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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1341980
異議申立番号 異議2016-700839  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-08 
確定日 2018-06-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5878631号発明「シアノアクリレート組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5878631号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕、17、〔18、19〕について訂正することを認める。 特許第5878631号の請求項1、6ないし18に係る特許を維持する。 特許第5878631号の請求項2ないし5、19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第5878631号の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)7月10日(優先権主張 2011年(平成23年)7月15日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であり、平成28年2月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、同年9月8日に特許異議申立人岡林茂(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年12月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年4月5日に特許権者より意見書の提出、同年5月2日に上申書の提出があり、同年6月28日付けで再度、取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月2日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年11月10日に異議申立人より意見書が提出された。
さらに、同年12月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年3月19日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成30年3月19日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1ないし19について訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(a)シアノアクリレート成分、及び(b)水素化芳香族酸無水物を含む、シアノアクリレート接着剤組成物。」とあるのを、「(a)シアノアクリレート成分、及び(b)水素化芳香族酸無水物を含む、シアノアクリレート接着剤組成物であって、前記水素化芳香族酸無水物が3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であり、更に、ペンタフルオロベンゾニトリルを含む、シアノアクリレート接着剤組成物。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物の調製方法であって、シアノアクリレート成分を用意するステップ、及びそれに、水素化芳香族酸無水物及び任意選択でベンゾニトリルを、混合により混ぜ合わせるステップ、を含む方法。」とあるのを、「請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物の調製方法であって、シアノアクリレート成分を用意するステップ、及びそれに、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを、混合により混ぜ合わせるステップ、を含む方法。」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項17に「固化速度、安定性又は色調の少なくとも一つを損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法であって、シアノアクリレート組成物を用意するステップと、水素化芳香族酸無水物及び任意選択でベンゾニトリルを用意するステップと、を含む方法。」とあるのを、「固化速度、安定性又は色調の少なくとも一つを損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法であって、シアノアクリレート組成物を用意するステップと、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを用意するステップと、を含む方法。」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18に「シアノアクリレート成分を含むシアノアクリレート組成物であって、その改良が、シアノアクリレート組成物の固化時間を損なうことなく硬化反応生成物の耐熱性を改良するために、シアノアクリレート成分に水素化芳香族酸無水物を添加することを含むシアノアクリレート組成物。」とあるのを、「シアノアクリレート成分を含むシアノアクリレート組成物であって、その改良が、シアノアクリレート組成物の固化時間を損なうことなく硬化反応生成物の耐熱性を改良するために、シアノアクリレート成分に3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを添加することを含むシアノアクリレート組成物。」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1、6ないし8について

ア 訂正事項1、6ないし8は、いずれも、「水素化芳香族酸無水物」を、水素化芳香族酸無水物に含まれる特定の物質である「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」に限定するものである。
また、訂正事項1及び8は、それぞれ、シアノアクリレート接着剤組成物が、更に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を含むこと、及びシアノアクリレート接着剤組成物に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を添加することを限定し、訂正事項6及び7では、任意選択とされていた「ベンゾニトリル」と必須の成分とし、「ベンゾニトリル」をさらに、「ペンタフルオロベンゾニトリル」に限定するものであるから、訂正事項1、6ないし8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1、6ないし8において、「水素化芳香族酸無水物」を、「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」とすることは、本件明細書の段落【0023】の「水素化無水物は、通常、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物などの水素化無水フタル酸であるべきである。」等の記載に基づくものである。
また、訂正事項1及び8において、それぞれ、シアノアクリレート接着剤組成物が、更に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を含むとすること、及びシアノアクリレート接着剤組成物に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を添加するとすること、訂正事項6及び7において、任意選択とされていた「ベンゾニトリル」を必須の成分とし、「ベンゾニトリル」をさらに、「ペンタフルオロベンゾニトリル」とすることは、同段落【0025】の「そのようなベンゾニトリルの具体的な例としては、3,5-ジニトロベンゾニトリル、2-クロロ-3,5-ジニトロベンゾニトリル、ペンタフルオロベンゾニトリル、α,α,α-2-テトラフルオロ-p-トルニトリル及びテトラクロロテレフタロニトリルが挙げられる。」との記載、段落【0065】【表7】で、「試料H」として、シアノアクリレート成分(CA)に、添加剤として、「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」及び「ペンタフルオロベンゾニトリル」が添加されていることに基づくものである。
そうすると、訂正事項1、6ないし8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項1、6ないし8は、いずれも、「水素化芳香族酸無水物」を、水素化芳香族酸無水物に含まれる特定の物質である「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」に限定するものであるし、訂正事項1及び8は、それぞれ、シアノアクリレート接着剤組成物が、更に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を含むこと、及びシアノアクリレート接着剤組成物に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」を添加することを限定し、訂正事項6及び7では、任意選択とされていた「ベンゾニトリル」と必須の成分とし、「ベンゾニトリル」をさらに、「ペンタフルオロベンゾニトリル」に限定するものであるから、訂正事項1、6ないし8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項1、6、8は、一群の請求項ごとに請求されたものであり、訂正事項7は、一群の請求項を形成していない請求項に請求されたものである。

(2)訂正事項2ないし5、9について

上記訂正事項2ないし5、9は、それぞれ請求項2ないし5、19を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、請求項〔1ないし16〕、17、〔18、19〕について訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし16〕、17、〔18、19〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし19に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などどいい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
(a)シアノアクリレート成分、及び
(b)水素化芳香族酸無水物
を含む、シアノアクリレート接着剤組成物であって、
前記水素化芳香族酸無水物が3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であり、
更に、ペンタフルオロベンゾニトリルを含む、シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
更に、酸性安定剤及びフリーラジカル抑制剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記シアノアクリレート成分が、H_(2)C=C(CN)-COORの構造(式中、Rは、C_(1)?_(15)アルキル、アルコキシアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アラルキル、アリール、アリル及びハロアルキル基より選択される)の範囲内の物質から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記シアノアクリレート成分が、エチル-2-シアノアクリレートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
更に、カリックスアレーン、オキサカリックスアレーン、シラクラウン、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、エトキシル化ヒドロキシ化合物及びそれらの組み合わせからなる群より選択される促進剤成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記カリックスアレーンが、テトラブチルテトラ[2-エトキシ-2-オキソエトキシ]カリックス-4-アレーンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記クラウンエーテルが、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5-ジベンゾ-24-クラウン-8、ジベンゾ-30-クラウン-10、トリベンゾ-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、ジベンゾ-14-クラウン-4、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、シクロヘキシル-12-クラウン-4、1,2-デカリル-15-クラウン-5、1,2-ナフト-15-クラウン-5、3,4,5-ナフチル-16-クラウン-5、1,2-メチル-ベンゾ-18-クラウン-6、1,2-メチルベンゾ-5、6-メチルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-18-クラウン-6、1,2-ビニルベンゾ-15-クラウン-5、1,2-ビニルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-シクロヘキシル-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、及び1,2-ベンゾ-1,4-ベンゾ-5-O-20-クラウン-7並びにそれらの組み合わせからなる群内の構成物質より選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートが、次の構造
【化1】

