• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1341989
異議申立番号 異議2017-700151  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-17 
確定日 2018-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5982068号発明「粘着剤用組成物、粘着剤および粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5982068号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5982068号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5982068号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年11月7日(優先権主張:平成25年12月24日、日本国(特願2013-265108号))に特許出願され、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年2月17日に特許異議申立人野本玲司(以下、「申立人1」という。)、及び、平成29年2月28日に特許異議申立人岡本啓三(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年5月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月26日に本件特許の特許権者から意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正に対して、平成29年8月23日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月14日に本件特許の特許権者から意見書及び訂正請求書の手続補正書の提出があり、その後、平成29年11月24日に申立人1により意見書の提出があり(申立人2は、特許法第120条の5第5項の規定により審判長が指定した期間内に意見書を提出しなかった。)、その後、平成29年12月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年3月9日に本件特許の特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その後、平成30年4月18日に申立人1より意見書が提出されたものである(申立人2は、特許法第120条の5第5項の規定により審判長が指定した期間内に意見書を提出しなかった。)。
なお、平成29年7月26日に特許権者よりなされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成30年3月9日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1?6について訂正するものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである(下線は訂正箇所)。

(1)訂正事項1

訂正前の請求項1に「下記式で表されるRAFT剤」と記載されているのを(式は下記【化1】)、「ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートまたはジベンジルトリチオカーボネートであるRAFT剤」に訂正し、「水酸基含有モノマーに由来する構成単位を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体」と記載されているものを、「水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?30質量%の範囲で有する(メタ)アクリル酸エステル重合体」に訂正する。

【化1】

[式中、Rは1価の有機基であり、2つのRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]

(2)訂正事項2

訂正前の請求項2に「前記RAFT剤が下記式で表される」と記載されているのを(式は下記【化2】)、「前記RAFT剤がビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートであり、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が60,000?190,000である」に訂正する。

【化2】

[式中、R^(1)はそれぞれ独立に2価の有機基である。]

(3)訂正事項3

訂正前の請求項3に「前記RAFT剤における式中のRが、(i)アルキル基、または(ii)アルキル基が有する水素原子の1または2以上が、フェニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、炭素数1?4のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、アセトキシ基および下記g1?g4からなる群R_(s)から選ばれる少なくとも1種の基で置換された基である」と記載されているのを(式は下記【化3】)、「前記RAFT剤がジベンジルトリチオカーボネートであり、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が60,000?190,000である」に訂正する。

【化3】

[上記式g1?g4中、*は結合位を示す。上記式g2中、Aは炭素数2?5のアルキレン基、nは10?300の整数である。]

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正事項1は、RAFT剤の種類に関し、訂正前の【化1】で示される化合物群の中から、「ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネート」(以下「RAFT剤-1」という。)、または、「ジベンジルトリチオカーボネート」(以下「RAFT剤-2」という。)に限定し、また、(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する水酸基含有モノマーの構成単位を5?30質量%の範囲に限定したものであるから、該訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ RAFT剤-1については、本件明細書の【0063】【化11】、【0121】【化12】に記載され、【0132】【表1】における製造例1?5、8に記載されている。そして、RAFT剤-2については、【0043】【化4】に記載され、【0132】【表1】における製造例6に記載されている。また、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?30質量%の範囲とすることについては、【0027】に「水酸基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、全構成単位量に対して、通常0.1?30質量%」と記載され、また、【0132】【表1】には、5質量%であることが記載されている(リビング重合の一種であるRAFT重合であるので、モノマーの仕込み量が得られる重合体中の構成単位の含有量となるところ、例えば製造例1では、「原料モノマー100質量%中、2-ヒドロキシエチルアクリレート」(初期仕込み)1質量%、及び、2-ヒドロキシエチルアクリレート(追加仕込み)4質量%の合計である「5質量%」が水酸基含有モノマーに由来する構成単位の含有量となる。)。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

ウ 訂正事項1は、上記(1)アで述べたとおり、RAFT剤の種類を限定し、また、水酸基含有モノマーに由来する構成単位の含有量の範囲を限定したものであるから、該訂正事項1は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(2)訂正事項2について

ア 訂正事項2は、RAFT剤の種類に関し、訂正前の【化2】で示される化合物群の中から、RAFT剤-1に限定し、また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の範囲に関し、訂正前は「60,000?200,000」であったところを、「60,000?190,000」とし、範囲の上限を限定するものであるから、該訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ RAFT剤-1については、本件明細書の【0063】【化11】、【0121】【化12】に記載され、【0132】【表1】における製造例1?5、8に記載されている。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の上限(190,000)については、【0132】【表1】の製造例4に記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

ウ 訂正事項2は、上記(2)アで述べたとおり、RAFT剤の種類を限定し、また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の範囲を限定したものであるから、該訂正事項2は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(3)訂正事項3について

ア 訂正事項3は、RAFT剤の種類に関し、訂正前の【化3】で示される化合物群の中から、RAFT剤-2に限定、すなわち、訂正前の請求項3において「Rが(ii)アルキル基が有する水素原子の1または2以上が、・・・フェニル基・・・で置換された基である」場合に対応する「ジベンジルトリチオカーボネート」に限定し、また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の範囲に関し、訂正前は「60,000?200,000」であったところを、「60,000?190,000」とし、範囲の上限を限定するものであるから、該訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ RAFT剤-2については、【0043】【化4】に記載され、【0132】【表1】における製造例6に記載されている。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の上限(190,000)については、【0132】【表1】の製造例4に記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

ウ 訂正事項3は、上記(3)アで述べたとおり、RAFT剤の種類を限定し、また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の範囲を限定したものであるから、該訂正事項3は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?6について求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

(1)本件発明

本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートまたはジベンジルトリチオカーボネートであるRAFT剤を用いたRAFT重合によって得られる、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)が60,000?200,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下であり、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?30質量%の範囲で有する(メタ)アクリル酸エステル重合体と、
(B)1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物と
を含有する粘着剤用組成物。
【請求項2】
前記RAFT剤がビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートであり、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が60,000?190,000である請求項1に記載の粘着剤用組成物。
【請求項3】
前記RAFT剤がジベンジルトリチオカーボネートであり、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が60,000?190,000である請求項1に記載の粘着剤用組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対し、前記イソシアネート化合物(B)を、固形分比で0.1?50質量部の範囲で含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の粘着剤用組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物から形成された粘着剤。
【請求項6】
基材と、
請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物から形成された粘着剤層と
を有する粘着シート。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して平成29年12月26日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

■取消理由1(取消理由(決定の予告)における「理由1」、特許法第29条第2項)
<引用文献1を主引例とした場合>
請求項1?6に係る発明は、いずれも、本願の出願前に日本国内において頒布された下記引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2?7(周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、同法第113条1項2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

<引用文献8を主引例とした場合>
請求項1?6に係る発明は、いずれも、本願の出願前に日本国内において頒布された下記引用文献8に記載された発明、引用文献9に記載された事項、及び、引用文献2?7(周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、同法第113条1項2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

■取消理由2(取消理由(決定の予告)における「理由2」、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号)
本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許の請求項1?6に関して、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条1項4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

引用文献1:特開平9-324165号公報(甲2-1)
引用文献2:特開2003-147312号公報(甲2-2)
引用文献3:特開2011-79979号公報(甲2-3)
引用文献4:特開2007-230947号公報(甲2-4、甲1-5)
引用文献5:特開2011-52057号公報(甲2-5)
引用文献6:特開2013-18934号公報(甲1-3)
引用文献7:特開2006-265461号公報(甲1-4)
引用文献8:特開2004-67958号公報(甲1-1)
引用文献9:特開2011-74380号公報(甲1-2)

