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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1342030
異議申立番号 異議2017-701187  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-13 
確定日 2018-07-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6148420号発明「メタクリル系樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6148420号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6148420号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-24243号、以下「本願」という。)は、平成28年11月21日(優先権主張:平成28年2月12日、特願2016-24961号)に出願人旭化成株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願(特願2016-226258号)の一部を新たに出願したものであり、平成29年5月26日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、平成29年6月14日に特許公報が発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年12月13日に特許異議申立人高瀬彌平(以下「申立人」という。)により「特許第6148420号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

3.以降の経緯
以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 3月26日付け 取消理由通知
平成30年 5月28日 意見書
平成30年 6月27日 上申書(申立人)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第15号証を提示し、申立書における取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1ないし3が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件発明1ないし5は、いずれも、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1ないし5は、いずれも、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:本件発明1ないし5は、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に照らしてその解決課題が解決するか否か不明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2015-183023号公報
甲第2号証:特開2015-135355号公報
甲第3号証:特開2013-137485号公報
甲第4号証:特開2015-67771号公報
甲第5号証:「リン系加工安定剤“GSY-P101”」なる堺化学工業株式会社ホームページ情報のプリントアウト
甲第6号証:日本ゴム協会誌、第68巻、第5号、1995年、第318?326頁
甲第7号証:マテリアルライフ学会誌、第5巻、第4号、1993年10月、第89?95頁
甲第8号証:特開2011-16916号公報
甲第9号証:特開2009-294359号公報
甲第10号証:特開2012-1725号公報
甲第11号証:住友化学、2009-II巻、第19?27頁
甲第12号証:特開2015-105332号公報
甲第13号証:特開2014-28956号公報
甲第14号証:特開2008-191426号公報
甲第15号証:特開2001-151814号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲15」と略していう。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審が平成30年3月26日付けで通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。

「当審は、
申立人が主張する上記取消理由2により、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。・・(中略)・・

オ.検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、いずれも、甲1ないし甲4のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)取消理由2に係る検討のまとめ
よって、本件発明1ないし5は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」

第4 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件特許に係る請求項1ないし5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記構造単位(X)が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂と有機リン化合物とを含み、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
リン元素の含有量が143?1000質量ppmであり、
分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機リン化合物は、3価のリン元素を有する有機リン化合物を含む、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
GPC測定法により測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、80,000?170,000である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
光弾性係数の絶対値が、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項4に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
(以下、上記請求項1ないし5に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第5 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1ないし3についてもいずれも理由がないから、本件発明1ないし5についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
と判断する。
以下、事案に鑑み、申立人が主張する取消理由3につきまず検討し、引き続き、特許法第29条に係る取消理由である申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由2を併せて検討する。

1.申立人が主張する取消理由3について

(1)検討
本件発明の解決しようとする課題(以下「本件解決課題」という。)は、本件特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(【0012】?【0013】)の記載からみて、「複屈折性に優れ、成形時に金型表面を汚染しにくく、外観に優れる成形品が得られるメタクリル系樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
それに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】?【0122】)の記載を検討すると、背景技術として、光学材料向けのメタクリル系樹脂(組成物)、特に主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(組成物)において、熱安定性の向上及び成形加工時等の加熱溶融による色調の変化及び成形品外観の悪化を抑制するために、リン系のものを含む酸化防止剤を添加使用する技術が、本願出願時(原出願優先日)に存していたことが開示されており(【0002】?【0012】)、本件発明のメタクリル系樹脂組成物において、(a)特定の有機リン化合物を特定のリン元素含有量の範囲で使用すること及び(b)特定の分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量の範囲にあることにつき、それぞれ、
(a)「本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に含まれる有機リン化合物としては、・・亜リン酸エステル類(以下、「ホスファイト類」とも記載する)、ホスホナイト類、及びこれらの加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種の、3価のリンをその構成元素に有する有機リン化合物と;・・5価のリンをその構成元素に含む有機リン化合物と;の両方を含有するもの等が挙げられ」、「上記有機リン化合物としては、ヒンダードフェノール部位を有する有機リン化合物・・が好まし」く、「有機リン化合物として、ヒンダードフェノール骨格単位がリン原子とエステル結合している化合物を用いる場合、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の溶融混練時に加水分解をして分子量300未満のヒンダードフェノール化合物が生じやすい傾向にある」こと(【0096】)及び「本実施形態のメタクリル系樹脂組成物中に含まれる有機リン化合物は、少なくとも3価のリン元素を有する有機リン化合物を含むことが好まし」く「3価のリン元素を有する有機リン化合物が含まれると、金型汚染性が改善する」(【0110】)並びに「本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、好ましくは20?500質量ppm、さらに好ましくは50?300質量ppmであることが好まし」く、「リン元素の含有量が10質量ppm未満であると、本実施形態のような高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物の熱や酸素による分解を、十分に抑制することができない恐れがあ」り、「また、リン元素の含有量が1000質量ppmを超えると、本実施形態のように高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物を用いて高温下で溶融混練を行う場合に、生成する分解生成物や酸化生成物がその組成中に多量の存在することとなり、溶融成形時の冷却ロールや金型汚れが増大するとともに、得られる成形体表面に筋状物やシルバーストリークスが多量に生成したりするおそれがある。」(【0109】)及び
(b)「本実施形態のメタクリル系樹脂組成物中に含まれる分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量は、300質量ppm以下であり、好ましくは200質量ppm以下、更に好ましくは120質量ppm以下であ」り、「含有量の下限としては、除去する工程が煩雑になるのを防ぐ観点から、5質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは10質量ppm以上であ」って、「含有量がこの範囲にあると、フィルム製膜時のロール汚れや射出成形時の金型汚れ等を増大させることがないので好ましい。」
と、本件の「メタクリル系樹脂組成物」において、上記(a)及び(b)の事項を併せて具備することによる作用機序につき記載されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0123】?【0164】)の記載を検討すると、実施例1ないし13は、射出成形時の金型汚染性及び成形品外観の点で比較例(及び本件発明の範囲外である実施例14)に比していずれも優れており、上記実施例(比較例)に係る部分の記載を総合すると、本件発明のメタクリル系樹脂組成物が、上記(a)及び(b)の各事項を併せて具備することにより、比較例のものに比して優れた成型加工性を示すことが看取できる。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明につき、本件解決課題、特に従来技術に比して、複屈折性に優れ、成形時に金型表面を汚染しにくく、外観に優れる成形品が得られるメタクリル系樹脂組成物を提供するとの課題を解決できると当業者が認識できるものといえる。
したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5の記載では、同各項に記載された事項で特定される本件発明1ないし5が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。)。

(2)小括
よって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。
(なお、上述のとおりであるから、当審は、この取消理由につき通知しなかった。)

2.取消理由1及び2について
申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由2につき、併せて検討する。

(1)各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明
以下、上記各取消理由につき検討するにあたり、当該各取消理由はいずれも特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし15に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1ないし4に記載された発明の認定を行う。
なお、各甲号証の摘示における下線は、元々記載されているものを除き、当審が付したものである。

ア.甲1

(ア)甲1に記載された事項
上記甲1には、申立人が申立書第10頁第1行ないし第14頁中段(【表1】)で指摘したとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項4】、【0030】、【0033】、【0034】、【0065】ないし【0069】及び【0075】【表1】)が記載されている。

(イ)甲1に記載された発明
上記甲1には、「多環芳香族系キノン化合物と(メタ)アクリルモノマーを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる重合体(A)と、リン含有化合物(B)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項1】)、「組成物中に含まれるリン含有化合物(B)のリン原子濃度が、10?1000質量ppmであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項2】)及び「重合体(A)が、主鎖に環構造を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項3】)が記載され、「重合体(A)の主鎖に含まれる環構造は、・・ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造等が挙げられ」、「好ましくは、ラクトン環構造、N-置換マレイミド構造等である」こと(【0030】)及び「リン含有化合物(B)は、・・3価のリン含有化合物が好まし」く、「亜リン酸エステル類を好ましく使用することができ」、「亜リン酸エステル類は、例えば、・・ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;製品名 アデカスタブPEP-36・・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト;製品名 アデカスタブ2112、Irgafos168、Alkanox240、JP-650、Everfos168・・等が挙げられ」「これらは1種又は2種以上を使用することができる」ことがそれぞれ記載される(【0033】)と共に、「熱可塑性樹脂組成物に含有されるリン含有化合物のリン原子濃度は、・・本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは、10?1000質量ppmであり」、また「リン原子濃度が1000質量ppm以上になると、該樹脂組成物を原料として用いてフィルムを製造する際に、リン含有化合物がフィルムの表面に浮き出てくるブリードアウト現象が生じ、製造ラインを汚染するため好ましくない」(【0034】)ことも記載されている。
してみると、甲1には、これらの記載(特に下線部)からみて、
「多環芳香族系キノン化合物と(メタ)アクリルモノマーを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造等の環構造を含む重合体(A)と、亜リン酸エステル類である3価のリン含有化合物(B)をリン原子濃度で10?1000質量ppm含む熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

イ.甲2

(ア)甲2に記載された事項
上記甲2には、申立人が申立書第14頁最下行ないし第20頁上段(表)で指摘したとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項3】、【0022】、【0034】、【0036】、【0039】、【0051】、【0105】ないし【0107】、【0110】、【0113】ないし【0116】、【0118】、【0122】、【0123】、【0140】【表1A】、【0141】【表1B】、【0145】【表2A】及び【0146】【表2B】)が記載されている。