(式中、nは3よりも大きい)
の範囲内にある、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
更に、耐衝撃性添加剤、チクソトロピー性付与剤、増粘剤、色素、耐熱分解性増強剤及びそれらの組み合わせからなる群より選択される添加剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物の反応生成物。
【請求項15】
二つの基材を接合する方法であって、
基材の少なくとも一つに、請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物を塗布するステップ、及び
接着剤を固化し得るのに十分な時間、基材を一体にするステップ、
を含む方法。
【請求項16】
請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物の調製方法であって、
シアノアクリレート成分を用意するステップ、及び
それに、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを、混合により混ぜ合わせるステップ、
を含む方法。
【請求項17】
固化速度、安定性又は色調の少なくとも一つを損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法であって、
シアノアクリレート組成物を用意するステップと、
3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを用意するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
シアノアクリレート成分を含むシアノアクリレート組成物であって、その改良が、シアノアクリレート組成物の固化時間を損なうことなく硬化反応生成物の耐熱性を改良するために、シアノアクリレート成分に3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを添加することを含むシアノアクリレート組成物。
【請求項19】
(削除)」

第4 取消理由(決定の予告)の概要

訂正前の請求項1ないし19に係る発明に対して平成29年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)である取消理由1及び2の概要は、以下のとおりである。

取消理由1:訂正前の請求項1、3、4、7、8、13ないし18に係る発明は、いずれも下記甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1、3、4、7、8、13ないし18に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(特許法第29条第1項第3号による異議申立て理由と、請求項6以外同趣旨である。)

取消理由2:訂正前の請求項1ないし19に係る発明は、いずれも下記甲第1号証に記載された発明、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証に記載された事項、または、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2、3号証に記載された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項1ないし19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(特許法第29条第2項による異議申立て理由と、同趣旨である。)



甲第1号証:特公昭61-8112号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開平7-97550号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特表2008-518073号公報(以下、「甲3」という。)

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立理由の概要

申立理由1:訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明であり、訂正前の請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由2:訂正前の請求項2、5、16、17、19に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものではなく、訂正前の請求項2、5、16、17、19に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第6 取消理由(決定の予告)に関する当審の判断

1 刊行物に記載された事項

(1)甲1(特公昭61-8112号公報)
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1ア)特許請求の範囲
「1 2-シアノアクリル酸エステルに、下記一般式で示されるスルホン化合物の推なくとも1種及び下記ジカルボン酸無水物の少なくとも1種を配合してなる耐熱性の改良された接着剤組成物。
スルホン化合物:
R^(1)-SO-R^(2)
但し、R^(1)及びR^(2)は同一又は互いに異なる有機基で炭素数1?6のアルキル基、アルケニル基又はベンジル基を示し、その水素原子の1以上がハロゲン原子、水酸基及び/又はニトロ基で置換されていてもよく又R^(1)とR^(2)が共に1つの基を形成して環化していてもよい。
ジカルボン酸無水物:
グルタル酸無水物及び次の一般式で表されるジカルボン酸無水物。

但し、R^(3)は炭素数4以上のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はシクロアルケン残基である。」

(1イ)第1頁第2欄第14行?第2頁第3欄第4行
「2-シアノアクリル酸エステル系接着剤は、2-シアノアクリル酸エステルが主成分で、極く少量の安定剤、増粘剤、可塑剤、架橋剤などが添加されているもので、一般的には2-シアノアクリル酸エステルの純度が高い程、瞬間接着剤としての性能が向上する傾向にあるため、この接着剤を改質すべく、他の成分を種々添加すると、瞬間接着性を失つたり、あるいは貯蔵安定性を欠いたりするため、今迄に2-シアノアクリル酸エステルに他の成分を添加して接着剤を改質する試みは成功することがまれであつた。
本発明者等らは、2-シアノアクリル酸エステルに他の成分を添加すると瞬間接着剤としての性能が失われるという矛盾の中で、2-シアノアクリル酸エステルに他の成分を添加することにより、本来の接着性能を失なうことなく、特に耐熱性を改良すべく研究した結果、本発明を完成した。」

(1ウ)第2頁第3欄第43行?第3頁第5欄12行
「本発明に用いられる2-シアノアクリル酸エステルとしては、通常のエステル全てが含まれる。例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル・・・等の2-シアノアクリル酸エステルがある。
本発明に於て使用されるスルホン化合物は一般式R^(1)-SO_(2)-R^(2)・・・で示されるものであつて、それらの具体例を示すと、ジメチルスルホン・・・ジヒドロキシエチルスルホン・・・等であり、又同時に配合されるジカルボン酸無水物は、グルタル酸及び一般式

・・・で表わされるものであり、それらの具体例としては次のものが挙げられる。
グルタル酸無水物、1-ブテン-2・4-ジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、シクロペンタンジカルボン酸無水物、2-メチルグルタル酸無水物、n-ドデセニルコハク酸無水物、n-ヘキセニルコハク酸無水物、ビシクロ-〔2・2・1〕-5-ヘプテン-2・3-ジカルボン酸無水物(日立化成(株)製、商品名ハイミツク酸無水物)、ビシクロ-〔2・2・1〕-5-オクテン-2・3-ジカルボン酸無水物(日立化成(株)製、商品名メチルハイミツク酸無水物)、シクロヘキセニルコハク酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、等である。」

