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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01W
管理番号 1342016
異議申立番号 異議2017-701240  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-27 
確定日 2018-06-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6155510号発明「気象情報提供装置及び気象情報提供用プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6155510号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6155510号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成25年6月11日に特許出願され、平成29年6月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし13に係る特許に対し、平成29年12月27日に特許異議申立人 山口 清隆 により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第6155510号の請求項1ないし13の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの本件発明1、3ないし5は以下のとおりである。

(本件発明1)
「【請求項1】
表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である単位区域毎の降水量を示す降水量分布データの地域的分布情報に基づいて、少なくとも、前記光軸方向算出部により算出された光軸方向の情報から求まる前記撮像部による撮影範囲に対応した単位区域毎の降水量にそれぞれ対応した雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部と、
c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備えることを特徴とする気象情報提供装置。」

(本件発明3)
「【請求項3】
表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する、平面視長方形状である携帯型の気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて、少なくとも、前記光軸方向算出部により算出された光軸方向の情報から求まる前記撮像部による撮影範囲に対応した単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部と、
c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備え、当該装置が横向きに保持された状態では、前記画像合成部による実写画像と仮想画像と合成した画像を前記表示部の画面上に表示し、当該装置が縦向きに保持された状態では、前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて作成されるメッシュ状の気象分布を示すヒートマップを平面的な地図上に重ねた2次元画像を前記表示部の画面上に表示するように表示を切り替えることを特徴とする気象情報提供装置。」

(本件発明4)
「【請求項4】
表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて、前記測位部で認識された現在位置の周囲全ての単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部と、
c)前記仮想画像作成部により作成された現在位置の周囲全ての単位区域毎の仮想画像の中で前記撮像部による撮影範囲内の仮想画像を抽出し、該仮想画像と前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備えることを特徴とする気象情報提供装置。」

(本件発明5)
「【請求項5】
表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて、少なくとも、前記光軸方向算出部により算出された光軸方向の情報から求まる前記撮像部による撮影範囲に対応した単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部と、
c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備え、前記仮想画像作成部は、単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影する際に、前記撮像部から見て横方向に並ぶ複数の単位区域に対する模擬画像の横幅をそれぞれ所定倍率だけ拡大するとともに、現在位置から見たときに各模擬画像が正面に位置するように該各模擬画像を回転させたうえでそれら模擬画像を繋ぎ合わせる処理を行うことを特徴とする気象情報提供装置。」

第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、下記の甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件発明1、2、4ないし6、8、9、11ないし13は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、本件発明3及び10は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4及び甲第6号証に記載された事項に基づいて、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第7号証に記載された事項に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1ないし13に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである旨主張している。

特許異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第7号証
甲第1号証:特開2006-295827号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2004-184224号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2006-50173号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2011-223331号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開平10-177076号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2008-185614号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2002-229991号公報(以下「甲7」という。)

