• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1342674
審判番号 不服2017-11407  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-01 
確定日 2018-07-25 
事件の表示 特願2015-504994「電子ラベルタグ及び電子ラベルタグシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日国際公開、WO2013/153282、平成27年 7月 9日国内公表、特表2015-519635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年4月10日(パリ条約による優先権主張,外国庁受理2012年4月11日,フィンランド)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年12月 8日 翻訳文の提出
平成28年 3月 9日 審査請求
平成28年11月22日 拒絶理由通知(起案日)
平成29年 1月26日 意見書及び手続補正書の提出
平成29年 3月31日 拒絶査定(起案日)
平成29年 8月 1日 審判請求及び手続補正書の提出


第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年8月1日に提出された手続補正書によりなされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成29年8月1日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,本願の特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち,独立請求項である請求項1の本件補正前後の記載は以下のとおりである。
<本件補正前>
「 【請求項1】
電子ラベルタグシステムのための電子ラベルタグ(100)であって,該電子ラベルタグ(100)は,
機械可読識別子モジュールと,
製品関連情報を受信するための通信モジュールと,
製品関連情報を表示するためのディスプレイと,
を備え,該電子ラベルタグ(100)は,
該電子ラベルタグを製品(201)に取り付けるための取り付け手段を更に備え,
前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び/又は前記ディスプレイを起動するように構成されることを特徴とする,電子ラベルタグ。」

<本件補正後>
「 【請求項1】
電子ラベルタグシステムのための電子ラベルタグ(100)であって,該電子ラベルタグ(100)は,
機械可読識別子モジュールと,
製品関連情報を受信するための通信モジュールと,
製品関連情報を表示するためのディスプレイモジュールと,
を備え,該電子ラベルタグ(100)は,
該電子ラベルタグを製品(201)に取り付けるための取り付け手段を更に備え,
前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動するように構成されることを特徴とする,電子ラベルタグ。」

2 補正事項
請求項1についての本件補正の内容は以下のとおりである。
(1)補正事項1
本件補正前の「ディスプレイ」という記載を,本件補正後は「ディスプレイモジュール」と補正する。

(2)補正事項2
本件補正前の「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び/又は前記ディスプレイを起動する」という記載を,本件補正後は「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」と補正する。

3 翻訳文新規事項の追加の有無及び補正目的の適否等について
先ず,補正事項1?2について,翻訳文新規事項の追加の有無及び補正目的の適否を検討する。
(1)補正事項1について
ア 補正事項1は,本願の特許法第184条の12第2項に規定する翻訳文等(以下「本願翻訳文等」という。)における明細書の段落【0043】の「電子ラベルタグの通信モジュール又はディスプレイ等のバッテリーを消費するモジュール」という記載に基づくものと認められる。
したがって,補正事項1は,本願翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
よって,補正事項1は,特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ 補正事項1は,「ディスプレイモジュール」と補正することで,当該「ディスプレイモジュール」が,請求項1の「電子ラベルタグ(100)」において,「ディスプレイ」というまとまりある機能を持つ構成単位として実装されていることを限定するものであると認められる。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2について
ア 本件補正前も「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール」及び「前記ディスプレイを起動する」という態様を包含していたところ,補正事項2は,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」と補正することにより,「/又は」の記載を削除して上記態様に限定しただけでなく,「モジュールの両方」という記載を追加するものである。
したがって,補正事項2の補正により,本件補正後の請求項1に係る発明は,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に応じて,「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュール」を一度に「両方を起動する」という態様を,少なくとも包含するものとなったと認められる。

イ これに対して,本願翻訳文等には,明細書の段落【0011】に「この機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,通信モジュール及び/又はディスプレイを起動するように構成される。」こと,同段落【0012】に「本発明の1つの実施形態において,エネルギーを消費する全てのモジュールを停止することができ,それらのモジュールは,機械可読識別モジュールである,タグ,例えばRFIDタグの機械可読識別モジュールによって起動することができる。」ことが記載されている。
したがって,本願翻訳文等には,通信モジュールとディスプレイモジュール等のエネルギーを消費する全てのモジュールは,機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて起動されることが記載されているだけであって,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に応じて「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュール」を一度に「両方を起動する」ことは,本願翻訳文等には,記載も示唆もされていない。
したがって,補正事項2は,本願翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
よって,補正事項2は,特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項の規定に適合しない。

イ 補正事項2により,本件補正後の請求項1においては,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドにより「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」ことを限定するものである。
したがって,補正事項2は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)発明の特別な技術的特徴について
なお,補正事項1ないし2の本件補正は,発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないことは明らかである。
したがって,補正事項1ないし2は,特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(4)検討のまとめ
以上検討したとおりであるから,請求項1についての本件補正は,特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
しかしながら,請求項1についてする本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで,仮に請求項1についての本件補正が,特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているとして,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正が,いわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かを,請求項1に係る発明について検討する。

4 独立特許要件
(1)補正発明
本件補正後の請求項1?20に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?20に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,再掲すると次のとおりである。
「電子ラベルタグシステムのための電子ラベルタグ(100)であって,該電子ラベルタグ(100)は,
機械可読識別子モジュールと,
製品関連情報を受信するための通信モジュールと,
製品関連情報を表示するためのディスプレイモジュールと,
を備え,該電子ラベルタグ(100)は,
該電子ラベルタグを製品(201)に取り付けるための取り付け手段を更に備え,
前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動するように構成されることを特徴とする,電子ラベルタグ。」

