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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1342564
審判番号 不服2017-3712  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-14 
確定日 2018-07-18 
事件の表示 特願2014-529132「携帯型酸素濃縮器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月21日国際公開、WO2013/038342、平成26年10月 6日国内公表、特表2014-526303〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2012年(平成24年)9月12日(パリ条約による優先権主張:2011年(平成23年)9月13日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日に手続補正書が提出されたが、同年11月10日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成29年3月14日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。

第2 平成29年3月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年3月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成29年3月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年9月13日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「 【請求項1】
酸素濃縮器システムであって:
酸素富化ガスの供給を発生させるために吸着を実行するように構成された酸素濃縮サブシステムであって、2つのシーブベッド及び前記2つのシーブベッドの間で圧力をバランスさせるように構成された酸素側バランスバルブを有する、酸素濃縮サブシステム;
前記酸素濃縮サブシステムからの酸素富化ガスを患者の気道への供給のための吸器回路に送るように構成された酸素供給サブシステム;
前記酸素濃縮器システムのための唯一の電源として機能するように構成された1又は複数のバッテリであって、100%酸素等価ガスの最大連続流の動作状態の間、約1.5時間より大きい1回充電電池寿命を有する、1又は複数のバッテリ;及び
前記酸素濃縮サブシステム、前記酸素供給サブシステム、及び前記1又は複数のバッテリを収容するように構成されたハウジング、を有し、
比R_(OW)が:R_(OW)=(O_(2)出力)/前記ハウジング内に収容された前記酸素濃縮器システムの全重量として決定され、前記O_(2)出力は前記酸素濃縮器システムの100%酸素等価ガスの最大連続流であり、前記比R_(OW)は約0.19lpm/lbs、又は約0.42lpm/kgより大きい、
酸素濃縮器システム。」

(2)<補正後>
「 【請求項1】
酸素濃縮器システムであって:
酸素富化ガスの供給を発生させるために吸着を実行するように構成された酸素濃縮サブシステムであって、2つのシーブベッド及び前記2つのシーブベッドの一方に圧縮空気が供給されるように圧縮空気の供給が前記2つのシーブベッドの間で切り替えられる前に前記2つのシーブベッドの間で圧力をバランスさせるように構成された酸素側バランスバルブを有する、酸素濃縮サブシステム;
前記酸素濃縮サブシステムからの酸素富化ガスを患者の気道への供給のための吸器回路に送るように構成された酸素供給サブシステム;
前記酸素濃縮器システムのための唯一の電源として機能するように構成された1又は複数のバッテリであって、100%酸素等価ガスの最大連続流の動作状態の間、約1.5時間より大きい1回充電電池寿命を有する、1又は複数のバッテリ;及び
前記酸素濃縮サブシステム、前記酸素供給サブシステム、及び前記1又は複数のバッテリを収容するように構成されたハウジング、を有し、
比R_(OW)が:R_(OW)=(O_(2)出力)/前記ハウジング内に収容された前記酸素濃縮器システムの全重量として決定され、前記O_(2)出力は前記酸素濃縮器システムの100%酸素等価ガスの最大連続流であり、前記比R_(OW)は約0.19lpm/lbs、又は約0.42lpm/kgより大きい、
酸素濃縮器システム。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1に係る発明の特定事項である「前記2つのシーブベッドの間で圧力をバランスさせるように構成された酸素側バランスバルブ」について、「2つのシーブベッドの一方に圧縮空気が供給されるように圧縮空気の供給が前記2つのシーブベッドの間で切り替えられる前に」「前記2つのシーブベッドの間で圧力をバランスさせるように構成された酸素側バランスバルブ」と限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところもない。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「酸素濃縮器システム」であると認める。

(2)刊行物
(2-1)刊行物1
これに対して、原審の平成28年6月17日付け拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布された刊行物である特表2009-532183号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の発明が記載されていると認められる。

ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「携帯可能な酸素濃縮装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

(ア)「【0005】
従って、本発明の目的は、酸素濃縮気体流を発生する圧力スイング吸着装置と、圧力スイング吸着装置に電力を供給する電池とを備える携帯可能な酸素濃縮システムを提供することにある。酸素濃縮装置は、約4.5kg(10lb)未満の総重量と、100%O_(2)相当の気体約0.9リッター/分最大流量と、約13110cm^(3)(800in^(3))未満の総容積と、少なくとも約8時間の電池寿命とを有する。」

(イ)「【0008】
図1A?図3は、本発明の原理による携帯可能な用酸素濃縮装置(以下、酸素濃縮装置)10を示す。約言すると、酸素濃縮装置10は、複数の篩台又はタンク12A,12Bと、圧縮装置14と、内部に複数の通路62?68を形成する下部多岐管又は空気多岐管16と、保管タンク又は貯蔵器18と、空気多岐管16内の通路62?68を通じて単一又は複数の流路を形成する一組の空気制御弁20と、上部多岐管又は酸素供給多岐管102とを備える。空気制御弁20に連結される制御装置22は、選択的に空気制御弁20を開閉して、空気多岐管16と篩台12を通る空気流を制御する。制御装置22は、例えば、酸素濃縮装置の酸素流量等の動作媒介変数の設定に使用される入力/出力装置23にも連結される。」

(ウ)「【0014】
要約すると、例えば、実質的な空洞(ボイド)が篩材料36内に形成されないように、篩台12内の複数の平板38間に篩材料36をほぼ収納又は充填することができる。図4に示す構成要素を含んで形成される篩台12の重量は、約0.1125?0.675kg(0.25?1.50lb)である。」

(エ)「【0018】
例えば、篩材料が通常水を吸収するので、吸収により劣化する篩材料もあるが、耐久性及び/又は窒素の吸着性能に大きな影響を与えずに水を吸収する篩材料を第1の端部32に設けることができる。例示的な実施の形態では、第1の端部32に隣接して設けられる第1の層36aは、「Oxysiv」材料等の篩材料の全高の約10%から30%の篩台12の長さに近似する寸法深さを有する。「Oxysiv MDX」等の高性能吸着材料を含む第2の層36bが、次に設けられる。第2の層36bは、篩台12の残部をほぼ充填する。所望の特性を有する単一又は複数の篩材料の追加層(図示せず)を勿論更に設けてもよい。このように、使用時に周辺空気が篩台12A,12Bの第1の端部32内に流入するとき、第1の層36aは、空気中の水分をほぼ吸収し、第2の層36bは、比較的乾燥した空気に曝露され、第2の層36bの篩材料が損傷する危険性を十分に減少することができる。毎分リットル(lpm)の排出生成物に対して、約0.225?0.675kg(約0.5?1.5lb)、好ましくは、約0.45kg(約1lb)の篩材料「Oxysiv MDX」の重量が、効率的な吸着となることが判明した。」

(オ)「【0022】
図10Aに示すように、篩台12A,12Bの第2の端部34間を直接連絡する通路を形成する排気オリフィス81(点線で示す)が蓋80に設けられる。常時開放状態に保持される排気オリフィス81により、一方の篩台から他方の篩台に酸素を搬送する通路を形成し、例えば、後述のように、一方の篩台12に酸素を充填しながら、他方の篩台12から酸素を排出する。・・・
【0023】
排気オリフィス81に排気弁(図示せず)を設けて、複数の篩台間の気体流を制御することも、本発明は、企図する。この排気弁は、篩台を交互に充填し排気するとき、排気オリフィスの流量を変更する作用を有する。」

(カ)「【0095】
図1A及び図9Bに示すように、溝137を覆って酸素供給多岐管102に套管操作杆(カニューレバーブ)139又は他の装置を選択的に取り付けてもよい。例えば、ねじ連結、単一又は複数の爪又は他の接続器若しくは接着剤等(同様に図示しない)により、何らかの従来方法を使用して、酸素供給多岐管102に套管操作杆139が取り付けられる。使用者に酸素を供給する例えば、周知の可撓性ホース(図示せず)等の套管(カニューレ)を取り付ける接続管又は他の接続器を套管操作杆139に設けることができる。空気濾過器124から套管操作杆139を分離し又は溝137を覆って酸素供給多岐管102に一緒に套管操作杆139と空気濾過器124とを単一の組立体として取り付けてもよい。」

(キ)「【0103】
更に、酸素濃縮装置10は、制御装置22、圧縮装置14、空気制御弁20及び/又は酸素供給弁116に連結される単一又は複数の電力源を備える。例えば、図2に示すように、一対の電池148は、例えば、側壁59,159と篩台12との間の開放側に沿って、空気多岐管16に取り付けられ又は別の方法で固定される。例えば、空気多岐管16は、電池148内に嵌合されて酸素濃縮装置10内で垂直に電池148を安定しかつ/又は固定する単一又は複数の取付台149を備える。加えて又は別法として、他の紐又は支持体(図示せず)を使用して、酸素濃縮装置10内に電池148を固定することもできる。」

(ク)「【0106】
例えば、壁面コンセント等の商用交流電力源又は自動車のシガーライタソケット、ソーラパネル装置(図示せず)等の携帯可能なの交流電力源若しくは直流電力源等、酸素濃縮装置10に電力を供給する外部電力源に対するアダプタを酸素濃縮装置10に選択的に設けてもよい。酸素濃縮装置10に使用できる外部電気エネルギを変換するのに必要な何らかの変圧器又は他の構成要素(図示せず)を酸素濃縮装置10内に設けて、酸素濃縮装置10を外部電力源又は外部装置自体に電線で接続することもできる。
【0107】
外部エネルギ源から電池148にある電気エネルギを供給し、従来方式により電池148を選択的に再充電するように制御装置22を構成してもよい。・・・」

(ケ)「【0113】
G.装置の動作
図3に示す酸素濃縮装置10の基本動作を以下説明する。通常、酸素濃縮装置10の動作は、篩台12内での吸着により周辺空気から酸素を濃縮する過程と、貯蔵器18から使用者に濃縮酸素を供給する過程との2つの態様を含むが、以下各態様を説明する。各態様の酸素濃縮装置10は、他の装置から独立して動作し又は例えば、単一又は複数の関連する媒介変数に基づいて相互に作動連結されて動作する。」

(コ)「【0133】
別法として、排気オリフィス81に平行に又は排気オリフィス81の代わりに、即ち、篩台12の酸素入口/出口端部34間に延伸する流路に単一又は複数の弁(図示せず)を設けてもよい。この変形例では、上記と同様に、酸素濃縮装置10は、4状態周期を使用して動作することができる。しかしながら、重複時間の間に又は圧力周期の終期に、排気オリフィス81に平行に設けた前記弁を開放して、複数の篩台12の圧力又は排気を積極的に制御することができる。」

(サ)「【0208】
図34に示す表から推論できる1つの注目すべき媒介変数は、ユニットの総重量に対する酸素発生速度及び電池寿命である。媒介変数R_(ODW)は、下式(4)により決定される。
R_(ODW)=(酸素排出量*持続期間)/総重量, (4)
酸素排出量は、式(1)及び/又は図12のグラフで決定される100%酸素(純粋酸素)の排出量で示され、持続期間は、所与の電池充電量の装置動作寿命で示され、重量は、全構成部材を含むユニットの総重量で示される。下記表3は、1つ、2つ又は3つの電池(各電池の重量は、0.68kg[1.5lb]である)を使用する本発明の装置と既存の酸素濃縮装置との媒介変数R_(ODW)を示す。」

(シ)「【0209】


イ 刊行物1発明

(ス)上記記載事項(ア)の「本発明の目的は、酸素濃縮気体流を発生する圧力スイング吸着装置と、圧力スイング吸着装置に電力を供給する電池とを備える携帯可能な酸素濃縮システムを提供することにある。」との記載、上記記載事項(イ)の「酸素濃縮装置10は、複数の篩台又はタンク12A,12Bと、圧縮装置14と、内部に複数の通路62?68を形成する下部多岐管又は空気多岐管16と、保管タンク又は貯蔵器18と、空気多岐管16内の通路62?68を通じて単一又は複数の流路を形成する一組の空気制御弁20と、上部多岐管又は酸素供給多岐管102とを備える。」との記載および図3の図示内容からみて、刊行物1には“酸素濃縮気体を発生させるために吸着を実行するように構成された酸素濃縮サブシステムであって、2つの篩台を有する、酸素濃縮サブシステム”が記載されているといえる。

(セ)刊行物1記載のような患者用の携帯可能な酸素濃縮システムが患者の気道への供給のための呼吸回路を有することは、技術常識であるところ、上記記載事項(カ)の「使用者に酸素を供給する例えば、周知の可撓性ホース(図示せず)等の套管(カニューレ)を取り付ける接続管又は他の接続器を套管操作杆139に設けることができる。空気濾過器124から套管操作杆139を分離し又は溝137を覆って酸素供給多岐管102に一緒に套管操作杆139と空気濾過器124とを単一の組立体として取り付けてもよい。」との記載からみて、刊行物1には“酸素濃縮サブシステムからの酸素濃縮気体を患者の気道への供給のための呼吸回路に送るように構成された酸素供給サブシステム”が記載されているといえる。

(ソ)上記記載事項(キ)の「更に、酸素濃縮装置10は、制御装置22、圧縮装置14、空気制御弁20及び/又は酸素供給弁116に連結される単一又は複数の電力源を備える。」との記載、上記記載事項(サ)の「下記表3は、1つ、2つ又は3つの電池(各電池の重量は、0.68kg[1.5lb]である)を使用する本発明の装置と既存の酸素濃縮装置との媒介変数R_(ODW)を示す。」との記載、及び表3(上記記載事項(シ)、特に「本発明(1電池)」行・「持続時間」列を参照)からみて、刊行物1には“酸素濃縮器システムのための電源として機能するように構成された一つの電池であって、100%酸素等価ガスの最大連続流の動作状態の間、4時間の電池寿命を有する1つの電池”が記載されているといえる。
また、表3の「本発明(1電池)」行においては、「100%等価酸素排出量(lpm)」が0.9、「重量kg(lb)」が3.8(8.3)であるところ、これを計算すれば、比R_(OW)=0.9/3.8=約0.24となり、刊行物1には“比R_(OW)は約0.24lpm/kgである”「酸素濃縮システム」が記載されているといえる(当審注:「l」はリットルのエル)。

そこで、上記記載事項(ア)ないし(シ)及び上記認定事項(ス)ないし(ソ)を、技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という。)
「携帯可能な酸素濃縮システムであって:
酸素濃縮気体を発生させるために吸着を実行するように構成された酸素濃縮サブシステムであって、2つの篩台を有する、酸素濃縮サブシステム;
前記酸素濃縮サブシステムからの酸素濃縮気体を患者の気道への供給のための呼吸回路に送るように構成された酸素供給サブシステム;および
前記酸素濃縮器システムのための電源として機能するように構成された1の電池であって、100%酸素等価ガスの最大連続流の動作状態の間、4時間の電池寿命を有する、1の電池;を有し、
比R_(OW)は約0.24lpm/kgである
携帯可能な酸素濃縮システム。」

(2-2)刊行物2
本件出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-7207号公報(以下「刊行物2」という)には、「酸素に富むガスの製造装置及び方法」について、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0009】
該装置は、12ポンド未満の合計重量を有することができ、10ポンド未満の合計重量を有してもよく、8ポンド未満の合計重量を有してもよい。
【0010】
吸着剤は、リチウム、カルシウム、亜鉛、銅、ナトリウム、カリウム及び銀からなる群から選択される1種以上の金属カチオンと交換されたゼオライトXからなる群から選択することができる。吸着床は更に、空気からの水及び二酸化炭素の吸着について選択性のある付加的な吸着剤を更に含んでもよく、該付加的な吸着剤は、(1)活性アルミナ、及び(2)リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択された1種以上の金属カチオンと交換されたゼオライトX、からなる群から選択される。
【0011】
充電式電源は、バッテリーでよい。あるいはまた、充電式電源は燃料電池でよい。
【0012】
該装置は更に、主気体ポンプ、駆動モータ、充電式電源及び圧力/真空スイング吸着システムをとり囲む外部ケースと、該ケースの外側に取付けられたユーザー表示/制御パネルを含むことができる。この装置は、12ポンド未満の合計重量を有することができ、10ポンド未満の合計重量を有してもよく、8ポンド未満の合計重量を有してもよい。」

