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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C |
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管理番号 | 1342713 |
審判番号 | 不服2017-9141 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-22 |
確定日 | 2018-08-01 |
事件の表示 | 特願2012-192583「磁場を利用した端末の位置測定方法及び装置並びにコンピュータ読み取り可能な記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年3月21日出願公開、特開2013-54033〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年8月31日(パリ条約による優先権主張2011年9月2日、韓国)の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成28年 6月27日:拒絶理由通知 平成28年 9月30日:意見書 平成28年 9月30日:手続補正書 平成29年 2月21日:拒絶査定 平成29年 6月22日:審判請求 平成29年 6月22日:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 平成29年10月11日:上申書 第2 平成29年6月22日の手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成29年6月22日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 1 本件補正について (1) 本件補正後の特許請求の範囲 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 端末が位置する領域の磁場マップを受信するステップと、 前記端末に含まれて第1情報及び第2情報を各々検出する第1センサ及び第2センサの各々から検出された値を受信するステップと、 前記磁場マップ、前記第1センサによって検出された第1情報、及び前記第2センサによって検出された第2情報に基づいて前記端末の位置を測定するステップと、を有し、 前記磁場マップは、前記端末が位置する領域を含む地域、前記地域に含まれた建物、及び前記建物に含まれた区域に対する磁場マップに関する情報を含み、 前記端末の位置を測定するステップは、 前記第1センサによって検出された第1情報及び前記第2センサによって検出された第2情報を組み合せるステップと、 前記組み合せた結果から前記端末の位置に対する少なくとも2つの成分を分離するステップと、 前記磁場マップに前記分離された少なくとも2つの成分をマッチングして前記端末の位置を測定するステップと、 を含み、 前記少なくとも2つの成分は、前記端末の位置に対する磁場の垂直成分と水平成分とを含むことを特徴とする磁場を利用した端末の位置測定方法。」 (2) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成28年9月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 端末が位置する領域の磁場マップを受信するステップと、 前記端末に含まれて第1情報及び第2情報を各々検出する第1センサ及び第2センサの各々から検出された値を受信するステップと、 前記磁場マップ、前記第1センサによって検出された第1情報、及び前記第2センサによって検出された第2情報に基づいて前記端末の位置を測定するステップと、を有し、 前記磁場マップは、前記端末が位置する領域を含む地域、前記地域に含まれた建物、及び前記建物に含まれた区域に対する磁場マップに関する情報を含むことを特徴とする磁場を利用した端末の位置測定方法。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「端末の位置を測定するステップ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2) 引用文献の記載及び引用発明 ア 引用文献1の記載事項 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2009-289145号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面(特に、図1ないし図3参照)とともに記載されている。 (ア)「【0001】 本発明は、無人で走行するロボット、車輌等の移動体が、自己位置を認識するのに好適な方法及び装置に関するものである。」