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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1342767
審判番号 不服2016-6650  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-06 
確定日 2018-08-02 
事件の表示 特願2014-549290「高散乱スメクチック相液晶材料及びそれを用いた表示デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/097181、平成27年 3月12日国内公表、特表2015-507672〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年12月29日、(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成23年12月30日 :特許出願
平成27年 9月 2日付け:拒絶理由の通知
平成27年12月 4日 :意見書、誤訳訂正書の提出
平成28年 1月 5日付け:拒絶査定
平成28年 5月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年 8月 5日付け:前置報告
平成29年 5月24日付け:拒絶理由の通知
平成29年11月24日 :意見書、誤訳訂正書の提出

以下、平成29年5月24日付けで当審が通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」、平成29年11月24日に提出された誤訳訂正書による訂正を「誤訳訂正」ということがある。

2.本願発明について
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。まとめて、「本願発明」ということもある。)は、平成29年11月24日に提出された誤訳訂正書により誤訳訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願発明1は、以下のとおりのものと認められる。
「[請求項1]
二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物を含むことを特徴とする、高散乱スメクチック相液晶材料。
[化1]

一般式(III)
(一般式(III)において、
R_(6)はC_(1)-C_(10)のアルキル基又はC_(1)-C_(10)のアルコキシ基であり;
R_(7)はCN、NCS又はFであり;
E、Fは、独立して、
[化2]

からなる群から選ばれ;
X_(15)?X_(20)は、独立して、H又はFであり;
M_(5)、M_(6)は独立して0又は1である。)
[化3]

一般式(IV)
(一般式(IV)において、
R_(8)はC_(1)-C_(10)のアルキル基又はC_(1)-C_(10)のアルコキシ基であり;
R_(9)はCN、NCS又はFであり;
G、Hは、独立して、
[化4]

からなる群から選ばれ;
X_(21)?X_(22)は、独立して、H又はFであり;
M_(7)、M_(8)は独立して0又は1であり、且つM_(7)+M_(8)≧1である。)
[化5]

一般式(V)
(一般式(V)において、
R_(10)はC_(1)-C_(10)のアルキル基又はC_(1)-C_(10)のアルコキシ基であり;
R_(11)はCN、NCS又はFであり;
Iは、
[化6]

からなる群から選ばれる環構造であり;
X_(23)?X_(28)は、独立して、H又はFであり;
M_(9)は0又は1である。)
[化7]

一般式(VI)
(一般式(VI)において、
R_(12)はC_(1)-C_(10)のアルキル基又はC_(1)-C_(10)のアルコキシ基であり;
R_(13)はCN、NCS又はFであり;
J、Kは、
[化8]

からなる群から独立して選ばれる環構造であり;
Z_(4)は、単結合、-COO-、-C_(2)H_(4)-、
[化9]

からなる群から選ばれ;
X_(29)?X_(32)は、独立して、H又はFから選ばれ;
M_(10)、M_(11)は独立して0又は1である。)」

3.当審拒絶理由について
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。なお、誤訳訂正前の請求項1?10に係る発明を、それぞれ「訂正前発明1」?「訂正前発明10」という。
理由I(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲(誤訳訂正前のもの)の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
訂正前発明1に規定される各一般式は幅広い化学構造を包含し、その機械的、化学的、電気的及び光学的性質からみても多様な化合物が含まれると解されるところ、本願明細書の表1?表6及び表7?表26に記載された具体例の液晶組成物で使用されたわずかな種類の化合物をもって、訂正前発明1に規定された各一般式を代表する化合物であるといえる理由が本願明細書に記載されているとはいえないし、訂正前発明1の各一般式の定義範囲まで化学構造式を拡張した際に、上記具体例と同様の好ましいコントラストを示す液晶組成物が得られるものと解すべき理由についても、特段説明されているとはいえない。
そうすると、出願時の本願明細書に記載された具体例の実験データから、訂正前発明1に包含される広範な液晶組成物の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張乃至一般化することができるとは認められない。
訂正前発明1を直接又は間接的に引用して記載されている訂正前発明2?10も同様である。
よって、訂正前発明1?10は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.当審の判断
理由I(サポート要件)について
(1)訂正前発明1について
当審拒絶理由の拒絶対象の一つであった訂正前発明1は、平成28年5月6日付け手続補正書の請求項1に記載された事項により特定される、下記のとおりのものであったと認められる。
「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物と、
一種類又は複数種類の一般式(II)で表されるイオン型化合物とを含むことを特徴とする、高散乱スメクチック相液晶材料。
[化1]

