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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04Q 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04Q |
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管理番号 | 1342771 |
審判番号 | 不服2017-5619 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-19 |
確定日 | 2018-08-02 |
事件の表示 | 特願2012-176460「車両用通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月24日出願公開、特開2014- 36340〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年8月8日の出願であって、平成28年4月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月6日付けで平成28年10月13日にされた手続補正について補正の却下の決定がされ、同日付けで拒絶査定されたところ、平成29年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正されたものである。 第2 平成29年4月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成29年4月19日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正について (1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された。 「 通信網を介して通信を行う車載用通信装置であって、 複数の通信網にそれぞれ接続され、前記複数の通信網にそれぞれ対応する通信地域で通信が可能である複数の通信部と、 前記車載用通信装置の位置情報を取得する位置取得部と、 前記複数の通信部の中から、前記通信を行う通信部として、前記位置取得部によって取得した位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部を選択する選択部と、 前記複数の通信部に対する優先度を設定する優先度設定部を備え、 前記位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部が複数ある場合、前記選択部は、前記優先度設定部によって設定された優先度が高い通信部を選択し、 前記優先度設定部は、前記通信地域ごとに優先順位が異なる前記通信部が存在するように前記複数の通信部に対する優先度を設定し、 前記選択部により前記通信部が選択された後、選択された前記通信部は、通信圏内であるか否かが判別されると共に通信圏内である場合に限って通信を開始することを特徴とする車載用通信装置。」(当審注:下線は補正箇所を示す。) (2)本件補正前の特許請求の範囲 平成28年10月13日にされた手続補正は却下されたので、本件補正前の、平成28年5月27日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。 「 通信網を介して通信を行う車載用通信装置であって、 複数の通信網にそれぞれ接続され、前記複数の通信網にそれぞれ対応する通信地域で通信が可能である複数の通信部と、 前記車載用通信装置の位置情報を取得する位置取得部と、 前記複数の通信部の中から、前記通信を行う通信部として、前記位置取得部によって取得した位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部を選択する選択部と、 前記複数の通信部に対する優先度を設定する優先度設定部を備え、 前記位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部が複数ある場合、前記選択部は、前記優先度設定部によって設定された優先度が高い通信部を選択し、 前記優先度設定部は、前記通信地域ごとに優先順位が異なる前記通信部が存在するように前記複数の通信部に対する優先度を設定することを特徴とする車載用通信装置。」 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「通信部」に関し、【0040】の記載に基づいて「前記選択部により前記通信部が選択された後、選択された前記通信部は、通信圏内であるか否かが判別されると共に通信圏内である場合に限って通信を開始すること」を限定する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 したがって、上記補正は特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものである。また、同法17条の2第3項(新規事項)及び同法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはない。 (2)独立特許要件 上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて、以下に検討する。 ア.本件補正発明 本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものと認める。 イ.引用例1の記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された、特開2004-140459号公報(平成16年5月13日出願公開。以下、「引用例1」という。)には以下の記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、例えば移動情報端末、車載用電子機器のような、移動局として用いられる電子機器および同電子機器で用いられる無線通信制御方法に関する。」(4頁)(下線は当審で付加した。以下同様。) (イ)「【0019】 外部との無線通信を行うために、車載用電子機器11には、第1乃至第3の無線通信デバイス26,27,28が設けられている。これら無線通信デバイス26,27,28は互いに異なる無線通信方式で無線通信を実行するように構成されている。外部との無線通信においては、第1乃至第3の無線通信デバイス26,27,28が選択的に用いられる。」(5頁) (ウ)「【0028】 自車位置が第1乃至第3の無線通信方式の中の2以上の無線通信方式を利用可能な位置にあるときには、予め決められた優先順位に基づいて、利用可能な無線通信デバイスの中で最も優先順位の高い無線通信デバイスが選択される。 【0029】 優先順位は、例えば通信速度、通信料金等の観点から予め決められている。以下では、第1の無線通信デバイス26が最も高い優先順位を有し、第2の無線通信デバイス27が第2の優先順位を有し、そして第3の無線通信デバイス28が最も優先順位が低い場合を想定することとする。」(6頁) (エ)「【0034】 車載用電子機器11は、さらに、GPSユニット16、車速センサ17、ジャイロセンサ18、および車両情報検出部19を備えている。これらGPSユニット16、車速センサ17、ジャイロセンサ18、および車両情報検出部19は、インターフェース20を介してシステム制御部12に接続されている。 【0035】 GPSユニット16は自車の現在位置(自車位置)を検出するための位置検出装置であり、GPSアンテナ15を介して複数の衛星からの電波を受信して自車位置(緯度、経度)を測位する。」(7頁) (オ)「【0042】 図2には、ある地域における第1乃至第3の無線通信方式それぞれの通信エリア(ゾーンまたはセル)の配置の一例が示されている。 【0043】 上述したように、一つの基地局当たりの通信エリアは、第1の無線通信方式(無線LAN)が最も狭く、第3の無線通信方式(3GPP)が最も広く、第2の無線通信方式(PHS)はそれらの中間である。」(8頁) (カ)「【0047】 車載用電子機器11が搭載された自動車100は図示矢印のような経路で移動するとする。この場合、自動車100の現在位置における第1乃至第3の無線通信方式それぞれの無線通信環境は、自動車100の移動に伴って変化する。通信制御部112は、上述の基地局情報データベースを用いることによって、自動車100の現在位置に対応する第1乃至第3の無線通信方式それぞれの無線通信環境を判別し、その判別結果に基づいて、無線通信に使用すべき無線通信デバイスを、図3に示されるように、動的に切り替える。 【0048】 すなわち、自動車100の現在位置が地点P1であるときには、利用可能な無線通信方式は第3の無線通信方式のみであるので、通信制御部112は、第3の無線通信デバイス(#3)28を選択する。地点P1においては、第3の無線通信デバイス(#3)28は、第3の無線通信方式(3GPP)に対応する基地局BS-C1との無線通信を実行する。 【0049】 自動車100の現在位置が地点P2であるときには、利用可能な無線通信方式は第2の無線通信方式と第3の無線通信方式である。第2の無線通信方式は第3の無線通信方式よりも優先順位が高いので、通信制御部112は、第2の無線通信方式に対応する第2の無線通信デバイス(#2)27を選択する。地点P2においては、第2の無線通信デバイス(#2)27は、第2の無線通信方式(PHS)に対応する基地局BS-B1との無線通信を実行する。 