容器本体との接着が適切なものにするという潜在的な課題に加え、その強度を向上させるという課題があり、そのためにアルミニウム層と接するシーラント層5として、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器を封止する蓋体という共通の技術分野において周知の上記積層シーラントを採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点2>
刊行物3、6、7の記載事項からみて、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器を封止する蓋体(トップシール)において、デッドホールド性を付与するアルミニウム層の上面にPET層を積層して強度を向上させることは、従前から周知であったと認められる。また、刊行物2の段落【0023】には、中間層4は、蓋材の強度を向上させることを目的として設けられる層であり、アルミ箔、PET、PE、紙などを単層又は複層で用いることが可能であること、蓋材にデッドホールド性を付与するためにはアルミ箔の層を含んだ中間層4を設けることが好ましく、この場合にはシーラント層5と接するようにアルミ箔の層を設けると、デッドホールド性が最も良く発現するためより好ましいことが記載されている。そうすると、引用発明の中間層4を、刊行物2の段落【0023】の示唆に沿って、シーラント層5と接するように設けたアルミ箔の層と、PET、PE、紙などとの複層とするにあたり、上記周知技術を参酌してPETとの複層を選択することまでは、当業者であれば想起し得るものともいえる。
しかしながら、本件発明2のように、混合樹脂層3と、中間層4のシーラント層5と接する層であるアルミ箔の層との間にポリエチレンテレフタレート層を設けた上で、表ハーフカット20の切り込みをポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成することまでは、刊行物3?7には記載や示唆はなく、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえないし、それにより、特許権者が平成30年2月2日付け意見書で主張するような、上層を下層からスムースに確実に剥離することや、蓋としてのバリア性の確保といった有意な効果が奏されるものと認められる。

してみれば、本件発明2は、引用発明及び刊行物3?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
また、本件発明3は、本件発明2の発明特定事項をすべて備えるものであるから、同様に、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

したがって、本件発明2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもないから、本件発明2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明1は、本件訂正請求により削除されたため、特許異議の申立ての対象となる請求項1は存在しないものとなった。したがって、本件発明1に対する特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
蓋体
【技術分野】
【0001】
本発明は、即席麺等のカップ容器の開口部を封止する蓋体に関する。
【背景技術】
【0002】
湯を注いで加熱調理するタイプの即席麺を包装するカップ容器は、その開口部が蓋体で封止されている。蓋体の内面にはシーラントが設けられており、このシーラントによって蓋体が開口部にヒートシールされることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4369713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
即席麺を湯で加熱調理して食する際には、まず、湯を注ぐために、蓋体の一部を開口部から剥離する。そして、開封された開口部からカップ容器に熱湯を注いで麺の湯戻しや温めを行う。所定時間が経過して麺の調理が完了した後に、蓋体に設けられている湯切り口から湯を排出する。湯切りが完了した後は、蓋体を開口部から完全に取り除く。
【0005】
しかし、熱湯で麺を調理している間に、シーラントに含まれる粘着付与剤(タッキファイヤー等)が加熱されることで、シーラントの表面(開口部との貼着面)に粘着付与剤が集まる。これにより、蓋体と、耐衝撃性ポリスチレンや発砲スチロールで形成されているカップ容器の開口部との接着強度が必要以上に高くなってしまう。従って、湯切り後の蓋体の剥離の際に、蓋体の破れ等が発生するという問題がある。
【0006】
