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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01K
管理番号 1342406
審判番号 不服2016-19016  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-19 
確定日 2018-08-03 
事件の表示 特願2014-551218「捕食性ダニと、真菌抑制剤に接触している不動化された餌とを含むダニ組成物並びに前記組成物の使用に関する方法及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日国際公開、WO2013/103294、平成27年 3月26日国内公表、特表2015-508999、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、2012年10月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年6月6日に意見書が提出されるとともに手続補正書が提出されたが、同年8月24日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成28年12月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成30年2月19日付けで拒絶理由(以下、「当審拒理」という。)が通知され、同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1?21に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-121958号公報
2.欧州特許出願公開第2380436号明細書


第3 当審拒理の概要
当審拒理の概要は次のとおりである。

本願請求項1?21に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2011-121958号公報(拒絶査定時の引用文献1)


第4 本願発明
本願の請求項1?21に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明21」という。)は、平成30年6月12日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
捕食性ダニ種から選択される捕食性ダニ種の個体群と、
少なくとも1種のAstigmatidダニ種の個体群を含む、前記捕食性個体のための食物源と、ここで、前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されており、
を含むダニ組成物であって、不動化されたAstigmatid個体群が、真菌抑制剤に接触されており、前記真菌抑制剤が、食真菌性ダニ種または抗真菌性滲出液を産生するダニ種から選択される真菌抑制ダニ個体群を含む、ダニ組成物。」


第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(当審拒理の拒絶の理由に引用された引用文献A)には、次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、第一の態様によると、新規ダニ構成物に関する。
【0002】
第二の態様によると、本発明は、捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiの新規飼育方法に関する。
【0003】
第三の態様によると、本発明は、捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiを飼育するための人工寄主としてのコナダニ(Astigmatid mite)の新規使用に関する。
【0004】
第四および五の態様によると、本発明は、捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiを飼育するための新規飼育システム、および作物害虫の防除のためのこの飼育システムの使用に関する。
【0005】
なお、さらなる態様によると、本発明は、本発明のダニ構成物を利用する、作物における生物的害虫防除方法に関する。」

(2)「【0019】
Amblyseius swirskiiのために利用できる食餌物質の欠点のため、この捕食性ダニは、大量には市場に出回っていない。従って、Amblyseius Swirskiiを経済的に大量生産できる代替食餌源は、この捕食性ダニを、様々な作物害虫に対して使用するための増加性生物学的防除因子としての使用に適するようにすることができ、有益である。
【0020】
Amblyseius swirskiiは、少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群を用いて飼育できることが今般判明した。
【0021】
従って、第一の態様によると、本発明は、捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiの飼育個体群と、少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群とを含む、ダニ構成物に関する。」

(3)「【0024】
人工寄主種は、捕食性カブリダニとは異なる自然生息場所に棲む種であるが、それにもかかわらず、1つ以上の生活期の人工寄主が、少なくとも1つの生活期の捕食性カブリダニにとって適当な被食者である。最も重要なこととして、捕食性カブリダニは、発生する能力を有し、また人工寄主の食餌を用いて飼養すると繁殖して、その飼育個体群の個体数が増大できる能力がある。」

(4)「【0041】
本構成物において、捕食性カブリダニ種の個体数は、人工寄主の個体数に対して、約1000:1から1:20、例えば、約100:1から1:20、例えば1:1から1:10、好ましくは、約1:4、1:5または1:7であり得る。
【0042】
これらの相対数は、その構成物の特定の使用目的、および/または人工寄主でのカブリダニ個体群の発育の段階に依存し得る。一般に、人工寄主の個体が、カブリダニの個体数に対して過剰に存在する構成物は、十分な被食者がカブリダニに提供されるため、カブリダニ種の飼育に好ましい。しかし、カブリダニ個体群は、人工寄主を捕食しながら増加するので、カブリダニ種の個体の相対数は、増加する。
【0043】
高い相対数の捕食性カブリダニを含む構成物は、より低い相対数を含む構成物から形成されてもよく、人工寄主を捕食することによって捕食性カブリダニの飼育個体数を増大させることができる。あるいは、低い相対数の捕食性カブリダニを含む構成物を、より高い相対数を含む構成物と(場合によっては担体および/または人工寄主に適する食餌物質と併せて)人工寄主のみを含む構成物を含む、より低い相対数を含む構成物とを混合することにより、形成することができる。
【0044】
さらなる態様によると、本発明は、捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiを飼育するための方法に関する。本方法は、本発明の構成物を提供すること、および前記捕食性カブリダニの個体に前記人工寄主個体群の個体を捕食させることを含む。」