【0050】 自動車100の現在位置が地点P3またはP4であるときには、利用可能な無線通信方式は第1の無線通信方式、第2の無線通信方式、および第3の無線通信方式の全てである。第1の無線通信方式が最も優先順位が高いので、通信制御部112は、第1の無線通信方式に対応する第1の無線通信デバイス(#1)26を選択する。地点P3においては、第1の無線通信デバイス(#1)26は、第1の無線通信方式(無線LAN)に対応する基地局BS-A1との無線通信を実行する。地点P4においては、第1の無線通信デバイス(#1)26は、第1の無線通信方式(無線LAN)に対応する基地局BS-A2との無線通信を実行する。 【0051】 自動車100の現在位置が地点P5であるときには、利用可能な無線通信方式は第2の無線通信方式と第3の無線通信方式である。第2の無線通信方式は第3の無線通信方式よりも優先順位が高いので、通信制御部112は、第2の無線通信方式に対応する第2の無線通信デバイス(#2)27を選択する。地点P5においては、第2の無線通信デバイス(#2)27は、第2の無線通信方式(PHS)に対応する基地局BS-B1との無線通信を実行する。 【0052】 自動車100の現在位置が地点P6であるときには、利用可能な無線通信方式は第3の無線通信方式のみであるので、通信制御部112は、第3の無線通信方式に対応する第3の無線通信デバイス(#3)28を選択する。地点P6においては、第3の無線通信デバイス(#3)28は、第3の無線通信方式(3GPP)に対応する基地局BS-C1との無線通信を実行する。」(8?9頁) (キ)「【0054】 基地局情報データベースは、第1乃至第3の無線通信方式それぞれに対応する基地局の所在位置に関するデータベースであり、例えば、図示のように、基地局毎に、その存在する位置(緯度、経度)、基地局タイプ(基地局ID、無線通信方式)、および通信可能エリア(例えばゾーンの半径)を示す。基地局IDは、当該基地局を識別する情報であり、例えば当該基地局のアドレス等を示す。」(9頁) (ク)「【0055】 通信制御部112は、自車の現在位置をカバーする通信エリアを持つ基地局を基地局情報データベースから検索し、そしてその検索された基地局それぞれの無線通信方式に従って、現在位置において利用可能な無線通信デバイスを判別する。2以上の無線通信方式が利用可能な場合には、上述の優先順位にしたがって、無線通信に使用すべき無線通信デバイスが決定される。 【0056】 次に、図5のフローチャートを参照して、通信制御部112によって実行される通信デバイス切り替え処理の手順について説明する。 【0057】 通信制御部112は、まず、GPSユニット16によって検出された現在の自車位置を通信エリアとしてカバーする無線通信環境を持つ無線通信方式を調べるために、現在の自車位置と上述の基地局情報データベースとに基づいて、現在の自車位置をカバーする通信エリアを持つ基地局を基地局情報データベースから検索する(ステップS101)。このステップS101では、現在の自車位置をカバーする通信エリアを持つ全ての基地局とそれら基地局それぞれの無線通信方式が検出される。 【0058】 無線通信方式が互いに異なる複数の基地局が検索された場合、通信制御部112は、上述の無線通信方式それぞれの優先順位に従って、無線通信に使用すべき基地局を選択する(ステップS102)。 【0059】 次いで、通信制御部112は、選択された基地局に対応する無線通信方式に応じて、第1乃至第3の無線通信デバイス26?28の中から、無線通信に使用すべき無線通信デバイスを選択する(ステップS103)。通信制御部112は、無線通信に使用すべき無線通信デバイスを、それまでに選択されていた、ある無線通信デバイスから、ステップS103で選択された無線通信デバイスに切り替える(ステップS104)。 【0060】 そして、通信制御部112は、ステップS103で選択された無線通信デバイスを用いることによって外部との通信処理を実行する(ステップS105)。この場合、ステップS103で選択された無線通信デバイスは、ステップS102で選択された基地局との無線接続を確立し、その基地局を介してインターネット上のサーバなどとの通信を行う。 【0061】 このようにして、外部との通信に使用すべき無線通信デバイスは、自車位置の移動に応じて自動的に切り替えられる。これにより、現在の自車位置にとって最適な無線通信デバイスを用いて、外部との通信を行うことが可能となる。すなわち、自動車100の移動先によらず、何処の場所からでも外部との通信を行うことができる。ユーザは、外部との通信に使用すべき無線通信デバイスの種類を何等意識する必要はない。 【0062】 なお、自動車100の移動中においては、自車の現在位置のみならず、自車の移動方向をも考慮して、使用すべき最適な基地局及び無線通信方式が決定される。