(1エ)第3頁第5欄第13?38行
「かかるスルホン化合物の望ましい添加量は、0.01重量%以上3重量%以下であり、又ジカルボン酸無水物の添加量は好ましくは0.01重量%以上5重量%以下、更に好ましくは0.01重量%以上1重量%以下の範囲が良く、いづれも添加量をこれ以上多くすると、溶解性が悪くなり硬化速度が低下し、接着強さも下がる傾向にあり、又添加量が少なすぎると耐熱性の向上はみられない。
これら配合剤は、スルホン化合物とカルボン酸無水物の2種以上が2-シアノアクリル酸エステルに添加されて使用される。
スルホン化合物又はカルボン酸無水物は、単独でも2-シアノアクリル酸エステル系接着剤に一応の耐熱性を与える。しかしながら、スルホン化合物のみを配合した2-シアノアクリル酸エステルは、長時間加熱における耐熱性を有しているが、加熱初期での接着強さの低下が大きいという欠点をもつている。又カルボン酸無水物のみを配合した2-シアノアクリル酸エステルについては、逆に短時間の加熱に対して接着強さの低下は小さいが、長時間加熱に対しては、やゝ耐熱性が劣る。そこで、これらスルホン化合物とカルボン酸無水物の両方を添加配合することによつて、2-シアノアクリル酸エステルの耐熱性は、各々の欠点を相補うのみではなく、相乗効果は大なるものがある。」

(1オ)第3頁第6欄第1?9行
「通常、2-シアノアクリル酸エステル系接着剤は、安定剤、増粘剤、可塑剤、架橋剤等が添加されるが、本発明に於いてもこれらの添加は、何ら支障をきたすことはない。
安定剤としては、SO_(2)、スルホン酸類、サルトン、ラクトン、弗化硼素、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール等を1?1000ppm添加することができる。」

(1カ)第3頁第6欄第28行?第4頁第8欄第5行、表
「実施例1
安定剤として、SO_(2)50ppm、ハイドロキノン100ppmを含有する2-シアノアクリル酸エチル97部に対して、メチルハイミツク酸無水物1部と、ジメチルスルホン2部を一括で仕込み、数時間室温で振盪、調合した。このものの瞬間接着性をみるため、1cm^(2)の接着面積をもつ天然ゴム同志を接着したところ、5秒後に完全固着し、5kgの引張荷重に耐え、瞬間接着性は、2-シアノアクリル系接着剤と同等であつた。
サンドブラスト研磨し、メチルクロロホルムで脱脂した清浄な面を持つ鉄テストピースを、23℃、60%RHの雰囲気下で接着し、同条件下で24時間養生させた。養生後、120℃に設定してある定温送風乾燥器内に鉄テストピースを入れ、一定時間毎に取り出し、120℃加熱下における引張剪断接着強さを測定したところ、1時間加熱後では170kg/cm^(2)を示した。また、72時間加熱後では、150kg/cm^(2)を示し、明らかに耐熱性の向上が見られた。
本発明の接着剤組成物の安定性は充分に実用可能な範囲にあつて、60℃恒温槽で50日間安定であつた。
実施例 2?8
安定剤として、SO_(2)50ppm、ハイドロキノン100ppmを含有する2-シアノアクリル酸エステルを使用し、実施例1と同様の操作により、加熱下での接着強さと接着剤の安定性を測定した。



(2)甲2(特開平7-97550号公報)
甲2には、以下の事項が記載されている。

(2ア)「【請求項1】 芳香族環に少くとも3個の置換基を有するモノ、ポリ又はヘテロ芳香族化合物であって、その置換基の2個又はそれ以上がNO_(2)、CN、CF_(3)、NR^(1)_(3)^(+)、SR^(1)_(2)^(+)、O(=O)R^(1)、C(=O)OR^(1)、NO、CCl_(3)、SO_(2)、S(=O)、SO_(3)、SO_(2)R^(1)、SO_(2)OR^(1)及びFよりなる群から選択される電子求引性基であり、該置換基の1又はそれ以上がF、Br、Cl、I、NO_(2)、CN、SOR^(1)、SO_(2)R^(1)及びSO_(2)OR^(1)よりなる群から選択される離脱基であって、又R^(1)は任意に置換された炭化水素基である芳香族化合物を、重合した接着剤の耐熱性を向上させるのに有効な量含有させることを特徴とするシアノアクリレート単量体接着剤組成物。」
「【請求項9】 前記芳香族化合物が、2、4-ジニトロフルオロベンゼン;2、4-ジニトロクロロベンゼン;2、4-ジフルオロニトロベンゼン;3、4-ジニトロベンゾニトリル;2-クロロ-3、5-ジニトロベンゾニトリル;4、4′-ジフルオロ-3、3′-ジニトロフェニルスルホン;ペンタフルオロニトロベンゼン;ペンタフルオロベンゾニトリル;α、α、α、2-テトラフルオロ-p-トルニトリル;及びテトラクロロターフタロニトリルよりなる群から選択される請求項1?6のいずれか1項に記載の組成物。」

(2イ)「【0002】
【従来の技術】シアノアクリレート単量体接着剤は、極めて弱い僅かなアニオン源を含有する表面と接触して非常に急速に重合するのでそういわれている“瞬間接着剤”としてよく知られ、又広く用いられている。しかし、シアノアクリレート重合体の重大な問題は、僅かな適度の高温で熱劣化し易いことである。従って、シアノアクリレート単量体の瞬間接着性の利益は、結合される基質が間欠的に120℃以上の温度を受けたり、約80℃の温度に長くさらされる多くの用途に利用できなかった。シアノアクリレート重合体のこの熱安定性の問題は、早期重合に対する単量体配合組成物の安定性の問題とは異なる。しかし、シアノアクリレート瞬間接着性の利点を保持するための重合体の熱安定性の改善は、貯蔵安定性を大きく低下させたり、重合体に誘導される単量体配合組成物の硬化スピードを大きく低下させないことが評価される。」