(段落【0001】。下線は、理解の一助のために当審で付した。以下同様。) (イ)「【0008】 本発明は、ロボット等の移動体が移動する環境に依存する磁気とこの磁気が測定された位置とを対応付けて記憶する。そして本発明は、対応付けられた情報である磁気-位置情報と、自己位置を認識する際に測定される磁気とを対比することにより自己位置を認識する。 すなわち移動体が自己の位置を認識するための本発明の方法は、移動体が移動する環境において基準磁気を測定し、基準磁気と基準磁気が測定された位置とが対応付けられた磁気-位置情報を予め記憶するステップ(a)と、前記環境において、移動体が備える磁気センサにより実測磁気を測定するステップ(b)と、ステップ(a)で記憶された磁気-位置情報の基準磁気と、ステップ(b)により測定された実測磁気と、を対比して磁気-位置情報から実測磁気が測定された位置を特定するステップ(c)と、を備えることを特徴とする。 本発明の自己位置認識方法は、環境に依存する磁気を利用して自己位置を認識できるので、磁気マーカを新たに設置する作業が不要である。」(段落【0008】) (ウ)「【0011】 本発明の自己位置認識方法のステップ(c)において、磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチングすることにより、磁気-位置情報と実測磁気との対比を行うことが好ましい。磁気-位置情報から実測磁気が測定された位置を精度よく特定できるからである。」(段落【0011】) (エ)「【0015】 以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。 図1は、本実施の形態における車輪型の移動ロボット(移動体、以下単にロボットという)1の概略構成を示す側面図である。 ロボット1は、箱状の本体2の前後方向中央下部に左右一対の駆動輪3,4を備えると共に、本体2のほぼ四隅下部に夫々補助輪5を備えている。また、本体2の前方(図中右側)側面には磁気・ジャイロセンサ20及びCCDカメラ30が設置されている。磁気・ジャイロセンサ20及びCCDカメラ30は、本体2の内部に設置された制御部10と電気的に接続されている。 磁気・ジャイロセンサ20は、互いに直交する3軸に沿った直流磁気(以下、単に磁気)を測定できる。ここで、3軸は、ロボット1の進行方向に沿ったX軸、床面に平行でX軸に直行するY軸、鉛直方向に平行でX軸に直行する方向をZ軸とからなる。測定される磁気は、後述する磁気-位置情報の作成及び自己位置認識に用いる。磁気・ジャイロセンサ20は、磁気の他に、角速度を測定できる。角速度はロボットの直進走行制御に用いることができる。本実施形態では、磁気センサとジャイロセンサとが一体となった磁気・ジャイロセンサ20を用いた例を示しているが、各々を別体として設けることもできる。 【0016】 図2は、ロボット1の制御系の構成を示すブロック図である。 図2において、各駆動輪3,4は、夫々駆動モータ6,7により図示しない減速機を介して回転駆動されるようになっている。また、駆動モータ6,7には、駆動輪3,4の回転速度(回転数)を検出するためのエンコーダ8,9が夫々付設されている。さらに、これら駆動モータ6,7は、走行コントローラ11により、モータ駆動回路12を介して夫々独立して駆動制御されるようになっている。走行コントローラ11は、駆動モータ6,7を異なる回転数で回転させることにより、ロボット1の向きを変えることができる。 【0017】 走行コントローラ11は、例えば、CPU、ROM、RAM等及び入出力回路等を備えたコンピュータから構成され、位置特定手段11a、記憶手段11bを有している。 走行コントローラ11は、磁気・ジャイロセンサ20で測定された磁気(基準磁気)と、この磁気が測定された位置とを対応付けて記憶手段11bに記憶する。対応付けられたデータ(磁気-位置情報)は、ロボット1が自己位置を認識するのに先立って、予め記憶手段11bに記憶される。記憶手段11bには、走行コントローラ11が行う種々の制御に関するプログラムが記憶されている。 走行コントローラ11の位置特定手段11aは、ロボット1が自己位置を認識する際に、磁気・ジャイロセンサ20で測定された磁気(実測磁気)を取得する一方、記憶手段11bに記憶されている磁気-位置情報を読み出す。位置特定手段11bは、読み出した基準磁気と、取得した実測磁気と、を対比して実測磁気が測定された位置を特定する。 走行コントローラ11は、エンコーダ8,9で検出した駆動輪3,4の回転数に基づいて、公知のデッド・レコンニング法により自己位置を認識し、また、所定の径路に沿ってロボット1が移動するように駆動モータ6,7を制御するが、この点は公知技術であるから、詳細は省略する。 【0018】 図3に、磁気-位置情報のデータ構造の一例を示す。 図3に示すように、磁気-位置情報は、二次元座標(x,y)上の任意の位置と、当該位置における磁気(基準磁気)とが対応付けられている。つまり、位置(x_(1),y_(1))において測定された基準磁気が、Magx_(1)、Magy_(1)、Magz_(1)であり、また、位置(x_(2),y_(2))において測定された基準磁気が、Magx_(2)、Magy_(2)、Magz_(2)であることを図3は示している。なお、Magx_(1)は磁気・ジャイロセンサ20のX軸に沿った磁気の強度、Magy_(1)は磁気・ジャイロセンサ20のY軸に沿った磁気の強度、Magz_(1)は磁気・ジャイロセンサ20のZ軸に沿った磁気の強度を示している。」(段落【0015】ないし【0018】) (オ)「【0036】 以上説明した本実施の形態は、建屋内を移動するロボット1を想定しているが、本発明はこれに限定されない。磁気が発生しており、かつこの磁気の変動がないか又は小さい環境であれば、屋外であっても本発明の自己位置認識方法を実施できる。」(段落【0036】) (カ)上記(イ)ないし(エ)及び図面の記載より分かること a 上記(イ)及び(エ)の記載によれば、磁気-位置情報を予め記憶するステップは、磁気-位置情報を測定によって取得し予め記憶するステップであること、及び、実測磁気を測定するステップは、位置特定手段11aが、磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気を取得するステップであることが分かる。 b 上記(イ)ないし(エ)及び図3記載によれば、実測磁気が測定された位置を特定するステップは、磁気-位置情報と磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気との対比を行うことで実測磁気が測定された位置を特定するステップであり、該ステップは、磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチングして実測磁気が測定された位置を特定するステップを含むこと、及び、実測磁気のデータ列は、互いに直交する3軸に沿った磁気、即ち、X軸の磁気、Y軸の磁気、及び、Z軸の磁気を含むことが分かる。 イ 引用発明 上記(ア)ないし(エ)及び(カ)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「移動体が移動する環境の磁気-位置情報を測定によって取得し予め記憶するステップと、 移動体に設置されて磁気を測定する磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気を取得するステップと、 磁気-位置情報及び磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気に基づいて実測磁気が測定された位置を特定するステップと、を備え、 前記実測磁気が測定された位置を特定するステップは、 磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチングして実測磁気が測定された位置を特定するステップを含み、 実測磁気のデータ列は、X軸の磁気、Y軸の磁気、及び、Z軸の磁気を含む、移動体が自己の位置を認識するための方法。」 ウ 引用文献2の記載事項 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2006-300921号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「【0003】 このように地球磁気を測定して方位角を出力するには、地球磁気を測定するための2軸の地磁気センサーだけがあれば可能である。しかしながら、これは、地磁気センサーが地球表面と水平な場合にのみ可能で、地磁気センサーが地球表面の水平方向から傾くと方位角測定において誤差が生じてしまう。この誤差は、地磁気センサーの傾いた角度に比例して大きくなる。」(段落【0003】) (イ)「【0005】 このような地磁気センサーの傾き(tilt)による方位角誤差を補償するためには、3軸の地磁気センサーと2軸の加速度センサーが必要とされる。この場合、3軸地磁気センサーは、3次元空間に存在する地球磁気の大きさと方向を正確に測定する役割を担い、加速度センサーは、地磁気センサーの各軸がどれくらい傾いているかを測定し、傾きを補償する傾き角を測定する機能を担う。すなわち、加速度センサーは、地球重力を測定し、地球重力の各軸における変化を測定することによって、地磁気センサーの傾き度合を測定する。 【0006】 上に述べたように、地磁気センサーの傾きを補償するには3軸の地磁気センサーが必要であるが、3軸の地磁気センサーは、センサーの物理的特性のために製造し難く、製造後にもセンサーの各軸に対する補償が複雑なので商用化し難いという制限がある。そこで、近来は、2軸地磁気センサーを用いる傾き補償方法の研究が台頭してきた。」