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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1342377
審判番号 不服2017-12517  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-23 
確定日 2018-07-12 
事件の表示 特願2013- 85904「土地境界表示プログラム、方法、及び端末」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-209680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月16日の出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成28年11月17日(起案日)
意見書 :平成29年 1月23日
手続補正書 :平成29年 1月23日
拒絶査定 :平成29年 5月17日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成29年 8月23日

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成29年1月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、本願発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Eと称する。

(本願発明)
(A)撮影依頼を検出すると、撮影処理を実行し、
(B)前記撮影処理を実行した際における端末の位置、撮像方位、仰俯角、及び前記端末の地面からの高さに基づいて撮影範囲を特定し、
(C)特定された前記撮影範囲に基づき、撮影された画像内における土地に相当する領域を特定し、
(D)記憶部から緯度経度情報に対応する土地の境界線情報を読み出して、特定された前記土地に相当する領域に、読み出した該土地の境界線情報を重畳させた画像を生成して表示部に表示させる
(E)処理をコンピュータに実行させる土地境界表示プログラム。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。

この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-2、5-6
・引用文献等 1-3

・請求項 3-4
・引用文献等 1-4


1.特開2012-133471号公報
2.特開2000-358240号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平06-284330号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2009-217660号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2012-133471号公報には、「画像合成装置、画像合成プログラム、及び画像合成システム」(発明の名称)に関し、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。

ア「【0001】
本願発明は、現実の空間を撮像した実空間画像に、仮想の画像を重畳して表示する装置、プログラム、及びシステムである。より具体的には、実空間画像に空間モデルに基づいて作成される仮想空間画像を重畳して表示するものであり、実空間画像の遠近感に合わせて仮想空間画像も遠近表示する画像合成装置、画像合成プログラム、及び画像合成システムに関するものである。」

イ「【0032】
(端末機)
図2(a)に示す端末機1について説明する。端末機1は少なくとも、カメラ1a(画像取得手段)と、図示しないセンサ(計測手段)と、モニタ1b(表示画面)と、電子計算機(以下、「コンピュータ」という。)を備えている。この端末機1は、人が携帯しやすい小型のものが望ましく、カメラとセンサを内蔵する市販の携帯電話機や携帯型コンピュータを利用することができるが、その他デジタルカメラを改造したもの、あるいは専用に作成されたものを用いることもできる。
【0033】
端末機1のカメラ1aで撮影される画像はモニタ1bで表示されるが、カメラ1aを向けた方向の光景が常に表示され、カメラ1aの動きにも追随して表示される、いわゆるライブビューで表示される。もちろんシャッターを操作することで静止画として取得することもできる。」

ウ「【0034】
端末機1のセンサは、カメラ1a位置情報を計測する位置計測センサと、カメラ1aの姿勢を計測する姿勢計測センサの、大きく2種類に分けられる。
【0035】
位置計測センサは、カメラ1aの位置座標を取得するもので、ここでいう位置座標とは3次元座標(X,Y,Z)のこと(もちろん、緯度と経度と標高でもよい)を意味する。位置計測センサとしてはGPSが代表的であるが、その他、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法(Place Engineなど)、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、室内にGPSを配置して測位するIMES(Indoor Messaging System)、QRコードやビジュアル・マーカー(ARToolKitなどで利用されるマーカー)やRFIDタグなどから位置情報を取得する測位方法、赤外線通信を利用した測位方法など、公知の測位技術を利用することができる。もちろん、屋外用としてGPSを、屋内用として無線LAN方式を併用するなど、種々の測位方法を組み合わせて利用することもできる。
【0036】
姿勢計測センサは、カメラ1aの姿勢を取得するもので、ここでいう姿勢とはカメラ1aの向いている方向であり傾きのことを意味する。より具体的には、水平面の左右軸をX軸、水平面の前後軸をY軸、鉛直軸をZ軸とすると、X軸回りの回転ω(ピッチ)、Y軸回りの回転φ(ロール)、Z軸回りの回転κ(ヨー)が姿勢を決定する要素である。姿勢計測センサとしては、Z軸回りの回転κつまり方位を計測する地磁気センサ(電子コンパス)や、X軸回りの回転ωやY軸回りの回転φを計測する加速度センサが代表的であるが、その他ジャイロセンサなど公知の技術を利用することもできる。電子コンパスと加速度センサの両方を内蔵した、いわゆる6軸センサ内蔵の携帯電話端末も市販されているので、このような端末機を利用すると好適である。」

エ「【0037】
(仮想空間画像)
仮想空間画像について説明する。先にも説明したように仮想空間画像とは、空間モデルを演算処理することで作成される仮想空間モデルを、さらに画像化したものである。
【0038】
空間モデルとは、地物を地球上の特定の位置、特定の形状や大きさで表現するための空間情報の集合を意味する。なお、ここでいう空間情報とは、座標や緯度経度など地物の位置を表現するための情報のことであり、2次元座標(X,Y)や3次元座標(X,Y,Z)が例示できる。さらに、ここでいう地物とは、空間情報によって表現することのできる物という程度の意味であり、実存する物(実在物)に限定されものではない。例えば、 土地の境界や村市町村界、未施工の道路やマンションなど計画中の構造物、土砂災害警戒区域や地すべり指定地などの危険区域、といった人の概念上作られたもの(概念物)も、空間情報によって特定の位置や特定の形状・大きさを表現することができればすべて地物である。」

オ「【0041】
空間モデルは、データベースとしてコンピュータの記憶領域などに記憶される(記憶手段)。この空間モデルのデータベースから必要な空間情報を取得して、所定の演算処理を行い、地物の特定の位置、特定の形状や大きさを求める。ここで求められたものが仮想空間モデルである。なお、前記したとおり地物には実在物(可視物と不可視物)が含まれ、すなわち実在物が仮想空間モデルとして作成される場合があるが、計算によって求めたという意味で「仮想」という語を用いており、たとえ実在物であっても空間モデルから作成されたものは仮想空間モデルと呼ぶ。」

カ「【0042】
仮想空間モデルから、端末機1のモニタ1bに表示するための画像、すなわち仮想空間画像が作成される。カメラ1aで撮影している場所の仮想空間画像をモニタ1b上に表示すれば、目視だけでは得られない情報も同時に取得することができるので極めて有益である。このとき仮想空間画像は、モニタ1b上でも実際に存在している位置に表示されることが望ましい。例えば、実際には下水管3は道路左側に埋設されているにもかかわらず、モニタ1b上では下水管3V(仮想空間画像)が車道の右側に表示されたのでは、却って混乱することとなる。
【0043】
さらに図2(a)に示すように、モニタ1bに表示される実空間画像は、実際に見た状態、すなわち遠近感を表現した状態で表示されている(以下、遠近感を表現した状態での表示を、「遠近表示」という。)ため、仮想空間画像も遠近表示としなければ誤解を招くおそれがある。仮に、図2(a)で下水管3Vのみモニタ1bの縦枠と平行に表示したとすると、下水管3Vは道路から外れて埋設されたと誤認されることになる。なおこれまでも、実際に撮影した「もの」に関連する情報を、モニタ1b上でその「もの」が表示されている付近にタグで表示することは行われてきたが、タグなど「点」の情報とは異なり、「線」や「面」の地物を実空間画像に表示する場合は、単に位置を合わせるだけでなく、その表示方法にも工夫しなければならない。
【0044】
そこで本願発明では、仮想空間画像についても、実際に撮影すれば表示されるであろう状態でモニタ1bに表示することとしている。つまり図2(a)に示す下水管3V(仮想空間画像)の場合で説明すれば、モニタ1bに表示される実空間画像の中において、実際に埋設されている平面位置に下水管3Vを表示するとともに、実空間画像のように(例えば車道や歩道のように)遠近表示するものである。」

キ「【0045】
このとき、仮想モデルは実空間における空間情報(座標)しか持たないので、このままではモニタ1b上のどの位置(どの画素)に表示すべきかが不明である。そのため、例えばモニタ1b上で任意の座標系を設定し、仮想空間モデルが持つ実空間座標をモニタ1bの任意座標系に変換するなど、仮想空間モデルをモニタ1b上のどの位置にどのような形状で表現すべきか定める必要がある。
【0046】
また、仮想空間画像を遠近表示させるためには、実空間画像における遠近の状態を把握する必要があり、この遠近状態で設定されるモニタ1b上の任意座標系と実空間での座標系との幾何学的関係を求める必要がある。実空間画像における遠近の状態は、一般に遠近法を使って把握することができる。この遠近法とは、絵画だけでなく設計図やカメラなど平面に表示する様々な分野で利用されている技術であり、近年ではコンピュータグラフィックス(CG)でも多用されている。実空間に存在する3次元のものを、2次元の平面上に立体的に(立体感を感得できるように)表現する手法が遠近法であり、この遠近法によって表現されたものは「透視図」と呼ばれる。例えば図2(a)の実空間画像は、一つの消失点に向けてあらゆる線が収束しているように遠近表示された透視図である。
【0047】
実空間画像で表現された地物は実在物であるから当然実空間の座標を持っており、これら実在物の実空間座標がモニタ1b上でどのように表示されているかを把握することによって、モニタ1b上の任意座標系を定めることができる。これについては、カメラ1aの実空間座標、カメラ1aの姿勢、カメラ1aの仕様(画角や焦点距離など)から光学的に求めることができる。なお、カメラ1aの実空間座標は位置計測センサで計測した3次元座標(X,Y,Z)を用いることができるし、カメラ1aの姿勢は姿勢計測センサで計測した値(ω,φ,κ)を用いることができる。
【0048】
実空間画像で表現された実在物の実空間座標に基づいてモニタ1b上の任意座標系を定めると、実空間座標をこの任意座標系で表すことができ、同様に、空間情報を持つ仮想空間モデルもモニタ1b上の任意座標系で表すことができる。このように、仮想空間モデルをモニタ1b上の任意座標系に配置し、モニタ1bに表示するために作成されたものが仮想空間画像である。なお仮想空間画像は、実際には、コンピュータで処理するためのデータで、モニタ1b上における配置情報(どの画素に対応するか)や輝度情報(RGBなど)などのデータから成るものであるが、便宜上、モニタ1bで表示された結果目視できる状態となったものを仮想空間画像と呼ぶ。」

ク「【0049】
(モニタでの表示)
モニタ1b上の任意座標系で配置された実空間画像は遠近表示された透視図の状態となっているので、同じく、仮想空間モデルをモニタ1b上の任意座標系に配置した仮想空間画像も遠近表示された透視図となる。これら遠近表示された実空間画像と遠近表示された仮想空間画像をモニタ1bに重畳して表示させると、図2(a)に示すように、仮想空間画像(下水管3V)と車道や歩道との位置関係が直感的に把握できるので極めて有益である。
【0050】
ユーザが、端末機1の「表示ボタン」を操作するなど、仮想空間画像を表示する旨を端末機1に伝達すると、センサ(位置計測センサ、姿勢計測センサ)による計測値や空間モデルを基に仮想空間画像が作成され、この仮想空間画像がモニタ1bに表示される。仮想空間画像の作成は端末機1が行ってもよいし、端末機1と通信可能なサーバを設け、このサーバで仮想空間画像を作成させ端末機1に配信させてもよい。モニタ1bに表示された仮想空間画像は、次の操作(例えば、次の「表示ボタン」操作)があるまで同じものが表示される。なお、仮想空間画像のモニタ1b表示は、ユーザの操作によるタイミングに限らず、センサが計測値を取得したタイミングで随時自動的に行うようにしてもよい。
【0051】
仮想空間画像は、図2(a)のような実在物を基に作成された下水管3Vに限らず、図3(a)に示すように、用地境界線4Vのように概念物を基に作成することもできる。また、用地境界線に任意の幅(高さ)を持たせることにより、用地境界線を面として、すなわち図3(b)に示す用地境界面5Vとして表示させることもできる。あるいは、空間モデルが道路の断面図を作成することのできる空間情報を備えていれば、図8に示すように道路の一部をあたかも掘削したかのように表示することもできる。このように、実空間画像の遠近表示に合わせた透視図として作成された仮想空間画像を、実空間画像と重畳して表示することができれば、現地にて端末機1をかざすだけで、用地測量を実施することなく用地境界を目視で確認できて、また実際に掘削することなく道路下を目視で確認することができるので、極めて有益である。」

ケ「【0055】
なお、一般に空間モデルは地理的に広範囲で構築されているので、モニタ1bで表示する範囲を大きく超えて地物の空間情報を有している。そのため、カメラ1aの実空間座標、カメラ1aの姿勢、カメラ1aの仕様を基に、モニタ1b上の任意座標系を光学的に求める際に、同時に空間モデルのうち仮想空間画像として作成される範囲(つまり描画範囲)が抽出される。もちろんこれは地物単位で抽出することを意味するものではなく、地物の一部がモニタ1bに収まらない場合にこの地物のうちどこまでを描画すべきかを抽出するものである。」

コ「【0070】
(画像合成プログラム)
本願発明の画像合成プログラムは、これまで説明した技術をコンピュータに実行させるものであり、具体的には、空間モデルのデータベースから所定の空間情報を検索して読み込むモデル読み込み機能と、GPSや6軸センサなど計測手段が計測した値を読み込む計測値読み込み機能と、空間情報や計測値から仮想空間モデルを作成しさらに仮想空間画像を作成する画像作成機能と、仮想空間画像をモニタ1b上の実空間画像に重畳表示させる表示機能を備えている。また、仮想空間画像をモニタ1b上で表示とするか非表示とするかを選択する表示制御機能を備えることもできるし、仮想空間画像を正しい位置に表示させる表示位置調整機能(ユーザ操作による調整や、自動調整)を備えることもできる。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された発明を以下に認定する。

ア 画像合成プログラムについて
上記(1)ア、イ、オ、コによると、引用文献1には、『カメラ、モニタ及び記憶領域を備えた端末機のコンピュータに、現実の空間を撮像した実空間画像に、仮想の画像を重畳して表示する処理を実行させる画像合成プログラム』の発明が記載されている。

イ 撮影について
上記(1)イの記載によると、引用文献1には、引用文献1の画像合成プログラムは、『前記端末機に備えられた前記カメラにより撮影を実行する』ことが記載されている。

ウ 位置座標及び姿勢について
上記(1)ウの記載によると、引用文献1の画像合成プログラムは、「カメラ1aの位置座標を取得する」ことが記載されており、ここで、当該位置座標とは、「緯度と経度と標高」を意味するものである。
また、上記(1)ウの記載によると、引用文献1の画像合成プログラムは、「カメラ1aの姿勢を取得する」ことが記載されており、ここで、当該姿勢とは、「カメラ1aの向いている方向であり傾き」であり、「水平面の左右軸をX軸、水平面の前後軸をY軸、鉛直軸をZ軸とすると、X軸回りの回転ω(ピッチ)、Y軸回りの回転φ(ロール)、Z軸回りの回転κ(ヨー)」である。
また、上記(1)キの記載によると、引用文献1には、「カメラ1aの実空間座標は位置計測センサで計測した3次元座標(X,Y,Z)を用いる」こと、及び、「カメラ1aの姿勢は姿勢計測センサで計測した値(ω,φ,κ)を用いる」ことが記載されている。
すなわち、引用文献1には、引用文献1の画像合成プログラムは、『前記カメラの緯度と経度と標高を用いた前記カメラの実空間座標、Z軸回りの回転κ(ヨー)、X軸回りの回転ω(ピッチ)を用いた前記カメラの姿勢を取得する』ことが記載されている。

エ 任意座標系について
上記(1)キの記載によると、引用文献1には、「実空間画像で表現された地物は実在物である」こと、「これら実在物の実空間座標がモニタ1b上でどのように表示されているかを把握することによって、モニタ1b上の任意座標系を定める」こと、当該任意座標系は、「カメラ1aの実空間座標、カメラ1aの姿勢、カメラ1aの仕様(画角や焦点距離など)から光学的に求める」ことが記載されている。
よって、引用文献1には、引用文献1の画像合成プログラムは、『前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)から、実空間画像で表現された実在物の実空間座標が前記モニタ上でどのように表示されているかを把握することによって、前記モニタ上の任意座標系を定める』ことが記載されている。

オ 空間情報の取得について
上記(1)オの記載によると、引用文献1には、「空間モデルは、データベースとしてコンピュータの記憶領域などに記憶され」ており、当該「空間モデルのデータベースから必要な空間情報を取得」することが記載されている。
また、上記(1)エの記載によると、引用文献1には、当該「空間モデル」とは、「空間情報の集合」であり、当該「空間情報とは、座標や緯度経度など地物の位置を表現するための情報」であり、当該「地物」とは、「土地の境界」であることが記載されている。
また、上記(1)ケの記載によると、引用文献1には、「カメラ1aの実空間座標、カメラ1aの姿勢、カメラ1aの仕様を基に、モニタ1b上の任意座標系を光学的に求める際に、同時に空間モデルのうち仮想空間画像として作成される範囲(つまり描画範囲)を抽出」することが記載されている。
すなわち、引用文献1には、引用文献1の画像合成プログラムは、『前記記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得する』ことが記載されている。

カ 表示について
上記(1)オの記載によると、引用文献1には、データベースから取得した空間情報に「所定の演算処理を行い、地物の特定の位置、特定の形状や大きさを求める」ことにより、仮想空間モデルを求めることが記載されている。
また、上記(1)カの記載によると、引用文献1には、仮想空間モデルから、「仮想空間画像が作成される」ことが記載されている。
また、上記(1)キの記載によると、引用文献1には、モニタ1b上の任意座標系で配置された実空間画像と同じく、仮想空間画像は、「仮想空間モデルをモニタ1b上の任意座標系に配置」したものであることが記載されている。
また、上記(1)クの記載によると、引用文献1には、「実空間画像と遠近表示された仮想空間画像をモニタ1bに重畳して表示させる」ことが記載されている。
また、上記(1)カの記載によると、引用文献1には、「仮想空間画像は、モニタ1b上でも実際に存在している位置に表示される」ことが記載されている。
すなわち、引用文献1には、引用文献1の画像合成プログラムは、『取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させて前記モニタに表示させる』ことが記載されている。

キ まとめ
以上によると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。以下、構成a?構成eと称する。

(引用発明)
(e)カメラ、モニタ及び記憶領域を備えた端末機のコンピュータに、現実の空間を撮像した実空間画像に、仮想の画像を重畳して表示する処理を実行させる画像合成プログラムであって、
(a)前記端末機に備えられた前記カメラにより撮影を実行し、
(b)前記カメラの緯度と経度と標高を用いた前記カメラの実空間座標、Z軸回りの回転κ(ヨー)、X軸回りの回転ω(ピッチ)を用いた前記カメラの姿勢を取得し、前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)から、実空間画像で表現された実在物の実空間座標が前記モニタ上でどのように表示されているかを把握することによって、前記モニタ上の任意座標系を定め、
(c)前記記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得し、
(d)取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させて前記モニタに表示させる
(e)処理を端末機の前記コンピュータに実行させる画像合成プログラム。

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である特開2000-358240号公報には、「監視カメラ制御装置」(発明の名称)に関し、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。

ア「【0040】監視カメラ201及び雲台202の状態情報として、雲台202のパン角度及びチルト角度と、監視カメラ201の画角が得られる場合、地図表示手段210に表示される撮影地点、撮影範囲は以下のように計算される。
【0041】図2は、前記撮影地点の計算方法を説明するための図であり、カメラの設置高さをH、カメラの設置地点を(xc、yc)、真北方向を基準としたパン角度をθ(東向き正)、水平方向を基準としたチルト角度をφ(下向き正)、カメラの撮影地点を(xo、yo)、カメラ設置地点と撮影地点間の距離を東西方向をdx、南北方向をdyとする。dx、dyは以下の数1の式により求められる。
【0042】
【数1】dx=h/tanφ・sinθ
dy=h/tanφ・cosθ
したがって、撮影地点xo、yoは以下の数2の式により求められる。
【0043】
【数2】xo=xc+dx
yo=yc+dy
ここで求めているのは、ある基準点からの距離であるから、前記地図表示手段210で緯度、経度に基づいて地点を表示する場合には、さらにそれに応じた変換が必要になる。以上の数式により、雲台の状態情報から撮影地点を求める。
【0044】次に、撮影範囲の計算について説明する。図3は、撮影範囲の計算方法を説明するための図であり、wは監視カメラ201の撮影画角、w´は撮影画角を水平面に投影した角度である。角度w´は以下の数3の式により求められる。
【0045】
【数3】



イ「【図2】



ウ「【図3】



(2)引用文献2に記載された技術
以上によると、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。

「撮影を行ったカメラの設置地点(xc、yc)、パン角度θ、チルト角度φ、カメラの設置高さH、カメラの撮影画角wに基づいて、カメラの撮影範囲を計算する技術」

3 引用文献3
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3である特開平6-284330号公報には、「地図情報連動監視カメラ制御装置」(発明の名称)に関し、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。

ア「【0028】この図においてカメラ設置位置16はカメラが固定設置であるため、予め演算制御装置3に登録することにより地図上表示を行う。またカメラの撮影範囲17を示す境界線はカメラのカメラ水平角度(パン)、カメラ垂直角度(チルト)、ズーム、を示す情報をカメラ雲台制御装置5から入力し、これと予め登録されているカメラの設置高度値及び表示地図の縮尺から計算し表示を行う。このカメラの撮影範囲17を示す境界線はコンピュータ画像として生成され、映像合成装置9にて他の地図情報等のコンピュータ画像とともに同一画面上に表示される。」

イ「【図3】



(2)引用文献3に記載された技術
以上によると、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。

「撮影を行ったカメラの設置位置、水平角度、垂直角度、ズームを示す情報、及び、カメラの設置高度値に基づいてカメラの撮影範囲を計算する技術」

第5 対比
次に、本願発明と、引用発明を対比する。

1 本願発明の構成Aについて
引用発明の構成aにおける「カメラにより撮影を実行」することは、本願発明における「撮影処理を実行」することに対応する。
また、ユーザがカメラを用いて撮影を実行する際に、当該ユーザが当該カメラに対して撮影を指示(すなわち、撮影を依頼)することは一般的なことであり、また、このことは、撮影を制御するプログラムの側から見れば、撮影依頼を検出したときに撮影処理を実行する、ということになるのは当業者にとって明らかなことである。
(なお、プログラムについては、以下の「5 本願発明の構成Eについて」の項目を参照。)
したがって、本願発明と引用発明は、「撮影依頼を検出すると、撮影処理を実行」するという点で一致する。

2 本願発明の構成Bについて
引用発明においては、構成aのとおり、カメラは端末機に備えられているのであるから、引用発明における構成bの「カメラの緯度と経度」、「Z軸回りの回転κ(ヨー)」、「X軸回りの回転ω(ピッチ)」は、それぞれ、本願発明における「端末の位置」、「撮像方位」、「仰俯角」に対応する。
また、引用発明の構成bにおける「カメラ」の「標高」と、本願発明の「前記端末の地面からの高さ」については、両者は、いずれも、高さを表すものであるという点で共通するものの、「標高」とは、通常は、平均海面からの高さを意味する用語であるから、両者では、その高さの基準となる面が、「平均海面」であるか「地面」であるか、という点で相違している。
また、引用発明は、構成b、構成c及び構成dのとおり、「前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)」から定めた任意座標系を用いて、仮想空間画像を実空間画像に重畳させるものであるから、ここで用いられるカメラの緯度と経度と標高、Z軸回りの回転κ(ヨー)、X軸回りの回転ω(ピッチ)が、撮影を実行した際におけるものであることは、当業者にとって明らかである。
したがって、本願発明と引用発明は、「前記撮影処理を実行した際における端末の位置、撮像方位、仰俯角、及び前記端末の高さ」を用いるものであるという点で一致する。
ただし、本願発明は、これらの端末の位置及び向きに関する情報に基づいて「撮影範囲を特定し」という処理を行うのに対し、引用発明は、これらの端末の位置及び向きに関する情報に基づいて「撮影範囲を特定し」という処理を行っていない点で両発明は相違している。
さらに、端末の高さについて、本願発明では、「地面からの高さ」であるのに対し、引用発明では、標高、すなわち、「平均海面からの高さ」である点で両発明は相違している。

3 本願発明の構成Cについて
引用発明は、「特定された前記撮影範囲に基づき、撮影された画像内における土地に相当する領域を特定し」という処理を行っていないから、本願発明と引用発明は、この点で相違している。

4 本願発明の構成Dについて
引用発明の構成cの「記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得」することは、本願発明の「記憶部から緯度経度情報に対応する土地の境界線情報を読み出」すことに対応する。
また、引用発明は、構成cのとおり、土地の境界を表す空間情報を取得するものであるから、引用発明の構成dの「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させて前記モニタに表示させる」ことは、本願発明の「読み出した該土地の境界線情報を重畳させた画像を生成して表示部に表示させる」ことに対応する。
したがって、本願発明と引用発明は、「記憶部から緯度経度情報に対応する土地の境界線情報を読み出して」、「読み出した該土地の境界線情報を重畳させた画像を生成して表示部に表示させる」という点で一致する。
ただし、当該重畳させた画像を生成する処理について、本願発明では、「特定された前記土地に相当する領域に」重畳させているのに対し、引用発明では、上記3のとおり、土地に相当する領域を特定しておらず、引用発明では、「前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)から、実空間画像で表現された実在物の実空間座標が前記モニタ上でどのように表示されているかを把握することによって、前記モニタ上の任意座標系を定め」(構成b)、「前記記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得し」(構成c)、「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させ」る(構成d)、という処理によって行われている点で、両発明は相違している。

5 本願発明の構成Eについて
引用発明の構成eの「画像合成プログラム」は、土地の境界を実空間画像に重畳して表示するものであるから、土地境界表示プログラムともいい得るものである。
したがって、引用発明の「画像合成プログラム」は、本願発明の「土地境界表示プログラム」に対応する。

6 まとめ
以上によると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、相違している。

[一致点]
撮影依頼を検出すると、撮影処理を実行し、
前記撮影処理を実行した際における端末の位置、撮像方位、仰俯角、及び前記端末の高さに基づいて、
記憶部から緯度経度情報に対応する土地の境界線情報を読み出して、読み出した該土地の境界線情報を重畳させた画像を生成して表示部に表示させる
処理をコンピュータに実行させる土地境界表示プログラム。

[相違点]
(相違点1)重畳させた画像を生成する処理について、本願発明は、端末の位置及び向きに関する情報に基づいて「撮影範囲を特定し」、「特定された前記撮影範囲に基づき、撮影された画像内における土地に相当する領域を特定し」、「特定された前記土地に相当する領域に」、土地の境界線情報を重畳させた画像を生成するのに対し、引用発明は、「前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)から、実空間画像で表現された実在物の実空間座標が前記モニタ上でどのように表示されているかを把握することによって、前記モニタ上の任意座標系を定め」、「前記記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得し」、「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させ」た画像を生成する点。

(相違点2)端末の高さについて、本願発明では、「地面からの高さ」であるのに対し、引用発明では、標高、すなわち、「平均海面からの高さ」である点。

第6 判断
以下、相違点について検討する。

1 相違点1について
(1)引用発明は、上記第4の1(2)で認定したとおり、構成b及び構成cの処理を実行し、「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させ」る処理を実行するものである。

(2)ここで、引用発明の「描画範囲」は、モニタに表示される範囲であり、この範囲は、カメラで撮影される範囲に対応するのであるから、引用発明においても、「描画範囲」を特定するために、カメラの撮影範囲を特定する必要があることは、当業者にとって明らかである。

(3)また、引用発明は、「モニタの描画範囲の空間情報を取得し」、「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置する」ものであるが、このような処理を実現するためには、記憶領域内のデータベースに記憶されている土地の境界を表す空間モデルの空間情報が、描画範囲内(カメラの撮影範囲内)に含まれるものであるかどうかを判定する、すなわち、撮影範囲内に土地に相当する領域があるかどうかを特定する必要があることも、当業者にとって明らかである。

(4)さらに、引用発明は、「作成された前記仮想空間画像を、前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させ」るのであるから、引用発明においても、土地の境界が、モニタ上で実際に存在している位置、すなわち、特定された土地に相当する領域に重畳されることは、当業者にとって明らかである。

(5)したがって、引用発明における上記相違点1に係る構成、すなわち、「前記カメラの実空間座標、前記カメラの姿勢、前記カメラの仕様(画角や焦点距離など)から、実空間画像で表現された実在物の実空間座標が前記モニタ上でどのように表示されているかを把握することによって、前記モニタ上の任意座標系を定め」、「前記記憶領域内のデータベースに記憶される空間モデルから、緯度経度に対応する土地の境界を表す空間情報のうち、前記モニタの描画範囲の空間情報を取得し」、「取得した前記空間情報から求めた仮想空間モデルを前記モニタ上の前記任意座標系に配置することにより仮想空間画像を作成し、作成された前記仮想空間画像を前記モニタ上で実際に存在している位置に、実空間画像に重畳させ」た画像を生成する処理は、本願発明の、端末の位置及び向きに関する情報に基づいて、「撮影範囲を特定し」、「特定された前記撮影範囲に基づき、撮影された画像内における土地に相当する領域を特定し」、「特定された前記土地に相当する領域に」、土地の境界線情報を重畳させる、という処理と実質的に相違するものではない。

2 相違点2について
上記「1 相違点1について」の項目で述べたように、引用発明においても、カメラの撮影範囲を特定する必要があることは当業者にとって明らかであるところ、カメラの撮影範囲を特定する際の端末の高さについて、「地面からの高さ」を用いることは、引用文献2、引用文献3等に示されるように周知技術に過ぎないものである。そして、引用発明において、端末の高さをどのようなものとするかは、当業者が適宜定め得る設計的事項に過ぎないから、引用発明において、端末の高さを、本願発明のように、「地面からの高さ」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

3 効果等について
本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

4 まとめ
以上のように、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-11 
結審通知日 2018-05-15 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2013-85904(P2013-85904)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 高行榎 一花田 尚樹  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 清水 正一
坂東 大五郎
発明の名称 土地境界表示プログラム、方法、及び端末  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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