それ故に、本発明は、加温した場合でも、カップ容器の開口部から容易に剥離できる蓋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体に関する。蓋体は、基材シートと、基材シートの一方面に貼着され、開口部をシールするための積層シーラントとを備える。基材シートの一方面側の最表層はアルミニウム層であり、積層シーラントは、基材シート側から順に、アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と基材シートとの接着強度は、低温シーラント層と開口部との接着強度より高い。基材シートは、積層シーラント側から順に、下層と、下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、蓋体の一部の領域には、低温シーラント層の開口部にシールされる側の最表面から下層の上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、蓋体には、基材シートの他方面側の最表面から下層の内部の位置にまで形成され、一部の領域と一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、第1のハーフカットが形成された一部の領域にある上層を下層から剥離除去することによって、下層及び積層シーラントを貫通する湯切り孔が形成され、上層の下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、下層の上層側の最表層はポリエチレン層であり、下層は、ポリエチレン層とアルミニウム層との間に第2のポリエチレンテレフタレート層が積層され、第2のハーフカットが、基材シートの他方面側の最表面から、下層のポリエチレン層を貫通し、下層の第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のものに比べてシーラントの厚みを調整することでき、加温した場合でも、カップ容器の開口部から容易に剥離できる蓋体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る蓋体でカップ容器を封止した状態を示す斜視図
【図2】図1に示す蓋体のA-A’線に沿った断面図
【図3】図2の示す蓋体のB部の拡大図
【図4】他の例に係る蓋体でカップ容器を封止した状態を示す斜視図
【図5】第1の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【図6】第2の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【図7】第3の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【図8】第4の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【図9】第5の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【図10】第6の実施形態に係る蓋体の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<基本構成>
図1は、本発明の実施形態に係る蓋体でカップ容器を封止した状態を示す斜視図である。
【0011】
蓋体10は、カップ容器71の開口部72を封止するためのものであり、開口部72より一回り大きな略円形状に形成されている。また、蓋体10の外周縁の一部には、蓋体10を開口部72から剥離するためのタブ51と、湯切り口を形成する際に蓋体10の表層の一部(右上がりの斜線を施した部分)を部分剥離させるためのタブ52とが設けられている。
【0012】
図2は、図1に示す蓋体及びカップ容器のA-A’線に沿った断面図であり、図3は、図2に示す蓋体のB部の拡大図である。
【0013】
蓋体10は、基材シート20と、基材シート20に積層される積層シーラント30とを備える。積層シーラント30は、カップ容器71が蓋体10で封止された際に、開口部72に溶着される部分である。
【0014】
基材シート20は、最外層(図3の最上層)から順に、上層21と、下層22とが剥離可能に積層されたものである。基材シート20の詳細な構成例は後述する。
【0015】
積層シーラント30は、基材シート20側の最表層から順に、第1のシーラント層31と、第2のシーラント層32とが積層されたものである。第1のシーラント層31は、基材30との接着性を有し、第2のシーラント層32とは異なる材質からなる。詳細には、第1のシーラント層31と下層22との接着強度が、第2のシーラント層32と開口部72との接着強度より高くなるように、第1のシーラント層31及び第2のシーラント層32の材料が選定されている。
【0016】
蓋体10には、図1に示すように、蓋体10を縦断する直線状の切断線41が形成されている。この切断線41によって、領域61(右上がり斜線部)と領域62(右下がり斜線部)とが区画される。切断線41は、図2及び3に示すように、上層21を貫通し、下層22の内部に達するように形成されている。また複数の円状(蓋体10の平面方向において)の切断線42が、第2のシーラント層32、第1のシーラント層31及び下層22を貫通し、上層21の内部にまで達するように形成されている。
【0017】
蓋体10で封止したカップ容器71は、例えば、湯で戻すタイプの即席麺を包装する為に用いられる。麺を食するに際しては、まず、湯を注ぐために、蓋体10の一部を開口部72から剥離する。そして、開封された開口部72からカップ容器71に熱湯を注いで麺を湯で戻して温める。所定時間が経過して麺の調理が完了した後に、タブ52を摘み、図1の切断線41が延びる方向に捲ると、切断線41に沿って、領域61における上層21が下層22から剥離される。領域61の上層21を剥離した後は、湯切り口(切断線42で囲まれる部分の貫通孔)が露出する。そして、湯切り口から湯を排出する。カップ容器71内の湯を完全に排出した後、蓋体10を開口部72から取り除く。
【0018】
尚、図4に示すように、切断線41を、蓋体10の外周縁上の1箇所と他の1箇所とを、蓋体10の内側に凸の曲線で繋ぐように形成し、タブ51の開封方向と反対方向(白抜き矢印方向)に領域61の第2シートを剥離するようにしても良い。
【0019】
以下、図5?10を用いて、第1?6の実施形態に係る蓋体の詳細を説明する。尚、これらの蓋体は、図1?3に示す蓋体10と同じく、上層及び下層からなる基材シートと、第1及び第2のシーラント層からなる積層シーラントとから構成される。但し、各層を構成する材質及び積層構造が各々異なる。尚、図5?10では、図2のB部に相当する一部分のみ示している。
【0020】
(第1の実施形態)
図5(a)は、第1の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0021】
第1の実施形態に係る蓋体11において、上層21は、最外層(図5(a)の最上層)から順に、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)、接着剤、インキ、紙を積層したシートからなる。下層22は、上層側の最表層から順に、PE、アルミニウム箔を積層したシートからなる。上層21と下層22とは、目止め及び剥離ニス(全面)を介在させて、剥離可能に貼着されており、上層21と下層22とは、剥離ニスとPEとの界面で剥離する。剥離ニスは、例えば、ワックス系、ポリアミド系、シリコン系、アクリル系の樹脂系のものが好適に用いられる。当該剥離ニスは、ポリエチレン上に、全面または部分的(ドットパターン等)に塗布される。また、目止めニスは、例えば、硝化綿系、ウレタン系、ワックス系、ポリアミド系、シリコン系、アクリル系の樹脂系のものが好適に用いられる。
【0022】
第1のシーラント層31は、厚み15μmのエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂(以下、「EMAA」という)からなる。第2のシーラント層32は、厚み10μmのシーラント(例えば、低温でのシール性に優れた低温シーラント)からなる。第1のシーラント層31と第2のシーラント層32とは押し出しによってラミネートされている。また、第1のシーラント層31と第2のシーラント層32とは同じエチレン系の材料で形成されているため、親和性に優れる。従って、第1のシーラント層31と第2のシーラント層32との溶着強度は十分高い。尚、第1のシーラント層31には、EMAAの代わりに、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)を用いても良い。
【0023】
切断線41はミシン目からなる。尚、ミシン目は、切断線51が延びる方向に対して傾きを有する切れ目、または、切断線51が延びる方向と同一方向の切れ目を、切断線51が延びる方向に整列するように複数設けることで形成される。尚、ミシン目は、一列分の切れ目で形成しても良いし、複数列の切れ目を並列に設けて形成しても良い。また、ミシン目を構成する切れ目は、インキ層及び紙層を貫通し、剥離ニスの内部に到達するように形成する。一方、切断線42は、ハーフカットからなる。
【0024】
蓋体11においては、2層からなる積層シーラント30を採用している。これによって、第2のシーラント層32の厚みを調整することが可能となり、意図的に開口部72と積層シーラント30との接着強度を弱くすることができる。従って、カップ容器71に注がれた熱湯で積層シーラント30が加温されても、蓋体11と開口部72との接着強度が高くならないように調整できる。また、基材シート20における第1のシーラント層31側の最表層を形成するアルミニウム箔に対して、第1のシーラント層31にEMAAを選択することで、第1のシーラント層31と基材シート20との接着強度を、第2のシーラント層32と開口部72との接着強度より高くできる。これによって、加温後の蓋体10を、破断させることなく開口部72から剥離することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0026】
第2の実施形態に係る蓋体12は、第1の実施形態に係る蓋体11と比べて、上層21の接着剤及びPETが省略されたものである。このように、蓋体12は、上層21の構成が簡易であるため、製造コストの低減に繋がるという利点を有する。
【0027】
(第3の実施形態)
図7(a)は、第3の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0028】
第3の実施形態に係る蓋体13は、第1の実施形態に係る蓋体11と比べて、基材シート20及び切断線41が異なる。具体的には、上層21は、最外層(図7(a)の最上層)から順に、インキ、紙、接着剤、PETフィルムを積層したシートからなる。下層22は、上層21側の最表層から順に、PE、アンカーコート剤、PETフィルム、接着剤、アルミニウム箔を積層したシートからなる。尚、PETフィルム側に位置するPEの表面に易剥離コート層を設けても良い。また、切断線41は、ハーフカットからなる。尚、第1の実施形態と同様に、インキの上層として接着剤を介してPETを設けても良い。
【0029】
