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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G |
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管理番号 | 1342362 |
審判番号 | 不服2017-1889 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-02-08 |
確定日 | 2018-07-12 |
事件の表示 | 特願2013-516365「アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日国際公開、WO2012/161158〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年5月21日(優先権主張 平成23年5月26日)に国際出願されたものであって、平成28年4月15日付け拒絶理由通知に対して同年6月29日付けで意見書が提出されたが、同年11月2日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成29年2月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成30年1月18日付け当審の拒絶理由通知に対して同年3月23日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体及び前記焼結体を支持するアルミニウム箔基材を構成要素として含むアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、 (1)前記粉末は、平均粒径D_(50)が0.5?100μmであり、 (2)前記焼結体は、前記アルミニウム箔基材の片面又は両面に形成されており、前記焼結体の合計厚さは20?1000μmであり、 (3)前記アルミニウム箔基材は、厚さが10?200μmであり、Si含有量が10?3000ppmである、 ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。」 第3 引用文献 平成29年1月18日付け当審の拒絶理由通知で引用された特開2011-52291号公報(平成23年3月17日公開。以下、「引用文献」という。)には、「折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付与した。 ア.「【0001】 本発明は、アルミニウム電解コンデンサに用いられる電極材、触媒担体等として有用な、折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法に関する。」 イ.「【0020】 以下、本発明の多孔質アルミニウム材料及びその製造方法について詳細に説明する。 1.多孔質アルミニウム材料 本発明の多孔質アルミニウム材料は、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の焼結体からなることを特徴とする。 【0021】 上記焼結体は、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金から実質的に構成される。つまり、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末から焼結体を作製することにより、従来と比べて折り曲げ強度が向上した焼結体が得られる。なお、焼結体は、上記アルミニウム合金から実質的に構成されるが、折り曲げ強度に影響しない範囲でSi含有量の異なるアルミニウム合金又はアルミニウムが不可避的に含まれることは許容される。 ・・・(中略)・・・ 【0027】 前記焼結体の形状は特に制限されないが、一般的には平均厚み20μm以上1000μm以下、特に50μm以上600μm以下の箔状であることが好ましい。平均厚みは、マイクロメーターで測定した10点の測定値の平均である。」 ウ.「【0028】 本発明の多孔質アルミニウム材料は、用途に応じて、多孔質アルミニウム材料を支持する基材をさらに含んでいても良い。基材としては、特に限定されないが、本発明の多孔質アルミニウム材料の用途がアルミニウム電解コンデンサ用電極材の場合には、アルミニウム箔を好適に用いることができる。また、触媒担体などの場合には、アルミニウム箔などの金属箔、樹脂シート等を好適に用いることができる。 【0029】 基材としてのアルミニウム箔は、特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。本発明で用いられるアルミニウム箔は、その組成として、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金あるいは上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。 【0030】 アルミニウム箔の厚みは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下、特に、10μm以上50μm以下の範囲内とするのが好ましい。」 エ.「【0036】 ・・・(中略)・・・ 2.多孔質アルミニウム材料の製造方法 本発明の多孔質アルミニウム材料を製造する方法は、 (1)Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する第1工程及び (2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程 を含むことを特徴とする。 【0037】 第1工程 第1工程では、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する。 