一般式(III)
(一般式(III)において、
R_(6)はC_(1)-C_(10)のアルキル基又はC_(1)-C_(10)のアルコキシ基であり;
R_(7)はCN、NCS又はFであり;
E、Fは、独立して、
[化2]

からなる群から選ばれ;
X_(15)?X_(20)は、独立して、H又はFであり;
M_(5)、M_(6)は独立して0又は1である。)
・・・(当審注:一般式(IV)?(VI)の定義は、上記2.に記載した本願発明1と同じである。)・・・
[化10]

一般式(II)
(一般式(II)中では、R_(3)は、存在しない又はC_(1)-C_(20)のアルキル基、C_(1)-C_(20)のアルコキシ基、C_(2)-C_(20)のアルケニル基、C_(2)-C_(20)のアルケニルオキシ基及び前記基に対応するハロゲン化物;フェロセニルメチル基、フェニル基;いずれかの-CH_(2)-が-O-、-S-、-CF_(2)-、-CF_(2)O-、-CO-、-COO-、-O-CO-、-O-COO-、-CF=CF-、-CH=CF-、-CF=CH-、-CH=CH-、
[化11]

又はフェニル基に置換されたC_(1)-C_(20)のアルキル基、C_(1)-C_(20)のアルコキシ基、C_(2)-C_(20)のアルケニル基、C_(2)-C_(20)のアルケニルオキシ基及びその異性体から選ばれる一種であり;
X^(+)は、Na^(+)、K^(+)、[(R_(4))_(4)]N^(+)、[(R_(4))_(4)]P^(+)、
[化12]

からなる群から選ばれるカチオンであり;中では、R_(4)はC_(1)-C_(30)のアルキル基、C_(1)-C_(30)のアルコキシ基、C_(2)-C_(30)のアルケニル基、C_(2)-C_(30)のアルケニルオキシ基、前記基に対応するハロゲン化物、又はフェニル基であり;R_(5)は、C_(1)-C_(30)のアルキル基、C_(1)-C_(30)のアルコキシ基、C_(2)-C_(30)のアルケニル基、C_(2)-C_(30)のアルケニルオキシ基、前記基に対応するハロゲン化物、又はフェニル基であり;
Y^(-)は、F^(-)、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)、(PF_(6))^(-)、(Ph_(4)B)^(-)、SO_(4)^(2-)、ClO_(4)^(-)及び
[化13]

からなる群から選ばれるアニオンである。)」

(2)本願発明1について
これに対して、本願発明1は、誤訳訂正により、請求項1に記載されていた一般式(III)の環E及び環Fの選択肢が減縮される一方、「一種類又は複数種類の一般式(II)で表されるイオン型化合物」についての記載が削除されることにより、上記2.に記載したとおりの「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物を含むことを特徴とする、高散乱スメクチック相液晶材料」の発明となっている。
そうすると、誤訳訂正により、本願発明1の液晶材料の組成範囲は、一般式(II)で表されるイオン型化合物を含まない組成範囲が含まれることとなった点で、誤訳訂正前よりもむしろ広い組成範囲を含むようになったものと解することができる。