自車の移動方向は、ジャイロセンサ18によって検出される。 【0063】 次に、図6のフローチャートを参照して、外部との通信に現在使用されている無線通信方式の通信環境が悪化した時に、通信デバイス切り替え処理を行う例について説明する。 【0064】 いま、第1の無線通信デバイス26を用いて外部との通信を実行しているとする(ステップS111)。通信制御部112は、第1の無線通信デバイス26によって受信される、第1の無線通信方式に対応する基地局からのキャリア信号の電界強度レベルを監視する(ステップS112)。その電界強度レベルが予め決められた値以下に低下したならば(ステップS112のYES)、通信制御部112は、第1の無線通信デバイス26に対応する第1の無線通信方式の通信環境が悪化し始めたと判断し、以下の通信デバイス切り替え処理を実行する。 【0065】 すなわち、通信制御部112は、現在の自車位置からの通信に最適な基地局を基地局情報データベースから検索する(ステップS113)。このステップS113では、GPSユニット16によって検出された現在の自車位置とジャイロセンサによって検出された自車の移動方向とを考慮することによって、現在位置を通信エリアとしてカバーする基地局それぞれの中から、良好な通信環境が得られると予想される基地局が検索される。もし、良好な通信環境が得られると予想される、無線通信方式が互いに異なる複数の基地局(ここでは、第2の通信方式に対応する基地局と第3の通信方式に対応する基地局)が検索された場合には、上述の優先順位に従って、無線通信に使用すべき基地局(ここでは、第2の通信方式に対応する基地局)が選択される。」(9?10頁) (ケ)図1及び図2として以下の図が記載されている。 上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると、引用例1には、次の技術的事項が記載されている。 a 上記(ア)によれば、引用例1は「車載用電子機器」について記載されているということができる。 b 上記(イ)によれば、車載用電子機器11には、第1乃至第3の無線通信デバイス26,27,28が設けられ、それぞれの無線通信デバイスは、互いに異なる第1乃至第3の無線通信方式により通信を行っており、上記(オ)及び(ケ)の図2には、無線LAN、PHS、3GPPが例示されていることから、複数の無線通信デバイスがそれぞれ異なる通信網に接続されていることは明らかである。そして、上記(オ)?(キ)、及び(ケ)によれば、第1乃至第3の無線通信方式はそれぞれの対応する通信エリアを有している。 そうしてみると、車載用電子機器11では、複数の無線通信デバイスが、複数の異なる通信網にそれぞれ接続され、当該通信網に対応する通信エリアにおいて通信可能であるということができる。 c 上記(エ)によれば、車載用電子機器11は、自車の現在位置を検出するため「GPSユニット16」を有している。 d 上記(ク)によれば、通信制御部112は、GPSユニット16によって検出された自車の現在位置を通信エリアとしてカバーする無線通信方式を検出し、複数ある無線通信デバイスの中から対応する無線通信デバイスを判別しているといえる。 そうしてみると、車載用電子機器11は、GPSユニットによって検出された自車の現在位置を通信エリアとしてカバーする無線通信方式に対応する無線通信デバイスを判別する通信制御部を有しているということができる。 e 上記(ウ)及び(ク)の記載によれば、無線通信方式と無線通信デバイスが対応関係にあることを踏まえれば、車載用電子機器11の通信制御部112は、2以上の無線通信デバイスを利用可能な位置にある場合には、予め決められた優先順位にしたがって、無線通信デバイスを決定しているといえる。 また、複数の無線通信デバイスに対する優先順位が予め決められているということができる。 したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「 車載用電子機器であって、 それぞれが複数の異なる通信網に接続され、当該通信網にそれぞれ対応する通信エリアにおいて通信可能な複数の無線通信デバイスと、 自車の現在位置を検出するGPSユニットと、 前記GPSユニットによって検出された自車の現在位置を通信エリアとしてカバーする無線通信方式に対応する無線通信デバイスを判別する通信制御部とを有し、 複数の無線通信デバイスに対する優先順位が予め決められており、 前記通信制御部は、2以上の無線通信デバイスが利用可能な位置にある場合には、予め決められた優先順位にしたがって、無線通信デバイスを決定することを特徴とする車載用電子機器。」 ウ.引用例2?4の記載事項及び周知技術・公知技術 (ア)引用例2について 原査定の拒絶の理由で引用された、特開2011-91617号公報(平成23年5月6日出願公開。以下、「引用例2」という。)には以下の記載がある。 (a)「【0001】 本発明は複数の通信手段により情報センタからデータを取得可能な車両用データ通信装置に関する。」(2頁) (b)「【0030】 又、自車位置エリア優先といった優先条件は、複数の通信可能な通信端末20?26の一つを選択する条件として自車位置(停車位置や走行中の位置)のエリア(自宅エリア、市街地エリア、公衆無線LANエリア、郊外エリア、車両バッテリ充電設備設置エリア)に応じて通信端末を選択するといった優先条件であり、例えば自車が自宅エリアにあれば、通信コストが無料の家庭内無線LAN用通信端末25を優先する。 【0031】 車両が市街地エリアにあれば、通信速度が速く通信コストが安いPHS用通信端末24を優先する。 車両が郊外エリアであれば、1X WIN用通信端末22、HSDPA用通信端末23など、通信網が広範囲にわたる通信端末を優先する。 【0032】 又、車両が車両バッテリ充電設備設置エリア(例えばこの車両バッテリ充電設備を備えたコンビニエンスストア)にあれば、PLC用通信端末26を優先する。このPLC用通信端末26は、自車両が電気自動車である場合その車両バッテリに車両バッテリ充電設備(電源コンセント)から受電するときにデータも取得するものであり、車両バッテリ充電設備はコンビニエンスストアや自宅やその他特定場所にある。」(6?7頁) (c)「【0038】 この選択処理の処理内容は、図4のフローチャートのようになっている。すなわち、ステップT1では、自車位置が自宅エリアであるか否かを判断し、自宅エリアであると判断されると(「YES」)、ステップT2に移行し、通信コストが安い通信端末(家庭内LAN用通信端末25)を選択する。なお、この家庭内LAN用通信端末25を選択する理由は、自宅エリアでは通常この家庭内LAN用通信端末25の通信コストが他の無線通信端末よりは一番安いことにある。 【0039】 前記ステップT1で「NO」と判断されれば、ステップT3に移行してコンビニエンスストアなどの車両バッテリ充電設備設置エリアであるか否かを判断し、「YES」であれば、有線であって通信安定性の高いPLC用通信端末26を選択する。 前記ステップT3で「NO」と判断されれば、ステップT5に移行して、市街地エリアであるか否かを判断し、「YES」であればステップT6に移行して、通信コストの安い通信端末を選択する。この市街地エリアで通信コストの安い通信端末を選択する理由は次にある。すなわち、市街地エリアでは、無線LAN(公衆無線LAN)や、PHS網、携帯電話網など多種類の通信インフラが整備されており、しかも通信速度や安定性にも優れていることが多い。従って、このようにどの通信インフラもほぼ良好な環境では、通信コスト(無料も含む)が安い通信インフラを優先することが有益である。 【0040】 前記ステップT5で「NO」と判断されたときには、ステップT7に移行して、郊外エリアであるか否かを判断し、「YES」であれば、通信安定性の高い通信端末を選択する。この趣旨は、郊外では電波が途切れやすい傾向があるため、通信安定性の高い通信端末例えば1X WIN用通信端末22、HSDPA用通信端末23が好適する。前記ステップT2、ステップT4、ステップT6、ステップT8の後は、図3のステップS16に移行する。」(8頁) (イ)引用例3について 原査定の拒絶の理由で引用された、特開2012-147122号公報(平成24年8月2日出願公開。以下、「引用例3」という。)には以下の記載がある。 (a)「【0001】 本発明は、複数の無線通信方式を実行可能にする通信端末および通信制御方法に関する。」(5頁) (b)「【0057】 優先度管理テーブル105は、サービスごとにどの無線通信方式を優先して、待受け状態において起動させておくか、サービスと無線通信方式とを優先順位をつけて記憶する部分である。図4は、その優先度管理テーブル105の具体例を示す説明図である。図4に示されているとおり、優先度管理テーブル105は、無線通信方式とサービスとからマトリクスを組んだ表を示したものであって、サービスごとに、どの無線通信方式を優先的に使用するか、その優先順位を記述している。 ・・・・・(略)・・・・ 【0059】 なお、この優先度管理テーブル105は、通信エリアごとに切り替えて用いられるようにしてもよい。すなわち、優先度管理テーブル105は、予め定められた通信エリアに対応して、複数備えられており、その優先順位も通信エリアに対応して異なっている。例えば、無線LAN環境がない通信エリアに対応づけられている優先度管理テーブル105は、無線LANを選択不可と設定されているか、若しくは、その優先順位は下位に設定されている。」(12頁) (c)「【0071】 つぎに、本実施形態の変形例について説明する。図7は、変形例における通信端末100の処理を示すフローチャートである。図7に示されるように、まず、非アイドル状態からアイドル状態に遷移したタイミングで、現在、利用頻度高と識別部104内において設定されているサービスの利用頻度と、実際にサービス管理テーブル103において利用頻度が最も高いサービスの利用頻度とを比較し、実際の利用頻度が最も高いサービスの利用頻度がN回以上多い場合には、そのサービスが利用頻度高に設定され、そのサービスの優先度が高い無線通信方式が選択される(S101?S104)。これは上述本実施形態と同様の処理である。 【0072】 つぎに、選択された無線通信方式は通信端末100において利用可能であるか、選択部106において判断される。例えば、通信部101において受信される報知情報に基づいて、選択した無線通信方式による通信が規制対象となっているか、また無線通信品質(電波強度や、パケットロス値など)が所定値以下であるか、が選択部106において判断される(S205)。 【0073】 ここで、選択部106により利用可であると判断されると、無線通信方式切替部107により、通信部101に対して無線通信方式の切替処理がなされる(S207)。 【0074】 また、選択部106により利用不可であると判断されると、次点となる無線通信方式が選択され、同様に利用の可否の判断が再度なされる(S206、S104)。そして、次点となる無線通信方式が利用可能であると判断されると(S205)、無線通信方式切替部107により、通信部101に対して無線通信方式の切替処理がなされる(S207)。」(13?14頁) (ウ)引用例4について 原査定の拒絶の理由で引用された、特開2004-80420号公報(平成16年3月11日出願公開。以下、「引用例4」という。)には以下の記載がある。 (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、複数の無線通信方式を切り替えて使用することのできる車載無線端末に関するもので、DSRC、ETC、および無線LANに用いて好適である。」(3頁) (b)「【0008】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、複数の無線通信方式を切り替えて使用することのできる車載無線端末であって、自車両と複数の無線通信方式のカバーエリアとの位置関係の情報を取得するエリア情報取得手段と、エリア情報取得手段の取得情報に基づいて、複数の無線通信方式の使用の優先度を決定する優先度決定手段と、優先度に基づいて使用する通信方式を切り替えて通信を行う通信手段と、を備えた車載無線端末である。」(4頁) (c)「【0075】 このように、使用する無線通信方式の優先順位を決定するときに、ETCの優先順位を最も高くしたのは、ETCによる通信の確立の可能性が最も高いからである。このように、制御部43は自車両と通信システムのカバーエリアとの位置関係の情報を取得し、この取得情報に基づいて、使用する無線通信方式の優先度(優先順位)を決定する。」(12頁) (エ)周知技術 上記(ア)の(a)?(c)、(イ)の(a)(b)、及び(ウ)の(a)?(c)によれば、以下の事項は本願出願時において周知であると認める。(以下、「周知技術」という。) 「優先度に基づいて複数の無線通信方式を切り替えて通信を行う通信端末において、エリア毎に異なる優先度を用いる。」 (オ)公知技術 上記(イ)の(c)【0072】【0073】によれば、「利用可能であると判断」することは通信圏内であると判断することと同義といえる。してみると、上記(イ)の(a)及び(c)から、以下の事項は本願出願時において公知であると認める。(以下、「公知技術」という。) 「複数の無線通信方式を切り替えて実行する通信端末において、通信方式を選択したのち、通信圏内であるかを判断し、通信圏内であれば切替処理を行って通信をする。」 エ.引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「車載用電子機器」は、無線通信デバイスにより通信網に接続され通信を行うから、本件補正発明の通信網を介して通信を行う「車載用通信装置」に相当する。 b 引用発明の複数の「無線通信デバイス」は、複数の「通信網」に接続され、当該「通信網」に対応する「通信エリア」で通信するものであるから、引用発明の「無線通信デバイス」及び「通信エリア」が、本件補正発明の「通信部」及び「通信地域」にそれぞれ相当する。したがって、引用発明の「それぞれが複数の異なる通信網に接続され、当該通信網にそれぞれ対応する通信エリアにおいて通信可能な複数の無線通信デバイス」は、本件補正発明の「複数の通信網にそれぞれ接続され、前記複数の通信網にそれぞれ対応する通信地域で通信が可能である複数の通信部」に相当する。 c 引用発明の「GPSユニット」が検出する「自車の現在位置」は、「車載用電子機器」の現在位置であることは明らかであるから、引用発明の「自車の現在位置を検出するためGPSユニット」は、本件補正発明の「前記車載用通信装置の位置情報を取得する位置取得部」に相当する。 d 本件補正発明の「選択する」と引用発明の「判別する」とは表現が異なるものの同義であり、上記b、cを踏まえると、引用発明の「前記GPSユニットによって検出された自車の現在位置を通信エリアとしてカバーする無線通信方式に対応する無線通信デバイスを判別する通信制御部」は、本件補正発明の「前記複数の通信部の中から、前記通信を行う通信部として、前記位置取得部によって取得した位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部を選択する選択部」に相当する。 e 本件補正発明の「前記複数の通信部に対する優先度を設定する優先度設定部」は、本願明細書【0028】に「テーブル70には、通信モジュール毎に、契約している通信事業者(キャリア)の通信方式、通信地域(エリア)、優先度(優先順位)等のデータが登録されている(優先度設定部)。」と記載されていることからみて、テーブル70のような優先度を記憶する構成を含むものといえる。 一方、引用発明は「複数の無線通信デバイスに対する優先順位が予め決められており、前記通信制御部は、2以上の無線通信デバイスが利用可能な位置にある場合には、予め決められた優先順位にしたがって、無線通信デバイスを決定する」ものであるから、予め決められた優先順位を記憶する構成を有していると考えるのが自然であり、そうしてみると、引用発明も本件補正発明の「優先度設定部」に相当する構成を有しているといえる。 f 引用発明の「前記通信制御部は、2以上の無線通信デバイスが利用可能な位置にある場合には、予め決められた優先順位にしたがって、無線通信デバイスを決定すること」は、利用可能な無線通信デバイスが複数あるときは優先順位に従うことを特定したものであるから、本件補正発明の「前記位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部が複数ある場合、前記選択部は、前記優先度設定部によって設定された優先度が高い通信部を選択」することに相当する。 したがって、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認める。 [一致点] 「 通信網を介して通信を行う車載用通信装置であって、 複数の通信網にそれぞれ接続され、前記複数の通信網にそれぞれ対応する通信地域で通信が可能である複数の通信部と、 前記車載用通信装置の位置情報を取得する位置取得部と、 前記複数の通信部の中から、前記通信を行う通信部として、前記位置取得部によって取得した位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部を選択する選択部と、 前記複数の通信部に対する優先度を設定する優先度設定部を備え、 前記位置情報に基づく位置が前記通信地域に含まれる通信部が複数ある場合、前記選択部は、前記優先度設定部によって設定された優先度が高い通信部を選択することを特徴とする車載用通信装置。」 [相違点1] 一致点の「前記複数の通信部に対する優先度を設定する優先度設定部」に関し、本件補正発明は更に「前記優先度設定部は、前記通信地域ごとに優先順位が異なる前記通信部が存在するように前記複数の通信部に対する優先度を設定し」との発明特定事項を有しているのに対して、引用発明は当該発明特定事項を有していない点。 [相違点2] 本件補正発明は「前記選択部により前記通信部が選択された後、選択された前記通信部は、通信圏内であるか否かが判別されると共に通信圏内である場合に限って通信を開始する」との構成を有しているのに対して、引用発明は当該構成を有しない点。 エ.判断 上記相違点1について検討する。 引用例1の【0029】(上記イ.(ウ))によれば、引用発明の優先順位は通信速度、通信料金等の観点から定められることが例示されているが、各無線通信方式の通信状態は自車位置により異なり、場合によっては所望の通信品質を満たさないことも有り得ることは技術常識であり、上記ウ.(エ)に示したとおり、「優先度に基づいて複数の無線通信方式を切り替えて通信を行う通信端末において、エリア毎に異なる優先度を用いる。」ことは周知技術である。そうしてみると、引用発明に当該周知技術を採用することが格別困難であったということはできない。 したがって、相違点1とした本件補正発明の構成は、引用発明に周知技術を適用することによって当業者が容易に想到できたものである。 次に、上記相違点2について検討する。 通信圏内にいなければ通信できないことは当然であるところ、上記ウ.(オ)に示したとおり、「複数の無線通信方式を切り替えて実行するものにおいて、通信方式を選択したのち、通信圏内であるかを判断し、通信圏内であれば切替処理を行って通信をする。」ことは公知技術である。そして、引用発明においても通信圏内でなければ通信できないのは当然であるところ、引用発明も複数の無線通信方式を切り替えて実行するものであって、通信方式を選択したのち、切替処理を行って通信するものである点で、公知技術と構成が共通しており、上記公知技術を引用発明に適用することは当業者にとって格別困難なことではない。 そうしてみると、相違点2とした本件補正発明の構成は、引用発明に公知技術を適用し、当業者が容易に構成できたものである。 そして、本件補正発明が奏する効果も、当業者が引用発明、周知技術及び公知技術から容易に予想できる範囲内のものである。 したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術及び公知技術に基づき、当業者が容易に想到できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 なお、請求人は平成29年8月18日に提出された上申書において、「その通信部が通信圏内と判定された場合にはその通信部が通信を開始し、その通信部が通信圏外と判定された場合には前記選択部によりその通信部の次に優先度が高い通信部が新たに選択される、という処理を、選択された前記通信部が通信圏内であると判定されるまで繰り返」すという事項を限定する補正案(以下、「本件補正案」という。)を提示している。しかしながら、上記ウ.(イ)(c)に摘記したように、引用例3には「利用不可であると判断されると、次点となる無線通信方式が選択され、同様に利用の可否の判断が再度なされる」(【0074】参照)ことが記載されており、当該事項に基づいて本件補正案の「通信部が通信圏外と判定された場合には前記選択部によりその通信部の次に優先度が高い通信部が新たに選択される」という構成は容易に想到できたものである。そして、「選択された前記通信部が通信圏内であると判定されるまで繰り返す」ことも、使用する通信部を決定する上で適宜構成し得る事項にすぎない。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成29年4月19日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年5月27日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1.(2)に記載のとおりのものと認める。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 理由(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 理由について(進歩性) ・請求項 1,3に対して 引用文献等 1ないし4 ・請求項 2に対して 引用文献等 1ないし5 <引用文献等一覧> 1.特開2004-140459号公報 2.特開2004-080420号公報 3.特開2011-091617号公報 4.特開2012-147122号公報 5.特開2010?041650号公報 3.引用発明、周知技術、及び公知技術 引用発明、周知技術、及び公知技術は、前記第2[理由]2.(2)イ.及びウ.の項で認定したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は本件補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明が、上記第2[理由]2.(2)の「独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明、周知技術、及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由(ただし、相違点2に係る判断を除く。)により当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-06-04 |
結審通知日 | 2018-06-05 |
審決日 | 2018-06-20 |
出願番号 | 特願2012-176460(P2012-176460) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04Q)
P 1 8・ 575- WZ (H04Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松野 吉宏 |
特許庁審判長 |
菅原 道晴 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 海江田 章裕 |
発明の名称 | 車両用通信装置 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |