ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
---|---|
管理番号 | 1342038 |
異議申立番号 | 異議2018-700054 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-01-23 |
確定日 | 2018-07-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6173215号発明「導電性粒子、樹脂粒子、導電材料及び接続構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6173215号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6173215号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2013年(平成25年) 7月 4日(優先権主張平成24年 7月 5日)を国際出願日とする出願であって、平成29年 7月14日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月 2日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許について、平成30年 1月23日に特許異議申立人平居博美(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、当審において同年 4月25日付けで取消理由を通知し、同年 6月27日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明12」ということがあり、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂粒子と、 前記樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有する導電性粒子であって、 前記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率が1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下であり、 前記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記導電性粒子を50%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比が、2以上、10以下であり、 前記導電性粒子の破壊歪みが55%以上であり、 前記樹脂粒子は、エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和基を有する単量体は、エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む、導電性粒子。 【請求項2】 前記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記導電性粒子を30%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比が、2以上、10以下である、請求項1に記載の導電性粒子。 【請求項3】 フレキシブル基板の電極の電気的な接続に用いられる導電性粒子である、請求項1又は2に記載の導電性粒子。 【請求項4】 タッチパネルに用いられる導電性粒子である、請求項1?3のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項5】 導電層が表面上に配置され、樹脂粒子と前記樹脂粒子との表面上に配置された前記導電層とを有する導電性粒子を得るために用いられる樹脂粒子であって、 前記樹脂粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率が500N/mm^(2)以上、3000N/mm^(2)以下であり、 前記樹脂粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記樹脂粒子を50%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比が、1以上、8以下であり、 前記樹脂粒子の破壊歪みが55%以上であり、 前記樹脂粒子は、エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和基を有する単量体は、エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む、樹脂粒子。 【請求項6】 前記樹脂粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記樹脂粒子を30%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比が、1以上、8以下である、請求項5に記載の樹脂粒子。 【請求項7】 フレキシブル基板の電極の電気的な接続に用いられる導電性粒子を得るための樹脂粒子である、請求項5又は6に記載の樹脂粒子。 【請求項8】 タッチパネルに用いられる導電性粒子を得るための樹脂粒子である、請求項5?7のいずれか1項に記載の樹脂粒子。 【請求項9】 請求項1?4のいずれか1項に記載の導電性粒子と、バインダー樹脂とを含む、導電材料。 【請求項10】 導電性粒子と、バインダー樹脂とを含み、 前記導電性粒子が、請求項5?8のいずれか1項に記載の樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有する、導電材料。 【請求項11】 第1の電極を表面に有する第1の接続対象部材と、 第2の電極を表面に有する第2の接続対象部材と、 前記第1の接続対象部材と前記第2の接続対象部材を接続している接続部とを備え、 前記接続部が、請求項1?4のいずれか1項に記載の導電性粒子により形成されているか、又は前記導電性粒子とバインダー樹脂とを含む導電材料により形成されており、 前記第1の電極と前記第2の電極とが前記導電性粒子により電気的に接続されている、接続構造体。 【請求項12】 第1の電極を表面に有する第1の接続対象部材と、 第2の電極を表面に有する第2の接続対象部材と、 前記第1の接続対象部材と前記第2の接続対象部材を接続している接続部とを備え、 前記接続部が、導電性粒子により形成されているか、又は前記導電性粒子とバインダー樹脂とを含む導電材料により形成されており、 前記導電性粒子が、請求項5?8のいずれか1項に記載の樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有し、 前記第1の電極と前記第2の電極とが前記導電性粒子により電気的に接続されている、接続構造体。」 (略語「K値」の使用について) 上記のとおり、本件発明の発明特定事項には、「圧縮弾性率」なる用語が使用されているところ、本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(例えば段落【0026】の「上記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率(10%K値)は・・・」等の記載)に倣い、以下においては、「K値」という略語を、「圧縮弾性率」を意味するものとして、使用することがある。 また、「10%K値」、「30%K値」、「50%K値」という略語を、それぞれ、「粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率」、「粒子を30%圧縮したときの圧縮弾性率」、「粒子を50%圧縮したときの圧縮弾性率」を意味するものとして、使用することがある。 さらに、請求項1に記載の「前記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記導電性粒子を50%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比」及び請求項5に記載の「前記樹脂粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記樹脂粒子を50%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比」を「10%K値/50%K値」ということがある。