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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
管理番号 1342040
異議申立番号 異議2017-700599  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-14 
確定日 2018-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6045235号発明「高放射率金属箔」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6045235号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6045235号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年7月19日に特許出願され、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月14日にその特許掲載公報(以下、「特許公報」という。)が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成29年6月14日に特許異議申立人藤井正弘(以下、「申立人」という。)より請求項1?5に対して特許異議の申立てがなされ、同年7月31日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年9月27日付けで意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、さらに、同年10月18日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、同年11月16日に意見書が提出されるとともに、同年9月27日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)の手続補正(以下、「手続補正1」という。)がなされ、また、同年12月12日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、平成30年1月11日に意見書が提出されるとともに、本件訂正請求書の手続補正(以下、「手続補正2」という。)がなされ、さらに、同年2月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年3月12日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6045235号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5を一群の請求項として訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金で被覆した合金被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記コバルト微粒子、又は、前記コバルト-ニッケル合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にCo、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をCo、Co-Pのいずれかの合金で被覆した合金被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

ウ 訂正事項3
願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)【0017】の「【図2】実施例2で得られた粗化表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。」を「【図2】実施例2で得られた微粒子粗化面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。」と訂正する。

2 手続補正1
手続補正1は、本件訂正請求書を補正するものであり、訂正事項についての補正は、訂正事項1、2を以下のとおりに補正するものである。
(1)補正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をNi-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記コバルト微粒子、又は、前記コバルト-ニッケル合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にCo、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をCo-Pの合金又はCoで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

3 手続補正2
手続補正2は、本件訂正請求書を補正するものであり、訂正事項についての補正は、訂正事項1、2を以下のとおりに補正するものである。
(1)補正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、ニッケル-コバルト合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をNi-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記微粒子粗化面に現れる前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にCo、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をCo-Pの合金又はCoで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記微粒子粗化面に現れる前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

4 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は電気、電子部品などに応用できる熱放射性の高い金属材料を提供することを課題とする。」
「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の構成の一例を表す断面概略図を示す。
【図2】実施例2で得られた粗化表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。
【図3】実施例、比較例において熱放散に関する温度測定に使用した試験の断面図と平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
放射率の高い金属箔を得るためにはまず、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルなどを使い、厚さとしては10?100μmが好適である。原箔製造から表面粗化までを連続製造とすることは理想的であり電気分解で製造する電解銅箔、電解ニッケル箔、電解鉄箔などは脱脂等の必要がなく、ある程度の表面粗化析出面が形成されているため有効である。しかしながら圧延箔でも脱脂の工程を挿入すれば良く、限定されるものではない。
【0019】
これらの金属箔表面上に本発明の一つの形態として、まず第一段階目としてコバルト又はコバルト合金の微粒子又はその集合体を付着するが、その形成方法としては水溶液電気分解法で行う。液組成としてはコバルトの水溶性塩、及びアンモニアを使い、コバルトの水溶性塩としては硫酸コバルト、硫酸コバルトアンモニウム、塩化コバルト、炭酸コバルトなどが良い。コバルト濃度は金属濃度で15?30g/lが好ましい。アンモニアは5?30g/lが好ましく、アンモニア水以外にも硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩で添加しても良い。水溶液のpHは4?7が好ましい。pHの調整は硫酸および水酸化ナトリウムなどを使用する。温度は30?60℃ が好ましい。電流密度は10?30A/dm^(2) が良く、電気量として70?250クーロン/dm^(2) が好ましい。このコバルト又はコバルト合金粒子の析出量はおよそ、1.5?6.0g/m^(2) である。少ない場合は放射率が不十分であり、放熱性が低い。多い場合は放射率は高いものの、電気量を増加させても放射率の上昇がなくなり、生産性として効率が低い。
【0020】
次にさらにその表面の粉落ちを抑えるために粗化粒子に被覆めっきを行う。被覆めっきはNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの金属又は合金被覆層とする。なお、微粒子形成後、ニッケル又はコバルトなどで被覆することは固着性を上げることでは効果があるが、被覆量を増加させ過ぎると、放射率が低下し、放熱性が低下する。また、銅は放射率を下げるので添加する場合は少量におさえる。被覆層として特に好ましくはCo-P、Ni-P、Ni-Co-Pなどが良い。電気量としては100?500クーロン/dm^(2) が好ましい。被覆量は0.6?6g/m^(2)である。この被覆めっきを行うにはニッケルとリンの合金めっきの場合はニッケルの水溶性塩と、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウムなどを添加した水溶液でめっきする。このニッケル被覆めっき層中のリン含有量は 2?20%である。
【0021】
また本発明の別の形態としては、金属箔表面上にニッケル又はニッケル合金の粒子及びその集合体を付けるが、その形成方法としては水溶液電気分解法で行う。液組成としてはニッケルの水溶性塩、及びアンモニアを使い、ニッケルの水溶性塩としては硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、塩化ニッケル、炭酸ニッケルなどが良い。ニッケル濃度は金属濃度で15?30g/lが好ましい。アンモニアは5?30g/lが好ましく、アンモニア水以外にも硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩で添加しても良い。水溶液のpHは4?7が好ましい。pHの調整は硫酸および水酸化ナトリウムなどを使用する。温度は30?60℃が好ましい。電流密度は10?30A/dm^(2) が良く、電気量として150?600クーロン/dm^(2) が好ましい。この粗化ニッケル又はニッケル合金粒子の析出量はおよそ3?15g/m^(2)である。少ない場合は放射率が不十分であり、放熱性が低い。多い場合は放射率は高いものの、電気量を増加させても放射率の上昇がなくなり、生産性として効率が低い。
【0022】
次にさらに表面の粉落ちを抑えるためにその粗化粒子に被覆めっきを行う。被覆めっきはCo、Co-Pのいずれかの金属又は合金被覆層とする。なお、微粒子形成後、コバルト等で被覆することは固着性を上げることでは効果があるが、被覆量を過剰に増加すると、放射率が低下し、放熱性が低下する。銅は熱伝導性を向上させるが放射率を下げるので添加する場合は少量におさえる。被覆層として特に好ましくはCo-P、Co-Ni-Pなどが良い。電気量としては20?200クーロン/dm^(2)が好ましい。被覆量は0.6?6g/m^(2)である。
【0023】
また、本発明のさらに別の形態として、上記のニッケル、コバルトの微粒子各元素単独でなく、ニッケルとコバルトの合金微粒子とし、その上に被覆めっきをCo、Ni、Pのうちの1種以上の金属又は合金被覆層を設けることによっても同様の効果を得ることができる。
【0024】
以上、結果として得られる微粒子サイズは0.1?2μm程度がよく、また互いに粒子が固着した集合体状として存在してもよく、この時は集合体として0.5?5μm程度のサイズとなる。
【0025】
粗化された表面の粗さとしては素地の粗さにもよるが、光沢面などに対してはRzjisで1.5μm?5μmが好ましい。粗面に対しては粗面粗さにRzjisとして2?6μmの粗度上昇が好ましい。銅箔粗面に公知の0.2?2μm程度の銅粒子による粗化処理を施し、一例として硫酸-硫酸銅水溶液中で限界電流密度かそれ以上の電流密度により樹枝状銅を析出させ、この上に銅の被覆めっきをして、さらにその上に本発明の微粒子を形成させてもよい。但し、表面粗さが大きいほど放射率は高くなる傾向にはあるが、比例するものではなく、粗化量、粗化粒子形状、付着元素、基体箔などによって大きく変わる。
【0026】
なお、アルミニウムまたはアルミニウム合金箔の場合はそのままでは上記したニッケル又はコバルトなどの合金粗化粒子の形成は難しいので、前処理として一般的な2回亜鉛置換処理し、その後ニッケル又はコバルト、又は適切な金属の0.5?1.5μm程度の薄いめっき層を設け、この上に上記した各種金属又は合金粗化粗化粒子を付着させ、被覆めっき層を施す。
以上、上記した方法等によって得られた粗面は放射率が0.40以上となり、熱放射性の高い金属箔となる。」
「【0030】
(実施例1)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)(硫酸5%水溶液)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にコバルト粗化処理浴(B)において15A/dm^(2)、10秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をニッケルめっき浴(C)において3.8A/dm^(2)、80秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0031】
(B) 硫酸コバルト(七水塩) 90 g/l
アンモニア 14 g/l
pH 6.0
温度 45℃