第4 各証拠の記載事項

1 甲1の記載事項

(1)甲1には、以下の記載がある。
(甲1-1)「【0010】
図1は、本例のシステム構成例を示した図である。まず、携帯電話端末装置の構成について説明すると、携帯電話端末装置100は、通信部109を備えて、無線電話用の通信回線で無線基地局などと無線通信を行うようにしてあり、液晶表示パネルなどで構成される表示部108で、通信に関する表示などを行うようにしてある。無線電話通信の制御は、制御部106の制御で行われ、メモリ107に制御に必要なデータなどが記憶させてある。また、ユーザが操作するキーなどで構成される操作部110を備えて、制御部106が操作状況を判断するようにしてある。無線電話用の通信回線での無線通信としては、端末装置100での通話用の通信の他に、メール用の通信や、インターネットにアクセスするための通信などもある。
【0011】
そして、携帯電話端末装置100は静止画及び動画を撮影する手段として、カメラ部104が内蔵され、制御部106の制御で撮影が行われる。また、携帯電話端末装置100の現状を検出する手段として、各種センサが取り付けてある。即ち、方位センサ101と測位部102と傾斜センサ103とを内蔵させてあり、それぞれで検出されたデータを制御部106が判断するようにしてある。
【0012】
方位センサ101は、カメラ部104が撮影する方位を検出するセンサである。測位部102は、GPS(Global Positioning System)などの測位システムを利用して、端末装置100の絶対的な位置を検出するものである。傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出するセンサである。これらのセンサや測位部からの出力は、カメラ部104で撮影を行う際には、視野角検出部105に送られ、カメラ部104で撮影した画像の視野角が算出される。
【0013】
測位部102で測位された現在位置のデータや撮影した画像の視野角のデータは、通信部109による無線通信で、ホストコンピュータ装置200に接続させて送るようにしてある。この接続としては、例えばホストコンピュータ装置200をインターネット上の所定アドレスに用意して、端末装置100を、無線電話回線を経由してインターネットに接続して、データ交換できるように接続されるようにしてある。
【0014】
ホストコンピュータ装置200は、空間情報検索部201と現状情報検索部202と、三次元空間データベース203とを備える。三次元空間データベース203は、三次元の地図データを備えて、その三次元地図データ上の各座標位置での代表となる目標物の名称のデータなどをデータベースとして記憶させてある。そして、端末装置100から送られた現在位置のデータを使用して、その現在位置の周囲に存在する目標物のデータを、空間情報検索部201で検索するようにしてある。また、現状情報検索部202が、位置データと視野角のデータとを使用して、その視野角内に存在する物体などの現状の情報を取得するようにしてある。この現状の情報は、所定のネットワーク網300を介して、リアルタイム情報管理システム400に、撮影位置のデータと視野角のデータなどを送って得るようにしてある。現状情報の例については後述する。リアルタイム情報管理システム400は、1つであるとは限らず、例えば情報の種類ごとにことなる管理システムを使用してもよい。例えば、天気情報を管理するシステム、飛行物体を管理するシステム、天体現象を管理するシステム、詳細情報が得られるホームページアドレスを管理(検索)するシステムなどの、様々なシステムが想定される。」

(甲1-2)「【0015】
図2は、端末装置100が備えるカメラ104が撮影する画角の検出例を示した図である。本例の端末装置100は、既に説明したように、方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてある。即ち、端末装置100のカメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出する。そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得る。ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができる。
【0016】
そして、仮想撮影面110を特定することで、ホストコンピュータ装置200の三次元空間データベース203から送られたデータに基づいて、仮想撮影面110に存在する代表物のデータを端末装置100内で得るとともに、時間の経過で変化する物についてのデータをホストコンピュータ装置200から得るようにしてある。」

(甲1-3)「【0017】
図3は、端末装置100が備えるカメラ104が撮影を行って、その撮影に関する情報を取得する処理例を示したフローチャートである。図3に従って説明すると、まず、端末装置100のカメラ104で、案内画像付の撮影を行うモードをユーザ操作などで設定することで、図3のフローチャートに示す処理が開始される。このモードが設定されると、制御部106は、測位部102で現在位置の測位を行う(ステップS11)。測位で現在位置情報が取得されると、その現在位置の情報を、ホストコンピュータ装置200に送信する(ステップS12)。ホストコンピュータ装置200側で位置情報を受信すると(ステップS31)、周辺の三次元空間情報から代表物の名称と、その方位角及び仰角のデータを、データベースから判断し(ステップS32)、その判断した代表物の名称と方位角、仰角の情報を、端末装置100に送信する(ステップS33)。
【0018】
端末装置100でこの情報を受信すると(ステップS13)、その受信した代表物の名称と方位角、仰角の情報をメモリ107に格納させる(ステップS14)。その後、静止画などの撮影を行うユーザ操作があるまで待機し、該当する操作があることを検出すると(ステップS15)、その撮影時のセンサ出力から、端末装置100のカメラ104の位置、姿勢、方位角、画角を判断する(ステップS16)。そして、ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出する(ステップS17)。
【0019】
その後、現状情報が更新する必要があるか否か判断し(ステップS18)、更新する必要がある場合(例えば前回の同じ位置での撮影からある程度時間が経過している場合)、現状情報取得要求信号をホストコンピュータ装置200に送信する(ステップS19)。
【0020】
この要求をホストコンピュータ装置200で受信すると(ステップS34)、現状情報の検索処理を行う(ステップS35)。現状情報の取得処理としては、例えば、撮影された画像の画角内の被写体または画像の撮影場所について、計時変化する現在の情報を取得する処理であり、図1に示したリアルタイム情報検索システム400を利用して検索される。具体的な例については、後述する撮影例で説明する。検索された現状情報は、端末装置10に送信される。
【0021】
端末装置100では、現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させる(ステップS20)。また、その表示された画像のデータを、メモリ107に記憶させる。この記憶時には、案内情報については、文字などが重畳された画像を記憶させる場合と、案内情報をデータとして撮影画像に付属するデータとして記憶させる場合のいずれでもよい。付属するデータとして記憶させた際には、記憶させた画像データを読み出して表示や印刷を行う際に、案内情報を重畳して表示又は印刷させるかを選択できる。
【0022】
ステップS20の処理が終了すると、ステップS15での次の撮影が行われるまで待機する。」