(イ)甲2に記載された発明
上記甲2には、「以下の式(1)に示す(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位(A)と、以下の式(2)に示すN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位(B)とを有する熱可塑性樹脂(C)を含み、o-キシレンの含有率が10ppm以上500ppm以下(質量基準)である、熱可塑性樹脂組成物。(式及びその説明は省略)」(【請求項1】)、「前記樹脂(C)が前記構成単位(B)としてN-フェニルマレイミド単位および/またはN-シクロヘキシルマレイミド単位を有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項2】)及び「前記樹脂(C)における前記構成単位(B)の含有率が2質量%以上40質量%以下である、請求項1?3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項3】)が記載され、「構成単位(B)を有することにより、樹脂(C)の主鎖に環構造(N-置換マレイミド構造)が配置され」、「この主鎖に位置する環構造により、例えば、樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)が上昇し、耐熱性に優れる樹脂(C)、樹脂組成物(D)および成形体が得られ」、「樹脂(C)のTgは、例えば、110℃以上であり、N-置換マレイミド単位の種類および含有率によっては、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上とすることができる」こと(【0034】)及び「本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(D)は、熱可塑性樹脂以外の材料、例えば添加剤、を含むことができ」、当該「添加剤は、例えば、紫外線吸収剤(UVA);酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤・・である」こと(【0051】)も記載されており、特に「実施例1」として「反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)95質量部、N-フェニルマレイミド(PMI)5質量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.05質量部・・を仕込み、・・溶液重合を進行させ、」「得られた重合溶液を、・・ベントタイプスクリュー二軸押出機・・に、・・導入し、脱揮を行った」「後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂組成物を押出機の先端から排出し、ペレタイザーによってペレット化して、樹脂組成物(D-1)のペレットを得た」ことも記載されており(【0105】?【0107】)、当該「樹脂組成物(D-1)のペレット」が、重量平均分子量(Mw)が13.6万、ガラス転移温度(Tg)が125℃であること(【表1A】)も記載されている。
してみると、甲2には、これらの記載(特に下線部)からみて、
「(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位(A)と、N-フェニルマレイミド単位および/またはN-シクロヘキシルマレイミド単位であるN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位(B)を含有率で2質量%以上40質量%以下とを有する熱可塑性樹脂(C)及び酸化防止剤などの添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものといえる。

ウ.甲3

(ア)甲3に記載された事項
上記甲3には、申立人が申立書第20頁表下第3行ないし第22頁第22行で指摘したとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項5】、【0040】ないし【0043】及び【0131】ないし【0137】)が記載されている。

(イ)甲3に記載された発明
上記甲3には、「表面の微細凹凸構造と耐熱アクリル系フィルムを含むフィルム。」(【請求項1】)、「前記耐熱アクリル系フィルムのガラス転移温度が110℃以上である請求項1に記載のフィルム。」(【請求項2】)、「前記耐熱アクリル系フィルムが、主鎖に環構造を有する耐熱アクリル系重合体を含む請求項1または2に記載のフィルム。」(【請求項3】)、「前記環構造が、エステル基、イミド基および酸無水物からなる群より選ばれる1種以上を有する請求項3に記載のフィルム。」(【請求項4】)及び「前記環構造が、ラクトン環構造、グルタルイミド環構造および無水グルタル酸構造からなる群より選ばれる1種以上である請求項3に記載のフィルム。」(【請求項5】)が記載され、「耐熱アクリル系重合体の重量平均分子量は、・・好ましくは10,000?500,000、より好ましくは50,000?300,000である」こと、「耐熱アクリル系樹脂のTg(ガラス転移温度)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、特に好ましくは120℃以上である」こと、「熱可塑性樹脂のTgの上限値は・・、成形性等の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下である」こと、「耐熱アクリル系樹脂は、添加剤を含有していてもよ」く、「添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤・・等が挙げられ」、「耐熱アクリル系樹脂における添加剤の含有割合は、・・好ましくは0?5質量%、より好ましくは0?2質量%、さらに好ましくは0?0.5質量%である」(【0040】?【0043】)ことも記載されており、特に「製造例1」として、「反応釜に、40質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10質量部の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、・・および0.025質量部の酸化防止剤(旭電化工業社製「アデカスタブ(登録商標)2112」)を仕込み、・・溶液重合を進行させ、・・得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05質量部のリン酸2-エチルヘキシル(堺化学工業製「Phoslex A-8」)を加え、・・ラクトン環への環化縮合反応をさらに進行させ・・、得られた重合溶液を、・・ベントタイプスクリュー二軸押出機・・に、・・導入し、脱揮を行った・・後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を押出機の先端からポリマーフィルターにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含むアクリル系樹脂(A-1)のペレットを得た。樹脂(A-1)の重量平均分子量は145000、ガラス転移温度(Tg)は126℃であった。・・得られた樹脂(A-1)を、・・ベント付き単軸押出機に・・導入し、ベント口から・・吸引を行いながら溶融混練した・・後、・・ポリマーフィルターを通して濾過し、濾過後の組成物をTダイ・・から・・冷却ロール上に吐出して、厚さ160μmの押出フィルム(B-1)を得た。・・得られた押出フィルムを・・逐次2軸延伸機・・を用いて、・・逐次2軸延伸を行い、耐熱アクリル系フィルム(C-1)を得た。フィルム(C-1)の・・ガラス転移温度(Tg)は126℃・・であった」(【0131】?【0137】)ことも記載されている。
してみると、甲3には、これらの記載(特に下線部)からみて、
「主鎖にラクトン環構造、グルタルイミド環構造および無水グルタル酸構造からなる群より選ばれる1種以上の環構造を有する重量平均分子量50,000?300,000でTg(ガラス転移温度)は、120℃以上170℃以下である耐熱アクリル系重合体及びリン系酸化防止剤等の添加剤0?0.5質量%を含む耐熱性アクリル系樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものといえる。