なお、下記のとおり、申立人1が提出した甲第1号証?甲第7号証を、それぞれ「甲1-1」?「甲1-7」といい、申立人2が提出した甲第1号証?甲第5号証をそれぞれ「甲2-1」?「甲2-5」という。

・申立人1が提出した証拠方法
甲1-1:特開2004-67958号公報
甲1-2:特開2011-74380号公報
甲1-3:特開2013-18934号公報
甲1-4:特開2006-265461号公報
甲1-5:特開2007-230947号公報(後記甲2-4と同じ。)
甲1-6:国際公開第2010/119970号
甲1-7:特開2005-23143号公報

・申立人2が提出した証拠方法
甲2-1:特開平9-324165号公報
甲2-2:特開2003-147312号公報
甲2-3:特開2011-79979号公報
甲2-4:特開2007-230947号公報(上記甲1-5と同じ。)
甲2-5:特開2011-52057号公報

(3)引用文献1?9に記載された事項

ア 引用文献1(甲2-1)には次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクリル系のブロック共重合体からなる粘着剤組成物に関する。」

「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記に鑑み、初期粘着力、経時粘着力、保持力等の粘着特性のバランスに優れ、また、溶融特性が良く基材への塗工性に優れた粘着剤組成物を提供することを目的とし、更には、粘着特性のバランスに優れるとともに、高温での凝集力が改善されたアクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。」

「【0032】上記リビング重合法としては特に限定されず、例えば、N,N,N′,N′-テトラエチルリチウムジスルフィド、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、p-キシレンビス(N,N-ジエチルジチオカルバメート)等のイニファータを開始剤として用いる方法;有機ランタノイド化合物を開始剤として用いる方法;アルキルリチウム等を開始剤として用いるアニオン重合法;シリルケテンアセタール等を開始剤として用いるグループトランスファー法;アルミニウムポリフォリンを開始剤として用いる方法;メタルフリーリビングアニオン法;リビングラジカル法等の公知の各手法を採用することができる。」

「【0042】請求項1記載の粘着剤組成物(I)は、上に詳述したブロック共重合体(I)、及び、以下に詳述するランダム共重合体(II)よりなる。上記ランダム共重合体(II)は、一般にビニル系モノマーとアルキル基の炭素数が1?12のアルキル(メタ)アクリレートとをランダム共重合したものが用いられるが、用途によってはアルキル基の炭素数が1?12のアルキル(メタ)アクリレートからなる単独重合体を用いてもよい。
【0043】上記ビニル系モノマーは架橋点を与えるためのものである。ビニル系モノマーとしては特に限定されず、例えば、スチレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。好ましくは極性基を有するものであり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、又2種以上を併用することもできる。」

「【0064】請求項4に記載のものは、上記粘着剤組成物(I)、又は、上記粘着剤組成物(II)において、Aが架橋性官能基を有するビニル系重合体又は架橋性官能基を有するビニル系共重合体であり、上記架橋性官能基と反応することができる架橋剤が更に配合されてなるアクリル系粘着剤組成物(以下、このものを「粘着剤組成物(III)」という)である。
【0065】上記架橋性官能基を有するビニル系重合体及び上記架橋性官能基を有するビニル系共重合体は、架橋性官能基を有するビニル系モノマーにより構成することができる。上記架橋性官能基を有するビニル系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、グリシジル基、メチロール基、アミノ基等の架橋性官能基を有するものであれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらを単独で使用することにより、架橋性官能基を有するビニル系重合体とすることができ、2種以上併用することにより架橋性官能基を有するビニル系共重合体とすることができる。
【0066】上記架橋性官能基を有するビニル系重合体又は上記架橋性官能基を有するビニル系共重合体においては、凝集力を調整するために、上記架橋性官能基を有するビニル系モノマーと共に他のビニル系モノマーを共重合することができる。
【0067】この場合において、上記架橋性官能基を有するビニル系モノマーの含有量は、粘着力と凝集力のバランスを取るために、0.1?10重量%が好ましい。」

「【0070】上記架橋性官能基を有するビニル系モノマーの架橋性官能基と反応することができる架橋剤としては、具体的には、上記架橋性官能基がヒドロキシル基の場合は、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記架橋性官能基がカルボキシル基の場合は、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート、エポキシ樹脂、金属酸化物、金属過酸化物、金属塩、金属水酸化物、金属キレート等が挙げられる。」

「【0072】前記粘着剤組成物(III)においては、上記架橋剤の含有量は0.01?30重量%が好ましい。0.01重量%未満であると保持力及び弾性率が低下してコールドフロートが発生しやすくなり、取り扱い上の支障が生じ、30重量%を超えると弾性率が高くなりすぎ、充分な粘着力を得ることができない。より好ましくは1?20重量%である。
【0073】粘着剤組成物(I)、粘着剤組成物(II)及び粘着剤組成物(III)の重量平均分子量は1万?400万が好ましい。1万未満であると凝集力が充分ではなく、400万を超えると塗工時の粘度上昇が問題となる。より好ましくは10万?200万である。本発明の粘着剤組成物(III)は、その数平均分子量に対する重量平均分子量の比の値が5以下であることが好ましい。5を超えると凝集力が得られにくくなる。より好ましくは4以下である。
【0074】本発明の粘着剤組成物(I)、粘着剤組成物(II)及び粘着剤組成物(III)は、溶剤型、エマルジョン型、ホットメルト型等の粘着剤として使用することができ、粘着テープ、粘着シート等の用途に好適に用いることができる。また、架橋剤を配合することにより、溶剤型、エマルジョン型、ホットメルト型等の接着剤として好適に使用することができ、基材シートに塗工して感圧性接着等とすることができる。
【0075】本発明の粘着剤組成物(I)、粘着剤組成物(II)又は粘着剤組成物(III)を用いて粘着テープ、粘着シート、接着テープ等を製造する方法としては特に限定されず、例えば、基材フィルム上に、これらを熱溶融塗工する方法、溶剤に溶解させて塗布する方法等適宜の方法により実施することができる。」

「【0102】実施例7
(1)A-B-A型ブロック共重合体(3)の合成
ブチルアクリレート120重量部に対して、開始剤としてベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート0.2重量部、溶剤として酢酸エチル30重量部を三ツ口フラスコに投入し、20分間窒素パージを行った。スリーワンモータを用いて攪拌翼を回転させながら、10ワットのUVランプを48時間照射して、Bブロックの重合を行った。
【0103】得られた反応物に、メチルメタクリレート27重量部とヒドロキシエチルメタクリレート3重量部とを均一に混合したモノマー混合物、溶剤として酢酸エチル7重量部を加えて、10ワットのUVランプを48時間照射して、AブロックをBブロックにブロック共重合させ、Aブロックが、メチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体ブロックであり、Bブロックが、ブチルアクリレート重合体ブロックであるA-B-A型ブロック共重合体(3)を合成した。Aブロックの含有量は20重量%、Aブロック中のヒドロキシエチルメタクリレートの含有量は10重量%であった。」

「【0106】(3)粘着剤組成物の調製
A-B-A型ブロック共重合体(3)100重量部、A-B型ブロック共重合体(4)50重量部、及び、架橋剤(コロネートL、日本ポリウレタン社製)3重量部を配合し、粘着剤組成物を得た。」

「【0115】実施例8
A-B-A型ブロック共重合体(3)及びA-B型ブロック共重合体(4)において、それぞれ、Aブロックをメチルメタクリレート/ヒドロキシエチルアクリレート共重合体ブロック、Bブロックを2-エチルヘキシルアクリレート重合体ブロックとしたこと以外は、実施例7と同様にして粘着剤組成物、及び、粘着テープを得、評価した。結果を表3に示した。」

「【0120】
【表3】

【0121】表3から明らかなように、実施例7?9においては、いずれも高温における凝集力が高いレベルに保たれており、更に、低温タックや耐剥離性に優れ、良好な粘着特性バランスが得られた。これに対して、ランダム共重合体を使用した比較例5?7においては、いずれも高温における凝集力を高いレベルに保とうとすると、低温特性や耐剥離性が極端に劣化することがわかる。」

イ 引用文献2(甲2-2)には次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エマルジョン型粘着剤に関する。より詳しくは、本発明は、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体ブロックと、アクリル酸エステルを主成分とする重合体ブロックとを含有するブロック共重合体を含有し、該ブロック共重合体がチオカルボニルチオ基を有する化合物の存在下での水系重合により得られる、エマルジョン型粘着剤に関する。」

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、耐熱性、耐候性、耐油性、および粘着特性に優れ、水系重合によって製造可能なアクリル系ブロック共重合体を含有する、エマルジョン型粘着剤を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するための手段として、チオカルボニルチオ基を有する化合物の存在下で、水系重合によってアクリル系ブロック共重合体を製造することができ、しかも該ブロック共重合体を必須成分とするエマルジョン型粘着剤が耐候性、耐熱性、耐油性、および粘着特性に優れることを見出し、本発明を完成した。」

「【0027】<エマルジョン型粘着剤に含有されるブロック共重合体の調製の概略>本発明のエマルジョン型粘着剤に含有されるブロック共重合体は、上述のように重合体ブロック(A)と(B)とから構成される。このようなブロック共重合体を合成する方法としては特に限定されないが、チオカルボニルチオ基を有する化合物の存在下に単量体を重合させて得る方法が好ましい。ここで、チオカルボニルチオ基を有する化合物は、ラジカル重合において、可逆的付加脱離連鎖移動重合の連鎖移動剤として作用する。可逆的付加脱離連鎖移動重合法は、国際特許WO98/01478号公報、国際特許WO99/05099号公報、国際特許WO99/31144号公報、Macromolecules 1998年 31巻 16号 5559?5562ページ、Macromolecules 1999年 32巻 6号 2071?2074ページ、Polym.Prepr. 1999年 40巻 2号 342?343ページ、Polym.Prepr. 1999年 40巻 2号 397?398ページ、Polym.Prepr. 1999年 40巻 2号 899?900ページ、Polym.Prepr. 1999年 40巻 2号 1080?1081ページ、Macromolecules 1999年 32巻 21号 6977?6980ページ、Macromolecules 2000年 33巻 2号 243?245ページ、Macromol.Symp. 2000年 150巻 33?38ページなどに記載されている。」

「【0082】
【化22】



ウ 引用文献3(甲2-3)には次の記載がある。

「【0001】
本発明は、粘着特性に優れた粘着剤組成物に関する。」

「【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、安価に且つ容易な、特定の方法により製造された、数平均分子量Mnが300000以上であり、且つ、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が1.7未満である(メタ)アクリル系重合体を含有し、粘着性に優れた粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下のとおりである。
1.交換連鎖移動剤の存在下、(メタ)アクリル系化合物を含む単量体をラジカル重合する重合工程を備える方法により製造され、且つ、数平均分子量Mnが300000以上であり、重量平均分子量Mwとこの数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が1.7未満である(メタ)アクリル系重合体を含有することを特徴とする粘着剤組成物。
2.上記交換連鎖移動剤が、チオカルボニルチオ基を有する化合物である上記1に記載の粘着剤組成物。
3.上記チオカルボニルチオ基を有する化合物が、チオカルボニルジチオ基を有する化合物である上記2に記載の粘着剤組成物。
4.上記交換連鎖移動剤が、有機ハロゲン化合物である上記1に記載の粘着剤組成物。
5.上記有機ハロゲン化合物が、2つのヨウ素原子を有し、このヨウ素原子が芳香族環に結合した炭素原子に結合した構造を有する含ヨウ素化合物である上記4に記載の粘着剤組成物。
6.上記(メタ)アクリル系重合体がブロック共重合体である上記1乃至5のいずれかに記載の粘着剤組成物。」

「【0050】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物としては、以下に示される。
・・・
【化14】

・・・
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を示し、nは1以上の整数であり、rは0以上の整数である。)


「【0117】
1.(メタ)アクリル系共重合体の合成
合成例1(重合体A-1の合成)
内容積1リットルのセパラブルフラスコに、アクリル酸ブチル400部と、下記式で表される化合物(ビス(ベンジルスルファニル)メタンチオン)0.113部と、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル0.019部と、酢酸ブチル100部とからなる混合液を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気した。その後、混合液の内温を60℃に上昇させて重合を開始し、8時間反応させた。アクリル酸ブチルの重合率は71%であった。
次に、反応液を冷却し、フラスコから反応液を抜き出した。そして、蒸発機を用いて、減圧度0.3kPa、温度80℃で5時間かけて減圧乾燥し、約250部のポリアクリル酸ブチル、即ち、単独重合体(A-1)を得た。得られた重合体(A-1)のMwは922880であり、Mnは721000であった。また、これらを用いて、Mw/Mn(以下、「分散度」ともいう。)1.28を得た(表1参照)。
【化30】

【0118】
合成例2(重合体A-2の合成)
1リットルのセパラブルフラスコに、アクリル酸ブチル391部と、アクリル酸11部と、ビス(ベンジルスルファニル)メタンチオン0.111部と、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル0.019部と、酢酸ブチル100部とからなる混合液を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気した。その後、混合液の内温を60℃に上昇させて重合を開始し、8時間反応させた。アクリル酸ブチル及びアクリル酸の重合率は、それぞれ、71%及び69%であった。
次に、反応液を冷却し、フラスコから反応液を抜き出した。そして、蒸発機を用いて、減圧度0.3kPa、温度80℃で5時間かけて減圧乾燥し、アクリル酸ブチル単位と、アクリル酸単位とからなるランダム共重合体(A-2)約250部を得た。得られた重合体(A-2)のMwは863600であり、Mnは680000であった。そして、分散度1.27を得た(表1参照)。
【0119】
合成例3(重合体A-3の合成)
1リットルのセパラブルフラスコに、アクリル酸ブチル384部と、メタクリル酸ヒドロキシエチル20部と、ビス(ベンジルスルファニル)メタンチオン0.109部と、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル0.019部と、酢酸ブチル100部とからなる混合液を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気した。その後、混合液の内温を60℃に上昇させて重合を開始し、8時間反応させた。アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ヒドロキシエチルの重合率は、それぞれ、73%及び72%であった。
次に、反応液を冷却し、フラスコから反応液を抜き出した。そして、蒸発機を用いて、減圧度0.3kPa、温度80℃で5時間かけて減圧乾燥し、アクリル酸ブチル単位と、メタクリル酸ヒドロキシエチル単位とからなるランダム共重合体(A-3)約250部を得た。得られた重合体(A-3)のMwは956250であり、Mnは757000であった。そして、分散度1.25を得た(表1参照)。」

エ 引用文献4(甲2-4、甲1-5)には次の記載がある。

「【請求項2】
前記誘導体が、前記一般式(1)において、Arがフェニレン基であり、R_(1)がエチル基であり、R_(2)がエチレン基である、次の式:
【化2】

で表される、請求項1に記載のジベンジルトリチオカーボネート誘導体。」

「【0001】
本発明は、分子の両末端にヒドロキシ基を有する新規ジベンジルトリチオカーボネート誘導体、その製造方法および該誘導体を用いるビニル基を有するモノマーの重合体ならびにその重合方法に関する。」

「【0009】
したがって、本願発明は、分子の両末端にヒドロキシ基を有し、分子量分布が小さいRAFT重合法に用いられ得る新規なジベンジルトリチオカーボネート誘導体、その製造方法の開発および該誘導体を用いた重合体(以下、単にRAFT重合体ともいう)の製造方法の開発および該RAFT重合体の提供を課題とする。」

「【0021】
したがって、本願発明によれば、上記の両末端にヒドロキシ基を有する新規ジベンジルトリチオカーボネート誘導体およびその製造方法と、該誘導体の存在下でビニル基を有するモノマーを重合反応させることによる、両末端にヒドロキシ基を有するRAFT重合体の製造方法および該RAFT重合体が提供される。
【0022】
さらに、該RAFT重合体を用いて、当業者に周知の、ポリイソシアネートまたはジカルボン酸誘導体などの架橋剤と反応させたり、あるいは、末端もしくは分子中に官能基を有する他の重合体、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂と組合せて架橋させ、耐熱性、耐水性、耐久性および/または相容性などに優れる塗料用樹脂や機能性ブロック重合体用材料として使用できる。」

「【0058】
実施例4
ビス[4-[エチル-2-(ヒドロキシエチル)アミノカルボニル]-ベンジル]トリチオカーボネートの合成
撹拌器、還流冷却管、滴下ロートを備えた200 mL三頸フラスコにビス[4-[エチル-2-(アセトキシエチル)アミノカルボニル]-ベンジル]トリチオカーボネート3.02 g (5 mmol)とテトラヒドロフラン60 mLを加え、反応液を氷浴で0℃に冷却しながら撹拌下に、1M水酸化カリウム水溶液30 mL (30 mmol)を30分間かけて滴下した。更に室温で4時間撹拌した後、反応液に飽和炭酸ナトリウム水溶液10 mL、水10 mLを加え、酢酸エチル100 mLで二回抽出した。合わせた有機層を水100 mL、飽和食塩水50 mLで順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:CHCl_(3) / MeOH = 30 / 1)で精製し、標記化合物2.25 g (収率86%)を淡黄色油状物として得た。
・・・」

「【0068】
実施例11
ビス[4-[エチル-2-(ヒドロキシエチル)アミノカルボニル]-ベンジル]トリチオカーボネートを用いたメチルエチルケトン中におけるアクリル酸エチルのRAFT重合
撹拌器、還流冷却管、窒素導入管を備えた10mL三頸フラスコに実施例4で得られたビス[4-[エチル-2-(ヒドロキシエチル)アミノカルボニル]-ベンジル]トリチオカーボネート15.6 mg (0.03 mmol)、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド] (VA-086) 4.3 mg (0.015 mmol)、アクリル酸エチル1.00 g (10 mmol)、メチルエチルケトン(MEK)2 mLを加え、減圧脱気後、窒素ガス置換して、窒素気流下に100℃で30分間撹拌し、その後室温に冷却して反応を停止した。」

「【0079】
本発明によるジベンジルトリチオカーボネート誘導体の存在下にビニル基を有するモノマーを用いてRAFT重合を行うと、極めて狭い分子量分布を示すRAFT重合体を得ることができる。
このようにして得られた一般式(2)で表されるRAFT重合体は、その両末端のヒドロキシ基と、当業者に周知の反応性樹脂、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂などの各種樹脂、あるいは1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートのような多価イソシアネート化合物や、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するシュウ酸、フタル酸、テレフタル酸などの多価カルボン酸、またはその無水物もしくはハロゲン化物などと反応させることができるので、耐熱性、耐水性、耐久性および/または相容性などに優れる塗料用樹脂や機能性材料用ブロック重合体用材料として使用できる。」

オ 引用文献5(甲2-5)には次の記載がある。

「【0001】
本発明は、ビニル系モノマーに由来するオリゴマーまたはポリマーを部分構造として有するRAFT重合剤をRAFT重合に付することにより得られる、分子の両末端にヒドロキシ基を有するRAFT重合体の製造方法、前記製造方法により得られるRAFT重合体および該RAFT重合体の両末端のヒドロキシ基にさらにポリマーが導入されたトリチオカルボネート構造含有ポリマーに関する。」

「【0016】
すなわち、本発明は、目的に応じた分子量設計が行え、分子量を制御できる重合体を得るために、一度製造したRAFT重合体を、RAFT重合剤として用いて、さらにRAFT重合して得られる分子の両末端にヒドロキシ基を有するRAFT重合体の製造方法、該製造方法により得られるRAFT重合体および該重合体の両末端のヒドロキシ基にポリマーを導入して得られるトリチオカルボネート構造を有するポリマーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、RAFT重合剤とビニル系モノマーとのRAFT重合による分子の両末端にヒドロキシ基を有するRAFT重合体の製造方法、該製造方法により得られるRAFT重合体および該重合体の分子の両末端のヒドロキシ基にポリマーを導入して得られるトリチオカルボネート構造を有するポリマーを見出し、本発明を完成するに至った。」

「【0022】
本発明によれば、重合体の両末端にヒドロキシ基を有し、極めて狭い分子量分布を有し、ブロック状にも精密に合成できるRAFT重合体の製造方法およびその製造方法により得られるRAFT重合体を提供することができる。
さらに、前記RAFT重合体の分子の両末端のヒドロキシ基とジイソシアネート化合物またはジカルボニルクロリド化合物等の重合性モノマーとを重合させポリマーを分子の両末端に導入することにより、より高分子量のポリマーを容易に製造することができる。
【0023】
より具体的には、一度製造したRAFT重合体を、RAFT重合剤として用い、さらに、RAFT重合する場合、目的に応じた分子量設計を行うことができ、分子量を制御することができ、また、RAFT重合体が有する末端のヒドロキシ基同士の距離も制御することもできる。
さらに、異なるビニル系モノマーと、RAFT重合剤とを再度RAFT重合に付することにより、RAFT重合体をブロック共重合体化でき、目的に応じた、疎水性-親水性、柔軟性-剛直性等のバランスのとれたRAFT重合体を製造することもできる。
さらに、本発明の方法によれば、RAFT重合体の分子量、分子量分布等を極めて容易に制御することができる。」

「【0075】
製造例3
重合管に、ビス[4-[エチル-2-(ヒドロキシエチル)アミノカルボニル]-ベンジル]トリチオカルボネート104mg(0.2mmol)、アクリル酸エチル1.04g(10mmol)、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086)29mg(0.1mmol)およびクロロベンゼン4mlを加え、液体窒素を用いた脱気封管後、110℃で24時間撹拌した。反応終了後、室温に冷却して反応を停止した。」

「【0113】
本発明によれば、ブロック状にも精密に設計することができる、重合体の両末端にヒドロキシ基を有し、その分子量分布の極めて狭いRAFT重合体の製造方法を提供することができる。
また、重合体の両末端にヒドロキシ基を有し、極めて狭い分子量分布を有し、ブロック状にも精密に設計することができるRAFT重合体を提供することができる。
よって、本発明の製造方法により、先行技術において見出されていないRAFT重合体を種々重合することができる。
【0114】
さらに、前記RAFT重合体およびジイソシアネート化合物またはジカルボニルクロリド化合物から、さらに高分子量のポリマーを容易に製造することができる。
よって、前記ポリマーを耐熱性、耐水性、耐久性および/または相容性などに優れる塗料用樹脂、機能性樹脂等として使用できる。」

カ 引用文献6(甲1-3)には次の記載がある。

「【0091】
<RAFT重合法>
RAFT重合法は、RAFT剤の存在下、ラジカル重合性化合物を重合させる方法である。RAFT剤は、電離照射線が照射されることにより、加熱されることにより、又は酸化還元的に、リビングラジカル重合反応の重合開始剤となる化合物である。一般的には、下記式(9)で表される化合物である。
【0092】
【化16】

【0093】
式(9)中、ZはC=S結合の反応性を制御し、ラジカル反応速度に影響を与える基であり、Rtは、解離してフリーラジカルを発生させることができる基である。RAFT剤の溶解性や反応性はRtやZの種類に依存する。
RAFT剤としては、より具体的には、下記式(10)で表されるジチオベンゾエート、(11)で表されるトリチオカルボネート、(12)で表されるジチオカルバメート等が挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0094】
【化17】

【0095】
式中、Z^(1)は、ドデシル基等のアルキル基を表し、Z^(2)、Z^(3)は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;を表す。
Rt’は、下記式(13)?(16)で表されるいずれかの基を示す。
【0096】
【化18】

【0097】
(式中、’*は、Sとの結合位置を示す。)
これらの中でも、本発明においては、加水分解に対してより安定であり、重合反応がより円滑に進行することから、式(11)で表されるRAFT剤を用いるのが好ましく、式(7)中、Rt’が(14)、(15)で表される基であるRAFT剤を用いるのがより好ましい。
RAFT剤は、市販品をそのまま使用することもできる。」

キ 引用文献7(甲1-4)には次の記載がある。

「【0001】
本発明は、トリブロック以上のブロックコポリマーを含有する粘着剤組成物に関する。さらに詳しくは、(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなるポリマーブロックAと(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなるポリマーブロックBとからなる(A-B)n-A型ブロックコポリマーを含有し、粘着力、タック性、凝集力、耐熱性または低温特性等に優れた粘着剤組成物に関する。」

「【0022】
ポリマーブロックAのリビングラジカル重合は、前記(メタ)アクリルアミド系モノマーを、連鎖移動剤および溶剤と混合し、窒素置換等により酸素を除去した雰囲気下で該混合物を加熱し、これにラジカル開始剤を添加することにより行える。
【0023】
前記連鎖移動剤としては、以下の一般式
S=CQ(-SR)
[式中、QはC-、P-、S-等を表す。]で表される構造を有するチオエステルチオ化合物、チオトリカーボネート等(以下、RAFT試薬と呼ぶ。)が使用される。なかんずく、1分子中に前記構造を2個以上含む多官能性のチオエステルチオ化合物が好ましく、例えばジベンジルテトラチオテレフタレートおよびジベンジルトリチオカーボネートが挙げられる。
【0024】
前記連鎖移動剤を使用するリビングラジカル重合には、種々の方法が提案されており、例えば、
(1)パッテン(Patten)等により"Radical Polymerization Yielding Polymers with Mw/Mn?1.05 by Homogeneous Atom Transfer Radical Polymerization", Polymer Preprinted, pp 575-6, No37(March 1996)に記載される方法、
(2)特表2000-515181号公報に記載されるチオカルボニルチオトリチオカーボネートを使用する方法、および
(3)Journal of American Chemical Society 2874, 124(2002)に記載される有機テルル化合物を使用する方法
が挙げられる。」

ク 引用文献8(甲1-1)には次の記載がある。

「【請求項1】
(A)少なくとも
(a) 分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体 3?20重量%、
(b) 上記(a)と共重合可能なアクリル系単量体 60?97重量%、
〔但し、全単量体の合計を100重量%とする〕
を重合成分とし、ガラス転移温度(Tg)が-35?35℃であるアクリル系共重合体と、
(B) 該アクリル系共重合体100重量部に対して 3?20重量部のイソシアネート系架橋剤からなる再剥離型表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項2】
上記(A)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)が10万以上であることを特徴とする請求項1に記載の再剥離型表面保護シート用粘着剤組成物。」

「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、被着体に貼り合わせた後に熱及び圧力を受けても容易に剥離することができ、剥離後に粘着剤が被着体表面に糊残りしない再剥離型表面保護シート(以下単に表面保護シートということがある。)及び該再剥離型表面保護シートを構成する粘着剤層を形成する再剥離型表面保護シート用粘着剤組成物(以下単に粘着剤組成物ということもある。)に関する。」

「【0007】
しかしながら、従来の表面保護シートでは高温高圧がかかった後には樹脂フィルムと表面保護シートとの間の接着力が上昇し、再度剥離することが困難になるとともに、ポリイミドフィルム表面に表面保護シートの粘着剤が糊残りするという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の再剥離型表面保護シートの上述のような諸欠点を克服し、被着体に貼り合わせた後に熱及び圧力を受けても接着力が上昇せず容易に剥離することができ、剥離後に表面保護シートの粘着剤が被着体表面に糊残りしない再剥離型表面保護シート及び該再剥離型表面保護シートを構成する粘着剤層を形成する粘着剤組成物を提供することにある。
【0009】
特に、フレキシブル銅張積層板を製造する工程において、予め樹脂基板上に貼り合わせた後、銅箔と樹脂基板を熱融着させた後においても、容易に剥離することができ、粘着剤が被着体表面に糊残りしない再剥離型表面保護シート及び該再剥離型表面保護シートを構成する粘着剤層を形成する粘着剤組成物を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の単量体を重合成分とし、特定のガラス転移温度を有するアクリル系共重合体とイソシアネート系架橋剤からなる粘着剤組成物が、前記の問題点をことごとく解決する再剥離型表面保護シートを製造しうるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。」

「【0019】
上記(a)分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体が上記(A)アクリル系共重合体中に重合成分として占める構成量は、上記(A)アクリル系共重合体を構成する全単量体の合計を100重量%とすると、3?20重量%であり、好ましくは 5?15重量%であり、更に好ましくは
7?13重量%である。
【0020】
上記(a)分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体が上記(A)アクリル系共重合体中に重合成分として占める構成量が上記上限値を超えると、架橋反応が過剰に進み接着力が低下する。その結果、表面保護シートを被着体に貼り合わせた後、被着体及び表面保護シートが高温にさらされた際に表面保護シートの粘着剤層と被着体との間に発泡が生ずるので好ましくない。また、上記下限値未満であると、架橋反応が充分に進まず、表面保護シートを被着体から剥離する際に、表面保護シートの粘着剤が被着体表面に糊残りするので好ましくない。」

「【0035】
上記(A)アクリル系共重合体の重合度は重量平均分子量(Mw)で10万以上が好ましく、20万以上が更に好ましい。
【0036】
重量平均分子量(Mw)が上記下限値未満であると、剥離後に粘着剤が被着体表面に糊残りするので好ましくない。
【0037】
尚、本明細書における上記重量平均分子量(Mw)の値には、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)法により、定法に従って測定された値が用いられる。」

「【0054】
これらのイソシアネート系架橋剤の中でも、上記(A)アクリル系共重合体との反応性からトリレンジイソシアネート-3官能アルコール付加等の芳香族系のイソシアネート系架橋剤が好ましく、具体的には、コロネートL(日本ポリウレタン社製)等の商品名が挙げられる。
【0055】
上記(B)イソシアネート系架橋剤の粘着剤組成物中の構成量は、上記(A)アクリル系共重合体100重量部に対して3?20重量部であり、好ましくは5?15重量部であり、更に好ましくは7?13重量部である。」

ケ 引用文献9(甲1-2)には次の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下になされたもので、粘着剤組成物中の主剤として(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を選択し、該粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有する保護フィルムが、各種被着体に貼付した場合、十分な粘着力を発揮しながら、剥離した際には該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供することを目的とするものである。」

「【0011】
[(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)]
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、本発明の保護フィルムにおける粘着剤層を形成する粘着剤組成物において、主剤として含まれる成分であって、以下に示す性状を有する。なお、前記「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を指す。他の類似用語も同様である。
(性状)
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、重量平均分子量Mwが20万?200万の範囲にあって、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が2.5未満であることを要する。前記重量平均分子量が20万未満であると、必然的に重量平均分子量5万以下の成分量が増えて、被着体への残渣物の付着を防止することができない。一方200万を超えると粘度増加により塗工面の平滑性が悪化する。また、このような粘度増加を抑えるには大量の溶媒が必要であり、コスト的観点あるいは環境対策上も好ましくない。少ない残渣物、接着耐久性及び塗工適性などを考慮すると、この重量平均分子量は30万?150万のものが好ましく、40万?120万のものがより好ましい。
また、分子量分布(Mw/Mn比)が2.5以上であると、後述の当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の低分子量成分の低減を行うことが困難になり、本発明の目的が達せられない場合がある。好ましい分子量分布(Mw/Mn比)は2以下である。特に好ましくは1.2?1.8である。
さらに、当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)においては、その中に含まれる重量平均分子量Mw5万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満であることを要する。この低分子量成分の割合が5質量%以上であると、このような共重合体を含有する粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を有する保護フィルムを、被着体に該粘着剤層を介して貼付した場合、該被着体への残渣物の付着を十分に低いレベルに抑制できない場合がある。
したがって、重量平均分子量5万以下の低分子量成分の割合は2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
なお、上記重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。」

「【0018】
(重合方法)
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、リビングラジカル重合により重合されてなるものである。リビングラジカル重合はフリーラジカル重合と比較して活性点での反応が非常に緩やかであるという特徴を有する。すなわち、フリーラジカル重合では、活性点での反応が非常に早いために反応性の高い単量体から重合し、その後、反応性の低い単量体が重合するものと考えられている。一方、リビングラジカル重合では、活性点での反応が緩やかであるため、単量体の反応性の影響を受けずに均等に重合が進行し、得られるいずれの共重合体もより均等な組成になるものと考えられる。そのため、リビングラジカル重合で得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)はフリーラジカル重合によるものに比べて非官能性単量体単位(a)のみからなる(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体の発生割合が圧倒的に少ないものになると考えられる。このため、リビングラジカル重合によって得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、分子量の低いものであっても後述の架橋剤(B)により架橋される可能性が非常に高くなる。その結果、リビングラジカル重合により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を主剤とする粘着剤層は、被着体への残渣物の付着を非常に低いレベルに抑えることができるものと考えられる。
リビングラジカル重合法としては、従来公知の方法、例えば重合制御剤として、原子移動ラジカル重合剤を用いる原子移動ラジカル重合法(ATRP重合法)、可逆付加-開裂連鎖移動剤を用いる可逆付加-開裂連鎖移動による重合法(RAFT重合法)、重合開始剤として有機テルル化合物を用いる重合法などを採用することができる。これらのリビングラジカル重合法の中で、有機テルル化合物を重合開始剤として用いる方法が、分子量の制御性及び水系においても重合が可能であることなどから好ましい。以下に、有機テルル化合物を重合開始剤として用いる方法を示す。」

(4)判断

ア 取消理由1(特許法第29条第2項)における引用文献1を主引例とした場合について

(ア)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、リビング重合法によって得たアクリル系のブロック共重合体からなる粘着剤組成物が記載されている(【0001】、【0032】)。
そして、引用文献1の実施例8に関する記載(【0102】、【0103】、【0106】、【0115】、【表3】)によれば、実施例8は実施例7と同様にして粘着剤組成物を得たものであって、ブロック共重合体を得る際における、水酸基含有モノマーであるヒドロキシエチルアクリレートの配合量は、ブロック共重合体全体150重量部に対して3重量部であるから、ブロック共重合体全体に対して2重量%であるといえる。
また、【0107】には、得られた粘着剤組成物の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の測定を、GPC法(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー法)で行った旨の記載がある。
よって、引用文献1には、上記実施例8に関する記載を基礎とすると、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明1」という。)

「ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメートを用いたリビング重合によって得られる、ゲルパーエミッションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)が12.2万であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.2であり、ヒドロキシエチルアクリレートを2質量%の範囲で有するアクリル系のブロック共重合体と、コロネートL(トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物)とを含有する粘着剤組成物。」

(イ)本件発明1と引用発明1との対比・判断

引用発明1における「ヒドロキシエチルアクリレート」、「アクリル系のブロック共重合体」、「コロネートL(トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物)」、及び、「粘着剤組成物」はそれぞれ、本件発明1における「水酸基含有モノマーに由来する構成単位」、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物」、及び、「粘着剤用組成物」に相当している。
よって、本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。

<一致点>
「(A)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)が60,000?200,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下である、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体と、
(B)1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物と
を含有する粘着剤用組成物。」

<相違点1>
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重合方法に関し、本件発明1は、ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートまたはジベンジルトリチオカーボネートであるRAFT剤を用いたRAFT重合によって得られるのに対し、引用発明1は、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメートを用いたリビング重合によって得られる点

<相違点2>
(メタ)アクリル酸エステル重合体の構成単位に関し、本件発明1は、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?30質量%の範囲で有するのに対し、引用発明1は、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を2重量%の範囲で有する点

上記相違点1について以下検討する。
引用発明1は、粘着特性が優れるとともに、塗工性や高温での凝集力に優れたアクリル系粘着剤組成物を提供することが課題であるといえ(【0013】)、この課題に対し、ランダム共重合体ではなくA-B-A型共重合体を用いることで課題を解決するものである(【表3】、【0121】)。
引用文献1には、アクリル酸エステル重合体の重合方法に関し、RAFT剤を用いるとの記載はないが、アクリル系粘着剤組成物を得るためのリビング重合法として様々な方法がある中で、RAFT剤を用いる方法(可逆的付加開裂連鎖移動重合法)は周知技術といえる(引用文献2:【0027】、【0082】、引用文献3:【0047】、【0048】、【0050】、引用文献4:請求項2、【0068】、引用文献5:【0075】、引用文献6:【0091】?【0097】、引用文献7:【0022】?【0024】)。
そして、具体的に、「ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネート」(本件発明における「RAFT剤-1」)は、引用文献4の【0068】における実施例11、引用文献5の【0075】における製造例3で実際に用いられており、また、「ジベンジルトリチオカーボネート」(本件発明における「RAFT剤-2」)は、引用文献3の【0117】における合成例1で実際に用いられている。
しかしながら、アクリル系粘着剤組成物を得るためのリビング重合法として様々な方法がある中で、RAFT剤を用いる方法がたとえ周知技術であるとしても、引用文献1には、数あるリビング重合法のうちリビングラジカル法でもよい旨が一般的に記載されているに過ぎず(【0032】)、RAFT剤-1やRAFT剤-2を用いることが具体的に示唆されていないのであるから、上記課題を目指し、その課題を上述のように共重合体の種類を変えることで解決している当業者が、あえてRAFT重合法を選択し、しかも、RAFT剤-1やRAFT剤-2を具体的に選択するという動機が存在するとまではいえない。
してみると、相違点1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明1、及び、引用文献2?7(周知技術)をもとに、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的または間接的に引用しているから、本件発明1と同様に、引用発明1、及び、引用文献2?7(周知技術)をもとに、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

