• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G01D
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する G01D
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する G01D
管理番号 1342245
審判番号 訂正2018-390082  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-05-17 
確定日 2018-07-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4432764号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4432764号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

特許第4432764号に係る出願は、平成16年12月16日(優先権主張 平成16年5月19日、平成16年7月5日)に特願2004-364752号として出願されたものであって、平成22年1月8日に特許権の設定登録がなされ、平成30年5月17日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 請求の趣旨と訂正の内容

本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第4432764号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は請求人が付したものである。)。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5を削除する。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の磁気エンコーダの製造方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、磁性体粉の含有量を75体積%に特定した上で独立形式に改め、
「回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用の磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用いることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。」
に訂正する。

3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の磁気エンコーダの製造方法。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、磁性体粉の含有量を75体積%に特定し、さらに接着剤をフェノール樹脂を含有するものに特定した上で独立形式に改め、
「回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用の磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用い、
前記接着剤は少なくともフェノール樹脂を含有することを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。」
に訂正し、新たに請求項6とする。

4 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法」とあるうち、請求項3を引用するものについて、訂正後請求項3又は6を引用する形式に改め、
「前記磁石部が接着される前記固定部材の表面には、凹凸が形成されることを特徴とする請求項3又は6に記載の磁気エンコーダの製造方法。」
に訂正し、新たに請求項7とする。

5 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかにより製造される」とあるうち、請求項3又は4を引用するものについて、訂正後請求項3、6又は7を引用する形式に改め、
「磁気エンコーダを有する車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、請求項3、6、7のいずれかにより製造されることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。」
に訂正し、新たに請求項8とする。

6 訂正事項6
明細書の段落【0010】の
「(1)回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備えたことを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
(2) 前記接着剤は少なくともフェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂の一方を含有することを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダの製造方法。
(3)前記磁石材料は、異方性用の磁性体粉を60?80体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、及びポリフェニレンサルファイドを用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載の磁気エンコーダの製造方法。
(4) 前記磁石部が接着される前記固定部材の表面には、凹凸が形成されることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
(5) 磁気エンコーダを有する車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、(1)?(4)のいずれかの方法により製造されることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。」との記載を
「(1)回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用のストロンチウムフェライト磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用いることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
(2)前記接着剤は少なくともフェノール樹脂を含有することを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダの製造方法。
(3) 前記磁石部が接着される前記固定部材の表面には、凹凸が形成されることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
(4) 磁気エンコーダを有する車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、(1)?(3)のいずれかの方法により製造されることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。」に訂正する。

7 訂正事項7
明細書の段落【0030】の「亀裂等がはっせいする」との記載を「亀裂等が発生する」に訂正する。

8 訂正事項8
明細書の段落【0046】の「スリンガ40」との記載を「スリンガ50」に訂正する。

9 訂正事項9
明細書の段落【0066】の「促進させせずに」との記載を「促進させずに」に訂正する。

10 訂正事項10
明細書の段落【0075】の「硬化反応進が行せず」との記載を「硬化反応が進行せず」に訂正する。

11 訂正事項11
明細書の段落【0079】の「磁石部70がスリンガ72から」との記載を「磁石部60がスリンガ70から」に訂正する。

12 訂正事項12
明細書の段落【0086】の「対する)接着層」との記載を「対する接着層」に訂正する。

13 訂正事項13
明細書の段落【0115】の「実施例3?6」との記載を「参考例3?6」に訂正し、明細書の段落【0116】の【表2】の「実施例3」「実施例4」「実施例5」「実施例6」との記載を「参考例3」「参考例4」「参考例5」「参考例6」に訂正し、明細書の段落【0119】の「実施例3?実施例6」との記載を「参考例3?参考例6」に訂正する。

14 訂正事項14
明細書の段落【0122】の「実施例4の試験体」との記載を「実施例8の試験体」に訂正する。

15 訂正事項15
明細書の段落【0125】の「図3」との記載を「図6」に訂正する。

16 訂正事項16
明細書の段落【0136】【図4】の「第2実施形態」との記載を「第3実施形態」に訂正し、同段落【図5】の「第2実施形態」との記載を「第3実施形態」に訂正する。

17 訂正事項17
明細書の段落【0136】【図7】の「第3実施形態」との記載を「第4実施形態」に訂正する。

第3 当審の判断

1 訂正事項1
(1)訂正の目的
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5を削除するというものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5を削除するというものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5を削除するというものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
(4)独立特許要件
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5を削除するというものであって、本件訂正後の、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見できない。したがって、訂正事項1は特許法第126条第7項に規定する要件を満たすものといえる。

2 訂正事項2、3
(1)訂正の目的
訂正事項2、3のうち、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用していたものを、訂正事項1において請求項1、2を削除したことに伴い請求項1、2の記載を引用せずに書き下し、請求項1を引用するものを請求項3とし、請求項2を引用するものを新たに請求項6とすること(以下、「訂正事項A」という。)については、特許法第126条第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項2、3のうち、訂正前の請求項3の発明特定事項である磁石材料における磁性体粉の含有量を「60?80体積%」から「75体積%」に訂正すること(以下、「訂正事項B」という。)については、数値範囲を狭めるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項3のうち、訂正前の請求項2の発明特定事項である接着剤の材料について、「少なくともフェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂の一方を含有する」から「少なくともフェノール樹脂を含有する」へと訂正すること(以下、「訂正事項C」という。)については、択一的記載の要素を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項2、3のうち、上記訂正事項Aについては、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項2、3のうち、上記訂正事項Bについては、訂正前の明細書の、実施例1?2、7?8における「プラスチック磁石材料(戸田工業製ストロンチウムフェライト含有12ナイロン系異方性プラスチック磁石コンパウンド「FEROTOP TP-A27N」(ストチウムフェライトの含有量75体積%))」(段落0105、0121)、実施例9?13における「プラスチック磁石材料(ストロンチウムフェライト含有ポリアミド樹脂組成物:バインダー樹脂はポリアミド12とポリアミド系ブロック共重合体とのアロイ材であり、ストロンチウムフェライトの含有量は75体積%)」(段落0128、0130)の数値のものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項3のうち、上記訂正事項Cについては、訂正前にあった択一的記載の要素を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項2、3のうち、上記訂正事項Aについては、実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項2、3のうち、上記訂正事項Bについては、「75体積%」は訂正前の「60?80体積%」に含まれ、「75体積%」に限定することにより新たな課題が解決されることになるわけでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項3のうち、上記訂正事項Cについては、訂正前にあった択一的記載の要素を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
(4)独立特許要件
訂正事項2、3は、そのうち、上記訂正事項B、Cについては特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正事項Bは数値範囲を狭めるものであり、訂正事項Cは訂正前にあった択一的記載の要素を削除するものであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるようなものでもない。そして、本件訂正後の、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見できない。したがって、訂正事項2、3は、特許法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすものといえる。

3 訂正事項4、5
(1)訂正の目的
訂正事項4のうち、訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれかを引用していたものを、訂正前の請求項3のみを引用するように訂正すること、及び、訂正事項5のうち、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれかを引用していたものを、訂正前の請求項3又は4のみを引用するように訂正すること(以下、「訂正事項D」という。)は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4のうち、訂正事項2、3により訂正前の請求項3に対応するものが訂正後の請求項の項番では請求項3又は6に変更されたことに伴い、訂正前の請求項4の項番を請求項7に繰り下げた上で、請求項7が請求項3又は6を引用するように訂正すること、及び、同様に、訂正事項5のうち、訂正事項2、3により訂正前の請求項3に対応するものが訂正後の請求項の項番では請求項3又は6に変更され、訂正事項4により訂正前の請求項4に対応するものが訂正後の請求項の項番では請求項7に変更されたことに伴い、訂正前の請求項5の項番を請求項8に繰り下げた上で、請求項8が請求項3、6、7のいずれかを引用するように訂正すること(以下、「訂正事項E」という。)は、引用する請求項の番号を請求項の項番の変更に整合させるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、訂正後の請求項7、8は、上記訂正事項B、Cに係る請求項3、6の記載を引用するものであるから、訂正事項4、5は、上記「2」「(1)」に記載した点においても、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項Dについては、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項Eについては、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項B、Cについては、上記「2」「(2)」に記載したように、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項Dについては、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項Eについては、実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
訂正事項4、5のうち、上記訂正事項B、Cについては、上記「2」「(3)」に記載したように、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
(4)独立特許要件
訂正事項4、5は、そのうち、上記訂正事項D及び訂正事項B、Cについては特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、上記訂正事項Dについては、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるようなものでもない。また、上記訂正事項B、Cについては、上記「2」「(4)」に記載したとおりである。そして、本件訂正後の、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見できない。
したがって、訂正事項4、5は、特許法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすものといえる。

4 訂正事項6
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0010】には訂正前の特許請求の範囲の記載に対応する記載が存在していたところ、訂正事項1ないし5に係る訂正により、該段落【0010】の記載が、訂正後の特許請求の範囲の記載とは対応せずに不明瞭な記載となったことに伴い、訂正事項6は、明細書の段落【0010】の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と対応させるものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項6は、明細書の段落【0010】の記載を訂正事項1ないし5に係る訂正後の特許請求の範囲の記載と対応させるものであり、上記「1」「(2)」、「2」「(2)」、「3」「(2)」に記載したのと同様に、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項1ないし5は、上記「1」「(3)」、「2」「(3)」、「3」「(3)」に記載したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない訂正であるところ、訂正事項6は、明細書の段落【0010】の記載を訂正事項1ないし5に係る訂正後の特許請求の範囲の記載と対応させるものであるから、訂正事項1ないし5に係る訂正後の特許請求の範囲の記載と対応する事項については、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。また、訂正事項6には、その他、請求項に記載された事項の解釈に影響を与え、その結果、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することに至るような事項も存在しない。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