蓋体13は、下層22にPETが含まれるため、蓋体10を開口部72から剥離する際に、基材シート20の破れを防止することができる。また、蓋体13は、切断線41がハーフカットで形成されている。これによって、図1に示す切断線41が延びる方向に、領域61の上層21を下層22からスムースに剥離することができる。更に、蓋体13には、上層21と下層22との剥離界面に別途剥離ニスを設ける必要がない。従って、蓋体13は、第1及び第2の実施形態に係る蓋体に比べて、上層21と下層22との界面の構成がより簡易となる利点を有する。
【0030】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0031】
第4の実施形態に係る蓋体14は、第1の実施形態に係る蓋体11に比べて、基材シート20、積層シーラント30及び切断線41が異なる。具体的には、上層21は、最外層(図8の最上層)から順に、インキ、紙、PE、アルミニウム箔、アンカーコート剤、PEを積層したシートからなる。下層22は、PETからなる。尚、PET側に位置するPE(剥離位置に設けられるPE)の表面には、易剥離コート層を設けても良い。第1のシーラント層31は、厚み15μmのPEからなる。第2のシーラント層32は、厚み10μmのシーラントからなる。尚、第1の実施形態と同様に、インキの上層として接着剤を介してPETを設けても良い。
【0032】
下層22における第1のシーラント層31側の最表層を形成するPETには、アンカーコート剤が塗布され、第1のシーラント層31であるPEがラミネートされる。これによって、基材シート20と第1のシーラント層31とが接着性を有する状態で積層される。
【0033】
このように、基材シート20における第1のシーラント側の最表層を形成する材質がPETとなっても、第1のシーラント層を適宜に選択することで、基材シート20と第1のシーラント層31との接着強度を、第2のシーラント層32と開口部72との接着強度より高くすることができる。また、蓋体14は、下層22にアルミニウム箔を含まないため、蓋体14を開口部72から剥離した時に、アルミニウム箔がカップ容器71側に残ることを確実に防止できるという利点を有する。
【0034】
(第5の実施形態)
図9は、第5の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0035】
第5の実施形態に係る蓋体15は、第4の実施形態に係る蓋体14に比べて、第1のシーラント層31と下層22とを貼着する方法が異なる。具体的には、下層22であるPETの最表面(第1のシーラント層31に積層される面)にコロナ放電処理を施して、第1のシーラント層31であるノーAC(ノーアンカーコート剤)仕様のPEを押し出しラミネートしている。これによって、基材シート20と第1のシーラント層31とが接着性を有する状態で積層される。尚、ノーAC仕様のPEには、例えば、シランカップリング剤を添加したPE樹脂、または、ポリグリシジルアクリレート及び/またはポリグリシジルメタクリレートとからなるPE樹脂、または、エポキシ化植物油を添加したPE樹脂が用いられる。尚、第1の実施形態と同様に、インキの上層として接着剤を介してPETを設けても良い。
【0036】
蓋体15は、第1のシーラント層31と下層22との貼着にアンカーコート剤を必要としない。従って、蓋体15は、第4の実施形態の蓋体14に比べて、蓋体を構成する材料が少なくなるという利点を有する。
【0037】
(第6の実施形態)
図10は、第6の実施形態に係る蓋体の部分断面図である。
【0038】
第6の実施形態に係る蓋体16は、第4の実施形態に係る蓋体14に比べて、下層22を形成する材質及び第1のシーラント層31と下層22とを貼着する方法が異なる。具体的には、下層22は、延伸ポリエチレン(OPE)からなる。そして、OPEと、第1のシーラント層31であるPEとがラミネートされる。これによって、基材シート20と第1のシーラント層31とが接着性を有する状態で積層される。尚、第1の実施形態と同様に、インキの上層として接着剤を介してPETを設けても良い。
【0039】
蓋体16は、第1のシーラント層31と下層22との貼着に、別途、アンカーコート剤及びコロナ放電処理を必要としない。従って、第4及び第5の実施形態に係る蓋体14及び15に比べて、第1のシーラント層31と下層22との積層工程がより簡易となる利点を有する。
【0040】
以上、第1?6の実施形態で説明したように、蓋体11?16においては、基材シートにおける第1のシーラント層側の最表層の材質に応じて、第1のシーラント層を適宜に選択して、基材との接着性を確保できる。更に、いずれの実施形態においても、第1のシーラントの厚みを薄く調整することで、加温後の蓋体の剥離に伴う蓋体の破断を防止することができる。
【0041】
尚、蓋体の基材シート及び積層シーラントの層構成は、上記の第1?6の実施形態で示すものに限定されない。第2のシーラント層を形成する材料と異なる材料からなる第1のシーラント層が、基材シートと接着性を有しているなら、その層構成は任意である。
【0042】
また、上記の第1?6の実施形態では、蓋体は湯切り孔を有するが、本発明に係る積層シーラントは、湯切り孔が不要な蓋体にも同様に適用できる。湯切り孔が不要な場合には、蓋体には切断線を設けなくても良い。
【0043】
更に、上記の第1?6の実施形態では、基材シートは、剥離可能に貼着された上層と下層とを有するが、本発明に係る積層シーラントは、単層から構成される蓋材にも同様に適用できる。
【0044】