(段落【0005】及び【0006】) (ウ)上記(ア)及び(イ)から分かること 上記(ア)及び(イ)の記載によれば、3軸地磁気センサーが測定した3軸の磁気情報と加速度センサーが測定した傾きとを用いて、傾きを補償した3軸の磁気情報を算出することが分かる。 エ 引用文献2技術 上記(ア)ないし(ウ)を総合すると、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2技術」という。)が記載されている。 「3軸地磁気センサーが測定した3軸の磁気情報と加速度センサーが測定した傾きとを用いて、傾きを補償した3軸の磁気情報をそれぞれ算出する技術。」 (3) 対比・判断 本件補正発明と引用発明とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明における「移動体」は、本件補正発明における「端末」に相当し、以下同様に、「移動体が移動する環境」は「端末が位置する領域」に、「磁気-位置情報」は「磁場マップ」に、「設置され」ることは「含まれ」ることに、「測定」することは「検出」することに、「測定された実測磁気」は「検出された値」に、「測定された実測磁気を取得」することは「検出された値を受信」することに、「実測磁気が測定された位置」は「端末の位置」に、「特定する」ことは「測定する」ことに、「備え」ることは「有」することに、「線形マッチング」は「マッチング」に、「磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチング」することは「磁場マップに」「少なくとも2つの成分をマッチング」するに、「Z軸の磁気」は「端末の位置に対する磁場の垂直成分」に、「X軸の磁気」及び「Y軸の磁気」は「端末の位置に対する磁場の」「水平成分」に、それぞれ相当する。 引用発明における「実測磁気のデータ列」は、X軸の磁気、Y軸の磁気、及び、Z軸の磁気を含むものであるから、本件補正発明における「少なくとも2つの成分」に相当し、引用発明における「移動体が自己の位置を認識するための方法」は、磁場を利用していることは明らかであるから、本件補正発明における「磁場を利用した端末の位置測定方法」に相当する。 引用発明における「磁気-位置情報を」「測定によって取得し予め記憶する」ことは、本件補正発明における「磁場マップを」「受信する」ことと、「磁場マップを」「用意する」という限りにおいて共通している。 引用発明における「磁気」は、本件補正発明における「第1情報」及び「第2情報」と、「情報」という限りにおいて共通し、引用発明における「磁気・ジャイロセンサ20」は、本件補正発明における「第1センサ」及び「第2センサ」と、「センサ」という限りにおいて共通しているから、引用発明における「移動体に設置されて磁気を測定する磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気を取得するステップ」は、本件補正発明「端末に含まれて第1情報及び第2情報を各々検出する第1センサ及び第2センサの各々から検出された値を受信するステップ」と、「端末に含まれて情報を検出するセンサから検出された値を受信するステップ」という限りにおいて共通している。 引用発明における「磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気」は、本件補正発明における「第1センサによって検出された第1情報、及び第2センサによって検出された第2情報」と、「センサによって検出された情報」という限りにおいて共通している。 また、引用発明における「磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチングして実測磁気が測定された位置を特定するステップ」は、本件補正発明における「磁場マップに分離された少なくとも2つの成分をマッチングして端末の位置を測定するステップ」と、「磁場マップに少なくとも2つの成分をマッチングして端末の位置を測定するステップ」という限りにおいて共通している。 してみると、本件補正発明と引用発明とは、 「端末が位置する領域の磁場マップを用意するステップと、 前記端末に含まれて情報を検出するセンサから検出された値を受信するステップと、 前記磁場マップ、前記センサによって検出された情報に基づいて前記端末の位置を測定するステップと、を有し、 前記端末の位置を測定するステップは、 前記磁場マップに少なくとも2つの成分をマッチングして前記端末の位置を測定するステップと、 を含み、 前記少なくとも2つの成分は、前記端末の位置に対する磁場の垂直成分と水平成分とを含む磁場を利用した端末の位置測定方法。」の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 「端末が位置する領域の磁場マップを用意するステップ」において、本件補正発明は、磁場マップを「受信」するのに対し、引用発明は、磁気-位置情報を測定によって取得し予め記憶する点(以下、「相違点1」という。)