(甲1-4)「【0024】
これらの情報を用いて、本例においては撮影画像を表示する際に、案内表示を行うようにしたものである。図5は、案内表示を行う画像の例である。この例では、画像中の代表となる被写体について、名称などと現状を表示させるようにしてある。具体的には、山について、その名称と標高を表示させてあり、また、山の高さの等高線を、画像中に入れてある。図5の例では、標高が500mの位置に、ラインを入れるようにしてある。そして、現状情報として、山頂での最新の天気、気温、風速などを表示させるようにしてある。その最新の気象情報を観測した時間についても表示させてある。山の途中にある公園の名称と、現在の花の開花状況(桜5部咲きなど)についても表示させてある。」

(甲1-5)図1には、以下の図面が示されている。

(甲1-6)図2には、以下の図面が示されている。

(甲1-7)図3には、以下の図面が示されている。

(甲1-8)図5には、以下の図面が示されている。


(2)甲1に記載された発明
甲1は、(甲1-5)の図1から、携帯端末100の通信部109は、ホストコンピュータ200に位置情報を送信し、ホストコンピュータ200から空間情報を受信していることが読み取れる。また、(甲1-4)には、「画像中の代表となる被写体について、名称などと現状を表示させ」る例として、「現状情報として、山頂での最新の天気、気温、風速など」が挙げられていることから、「現状情報として、代表物での最新の天気、気温、風速など」があることが理解できる。そうすると、(甲1-1)ないし(甲1-8)の記載から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「通信部109を備えて無線通信を行うようにし、通信部109は、ホストコンピュータ200に位置情報を送信し、ホストコンピュータ200から空間情報を受信しており、液晶表示パネルなどで構成される表示部108で通信に関する表示などを行うようにしてある、携帯電話端末装置100であって、
静止画及び動画を撮影する手段として、カメラ104が内蔵され、携帯電話端末装置100の現状を検出する手段として、方位センサ101と測位部102と傾斜センサ103とを内蔵させてあり、
方位センサ101は、カメラ104が撮影する方位を検出するセンサであり、測位部102は、端末装置100の絶対的な位置を検出するものであり、傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出するセンサであり、
端末装置100は、方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてあり、即ち、カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出し、そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得、ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができ、
カメラ104で、案内画像付の撮影を行うモードが設定されると、制御部106は、測位部102で現在位置の測位を行い(ステップS11)、測位で現在位置情報が取得されると、その現在位置の情報を、ホストコンピュータ装置200に送信し(ステップS12)、ホストコンピュータ装置200側で位置情報を受信すると(ステップS31)、周辺の三次元空間情報から代表物の名称と、その方位角及び仰角のデータを、データベースから判断し(ステップS32)、その判断した代表物の名称と方位角、仰角の情報を、端末装置100に送信し(ステップS33)、端末装置100でこの情報を受信すると(ステップS13)、その受信した代表物の名称と方位角、仰角の情報をメモリ107に格納させ(ステップS14)、その後、静止画などの撮影を行うユーザ操作があるまで待機し、該当する操作があることを検出すると(ステップS15)、その撮影時のセンサ出力から、端末装置100のカメラ104の位置、姿勢、方位角、画角を判断し(ステップS16)、そして、ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出し(ステップS17)、その後、現状情報が更新する必要があるか否か判断し(ステップS18)、更新する必要がある場合(例えば前回の同じ位置での撮影からある程度時間が経過している場合)、現状情報取得要求信号をホストコンピュータ装置200に送信し(ステップS19)、この要求をホストコンピュータ装置200で受信すると(ステップS34)、現状情報の検索処理を行い(ステップS35)、検索された現状情報は、端末装置10に送信され、端末装置100では、現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ(ステップS20)、
現状情報として、代表物での最新の天気、気温、風速などがある、
携帯電話端末装置100。」

