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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1342007 |
異議申立番号 | 異議2018-700250 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-26 |
確定日 | 2018-06-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6201384号発明「パワーモジュール製造用積層基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6201384号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6201384号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成25年4月8日に特許出願され、平成29年9月8日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年3月26日に特許異議申立人畠明により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6201384号の請求項1及び2の特許に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1及び2の特許に係る発明を、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。) 「【請求項1】 パワーモジュール製造用セラミックス原板の少なくとも一方の面に金属層を接合したパワーモジュール製造用積層基板であって、 前記パワーモジュール製造用セラミックス原板は、少なくとも一方の面に矩形状の四隅が面取りされたセラミックス基板を複数形成するための分割溝が形成され、前記分割溝により、前記セラミックス基板の外形形状の大きさに区画された基板形成領域と、該基板形成領域の四隅に配置される面取形成領域と、前記基板形成領域の周囲に配置される外枠領域と、が形成されており、 前記分割溝は、前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる外枠分割溝を有しており、 前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有しており、 前記金属層は、前記分割溝によって区画される各基板形成領域に設けられ、 前記外枠領域に、前記金属層と同じ金属板からなる外枠用金属層が設けられ、 該外枠用金属層の側縁は、前記外枠分割溝に沿って配置されていることを特徴とするパワーモジュール製造用積層基板。 【請求項2】 前記面取形成領域のうちの前記基板形成領域により囲まれた4つの面取形成領域が組み合わされた中央領域に、前記金属層と同じ金属板からなる中央面取用金属層が設けられ、該面取用金属層の側縁は、前記中央領域と前記基板形成領域との間の分割溝に沿って配置されていることを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール製造用積層基板。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人畠明(以下、「異議申立人」という。)は、本件特許の請求項1-2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に成し得た発明であって、特許法第29条第2項の規定に該当するため、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。 第4 甲第1号証ないし甲第3号証の記載 (1)甲第1号証の記載 異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開2007-19126号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【0001】 本発明は、高電力が流れて高熱を発する半導体素子を搭載する半導体モジュール用基板として用いるためのセラミック回路基板に関し、より詳細には、複数個のセラミック回路基板が大型のセラミック基板に配列して形成されたセラミック回路基板集合体に関する。」 イ.「【0014】 図1(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係るセラミック回路基板集合体10は、矩形状で焼成済の大型のセラミック基板11の表、裏面の一方の主面に、上面に半導体素子を搭載したりするための、例えば、Cu板からなる回路を設けた複数の回路金属板12を有している。この回路金属板12は、所定の場所の配線回路部の上面に半導体素子が搭載され、半導体素子のパッド電極と他の配線回路部とをボンディングワイヤや、リボンワイヤ等で接続するようになっている。