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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1342600
審判番号 不服2017-11592  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-03 
確定日 2018-07-26 
事件の表示 特願2013- 61038「情報処理装置および情報処理装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日出願公開、特開2014-186558〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月22日の出願であって、平成28年5月20日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年7月21日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成28年11月21日付けの拒絶理由(最後)の通知に対し、平成29年1月19日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成29年4月27日付けで平成29年1月19日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して平成29年8月3日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、平成30年3月9日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成30年4月25日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
入力面にて受け付けた入力操作の軌跡を表示装置に表示させる表示制御手段を備える情報処理装置であって、
上記入力面には、メモ領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第1の領域と、上記第1の領域と異なり、上記第1の領域より広い領域であり、清書領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第2の領域とが予め設定されており、
入力操作の軌跡が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっているか判定する判定手段と、
上記判定手段が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定した軌跡が予め定められたパターンの軌跡であるときに、該パターンに予め対応付けられた処理を実行する対応処理実行手段とを備え、
上記処理は、上記表示装置における上記第1の領域に対応する表示領域に表示されている入力操作の軌跡の一部を、上記表示装置における上記第2の領域に対応する表示領域にコピーさせるかまたは移動させる処理であり、
上記表示制御手段は、上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定され、かつ、予め定められたパターンである軌跡を自動的に非表示とする一方、上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていないと判定された軌跡を自動的に非表示としないことを特徴とする情報処理装置。」

第3 拒絶の理由
平成30年3月9日の当審が通知した拒絶理由の理由は、次のとおりのものである。
この出願の請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1-3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2006-338667号公報
引用文献2:特開2004-206701号公報
引用文献3:特開2003-178259号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1、引用発明について
引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、特に着目した箇所を示す。以下同様。)。

(1) 段落【0002】
「【背景技術】
【0002】
画面上に表示されるアイコン、及びポインタを操作するマウスの導入により、ユーザ-マシン間インターフェイスは大きく進歩した。周知のように、アイコンをマウスで指示し、クリックして保持することによって、アイコンを「つかむ」ことができ、そのアイコンを画面上の任意の場所に移動させることができる。例えば、アイコンを「シュレッダー」アイコンの中に移動させると、そのアイコン、又はそのアイコンによって表される文書が消去され得る。
例えば、非特許文献1では、グラフィカルインタラクティブ(対話)システムにおいて、ポインティング動作に替わる、或いはこれを補完するパラダイムとして、境界をクロス(横断)させる動作によるユーザーインターフェースが提案されている。また、非特許文献2では、複数装置を介したノート書き取りのための共有された自由入力インターフェイスが提案され、ここではペンによる書き取りと同様の動作により入力を行うことができる。

・・・(中略)・・・

【非特許文献2】ドヌら(Denoue et al),「複数装置にわたるノート記録のための共有型自由入力(Shared Freedom Input for Note Taking across Devices)」,FXパロアルト研究所(FX Palo Alto Laboratory),ショートトーク:携帯装置のためのインタラクション技術(Short Talk: Interaction Techniques for Handheld Devices),CHI2003,2003年4月5日?10日,p.710-711」

(2) 段落【0007】
「【0007】
オブジェクトは、1つ以上のソース、シンク、又はコマンドであってよい。コマンドアイコンは、例えば、単に、画面を2つの部分に分けるように画面を横断して描画された線(コマンドバー)であってもよい。画面の一部分を始点として、コマンドバーと交差し、画面の別の部分に延びる線は、例えば、画面の第1の部分から画面の第2の部分へのテキストのコピー(又はカット)を示してもよい。ソースオブジェクト及びシンクオブジェクトは任意の種類のものであってよく、テキストに限定されない。例えば、ソースオブジェクト及びシンクオブジェクトは、電子メールアドレス、携帯電話番号、TV局やラジオ局等といったネットワークに関するものであってもよい。更に、コマンドは、音声合成器、ビデオディスプレイ、ヘッドホン等といった、テキスト以外のものに関連してもよい。」

(3) 段落【0038】-【0039】
「【0038】
図5は、表示セクション204、コマンドバー206、及び表示セクション208を含む表示画面200の一例を示す。例えばスタイラスの使用に備えるために、表示セクション204及び208はタッチセンシティブ(センサ)であってもよい。タッチスクリーン以外に、例えばマウスやキーボードのキーを用いて線及び線形状を描画するための他の方法も周知である。コマンドバー206は一種のコマンドオブジェクトであり、コマンドバー206と交差するように線を延ばすことによりコマンドが「入力」される。図5は、例えば、PDAや携帯電話を用いて文書210?214を確認しているユーザが、「good concept」等といったインクコメント222を入力することを決定する例を表し得る。この場合、ユーザは、文書210の特定の位置にコメントを配置することを望むかもしれない。従って、図6に示されるように、ユーザはスタイラスを用いて、インクコメント222を始点とし、文書210内のインクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224を描画してもよい。コマンドプロセッサは、線224を受け取ったら、インクコメント222をカットして、文書210の表示サイズに基づきインクコメント222をサイズ調整し、サイズ調整されたインクコメント222を、図7に示されるように、線224の終点によって示される位置に配置してもよい。
【0039】
図8は、線218の終点にある線形状216を示しており、線形状216は、インクコメント222をどのように配置するかを示している。図9は別の例を示しており、この例では、線220はインクコメント222を始点とし、実質的に閉じた境界線の線形状226内を終点として、インクコメント222をどこにどのように配置すべきかを指定している。図示されるように、インクコメント222はリフロー及びサイズ調整されて、線形状226によって実質的に囲まれた空間に嵌め込まれる。図10は更に別の例を示しており、この例では、線形状230は、「example」という単語を、インクコメント222の下の位置にコピーされるソースデータとして識別している。このケースでは、線形状230は「コピー」として解釈される。線形状230が、「example」という単語を、例えば右から左ではなく左から右に横切っている場合には、コマンドプロセッサは、線形状230を「カット」として解釈するよう設定されてもよい。図11は、実質的に閉じた境界線の線形状232の一例を示しており、線形状232は文書214内のグラフを囲み、そのグラフを、線234を介して表示セクション208にコピーする(又は移動させる)。」

(4) 段落【0046】-【0049】
「【0046】
図18は、上述の線を介したコマンド入力と関連する機能を実行し得る装置600の例示的なブロック図を示す。装置600は、PDA(情報端末装置)や携帯電話、ディスプレイ及びマウス・キーボード等の入力装置を有するパーソナルコンピュータ等を含む、コンピュータであってよい。装置600は、コマンドプロセッサ(処理手段又は実行手段)602と、メモリ(記憶手段)604と、線形状弁別器(線形状弁別手段又は線形状識別手段)606と、コマンド弁別器(コマンド弁別手段又はコマンド識別手段)608と、入出力コントローラ(入出力制御手段)610と、表示コントローラ(表示制御手段)612と、ネットワークインターフェイス(通信インターフェイス手段)614とを含んでよい。これらの構成要素602?614は、1つ以上のバス616を介して接続されてよい。
【0047】
図18は、バス・アーキテクチャ・フォーマットで構成された装置600を示しているが、当業者に周知の他のアーキテクチャを用いてもよい。更に、様々な機能ユニットを図示するために別個のブロックを用いたが、利用可能な技術に基づき、これらのブロックは組み合わされてもよく、又は、更に分けられてもよい。特定用途向け集積回路(ASIC)等のハードウェア実装や、DSP等の汎用又は特定用途向けプロセッサを用いたソフトウェア実装を用いてよい。
【0048】
電源投入後、入出力コントローラ610は、ユーザが線入力を入力したか否かをモニタする。入出力コントローラ610は、例えば、スタイラスや指がタッチスクリーン等の表示画面(100、200)に接触したことをリアルタイムで検出するために十分に高速であってよく、スタイラスの動きをリアルタイムで追跡して、線が入力されているか、及び、オブジェクトに交差しているかを判定する。即ち、表示画面表示されたオブジェクトに対するユーザによる入力ストローク(例えば、ペンダウンからペンアップまでの手書きストローク)を検出し、検出されたストロークに基づいて、オブジェクトに対する線を受け付け(線又は線形状の入力)、ストロークの示す位置情報に対応して、オブジェクトに対する線を形成する(線形成手段)、形成結果を表示画面上に表示する(表示制御手段)。上記の手書き入力自体は公知である。入出力コントローラ610が、線が終わったと判定した場合には、特定の線形状が描画されたか否かを判定するために、入力された情報は線形状弁別器606に送ることができる。線形状はリアルタイムで判定されてもよい。線形状が描画された場合には、線形状弁別器606は、様々な線形状を例えばコードに変換してよく、ユーザが何のコマンドを入力したかを判定するために、線形状コードはコマンド弁別器608に送られることができる。
【0049】
コマンド弁別器608は、コマンドプロセッサ602にコマンドを送信することができ、コマンドプロセッサ602は、メモリ604からの情報にアクセスし、コマンドに基づきソースデータを処理し、処理したデータをメモリ604の適切な部分に出力することができる。ユーザのコマンドが、ネットワークリソースのアクセスを要求する場合には、コマンドプロセッサ602は、ネットワークインターフェイス614を介して、そのようなリソースにアクセスしてよい。コマンドが処理されたら、コマンドプロセッサ602は、実行されたコマンドの結果のフィードバックをユーザに提供するために、表示コントローラ612を介して表示画面を更新してよい。」

(5) 図5-図7
図5-図7を参照すると、表示セクション204は、表示セクション208より広い領域であることが認定できる。また、表示セクション204には、文書210?214の全体が表示されていることが認定できる。
図5-図6を、上記(3)、段落【0038】の対応する記載とともに参照すると、表示セクション208の「good concept」というインクコメント222は、線224を描画中も、表示され続けることが記載されていると認定できる。
一方、図6-7を、上記(3)、段落【0038】の対応する記載とともに参照すると、インクコメント222を始点とし、インクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224は、描画した後に消去されることが、記載されていると認定できる。

よって、上記各記載事項を関連図面に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「コマンドアイコンは、単に、画面を2つの部分に分けるように画面を横断して描画された線(コマンドバー)であって、
画面の一部分を始点として、コマンドバーと交差し、画面の別の部分に延びる線は、画面の第1の部分から画面の第2の部分へのテキストのコピー(又はカット)を示し、
表示セクション204、コマンドバー206、及び表示セクション208を含む表示画面200において、
スタイラスの使用に備えるために、表示セクション204及び208はタッチセンシティブ(センサ)であって、
コマンドバー206は一種のコマンドオブジェクトであり、コマンドバー206と交差するように線を延ばすことによりコマンドが「入力」され、
PDAや携帯電話を用いて文書210?214を確認しているユーザが、「good concept」等といったインクコメント222を入力することを決定し、
この場合、ユーザは、文書210の特定の位置にコメントを配置することを望み、従って、ユーザはスタイラスを用いて、インクコメント222を始点とし、文書210内のインクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224を描画し、
コマンドプロセッサは、線224を受け取ったら、インクコメント222をカットして、文書210の表示サイズに基づきインクコメント222をサイズ調整し、サイズ調整されたインクコメント222を、線224の終点によって示される位置に配置し、
表示セクション208の「good concept」というインクコメント222は、線224を描画中も、表示され続ける一方、インクコメント222を始点とし、インクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224は、描画した後に消去され、
ここで、線218の終点にある線形状216により、インクコメント222をどのように配置するかを示してもよく、実質的に閉じた境界線の線形状226内を終点として、インクコメント222をどこにどのように配置すべきかを指定してもよく、
線を介したコマンド入力と関連する機能を実行し得る装置600は、PDA(情報端末装置)や携帯電話、パーソナルコンピュータ等を含む、コンピュータであって、
入出力コントローラ610は、表示画面表示されたオブジェクトに対するユーザによる入力ストローク(例えば、ペンダウンからペンアップまでの手書きストローク)を検出し、検出されたストロークに基づいて、オブジェクトに対する線を受け付け(線又は線形状の入力)、ストロークの示す位置情報に対応して、オブジェクトに対する線を形成し(線形成手段)、形成結果を表示画面上に表示し(表示制御手段)、
入力された情報は線形状弁別器606に送られ、線形状が描画された場合には、線形状弁別器606は、様々な線形状を例えばコードに変換し、
ユーザが何のコマンドを入力したかを判定するために、線形状コードはコマンド弁別器608に送られ、
コマンド弁別器608は、コマンドプロセッサ602にコマンドを送信することができ、
コマンドプロセッサ602は、メモリ604からの情報にアクセスし、コマンドに基づきソースデータを処理し、処理したデータをメモリ604の適切な部分に出力し、
コマンドが処理されたら、コマンドプロセッサ602は、実行されたコマンドの結果のフィードバックをユーザに提供するために、表示コントローラ612を介して表示画面を更新し、
表示セクション204は、表示セクション208より広い領域であり、文書210?214の全体が表示されている、
装置600。」

2.引用文献2
引用文献2(発明者:ドゥヌら)には、段落【0049】-【0052】に、図面(特に、図2-図5)とともに以下の事項が記載されている。

「【0049】
図2?図5に示されるように、ユーザは、ペーストに用いられ得る表示テキスト又はデジタルコンテンツを選択手段を介して選択できる(ユーザ入力の例)。図2は、例示的なディスプレイ500の元の状態を示している。ディスプレイ500は、現在のスライドのスライド画像を示すスライド表示部510と、特定の装置のユーザの1つ以上のノート(メモ)522を示すユーザノート表示部520と、複数の自由形状インク532、534及び536等の共有デジタルコンテンツを示す共有ノート表示部530との3つの領域を含む。
【0050】
この装置のユーザは、自由形状ストローク又はジェスチャ(例えば、フリーハンド、手書き入力、多彩な描画、造形、フリードロー等)を用いて、共有ノート表示部530に表示されている共有デジタルコンテンツの情報を選択してもよい。例えば、図2に示されるように、ユーザは、情報又はデジタルコンテンツを選択することを示すために、その情報又はデジタルコンテンツと交差する線538を生成してもよい。様々な例示的な実施形態では、線538は、情報又はデジタルコンテンツの交差部分が選択されるべきであることを示すだけでなく、その交差部分とリンク又は別様で関連づけられた情報又はデジタルコンテンツの部分が選択されるべきであることを示してもよい。例えば、単語「I」の水平の棒や単語「don’t」のアポストロフィは、たとえそれらの部分が交差していなくても指示され得る。
【0051】
選択される情報又はデジタルコンテンツは、その情報又はデジタルコンテンツと交差する線以外に、自由形状ストローク又はジェスチャによって識別されてもよい。様々な実施形態では、選択される情報又はデジタルコンテンツは、実質的に閉じた形状を形成する自由形状の線によって、少なくとも部分的に囲まれてもよい。例えば、選択される情報又はデジタルコンテンツを円で囲んでもよい。また、情報又はデジタルコンテンツは、楕円、長円又は多角形を実質的に形成する自由形状の線によって、少なくとも部分的に囲まれてもよい。様々な例示的な実施形態によるこのシステムは、自由形状ストローク又はジェスチャの最初と最後の位置の間の距離に基づいて、線と実質的に閉じた形状とを区別してもよい。
【0052】
選択される情報又はデジタルコンテンツは、一対の自由形状ストローク(識別手段の一例)によって識別されてもよい。一対の自由形状の線の間に少なくとも部分的に配置された情報又はデジタルコンテンツが識別される。例えば、選択される情報又はデジタルコンテンツは、括弧、引用符、脱字記号、略並行な線、又は任意の他の適切な一対の自由形状の線の間に少なくとも部分的に配置された情報又はデジタルコンテンツとして識別されてもよい。」

3.引用文献3
引用文献3には、段落【0097】-【0098】に、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0097】線分の交差判定処理については、例えば、
http://www.wombat.or.jp/tomoyashuttle/shtml/algorithm/Hougan.htm
に示されている公知の技術を用いる。その詳細な説明は省略するが、以下に概略を示す。
【0098】図12は、自己交差の例を示す。座標点A,B,C,Dがある場合、線分ABと線分CDが交差するということは、点A,Bを通る直線が線分CDと交差し、かつ、点C,Dを通る直線が線分ABと交差していることと考えられる。そこで、直線を境界線として、線分を構成する2つの点が直線に対して両側に存在するとき、すなわちy=dx+eという直線を考えた場合にy-dx-eに対して2つの点の座標値を代入して符号が異なるときに、直線と線分は交差すると考えられる。この処理を直線ABと点C,D、直線CDと点A,Bに対して計算した結果、双方が交差すると判定された場合、線分ABと線分CDが交差すると判定される。」

引用文献3の上記記載から、線分を構成する2つの点が直線の両側に存在することによって、線分の交差判定を行うことは、周知技術であるといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「装置600」は、「入出力コントローラ610は、表示画面表示されたオブジェクトに対するユーザによる入力ストローク(例えば、ペンダウンからペンアップまでの手書きストローク)を検出し、検出されたストロークに基づいて、オブジェクトに対する線を受け付け(線又は線形状の入力)、ストロークの示す位置情報に対応して、オブジェクトに対する線を形成し(線形成手段)、形成結果を表示画面上に表示し(表示制御手段)」ているから、本願発明の「入力面にて受け付けた入力操作の軌跡を表示装置に表示させる表示制御手段を備える情報処理装置」に相当する。

(2) 引用発明の「表示画面200」における「表示セクション208」と「表示セクション204」とはそれぞれ、本願発明の「第1の領域」と「第2の領域」とに対応する。
よって、引用発明の、「タッチセンシティブ」な「表示セクション208」と「表示セクション204」とが設定されている「表示画面200」において、「表示セクション204は、表示セクション208より広い領域である」ことは、本願発明の「上記入力面には、メモ領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第1の領域と、上記第1の領域と異なり、上記第1の領域より広い領域であり、清書領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第2の領域とが予め設定されて」いることと、「上記入力面には、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第1の領域と、上記第1の領域と異なり、上記第1の領域より広い領域であり、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第2の領域とが予め設定されて」いる点で共通するといえる。

(3) 引用発明の「コマンド弁別器」は、「ユーザが何のコマンドを入力したかを判定する」ものであって、より具体的には、「単に、画面を2つの部分に分けるように画面を横断して描画された線(コマンドバー)」である、「コマンドバー206と交差するように線を延ばすことによりコマンドが『入力』され」るから、本願発明の「入力操作の軌跡が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっているか判定する判定手段」に相当する。

(4) 引用発明の「線形状弁別器606」に入力される「線形状」は、「インクコメント222を始点とし、文書210内のインクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224」であって、例えば、その終点は、図8に示される「線218の終点にある線形状216」や、図9に示される「実質的に閉じた境界線の線形状226」の形状を取ることができるから、本願発明の「予め定められたパターンの軌跡」に相当する。
よって、引用発明の「コマンドプロセッサ602」が、「線形状が描画された場合には、線形状弁別器606は、様々な線形状を例えばコードに変換し、ユーザが何のコマンドを入力したかを判定するために、線形状コードはコマンド弁別器608に送られ、コマンド弁別器608は、コマンドプロセッサ602にコマンドを送信することができ、コマンドプロセッサ602は、メモリ604からの情報にアクセスし、コマンドに基づきソースデータを処理し、処理したデータをメモリ604の適切な部分に出力」することであって、具体的には、「単に、画面を2つの部分に分けるように画面を横断して描画された線(コマンドバー)」である、「コマンドバー206と交差するように線を延ばすことによりコマンドが『入力』され」るとき、「コマンドプロセッサは、線224を受け取ったら、インクコメント222をカットして、文書210の表示サイズに基づきインクコメント222をサイズ調整し、サイズ調整されたインクコメント222を、線224の終点によって示される位置に配置」することは、本願発明の「上記判定手段が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定した軌跡が予め定められたパターンの軌跡であるときに、該パターンに予め対応付けられた処理を実行する対応処理実行手段」に相当する。

(5) 引用発明の「コマンドプロセッサは、線224を受け取ったら、インクコメント222をカットして、文書210の表示サイズに基づきインクコメント222をサイズ調整し、サイズ調整されたインクコメント222を、線224の終点によって示される位置に配置し」ていることは、本願発明の「上記処理は、上記表示装置における上記第1の領域に対応する表示領域に表示されている入力操作の軌跡の一部を、上記表示装置における上記第2の領域に対応する表示領域にコピーさせるかまたは移動させる処理であ」ることと、「上記処理は、上記表示装置における上記第1の領域に対応する表示領域に表示されている入力操作の軌跡を、上記表示装置における上記第2の領域に対応する表示領域にコピーさせるかまたは移動させる処理であ」ることで共通するといえる。

(6) 引用発明の「インクコメント222を始点とし、インクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224は、描画した後に消去され」るものにおいて、明文の記載はないが、コメント自体ではなく、コメントの編集のためのコマンド入力のために描いた「線224」を、コマンド入力後も画面上に表示し続ければ文書210等の判読に支障があるので、「線224」を表示し続ける意義は認め難いから、ユーザによる格別の指示がなくても、「自動的に」消去されることは明らかといえる。
よって、引用発明の「線224」が「画面の一部分を始点として、コマンドバーと交差し、画面の別の部分に延びる線」であって、「インクコメント222を始点とし、インクコメント222を配置すべき位置を終点とする線224は、描画した後に消去され」ることは、本願発明の「上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定され、かつ、予め定められたパターンである軌跡を自動的に非表示とする」ことに相当する。
引用発明の「『good concept』というインクコメント222は、線224の描画中も、表示され続ける」ものにおいて、仮に「インクコメント222」自体が入力後、画面上から直ちに消えてしまえば、インクコメントを入力後、編集できなくなることは明らかであるから、ユーザによる格別の指示がなくても、「自動的に非表示としない」ものであることは明らかといえる。
よって、引用発明の「表示セクション208の『good concept』というインクコメント222は、線224の描画中も、表示され続ける」ことは、本願発明の「上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていないと判定された軌跡を自動的に非表示としないこと」に相当する。

(上記(6)項に関する請求人の主張について注記)
請求人は、平成30年4月25日の意見書において、「図19では、判定のステップ704、710、714、720のいずれにおいてもNOである場合、すなわち、コマンドを示す線形状を有さず、かつ、コマンドオブジェクトに交差しない線が入力された場合でも、ステップ724において、コマンドを実行するように記載されています。 …… すなわち、図19および段落0055の記載からは、コマンドを示す線形状を有さず、かつ、コマンドオブジェクトに交差しない線においても、何らかのコマンドが設定されており、装置600は、該コマンドを識別し、実行すると読み取れます。つまり、引用発明では、線が入力された場合、必ずコマンドが実行されます。……図7において、インクコメント222が表示セクション204に移動したとき、線224は非表示となっています。すなわち、引用発明において、コマンドが実行された場合、入力された線は非表示となります。
…(中略)…
つまり、引用発明は、本願発明が備える特徴的な構成α、特に、「上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていない判定された軌跡を自動的に非表示としない。」との構成を有していません。
…(中略)…
しかしながら、引用発明では、上述したように、入力された線はすべて非表示となるため、表示セクション204および表示セクション208は、コマンド入力に利用することができても、いわゆる手書き入力に利用することはできません。引用発明においては、手書き入力を行うモードが装置600に搭載されていない限り、インクコメント222を手書き入力で行うこと、すなわち、インクコメント222を非表示とせず残すことはできません。
上述したように、引用発明は、本願発明が備える特徴的な構成αを有していません。さらに、引用文献1には、手書き入力を行うモードについて開示も示唆もされていませんので、いかに当業者といえども、このような引用発明から、処理が割り当てられたパターン(すなわち、コマンド)を入力するモードと、手書き入力を行うモードとの切り替えを行うことなく、コマンドの入力と、手書き入力とを行うという技術思想に基づく本願発明を容易に想到することはできません。
また、引用発明には上記技術思想が無いため、引用発明は、本願発明が奏する上記効果を奏しません。換言すれば、本願発明が奏する上記効果は、引用発明と比較した有利な効果であって、かつ異質な効果です。」旨主張する。