2 甲2の記載事項

甲2には、「天気予報映像化装置」に関する文献であって、その【0015】ないし【0041】の記載から、
「天気予報情報を特定するための地域情報および時刻情報を含む条件情報を入力させる条件情報入力手段110、入力された条件情報に基づいて気象事業者提供サーバ20からネットワーク10を介して天気予報情報を取得する天気予報情報取得手段120、天気予報情報に基づいて気象映像の情報を生成する気象映像情報生成手段130、カメラ30によって撮像され送信された地域映像の情報を受信する地域映像情報受信手段140、地域映像に基づいて天気予報情報に含まれる予報時刻に応じた時刻地域映像の情報を生成する時刻地域映像生成手段150、時刻地域映像に含まれる空の部分からなる空映像の領域を抽出する空映像抽出手段160、空映像の領域内に天気予報情報に基づいて空映像を擬似した擬似空映像を生成する擬似空映像生成手段170、擬似空映像と時刻地域映像とを映像合成して地域合成映像を生成する地域合成映像生成手段180、及び気象映像と地域映像とを映像合成して気象合成映像を生成する気象映像合成手段190を含むように構成されること」が記載されているものと認められる。

3 甲3の記載事項

甲3には、「地域別情報表示装置」に関する文献であって、その【請求項2】、【請求項4】、【0023】ないし【0026】、図4の記載から、
「現在から将来に向かって進行予定の経路に設定した日時と地域で定義される複数の経過または目標ポイントを設定し、
該ポイントの地域別情報をデジタルデータ放送から受信処理装置で取得し、
該取得した地域別データを前記経路と共に時系列にディスプレイ上に外部表示してなる地域別情報表示装置であって、
ディスプレイに、進行予定の経路を画面表示する経路画面表示部と、
該経路を、複数のポイント毎に区画する区画表示線と、
複数の区画表示線に対応して、それぞれの通過日時に対応する複数の地域別情報を同時に表示する地域別情報表示部とを有し、
地域別情報が、天気予報からなり、
地域別情報を、写真やCGを用いてジオラマ的に表現して、ユーザーが直感的に見やすく表現することができるようになっており、時系列に並べて三次元的に表現すること」が記載されているものと認められる。

4 甲4の記載事項

甲4には、「画像処理装置」に関する文献であって、その【0001】、【0026】ないし【0028】、【0033】、【0045】、【0046】の記載から、
「画像処理装置100の位置を示す位置情報を取得し、位置情報の取得時の日時である日時情報を取得し、気象(晴れ、くもりなど)の気象情報を取得して、照明環境情報を計算し、計算された照明環境情報に基づいて、オブジェクト記憶部108から必要なオブジェクトを取り出し、照明環境情報に基づいたオブジェクトを生成し、一方、撮影した撮影データを取得し、取得された撮影データと、生成されたオブジェクトとを合成して、オブジェクトが合成された撮影データを表示すること」が記載されているものと認められる。

5 甲5の記載事項

甲5には、「降雨量予測装置」に関する文献であって、その【0014】、【0017】の記載から、
「1km間隔の観測距離で観測される降雨強度データによる降雨量分布を表示すること」が記載されているものと認められる。

6 甲6の記載事項

甲6には、「地図表示装置」に関する文献であって、その【0002】、【0029】の記載から、
「地図20に雨量分布23を重ねて表示し、詳細地図50を拡大した詳細地図70には、雨量分布23と、風向き及び風力28が重ねて表示されること」が記載されているものと認められる。

7 甲7の記載事項

甲7には、「情報提供サービスシステム」に関する文献であって、その【0128】ないし【0130】、【0136】の記載から、
「立体的に表示される建物(オブジェクト)に対してその施設情報を情報バブルとして合成表示するシステムにおいて、GIFアニメーション等の動きのある表示も可能であり、また、情報バブルを、企業を特定できるロゴや商標とすることも可能であること」が記載されているものと認められる。

第5 当審の判断

1 本件発明1について

ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「表示部108」は、「液晶表示パネルなどで構成される」から、本件発明1の「表示画面を有する表示部」に相当する。

(イ)甲1発明の「通信部109」は、「ホストコンピュータ200から空間情報を受信して」いるから、本件発明1の「外部からの情報を受信する通信部」に相当する。

(ウ)甲1発明の「カメラ104」は、「カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角」範囲の「静止画及び動画を撮影する」ことから、本件発明1の「所定範囲の画像を撮影する撮像部」に相当する。

(エ)甲1発明の「測位部102」は、「現在位置の測位を行」うことから、本件発明1の「現在位置を認識する測位部」に相当する。

(オ)甲1発明の「方位センサ101は、カメラ104が撮影する方位を検出する」ものであり、「傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出する」ものであることから、甲1発明の「方位センサ101と傾斜センサ103」は、両センサを併せると、3次元方位を検出するものといえるので、本件発明1の「方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部」に相当する。

(カ)甲1発明の、「ホストコンピュータ装置200」から受信した「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ」ることは、代表物での最新の気象情報を、文字や図形などに加工処理して表示させることを含んでいるから、本件発明1の「前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する」ことを含む。

(キ)甲1発明の「携帯電話端末装置100」は、上記(カ)を踏まえると、気象情報提供装置といえることから、本件発明1の「気象情報提供装置」に相当する。

(ク)甲1発明は、「方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてあり、即ち、カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出し、そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得、ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができ」ることから、「測位部102」及び「方位センサ101と傾斜センサ103」の出力から、「現在位置での」「カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを」「検出し」ていることが理解できる。よって、甲1発明は、本件発明1の「a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部」を備えていると認められる。

(ケ)甲1発明の「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」と、本件発明1の「単位区域毎の雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像」とは、「気象情報」である点で共通する。よって、甲1発明の「ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出し(ステップS17)」、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ(ステップS20)」ることと、本件発明1の「c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」とは、「c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」である点で共通する。

(コ)上記(ア)ないし(ケ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、次の点において一致し、次の相違点1及び2において相違する。

(一致点)
「表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備える、気象情報提供装置。」

(相違点1)
本件発明1は、「b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である単位区域毎の降水量を示す降水量分布データの地域的分布情報に基づいて、少なくとも、前記光軸方向算出部により算出された光軸方向の情報から求まる前記撮像部による撮影範囲に対応した単位区域毎の降水量にそれぞれ対応した雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部」を備えるのに対し、甲1発明は、このような仮想画像作成部を備えていない点。

(相違点2)
画像合成部が実写画像に合成する気象情報が、本件発明1では、「前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像」であるのに対し、甲1発明では、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」である点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。

甲2ないし甲7(上記「第4」「2」?「7」を参照。)のいずれの文献にも、上記相違点1に係る本件発明1の構成、とりわけ、「単位区域毎の降水量にそれぞれ対応した雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する」ことについての記載も示唆もない。
してみると、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 申立人の主張について

申立人は、上記相違点1(異議申立書での「構成要件1C」に相当)について、「構成要件1Cの構成は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載される技術の組合せに相当し、このような組合せを想起することに技術的な困難性が無い」(異議申立書第21頁第12?14行)と主張している。
まず、甲2?4に記載された事項について、
甲2には、上記「第4」「2」に記載したとおりであり、構成要件1Cのうちの「雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像」が記載されており、
甲3には、上記「第4」「3」に記載したとおりであり、構成要件1Cのうちの「区画毎の」「雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像」が記載されており(ただし、甲3で、「区域毎」の「区域」に相当するものは、進行予定経路中の地域であり、構成要件1Cの「前記光軸方向の情報から求まる前記撮影部による撮影範囲に対応した単位区域」ではない。)、
甲4には、上記「第4」「4」に記載したとおりであり、構成要件1Cのうちの「気象情報」「に基づいて、」「模擬画像を」「作成する」ことが記載されている。
しかし、甲2に記載された事項は、所定の場所に固定されたカメラを使用するものであり、甲3に記載された事項は、カーナビゲーションの画面(実際に撮影された画面ではない)に関するものであり、甲4は、人が携帯するカメラを使用するものであって、いずれも拡張現実(AR)に関わるものであるとしても、それだけでこれらの事項を組み合わせる動機付けになるとは認めがたい。
さらに、これらの事項を組み合わせたとしても、「単位区域毎の降水量を示す降水量分布データ」、「前記光軸方向の情報から求まる前記撮影部による撮影範囲に対応した単位区域毎の雲の状態及び降雨の状態を模擬的に示す模擬画像」という本件発明1の発明特定事項(特に、下線部)が導き出されないことは明らかである。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