また、このセラミック回路基板集合体10は、セラミック基板11の表、裏面の他方の主面に、半導体素子から発生する熱を放熱させるための、例えば、Cu板からなる個々の回路金属板12の外周と略同じ面積からなるベタ状の複数の放熱金属板13を有している。この放熱金属板13は、半導体素子から発生する熱を放熱させると同時に、熱膨張係数が回路金属板12と同等又は近似する金属で形成して、セラミック基板11との熱膨張係数差から接合時に発生する反りや曲がりを、セラミック基板11の両面で熱膨張係数が同等又は近似する金属からなる回路金属板12と放熱金属板13をそれぞれ貼り合わせてバランスをとることで、発生を防止している。 【0015】 このセラミック回路基板集合体10は、1個の回路金属板12と1個の放熱金属板13とでセラミック回路基板14を構成し、このセラミック回路基板14が複数個マトリックス状に配列するように形成されている。また、このセラミック回路基板集合体10は、セラミック基板11の外周辺部にダミー部15を有し、このダミー部15の両主面のそれぞれにダミー金属板16、16aが接合されている。このそれぞれのダミー金属板16、16aは、例えば、それぞれ回路金属板12側のダミー金属板16には、回路金属板12の厚さと同じ厚さ、放熱金属板13側のダミー金属板16aには、放熱金属板13の厚さと同じ厚さにしてセラミック基板11との熱膨張係数差から接合時に発生する反りや曲がりを、セラミック基板11の両面で熱膨張係数が同等又は近似するようにしてダミー部15部分のバランスをとることで、セラミック回路基板集合体10の反りや曲がりの発生を防止できるようにしている。 【0016】 セラミック基板11の一方の主面側の回路金属板12とダミー金属板16は、通常、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を直接接合法や、活性金属ろう材接合法で接合した後、セラミック基板11の他方の主面の全体をマスクで保護した上で、一方の主面側の大型のCu板を覆うようにセラミック基板11の一方の主面側のCu板上に回路金属板12とダミー金属板16のパターン以外の部分が開口部から露出するマスクを当接させて開口部をエッチングすることで形成している。また、放熱金属板13とダミー金属板16aは、一方の主面側の全体をマスクで保護した上で、上記と同様にしてエッチングすることで形成している。なお、このエッチングの形成は、先に回路金属板12側を行ったが、順番を逆にして放熱金属板13側を先に行なってもよいし、セラミック基板11の両主面を同時に行うこともできる。回路金属板12とダミー金属板16や、放熱金属板13とダミー金属板16aは、上記のエッチング方式以外に、予めCu板をエッチングや、打ち抜きプレス加工等によってパターン形成したものを直接接合法や、活性金属ろう材接合法で接合して形成することもできる。」 ウ.「【0018】 セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、ダミー部15を直線状に分割して除去するための矩形状のセラミック基板11の外形線に並行し、縦方向と、横方向で直交する4本の外周分割線17、17a、17b、17cが設けられている。また、セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体のセラミック回路基板14とするための1、又は複数本の個別分割線18が外周分割線17、17a、17b、17cや他の個別分割線18と直交し、ダミー金属板16に延設するようにして設けられている。この外周分割線17、17a、17b、17cの4本の内の1本である外周分割線17は、両方の端をセラミック基板11の相対向する端部に延設すると共に、少なくとも一方の端と、この外周分割線17が延設するところのセラミック基板11の外形線との間に0.5?3mmの外周分割線17を設けない部分を有して設けられている。また、外周分割線17、17a、17b、17cの4本の内の他の2本である外周分割線17a、17bは、一方の端をセラミック基板11の端部に延設し、他方の端をダミー金属板16に延設して設けられている。更に、外周分割線17、17a、17b、17cの4本の内の残りの1本である外周分割線17cは、両方の端のそれぞれを相対向する位置に設けられているそれぞれのダミー金属板16に延設して設けられている。 【0019】 セラミック回路基板集合体10は、分割が必要な時には、4本の外周分割線17、17a、17b、17cの内の両方の端をセラミック基板11の相対向する端部に延設する外周分割線17を、先ず、最初に分割し、次いで3本の外周分割線17a、17b、17cの内の両方の端の延設するところにダミー金属板16がない外周分割線17aを分割している。そして、次に、2本の外周分割線17b、17cの内の両方の端の延設するところにダミー金属板16がない外周分割線17bを分割し、最後に残りの外周分割線17cを分割している。次いで、ダミー部15が除去されたセラミック回路基板集合体10は、個別分割線18を分割して複数個のそれぞれ個片体のセラミック回路基板14としている。