(C) 硫酸ニッケル(六水塩) 250 g/l
塩化ニッケル(六水塩) 50 g/l
ホウ酸 20 g/l
pH 4.0
温度 40℃
【0032】
この粗化処理銅箔の表面粗さはRzjis 4.0μm、放射率を測定すると0.71であった。表面粗さはサーフコーダSE500(小坂研究所製)を用いて測定し、放射率はD&S AERD 放射率計(京都電子工業製)を用いて測定した。この放射率計の測定波長領域は3?30μmである。以下の実施例、比較例においても同じ測定を行った。また蛍光X線分析(RIX2000 理学電機製)で付着元素量を調べた。Ni、Coの付着量はそれぞれ 6.99 g/m^(2)、2.47 g/m^(2) であった。以下の実施例、比較例においても同様に分析した。
【0033】
一方、20μm厚さのSUS304ステンレス箔を幅3mm、長さ11cmに切り取り、この両面に5.5×5.5cm、厚さ50μmの粘着性ポリイミドフィルムを貼り付け、さらに片側にこの粗化処理銅箔を処理面側を外側にして5×5cmの大きさで貼り付け、これを図3に示したように断熱材上に設置した。そして、ステンレス箔線に10cmの端子間距離をとり、整流器で2.6Aの一定電流を連続的に通電し、5のポイント(試料表面上)の発熱による温度を調べた。15分間の通電によりおよそ安定し、その温度は59℃であった。なお、試料を貼り付けない場合は同じ電流を通電し、15分間後安定した温度は70℃であった。 以下の実施例、比較例においても同じ測定を行った。
【0034】
以後の実施例、比較例を含めて結果を表1に示す。
【0035】
(実施例2)
35μm厚さの電解銅箔をその光沢面について実施例1においてニッケルめっき浴(C)でのニッケルめっきをニッケルリンめっき浴(D)とし、2.5A/dm^(2)、140秒間めっきしたこと以外すべて同じ方法で処理した。
【0036】
(D) 硫酸ニッケル(六水塩) 60 g/l
次亜リン酸ナトリウム(一水塩) 7 g/l
pH 4.0
温度 30℃
【0037】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
35μm厚さの電解銅箔をその光沢面について実施例2においてニッケルリンめっき浴(D)でのニッケルリンめっきを2.5A/dm^(2)、100秒間めっきとしたこと以外すべて同じ方法で処理した。この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
【0039】
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例4)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)(硫酸5%水溶液)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にニッケル粗化処理浴(E)において21A/dm^(2)、20秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をコバルトリンめっき浴(F)において2.5A/dm^(2)、40秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0041】
(E) 硫酸ニッケル(六水塩) 110 g/l
アンモニア 25 g/l
pH 5.8
温度 43℃

(F) 硫酸コバルト(七水塩) 80 g/l
次亜リン酸ナトリウム(一水塩) 15 g/l
pH 4.7
温度 30℃
【0042】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
35μm厚さの電解銅箔をその光沢面について実施例4においてニッケル粗化浴(E)の代わりに(G)浴にて19A/dm^(2)、15秒間陰極電解したこと以外すべて同じ方法で処理した。
【0044】
(G) 硫酸ニッケル(六水塩) 90 g/l
アンモニア 16 g/l
pH 5.7
温度 45℃
【0045】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0046】
(実施例6)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)(硫酸5%水溶液)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にニッケル粗化処理浴(E)において21A/dm^(2)、20秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をコバルトめっき浴(H)において2.5A/dm^(2)、40秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0047】
(H) 硫酸コバルト(七水塩) 200 g/l
pH 4.0
温度 40℃
【0048】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0049】
(実施例7)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にコバルト粗化処理浴(B)において15A/dm^(2)、8秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をコバルト-リンめっき浴(F)において2.5A/dm^(2)、120秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0050】
(実施例8)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にニッケル-コバルト粗化処理浴(I)において19 A/dm^(2)、15秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をニッケル-リンめっき浴(D)において2.5A/dm^(2)、100秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0051】
(I) 硫酸ニッケル(六水塩) 90 g/l
硫酸コバルト(七水塩) 20 g/l
アンモニア 16 g/l
pH 5.5
温度 45℃
【0052】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0053】
(実施例9)
30μm厚さの1N30アルミニウム箔を用意し、脱脂浴(J)(NaOH10 g/l水溶液)に30秒間浸漬し、水洗し、酸洗浴(K)(硝酸20%水溶液)に15秒間浸漬し、次いで水洗後、亜鉛置換浴(L)(ZnO 9g/l、NaOH 80 g/l、ロッセル塩25 g/l、塩化第二鉄四水塩2 g/l)に30秒間浸漬し、次いで酸洗浴(K)に20秒間浸漬後、水洗し、次に再び亜鉛置換浴(L)に30秒間浸漬した。次いで水洗後、片側光沢面をニッケルめっき浴(C)で3.8 A/dm^(2)、80秒間陰極電解してニッケルめっき(下地めっき)した。
【0054】
次いで水洗し、その面をコバルト粗化処理浴(B)において15A/dm^(2)、10秒間陰極電解処理した。さらに水洗後その面をニッケル-リンめっき浴(D)において2.5A/dm^(2)、140秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0055】
この粗化処理アルミ箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。ここでNi量は下地めっきNi量を含む。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
35μm厚さの電解銅箔を用意し、光沢面側の表面粗さ、放射率を調べた。この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムにはりつけ、SUS箔線の発熱による温度を調べた。各測定値を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
35μm厚さの電解銅箔を用意し、その光沢面にめっき浴(D)において2.5A/dm^(2)、60秒間陰極電解し、Ni-Pめっきを行い、水洗、乾燥した。
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0058】
(比較例3)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にニッケル-銅粗化処理浴(M)において8.8 A/dm^(2)、20秒間陰極電解処理した。次いで水洗し乾燥させた。
【0059】
(M) 硫酸ニッケル (六水塩) 120 g/l
硫酸銅(五水塩) 50 g/l
pH 1.8
温度 35℃
【0060】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
35μm厚さの電解銅箔を酸洗浴(A)に10秒間浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にコバルト-銅粗化処理浴(N)において6.3 A/dm^(2)、20秒間陰極電解処理した。次いで水洗後その面をニッケルめっき浴(C)において3.8A/dm^(2)、20秒間めっきし、水洗し乾燥させた。
【0062】
(N) 硫酸コバルト (七水塩) 60 g/l
硫酸銅(五水塩) 10 g/l
pH 1.8
温度 40℃
【0063】
この粗化処理銅箔の各特性、異種元素付着量を調べた。その結果を表1に示す。
次に、この銅箔について実施例1と同じ方法でポリイミドフィルムに貼り付け、SUS箔線の発熱による温度を調べ、その結果を表1に示す。」
「【0065】
【表1】


(2)図面の記載
「【図2】



5 当審の判断
(1)手続補正1の適法性について
ア 手続補正1は、訂正請求書の訂正特許請求の範囲の第1項について、補正前の「Ni、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金で被覆した合金被覆層」を「Ni-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層」とする補正事項を含むものであって、補正前の「Ni、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金」なる記載において、「Ni」が「Niの合金」であると誤解を与える表現であったものを、「Ni-P、Co-Pのいずれかの合金」又は「Ni」と内容を変更せずに明確な表現とするものであるから、当該補正事項は軽微なものであって、訂正請求の要旨を変更するものではない。
イ また、手続補正1は、訂正請求書の訂正特許請求の範囲の第2項について、補正前の「Co、Co-Pのいずれかの合金で被覆した合金被覆層」を「Co-Pの合金又はCoで被覆した被覆層」とする補正事項を含むものであって、請求項1についての補正事項と同様に、補正前の「Co、Co-Pのいずれかの合金」なる記載において、「Co」が「Coの合金」であると誤解を与える表現であったものを、「Co-Pの合金」又は「Co」と内容を変更せずに明確な表現とするものであるから、当該補正は軽微なものであって、訂正請求の要旨を変更するものではない。
ウ したがって、上記ア、イより、手続補正1は適法な手続補正である。