(2ウ)「【0011】本発明は、芳香族環に少くとも3個の置換基を有するモノ、ポリ又はヘテロ芳香族化合物であって、その置換基の2個又はそれ以上が、NO_(2)、CN、CF_(3)、NR^(1)_(3)^(+)、SR^(1)_(2)^(+)、C(=O)R^(1)、C(=O)R^(1)、C(=O)OR^(1)、NO、CCl_(3)、SO_(2),S(=O)、SO_(3)、SO_(2)R^(1)、SO_(2)OR^(1)及びFよりなる群から選択される電子求引性基であり、又、その置換基の1個又はそれ以上が、F、Br、Cl、I、NO_(2)、CN、SOR^(1)、SO_(2)R^(1)及びSO_(2)OR^(1)よりなる群から選択される離脱基であって、R^(1)が任意に置換された炭化水素基である芳香族化合物を、硬化した重合体の耐熱性を増大させる有効量を配合組成物に含有させて形成される改善された耐熱性を有するシアノアクリレート単量体接着剤からなっている。
【0012】そのような化合物類の例は、次の化学式2を有する。
【0013】
【化2】(省略)
(式中、L基は離脱基であり、又、W基は電子求引性基である。)その芳香族化合物は、配合組成物の0.5?15重量%の範囲のレベル、好ましくは少くとも1.0%、更に代表的には、配合組成物の3?10重量%のレベルで適当に用いられる。

(2エ)「【0016】単一成分α-シアノアクリレート単量体又はこれらα-シアノアクリレート単量体類の2個又はそれ以上の混合物が用いられる。多くの適用のために、上記α-シアノアクリレート単量体だけでは、接着剤として充分でなく、下記成分類の少くともいくつかが典型的に加えられる。
【0017】(1)アニオン性重合禁止剤
(2)ラジカル重合禁止剤
(3)シックナー(thickener)
(4)促進剤、可塑剤タフナー及び熱安定化剤のような添加剤
(5)香料、染料、顔料等
その接着剤組成物中に存在するα-シアノアクリレート単量体の好適量は、接着剤組成物の全重量に基づいて約75?99重量%である。
【0018】アニオン性重合禁止剤は、その接着剤組成物の貯蔵中の安定性を高めるために、例えば接着剤組成物の全重量に基づいて約1?1,000ppmの量でα-シアノアクリレート接着剤組成物に加えられる。又、知られた禁止剤の例は、二酸化硫黄、三酸化硫黄、酸化窒素、弗化水素及びスルトン類である。本発明の目的に特に好ましいものは、メタンスルホン酸(MSA)又はヒドロキシプロパンスルホン酸(HPSA)と、二酸化硫黄の組合わせである。スルホン酸の好ましい濃度は、約5?100ppm、より好ましくは約10?50ppmの範囲(単量体重量に基づいて)である。SO_(2)の好ましい濃度は、いずれかの酸に対して約15?50ppmの範囲である。
【0019】必須ではないが、この発明のシアノアクリレート接着剤組成物は又、一般に、フリーラジカル重合の禁止剤類を含有する。それらの最も望ましい禁止剤は、キノン、ハイドロキノン、t-ブチルカテコール、p-メトキシル-フェノール等のようなフェノールタイプのものである。」

(2オ)「【0024】硬化促進剤の例としては、例えば、米国特許第4,556,700号及び米国特許第4,695,615号に記載されているようなカリクサレン化合物と米国特許第4,906,317号に記載されているようなシラクラウン化合物として知られている。他の促進剤は当業者によく知られている。」

(2カ)「【0025】本発明に利用される熱的性質を高める芳香族系添加剤は、芳香族環に少くとも3個の置換基を有するモノ、ポリ又はヘテロ芳香族化合物であって、該置換基の2個又はそれ以上が、NO_(2)、CN、CF_(3)、NR^(1)_(3)^(+)、SR^(1)_(2)^(+)、C(=O)R^(1)、C(=O)OR^(1)、NO、CCl_(3)、SO_(2)、S(=O)、SO_(3)、SO_(2)R^(1)、SO_(2)OR^(1)及びFよりなる群から選択される電子求引性基(W)で、該置換基の1個又はそれ以上が、F、Br、Cl、I、NO_(2)、CN、SOR^(1)、SO_(2)R^(1)及びSO_(2)OR^(1)よりなる群から選択される離脱基(L)であり、又R^(1)は任意に置換されている炭化水素基である芳香族化合物である。好適には、R^(1)は、任意に置換されたアルキル又はアリール基、任意の置換基は、アルコキシ、ハロ、シアノ及びニトロ基を包含する。R^(1)が芳香族基の場合、それは例えば、スルホン化合物を形成する分子の基本芳香族基であってもよい。カルボン酸、フェノール性ヒドロキシル及び無水物基のような酸性官能基は、一般に、シアノアクリレート接着剤の固着スピードに有害であり、それゆえ、通常、本発明に用いられる芳香族付加化合物からは除外されるべきである。本発明に有用な芳香族化合物の例は、2、4-ジニトロフルオロベンゼン;2、4-ジニトロクロロベンゼン;2、4-ジフルオロニトロベンゼン;3、5-ジニトロベンゾニトリル;2-クロロ-3、5-ジニトロベンゾニトリル;4、4′-ジフルオロ-3、3′-ジニトロフェニルスルホン;ペンタフルオロニトロベンゼン;ペンタフルオロベンゾニトリル;α、α、α、2-テトラフルオロ-p-トルニトリル;及びテトラクロロターフタロニトリルを包含する。これらの化合物類は、通常、配合組成物の0.5?15重量%の範囲のレベル、好ましく少くとも1.0%で、更に典型的には3?10重量%のレベルで用いられる。
【0026】上記の芳香族添加剤を含有する本発明のシアノアクリレート重合体は、添加剤を用いない組成物よりも高い熱分解温度を有する。対比すれば、本発明の重合体は、10℃/分で加熱するとき、少くとも200℃の分解開始温度の配合組成物を容易に提供できるのに対し、添加物のない重合体は、僅か155℃の分解開始温度を与えるにすぎない。更に、本発明の代表的重合体類は、150℃で900分間加熱するとき、25%以下しばしば20%以下の重量損失で特徴付けられるのに対し、添加剤のない組成物は、同1条件下で98%の重量損失である。」

(2キ)「【表1】



(3)甲3(特表2008-518073号公報)
甲3には、以下の事項が記載されている。

(3ア)「【請求項1】
シアノアクリレート含有組成物を用いて一緒に接着した少なくとも2つの基体を含むアセンブリの耐衝撃性または接着強度の少なくとも1つを改良する方法であって、
少なくとも2つの基体を準備する工程;
シアノアクリレート成分のほかに、促進剤成分および次の構造:
【化1】