エ.甲4

(ア)甲4に記載された事項
上記甲4には、申立人が申立書第22頁第25行ないし第24頁第22行で指摘したとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項7】、【0046】ないし【0048】、【0074】、【0084】、【0086】、【0093】、【0104】ないし【0106】及び【0112】ないし【0116】)が記載されている。

(イ)甲4に記載された発明
上記甲4には、「紫外線吸収剤(B)をX質量%の含有率で含む熱可塑性樹脂組成物(C)の製造方法であって、熱可塑性樹脂(A)と前記紫外線吸収剤(B)とを押出機にて溶融混練する工程と、前記溶融混練により形成された熱溶融状態の組成物をポリマーフィルタに導入して濾過する工程と、を含み、・・前記含有率をX質量%として、前記熱可塑性樹脂組成物(C)を得る、紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(【請求項1】)、「前記押出機が備える、1.3hPa以上906hPa以下の圧力雰囲気にあるベント部から、前記組成物に含まれる揮発性成分を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(【請求項2】)及び「前記熱可塑性樹脂(A)が主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である、請求項1?6のいずれかに記載の紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(【請求項7】)が記載されている。
また、甲4には、「アクリル樹脂である樹脂(A)は、・・主鎖に環構造を有するアクリル樹脂であってもよい。この場合、樹脂(A)および当該樹脂(A)を含む樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)が高くなり、組成物(C)および当該組成物(C)をさらに成形して得た成形体の耐熱性が向上する」こと(【0046】)、「アクリル樹脂である樹脂(A)が主鎖に有していてもよい環構造の種類は・・例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である」こと(【0048】)及び「樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000?300000であり、・・さらに好ましくは50000?200000である」こと(【0074】)が記載され、さらに、「樹脂組成物(C)は、熱可塑性樹脂およびUVA(B)以外の材料、例えば添加剤、を含むことができ」、「添加剤は、例えば、酸化防止剤・・であ」り、「樹脂組成物(C)における添加剤の含有率は、好ましくは5質量%未満、・・さらに好ましくは1質量%以下である」こと(【0093】)も記載されている。
さらに、甲4には「本発明の製造方法により得た樹脂組成物(C)は、樹脂(A)とUVA(B)とを含」み、「樹脂組成物(C)におけるUVA(B)の含有率Xは、UVA(B)の種類により異なるが、例えば0.01?5質量%であり、好ましくは0.05?3質量である」こと(【0084】)及び「樹脂組成物(C)のTgは、例えば80℃以上であり、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上であ」り、「Tgが高いほど、樹脂組成物(C)および当該組成物(C)をさらに成形して得た成形体の耐熱性が向上」し「画像表示装置に用いる光学部材としては、樹脂組成物(C)のTgは110℃以上が好ましい」こと(【0086】)も記載されている。
そして、上記甲4には、「製造例1」及び「実施例1」として「反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)230質量部、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)33質量部、・・酸化防止剤(ADEKA製、アデカスタブ2112)0.15質量部・・を仕込み、・・溶液重合を進行させ、・・得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)としてリン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A-18)0.2質量部を加え、・・主鎖に位置するラクトン環構造が形成される環化縮合反応を進行させて」、「ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A-1)を含む」「重合溶液(a-1)を得た」後、「重合溶液(a-1)を、・・先端部にギアポンプを介してリーフディスク型のポリマーフィルタ・・が接続された、ベントタイプスクリュー二軸押出機・・に・・導入し」「脱揮を実施し、」「熱溶融状態にある脱揮された樹脂組成物が、・・フィルタから連続的に吐出される定常状態と」した上で「吐出された樹脂組成物は連続的にペレタイザーでペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A-1)と紫外線吸収剤(B-1)とを含む樹脂組成物(C-1)のペレットを得た」こと及び「樹脂組成物(C-1)のTgは121℃、重量平均分子量は13.6万であった」(【0104】?【0106】及び【0112】?【0116】)ことも記載されている。
してみると、甲4には、これらの記載(特に下線部)からみて、
「主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を有する重量平均分子量50000?200000のアクリル樹脂である熱可塑性樹脂(A)、紫外線吸収剤(B)を0.01?5質量%及び酸化防止剤などの添加剤1質量%以下を含むTg120℃以上の熱可塑性樹脂組成物(C)。」
に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものといえる。

オ.他の甲号証に記載された事項

(ア)甲5
上記甲5には、申立人が申立書第24頁第25行ないし第25頁上段(グラフ)で指摘したとおりの、「GSY-P101」なる商品名のリン系加工安定剤に係る事項が記載され、他の「P-EPG」又は「PEP-24」なる各商品名のものが経時的に加水分解され、分解フェノール物質を発生させるのに対して、「GSY-P101」なる商品名のもの又は「Irg168」なる商品名のものは、当該分解フェノール物質の経時的発生がないことが記載されている。

(イ)甲6
上記甲6には、申立人が申立書第25頁中段(「表3」)ないし第26頁上段(「図2」)で指摘したとおりの、数種類のリン系酸化防止剤の構造と融点に係る事項及びそれらの耐加水分解性と加工安定性との対応関係に係る事項が記載されている。

(ウ)甲7
上記甲7には、申立人が申立書第26頁下から第3行ないし第27頁下段(「Fig.6」)で指摘したとおりの、数種類のリン系酸化防止剤の構造と商品名との対応関係及び各酸化防止剤の経時的な吸水率の変化に係る事項が記載されている。

(エ)甲8
上記甲8には、申立人が申立書第28頁第3行ないし第13行で指摘したとおりの、酸化防止剤の過大量の使用により金型汚れ及びシルバー(ストリーク)発生による成形不良が発生することが記載されている。

(オ)甲9
上記甲9には、申立人が申立書第28頁第16行ないし第29行で指摘したとおりの、(リン系)酸化防止剤を使用する場合に、適正量以上の使用が必要であることが記載されている。

(カ)甲10
上記甲10には、申立人が申立書第29頁第1行ないし第30頁上段(【表1】)で指摘したとおりの、主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加使用してなる耐熱性樹脂組成物において、樹脂組成物の成形不良を防止するために、紫外線吸収剤として分子量700以上のものを使用すべきことが記載されている。

(キ)甲11
上記甲11には、申立人が申立書第30頁表下第3行ないし第31頁中段(「GP」及び「P-1」の化学式)で指摘したとおりの、2種のリン系(ホスファイト系)酸化防止剤につき過酸化物による経時的酸化の傾向が異なることが記載されている。

(ク)甲12
上記甲12には、申立人が申立書第31頁下から第4行ないし第32頁下段(【表1】及び【表2】)で指摘したとおりの、115℃以上130℃未満の高いTgを有する(メタ)アクリレート-N-置換マレイミド共重合樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物において、光弾性係数Cd(×10^(-12)Pa^(-1))が0以上4.5以下であり、好ましくは4.3以下であることが記載されている。

(ケ)甲13
上記甲13には、申立人が申立書第33頁第3行ないし第34頁上段(「表3」)で指摘したとおりの、(メタ)アクリレートと2種のN-置換マレイミドとの共重合樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物において、光弾性係数(C)の絶対値が3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることが記載されている。

(コ)甲14
上記甲14には、申立人が申立書第34頁表下第3行ないし第35頁上段(「表」)で指摘したとおりの、ラクトン環構造単位と芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分とする光弾性係数の絶対値が20×10^(-12)m^(2)/N以下である偏光子保護フィルムが記載され、「実施例1」として、光弾性係数の絶対値が1.3×10^(-12)m^(2)/Nであるフィルムが記載されている。

(サ)甲15
上記甲15には、申立人が申立書第35頁表下第3行ないし第6行で指摘したとおりの、透明耐熱樹脂中の残存揮発分は好適には1000ppm以下とすべきであり、超過量の残存により、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良の原因になることが記載されている。

(2)対比・検討
以下、本件発明1ないし5につき、それぞれ、各甲号証に記載された発明と個々に対比・検討する。

ア.本件発明1について

(ア)甲1発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、下記の3点で相違し、その余で一致している。