(2)手続補正2の適法性について
ア 手続補正2は、訂正請求書の訂正特許請求の範囲の第1項について、補正前の「コバルト-ニッケル合金微粒子」を「ニッケル-コバルト合金微粒子」とする補正事項を含むものである。
ここで、技術常識によれば、多くの場合、「コバルト-ニッケル合金」という技術用語は、コバルトを主成分としニッケルを副成分として含む合金を意味し、「ニッケル-コバルト合金」という技術用語は、ニッケルを主成分としコバルトを副成分として含む合金を意味する。
また、本件特許明細書においても、上記技術常識に基づいて記載されていると考えられ、実施例8、比較例3、比較例4における粗化処理の合金は、成分のより多い金属の元素が成分のより少ない金属の元素よりも、全て先に記載されている(金属元素の多少については、上記4(1)の【0051】、【0059】、【0062】のめっき浴の成分参照。合金の記載については、上記4(1)の【0065】の【表1】参照。)。
そうすると、補正後の「ニッケル-コバルト合金微粒子」は、主成分がニッケルであると解され、主成分がコバルトである、補正前の「コバルト-ニッケル合金微粒子」とは異なるものといえるから、当該補正事項は、軽微なものとはいえず、訂正請求の要旨を変更するものである。
イ また、手続補正2は、訂正請求書の訂正特許請求の範囲の第1項について、補正前の「微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり」を「微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記微粒子粗化面に現れる前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり」とする補正事項を含むものである。
ここで、補正後の「前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子」は、その「コバルト微粒子」及び「ニッケル-コバルト合金微粒子」という文言からみて、「被覆層」のない「一次粒子層」の「コバルト微粒子」又は「ニッケル-コバルト合金微粒子」を意味していると解されるし、また、「前記コバルト微粒子」及び「前記ニッケル-コバルト合金微粒子」の「前記」とは、「少なくとも基体金属箔の一方の面に」「付着させた」「コバルト微粒子」及び「ニッケル-コバルト合金微粒子」を指していると解される。
一方、「微粒子粗化面」は、「一次粒子層」と「前記一次粒子層上を」「被覆した被覆層」とからなるものであるから、「微粒子粗化面をSEM観察」すると、上記4(2)の写真に示されているように、「前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子」の表面を被覆した「被覆層」が現れることとなるが、「前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子」は現れることはない。
したがって、当該補正事項は、「微粒子粗化面に現れる」ことのない「前記コバルト微粒子、又は、前記ニッケル-コバルト合金微粒子」を、「微粒子粗化面に現れる」とする不合理な内容に補正するものであるから、軽微な補正とはいえない。
よって、当該補正事項は、軽微なものとはいえず、訂正請求の要旨を変更するものである。
ウ さらに、手続補正2は、訂正請求書の訂正特許請求の範囲の第2項について、補正前の「微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり」を「微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記微粒子粗化面に現れる前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり」とする補正事項を含むものである。
そうすると、上記イで検討した事項と同様に、当該補正事項は、「微粒子粗化面に現れる」ことのない「前記ニッケル微粒子」を、「微粒子粗化面に現れる」とする不合理な内容に補正するものであるから、軽微な補正とはいえない。
よって、当該補正事項は、軽微なものとはいえず、訂正請求の要旨を変更するものである。
エ したがって、上記ア?ウより、手続補正2は適法な手続補正とはいえない。

(3)補正された訂正の内容
上記(1)及び(2)のとおり、手続補正1は適法な手続補正であって採用できるが、手続補正2は適法な手続補正とはいえず採用できないから、補正後の本件訂正請求の訂正事項は、手続補正1によって補正された、次のとおりのものである。
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をNi-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記コバルト微粒子、又は、前記コバルト-ニッケル合金微粒子の各粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にCo、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」を「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上をCo-Pの合金又はCoで被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって前記微粒子粗化面をSEM観察して測定した前記ニッケル微粒子の粒子径が0.1?2μmであり、かつ、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であること」と訂正する。

ウ 訂正事項3
本件特許明細書の【0017】の「【図2】実施例2で得られた粗化表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。」を「【図2】実施例2で得られた微粒子粗化面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。」と訂正する。