(2)引用例及び引用発明
ア 引用例1の記載事項
平成29年3月31日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)の根拠となった拒絶理由通知において引用された刊行物である特開2007-166606号公報(以下「引用例1」という。)には,「低使用率無線装置と通信するための装置および方法」(発明の名称)について,図1?図4とともに,次の事項が記載されている(下線は当審で付したもの。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,概して,電池式低使用率無線装置と通信するための装置および方法に関し,特に新しい情報の更新を受信するために無線装置がオンになる時間の長さを低減し,それにより平均電力消費量を低減し,電力を節約するための有利な装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池式電子棚ラベル(ESL)は,多くの場合,1回の電池の充電で数年間稼働しなければならない。通常,従来のESLは,アイテムの価格およびアイテムの単価のような限られた情報を表示する専用のセグメント化液晶表示装置(LCD)を含む。限られた情報を表示するので,従来のESLは,ESLのところで情報を更新するために,一度に数百ビットを受信するための低使用率,低電力および低データレート受信機を含む。電力を節約するために,低データレート受信機は,通常は電力がオフの状態になっていて,ビーコン信号を受信するために周期的に覚醒するが,その時点で,受信機は,以降の更新情報を受信するためにオンの状態のままでいるかどうかを決定する。
【0003】
セグメント化したLCDの表示できる情報量は限られているので,従来のESLは,グラフィックス等のような広告情報を表示するための用途は限られていた。一方,従来のドット・マトリクス表示装置は,広告にもっと適しているもっと多くの情報を表示することができる。例えば,ドット・マトリクス表示装置は,グラフィックス,カラー・グラフィックス,種々のスタイルおよびフォントのカラー・テキスト,および他の集客情報を表示することができる。しかし,ドット・マトリクス表示装置を更新するために必要な情報量は,1回の更新に数万ビットを超える場合がある。例えば,ローエンドの320×240画素ビデオ・グラフィックス・アレイ(VGA)の1つのカラー・ドット・マトリクス表示装置は,現在,1回の更新のために76,800ビットを必要とするが,一方,セグメント化LCDは1回の更新に数百ビットしか必要としない。更新するのに低データ受信機アプローチを使用した場合には,ドット・マトリクス表示装置を従来のLCDよりも遥かに長い時間電源をオンにしなければならないので,そのため電力消費が大きくなる。
【0004】
ESLまたは広告用表示装置のドット・マトリクス表示装置が必要とする送信の速いデータレートを満足させるための1つのアプローチは,I.E.E.E.802.11,Bluetooth(登録商標)およびZigbee(登録商標)トランシーバのような従来の高帯域トランシーバの使用を含む場合がある。1回の電池の充電で,ESLまたは広告用表示装置を長時間稼働させる目的で電力を節約するために,従来の高帯域トランシーバは,例えば,10分間に1回スリープ・モードから覚醒させるというように,非常に低い使用率で稼働しなければならない。ESLおよび広告用表示装置を使用している小売業者は,好適には情報を更新するための応答時間を更新開始の数秒間にする必要がある。その結果,従来の高帯域トランシーバを使用しているESLまたは広告用表示装置は,更新が開始したのかどうかを判定するために,少しずつ秒数を増大しながら周期的に覚醒しなければならない。従来の高帯域トランシーバは,更新が開始したのかどうかを判定するために,複数回パケット交換を行わなければならない。さらに,従来の高帯域トランシーバは,自身が通信する遠く離れている端末装置と同期した状態で複数回パケット交換を行わなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それ故,この方法で使用する従来の高帯域トランシーバは,従来のESLと比較した場合かなりの電力を浪費する。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,電子棚ラベルまたは広告用表示装置のような低使用率無線装置にドット・マトリクス表示装置を内蔵する際のいくつかの問題を解決しなければならないことを認識している。そのために,ドット・マトリクス表示装置を駆動するためのデュアル・モード低使用率の無線装置を開示している。第1の通信モードの場合,低使用率無線装置は,販売時点情報管理(POS)システムのようなホスト・システムから表示情報を受信すべきかどうかを判定するために,低電力および低データレートの受信機を使用する。この判定を行った場合,低使用率無線装置は,第2の通信モードで稼働する。第2の通信モードの場合,低使用率無線装置は,ドット・マトリクス表示装置が必要とする表示情報を受信するために従来の高データレート・トランシーバを使用する。都合のよいことに,本発明は,高データレート・トランシーバを有するドット・マトリクス表示装置が必要とする大量の情報を受信する処理能力の利点と,コマンドを受動的に肯定応答するための低データレートの受信機の電力節約の利点を有する。
……(中略)……
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は,本発明によるESL122を使用する取引管理システム100である。システム100は,ESLホスト・コンピュータ・システム102と,販売時点情報管理(POS)端末114とを含む。この図の場合,構成要素102および114は,ネットワークにより一緒に接続している別々の構成要素になっているが,これらの構成要素またはそのサブ構成要素も,POSシステム116を構成するために種々の方法で結合または分割することができる。
【0009】
また,システム100は,通信基地局(CBS)120と,ESL122とを含む。ESL122は,本発明による低使用率無線装置の一例であり,図2のところでさらに詳細に説明する。CBS120は,小売り施設の天井またはその近くに適切に装着することができる。ESL122は,通常,アイテムに隣接する店舗の棚に取り付けられる。ある態様においては,システム100は,複数のグループのESL122と,複数のCBS120とを含む。この場合,好適には,ESL122の各グループは,CBS120のうちの1つに割り当てることが好ましい。
……(中略)……
【0011】
ホスト・コンピュータ・システム102は,ESL122への価格更新のようなメッセージを記録し,スケジューリングを行う。ESLホスト・コンピュータ・システム102は,ESL122のための行動リストを監視し,維持する。行動リスト上のアイテムまたは記録は,POSシステム114またはホスト・コンピュータ102のユーザから提供することができる。メッセージに基づいて,ESLホスト・コンピュータ・システム102は,ESL122に対してスケジューリングを行い,ESLホスト・コンピュータ・システム102は,適当なメッセージを生成し,そのメッセージを適当なCBS120に送信する。メッセージは,2つの種類のメッセージの一方からのものであってもよい。第1の種類は,ESLのクロックを同期させるための,または特定のESLに表示情報を更新する必要があることを知らせるためのビーコン・メッセージを含む。第2の種類は,表示情報更新を含む。
【0012】
メッセージは,通信リンク124を通してCBS120に送信される。通信リンク124は,無線周波(RF)通信,赤外線(IR)通信,または通信技術のある種の組合せを適宜使用することができる。ESL122のグループは,通信のために特定のCBSに割り当てられる。ホスト・システム102からメッセージを受信した後で,ESL122に割り当てられた特定のCBS120は,RF通信,IR通信,または通信技術のある種の組合せを適宜使用することができる通信リンク126により,ESL122にメッセージを送信する。2つの種類のメッセージの処理については,図2のところでさらに詳細に説明する。」

(ウ)「【0013】
図2は,本発明による低使用率無線装置200である。低使用率無線装置200は,1つまたは複数のESL122として適宜使用することができる。低使用率無線装置200は,低データレート受信機210と,高データレート・トランシーバ230と,マイクロプロセッサ220と,永続メモリ250と,ドット・マトリクス表示装置240と,電池260とを含む。低データレート受信機210は,従来の受動後方散乱技術を使用する従来の低使用率,低電力受信機であってもよい。高データレート・トランシーバ230は,本発明の教示により修正したIEEE802.11受信機のような従来の高データレート・トランシーバであってもよい。マイクロプロセッサ220は,マイクロプロセッサが数マイクロアンペア(μA)しか消費しないで,数マイクロ秒で作動すなわち覚醒することができる待機モードを有する任意の適当なマイクロプロセッサであってもよい。このタイプの動作に適しているあるマイクロプロセッサ・グループとしては,例えば,テキサス・インストルメンツ社のMSP430シリーズのマイクロプロセッサがある。電池260は,マイクロプロセッサ220および低データレート受信機210と結合している。マイクロプロセッサ220は,必要に応じて通信バス225を通して高データレート・トランシーバ230,表示装置240およびメモリ250に電力を供給する。
【0014】
永続メモリ250は,ランダム・アクセス・メモリ(RAM)である。好適には,フラッシュ・メモリおよび電力を供給しなくてもデータを持続的に格納することができる任意の他のメモリ・タイプを使用することが好ましい。表示装置240は,更新を行うのに高レートのデータを必要とするKent Displays Inc.社製のコレステリックLCD(ChLCD),ZBD Displays Ltd.社製の双安定型表示装置,Plastic Logic社の電子ペーパー等のような任意の適切な双安定型表示装置,または任意の適切なタイプの低電力消費ドット・マトリクス表示装置であってもよい。双安定型表示装置は,表示装置への電力をオフにした後でも,オン-スクリーン画像およびテキストのような情報を引き続き表示する。この表示装置は,表示情報が変化した場合だけ電力を使用する。
【0015】
通常の動作モードの場合,低データレート受信機210は,ビーコン・メッセージを受信するために約1.45秒毎にスリープ・モードから覚醒する。このモードの場合には,低データレート受信機210は,サイクル毎に2μA程度の少ない電力を消費し,または平均6マイクロワット(μW)を消費する。ビーコン・メッセージは,通常,低データレート受信機210が覚醒し,その内部ロジックと同期し,スリープ・モードに戻る時間同期ポイントとしての働きをする。低データレートの受信機210の瞬時データレートは,毎秒約16キロビットである。しかし,低データレートの受信機210が1.45秒毎に覚醒することを考えた場合,実効データレートは毎秒約300キロビットである。
【0016】
テキスト,グラフィックス,フォント,スタイル,カラー等の更新のような表示情報による表示装置240の更新のような行動を実行する場合には,ビーコン・メッセージはアドレスおよびデータ構成要素を含む。アドレス構成要素は,データ構成要素の宛先である特定のESLを識別する。データ構成要素は,コマンドおよびコマンドに関連するデータ部分を含む。低データレート受信機210は,コマンドに対して肯定応答するために従来の受動後方散乱技術を使用する。ある行動を行う場合には,低データレート受信機210は,リンク218を通してマイクロプロセッサ220にクロックまたは任意の適切なタイプの割込み信号を送る。
【0017】
また,低データレート受信機は,シリアル・ポート215を通してマイクロプロセッサ220にコマンドおよびデータ部分を転送する。マイクロプロセッサ220はスリープ・モードから覚醒し,そのクロックを同期させ,それに応じてコマンド部分を処理する。例えば,表示240を更新すべきであることを示すコマンドの場合には,コマンド部分は,ビーコン・メッセージにより低データレート受信機210の直列出力215にデータを送る。他の実施形態の場合には,リンク218は,直列出力215と結合して1つの信号線になることができる。この他の実施形態の場合には,状態の変化または信号の遷移を,コマンドを受信するまでマイクロプロセッサ220を作動するのに使用することができる。
【0018】
マイクロプロセッサ220は,覚醒し,コマンド部分を処理する。コマンド部分を処理する場合には,マイクロプロセッサ220は,表示240への更新がホスト・コンピュータ102からの要求であることを認識する。マイクロプロセッサ220は,表示情報を受信するために覚醒し,ホスト・コンピュータ102との通信を開始するために,通信バス225を通して高データレート・トランシーバ230に信号を送る。高データレート・トランシーバ230は,そのデータレートが,低データレート受信機210より実質上高い限りは,任意の通信プロトコルを使用し,低使用率無線装置200の平均電力消費を節約する働きをすることができる。トランシーバ230の最低通信レートは,表示装置240を更新するために必要な情報量により変わり,数ミリ秒中にこの量の情報で表示装置240を更新することができる。320×240画素の表示装置のように画面のサイズがもっと小さい場合には,少なくとも毎秒250キロビットで動作し,約0.5?1ワットの電力を消費するトランシーバで十分である。表示情報を受信している際に消費電力をもっと少なくするために,好適には,データレートは毎秒メガビット程度であることが好ましい。これらの基準に適合するプロトコルの一例としては,I.E.E.E.802.11プロトコルがある。
【0019】
高データレート・トランシーバ230は,ネットワーク130を通してホスト・コンピュータ102のようなホスト・コンピュータから表示情報を受信し,この表示情報を格納するために永続メモリ250に転送する。永続メモリ250は,同じ表示情報を再度受信しなくても,後で検索することができるように表示情報を格納する。表示情報の受信が完了した場合には,マイクロプロセッサ220は表示装置240を覚醒させて,永続メモリ250内に格納している表示情報により表示装置240を更新する。表示装置240は,更新した表示情報を表示する。表示情報が表示されると,マイクロプロセッサ220は,電力をオフにし,スリープ・モードになり,次のコマンドを待機するように表示装置240に信号を送る。表示装置240は,双安定型表示装置なので,表示された情報は,表示装置240の電力をオフにした後でも表示されたままである。
【0020】
図では,低データレートの受信機210および高データレート・トランシーバ230は別々の構成要素として示してあるが,本発明の教示に従ってこれらの構成要素を1つの構成要素に統合することができることを理解されたい。」

(エ)「【0023】
図4は,本発明による図2の低使用率無線装置200と通信するための方法を示すフローチャートである。ステップ410において,表示装置240のような無線装置の表示装置を更新するために,低データレート受信機がコマンドを受信する。例えば,POSシステム116のコンピュータ102のようなPOSシステムのホスト・コンピュータは,無線装置の表示情報を更新するためにコマンドを送信することができる。ステップ420において,例えば,POSシステムと通信するために,高データレート・トランシーバ230のような高データレート・トランシーバが作動する。例えば,マイクロプロセッサ220は,スリープ状態から覚醒して高データレート・トランシーバに信号を送りPOSシステムと通信することができる。ステップ430において,高データレート・トランシーバを通して表示情報を受信する。ステップ440において,表示装置240のような表示装置が,作動して,受信した表示情報を表示する。ステップ450において,受信した表示情報が表示される。ステップ460において,表示装置および高データレート・トランシーバの動作を停止する。方法400は,次のコマンドを受信するまで待機状態470になる。待機状態470中,表示装置は電力を全然消費しないが,高データレート・トランシーバ,低データレート受信機,およびマイクロプロセッサは,スリープ・モード中,最小電力を消費する。別の方法としては,待機状態470中,高データレート・トランシーバの電力を完全にオフにすることができる。次のコマンドが到着すると,この方法はステップ410に進む。」

イ 引用発明
第2の4(2)ア(ア)?(エ)で摘記した引用例1の記載を総合すると,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ホスト・コンピュータ102を含み,電池式電子棚ラベルであるESL122を複数個使用する取引管理システム100における,各ESL122は,
前記ホスト・コンピュータ102が生成した,特定のESLに表示情報を更新する必要があることを知らせるためのビーコン・メッセージを受信する低データレート受信機210と,
マイクロプロセッサ220と,
前記ホスト・コンピュータ102からアイテムの価格等の表示情報を受信し,この表示情報を永続メモリ250に転送する高データレート・トランシーバ230と,
前記永続メモリ250内に格納している前記表示情報により更新される,双安定型表示装置である表示装置240と,
を備え,前記ESL122は,
通常,前記アイテムに隣接する店舗の棚に取り付けられ,
表示情報により前記表示装置240を更新させる場合には,前記低データレート受信機210は,宛先である特定のESLを識別するアドレスと,コマンド及び関連するデータ部分を含むデータ構成要素とを有する前記ビーコン・メッセージを受信すると,前記コマンド及び前記データ部分を前記マイクロプロセッサ220に転送し,前記コマンド部分を処理した前記マイクロプロセッサ220は,前記高データレート・トランシーバ230を作動させて前記ホスト・コンピュータ102との通信を開始させ,前記表示情報の受信が完了した場合に前記表示装置240を覚醒させて前記永続メモリ250内に格納している表示情報により前記表示装置240を更新することを特徴とするESL122。」

ウ 引用例2の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用された刊行物である特表2004-531923号公報(以下「引用例2」という。)には,「電子インクを使用したスマート電子ラベル」(発明の名称)について,図1?図11とともに,次の事項が記載されている(下線は当審で付したもの。)。

(ア)「【発明の背景】
【0002】
本発明は,電子表示装置に関し,より詳細には,選択されたデータを表示するための,遠隔操作によって更新可能な電子ラベル装置及びシステムに関する。
……(中略)……
【0004】
第3の常法は,情報又はイメージが物品に直接に印刷又は手書き又は描出される場合に関する。この場合,古いイメージは一般に除去又は削除され,その後,新しいイメージがこの物品上に再印刷又は描出される。そのような情報削除の例には,この物品に関する価格の変化,メニュー価格の変化,図書館の書籍の返却日,レンタルビデオの返却日などがある。通常,新しいラベル又は指定の領域上に見える情報の完全性が,以前に印刷されたか,このラベル上に存在するか,又はこの指定の領域内に配置された情報による何らかの相互作用又は干渉によって損なわれないように,細心の注意が払われる。さもなければ,この物品に関する新たな情報の完全性が損なわれるおそれがある。更に,この物品のラベル又は指定の領域上に印刷,手書き又は描出された元の情報を除去又は削除することで,この物品が損傷するおそれがある。」