(式中、Yは、直接結合、メチレン単位、エチレン単位、プロピレン単位、エテニレン単位、またはプロペニレン単位であるか、または芳香族環構造の一部を形成し、ここでヒドロキシ官能基を有しても有していなくてもよく、nは1?4である)
の範囲内のものから選択されるカルボン酸を含むシアノアクリレート含有組成物を準備する工程;
前記の基体の少なくとも1つにシアノアクリレート組成物を塗布する工程;および
前記基体を合わせ、シアノアクリレート組成物を硬化させるのに十分な時間、それらを所定の位置に維持する工程
を含む方法。」
「【請求項7】
前記促進剤成分が、カリックスアレーン類、オキサカリックスアレーン類、シラクラウン類、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート類、エトキシル化水素化化合物類、次の化学構造:
【化2】(省略)
によって表される促進剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1に記載の方法。」
「【請求項9】
フリーラジカル安定剤、アニオン性安定剤、可塑剤、チキソトロピー性付与剤、増粘剤、染料、強化剤、熱劣化減少剤およびそれらの組み合わせからなる群から選択される添加剤をさらに含む請求項1に記載の方法。」

(3イ)「【0038】
1種または複数の促進剤を組成物に含ませることもできる。そのような促進剤は、カリックスアレーンおよびオキサカリックスアレーン、シラクラウン、クラウンエーテル、シクロデキストリン、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、エトキシル化水素化化合物、およびそれらの組み合わせから選択することができる。
【0039】
カリックスアレーンおよびオキサカリックスアレーンとして、多くのものが知られており、特許文献に報告されている。例えば、米国特許第4,556,700号、第4,622,414号、第4,636,539号、第4,695,615号、第4,718,966号、および第4,855,461号(これらは、参照によりそれぞれの開示が明確に本明細書に組み込まれる)を参照されたい。・・・
【0042】
特に1つの望ましいカリックスアレーンは、テトラブチルテトラ[2-エトキシ-2-オキソエトキシ]カリックス-4-アレーン(「TBTEOCA」)である。
【0043】
多くのクラウンエーテルが知られている。例えば単独または組み合わせで、あるいは他の第1の促進剤との組み合わせで、ここで使用され得る例は、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5-ジベンゾ-24-クラウン-8、ジベンゾ-30-クラウン-10、トリベンゾ-18-クラウン-6、非対称ジベンゾ-22-クラウン-6、ジベンゾ-14-クラウン-4、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、シクロヘキシル-12-クラウン-4、1,2-デカリル-15-クラウン-5、1,2-ナフト-15-クラウン-5、3,4,5-ナフチル-16-クラウン-5、1,2-メチル-ベンゾ-18-クラウン-6、1,2-メチルベンゾ-5、6-メチルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-18-クラウン-6、1,2-ビニルベンゾ-15-クラウン-5、1,2-ビニルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-シクロヘキシル-18-クラウン-6、非対称ジベンゾ-22-クラウン-6および1,2-ベンゾ-1,4-ベンゾ-5-酸素-20-クラウン-7を含む。米国特許第4,837,260号(Sato)(この開示は、参照により明確に本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0044】
また、シラクラウンの中でも、多くのものが知られており、文献に報告されている。例えば、典型的なシラクラウンは、次の構造(VI):
【0045】
【化4】(省略)」

(3ウ)「【0051】
例えば、本発明に好適に使用されるポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートは、次の構造X:
【0052】
【化8】

(式中、nは、3より大きく、例えば3から12の範囲内であり、特に望ましくは、nは9である)
の範囲内のものを含む。より詳細な例は、PEG200DMA(ここで、nは約4である)、PEG400DMA(ここで、nは約9である)、PEG600DMA(ここで、nは約14である)、およびPEG800DMA(ここで、nは約19である)が挙げられ、この数(例えば400)は、2つのメタクリレート基を除く分子のグリコール部分の平均分子量を、グラム/モル(すなわち、400g/モル)として表したものである。特に望ましいPEG DMAは、PEG400DMAである。
【0053】
エトキシル化水素化化合物(または、エトキシル化脂肪アルコールが採用されるかもしれない)の中で、好適なものは、構造XI:
【0054】
【化9】(省略)」

2 甲1に記載された発明

(1)甲1発明1

上記摘示(1ア)によれば、甲1には、「2-シアノアクリル酸エステルに、下記一般式で示されるスルホン化合物の推なくとも1種及び下記ジカルボン酸無水物の少なくとも1種を配合してなる耐熱性の改良された接着剤組成物
スルホン化合物:(省略)
ジカルボン酸無水物:
グルタル酸無水物及び次の一般式で表されるジカルボン酸無水物。

但し、R^(3)は炭素数4以上のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はシクロアルケン残基である。」(当審注:上記「推なくとも」は「少なくとも」の誤記と認められる。)が記載されている。
そして、この接着剤組成物の具体的な態様である、上記摘示(1カ)の「表」の実施例6(No.6)として、「2-シアノアクリル酸エステル酸類」が「プロピル」であるもの(2-シアノアクリル酸プロピル)が、97.95部、「スルホン化合物」である「ジヒドロキシエチルスルホン」が2部、「ジカルボン酸無水物」である「テトラヒドロフタル酸無水物」が0.05部である接着剤組成物が記載されているから、甲1には、
「2-シアノアクリル酸プロピル97.95部に、ジヒドロキシエチルスルホン2部及びテトラヒドロフタル酸無水物0.05部を配合してなる耐熱性の改良された接着剤組成物。」(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