イ 取消理由1(特許法第29条第2項)における引用文献8を主引例とした場合について

(ア)引用文献8に記載された発明

引用文献8の請求項1には、「(A)少なくとも
(a) 分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体 3?20重量%、
(b) 上記(a)と共重合可能なアクリル系単量体 60?97重量%、
〔但し、全単量体の合計を100重量%とする〕
を重合成分とし、・・・
(B) 該アクリル系共重合体100重量部に対して 3?20重量部のイソシアネート系架橋剤からなる・・・粘着剤組成物」と記載されている。
そして、同請求項2には、
「(A)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)が10万以上である」(請求項2)と記載されている。
また、【0037】には、「重量平均分子量(Mw)の値には、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)法により、定法に従って測定された値が用いられる。」と記載されている。
これらの記載から、引用文献8には以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明2」という。)。

「(A)ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)が10万以上であり、分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体3?20重量%と、アクリル系単量体60?97重量%(ただし、全体量体の合計を100重量%とする)とを重合成分としたアクリル系共重合体と、
(B)イソシアネート系架橋剤とを含有する粘着剤組成物」

(イ)本件発明1と引用発明2との対比・判断
引用発明2の「ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)」、「分子内に水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体」、及び、「アクリル系共重合体」はそれぞれ、本件発明1の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)」、「水酸基含有モノマーに由来する構成単位」、及び、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」に相当している。
また、引用発明2の「アクリル系共重合体」(本件発明1における「(メタ)アクリル酸エステル重合体」に相当)の「重量平均分子量(Mw)に関し、引用発明2においては、「10万以上」であるのに対し、本件発明1においては「60,000?200,000」であるから、両者は、「100,000?200,000」の範囲で重複している。
また、引用発明2の「α,β-エチレン性不飽和単量体」(本件発明1の「水酸基含有モノマーに由来する構成単位」に相当)の配合量に関し、引用発明2においては「3?20重量%」(3?20質量%)であるのに対し、本件発明1においては「5?30質量%」であるから、両者は、「5?20質量%」の範囲で重複している。
また、引用発明2の「イソシアネート系架橋剤」は、引用文献8の【0054】の記載によれば、「コロネートL」等、1分子中のイソシアネート基数が3以上のものを含むものであるから、引用発明2の「イソシアネート系架橋剤」は、本件発明1の「1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物」を含む点で共通している。
よって、本件発明1と引用発明2とを対比すると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)が100,000?200,000であり、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?20質量%の範囲で有する(メタ)アクリル酸エステル重合体と、
(B)1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物と
を含有する粘着剤用組成物。」

<相違点1>
ポリマーの重合方法に関し、本件発明1は特定のRAFT剤を用いるのに対し、引用発明2においてはそれが特定されていない点

<相違点2>
本件発明では分子量分布(Mw/Mn)が特定されているのに対し、引用発明2ではそれが特定されていない点

該相違点1について以下検討する。
引用発明2は、引用文献8によれば、「従来の表面保護シートでは高温高圧がかかった後には樹脂フィルムと表面保護シートとの間の接着力が上昇し、再度剥離することが困難になるとともに、ポリイミドフィルム表面に表面保護シートの粘着剤が糊残りする」(【0007】)という課題を有している。そして、特定の単量体を重合体成分とした、特定のガラス転移温度を有するアクリル系共重合体を用いることで、上記課題を解決している。
一方、引用文献9に記載された発明は、「粘着組成物より形成された粘着剤層を有する保護フィルムが、各種被着体に貼付した場合、十分な粘着力を発揮しながら、剥離した際には該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供する」(【0006】)ことを課題としており、引用発明2と課題が共通している。
そして、引用文献9には、「リビングラジカル重合により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を主剤とする粘着剤層は、被着体への残渣物の付着を非常に低いレベルに抑えることができる」と記載され、リビングラジカル重合としてRAFT重合法を用いることも記載されている(【0018】)。また、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の重量平均分子量が5万以下の低分子量成分を少なくすることで、被着体への残渣物の付着を防止できること、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の分子量分布(Mw/Mn)が2.5以上であると、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の低分子量成分の低減を行うことが困難になり、本発明の目的が達せられない場合があることも記載されている(【0011】)。
また、上記ア(イ)でも述べたように、アクリル系粘着剤組成物を得るためのリビング重合法として様々な方法がある中で、RAFT剤を用いる方法(可逆的付加開裂連鎖移動重合法)は周知技術である(引用文献2:【0027】、【0082】、引用文献3:【0047】、【0048】、【0050】、引用文献4:請求項2、【0068】、引用文献5:【0075】、引用文献6:【0091】?【0097】、引用文献7:【0022】?【0024】)。
そして、具体的に、「ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネート」(本件発明における「RAFT剤-1」)は、引用文献4の【0068】における実施例11、引用文献5の【0075】における製造例3で実際に用いられており、また、「ジベンジルトリチオカーボネート」(本件発明における「RAFT剤-2」)は、引用文献3の【0117】における合成例1で実際に用いられている。

しかしながら、リビングラジカル重合法で得られた、低分子量成分が少なく、分子量分布の小さい樹脂を用いることが引用文献9に記載されているとしても、引用発明2は、上述したように、粘着剤の糊残りという課題に対して、特定の単量体を重合体成分とした、特定のガラス転移温度を有するアクリル系共重合体を用いることに着目して課題を解決しているものであって、低分子量成分が少なく、分子量分布の小さい樹脂を用いることに何ら着目していないのであるから、引用発明2には、引用文献9に記載される上記技術的事項を採用しようとする動機付けがあるとはいえない。
しかも、引用文献9の実施例において具体的に開示されているのは、RAFT剤を用いる方法ではなく、有機テルル化合物を用いる方法であり(【0018】)、アクリル系粘着剤組成物を得るためのリビング重合法として様々な方法がある中で、RAFT剤を用いる方法(可逆的付加開裂連鎖移動重合法)が周知技術であるとして、仮に引用発明2に、引用文献9に記載の事項を組み合わせたとしても、上記課題の解決を目指す当業者が、RAFT重合法を選択し、しかも、RAFT剤-1やRAFT剤-2を具体的に選択することができるとまではいえない。
してみると、相違点1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明2、引用文献9に記載された事項、及び、引用文献2?7(周知技術)に基づいて、リビング重合法として、RAFT剤を用いる方法を採用し、具体的なRAFT剤として、RAFT剤-1またはRAFT剤-2とし、本件発明1とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的または間接的に引用しているから、本件発明1と同様に、引用発明2、引用文献9に記載された事項、及び、引用文献2?7(周知技術)をもとに、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(エ)申立人1の主張について

申立人1は、平成30年4月18日に提出された意見書において、技術分野、発明が解決する具体的課題及び使用するアクリル系樹脂の構成が共通しているから、引用文献8に記載された発明に引用文献9に記載された発明を適用することは容易である旨主張している。
しかしながら、技術分野、発明が解決する具体的課題及び使用するアクリル系樹脂の構成が共通しているからといって、引用文献8に記載された発明において、本件発明1の発明特定事項である、RAFT剤-1またはRAFT剤-2を用いるはずであるという示唆はなく、アクリル系重合体の重合方法またはアクリル系共重合体の分子量分布を検討することにより課題を解決しようとする示唆もないのであるから、引用文献8に記載された発明に引用文献9に記載された発明を適用することは容易であるとはいえず、申立人1の該主張は採用できない。
また、申立人1は、同意見書において、RAFT重合法について、たとえ一行記載であっても、当業者においてリビング重合法としてRAFT重合法を検討するための示唆としては十分であり、引用文献4に記載されたトリチオカーボネート系RAFT剤を試したはずであるという程度の示唆は十分に存在している旨主張している。
しかしながら、引用文献9の【0018】には、有機テルル化合物を用いたリビングラジカル重合が好ましいとの記載があり、実際に実施例においては、RAFT重合法ではなく、有機テルル化合物を用いた方法が記載されていることからみて、すなわち、同じリビング重合法といっても目的等に応じてRAFT重合法を選択しない場合もあることからみて、引用文献8に記載された発明において、RAFT剤を試したはずであるという示唆が十分に存在しているとまではいえず、まして、具体的に、本件発明1における発明特定事項である、RAFT剤-1またはRAFT剤-2を当業者が選択するはずであるという動機があったとはいえないから、申立人の該主張は採用できない。