5 訂正事項7-12、14-17
(1)訂正の目的
訂正事項7-12、14-17は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであり、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項7-12、14-17は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項7-12、14-17は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであり、また、その正しい記載が自明な事項として定まるものであって、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。
(4)独立特許要件
訂正事項7-12、14-17は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであり、また、その正しい記載が自明な事項として定まるものであって、本件訂正後の、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見できない。したがって、訂正事項7-12、14-17は特許法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすものといえる。

6 訂正事項13
(1)訂正の目的
訂正事項13は、請求項3、6における上記訂正事項Bに係る訂正(磁石材料における磁性体粉の含有量を「60?80体積%」から「75体積%」に訂正するもの)に伴い、訂正された特許請求の範囲の請求項3、6、7又は8に係る発明の発明特定事項である、磁石材料における磁性体粉の含有量の数値範囲に含まれないこととなった訂正前の明細書における実施例3ないし6について、実施例3ないし6という記載を参考例3ないし6と訂正することで、訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項13は、訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項13は、訂正された特許請求の範囲の記載に含まれなくなった実施例を参考例と表現するよう訂正するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定を満たすものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気エンコーダの製造方法及び車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転数を検出するために用いられる磁気エンコーダの製造方法及び車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のスキッド(車輪が略停止状態で滑る現象)を防止するためのアンチスキッド、又は有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール(発進や加速時に生じやすい駆動輪の不要な空転の制御)などに用いられる回転数検出装置としては、N極とS極とを円周方向に交互に着磁された円環状のエンコーダと、エンコーダの近傍における磁場の変化を検出するセンサとを有し、車輪を支持する軸受を密封するための密封装置にエンコーダを併設して配置することにより車輪の回転と共にエンコーダを回転せしめ、車輪の回転に同期した磁場変化をセンサにより検出するものが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のシール付回転数検出装置は、図8に示すように、外輪101aに取り付けられたシール部材102と、内輪101bに嵌合されたスリンガ103と、スリンガ103の外側面に取り付けられて磁気パルスを発生するエンコーダ104と、エンコーダ104に近接して配置されて磁気パルスを検出するセンサ105とから構成されている。このシール付回転数検出装置が取付けられた軸受ユニットでは、シール部材102とスリンガ103とにより、埃等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部に充填された潤滑剤が軸受外部に漏洩することを防止している。また、エンコーダ104は、内輪101bが1回転する間に、極数に対応した数の磁気パルスを発生させ、この磁気パルスをセンサ105により検出することで内輪101bの回転数を検出している。
【0004】
従来、車輪用軸受に使用する磁気エンコーダには、ゴムあるいは樹脂等の弾性素材に磁性体粉を混入させた弾性磁性材料が用いられる。磁性ゴムからなるエンコーダは、加硫接着によりスリンガと好適に接合されているため、過酷な温度環境下(-40℃?120℃)において生じるスリンガとの熱伸張差を、その弾性変形により吸収することができる。このため、上記のような温度環境下においてもスリンガに対する固着性が維持され、剥がれの問題が生じ難い。一般的に、エンコーダ用として用いられるのは、磁性体粉としてフェライトを含有したニトリルゴムが用いられており、ロールで練られることで、機械的に磁性体粉が配向された状態になっている。
【特許文献1】特開2001-255337号公報
【特許文献2】特開2003-57070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車輪の回転数をより正確に検出するために、磁気エンコーダの磁石部を円周方向にさらに多極化する傾向にある。しかしながら、従来の機械配向法によるフェライト粉を含有するゴム磁石では、一極あたりの磁束密度が小さくなり、回転数を精度よく検出するためにはセンサと磁石との隙間(即ち、エアギャップ)を小さくする必要があるため組み立てが困難となる虞がある。このため、組み立て性の面からエアギャップを大きくとるためには、磁石の磁気特性を向上させる必要があった。しかし、磁気特性を向上させるために磁性体粉の混入量を多くした場合、ゴム磁石の弾性が低下するため、優れた耐熱衝撃性が著しく損なわれることになる。このため、ゴム磁石とスリンガとの間の熱伸張差の吸収作用が損なわれるので、ゴム磁石がスリンガから剥離して脱落する虞がある。
【0006】
一方、プラスチックに磁性体粉を混入したプラスチック磁石は、ゴム磁石に対して、比較的多量の磁性体粉を混入することが可能であり、この点において、ゴム磁石を凌ぐ磁気特性を有するエンコーダ素材となり得る可能性を持つ。更に、プラスチック磁石は、磁界をかけた状態での射出成形(磁場成形)が容易であり、これにより、優れた磁気特性発現に不可欠な異方性磁石を得ることができる。
【0007】
しかしながら、プラスチック磁石は、ゴム磁石のように加硫接着法によりスリンガに定着させるという手法を採ることができないため、通常、単純に接着剤等により接合するか、インサート成形法により一体的に成形するという手法が採られるが、いずれの方法によっても、バインダーであるプラスチックの種類によっては、加硫接着の場合と同等の、大きな接着強度を得ることができない場合があった。そして、そのような場合には、過酷な使用環境下では、最悪、剥がれの問題が生じる可能性があった。
【0008】
また、プラスチック磁石は、通常、ゴム磁石のような柔軟性がないため、急激な温度変化時の熱膨張差の吸収作用がほとんどなく、磁性体粉の配合量を高めたゴム磁石の場合と同様、剥がれの問題が生じる可能性があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、過酷な使用条件においても磁石部が固定部材より脱落することを防止し、磁気特性が高く、高精度な回転数検出を可能にした信頼性の高い磁気エンコーダの製造方法及び車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用のストロンチウムフェライト磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用いることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
(2) 前記接着剤は少なくともフェノール樹脂を含有することを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダの製造方法。
(3) 前記磁石部が接着される前記固定部材の表面には、凹凸が形成されることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
(4) 磁気エンコーダを有する車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、(1)?(3)のいずれかの方法により製造されることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンコーダの製造方法及び車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法は、過酷な使用条件においても磁石部が固定部材より脱落することを防止し、磁気特性が高く、高精度な回転数検出を可能にした信頼性の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のエンコーダの製造方法の各実施形態例について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態の一例として、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニット2aに、本発明を適用した場合について示している。尚、本発明の特徴以外の構成及び作用については、従来から広く知られている構造と同等であるから、説明は簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げる事により形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付ける事で、ハブ7aに結合固定されている。そして、このハブ7aと内輪16aは回転輪を構成している。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、固定輪である外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取付フランジ12に、結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0015】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれシールリング21a、21bを設けている。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面と上記ハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた空間と外部空間とを遮断している。
【0016】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0017】
また、図2に示すように、磁気エンコーダ26は、固定部材であるスリンガ25と、スリンガ25の側面に固着された磁石部である磁極形成リング27とで構成される。図3に示すように、磁極形成リング27は多極磁石であり、その周方向には、交互にN、Sが形成されている。そして、この磁極形成リング27に磁気センサ28が対面配置される。
【0018】
本発明では、磁気エンコーダ26の磁極形成リング27は、磁性体粉と、そのバインダーとなるプラスチック組成物とからなる多極磁石により構成される。また、本発明に係る磁気エンコーダは、フェノール樹脂系接着剤を焼き付けたスリンガをコアにして、プラスチック磁石材料のインサート成形を行った後、二次加熱によって該フェノール樹脂系接着剤を完全に硬化させることで該磁石材料とスリンガを一体的に接着接合した後、円周方向に多極磁化することで、製造される。
【0019】
以下、本発明のエンコーダの磁石部とスリンガとの接着に使用するフェノール樹脂系接着剤について詳細に説明する。
本発明で用いるフェノール樹脂系接着剤は、少なくともレゾール型フェノール樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を含み、例えば100℃?120℃、数分?30分程度の硬化条件で、インサート成形時の高温高圧の溶融プラスチック磁石材料によって流失されない程度の半硬化状態でスリンガに焼き付けることができ、更に、インサート成形時の溶融プラスチック磁石からの熱、更には、それに引き続く二次加熱(例えば130℃、2時間程度)によって完全に硬化するものである。尚、このフェノール樹脂系接着剤には、耐硬化歪み性を向上させる効果がある無機充填材(具体例としては、例えば溶融シリカ粉末、石英ガラス粉末、結晶ガラス粉末、ガラス繊維、アルミナ粉末、タルク、アルミニウム粉末、酸化チタン)、可撓性を向上させるため、架橋ゴム微粒子(具体的には分子鎖中にカルボキシル基を有する加硫された、平均粒子径で30?200nm程度のアクリロニトリルブタジエンゴム微粒子が最も好適)等を更に添加しても良い。
【0020】
尚、本発明で用いられるフェノール樹脂系接着剤を構成するレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドとを塩基性触媒の存在下で反応させることによって得られる。また、その原料となるフェノール類としては、例えばフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾールとo-クレゾールの混合物、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基に対して、o-および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するものであれば任意のものを使用することができる。
【0021】
更に、本発明に用いられるレゾール型フェノール樹脂は、例えばフェノール樹脂にo-またはp-アルキルフェノールを導入した変性レゾールであっても良い。通常、o-またはp-アルキルフェノールの導入により、フェノール樹脂の可撓性が改善されることになる。同様の理由から、レゾールをブチルアルコールでエーテル化したブチルエーテル化レゾールやロジンとレゾールとの反応により得られるロジン変性レゾール等を使用しても良い。
【0022】
