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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61F
管理番号 1342572
審判番号 不服2017-8463  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-12 
確定日 2018-08-07 
事件の表示 特願2013-79442号「整復器具」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-200483号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月5日の出願であって、平成28年9月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年11月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月24日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年6月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

本願請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1(請求項1-3);1-2(請求項4);1-3(請求項5)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2003/0130690号明細書
2.特開平05-146463号公報
3.特開2002-28172号公報

第3 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年6月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
人体を均一に加圧して整復するための整復器具であって、パスカルの原理によって人体を均一に加圧可能な加圧袋を備え、前記加圧袋は、その袋内部に流体が収容されると共に、外力を受けて当該加圧袋を人体に向けて押圧する押圧板が止着されたことを特徴とする整復器具。」

本願発明2-5は、本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、刊行物1は英文であるため、当審で仮訳した。下線は当審で付与した。以下同様。

・「Non-invasive apparatus and method for treating carpal tunnel syndrome」
(手根管症候群の非侵襲性治療装置および治療方法)

・「ABSTRACT
・・Various embodiments of the inventive apparatus include a housing for receiving the patient's hand with an open top portion and with two internal regions adapted and configured to contact the thenar and hypothenar regions of the patient's palm, while a closeable cover, that fits over the open top region of the housing, includes a pressure element positioned and configured to apply pressure to the dorsal portion of the hand when the cover is depressed and/or closed such that opposing forces of the internal regions pressing on the thenar and hypothenar regions of the palm while the pressure element is pressing on the dorsal portion of the hand cause the carpal ligament and the flexor retinaculum to stretch expanding the carpal tunnel and relieving pressure on the median nerve.」(第1頁右欄第2?20行)
(要約
・・本発明の装置の種々の実施形態は、開放頂部と患者の母指球及び小指球部領域と接触するように構成された2個の内部領域を有する患者の手を収容するためのハウジングを有し、ハウジングの開放頂部を覆って嵌合する閉鎖可能なカバーは、カバーが押され及び/又は閉じられるとき、手の背側部分に圧力を加えるように構成される圧力要素を有し、小指球、母指球領域の押しつける内部領域の対向する力は、圧力要素が手の背面部を押圧されている間に、手根靱帯、屈筋支帯の手根管を拡大延伸させ、そして、正中神経にかかる圧力を軽減する。)

・「[0021]FIG.1 is a cross section view of a first embodiment of the inventive apparatus for treating carpal tunnel syndrome;」
([0021]図1は、手根管症候群を治療するための本発明の装置の第1の実施の形態の断面図である。)

・「[0032]Referring now to FIG.1,a first embodiment of an inventive apparatus 10 is shown.The apparatus 10 includes a housing 12 with a first support element 14 for supporting the thenar region of the hand, and a second support element 16 for supporting the hypothenar region of the hand. The housing 12 has side walls 11 and may be composed of a rigid material such as metal, hard plastic or wood, or a resilient material such as fiberglass or resilient plastic, or a combination thereof. The support elements 14,16 may be rigid portions of the housing 12 composed of the same material or, alternately, may incorporate respective resilient comfort elements 28,30 to improve contact with the respective thenar and hypothenar regions of the hand and to improve patient comfort. The support elements 14,16 are substantially parallel to each other generally along the longitudinal axis of the patient's hand. The comfort elements 28, 30 may be composed of any resilient material, including but not limited to: soft plastic, silicone gel, padding, foam, spring elements, and a fluid or air-filled bladder. Optionally, the comfort elements 28,30 may incorporate active pressure sources such as inflatable bladders or electromagnetic plates. The support elements 14 and 16 may be adjustable in position and orientation to better correspond to the size and shape of the patient's hand. Alternatively, the support elements 14 and 16 may incorporate active pressure sources such as inflatable bladders or electromagnetic plates.」
([0032]参照する図1は本発明の装置10の第1実施例が示されている。装置10は、手の母指球の領域を支えるための第1サポート要素14と手の小指球を支持する第2サポート要素16を備えたハウジング12を含む。ハウジング12は、側壁11を有し、金属、硬質プラスチック又は木材のような剛性材料、またはガラス繊維、または弾性プラスチックのような弾性材料、またはそれらの組み合わせから構成され得る。サポート要素14、16は、同じ材料で構成されたハウジング12の剛性部であってもよいし、あるいは、それぞれの弾性快適要素28、30は、手の小指球と母指球領域との接触を改善して患者の快適性を改善するために組み込むことができる。サポート要素14、16は患者の手のほぼ長手方向軸に沿って互いに実質的に平行である。快適要素28、30は、軟質プラスチック、シリコーン、ゲル、パッド、発泡剤、バネ要素、および流体または空気を充填した袋を含むがこれらに限定されない任意の弾性材料から構成することができる。任意選択的に、要素28、30は、膨張式袋、または電磁鋼板のような能動圧力源を有するのが良い。サポート要素14、16は、患者の手の大きさや形状に対応している位置および方向が調整可能であってよい。あるいは、サポート要素14、16は、膨張式袋、または電磁鋼板のような能動的な圧力源を有するのが良い。)

・「[0033]A cover 18 is pivotably attached to the housing 12 by a hinge element 20, which may be a hinge or a piece of a flexible material. The cover 18 includes an elongated pressure element 22 disposed along its length and configured to contact a substantially central dorsal region of the hand along its longitudinal axis when the cover 18 is closed. Preferably, the pressure element 22 is sized to cover a sufficiently large portion of the surface of the dorsal portion of the hand, particularly in the transverse direction, to reduce the pressure applied to any particular nerve or artery in the hand. The pressure element 22 may be composed of a rigid material, such as metal, wood, plastic or fiberglass, or it may be composed of a resilient material such as soft plastic, silicone gel, padding, foam, and a fluid or air-filled bladder, or a combination of one or more resilient and rigid materials.」
([0033]カバー18は、ヒンジ又は可撓性材料片かもしれないヒンジ部材20によってハウジング12に枢着される。カバー18は、カバー18が閉じられるとき、手の中央背側と接触するように構成された、その長さに沿って配置された細長い圧力要素22を含む。好ましくは、圧力要素22は、特に横方向に、手の背面部の表面の十分に大きな部分をカバーする一方で、任意の特定の神経または動脈に印加される圧力を減少させるような大きさにされる。圧力要素22は、硬質材料、例えば金属、木材、プラスチック又はガラス繊維のような構成であってもよいし、軟質プラスチック、シリコーン、ゲル、パッド、発泡剤、および流体または空気で満たされたブラダーのような弾性材料、または1若しくはそれ以上の弾性材料と剛性材料の組み合わせで構成することができる。」

・「[0035]Referring now to FIG.3, the operation of the apparatus 10 is shown. A patient places a hand 300 into the housing such that the thenar region of the palm is positioned over the support element 14 and the hypothenar region of the palm is positioned over the support element 16 (or over optional comfort elements 28,30). The wrist of the hand 300 is received through an open side portion of the housing 12. The cover 18 is closed over the open top portion of the housing 12 such that the pressure element 22 contacts and presses down on the central dorsal region of the hand 300 along its longitudinal axis, which pressure is balanced and opposed by a second force formed by retaining action of the support elements 14, 16 exerted on the respective thenar and hypothenar regions of the hand. These opposing forces cause carpal bones of the hand to separate to stretch a carpal ligament and a flexor retinaculum of the hand, thus implementing the Porrata principle to widen the carpal canal and provide treatment of carpal tunnel syndrome to the patient. 」
([0035]参照する図3は本発明の装置10の動作が示されている。手のひらの母指球領域がサポート要素14上に置かれ、手のひらの小指球領域が、支持要素16上に置かれるように(あるいは、随意的快適要素28、30の上に)、患者は、手300をハウジング内に配置する。手300の手首は、ハウジング12の開口部を介して受け入れられる。カバー18は、圧力要素22が、その縦軸に沿って、手300の中央背領域を接触して押圧するように、ハウジング12の開いた頂部を覆って閉じられ、この圧力は、手の小指球と母指球の領域に及ぼされるサポート要素14、16の作用を保持することにより形成された第2の力によってバランスがとられる。これらの反力は、手根骨を分離させ、手の手根靱帯と屈筋支帯を伸張し、それで患者に手根管症候群の治療を提供するPorrata原理を実行する。)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「手根管症候群を治療するための装置であって、
手の母指球の領域を支えるための第1サポート要素14と手の小指球を支持する第2サポート要素16とを備えたハウジング12と、
ヒンジ又は可撓性材料片かもしれないヒンジ部材20によってハウジング12に枢着されるカバー18と
を備え、
サポート要素14、16の弾性快適要素28、30は、手の小指球と母指球領域との接触を改善して患者の快適性を改善するために組み込むことができ、
快適要素28、30は、流体または空気を充填した袋から構成することができ、
カバー18は、圧力要素22を含み、
圧力要素22は、その縦軸に沿って、手300の中央背領域を接触して押圧し、この圧力は、手の小指球と母指球の領域に及ぼされるサポート要素14、16の作用を保持することにより形成された第2の力によってバランスがとられる
装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】・・肌側面にエラストマーを部分的に付着させる等の滑り止め処理を行ったり、さらに滑り難い素材を採用したりする工夫が行われてきた。」

したがって、上記引用文献2には、肌側面に滑り止め処理を行ったり、さらに滑り難い素材を採用したりするという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0021】次に、使用者は、患部の位置にパッド30があたるように、止め部20の任意の位置にパッド30を装着する。パッド30の裏側のマジックテープ31により、止め部20のマジックテープ止め用台座布27の任意の位置に貼り付ける。ここでも、マジックテープ止め用台座布27は、マジックテープ31の面積より広くするとよい。
【0022】パッド30を装着するか否かは、使用者の好みによる。止め部20で押さえた方が違和感がない使用者は、パッド30を装着する必要はない。」

したがって、上記引用文献3には、患部の位置にパッド30があたるように、止め部20の任意の位置にパッド30を装着するという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明の「手根管症候群を治療するための装置」と、本願発明1の「人体を均一に加圧して整復するための整復器具」とは、前者が「手300の中央背領域を接触して押圧」する「圧力要素22」を備えるものであるので、「人体を加圧するための器具」である点で共通する。

イ.引用発明の「手の小指球と母指球領域との接触を改善して患者の快適性を改善するために組み込むことができ」る「弾性快適要素28、30」と、本願発明1の「パスカルの原理によって人体を均一に加圧可能な加圧袋」とは、前者が「流体または空気を充填した袋から構成することができ」るものであるので、「人体に接触する袋」である点で共通する。
そして、引用発明の「快適要素28、30は、流体または空気を充填した袋から構成する」ことと、本願発明1の「加圧袋は、その袋内部に流体が収容される」とは、「人体に接触する袋は、その袋内部に流体が収容される」点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「人体を加圧するための器具であって、人体に接触する袋を備え、前記人体に接触する袋は、その袋内部に流体が収容される器具。」

(相違点)
(相違点1)器具が、本願発明1は「人体を均一に加圧して整復するための整復器具」であるのに対し、引用発明は「手根管症候群を治療するための装置であって、」「圧力要素22」を具備し、「圧力要素22は、その縦軸に沿って、手300の中央背領域を接触して押圧し、この圧力は、手の小指球と母指球の領域に及ぼされるサポート要素14、16の作用を保持することにより形成された第2の力によってバランスがとられる」ものである点。

(相違点2)人体に接触する袋が、本願発明1は「パスカルの原理によって人体を均一に加圧可能な加圧袋」であり、「外力を受けて当該加圧袋を人体に向けて押圧する押圧板が止着された」ものであるのに対し、引用発明の「流体または空気を充填した袋」は、「手の小指球と母指球領域との接触を改善して患者の快適性を改善するために組み込むことができ」る「サポート要素14、16の弾性快適要素28、30」である点。

(2)相違点1についての判断
引用発明の「手根管症候群を治療するための装置」は、「圧力要素22」を具備し、「小指球、母指球領域の押しつける内部領域の対向する力は、圧力要素が手の背面部を押圧されている間に、手根靱帯、屈筋支帯の手根管を拡大延伸させ、そして、正中神経にかかる圧力を軽減する。」(ABSTRACTの仮訳)、「手根骨を分離させ、手の手根靱帯と屈筋支帯を伸張し、それで患者に手根管症候群の治療を提供するPorrata原理を実行する。」([0035]の仮訳)ものであって、「人体を均一に加圧して整復する」(なお、「整復」とは、「骨折やはずれた関節などを、もとの正常な状態に直すこと。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])ものではない。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明とはいえない。

さらに、引用発明の手根靱帯と屈筋支帯を伸張し「手根管症候群を治療するための装置」を、「人体を均一に加圧して整復するための整復器具」とすることは、上記引用文献1-3のいずれにも、記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(3)相違点2についての判断
引用発明は、「圧力要素22」が「手300の中央背領域を接触して押圧」(すなわち、人体を加圧)するものであって、圧力要素22の圧力と「手の小指球と母指球の領域に及ぼされるサポート要素14、16の作用を保持することにより形成された第2の力によってバランスがとられ」るものである。
そうすると、引用発明で人体を加圧するものは圧力要素22であり、人体に接触する袋である「サポート要素14、16の弾性快適要素28、30」は、第2の力で圧力要素22の圧力を受け止めるだけのものであるので、弾性快適要素28、30は、「人体を均一に加圧可能な加圧袋」といえるものでない。
さらに、仮に引用発明の「快適要素28、30」が、本願発明1の「人体を均一に加圧可能な加圧袋」に相当するものであるとしても、「快適要素28、30」は、ハウジング12が備える「サポート要素14、16の弾性快適要素28、30」であって、ハウジング12と一体のものであるので、それに「加圧袋を人体に向けて押圧する押圧板」を止着する必要性は存在しない。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明とはいえない。

さらに、相違点2に係る本願発明の構成は、上記引用文献1-3のいずれにも、記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1の「人体を均一に加圧して整復するための整復器具」、「パスカルの原理によって人体を均一に加圧可能な加圧袋を備え、前記加圧袋は・・外力を受けて当該加圧袋を人体に向けて押圧する押圧板が止着された」構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-5は、引用文献1に記載された発明とはいえず、当業者が引用発明及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-24 
出願番号 特願2013-79442(P2013-79442)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A61F)
P 1 8・ 121- WY (A61F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 中川 真一
氏原 康宏
発明の名称 整復器具  
代理人 稗苗 秀三  
代理人 小羽根 孝康  
代理人 藤原 清隆  

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