更に、上記の第1の実施形態では、切断線41をミシン目で形成しているが、ハーフカットで形成しても良い。この場合は、例えば、図5(b)で示すように、ハーフカットは、上層であるPET、接着層、インキ、及び紙層を貫通する深さで形成する。一方、第3?第4の実施形態では、切断線をハーフカットで形成しているが、ミシン目で形成しても良い。この場合は、例えば、図7(b)で示すように、ミシン目は、上層における紙層及びインキ層のみを貫通するように形成する。
【0045】
更に、上記の第2?6の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、インキ上の最表層にポリエチレンテレフタレート層を更に設けても良い。最表層にポリエチレンテレフタレートを設けることによって光沢を付与し、美観を向上させることができる。
【0046】
更に、上記の第3?6の実施形態において、切断線42を形成する深さは、図7?10に示すものに限定されない。切断線42は、第2のシーラント層32、第1のシーラント層31及び下層22を貫通し、かつ、剥離位置を跨ぐように形成すれば良く、例えば、製造効率等を鑑みて、上層21における紙層の一部に到達する深さで形成しても良い。
【0047】
更に、上記の第1の実施形態において、図5(c)に示すように、下層22におけるPEとアルミニウム箔との間に補強の為のPETを設けても良い。また、上記第2の実施形態においても同様に、下層22におけるPEとアルミニウム箔との間にPETを設けても良い。更に、上記第4?6の実施形態において、上層におけるPEとアルミニウム箔との間にPETを設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、即席麺等を収容するカップ容器を封止するための蓋体に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
10?16 蓋体
20 基材シート
21、22 上層、下層
30 積層シーラント
31、32 第1のシーラント層、第2のシーラント層
41、42 切断線
51、52 タブ
61、62 領域
71 カップ容器
72 開口部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
湯で加熱調理する食品を収容するカップ容器の開口部を封止する湯切り機能付き蓋体であって、
基材シートと、
前記基材シートの一方面に貼着され、前記開口部をシールするための積層シーラントとを備え、
前記基材シートの前記一方面側の最表層はアルミニウム層であり、
前記積層シーラントは、
前記基材シート側から順に、前記アルミニウム層に対して接着性を有するエチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層とは異なる材料よりなる低温シーラント層とから構成され、
前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層と前記基材シートとの接着強度は、前記低温シーラント層と前記開口部との接着強度より高く、
前記基材シートは、前記積層シーラント側から順に、下層と、前記下層上に剥離可能に積層された上層とから構成され、
前記蓋体の一部の領域には、前記低温シーラント層の前記開口部にシールされる側の最表面から前記下層の前記上層側の最表面にまで達し、湯切り孔を区画する第1のハーフカットが形成されており、
前記蓋体には、前記基材シートの他方面側の最表面から前記下層の内部の位置にまで形成され、前記一部の領域と前記一部の領域以外の他の領域とを区画する第2のハーフカットが形成されており、
前記第1のハーフカットが形成された前記一部の領域にある前記上層を前記下層から剥離除去することによって、前記下層及び前記積層シーラントを貫通する前記湯切り孔が形成され、
前記上層の前記下層側の最表層は第1のポリエチレンテレフタレート層であり、前記下層の前記上層側の最表層はポリエチレン層であり、前記下層は、前記ポリエチレン層と前記アルミニウム層との間に第2のポリエチレンテレフタレート層が積層され、
前記第2のハーフカットが、前記基材シートの他方面側の最表面から、前記下層の前記ポリエチレン層を貫通し、前記下層の前記第2のポリエチレンテレフタレート層の内部の位置にまで形成されていることを特徴とする、蓋体。
【請求項3】
前記低温シーラント層の厚みは、前記エチレン・メタクリル酸共重合体またはエチレンアクリル酸共重合体からなる層の厚みよりも薄いことを特徴とする、請求項2に記載の蓋体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-16 
出願番号 特願2015-46301(P2015-46301)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 眞吾神山 茂樹  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 武井 健浩
井上 茂夫
登録日 2016-08-26 
登録番号 特許第5991394号(P5991394)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 蓋体  
代理人 特許業務法人小笠原特許事務所  
代理人 特許業務法人 小笠原特許事務所  

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