エ 小括
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2について

本件発明2は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明3について

ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「表示部108」は、「液晶表示パネルなどで構成される」から、本件発明3の「表示画面を有する表示部」に相当する。

(イ)甲1発明の「通信部109」は、「ホストコンピュータ200から空間情報を受信して」いるから、本件発明3の「外部からの情報を受信する通信部」に相当する。

(ウ)甲1発明の「カメラ104」は、「カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角」範囲の「静止画及び動画を撮影する」ことから、本件発明3の「所定範囲の画像を撮影する撮像部」に相当する。

(エ)甲1発明の「測位部102」は、「現在位置の測位を行」うことから、本件発明3の「現在位置を認識する測位部」に相当する。

(オ)甲1発明の「方位センサ101は、カメラ104が撮影する方位を検出する」ものであり、「傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出する」ものであることから、甲1発明の「方位センサ101と傾斜センサ103」は、両センサを併せると、3次元方位を検出するものといえるので、本件発明3の「方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部」に相当する。


(カ)甲1発明の、「ホストコンピュータ装置200」から受信した「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ」ることは、代表物での最新の気象情報を、文字や図形などに加工処理して表示させることを含んでいるから、本件発明3の「前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する」ことを含む。

(キ)甲1発明の「携帯電話端末装置100」は、上記(カ)を踏まえると、気象情報提供装置といえることから、甲1発明の「携帯電話端末装置100」と、本件発明3の「平面視長方形状である携帯型の気象情報提供装置」とは、「携帯型の気象情報提供装置」である点で共通する。

(ク)甲1発明は、「方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてあり、即ち、カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出し、そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得、ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができ」ることから、「測位部102」及び「方位センサ101と傾斜センサ103」の出力から、「現在位置での」「カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを」「検出し」ていることが理解できる。よって、甲1発明は、本件発明3の「a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部」を備えていると認められる。

(ケ)甲1発明の「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」と、本件発明3の「単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像」とは、「気象情報」である点で共通する。よって、甲1発明の「ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出し(ステップS17)」、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ(ステップS20)」ることと、本件発明3の「c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」とは、「c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」である点で共通する。

(コ)上記(ア)ないし(ケ)を踏まえると、本件発明3と甲1発明とは、次の点において一致し、上記相違点2の他に、次の相違点3ないし5において相違する。

(一致点)
「表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する、携帯型の気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備える、気象情報提供装置。」

(相違点3)
携帯型の気象情報提供装置が、本件発明3では、「平面視長方形状」であるのに対し、甲1発明では、この点について特定されていない点。

(相違点4)
本件発明3は、「b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて、少なくとも、前記光軸方向算出部により算出された光軸方向の情報から求まる前記撮像部による撮影範囲に対応した単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部」を備えるのに対し、甲1発明は、このような仮想画像作成部を備えていない点。

(相違点5)
本件発明3は、「当該装置が横向きに保持された状態では、前記画像合成部による実写画像と仮想画像と合成した画像を前記表示部の画面上に表示し、当該装置が縦向きに保持された状態では、前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて作成されるメッシュ状の気象分布を示すヒートマップを平面的な地図上に重ねた2次元画像を前記表示部の画面上に表示するように表示を切り替える」のに対し、甲1発明は、このような切り換え構成を備えていない点。

イ 判断
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。

甲2ないし甲7(上記「第4」「2」?「7」を参照。)のいずれの文献にも、上記相違点4に係る本件発明3の構成、とりわけ、「単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する」ことについての記載も示唆もない。
してみると、上記相違点4に係る本件発明3の構成は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 小括
したがって、上記相違点2、3及び5について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本件発明4について

ア 対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「表示部108」は、「液晶表示パネルなどで構成される」から、本件発明4の「表示画面を有する表示部」に相当する。

(イ)甲1発明の「通信部109」は、「ホストコンピュータ200から空間情報を受信して」いるから、本件発明4の「外部からの情報を受信する通信部」に相当する。

(ウ)甲1発明の「カメラ104」は、「カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角」範囲の「静止画及び動画を撮影する」ことから、本件発明4の「所定範囲の画像を撮影する撮像部」に相当する。

(エ)甲1発明の「測位部102」は、「現在位置の測位を行」うことから、本件発明4の「現在位置を認識する測位部」に相当する。

(オ)甲1発明の「方位センサ101は、カメラ104が撮影する方位を検出する」ものであり、「傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出する」ものであることから、甲1発明の「方位センサ101と傾斜センサ103」は、両センサを併せると、3次元方位を検出するものといえるので、本件発明4の「方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部」に相当する。

(カ)甲1発明の、「ホストコンピュータ装置200」から受信した「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ」ることは、代表物での最新の気象情報を、文字や図形などに加工処理して表示させることを含んでいるから、本件発明4の「前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する」ことを含む。

(キ)甲1発明の「携帯電話端末装置100」は、上記(カ)を踏まえると、気象情報提供装置といえることから、本件発明4の「気象情報提供装置」に相当する。

(ク)甲1発明は、「方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてあり、即ち、カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出し、そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得、ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができ」ることから、「測位部102」及び「方位センサ101と傾斜センサ103」の出力から、「現在位置での」「カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを」「検出し」ていることが理解できる。よって、甲1発明は、本件発明4の「a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部」を備えていると認められる。

(ケ)甲1発明の「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」と、本件発明4の「単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像」とは、「気象情報」である点で共通する。よって、甲1発明の「ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出し(ステップS17)」、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ(ステップS20)」ることと、本件発明4の「c)前記仮想画像作成部により作成された現在位置の周囲全ての単位区域毎の仮想画像の中で前記撮像部による撮影範囲内の仮想画像を抽出し、該仮想画像と前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」とは、「c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」である点で共通する。

(コ)上記(ア)ないし(ケ)を踏まえると、本件発明4と甲1発明とは、次の点において一致し、次の相違点6及び7において相違する。

(一致点)
「表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備える、気象情報提供装置。」

(相違点6)
本件発明4は、「b)前記通信部により得られた目的とする気象情報である気象関連指標値の地域的分布情報に基づいて、前記測位部で認識された現在位置の周囲全ての単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する仮想画像作成部」を備えるのに対し、甲1発明は、このような仮想画像作成部を備えていない点。

(相違点7)
画像合成部が実写画像に合成する気象情報が、本件発明4では、「前記仮想画像作成部により作成された現在位置の周囲全ての単位区域毎の仮想画像の中で前記撮像部による撮影範囲内の」「抽出し」た「仮想画像」であるのに対し、甲1発明では、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」である点。

イ 判断
上記相違点6について検討する。

甲2ないし甲7(上記「第4」「2」?「7」を参照。)のいずれの文献にも、上記相違点6に係る本件発明4の構成、とりわけ、「単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像を作成する」ことについての記載も示唆もない。
してみると、上記相違点6に係る本件発明4の構成は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 小括
したがって、上記相違点7について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本件発明5について

ア 対比
本件発明5と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「表示部108」は、「液晶表示パネルなどで構成される」から、本件発明5の「表示画面を有する表示部」に相当する。

(イ)甲1発明の「通信部109」は、「ホストコンピュータ200から空間情報を受信して」いるから、本件発明5の「外部からの情報を受信する通信部」に相当する。

(ウ)甲1発明の「カメラ104」は、「カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角」範囲の「静止画及び動画を撮影する」ことから、本件発明5の「所定範囲の画像を撮影する撮像部」に相当する。

(エ)甲1発明の「測位部102」は、「現在位置の測位を行」うことから、本件発明5の「現在位置を認識する測位部」に相当する。

(オ)甲1発明の「方位センサ101は、カメラ104が撮影する方位を検出する」ものであり、「傾斜センサ103は、端末装置100の傾斜を検出する」ものであることから、甲1発明の「方位センサ101と傾斜センサ103」は、両センサを併せると、3次元方位を検出するものといえるので、本件発明5の「方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部」に相当する。

(カ)甲1発明の、「ホストコンピュータ装置200」から受信した「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ」ることは、代表物での最新の気象情報を、文字や図形などに加工処理して表示させることを含んでいるから、本件発明5の「前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する」ことを含む。

(キ)甲1発明の「携帯電話端末装置100」は、上記(カ)を踏まえると、気象情報提供装置といえることから、本件発明1の「気象情報提供装置」に相当する。

(ク)甲1発明は、「方位センサ101と傾斜センサ103とを備えているために、カメラ104が撮影する画角が向いている方位角を検出できる構成としてあり、即ち、カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを、これらのセンサ101,103の出力から検出し、そして、カメラ104に取り付けられた撮影用レンズの画角から、等仰角線111及び等方位角線112を検出して、仮想撮影面110を得、ここで、端末装置100には、測位部102が備えられているので、現在位置が判るので、その現在位置での仮想撮影面110を特定することができ」ることから、「測位部102」及び「方位センサ101と傾斜センサ103」の出力から、「現在位置での」「カメラ104が撮影する中心の光軸113の方位角ω及び仰角ζを」「検出し」ていることが理解できる。よって、甲1発明は、本件発明5の「a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部」を備えていると認められる。

(ケ)甲1発明の「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報」と、本件発明5の「単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影した仮想画像」とは、「気象情報」である点で共通する。よって、甲1発明の「ステップS14で格納させた情報から、画角の方位角及び仰角の範囲内にある代表物の情報を抽出し(ステップS17)」、「代表物での最新の天気、気温、風速など」の「現状情報を受信すると(ステップS21)、計時変化のある現状情報を含んだ代表物を文字や図形などで案内する情報を、撮影画像に重畳させ、その情報が重畳された画像を表示部108に表示させ(ステップS20)」ることと、本件発明5の「c)前記仮想画像作成部により作成された前記撮像部による撮影範囲内の前記仮想画像を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」とは、「c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部」である点で共通する。

(コ)上記(ア)ないし(ケ)を踏まえると、本件発明5と甲1発明とは、次の点において一致し、上記相違点2及び4の他に、次の相違点8において相違する。

(一致点)
「表示画面を有する表示部と、外部からの情報を受信する通信部と、所定範囲の画像を撮影する撮像部と、現在位置を認識する測位部と、方角及び当該装置の水平状態からの傾きを検知する3次元方位検知部と、を具備し、前記通信部により外部から得られた気象情報を加工処理して前記表示部の画面上に表示する気象情報提供装置において、
a)前記測位部及び前記3次元方位検知部により得られた情報に基づいて、前記撮像部による撮影の光軸の方向を算出する光軸方向算出部と、
c)前記撮像部による撮影範囲内の気象情報を、前記撮像部により得られている実写画像と合成して、前記表示部の画面上に表示する画像合成部と、
を備える、気象情報提供装置。」

(相違点8)
本件発明5は、「前記仮想画像作成部は、単位区域毎の気象関連指標値を反映した模擬画像を3次元空間に射影する際に、前記撮像部から見て横方向に並ぶ複数の単位区域に対する模擬画像の横幅をそれぞれ所定倍率だけ拡大するとともに、現在位置から見たときに各模擬画像が正面に位置するように該各模擬画像を回転させたうえでそれら模擬画像を繋ぎ合わせる処理を行う」のに対し、甲1発明は、このような処理を行う仮想画像作成部を備えていない点。

イ 判断
上記相違点4については、上記「3」「イ」で検討したとおりであるから、上記相違点4に係る本件発明5の構成は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 小括
したがって、上記相違点2及び8について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 本件発明6について

本件発明6は、本件発明3ないし5のいずれか1つを更に減縮したものであるから、上記本件発明3ないし5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 本件発明7について

本件発明7は、本件発明1ないし6のいずれか1つを更に減縮したものであるから、上記本件発明1ないし6についての判断と同様の理由により、本件発明7は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

8 本件発明8ないし13について

本件発明8ないし13は、それぞれ、本件発明1ないし6に対応するプログラムの発明(カテゴリー上の差異がある程度の発明)であるから、上記本件発明1ないし6についての判断と同様の理由により、本件発明8ないし13は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

9 まとめ

以上のとおり、本件発明1ないし13についての特許異議申立人の申立て理由には理由がない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-15 
出願番号 特願2013-122325(P2013-122325)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01W)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 秀直  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 渡戸 正義
▲高▼見 重雄
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6155510号(P6155510)
権利者 株式会社島津ビジネスシステムズ
発明の名称 気象情報提供装置及び気象情報提供用プログラム  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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