なお、外周分割線17、17a、17b、17cや、個別分割線18は、焼成済のセラミック基板11にレーザー光を照射して形成する点状の連続した穴からなるものであってもよく、あるいは、焼成前のセラミック基板11のセラミックグリーンシートに鋭利な刃先を押圧して形成するV字状の連続した溝からなるものであってもよい。」 エ.「【0025】 本発明のセラミック回路基板集合体は、大量に熱を発生する半導体素子を実装し、分割線から分割してパワーモジュール用等として組立た後、高電圧が流れる所に用いる電子部品として自動車部品用等として用いることができる。」 上記アないしエ及び図1から、甲第1号証には以下の事項が記載されている。 ・上記ア、エによれば、甲第1号証は、パワーモジュール用等として組立てて用いるセラミック回路基板集合体に関するものである。 ・上記イによれば、セラミック回路基板集合体10は、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成される複数の回路金属板12を、セラミック基板11の表、裏面の一方の主面に有し、同様にしてエッチングすることで形成される複数の放熱金属板13を、セラミック基板11の表、裏面の他方の主面に有するものである。 ・上記イ、ウによれば、セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、セラミック基板11の外周辺部のダミー部15を直線状に分割して除去するためのV字状の連続した溝からなる4本の外周分割線17、17a、17b、17cが設けられており、セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体のセラミック回路基板14とするためのV字状の連続した溝からなる個別分割線18が設けられているものである。 ・図1(A)によれば、各セラミック回路基板14は矩形状のものである。 ・図1(A)によれば、外周分割線17、17a、17b、17cは、各セラミック回路基板14に対応する領域とダミー部15に対応する領域とを隔てるものである。 ・上記イによれば、セラミック回路基板集合体10は、1個の回路金属板12と1個の放熱金属板13とでセラミック回路基板14を構成するものである。 ・上記イによれば、セラミック回路基板集合体10は、ダミー部15の両主面のそれぞれにダミー金属板16、16aが接合されているものである。 ・上記イによれば、回路金属板12とダミー金属板16は、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成するものであり、放熱金属板13とダミー金属板16aは、同様にしてエッチングすることで形成するものである。 ・図1(A)及び(B)によれば、ダミー金属板16、16aは外周分割線17、17a、17b、17cに沿って配置されるものである。 したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「パワーモジュール用等として組立てて用いられ、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成される複数の回路金属板12を、セラミック基板11の表、裏面の一方の主面に有し、同様にしてエッチングすることで形成される複数の放熱金属板13を、セラミック基板11の表、裏面の他方の主面に有するセラミック回路基板集合体10であって、 セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、セラミック基板11の外周辺部のダミー部15を直線状に分割して除去するためのV字状の連続した溝からなる4本の外周分割線17、17a、17b、17cが設けられており、セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体の矩形状のセラミック回路基板14とするためのV字状の連続した溝からなる個別分割線18が設けられており、 外周分割線17、17a、17b、17cは、各セラミック回路基板14に対応する領域とダミー部15に対応する領域とを隔てるものであり、 1個の回路金属板12と1個の放熱金属板13とでセラミック回路基板14を構成し、 ダミー部15の両主面のそれぞれにダミー金属板16、16aが接合されており、回路金属板12とダミー金属板16は、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成するものであり、放熱金属板13とダミー金属板16aは、同様にしてエッチングすることで形成するものであり、 ダミー金属板16、16aは外周分割線17、17a、17b、17cに沿って配置されるものである セラミック回路基板集合体10。」 (2)甲第2号証の記載 異議申立人が証拠として提出した甲第2号証(特開2003-338404号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 オ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、分割溝を有するセラミックス基板、とりわけ小型のチップ抵抗器等の電子部品を製造するためのセラミックス基板に関するものである。」 カ.