ウ 取消理由2(特許法第36条第4項1号、同条第6項1号)について

訂正前の本件発明1?6は、RAFT剤として、極めて多種多様な化合物を包含していたところ、請求項1を対象とする本件訂正1により、RAFT剤がRAFT剤-1またはRAFT剤-2に限定され、これらは、発明の詳細な説明における実施例(【0120】、【0144】等)において、実際にアクリル系ポリマーの重合に適用でき、しかも、粘着剤組成物として機能が確認できているのであるから、本件発明1?6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。
また、請求項1において、RAFT剤がRAFT剤-1またはRAFT剤-2に限定されているのであるから、発明を実施するにあたり当業者に期待しうる程度を超える過度な試行錯誤を求めるものでもなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?6を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

エ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(ア)申立人1は、申立書1(第15頁?第19頁)において、本件発明1?6は、申立人1が提示した、甲第3号証?甲第7号証(甲1-3?甲1-7:下記(イ)参照)に記載の発明から、当業者が容易に発明できたものであるから(主引例は甲第6号証)、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。以下この点について検討する。

(イ)申立人1が提示した証拠方法(再掲)
甲1-3:特開2013-18934号公報
甲1-4:特開2006-265461号公報
甲1-5:特開2007-230947号公報(後記甲2-4と同じ。)
甲1-6:国際公開第2010/119970号
甲1-7:特開2005-23143号公報
(ウ)甲1-6に記載された事項

「下記式(b)で表される重合体。

上記式(b)中、iは2またはそれ以上であり、nは1?6であり、Miは同一または異なるラジカル重合性単量体由来の反復単位を示し、piは互いに独立して1またはそれ以上であり反復単位Miの重合度を示す。Zは、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリールから選択される有機基である。」(請求項3)

「0002
チオカルボニル化合物は、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤として利用できることが知られている。RAFT剤を使用した重合方法は、リビング性のラジカル重合であり、数平均分子量および重量平均分子量の制御が容易で分子量分布の狭い重合体が得られるという特徴を示す。・・・」

「0004
本発明は、RAFT剤として有用なチオカルボニル化合物を提供するものである。また、本発明は、前記チオカルボニル化合物を用いることにより、反応性または単量体の転化率に優れた重合体の製造方法およびその重合体を提供するものである。さらに本発明は、前記重合体を含有する粘着剤用または接着剤用の組成物を提供するものである。」

「0015
本発明の重合体の製造方法において利用可能な単量体としては、ラジカル重合性単量体を用いることができる。前記ラジカル重合性単量体としては、置換または非置換のスチレン、置換または非置換のアルキルアクリレート、置換または非置換のアルキルメタクリレート、アクリロニトリル、N-アルキルアルキルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、イソプレン、ブタジエン、エチレン、ビニルアセテートおよびこれらの組み合わせから選択することが可能である。・・・」

「0025
・・・
重合例1
500mLナスフラスコに、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(以下「AIBN」)(70mg)、RAFT試薬1(230mg)を加え窒素置換した。これに、蒸留精製して重合禁止剤を除去したブチルアクリレート(以下「BA」)(46mL:320mmol)、トルエン(26mL)を加え、窒素を10分間吹き込んだ。その後、ナスフラスコを60℃の油浴に入れ20時間反応させた。
0027
反応が進行するにつれて、反応溶液の粘度上昇が確認された。ガスクロマトグラフィーにより求めたBAの転化率は90%、Mwは100,000、Mw/Mnは2.0であった。
0028
その後、2-ヒドロキシエチルアクリレート(以下「2HEA」)(6.3mL:55mmol)を加え、均一になるまで攪拌した後、窒素を10分間吹き込んだ。次に、ナスフラスコを60℃の油浴に入れて20時間反応させた。室温に戻した後、分析を行った。ガスクロマトグラフィーにより求めた2HEAの転化率は99%、GPCにより求めたMwは110,000、Mw/Mnは2.0であった。」

「0038
上記重合例1?4と比較例1の結果を以下の表Iにまとめた。



「0039
粘着剤の調製
重合例1で得られた重合体を10g、希釈剤として酢酸エチルを10g、架橋剤として旭化成ケミカルズ社製デュラネートD-201を0.1g混合し、粘着剤溶液を得た。・・・」

(エ)判断

甲1-6の0025段落、及び、0038段落の表Iにおける重合例1によれば、ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとをモル比が100/20となるようにRAFT剤(チオカルボニル化合物)によって重合させたもの(Mw=110,000、Mw/Mn=2.0)が記載され、0039段落には、この重合体と、2官能のイソシアネート系架橋剤である「デュラネートD-201」とを反応させて粘着剤溶液を得ることが記載されている。
しかしながら、少なくとも、甲1-6には、本件発明1におけるRAFT剤-1やRAFT剤-2については記載されていない点で本件発明1と相違している。
この点、甲1-6に記載された発明は、反応性または単量体の転化率を向上させることを課題としており(0004段落)、その課題に対し、請求の範囲1に記載される「特定」のチオカルボニル化合物であるRAFT剤を用いることにより解決するものであるから、甲1-6に記載された発明において、この特定のチオカルボニル化合物は「必須」の事項であることからすると、当業者にしてみれば、このRAFT剤を甲1-6の上記の課題を解決できるか不明のRAFT剤-1やRAFT剤-2に置換する動機が甲1-6にあるとはいえない。
また、甲1-3?甲1-5、甲1-7をみても、引用文献2?7に記載されている周知技術と同様のことが記載されているにとどまる。
したがって、甲1-6に記載された発明、甲1-3?甲1-5、甲1-7に記載された事項、あるいは、引用文献2?7(周知技術)に基づいて、本件発明1とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。


以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由1、2、及び、取消理由では採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビス[4-{エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノカルボニル}-ベンジル]トリチオカーボネートおよびジベンジルトリチオカーボネートから選ばれる少なくとも1種のRAFT剤を用いたRAFT重合によって得られる、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定される重量平均分子量(Mw)が60,000?200,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下であり、水酸基含有モノマーに由来する構成単位を5?30質量%の範囲で有する(メタ)アクリル酸エステル重合体と、
(B)1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物と
を含有する粘着剤用組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が60,000?190,000である請求項1に記載の粘着剤用組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対し、前記イソシアネート化合物(B)を、固形分比で0.1?50質量部の範囲で含有する請求項1?2のいずれか1項に記載の粘着剤用組成物。
【請求項5】
請求項1?2、4のいずれか1項に記載の組成物から形成された粘着剤。
【請求項6】
基材と、
請求項1?2、4のいずれか1項に記載の組成物から形成された粘着剤層と
を有する粘着シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-25 
出願番号 特願2015-554655(P2015-554655)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 原 賢一
井上 能宏
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5982068号(P5982068)
権利者 綜研化学株式会社
発明の名称 粘着剤用組成物、粘着剤および粘着シート  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