尚、本発明に係るフェノール樹脂系接着剤には、その接着性能および接着剤としての硬化特性を向上させるために、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が添加して用いられる。尚、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、室温条件下で液状、あるいは固形のものがあるが、それらが、本発明に係る接着剤に含まれるフェノール樹脂100重量部当り、液状樹脂の場合には約1?20重量部、または固形樹脂の場合には約5?30重量部の割合で用いられる。用いられるビスフェノールA型エポキシ樹脂の割合が多い程、接着特性は向上するが、耐不凍液性等が求められる場合、その性能が低下する傾向にある。
【0023】
更に、本発明に係るフェノール樹脂系接着剤には、強靭性の付与を目的として、ノボラック型エポキシ樹脂あるいはノボラック型フェノール樹脂を添加しても良い。これらの樹脂は、加熱工程でレゾール型フェノール樹脂と反応するため、その含有量が増大するほど強靭性が向上することになる。ただし、その含有量は、レゾール型フェノール樹脂100重量部当り、30重量部以下であることが望ましい。これは、ノボラック型エポキシ樹脂あるいはノボラック型フェノール樹脂がこれ以上の割合で使用されると、プラスチック磁石に対する接着性に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0024】
尚、本発明に係るフェノール樹脂系接着剤は、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類が一般に用いられる有機溶媒中に、少なくともレゾール型フェノール樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む接着剤組成物を約5?40重量%の固形分濃度で溶解させた有機溶媒溶液として調整され、使用される。
【0025】
以上説明してきた、本発明に係るフェノール樹脂系接着剤を用いての磁気エンコーダの製作は、ステンレススチール製のスリンガ上にこれを塗布し、室温条件下で20?60分放置して風乾させた後、約120℃で約30分間程度の条件で加熱処理(焼付け処理)を行う。加熱処理して接着剤を焼き付けたスリンガを金型にセットし、それをコアとしてプラスチック磁石材料をインサート成形を行う。その後、得られた成形体を、約130℃で約2時間程、加熱(二次硬化)させる。さらに、加熱処理して得られるプラスチック磁石とスリンガの接着物を、ヨークコイルを用いて多極に着磁することで、磁気エンコーダが製作される。
【0026】
また、スリンガの材質としては、エンコーダ磁石の磁気特性を低下させず、尚且つ使用環境からいって、一定レベル以上の耐食性を有するフェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の磁性ステンレス鋼が最も好ましい。ただし、該スリンガは、その接着面を脱脂するだけでは十分な接着を得ることができないため、高信頼性の接着を確保するためには、物理的あるいは化学的な処理方法により表面を適当な粗面にしておくことが好ましい。尚、本発明の磁気エンコーダの作製方法に係る、特に好適なスリンガの表面処理方法としては、第4実施形態で詳述する化学エッチング法がある。この方法によれば、表面凹凸が化学的に形成されるため、ショットブラスト法など機械的手法による凹凸に比べ、形状依存性がなく、全表面に均一に形成され、部分的に凹部の内側空間が広くなったようなシャープな(角のある)窪み状の凹凸が得られる。即ち、化学エッチング法による凹凸は、非常に接着剤が入り込みやすい好適な形状となっているのである。従って、化学エッチング処理を施したスリンガを用いた場合には、他の処理を施した場合や、凹凸がないスリンガを用いた場合と比較して、非常に強固な接着を得ることができる。さらに、プライマーとしてシランカップリング剤をスリンガに下塗りすることで、接着剤の密着性を向上させることができる。
【0027】
本発明の磁気エンコーダに係る、プラスチック磁石材料としては、異方性用の磁性体粉を60?80体積%含有し、熱可塑性プラスチックをバインダーとした異方性磁石コンパウンドを好適に用いることができる。磁性体粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄等の希土類磁性体粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。磁性体粉の含有量が60体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になり、好ましくない。それに対して、磁性体粉の含有量が80体積%を越える場合は、樹脂バインダー量が少なくなりすぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下する。バインダーとしては、射出成形可能な熱可塑性樹脂が好適であり、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11のようなポリアミド系樹脂およびポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いることができる。なお、エンコーダに融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるので、吸水性が少ないポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、PPSを樹脂バインダーとするのが特に好ましい。
【0028】
尚、本発明に係る、磁気エンコーダを構成するプラスチック組成物には、靭性を付与させるために、例えばカルボキシル化スチレン-ブタジエンゴム加硫体の微粒子を、また、スリンガに対する接着性を高めるために、例えばグリシジルメタクリレートを一成分とする共重合体のような接着性改質剤を、適宜添加しても良い。
【0029】
また、本発明で用いられるプラスチック磁石材料は、リング状磁石の厚み方向に磁区配向(アキシアル異方性)したものが好ましく、磁気特性としては最大エネルギー積(BHmax)で1.3?15MGOe、より好ましくは1.8?12MGOeの範囲である。最大エネルギー積が1.3MGOe未満の場合は、磁気特性が低すぎるため、回転数を検知するためにセンサとの距離をかなり接近させて配設する必要があり、従来のフェライト含有ゴム磁石と大差がなく、性能向上が望めない。最大エネルギー積が15MGOeを越える場合は、過剰な磁気特性を有すると共に、比較的安価なフェライトを中心とした組成では達成不可能であり、ネオジウム-鉄-ボロン等の希土類磁性体粉を多量に配合する必要があるので、非常に高価で、尚且つ成形性も悪く実用性が低い。また、磁性体粉として、希土類系を使用した場合、フェライト系に比べて、耐酸化性が低いので、長期間に渡って安定した磁気特性を維持させるために、磁石表面に、更に表面処理層を設けてもよい。表面処理層としては、電気あるいは無電解ニッケルメッキ、エポキシ樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜、フッ素樹脂塗膜等を具体的に用いることができる。
【0030】
エンコーダ部の成形は、内径厚み部から溶融したプラスチック磁石材料が同時に金型中に高圧で流れ込み、金型中で急冷され固形化する、ディスクゲート方式の射出成形が好ましい。溶融樹脂はディスク状に広がってから、内径厚み部にあたる部分の金型に流入することで、中に含有する燐片状の磁性体粉が面に対して平行に配向する。特に、内径厚み部近傍の、回転センサの検出する内径部と外径部との間の部分はより配向性が高く、厚さ方向に配向させたアキシアル異方性に非常に近くなっている。成形時に金型に、厚さ方向に磁場をかけるようにすると、異方性はより完全に近いものとなる。尚、磁場成形を行なっても、ゲートをディスクゲート以外の、例えばピンゲートとした場合、徐々に固形化に向かって樹脂粘度が上がっていく過程で、ウェルド部での配向を完全に異方化するのは困難であり、それによって、磁気特性が低下すると共に、機械的強度が低下するウェルド部に、長期間の使用によって亀裂等が発生する可能性があり好ましくない。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る製造方法によれば、過酷な使用条件下においても、スリンガより剥離して脱落することがない、高信頼性の磁気エンコーダの作製が可能である。また、本実施形態の製造方法によって得られるプラスチック磁石中の磁性体粉は、円環状の磁石の厚み方向に高度に配向しているため、その着磁により得られるエンコーダの磁気特性は極めて良好なものとなる。このため、磁石中の磁性体粉の含有量によっては、従来では20mT程度であった磁束密度を26mT以上に向上させることが可能である。よって磁気エンコーダとセンサとのギャップを従来と同様に1mmとした場合に、従来では96極に多極磁化されていた物を、一極当りの磁束を維持して120極以上に多極磁化することが可能である。この時、単一ピッチ誤差は±2%以下とできる。即ち、本実施形態に係る磁気エンコーダによれば、従来と同等のエアギャップとした場合に、極数を増加させて車輪の回転速度の検出精度を向上させることができる。また、本実施形態に係るプラスチック磁石を従来と同数の極数とした場合に、エアギャップを大きくとることができ、センサを配置する際の自由度を向上させることができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニットについて、詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については同一符号を付し、説明を省略或いは簡略化する。
【0033】
本実施形態の磁気エンコーダ26では、固定部材であるスリンガ25と、磁石部である磁極形成リング27とを備える。磁極形成リング27は、第1実施形態のものと同様の組成を有する磁性体粉と、そのバインダーとなるプラスチック、具体的には、ポリアミド系樹脂にポリアミド用可塑剤(以下、「特定のポリアミド用可塑剤」という)が添加された樹脂組成物とからなる、多極磁石により構成される。
【0034】
樹脂組成物におけるプラスチック成分としては、ポリアミド系樹脂、具体的には、第1実施形態同様、融雪材として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるという点を考慮して、吸水性が少ないポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612が用いられる。
【0035】
一方、特定のポリアミド用可塑剤は、フェノールあるいはクレゾールと不飽和脂肪族エステル類との付加物を主成分とするものであり、具体的には、フェノールとオレイン酸メチル、もしくはクレゾールとオレイン酸2-エチルヘキシルとの反応により得られる、粘ちょうのフェノール樹脂である。ところで、本実施形態に係る特定のポリアミド用可塑剤は、可塑剤の水酸基がポリアミドのアミド結合と相互作用することで、可塑化効果が発揮されるものであるが、その大きな特徴は、可塑剤を構成するオレイン酸エステルが、可塑剤としては比較的高分子量体であり、高温の使用下においても揮発し難い点にある。つまり、特定のポリアミド用可塑剤を使用することで、他のポリアミド用可塑剤、例えば、ブチルベンゼンスルホンアミドやパラヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル等を用いた場合、しばしば高温での使用時に観察されるような、成形品の寸法変化や物性低下が、最小限に抑制されるのである。
【0036】
そして、係る特定のポリアミド用可塑剤の配合量は、樹脂組成物の総重量に対して、1?20重量%、好ましくは5?15重量%である。1重量%未満では絶対量が少なすぎてエンコーダとした場合、過酷な温度環境下におけるクラック発生を未然に防止できるような、充分な柔軟性を付与することがない。また、20重量%を越えた場合は、材料全体の強度や耐熱性の低下等の悪影響が顕在化するため好ましくない。
【0037】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、酸化防止剤、耐侯性改良材、帯電防止材、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強剤等を必要に応じて適宜添加してもよい。
なお、本実施形態のスリンガ25、及び、フェノール樹脂系接着剤は、第1実施形態のものと同様である。
【0038】
本実施形態に係る磁気エンコーダ26の製造方法は、フェノール樹脂系接着剤を焼き付けたスリンガをコアにして、特定のポリアミド用可塑剤を含むポリアミド系樹脂組成物と磁性体粉からなる磁石材料のインサート成形を行った後、二次加熱によってフェノール樹脂系接着剤を完全に硬化させることで磁石材料とスリンガを一体的に接着接合した後、円周方向に多極磁化することで製造される。
【0039】
なお、成形材料としてのプラスチック磁石材料は、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、磁性体粉にポリアミド系樹脂と特定のポリアミド用可塑剤を混練して、通例の方法を用いて、磁性体粉を含むポリアミド系樹脂組成物のペレットを作製しておく。
【0040】
従って、本実施形態に係る、磁性体粉と特定のポリアミド用可塑剤を含むポリアミド系樹脂組成物とからなる磁石材料による磁気エンコーダによれば、磁石部は、特定のポリアミド用可塑剤の添加により、成形品の結晶性が制御されて適度な柔軟性が付与されることで、例えば、急激な温度変化時に印加される熱的衝撃を、その変形作用により好適に吸収することができるようになり、そして、その結果として、表面割れの発生が未然に防止される。従って、第1実施形態の効果に加え、繰り返しの振動や冷熱といった使用条件下においても、スリンガより剥離して脱落することがない、より信頼性の高い磁気エンコーダの作製が可能である。
【0041】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る磁気エンコーダ付シール装置が組み付けられた転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0042】
図4および図5に示すように、本実施形態である磁気エンコーダを備えた転がり軸受ユニット30は、固定輪である外輪31と、回転輪(回転体)である内輪32と、外輪31及び内輪32により画成された環状隙間に転動自在に配置され且つ保持器34により円周方向に等間隔に保持された複数の転動体である玉33と、前記環状隙間の開口端部に配設された密封装置35と、磁気エンコーダ36と、センサ37とを備えている。
【0043】