相違点a-1:本件発明1では「有機リン化合物とを含み」「リン元素の含有量が143?1000質量ppmであ」るのに対して、甲1発明では「亜リン酸エステル類である3価のリン含有化合物(B)をリン原子濃度で10?1000質量ppm含む」点
相違点a-2:本件発明1では「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」るのに対して、甲1発明では「重合体(A)」及び「熱可塑性樹脂組成物」のガラス転移温度につき特定されていない点
相違点a-3:本件発明1では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下である」のに対して、甲1発明では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」につき特定されていない点

(b)検討
事案に鑑み、相違点a-3をまず検討し、必要に応じて他の相違点につき検討する。

(b-1)相違点a-3について
上記相違点a-3につき検討すると、甲1発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」となるであろうとすべき当業者の技術常識等が存するものとも認められないし、申立人の挙証もない。
したがって、上記相違点a-3が実質的な相違点でないということができない。
また、甲1発明において、上記相違点a-3につき当業者が適宜なし得ることか否かにつき検討すると、甲10に開示されているとおり、主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加使用してなる耐熱性樹脂組成物において、樹脂組成物の成形不良を防止するために、紫外線吸収剤として分子量700以上のものを使用すべきことが当業者に少なくとも公知の技術であり、また、甲15に開示されているとおり、透明耐熱樹脂中の残存揮発分は好適には1000ppm以下とすべきであり、超過量の残存により、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良の原因になることも当業者に少なくとも公知の技術であるから、甲1発明における主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂である「重合体(A)」を含む樹脂組成物において、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良を防止することを意図し、単に一般的に低分子化合物の含有量を低減化せしめることは、一応、当業者が適宜なし得るものとは認められる。
さらに、ヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物であるリン系酸化防止剤の場合、加水分解しやすい性質を有していることは、当業者に少なくとも公知の技術事項である(必要ならば下記参考文献参照。)が、加水分解の結果発生する分子量300未満のヒンダードフェノール化合物が、樹脂組成物において成型加工性の点でどのような影響を与えるかまでは本願出願前に当業者に知られた事項であるといえない。
そして、甲1の記載を検討しても、甲1発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した特定の場合につき、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」の特定の範囲(0質量ppmではない。)とすべきことを動機付ける事項について、開示されているものとは認められない。
してみると、甲1発明において、成型加工性の更なる改善等を意図し、上記他の甲号証などに開示された当業者に公知の技術を組み合わせて、一般的に低分子化合物の含有量の低減化することは当業者が適宜なし得るものということができるが、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物を使用した場合において、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」を「5?120質量ppm以下」なる特定の範囲にする上記相違点a-3につき、甲1発明に基づいて当業者が適宜なし得ることとすることはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明(及び当業者に公知の技術)に基づき、当業者が容易に発明することができたものということもできない。

参考文献:株式会社ADEKAのホームページで公開されている「プラスチック用添加剤 アデカスタブ」のカタログ(URL:https://www.adeka.co.jp/chemical/catalog/pdf/J05-0617B%20No.10-9.pdf)、(特に「ホスファイト系酸化防止剤ご使用上の注意」の欄)

(イ)甲2発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1と甲2発明とは、下記の3点で相違し、その余で一致している。

相違点b-1:本件発明1では「有機リン化合物とを含み、」「リン元素の含有量が143?1000質量ppmであ」るのに対して、甲2発明では「酸化防止剤などの添加剤を含む」点
相違点b-2:本件発明1では「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」るのに対して、甲2発明では「熱可塑性樹脂(C)」又はそれを含む「熱可塑性樹脂組成物」のガラス転移温度につき特定されていない点
相違点b-3:本件発明1では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下である」のに対して、甲2発明では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」につき特定されていない点