(4)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正事項1について、本件訂正前の請求項1における、「少なくとも基体金属箔の一方の面に」「微粒子又は」「集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上に」「被覆層を設けた、前記一次粒子層の」「微粒子と」「被覆層の」「微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。」と、本件訂正後の請求項1における、「少なくとも基体金属箔の一方の面に」「微粒子又は」「集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上を」「被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって」、「前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。」とは、一致する。
(イ)そうすると、訂正事項1は、請求項1において、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項1-1」という。)、本件訂正前の「Ni、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層」を「Ni-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層」とする訂正事項(以下、「訂正事項1-2」という。)、本件訂正前の「微粒子と」「合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持」つ事項を「微粒子粗化面をSEM観察して測定した」「微粒子の粒子径が0.1?2μmであ」る事項と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項1-3」という。)を含むものである。
(ウ)まず、訂正事項1-1について検討する。
訂正事項1-1の本件訂正前の「微粒子」の「集合体」は、「微粒子が固着した集合体」であるといえるし、また、訂正事項1-1は、本件訂正前の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体」を「コバルト微粒子又は該微粒子が固着した集合体、又は、コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体」として、本件訂正前の「コバルト合金」を「コバルト-ニッケル合金」と減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
次に、訂正事項1-1が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正であるか否かを検討するに、特許権者が、訂正請求書において訂正の根拠として挙げているのは、本件特許明細書の【0050】、【0051】、【0065】であり、【0050】及び【0051】には、めっき浴の成分からみて、ニッケルを主成分としてコバルトを副成分として含む合金、すなわち、ニッケル-コバルト合金が記載されており、また、【0065】の【表1】の実施例8には、「Ni-Co」が記載されている。
ここで、上記(2)アでも述べたように、技術常識及び本件特許明細書の記載によれば、「コバルト-ニッケル合金」という技術用語は、コバルトを主成分としニッケルを副成分として含む合金を意味し、「ニッケル-コバルト合金」という技術用語は、ニッケルを主成分としコバルトを副成分として含む合金を意味するものといえる。
そうすると、訂正事項1-1の本件訂正後の「コバルト-ニッケル合金微粒子又は該微粒子が固着した集合体」は、コバルトを主成分としニッケルを副成分として含む合金の微粒子又はその集合体を意味するから、本件特許明細書の【0050】、【0051】、【0065】の記載の範囲内のものとはいえないし、本件特許明細書の他の箇所にもその記載が見当たらない。
したがって、訂正事項1-1は、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正であるとはいえない。
(エ)次に、訂正事項1-2について検討する。
訂正事項1-2は、本件訂正前の「Ni、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層」を「Ni-P、Co-Pのいずれかの合金又はNiで被覆した被覆層」と訂正するものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正である。
(オ)最後に、訂正事項1-3について検討する。
訂正事項1-3は、本件訂正前の「微粒子粗化面」について、「微粒子と」「合金被覆層の粒子径が0.1?2μm」であるとの事項を、「SEM観察して測定した」「微粒子の粒子径が0.1?2μmであ」る事項と訂正するものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
しかしながら、訂正事項1-3は、「粒子径が0.1?2μm」と粒子径が特定される対象が、本件訂正前は、「微粒子と」「合金被覆層」であったにもかかわらず、本件訂正後は、「SEM観察して測定した」「微粒子」としており、これは、「被覆層」(本件訂正前の「合金被覆層」に相当。)が含まれない「微粒子」である。
そして、本件特許明細書【0024】に記載された「以上、結果として得られる微粒子サイズは0.1?2μm程度」の「以上、結果として得られる微粒子サイズ」とは、本件特許明細書【0018】?【0023】の記載、及び、図2のSEM写真からみて、本件訂正後の請求項1の「SEM観察して測定した」「微粒子」だけではなく、「被覆層」も含んだサイズであることは明らかである。
そうすると、訂正事項1-3は、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正であるとはいえない。
また、訂正事項1-3は、上記のとおり、「粒子径が0.1?2μm」と粒子径が特定される対象を、「微粒子と」「合金被覆層」から、「被覆層」が含まれない「微粒子」とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当する。
(カ)以上によれば、上記(ウ)及び(オ)のとおり、訂正事項1-1及び訂正事項1-3が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した範囲内の訂正であるとはいえないし、上記(オ)のとおり、訂正事項1-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当するから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した範囲内の訂正であるとはいえないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当するから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合しない。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正事項2について、本件訂正前の請求項2における、「少なくとも基体金属箔の一方の面に」「微粒子又は」「集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上に」「被覆層を設けた、前記一次粒子層の」「微粒子と」「被覆層の」「微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。」と、本件訂正後の請求項2における、「少なくとも基体金属箔の一方の面に」「微粒子又は」「集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層と、前記一次粒子層上を」「被覆した被覆層とからなる微粒子粗化面を備えた放熱基板用金属箔であって」、「前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。」とは、一致する。
(イ)そうすると、訂正事項2は、請求項2において、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体」を「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項2-1」という。)、本件訂正前の「Co、Co-Pのいずれかの合金被覆層」を「Co-Pの合金又はCoで被覆した被覆層」とする訂正事項(以下、「訂正事項2-2」という。)、本件訂正前の「微粒子と」「合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持」つ事項を「微粒子粗化面をSEM観察して測定した」「微粒子の粒子径が0.1?2μmであ」る事項と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項2-3」という。)を含むものである。
(ウ)まず、訂正事項2-1について検討する。
訂正事項2-1の本件訂正前の「微粒子」の「集合体」は、「微粒子が固着した集合体」であるといえるし、訂正事項2-1は、本件訂正前の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体」を「ニッケル合金」を省いた「ニッケル微粒子又は該微粒子が固着した集合体」と減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。
(エ)次に、訂正事項2-2について検討する。
訂正事項2-2は、本件訂正前の「Co、Co-Pのいずれかの合金被覆層」を「Co-Pの合金又はCoで被覆した被覆層」と訂正するものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。
(オ)最後に、訂正事項2-3について検討する。
訂正事項2-3は、本件訂正前の「微粒子粗化面」について、「微粒子と」「合金被覆層の粒子径が0.1?2μm」である事項を、「SEM観察して測定した」「微粒子の粒子径が0.1?2μmであ」る事項と訂正するものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
しかしながら、訂正事項2-3は、「粒子径が0.1?2μm」と粒子径が特定される対象が、本件訂正前は、「微粒子と」「合金被覆層」であったにもかかわらず、本件訂正後は、「SEM観察して測定した」「微粒子」としており、これは、「被覆層」(本件訂正前の「合金被覆層」に相当。)が含まれない「微粒子」である。
そして、本件特許明細書【0024】に記載された「以上、結果として得られる微粒子サイズは0.1?2μm程度」の「以上、結果として得られる微粒子サイズ」とは、本件特許明細書【0018】?【0023】の記載、及び、図2のSEM写真からみて、本件訂正後の請求項2の「SEM観察して測定した」「微粒子」だけではなく、「被覆層」も含んだサイズであることは明らかである。
そうすると、訂正事項2-3は、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正であるとはいえない。
また、訂正事項2-3は、上記のとおり、「粒子径が0.1?2μm」と粒子径が特定される対象を、「微粒子と」「合金被覆層」から、「被覆層」が含まれない「微粒子」とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当する。
(カ)以上によれば、上記(オ)のとおり、訂正事項2-3が、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるとはいえないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当するから、訂正事項2は、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるとはいえないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当することとなるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合しない。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正事項3は、本件特許明細書の記載について、本件訂正前の「粗化表面」を「微粒子粗化面」と訂正するものである。
ここで、本件訂正前の「粗化表面」について、本件特許明細書にその定義が明示的に記載されていないが、【0017】には、「粗化表面」は「実施例2で得られた」旨が記載されており、一方、実施例2は、「実施例1においてニッケルめっき浴(C)でのニッケルめっきをニッケルリンめっき浴(D)」(【0035】)としたものであるから、実施例2は、「電解銅箔を酸洗浴(A)」に「浸漬し、次いで水洗し、その光沢面にコバルト粗化処理浴(B)において」「陰極電解処理し」(【0030】)、「ニッケルリンめっき浴(D)」において「めっきし」(【0035】)、「水洗し乾燥させ」(【0030】)て、コバルト合金微粒子とニッケルリン合金層(本件訂正前の請求項1の「合金被覆層」に相当。)を形成するものである。
(イ)そうすると、実施例2で得られた「粗化表面」とは、本件訂正前の請求項1に記載された、「一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層」からなる「微粒子粗化面」であるといえる。
(ウ)したがって、本件特許明細書にその定義が明示的に記載されていない「粗化表面」なる用語を、請求項1において定義された「微粒子粗化面」なる用語に訂正することによって、請求項1の記載と明細書の記載を整合するものであるといえるから、訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正である。
(エ)よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
(オ)一方、本件訂正後の「微粒子粗化面」は、請求項1及び2並びにその引用請求項である請求項3?5に係る発明の発明特定事項であるから、訂正事項3について、請求項1?5は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項で規定する「明細書又は図面の訂正に係る請求項」に該当する。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3は、請求項1又は2を引用するものであり、請求項4は、請求項1を引用するものであり、請求項5は、請求項1乃至4のいずれか1項を引用するものであるから、それぞれ本件訂正前の請求項1?5に対応する本件訂正後の請求項1?5は一群の請求項である。