(2)甲1発明2、3

上記摘示(1イ)によれば、甲1には、2-シアノアクリル酸エステルに他の成分を添加して、2-シアノアクリル酸エステル本来の接着性能を失なうことなく、2-シアノアクリル酸エステルの耐熱性を改良する方法が記載されているといえるところ、この「2-シアノアクリル酸エステル本来の接着性能」とは、上記摘示(1カ)の「このものの瞬間接着性をみるため、1cm^(2)の接着面積をもつ天然ゴム同志を接着したところ、5秒後に完全固着し、5kgの引張荷重に耐え、瞬間接着性は、2-シアノアクリル系接着剤と同等であつた。」との記載によれば、少なくとも「固着時間」を含むことが分かる。
そして、甲1発明1でいえば、2-シアノアクリル酸エステルである2-シアノアクリル酸プロピルに添加される成分は、ジヒドロキシエチルスルホン及びテトラヒドロフタル酸無水物であるから、甲1には、
「2-シアノアクリル酸プロピルに、ジヒドロキシエチルスルホン及びテトラヒドロフタル酸無水物を添加して、少なくとも固着時間に関する接着性能を失なうことなく、2-シアノアクリル酸プロピルの耐熱性を改良する方法」(以下、「甲1発明2」という。)、及び、「少なくとも固着時間に関する接着性能を失なうことなく、2-シアノアクリル酸プロピルの耐熱性を改良するために、2-シアノアクリル酸プロピルに、ジヒドロキシエチルスルホン及びテトラヒドロフタル酸無水物を添加した組成物」(以下、「甲1発明3」という。)が記載されているといえる。

3 対比・検討

(1)本件発明1について

本件発明1と甲1発明1とを対比する。

ア 甲1発明1の「2-シアノアクリル酸プロピル」は、本件発明1の「(a)シアノアクリレート成分」に相当する。

イ 甲1発明1の「テトラヒドロフタル酸無水物」は、本件発明1の「(b)水素化芳香族酸無水物」に相当し、本件発明1の「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」と、「テトラヒドロフタル酸無水物」である点で共通する。

ウ 甲1発明1の「2-シアノアクリル酸プロピル97.95部に」「を配合してなる」「接着剤組成物」は、本件発明1の「(a)シアノアクリレート成分」「を含む、シアノアクリレート接着剤組成物であって」「シアノアクリレート接着剤組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1は、「(a)シアノアクリレート成分、及び
(b)水素化芳香族酸無水物
を含む、シアノアクリレート接着剤組成物であって、
前記水素化芳香族酸無水物がテトラヒドロフタル酸無水物であるシアノアクリレート接着剤組成物。」で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
テトラヒドロフタル酸無水物が、本件発明1では、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であるのに対し、甲1発明1では、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であるのか不明な点。

<相違点2>
シアノアクリレート接着剤組成物について、本件発明1では、更にペンタフルオロベンゾニトリルが含まれているのに対し、甲1発明1では、ペンタフルオロベンゾニトリルが含まれていない点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討を行う。

甲1の全記載を見ても、シアノアクリレート接着剤組成物に、ペンタフルオロベンゾニトリルを添加する旨の記載はないから、上記相違点2は、実質的な相違点となるものである。
次に、甲1発明1の接着剤組成物に、ペンタフルオロベンゾニトリルを添加することが、当業者が容易に想到し得ることであるか否かを検討する。
ここで、甲2の上記(2ア)の【請求項1】、上記(2イ)及び上記(2カ)等の記載によれば、甲2は、シアノアクリレート接着剤組成物に特定の芳香族化合物を添加して、シアノアクリレート接着剤組成物の耐熱性を改善するものであり、上記(2ア)の【請求項9】及び上記(2カ)の段落【0025】並びに上記(2キ)の【表1】の記載によれば、この特定の芳香族化合物には、具体的には、「ペンタフルオロベンゾニトリル」等のベンゾニトリルが含まれることが分かる。
そして、甲2では、上記(2ウ)の段落【0013】で、この特定の芳香族化合物の添加量が、「代表的には、配合組成物の3?10重量%のレベルで適当に用いられる」とされ、上記(2キ)の【表1】に記載される配合組成物では、シアノアクリレート接着剤組成物に対して、ペンタフルオロベンゾニトリルが、8重量%添加されているように、甲2は、シアノアクリレート接着剤組成物の耐熱性を改善するために、「ペンタフルオロベンゾニトリル」等のベンゾニトリルを、具体例でいえば、8重量%と相当量添加するものである。
一方、上記(1エ)のとおり、甲1は、接着剤組成物に耐熱性を与えるスルホン化合物及びジカルボン酸無水物を組み合わせて添加して相乗効果を得ているものであり、甲1には、これらのどちらか一方を使用して、接着剤組成物に耐熱性を与える物質を更に添加する記載や示唆はない。
また、甲1の上記(1イ)の「2-シアノアクリル酸エステル系接着剤は、2-シアノアクリル酸エステルが主成分で、極く少量の安定剤、増粘剤、可塑剤、架橋剤などが添加されているもので、一般的には2-シアノアクリル酸エステルの純度が高い程、瞬間接着剤としての性能が向上する傾向にあるため、この接着剤を改質すべく、他の成分を種々添加すると、瞬間接着性を失つたり、あるいは貯蔵安定性を欠いたりするため、今迄に2-シアノアクリル酸エステルに他の成分を添加して接着剤を改質する試みは成功することがまれであつた。」との記載によれば、一般的には2-シアノアクリル酸エステルの純度が高い程、瞬間接着剤としての性能が向上する傾向にあるため、接着剤を改質するための他の成分の添加量は、なるべく少ない方が好ましいことが分かる。
そして、甲1発明1の「ジヒドロキシエチルスルホン」(スルホン化合物)及び「テトラヒドロフタル酸無水物」(ジカルボン酸無水物)の添加量に関する、甲1の上記(1エ)の「かかるスルホン化合物の望ましい添加量は、0.01重量%以上3重量%以下であり、又ジカルボン酸無水物の添加量は好ましくは0.01重量%以上5重量%以下、更に好ましくは0.01重量%以上1重量%以下の範囲が良く、いづれも添加量をこれ以上多くすると、溶解性が悪くなり硬化速度が低下し、接着強さも下がる傾向にあり、又添加量が少なすぎると耐熱性の向上はみられない。」との記載によれば、甲1発明1では、溶解性が悪化、硬化速度が低下、接着強さの低下を防ぐために、2-シアノアクリル酸エステル以外の成分である「スルホン化合物」及び「ジカルボン酸無水物」の添加量をそれぞれ1重量%以内にしているといえる。
そうすると、甲2に、シアノアクリレート接着剤組成物の耐熱性を改善するために、「ペンタフルオロベンゾニトリル」等のベンゾニトリルを添加することが記載されているとしても、甲2のシアノアクリレート接着剤組成物は、具体例でいえば、シアノアクリレート接着剤組成物に対して8重量%も含むものであり、甲1発明1の接着剤組成物に、仮に8重量%もの「ペンタフルオロベンゾニトリル」を添加した場合には、2-シアノアクリル酸エステルの配合量の減少による溶解性の悪化、硬化速度の低下、接着強さの低下が懸念されるのであるから、甲1発明に、上述の甲2の技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。
さらに、甲3には、シアノアクリレート接着剤組成物に、「ペンタフルオロベンゾニトリル」添加することの記載はない。

<本件発明1の効果>について
甲1の上記(1イ)の記載によれば、シアノアクリレート接着剤組成物では、接着剤を改質すべく、他の成分を種々添加すると、瞬間接着性を失ったりするのであるから、シアノアクリレート接着剤組成物に対して耐熱性を向上することが知られている添加剤を単純に組み合わせて添加すれば、シアノアクリレート接着剤組成物が、瞬間接着性を失うことなく、それぞれを単独で添加した場合に比べて向上した耐熱性を示すという技術的な常識があるとはいえない。而るに、本件明細書の段落【0065】【表7】の記載によれば、シアノアクリレート接着剤組成物に対し、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物を、0.1wt%、ペンタフルオロベンゾニトリルを、0.5wt%添加した「試料H」は、シアノアクリレート接着剤組成物に対し、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物を、0.1wt%添加した「試料F」、及びペンタフルオロベンゾニトリルを、0.5wt%添加した「試料G」に比べて、段落【0067】【表8】に記載される「加熱老化」の特性で、有意に優れた結果を示していることから、シアノアクリレート接着剤組成物に、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、と共にペンタフルオロベンゾニトリルを含む本件発明1は、格別の効果を示すものであるといえる。

よって、上記相違点2は、実質的な相違点となるものであると共に、上記相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではないし、甲1発明1、並びに甲2及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明6ないし16について

本件発明6ないし16は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明7、8、13ないし16は、甲1発明1、又は甲1に記載された発明ではないし、甲1発明1又は甲1に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また、本件発明6、9ないし12は、甲1発明1又は甲1に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明17について

ア 本件発明17と甲1発明2を対比すると、甲1発明2の「固着時間に関する接着性能」とは、上記摘示(1カ)の「このものの瞬間接着性をみるため、1cm^(2)の接着面積をもつ天然ゴム同志を接着したところ、5秒後に完全固着し、5kgの引張荷重に耐え、瞬間接着性は、2-シアノアクリル系接着剤と同等であつた。」との記載によれば、短時間での瞬間接着性を意味しているといえるから、本件発明17の(大きな)「固化速度」に相当しているといえる。また、甲1発明2で、耐熱性が改良されるのは、2-シアノアクリル酸プロピルの「硬化生成物」であることは明らかである。さらに、甲1発明2の「・・・の耐熱性を改良する」は、本件発明17の「・・・に対して向上した耐熱性を付与する」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、甲1発明2の「少なくとも固着時間に関する接着性能を失なうことなく、2-シアノアクリル酸プロピルの耐熱性を改良する方法」は、本件発明17の「固化速度、安定性又は色調の少なくとも一つを損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法」と、「固化速度を損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法」で一致している。

ウ 甲1発明2の「2-シアノアクリル酸プロピルに、ジヒドロキシエチルスルホン及びテトラヒドロフタル酸無水物を添加」することに、「2-シアノアクリル酸プロピルを用意するステップ」と、「テトラヒドロフタル酸無水物を用意するステップ」があることは明らかであると共に、この「テトラヒドロフタル酸無水物」は、本件発明17の「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」と「テトラヒドロフタル酸無水物」の点で共通する。

そうすると、本件発明17と甲1発明2は、「固化速度を損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法であって、
シアノアクリレート組成物を用意するステップと、
テトラヒドロフタル酸無水物を用意するステップと、を含む方法。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点3>
テトラヒドロフタル酸無水物を用意するステップについて、本件発明17では、テトラヒドロフタル酸無水物が、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であると共にペンタフルオロベンゾニトリルがさらに用意されているのに対し、甲1発明2では、テトラヒドロフタル酸無水物が、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であるのか不明であると共に、ペンタフルオロベンゾニトリルが用意されていない点。

上記相違点3の内、本件発明17では、ペンタフルオロベンゾニトリルがさらに用意されているのに対し、甲1発明2では、ペンタフルオロベンゾニトリルが用意されていない点は、上記(1)で述べた上記相違点2と同じものである。
そして、上記(1)で述べたように、上記相違点2は、実質的な相違点となるものであると共に、上記相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2を含む上記相違点3も、実質的な相違点となるものであると共に、上記相違点3に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
そうすると、本件発明17は、甲1発明2ではないし、甲1発明2、並びに甲2及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明18について

ア 本件発明18と甲1発明3を対比すると、甲1発明3の「少なくとも固着時間に関する接着性能を失なうことなく」、「2-シアノアクリル酸プロピル」及び「組成物」は、それぞれ、本件発明18の「固化時間を損なうことなく」、「シアノアクリレート成分」及び「シアノアクリレート組成物」に相当する。また、甲1発明3で、耐熱性が改良されるのは、2-シアノアクリル酸プロピルの「硬化反応生成物」であることは明らかである。

イ 甲1発明3の「テトラヒドロフタル酸無水物」は、本件発明18の「3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物」と「テトラヒドロフタル酸無水物」の点で共通する。

そうすると、本件発明18と甲1発明3は、「シアノアクリレート成分を含むシアノアクリレート組成物であって、その改良が、シアノアクリレート組成物の固化時間を損なうことなく硬化反応生成物の耐熱性を改良するために、シアノアクリレート成分にテトラヒドロフタル酸無水物を添加することを含むシアノアクリレート組成物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点4>
テトラヒドロフタル酸無水物が、本件発明18では、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であるのに対し、甲1発明3では、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であるのか不明な点。

<相違点5>
シアノアクリレート組成物について、本件発明18では、更にペンタフルオロベンゾニトリルが含まれているのに対し、甲1発明3では、ペンタフルオロベンゾニトリルが含まれていない点。