上記(3)段落【0024】、(4)段落【0041】?【0044】の記載によれば、前記捕食性カブリダニの個体が、食餌として、人工寄主を捕食することが理解できる。
すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiの飼育個体群と、前記捕食性カブリダニ種が捕食する食餌としての、少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群とを含む、ダニ構成物。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(欧州特許出願公開第2380436号明細書)には、次の事項が記載されている。(部分的に、当審で翻訳文を作成した。)

[0002] Further the invention relates to a method for rearing a phytoseiid predatory mite.
(翻訳)さらに、本発明は、捕食性カブリダニを飼育する方法に関する。

[0003] According to a further aspect the invention relates to the use of the mite composition for controlling a crop pest.
(翻訳:さらなる観点によれば、本発明は、作物害虫の抑制のためのダニ組成物の使用に関する。)

・・(略)・・

[0006] The most successful commercial productions to date are those in which the prey is a species belonging to the mite order of the Astigmata. These are small, soft bodied individuals known collec-tively as 'stored food' or 'stored product' mites, and as such live on a wide range of foodstuffs, especially those of a farinaceous nature, and are commonly found in stores and domestic dwellings (Hughes, 1976). Using the correct food materials and the right physical conditions these astigmatid mites can be reared in-doors in containers to provide high population concentrations at reasonable cost. Currently, all phytoseiid predators being produced commercially are reared on an astigmatid species.

(翻訳:・・・現在、商業的に生産されているすべてのカブリダニ種の捕食者は、Astigmatid種により飼育されている。)

[0007] The commercial product usually consists of a neutral substrate which supports the predators in a three dimensional space, plus the astigmatid prey species, together with its farinaceous type food supply.

(翻訳:市販の製品は、通常、捕食者を3次元空間に支持する中性の基材に加えて、穀粉タイプの食糧供給とともに、Astigmatid種である食餌を含む。)

[0008] After certain adjustments aimed at giving a balanced ratio of predator to prey, this same composition forms the basis of the product offered for sale. Accordingly, on application into the crop, it will contain a live population of the astigmatid host.

(翻訳:・・・したがって、作物に供給されるときは、生きたAstigmatid宿主の個体群を含むであろう。)

[0009] This current commercial product causes a number of problems. The presence of food material such as bran used to feed the prey during predator production causes problems of fungal contamination. A further problem is the occurrence of prey imbalance, in which too high or too low prey ratios can cause poor predator development. Further, some astigmatid species can cause crop damage by feeding on younger tender plants.

(翻訳:・・・捕食者製造中に、食餌を供給するために使用されるふすまのような食物材料の存在は、真菌汚染の問題を引き起こす。・・さらに、Astigmatid種のいくつかは、若く、軟らかい植物への供給によって、作物の損害を引き起こす可能性がある。)

・・(略)・・

[0011] The present invention solves these problems by providing a mite composition which contains only one live population, namely the predator.

(翻訳:本発明は 生きた個体群、すなわち、捕食者のみを含むダニ組成物により、これらの課題を解決する。)

[0012] Accordingly, the invention provides a mite composition comprising:

- a rearing population of a phytoseiid predatory mite species,
- a population of at least one species from the order Astigmata, and
- optionally a carrier,

characterized in that the population of the species from the order Astigmata is not alive.

(翻訳:したがって、本発明は、下記のものを含む、ダニ組成物を提供する
- 捕食性カブリダニ種の飼育個体群と
- Astigmata目の少なくとも1つの種の個体群
- 任意に、担体
Astigmata目の少なくとも1つの種の個体群は生きていないことを特徴とする。)

・・(略)・・

[0015] Astigmatid species can be expected to reach an intrinsic rate of increase varying from about 2.5 to 6 in about seven to nine days (Cunnington,1965 & 1969). Once such a population has obtained the required density, and the food material is reaching exhaustion, the population will be killed in order to obtain a dead population. In a preferred embodiment of the invention, the composition will be fast frozen, using the technique employed to freeze food for human consumption, namely immersion in an atmosphere of gaseous liquid nitrogen. This material can then be stored until required to feed the phytoseiid populations.

(翻訳:Astigmatid種は、・・・このような個体群が所望の濃度となり、食物材料が完全に消耗されると、この個体群は、死んだ個体群を得るために殺されるであろう。・・・)

・・(略)・・

[0018] The composition of the invention provides a considerable number of advantages over previous combinations. In one aspect the food material used to feed the prey during predator production will no longer be required, therefore providing a substantial cost saving. In another aspect the absence of food materials such as bran will reduce problems of fungal contamination.

(翻訳:・・・別の観点では、ふすまのような食物材料の不存在は、真菌汚染の問題を減少させるであろう。)

・・(略)・・

[0021] In a further advantage the concern that some astigmatid species can cause crop damage by feeding on young tender plants will now no longer apply. Nor will there be a problem where some countries invoke quarantine regulations refusing admission to materials containing certain astigmatid species.

(翻訳:さらに有利には、、Astigmatid種のいくつかが若く、軟らかい植物に供給されることによる作物の損害を引き起こす懸念が、もはやあてはまらなくなる。・・・)

引用文献2の全記載事項からは、Astigmatid種の個体群は、その100%が殺された個体群とされるものと解するのが相当である。
すると、上記引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。

作物害虫の抑制のためのダニ組成物として、捕食性カブリダニ種の個体群と、捕食性カブリダニの食餌となるAstigmatid種の生きた個体群と、Astigmatid種の生きた個体の食餌となる食物材料を含む組成物を使用すると、Astigmatid種の生きた個体が作物の損害を引き起こしたり、食物材料が真菌汚染を引き起こす問題があるので、捕食性カブリダニ種の個体群に供給するAstigmatid種の個体群としては、100%殺された個体群を使用する。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1の「捕食性カブリダニ種Amblyseius swirskiiの飼育個体群」、「前記捕食性カブリダニ種が捕食する食餌としての、少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」及び「ダニ構成物」は、それぞれ、本願発明1の「捕食性ダニ種から選択される捕食性ダニ種の個体群」、「少なくとも1種のAstigmatidダニ種の個体群を含む、前記捕食性個体のための食物源」及び「ダニ組成物」に相当する。

イ 引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の中には、自然死した個体が一定程度含まれることは当然のことである。
そして、本願発明1の「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されて」いることについて、本願の明細書の、
「【0017】
本発明において、Astigmatid個体の少なくとも一部分が不動化されている。本発明の文脈内において、不動化という用語は、Astigmatid個体が、不動化処理に付されたことを意味するものと解釈されるべきである。不動化処理は、Astigmatid個体がその生活段階のいずれかにおいて有する運動性を損なう処理を意味するものと解釈されるべきである。運動性とは、自発的及び独立的に動く能力である。
【0018】
当業者であれば認識できる通り、運動性があるAstigmatidダニの生活段階は、幼虫、若虫及び成虫である。よって、これらの段階のいずれかの運動性を損なう処理は、不動化処理であると考慮されるべきである。加えて、個体が卵段階等の運動性でない生活段階から運動性である生活段階へと発育するのを防止する処理も、不動化処理として考慮されるべきである。好ましい一実施形態において、不動化されたAstigmatidダニ個体の個体群は、卵、幼虫、若虫又は成虫、好ましくはこれらの生活段階の全てを含む。更に好ましい一実施形態において、Astigmatid個体は、永続的に不動化されている。死をもたらす処理は、永続的な不動化処理として考慮することができる。」
という記載から、不動化処理は永続的な不動化処理、すなわち、殺処分することも含むものであり、本願発明1の「不動化されたAstigmatid個体群」には、殺処分された個体が含まれると認められる。
そして、本願発明1の「ダニ組成物」、引用発明1の「ダニ構成物」という物の発明においては、殺処分された個体と自然死した個体は区別が付けられないことも明らかである。
すると、引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の中に一定程度含まれる自然死した個体は、本願発明1の「不動化されたAstigmatid個体群」に相当するから、本願発明1と引用発明1は、「前記Astigmatid個体群の一部分が不動化されて」いる点で共通する。

ウ 本願発明1の「前記真菌抑制剤が、食真菌性ダニ種または抗真菌性滲出液を産生するダニ種から選択される真菌抑制ダニ個体群を含む」について、本願の明細書の、
「【0033】
或いは、真菌抑制剤は、食真菌性(fungivorous)ダニ個体の個体群等の、生物学的真菌抑制剤を含み得る。食真菌性(又は食菌性)ダニは、真菌バイオマスを常食とするダニであり、よって、真菌生育を抑制及び制御することができる。好ましくは、食真菌性ダニ個体は、Tyrophagus putrescentiae、・・・、Dermatophagoides pteronyssinus等の、Pyroglyphidaeから選択される種等の、Astigmatid種からのものである。当業者であれば、その食菌性機能を果たすために、食真菌性ダニ個体は、生きている必要があり、好ましくは、運動性がある必要があることを理解されよう。運動性のある食真菌性個体は、Astigmatid個体の非不動化部分の少なくとも一部を形成し得る。」
という記載から、「食真菌性ダニ種」は不動化されていないAstigmatid個体を含むものであるから、引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種」の中の生きた個体が本願発明1の「食真菌性ダニ種」に相当する。
すると、「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群とを含む」引用発明1は、本願発明1の「食真菌性ダニ種または抗真菌性滲出液を産生するダニ種から選択される真菌抑制ダニ個体群を含む」「真菌抑制剤」に相当するものを含むと認められる。

エ 上記イでの検討のとおり、引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の中に一定程度含まれる自然死した個体は、本願発明1の「不動化されたAstigmatid個体群」に相当し、
上記ウでの検討のとおり、引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種」の中の生きた個体が本願発明1の「食真菌性ダニ種」に相当し、
引用発明1では、「ダニ構成物」中で、自然死した個体と生きた個体が接触していることは明らかである。
すると、引用発明1は、本願発明1の「不動化されたAstigmatid個体群が、真菌抑制剤に接触されており」に相当する構成を備えていると認められる。

(一致点)
上記ア?エでの検討から、本願発明1と引用発明1は、
「捕食性ダニ種から選択される捕食性ダニ種の個体群と、
少なくとも1種のAstigmatidダニ種の個体群を含む、前記捕食性個体のための食物源と、ここで、前記Astigmatid個体群の一部分が不動化されており、
を含むダニ組成物であって、不動化されたAstigmatid個体群が、真菌抑制剤に接触されており、前記真菌抑制剤が、食真菌性ダニ種または抗真菌性滲出液を産生するダニ種から選択される真菌抑制ダニ個体群を含む、ダニ組成物。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されて」いるのに対して、引用発明1では、「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の中に含まれる自然死した(不動化された)個体の割合が明らかでない点。

(2)判断
上記相違点について、以下、検討する。
ア 引用文献1のみでの判断
まず、引用文献1には、「人工寄主個体群」として、死んだ個体を使用するという技術事項は記載も示唆もされていないから、生きた個体を使用することを前提としていることは明らかである。
そして、その「人工寄主個体群」中に自然死した個体が含まれるとしても、50%を越える個体が自然死している「人工寄主個体群」を使用することは、上記前提からは、想定できないから、引用発明1では、「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の中に含まれる自然死した個体の割合が明らかでないとしても、50%を超えるものではないと認めるのが相当であり、さらに、50%を超えるような「人工寄主個体群」とする動機付けはなく、逆に、阻害要因があるともいえる。
したがって、引用発明1において、「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の50?90%が自然死した個体であるとも、引用発明1の「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の50?90%を自然死した個体とすることが容易に想到し得るともいえない。

イ 引用文献1及び2での判断
引用文献2に記載された技術事項は、上記「第5」「2」のとおりであり、引用文献2に記載された技術事項を参照すれば、引用発明1においても、作物害虫の抑制のためのダニ組成物として、捕食性カブリダニ種の個体群と、捕食性カブリダニの食餌となるAstigmatid種の生きた個体群と、Astigmatid種の生きた個体の食餌となる食物材料を含む組成物を使用すると、Astigmatid種の生きた個体が作物の損害を引き起こしたり、食物材料が真菌汚染を引き起こす問題が生じることは、当業者が容易に予測し得ることであり、これらの問題を解決するために、引用文献2に記載された技術事項と同様に、捕食性カブリダニ種の個体群に供給するAstigmatid種の個体群としては、100%殺された個体群を使用することには、十分な動機付けがある。
しかし、この引用発明1に引用文献2に記載された技術事項を組み合わせた場合、「少なくとも1つのコナダニ種を含む人工寄主個体群」の100%が殺された個体群となり、本願発明1の「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されて」いる構成にはならないことは明らかである。
したがって、引用発明1に、引用文献2に記載された技術事項を組み合わせても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が容易に想到し得るとはいえない。

(3)小括
よって、本願発明1は、引用発明1ではなく、また、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとも、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるともいえない。

2 本願発明2?21について
本願発明2?21も、本願発明1の「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されて」いる構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1ではなく、また、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとも、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるともいえない。


第7 原査定についての判断
原査定時の請求項1の「前記Astigmatid個体群の少なくとも一部分が不動化されており」(当審註:Astigmatid個体群の100%が不動化されたものも含む)は、平成30年6月12日の手続補正により、最終的に、「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されており」と補正された。
この「前記Astigmatid個体群の50?90%が不動化処理によって不動化されて」いる構成は、上記「第6」「1」「(2)」「イ」で検討したとおり、原査定における引用文献1及び2を組み合わせても、当業者が容易に発明できるとはいえないから、もはや、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-23 
出願番号 特願2014-551218(P2014-551218)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A01K)
P 1 8・ 121- WY (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 誠田辺 義拓  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 伊藤 昌哉
東松 修太郎
発明の名称 捕食性ダニと、真菌抑制剤に接触している不動化された餌とを含むダニ組成物並びに前記組成物の使用に関する方法及び使用  
代理人 森本 聡二  
代理人 中村 綾子  
代理人 河村 英文  
代理人 水島 亜希子  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  

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