6 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、平成29年9月27日に特許権者が行った本件訂正のうち、訂正事項1及び2について、一群の請求項に係る請求項1?5についての訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合しないので、本件訂正は認められない。
そして、訂正事項3について、請求項1?5は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項で規定する「明細書又は図面の訂正に係る請求項」に該当し、請求項1?5についての訂正である訂正事項1及び2は上記のとおり認められないから、訂正事項3についても認められない。
なお、平成29年12月12日付けの訂正拒絶理由、及び、平成30年2月13日付けの取消理由(決定の予告)では、上記訂正事項3に係る訂正を認めると通知したが、その後の検討により、上記の結論を得るに至った。しかしながら、訂正事項3を認めるか否かは、「特許第6045235号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との結論に影響を及ぼすものではない。そして、特許権者は、平成30年3月12日付けの意見書において、「平成30年2月13日(起案日)の取消理由(決定の予告)を承服すると共に訂正請求書の提出は行いません」と述べてもいるから、あらためて取消理由(決定の予告)を通知することなく、上記のとおりとした。

第3 特許異議申立について
1 本件特許発明
平成29年11月16日付けの手続補正書で補正された、同年9月27日に特許権者が行った請求項1?5についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものとはいえないので、これを認めることはできず、したがって、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「特許発明1」?「特許発明5」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、特許公報に記載された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されている次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基体金属箔の一方の面にコバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にNi、Ni-P、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持ち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。
【請求項2】
少なくとも基体金属箔の一方の面にニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層を設け、次いでその上にCo、Co-Pのいずれかの合金被覆層を設けた、前記一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をもち、前記微粒子粗化面の放射率が0.40以上であることを特徴とする放熱基板用金属箔。
【請求項3】
合金被覆層の元素がコバルトとリンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放熱基板用金属箔。
【請求項4】
合金被覆層の元素がニッケルとリンであることを特徴とする請求項1に記載の放熱基板用金属箔。
【請求項5】
基体金属箔が銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレスであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の放熱基板用金属箔。」

2 申立理由の概要
(1)取消理由及び取消理由(決定の予告)の概要
平成29年7月31日付けで通知した取消理由、及び、平成30年2月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)は同じ理由であり、その概要は次のとおりである。
ア 請求項1,2の「微粒子粗化面の放射率が0.40以上である」という発明特定事項を有する「放熱基板用金属箔」を得る方法が、本件特許明細書に記載されているとはいえないから、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 「一次粒子層」として、請求項1の「コバルト合金微粒子又はその集合体」、及び、請求項2の「ニッケル合金微粒子又はその集合体」を用いることは、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 請求項1の「一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径」及び請求項2の「一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径」が明確ではないから、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由及び取消理由(決定の予告)のいずれにおいても採用しなかった申立理由
ア 本件特許明細書の実施例において、請求項1の「一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径」及び請求項2の「一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径」が、どの程度の値であるのか記載されておらず、特許発明1?5の実施例が本件特許明細書に記載されているか否かが不明であるから、本件の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 当審の判断
(1)取消理由及び取消理由(決定の予告)について
ア 特許法第36条第4項第1号について
特許発明1及び2は、「微粒子粗化面の放射率が0.40以上である」という発明特定事項を含むものである。
ここで、本件特許明細書(上記第2 4(1)参照。)の【0018】?【0026】には、放熱基板用金属箔における、(1)「基体金属層」(【0018】)、(2)「一次粒子層」(【0019】、【0021】、【0023】)、(3)「合金被覆層」(【0020】、【0022】、【0023】)、(4)「合金微粒子」と「合金被覆層」の「粒子径」(【0024】)、(5)「表面粗さ」(【0025】)、及び、(6)「前処理」としての「めっき」(【0025】、【0026】)について記載され、最後に「以上、上記した方法等によって得られた粗面は放射率が0.40以上となり、熱放射性の高い金属箔となる」(【0026】)と記載されている。
一方、本件特許明細書【0030】?【0065】の実施例及び比較例の記載において、(4)「合金微粒子」と「合金被覆層」の「粒子径」については、いずれの実施例及び比較例においても記載がなく、また、(6)「前処理」としての「めっき」については、実施例9以外の実施例では行っていないので、これら(4)と(6)の条件は、「微粒子粗化面の放射率が0.40以上である」「放熱基板用金属箔」を得るための必須の条件であるとは考えられない。
そして、本件特許明細書【0061】?【0063】、【0065】に記載された比較例4は、(1)「基体金属層」、(2)「一次粒子層」、(3)「合金被覆層」、及び、(5)「表面粗さ」について、本件特許明細書【0018】、【0019】、【0021】及び【0025】に記載された条件を満たすものであるにもかかわらず、本件特許明細書【0065】の【表1】によれば、放射率が0.25であり、「放射率が0.40以上」(特許発明1,2)となっておらず、どのような追加の条件を満たすようになれば、「放射率0.40以上」となり得るのか不明である。
また、特許発明1,2の「微粒子粗化面の放射率が0.40以上である」という発明特定事項を有する「放熱基板用金属箔」を得る方法が、本件特許明細書の他の箇所に記載されているともいえない。
したがって、特許発明1,2の「微粒子粗化面の放射率が0.40以上である」発明特定事項を有する「放熱基板用金属箔」を得るために、当業者が期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等が必要であるから、本件の発明の詳細な説明には、特許発明1,2について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、特許発明1または特許発明2を引用する特許発明3?5についても、同様に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 特許法第36条第6項第1号について
本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によると、「電気、電子部品などに応用できる熱放射性の高い金属材料を提供すること」(上記第2 4(1)の【0008】)であると認められる。そして、発明の詳細な説明には、「以上、上記した方法等によって得られた粗面は放射率が0.40以上となり、熱放射性の高い金属箔となる」(上記第2 4(1)の【0026】)と記載されており、放射率が0.40以上であれば、「熱放射性の高い」ものであるとの説明がなされている。

一方、本件特許明細書の実施例(【0030】?【0065】、上記第2 4(1)参照。)には、特許発明1の「コバルト又はコバルト合金微粒子又はその集合体を1.5g/m^(2)以上付着させた一次粒子層」について、実施例1?3、7、9において、「Co」を用いたときに放射率が0.62?0.82と「熱放射性の高い」ことが示されているものの、「コバルト合金」を用いたときに「熱放射性の高い」ことは何ら示されていない。
そして、金属の放射率は金属元素の種類によって異なることが技術常識であることに照らせば、特許発明1は、「一次粒子層」が「コバルト合金微粒子又はその集合体」である場合に、上記課題を解決し得るか否かが不明である。
そうすると、「一次粒子層」が「コバルト合金微粒子又はその集合体」であることを含む特許発明1は、その発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
したがって、特許発明1及びその引用発明である特許発明3?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
なお、本件特許明細書の実施例8には、「一次粒子層」が「Ni-Co」である金属箔の放射率が0.72であることが示されているものの、上記第2 4(2)アで述べたことと同様に、技術常識及び本件特許明細書の記載によれば、「コバルト合金」とはコバルトを主成分とする合金を意味し、「Ni-Co」とはニッケルを主成分としコバルトを副成分として含む合金を意味するものであって、実施例8の「一次粒子層」である「Ni-Co」は、特許発明1の「コバルト又はコバルト合金微粒子」には相当しないから、実施例8は、特許発明1に含まれるものではない。

また、本件特許明細書の実施例には、特許発明2の「ニッケル又はニッケル合金微粒子又はその集合体を3.0g/m^(2)以上付着させた一次粒子層」について、実施例4?6において、「Ni」を用いたときに放射率が0.57?0.80と「熱放射性の高い」ことが示されているものの、「ニッケル合金」を用いたときに「熱放射性の高い」ことは何ら示されていない。
そして、金属の放射率は金属元素の種類によって異なることが技術常識であることに照らせば、特許発明2は、「一次粒子層」が「ニッケル合金微粒子又はその集合体」である場合に、上記課題を解決し得るか否かが不明である。
そうすると、「一次粒子層」が「ニッケル合金微粒子又はその集合体」であることを含む特許発明2は、その発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
したがって、特許発明2及びその引用発明である特許発明3、5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
なお、本件特許明細書の実施例8には、「一次粒子層」が「Ni-Co」である金属箔の放射率が0.72であることが示されているものの、実施例8は、「合金被覆層」が「Ni-P」であって「Co、Co-Pのいずれか」ではないから、特許発明2に含まれるものではない。

よって、本件の請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 特許法第36条第6項第2号について
特許発明1は、「一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持」つという発明特定事項を含むものである。
一方、本件特許明細書(上記第2 4(1)参照。)には、「コバルト又はコバルト合金微粒子」と「合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面」について、「以上、結果として得られる微粒子サイズは0.1?2μm程度がよく、・・・(略)・・・」(【0024】)と記載されているものの、「コバルト又はコバルト合金微粒子」と「合金被覆層の粒子径」の定義及びその測定方法は記載されていない。この点について、仮に、図2(上記第2 4(2)参照。)のSEM写真から「粒子径」を測定するとしても、どのような基準に基いて「粒子」を確定し、当該「粒子」についてどのように「粒子径」を測定するのか不明である。
ここで、一般に、「粒子径」の測定方法には、画像解析法、レーザ回折・散乱法、電気的検知法、沈降法等様々な方法が存在し、「粒子径」の定義としては、長軸径、短軸径、フェレー径、マーチン径、定方向最大径(以上、幾何学径)、周長円相当径、投影面積円相当径、表面積球相当径(以上、相当径)等様々なものが存在し、これらの「粒子径」の定義及び測定方法が異なれば「粒子径」の値が異なることは技術常識である。
そして、上記技術常識に照らしても、本件特許明細書の記載から、「粒子径」の定義及び測定方法を確定することができない。
そうすると、測定すべき「粒子」を確定することができず、仮に、SEM写真において「粒子」を確定したとしても、その「粒子径」の定義及び測定方法は不明であって、どの「粒子径」の測定方法を採用するかによって、「粒子径」を一義的に決定することができず、同一の「粒子」に対して、異なる「粒子径」が求められるため、同じ「粒子」であっても、特許発明1に含まれたり含まれなかったりすることが生じることとなるから、特許発明1の上記発明特定事項は明確であるとはいえない。
したがって、特許発明1及びその引用発明である特許発明3?5は、明確であるとはいえない。

また、同様の理由により、特許発明2の「一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をも」つという発明特定事項も明確であるとはいえない。
したがって、特許発明2及びその引用発明である特許発明3、5は、明確であるとはいえない。

よって、本件の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由及び取消理由(決定の予告)のいずれにおいても採用しなかった申立理由について
ア 特許法第36条第6項第1号について
本件特許発明の解決しようとする課題は、上記(1)イによれば、「電気、電子部品などに応用できる熱放射性の高い金属材料を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、特許発明1は、「一次粒子層のコバルト又はコバルト合金微粒子と前記被覆層のNi、Ni-P、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面を持」つという発明特定事項を、特許発明2は、「一次粒子層のニッケル又はニッケル合金微粒子と前記被覆層のCo、Co-Pの合金被覆層の粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をも」つという発明特定事項を、それぞれ含むものである。
ここで、特許発明1及び特許発明2の上記発明特定事項の「粒子径が0.1?2μm」であることと上記課題との関係については、本件特許明細書には特段の記載はない。
また、上記発明特定事項の「粒子径が0.1?2μmの微粒子粗化面をも」つという発明特定事項の「微粒子粗化面」は、μm単位前後の粗化度であるから、上記課題の「熱放射性」への影響は少ないと考えられる。
そうすると、特許発明1、2の上記発明特定事項が、実施例として記載されていなかったとしても、上記課題への影響の少ない発明特定事項であるから、本件特許発明が上記課題を解決できないとはいえない。
したがって、特許発明1、2及びその引用発明である特許発明3?5は、特許発明1、2の上記発明特定事項がなければ上記課題が解決できないということはできないから、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
よって、本件の請求項1?5に係る特許は、特許発明1、2の上記発明特定事項について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

4 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲及び明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、特許法第114条第2項の規定の基づき、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-25 
出願番号 特願2012-160348(P2012-160348)
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (C25D)
P 1 651・ 536- ZB (C25D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
板谷 一弘
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6045235号(P6045235)
権利者 福田金属箔粉工業株式会社
発明の名称 高放射率金属箔  
代理人 前川 真貴子  
代理人 安藤 順一  

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