同様に、請求項2に記載の「前記導電性粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記導電性粒子を30%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比」及び請求項6に記載の「前記樹脂粒子を10%圧縮したときの圧縮弾性率の、前記樹脂粒子を30%圧縮したときの圧縮弾性率に対する比」を「10%K値/30%K値」ということがある。 第3 申立理由の概要 申立理由の概要は、以下のとおりである。なお、以下においては、それぞれの申立理由について、便宜的に「申立理由1」?「申立理由4」という。 ・申立理由1 特許法第29条第1項第3号及び第2項 請求項1、2、5、6、9?12に係る発明は、特許異議申立人が提出した甲第1号証(韓国公開特許公報第10-2006-0068601号 以下、「甲1」という)に記載された発明と同一であり、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、請求項3、4、7、8に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・申立理由2 特許法第29条第2項 請求項1?12に係る発明は、特許異議申立人が提出した甲第2号証(特開2012-64559号公報 以下、「甲2」という)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、請求項1?12に係る発明は、甲2に記載された発明と、特許異議申立人が提出した甲第3号証(国際公開第2009/119788号 以下、「甲3」という)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・申立理由3 特許法第36条第4項第1号 本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、2、5、6及びこれらを引用する請求項3、4、7?12に係る発明に関し、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 ・申立理由4 特許法第36条第6項第1号 請求項1、2、5、6及びこれらを引用する請求項3、4、7?12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 このうち、申立理由4として申し立てられた内容のうちの一部(特許異議申立書の第36頁下から第4行?第38頁第10行及び第38頁第19行?第25行に記載された内容)を、取消理由として採用し、通知した(後記「第4 通知した取消理由の概要と、それに関する当審の判断」の「1 取消理由1について」を参照。)。 また、申立理由1?4として申し立てられた内容のうち、他の部分は、取消理由として採用しなかった(後記「第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」を参照。)。 第4 通知した取消理由の概要と、それに関する当審の判断 当審において、請求項1?12に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、以下においては、それぞれの取消理由について、便宜的に、「取消理由1」、「取消理由2」という。 なお、取消理由2は、当審の職権審理によるものである。 ・取消理由1 請求項1?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ・取消理由2 請求項1?12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 以下、取消理由1と取消理由2について、当審の判断を示す。 1 取消理由1について (1)取消理由1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(以下、「サポート要件」という)に関するものであって、概略、以下のとおり通知した。 樹脂粒子に関する請求項5に規定される「10%K値」は、段落【0045】の 「K値(N/mm^(2))=(3/2^(1/2))・F・S^(-3/2)・R^(-1/2)」 「樹脂粒子: F:樹脂粒子が10%、30%又は50%圧縮変形したときの荷重値(N) S:樹脂粒子が10%、30%又は50%圧縮変形したときの圧縮変位(mm) R:樹脂粒子の半径(mm)」 との記載によれば、樹脂粒子の半径Rの関数であるところ、請求項5では、樹脂粒子の粒径を全く特定しておらず、粒径を特定することなく定めた10%K値は、該樹脂粒子の半径Rが任意の値をとることが許容されている以上、荷重値Fや変位量Sによることなく任意の数値をとることが可能となり、粒子の硬さを反映したものとならず、よってこうした10%K値を定めただけでは、本件明細書の段落【0040】、【0041】に記載された、変形容易性、電極損傷防止、粒子/電極間のバインダー樹脂噛み込み防止などの目的を達成することができないから、請求項5に係る発明は、サポート要件に違反する。 そして、同様にして、導電性粒子に関する請求項1に係る発明でも、粒子の半径を特定することなく10%K値を限定しているためサポート要件に違反し、また、請求項2、6も10%K値、30%K値など粒子半径Rに依存するパラメータを半径を指定せずに用いておりサポート要件に違反し、請求項1、2、5、6を引用する請求項3?4、7?12に係る発明についてもサポート要件に違反する。 (2)そこで検討する。 ア 本件発明5は「10%K値」が「500N/mm^(2)以上、3000N/mm^(2)以下」であるとの規定と、「10%K値/50%K値」が「1以上、8以下」であるとの規定を含むものである。そうすると、本件発明5において、粒径は特定されていないものの、本件発明5の「10%K値」は当該二つの規定によりその範囲が限定されるものであって、任意の数値をとることが可能となるものではない。 イ 本件発明1についても同様に、「10%K値」が「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」であるとの規定と、「10%K値/50%K値」が「2以上、10以下」であるとの規定を含むものである。そうすると、本件発明1において、粒径は特定されていないものの、本件発明1の「10%K値」は当該二つの規定によってその範囲が限定されるものであって、任意の数値をとることが可能となるものではない。 ウ したがって、本件発明1及び5において、粒径が特定されていないとしても、「10%K値」が任意の数値をとることはないから、取消理由1の理由により、本件発明1?12がサポート要件に違反するとはいえない。 エ そして、「10%K値」及び「10%K値/50%K値」を上記のとおり規定する本件発明1、5及びこれらのいずれかを引用する本件発明2?4、6?12は、以下のオに示すとおり、発明の詳細な説明の記載に照らし、サポート要件を満たすものと認められる。 オ 本件発明1?12に係る発明がサポート要件を満たすことについて (ア)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすか否かは、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討した上で、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かによって判断される。 (イ)本件明細書の段落【0009】によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「導電性粒子を用いて電極間を電気的に接続した場合に、接続抵抗を低くし、かつ接続信頼性を高めることができる導電性粒子及び樹脂粒子、並びに該導電性粒子又は該樹脂粒子を用いた導電材料及び接続構造体を提供する」ことであると認められる。 (ウ)そして、本件明細書の段落【0025】?【0028】、【0033】?【0035】によれば、「10%K値」を、本件発明1及び5のように規定し(すなわち、導電性粒子に関しては「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」と規定し、樹脂粒子に関しては「500N/mm^(2)以上、3000N/mm^(2)以下」と規定し)、また、「10%K値/50%K値」を、本件発明1及び5のように規定する(すなわち、導電性粒子に関しては「2以上、10以下」と規定し、樹脂粒子に関しては「1以上、8以下」と規定する)ことで、樹脂粒子を備えた導電性粒子を用いて電極間を電気的に接続した場合に、接続抵抗を低くし、かつ接続信頼性を高めることができるとともに、導電接続時に、導電性粒子が電極と十分な接触面積を確保できる結果、導電性が良好になるという効果が得られることが記載されている。 (エ)さらに、本件明細書には、実施例1?10として、「10%K値」及び「10%K値/50%K値」を本件発明5に規定される範囲内のものとした樹脂粒子を作製し、当該樹脂粒子を用いて「10%K値」及び「10%K値/50%K値」を本件発明1に規定される範囲内のものとした導電性粒子を作製し、当該導電性粒子を用いて接続構造体を作製することが記載されている。そして、当該実施例1?10の接続構造体は、接続抵抗及び接続信頼性に関し優れていることが実験的な裏付けを伴って記載されている。 (オ)そうすると、上記(ウ)及び(エ)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、樹脂粒子において「10%K値」及び「10%K値/50%K値」を本件発明5のとおりに規定し、また、導電性粒子において「10%K値」及び「10%K値/50%K値」を本件発明1のとおりに規定することにより、上記(イ)に示した課題を解決できることが、実験的な裏付けを伴って記載されているということができる。 (カ)したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件発明1、5、及びこれらのいずれかを引用する本件発明2?4、6?12は、発明の詳細な説明に記載したものであり、サポート要件を満たすものである。 (3)小括 以上の検討のとおり、取消理由1には、理由がない。 2 取消理由2について (1)取消理由2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(以下、「明確性要件」という)に関するものであって、概略、以下のとおり通知した。 請求項1、5に記載される「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体」及びその他の「エチレン性不飽和基を有する単量体」は、どのような化合物がその範疇に含まれるのか把握できないので、請求項1、5に係る発明は、不明確である。 同様にして、請求項1を引用する請求項2?4、9、11に係る発明、及び請求項5を引用する請求項6?8、10、12に係る発明も不明確である。 (2)そこで検討する。 ア 請求項1、5に記載の「エチレン性不飽和基を有する単量体」及び「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体」は、その表記のとおりのものとして理解されるべきものであるところ、その表記自体に不明確な点は見いだせない。 また、以下のイに示すとおり、当該記載をその表記のとおりのものとは異なるように理解すべき特別な事情も見いだせない。 イ 本件明細書の発明の詳細な説明【0060】?【0062】には、複数の「エチレン性不飽和基を有する単量体」が例示されているが、それらのうち、「2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート」(比較例3で使用される「オクチルアクリレート」が該当)や「シクロヘキシル(メタ)アクリレート」(比較例1で使用される「シクロヘキシルアクリレート」が該当)等については、本件発明の効果を奏しない比較例で使用されているものであるから、このような、比較例で使用されている各「エチレン性不飽和基を有する単量体」が、請求項1、5に記載される「エチレン性不飽和基を有する単量体」に含まれるか否かが、一見、明らかでないともいい得る。 しかしながら、例えば、本件発明の効果を奏しない比較例1において使用する「シクロヘキシルアクリレート」は、本件発明の効果を奏する実施例4?6においても使用されていることに鑑みると、比較例で使用されている各「エチレン性不飽和基を有する単量体」であっても、請求項1、5に記載の「エチレン性不飽和基を有する単量体」に該当し得るものといえ、そのため、比較例の記載を考慮したとしても、請求項1、5に記載の「エチレン性不飽和基を有する単量体」及び「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体」を、その表記のとおりのものとは異なるように理解すべき特別な事情とはならない。 また、本件明細書のその他の記載や、技術常識を考慮したとしても、請求項1、5に記載の「エチレン性不飽和基を有する単量体」及び「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体」を、その表記のとおりのものとは異なるように理解すべき特別な事情は見いだせない。 ウ したがって、「エチレン性不飽和基を有する単量体」及び「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体」に関し、本件発明1、5及びこれらのいずれかを引用する本件発明2?4、6?12は、明確性要件を満たすものである。 (3)小括 以上の検討のとおり、取消理由2には、理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 前記「第3 申立理由の概要」で述べたとおり、特許異議申立書で申立てがされた申立理由1?4のうち、申立理由4として申し立てられた内容のうちの一部(特許異議申立書の第36頁下から第4行?第38頁第10行及び第38頁第19行?第25行に記載された内容)以外は、取消理由として採用しなかった。 以下においては、申立理由1?4を採用しなかった理由について述べる。 1 申立理由1について (1)甲1には、以下の記載がある。 (当審注:各摘示に続けて、括弧書きにより、当審訳を付した。当該当審訳における墨付き括弧で付した数字は、参照を容易にするために付したものであり、異議申立人より提出された甲1の翻訳文において墨付き括弧で付されていた数字に対応する。下線は当審にて付与した。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。) ア 「 」(第2頁第11行?第15行) (【8】本発明は、回路基板実装用導電性接着剤、異方導電性接着フィルム、導電接続構造体等に使用される導電性微粒子及び導電性微粒子に用いられる高分子樹脂微粒子に関するものであり、より詳細には、粒径の10%が変形したときの10%K値が250kgf/mm^(2)以下であり、20%および30%圧縮変形時のK値(20%K値及び30%K値)が10%K値の80%以下、圧縮回復率が5%以上30%以下、圧縮破壊変形が30%以上である高分子樹脂微粒子及びこれを基材として使用する導電性微粒子に関する。) イ 「 」(第3頁第20行?第24行) (【19】本発明の目的は、上記の問題点を解決するために、形状が均一であり、粒径分布が狭く、かつ適切な圧縮変形性及び変形回復性を有し、電極表面との接触面積を向上させつつ、基板との間に介在されて圧縮されるときに、配線パターンに影響を与えることなく、容易に破壊されない優れた導電性能を有する高分子樹脂微粒子及び導電性微粒子を提供することである。 【20】本発明の他の目的は、電気的接続信頼性に優れた特性を有する導電性微粒子及びこれを用いた異方導電性接続材料を提供することである。) ウ 「 」(第4頁第8行?第9行) (【28】また本発明は、前記高分子樹脂微粒子を基材とし、その基材微粒子の表面に金属導電層を有することを特徴とする導電性微粒子を提供する。) エ 「 」(第4頁第23行?第5頁第3行) (【35】本発明において、K値は、微小圧縮試験機(島津製作所のMCT-Wシリーズ)を用いて測定した値で、直径50μmの平滑な上部加圧圧子と下部加圧板の間に単一微粒子を固定させ、圧縮速度0.2275g/秒、最大試験荷重5gfで圧縮して得た荷重値及び圧縮変位を用いて下記数学式1で計算される値である。 【36】数学式1 (当審注:式は略) 【37】ここで、Fは、圧縮変形X%における荷重値(kg)、Sは、X%圧縮変形における圧縮変位(mm)、Rは微粒子の半径(mm)である。 【38】本発明の高分子樹脂微粒子は、上述したように、微粒子の10%圧縮変形時のK値は、250kgf/mm^(2)以下の範囲が好ましい。前記範囲の微粒子を用いた場合、互いに対向する電極を接続するときに、微粒子による電極表面の変形や破壊がなく接続することが可能である。10%K値が約250kgf/mm^(2)を超える導電性微粒子は、場合により、ITO電極のように機械的物性が比較的に弱い電極を損傷させることができる。 【39】一般に、10%K値は、微粒子の硬度を普遍的、又は定量的に表現したものであるが、単に、10%K値のみを有し、圧縮に対する微粒子の変形性を正確に評価できない。従って、20%及び30%の圧縮変形におけるK値を同時に考慮するのがより好ましい。) オ 「 」(第5頁第6行?第24行) (【41】図1に示すように、導電性微粒子(1)が十分に、電極間ギャップを均一に保ちながら変形することによって電極との接触面積を安定的に極大化させるためには、圧縮によって容易に変形するとともに圧縮による破壊ひずみが大きいほどよい。したがって、本発明において、高分子樹脂微粒子(11)の20%K値及び30%K値は圧縮による初期硬度に対する代表値である10%K値の80%以下のレベルに維持されることが好ましい。より好ましくは、70%以下のレベルに維持されるのが圧縮による適切な変形性を付与するのに良い。 【42】また、本発明の圧縮破壊変形も同様に、同じ圧縮試験機で測定して得る値であって、微粒子の破壊された時点における変位量(Ld)を微粒子の直径に対する割合Ld/D%として示したものである。圧縮の際に導電性微粒子(1)が十分に変形して、接続抵抗を低めるためには、圧縮によって破壊されてはいけないので、圧縮破壊変形を30%以上に限定する。より好ましくは、圧縮破壊変形が40%以上でなければならない。 【43】また、本発明の圧縮回復率とは、微小圧縮試験機でピーク荷重1.0gfまで圧縮した後、再び原点の0.1gfまで荷重を除去することにより、荷重をかけて減少させる際の荷重と圧縮変位との関係を測定して得られる値であり、負荷時ピーク荷重までの変位(L1)に対するピーク荷重から原点荷重までの変位(L2)をL2/L1%比率で表したものである。上記圧縮回復率の測定は20℃でなされており負荷(loading)及び除負荷(unloading)時の圧縮速度は0.1517gf/secであった。 【44】前記高分子樹脂微粒子(11)の圧縮回復率は、接着安定化、電極との接触面積の極大化、及び接続信頼性の向上のために5%以上30%以下とすることが好ましい。微粒子の圧縮回復率が5%未満である場合には、微粒子は、温度に応じて接着樹脂との弾性差が非常に大きくなるので、電極との接触面に隙間が形成されやすいので、その導電性能が低下するおそれが大きいためである。また微粒子の圧縮回復率が30%を超える場合には、上述したように低温速硬化接続条件および導電性微粒子の高い含有量において微粒子による弾性により接続フィルムの接着を局所的又は全体的に低下させたり、長期的には、接続信頼性を低下させるなどの問題が発生し得る。) カ 「 」(第5頁第35行?第6頁第6行) (【48】上記のような高分子樹脂粒子(11)の材質には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。 【49】そのうち、スチレン系樹脂又は(メタ)アクリレート樹脂を使用することが好ましく、特に、架橋重合性単量体を少量含む重合体樹脂を用いるのが好ましい。上記架橋重合性単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルスルホン、ジアリルフタラート、ジアリルアクリルアミド、トリアリル(イソ)シアヌレート、ツリーアリトリメリテートなどのアリル化合物と、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)ジメチルシロキサンジ(メタ)アクリレート、(ポリ)ジメチルシロキサンジビニル、(ポリ)ウレタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、デートリメトックシプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、デーペンタエリルトリトルヘキサ(メタ)アクリレート、このペンタエリトリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレートなどからなる群から選択される1種以上のものを使用することが好ましい。) キ 「 」(第7頁第20行?第38行) (【62】<実施例1> 【63】(1) シード(seed)粒子の合成 【64】スチレン単量体30重量部、開始剤で2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル.)6重量部、分散安定剤でポリビニルピロリドン(分子量40,000)18.7重量部、反応媒体でメタノール190重量部と超純水15重量部を混合した溶液を定量して反応基内に投入して、続いて60℃、窒素雰囲気下で24時間重合反応を行ってシード粒子を製造した。 製造されたポリスチレンシード粒子は超純水とメタノールで完全に洗浄した後、真空凍結乾燥器で乾燥させて粉末形態で得た。製造されたシード粒子の平均粒径は1.15μm、CV値は4.2%、分子量は14,500とそれぞれ測定された。 【65】(2) 高分子樹脂基材微粒子の合成 【66】前記製造されたシード粒子2重量部を0.2重量%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)水溶液450重量部に均一に分散させる。次いで、0.2質量%SLS水溶液300質量部に、ベンゾイル過酸化物開始剤1.5質量部が溶けているスチレン90重量部と1,4-ブタンジオールジアクリレート10重量部の混合単量体とを、ホモゲナイザーで10分間乳化させ、シード粒子分散液に添加して常温で膨潤させた。モノマー膨潤の終了を確認した後、鹸化度88%のポリビニルアルコール5重量%水溶液500重量部を添加して、反応器の温度を80℃まで上昇させ、重合した。上記から製造された架橋共重合体樹脂微粒子は、超純水とエタノールを用いて数回洗浄した後、常温で真空乾燥した。次いで、製造された高分子樹脂微粒子の圧縮特性を微小圧縮試験機で測定し、その結果を表1に示した。 【67】(3)導電性微粒子の製造および評価 【68】前記製造された高分子樹脂微粒子をクロム酸及び硫酸水溶液でエッチングし、塩化パラジウム溶液に浸漬、還元処理により、パラジウムの微細核を表面に形成させ、無電解ニッケルめっきを施した後、金置換めっきによりニッケル/金メッキ層が形成された導電性微粒子を得た。) ク 「 」(第8頁第13行?第22行) (【73】<実施例2> 【74】高分子樹脂微粒子の合成において、スチレン90重量部と1,4-ブタンジオールジアクリレート10重量部の代わりに、スチレン60重量部、ウレタンジアクリレート(それ自体合成、分子量1000)40質量部を用いた以外は実施例1と同様の方法で高分子樹脂微粒子、導電性微粒子を得て、得られた導電性微粒子及びこれを用いた接続構造体について、実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示す。 【75】<実施例3>【76】高分子樹脂微粒子の合成において、スチレン90重量部と1,4-ブタンジオールジアクリレート10重量部の代わりに、スチレン60重量部とポリジメチルシロキサンジアクリレート(それ自体合成、分子量950)40質量部を用いた以外は実施例1と同様の方法で高分子樹脂微粒子、導電性微粒子を得て、得られた導電性微粒子及びこれを用いた接続構造体について、実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1に示す。) ケ 「 」(第9頁上部) (【81】 [表1] ) コ 「 」(第9頁第5行?第9行) (【83】以上で説明したように、本発明の導電性微粒子は、粒子径の10%が変形したときの10%K値が250kgf/mm^(2)以下であり、20%および30%圧縮変形時のK値(20%K値及び30%K値)が10%K値の80%以下、圧縮回復率が5%以上30%以下、圧縮破壊変形が30%以上である高分子樹脂微粒子を基材として使用して適度の圧縮変形性および回復性を有し、回路基板等の電極間に介在したときに、電極パターンに損傷を与えることなく接触面積の向上を図ることによって、優れた接続抵抗および接続信頼性を示すことができるという利点がある。) (2)「高分子樹脂微粒子」に関する甲1発明と、「導電性微粒子」に関する甲1’発明について 甲1の前記(1)の各記載のうち、特に実施例1に着目する。 表1の数値より、「10%K値」の単位を[kgf/mm^(2)]から[N/mm^(2)]に換算するために9.8を掛けると、実施例1では232×9.8=2274である。 