「【0016】即ち、分割後のチップサイズが小さくなると一次ブレイクよりも二次ブレイクのほうが難しくなるり、二次ブレイク時のほうがバリの発生率は高くなる。例えば、0.6×0.3mmのサイズの場合、一次ブレイクのピッチが0.6mmであるのに対し、二次ブレイクのピッチは0.3mmとなる。その為、凹部を二次分割溝方向に長い形状にすることにより、さらに分割性を向上する効果が得られる。」 キ.「【0019】図1(a)は本発明の分割溝を有するセラミックス基板1であり、その表面には一次分割溝2、二次分割溝3を備え、図1(b)に示すように上記一次分割溝2と上記二次分割溝3の交差部に対向する裏面には凹部4を備えている。」 ク.「【0021】このようなチップ抵抗器11を形成するには、図1に示すセラミックス基板1の両主面の所定位置に電極膜15を印刷、焼き付けした後、セラミックス基板1の一方の主面側に抵抗体膜13を印刷、焼き付けし、次にレーザートリミングにより抵抗体膜13の抵抗値を設定した後、抵抗体膜13上に保護膜14を印刷、焼き付けし、次いで横方向の一次分割溝2に沿って一次ブレイクした後、分割された短冊状基板の端面に端面電極膜16を印刷、焼き付けし、しかる後、縦方向の二次分割溝3に沿って二次ブレイクすることにより、図2に示すようなチップ抵抗器11を製造するようになっている。」 ケ.「【0026】本発明のセラミックス基板1において、凹部4の平面形状は円状、楕円状、多角形状などさまざまなものとすることができ、凹部4の内面形状は半球状や錐状などさまざまなものとすることができる。 【0027】例えば、図3(a)に示すものは半球状の凹部4であり、図3(b)に示すものは楕円半球状の凹部4である。また図3(c)に示すものは四角錐状の凹部4であり、図3(d)に示すものは半円柱状の凹部4である。さらに、図3(e)に示すように二次分割溝3方向にそって裏面全面に備えた長溝状の凹部4とすることもできる。」 また、図1(a)には、セラミックス基板1の外周部分に外枠となる領域が存在することが示されている。 上記オないしケ及び図1ないし図3によれば、甲第2号証には、以下の技術事項が記載されている。 「外周部分に外枠となる領域が存在し、横方向の一次分割溝と縦方向の二次分割溝とを備えるセラミックス基板において、一次分割溝と二次分割溝の交差部に対向する裏面には四角錐状の凹部を設ける」こと。 (3)甲第3号証の記載 異議申立人が証拠として提出した甲第3号証(実願平2-18638号(実開平3-109816号)のマイクロフィルム)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 コ.「第1図ないし第3図は、本考案に係るセラミックス焼結体によってつくられた回路用集合基板(以下集合基板という)1の一実施例を示すもので、図中符号2は長方形の回路用基板(以下基板という)である。 基板2は、碁盤目状に配列され、縦分割溝3、横分割溝4によって区画されている。上記それぞれの基板2には、スルホールや、IC等を取付けるための多数の小孔5・・・が穿設されている。 また、碁盤目状に配置され、縦、横の分割溝3,4によって区画されている基板2・・・の周囲には、脱脂、焼結した後、回路パターンを印刷する際に用いられるガイド6が設けられている。 上記、縦、横の分割溝3,4の交る点には円形の空孔7が設けられている。 なお、上記集合基板1は、射出成形したグリーン体を脱脂、焼結し、各基板2に回路パターンを印刷した後、縦、横の分割溝3,4に沿って分割され、第4図に示すような基板2に分割されるが、上記空孔7は、切欠き8となって基板2の四隅に残留する。この際、分割し易いように第1図に2点鎖線で示すように、分割溝3,4をガイド6にも設けておくのが望ましい。 上記分割溝3,4は、集合基板の一方の面に設けてもよいが、さらに容易に分割可能とするため、第5図に示すように、集合基板1の両面より対向して設けてもよい。また、空孔7は円形としたが、その形状に制限はなく、例えば正方形としてもよい。この場合、第6図、第7図に示すように基板2の四隅は斜め或 四角形の切欠き8’,8’’として残留する。」(甲第3号証 明細書第5ページ第19行?第7ページ第9行) 上記コによれば、甲第3号証には、以下の技術事項が記載されている。 「縦、横の分割溝によって区画されている基板の周囲にガイドが設けられ、セラミックス焼結体によってつくられた集合基板において、縦、横の分割溝の交わる点には、縦、横の分割溝に沿って分割されると斜めの切欠きとなって基板の四隅に残留する正方形の空孔が設けられる」こと。 第5 対比・判断 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。なお、下記aないしiは、異議申立人が本件特許発明1を分説したAないしIに対応させた。 a.甲1発明の「セラミック基板11」は、その主面に複数の回路金属板12等を設けることにより、セラミック回路基板集合体10を構成するものであり、「パワーモジュール用等として組立てて用い」られる「セラミック回路基板集合体10」のもととなる板であるから、本件特許発明1の「パワーモジュール製造用セラミックス原板」に相当する。 また、甲1発明の「回路金属板12」及び「放熱金属板13」は、本件特許発明1の「金属層」に相当する。 したがって、甲1発明の「パワーモジュール用等として組立てて用いられ、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成される複数の回路金属板12を、セラミック基板11の表、裏面の一方の主面に有し、同様にしてエッチングすることで形成される複数の放熱金属板13を、セラミック基板11の表、裏面の他方の主面に有するセラミック回路基板集合体10」は、セラミック基板11の主面に接合されたCu板による形成される回路金属板12及び放熱金属板13と、セラミック基板11とで、積層構造を有するものであるから、本件特許発明1の「パワーモジュール製造用セラミックス原板の少なくとも一方の面に金属層を接合したパワーモジュール製造用積層基板」に相当する。 b.甲1発明の「個片体の矩形状のセラミック回路基板14」は、本件特許発明1の「セラミックス基板」に相当する。 また、甲1発明の「セラミック基板11の外周辺部のダミー部15を直線状に分割して除去するためのV字状の連続した溝からなる4本の外周分割線17、17a、17b、17c」及び「複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体の矩形状のセラミック回路基板14とするためのV字状の連続した溝からなる個別分割線18」は、本件特許発明1の「セラミックス基板を複数形成するための分割溝」に相当する。 したがって、甲1発明の「セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、セラミック基板11の外周辺部のダミー部15を直線状に分割して除去するためのV字状の連続した溝からなる4本の外周分割線17、17a、17b、17cが設けられており、セラミック基板11の少なくとも一方の主面には、複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体の矩形状のセラミック回路基板14とするためのV字状の連続した溝からなる個別分割線18が設けられて」いることは、本件特許発明1の「前記パワーモジュール製造用セラミックス原板は、少なくとも一方の面に」「セラミックス基板を複数形成するための分割溝が形成され」ることに相当する。 ただし、本件特許発明1のセラミックス基板は、「矩形状の四隅が面取りされた」ものであるが、甲1発明には、その旨の特定がされていない。 c.甲1発明の「個片体の矩形状のセラミック回路基板14」のそれぞれに対応する領域は、セラミック基板11が外周分割線17、17a、17b、17c及び個別分割線18により、外周辺部のダミー部15と、個片体の矩形状のセラミック回路基板14(上記bのとおり、本件特許発明1の「セラミックス基板」に相当。)とに分割されるものであるから、本件特許発明1の「セラミックス基板の外形形状の大きさに区画された基板形成領域」に相当する。また、甲1発明のセラミック基板11のうち、セラミック基板11の外周辺部のダミー部15に対応する領域は、本件特許発明1の「前記基板形成領域の周囲に配置される外枠領域」に相当する。 したがって、甲1発明の「セラミック基板11の外周辺部のダミー部15を直線状に分割して除去するためのV字状の連続した溝からなる4本の外周分割線17、17a、17b、17c」及び「複数個のセラミック回路基板14から直線状に分割して個片体の矩形状のセラミック回路基板14とするためのV字状の連続した溝からなる個別分割線18」は、本件特許発明1の「前記分割溝により、前記セラミックス基板の外形形状の大きさに区画された基板形成領域と、前記基板形成領域の周囲に配置される外枠領域と、が形成されて」いる構成を備えている。 ただし、本件特許発明1の分割溝について、分割溝により、基板形成領域と外枠領域だけではなく、「該基板形成領域の四隅に配置される面取形成領域」も形成されているものであるが、甲1発明には、その旨の特定がされていない。 d.甲1発明の「外周分割線17、17a、17b、17c」は、「各セラミック回路基板14に対応する領域とダミー部15に対応する領域とを隔てるもの」であるから、本件特許発明1の「前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる外枠分割溝」に相当する。 e.本件特許発明1の外枠分割溝は、「前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いるものであるが、甲1発明には、その旨の特定がされていない。 f.甲1発明の「回路金属板12」及び「放熱金属板13」(上記aのとおり、本件特許発明1の「金属層」に相当。)は、「1個の回路金属板12と1個の放熱金属板13とでセラミック回路基板14を構成」するものであるから、「セラミック回路基板14」に対応する領域(上記cのとおり、本件特許発明1の「基板形成領域」に相当。)に設けられるものである。 したがって、甲1発明の「回路金属板12」及び「放熱金属板13」は、本件特許発明1の「前記金属層は、前記分割溝によって区画される各基板形成領域に設けられ」る構成を備えている。 g.甲1発明の「ダミー金属板16、16a」は、セラミック基板11の外周辺部のダミー部15に設けられるものであるから、本件特許発明1の「外枠用金属層」に相当する。 また、甲1発明の「ダミー金属板16」は、「セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成するもの」であるから、Cu板からなるものである。さらに、甲1発明の「ダミー金属板16a」は「同様にしてエッチングすることで形成するもの」であり、甲第1号証の段落【0016】によれば(上記「第4(1)イ.」を参照)、「同様にしてエッチングする」とは「ダミー金属板16」のエッチングと同様にセラミック基板11の両方の主面を覆うように接合された大型のCu板をエッチングするものと解するのが自然であるから、甲1発明の「ダミー金属板16a」は、Cu板からなるものである。したがって、甲1発明の「ダミー金属板16」及び「ダミー金属板16a」は、回路金属板12及び放熱金属板13(上記aのとおり、本件特許発明1の「金属層」に相当。)と同じ金属板であるCu板からなるものであるといえる。 よって、甲1発明の「ダミー部15の両主面のそれぞれにダミー金属板16、16aが接合されており、回路金属板12とダミー金属板16は、セラミック基板11の両方の主面を覆うように大型のCu板を接合した後、エッチングすることで形成するものであり、放熱金属板13とダミー金属板16aは、同様にしてエッチングすることで形成するもの」であることは、本件特許発明1の「前記外枠領域に、前記金属層と同じ金属板からなる外枠用金属層が設けられ」ることに相当する。 h.甲1発明の「ダミー金属板16、16aは外周分割線17、17a、17b、17cに沿って配置されるものである」ことは、本件特許発明1の「該外枠用金属層の側縁は、前記外枠分割溝に沿って配置されている」ことに相当する。 i.上記aのとおり、甲1発明の「セラミック回路基板集合体10」は、本件特許発明1の「パワーモジュール製造用積層基板」に相当する。 したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「パワーモジュール製造用セラミックス原板の少なくとも一方の面に金属層を接合したパワーモジュール製造用積層基板であって、 前記パワーモジュール製造用セラミックス原板は、少なくとも一方の面にセラミックス基板を複数形成するための分割溝が形成され、前記分割溝により、前記セラミックス基板の外形形状の大きさに区画された基板形成領域と、前記基板形成領域の周囲に配置される外枠領域と、が形成されており、 前記分割溝は、前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる外枠分割溝を有しており、 前記金属層は、前記分割溝によって区画される各基板形成領域に設けられ、 前記外枠領域に、前記金属層と同じ金属板からなる外枠用金属層が設けられ、 該外枠用金属層の側縁は、前記外枠分割溝に沿って配置されていることを特徴とするパワーモジュール製造用積層基板。」 <相違点1> セラミックス基板について、本件特許発明1は「矩形状の四隅が面取りされた」ものであるのに対し、甲1発明にはその旨の特定がない。 <相違点2> 分割溝について、本件特許発明1は、分割溝により、「該基板形成領域の四隅に配置される面取形成領域」が形成されているのに対し、甲1発明にはその旨の特定がない。 <相違点3> 外枠分割溝について、本件特許発明1は、「前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いるのに対し、甲1発明にはその旨の特定がない。 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点3>について 甲第2号証に記載される技術事項の「四角錐状の凹部」は、一次分割溝と二次分割溝で分割して得られる基板に、本件特許発明1の「矩形状の四隅が面取りされた」形状と同様の形状を与えるものであるが、甲第2号証には、本件特許発明1の「前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝」に対応するものは記載されていない。 また、甲第3号証に記載される技術事項の「正方形の空孔」は、縦、横の分割溝で分割して得られる基板に、本件特許発明1の「矩形状の四隅が面取りされた」形状と同様の形状を与えるものであるが、甲第3号証には、本件特許発明1の「前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝」に対応するものは記載されていない。 したがって、「前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いる点については、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも記載されていない。 よって、相違点3に係る構成は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証ないし甲第3号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではない。 