密封装置35は、外輪31の内周面に装着されたシール部材40と、シール部材40よりも軸受外方に配置され且つ内輪32の外周面に固定されたスリンガ50とを有しており、シール部材40とスリンガ50とによって前記環状隙間の開口端部を塞ぎ、埃等の異物が軸受内部に進入することを防止すると共に軸受内部に充填された潤滑剤が漏洩することを防止している。そして、磁気エンコーダ36は、スリンガ50とこのスリンガ50に取付けられた磁石部60と、から構成されており、磁石部60はスリンガ50を固定部材として回転体である内輪32に固定されている。
【0044】
シール部材40は、断面略L字形の円環状に形成された芯金41により、同じく断面略L字形の円環状に形成されたシールリップ42を補強して構成されており、外輪31に内嵌して装着されている。シールリップ42の先端部は複数の摺接部に分岐しており、各摺接部は、スリンガ50のフランジ部52の軸受内方に面する端面、または嵌合部51の外周面に、全周に亙ってそれぞれ摺接している。これにより高い密封力を得ている。
【0045】
スリンガ50は断面L字形の円環状に形成されており、内輪32の外周面に外嵌する略円筒状の嵌合部51と、嵌合部51の片側端部から半径方向に展開した鍔状のフランジ部52と、嵌合部51の片側端部を折り曲げることで、フランジ部52の内径側でフランジ部52より軸方向外方に突出する突き出し部53と、を有している。また、突き出し部53の外周面には、周方向に部分的に形成された切欠き54が設けられている。フランジ部52の軸受外方に面する端面(以後、接合面と称する。)52aには、内輪12の回転に同期して近傍の磁場(例えば、磁束密度)を変化させる磁石部60が接合されている。そして、同時に、磁石部60は、切欠き54とフランジ部52の外周部分とも機械的に接合されている。
【0046】
スリンガ50は、第1実施形態と同様、フェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の磁性ステンレス鋼製からなる。そして、本実施形態の磁性ステンレス鋼製のスリンガの表面には、化学エッチング処理による粗面化処理が以下の工程で施されている。
【0047】
第一の工程では、スリンガの表面をアルカリ脱脂剤にて清浄した後、常温の希塩酸等中に数分間浸漬して酸洗後、少なくともシュウ酸イオンとフッ素化合物イオンを含有するシュウ酸鉄処理液に数分間浸漬して、表面にシュウ酸鉄皮膜が形成される。第二の工程では、このシュウ酸鉄皮膜が形成された磁性ステンレス鋼製のスリンガを、常温で硝酸-フッ化水素酸混酸の水溶液などに数分間浸漬し、下地のステンレス鋼が浸されないレベルまで、シュウ酸鉄皮膜の大部分が除去され、スリンガ表面に化学エッチングされた凹凸が形成される。この凹凸は化学的に形成されるので、ショットブラスト法などによる機械的凹凸に比べて、形状依存性がなく、全表面に均一に形成され、部分的に凹部の内側空間が広くなったようなシャープな(角のある)窪み状の凹凸となる。それによって、このスリンガをコアにしてインサート成形することで、この凹部に溶融したプラスチック磁石材料が入り込み、機械的に接合される。またこの凹凸には、接着剤も入り込みやすく、接着剤をスリンガに塗布後半硬化状態で焼き付けたものをコアにしてインサート成形し、必要に応じて二次加熱することで、凹凸がないスリンガを用いたものに比べて強固な接着状態を達成することができる。
【0048】
また更に防錆性あるいは接着剤の密着性を向上させる第三の工程を行ってもよい。防錆性を向上させる処理の具体例としては、第二工程で使用したシュウ酸鉄皮膜処理であるが、第二工程でせっかく形成された凹凸表面を覆い尽くさないような微細な結晶で形成される薄膜が好ましい。この微細結晶を得る手段としては、処理前に表面調整液に浸漬処理して、結晶核を形成しておく方法が効果的である。
【0049】
接着剤の密着性を向上させる処理としては、シランカップリング剤処理が効果的である。シランカップリング剤皮膜は接着剤のプライマーとして働き、片末端に接着剤の官能基と反応性が高いアミノ基、エポキシ基等を有するものが好ましく、具体的には、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等であり、アルコール等の希釈液に浸漬後、必要に応じて乾燥することで形成される。第三工程で形成される皮膜の厚みは、0.01?1.0μm、より好ましくは0.01?0.5μmである。皮膜の厚みが0.01μm未満であると、防錆性、接着剤密着性の改善効果が乏しくなり、好ましくない。それに対して、皮膜の厚みが1.0μmを越えると、第二工程で設けた凹凸表面が覆い尽される割合が増えるので好ましくない。第二工程、あるいは第三工程まで行って得られたスリンガの表面の凹凸の状態は、JIS B 0601(2001)で規定される算術平均高さRaで0.2?2.0μm、最大高さRzで1.5?10μm程度である。凹凸の状態が下限値未満であると、くさび効果を発現させるのが困難になる。またそれに対して、凹凸の状態が上限値を越えるとそれだけくさび効果は向上するが、化学エッチング法で達成するのが難しいと共に、スリンガの裏面部が接触するゴムシールリップとのシール性が低下し好ましくない。
【0050】
本発明のエンコーダは、上記説明したように、インサート成形によって、化学エッチングによって設けられた凹凸に溶融したプラスチック磁石材料が入り込み、機械的に接合可能であるが、信頼性を向上させるために、これらの間に接着剤層を介在させた方がより好ましい。接着剤層は、インサート成形時に溶融した高圧のプラスチック磁石材料によって脱着し流失しない程度に半硬化状態になっており、溶融樹脂からの熱、あるいはそれに加えて成形後の二次加熱によって完全に硬化状態となる。使用可能な接着剤としては、溶剤での希釈が可能で、2段階に近い硬化反応が進むフェノール樹脂系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤等が、耐熱性、耐薬品性、ハンドリング性を考慮して好ましい。
【0051】
フェノール樹脂系接着剤は、ゴムの加硫接着剤として用いられているものが好適であり、組成としては特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を、メタノールやメチルエチルケトンなどの溶解させたものが使用できる。また、フェノール樹脂系接着剤は、第1実施形態で使用されたものであってもよい。
【0052】
エポキシ樹脂系接着剤としては、原液としては一液型エポキシ系接着剤で、溶剤への希釈が可能なものが好適である。この一液型エポキシ系接着剤は、溶剤を蒸発させた後、適当な温度・時間でスリンガ表面に、インサート成形時の高温高圧の溶融樹脂によって流失されない程度の半硬化状態となり、インサート成形時の樹脂からの熱、及び二次加熱によって完全に硬化状態となるものである。
【0053】
本発明で用いる一液型エポキシ系接着剤は、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤とからなり、硬化剤は室温近辺ではほとんど硬化反応が進まず、例えば100℃以上の熱を加えることによってはじめて熱硬化反応が進むものである。この接着剤には、反応性希釈剤として使用されるその他のエポキシ化合物、熱硬化速度を向上させる硬化促進剤、耐熱性や耐硬化歪み性を向上させる効果がある無機充填材、応力がかかった時に変形する可撓性を向上させる架橋ゴム微粒子等を更に添加しても良い。
【0054】
前記エポキシ樹脂としては、分子中に含まれるエポキシ基の数が2個以上のものが、充分な耐熱性を発揮し得る架橋構造を形成することができるなどの点から好ましい。また、4個以下、さらに3個以下のものが低粘度の樹脂組成物を得ることができるなどの点から好ましい。分子中に含まれるエポキシ基の数が少なすぎると、硬化物の耐熱性が低くなると共に強度が弱くなるなどの傾向が生じ、一方、分子中に含まれるエポキシ基の数が多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなると共に硬化収縮が大きくなるなどの傾向が生じるためである。
【0055】
また、前記エポキシ樹脂の数平均分子量は、200?5500、特に200?1000が、物性のバランスの面から好ましい。数平均分子量が少なすぎると、硬化物の強度が弱くなると共に耐湿性が小さくなるなどの傾向が生じ、一方、数平均分子量が大きすぎると、樹脂組成物の粘度が高くなると共に作業性調整のために反応性希釈剤の使用が多くなるなどの傾向が生じるためである。
【0056】
さらに、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100?2800、特に100?500が、硬化剤の配合量が適正範囲になるなどの点から好ましい。エポキシ当量が小さすぎると、硬化剤の配合量が多くなりすぎると共に硬化物の物性が悪くなるなどの傾向が生じ、一方、エポキシ当量が大きすぎると、硬化剤の配合量が少なくなると共にエポキシ樹脂自体の分子量が大きくなって樹脂組成物の粘度が高くなるなどの傾向が生じるためである。
【0057】
前記エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、シリコン変性エポキシ樹脂のような他のポリマーとの共重合体などが挙げられる。このうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが、比較的低粘度で、硬化物の耐熱性と耐湿性に優れるので好ましい。
【0058】
前記硬化剤としては、アミン系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、潜在性硬化剤等を用いることができる。
【0059】
アミン系硬化剤は、アミン化合物であり、硬化反応によりエステル結合を生成しないため、酸無水物系硬化剤を用いた場合に比べて、優れた耐湿性を有するようになり好ましい。アミン化合物としては、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミンのどれでもよいが、芳香族アミンが配合物の室温での貯蔵安定性が高いと共に、硬化物の耐熱性が高いので最も好ましい。
【0060】
芳香族アミンとしては、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,5-ジエチル-2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチル-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジエチル-2,6-トルエンジアミンと3,5-ジエチル-2,4-トルエンジアミンとの混合物、等を例示することができる。
【0061】
ポリアミド系硬化剤は、ポリアミドアミンとも呼ばれ、分子中に複数の活性なアミノ基を持ち、同様にアミド基を一個以上持つ化合物である。ポリエチレンポリアミンから合成されるポリアミド系硬化剤は、二次的な加熱によりイミダジリン環を生じ、エポキシ樹脂との相溶性や機械的性質が向上するので好ましい。ポリアミド系硬化剤は、少量のエポキシ樹脂を予め反応させたアダクト型のものでもよく、アダクト型にすることで、エポキシ樹脂との相溶性に優れ、硬化乾燥性や耐水・耐薬品性が向上し好ましい。このポリアミド系硬化剤を用いることで、エポキシ樹脂との架橋により特に可撓性に富んだ強靭な硬化樹脂となるので、本発明の磁気エンコーダに求められる耐熱衝撃性に優れ、好適である。
【0062】
酸無水物系硬化剤で硬化した硬化物は、耐熱性が高く、高温での機械的・電気的性質が優れている一方でやや脆弱な傾向があるが、第三級アミン等の硬化促進剤と組み合わせることで改善が可能である。酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチレンエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等を例示することができる。
【0063】
潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂との混合系において、常温での貯蔵安定性に優れ、一定温度以上の条件下にて速やかに硬化するものであり、実際の形態としては、エポキシ樹脂の硬化剤たり得る酸性または塩基性化合物の中性塩又は錯体で加熱時に活性化するもの、マイクロカプセル中に硬化剤が封入され圧力により破壊するもの、結晶性で高融点かつ室温でエポキシ樹脂と相溶性がない物質で加熱溶解するもの等がある。
【0064】
潜在性硬化剤としては、高融点の化合物である1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、エイコサン二酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ジシアンジアミド、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド等を例示することができる。このうち、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジドは、硬化剤として使用することで、エポキシ樹脂との架橋により特に可撓性に富んだ強靭な硬化樹脂となるので、本発明の磁気エンコーダに求められる耐熱衝撃性に優れ、好適である。
【0065】
前記反応性希釈剤としては、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等を用いることができ、反応性希釈剤を添加することで硬化物に適度な可撓性を付与することができる。ただし、これらの反応性希釈剤は、多量に使用すると、硬化物の耐湿性や耐熱性を低下させるので、主体となるエポキシ樹脂の重量に対して、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下の割合で添加される。
【0066】
前記硬化促進剤としては、常温では硬化反応を促進させずに充分な保存安定性を有し、100℃以上の高温になったときに速やかに硬化反応を進行させるものが好ましく、例えば、分子内の1-アルコキシエタノールとカルボン酸の反応により生じるエステル結合を一個以上有する化合物等がある。この化合物は、例えば一般式(I):
R^(3)[COO-CH(OR^(2))-CH_(3)]_(n) (I)
(式中、R^(3)は炭素数2?10個で、窒素原子、酸素原子などの1種以上が含まれていてもよいn価の炭化水素基、R^(2)は炭素数1?6個で、窒素原子、酸素原子などの1種以上が含まれていてもよい1価の炭化水素基、nは1?6の整数)で表される化合物である。その具体例を化1に示す。
【0067】
【化1】

【0068】
他の具体例としては、R^(3)が2価のフェニル基でR^(2)がプロピル基の化合物、R^(3)が3価のフェニル基でR^(2)がプロピル基の化合物、R^(3)が4価のフェニル基でR^(2)がプロピル基の化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。このうち、化1で表される化合物が硬化反応性と貯蔵安定性のバランスの点から、最も好ましい。
【0069】
また、上記した化合物以外に、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物を硬化促進剤として用いても良い。
【0070】
また、硬化促進剤として、エポキシ基と反応して開環反応を引き起こすような活性水素を有する化合物である、例えばアジピン酸等のカルボン酸類を使用してもよい。硬化促進剤としてアジピン酸を使用することで、エポキシ樹脂のエポキシ基及び硬化剤のアミノ基と反応し、得られた硬化物はアジピン酸の添加量が増えるに従って可撓性を有するようになる。可撓性を発現させるためには、アジピン酸の添加量は、接着剤全量に対して、10?40重量%、より好ましくは20?30重量%である。添加量が10重量%未満の場合は、充分な可撓性が発現しない。それに対して、添加量が40重量%を越えると、その分エポキシ樹脂の接着剤中での全体量が減り、接着力、機械的強度が低下して好ましくない。尚、アジピン酸は、ポリアミド樹脂の出発原料でもあるので、磁性体粉のバインダをポリアミド12、ポリアミド6などのポリアミド系樹脂とした場合、バインダ材料自体に極微量残存するモノマーやオリゴマー成分との反応性も有し、アジピン酸を含有する接着剤組成とすることで、より強固な接着が可能である。
【0071】
更に硬化促進剤として、エポキシ基の開環反応を促進する触媒として働く、ジメチルベンジルアミン等の3級アミン、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩、3-(3’,4’-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素等のアルキル尿素などを添加しても良い。
【0072】
上記したアミン類等も含めて、上記の開環反応で生成したOH基は、被着材である金属表面の水酸基と水素結合を作り、また、バインダー材料であるナイロンのアミド結合等に作用して強固な接着状態を保つことができる。
【0073】
前記無機充填材としては、従来から使用されているものであれば特に限定なく使用することができる。例えば溶融シリカ粉末、石英ガラス粉末、結晶ガラス粉末、ガラス繊維、アルミナ粉末、タルク、アルミニウム粉末、酸化チタンなど挙げられる。
【0074】
前記架橋ゴム微粒子としては、エポキシ基と反応しうる官能基を有するものが好ましく、具体的には分子鎖中にカルボキシル基を有する加硫されたアクリロニトリルブタジエンゴムが最も好ましい。粒子径はより細かいものが好ましく、平均粒子径で30?200nm程度の超微粒子のものが、分散性と安定した可撓性を発現させるために最も好ましい。
【0075】
以上説明した一液型エポキシ接着剤は、常温ではほとんど硬化反応が進行せず、例えば80?120℃程度で半硬化状態となり、120?180℃の高温の熱を加えることによって完全に熱硬化反応が進むものである。より好ましくは、150?180℃で比較的短時間で硬化反応が進むものが好ましく、180℃程度の高周波加熱での接着が可能なものが最も好ましい。
【0076】
以上説明したフェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤の熱硬化後の硬化物は、物性として、曲げ弾性率あるいはヤング率が0.02?5GPa、より好ましくは0.03?4GPaの範囲であり、あるいは硬度(デュロメータDスケール;HDD)が40?90、より好ましくは60?85の範囲であることが好ましい。曲げ弾性率あるいはヤング率が0.02GPa未満、あるいは硬度(HDD)が40未満の場合は、接着剤自体が柔らか過ぎて自動車等の走行時の振動によって変形しやすく、それにより磁石部が動き易いため、回転数の検出精度が低下する虞があり好ましくない。一方、曲げ弾性率あるいはヤング率が5GPaを越える、あるいは硬度(HDD)が90を越える場合は、接着剤自体が硬すぎて、磁気エンコーダの磁石と固定部材との熱伸縮差(即ち、両者の線膨張係数の差による伸縮量の差)を吸収するように変形するのは難しく、最悪の場合、磁石に亀裂等が発生する虞があり好ましくない。本発明の一液型エポキシ系接着剤は、自動車での使用を前提とすると耐熱衝撃性が求められ、硬化状態で可撓性(応力がかかったときに変形する)を有するものがより好ましい。
なお、磁気エンコーダの磁石部の材料は、第1実施形態のものと同様である。
【0077】
また、磁気エンコーダの成形方法については、第1実施形態のものと同様、ディスクゲート方式の射出成形が好ましい。従って、本実施形態では、まず、スリンガは磁性ステンレス鋼に化学エッチング処理を施すことで、図6の断面電子顕微鏡写真に示されるように、表面が粗面化され、この表面に接着剤の半硬化皮膜が形成される。そして、このスリンガをコアにして厚み方向に磁界をかけた状態で、磁石原料を内周部のディスクゲートによる射出成形(インサート成形)することで、溶融した磁石原料がリング状に成形される。その後、金型中での冷却固化時に逆磁界をかけて脱磁されてから取り出される。さらに、ゲートカットを行ってから、接着剤を完全に熱硬化させるために、恒温槽等で一定温度、一定時間加熱する。場合によっては、工程中で高周波加熱等の高温、短時間加熱で、完全に硬化する工程としてもよい。また、インサート成形において、溶融した磁石材料は、スリンガ50の突き出し部53の切り欠き54に入り込んで、機械的に接合されると共に、フランジ部52の外周部分にも回りこみ、機械的に接合されている。
【0078】
接着後、着磁ヨークと共に、着磁機で、円周方向に多極磁化される。その極数は70?130極程度、好ましくは90?120極である。極数が70極未満の場合は、極数が少なすぎて回転数を精度良く検出することが難しくなる。それに対して、極数が130極を越える場合は、各ピッチが小さくなりすぎて、単一ピッチ誤差を小さく抑えることが難しく、実用性が低い。
【0079】
本実施形態の磁気エンコーダは、スリンガを内部空間が部分的に広がった化学エッチング処理を伴う粗面化(凹凸)処理が施されたものとすることで、接着剤のくさび効果で、スリンガと磁石部の接着性が向上していると共に、接着剤としてフェノール系接着剤あるいはエポキシ系接着剤を用いることで、自動車の足回り部が晒される高温、低温、高温と低温間の移行時の熱衝撃、グリースやオイル等の各種薬剤によって、接着部は剥がれ等が発生する可能性が低く、信頼性が向上している。また、二段階の硬化が可能な特殊な接着剤を用い、半硬化状態の接着剤を焼き付けた状態でインサート成形を行うことで、機械的及び化学的に、スリンガと磁石部の接合が可能になり、生産性、信頼性も一層向上する。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る磁気エンコーダ付シール装置が組み付けられた転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。なお、第3実施形態の転がり軸受ユニットと同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
本実施形態の軸受ユニットでは、スリンガ70は、第3実施形態のような突き出し部を設けず、嵌合部71の端部を垂直に折り曲げることでフランジ部72が形成される。従って、磁石部60は、化学エッチング処理によって粗面化されたフランジ部72の表面と、フランジ部72の外周部分とで、スリンガ70に接合され、磁石部60がスリンガ70から剥がれることを防止することができる。
その他の構成、及び作用については、第3実施形態のものと同様である。
【0080】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニットについて、詳細に説明する。なお、本実施形態は、磁気エンコーダを含む転がり軸受ユニットの形状は、第1実施形態と同様であるので、図1?図3を参照して説明される。また、第1実施形態と同等部分については同一符号を付し、説明を省略或いは簡略化する。
【0081】
本実施形態の磁気エンコーダ26では、スリンガをコアとしてプラスチック磁石材料をインサート成形する際、セットされるスリンガ25には、下塗り接着剤としてフェノール樹脂/エポキシ樹脂ベースの接着剤と、上塗り接着剤としてフェノール樹脂系接着剤とが焼き付けられている点において、第1実施形態の磁気エンコーダと異なる。
【0082】
スリンガ25の材質は、第1実施形態と同様、一定レベル以上の耐食性を有するフェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の磁石材料が最も好ましい。また、高信頼性の接着を確保するため、ショットブラスト法や前述した化学エッチング法等の手法によって、スリンガの接着接合面を適当な面粗さにしておくことが好ましい。
【0083】
このステンレス製のスリンガ25の接合面には、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とを含有する下塗り接着剤が塗布される。
【0084】
一般に、耐水用途としてはエポキシ樹脂系接着剤が使用されるが、エポキシ樹脂系接着剤とスリンガの材質であるステンレスとの密着性をより向上させるため、プラスチック磁石とスリンガを結合させるための下塗り接着剤として、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とからなる接着剤組成物の有機溶媒溶液が使用される。つまり、この下塗り接着剤は、フェノール樹脂のフェノール性水酸基の存在によってスリンガに対する大きな接着力を確保し、一方、エポキシ樹脂によって接着剤の耐水性を付与している。
【0085】
下塗り接着剤に含有されるフェノール樹脂は、具体的にはレゾール型フェノール樹脂であり、フェノール類とホルムアルデヒドとを塩基性触媒の存在下で反応させることによって得られる。また、その原料となるフェノール類としては、例えばフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾールとo-クレゾールの混合物、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基に対して、o-および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するものであれば任意のものを使用することができる。
【0086】
更に、このレゾール型フェノール樹脂は、例えばフェノール樹脂にo-またはp-アルキルフェノールを導入した変性レゾールであっても良い。通常、o-またはp-アルキルフェノールの導入により、フェノール樹脂の可撓性が改善されることになり、例えば、熱応力等の機械的ストレスに対する接着層の信頼性向上に繋がる。同様の理由から、レゾールをブチルアルコールでエーテル化したブチルエーテル化レゾールやロジンとレゾールとの反応により得られるロジン変性レゾール等を使用しても良い。
【0087】
一方、下塗り接着剤に含有されるエポキシ樹脂は、グリシジル型のものであり、エピクロロヒドリンと活性水素化合物から得られるエポキシ樹脂である。また、活性水素化合物としては、フェノール誘導体類、グリコール類、有機酸類、アミン類等があり、いずれを使用しても良いが、接着剤としての保全安定性やコスト面を考慮すると、フェノール誘導体の使用が好適である。また、フェノール誘導体としては、ビスフェノールAやビスフェノールF等の2価フェノール、もしくはフェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック等の多価フェノールを用いることができる。
【0088】
ところで、下塗り接着剤には、特に耐水性プライマーとしての機能が強く要求されていることから、下塗り接着剤に含有されるグリシジル型エポキシ樹脂においては、更に耐水・耐塩水性を向上させる目的で、グリシジル型エポキシ樹脂の主骨格を変性して用いても良い。即ち、疎水性骨格としてフッ素(主にCF_(3)基)を導入したエポキシ樹脂、具体的には、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂を使用しても良い。この他、モノナフトール類から誘導されるナフタレン型エポキシ樹脂、あるいはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂も耐湿性に優れることから好適に使用できる。更に、液状アクリロニトリルブタジエン(NBR)系ゴムをエポキシ基と反応させ、ゴム成分をエポキシ樹脂に溶解させたゴム変性エポキシ樹脂、あるいは架橋NBR、架橋アクリルゴム、シリコーンゴム等をエポキシ樹脂に分散させた架橋ゴム変性エポキシ樹脂においては、ゴム成分の疎水性効果から耐水性が良好であるため、これらもまた、下塗り接着剤に含まれるエポキシ樹脂として好適に使用できる。
【0089】
また、下塗り接着剤に含まれるエポキシ樹脂においては、スリンガ(ステンレス製)への密着性を向上させるために、エポキシ樹脂中に金属とキレート結合を形成する配位子を組み込んで、キレート変形エポキシ樹脂としたものを使用しても良い。キレート変性エポキシ樹脂中の配位子はスリンガ表面上で配位結合を形成するため、エポキシ樹脂とスリンガ間の分子間引力を向上させることができるのである。
【0090】
なお、下塗り接着剤の各成分は、以上説明してきたエポキシ樹脂100重量部に対して、レゾール型のフェノール樹脂が約40?400重量部、好ましくは約50?150重量部の割合で用いられる。レゾール型のフェノール樹脂の割合がこれよりも多いと耐水接着性が悪くなり、一方、これより少ない割合で用いられるとスリンガに対する密着性が低下するようになるため好ましくない。
【0091】
以上説明してきたフェノール樹脂とエポキシ樹脂を含有する下塗り接着剤は、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、もしくはメチルイソブチルケトンの単独溶媒、または混合溶媒に、約0.5?20重量%の成分濃度になるように溶解させた有機溶媒溶液として用いられる。
【0092】
上述した下塗り接着剤は、スリンガ25上に浸漬塗布、スプレー塗布、はけ塗り塗布等の方法によって約2?10μmの膜厚で塗付され、室温下で20?60分間程度乾燥した後、約120?200℃、約5?30分間程度の乾燥・硬化条件でスリンガ25に焼き付けられる。
【0093】
また、上塗り接着剤は、レゾール型フェノール樹脂を主成分とする接着剤組成物を約5?40重量%の固形分濃度で溶解させた有機溶媒溶液として調整されたものである。そのようなレゾール型フェノール樹脂を主成分とする接着剤としては、例えば、ロードファーイースト社製品のTS1677-13や、一定量のエポキシ樹脂を含有するものとして、例えば、東洋化学研究所製品のメタロックN-15やメタロックN-23を使用することができる。上塗り接着剤についても、下塗り接着剤と同様の塗布方法が適用される。また、乾燥・硬化条件としては、例えば、100?150℃、数分?30分程度の条件で乾燥処理され、インサート成形時の高温高圧の溶融プラスチック磁石によって流出されない程度の半硬化状態でスリンガに焼き付けられる。そして、インサート成形時の溶融プラスチック磁石からの熱、更には、それに引き続く二次加熱(例えば、150℃、2時間程度)によって完全に硬化するものである。
【0094】
本実施形態の磁気エンコーダに係る、プラスチック磁石材料としては、第1実施形態と同様に異方性の磁性体粉を60?80体積%含有し、ポリアミド樹脂組成物をバインダーとした異方性磁石コンパウンドを好適に用いることができる。磁性体粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄等の希土類磁性体粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。
【0095】
また、バインダーとしては、磁気エンコーダが、過酷な環境下、即ち、繰り返し冷熱衝撃が印加されるような環境下で使用されることが十分想定されるが、このような状況下、例えば、-40℃?120℃の繰り返し冷熱衝撃が印加されるような状況下での信頼性をより確実なものとするため、ポリアミド樹脂と、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイとしている。即ち、バインダーである樹脂組成物を、ポリアミド樹脂と軟質セグメントを含むポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイとし、特に低温での柔軟性(低温靭性)を改良することにより、-40℃?120℃の繰り返し冷熱衝撃に対する耐性を向上させているのである。
【0096】
本実施形態に係るポリアミド系ブロック共重合体における硬質セグメント、即ちポリアミドブロック成分としては、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6等の脂肪族ポリアミドを使用することができる。ただし、市場入手性を考慮すると、ポリアミド12という選択が実際的である。
【0097】
また、ポリアミド系ブロック共重合体の軟質セグメントとしては、ガラス転移温度が-40℃以下であれば良く、その他の性質等によっては特に限定されない。軟質セグメントの候補としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、及びポリカプロラクタム等が考えられ、選択肢が多い。ただし、市場からの入手し易さという点を考慮すると、ポリエステル、あるいはポリエーテルを軟質セグメントに有するブロック共重合体を選択することが現状において最適である。特に、耐加水分解性を考慮すると後者のポリエーテルセグメントを含むブロック共重合体の方がより好適であるとすることができる。また、ポリエーテルセグメントの具体例としては、ポリテトラメチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、あるいは、これらの共重合体等を挙げることができる。なお、以上説明したポリアミド系ブロック共重合体の配合量は、樹脂組成物の総重量に対して、5?55重量%、好ましくは10?45重量%である。5重量%未満では絶対量が少なすぎて、所望の低温柔軟性を付与することができない。また、55重量%を越えた場合、特に耐熱性が不十分となり、磁気エンコーダの磁石材料としての用途に適さない。
【0098】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、特に分子鎖が活発な熱運動をしている軟質セグメントを含むブロック共重合体を含有するため、その安定化のため、安定剤の添加は必須である。つまり、樹脂組成物には、速やかに劣化因子を取り除くための酸化防止剤(フェノール類、ハロゲン化銅)が添加されている。更には、熱安定剤、光安定剤、帯電防止材、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強材等を必要に応じて適宜添加してもよい。
【0099】
なお、本実施形態に使用されるバインダーは、第1実施形態で用いた熱可塑性プラスチックであってもよい。
【0100】
また、第1実施形態同様、プラスチック磁石材料は、リング状磁石の厚み方向に磁区配向(アキシアル異方性)したものが好ましく、磁気特性としては最大エネルギー積(BHmax)で1.3?15MGOe、より好ましくは1.8?12MGOeの範囲である。また、磁性体粉として希土類系を使用した場合には、磁石表面に、電気あるいは無電解ニッケルメッキ、エポキシ樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜、フッ素樹脂塗膜等の表面処理層をさらに設けてもよい。
さらに、本実施形態のエンコーダ部の成形は、第1実施形態と同様に、ディスクゲート方式の射出成形で行われることが好ましい。
【0101】
従って、本実施形態の磁気エンコーダの製造方法によれば、下塗り接着剤としてフェノール樹脂/エポキシ樹脂ベースの接着剤と、上塗り接着剤としてフェノール樹脂系接着剤を焼き付けたステンレス製スリンガをコアにして、磁性体粉とポリアミド樹脂組成物とを含む磁石材料をインサート成形した後、二次加熱によって接着剤を硬化させ、磁石材料とスリンガを一体的に接着接合した後、円周方向に多極着磁されるので、塩水噴霧のような厳しい環境下においても、SUS鋼板と接着剤との界面で剥離の生じることのない、非常に密着性に優れたプラスチック磁石製の磁気エンコーダの作製が可能である。
なお、その他の作用及び効果については、第1実施形態のものと同様である。
【0102】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
各実施形態に係る磁気エンコーダは、いずれの軸受ユニットにも適用可能であり、第1,2,5実施形態の磁気エンコーダが第3,4実施形態の転がり軸受ユニットに、第3,4実施形態の磁気エンコーダが第1,2,5実施形態の転がり軸受ユニットに適用されてもよい。
【実施例】
【0103】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0104】
まず、接合方法と接着剤の違いに基づく接着力差を以下の方法によって評価した。
(実施例1)
【0105】
表面をサンドペーパーで荒らしたSUS430板材(幅40mm、長さ100mm、厚さ1mm)上にフェノール樹脂系接着剤(東洋化学研究所製メタロックN-15)を塗付し、室温で約30分間風乾させた後、120℃で30分間の加熱処理を行った。この接着剤を焼き付けたSUS430板材を金型にセットし、これをコアとしてプラスチック磁石材料(戸田工業製ストロンチウムフェライト含有12ナイロン系異方性プラスチック磁石コンパウンドFEROTOP TP-A27N(ストチウムフェライトの含有量75体積%))のインサート成形を行った。ただし、成形されるプラスチック磁石のサイズは幅20mm、長さ30mm、厚さ3mmであり、SUS430板材上に射出成形させる部分、つまりはプラスチック磁石とSUS430板の接合面積は200mm^(2)(20mm×10mm)である。その後、この接合体を130℃、2時間、加熱(二次硬化)処理し、実施例1の試験体を得た。
【0106】
(実施例2)
使用されるフェノール樹脂系接着剤が、東洋化学研究所製メタロックN-23である以外は、(実施例1)と同様の方法により実施例2の試験体を得た。
【0107】
(比較例1)
表面をサンドペーパーで荒らしたSUS430板材(幅40mm、長さ100mm、厚さ1mm)上にフェノール樹脂系接着剤(東洋化学研究所製メタロックN-15)を塗布し、室温で約30分間風乾させた後、120℃で30分間の加熱処理を行った。この接着剤を焼き付けたSUS430板材上に、プラスチック磁石(戸田工業製ストロンチウムフェライト含有12ナイロン系異方性プラスチック磁石コンパウンドFEROTOP TP-A27N(ストチウムフェライトの含有量75体積%))試験片(幅20mm、長さ30mm、厚さ3mm)を接合面積が200mm^(2)となるように固定治具等で固定し、その後、これに130℃、2時間の加熱処理を施し、比較例1の試験体を得た。
【0108】
(比較例2)
使用されるフェノール樹脂系接着剤が、東洋化学研究所製メタロックN-23である以外は、(比較例1)と同様の方法により比較例2の試験体を得た。
【0109】
(比較例3)
表面をサンドペーパーで荒らしたSUS430板材(幅40mm、長さ100mm、厚さ1mm)上に一液型エポキシ樹脂系接着剤(ヘンケルジャパン製LOCTITE Hysol 9432NA)を塗布し、このSUS430板材上に、プラスチック磁石(戸田工業製ストロンチウムフェライト含有12ナイロン系異方性プラスチック磁石コンパウンドEROTOP TP-A27N(ストチウムフェライトの含有量75体積%))試験片(幅20mm、長さ30mm、厚さ3mm)を接合面積が200mm^(2)となるように固定治具等で固定し、その後、これに120℃、1時間の加熱処理を施し、接着材を完全に硬化させ、比較例3の試験体を得た。
【0110】
(比較例4)
使用される接着剤が、二液型エポキシ樹脂系接着剤(ヘンケルジャパン製LOCTITE E-20HP)であり、加熱処理が不要である以外は、(比較例3)と同様の方法により比較例4の試験体を得た。
【0111】
以上6種類の接着試験片について、各2個ずつ、引張速度5mm/minで引張試験を行い、各接着剤のせん断接着強度(平均値)を評価した。実験結果を以下の表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1より、プラスチック磁石試験片とSUS材板の接合面が、成形接着されている実施例1及び実施例2は、フェノール樹脂系接着剤の二次硬化のみの作用で接着力を確保しようとした比較例1及び比較例2、あるいは、一液型エポキシ及び二液型エポキシ接着剤を用いて単純に接着した比較例3及び比較例4に比べて、より高い接着強さが確保されていることがわかった。
【0114】
次に、磁性体粉と、ポリアミド系樹脂中に特定のポリアミド用可塑剤を添加した樹脂組成物からなるプラスチック磁石材料を用いて、磁気エンコーダを作製した。
【0115】
(参考例3?6)
各参考例3?6のプラスチック材料としては、表2に示されるような磁性体粉と樹脂組成物の配合組成からなるものが使用された。
【0116】
【表2】

【0117】
作製においては、まず、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、ポリアミド系樹脂中に、特定のポリアミド用可塑剤を練り込む。混練は、160?280℃の温度で、1?20分間行う。その後、ポリアミド系樹脂組成物を通例の方法によりペレット化する。更に、磁性体粉にポリアミド系樹脂組成物のペレットを投入し、2軸押し出し機を用いて、160?280℃の温度で加熱しながら1?20分間混練した後、押し出す。次いで、この押し出した磁性体粉含有ポリアミド系樹脂組成物をペレット化することで、成形用材料を得ることができる。
【0118】
さらに、フェノール樹脂系接着剤を、化学エッチング処理したスリンガ上に塗布し、室温条件下に20?60分放置して風乾させた後、約120℃で約30分間の加熱処理を行なう。加熱処理して接着剤を焼き付けたスリンガを金型にセットし、これをコアとして上記のようにして作製したプラスチック磁石材料のインサート成形を行う。その後、得られた成形体を、約130℃で約2時間、加熱(二次硬化)処理して得られるプラスチック磁石とスリンガの接着物を、ヨークコイルを用いて多極に着磁することで、磁気エンコーダを得ることができる。
【0119】
参考例3?参考例6の配合組成からなる磁石材料を用いて上記のように製造された磁気エンコーダは、過酷な使用条件下においても、磁石部がスリンガより剥離して脱落することがなく、信頼性の高いものとなる。
【0120】
次に、本発明に係るスリンガをコアとしたインサート成形によって製造される磁気エンコーダにおいて、表面処理の違いによる接着状態について試験を行った。
【0121】
(実施例7)
SUS430の表面に形成したシュウ酸鉄皮膜を化学エッチングすることで、凹凸を形成した。凹凸の算術平均高さRaは0.9μm、最大高さRzは4.5μmとなった。そして、ノボラック型フェノール樹脂を主成分とする固形分30%のフェノール樹脂系接着剤(東洋化学研究所製メタロックN-15)を、更にメチルエチルケトンで3倍希釈し、浸漬処理でスリンガ表面に塗布した。その後、室温で30分乾燥してから、120℃で30分乾燥器中に放置することで半硬化状態とした。この接着剤を焼き付けたSUS430板材を金型にセットし、これをコアとしてプラスチック磁石材料(戸田工業製ストロンチウムフェライト含有12ナイロン系異方性プラスチック磁石コンパウンド「FEROTOP TP-A27N」(ストチウムフェライトの含有量75体積%))のインサート成形を内周部分からディスクゲートで行った。成形後、直ちにゲートカットを行い、更に、130℃で1時間、二次加熱で、接着剤を完全に硬化させたものを実施例7の試験体とした。
【0122】
(実施例8)
SUS430の表面をショットブラストで凹凸を形成し、凹凸の算術平均高さRaを0.8μm、最大高さRzを5.0μmとした以外は、(実施例7)と同様の方法により実施例8の試験体を得た。
【0123】
硬化後のエンコーダ外周部の引っ掛かり部分をペンチで引っ張った結果を、以下の表2に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
表3から明らかなように、凹凸処理によって表面粗さがほとんど違わないにも係らず、化学エッチング処理による凹凸は凹部の内部が広がった形状になっている(図6)ことで、くさび効果で、金属側に強固に接着剤が付着するようになったことが判る。
【0126】
次に、本発明に係る接着剤を含む数種の接着剤、及びそれらの使用方法の違いに基づく初期接着性、耐塩水接着性の差異について試験を行った。
【0127】
(実施例9)
接着接合面をサンドペーパーで荒らし、適当な面荒に仕上げたSUS430板材(幅40mm、長さ100mm、厚さ1mm)のスリンガに、下塗り接着剤として、レゾール型のフェノール樹脂とグリシジル型のエポキシ樹脂とを含む接着剤を塗布し、室温条件下で約30分放置して風乾させた後、200℃で10分間の加熱処理を行った。その後、引き続き、上塗り接着剤として、レゾール型のフェノール樹脂を主成分とする接着剤(東洋化学研究所製品のメタロックN-15)を塗布し、室温で約30分間放置して風乾させた後、120℃で30分間の加熱処理を行ない、この接着剤を半硬化状態で焼き付けた。
【0128】
その後、このSUS430板材を金型にセットし、これをコアとしてプラスチック磁石材料(ストロンチウムフェライト含有ポリアミド樹脂組成物:バインダー樹脂はポリアミド12とポリアミド系ブロック共重合体とのアロイ材であり、ストロンチウムフェライトの含有量は75体積%)のインサート成形を行った。ただし、成形されるプラスチック磁石のサイズは幅20mm、長さ30mm、厚さ3mmであり、SUS430板材上に射出成形させる部分、つまりはプラスチック磁石とSUS430板材との接合面積は、200mm^(2)(20mm×10mm)である。その後、この接合体を150℃、2時間、加熱(二次硬化)処理し、実施例9の試験体を得た。
【0129】
(実施例10)
上塗り接着剤として使用されるレゾール型のフェノール樹脂を主成分とする接着剤が、ロードファーイースト社製品のTS1677-13である以外は、実施例9と同様の方法により試験体を得た。
【0130】
(実施例11)
接着接合面をサンドペーパーで荒らし、適当な面荒に仕上げたSUS430板材(幅40mm、長さ100mm、厚さ1mm)のスリンガに、レゾール型のフェノール樹脂とグリシジル型のエポキシ樹脂とを含む接着剤を塗布し、室温条件下で約30分放置して風乾させた後、150℃で30分間の加熱処理を行った。この焼き付け処理したSUS430板材を金型にセットし、これをコアとしてプラスチック磁石材料(ストロンチウムフェライト含有ポリアミド樹脂組成物であり、バインダー樹脂はポリアミド12とポリアミド系ブロック共重合体とのポリマーアロイ;ストロンチウムフェライトの含有量は75体積%)のインサート成形を行った。ただし、成形されるプラスチック磁石のサイズは幅20mm、長さ30mm、厚さ3mmであり、SUS430板材上に射出成形させる部分、つまりはプラスチック磁石とSUS430板材との接合面積は、200mm^(2)(20mm×10mm)である。その後、この接合体を150℃、2時間、加熱(二次硬化)処理し、実施例11の試験体を得た。
【0131】
(実施例12)
使用される接着剤が、レゾール型のフェノール樹脂を主成分とする接着剤である東洋化学研究所製品のメタロックN-15であり、加熱(焼き付け)処理条件(処理条件は120℃で30分間)が異なる以外は、(実施例11)と同様の方法により試験体を得た。
【0132】
(実施例13)
使用される接着剤が、レゾール型のフェノール樹脂を主成分とする接着剤であるロードファーイースト社製品のTS1677-13であり、加熱処理条件(処理条件は120℃で30分間)が異なる以外は、(実施例11)と同様の方法により試験体を得た。
【0133】
以上5種類の接着試験片の、初期、及び温水浸漬後(80℃の純粋中に300時間浸漬後)の試験片について、各3個ずつ、引張速度5mm/minで引張試験を行ない、各試験片におけるせん断接着強度(平均値)を評価した。実験結果を以下の表4に示す。
【0134】
【表4】

【0135】
表4より、プラスチック磁石試験片とSUS鋼板が、耐水性に優れた下塗り接着剤とプラスチック磁石に対する接着性に優れた上塗り接着剤との2層からなる接着剤層によって成形接着されている実施例9と実施例10には、実施例11のフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを含む接着剤の単独使用の場合よりも大きな初期接着強さが、一方、フェノール樹脂を主成分とする接着剤の単独使用である実施例12と実施例13の場合よりも、より高い耐塩水接着性が確保されているのがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の第1実施形態の転がり軸受ユニットを示す断面図
【図2】本発明の第1実施形態の磁気エンコーダを備えたシール装置を示す断面図である。
【図3】エンコーダ磁石の円周方向に多極磁化された例を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の磁気エンコーダを備えたシール装置を示す断面図である。
【図6】化学エッチング処理されたスリンガの表面を示す断面顕微鏡写真である。
【図7】本発明の第4実施形態の磁気エンコーダを備えたシール装置を示す断面図である。
【図8】従来の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0137】
2a 車輪支持用転がり軸受ユニット
5a 外輪
7a ハブ
8 スタッド
10a、10b 外輪軌道
11 結合フランジ
12 取付フランジ
14、14a、14b 内輪軌道
15 小径段部
16a 内輪
17a 玉
18 保持器
21a シールリング
22、22a、22b 弾性材
23 かしめ部
24b 芯金
25 スリンガ
26 磁気エンコーダ磁極形成リング
27 磁気形成リング
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用の磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用いることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
回転体に取り付け可能な固定部材と、該固定部材に取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部と、を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
接着剤を半硬化状態で焼き付けた前記固定部材をコアにして、磁性体粉と熱可塑性樹脂組成物とからなる磁石材料をインサート成形する工程と、
二次加熱によって、前記接着剤を硬化させる工程と、
前記磁石部を円周方向に多極着磁する工程と、
を備え、
前記磁石材料は、異方性用の磁性体粉を75体積%含有しており、前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドを用い、
前記接着剤は少なくともフェノール樹脂を含有することを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項7】
前記磁石部が接着される前記固定部材の表面には、凹凸が形成されることを特徴とする請求項3又は6に記載の磁気エンコーダの製造方法。
【請求項8】
磁気エンコーダを有する車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、請求項3、6、7のいずれかにより製造されることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-06-12 
結審通知日 2018-06-14 
審決日 2018-06-27 
出願番号 特願2004-364752(P2004-364752)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (G01D)
P 1 41・ 851- Y (G01D)
P 1 41・ 853- Y (G01D)
P 1 41・ 857- Y (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 雅人  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 小林 紀史
中村 説志
登録日 2010-01-08 
登録番号 特許第4432764号(P4432764)
発明の名称 磁気エンコーダの製造方法及び車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