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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62B
管理番号 1342601
審判番号 不服2017-13059  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-05 
確定日 2018-07-26 
事件の表示 特願2013-198165「上半身用の保護着」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月9日出願公開、特開2015-62545〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月25日の出願であって、平成28年11月29日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の平成29年1月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月30日付けで拒絶査定(発送日:同年6月6日)がなされ、これに対し、同年9月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成29年9月5日の手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成29年9月5日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成29年1月31日の手続補正書)の請求項1に、

「【請求項1】
上半身用の保護着であって、
前記保護着の表面と裏面との間に形成された複数の保護層と、
ガス供給手段と、
センサーと、
制御装置と、
電源を有しており、
前記保護層が表面側から裏面側に順に、
表面側保護板、ガス供給手段と接続されたエアバッグ、裏面側保護板からなるものであり、
前記ガス供給手段が、ガスボンベ内に充填された加圧ガスをガス源とするものであり、
前記加圧ガスが充填されたガスボンベが、閉塞部材を破壊して開口することで内部のガスを放出できるガスボンベであり、
さらに前記ガスボンベの閉塞部分を開口させる電気式点火器を含んだ破壊手段と、
前記ガスボンベ内の加圧ガスをエアバッグに導入して膨張させるための導入手段を備えたものであり、
前記電気式点火器が、点火薬としてジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、および水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、およびジルコニウムと酸化銅の混合物を含む点火薬から選ばれた少なくとも1種からなり、
作動時には、前記表面側保護板と前記裏面側保護板の間で前記エアバッグが膨張するため、前記表面側保護板、前記膨張したエアバッグ、前記裏面側保護板の3層構造が形成されることで衝撃が大幅に減少されるように作用するものである、上半身用の保護着。」
とあったものを、

「【請求項1】
上半身用の保護着であって、
前記保護着の表面と裏面との間に形成された複数の保護層と、
ガス供給手段と、
センサーと、
制御装置と、
電源を有しており、
前記保護層が表面側から裏面側に順に、
ABS樹脂成形体からなる表面側保護板、ガス供給手段と接続されたエアバッグ、ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板からなり、前記ABS樹脂成形体からなる表面側保護板が前記ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板よりも硬いものであり、
前記ガス供給手段が、ガスボンベ内に充填された加圧ガスをガス源とするものであり、
前記加圧ガスが充填されたガスボンベが、閉塞部材を破壊して開口することで内部のガスを放出できるガスボンベであり、
さらに前記ガスボンベの閉塞部分を開口させる電気式点火器を含んだ破壊手段と、
前記ガスボンベ内の加圧ガスをエアバッグに導入して膨張させるための導入手段を備えたものであり、
前記電気式点火器が、点火薬としてジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、および水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、およびジルコニウムと酸化銅の混合物を含む点火薬から選ばれた少なくとも1種からなり、
作動時には、前記表面側保護板と前記裏面側保護板の間で前記エアバッグが膨張するため、前記表面側保護板、前記膨張したエアバッグ、前記裏面側保護板の3層構造が形成されることで衝撃が大幅に減少されるように作用するものである、上半身用の保護着。」
と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)。

上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「表面側保護板」及び「裏面側保護板」について、それぞれ「ABS樹脂成形体からなる」及び「ウレタン樹脂成形体からなる」との限定を付するとともに、「表面側保護板」が「裏面側保護板よりも硬い」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2011-144490号公報(以下「引用文献1」という。)には、「プロテクタ」に関して、図面(特に、図1ないし4、6、7、9及び12ないし17参照)とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)

ア 「【0021】
実施形態の二輪車Vには、プロテクタP1のエアバッグ装置41におけるインフレーター42に、作動信号を出力する制御回路5が、配置されている。制御回路5は、図1に示すように、二輪車Vにおける車体Bの所定箇所に配置されるもので、車体Bの所定箇所に配置されて、二輪車Vの加速度や加速の方向等を検知可能な加速度検知センサ6と、電気的に接続されている。また、制御回路5は、エアバッグ装置41のインフレーター42を作動させるための作動信号を発信する図示しない発信機を、有しており、インフレーター42と無線により電気的に接続されている。
【0022】
第1実施形態のプロテクタP1は、図2,3に示すように、乗員Dの着用するプロテクタ本体10と、プロテクタ本体10内に内蔵されるエアバッグ装置41と、を備えている。
【0023】
プロテクタ本体10は、実施形態の場合、図2,3に示すように、着用時の乗員Dの上半身を肩部から胴部にかけて覆うベストタイプとされるもので、ベスト11と、ベスト11に支持されるカバープレート22と、を備えて構成されている。
【0024】
ベスト11は、着用時に乗員Dの上半身を、頭部と腕部とを除いた略全域にわたって覆う袖なし状とされている。ベスト11は、実施形態の場合、通気性の良好なメッシュ状の織布から構成されるベスト本体12と、ベスト本体12の外周側を覆うように配置される保持パッド15と、を、備えている。実施形態の場合、ベスト本体12は、乗員Dの上半身における前面を覆う部位の左右の中央に配置されて所定のスライダの操作で開閉可能なファスナー13により、前開きで着用可能な構成とされている(図2参照)。
【0025】
保持パッド15は、カバープレート22を取り付けて保持するように、カバープレート22に対応した位置に、配置されるもので、乗員Dの上半身の前面側における左半分の領域に配置される前左側部16と、乗員Dの上半身の前面側における右半分の領域に配置される前右側部17と、乗員Dの上半身の後面側における左右の中央付近の領域において上下方向に沿って配置される後側部18と、を備えている。各前左側部16,前右側部17,後側部18は、外形形状を、カバープレート22における後述する各前左カバー部24,前右カバー部25,後面カバー部30を保持可能に、各前左カバー部24,前右カバー部25,後面カバー部30の外形形状より若干大きくした板状として、圧縮ポリウレタン等の合成樹脂から、形成されている(図2?5,7,8参照)。また、各前左側部16,前右側部17,後側部18は、ベスト本体12を構成する織布と同様の織布により、外周側を覆われ、この織布の周縁をベスト本体12に縫着させることにより、ベスト本体12に取り付けられている(図4,5,7,8参照)。
【0026】
また、実施形態のベスト11には、前左側部16及び後側部18と、前右側部17及び後側部18と、を、それぞれ、連結し、かつ、長さ調整を可能とされるベルト部19,19が、ベスト11の下端付近であって、着用時における乗員Dのわき腹付近となる位置に、配設されている(図1?3参照)。そして、乗員Dは、ベスト11の着用時に、このベルト部19,19の長さを調整することにより、保持パッド15(前左側部16,前右側部17,後側部18)の位置調整を行なうことができ、乗員Dは、保持パッド15に保持されるカバープレート22の乗員Dに対する位置ずれや、保持パッド15と乗員Dとの間に隙間が生じることを、抑えられた状態で、ベスト11を着用することができる。
【0027】
カバープレート22は、保持パッド15に連結されるようにしてベスト11に保持されて、プロテクタP1の着用時に、乗員Dの所定箇所の外方を覆うように、配置されている。実施形態の場合、カバープレート22は、相互に分離して構成されるとともに、乗員Dの前面側において乗員Dの胸部を覆うように配置される前面カバー部23と、乗員Dの後面側において乗員Dの脊椎を覆うように脊椎に沿って配置される後面カバー部30と、を備えている。
【0028】
前面カバー部23は、プロテクタP1の着用時に、乗員Dの胸部を覆うように配置されている。実施形態の場合、ベスト11が前開きであり、このベスト11に取り付けられる構成であることから、前面カバー部23は、左右に分割されており、乗員Dの左側の胸部を覆う前左カバー部24と、乗員Dの右側の胸部を覆う前右カバー部25と、から構成されている(図2参照)。前左カバー部24,前右カバー部25は、左右対称形とされて、それぞれ、乗員Dの鎖骨の下方からウェスト付近にかけての、胸部全体を覆うような板状として、構成されている。前左カバー部24,前右カバー部25は、乗員Dを保護可能な剛性を有して構成され、実施形態の場合、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂から、形成されている。また、各前左カバー部24,前右カバー部25と、前左カバー部24,前右カバー部25とを保持する前左側部16,前右側部17と、の間には、それぞれ、エアバッグ49における後述する下流側膨張部60である胸保護部62L,62Rが平らに展開された状態で収納され、胸保護部62L,62Rから下方に連なるように配置される腹部保護部66L,66Rが、カクタス折りにより、胸保護部62L,62R内に入れ込まれるようにして、折り畳まれて収納されている(図2,5参照)。」

イ 「【0031】
後面カバー部30は、図3に示すように、プロテクタP1の着用時に、乗員Dの脊椎を覆うもので、乗員Dの後面側におけるベスト11の左右方向の略中央となる位置において、脊椎を覆うように上下方向に略沿って配置されている。実施形態の場合、後面カバー部30は、脊椎(上下方向)に沿って連続的に配置される複数のカバーピース31UA,31UB,31UC,31DA,31DB)と、カバーピース31UC,31DA間に配置される軟質カバー部36と、から、構成されている。この後面カバー部30と保持パッド15における後側部18との間には、エアバッグ49における後述する脊椎保護部52が、平らに展開された状態で収納されることとなり(図7参照)、後面カバー部30において、軟質カバー部36により覆われる領域には、平らに展開した脊椎保護部52とともに、膨張完了時に脊椎保護部52から左右両側に連なるように配置される腰部保護部54が、折り畳まれて収納されている(図8参照)。
【0032】
各カバーピース31は、乗員Dを保護可能な剛性を有した板状として構成されており、前面カバー部23と同様に、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂から、形成されている。実施形態の場合、カバーピース31は、軟質カバー部36の上方に並設される3個と、軟質カバー部36の下方に並設される2個と、の、計5個、配置されている。各カバーピース31は、図3,7に示すように、カバー本体32と、カバー本体32の左右両縁側から延びてカバーピース31を保持パッド15の後側部18に取り付ける取付片部33と、を備えている。カバー本体32は、左右方向に沿った帯状とされるとともに、左右方向の中央を後方側に向かって突出させるように、左右方向に沿って湾曲して構成されている。取付片部33は、カバー本体32の左右両縁側から延びる板状とされて、上下両端付近となる2箇所ずつに、リベット34を挿通可能な取付孔33aを、備えている。そして、各カバーピース31は、取付孔33aに挿通させたリベット34を用いて、四隅付近となる位置で、後側部18に連結されている(図3,7参照)。」

ウ 「【0035】
エアバッグ装置41は、カバープレート22の裏面側となるカバープレート22と保持パッド15との間に収納されるエアバッグ49と、エアバッグ49に膨張用ガスを供給するインフレーター42と、カバープレート22と別体とされてエアバッグ49の外周側(表面側)を覆うエアバッグカバー44と、を備えて構成されている。
【0036】
インフレーター42は、図3に示すように、後面カバー部30の下端側に配置されるカバーピース31DBの裏面側の領域に配置されている。すなわち、インフレーター42は、乗員DのプロテクタP1着用時に、乗員Dの腰部の後方となる尾てい骨付近の後方に、配置されることとなる。実施形態の場合、インフレーター42は、外形形状を略円柱状としたシリンダタイプとして、軸方向を上下方向に沿わせるように配置されている。詳細に説明すれば、実施形態の場合、インフレーター42は、エアバッグ49における脊椎保護部52の下端52a側の部位に内蔵されて、エアバッグ49と接続されている。そして、インフレーター42は、図示しない取付ブラケットを有しており、この取付ブラケットに設けられるボルト等の取付手段をエアバッグ49から突出させて、後側部18の下端付近に取り付けられている。また、実施形態の場合、インフレーター42は、制御回路5からの作動信号を受信可能な図示しない受信機を備えて、制御回路5と無線で電気的に接続される構成であり、制御回路5からの作動信号の受信時に、エアバッグ49に膨張用ガスを供給可能に、構成されている。」

エ 「【0041】
脊椎保護部52は、プロテクタP1の着用時に、乗員Dの脊椎を覆うように上下方向に沿って配置されるもので、平らに展開した状態で、カバープレート22における後面カバー部30の裏面側(後面カバー部30と保持パッド15における後側部18との間)に、収納されている。この脊椎保護部52は、下端52a側を、インフレーター42を挿入可能に開口させて構成されるとともに、長手方向を上下方向に沿わせた略棒状として、後側部18と後面カバー部30との間に充満されるように、膨張を完了させる構成である(図16参照)。この脊椎保護部52は、膨張完了時の上端側を、後面カバー部30における上端側に配置されるカバーピース31UAの上縁と略一致させた位置に、配置させている。また、脊椎保護部52の左右両縁側となる部位に配置される後述する周縁結合部69において、カバーピース31UA,31UB,31UC,31DA,31DBの取付片部33の取付孔33aに対応する位置には、リベット34を挿通可能な取付孔69aが、形成されている。すなわち、脊椎保護部52は、上下の略全域となる広い範囲にわたって、左右両縁側を、カバーピース31UA,31UB,31UC,31DA,31DBとともに、後側部18に取り付けられている。」

オ 「【0048】
下流側膨張部60を構成する胸保護部62L,62Rは、内縁62aを、鎖骨保護部58L,58Rの内縁と一致させるようにして、鎖骨保護部58L,58Rから下方に延びるように形成されている。実施形態の場合、各胸保護部62L,62Rは、プロテクタP1の着用時に、乗員Dの左右の胸を覆うように上下方向に沿って配置されるもので、図4,6に示すように、平らに展開した状態で、カバープレート22における各前左カバー部24,前右カバー部25の裏面側(前左カバー部24,前右カバー部25と保持パッド15における前左側部16,前右側部17との間)に、収納されている。この胸保護部62L,62Rは、屈曲軸BTに沿って対向する両縁(左右の両縁であって、内縁62a,外縁62b)側に、周縁結合部69を配置させて、膨張完了形状を、長手方向を上下方向に沿わせた略棒状として、構成されている。そして、各胸保護部62L,62Rは、それぞれ、前左カバー部24,前右カバー部25と、前左側部16,前右側部17と、を離隔させ、前左カバー部24,前右カバー部25を乗員Dから離れる外方に向かって、前左側部16,前右側部17を乗員D側に向かって、それぞれ僅かに撓ませるようにして、前左カバー部24,前右カバー部25と、前左側部16,前右側部17と、の間で膨張することとなる(図15,17参照)。実施形態の場合、各胸保護部62L,62Rは、左右方向の幅寸法を、首保護部56を含めた肩保護部57L,57Rの左右方向の幅寸法より小さくして、鎖骨保護部58L,58Rの左右方向の幅寸法より小さくするように、構成されている。また、実施形態の場合、各胸保護部62L,62Rは、左右方向の幅寸法を、前左カバー部24,前右カバー部25より若干小さくして構成されている。」

カ 「【0058】
第1実施形態のプロテクタP1では、二輪車Vの走行時において、制御回路5が、加速度検知センサ6により、二輪車Vの衝突を検知すれば、エアバッグ装置41のインフレーター42に作動信号が出力されて、インフレーター42が、エアバッグ49の内部に膨張用ガスGを吐出させるように、作動されることとなり、エアバッグ49が、図12に示すように、膨張を完了させることとなる。」

キ 上記エ及びオにおける記載事項並びに図15ないし17からみて、カバープレート22における前左カバー部24、前右カバー部25及び各カバーピース31(以下、これらをまとめて、「カバープレート」という。)は、エアバッグ49における膨張した胸保護部62L、胸保護部62R及び脊椎保護部52(以下、これらをまとめて、「エアバッグ」という。)、及び保持パッド15とともに、プロテクタP1の表面と裏面との間に複数の3層構造を形成することが理解できる。

ク 制御回路5等を駆動させるためには、電源を有することは明らかである。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、「プロテクタP1」に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「プロテクタP1であって、
前記プロテクタP1の表面と裏面との間に形成された複数の3層構造と、
インフレーター42と、
加速度検知センサ6と、
制御回路5と、
電源を有しており、
前記複数の3層構造が表面側から裏面側に順に、
ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂からなるカバープレート、インフレーター42と接続されたエアバッグ、圧縮ポリウレタン等の合成樹脂からなる保持パッド15からなり、作動時には、前記カバープレートと前記保持パッド15の間で前記エアバッグが膨張するため、前記カバープレート、前記膨張したエアバッグ、前記保持パッド15の3層構造が形成される、プロテクタP1。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2003-182506号公報(以下「引用文献2」という。)には、「インフレータ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0028】
【発明の実施の形態】以下、図面により本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明のインフレータ10の長さ方向への断面図であり、図2は、本発明のインフレータ10が作動したときの破裂板の破壊状態を説明するための図であり、図1の部分拡大図である。
【0029】インフレータハウジング12は、一端側に開口部14を有し、他端側は閉塞されており、内部空間16には、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、窒素ガスからなる加圧媒質が最大圧70,000kPa程度で充填されている。インフレータハウジング12は幅方向の断面が円形であり、開口部14も同様に円形である。
【0030】インフレータハウジング12は、パイプをスエージ加工又はスピンニング加工して製造することができ、既製のガスボンベをそのまま利用することもできる。パイプをスエージ加工又はスピンニング加工する場合は、一端側を加圧媒質の充填孔となる細孔を残した状態でほぼ閉塞させる。加圧媒質は、インフレータハウジング12にディフュザー部20を接続した後、前記細孔に嵌入したシールピン13の隙間から充填し、その後、シールピン13の部分でインフレータハウジング12を溶接して完全に閉塞する。」

イ 「【0033】インフレータハウジング12の開口部14と、ディフュザー部20との間の加圧媒質の流出経路18は、椀状の破裂板19で閉塞されており、作動前においては、インフレータハウジング12の内部空間16は高圧の気密状態に維持されている。開口部14の径(D)(=流出経路18の径)は、第1ガス排出口22の径よりも大きくなるように設定されている。」

ウ 「【0042】ディフュザー部20には、破裂板19の破壊手段として、破裂板19に対向する位置に点火薬を備えた点火器26が設けられている。破裂板19の中央部(点火器26方向への凸部)と点火器26の先端とは、所定の間隔Lが確保されている。この点火器26は、インフレータハウジング12とディフュザー部20とを接続した後に取り付けられており、ディフュザー部20の一端開口部から破裂板19に向かう方向に嵌入され、嵌入後において、ディフュザー部20の一端開口部の周縁28をかしめることで固定されている。30はコネクタである。」

エ 「【0048】点火器26は、要件(d)、(e)による作用効果の発現を促進するため、点火薬として、好ましくは190mg以上、より好ましくは260mg以上のジルコニウム/過塩素酸カリウム(ZPP)を備えたものが望ましい。
【0049】ディフュザー部20にはガス排出ポート40が連結されており、これらはディフュザー部20の第1ガス排出口22内に、ガス排出ポート40の加圧媒質の流入部42が圧入されることで連結されている。このとき、ガス排出ポート40の流入部42の径は、ディフュザー部20の第1ガス排出口22の径よりも僅かに小さい程度に設定されている。ディフュザー部20とガス排出ポート40との連結部は、外側から金属製のバンド等を巻き付けて締め付け、接続強度を高めることができる。」

オ 「【0055】凸部64は、頂面は平面となっており、必要に応じてネジ部(雄ネジ部又は雌ネジ部)を設けることができるもので、開口部60と近接して設けられている。この凸部64は、インフレータ10をガス排出ポート40においてエアバッグと接続する際に有用となる。凸部64の半径方向への高さ及び軸方向への長さは、エアバッグとの接続性(接続強度、作業性等)を考慮して決定できる。」

カ 「【0059】まず、車両が衝撃を受けた場合、前記システムの衝撃センサからの信号を受け、点火器26が作動し、点火薬が着火燃焼する。破裂板19は、点火器26の作動前は点火器26側に突き出た椀状となっているが(図1、図2で実線で示す状態)、作動直後は、点火器26からの押圧力を受けて図2で破線で示すように反対側に付き出た椀状に変化した後、ディフュザー部20に抵抗溶接で固着された周縁部19aを残して、図2に示すように残部の破裂板17(この破裂板残部17の直径は、開口部14の直径Dとほぼ一致している)が脱落するものと推定される。
【0060】破裂板19の破壊によって開口部14が開放されるため、内部空間16内の加圧媒質は、加圧媒質の流出経路18を経て、第1ガス排出口22から流出し、流入部42を通ってガス排出ポート40内に流入し、第2ガス排出口46から流出して、カーテン状エアバッグを膨張させる。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合して、引用文献2には、「インフレータ10」に関して、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「インフレータ10が、インフレータハウジング12内に充填された加圧媒質をガス源とするものであり、
前記加圧媒質が充填されたインフレータハウジング12が、破裂板19を破壊して開口することで内部のアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、窒素ガスを放出できるインフレータハウジング12であり、
さらに前記インフレータハウジング12の閉塞部分を開口させる点火器26を含んだ破壊手段と、
前記インフレータハウジング12内の加圧媒質をエアバッグに導入して膨張させるためのガス排出ポート40を備えたものであり、
前記点火器26が、点火薬としてジルコニウム/過塩素酸カリウム(ZPP)を備えたものからなるインフレータ10。」

(3)引用文献6
本願の出願前に頒布された特開平10-1806号公報(以下「引用文献6」という。)には、「プロテクタ構造を備えたスポーツ用パンツ」に関して、図面(特に、図1及び2参照)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のスポーツ用パンツは、剛性部材と衝撃吸収材とで構成されるプロテクタ構造を備えているので、スキーやスノーボードの競技中あるいは練習中に転倒し、尻餅をついたり、弾みで体が回転したとしても、転倒時の衝撃は、まず適所に配置された剛性部材で広く面として受け止められて、分散され、次いで、その剛性部材に重ね合わせてある衝撃吸収部材で吸収される。したがって、保護されるべき臀部あるいは腰部等が過大な衝撃にさらされることがなく、打撲の危険性が著しく減少するものである。」

イ 「【0010】本発明で言う剛性部材とは、硬くて剛性の強い部材を言い、例えば、ポリカーボネート、ABS、ポリエステル、ポリアミドなどの耐衝撃性に優れた硬質プラスチック、あるいは硬質の塩化ビニル、さらには、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維補強材で強化した複合材料などが有利に使用できる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどの合成樹脂も使用することが可能である。」

ウ 「【0015】本発明の衝撃吸収材としては、通常のスポンジやゴムなどを用いることもできるが、ポリウレタンなどの緩衝材や、ソルボセイン、αゲルなどの衝撃吸収性のシリコン樹脂が特に衝撃吸収性の点で優れている。なお、衝撃吸収性はやや劣るが、厚手の布や綿、羽毛なども使用できる。」

エ 「【0021】図1は、腰部と臀部にプロテクタ構造を備えた本発明のスポーツ用パンツを後ろ側から見た図である。
【0022】図において、1はパンツ本体で、例えば、スキーやスノーボードをするときに使用されるものである場合には、保温性が良く、汗などを吸収に優れた素材で作られる。
【0023】2、3は剛性部材であって、それぞれの衝撃吸収材4、5上に一体的に結合されている。この剛性部材2、3と衝撃吸収材4、5とで、それぞれプロテクタ構造を構成し、取り付け部材6を介して、パンツ本体1に取り付けられる。」

オ 図1からみて、プロテクタ構造は、表面側から裏面側に順に、剛性部材2、3、衝撃吸収材4、5からなることが理解できる。

カ 硬くて剛性が強く耐衝撃性に優れた硬質のABSプラスチックからなる剛性部材2、3は、衝撃吸収性に優れたポリウレタンからなる衝撃吸収材4、5よりも硬いと認められる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献6には、次の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。

「プロテクタ構造が表面側から裏面側に順に、
ABSプラスチックからなる剛性部材2、3、ポリウレタンからなる衝撃吸収材4、5からなり、前記ABSプラスチックからなる剛性部材2、3が前記ポリウレタンからなる衝撃吸収材4、5よりも硬いものである、プロテクタ構造。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者における「インフレーター42」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、前者における「ガス供給手段」に相当し、以下同様に、「加速度検知センサ6」は「センサー」に、「制御回路5」は「制御装置」に、「電源」は「電源」に、「エアバッグ」は「エアバッグ」に、「3層構造」は「3層構造」にそれぞれ相当する。
後者の「プロテクタP1」は、プロテクタ本体10を備えており(段落【0022】)、プロテクタ本体10は、着用時の乗員Dの上半身を肩部から胴部にかけて覆うベストタイプとされるものである(段落【0023】)から、前者の「上半身用の保護着」に相当する。
後者の「圧縮ポリウレタン等の合成樹脂からなる保持パッド15」は、裏面側に設けられており、かつ、プロテクタ本体10を構成するものであって、人体を保護するものである(段落【0023】及び【0024】)から、前者の「ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板」に相当する。
後者の「ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂からなるカバープレート」は、表面側に設けられており、かつ、プロテクタ本体10を構成するものであって、人体を保護するものである(段落【0023】)から、前者の「ABS樹脂成形体からなる表面側保護板」と、「樹脂成形体からなる表面側保護板」という限りで共通する。
「3層構造」の構成要素である「カバープレート」及び「保持パッド15」は上述したとおり人体を保護するものであり、「エアバッグ」も人体を保護するものであるから、後者の「複数の3層構造」は、前者の「複数の保護層」に相当する。

したがって、両者は、
「上半身用の保護着であって、
前記保護着の表面と裏面との間に形成された複数の保護層と、
ガス供給手段と、
センサーと、
制御装置と、
電源を有しており、
前記保護層が表面側から裏面側に順に、
樹脂成形体からなる表面側保護板、ガス供給手段と接続されたエアバッグ、ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板からなり、
作動時には、前記表面側保護板と前記裏面側保護板の間で前記エアバッグが膨張するため、前記表面側保護板、前記膨張したエアバッグ、前記裏面側保護板の3層構造が形成される、上半身用の保護着。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願補正発明は、上記「表面側保護板」に関して、「ABS」樹脂成形体からなるものであって、「前記ABS樹脂成形体からなる表面側保護板が前記ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板よりも硬いものであ」り、また、作動時には、3層構造が形成されることで「衝撃が大幅に減少されるように作用するものである」のに対し、
引用発明は、上記「カバープレート」に関して、「ポリエチレンやポリプロピレン等の」合成樹脂からなるものであるが、カバープレートと保持パッド15の硬さ関係は不明であり、また、作動時には、衝撃が大幅に減少されるように作用するものであるかも不明である点。

〔相違点2〕
本願補正発明は、上記「ガス供給手段」に関して、「ガスボンベ内に充填された加圧ガスをガス源とするものであり、前記加圧ガスが充填されたガスボンベが、閉塞部材を破壊して開口することで内部のガスを放出できるガスボンベであり、さらに前記ガスボンベの閉塞部分を開口させる電気式点火器を含んだ破壊手段と、前記ガスボンベ内の加圧ガスをエアバッグに導入して膨張させるための導入手段を備えたものであり、前記電気式点火器が、点火薬としてジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、および水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、およびジルコニウムと酸化銅の混合物を含む点火薬から選ばれた少なくとも1種からな」るのに対し、
引用発明は、上記「インフレータ42」の具体的構成が不明である点。

4 当審の判断
そこで、各相違点を検討する。
(1)相違点1について
引用発明6は、人体を保護するプロテクタ構造であり、「転倒時の衝撃は、まず適所に配置された剛性部材で広く面として受け止められて、分散され、次いで、その剛性部材に重ね合わせてある衝撃吸収部材で吸収される」(段落【0007】)ようにするために、表面側に設けられた剛性部材2、3を、硬くて剛性が強く耐衝撃性に優れた硬質プラスチックであるABSからなるものとし、人体接触側である裏面側に設けられた衝撃吸収材4、5を衝撃吸収性に優れたポリウレタンからなるものとして、「人体が過大な衝撃にさらされることがなく、打撲の危険性が著しく減少するもの」(段落【0007】)とするものである。
そして、引用発明と引用発明6とは、ともに人体を保護するプロテクタに関し、表面側に設けられた部材と人体接触側である裏面側に設けられた部材とを有するものであるから、人体の保護を目的として、引用発明に引用発明6を適用して、引用発明のカバープレートをABS樹脂成形体からなるものとし、保持パッド15をポリウレタンからなるものとして、そのABS樹脂成形体からなるカバープレートがウレタン樹脂成形体からなる保持パッド15よりも硬いものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
次に、本願補正発明の「衝撃が大幅に減少されるように作用するものである」に関して、本願明細書には、「表面側保護板31のほうが裏面側保護板33よりも硬く、これによって衝撃を人体に伝えにくくし、さらに人体に伝わった衝撃もやわらかい裏面側保護板33によって減衰される。さらに表面側保護板31と裏面側保護板33との間にエアバッグ32が配置されているため、その衝撃も大きく減衰される。」(段落【0050】)との記載がある。
この記載によれば、本願補正発明の「衝撃が大幅に減少されるように作用する」とは、表面側保護板31のほうが裏面側保護板33よりも硬く、表面側保護板31と裏面側保護板33との間にエアバッグ32が配置されることによって得られるものといえる。
他方、引用発明に引用発明6を適用したものも、カバープレートのほうが保持パッド15よりも硬く、カバープレートと保持パッド15との間にエアバッグが配置されることになるから、「衝撃が大幅に減少されるように作用する」ものである。
そうしてみると、引用発明に引用発明6を適用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明2は、「インフレータ10が、インフレータハウジング12内に充填された加圧媒質をガス源とするものであり、
前記加圧媒質が充填されたインフレータハウジング12が、破裂板19を破壊して開口することで内部のアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、窒素ガスを放出できるインフレータハウジング12であり、
さらに前記インフレータハウジング12の閉塞部分を開口させる点火器26を含んだ破壊手段と、
前記インフレータハウジング12内の加圧媒質をエアバッグに導入して膨張させるためのガス排出ポート40を備えたものであり、
前記点火器26が、点火薬としてジルコニウム/過塩素酸カリウム(ZPP)を備えたものからなるインフレータ10。」である。
本願補正発明における「ガス供給手段」と引用発明2における「インフレータ10」とを対比すると、後者における「インフレータ10」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、前者における「ガス供給手段」に相当し、以下同様に、「インフレータハウジング12」は「ガスボンベ」に、「加圧媒質」は「加圧ガス」に、「破裂板19」は「閉塞部材」に、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、窒素ガス」は「ガス」に、「破壊手段」は「破壊手段」に、「エアバッグ」は「エアバッグ」に、「ガス排出ポート40」は「導入手段」にそれぞれ相当する。
後者の「点火器26」と前者の「電気式点火器」は、「点火器」という限りで共通する。
後者の点火薬として「ジルコニウム/過塩素酸カリウム(ZPP)を備えたもの」は、前者の点火薬として「ジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、および水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、およびジルコニウムと酸化銅の混合物を含む点火薬から選ばれた少なくとも1種」と、「ジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬」という限りで共通する。
そうすると、引用発明2は、本願補正発明の用語で表すと、「ガス供給手段が、ガスボンベ内に充填された加圧ガスをガス源とするものであり、
前記加圧ガスが充填されたガスボンベが、閉塞部材を破壊して開口することで内部のガスを放出できるガスボンベであり、
さらに前記ガスボンベの閉塞部分を開口させる点火器を含んだ破壊手段と、
前記ガスボンベ内の加圧ガスをエアバッグに導入して膨張させるための導入手段を備えたものであり、
前記点火器が、点火薬としてジルコニウム/過塩素酸カリウム(ZPP)を備えたものからなるガス供給手段。」といえる。
引用発明におけるインフレータ42と引用発明2とは、エアバッグを膨張させるためのガス供給手段である点で共通するから、引用発明におけるインフレータに引用発明2を適用する動機付けがある。
そして、エアバッグを膨張させるためのガス供給手段における点火器として、「電気式」の点火器を用いることが技術常識であることを踏まえると、引用発明に、引用発明2を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願補正発明が奏する効果は、全体としてみて、引用発明並びに引用発明2及び6から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用発明2及び6に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年1月31日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の理由の概要
原査定(平成29年5月30日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、本願の請求項5に係る発明は、引用文献1及び5に記載された発明に基いて、本願の請求項6ないし8に係る発明は、引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、それぞれ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧>
1.特開2011-144490号公報
2.特開2003-182506号公報
3.特開平11-30400号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平7-156741号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2007-91184号公報


3 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用した引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明及び引用発明2は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 対比
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における「表面側保護板」及び「裏面側保護板」について、それぞれ「ABS樹脂成形体からなる」及び「ウレタン樹脂成形体からなる」との限定を省くとともに、「前記ABS樹脂成形体からなる表面側保護板が前記ウレタン樹脂成形体からなる裏面側保護板よりも硬い」との限定も省いたものである。
そうすると、前記「第2〔理由〕3」を踏まえ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「上半身用の保護着であって、
前記保護着の表面と裏面との間に形成された複数の保護層と、
ガス供給手段と、
センサーと、
制御装置と、
電源を有しており、
前記保護層が表面側から裏面側に順に、
表面側保護板、ガス供給手段と接続されたエアバッグ、裏面側保護板からなるものであり、
作動時には、前記表面側保護板と前記裏面側保護板の間で前記エアバッグが膨張するため、前記表面側保護板、前記膨張したエアバッグ、前記裏面側保護板の3層構造が形成される、上半身用の保護着。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点3〕
本願発明は、作動時には、3層構造が形成されることで「衝撃が大幅に減少されるように作用するものである」のに対し、
引用発明は、作動時には、衝撃が大幅に減少されるように作用するものであるか不明である点。

〔相違点4〕
本願発明は、上記「ガス供給手段」に関して、「ガスボンベ内に充填された加圧ガスをガス源とするものであり、
前記加圧ガスが充填されたガスボンベが、閉塞部材を破壊して開口することで内部のガスを放出できるガスボンベであり、
さらに前記ガスボンベの閉塞部分を開口させる電気式点火器を含んだ破壊手段と、
前記ガスボンベ内の加圧ガスをエアバッグに導入して膨張させるための導入手段を備えたものであり、
前記電気式点火器が、点火薬としてジルコニウムと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、および水素化チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、チタンと過塩素酸カリウムの混合物を含む点火薬、およびジルコニウムと酸化銅の混合物を含む点火薬から選ばれた少なくとも1種からな」るのに対し、
引用発明は、上記「インフレータ42」の具体的構成が不明である点。

5 当審の判断
そこで、各相違点を検討する。
(1)相違点3について
本願発明の「衝撃が大幅に減少されるように作用する」について、本願発明は、表面側保護板が裏面側保護板よりも硬いことを特定するものではないから、表面側保護板31、エアバッグ32及び裏面側保護板33の3層構造が形成されることで、各層それぞれの働きにより衝撃が大幅に減少されるように作用するものを含むと認められる。
他方、引用発明は、作動時に、カバープレート、膨張したエアバッグ及び保持パッド15の3層構造が形成されるものであるから、それによって衝撃が大幅に減少されるように作用すると解される。
そうすると、引用発明は、相違点3に係る本願発明の発明特定事項を備えたものであるから、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(2)相違点4について
上記相違点2と実質的に同じであるから、「第2〔理由〕4(2)」で検討したのと同様の理由により、引用発明に引用発明2を適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願発明が奏する効果は、全体としてみて、引用発明及び引用発明2から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-22 
結審通知日 2018-05-29 
審決日 2018-06-12 
出願番号 特願2013-198165(P2013-198165)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A62B)
P 1 8・ 121- Z (A62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 貴志今関 雅子  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 上半身用の保護着  
代理人 義経 和昌  
代理人 古谷 聡  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  

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