(3)本願発明の課題について
本願明細書[0002]?[0006]等の記載によると、本願発明は、スメクチック相液晶を用いる従来の反射型表示デバイスが、そのコントラストが非常に低いため、商業的に応用・普及されにくかったことに鑑み、高散乱スメクチック相液晶材料を提供し、当該材料に適するドライブ方法と合わせて、商業的用途に用いられるコントラストが高く表示品質が良いスメクチック相液晶多安定の省エネ表示デバイスを実現することを課題とする発明と認められる。

(4)サポート要件について
(4-1)本願明細書の一般的な記載及び技術常識について
本願発明1においては、二種類又は二種類以上の一般式(III)、(IV)、(V)又は(VI)で表される化合物を含むことが特定され、本願明細書[0021]には、本願発明が、新たな高散乱スメクチック相液晶材料を混合することにより、一連の液晶ドメインが緊密に配列している混合液晶が得られ、光線が当該混合液晶に入った後、より高い散乱状態となる旨が記載されている。
しかし、本願明細書[0015]にも、「表示材料として使用される時に、いずれか1種の化合物そのものは、すべての要求を満足することが可能ではないので、異なる性能要求を両立させるように、複数種類の優れた光電特性を有する異なる単量体化合物を選択して、一定の割合により混合して混合液晶にする。同様に、その他の優れた特性の確保のもとにスメクチック相液晶材料の散乱度をさらに向上させようとすれば、各種の単量体化合物材料を選別してその配合割合を最適化する方法により解决しなければならない。」と記載されているように、液晶組成物の分子の配向、粘性等の機械的物性、電界中での誘電的性質や、表示素子にしたときの光学的特性、応答性能等は、一部の配合成分の種類を特定するだけで決まるものではなく、併用されるすべての成分の種類や配合割合によって様々に変化するというのが本願の優先日における技術常識であり、本願発明1における成分の特定が、直ちに本願明細書[0021]に記載されたような、光線の高散乱をもたらす状態と結び付けられるものではない。また、本願明細書には、本願発明1に記載された一般式(III)、(IV)、(V)又は(VI)に含まれる任意の二種類以上の化合物を、不特定の割合で液晶組成物に含有させることにより、上記課題を解決し得る高散乱スメクチック相液晶材料が得られる理由を説明する一般的な理論は記載されていない。

(4-2)具体例の記載について(表1)
本願明細書に開示されている具体例について検討すると、まず、[0024]?[0026]表1に記載された例においては、「I102」というシロキサン液晶分子と、「10OCB」という直鎖シアノビフェニル化合物(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)との4:1の混合物を50重量%、炭素鎖の異なるシアノビフェニル化合物として、「8CB」?「16CB」という直鎖シアノビフェニル化合物(このうち、「8CB」、「9CB」及び「10CB」は、本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)を50重量%の割合で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて、液晶混合層とし、クリアリング状態における透過率、フロスティング状態における透過率及びコントラストをテストしたことが記載されている。そして、[0026]表1には、「8CB」を組み合わせた組成物のコントラストは「4.09:1」であり、「9CB」を組み合わせた組成物のコントラストは「3.91:1」であったことが記載されているところ、これらの2例は、「二種類の一般式(VI)で表される化合物を含む」点で、いずれも本願発明1に記載された配合成分の要件を満たすものである。
ここで、本願明細書の[0057]に、「本発明の混合材料を従来のスメクチック相液晶表示デバイスに応用する場合、従来の表示デバイスのコントラストを効果的に向上させることができる。肉眼で許容可能なコントラストは、普通5:1であり、本発明が提供する高散乱スメクチック相材料は、光学的処理の補佐が一切ないことを前提に、そのコントラストが6:1?12:1に達することができ、視覚効果が良い。」と記載されていることを参酌すると、表1に記載された上記の2例は、いずれもコントラストが5:1に満たない例であるから、肉眼で許容可能なコントラストを示していないものであり、このため、本願発明の「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという課題を解決することができないものといえる。そうすると、本願発明1は、本願発明の課題を解決することができない態様を含んでいることになり、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、上記2例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるが、本願明細書の[0051]に、「低周波電場(≦100Hz)において、長鎖状の導電性イオン(導電物、例えば添加された有機導電性イオン、例えば・・・過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・・・等)が電場力により往復運動し始め、スメクチック層の秩序的な配列をかき混ぜて乱す。・・・電気信号が止まった後、スメクチック相液晶は粘度が大きいので、その分子配列は無秩序の配列状態に止まり、・・・この時に顕微鏡の透過光線を利用して液晶セルを観察すると、電極エリアは光が遮断されている暗い状態、即ち、フロスティング状態となることが見られる。」と記載されていることを参酌すると、上記2例は、イオン型化合物を含有することにより、それを含有しない場合よりも、本来コントラストが向上することが期待できるものであると解される。そうすると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、上記2例よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いが、誤訳訂正後の本願発明1においては、イオン型化合物の添加が必須とされていないから、そのような組成物も本願発明1の要件を満たすものに当たる。よって、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、表1に記載された組成物のうち、本願発明1の要件を満たすものは、「10OCB」と、「8CB」又は「9CB」という特定の化合物の組合せを含み、その他の液晶化合物としては「I102」いう特定の化合物を含むものに限られるのに対し、本願発明1においては、上記3種類の化合物とは環の種類や数、置換基、連結基の化学構造及び特性が異なる化合物を含むものとして一般式(VI)の化合物が定義されており、また、「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」を含むように化合物が組み合わせられ、さらに、「I102」に限られない不特定の化合物を含み得るものと解されるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、表1の実験データを参酌しても、より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。