【0038】 アルミニウム合金の組成(成分)としては、Si含有量が100?3000重量ppmであれば限定されず、前記で掲げたものを用いることができる。 【0039】 前記粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、球状粒子からなる粉末が好ましい。球状粒子からなる粉末の平均粒径は0.5μm以上100μm以下、特に1μm以上20μmが好ましい。多孔質アルミニウム材料の用途がアルミニウム電解コンデンサ用電極材である場合には、平均粒径が0.5μmより小さいと、所望の耐電圧が得られないおそれがある。また、100μmより大きいと、所望の静電容量が得られないおそれがある。」 引用文献には、上記アないしエから以下の事項が記載されている。 上記アによれば、アルミニウム電解コンデンサに用いられる電極材に関するものである。 上記イによれば、多孔質アルミニウム材料は、平均厚みが20μm以上1000μm以下であり、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の焼結体からなるものである。なお、上記ウによれば、多孔質アルミニウム材料は、アルミニウム電解コンデンサ用電極材として使用できるものである。 上記ウによれば、多孔質アルミニウム材料(アルミニウム電解コンデンサ用電極材)にアルミニウム箔の基材を含んでも良く、当該アルミニウム箔の厚みは、5μm以上100μm以下の範囲内である。 上記エによれば、多孔質アルミニウム材料(アルミニウム電解コンデンサ用電極材)は、平均粒径が0.5μm以上100μm以下であって、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成し焼結するものである。 そうすると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「平均粒径が0.5μm以上100μm以下であって、Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成し焼結してなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、 当該アルミニウム合金を焼結した焼結体は、平均厚みが20μm以上1000μm以下であり、 当該基材は、5μm以上100μm以下の厚みのアルミニウム箔である、 アルミニウム電解コンデンサ用電極材。」 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「当該アルミニウム合金を焼結した焼結体」は、「アルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を・・・焼結してなる」ものだから、本願発明の「アルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体」に相当する。 また、引用発明の「アルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成」及び「当該基材は・・・アルミニウム箔」は、本願発明の「前記焼結体を支持するアルミニウム箔基材」に相当する。 よって、引用発明の「アルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成し焼結してなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材」、「当該アルミニウム合金を焼結した焼結体」及び「当該基材は・・・アルミニウム箔」は、本願発明の「アルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体及び前記焼結体を支持するアルミニウム箔基材を構成要素として含むアルミニウム電解コンデンサ用電極材」に相当する。 (2)アルミニウム合金の粉末の粒径について、本願発明は「平均粒径D_(50)が0.5?100μm」であるのに対し、引用発明は「平均粒径が0.5μm以上100μm以下」である点で相違する。 (3)引用発明の「当該アルミニウム合金を焼結した焼結体」は、「アルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成し焼結してなる」ものであるから、基材の一方または両面に焼結体が構成されているといえるから、本願発明の「前記焼結体は、前記アルミニウム箔基材の片面又は両面に形成されて」いる構成を備えているものである。 但し、焼結体の厚さについて、本願発明は「20?1000μm」であるのに対し、引用発明は「平均厚みが20μm以上1000μm以下」である点で相違する。 (4)引用文献の「当該基材は、5μm以上100μm以下の厚みであるアルミニウム箔」は、本願発明のアルミニウム箔基材の厚み(10?200μm)の一部と重複するものである。なお、本願明細書を参照すると(段落【0028】を参照。)、本願発明のアルミ箔基材の厚みは単に10?200μmであればよいと記載されているだけであり、上限や下限を含めた技術的な意義は記載されていない。 よって、引用文献の「当該基材は、5μm以上100μm以下の厚みであるアルミニウム箔」は、本願発明要素の構成の一部である「前記アルミニウム箔基材は、厚さが10?100μm」に相当する。 但し、アルミニウム箔基材のSi含有量について、本願発明は「10?3000ppm」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない点で相違する。 よって、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「アルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体及び前記焼結体を支持するアルミニウム箔基材を構成要素として含むアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、 前記焼結体は、前記アルミニウム箔基材の片面又は両面に形成されており、 前記アルミニウム箔基材は、厚さが10?100μmである、 ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。」 <相違点1> アルミニウム合金の粉末の粒径について、本願発明は「平均粒径D_(50)が0.5?100μm」であるのに対し、引用発明は「平均粒径が0.5μm以上100μm以下」である点。 <相違点2> 焼結体の厚さについて、本願発明は「20?1000μm」であるのに対し、引用発明は「平均厚みが20μm以上1000μm以下」である点。 <相違点3> アルミニウム箔基材のSi含有量について、本願発明は「10?3000ppm」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない点。 第5 判断 そこで、相違点について検討する。 1.<相違点1>について 引用発明の「平均粒径」はD_(50)でないかもしれないが、本願発明も引用発明も共に「0.5?100μm」とかなりの広範囲であるから、引用発明の「平均粒径が0.5?100μm」は、本願発明の「平均粒径D_(50)が0.5?100μm」の少なくとも一部を満たす(含む)ことは明らかである。 よって、相違点1は、実質的な相違ではない。 2.<相違点2>について 本願発明の厚さと引用発明の平均厚みがそれぞれどのようなものか両者の明細書を参照して比較してみると、本願発明の「厚さ」は7点測定し最大値と最小値を除いた5点の平均値であり(本願明細書の段落【0025】を参照。)、引用発明の「平均厚み」は10点の測定値の平均である(引用文献の段落【0027】を参照。)から、両者は一応相違する。しかしながら、本願発明も引用発明も共に「20?1000μm」とかなりの広範囲であるから、引用発明の10点平均で算出した「平均厚み20?1000μm」は、本願発明の(7点のうち最大値及び最小値を除いた)5点平均で算出した「厚さ20?1000μm」の少なくとも一部を満たす(含む)ことは明らかである。 よって、相違点2は、実質的な相違ではない。 3.<相違点3>について 本願発明と引用発明は、アルミニウム電解コンデンサ用電極を構成するアルミニウム材料にSiを100?3000ppm含有させることで、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折り曲げ強度を向上させた点で共通する。そして、両者とも、アルミニウム電解コンデンサ用電極材を構成するアルミニウム材料としてアルミニウム箔基材と焼結体(の粉末)の2部材を備えており、そのどちらかに(又は両方に)Siを含有させることは当業者が適宜選択し得る事項である。 この点について、審判請求人は、平成30年3月23日付け意見書において「引用文献1は本願出願人の先願公報であり、本願明細書の[0016]段落でも本願出願前の技術常識を示すものとしてその内容を記載しています。アルミニウムメーカーとして当技術分野の当業者である本願出願人でさえも、引用文献1の出願時にはアルミニウム箔基材に含まれるSi含有量と折り曲げ強度との関係については見い出せておらず、引用文献1の[0029]段落には単に合金成分の一例としてSiを列挙するに留まっていました。仮にSiを含有するアルミニウム材の選択が「焼結体」及び「アルミニウム箔基材」の二者択一であるならば、引用文献1の出願時に本願出願人はそれを引用文献1に記載しているはずです。それができず本願を後日に出願しているのは、正に本願発明の完成が当業者にとって容易ではなかったことの明確な証拠です。」旨を主張している。(なお、当該主張における「引用文献1」は、この審決における「引用文献」である。) しかしながら、引用文献には、基材について「基材の材質は特に限定されず、金属、樹脂等のいずれであっても良い。特に、基材を焼結時に揮発させて皮膜のみを残す場合は、樹脂(樹脂フィルム)を用いることができる。一方、基材を残す場合は、金属箔を好適に用いることができる。金属箔としては、特にアルミニウム箔が好適に使用される。この場合、皮膜と実質的に同じ組成のアルミニウム箔を用いても良いし、異なる組成の箔を使用しても良い。」(段落【0046】。下線は当審で付与した。)と記載されており、ここでいう「皮膜」とは「Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物」からなるものであるから、結局のところ、アルミニウム箔基材が「Si含有量が100?3000重量ppmであるアルミニウム合金」で構成し得ることが記載されているといえる。 よって、引用文献にはアルミニウム箔基材にもSiを含有させることも選択し得る旨の記載が認められるから、引用発明の「アルミニウム箔基材」に「Siを100?3000重量ppmを含有」させて相違点3の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明から当業者が容易になし得たものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-05-11 |
結審通知日 | 2018-05-15 |
審決日 | 2018-05-28 |
出願番号 | 特願2013-516365(P2013-516365) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 晃洋 |
特許庁審判長 |
森川 幸俊 |
特許庁審判官 |
酒井 朋広 関谷 隆一 |
発明の名称 | アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |