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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41B
審判 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益  A41B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A41B
管理番号 1342473
審判番号 無効2015-800170  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-03 
確定日 2018-07-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第5225248号「パンツ型使い捨ておむつ」の特許無効審判事件についてされた平成28年 6月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10185号、平成29年10月23日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5225248号(以下「本件特許」という。)は、平成12年9月4日に出願した特願2000-266659号の一部を、平成21年10月28日に新たな特許出願としたものであって、平成25年3月22日に本件特許の設定登録がなされたものである。
本件無効審判の請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成27年9月3日 審判請求書(以下「請求書」という。)
平成27年11月20日 審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)
平成27年12月15日 審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)
平成28年1月22日付け 審理事項通知書
平成28年2月12日 請求人及び被請求人口頭審理陳述要領書(以下「請求人要領書」及び「被請求人要領書」という。)
平成28年2月19日付け 審理事項通知書(2)
平成28年2月24日 証人尋問申出書及び尋問事項書
平成28年3月4日 請求人及び被請求人口頭審理陳述要領書(2)(以下「請求人要領書(2)」及び「被請求人要領書(2)」という。)
平成28年3月7日付け 無効2015-800170 口頭審理当日進行メモ
平成28年3月9日 被請求人口頭審理陳述要領書(3)(以下「被請求人要領書(3)」という。)
平成28年3月9日 請求人口頭審理陳述要領書(3) (以下「請求人要領書(3)」という。)
平成28年3月9日 口頭審理及び本人尋問
平成28年4月6日 被請求人上申書
平成28年4月20日 請求人上申書
平成28年6月24日付け 審決(請求却下)(以下「一次審決」という。)
平成28年8月8日 審決取消訴訟提起(被請求人)(平成28年(行ケ)第10185号)
平成29年10月23日 判決言渡(一次審決取消、上訴なく確定)
第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである。なお、各段落の先頭に付した「A.」等の分説記号は、便宜上、請求人が付したとおりのものを採用した。
「【請求項1】
A. 液透過性の表面シート、液不透過性の防漏シート及び液保持性の吸収体を有する吸収性本体と、該吸収性本体の該防漏シート側に配された外層体とを具備するパンツ型使い捨ておむつにおいて、
B. 前記外層体における着用者の胴回りに配される胴周囲部に、該胴回りの周方向に向けて、かつ該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材を備えており、
C. 前記胴回り弾性部材は、前記外層体における、少なくとも前記吸収体の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように伸長状態で固定されており、
D. 且つ該吸収体が存在する部位では、切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているとともに、
E. 該部位の少なくとも中央部においては、前記ホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており、
F. 前記吸収体が存在する部位における、前記胴回り弾性部材による伸縮弾性が発現されない範囲が、該吸収体の幅の1/2以上であるパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項2】
G. 前記胴回り弾性部材が、圧接カットで切断されている請求項1記載のパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項3】
H. 前記吸収性本体と前記外層体とが部分接合で固定されている請求項1又は2に記載のパンツ型使い捨ておむつ。」

第3 請求人適格について
被請求人は、本件審判事件の請求人である堀田浩康は一個人であり、被請求人である花王株式会社の有する本件特許権に係る特許を無効とすることについて如何なる利害関係を有するのか、全く不明であり、本件審判請求は、特許法第123条第2項の規定に適合しないから、特許法第135条の規定により不適法なものとして却下されるべきものである旨主張し、一方、請求人はそれに対して反論しているから、まず、この点について検討する。
(答弁書 7.[1]、弁駁書 7. 、請求人要領書 6.第1.1.及び2.、被請求人要領書 6.[1]、請求人要領書(2) 6.第2.1.、請求人上申書 6.第2)

本件無効審判の一次審決に係る知財高裁平成28年(行ケ)第10185号事件判決は、請求人適格について、以下のとおり判示した。
「請求人は現実に本件発明と同じ技術分野に属する請求人発明について特許出願を行い、かつ、後に出願審査の請求をも行っているところ、請求人としては、将来的にライセンスや製造委託による請求人発明の実施(事業化)を考えており、そのためには、あらかじめ被請求人の本件特許に抵触する可能性(特許権侵害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて、本件無効審判請求を行ったというのであり、その動機や経緯について、あえて虚偽の主張や陳述を行っていることを疑わせるに足りる証拠や事情は存しない。
以上によれば、請求人は、製造委託等の方法により、請求人発明の実施を計画しているものであって、その事業化に向けて特許出願(出願審査の請求を含む。)をしたり、試作品(サンプル)を製作したり、インターネットを通じて業者と接触するなど計画の実現に向けた行為を行っているものであると認められるところ、請求人発明の実施に当たって、本件特許との抵触があり得るというのであるから、本件特許の無効を求めることに十分な利害関係を有するものというべきである。」
そして、この判示は、上記判決の主文が導き出されるものに必要な事実認定及び法的判断を構成するものであるから、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当審合議体の判断を拘束する。
よって、請求人は特許法第123条第2項でいう利害関係人に該当し、本件無効審判事件の請求人適格を有する。

第4 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5225248号の請求項1乃至請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の証拠方法を提出し、次の無効理由を主張する。(請求書 6)
なお、請求人が提出した甲第1号証等を、以下「甲1」等といい、甲1等に記載された発明あるいは事項を、「甲1発明」等あるいは「甲1事項」等という。

1.無効理由の概要
請求人が主張する無効理由1?4の概要は、以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が構成要件C、D及びEを含む本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合せず、本件発明1?3は、特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(請求書 7.(3)(3-1))

(2)無効理由2
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1?3が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合せず、本件発明1?3は、特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(請求書 7.(3)(3-2))

(3)無効理由3
本件特許に係る出願についての、平成24年12月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」といいう。)は、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の要件に適合せず、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。(請求書 7.(3)(3-3))

(4)無効理由4
ア.本件発明1?3は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(請求書 7.(3)(3-4)(ア))(以下「無効理由4-1」という。)

イ.本件発明1?3は、甲2発明並びに甲1、3及び4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(請求書 7.(3)(3-4)(イ))(以下「無効理由4-2」という。)

2.無効理由1?4についての請求人の主張
(1)無効理由1についての請求人の主張
ア.本件特許明細書には、本件発明1の構成要件C及びDに特定された胴回り弾性部材がどのようなものか、例えば性質及び材料についての記載がない。さらに、本件特許明細書には、胴回り弾性部材が伸縮弾性を、どの程度有しているかの記載はない。(請求書 7.(4)(4-3)(ア))

イ.本件特許明細書及び図面には、本件発明1の構成要件C及びDに特定された、吸収体の存在する部分に胴回り弾性部材をホットメルト粘着剤により配設しつつ、当該胴回り弾性部材の切断によりどのようにして、吸収体の両側縁から内側にかけての領域では伸縮弾性を発現させ、該部位の中央部では伸縮弾性を発現させないようにするか、を実現するための構成が記載されているとはいえない。
よって、当該構成要件D及びEに係る構成を含む本件特許発明1が、当業者に過度の試行錯誤を求めることなく、当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(請求書 7.(4)(4-3)(イ)?(エ))

(2)無効理由2についての請求人の主張
ア.本件発明1の構成要件B、D、Eは、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されたものではない。
本件特許明細書の段落【0014】の記載は、「吸収体本体10」を「外層体11」に取り付ける位置を示すに過ぎず、構成要件Bの「(胴回り弾性部材を)外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定」することを示すものではない。
本件特許明細書の段落【0032】には、胴回り部弾性部材71a,71bをホットメルト粘着剤により外層体に配設固定しているとの記載はないから、構成要件Bの特に「該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材」を示すものではない。
本件特許明細書の段落【0020】、【0021】、【0045】の【表1】、【図2】のそれぞれには、胴回り弾性部材71a、71bにおける伸縮性の発現の有無についての記載があるが、構成要件Dの、「(胴回り弾性部材が)該吸収体が存在する部位では、・・・該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されている」構成は開示されていない。
また、本件特許明細書【0014】、【0021】、【0022】、【0032】、【0037】のいずれにも、構成要件Eにおける「該部位の少なくとも中央部においては、前記ホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており、」との構成は開示されていない。

イ.また、本件特許明細書の記載は、ホットメルト粘着剤により吸収体に配設固定された後における胴回り弾性部材71a,71bの伸縮弾性が特定できておらず、必ずしも、上記切断後に吸収体の存在する部位の中央部において「胴回り弾性部材が・・・伸縮弾性を発現しない」とはいえない。

ウ.上記2.(1)に示したように、構成要件D及びEに係る構成を含む本件特許発明1が、当業者に過度の試行錯誤を求めることなく、当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、当該構成を含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。(請求書 7.(4)(4-4)(イ))

(3)無効理由3についての請求人の主張
ア.構成要件Bについて
本件発明1の構成要件Bは、本件補正により、以下のとおり補正された(下線は請求人が付したとおりのものである。)。
「前記外層体における着用者の胴回りに配される胴周囲部に、該胴回りの周方向に向けて、かつ該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材を備えており、」。
しかし、特許権者が補正の根拠とする当初明細書の段落【0014】の記載は、「吸収体本体10」を「外層体11」に取り付ける位置が示されているに過ぎないし、段落【0032】には、「胴回り部弾性部材71a,71b」を「ホットメルト粘着剤」により「外層体に配設固定」しているとの記載はない。
よって、上記下線部に係る構成は、当初明細書等に記載されたものではない。(請求書 7.(4)(4-5)(ア)(b)及び(イ)(i))

イ.構成要件D及びEについて
本件補正のうち、構成要件D及びEに係るものは、次の下線部のとおり。
「且つ該吸収体が存在する部位では、切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているとともに、」(構成要件D)
「該部位の少なくとも中央部においては、前記ホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており、」(構成要件E)
(ア)構成要件Dの補正の根拠を、被請求人は、当初明細書の段落【0021】、【0022】、【0037】、【0045】であると主張している。しかしながら、段落【0021】、【0037】には、伸縮性を発現する胴回り弾性部材71a,71b部分が吸収性コア4上におけるどの位置に配設されるかの記載がない。また、段落【0045】及び【図2】には胴回り弾性部材71a,71bの配設位置にある胴回り弾性部材71a,71bが伸縮弾性を発現していることの記載はない。なお、段落【0020】には、吸収性コア4の側縁に重なる状態の胴回り弾性部材71a,71bが伸縮弾性を有する旨の記載はない。
したがって、当初明細書には、構成要件Dにおける、胴回り弾性部材が「・・・該吸収体が存在する部位では、・・・該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されている・・・」は開示されていない。
そして、段落【0020】及び【0021】の記載を総合すると、本件特許明細書は、胴回り弾性部材71a、71bは、吸収性コア4の両側縁よりも外方の部位D1では伸縮弾性を有し、吸収性コア4の側縁に若干重なる部位では伸縮弾性を有していないことを開示していることになる。すなわち、本件特許明細書は、構成要件D「(胴回り弾性部材は、)・・・該吸収体が存在する部位では、切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されている」を開示していない。

(イ)構成要件Eの補正の根拠を、被請求人は、当初明細書の段落【0021】、【0022】、【0037】、【0032】、【0014】にあると主張している。しかしながら、当該段落のいずれにも、胴回り弾性部材71a,71bを非伸縮の状態でホットメルト粘着剤により該外層体(外層シート)に配設固定する旨の記載はない。
また、当初明細書及び図面は構成要件Eの「該部位の少なくとも中央部においては、ホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており、」の根拠となり得る実施形態を開示していない。(請求書7.(4)(4-5)(イ)(ii)、請求人要領書 第5.2.(1)及び(2))

(4)無効理由4についての請求人の主張
(4-1)無効理由4-1について
ア.本件発明1について
本件発明1は、甲1発明のパンツ型使いすておむつにおいて、甲2の弾性部材8a、8bをウェストフラップ7a、7bへの接合固定についての事項、甲3の弾性部材4の接着方法についての事項、甲2?4の使いすておむつに関し、弾性部材を吸収体の存在する領域に、伸縮力がない状態又は無伸張状態で取り付けるとの事項、甲3の弾性部材4の接着についての事項、甲3及び甲4の吸収体の中央部において当該吸収体の幅の1/2以上となる全領域に非伸縮状体の伸縮弾性部材が存在しつつ、この領域では当該伸縮弾性部材による伸縮弾性が発現されないとの事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1は、甲1発明、甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(請求書 7.(4)(4-6)(ア)(a)及び(b))

イ.本件発明2について
胴回り弾性部材を圧接カットで切断することは、当初明細書の段落【0033】の「胴回り部弾性部材の切断には、ロータリーダイカッター、・・・、圧接カット、・・・などの公知の切断手段を用いることができる。」との記載から、本件特許の出願前に公知技術であることを特許権者自身が自認している。(請求書 7.(4)(4-6)(ア)(c))

ウ.本件発明3について
甲2に記載された吸収性本体9と外装部材18との接合についての事項は部分接合である。
よって、本件発明3は、甲1発明、甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(請求書 7.(4)(4-6)(ア)(d))

エ.本件発明1?3の作用効果について
(ア)本件発明1?3により得られる効果は、甲1?4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであり、本件発明1?3が格別な作用効果を奏するとはいえない。

(イ)本件特許に係る出願の平成24年4月27日付け意見書(甲7)の「5.」において、本件発明1が次の効果i?効果iiiを奏すると、被請求人は主張する。

効果i:吸収体の両側縁から内側にかけての領域に伸長状態で固定された胴回り弾性部材によって、吸収体の両側域が適度に押さえつけられるので、吸収体にひだ寄せが生じることなく、吸収体が着用者の身体に密着しやすくなる。
効果ii:吸収体上に存在する胴回り弾性部材が、該吸収体の幅方向にわたって複数に分断され伸縮性を失って、吸収体にひだ寄せが防止される。
効果iii:母親等がおむつを装着させるとき等に、分断された状態になっている非伸縮の胴回り弾性部材の存在を触覚によって知覚して、非伸縮の該胴回り弾性部材の作用によって、あたかも吸収体が締め付けられてフィット性が一層向上するかのような印象を、母親等に与えることができる。

しかし、効果ii及び効果iiiは、本件特許明細書には記載されていないから、進歩性を肯定する理由とすることは妥当ではない。そして、効果iiiは、本件発明1?3の構成要素による技術的な作用によって得られるものではない。よって、この点からも効果iiiを、本件発明1?3が進歩性を有する理由とすることは妥当ではない。
(請求書 7.(4)(4-6)(ア)(e))

(4-2)無効理由4-2について
ア.本件発明1について
本件発明1は、甲2発明のパンツ型使い捨ておむつにおいて、甲3の、弾性部材4の接着方法についての事項、甲3、甲4及び甲1の弾性部材を吸収体の存在する領域に、伸縮力がない状態又は無伸張状態で取り付けるとの事項、甲4の、弾性部材(4)を伸縮力を低下させて取り付けるとの事項、甲3及び甲4の吸収体の中央部において当該吸収体の幅の1/2以上となる全領域に、非伸縮状体の伸縮弾性部材が存在しつつ、この領域では当該伸縮弾性部材による伸縮弾性が発現されないとの事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1は、甲2発明、並びに、甲1、3及び4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(請求書 7.(4)(4-6)(イ)(a)及び(b))

イ.本件発明2について
胴回り弾性部材を圧接カットで切断する事は、本件特許の出願前に公知技術となっていたことを特許権者自身が自認している。
よって、本件発明2は、甲2発明、甲1、3及び4事項、並びに、上記本件特許の出願前に公知となった技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(請求書 7.(4)(4-6)(イ)(c))

ウ.本件発明3について
甲2には、吸収性本体9と外装部材18との接合についての事項は部分接合である点、記載されている。
よって、本件発明3は、甲2発明、甲1、3及び4事項、並びに、上記本件特許の出願前に公知となった技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(請求書 7.(4)(4-6)(イ)(d))

エ.本件発明1?3の作用効果について
(ア)本件発明1?3により得られる作用効果は、甲1?4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであり、本件発明1?3が格別な作用効果を奏するとはいえない。

(イ)本件特許に係る出願の平成24年4月27日付け意見書(甲7)において、本件発明1は、上記効果i?iiiを奏すると、被請求人は主張するが、上記(4-1)エ.(イ)に示したとおり、効果ii及効果iiiを進歩性を肯定する理由とすることは妥当ではない。
(請求書 7.(4)(4-6)(イ)(e))

3.請求人の証拠方法
請求人が提出した証拠は以下の甲1?14である。甲1?4は、請求書に添付して提出され、甲5は弁駁書に添付して提出され、甲6?13は、請求人要領書に添付して提出され、甲14は、請求人上申書に添付して提出された。
甲1:特開平8-280741号公報
甲2:特開平8-215245号公報
甲3:特開平7-236650号公報
甲4:特開平10-127690号公報
甲5:特願2015-104616号の願書の写し
甲6:特願2016-24443号の願書の写し
甲7:本件特許に係る出願(特願2009-247257号)の平成24年4月27日提出の手続補正書
甲8:本件特許に係る出願の平成24年4月27日提出の意見書
甲9:本件特許に係る出願の平成24年12月25日提出の手続補正書
甲10:本件特許に係る出願の平成24年12月25日提出の意見書
甲11:本件特許に係る出願の平成23年8月11日提出の意見書
甲12:本件特許に係る出願の平成21年10月29日提出の手続補正書
甲13:本件特許に係る出願の平成23年8月11日提出の手続補正書
甲14:請求人作成のアタックリスト

第5 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判の請求は、特許法第123条第2項に規定する要件を満たしていないから、特許法第135条の規定により不適法なものとして却下する、又は本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めるものである。(答弁書 6.)

1.無効理由1?4についての被請求人の主張
(1)無効理由1についての被請求人の主張
ア.胴回り弾性部材の弾性率等について
本件特許明細書の段落【0019】に記載された、ウエスト弾性部材、レッグ部弾性部材及び側方カフス弾性部材についての弾性率や固定状態での伸長率の記載に基づき、胴回り弾性部材の弾性率や固定状態での伸長率を設定することは、当業者の技術常識の範囲内である。
本件発明は、弾性部材の配置状態を特徴の一つとするものであるから、胴回り弾性部材の性質や材料について発明の詳細な説明で特段の説明をしなくても、当業者であれば本件特許に係る発明を実施することができる。(答弁書 7.〔4〕(1))

イ.胴回り弾性部材の切断方法について
本件特許明細書の段落【0021】、【0032】、【0033】、【0037】、【0038】、【0045】の【表1】、及び、【図2】には、吸収体の存在する部分に胴回り弾性部材をホットメルト粘着剤により配設しつつ、当該胴回り弾性部材の切断により吸収体の両側縁から内側にかけての領域では伸縮弾性を発現させ、該部位の中央部では伸縮弾性を発現させないようにする構成及び製法が記載されている。
そして、弾性部材を切断する方法や、その切断によって伸縮性が発現しないようにする方法は、例えば乙1?4のそれぞれに記載されているように、当該技術分野において周知である。
また、吸収体の両側縁から内側にかけての領域で伸縮弾性を発現させるようにし、かつ該部位の中央部で伸縮弾性を発現させないようにする弾性部材の配置状態さえ決まれば、弾性部材の切断条件自体は、当業者であれば、過度の試行錯誤を繰り返すことなく決定することができる。(答弁書 7.〔4〕(2)及び(3))

ウ.例えば乙6及び乙7に示されているように、使い捨て吸収性物品の技術分野において、弾性部材を全体に亘って伸長状態で接着剤によって固定しておき、それを切断して、弾性部材を、ある部分のみにおいて非伸縮の状態とすることは、本件特許に係る特許出願の遡及出願日前に周知の技術である。
本件発明の構成要件Bは、かかる周知技術に基づき当業者が容易に実現できるものである。(被請求人上申書 7.(1)?(3))

エ.例えば、乙8?11に記載の技術から、ホットメルト接着剤塗布後に配設された伸長状態の弾性部材を、当該ホットメルト粘着剤の「オープンタイム」内で切断すれば、切断箇所の伸長状態が解除され、必然的に収縮して非伸縮の状態となることは明らかである。よって、本件発明1の構成要件Bの「前記外層体における着用者の胴回りに配される胴周囲部に、該胴回りの周方向に向けて、かつ該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材を備え」た構成とし、それを切断して、弾性部材を、ある部分のみにおいて非伸縮の状態とすることは、上記本件特許に係る特許出願の遡及出願日当時の技術に基づき弾性部材を切断すれば自ずと実現されるものである。(被請求人上申書 7.(4)?(8))

(2)無効理由2についての被請求人の主張
ア.構成要件Bについて
本件特許明細書の段落【0020】及び段落【0032】との記載を考えあわせれば、外層シート12の全面に塗工されたホットメルト粘着剤が、外層シート12の幅方向に亘って胴回り部弾性部材71a,71bを配設することで、該弾性部材71a,71bに付着することが読み取れるから、「胴回り部弾性部材71a,71b」は「ホットメルト粘着剤」によって「外層体に固定」されることは明らかである。(答弁書 7.〔5〕(1))

イ.構成要件D及びEについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】、【0032】の記載を考え合わせると、おむつ1の左右に配されている胴回り弾性部材71a,71bは、吸収体の幅方向中央側に、内側の端部が生じるように切断されていることが判る。また、段落【0022】には、本実施形態のおむつ1の説明として、吸収性コア4が存在する部位において、切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されている態様が記載されており、段落【0037】にも、それを受けて、「また前述の実施形態においては、本発明の所望の効果を得るべく、最も好ましい形態として、胴回り弾性部材71a,71bのうち吸収性コア4と重なる部分はすべて非伸縮としているが、これに限られず、前述の通り、吸収性コア4上に位置する胴回り弾性部材71a,71bのうちの少なくとも一部が非伸縮であればよく、伸縮性を発現する部分があってもよい。・・・」と記載されており、段落【0045】の【表1】には、W1、W2、及びW3+W4の大小関係から、吸収性コアの内側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように胴回り弾性部材が配されていることが明らかな実施例2、4が記載されている。
また、段落【0032】に記載の製造方法によれば、外層シート12の全面に亘りホットメルト粘着剤を塗工し、胴回り部弾性部材71a,71bを、外層シート12の幅方向に亘って伸張状態で配設固定するため、胴回り部弾性部材71a、71bをその幅方向中央部において切断して、前記構成要件Dを具備する態様のおむつ1を製造した場合に、本件発明の構成要件Eの「該部位の少なくとも中央部においては、前記ホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており、」を満たすものとなることは明らかである。
このように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の構成要件D及びEに規定される構成が記載されており、本件特許は、無効理由2を有しない。(答弁書 7.〔5〕(2)及び(3)、被請求人要領書 6.〔4〕(3))

(3)無効理由3についての被請求人の主張
ア.構成要件Bについて
本件特許明細書の段落【0020】及び【0032】の記載を考えあわせれば、外層シート12の全面に塗工されたホットメルト粘着剤が、外層シート12の幅方向に亘って胴回り部弾性部材71a,71bを配設することで、該弾性部材71a,71bに付着することが読み取れる。そして、胴回り部弾性部材71a,71bにホットメルト粘着剤が付着する結果、「胴回り部弾性部材71a,71b」は「ホットメルト粘着剤」によって「外層体に固定」されることは明らかである。
したがって前記構成要件Bに係る手続補正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであることが明らかである。(答弁書 7.〔6〕(1))

イ.構成要件Dについて
当初明細書の段落【0045】の【表1】及び【0029】の記載から、吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮状態の胴回り弾性部材71a,71bが配されていることは、当初明細書の記載から自明な事項である。すなわち、同段落【0045】の【表1】及び【0021】の記載から、吸収体の両側縁から内側にかけての領域に胴回弾性部材71a,71bが配されていることが判る(根拠1)、段落【0022】及び【0037】の記載から、吸収性コア4上に位置する胴回り弾性部材71a,71bの一部が伸縮弾性を有していてもよいことが判る(根拠2)、同段落【0021】の記載から、吸収性コア4上に胴回り弾性部材71a,71bが位置する場合、吸収性コア4の中央部では、胴回り弾性部材71a,71bは伸縮弾性が発現していないことが判る(根拠3)。そして、上記根拠1?3によれば、吸収性コア4上に位置する胴回り弾性部材71a,7bのうち、伸縮弾性が発現しているのは、必然的に吸収体の両側縁から内側にかけての領域となる。(被請求人要領書(3) 6.〔2〕(i))

ウ.構成要件Eについて
同段落【0021】、【0022】及び【0037】の記載から、胴回り弾性部材71a、71bが、吸収性コア4が存在する部位の少なくとも中央部において伸縮弾性が発現していないことが判る。特に段落【0021】には、吸収性コア4が存在する部位の中央部に胴回り弾性部材71a、71bが配されている場合には、該胴回り弾性部材71a、71bは伸縮弾性が発現しないような状態で配されていることが明記されている。(被請求人要領書(3) 6.〔2〕(ii))

エ.本件特許に係る出願の平成24年4月27日付け意見書(甲8)の5.に記載された効果〔(効果i)(効果ii)(効果iii)〕及び平成23年8月11日付け意見書(甲11)の5.に記載された〔効果(b)、効果(c)〕のそれぞれは、以下の当初明細書の記載を根拠とするものである。
効果iは、当初明細書の段落【0007】、【0022】、【0025】の記載から「適正な締め付け力が発生し、ひだ寄せ防止効果がありその結果、外観印象が良好、すっきりとなり、十分なフィット性が確保」されることが記載されているといえるため、当初明細書に記載されているといえる。
効果iiは、当初明細書の段落【0032】には、「外層シート12上に内層シート13を重ね合わせ両者を接合し、次いで胴回り部章院部材71a,71bをその幅方向中央部において切断することで外層体11が得られる。」ことが記載されており、切断されれば複数になることは自明であり、また段落【0022】及び【0025】にひだ寄せ防止効果が得られることが記載されていたため、当初明細書に記載されているといえる。
効果iiiは、当初明細書に直接の記載はないが、パンツおむつ外装材に通常用いられている厚さの薄いシート、例えば段落【0015】に記載の不織布等を用い、パンツおむつに通常用いられている太さの弾性部材、たとえば段落【0019】に記載の弾性部材を用いれば、薄くて柔らかいシートと硬い弾性部材との関係から、触ることによってシートを介して弾性部材の存在が知覚できることは記載するまでもない。
効果bは上記効果i、並びに、効果cは上記効果ii及び効果iiiと同じである。(被請求人要領書 6.〔5〕(2)イ?ホ)

(4)無効理由4についての被請求人の主張
(4-1)無効理由4-1について
(答弁書 7.〔7〕(2)(ア)、被請求人要領書 6.〔6〕(1)(2)及び(5))
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の<相違点1>?<相違点4>において相違する。

<相違点1>
本件発明1では、胴回り弾性部材が外層体にホットメルト粘着剤によって配設固定されているが(前記要件B)、甲1発明には、弾性部材の外層シート22への配設固定がホットメルト粘着剤によるものであるとの構成を備えていない点。
<相違点2>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているのに対し(構成要件D)、甲1発明はそのような構成を備えていない点。
<相違点3>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、吸収体が存在する部位の少なくとも中央部において、胴回り弾性部材がホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっているのに対し(構成要件E)、甲1発明にはそのような構成は備えていない点。
<相違点4>
本件発明1では、吸収体が存在する部位における、前記胴回り弾性部材による伸縮弾性が発現されない範囲が、該吸収体の幅の1/2以上であるのに対し(前記要件F)、甲1発明ではそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての検討
a.甲2の段落【0037】には、伸縮弾性部材27の配置に関し、吸収性本体9の接合される位置では、伸縮弾性部材27を伸張させずに配置するか、あるいは、当該接合する位置には伸縮弾性部材27を接着固定するためのホットメルト接着剤を塗布せずに、伸縮弾性部材27を伸張状態で配設後、伸縮弾性部材27を切断して、ホットメルト接着剤の存在しない位置で伸縮弾性部材27が縮んで存在しない状態にする」との二者択一の記載があるが、いずれの場合であっても、伸縮弾性部材27は、吸収性本体9上に伸縮弾性を発現するように配されないから、甲2事項は相違点2を具備しない。
また、甲2の伸縮弾性部材27は、「吸収体が存在する部位の少なくとも中央部において、胴回り弾性部材がホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっており」との構成要件を具備しないから、甲2事項は相違点3も具備しない。

b.甲3の弾性部材4は、吸収本体5中の吸収体51の配設位置と重複する中央部Nにおいて、実質的に無伸張状態で配設されているので、甲3事項は前記の相違点2を明らかに具備しない。
当該弾性部材4は、甲3の図1及び図3等の記載から明らかなとおり連続的に配置されているので、前記の相違点3における「吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって」の構成要件を具備しない。
そもそも、甲3事項は、弾性部材の切断を行わずに無伸張状態部分を設けるという構成を採用して、甲3の課題を解決しようとするものであるから、弾性部材の切断を必須のものとする甲1発明に、弾性部材の切断を行わないことを必須のものとする甲3発明を適用することには大きな阻害要因が存在する。

c.甲4事項は、甲3事項と同様に、弾性部材(4)は、吸収体(5)が存在する領域において、その収縮力が作用しないように取り付けられているので、相違点2を具備しない。
また、弾性部材(4)は、甲4の図1及び図2等の記載から明らかなとおり連続的に配置されているので、上記相違点3における「胴回り弾性部材が切断されていることによって」の構成要件を具備しないので、甲4事項は、相違点3も具備しない。

以上のとおりであるから、甲1発明について、上記相違点2及び3における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2及び3
本件発明2及び3についても、本件発明1と同様の理由によって、甲1発明、甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4-2)無効理由4-2について
(答弁書 7.〔7〕(2)(イ)、被請求人要領書 6.〔6〕(3)(4)及び(5))

ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は以下の<相違点1>?<相違点3>において相違する。
<相違点1>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているのに対し(構成要件D)、甲2発明は、そのような構成を備えていない点。
<相違点2>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、吸収体が存在する部位の少なくとも中央部において、胴回り弾性部材がホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっているのに対し(構成要件E)、甲2発明は、そのような構成を備えていない点。
<相違点3>
本件発明1では、吸収体が存在する部位における、前記胴回り弾性部材による伸縮弾性が発現されない範囲が、該吸収体の幅の1/2以上であるのに対し(前記要件F)、甲2発明は、そのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての検討
a.甲1の段落【0018】及び図1の記載によれば、第5伸縮弾性部材16は腰周りにおいておむつ本体1の長手方向に沿う中央領域(Lc_(1))近傍において不連続となっているので、甲1事項は、当該相違点1を明らかに具備しない。
また甲1の段落【0018】及び【0024】並びに図1の記載によれば、第4伸縮弾性部材15は、腰周りにおいておむつ本体1の幅方向に連続して伸長状態で配置されているから、当該相違点2に係る「吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって」及び「非伸縮の状態で配設固定されて」の構成要件を具備しない。そして甲1の段落【0018】及び図1の記載によれば、第5伸縮弾性部材16は腰周りにおいておむつ本体1の長手方向に沿う中央領域(Lc_(1))近傍において不連続となっているので、当該相違点2の「吸収体が存在する部位の少なくとも中央部において、胴回り弾性部材がホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて」の構成要件を具備しない。このようにいずれの弾性部材も当該相違点2を具備しないから、甲1事項は当該相違点2を具備しない。

b.甲3の段落【0013】の記載によれば、弾性部材4は、吸収本体5中の吸収体51の配設位置と重複する中央部Nにおいて、実質的に無伸張状態で配設されているので、甲3事項は当該相違点1を明らかに具備しない。
甲3の弾性部材4は、連続的に配置されているので、前記の相違点3における「吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって」の構成要件を具備しないので、甲3事項は当該相違点2も具備しない。

c.甲4の段落【0007】の記載によれば、弾性部材(4)は、吸収体(5)が存在する領域において、その収縮力が作用しないように取り付けられているので、甲4事項は当該相違点1を明らかに具備しない。
また、甲4の弾性部材(4)は、連続的に配置されているので、当該相違点2における「吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって」の構成要件を具備しないので、甲4事項は相違点2も具備しない。

以上のとおりであるから、甲2発明について、上記相違点1及び2における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易想到し得たものとはいえない。そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3、4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2及び3
本件発明2及び3についても、本件発明1と同様の理由によって、甲2発明、及び甲1、3、4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.被請求人の証拠方法
被請求人が提出した証拠は以下の乙1?11である。乙1?5は、答弁書に添付して提出され、乙6?11は、被請求人上申書に添付して提出された。
乙1:特開平6-197920号公報
乙2:特開平6-254117号公報
乙3:国際公開第96/00551号及びその訳文
乙4:特開平10-277091号公報
乙5:特開平7-236659号公報(甲3)の図1を拡大して左右両側部T_(1)、T_(2)の位置を示した図
乙6:特開昭62-206003号公報
乙7:特開平4-15052号公報
乙8:「接着・粘着の事典」山口章三郎監修、初版第3刷、1989年6月1日、株式会社朝倉書店、245?247ページ
乙9:「ホットメルト接着の実際」深田寛著、初版、1979年5月20日、株式会社高分子刊行会、9?27ページ
乙10:特開平3-37062号公報
乙11:イタリアfameccanica社、「MODEL FA-X Superstar」のパンフレット、スイス、ジュネーブで開催されたINDEX‘99での頒布物、1999年4月に被請求人が入手

第6 当審の判断
1.無効理由1について
(1)請求人は、無効理由1の根拠として、本件特許明細書には、本件発明1の構成要件C及びDに特定された胴回り弾性部材がどのようなものか、例えば性質及び材料等についての記載がない。また、いずれの切断方法により胴回り弾性部材を切断すれば、本件発明1の構成要件C?Eに特定された、前記胴回り弾性部材は、前記外層体における、少なくとも前記吸収体の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように伸張状態で固定されており、且つ吸収体の両側縁から内側にかけての領域では胴回り弾性部材に伸縮弾性を発現させつつ、吸収体が存在する部位の中央部においては外層体に非伸縮の状態として伸縮弾性を発現させないように、ホットメルト粘着剤により配設固定できるか不明であると主張しているから検討する。

(2)本件特許明細書には、胴回り弾性部材をパンツ形使い捨ておむつに対してホットメルト粘着剤によって配設固定することについて、以下の記載及び図示がある(下線は当審で付した。)。
「【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のパンツ型使い捨ておむつの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は図1に示すおむつを組み立てる前の状態を表面シート側からみた伸張状態での平面図であり、図2(b)は図2(a)におけるb-b線断面図である。」
「【0020】
図1及び図2に示すように、外層体11における前後端部と左右両側の湾曲部との間に位置する胴周囲部Dには、外層体11の幅方向に向けて複数の胴回り弾性部材71a、71bがそれぞれ配されている。各胴回り弾性部材71a、71bは糸状であり、おむつ1の腹側部A及び背側部Bにおいて、吸収性コア4の両側縁よりも外方の部位D1に配されており且つ伸縮弾性が発現するように外層シート12と内層シート13とによって伸張状態で挟持固定されている。各胴回り弾性部材71a、71bは、接着剤やヒートシールなどの公知の接合手段を用いて間欠的に固定されている。・・・」
「【0032】
本実施形態のおむつ1は、以下に述べる方法で好ましく製造される。先ず、常法に従って、吸収体本体10を製造する。一方、外層体11を製造するには、先ず、外層シート12の全面に亘りホットメルト粘着剤を塗工する。次いで、胴周囲部Dに、外層シート12の幅方向に亘って胴回り部弾性部材71a,71bを伸張状態で配設固定する。更にウエスト部弾性部材51a,51b及びレッグ部弾性部材61a,61bをそれぞれ目的の位置に伸張状態で配設固定する。然る後、外層シート12上に内層シート13を重ね合わせ両者を接合し、次いで胴回り部弾性部材71a,71bをその幅方向中央部において切断することで外層体11が得られる。このようにして得られた吸収体本体10と外層体11とを部分接合で固定し、更に、外層体11における腹側部A及び背側部Bの左右両側縁をそれぞれ接合固定してパンツ型とする。」
「【図1】及び【図2】



以上の記載及び図示された事項から、本件特許明細書に記載された【図1】及び【図2】の「一実施形態」は、ホットメルト粘着剤を外層シート12の全面に亘り塗工し、次いで、胴回り部弾性部材71a、71bを伸張状態で配設固定し、その後、外層シート12上に内層シート13を重ね合わせて両者を接合し、次いで、胴回り部弾性部材71a、71bをその幅方向中央部において切断して製造するものである。そして、製造後は、胴回り部弾性部材71a、71bが、外層シートに間欠的に固定されるものであることが読み取れる。

(3)この点に関し、ホットメルト接着材による接着の技術常識についてみると、乙10には、次の記載がある。
「この発明は、紙おむつ、生理用品などの使い捨て製品の製造方法に関する。」(1ページ左欄末行?右欄1行)」
「第2図(a)?(c)は、それぞれ、この発明において、塗布されたファイバー状のホットメルト接着剤12が描く形状の1例を表す。なお、矢印Aは、塗布対象物の進行方向を、矢印Bは、その方向に対して左右方向(横方向)を表す。
第2図(b)にみるように、ファイバー状のホットメルト接着剤12が複数本ある場合には、互いにオーバーラップ(一部重複)するように塗布することにより、全面塗布の効果を得ることができ、しかも、ホットメルト接着剤の間に隙間があるので、吸水を妨げないのである。」(4ページ左下欄11行?右下欄1行)
「第2図(a)から(c)



同様の周知例として、例えば、特開平8-196559号公報(平成8年8月6日公開)には、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、使い捨ておむつに関する。」
「【0013】図3は、接着剤15,16,17の一様かつ間欠的な塗布パターンを例示するための保液層11の平面図である。保液層11は砂時計型に賦型してあり、接着剤16の塗布パターンが(A)では点状、(B)では縦縞状、(C)と(D)では格子状、(E)では螺旋状である。いずれの場合にも、接着剤16が連続した線を描く場合には、互いに隣り合う線を離間させて体液の拡散や浸透の妨げにならないようにする。接着剤16は、保液層11に対する塗布面積率を2?30%、より好ましくは5?20%の範囲におさめる。」
「【図3】



同様に、例えば、登録実用新案第3039867号公報(平成9年7月3日発行)には、次の記載がある。
「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、着用時にウエストの両サイドをファスニングテープで止め、パンツ型に形成する使い捨ておむつに関し、・・・」
「【0014】
・・・貼着は、ホットメルト接着剤を利用する等の公知の方法で行われる。基材の伸縮性を阻害しないように、接着剤は間欠的に塗布することが好ましく、例えばおむつの長手方向に線状に筋塗りするか、網状、またはドット状に接着剤を塗布することが推奨される。・・・」

このように、使い捨ておむつを製造する際のホットメルト接着剤による接着手法として、例えば、上記乙10、特開平8-196559号公報及び登録実用新案第3039867号公報に示されたように、接着対象となる領域全域に対して、隙間なく接着剤を塗布(ベタ塗り)するのではなく、例えば縞模様、格子模様、螺旋模様又はドット状にホットメルト接着材を塗布する(接着材が塗布されない部分が存在する)手法は、技術常識である。

(4)この技術常識を踏まえると、上記本件特許明細書に記載された胴回り弾性部材71a、71bが「間欠的に固定」されているとは、当該技術常識の手法により外層シート12の全面に亘りホットメルト粘着剤が塗工され、そこへ、胴回り弾性部材71a、71bを伸張状態で配設固定することで、胴回り弾性部材71a、71bがホットメルト粘着材が存在する部分との交点においてのみ、外装シート12に対して固定された状態であることが、理解できる。そして、そのような状態の胴回り弾性部材71a、71bを、ホットメルト粘着剤が存在せず胴回り弾性部材71a、71bが固定されない箇所で切断すれば、胴回り弾性部材71a、71bは、ホットメルト粘着剤によって外層シート12に対して固定された箇所に向かって収縮し、非伸縮の状態となり、伸縮弾性が発現されないようになることは、当業者にとって自明である。なお、ホットメルト粘着剤が塗布された間欠的な箇所においては、胴回り弾性部材71a、71bに伸縮弾性が残っている可能性はあるが、切断されることで孤立した局所的な箇所におけるもので、パンツ型使い捨ておむつに対して影響するものではない。
そうすると、被請求人の上記第5の1.(1)ウ.及びエ.の主張はさておき、本件発明1は、ホットメルト粘着剤を、上記手法により外装体に塗工し、胴回り弾性部材を伸長状態で間欠的に配設固定し、その後、吸収体が存在する部位のうち、少なくとも中央部で、胴回り弾性部材を切断すれば、この部分においては、非伸縮状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されない。一方、外層体における、少なくとも吸収体の両側縁よりも外側の部位と、吸収体が存在する部位のうち、吸収体の両側縁から内側にかけての領域は、上記切断が行われないから、胴回り弾性部材は、伸張状態が保たれて、伸縮弾性が発現されるように配されること、すなわち、本件発明1の構成要件C、D及びEは、実施可能であることが理解できる。

そして、上記技術常識の手法により、ホットメルト粘着剤を塗布し、それに対して胴回り弾性部材を伸張状態にして配設して固定し、吸収体が存在する部位のうち、少なくとも中央部で胴回り弾性部材を切断すれば、本件発明1の構成要件C、D及びEは実施できるのであるから、本件特許明細書に、胴回り弾性部材の、例えば性質及び材料等について具体的に特定する記載はなくとも、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないとはいえず、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当せず、無効にすることはできない。

2.無効理由2について
請求人は、無効理由2の根拠として、上記第4の2.(2)に記載したように、本件発明1の構成要件B、D、Eは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張している。
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、上記1.(2)に摘記した段落【0032】の記載に加えて、以下の記載がある。
「【0020】
図1及び図2に示すように、外層体11における前後端部と左右両側の湾曲部との間に位置する胴周囲部Dには、外層体11の幅方向に向けて複数の胴回り弾性部材71a、71bがそれぞれ配されている。各胴回り弾性部材71a、71bは糸状であり、おむつ1の腹側部A及び背側部Bにおいて、吸収性コア4の両側縁よりも外方の部位D1に配されており且つ伸縮弾性が発現するように外層シート12と内層シート13とによって伸張状態で挟持固定されている。各胴回り弾性部材71a、71bは、接着剤やヒートシールなどの公知の接合手段を用いて間欠的に固定されている。各胴回り弾性部材71a、71bは、おむつ1の腹側部Aの両側縁A1,A2と背側部Bの両側縁B1,B2とを互いに接合させたときに、両弾性部材71a、71bの端部同士がほぼ重なるように配されている。これによって、図1に示すように、胴回り弾性部材71a、71bは、おむつ1の胴周囲部の周方向に向けて配されることになる。そして、おむつ1における吸収性コア4の両側縁よりも外方の部位D1においては、胴回り弾性部材71a、71b配された領域に胴周囲ギャザーが形成される。
【0021】
更に、胴回り弾性部材71a、71bは、吸収性コア4が存在する部位の少なくとも中央部には伸縮弾性が発現されるような状態では配されていない。即ち、胴回り弾性部材71a、71bが配されていないか、又は胴回り弾性部材71a、71bが配されている場合には、該胴回り弾性部材71a、71bは伸縮弾性が発現しないような状態で配されている。本実施形態においては、胴回り弾性部材71a、71bは、その両端のうちの一方である内側の端部が、吸収性コア4の側縁に若干重なる程度の状態で配されており、吸収性コア4の幅方向中央部から左右両側縁の近傍にかけての領域には胴回り弾性部材71a、71bが配されていない。吸収性コア4の側縁に位置する胴回り弾性部材71a、71bは非伸張状態となっており、伸縮弾性は発現していない。これによって、おむつ1における吸収性コア4が配された領域にはギャザーが形成されない。
【0022】
吸収性コア4上には、その幅方向の全域に亘り胴回り弾性部材71a、71bが全く配されていないか、或いは配されていたとしても伸縮弾性が発現しないように配されていることが、以下に述べる吸収性コア4のひだ寄せ発生防止の点から最も好ましい。しかし、吸収性コア4のひだ寄せ発生の防止の観点からは、吸収性コア4上に少なくとも非伸縮の部分があればよく、吸収性コア4の幅の60%以下、特に40%以下の割合で、伸縮弾性を発現する胴回り弾性部材71a、71bが配されていてもよい。」
「【0029】
おむつ1を着用者の胴回りに適正な締め付け力で着用させる観点から、おむつ1の製品幅W1に対する、吸収性コア4の両側縁よりも外方の部位D1における伸縮弾性を発現する胴回り弾性部材71a,71bの配設幅W3+W4の割合を40?95%、好ましくは50?80%、更に好ましくは55?75%とする。この割合が40%未満であると、配設幅が狭いことから、十分なフィット性を発現させるためには高伸張率で弾性部材71a,71bを配設しなくてはならず、結果として着用者の身体を部分的に圧迫することになる。これは、パンツ型使い捨ておむつにおいて伸縮性のサイドパネルを用いた場合と同様の不具合となる。一方、前記割合が95%超となると、吸収性コア4上にひだ寄せができて吸収性能が損なわれる。胴回り弾性部材71a,71bの配設幅が、おむつ1の背側部Aと腹側部Bとで異なる場合には、背側部A及び腹側部Bの少なくとも何れか一方における胴回り弾性部材の配設幅と、おむつ1の製品幅との割合が前記範囲内であればよく、背側部A及び腹側部Bの双方において前記範囲内であることが特に好ましい。」
「【0037】
また前述の実施形態においては、本発明の所望の効果を得るべく、最も好ましい形態として、胴回り弾性部材71a,71bのうち吸収性コア4と重なる部分はすべて非伸縮としているが、これに限られず、前述の通り、吸収性コア4上に位置する胴回り弾性部材71a,71bのうちの少なくとも一部が非伸縮であればよく、伸縮性を発現する部分があってもよい。非伸縮性とする範囲については、幼児用のパンツ型おむつについては、吸収性コア4の幅W2の約1/2以上であるか、又はおむつ1の製品幅W1の約1/20以上3/4以下の何れかの範囲であることが好ましい。大人用のパンツ型おむつについては、吸収性コア4の幅W2の約1/3以上であるか、又はおむつ1の製品幅W1の約1/20以上3/4以下の何れかの範囲であることが好ましい。」
「【0045】
【表1】


「【図2】


(2)無効理由2についての判断
ア.構成要件Bについて
【図2】に示されたパンツ型使いすておむつについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「外層体11における前後端部と左右両側の湾曲部との間に位置する胴周囲部Dには、外層体11の幅方向に向けて複数の胴回り弾性部材71a、71bがそれぞれ配されている」(段落【0020】) との記載があり、胴回り弾性部材71a、71bの外層シート体11への配設方法として、「外層シート12の全面に亘りホットメルト粘着剤を塗工する。次いで、胴周囲部Dに、外層シート12の幅方向に亘って胴回り部弾性部材71a,71bを伸張状態で配設固定する」(段落【0032】)との記載から、胴回り弾性部材71a、71bは、ホットメルト粘着剤によって、配設固定されたものである。
よって、本件発明の特許請求の範囲には、胴周囲部Dに、胴回りの周方向に向けて、かつ外層体11の幅方向に亘って、ホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材71a、71bを備えたものが記載されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の構成要件Bが記載されている。

イ.構成要件Dについて
【図2】に示されたW2は、「吸収性コア4の幅」(段落【0037】)であり、W3及びW4は、「伸縮弾性を発現する胴回り弾性部材71a,71bの配設幅W3+W4」(段落【0029】)との記載から、胴回り弾性部材71a、71bのうち、伸縮弾性が発現している部分である。また、「吸収性コア4上に少なくとも非伸縮の部分があればよく、吸収性コア4の幅の60%以下、特に40%以下の割合で、伸縮弾性を発現する胴回り弾性部材71a、71bが配されていてもよい。」(段落【0022】)及び「吸収性コア4上に位置する胴回り弾性部材71a,71bのうちの少なくとも一部が非伸縮であればよく、伸縮性を発現する部分があってもよい。」(段落【0037】)との記載から、胴回り弾性部材71a、71bは、吸収性コア4上に、伸縮弾性を発現する部分を有することが許容されている。ここで、【図2】には、伸縮弾性を発現する部分であるW3及びW4の端部のうち、吸収性コア4側の端部、すなわち、吸収性コア4の両側縁から内側にかけての領域に、、吸収性コア4の幅であるW2と重複部分を有することが図示されている。さらに、段落【0045】の【表1】に記載された実施例2及び4は、「W2」の幅に、「W3+W4」の幅を加えたものが、「おむつの製品幅」であるW1よりも大きいことからも、W2とW3及びW4は、重複する部分が存在することは明らかである。そして、このような上記伸縮弾性部材71a、71bの構成は、上記1.に示したように、伸縮性弾性部材71a、71bが切断されることによって生じるものである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、吸収性コア4が存在する部位(ただし、構成要件Eとの関係から、その少なくとも中心部の部位と解される。)では、切断されていることによって、吸収性コア4の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性部材71a、71bが伸縮弾性が発現されるように配されていることの記載があるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の構成要件Dが記載されている。

ウ.構成要件Eについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「胴回り弾性部材71a、71bは、吸収性コア4が存在する部位の少なくとも中央部には伸縮弾性が発現されるような状態では配されていない。即ち、胴回り弾性部材71a、71bが配されていないか、又は胴回り弾性部材71a、71bが配されている場合には、該胴回り弾性部材71a、71bは伸縮弾性が発現しないような状態で配されている。」(段落【0021】)との記載がある。そうすると、吸収性コア4が存在する部位の少なくとも中央部において、胴回り弾性部材71a、71bは、伸縮弾性が発現されるような状態では配されず、その態様として、当該中央部において、胴回り弾性部材71a、71bが配されている場合は、伸縮弾性が発現しないような状態で配することが記載されている。そして、そのような構成は、上記1.に示した技術常識を踏まえれば、胴回り弾性部材71a、71bを外層シート12へ、ホットメルト粘着剤によって間欠的に固定し、切断することで、実現されることが、当業者には理解できる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、吸収性コア4が存在する部位の少なくとも中央部においては、ホットメルト粘着剤によって、外層体11に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっている胴回り弾性部材71a、71bが記載されているといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の構成要件Eが記載されているといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効にすることはできない。

3.無効理由3について
(1)無効理由3についての判断
請求人は、無効理由3の根拠として、上記第4の2.(3)ア及びイに記載したように、本件発明1の構成要件Bに記載された、「複数の胴回り弾性部材」が「該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された」点、同構成要件Dの「(胴回り弾性部材が)該吸収体が存在する部位では、切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されている」点、そして、同構成要件Eの、「(胴回り弾性部材が、)該部位の少なくとも中央部においては、該ホットメルト粘着剤によって該外層体の非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになって」いる点は、いずれも、当初明細書等に記載されていないと主張している。
しかしながら、本件特許に係る出願の手続の経緯をみると、設定登録までに、平成21年10月29日付け手続補正書(甲12)、平成23年8月11日付け手続補正書(甲13)、平成24年4月27日付け手続補正書(甲7)、平成24年12月25日付け手続補正書(甲9)のそれぞれに係る手続補正がなされたが、それらいずれの手続補正も、特許請求の範囲のみを補正するもので、明細書や図面は補正されなかった。
そうすると、上記2.に示したように構成要件B、D、Eは、いずれも、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであったから、構成要件B、D、Eは、当初明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないとはいえない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものとはいえないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第1号の規定に該当せず、無効にすることはできない。

4.無効理由4について
(1)甲各号証に記載された事項及び発明
ア.甲1
甲1には、次の記載あるいは図示がある。
「【0018】このとき、第2伸縮弾性部材12と第3伸縮弾性部材13はパンツ型使いすておむつ本体1の長手方向に沿う中央領域(図においてLc_(1) で示す)近傍において不連続となっているが、第2伸縮弾性部材12、第3伸縮弾性部材13は共に脚周り開口部2から実質的に前身頃4と後身頃5の両腰周り側部14にわたって配置されている。また、第4伸縮弾性部材15と第5伸縮弾性部材16がサイドシームを形成した際に前身頃4と後身頃5の両腰周り側部14同士を結ぶように配置されており、このうち前身頃4に配置された第4伸縮弾性部材15は腰周りにおいておむつ本体1の幅方向に連続となっているが、後身頃5に配置された第5伸縮弾性部材16は腰周りにおいておむつ本体1の長手方向に沿う中央領域(Lc_(1) )近傍において不連続となっている。」
「【0020】図3は本発明の1実施例を示すものであり、パンツ型使いすておむつ本体1を図2のY-Y’線において切断した横断面図である。図3において、吸収性本体7を構成する液不透過性のバックシート17が外装部材8を構成する外層シート22に接合されている。また吸収性本体7はバックシート17の中央部に吸収体18が配置され、吸収体18の両側縁部のバックシート17上にはサイドトップシート19が積層され、バックシート17とサイドトップシート19の間には第1伸縮弾性部材10、11が伸長状態で配置されている。さらに吸収体18は液透過性のセンタートップシート20によって覆われ、センタートップシート20の長手方向両側縁部には立体ギャザー用伸縮弾性部材26を内包した立体ギャザー21が形成されており、センタートップシート20とサイドトップシート19は吸収体18の側縁部で接合されトップシートを形成している。」
「【0027】図5において、連続外層シート122上に第2?第5連続伸縮弾性部材を配置させた後は第2連続伸縮弾性部材111もしくは第4連続伸縮弾性部材113のうち連続外層シート122の側縁部に近い方を除いて、その他の伸縮弾性部材はすべて交差する点の間の中間付近、すなわち後の工程において吸収性本体7が配置される箇所で切断される。これにより伸長状態であった伸縮弾性部材は伸長が緩和されて縮むことで実質的に切断部位近傍においては伸縮応力が働かなくなる。このためには、伸縮弾性部材を接着固定するための接着剤の供給を間欠的に行い、切断部位近傍の所望する領域において伸縮弾性部材を連続外層シート122に対して非接着状態にしておけば良い。」
「【0031】本発明において、外装部材8に配置された第2?第5伸縮弾性部材は、パンツ型使いすておむつ本体1の前身頃4上部に位置するものを除いて中央部で切断され、不連続となっている。これは、本発明では連続外装部材105を連続して製造する際に、第2伸縮弾性部材と第4伸縮弾性部材、及び第3伸縮弾性部材と第5伸縮弾性部材の組み合わせで、連続外層シート122上をおむつ本体1の幅方向の2倍の長さを周期として互に交差して相対位置が入れ替わり、脚周り開口部の一部を形成した伸縮弾性部材は隣合った次の外層シート上では腰周りの伸縮弾性を付与する機能を併せ持つものであるため、これらの伸縮弾性部材を伸長状態で外層シート上を周期的に移動させながら配置させているが、おむつ本体1の前身頃4の上部を除く、中央部の股下部付近や後身頃5に伸長状態で存在すると拡幅に手間がかかり着用しにくいし、見栄えも損ねることから好ましくない。しかし、前身頃4の上部においては腹部への密着性を高めるために前身頃4の横幅方向全域にわたって伸縮弾性部材が配置されていた方が好ましいのである。」

「【図2】




上記摘記した記載及び図面の図示を総合すると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。(各段落の「a1.」等は、当審が付した分説記号である。)

「a1. 液透過性のセンタートップシート20、液不透過性のバックシート17、及び吸収体18を有する吸収性本体7と、液不透過性のバックシート17に接合された外層シート22とを具備するパンツ型使いすておむつ1において、
b1. サイドシームを形成した際に前身頃4と後身頃5の両腰周り側部14同士を結ぶように配置された複数の第4伸縮弾性部材15及び複数の第5伸縮弾性部材16を備え、
c1. 第5伸縮弾性部材16は、外層シート12における、少なくとも吸収性本体7の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように伸長状態で固定されており、
d1. 且つ吸収性本体7が存在する部位では、第4伸縮弾性部材15が切断されず、該吸収性本体7の両側縁から内側にかけての領域に、第4伸縮弾性部材15が伸縮弾性が発現されるようになっており、
同部位では、第5伸縮部材16は切断されるものの、該吸収性本体7の両側縁から内側にかけての領域に、第5伸縮弾性部材16の伸縮弾性が発現されないようになっており、
e1.第4伸縮弾性部材15は、吸収性本体7の少なくとも中央部においては、伸縮弾性が発現され、
f1.第5伸縮弾性部材16は、吸収性本体7の少なくとも中央部においては、伸縮弾性が発現されない、
g1. パンツ型使いすておむつ 」

イ.甲2
甲2には、次の記載あるいは図示がある。
「【0017】図4は本発明のパンツ型使いすておむつを構成する吸収性本体9と外装部材18の分解斜視図を示したものである。図4に示すように吸収性本体9は外装部材18の長手方向中央域に設けた接着領域26において接合されている。接着領域26は吸収性本体の全面を接合する必要はなく、吸収性本体9の長手方向両側縁近傍に設けた直線部分のみで十分であり、吸収性本体9の長手方向中央領域は非接合状態とした方が着用時の吸収性本体の身体への密着性と追従性が良いためむしろ好ましい。」
「【0019】図4において吸収性本体9は液透過性のトップシート10、液不透過性のバックシート11、吸収体12、伸縮弾性部材14により構成され、吸収性本体9の両側縁には立体ギャザー13が形成されている。また、図4に示したように立体ギャザー13を形成するため吸収性本体9の長手方向両端部近傍の両側縁には両側縁接着部19を生じており、両側縁接着部19はトップシート10、バックシート11、伸縮弾性部材14、これらを接着固定するための接着剤(図示せず)等の重ね合わせ部分となっている。
【0020】外装部材18は、非伸縮性の最外層シート24上の吸収性本体9が接合されるおむつ幅方向中央域の両側縁に、伸長状態で配設された脚周り伸縮弾性部材15を間に挟むように、一対のサイドシート16を配設した構成からなる。・・・」
「【0036】また上記実施例では、外装部材18が非伸縮性シートからなる使いすておむつを示したが、図8に示すように、外装部材18のウエスト周り部及び脚周り部を除く着用者の腰周りに相当する位置に、実質的にウエスト周り伸縮弾性部材21と平行に複数本の腰周り部伸縮弾性部材27を配設し、ホットメルト接着剤で接着固定することで伸縮性を付与すると、ウエスト周り部から脚周り部にかけてのフィット性が向上する。この場合には、非伸縮性最外層シート24(不織布)上に帯状にウレタンフイルム、ウレタンフォーム、ウレタン糸、糸ゴム等の通常の使いすておむつに使用される伸縮弾性部材を伸長状態で配設し、該伸縮弾性部材を挟み込むように、同様の不織布、ポリエチレンフイルム等を積層貼合せする。
【0037】伸長状態で配設された伸縮弾性部材は自由な状態になると縮んで外装部材18及び吸収性本体9をギャザーリングするが、吸収性本体9は嵩高な吸収体を含む積層体であり、きれいにギャザーリングされずに見栄えが悪くなる。そこで伸縮弾性部材を配設位置によりテンションコントロールを行い、吸収性本体9の接合される位置では伸縮弾性部材を伸長させずに配設するか、吸収性本体9を接合する位置には伸縮弾性部材を接着固定するためのホットメルト接着剤を塗布せずに伸縮弾性部材を伸長状態で配設後、伸縮弾性部材を切断してホットメルト接着剤の存在しない位置では伸縮弾性部材が縮んで存在しない状態にすることが好ましい。」

【図8】




上記摘記の記載及び図面の図示を総合すると、甲2には、次の甲2発明が記載されている。(各段落の「a2.」等は、当審が付した分説記号である。)