(イ)「【0033】
本発明のラベル16で使用される電子インクは,例えば黒,白又は透明などの単一の色として構成されていてもよく,また,蛍光,虹色光,生物発光,白熱光,紫外光,赤外光を発しても,又は波長特異的放射線吸収又は放射材料を含有してもよい。それぞれが独自の作動格子層を有する複数の電子インク層があってもよいし,又は,複数のインク層が複数の作動格子層によって作動する構成であってもよい。電子インク層毎に特性又は色が異なってもよい。前記ラベルは,従来のテレビジョンの動作と同様の方法で,各原色毎に異なるディスプレイ層を有することにより,有色の表示を行うことが可能である。各原色は,各ディスプレイ層中の特定のピクセル位置のアドレスを指定することで,選択的に作動される。異なる複数の原色を組み合わせることで,有色の証印を表示することが可能となる。図示及び説明の目的で,任意の電子インク層及び作動格子層の組合せをディスプレイアッセンブリ30として表してもよい。更に,前記様々な層の特徴が,互いに異なっていてもよい。例えば,ある層が可視光領域内で情報を見るか又は表示するのに使用される一方で,第2の層が紫外光に応答するか又はこれを発してもよい。又は,この不可視層が,前述の放射線吸収又は放射特性を有する非電子インクを使用した材料から構成されていてもよい。本発明に用いられる電子インクは,好適には,証印の表示の維持に電力を必要としない特性を有する。前記電子インク及び作動格子層44への使用に適した支持層は,前記電子インクと親和性のいかなる適切な材料であってもよく,Mylar(登録商標),Kapton(登録商標),リグノセルロース材料,プラスチック,非導電性ポリマーなどが含まれる。」

(ウ)「【0041】
電子ラベル16の層は,可鍛性の,柔軟な又は不撓性のラベルを形成するための任意の適切な材料で形成可能である。一実施例によれば,1つ又は複数の層を,プラスチック,Mylar(登録商標),Kapton(登録商標),パルプを使用した又はPETを使用した材料,或いはその他の電子インクの使用又は支持に適した材料から形成してもよい。本発明での使用に適した更なる材料の例には,金属,非金属,セラミック,例えば紙,厚紙,布などのパルプ使用製品,及び様々な材料の組合せが含まれる。電子ラベル16の各層が異なる材料から形成されていてもよく,また電子インクの支持層或いは1つ又は複数のその他の層が,不透明,透明,有色,柔軟,硬質,ねじれ可能又は屈曲可能であってもよいことは,当業者に認識されよう。更に,ラベル16の,ディスプレイ,プロセッサ,メモリ,アンテナ,電力変換器及びその他の部品などの異なる複数の部品が,異なる複数の層又は場所に分散されていてもよいし,或いは,前記ラベル内の前記複数の層にわたって異なる方法で共在又は混在していてもよい。図示されたラベル16は,ある順序に並んだ一連の層として示されているが,これらの層が,積層ラベル16全体にわたって異なる方法で分散していてもよい。ここに記載のラベル16の複数の層の機能及び製造工程を組み合わせて,層の数を減らしてもよいし,或いは,分割して層の数を維持するか又は増やしてもよい。
【0042】
好適な一実施例においては,前記積層電子ラベルは,弾性かつ柔軟であり,従来の印刷ラベルを物体に取り付ける場合と同様に,様々な物体に取り付けられる。前記ラベルは,前記ラベル上の表示を損なうことなく,前記物体に適合した形状となる。前記ラベルは,特定の表示を無期限に保持し,一定時間の経過後又は表示を更新するように命令された場合にのみ,表示を変更する。前記ラベルは,耐久性があり,衝撃に対して超安定であり,様々な用途において再使用可能である。更に,前記ラベルは,比較的薄く形成されているので,柔軟であり,小型で目立たない構造である。従って,前記ラベルをある物体に取り付ける場合に,前記物体の体積又は重量が増えることがない。好適な一実施例によれば,前記積層電子ラベルの厚さは,前記ラベルに使用されるイメージング材料又は電子インクの種類によって異なるが,約100ミクロン乃至約2000ミクロンである。
【0043】
本発明の電子ラベル16の注目すべき利点は,前記電子ラベルが,ある物品の一部分として形成可能な,遠隔操作によって更新可能な,遠隔操作によって変更可能な,柔軟な電子表示装置であるか,又はある物品に関して選択された情報を表示するために使用可能であるという点である。前記双安定な,不揮発性の電子ラベル16の別の一利点は,前記電子ラベルが,ディスプレイアッセンブリ30上の選択された証印の表示を維持するために電源を必要としないか,又は電力を必要とするという点である。前記ラベルは,電力を必要としない無限メモリを有する。詳細には,前記電子インクによって形成される証印は,前記選択された証印を維持するための電力を必要としない。従って,作動装置モジュール18が電子ラベル16への電力信号の送信を中断又は停止した場合でも,前記ラベルは,前記変化した証印を,人及び/又は機械による読み取りの可能な形で維持することが可能である。
……(中略)……
【0049】
ラベル16に,前記ラベルを物品,場所又は任意のその他の適切な支持体に固定するための固定機構が含まれていてもよい。前記固定機構は,固定層55として概略的に図示されており,いかなる適切なサイズ,形状及び構成を有してもよい。詳細には,ラベル16は,一般には固定層55として表されるべく意図された,数多くの公知の機械的及び非機械的固定技術に基づき,物品又は場所に固定されていてもよい。前記固定層は,粘着性の支持体又は適切な接着剤であってもよいし,或いは,ファスナ,縫い付け,織り込み,縫い綴じ,積層,スナップ留め,ピン留め,タッキング,ループ及びフック式の装置及びクリップ留めなどによる前記ラベルの物品又は支持体への固定を一般に表してもよい。前記ラベルは,自立性であっても,又は一般に機械的に支持されていてもよい。前記固定層は,前記物品に一時的に取り付けられていても永久的に取り付けられていてもよく,また,その一部又は全体が前記物品又はラベルから形成されていてもよい。例えば,固定層55を,棚用タグ,つり下げタグ,盗難防止ラベル(電子ラベル監視)又は電子商品監視(EAS)セキュリティ装置の一部を形成すべく使用してもよい。別の一実施例によれば,前記ラベルが前記物品又は場所と一体的に形成されているるか,前記物品から形成されているか,或いは前記物品と同じ原料又は材料から形成されていることにより,固定層55が不要な構成であってもよい。」

(エ)「【0060】
図8Bは,ラベル16が,棚90ではなく缶詰商品の外表面89上に取り付けられた,別の取付形態を図示したものである。前記ラベルが,数及び価格14Bやバーコード14Bなどの,前記缶詰商品に関する証印14を表示してもよい。前記ラベルが,前記缶の紙ラベル又は包装の一体的な部分であってもよい。前記空白のラベルが,糊付け,縫い付け,織り込み,縫い綴じ,積層,スナップ留め,ピン留め,タッキング,クリップ留めなどの任意の標準的な方法で,前記物品に固定されていてもよい。前記ラベルに表示される情報証印が,店員が持っていても,又は前記店舗のコンピュータ・システムの一部として形成又は接続されていてもよい作動装置モジュール18によって作動されてもよい。1つ又は複数の固定型作動装置によって,持ち運び式の作動装置モジュールが不要であるように,前記小売店が配線されていてもよい。特価又は店長の特別割引きなどの価格の変化を反映させるべく,前記店舗内の1つ又は複数のラベルに表示される前記証印を変化させるために,ラベルシステム10を用いてもよい。前記システムはこうして,前記ラベルに表示される人又は機械による読み取りの可能な証印を,比較的容易かつ短時間に変化させる。このように,このシステムでは,各物品又は物品群に関して表示される古い情報を手動で削除する必要がない。」

(3)対比
ア 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「電池式電子棚ラベルであるESL122」は,「アイテムの価格等の表示情報」を表示する「ラベルである」から,「電池」で駆動される値札すなわちタグであり,したがって,以下に挙げる相違点を除き,補正発明の「電子ラベルタグ(100)」に相当する。
そうすると,引用発明の「ホスト・コンピュータ102を含み,電池式電子棚ラベルであるESL122を複数個使用する取引管理システム100」は,補正発明の「電子ラベルタグシステム」に相当する。

(イ)引用発明の「低データレート受信機210」は,「宛先である特定のESLを識別するアドレスと,コマンド及び関連するデータ部分を含むデータ構成要素とを有する前記ビーコン・メッセージを受信する」と,「前記ビーコン・メッセージ」のうち「前記コマンド及び前記データ部分を前記マイクロプロセッサ220に転送」するものであり,「宛先である特定のESLを識別するアドレス」を転送することは記載されていない。
ここで,引用発明の「ビーコン・メッセージ」は「特定のESLに表示情報を更新する必要があることを知らせるため」のメッセージであることを考慮すると,前記「低データレート受信機210」は,「受信」した「ビーコン・メッセージ」が自身の「ESL122」に宛てられたことを,当該「ビーコン・メッセージ」が有する「宛先である特定のESLを識別するアドレス」を用いて判定していると認められる。
そうすると,引用発明の「低データレート受信機210」は,上記の判定のために,自身の「ESLを識別する」情報を有していることは明らかである。
これに対して,本願明細書に「機械可読識別子モジュールは電子ラベルタグのID番号を含む。」(段落【0028】)と記載されているから,本願明細書には,「機械可読識別子モジュール」は「電子ラベルタグのID番号を含む」モジュールであることが記載されていると認められる。
したがって,引用発明の「ESL122」の部品である「低データレート受信機210」は,補正発明の「機械可読識別子モジュール」に相当する。

(ウ)引用発明の「前記ホスト・コンピュータ102からアイテムの価格等の表示情報を受信し,この表示情報を永続メモリ250に転送する高データレート・トランシーバ230」において,「アイテム」は,「価格」を有し「店舗の棚」に陳列されるから,補正発明の「製品」に相当し,「アイテムの価格等の表示情報」は補正発明の「製品関連情報」に相当する。
したがって,引用発明の「ESL122」の部品である前記「高データレート・トランシーバ230」は,補正発明の「製品関連情報を受信するための通信モジュール」に相当する。

(エ)そして,引用発明の「ESL122」の部品である「前記永続メモリ250内に格納している前記表示情報により更新される,双安定型表示装置である表示装置240」は,補正発明の「製品関連情報を表示するためのディスプレイモジュール」に相当する。

(オ)引用発明においては「ESL122」が「通常,前記アイテムに隣接する店舗の棚に取り付けられ」るところ,「店舗の棚」の構造は通常は店舗毎に異なることを踏まえると,引用発明の「ESL122」を店舗の棚に取り付けるための構成は「ESL122」側に備えられていると認められる。
したがって,引用発明において「ESL122」が「通常,前記アイテムに隣接する店舗の棚に取り付けられ」ることと,補正発明において「該電子ラベルタグ(100)」は「該電子ラベルタグを製品(201)に取り付けるための取り付け手段を更に備え」ることとは,「該電子ラベルタグ(100)」は「該電子ラベルタグ」を「取り付けるための取り付け手段を更に備え」る点で共通する。

(カ)引用発明において,「表示情報により前記表示装置240を更新させる場合」には,「前記低データレート受信機210」が受信した「前記ビーコン・メッセージ」の「コマンド部分」に基づいて「前記コマンド部分を処理した前記マイクロプロセッサ220」が「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いる。
この態様は,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いると言い得るものである。
ここで,第2の4(2)ア(ウ)で摘記したように,引用例1には「数マイクロ秒で作動すなわち覚醒する」(段落【0013】)と記載され,引用発明において「作動」は「覚醒」と同義であると認められる。
そして,デジタル回路技術において「起動」とは,電源を入れて実際に操作ができる状態にする動作を意味する。
したがって,引用発明において,「表示情報により前記表示装置240を更新させる場合」には,「前記低データレート受信機210」が受信した「前記ビーコン・メッセージ」の「コマンド部分」に基づいて「前記コマンド部分を処理した前記マイクロプロセッサ220」が「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いることと,補正発明において,「前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」こととは,「前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて」,「前記通信モジュール」を「起動する」とともに,「前記ディスプレイモジュール」を「起動する」点で共通する。

イ 一致点と相違点
以上を総合すると,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「電子ラベルタグシステムのための電子ラベルタグ(100)であって,該電子ラベルタグ(100)は,
機械可読識別子モジュールと,
製品関連情報を受信するための通信モジュールと,
製品関連情報を表示するためのディスプレイモジュールと,
を備え,該電子ラベルタグ(100)は,
該電子ラベルタグを取り付けるための取り付け手段を更に備え,
前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュールを起動するとともに,前記ディスプレイモジュールを起動するように構成されることを特徴とする,電子ラベルタグ。」
である点で一致し,次の各点で相違する。

(相違点)
(相違点1)
補正発明は,電子ラベルタグを「製品(201)に」取り付けるのに対して,引用発明は,「ESL122」を「通常,前記アイテムに隣接する店舗の棚に取り付け」る点。
(相違点2)
補正発明は「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」のに対して,引用発明は「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いる点。

(4)各相違点についての当審の判断
ア 相違点1について
(ア)引用発明の「前記ESL122」は「通常,前記アイテムに隣接する店舗の棚に取り付けられ」る。
しかしながら,引用発明の「前記ESL122」が有する「表示装置240」には「アイテムの価格等の表示情報」という前記「アイテム」に固有の情報が表示される。
そうすると,「店舗の棚」には普通,複数の「アイテム」が陳列されることを考慮すると,「前記ESL122」を「アイテムに隣接」させて「店舗の棚に取り付け」るよりも,「アイテム」自体に取り付けた方が,より直接的で購入者に分かりやすいことは,現に紙のタグを「アイテム」自体に取り付けることが広く行われていることから,当業者が普通に察知すると認められる。

(イ)一方,第2の4(2)ウ(ア)?(エ)で摘記したように,引用例2には,「ディスプレイ,プロセッサ,メモリ,アンテナ,電力変換器及びその他の部品などの異なる複数の部品が,異なる複数の層」(段落【0041】)に分散させたタグである電子ラベルにおいて,前記ディスプレイに表示させる「特価又は店長の特別割引きなどの価格の変化」(段落【0060】)等の価格情報を遠隔操作によって更新可能とするとともに,当該電子ラベルを公知の機械的及び非機械的固定技術に基づいて物品に固定することで,「前記電子ラベルが,ある物品の一部分として形成可能な,遠隔操作によって更新可能な,遠隔操作によって変更可能な,柔軟な電子表示装置であるか,又はある物品に関して選択された情報を表示するために使用可能である」(段落【0043】)という効果を奏することが記載されている。

(ウ)したがって,引用発明において,引用例2の記載を参酌して,相違点1に係る補正発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

イ 相違点2について
(ア)第2の3(2)アで検討したように,補正発明は,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に応じて,「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュール」を一度に「両方を起動する」という態様を包含している。
しかしながら,補正発明の「前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」という発明特定事項は,2つの「モジュール」の「起動」の関係を特定していないから,「前記機械可読識別子モジュール」が「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方」を,それぞれ「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて起動する」という態様も包含していると認められる。
そして,第2の4(3)ア(カ)で指摘したように,引用発明においても,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに「前記表示装置240を覚醒させて」いるものであり,この態様は,補正発明の「前記機械可読識別子モジュール」が「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方」を,それぞれ「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて起動する」という前記の態様に相当する。
そうすると,相違点2は実質的な相違点ではない。

(イ)次に,補正発明の「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」という発明特定事項は,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に応じて「前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュール」を一度に「両方を起動する」という態様を意味するとして検討する。

(ウ)引用例1には,第2の4(2)ア(イ)で摘記したように,「課題を解決するための手段」として「都合のよいことに,本発明は,高データレート・トランシーバを有するドット・マトリクス表示装置が必要とする大量の情報を受信する処理能力の利点と,コマンドを受動的に肯定応答するための低データレートの受信機の電力節約の利点を有する。」(段落【0006】)と記載されている。
したがって,引用発明の「高データレート・トランシーバ230」は,「高データレート」に大量の情報を受信する処理能力,つまり,高速に大量の情報を受信する処理能力を有するものである。すなわち,引用発明において,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させて前記ホスト・コンピュータ102との通信を開始させ」てから「前記表示情報の受信が完了」するまでの時間は,ごく短いと認められる。
一方,第2の4(2)ア(ウ)で摘記したように,引用例1には「双安定型表示装置は,表示装置への電力をオフにした後でも,オン-スクリーン画像およびテキストのような情報を引き続き表示する。この表示装置は,表示情報が変化した場合だけ電力を使用する。」(段落【0014】)と記載されている。すなわち,引用発明において,「双安定型表示装置である表示装置240」が電力を消費するのは「前記永続メモリ250内に格納している表示情報により前記表示装置240を更新する」ときだけである。

(エ)以上から,引用発明において,「前記コマンド部分を処理した前記マイクロプロセッサ220」が「前記高データレート・トランシーバ230を作動させて前記ホスト・コンピュータ102との通信を開始させ,前記表示情報の受信が完了した場合に前記表示装置240を覚醒させて前記永続メモリ250内に格納している表示情報により前記表示装置240を更新する」ように制御する代わりに,「前記コマンド部分を処理した前記マイクロプロセッサ220」が「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに「前記表示装置240を覚醒させ」,「前記表示情報の受信が完了した場合」に「前記永続メモリ250内に格納している表示情報により前記表示装置240を更新する」ように制御しても,引用発明の「ESL122」が消費する電力の総量に実質的な差異はないと認められる。

(オ)そうすると,引用発明において,相違点2に係る補正発明の構成を採用することは,制御の容易さと「高データレート・トランシーバ230」及び「表示装置240」の性能に応じて,当業者が適宜になし得たものと認められる。

ウ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人の主張
審判請求人は,審判請求書において,
・「本発明は,「機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に対する「前記通信モジュール及び/又は前記ディスプレイを起動する」との直接的応答を提供するものであります。それとは対照的に,引用文献1では,「低データレート受信機210がコマンドを受信する」に対する応答である「表示装置240の作動」は,「高データレート・トランシーバ230が作動」を介しておりますので,間接的であります。斯かる点での本発明と引用文献1との違いを更に明確化するために,上記本発明の発明特定事項を「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」と補正致しました。」(主張1)
・「斯かる本発明の発明特定事項により,電子ラベルタグのモジュールは,機械可読識別モジュールによって起動及び/又は停止することができるので,タグが店舗に配送されているときの状況のようにタグが用いられていないとき,エネルギー消費を最小限にすることができるとの技術的効果を達成することが出来ます。引用文献1乃至5はそのような技術的効果を達成することは出来ません。」(主張2)
と主張している。

(イ)主張1について
補正発明は,「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュールの両方を起動する」ことを特定しているだけで,「機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」で直接的に「前記通信モジュール及び/又は前記ディスプレイを起動する」ことを特定していない。したがって,補正発明が審判請求人が主張する「直接的応答」を提供しているとは認められない。
次に,上記の「引用文献1では,「低データレート受信機210がコマンドを受信する」に対する応答である「表示装置240の作動」は,「高データレート・トランシーバ230が作動」を介しておりますので,間接的であります。」という主張を参酌すると,審判請求人は,「前記ディスプレイモジュール」の「起動」は,「機械可読識別子モジュールが受信したコマンド」に応じてなされるのであって,「前記通信モジュール」の「起動」に応じてなされる「間接的」なものでないと主張していると解される。
しかし,第2の4(3)ア(カ)で指摘したように,引用発明においても,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いると言い得るものであり,この意味で,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に対する引用発明の「前記高データレート・トランシーバ230」及び「前記表示装置240」の動作は,審判請求人が主張する「間接的」な応答ではない。
なお,引用発明は,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」を処理した「マイクロプロセッサ220」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」おり,前記「マイクロプロセッサ220」を介して「作動」及び「覚醒」がなされるという意味において間接的応答である。しかしながら,本願明細書の段落【0025】には「電子ラベルタグの制御電子回路を形成する」バックプレーン層103を有することが記載されており,当該制御電子回路が補正発明の「通信モジュール」と「ディスプレイモジュール」の動作を制御していると認められる。そうすると,本願明細書に記載された「通信モジュール」と「ディスプレイモジュール」の動作も間接的応答であると認められる。
以上から,審判請求人の「本発明」は「直接的応答を提供」しているという主張1は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,また,本願明細書及び引用例1の記載を正解しないものであり,採用することができない。

(ウ)主張2について
主張1の検討で指摘したように,引用発明においても,「前記低データレート受信機210」が受信した「コマンド部分」に応じて,「前記高データレート・トランシーバ230を作動させ」るとともに,「前記表示装置240を覚醒させて」いると言い得るものである。また,第2の4(4)イで検討したように,エネルギー消費量は,引用発明と補正発明とで,実質的な差異はないか同一であると認められる。
そうすると,審判請求人が主張している技術的効果は,引用発明も達成できるものと認められる。
したがって,審判請求人の主張2は採用することはできない。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上から,補正発明は,引用例2の記載を参酌すれば,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして,補正発明の効果も,引用例2の記載を参酌すれば,引用発明から当業者が予期し得たものと認められる。
よって,補正発明は,特許法第29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 小括
以上検討したとおり,本件補正は,特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
そして,仮に本件補正が特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項の規定に適合するとしても,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年8月1日に提出された手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?20に係る発明は,平成29年1月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものであり,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は再掲すると次のとおりのものである。
「電子ラベルタグシステムのための電子ラベルタグ(100)であって,該電子ラベルタグ(100)は,
機械可読識別子モジュールと,
製品関連情報を受信するための通信モジュールと,
製品関連情報を表示するためのディスプレイと,
を備え,該電子ラベルタグ(100)は,
該電子ラベルタグを製品(201)に取り付けるための取り付け手段を更に備え,
前記機械可読識別子モジュールは,該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドに応じて,前記通信モジュール及び/又は前記ディスプレイを起動するように構成されることを特徴とする,電子ラベルタグ。」

2 引用例及び引用発明
引用例1及び引用例2の記載事項は,第2の4(2)ア及びウで摘記したとおりである。
また,引用発明は,第2の4(2)イで認定したとおりのものである。

3 対比・判断
(1)第2の3(1)イ,及び,第2の3(2)イで検討したように,本件補正後の請求項1に係る発明(すなわち,補正発明)は,本件補正前の請求項1に係る発明(すなわち,本願発明)に対して,
ア「ディスプレイ」を「ディスプレイモジュール」と補正することで,当該「ディスプレイモジュール」が,「ディスプレイ」というまとまりある機能を持つ構成単位として実装されていることを限定するとともに,
イ「該機械可読識別子モジュールが受信したコマンドにより,前記通信モジュール及び前記ディスプレイモジュール」の「両方」を「起動する」ことを限定するものである。
したがって,本願発明は,補正発明から上記ア及びイの限定をなくしたものである。

(2)そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである補正発明が,第2の4(3)及び(4)において検討したとおり,引用例2の記載を参酌すれば,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例2の記載を参酌すれば,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして,本願発明の効果も,引用例2の記載を参酌すれば,引用発明から当業者が予期し得たものと認められる。


第4 結言
以上のとおりであるから,本願発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-28 
結審通知日 2018-03-01 
審決日 2018-03-14 
出願番号 特願2015-504994(P2015-504994)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06K)
P 1 8・ 121- Z (G06K)
P 1 8・ 561- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 甲斐 哲雄  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 大嶋 洋一
鈴木 匡明
発明の名称 電子ラベルタグ及び電子ラベルタグシステム  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 岡部 讓  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