ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
---|---|
管理番号 | 1342565 |
審判番号 | 不服2017-5316 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-13 |
確定日 | 2018-07-18 |
事件の表示 | 特願2013-558088「ヒト組織因子抗体及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月20日国際公開、WO2012/125559、平成26年 4月24日国内公表、特表2014-509856〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成24年(2012年)3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年3月15日、アメリカ)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成28年 2月23日付け 拒絶理由通知書 平成28年 9月 1日 意見書・手続補正書 平成28年12月 1日付け 拒絶査定 平成29年 4月13日 審判請求書・手続補正書 第2 本願発明の認定 この出願の請求項1に係る発明は、平成29年4月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 【請求項1】 ヒト組織因子への結合に関してマウス抗体10H10と競合する単離された抗体であって、前記抗体の結合ドメインが、ヒトフレームワーク(FR)領域に適合され、かつFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3の構造を有し、前記FRアミノ酸配列が、IMGTデータベースで認証されているヒト生殖系列遺伝子配列によってコードされたアミノ酸配列から変更されず、CDR配列は、 重鎖CDR1が、配列番号6のアミノ酸配列を含むものであり、 重鎖CDR2が、配列番号7又は27のアミノ酸配列を含むものであり、 重鎖CDR3が、配列番号8のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR1が、配列番号9のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR2が、配列番号10のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR3が、配列番号11のアミノ酸配列を含むものである、 前記単離された抗体。 第3 刊行物に記載された事項 平成28年12月1日付け拒絶査定で引用した下記の刊行物について、以下「引用文献1」という。 引用文献1:特表2009-514895号公報 また、周知技術として当審が引用する下記の刊行物について、以下「引用文献2」?「引用文献4」という。 引用文献2:国際公開第2010/104052号 引用文献3:特表2008-523815号公報 引用文献4:国際公開第2011/023389号 1.引用文献1:特表2009-514895号公報 引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。 (1)「【請求項1】 哺乳動物対象中の組織因子/第VIIa因子(TF/VIIa)シグナル伝達を阻害又は抑制する方法であり、前記哺乳動物対象に組織因子シグナル伝達の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤が前記哺乳動物対象中の止血を妨害しない、前記方法。」(請求項1) (2)「【請求項3】 阻害剤が凝固活性化を妨げない、請求項1に記載の方法。」(請求項3) (3)「【請求項6】 阻害剤が抗体又は小化学実体である、請求項1に記載の方法。」(請求項6) (4)「【請求項8】 阻害剤が、ATCC受託番号HB9383を有するハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体10H10である、請求項6に記載の方法。」(請求項8) (5)「【0035】 上記治療法の実施において使用することができる抗体の1つの具体例は、10H10と称されるマウスモノクローナル抗体である。以下の実施例に示されているように、MAb10H10は、止血を妨害せずに、組織因子シグナル伝達の阻害剤として作用する抗体である。この抗体は、米国特許5,223,427及び6,001,978に、極めて詳しく記載されている。本抗体を分泌するハイブリドーマは、HB9383の受託番号で、1987年3月27日に、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(Manassas,VA)に、ブダペスト条約の要件に従って寄託されている。」(【0035】) (6)「【0036】 本発明の治療方法の幾つかは、ヒト対象を治療することに関する。これらの方法では、ヒト化抗体、ヒト抗体又は(例えば、定常領域中に)ヒト配列を含有するキメラ抗体が好ましい。ヒト以外の動物(例えば、マウス)から単離された抗体と比べて、このような抗体は、ヒト対象に投与された場合に、より少ない抗原性を有し、又は抗原性を有しない。」(【0036】) (7)「【0038】 非ヒト抗体由来の完全な可変領域を有するキメラ抗体は、ヒトでの抗体の抗原性を低下させるために、さらにヒト化することが可能である。これは、典型的には、ヒトFv可変領域由来の等価な配列又はアミノ酸残基で、Fv可変領域(フレームワーク領域又は非CDR領域)中の一定の配列又はアミノ酸残基を置換することによって達成される。これらのさらに置換された配列又はアミノ酸残基は、通常、抗原結合に直接関与していない。より頻繁には、非ヒト抗体のヒト化は、非ヒト抗体(例えば、本明細書中に例示されているマウス抗TF抗体)のCDRのみをヒト抗体中のCDRと置換することによって行われる。幾つかの事例では、この後に、ヒトフレームワーク領域中の幾つかのさらなる残基を、非ヒトドナー抗体由来の対応する残基で置換する。しばしば、抗原への結合を改善するために、このようなさらなる移植が必要とされる。これは、非ヒト抗体から移植されたCDRのみを有するヒト化抗体は、非ヒトドナー抗体の結合活性と比べて、完全な結合活性より低い結合活性を有し得るからである。従って、CDRの他に、本発明のヒト化抗hTF抗体(例えば、MAb10H10と同一の結合特異性を有するもの)は、しばしば、非ヒトドナー抗体(例えば、本明細書中に例示されているマウス抗体)由来の対応する残基で置換されたヒトフレームワーク領域中の幾つかのアミノ酸残基を有することができる。置換のためのフレームワーク残基を選択するための基準など、CDR置換によってヒト化抗体を作製する方法は、本分野において周知である。例えば、Winter et al.,英国特許出願GB2188638A(1987),米国特許5,225,539;Jones et al.,Nature 321:552-525,1986;Verhoeyan et al.,Science 239:1534,1988;Beidler et al.,J. Immunol.141:4053-4060,1988;及びWO94/10332を参照されたい。」(【0038】) (8)「凝固及び凝固開始複合体のXa依存性シグナル伝達は、MAb-5G9によって阻害されたが、MAb10H10によって阻害されなかった。重要なことに、凝固性TFに対する反応性が乏しいMAb10H10(図1c、d)は、TF-VIIaシグナル伝達を遮断した。従って、本発明者らは、凝固開始又は三元TF-VIIa-Xa複合体シグナル伝達を妨害しないシグナル伝達TFに対する特異的阻害抗体を同定した。」(実施例1の【0222】) (9)「【実施例4】 【0232】 腫瘍の進行における凝固性TF及びシグナル伝達TFの役割 血液凝固薬(MAb-5G9)及びシグナル伝達(MAb-10H10)TFに対する特異的抗体は、腫瘍の進行におけるこれらのそれぞれの活性の役割を検討するための機会を与えた。腫瘍細胞TFの特異的な標的化を、異種移植MDA-MB231乳癌モデル中で達成した。抗体は、MAb-5G9の場合には、凝固抑制に対して予測された特異性を示したが、MAb-10H10は、PARシグナル伝達の下流における典型的な初期応答遺伝子である血管新生促進性インターロイキン8及びTR3の誘導を含むシグナル伝達を阻害した(図4a、b)。MAb10H10を移植された腫瘍細胞は、イソタイプを合致させた対照IgG1と比べて、著しく低下した最終腫瘍サイズ及び腫瘍重量を示したが、MAb-5G9を移植された腫瘍細胞は示さなかった(図4c)。」(実施例4の【0232】) 2.引用文献2:国際公開第2010/104052号 引用文献2には、以下の記載がある。 (1)「【実施例1】 【0072】 (1)マウスモノクローナル抗体1F3のヒト化 上記のように作製したマウスモノクローナル抗体1F3のヒト化については、マウス抗体のCDRをヒト生殖系アクセプター配列に移植することで作製した。 具体的には、マウス抗体重鎖、軽鎖それぞれのV遺伝子領域アミノ酸配列に最もホモロジーの高いヒト生殖系アクセプター配列をIgBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)で検索し、J遺伝子領域についてはマウス抗体DNA配列とホモロジーの高い配列をIMGT( http://imgt.cines.fr/)から選択した。 【0073】 検索の結果、マウス抗体重鎖V遺伝子領域に最も相同性の高いヒト生殖系アクセプター配列由来抗体遺伝子配列として、IMGT gene name;IGHV1-46*01が、J遺伝子領域に最も相同性の高いヒト生殖系アクセプター配列由来抗体遺伝子配列としてIMGT gene name;IGHJ6*01が得られたため、これを重鎖移植用ヒトフレームワーク配列とした。同様に、マウス抗体軽鎖V遺伝子領域に最も相同性の高いヒト生殖系アクセプター配列由来抗体遺伝子配列として、IMGT gene name;IGKV1-9*01が、J遺伝子領域に最も相同性の高いヒト生殖系アクセプター配列由来抗体遺伝子配列として、IMGT gene name;IGKJ2*02が得られたため、これを軽鎖移植用ヒトフレームワーク配列とした。 【0074】 次に、Kabat Numbering(Wu、 T.T. and Kabat, E.A., J. Exp. Med. Aug1;132(2):211-50.(1970))に従ったアミノ酸配列番号表記により、マウス抗体重鎖CDRH1、CDRH2、CDRH3、および軽鎖CDRL1,CDRL2、CDRL3を特定し、これらのCDR領域をヒトフレームワーク配列に移植し、鋳型のヒト化抗体として設計した。」(【0072】?【0074】) 3.引用文献3:特表2008-523815号公報 引用文献3には、以下の記載がある。 (1)「【0150】 一態様において、本発明の開示のヒト化抗体は、ヒト化される対応するヒト以外の抗体(例えばマウス)の正準CDR構造型に同一若しくは類似である1種若しくはそれ以上のCDR構造型を包含する、ヒト抗体遺伝子(例えば生殖系列抗体遺伝子セグメント)から選択された可変領域フレームワーク配列を包含する。米国特許第6,881,557号明細書およびTanら、Journal of Immunol 169:1119-1125(2002)(全部の目的上そっくりそのまま引用することにより組み込まれる)を参照されたい。」(【0150】) (2)「【0154】 本発明のヒト化抗体を製造するのに使用し得るなお別の戦略は、ヒト化されるべきマウス抗体からのCDRを受領するフレームワークとして最も近いヒト生殖配列を選択することである。Merckenら、第US 2005/0129695号明細書(全部の目的上そっくりそのまま引用することにより組み込まれる)を参照されたい。生殖系列配列は、再配列されない免疫グロブリン遺伝子から発し、そして従って潜在的に免疫原性である体細胞高頻度変異を提示しない。このアプローチは最も近いヒト生殖系列配列の検索に基づく。とりわけ、マウスVLおよびVHフレームワーク領域との高程度の配列同一性を表す生殖系列配列からの可変ドメインを、V-Baseおよび/若しくはIMGTデータベース(それぞれ、医学研究協議会タンパク質工学センター(Medical Research Council Center for Protein Engineering)のインターネットサーバおよび欧州生物情報学研究所(European Bioinformatics Institute)のインターネットサーバを通じ公的にアクセス可能)を使用して同定し得る。マウスCDRをその後、選ばれたヒト生殖系列可変領域アクセプター配列にグラフトする。」(【0154】) 4.引用文献4:国際公開第2011/023389号 引用文献4には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。 (1)「ここで使用される「ヒト化されている」なる用語は、配列番号:1のVH及び配列番号:2のVLを有するマウスCUB4抗体に基づいて、(ヒト定常領域でのキメラ化後に)上記VH及びVLが、ヒト抗体のフレームワーク領域中にマウスCDRをグラフトさせることによってヒト化されている抗体を意味する(例えばRiechmann, L.等, Nature 332 (1988) 323-327;及びNeuberger, M., S.等, Nature 314 (1985) 268-270;Queen, C.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033;米国特許第5530101号;米国特許第5585089号;米国特許第5693761号;国際公開第90/07861号;及び米国特許第5225539号を参照)。重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域は同じ又は異なったヒト抗体配列由来でありうる。ヒト抗体配列は、天然に生じるヒト抗体配列でありうる。ヒト重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域は例えばLefranc, M.P., Current Protocols in Immunology (2000) - Appendix 1P A.1P.1-A.1P.37に列挙され、IMGT,international ImMunoGeneTics information system(登録商標)(http://imgt.cines.fr)又はhttp://vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukを介してアクセス可能である。」(第4頁29行?第5頁10行) (2)「「フレームワーク」又は「FR」領域は、ここで定義された高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。従って、抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメインは、N末端からC末端までドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。CDR及びFR領域は、Kabat等、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)の標準的な定義に従って決定され、及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基である。 ここで使用される場合の「抗体の抗原結合部分」なる用語は、抗原結合が起因する抗体のアミノ酸残基を意味する。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含む。本発明の抗体の「抗原結合部分」なる用語は、抗原に対する結合部位の親和性に様々な度合いで寄与する6つの相補性決定領域(CDR)を含んでいる。3つの重鎖可変ドメインCDRs(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変ドメインCDRs(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)が存在する。「CDRH1」なる用語は、Kabatによって計算される重鎖可変領域のCDR1領域を示す。CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、重鎖(H)又は軽鎖(L)からの各領域を意味する。CDR及びフレームワーク領域(FRs)の度合いは、その領域が上掲のKabat等に従って配列間の可変性に従って定義されているアミノ酸配列の編集されたデータベースとの比較によって決められる。」(第17頁1?23行) 第4 当審の判断 1.引用文献1に記載された発明 第3 1.(1)?(6)、(8)、(9)の記載から、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「止血を妨害せずに、ヒト組織因子シグナル伝達の阻害剤として作用し、腫瘍サイズ及び腫瘍重量を低下させる、マウスモノクローナル抗体10H10。」(以下、「引用発明1」という。) 2.本願発明と引用発明1の対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は、 「ヒト組織因子へ結合する抗体。」である点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点) 本願発明は、該抗体について、「ヒト組織因子への結合に関してマウス抗体10H10と競合する抗体であって、前記抗体の結合ドメインが、ヒトフレームワーク(FR)領域に適合され、かつFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3の構造を有し、前記FRアミノ酸配列が、IMGTデータベースで認証されているヒト生殖系列遺伝子配列によってコードされたアミノ酸配列から変更されず、CDR配列は、 重鎖CDR1が、配列番号6のアミノ酸配列を含むものであり、 重鎖CDR2が、配列番号7又は27のアミノ酸配列を含むものであり、 重鎖CDR3が、配列番号8のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR1が、配列番号9のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR2が、配列番号10のアミノ酸配列を含むものであり、 軽鎖CDR3が、配列番号11のアミノ酸配列を含むものである」と特定しているのに対し、引用発明1は、上記の点が特定されていない点。 3.判断 上記相違点について検討する。 第3 1.(6)、(7)に記載したとおり、引用文献1には、ヒト対象を治療するために上記抗体を用いること、マウス抗TF抗体のCDRのみをヒト抗体中のCDRと置換することによってヒト化することができること、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与された場合に、より少ない抗原性を有し、または抗原性を有しないことが記載されており、また、第3 1.(5)に記載したとおり、マウスモノクローナル抗体10H10を産生するハイブリドーマがATCCに寄託されていることも記載されている。 そして、本願優先日前、IMGTデータベースを使用して、マウス重鎖可変領域および軽鎖可変領域のフレームワークと相同性の高いヒト生殖系列配列由来の抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を同定すること、および、マウス抗体のCDR領域を特定し、これらのCDR領域を同定されたヒトフレームワークに移植することによりヒト化抗体を作成することは、引用文献2?4に記載されているように周知技術であった。 したがって、引用発明1において、止血を妨害せずに、ヒト組織因子シグナル伝達の阻害剤として作用し、腫瘍サイズ及び腫瘍重量を低下させる、マウスモノクローナル抗体10H10のヒト化抗体を作成しようとして、IMGTデータベースを使用して、マウスモノクローナル抗体10H10の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のフレームワークと相同性の高いヒト生殖系列配列由来の抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を同定すること、および、マウスモノクローナル抗体10H10を入手してCDR領域を特定し、これらのCDR領域を同定されたヒトフレームワークに移植することによりヒト化抗体を作成することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明の効果についても、当業者が予測し得る程度のものである。 4.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成29年4月13日審判請求書において、「平成28年9月1日付けで提出した意見書の2(3)項で述べたとおり、本願請求項発明は、各引用文献に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではありません。」と主張している。 ここで、上記「平成28年9月1日付けで提出した意見書の2(3)項」には、「本願発明に係る抗体は、上述のとおり、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDR配列がそれぞれ特定のアミノ酸配列を含むものであります。これに対し、引用文献1には、マウスモノクローナル抗体10H10と同一の結合特異性を有するキメラ抗体等が得られることが、形式的に記載されているに過ぎず、そのような同一の結合特異性を有する抗体について重鎖及び軽鎖可変領域のCDR配列がそれぞれどのようなアミノ酸配列であるかの解析や実証についても、何ら結果が示されておりません。 したがって、たとえ当業者であっても、引用文献1に開示された発明の内容から、本願発明のような特定のCDR配列の組合せを有する抗体を見出すことは、格段の技術的困難性を有するものであります。また、引用文献1に接した当業者であっても、特定のCDR配列の組合せを有する本願発明の抗体自体を作製しようと動機づけられることはありませんし、そのように動機付けられる合理的な根拠も引用文献1には何ら見当たりません。 拒絶理由で述べられている、「10H10をヒトの治療に適したものに改変することを目的として、引用文献1に記載されるように、10H10のCDRのみをヒト抗体中のCDRと置換することは当業者が容易に想到し得ること」とは、補正前の本願発明についてであっても、その内容を把握した後に想到し得ることであると考えられ、ましてや、補正後の発明に至っては、引用文献1に開示された発明の範囲からどのように想到するかのヒントは全く存在しないと言わざるを得ません。 したがって、本願発明は、引用文献1に基づいて当業者が容易に想到し得るものではありません。」と記載されている。 しかしながら、第3 1.で述べたとおり、引用文献1には、ヒト対象を治療するために抗TF抗体を用いること、マウス抗TF抗体のCDRのみをヒト抗体中のCDRと置換することによってヒト化することができること、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与された場合に、より少ない抗原性を有し、または抗原性を有しないことが記載されているから、引用文献1の当該記載に触れた当業者であれば、マウス抗TF抗体、つまり、マウスモノクローナル抗体10H10のヒト化抗体を作成しようとすることは容易に想到し得ることである。 そして、第4 3.で述べたとおり、IMGTデータベースを使用して、マウスモノクローナル抗体10H10の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のフレームワークと相同性の高いヒト生殖系列配列由来の抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を同定し、マウスモノクローナル抗体10H10のCDR領域を同定されたヒトフレームワークに移植することは、当業者が容易になし得ることである。 よって、「「10H10をヒトの治療に適したものに改変することを目的として、引用文献1に記載されるように、10H10のCDRのみをヒト抗体中のCDRと置換することは当業者が容易に想到し得ること」とは、補正前の本願発明についてであっても、その内容を把握した後に想到し得ることであると考えられ、ましてや、補正後の発明に至っては、引用文献1に開示された発明の範囲からどのように想到するかのヒントは全く存在しないと言わざるを得ません。」とする審判請求人の主張は、採用できない。 また、第4 3.で述べたとおり、本願優先日前、抗体のCDR領域を特定することは周知技術であり、マウスモノクローナル抗体10H10は入手可能であったから、引用発明1において、上述のようにヒト化抗体を作成する際に、マウスモノクローナル抗体10H10を入手し、該抗体のCDR領域を特定することは、当業者が容易になし得ることである。 よって、「たとえ当業者であっても、引用文献1に開示された発明の内容から、本願発明のような特定のCDR配列の組合せを有する抗体を見出すことは、格段の技術的困難性を有するものであります。」とする審判請求人の主張も、採用できない。 5.まとめ したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-02-16 |
結審通知日 | 2018-02-20 |
審決日 | 2018-03-05 |
出願番号 | 特願2013-558088(P2013-558088) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子、西 賢二 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
松田 芳子 長井 啓子 |
発明の名称 | ヒト組織因子抗体及びその使用 |
代理人 | 岩田 耕一 |
代理人 | 小林 純子 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 大森 規雄 |