(4-3)具体例の記載について(表2)
本願明細書の[0027]?[0029]表2に記載された例においては、「10OCB」と「8CB」と(いずれも本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当するから、本願発明1の「二種類の一般式(VI)で表される化合物を含む」との要件を満たす。)と「B1」(当審注:具体的な化学構造は不明である。)とを1:2:1の重量比で含む混合物を50?95重量%、「I102」というシロキサン液晶分子を50?5重量%の比率で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて液晶混合層とし、コントラストをテストしたこと、表2によると、「I102」の混合割合に応じて3.00:1?5.00:1のコントラストを示したことが記載されている。ここで、[0028]には、「シロキサン液晶の量が10%より低い場合、コントラストは5:1に達することが可能である。」と記載されており、また、上記(4-2)における検討も踏まえると、コントラストが5.00:1に満たないものは、本願発明の「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという課題を解決することができないものと解されるが、表2に記載された液晶層は、コントラストが5.00:1に満たないものも含め、すべての液晶層が本願発明1の「二種類の一般式(VI)で表される化合物を含む」という要件を満たしているものである。そうすると、本願発明1は、本願発明の課題を解決することができない態様を含んでいることになり、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、表2の例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるところ、上記(4-2)における検討を踏まえると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、表2に記載された値よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いが、そのような組成物も本願発明1の要件を満たすものに当たる。よって、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、表1と同様、表2の組成物も、本願発明1の定義に比べて、限られた種類の化合物の組合せからなるものであるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、表2の実験データを参酌しても、より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。

(4-4)具体例の記載について(表3)
本願明細書の[0030]?[0032]表3及び[0033]に記載された例は、「I102」と「8CB」(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)とを1:4の重量比で含む混合物を100?60重量%、表3に記載された特定のアルキン系液晶(本願発明1の一般式(III)で表される化合物に相当する。)を0?40重量%の比率で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて液晶混合層とし、コントラストをテストしたものと解され、「最初にスメクチック相処方のコントラストはアルキン系液晶材料の量の増加に伴い徐々に向上していくが、コントラストが7.5:1に達した後、さらにアルキン系液晶材料の量を増やすと、コントラストは最初に一定に保持されており、その後徐々に下がっていくことを発見した。」と記載され、表3によると、アルキン系液晶の比率が5重量%の場合はコントラストが5.00:1に満たず、10?30重量の場合は6.00:1以上であり、35重量%又は40重量%の場合は5.00:1に満たなかったことが読み取れる。ここで、上記(4-2)における検討も踏まえると、コントラストが5.00:1に満たないものは、本願発明の「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという課題を解決することができないものと解されるが、アルキン系液晶の比率が5重量%、35重量%又は40重量%の場合も、本願発明1の「二種類の一般式(III)又は(VI)で表される化合物を含む」という要件を満たしているものである。そうすると、本願発明1は、本願発明の課題を解決することができない態様を含んでいることになり、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、表3の例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるところ、上記(4-2)における検討を踏まえると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、表3に記載された値よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いが、そのような組成物も本願発明1の要件を満たすものに当たる。よって、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、表1、2と同様、表3の組成物も、本願発明1の定義に比べて、限られた種類の化合物の組合せからなるものであるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、表3の実験データを参酌しても、より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。

(4-5)具体例の記載について(表4)
本願明細書の[0034]?[0035]表4に記載された例は、「I102」と「8CB」(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)とを1:4の重量比で含む混合物を70?100重量%、「5CT」(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)を30?0重量%の比率で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて液晶混合層とし、コントラストをテストしたものと解され、「5CT含有量が20wt%より多い場合に、溶解しにくく、且つ含有量が10%まで増加する時に、コントラストは既に極限に達しており、それ以上加えてもコントラストに役立たないことが見出された。」と記載され、表4によると、「5CT」の比率が5?20重量%の場合はコントラストが5:1?6:1であったこと、及び25重量%又は30重量%の場合は液晶材料が「溶解不可」であったことが読み取れる。ここで、液晶材料が「溶解不可」の場合(「5CT」の比率が25重量%又は30重量%の場合)については、コントラストを算出する基となる「クリアリング状態における透過率」及び「フロスティング状態における透過率」のいずれの実験データも示されていないことから、そもそも両透過率を測定できるような液晶表示デバイス自体を製造することができなかったと推測されるものであり、このため、本願発明の「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという課題を解決することもできないものと解されるが、これらの場合も、本願発明1の「二種類の一般式(VI)で表される化合物を含む」という要件を満たしているものである。そうすると、本願発明1は、本願発明の課題を解決することができない態様を含んでいることになり、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、表4の例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるところ、上記(4-2)における検討を踏まえると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、表4に記載された値よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いから、例えば、「5CT」の比率が5重量%で、かつイオン型化合物を添加しない組成物の場合は、5:1に満たないコントラストしか示さない蓋然性が高い。よって、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、表1?3と同様、表4の組成物も、本願発明1の定義に比べて、限られた種類の化合物の組合せからなるものであるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、表4の実験データを参酌しても、より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。

(4-6)具体例の記載について(表5)
本願明細書の[0036]?[0037]表5に記載された例は、「I102」と「8CB」(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)とを1:4の重量比で含む混合物を80重量%、表5に記載された特定の化学構造を有する5種類の化合物のいずれか(本願発明1の一般式(VI)又は(V)で表される化合物に相当する。)を20重量%の比率で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて液晶混合層とし、コントラストをテストしたものと解され、「性能の優れたポリビフェニル系材料を発見し、そのコントラストは8:1に達することが可能である。」と記載され、表5によると、本願発明1の一般式(V)で表される化合物に相当する特定の1種類の化合物を組み合わせた場合にはコントラストが8:1であり、同一般式(VI)で表される化合物に相当する4種類の化合物のいずれかを組み合わせた場合にはコントラストが5:1?6.5:1であったことが読み取れる。しかし、表5に記載された一般式(VI)で表される化合物を二種類含む組成物については、化合物の化学構造のわずかな違いでコントラストが5:1?6.5:1まで変化することが読み取れること、及び表5と同様に「I102」及び「8CB」を含み、さらに別の一般式(VI)で表される化合物を含む表1、2、4においては、必ずしもコントラストが5:1以上にならないことがあること、及び上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、表5に記載された例は、本願発明1に記載された一般式(VI)の定義範囲の化合物を「二種類又は二種類以上を含む」ことにより、5:1以上のコントラストが得られることを裏付けるものとはいえない。
また、表5に記載された一般式(V)で表される化合物を含む組成物についても、特定の1種類の化合物が用いられただけであり、組み合わせた他の化合物は「8CB」(一般式(VI)に相当する1種類の化合物)だけであるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、本願発明1に記載された一般式(V)の定義範囲の化合物を使用して、「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」と組み合わせる場合まで、5:1以上のコントラストが得られるものとして、発明を拡張ないし一般化できるものとはいえない。
さらに、表5の例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるところ、上記(4-2)における検討を踏まえると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、表5に記載された値よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いから、表5においてコントラストが5:1である一般式(VI)の化合物を用いる場合において、仮にイオン型化合物を添加しないものとすると、5:1に満たないコントラストしか示さない蓋然性が高い。よって、本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4-7)具体例の記載について(表6)
本願明細書の[0038]?[0039]表6及び[0040]に記載された例は、「I102」と「8CB」(本願発明1の一般式(VI)で表される化合物に相当する。)とを1:4の重量比で含む混合物を70重量%、表6に記載された特定の化学構造を有する5種類の化合物のいずれか(本願発明1の一般式(VI)又は(IV)で表される化合物に相当する化合物と、いずれの一般式にも当たらない化合物である。)を30重量%の比率で混合させた後、4重量‰の過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えて液晶混合層とし、コントラストをテストしたものと解され、表6によると、本願発明1の一般式(IV)で表される化合物に相当する特定の2種類の化合物を組み合わせた場合にはコントラストが9:1又は10:1であったことが読み取れる。しかし、表6に記載された一般式(IV)で表される化合物は、特定の2種類の化合物が用いられただけであり、組み合わせた他の化合物は「8CB」(一般式(VI)に相当する1種類の化合物)だけであるから、上記(4-1)に記載したような技術常識を考慮すると、本願発明1に記載された一般式(IV)の定義範囲の化合物を使用して、「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」と組み合わせる場合まで、5:1以上のコントラストが得られるものとして、発明を拡張ないし一般化できるものとはいえない。
また、表6の例は、4重量‰の「過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム」というイオン型化合物を含有する組成物であるところ、上記(4-2)における検討を踏まえると、仮に組成物がイオン型化合物を含まなかった場合には、表6に記載された値よりもさらに低いコントラストしか示さない蓋然性が高いから、表6の実験データに基づいて、直ちに本願発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4-8)具体例の記載について(表7?9、11?14、16?26)
本願明細書の[0066]表7?[0105]表26に開示されている実施例1?20のうち、本願発明1の要件を満たす液晶組成物は、表7?9、11?14、16?26に記載された実施例1?3、5?8、10?20であり、いずれも「イオン型化合物」を必須成分として含んでいる
ここで、表9、表12?14、16?26では「9CB」という直鎖シアノビフェニル化合物(本願発明1の一般式(VI)の定義に含まれる化合物の一つ。)と、「I102」又は「I103」というシロキサン液晶分子(本願発明1のいずれの一般式にも属さない化合物。)とが必須成分として含まれ、このうち表17以外の例は、「9CB」が最多成分(20?54.9重量%)であり、表12、20以外の例は、「I102」が第二成分又は最多成分(15?30重量%)であるから、「9CB」と「I102」又は「I103」とを主たる必須成分として含み、かつ本願発明1に記載された「一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」に相当する特定の化合物及びその他の液晶化合物を少量成分として含み、さらに「イオン型化合物」を含む組成物については、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ると解される。
しかし、他の表の配合組成からは、配合成分の化学構造及び配合割合と組成物のコントラストとの間に特段の傾向を見出すことは困難であり、上記(4-1)に記載したような技術常識も考慮すると、どのような化学構造を有する化合物がコントラストの向上に寄与したのかを明確に特定することは困難である。また、「イオン型化合物」を含まない組成物の例は一つも示されていないが、上記(4-2)において検討したとおり、組成物がイオン型化合物を含まない場合には、イオン型化合物を含む組成物よりも低いコントラストしか示さない蓋然性が高いから、「イオン型化合物」を含まない配合組成によって実際に高いコントラストが得られるのか、必ずしも明らかではない。
そうすると、上記各表に記載された具体例の実験データ及び本願の優先日における技術常識を参酌しても、「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」を含むという、より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。

(4-9)小括
上記(4-2)?(4-8)において検討した具体例を総合的に検討しても、本願発明1に記載された「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物」のすべての組合せが網羅されているとまではいえない。また、上記の具体例は、いずれも「イオン型化合物」を含むものであり、誤訳訂正により本願発明1に含まれることとなった、イオン型化合物を含まない組成範囲に相当する具体例は、一つも記載されていない。そして、上記具体例の記載と、本願明細書の一般記載における説明、及び上記(4-1)に記載したような技術常識を合わせて検討しても、当業者が、本願発明の「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという課題を解決し得る範囲を、具体例における配合成分の化学構造の組合せを超え、さらにイオン型化合物を含まない組成範囲を含む本願発明1の範囲まで、拡張ないし一般化し得ると理解できるものとは認められない。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明において、当業者が「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求するものであり、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4-10)請求人の主張について
請求人は、平成29年11月24日に提出した意見書において、「本発明の特徴の1つは、二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物を通常のスメクチックA、B、C、D、E、F、G、H又はI相の液晶材料に添加してコントラストを改善することにある。通常のスメクチックA、B、C、D、E、F、G、H又はI相の液晶材料は従来良く知られている。例えば、スメクチックA相材料は、I102及び8CBを含むものである。」と主張している。
しかし、本願発明1には、「二種類又は二種類以上の一般式(III),(IV),(V),又は(VI)で表される化合物を含む」ことは特定されているが、その含有割合は特定されておらず、それが「通常のスメクチックA、B、C、D、E、F、G、H又はI相の液晶材料」に添加されることも特定されておらず、本願発明1は請求人が主張する範囲よりも幅広い成分組成を包含するものと解されるから、請求人の主張は本願発明1の記載に即したものではない。
また、請求人は上記意見書において、「本出願人は、広範囲の研究に基づき、高い光学異方性をもつ液晶材料と高いコンストラストとの間に相間があることを見出したものである。この知見は、表3-6及び本実施例によって証明されている。」と主張し、本願明細書に記載された表3?6及び実施例の実験データを引用した上で、「以上のように、出願人は、液晶材料のコントラスト改善効果について、複数の異なるアルキン系化合物、複数の異なる多環系化合物、複数の異なる複素環系化合物およびこれらの組合せについて、広大な試験を実施している。このような試験の結果は、特許請求の範囲に規定された発明について十分なサポートを提供するものである。よって、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たすものである。」と主張している。
しかし、上記(4-1)?(4-9)において検討したとおり、本願明細書に記載された各表の実験データにより、本願発明1に含まれる一部の液晶組成物については、コントラストが5:0以上となることを理解できるものの、例えば表1?4には、本願発明1の要件を満たすが、コントラストが5:1に満たない組成物や、液晶表示デバイス自体を製造することができない成分の組合せも開示されているから、少なくともこれらの場合には、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決できないことが明らかであるし、さらに本願明細書における一般的な説明及び本願の優先日における技術常識を参酌しても、各表に記載された具体例より幅広い成分組成を包含するように拡張ないし一般化された本願発明1の範囲において、「高散乱スメクチック相液晶材料を提供」するという本願発明の課題を解決し得ることを、当業者が理解できるものとは認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-09 
結審通知日 2018-03-12 
審決日 2018-03-23 
出願番号 特願2014-549290(P2014-549290)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 浩西澤 龍彦  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
天野 宏樹
発明の名称 高散乱スメクチック相液晶材料及びそれを用いた表示デバイス  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
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