また、表1の数値より、「10%K値/30%K値」は、実施例1では232÷115=2.02である。 このことを踏まえると、甲1には、「高分子樹脂微粒子」に関する以下の甲1発明が記載されていると認められる。 (甲1発明) 「導電性微粒子に用いられる高分子樹脂微粒子であって、 前記高分子樹脂微粒子は、その表面に金属導電層を有することで導電性微粒子となるものであり、 10%K値が2274N/mm^(2)であり、 10%K値/30%K値が2.02であり、 圧縮破壊変形が58%であり、 前記高分子樹脂微粒子は、スチレンと1,4-ブタンジオールジアクリレートの共重合体である、 高分子樹脂微粒子。」 また、甲1には「導電性微粒子」に関する以下の甲1’発明が記載されていると認められる。 (甲1’発明) 「甲1発明の高分子樹脂微粒子の表面にニッケル/金メッキ層を形成することで得られた、導電性微粒子。」 (3)本件発明5?8、10、12についての判断 ア まず、甲1発明を主たる引用発明として、本件発明5の新規性及び進歩性について検討する。 イ 本件発明5と甲1発明とを対比すると、両発明は「導電層が表面上に配置され、樹脂粒子と前記樹脂粒子との表面上に配置された前記導電層とを有する導電性粒子を得るために用いられる樹脂粒子」である点で共通し、両発明は、少なくとも、次の点で相違する。 「10%K値/50%K値」に関し、本件発明5は「1以上、8以下」であるのに対し、甲1発明はその値が不明である点(以下、この相違点を「相違点1」という。)。 ウ 相違点1が実質的なものであるかどうかについて検討する。 甲1の全体を参照しても、高分子樹脂微粒子の「50%K値」を制御することやその値を測定することについて、何らの記載も示唆もなく、実施例1?3の高分子樹脂粒子の「50%K値」についても測定結果は記載されていない。 また、特許異議申立書を参照しても、甲1の実施例1?3の高分子樹脂粒子を追試により再現しその「50%K値」を測定するなどといった具体的な立証はなされていない。 ここで、本件明細書の表1によれば、本件明細書に記載の比較例1の樹脂粒子は、[N/mm^(2)]で表される「10%K値」、「30%K値」、及び「50%K値」が、それぞれ、1500、1200、及び5000となっており、「50%K値」の値が最も大きくなっている。比較例2についても同様に「50%K値」の値が最も大きくなっている。 本件明細書における比較例1及び比較例2に関するこれらの記載は、一般論として、樹脂粒子においては、「30%K値」が「10%K値」より小さいものであったとしても、「50%K値」が必ずしも「10%K値」よりも小さくなるとは限らず、「50%K値」が「10%K値」に比較して大きくなることがあり得ることを、実験結果により示すものである。 そうすると、甲1発明において、「10%K値/30%K値」が2.02であったとしても、「50%K値」が、「10%K値」よりも小さくなるとは断言できない。すなわち、甲1発明の「10%K値/50%K値」が、1より大きくなるとは断言できない。 したがって、当該相違点1は、実質的な相違点であるといえる。 エ 次に、相違点1に係る構成の容易想到性について検討する。 前記(1)オ(当審訳における【41】)によれば、甲1においては、高分子樹脂微粒子の「20%K値」及び「30%K値」は圧縮による初期硬度に対する代表値である「10%K値」の80%以下のレベルに維持されることが好ましいとされており、より好ましくは、70%以下のレベルに維持されるのが圧縮による適切な変形性を付与するのに良いとされている。すなわち、甲1においては高分子樹脂微粒子の「10%K値/30%K値」を1.4(1/0.7)以上とすることが好ましいとされている。 しかしながら、甲1には、「50%K値」について何ら記載がないから、甲1発明の「50%K値」を、「30%K値」と同様に扱う必要性が示されていない。そのため、甲1発明の「50%K値」を「10%K値」の70%以下のレベルに維持すること、すなわち甲1発明の「10%K値/50%K値」を1.4以上に維持すること、が好ましいとは言い切れない。 また、甲1の全体を参照しても、高分子樹脂微粒子の「10%K値」、「20%K値」、「30%K値」を制御する必要性については記載されているものの、それらのパラメータに加えて、更に「10%K値/50%K値」というパラメータを新たに制御すべき対象とするとともに当該パラメータを「1以上、8以下」という具体的な数値範囲として定めることを当業者が容易に想到し得たといえる根拠は存在しない。 したがって、当業者といえども、相違点1に係る構成を容易に想到し得たとはいえない。 オ なお、異議申立人は、特許異議申立書第17頁第1行?第5行において、「本件特許発明が樹脂粒子に要求する要件B3(樹脂粒子10%K値/50%K値比)とは、甲1発明において要件B5(10%K値/30%K値比)と圧縮回復率30%以下を両立することを言い直したにすぎない(表現を変えただけに過ぎない)関係に相当する」と主張している。 ここで、当該主張において、「甲1発明において要件B5(10%K値/30%K値比)」とあるのは、前記(1)ケの表1のとおりであって、甲1の実施例1?3の「10%K値/30%K値」が1.9(184/95)?2.1(188/90)程度となっていることを意味している。また、当該主張において、「圧縮回復率30%以下」とあるのは、前記(1)オ(当審訳における【43】及び【44】)のとおりであって、負荷時ピーク荷重までの変位(L1)に対するピーク荷重から原点荷重までの変位(L2)をL2/L1%比率で表した数値を30%以下とするという意味である。具体的な数値として、甲1の実施例1?3では、前記(1)ケの表1によれば、圧縮回復率は16%?21%となっている。 しかしながら、樹脂粒子の「10%K値/30%K値」の数値を1.9?2.1とし、かつ、圧縮回復率を30%以下(甲1の実施例1?3では16%?21%)とした場合に、「10%K値/50%K値」が「1以上、8以下」の数値となることが、具体的に立証されておらず、実際にそのような関係が存在すると断言することはできないので、異議申立人の当該主張は採用できない。 カ 上記ア?オによれば、本件発明5と甲1発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 本件発明5を引用する本件発明6?8、10、12についても同様である。 (4)本件発明1?4、9、11についての判断 ア 本件発明1と甲1’発明とを対比すると、両発明は「樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有する導電性粒子」である点で共通し、両発明は、少なくとも、次の点で相違する。 「10%K値」に関し、本件発明1は「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」であるのに対し、甲1’発明においては、その値が不明である点(以下、この相違点を「相違点2」という。)。 イ 相違点2が実質的なものであるかどうかについて検討する。 甲1’発明である「導電性微粒子」の「10%K値」は、「ニッケル/金メッキ層」の物性(厚さ、硬さ等)によって影響を受けるから、甲1発明である「高分子樹脂微粒子」の「10%K値」(2274N/mm^(2))とは異なる数値となると認められるところ、甲1’発明が、「ニッケル/金メッキ層」を有することによって、その「10%K値」が、甲1発明である「高分子樹脂微粒子」の「10%K値」の数値から、どのように変化するのかは不明であるため、甲1’発明である「導電性微粒子」の「10%K値」を特定することはできない。 したがって、当該相違点2は、実質的な相違点であるといえる。 ウ 次に、相違点2に係る構成の容易想到性について検討する。 甲1には、「導電性微粒子」の「K値」を制御することや、その値を測定することについて、何ら記載も示唆もないから、「導電性微粒子」の「10%K値」に着目すること自体が甲1の記載からは当業者が容易になし得たこととはいえないし、仮に「導電性微粒子」の「10%K値」に着目することができたとしても、それを本件発明1のように「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」という具体的な数値範囲として定めることを当業者が容易に想到し得たといえる根拠は存在しない。 したがって、当業者といえども、相違点1に係る構成を容易に想到し得たとはいえない。 エ 上記ア?ウによれば、本件発明1と甲1’発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1’発明ではなく、また、甲1’発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 本件発明1を引用する本件発明2?4、9、11についても同様である。 (5)小括 以上の検討のとおり、本件発明1?12は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、申立理由1には、理由がない。 2 申立理由2について (1)甲2及び甲3には、以下の記載がある。 (1)-1 甲2について ア 「【0014】 (導電性微粒子) 本発明の導電性微粒子は、基材粒子と該基材粒子の表面を被覆する導電性金属層とを備えたものである。 【0015】 本発明の導電性微粒子を構成する基材粒子は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上100℃以下である重合体粒子であることが重要である。・・・」 イ 「【0017】 前記基材粒子とする重合体粒子のガラス転移温度(Tg)を前記範囲に設定するには、例えば、該重合体粒子を得る際の重合に供する重合性組成物の組成(種類や量)等を調整すればよい。具体的には、重合体粒子を形成する重合体のガラス転移温度が低くなる重合性化合物を使用するか、あるいは重合性組成物に含まれる架橋性化合物(すなわち、1分子中に重合性基を2個以上有する重合性化合物)の割合を減らして重合体の架橋度を低くすれば、基材粒子のTgは下がる傾向になる。勿論、基材粒子のガラス転移温度を制御する手段はこれに限定されるものではなく、公知のTg制御手段を適宜採用することもできる。 【0018】 前記基材粒子とする重合体粒子を構成する重合性組成物は、重合性化合物としてビニル基含有モノマーおよび/または重合性ポリシロキサンを含むことが好ましい。・・・ 【0021】 前記ビニル基含有モノマーとしては、上記のほかに、1分子中にビニル基とともに、さらに1個以上の重合性基を有する架橋性のビニル基含有モノマー(以下「架橋性ビニル基含有モノマー」と称する)を用いることもできる。ここで、「重合性基」とは、他のモノマーと結合を形成しうる基であればよく、例えばビニル基の如きラジカル重合性基のほか、カルボン酸基、ヒドロキシ基、アルコキシ基などのエステル結合を形成可能な縮合性反応基も包含する。」 ウ 【0039】 前記基材粒子の10%K値は、1000N/mm^(2)以上、30000N/mm^(2)以下であることが好ましい。基材粒子の10%K値が小さすぎると、異方性導電材料として用いた際に、周囲のバインダーを十分に排除できないといったことや、電極への食い込み具合が弱いといったことにより、低い接続抵抗値を得ることができない虞がある。一方、基材粒子の10%K値が大きすぎると、接続部位に対して電気的に良好な接触状態を確保できない虞がある。基材粒子の10%K値は2000N/mm^(2)以上、25000N/mm^(2)以下であるのがより好ましい。 【0040】 なお、基材粒子の10%K値は、粒子を10%圧縮したとき(粒子の直径が10%変位したとき)の圧縮弾性率であり、例えば、公知の微小圧縮試験機(島津製作所製「MCT-W500」など)を用い、室温で粒子の中心方向へ荷重負荷速度2.22mN/secで荷重をかけ、圧縮変位が粒子径の10%となるまで粒子を変形させたときの荷重(圧縮荷重:N)と変位量(圧縮変位:mm)を測定し、下記式に基づき求めることができる。 【0041】 【数1】 (ここで、E:圧縮弾性率(N/mm^(2))、F:圧縮荷重(N)、S:圧縮変位(mm)、R:粒子の半径(mm)である。)」 エ 「【0088】 〔実施例1〕 (基材粒子の作製) 冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水1625部、25%アンモニア水25部およびメタノール564部を仕込み、攪拌下、滴下口から3-メタクリロキシプロピルトリメトキシラン145部およびメタノール240部の混合液を添加して、30℃で2時間攪拌することにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加水分解、縮合させ、ポリシロキサン粒子の乳濁液を得た。 【0089】 他方、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標)NF-08」)の20%水溶液21.5部をイオン交換水850部で希釈した溶液に、スチレン737部およびアクリル酸ブチル130部からなる重合性組成物と、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V-65」)10部とを溶解した溶液を加えて乳化分散させて、重合性組成物の乳化液を調製した。 【0090】 上記で得られたポリシロキサン粒子の乳濁液に、引き続き上記で得られた重合性組成物の乳化液を添加して、さらに攪拌を行った。乳化液の添加から2時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察したところ、ポリシロキサン粒子が重合性組成物を吸収して肥大化していることが確認できた。 【0091】 次いで、混合液にポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標)NF-08」)の20%水溶液100部およびイオン交換水2000部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持することにより、重合性組成物のラジカル重合を行った。その後、反応液(乳濁液)を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、80℃で12時間真空乾燥し、基材粒子(1)を得た。得られた基材粒子の個数平均粒子径、変動係数(CV値)およびガラス転移温度は、表1に示す通りであった。 【0092】 (導電性微粒子の作製) 基材粒子(1)に水酸化ナトリウムによるエッチング処理を施した後、二塩化スズ溶液に接触させることによりセンシタイジングし、次いで、二塩化パラジウム溶液に浸漬させることによりアクチベーティングする、センシタイジング-アクチベーション法によって、パラジウム核を形成させた。 【0093】 このようにしてパラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水400部に添加し、超音波分散処理を行った後、70℃の温浴で基材粒子懸濁液を加温した。この懸濁液を加温しながら、別途70℃に加温した無電解めっき液(日本カニゼン(株)製「シューマーS680」)600部を加えることにより、無電解ニッケルめっき反応を生じさせた。水素ガスの発生が終了したことを確認した後、固液分離を行い、続いて金置換めっき処理を行うことにより表面に金を析出させた。次に、固液分離し、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥を行って、ニッケル-金めっきされた導電性微粒子(1)を得た。得られた導電性微粒子における導電性金属層の膜厚は0.09μmであった。」 オ 「【0094】 〔実施例2〕 実施例1において、重合性組成物をスチレン607部およびアクリル酸ブチル260部に変更したこと以外は、実施例1の(基材粒子の作製)と同様にして、基材粒子(2)を得た。得られた基材粒子の個数平均粒子径、変動係数(CV値)およびガラス転移温度は、表1に示す通りであった。 【0095】 次に、基材粒子(1)に代えて基材粒子(2)を用い、導電性金属層の膜厚が0.08μmとなるように、無電解めっき液の使用量とイオン交換水の使用量を調整したこと以外は、実施例1の(導電性微粒子の作製)と同様にして、導電性微粒子(2)を得た。」 カ 「【0143】 なお、以上の実施例および比較例で得られた基材粒子のうち、基材粒子(1)、基材粒子(2)、基材粒子(C1)、基材粒子(17)、基材粒子(18)および基材粒子(C9)について、25℃および150℃における50%K値を測定し、50%K値減少率(%)を求めた。それらの測定結果は表2に示す。また参考として、25℃および150℃における10%K値、20%K値、30%K値、40%K値、および60%K値を表2に示し、25℃における圧縮率ごとのK値を図1に、150℃における圧縮率ごとのK値を図2にそれぞれ示す。」 キ 「【表2】 」 (1)-2 甲3について ア 「 【0001】 本発明は、モノマーの重合により形成された重合体粒子であって、例えば、接続対象部材の電極間を接続するための導電性粒子に用いることができる重合体粒子、並びに該重合体粒子を用いた導電性粒子、異方性導電材料及び接続構造体に関する。」 イ 「 【0018】 さらに、本発明に係る重合体粒子は、少なくとも2つの環構造を有する脂環式化合物である単官能モノマーと、少なくとも2つの環構造を有する脂環式化合物である多官能モノマーとを重合させることにより得られた重合体粒子であることも好ましい。」 ウ 「【表3】 」 エ 「【表6】 」 (2)「基材粒子」に関する甲2発明と、「導電性微粒子」に関する甲2’発明について 甲2の実施例2に着目する。段落【0143】によれば、甲2の表2は、基材粒子の10%K値及び50%K値等の物性値を開示するものであるところ、実施例2において、10%K値は2226.1N/mm^(2)であり、50%K値は696.3N/mm^(2)であるから、「10%K値/50%K値」=2226.1÷696.3=3.20である。 また、表2には、実施例2の60%K値が1039.5N[N/mm^(2)]であると記載されている。 このことを踏まえると、甲2には、「基材粒子」に関する以下の甲2発明が記載されていると認められる。 (甲2発明) 「基材粒子と該基材粒子の表面を被覆する導電性金属層とを備えた導電性微粒子において用いられる基材粒子であって、10%K値が2226.1N/mm^(2)であり、10%K値/50%K値が3.20であり、60%K値が1039.5N/mm^(2)であり、前記基材粒子は、スチレンとアクリル酸ブチルの共重合体である、基材粒子。」 また、甲2には「導電性微粒子」に関する以下の甲2’発明が記載されていると認められる。 (甲2’発明) 「甲2発明の基材粒子の表面にニッケル-金めっき層を形成することで得られた、導電性微粒子。」 (3)本件発明5?8、10、12についての判断 ア 本件発明5と甲2発明とを対比すると、両発明は「導電層が表面上に配置され、樹脂粒子と前記樹脂粒子との表面上に配置された前記導電層とを有する導電性粒子を得るために用いられる樹脂粒子」である点で共通する。 そして、「10%K値」に関し、本件発明5は「500N/mm^(2)以上、3000N/mm^(2)以下」であり、甲2発明は「2226.1N/mm^(2)」であるから、両発明は、「10%K値」が「2226.1N/mm^(2)」である点で一致する(以下、これを「一致点1」という。)。 また、「10%K値/50%K値」に関し、本件発明5は「1以上、8以下」であり、甲2発明は「3.20」であるから、両発明は、「10%K値/50%K値」が「3.20」である点で一致する(以下、これを「一致点2」という。)。 その一方、両発明は、少なくとも、次の点で相違する。 「樹脂粒子」に関し、本件発明5は、「エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和基を有する単量体は、エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む」のに対し、甲2発明は「スチレンとアクリル酸ブチルの共重合体である」ものであって、「エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体」であるものの、「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む」ものではない点(以下、この相違点を「相違点3」という。)。 イ 相違点3に係る構成の容易想到性について検討する。 甲2には、樹脂粒子を構成する重合性組成物の重合性化合物について、「ビニル基含有モノマー」「を含むことが好ましい」(【0018】)と記載されており、この「ビニル基含有モノマー」として「1分子中にビニル基とともに、さらに1個以上の重合性基を有する架橋性のビニル基含有モノマー(以下「架橋性ビニル基含有モノマー」と称する)を用いることもできる。ここで、「重合性基」とは、他のモノマーと結合を形成しうる基であればよく、例えばビニル基の如きラジカル重合性基・・・も包含する。」(【0021】)と例示されているように、「エチレン性不飽和基」に相当する「ビニル基」を複数有する化合物を使用することについて示唆はされている。 しかしながら、技術常識によると、樹脂粒子の原料となる単量体成分を変えることにより、樹脂粒子の物性値も連動して変化するものであり、甲2において「50%K値」に関する技術的意義は何ら記載も示唆もなく、また、「10%K値」は、「1000N/mm^(2)以上、30000N/mm^(2)以下であることが好ましい」(【0039】)とされており「1000N/mm^(2)」から「30000N/mm^(2)」の範囲内での変動が許容されると解されるところ、甲2発明において、10%K値と50%K値に関する物性値をその数値のとおり維持したまま(すなわち、甲2発明の「10%K値」の値である「2226.1N/mm^(2)」をその数値のとおり維持し、かつ、「10%K値/50%K値」の値である「3.20」をその数値のとおり維持したまま)、単量体成分だけを甲2において示唆されるエチレン性不飽和基を複数有する化合物に変えようとする動機付けがあるとは認められない。 ウ また、前記(1)-2ア?エによれば、甲3には、樹脂粒子を構成する単量体成分としてエチレン性不飽和基を複数有する化合物が使用される旨の記載はあるが、樹脂粒子の「10%K値」と「50%K値」を維持する前提の記載ではないので、甲3の記載事項を参照しても、甲2発明において樹脂粒子を構成する単量体成分をエチレン性不飽和基を複数有するものとすることは、容易になし得ることではない。 エ なお、甲2発明において、10%K値と50%K値に関する物性値をその数値のとおり維持しないようにして単量体成分を変更し、相違点3に係る構成を想到し得ることができたとしても、この場合、前記一致点1及び前記一致点2(上記ア参照)として検討した一致点が維持されず、新たな相違点が生じてしまうため、本件発明5を想到することにはならないことが明らかである。 オ 上記ア?エによれば、本件発明5と甲2発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2発明に加えてさらに甲3の記載事項を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明5を引用する本件発明6?8、10、12についても同様である。 (4)本件発明1?4、9、11についての判断 ア 本件発明1と甲2’発明とを対比すると、両発明は「樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有する導電性粒子」である点で共通する。 その一方、両発明は、少なくとも、次の点で相違する。 「樹脂粒子」に関し、本件発明1は、「エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和基を有する単量体は、エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む」のに対し、甲2’発明は「スチレンとアクリル酸ブチルの共重合体である」ものであって、「エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体」であるものの、「エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む」ものではない点(以下、この相違点を「相違点4」という。)。 「10%K値」に関し、本件発明1は「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」であるのに対し、甲2’発明においては、その値が不明である点(以下、この相違点を「相違点5」という。)。 イ 相違点5に係る構成の容易想到性について検討する。 甲2’発明である「導電性微粒子」の「10%K値」は、「ニッケル-金めっき層」の物性(厚さ、硬さ等)によって影響を受けるから、甲2発明である「基材粒子」の「10%K値」(2226.1N/mm^(2))とは異なる数値となると認められるところ、甲2’発明が、「ニッケル-金めっき層」を有することによって、その「10%K値」が、甲2発明である「基材粒子」の「10%K値」の数値から、どのように変化するのかは不明であるため、甲2’発明である「導電性微粒子」の「10%K値」を特定することはできない。 そして、甲2には、「導電性微粒子」の「K値」を制御することや、その値を測定することについて、何ら記載も示唆もないから、「導電性微粒子」の「10%K値」に着目すること自体が甲2の記載からは当業者が容易になし得たこととはいえないし、仮に「導電性微粒子」の「10%K値」に着目することができたとしても、それを本件発明1のように「1500N/mm^(2)以上、5000N/mm^(2)以下」という具体的な数値範囲として定めることを当業者が容易に想到し得たといえる根拠は見いだせない。 したがって、当業者といえども、相違点5に係る構成を容易に想到し得たとはいえない。 ウ 上記ア、イによれば、本件発明1と甲2’発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2’発明に加えてさらに甲3の記載事項を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明5を引用する本件発明6?8、10、12についても同様である。 (5)小括 以上の検討のとおり、本件発明1?12は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2に記載された発明と、甲3の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、申立理由2には、理由がない。 3 申立理由3、4について (1)前記「第4 通知した取消理由の概要と、それに関する当審の判断」の1(2)オにおいて記載したとおり、本件発明1?12はサポート要件を満たすものであるから、申立理由4については、理由がない。 (2)また、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(以下、「実施可能要件」という)を満たすか否かは、物の発明である本件発明1?12に関し、当業者が、明細書及び図面に記載された発明についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによって判断されるべきものであるところ、異議申立人の主張を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明が、実施可能要件を満たさないといえる具体的な根拠は見いだせないから、申立理由3については、理由がない。 (3)異議申立人の「樹脂粒子」の材料に関する主張について ア 異議申立人は、「樹脂粒子」の材料に関し、本件明細書の実施例1?10は、全て、長鎖アルキレングリコールジアクリレートと、橋掛け環構造を有するアクリル酸エステルとの共重合体となっており、極めて特殊な樹脂しか使用していないにもかかわらず、本件発明1?12では、実質的にあらゆるビニル系単量体の重合体を包含しているところ、本件明細書には、あらゆるビニル系単量体の重合体を対象とした時に、どのようにして、本件発明1、2、5、6において規定されている「10%K値」、「10%K値/50%K値」、「10%K値/30%K値」、及び「破壊歪み」の数値範囲を達成できるのかが記載されていないから、本件発明1?12は、サポート要件を充足せず、また、本件発明1?12に関して発明の詳細な説明は実施可能要件を充足しない旨を主張している(特許異議申立書第34頁第13行?第35頁第16行)。 イ この主張のうち、まず、実施可能要件の主張について検討する。 本件明細書の段落【0057】には「単量体の組成により、上記圧縮弾性率(10%K値、30%K値及び50%K値)、上記破壊歪み及び上記圧縮回復率を上記の範囲に制御することが可能である。」と記載されていることと、本件明細書の実施例1?10では、「樹脂粒子」の作製に際し単量体の種類及び配合量を変更させることで、「樹脂粒子」と「導電性粒子」の「10%K値」、「10%K値/50%K値」、「10%K値/30%K値」、及び「破壊歪み」の数値が、実際に、本件発明1、2、5、6において規定される数値範囲内に制御された結果が得られていることに照らせば、「10%K値」、「10%K値/50%K値」、「10%K値/30%K値」、及び「破壊歪み」の数値は、当業者が、単量体の種類及び配合量を変更することで過度の試行錯誤を要することなく適宜制御することができる事項であると解される。 したがって、この主張を考慮したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明が、実施可能要件を満たさないとはいえない。 ウ 次に、サポート要件の主張について検討する。 上記イでも検討したとおり、本件明細書の記載によれば、「10%K値」、「10%K値/50%K値」、「10%K値/30%K値」、及び「破壊歪み」の数値は、当業者が、単量体の種類及び配合量を変更することで過度の試行錯誤を要することなく適宜制御することができる事項であると解される。 そのため、本件発明1、2、5、6において規定されている「10%K値」、「10%K値/50%K値」、「10%K値/30%K値」、及び「破壊歪み」の数値範囲を達成させるために、樹脂粒子の材料を、長鎖アルキレングリコールジアクリレートと、橋掛け環構造を有するアクリル酸エステルとの共重合体とすることが必須であるとまではいえない。 ゆえに、「樹脂粒子」の材料を、本件発明において規定される「エチレン性不飽和基を有する単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和基を有する単量体は、エチレン性不飽和基を複数有する架橋性の単量体を含む」という範囲にまで拡張したとしても、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 したがって、この主張を考慮したとしても、本件発明1?12がサポート要件を満たさないとはいえない。 エ よって、上記アの主張には理由がない。 (4)異議申立人の「破壊歪み」に関する主張について ア 異議申立人は、「破壊歪み」に関し、本件発明5は樹脂粒子の粒径を特定せずに「破壊歪みが55%以上であ」ることを規定しており、「破壊歪み(%)=(B/D)×100 B:樹脂粒子が破壊されたときの圧縮変位(mm) D:樹脂粒子の直径(mm)」(段落【0051】)の式によれば、「破壊歪み」は、樹脂粒子の直径Dに依存するところ、当該「破壊歪み」を粒子直径Dと無関係に数値範囲を定めたところで粒子の硬さを反映するものにはならないから、本件発明5はサポート要件を充足せず、また、本件発明5に関し本件明細書は実施可能要件を充足しないことを主張している。同様にして、本件発明1、2、6やこれらを引用する本件発明3、4、7?12はサポート要件を充足せず、当該各本件発明に関し本件明細書は実施可能要件を充足しないことを主張している(特許異議申立書第38頁第11行?第25行)。 イ この主張について検討する。 確かに、「破壊歪み」は樹脂粒子の直径Dに依存するものの、本件発明5の「樹脂粒子の破壊歪みが55%以上であり」との規定により、「破壊歪み」の範囲は直接的に限定されている。 そのため、本件発明5において、粒径が特定されていないとしても、「破壊歪み」が任意の数値をとることはない。 したがって、この主張は、前提において誤っているから、この主張により、本件発明がサポート要件に違反するとはいえず、また、本件明細書が実施可能要件に違反するとはいえない。 ウ よって、上記アの主張には理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-07-13 |
出願番号 | 特願2013-535615(P2013-535615) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01B)
P 1 651・ 536- Y (H01B) P 1 651・ 121- Y (H01B) P 1 651・ 113- Y (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高木 康晴 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 ▲辻▼ 弘輔 |
登録日 | 2017-07-14 |
登録番号 | 特許第6173215号(P6173215) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 導電性粒子、樹脂粒子、導電材料及び接続構造体 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 |
代理人 | 田口 昌浩 |