この点について、異議申立人は、甲第2号証に記載の凹部(「凹部4」)は本件特許発明1における「面取り形成溝」に相当し、セラミックス基板における凹部の形成領域は本件特許発明1における「面取形成領域」に相当する旨を主張している(特許異議申立書の第10頁)。 しかし、本件特許発明1は、「前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いるから、「面取り形成溝」は「外枠分割溝」に含まれるものである。また、本件特許発明1は、「前記分割溝は、前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる外枠分割溝を有して」いるから、「外枠分割溝」は「前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる」ものである。したがって、「外枠分割溝」に含まれる「面取り形成溝」も、「前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる」ものである。 ここで、「面取り形成溝」が「前記基板形成領域と前記外枠領域とを隔てる」ということは、細長いくぼみなどにより形成される面取り形成溝の両側に形成される区域のうち、一方の側の区域に基板形成領域が存在し、他方の側の区域に外枠領域が存在するものと解される。 してみると、本件特許発明1における「前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝」は、細長いくぼみなどにより形成される面取り形成溝の両側に形成される区域のうち、外枠領域が存在する他方の側の区域に「前記外枠領域に隣接する面取形成領域」が存在するように区画することになり、面取形成領域は、面取り形成溝と同じ位置に存在するものではなく、面取り形成溝の両側に形成される区域のうちの他方の側の区域に存在するものである。 一方、甲第2号証に記載の凹部が「面取り形成溝」であり、凹部の形成領域が「面取形成領域」であるとすると、面取形成領域は面取り形成溝と同じ位置に存在することとなる。 したがって、甲第2号証に記載の凹部(「凹部4」)は、本件特許発明1の「面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する」ものとはいえず、甲第2号証には、「前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いる点について記載されていない。 また、異議申立人は、甲第3号証に記載の空孔(「空孔7」)は本件特許発明1における「面取り形成溝」に相当し、集合基板における空孔の形成領域は本件特許発明1における「面取形成領域」に相当する旨を主張している(特許異議申立書の第10頁)。 しかし、甲第3号証に記載の空孔が「面取り形成溝」であり、空孔の形成領域が「面取形成領域」であるとすると、面取形成領域は面取り形成溝と同じ位置に存在することとなる。 したがって、甲第2号証に記載の凹部について上述したものと同様の理由により、甲第3号証に記載の空孔(「空孔7」)は、本件特許発明1の「面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する」ものとはいえず、甲第3号証には、「前記外枠分割溝は、前記基板形成領域の四隅に配置される前記面取形成領域のうちの前記外枠領域に隣接する面取形成領域を前記外枠領域と一体に区画する面取り形成溝を有して」いる点について記載されていない。 以上のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証ないし甲第3号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではなく、特許法第29条第2項に違反したものではない。 そして、本件特許発明2は、本件特許発明1に更なる構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証ないし甲第3号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではなく、特許法第29条第2項に違反したものではない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-06-18 |
出願番号 | 特願2013-80567(P2013-80567) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 梅本 章子 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
國分 直樹 東 昌秋 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6201384号(P6201384) |
権利者 | 三菱マテリアル株式会社 |
発明の名称 | パワーモジュール製造用積層基板 |
代理人 | 青山 正和 |