「a2.液透過性のトップシート10、液不透過性のバックシート11、及び吸収体12を有する吸収性本体9と、液不透過性のバックシート11に接合された外装部材18とを具備するパンツ型使い捨ておむつ1において、
b2.外装部材18における着用者の腰周りに相当する位置に、ホットメルト接着剤で接着固定することで伸縮性が付与された複数本の腰周り部伸縮弾性部材27を備え、
c2.腰周り部伸縮弾性部材27は、外装部材18において、少なくとも吸収性本体9の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように固定されており、
d2.且つ該吸収体12が存在する部位では、切断されることによって、該吸収体12の両側縁から内側にかけての領域に、腰回り部伸縮弾性部材27が存在せず、
e2.該部位の少なくとも中央部においては、腰周り部伸縮弾性部材27が存在しない
f2.パンツ型使い捨ておむつ1」

ウ.甲3
甲3には、次の記載あるいは図示がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、胴部にフィット感を与える胴部ギャザーを形成した使い捨てパンツに関し、詳細には胴部ギャザーの必要箇所だけに弾性体の伸縮力が作用し、かつ見栄えの良い使い捨てパンツに関するものである。
【0002】
【従来の技術】使い捨てパンツにおいて、着用者の胴部にこれを密着させるための構成としては、パンツを形成するシート材料を伸縮性不織布等の伸縮素材によって形成する手段、またはウエスト用開口部と脚部用開口部の間に弾性糸・・・弾性帯等・・・をウエストギャザー部と略平行に添設し、非伸縮性シートに胴部ギャザーを形成する手段が考えられている。・・・
【0003】ところで上記胴部ギャザー用の弾性部材は、使い捨てパンツとしたとき、着用者の胴部回りの全周にわたって配設されることになる。使い捨てパンツの吸収体は、腹部から背部にかけてパンツ中央部に設けられているので、吸収体の存在する部位においてもこの弾性部材が伸縮状態で設けられことになる。このため、弾性部材の収縮力によって吸収体が変形し易く、吸収体の中折れや位置ずれが引き起こされ、使い捨てパンツの本来の目的である尿の吸収に支障をきたす問題があった。
【0004】そこで吸収体の存在するパンツ中央部においては、胴部ギャザー用弾性部材の接着を行わず、この部分で弾性部材を切断し、胴サイド部分のみに伸縮ギャザーを形成することが考えられた。しかしながら、基材シートを傷つけることなく弾性部材を切断するためには、製造スピードを犠牲にして生産性を低下させなければならなかった。さらに弾性部材を切断して左右サイド部分にのみ弾性部材を接着したものでは、切断された弾性部材の端部が不定の位置にぶらぶらと残留し、外観を著しく低下させることになった。また、予め短く切断した弾性部材を胴サイド部分のみに伸長状態で接着することも、製造上難しかった。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成した本発明の使い捨てパンツは、ウエスト用開口部と脚部用開口部の間に複数の弾性部材を横方向に添設し胴部ギャザーを形成した使い捨てパンツにおいて、前記弾性部材は使い捨てパンツの最外層に位置する2枚のバックシート間に挟持されており、かつ該弾性部材が無伸張状態部分と伸張状態部分とを有する様に接着されているところに要旨を有する。無伸長状態部分が使い捨てパンツの腹部側中央部に位置するもの、さらに無伸長状態部分が使い捨てパンツの背中側中央部に位置するものは、本発明の好ましい実施態様である。
【0007】
【作用】本発明の使い捨てパンツは、胴部ギャザー用の弾性部材を、パンツの腹部および/または背部における吸収体配設部位に相当する中央部では、実質的に無伸張状態に接着し、その左右両側部においては伸張状態で接着したものである。この構成の採用によって、胴部にフィット感を与えるべきパンツの側部にはギャザーが形成され、腹部あるいは背部の中央部分は、弾性部材が弛緩した収縮していない状態で接着されているため、吸収体に収縮力は作用されず、吸収体に中折れや位置ずれを生じることはなくなった。またこの弾性部材は、無伸長状態の部分も直線状にバックシートに接着されているので、外観は美麗な状態を保つ。
【0008】無伸長状態部分は、上記の様に、腹部および/または背部の中央部に設けることが好ましいが、パンツ両側部を無伸長状態とすることもできる。この場合は、両側部が締めつけられることを好まない着用者や、両側部に相当する身体部分に損傷のある着用者に好適に用いることができる。」
「【0009】
【実施例】図1は本発明使い捨てパンツの代表的な実施例を示す正面説明図であり、図2には一部破断解体説明図を示した。使い捨てパンツ1はその左右端部が接着線2、2によって接合されており、上部にウエスト用開口部Dを形成すると共に、下部に一対の脚部用開口部K、Kを形成してある。ウエスト用開口部Dと脚部用開口部Kの周囲には、糸状または帯状の弾性部材(天然ゴム製または合成ゴム製、例えば東レ・デュポン製「オペロン」)3a、3bが伸張状態で間欠接着され、ウエストギャザー部Wおよび脚部ギャザー部Gが形成される。」
「【0013】弾性部材4は前記吸収本体5中の吸収体51の配設位置と重複する中央部Nにおいて、実質的に無伸張状態(伸張率が1.0倍以上1.3倍未満)で、バックシート9に接着されると共に、その左右両側部T_(1)、T_(2)においては伸張状態で間欠もしくは全面接着される。この時の伸張率は、1.3倍以上で3倍以下が、胴部にフィット感を与える点で好ましい。
【0014】胴部ギャザーSは左右両側部T_(1)、T_(2)においてのみ伸縮性を有する。また中央部Nにおいては弾性部材4は収縮しないので、中折れや位置ずれを生じることはなく、しかもこの弾性部材4はパンツの前部または後部で連続的にバックシートに接着されているので、直線状を保ち外観は美麗に形成される。上記中央部Nの長さはパンツの全幅(ギャザー部は伸ばした状態)Lの5?80%が好ましく、また着用者への良好な密着性と尿の吸収性を確保するためには30?50%とすることが推奨される。なお、C_(1)は後の工程で使い捨てパンツを個別に切り離す時の切断線であり、C_(2)は脚部用開口部のための切断線である。
【0015】胴部ギャザーの無伸長状態部分と伸長状態部分を交互に形成する手段としては、接着剤を塗布した連続帯状バックシート9を移送させながら、弾性部材を供給・接着する際に、バックシートの走行速度を、中央部Nと、左右両側部T_(1)、T_(2)とにおいて変更可能に制御することが好ましい。すなわち、伸長状態で接着されるT_(1)、T_(2)では、中央部Nよりも速くなる様にバックシートを走行させて、かつ弾性部材の供給速度を極端に遅くし、そして中央部Nではその逆となる様に両者の速度を制御すれば、本発明で規定する胴部ギャザーを連続的に製造することができる。」

【図1】


エ.甲4
甲4には、次の記載あるいは図示がある。
「【0001】
【発明の属する分野】この発明は、パンツ状に腰部及び尻部を包囲する履かせるタイプの使い捨て衣類であって、特に弾性体により吸収体が捩れるのを防止するようにした使い捨て衣類に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、パンツタイプの使い捨ておしめ、ブリーフ或は幼児用トレーニングパンツのように、パンツ状に腰部及び尻部を包囲する履かせるタイプの使い捨て衣類は公知である。かかるパンツタイプの使い捨て衣類は、図6,7に示すように着用時のフィット性を向上させるために、腰回り部にゴム等の弾性部材を取り付けて弾力的に伸縮させ、ウェスト部或はレッグホールからの漏れを防止すると共にフィット性を確保している。
【0003】通常従来公知のパンツタイプの使い捨て衣類は、図7に示すように腰回り部に取り付けられた弾性部材が収縮したとき吸収体を同時に収縮して吸収体に捩れを発生させてしまう欠点があった。かかる吸収体の捩れは、おしめの形状を変形させ漏れを生じさせる原因となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、腰回り部に適用された弾性部材による吸収体の捩れを防止してフィット性を向上させると共に、漏れを防止するようにしたパンツタイプの使い捨て衣類を提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するためにこの発明が採った手段は、パンツ状に腰部及び尻部を包囲する履かせるタイプの使い捨て衣類であって、腰部周囲に適用される弾性体を吸収体の存在領域において弾性体の弾力性を低下させて、弾性体により吸収体が捩れるのを防止するようにしたことを特徴とする
【0006】
【発明の実施の形態】この発明の好ましい実施の形態を、以下に詳細に説明する。図1,2を参照して、(1)は使い捨て衣類本体であり、パンツタイプの使い捨ておしめ、ブリーフ或は幼児用トレーニングパンツの形態を有し、従来周知のように液透過性のトップシートと液非透過性のバックシート並びに両シートの間に内包された吸収体(2)とからなる。・・・
【0007】この発明はかかるパンツタイプの使い捨て衣類において、腰回り部(3)を周囲して適用されるゴム等の弾性部材(4)を吸収体(2)が存在する領域(5)において、弾性体の伸縮力が吸収体に作用しない程度に、弾性部材(4)の伸縮力を低下させて取り付けたことを特徴とする。弾性部材(4)は、伸縮力をゼロとした非伸縮状態で取り付けるのが好ましいが、ほとんど伸縮力が生じない程度の低い伸縮状態で取り付けてもよいことはもちろんである。
【0008】これにより、この発明に使い捨て衣類では、吸収体(4)に弾性体の弾性伸縮力が作用しないため、弾性体(4)で吸収体がよられるおそれがなくなる。この結果、吸収体によれによる漏れを防止することが出来ると共に、より確実な密着性とフィット性とを得ることが可能となる。」
「【図1】及び【図2】


(2)無効理由4-1について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「センタートップシート20」は、本件発明1の「表面シート」に、以下同様に
「バックシート17」は、「防漏シート」に、
「吸収体18」は、「吸収体」に、
「吸収性本体7」は、「吸収性本体」に、
「外層シート22」は、「外層体」に、
「パンツ型使いすておむつ1」は、「パンツ型使い捨ておむつ」に、
それぞれ相当する。
また、「第4伸縮弾性部材15」及び「第5伸縮弾性部材16」は、胴回りの伸縮に関与する弾性部材である限りにおいて「胴回り弾性部材」に相当する。

そうすると、本件発明と甲1発明とは、次の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
液透過性の表面シート、液不透過性の防漏シート及び液保持性の吸収体を有する吸収性本体と、該吸収性本体の該防漏シート側に配された外層体とを具備するパンツ型使い捨ておむつにおいて、
前記外層体における着用者の胴回りに配される胴周囲部に、該胴回りの周方向に向けて、かつ該外層体の幅方向に亘って配設固定された複数の胴回り弾性部材を備えており、
且つ該吸収体が存在する部位では、切断されていることによって、該吸収体の両側から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているものがあり、
前記胴回り弾性部材は、前記外層体における、少なくとも前記吸収体の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように伸長状態で固定されており、
該吸収体が存在する部位の少なくとも中央部においては、伸縮弾性が発現されないパンツ型使い捨ておむつ。

<相違点1>
本件発明1では、複数の胴回り弾性部材はホットメルト粘着剤によって胴周囲部に配設固定されているのに対し、甲1発明では、複数の胴回り弾性部材(第4伸縮弾性部材15、第5伸縮弾性部材16)は胴周囲部に配設固定されているものの、如何なる手段で固定されたかについては特定のない点。<相違点2>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているのに対し、甲1発明では第4伸縮弾性部材15は、吸収体18が存在する部位で切断されることなく、連続的に配設され、該吸収体18の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されており、第5伸縮部材16は、吸収体18が存在する部位で切断されるが、該吸収体18の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるようには配されていない点。
<相違点3>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されていることによって、吸収体が存在する部位の少なくとも中央部においては、胴回り弾性部材はホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっているのに対し、甲1発明では、吸収体18が存在する部位では、第4伸縮弾性部材15は、切断されすことなく配置されることによって、吸収体18が存在する部位の少なくとも中央部においては、第4弾性部材15は外層シート22に伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現するようになっており、第5伸縮弾性部材16は、切断されることによって、吸収体18が存在する部位の少なくとも中央部においては、伸縮弾性が発現されないようになっている点。
<相違点4>
本件発明1では、吸収体が存在する部位における、胴回り弾性部材による伸縮弾性が発現されない範囲が、該吸収体の幅の1/2以上であるのに対し、甲1発明では、吸収体が存在する部位における、胴回り弾性部材(第5伸縮弾性部材16)による伸縮弾性が発現されない範囲についての特定がない点。

(イ)相違点についての判断
a.相違点2について
甲1の第4伸縮弾性部材15について、甲1には、上記(1)ア.に摘記したように、「これらの伸縮弾性部材を伸長状態で外層シート上を周期的に移動させながら配置させているが、おむつ本体1の前身頃4の上部を除く、中央部の股下部付近や後身頃5に伸長状態で存在すると拡幅に手間がかかり着用しにくいし、見栄えも損ねることから好ましくない。しかし、前身頃4の上部においては腹部への密着性を高めるために前身頃4の横幅方向全域にわたって伸縮弾性部材が配置されていた方が好ましいのである。」(段落【0031】)との記載がある。そうすると、前身頃4の横幅方向全域にわたって配置された伸縮弾性部材である第4伸縮弾性部材15を切断することは、腹部の密着性が高められないから、甲1発明には、第4伸縮弾性部材15を切断することの動機付けはないし、むしろ、そうすることで、「腹部への密着性を高め」られないから、阻害事由があるというべきである。
甲2には、伸縮弾性部材を切断するものが記載されているが(段落【0037】)、上記のとおり、甲1発明には、甲1発明に甲2事項を組み合わせることの動機付けがあるとはいえないし、むしろ阻害事由があるといわざるをえない。また、甲3及び甲4に記載されたものは、それぞれ弾性部材4及び弾性体4を切断するものではない。
すると、甲1発明を、本件発明1における相違点2に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易に為し得たものであるとはいえない。

b.相違点3について
上記a.に示したように、甲1発明において、第4伸縮弾性部材15を切断することの動機付けはないし、むしろ阻害事由があるというべきである。
ここで、相違点3に係る本件発明1の構成は、「胴回り弾性部材が切断されていることによって」を包含するものであるから、甲1発明を、本件発明1における相違点3に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

イ.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接あるいは間接に引用し、構成を付加し限定した発明である。
そうすると、上記ア.に示したとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2及び3も、甲1発明並びに甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない

(3)無効理由4-2について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「トップシート10」は、本件発明1の「表面シート」に、以下同様に
「バックシート11」は、「防漏シート」に、
「吸収体12」は、「吸収体」に、
「吸収性本体9」は、「吸収性本体」に、
「外装部材18」は、「外層体」に、
「パンツ型使い捨ておむつ1」は、「パンツ型使い捨ておむつ」に、
それぞれ相当する。
また、「腰周り部伸縮弾性部材27」は、胴回りの伸縮に関与する弾性部材である限りにおいて「胴回り弾性部材」に相当する。
そうすると、本件発明と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
液透過性の表面シート、液不透過性の防漏シート及び液保持性の吸収体を有する吸収性本体と、該吸収性本体の該防漏シート側に配された外層体とを具備するパンツ型使い捨ておむつにおいて、
前記外層体における着用者の胴回りに配される胴周囲部に、該胴回りの周方向に向けて、かつ該外層体の幅方向に亘ってホットメルト粘着剤によって配設固定された複数の胴回り弾性部材を備えており、
前記胴回り弾性部材は、前記外層体における、少なくとも前記吸収体の両側縁よりも外方の部位に、伸縮弾性が発現されるように伸長状態で固定されており、
且つ該吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材は切断されている、
パンツ型使い捨ておむつ。


<相違点5>
本件発明1では、胴回り弾性部材は、吸収体が存在する部位では、切断されることによって、該吸収体の両側縁から内側にかけての領域に、伸縮弾性が発現されるように配されているのに対し、甲2発明では、吸収体が存在する部位においては、切断されることによって、当該吸収体12の両側縁から内側にかけての領域には、腰回り部伸縮弾性部材27が存在しない点。
<相違点6>
本件発明1では、吸収体が存在する部位では、胴回り弾性部材が切断されることによって、吸収体が存在する部位の少なくとも中央部においては、胴回り弾性部材はホットメルト粘着剤によって該外層体に非伸縮の状態で配設固定されて伸縮弾性が発現されないようになっているのに対し、甲2発明では、吸収体12が存在する部位では、腰回り部伸縮弾性部材27が切断されることによって、吸収体12が存在する部位の少なくとも中央部においては、腰回り部伸縮弾性部材27が存在しない点。
<相違点7>
本件発明1では、吸収体が存在する部位における、胴回り弾性部材による伸縮弾性が発現されない範囲が、該吸収体の幅の1/2以上であるのに対し、甲2発明では、吸収体が存在する部位における、胴回り弾性部材(腰周り部伸縮弾性部材27)による伸縮弾性が発現されない範囲についての特定がない点。

(イ)相違点についての判断
a.相違点5について
甲1、甲3及び甲4のいずれにも胴回り弾性部材が吸収体が存在する部位で切断されることによって、吸収体が存在する部位のうち、吸収体の両側縁から内側にかけての領域において、胴回り弾性部材が、伸縮弾性が発現されるように配されることが記載されていないし、示唆する記載もない。
甲1に記載された第4伸縮弾性部材15は、吸収体18が存在する部位で切断されるものではない。また、同第5伸縮弾性部材16は、吸収体が存在する部位で切断されているけれども、吸収体18の両側縁から内側にかけての領域には、第5伸縮弾性部材16は、配置されないものである。
甲3に記載された弾性部材4も、吸収体51の配設位置において、切断されるものではない。甲3は、従来、弾性部材を切断していたため生産性が低い工程を、弾性部材の供給速度に緩急をつけることで、弾性部材を切断することなく、配設するものであるから、甲3には、弾性部材4を切断することを阻害することが示唆されているといえる。
甲4に記載された弾性体(4)も、切断されないものである。

ここで、本件特許明細書の段落【0005】には、【発明が解決しようとする課題】として、「・・・本発明は、サイズ適性が幅広く、はかせ易く、適正な締め付け力が発生し十分なフィット性が確保され、しかも装着状態での外観がすっきりとしたパンツ型使い捨ておむつを提供することを目的とする。」との記載があり、本件特許の【図1】には、胴回り弾性部材71a、71bが吸収性コア4の両側側縁から内側にかけて配設されていることの図

示がある。そして当該図示から、当該弾性部材71a、71bの伸縮弾性の発現によって、吸収性コア4の両側側縁から内側にかけての領域は、着用者の身体の幅方向へ引っ張られるとともに、当該身体側へ押圧されることが理解できる。そして、そのことは上記課題のうちの「フィット性の確保」が図られることは明らかであるから、本件発明1は、上記相違点5に係る構成を備えることで、格別な作用効果を奏するものである。

そうすると、甲2発明に、相違点5に係る本件発明1の構成を適用することは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明並びに甲1、3、4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2及び3について
上記ア.に示したとおり、本件発明1は、甲2発明並びに甲1、3、4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記(2)イ.に示したのと同様に、本件発明2及び3も、甲2発明並びに甲1、3、4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
上記(2)に示したように、本件発明1?3は、甲1発明並びに甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、上記(3)に示したように、本件発明1?3は、甲2発明並びに甲1、3、4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?3に係る特許は、請求人の主張する無効理由1?4によっては無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-11 
結審通知日 2018-05-15 
審決日 2018-06-06 
出願番号 特願2009-247257(P2009-247257)
審決分類 P 1 113・ 02- Y (A41B)
P 1 113・ 121- Y (A41B)
P 1 113・ 536- Y (A41B)
P 1 113・ 561- Y (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 奈穂子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 門前 浩一
久保 克彦
登録日 2013-03-22 
登録番号 特許第5225248号(P5225248)
発明の名称 パンツ型使い捨ておむつ  
代理人 平田 忠雄  
代理人 成瀬 源一  
代理人 角田 賢二  
代理人 岩本 昭久  
代理人 伊藤 浩行  
代理人 中村 恵子  
代理人 野見山 孝  
代理人 遠藤 和光  
代理人 松嶋 善之  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 前田 秀一  
代理人 羽鳥 修  

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