(イ)「【0019】
ここに記載されている本発明の態様は、例えば携帯式でユーザーが持ち運ぶ医療用酸素濃縮器システムにおいて利用される、小型圧力/真空スイング吸着(PVSA)システムを設計するための方法とその重量を最適化するための方法を対象としている。本発明の態様の開発において、生成物流量、生成物純度、生成物送給圧力及び運転時間の任意の操作可能な組合せについてPVSAシステムのための最小の重量又は望ましい重量範囲を決定できるということが見いだされた。これは、選択されたプロセスパラメータの関数として各々の可変重量システム構成要素の重量を決定し、選択されたパラメータの様々な値におけるこれらの構成要素の重量を加算し、そして可変重量の選択されたパラメータに対する曲線を作り出すことによって達成できる。この曲線は一般に、望ましい最小重量又は最小重量範囲を選択されたプロセスパラメータの関数として示す。この選択されたプロセスパラメータは、PVSAサイクルにおける再生の間の最小床圧力であることができる。
【0020】・・・
【0021】
本発明の態様に従って設計することができる典型的なPVSAのプロセス及びシステムを、例示を目的として図1に示す。大気1を、第1の又は原料空気コンプレッサ9によりフィルタ3、入り口消音器5、及び管路7を通して吸い込む。原料空気コンプレッサ9は、駆動モータ13及び第2の又は真空廃気コンプレッサ15をも含む主気体ポンプ11の一部である。1.15?1.80atmaの加圧原料空気がコンプレッサから排出され、空気供給管路17を通って回転式バルブアセンブリ19へと流れ、このバルブアセンブリは、吸着床供給管路21、23、25、27及び29、吸着床生成物管路31、33、35、37及び39、空気供給管路17、生成物管路51、及び廃気管路53に通じている。この典型的PVSAシステムでは、5つの吸着床41、43、45、47及び49が使用されるが、任意の数の複数の床を使用することができる。必要に応じ、任意の生成物気体貯蔵タンク(図示せず)を使用してもよい。生成物気体をユーザーへ送給するため、生成物管路51にカニューラ(図示せず)を接続してもよい。」

(ウ)「【0036】
完全に携帯式のユーザーが持ち運びする酸素濃縮器システムは、一般的に、図1の典型的PVSAシステムによって例示されているものに加えて、いくつかの構成要素を含む。これらの付加的な構成要素は、例えば、次に挙げるもの、すなわち、電気的配線及び制御システム、構造用の構成要素、ケース又はハウジング、ハウジングの外側に取付けられたユーザー表示/制御パネル、コンサーバ、生成物タンク、及び例えばハンドル、キャリングストラップ又は双対のショルダーストラップといったような、ユーザーが濃縮器ユニットを持ち運ぶための手段、のうちのいずれかを含むことができる。従って、携帯式のユーザーが持ち運びする酸素濃縮器システムの合計重量は、(a)先に説明した可変重量の構成要素(すなわち吸着剤、主気体ポンプ及びバッテリー)と(b)直ぐ上で説明した付加的構成要素の総重量である。
【0037】
4床又は5床を用いる上述のもののような携帯式でユーザが持ち運びする酸素濃縮器システムは、例えば、最高3リットル/分の連続酸素生成物流量、容易に持ち運ばれる重量、そして1回の電源充電で少なくとも1?2時間の作動時間、といったような望ましい基準を満たすように設計することができる。これらの基準を満たすシステムは、歩行可能な患者にとってより高い自由度とより高い生活水準をもたらし、そして酸素濃縮器の供給業者にとって魅力的な製品提供となる。
【0038】
上述のPVSA酸素濃縮器システムの態様は、好ましくは、これらの基準を満たし、そして少なくとも85モル%の酸素純度の酸素富化生成物を患者に提供する。携帯式酸素濃縮器システムは、患者が容易に持ち運びすべきものであり、12ポンド未満、好ましくは10ポンド未満、最も好ましくは8ポンド未満の合計重量を有するべきである。酸素療法を必要とする患者は通常病気であることから、最小限のシステム重量が極めて重要である。前述したとおり、最小重量のためにこれらのシステムを設計することは、重要な工学的課題である。」

(エ)【0083】
上述の最適化方法は、かくして、1?3時間の連続した運転時間の間に1.2?1.6atmaの生成物圧力範囲内で93モル%の酸素を1?3リットル/分の速度で生産するための4床及び5床PVSAシステムの運転を網羅する。個々の構成要素についての対応する最適な重量範囲は、最小床圧力の望ましい運転範囲について分析的に決定された。更に、個々の可変重量構成要素について重量対生成物流量の関係に関して、望ましい運転領域が分析的に決定された。同様に、組合せた可変重量の合計重量について重量対生成物流量に関し、望ましい運転領域が分析的に決定された。・・・」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「携帯可能な酸素濃縮システム」は、その機能・構造からみて、補正発明の「酸素濃縮器システム」に相当するといえる。同様に、刊行物1発明の「酸素濃縮気体」が補正発明の「酸素富化ガス」に、「篩台」が「シーブベッド」に、「呼吸回路」が「吸器回路」に、および、「電池」が「バッテリ」に相当することは明らかである。
また、充電式電池における「電池寿命」が「1回充電電池寿命」を意味することは、技術常識であり、「4時間」が「約1.5時間より大きい」ことは、明らかである。そうすると、刊行物1発明の「4時間の電池寿命を有する1の電池」は、補正発明の「約1.5時間より大きい1回充電電池寿命を有する、1のバッテリ」に相当することといえる。

そうすると、両者は、
(一致点)
「酸素濃縮器システムであって:
酸素富化ガスの供給を発生させるために吸着を実行するように構成された酸素濃縮サブシステムであって、2つのシーブベッドを有する、酸素濃縮サブシステム;
前記酸素濃縮サブシステムからの酸素富化ガスを患者の気道への供給のための吸器回路に送るように構成された酸素供給サブシステム;及び
前記酸素濃縮器システムのための唯一の電源として機能するように構成された1のバッテリであって、100%酸素等価ガスの最大連続流の動作状態の間、約1.5時間より大きい1回充電電池寿命を有する、1のバッテリ;
を有する酸素濃縮器システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「酸素濃縮サブシステム」について、補正発明では、2つのシーブベッドの一方に圧縮空気が供給されるように圧縮空気の供給が2つのシーブベッドの間で切り替えられる前に前記2つのシーブベッドの間で圧力をバランスさせるように構成された酸素側バランスバルブを有するのに対して、刊行物1発明では、そのような酸素側バランスバルブを有しない点。
<相違点2>
補正発明は、酸素濃縮サブシステム、酸素供給サブシステム、及び1のバッテリを収容するように構成されたハウジングを有するのに対して、刊行物1発明は、そのような「ハウジング」を有するか不明である点。
<相違点3>
「比R_(OW)」について、補正発明では約0.42lpm/kgより大きいのに対して、刊行物1発明では約0.24lpm/kgである点。

(4)相違点の検討
上記各相違点につき検討する。

ア 相違点1について
本件出願の優先日前に頒布され、原査定において周知例として例示された刊行物である特開2009-11844号公報に「【0020】次に、二方バルブSV2とSV4を閉じ、二方バルブSV3とSV1を開くと、吸着塔4に加圧した空気が送り込まれ、吸着塔4内で空気中の窒素を吸着剤5に吸着させる。こうして製造された酸素濃縮空気を、チェックバルブ8を介して製品タンク12に送る。製品タンク12に至る管路及び製品タンク12の圧力が上がると、酸素濃縮空気の一部を均圧オリフィス9を通して吸着塔3に放出し、吸着塔3内の吸着剤5が吸着している窒素を脱着させ、二方バルブSV1を介して排気口6より放出する。均圧弁SV5は、二方バルブマニホールド2が切り換わる直前に開き、その後切り換わった直後に閉じ、酸素濃縮空気を製造する側の吸着塔3又は4に酸素濃縮空気を吹き込み、その内部圧力を高めて、次のサイクルを高い内部圧力の下でスタートできるようにして、直ぐに酸素濃縮空気を製造できるようにする。」と記載されているように(下線は当審にて付与)、酸素濃縮器システムにおいて、2つの吸着塔の一方に加圧した空気が供給されるように加圧した空気の供給が2つの吸着塔の間で切り替えられる前に2つの吸着塔の間で圧力を均しくさせるように構成された均圧弁を設けることは、従来周知の技術事項であるといえる。そして、その機能・構造からみて、該「均圧弁」が補正発明の「酸素側バランスバルブ」に相当することは、明らかである。
そして、刊行物1発明において、効率を高めるという一般的な課題のために、その「酸素濃縮サブシステム」に、上記従来周知の技術事項を適用して、「酸素側バランスバルブ」を追加することは、刊行物1の上記記載事項(2-1)ア(コ)の「排気オリフィス81に平行に・・・・・単一又は複数の弁(図示せず)を設けてもよい。」からみて、当業者において十分動機付けがあるといえる。
したがって、刊行物1発明において、上記従来周知の技術事項を適用して、相違点1における補正発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たものというべきである。

イ 相違点2について
刊行物2の上記記載事項(2-2)(ア)の「【0012】該装置は更に、主気体ポンプ、駆動モータ、充電式電源及び圧力/真空スイング吸着システムをとり囲む外部ケースと、該ケースの外側に取付けられたユーザー表示/制御パネルを含むことができる。」及び同(ウ)の「【0036】・・・・・これらの付加的な構成要素は、例えば、次に挙げるもの、すなわち、電気的配線及び制御システム、構造用の構成要素、ケース又はハウジング、・・・のうちのいずれかを含むことができる。」(下線は当審にて付与)からみて、“酸素濃縮サブシステムのサブシステム及び電源を外部ケースに収容する”ことは、従来周知の技術事項といえる。そして、その機能・構造からみて、該「外部ケース」が補正発明の「ハウジング」に相当することは明らかである。
そうすると、刊行物1発明において、サブシステム等を保護するという一般的な課題のために、上記従来周知の「外部ケース」のような「ハウジング」を備えることは、当業者において十分動機付けがあり、何ら阻害要因も存在しないといえる。
してみると、刊行物1発明において、上記従来周知の技術事項を採用して、相違点2における補正発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たものというべきである。

ウ 相違点3について
(ア)まず、補正発明が「比R_(OW)」を約0.42lpm/kgより大きいと特定していることの技術的意義を検討する。該特定に関連する明細書の記載としては、
「【0101】
酸素濃縮器システム10は、2つのバッテリ構成に対して、比R_(OW)が約0.16lpm/lbsより大きい、約0.18lpm/lbsより大きい、約0.2lpm/lbsより大きい、約0.22lpm/lbsより大きい、及び/又は他の比であるように、構成され得る。酸素濃縮器システム10は、1つのバッテリ構成に対して、比R_(OW)が約0.17lpm/lbsより大きい、約0.19lpm/lbsより大きい、約0.21lpm/lbsより大きい、又は約0.24lpm/lbsより大きいように、構成され得る。」と記載されているものの(下線は当審にて付与)、他に比R_(OW)を約0.42lpm/kg(約0.19lpm/lbs)と特定することの技術的意義に関する記載は見当たらない。そして、上記記載が比R_(OW)の下限値を複数選択的に列挙していることなどからみて、「約0.42lpm/kg」という下限値に格別臨界的意義は認められない。
ここで、比R_(OW)値は、大まかに言えば、酸素濃縮器システムの重量当たりの酸素出力であるところ、蓄電池出力性能などにおいて高出力の蓄電池コンプレッサシステムを用いれば、大きな比R_(OW)値が得られると考えられる。反面そのような高出力の蓄電池コンプレッサシステムを、システム全体重量を変えないで搭載しようとすれば、自ずと蓄電池の1回充電電池寿命は短くならざるを得ない。すなわち、比R_(OW)値と蓄電池の1回充電電池寿命とは基本的にはトレードオフの関係にあり、相違点3に係る補正発明の構成はそのようなトレードオフ制約下において、1つの設計目標を定めたに過ぎないと考えられる。そして、その目標たる下限値に格別臨界的意義は認められないのは、上述したとおりである。

(イ)そうすると相違点3に係る補正発明の構成は、1回充電池寿命と出力とのトレードオフにおける格別臨界的意義のない比R_(OW)の下限値を定めたものと言わざるを得ず、刊行物1発明においても、蓄電池の1回充電電池寿命をある程度犠牲にしつつ構造等の工夫をして、そのような下限値を採用することは、当業者が設計における通常の試行錯誤の範囲でなし得ることというべきである。

(ウ)また、刊行物2の上記記載事項(2-2)(イ)、(ウ)及び(エ)には、重量対生成物流量を決定することの意義が記載されており、比R_(OW)値を適切に決定することは、当業者が酸素濃縮器システムの設計において、通常意識すべき課題であることが示されている。

(エ)これらを総合すると、刊行物1発明において、刊行物2に記載された通常の課題解決も考慮し、相違点3における補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

エ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成28年9月13日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「酸素濃縮器システム」であると認める。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1及び刊行物2であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、実質的に、上記第2の2で検討した補正発明における補正事項を除いたものである。
そして、本願発明の構成を全て備えた補正発明が、上記第2の2にて検討したとおり、刊行物1発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、刊行物1発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-19 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2014-529132(P2014-529132)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 姫島 卓弥落合 弘之  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 長屋 陽二郎
熊倉 強
発明の名称 携帯型酸素濃縮器  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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