しかし、請求人の主張のうち、引用文献1の図19で、ステップ704、710、714、720いずれもNOの場合でも、ステップ724でコマンドが実行されている旨の主張については、ステップ704、710、714、720いずれもNOならば、コマンドを識別するステップ(ステップ708、712、716、722)を一切経由しないのであるから、引用文献1の段落【0053】の「ステップ716では、処理はコマンドを識別し、そのコマンドを適切な時に実行するためにキューに加え」るようなコマンドの識別は行われない。そして、コマンドが識別されず、キューにも加えられない以上、ステップ724で、実行されるコマンドはないと考えるのが自然である。
そもそも、引用文献1には、コマンドの入力方法として、図2-図3を参照すると、「コマンドオブジェクト108」などと交差する「線116」を描画する方法が記載され、図4を参照すると、特定の「線形状126」などを有する「線122」を描画する方法など各種のコマンドの入力方法の開示はあるが、「コマンドを示す線形状を有さず、かつ、コマンドオブジェクトに交差しない線においても、何らかのコマンドが設定され」るようなコマンドの入力方法は、記載も示唆もない。よって、請求人の主張は、その前提において、採用できない。
また、請求人の主張のうち、「インクコメント222」を手書き入力で行うことはできない旨の主張については、「スタイラスの使用に備えるために、表示セクション204及び208はタッチセンシティブ(センサ)であ」る「表示セクション208」上に表示されている、引用発明の「『good concept』というインクコメント222」が、手書き入力されたものであることは、図5等の「インクコメント222」の形状から明らかである。また、名称「インクコメント222」の「インク」という用語それ自体が、手書き入力を表すこと(例えば、引用文献2の図3、及び、段落【0049】(上記「第4 2.」を参照。)で、複数の手書き入力された文字や図形を「複数の自由形状インク532、534及び536」と呼んでいる点を参照。)からも明らかであるといえる。
また、請求人の主張のうち、引用発明は、本願発明の「上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていないと判定された軌跡を自動的に非表示としない」との構成を有していない旨の主張、及び、インクコメント222を非表示とせず残すことはできない旨の主張については、上記(6)のとおり、引用発明は「『good concept』というインクコメント222は、線224の描画中も、表示され続ける」もの、すなわち、本願発明の「上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていないと判定された軌跡を自動的に非表示としないこと」に相当する構成を備えるものであり、当該主張は当を得ていない。
もしも、請求人の主張が、図7において、線224の描画によるコマンドの入力後に、線224が消去される際、同時に、「『good concept』というインクコメント222」も消去されている点を指摘する旨の主張であれば、図7は、「カット」のコマンドの図示である以上、コマンドの実行後に「インクコメント222」がカットされ消去されるのは当然であって、この点は、本願発明でも「上記第2の領域に対応する表示領域にコピーさせるかまたは移動させる処理」のうち「移動させる処理」をすれば、移動元の軌跡が消去されることと相違しない。
そして、引用発明は、「画面の一部分を始点として、コマンドバーと交差し、画面の別の部分に延びる線は、画面の第1の部分から画面の第2の部分へのテキストのコピー(又はカット)を示す」ものであるから、引用発明においても、「カット」(移動)に替えて「コピー」をすれば、インクコメント222は、線224の描画によるコマンド入力後も、消去されずに残ることになるのは明らかである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点・相違点があるといえる。

[一致点]
入力面にて受け付けた入力操作の軌跡を表示装置に表示させる表示制御手段を備える情報処理装置であって、
上記入力面には、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第1の領域と、上記第1の領域と異なり、上記第1の領域より広い領域であり、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第2の領域とが予め設定されており、
入力操作の軌跡が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっているか判定する判定手段と、
上記判定手段が上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定した軌跡が予め定められたパターンの軌跡であるときに、該パターンに予め対応付けられた処理を実行する対応処理実行手段とを備え、
上記処理は、上記表示装置における上記第1の領域に対応する表示領域に表示されている入力操作の軌跡を、上記表示装置における上記第2の領域に対応する表示領域にコピーさせるかまたは移動させる処理であり、
上記表示制御手段は、上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていると判定され、かつ、予め定められたパターンである軌跡を自動的に非表示とする一方、上記第1の領域および上記第2の領域にまたがっていないと判定された軌跡を自動的に非表示としないことを特徴とする情報処理装置。」

[相違点1]
本願発明では、「上記入力面には、メモ領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第1の領域と、上記第1の領域と異なり、上記第1の領域より広い領域であり、清書領域として使用される、上記表示装置に表示させる上記軌跡の入力を受け付けるための第2の領域とが予め設定されて」ものであるのに対して、引用発明では、「表示セクション204」、「表示セクション208」それぞれが、具体的に何として使用される領域であるかが特定されていない点。

[相違点2]
本願発明では、「上記表示装置における上記第1の領域に対応する表示領域に表示されている入力操作の軌跡の一部を」コピーさせるかまたは移動させるのに対して、引用文献1では、「good concept」等といったインクコメント222を移動するものであって、軌跡の「一部」を移動することが特定されていない点。

第6 当審の判断
[相違点1]について
引用発明の「表示セクション204」、「表示セクション208」は、どちらも任意の「線形状」を描画できるから、任意の手書き入力に利用できることは明らかであるといえる。
引用文献1には、段落【0002】の【背景技術】欄(上記「第4 1.(1)」を参照。)に、手書き入力装置を、ノートを取る用途で用いることが記載されている。
また、手書き入力装置を、ノートを取る用途で用いることは、引用文献2の段落【0049】(上記「第4 2.」を参照。)に記載されるように、周知技術でもある。
そして、授業や会議など様々な状況でノートを取る場合に、まずメモを書いてから、その後、メモに基づいて清書を作るという手順は、文献を挙げるまでもなく、普通に行われている手順である。
したがって、「表示セクション208」にユーザが入力した、「good concept」等といったインクコメント222を、「表示セクション208」より広い領域であり、文書210?214の全体が表示されている、「表示セクション204」に配置する機能を備える引用発明の装置を、引用文献1に記載され、周知技術でもある、ノートを取る用途で用いるとともに、その際、まずメモを書いてから、メモに基づいて清書を作る普通に行われる手順を採用することによって、「表示セクション208」を「メモ領域」として用い、また、「表示セクション204」を「清書領域」として用いることで、上記[相違点1]に係る構成とする点は、当業者が容易に推考し得ることである。

[相違点2]について
引用文献1には、引用発明を認定した実施例とは別の実施例として、図10-図11、及び、段落【0039】(上記「第4 1.(3)」を参照。)を参照すると、実質的に閉じた境界線や、単語を横切る線形状などを描くことで、編集の対象の「一部」を選択可能することが記載されている。
また、編集の対象の「一部」を選択可能とすることは、引用文献2の図3、段落【0050】-【0052】(上記「第4 2.」を参照。)に記載されるように、周知技術でもある。
したがって、引用発明において、引用文献1に記載され、周知技術でもある、編集の対象の「一部」を選択可能にする構成を、必要に応じて付加することによって、上記[相違点2]に係る構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なすべき設計的事項である。

さらに、本願発明の効果も、引用発明に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-28 
結審通知日 2018-05-29 
審決日 2018-06-12 
出願番号 特願2013-61038(P2013-61038)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G06F)
P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩屋 雅弘間野 裕一  
特許庁審判長 安久 司郎
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
発明の名称 情報処理装置および情報処理装置の制御方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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