(b)検討
事案に鑑み、相違点b-3をまず検討し、必要に応じて他の相違点につき検討する。

(b-1)相違点b-3について
上記相違点b-3につき検討すると、甲2発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」となるであろうとすべき当業者の技術常識等が存するものとも認められないし、申立人の挙証もない。
したがって、上記相違点b-3が実質的な相違点でないということができない。
また、甲2発明において、上記相違点b-3につき当業者が適宜なし得ることか否かにつき検討すると、甲10に開示されているとおり、主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加使用してなる耐熱性樹脂組成物において、樹脂組成物の成形不良を防止するために、紫外線吸収剤として分子量700以上のものを使用すべきことが当業者に少なくとも公知の技術であり、また、甲15に開示されているとおり、透明耐熱樹脂中の残存揮発分は好適には1000ppm以下とすべきであり、超過量の残存により、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良の原因になることも当業者に少なくとも公知の技術であるから、甲2発明における主鎖にマレイミド環という環構造を有するアクリル樹脂である「熱可塑性樹脂」を含む樹脂組成物において、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良を防止することを意図し、単に一般的に低分子化合物の含有量を低減化せしめることは、一応、当業者が適宜なし得るものとは認められる。
さらに、上記(ア)(b)(b-1)でも示したとおり、ヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物であるリン系酸化防止剤の場合、加水分解しやすい性質を有していることは、当業者に少なくとも公知の技術事項であるが、加水分解の結果発生する分子量300未満のヒンダードフェノール化合物が、樹脂組成物において成型加工性の点でどのような影響を与えるかまでは本願出願前に当業者に知られた事項であるといえない。
そして、甲2の記載を検討しても、甲2発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」の特定の範囲(0質量ppmではない。)とすべきことを動機付ける事項について、開示されているものとは認められない。
してみると、甲2発明において、成型加工性の更なる改善等を意図し、上記他の甲号証などに開示された当業者に公知の技術を組み合わせて、一般的に低分子化合物の含有量の低減化することは当業者が適宜なし得るものということができるが、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物を使用した場合において、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」を「5?120質量ppm以下」なる特定の範囲にする上記相違点b-3につき、甲2発明に基づいて当業者が適宜なし得ることとすることはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明(及び当業者に公知の技術)に基づき、当業者が容易に発明することができたものということもできない。

(ウ)甲3発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、本件発明1と甲3発明とは、下記の3点で相違し、その余で一致している。

相違点c-1:本件発明1では「有機リン化合物とを含み、」「リン元素の含有量が143?1000質量ppmであ」るのに対して、甲3発明では「リン系酸化防止剤等の添加剤0?0.5質量%を含む」点
相違点c-2:本件発明1では「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」るのに対して、甲3発明では「Tg(ガラス転移温度)は120℃以上170℃以下である耐熱アクリル系重合体」又はそれを含む「耐熱性アクリル系樹脂組成物」である点
相違点c-3:本件発明1では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下である」のに対して、甲3発明では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」につき特定されていない点

(b)検討
事案に鑑み、相違点c-3をまず検討し、必要に応じて他の相違点につき検討する。

(b-1)相違点c-3について
上記相違点c-3につき検討すると、甲3発明の「耐熱性アクリル系樹脂組成物」において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」となるであろうとすべき当業者の技術常識等が存するものとも認められないし、申立人の挙証もない。
したがって、上記相違点c-3が実質的な相違点でないということができない。
また、甲3発明において、上記相違点c-3につき当業者が適宜なし得ることか否かにつき検討すると、甲10に開示されているとおり、主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加使用してなる耐熱性樹脂組成物において、樹脂組成物の成形不良を防止するために、紫外線吸収剤として分子量700以上のものを使用すべきことが当業者に少なくとも公知の技術であり、また、甲15に開示されているとおり、透明耐熱樹脂中の残存揮発分は好適には1000ppm以下とすべきであり、超過量の残存により、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良の原因になることも当業者に少なくとも公知の技術であるから、甲3発明における主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である「熱可塑性樹脂」を含む樹脂組成物において、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良を防止することを意図し、単に一般的に低分子化合物の含有量を低減化せしめることは、一応、当業者が適宜なし得るものとは認められる。
さらに、上記(ア)(b)(b-1)でも示したとおり、ヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物であるリン系酸化防止剤の場合、加水分解しやすい性質を有していることは、当業者に少なくとも公知の技術事項であるが、加水分解の結果発生する分子量300未満のヒンダードフェノール化合物が、樹脂組成物において成型加工性の点でどのような影響を与えるかまでは本願出願前に当業者に知られた事項であるといえない。
そして、甲3の記載を検討しても、甲3発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」の特定の範囲(0質量ppmではない。)とすべきことを動機付ける事項について、開示されているものとは認められない。
してみると、甲3発明において、成型加工性の更なる改善等を意図し、上記他の甲号証などに開示された当業者に公知の技術事項を組み合わせて、一般的な低分子化合物の含有量の低減化することは当業者が適宜なし得るものということができるが、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物を使用した場合において、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」を「5?120質量ppm以下」なる特定の範囲にする上記相違点c-3につき、甲3発明に基づいて当業者が適宜なし得ることとすることはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるとはいえず、甲3に記載された発明(及び当業者に公知の技術)に基づき、当業者が容易に発明することができたものということもできない。

(エ)甲4発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、本件発明1と甲4発明とは、下記の4点で相違し、その余で一致している。

相違点d-1:本件発明1では「有機リン化合物とを含み、」「リン元素の含有量が143?1000質量ppmであ」るのに対して、甲4発明では「酸化防止剤などの添加剤1質量%以下を含む」点
相違点d-2:本件発明1では「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」るのに対して、甲4発明では「Tg120℃以上の熱可塑性樹脂組成物(C)」である点
相違点d-3:本件発明1では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下である」のに対して、甲4発明では「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」につき特定されていない点
相違点d-4:甲4発明では「紫外線吸収剤(B)を0.01?5質量%・・を含む」のに対して、本件発明1では紫外線吸収剤の使用及びその量比につき特定されていない点

(b)検討
事案に鑑み、相違点d-3をまず検討し、必要に応じて他の相違点につき検討する。

(b-1)相違点d-3について
上記相違点d-3につき検討すると、甲4発明の「樹脂組成物(C)」において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」となるであろうとすべき当業者の技術常識等が存するものとも認められないし、申立人の挙証もない。
したがって、上記相違点d-3が実質的な相違点でないということができない。
また、甲4発明において、上記相違点d-3につき当業者が適宜なし得ることか否かにつき検討すると、甲10に開示されているとおり、主鎖に環構造を有する120℃以上の高いTgを有するアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加使用してなる耐熱性樹脂組成物において、樹脂組成物の成形不良を防止するために、紫外線吸収剤として分子量700以上のものを使用すべきことが当業者に少なくとも公知の技術であり、また、甲15に開示されているとおり、透明耐熱樹脂中の残存揮発分は好適には1000ppm以下とすべきであり、超過量の残存により、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良の原因になることも当業者に少なくとも公知の技術であるから、甲4発明における主鎖にマレイミド環という環構造を有するアクリル樹脂である「熱可塑性樹脂」を含む樹脂組成物において、成形時の変質等により着色、発泡及びシルバー(ストリーク発生)などの成形不良を防止することを意図し、単に一般的に低分子化合物の含有量を低減化せしめることは、一応、当業者が適宜なし得るものとは認められる。
さらに、上記(ア)(b)(b-1)でも示したとおり、ヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物であるリン系酸化防止剤の場合、加水分解しやすい性質を有していることは、当業者に少なくとも公知の技術事項であるが、加水分解の結果発生する分子量300未満のヒンダードフェノール化合物が、樹脂組成物において成型加工性の点でどのような影響を与えるかまでは本願出願前に当業者に知られた事項であるといえない。
そして、甲4の記載を検討しても、甲4発明の樹脂組成物において、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物をリン含量143?1000質量ppmで使用した場合につき、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量が5?120質量ppm以下」の特定の範囲(0質量ppmではない。)とすべきことを動機付ける事項について、開示されているものとは認められない。
してみると、甲4発明において、成型加工性の更なる改善等を意図し、上記他の甲号証などに開示された当業者に公知の技術事項を組み合わせて、一般的な低分子化合物の含有量の低減化することは当業者が適宜なし得るものということができるが、リン系酸化防止剤としてヒンダードフェノール部分を含む亜リン酸エステル化合物を使用した場合において、当該亜リン酸エステルの加水分解により発生する「分子量300未満のヒンダードフェノール化合物の含有量」を「5?120質量ppm以下」なる特定の範囲にする上記相違点d-3につき、甲3発明に基づいて当業者が適宜なし得ることとすることはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲4発明、すなわち甲4に記載された発明であるとはいえず、甲4に記載された発明(及び当業者に公知の技術)に基づき、当業者が容易に発明することができたものということもできない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1ないし甲4の各甲号証のいずれかに記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲4の各甲号証に記載されたいずれかの発明(及び当業者に公知の技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、いずれも本件発明1を引用して記載したものであり、請求項1に記載した事項につき更に限定してなる「メタクリル系樹脂組成物」に係る発明であるものと認められる。
してみると、上記ア.で説示したとおり、本件発明1は、甲1ないし甲4の各甲号証のいずれかに記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲4の各甲号証に記載されたいずれかの発明(及び当業者に公知の技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないのであるから、本件発明2ないし5についても、本件発明1に係るものと同一の理由により、甲1ないし甲4の各甲号証のいずれかに記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲4の各甲号証に記載されたいずれかの発明(及び当業者に公知の技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

ウ.検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、いずれも、甲1ないし甲4のいずれかに記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲4に記載された発明(及び当業者に公知の技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3)取消理由1及び2に係る検討のまとめ
よって、本件発明1ないし5は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1ないし5は、同法同条第2項の規定にも該当しないから、いずれにしても特許を受けることができないものということはできない。
したがって、申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由2につき、いずれも理由がない。

3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する取消理由1ないし3及び当審が通知した取消理由2は、いずれも理由がないから、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する理由及び提示した証拠によっては、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、ほかに本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-28 
出願番号 特願2017-24243(P2017-24243)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 猛
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6148420号(P6148420)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 メタクリル系樹脂組成物  
代理人 杉村 憲司  
代理人 井上 高雄  
代理人 神 紘一郎  
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