事案に鑑み、上記相違点5について検討する。
上記相違点5は、上記(1)で述べた上記相違点2と同じものである。
そして、上記(1)で述べたように、上記相違点2は、実質的な相違点となるものであると共に、上記相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点5も、実質的な相違点となるものであると共に、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
そうすると、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明18は、甲1発明3ではないし、甲1発明3、並びに甲2及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 取消理由(決定の予告)についてのまとめ

取消理由(決定の予告)について、上記(1)ないし(4)で検討したとおり、本件発明1、6ないし18は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項のいずれの規定にも該当するとはいえない。

第7 取消理由(決定の予告)で採用しなかった申立理由に関する当審の判断

1 申立理由1について

上記第6、3(2)で述べたように、本件発明1を甲1発明1であるとすることはできないから、本件発明1に「更に、酸性安定剤及びフリーラジカル抑制剤を含む」ことを特定した本件発明6を、甲1発明1であるとすることもできない。
そうすると、申立理由1によっては、本件発明6を、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものとすることはできない。

2 申立理由2について

申立人の主張する申立理由2は、『本件特許の請求項2には、「ベンゾニトリルを含む、請求項1に記載の組成物」と記載されている。
また、請求項5には、「前記ベンゾニトリルが、3,5-ジニトロベンゾニトリル、2-クロロ-3,5-ジニトロベンゾニトリル、ペンタフルオロベンゾニトリル、α,α,α-2-テトラフルオロ-p-トルニトリル、及びテトラクロロテレフタロニトリルからなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。」と記載されている。
しかしながら、本件特許明細書に記載された「ベンゾニトリル」の具体例は、「ペンタフルオロベンゾニトリル」しか記載されていない。
従って、本件特許における請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない。
又、本件特許におけるベンゾニトリルの記載がある請求項16、同17および同19も、これらの記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない。』というものである。

これに対し、訂正前の請求項2及び請求項5は削除され、本件発明1に「更に、ペンタフルオロベンゾニトリルを含む」ことが特定され、訂正前の請求項16、請求項17のベンゾニトリルは、訂正後の本件発明16及び17で「ペンタフルオロベンゾニトリル」に特定され、訂正前の請求項19は削除され、訂正後の本件発明18で「シアノアクリレート成分に・・・ペンタフルオロベンゾニトリルを添加する」と特定された。
そうすると、訂正前の請求項に記載されていた「ベンゾニトリル」は、全て「ペンタフルオロベンゾニトリル」と特定されることとなった。

よって、本件発明16、17が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできず、本件特許16、17は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。

第8 むすび

上記「第7」で検討したとおり、本件特許1、6ないし18は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項のいずれの規定にも違反してされたものであるということはできないし、本件特許16、17は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由(決定の予告)、申立理由1及び2によっては、本件特許1、6ないし18を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、6ないし18を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件発明2ないし5、19は削除されたので、本件発明2ないし5、19に係る異議申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シアノアクリレート成分、及び
(b)水素化芳香族酸無水物
を含む、シアノアクリレート接着剤組成物であって、
前記水素化芳香族酸無水物が3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物であり、
更に、ペンタフルオロベンゾニトリルを含む、シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
更に、酸性安定剤及びフリーラジカル抑制剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記シアノアクリレート成分が、H_(2)C=C(CN)-COORの構造(式中、Rは、C_(1)?_(15)アルキル、アルコキシアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アラルキル、アリール、アリル及びハロアルキル基より選択される)の範囲内の物質から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記シアノアクリレート成分が、エチル-2-シアノアクリレートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
更に、カリックスアレーン、オキサカリックスアレーン、シラクラウン、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、エトキシル化ヒドロキシ化合物及びそれらの組み合わせからなる群より選択される促進剤成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記カリックスアレーンが、テトラブチルテトラ[2-エトキシ-2-オキソエトキシ]カリックス-4-アレーンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記クラウンエーテルが、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5-ジベンゾ-24-クラウン-8、ジベンゾ-30-クラウン-10、トリベンゾ-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、ジベンゾ-14-クラウン-4、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、シクロヘキシル-12-クラウン-4、1,2-デカリル-15-クラウン-5、1,2-ナフト-15-クラウン-5、3,4,5-ナフチル-16-クラウン-5、1,2-メチル-ベンゾ-18-クラウン-6、1,2-メチルベンゾ-5、6-メチルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-18-クラウン-6、1,2-ビニルベンゾ-15-クラウン-5、1,2-ビニルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-シクロヘキシル-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、及び1,2-ベンゾ-1,4-ベンゾ-5-O-20-クラウン-7並びにそれらの組み合わせからなる群内の構成物質より選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートが、次の構造
【化1】

(式中、nは3よりも大きい)
の範囲内にある、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
更に、耐衝撃性添加剤、チクソトロピー性付与剤、増粘剤、色素、耐熱分解性増強剤及びそれらの組み合わせからなる群より選択される添加剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物の反応生成物。
【請求項15】
二つの基材を接合する方法であって、
基材の少なくとも一つに、請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物を塗布するステップ、及び
接着剤を固化し得るのに十分な時間、基材を一体にするステップ、
を含む方法。
【請求項16】
請求項1に記載のシアノアクリレート含有組成物の調製方法であって、
シアノアクリレート成分を用意するステップ、及び
それに、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを、混合により混ぜ合わせるステップ、
を含む方法。
【請求項17】
固化速度、安定性又は色調の少なくとも一つを損なうことなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物に対して向上した耐熱性を付与する方法であって、
シアノアクリレート組成物を用意するステップと、
3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを用意するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
シアノアクリレート成分を含むシアノアクリレート組成物であって、その改良が、シアノアクリレート組成物の固化時間を損なうことなく硬化反応生成物の耐熱性を改良するために、シアノアクリレート成分に3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物及びペンタフルオロベンゾニトリルを添加することを含むシアノアクリレート組成物。
【請求項19】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-22 
出願番号 特願2014-519676(P2014-519676)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
天野 宏樹
登録日 2016-02-05 
登録番号 特許第5878631号(P5878631)
権利者 ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 シアノアクリレート組成物  
復代理人 渡邉 伸一  
復代理人 渡邉 伸一  
代理人 小野 暁子  
代理人 伊藤 克博  
代理人 伊藤 克博  
代理人 小野 暁子  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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