。 (相違点2) 本件補正発明は、端末に含まれて「第1情報及び第2情報を各々検出する第1センサ及び第2センサの各々」から検出された値を受信するステップと、 磁場マップ、「前記第1センサによって検出された第1情報、及び前記第2センサによって検出された第2情報」に基づいて前記端末の位置を測定するステップと、を有し、 前記端末の位置を測定するステップは、 「前記第1センサによって検出された第1情報及び前記第2センサによって検出された第2情報を組み合せるステップと、 前記組み合せた結果から前記端末の位置に対する少なくとも2つの成分を分離するステップと」、 前記磁場マップに「前記分離された」少なくとも2つの成分をマッチングして前記端末の位置を測定するステップと、を含むのに対し、 引用発明は、移動体に設置されて磁気を測定する磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気を取得するステップと、 磁気-位置情報及び磁気・ジャイロセンサ20で測定された実測磁気に基づいて実測磁気が測定された位置を特定するステップと、を備え、 前記実測磁気が測定された位置を特定するステップは、 磁気-位置情報の基準磁気のデータ列と実測磁気のデータ列とを線形マッチングして実測磁気が測定された位置を特定するステップを含む点(以下、「相違点2」という。)。 (相違点3) 本件補正発明は、磁気マップが「端末が位置する領域を含む地域、前記地域に含まれた建物、及び前記建物に含まれた区域に対する磁場マップに関する情報を含」むのに対し、引用発明は、磁気-位置情報がかかる情報を含むのか不明である点(以下、「相違点3」という。)。 まず、相違点1について検討する。 引用発明は、移動体が磁気-位置情報を測定によって取得し予め記憶するものであるが、例えば、同じ環境で複数の移動体が移動する場合に、磁気-位置情報を記憶している移動体が1台あれば、他の移動体は測定をせずに、磁気-位置情報を記憶している前記移動体から、磁気-位置情報を通信で取得すること、すなわち、受信することは、常套手段であり、必要に応じて適宜なし得ることである。また、既に磁気-位置情報が作成されているときにも、同様のことがいえる。 そうすると、引用発明において、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 本件補正発明と引用文献2技術とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明2における「3軸地磁気センサー」は、本願発明における「第1センサ」に相当し、以下同様に、「測定」することは「検出」することに、「3軸の磁気情報」は「第1情報」に、「加速度センサー」は「第2センサ」に、「傾き」は「第2情報」に、「傾きを補償した3軸の磁気情報」は「少なくとも2つの成分」に、それぞれ、相当する。 また、本願の明細書における 「【0030】 図3は、図1に示した端末の位置を測定する方法(ステップS111)の一例を示すフローチャートである。図3では、第1センサで磁場センサを用い、第2センサで加速度センサを利用した場合に、角度センサ値を用いて端末の位置を測定する方法を示す。 【0031】 端末の位置を測定する前に、位置測定装置は、ステップS109を介して第1センサ及び第2センサの各々からセンサ値を取得する。 【0032】 位置測定装置が第1センサの磁場センサから取得した磁場情報は、下の数式(1)のように磁場ベクトル(m)で表すことができる。 【0033】 【数1】 m=(m_(x),m_(y),m_(z)) ・・・・・・(1) 【0034】 ここで、m_(x)、m_(y)、m_(z)は、各々特定基準点(m)を基準軸とする磁場ベクトル(m)のx成分値、y成分値、及びz成分値を示す。 【0035】 また、位置測定装置が第2センサの加速度センサから取得した加速度情報は、下の数式(2)のように重力ベクトル(g)で表すことができる。ここで、加速度情報は、端末に含まれる加速度センサが停止状態の端末に対して測定した重力ベクトル(g)である。 【0036】 【数2】 g=(g_(x),g_(y),g_(z)), |g|=1・・・・・・(2) 【0037】 ここで、g_(x)、g_(y)、g_(z)は、重力ベクトル(g)のx成分値、y成分値、及びz成分値を示し、|g|=1は、g_(x)、g_(y)、g_(z)のノルム(norm)値、即ち重力ベクトル(g)の大きさが「1」で一定であることを示す。 【0038】 数式(2)の加速度情報は、加速度センサから取得したセンサ値にジャイロセンサから取得したセンサ値(即ち、ジャイロセンサ情報)などを追加して更に精密に補完した値であってもよい。 【0039】 角度センサ値を用いて端末の位置を測定する方法は次の通りである。 【0040】 位置測定装置は、磁場情報及び加速度情報を組合せて(ステップS301)、組合せた結果から端末の位置に対するそれぞれ異なる2つの成分(ここでは、端末の位置に対する磁場の垂直成分及び水平成分)を分離する(ステップS303)。 【0041】 位置測定装置は、組合せた磁場情報(ここでは、磁場ベクトル(m))及び加速度情報(ここでは、重力ベクトル(g))から下の数式(3)のように地面に対して垂直な方向への磁場成分(m_(perp))及び地面に対して水平(平行)な方向への磁場成分(m_(parr))を算出して、各々を互いに分離する。 【0042】 【数3】 m_(perp)=m・g m_(parr)=|m-m_(perp)・g|」(段落【0030】ないし【0042】)との記載からみて、本件補正発明において、「第1情報」及び「第2情報」を「組み合わせる」ことは、第1情報及び第2情報を用いることを意味し、「組み合わせた結果から少なくとも2つの成分を分離する」ことは、少なくとも2つの成分をそれぞれ算出することを意味するものと解される。 そうすると、引用文献2技術における「3軸地磁気センサーが測定した3軸の磁気情報と加速度センサーが測定した傾きとを用い」ることは、本件補正発明における「第1センサによって検出された第1情報及び第2センサによって検出された第2情報を組み合せ」ることに相当し、また、引用文献2技術における「傾きを補償した3軸の磁気情報をそれぞれ算出する」ことは、本件補正発明における「組み合わせた結果から少なくとも2つの成分を分離する」ことに相当する。 してみると、引用文献2技術は、本件補正発明の用語を用いると、以下のものとなる。 「第1センサによって検出された第1情報及び第2センサによって検出された第2情報を組み合せて、組み合わせた結果から少なくとも2つの成分を分離する技術。」 引用発明及び引用文献2技術は、互いに直交する3軸の磁気を測定するという共通の機能を持つものであり、引用発明において、磁気・ジャイロセンサ20の測定値の精度を上げることは、当業者にとって当然内在する課題である。 そして、引用発明において、上記課題を解決するために、引用文献2技術を適用し、磁気・ジャイロセンサ20の傾きを補償して互いに直交する3軸の測定値を算出して、磁気-位置情報との線形マッチングを行って、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 最後に、相違点3について検討する。 上記「第5 1(5)」で示したように、引用文献1には、移動体が移動する環境は、建屋内に限られず、建屋の外も含むことができることが示唆されている。 してみると、引用発明において、移動体が移動する環境を、建屋を含む地域に拡大し、磁気-位置情報に、建屋を含む地域、建屋、及び、建屋内に関する情報を含ませて、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 まとめ 以上より、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし27に係る発明は、平成28年9月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)」に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特開2009-289145号公報 引用文献2.特開2006-300921号公報 3 引用文献に記載及び引用発明 引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献2に記載された技術(引用文献2技術)は、上記「第2 2(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本件補正発明から、上記「第2 1(1)」の下線部として示した限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 2(3)」及び「第2 2(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-03-01 |
結審通知日 | 2018-03-06 |
審決日 | 2018-03-19 |
出願番号 | 特願2012-192583(P2012-192583) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01C)
P 1 8・ 575- Z (G01C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 倉橋 紀夫 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 八木 誠 |
発明の名称 | 磁場を利用した端末の位置測定方法及び装置並びにコンピュータ読み取り可能な記録媒体 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |