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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1342791
審判番号 不服2017-8987  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-20 
確定日 2018-08-21 
事件の表示 特願2013-159997「保護膜形成フィルム,保護膜形成用シートおよび検査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月16日出願公開,特開2015- 32644,請求項の数(12)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年7月31日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 9月16日 拒絶理由通知
平成28年11月22日 意見書提出・手続補正
平成29年 3月15日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 6月20日 審判請求・手続補正
平成29年12月26日 上申書提出

第2 原査定の概要
本願請求項1-13に係る発明は,本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2012-033741号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって,請求項1に従属する請求項10に記載された検査方法,請求項5に従属する請求項10に記載された検査方法,及び,請求項6に従属する請求項10に記載された検査方法に「目視によって発見できないクラックの検査を行う」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また前記事項は,出願当初明細書の段落[0006]?[0008],[0010],[0015],[0022],[0026]に記載されているから,新規事項を追加するものではないといえる。また,発明の特別な技術的特徴を変更するものともいえない。
そして,後記「第4 本願発明」から「第6 対比及び判断」までに示すように,補正後の請求項1ないし12に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は,審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりである。
「【請求項1】
波長1600nmの光線透過率が25%以上であり,波長550nmの光線透過率が20%以下である保護膜形成フィルムを使用してワークに保護膜を形成することにより,保護膜付きワークを製造し,
前記保護膜付きワークまたは前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物について,赤外線を利用し,前記保護膜を介して目視によって発見できないクラックの検査を行うことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記保護膜形成フィルムは,未硬化の硬化性接着剤から構成される単層であることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記硬化性接着剤は,着色剤および平均粒径0.01?3μmのフィラーを含有することを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
0.05?0.75質量%の着色剤が配合されている,請求項1?3のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の保護膜形成フィルムと,前記保護膜形成フィルムの一方の面または両面に積層された剥離シートとを備えた保護膜形成用シートを使用してワークに保護膜を形成することにより,保護膜付きワークを製造し,
前記保護膜付きワークまたは前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物について,赤外線を利用し,前記保護膜を介して目視によって発見できないクラックの検査を行うことを特徴とする検査方法。
【請求項6】
基材の一方の面側に粘着剤層が積層されてなる粘着シートと,前記粘着シートの前記粘着剤層側に積層された保護膜形成フィルムとを備え,前記保護膜形成フィルムの波長1600nmの光線透過率は,25%以上であり,前記保護膜形成フィルムの波長550nmの光線透過率は,10%以下である保護膜形成用複合シートを使用してワークに保護膜を形成することにより,保護膜付きワークを製造し,
前記保護膜付きワークまたは前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物について,赤外線を利用し,前記保護膜を介して目視によって発見できないクラックの検査を行うことを特徴とする検査方法。
【請求項7】
前記保護膜形成フィルムは,未硬化の硬化性接着剤から構成される単層であることを特徴とする請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
前記硬化性接着剤は,着色剤および平均粒径0.01?3μmのフィラーを含有することを特徴とする請求項7に記載の検査方法。
【請求項9】
保護膜形成フィルムは0.05?0.75質量%の着色剤が配合されている,請求項6?8のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項10】
前記ワークは半導体ウエハであり,前記加工物は半導体チップであることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の検査方法に基づいて,良品と判断された保護膜付きワーク。
【請求項12】
請求項9または10に記載の検査方法に基づいて,良品と判断された加工物。」

第5 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム及びその製造方法に関する。半導体裏面用フィルムは,半導体チップ等の半導体素子の裏面の保護及び強度向上等のために用いられる。本発明はまた,半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,半導体装置及びそのパッケージの薄型化,小型化がより一層求められている。そのため,半導体装置及びそのパッケージとして,半導体チップ等の半導体素子が基板上にフリップチップボンディングにより実装された(フリップチップ接続された)フリップチップ型の半導体装置が広く利用されている。当該フリップチップ接続は半導体チップの回路面が基板の電極形成面と対向する形態で固定されるものである。このような半導体装置等では,半導体チップの裏面を保護フィルムにより保護し,半導体チップの損傷等を防止している場合がある(特許文献1?3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-166451号公報
【特許文献2】特開2008-006386号公報
【特許文献3】特開2007-261035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,前記保護フィルムにより半導体チップの裏面を保護するためには,ダイシング工程で得られた半導体チップに対し,その裏面に保護フィルムを貼り付けるための新たな工程を追加する必要がある。その結果,工程数が増え,製造コスト等が増加することになる。そこで,本願発明者らは,製造コストの低減を図るため,ダイシングテープ一体型の半導体裏面用フィルムを開発し,これらについて出願を行っている(本出願の出願時において未公開)。このダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムは,基材上に粘着剤層を有するダイシングテープと,前記ダイシングテープの粘着剤層上に設けられたフリップチップ型半導体裏面用フィルムとを有する構造である。
【0005】
半導体装置の製造に際して,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムは,一般的に次のとおりに用いられる。先ず,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムに於けるフリップチップ型半導体裏面用フィルム上に半導体ウェハを貼着する。次に,この半導体ウェハをダイシングして半導体チップを形成する。続いて,半導体チップを前記フリップチップ型半導体裏面用フィルムと共に,ダイシングテープの粘着剤層から剥離してピックアップした後,半導体チップを基板等の被着体上にフリップチップ接続させる。これにより,フリップチップ型の半導体装置が得られる。
【0006】
ここで,ダイシングした後,得られる半導体チップにチッピング等の不具合が発生していないか否かを確認するために,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムのダイシングテープ側(半導体チップが貼り付けられている側とは反対側)からの光学顕微鏡や赤外線照射による検査を行うことがある。しかしながら,従来品では,ダイシングテープの基材が白く曇って見えることがあり,この場合,ダイシングテープ側から観察しても視認性が十分とは言えず,半導体チップの画像が不明瞭となって半導体チップの不具合を検出することができない状況となってしまう。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり,その目的は,ダイシング工程後の半導体チップの検査において光線透過率が高く,半導体チップの画像の視認性に優れたダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム及びその製造方法,並びに当該フィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は,従来の問題点を解決すべく検討した結果,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムの製造の前段階において基材はロール状に巻かれており,基材表面への凹凸加工の施工により基材同士の付着(ブロッキング)を防止し,作業性を良くすることを目的としてエンボス加工等の凹凸加工が施されているところ,この凹凸加工によりダイシングテープの基材が白く曇って見えるのではないかとの考えに至った。
【0009】
以上のような知見から,本願発明者等は下記構成を採用することにより,ダイシング工程後の検査工程において,高い光線透過率を有しており,半導体チップの画像の視認性に優れたダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを提供することができることを見出し,本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち,本発明に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム(以下,「一体型フィルム」と称することがある)は,凹凸加工面を有する基材及びこの基材上に積層された粘着剤層を有するダイシングテープと,このダイシングテープの粘着剤層上に積層された半導体裏面用フィルムとを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムであって,前記ダイシングテープのヘイズが45%以下である。当該一体型フィルムでは,凹凸加工面を有する基材と粘着剤層とで構成されたダイシングテープのヘイズを45%以下としているので,半導体チップの検査工程における光線透過率を向上させることができる。その結果,光線照射による半導体チップの視認性を高めることができ,半導体チップにおける不具合の発生の検出を効率的に行うことができる。なお,本発明において,光線は赤外線を含む概念である。
【0011】
前記粘着剤層が前記基材の前記凹凸加工面側に積層されていることが好ましい。このような構成を具体的に採用することで,ダイシングテープのヘイズを容易に本発明の規定範囲に調整することができる。すなわち,基材に形成された凹凸加工面と粘着剤層とを貼り合わせることにより凹凸加工面と粘着剤層とが互いに密着し,両者の空隙を埋めることができる。これにより,ダイシングテープを透過する際の光線の散乱を抑制すると共に,透過率を向上させてヘイズを低減することができる。」
「【0020】
(ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム)
図1で示されるように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1は,凹凸加工面31aを有する基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,前記粘着剤層上に設けられ,フリップチップ型半導体に好適な半導体裏面用フィルム2とを備える構成である。また,本発明のダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムは,図1で示されているように,ダイシングテープ3の粘着剤層32上において,半導体ウェハの貼着部分に対応する部分33のみに半導体裏面用フィルム2が形成された構成であってもよいが,粘着剤層32の全面に半導体裏面用フィルムが形成された構成でもよく,また,半導体ウェハの貼着部分に対応する部分33より大きく且つ粘着剤層32の全面よりも小さい部分に半導体裏面用フィルムが形成された構成でもよい。なお,半導体裏面用フィルム2の表面(ウェハの裏面に貼着される側の表面)は,ウェハ裏面に貼着されるまでの間,セパレータ等により保護されていてもよい。以下,半導体裏面用フィルム及びダイシングテープの順で詳述する。」
「【0072】
また,半導体裏面用フィルム2における可視光(波長:400nm?800nm)の光線透過率(可視光透過率)は,特に制限されないが,例えば,20%以下(0%?20%)の範囲であることが好ましく,より好ましくは10%以下(0%?10%),特に好ましくは5%以下(0%?5%)である。半導体裏面用フィルム2は,可視光透過率が20%より大きいと,光線通過により,半導体素子に悪影響を及ぼす恐れがある。また,前記可視光透過率(%)は,半導体裏面用フィルム2の樹脂成分の種類やその含有量,着色剤(顔料や染料など)の種類やその含有量,無機充填材の含有量などによりコントロールすることができる。」
「【0079】
基材31は,凹凸加工面31aを有している。この凹凸加工面31aは,一体型フィルム1の製造の前段階において,ロール状に巻かれた基材31同士のブロッキングを防止し作業性を確保することを目的として設けられている。凹凸加工面31aが露出した状態で粘着剤層32が積層されると,凹凸加工面31aに起因して光散乱が生じてしまい,ダイシングテープ3のヘイズが高くなってしまう。この場合,ダイシング工程後の検査工程において観察しようとしても光線透過率が低くなってしまうことから,半導体チップのチッピング等の不具合の発生を検出することができない事態となる。これに対し,当該一体型フィルム1では,ダイシングテープ3のヘイズを45%以下としているので,光線の透過率を高めることができ,半導体チップの検査を容易かつ効率的に行うことができる。
【0080】
なお,ヘイズは,市販のヘイズ(ヘーズ)メーターを用いて,次式により求めることができる。
ヘイズ(%)=Td/Tt×100
(Td:拡散透過率,Tt:全光線透過率)
【0081】
ダイシングテープ3のヘイズを45%以下に調整する方策としては特に限定されず,凹凸加工面31aと粘着剤層32とを対向させて積層し粘着剤層32により凹凸を吸収させる方法,基材同士の付着を抑制する程度に,かつヘイズが45%以下となるように凹凸加工により形成される凹凸の度合いを調整する方法,露出する凹凸加工面31aに対して粘着剤層等の凹凸を吸収する層をさらに積層する方法等が挙げられる。これらの中でも,粘着剤層32を基材31の凹凸加工面31a側に積層することが好ましい。基材31に形成された凹凸加工面31aと粘着剤層32とを貼り合わせることにより粘着剤層32が凹凸加工面31aの凹凸に追従して基材と粘着剤層とが互いに密着し,両者の空隙を埋めることができる。これにより,別途の部材を必要とすることなく,ダイシングテープを透過する際の光の散乱を抑制すると共に,透過率を向上させてヘイズを効率良く低減することができる。また,凹凸加工面31aの凹凸の度合いは従来と同程度でよいので,基材31のブロッキングを防止することができ作業性を確保することができる。」
「【0116】
[マウント工程]
先ず,図2(a)で示されるように,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1の半導体裏面用フィルム2上に任意に設けられたセパレータを適宜に剥離し,当該半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して,これを接着保持させ固定する(マウント工程)。このとき前記半導体裏面用フィルム2は未硬化状態(半硬化状態を含む)にある。また,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1は,半導体ウェハ4の裏面に貼着される。半導体ウェハ4の裏面とは,回路面とは反対側の面(非回路面,非電極形成面などとも称される)を意味する。貼着方法は特に限定されないが,圧着による方法が好ましい。圧着は,通常,圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行われる。
【0117】
[ダイシング工程」
次に,図2(b)で示されるように,半導体ウェハ4のダイシングを行う。これにより,半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化(小片化)し,半導体チップ5を製造する。ダイシングは,例えば,半導体ウェハ4の回路面側から常法に従い行われる。また,本工程では,例えば,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1まで切り込みを行うフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず,従来公知のものを用いることができる。また,半導体ウェハ4は,半導体裏面用フィルムを有するダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1により優れた密着性で接着固定されているので,チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に,半導体ウェハ4の破損も抑制できる。なお,半導体裏面用フィルム2がエポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成されていると,ダイシングにより切断されても,その切断面において半導体裏面用フィルムの接着剤層の糊はみ出しが生じるのを抑制又は防止することができる。その結果,切断面同士が再付着(ブロッキング)することを抑制又は防止することができ,後述のピックアップを一層良好に行うことができる。
【0118】
なお,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1のエキスパンドを行う場合,該エキスパンドは従来公知のエキスパンド装置を用いて行うことができる。エキスパンド装置は,ダイシングリングを介してダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1を下方へ押し下げることが可能なドーナッツ状の外リングと,外リングよりも径が小さくダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを支持する内リングとを有している。このエキスパンド工程により,後述のピックアップ工程において,隣り合う半導体チップ同士が接触して破損するのを防ぐことが出来る。
【0119】
[検査工程]
次いで,ダイシングで得られる半導体チップにおいてチッピング等の不具合が発生していないかを確認する検査工程を行う。検査手法は特に限定されず,光学顕微鏡,赤外線照射,CCDカメラ等による画像認識等による検査が挙げられる。例えば,赤外線照射による検査の場合,ダイシングにより形成された半導体チップ間の空隙(いわゆるダイシングストリート)に向かって,ダイシングテープ側から赤外線を照射し,そのときの透視画像を赤外線カメラ等により捕捉することにより,半導体チップの不具合を検出することができる。当該製造方法(I)では,ヘイズを低減させたダイシングテープを備える当該一体型フィルムを用いているので,ダイシング工程後の検査工程を赤外線照射によっても効率良く行うことができる。これにより,良品と不良品との判別も迅速かつ容易に行うことができるので,半導体装置の製造の歩留まりを向上させることができる。もちろん,他の検査手法であっても同様の作用効果を得ることができる。
【0120】
[ピックアップ工程]
ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1に接着固定された半導体チップ5を回収する為に,図2(c)で示されるように,半導体チップ5のピックアップを行って,半導体チップ5を半導体裏面用フィルム2とともにダイシングテープ3より剥離させる。ピックアップの方法としては特に限定されず,従来公知の種々の方法を採用できる。例えば,個々の半導体チップ5をダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1の基材31側からニードルによって突き上げ,突き上げられた半導体チップ5をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。なお,ピックアップされた半導体チップ5は,その裏面が半導体裏面用フィルム2により保護されている。
【0121】
[フリップチップ接続工程]
ピックアップした半導体チップ5は,図2(d)で示されるように,基板等の被着体に,フリップチップボンディング方式(フリップチップ実装方式)により固定させる。具体的には,半導体チップ5を,半導体チップ5の回路面(表面,回路パターン形成面,電極形成面などとも称される)が被着体6と対向する形態で,被着体6に常法に従い固定させる。例えば,半導体チップ5の回路面側に形成されているバンプ51を,被着体6の接続パッドに被着された接合用の導電材(半田など)61に接触させて押圧しながら導電材を溶融させることにより,半導体チップ5と被着体6との電気的導通を確保し,半導体チップ5を被着体6に固定させることができる(フリップチップボンディング工程)。このとき,半導体チップ5と被着体6との間には空隙が形成されており,その空隙間距離は,一般的に30μm?300μm程度である。尚,半導体チップ5を被着体6上にフリップチップボンディング(フリップチップ接続)した後は,半導体チップ5と被着体6との対向面や間隙を洗浄し,該間隙に封止材(封止樹脂など)を充填させて封止することが重要である。」
「【0149】
<半導体裏面用フィルムの作製>
アクリル酸エチル-メチルメタクリレートを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(商品名「パラクロンW-197CM」根上工業株式会社製):100部に対して,エポキシ樹脂(商品名「エピコート1004」JER株式会社製):113部,フェノール樹脂(商品名「ミレックスXLC-4L」三井化学株式会社製):121部,球状シリカ(商品名「SO-25R」株式会社アドマテックス製):246部,染料1(商品名「OIL GREEN 502」オリエント化学工業株式会社製):5部,染料2(商品名「OIL BLACK BS」オリエント化学工業株式会社製):5部をメチルエチルケトンに溶解して,固形分濃度が23.6重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0150】
この接着剤組成物の溶液を,剥離ライナ(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後,130℃で2分間乾燥させることにより,厚さ(平均厚さ)10μmの半導体裏面用フィルムAを作製した。
【0151】
(実施例1及び2)
<ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムの作製>
得られたフィルムAとダイシングテープA?Bとをハンドローラーにてそれぞれ貼り合わせ,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを作製した。
【0152】
(実施例3)
ポリオレフィンフィルムと粘着剤層とを以下の熱ラミネート条件により貼り合わせたこと以外は,実施例1と同様にダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを作製した。
【0153】
(熱ラミネート条件)
貼り合わせ温度:40℃
貼り合わせ圧力:0.2MPa
【0154】
(比較例1)
得られたフィルムAとダイシングテープCとをハンドローラーにてそれぞれ貼り合わせ,ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムを作製した。
【0155】
<ダイシング後のダイシングストリートの観察>
次に,半導体ウェハ(直径8インチ,厚さ0.6mm;シリコンミラーウエハ)を裏面研磨処理し,厚さ0.2mmのミラーウェハをワークとして用いた。ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムからセパレータを剥離した後,その半導体裏面用フィルム上にミラーウェハ(ワーク)を70℃でロール圧着して貼り合わせた。更に,ダイシングを10mm角のチップサイズとなる様にフルカットすることで行った。なお,半導体ウェハ研削条件,貼り合わせ条件,及びダイシング条件は下記のとおりである。
【0156】
(半導体ウェハ研削条件)
研削装置:商品名「DFG-8560」ディスコ社製
半導体ウェハ:8インチ径(厚さ0.6mmから0.2mmに裏面研削)
(貼り合わせ条件)
貼り付け装置:商品名「MA-3000III」日東精機株式会社製
貼り付け速度計:10mm/min
貼り付け圧力:0.15MPa
貼り付け時のステージ温度:70℃
(ダイシング条件)
ダイシング装置:商品名「DFD-6361」ディスコ社製
ダイシングリング:「2-8-1」ディスコ社製
ダイシング速度:30mm/sec
ダイシングブレード;
Z1:ディスコ社製「203O-SE 27HCDD」
Z2:ディスコ社製「203O-SE 27HCBB」
ダイシングブレード回転数;
Z1:40,000rpm
Z2:45,000rpm
カット方式:ステップカット
ウェハチップサイズ:10.0mm角
【0157】
得られた半導体チップ付きダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムについて,ダイシングテープ側から光学顕微鏡を用いてダイシングストリートの観察を行った。ダイシングストリートの観察可能な場合を「○」,できない場合を「×」として評価した。評価結果を表1に示す。
【0158】
<ヘイズの測定>
なお,ヘイズは,ヘーズメーター HM-150(村上色彩技術研究所製)を用いて,次式により求めた。
ヘイズ(%)=Td/Tt×100
(Td:拡散透過率,Tt:全光線透過率)
【0159】
【表1】(中略)
【0160】
表1からも明らかなように,実施例1?3に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムでは,ヘイズが45%以下と低い値となっており,ダイシングストリートを十分に観察することができた。なお,実施例2の一体型フィルムのヘイズが実施例1の一体型フィルムより高くなっているが,これは実施例2では架橋剤としてのポリイソシアネート化合物を実施例1より多くしていることから,粘着剤層が相対的に硬くなり,エンボス加工面の凹凸への追従性が若干低下して基材と粘着剤層との間の空隙が増加したことによると考えられる。一方,比較例1のダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムでは,ヘイズが80%と高く,ダイシングストリートの観察を行うことができなかった。以上より,実施例1?3に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムによると,ダイシング後の検査工程において,光線透過率を高めることができ,これにより,半導体チップの不具合の検出を容易に行うことができることが確認された。」

(2)引用発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「可視光(波長:400nm?800nm)の光線透過率(可視光透過率)が20%以下(0%?20%)の範囲である半導体裏面用フィルム2であって,
基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,前記粘着剤層上に設けられた半導体裏面用フィルム2とを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1の半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して,これを接着保持させ固定し,半導体ウェハ4のダイシングを行い,半導体チップ5を製造し,
ダイシングにより形成された半導体チップ間の空隙(いわゆるダイシングストリート)に向かって,ダイシングテープ側から赤外線を照射し,そのときの透視画像を赤外線カメラにより捕捉することにより,半導体チップの不具合を検出することができる検査工程。」

2 刊行物6について
平成29年2月6日付け刊行物等提出書に記載された刊行物であり,本願出願前に頒布された特開2010-122145号公報(以下,「刊行物6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
この発明は,赤外レーザー光線を利用したシリコンウェハの欠陥検査装置に係るものであり,特にウェハ内に発生したクラック等の欠陥の有無を検出する欠陥検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,単結晶や多結晶の結晶系太陽電池素子の基板等として用いられるシリコンウェハは,コストダウンやシリコン材料の削減等の理由により薄型化が進められており,そのため,シリコンウェハを製造する工程やセル工程においてクラックが発生し易くなっている。」
「【0011】
さらに,前記赤外レーザー光線の波長は,1?15μmの範囲内であることを特徴としている。」
「【0025】
本実施形態で用いられる赤外レーザースキャナー1の光源は,被検体となる単結晶あるいは多結晶のシリコンウェハ7が,概ね1?15μmの赤外線を透過することから,その範囲での波長を照射できるものが用いられる。また,赤外レーザースキャナー1から照射された出射光8のシリコンウェハ7上でのスポットサイズ(照射径)は,シリコンウェハ7の厚みと同程度かそれ以下となるよう調節されている。なお,光源は,入手の容易さ等から例えば波長1.3?1.5μmの半導体レーザーが適宜である。」

3 刊行物7について
平成29年2月6日付け刊行物等提出書に記載された刊行物であり,本願出願前に頒布された特開2008-045965号公報(以下,「刊行物7」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばダイシング時にウェハに発生したクラックを検出するためのウェハの検査方法及びウェハのクラック検査装置に関する。」
「【0037】
また,本実施形態では,IR光源20から出射される赤外光線Tの波長が1100nm以上であるものとして説明を行なったが,赤外領域の光線であればその波長が1100nm以上に限定される必要はない。さらに,ウェハ2が多結晶や単結晶のシリコンで形成されているものとしたが,ウェハ2はシリコンに限定される必要のないものである。これに加えて,本発明は,,ウェハ2の裏面2cにダイシングテープが貼り付けられていたり,ダイシング後のウェハがダイシングテープで保持されているウェハに対しても,照明ユニット23から出射した赤外光線を,ダイシングテープを透過させてクラックを検出できる。」

4 刊行物8について
平成29年2月6日付け刊行物等提出書に記載された刊行物であり,本願出願前に頒布された特開2010-034133号公報(以下,「刊行物8」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,結晶半導体のクラック検出装置に係り,特に,多結晶シリコンウエハのクラック検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネルに用いられる光電変換層として,シリコン結晶半導体が広く使われている。このシリコン結晶半導体には単結晶および多結晶のものが使われている。単結晶シリコン半導体は光電変換効率が高く,多結晶シリコン半導体は製造コストが抑えられるというそれぞれの利点がある。しかしながら,両タイプのシリコン半導体において,クラックが結晶中に内在すると,何かの衝撃でクラックが拡大し,やがてウエハ全体の割れとなるおそれがある。このクラックは,その製造工程の過程でシリコンウエハの内部に発生する。この様な理由により,シリコンウエハの内部クラックを検出することは非常に重要である。」
「【0027】
赤外線管6は,多結晶シリコンウエハ2の裏面から赤外線を照射するように,一列に配置されたローラ18の間に配置されている。これより,多結晶シリコンウエハ2が赤外線管6上を搬送された際,赤外線が多結晶シリコンウエハ2の裏面へ照射され,多結晶シリコンウエハ2を透過する。この透過した赤外線を第2ラインセンサカメラ7により撮像することで,多結晶シリコンウエハ2の赤外線透過画像を取得する。この赤外線透過画像データは第2モニタ13と画像処理部8へ送られる。本実施例では,赤外線管から照射される赤外線の波長が900nm以上のものを用いる。第2ラインセンサカメラ7は第1ラインセンサカメラ5と同様に,CCDラインセンサやCMOSラインセンサ等を用いる。
赤外線管6は,本発明における赤外線照射手段に相当し,第2ラインセンサカメラ7は,本発明における第2撮像手段に相当する。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「可視光(波長:400nm?800nm)の光線透過率(可視光透過率)が20%以下(0%?20%)の範囲」は,本願発明1の「波長550nmの光線透過率が20%以下」の範囲で共通である。
イ 引用発明の「半導体裏面用フィルム2」は,「半導体チップ等の半導体素子の裏面の保護及び強度向上等のために用いられる。」(第5の1(1)【0001】)ものであるから,本願発明1の「保護膜形成フィルム」に相当する。
ウ 引用発明の「半導体ウェハ4」は,本願発明1の「ワーク」に相当する。
エ 引用発明は,「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して」いるから,半導体ウェハ4に貼着された「半導体裏面用フィルム2」を有するといえる。そして,引用発明の半導体ウェハ4に貼着された「半導体裏面用フィルム2」は,本願発明1の「保護膜」に相当する。
オ 引用発明は,「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して」いるから,「半導体裏面用フィルム2」が「貼着」された「半導体ウェハ4」を有しているといえる。そして,引用発明の「半導体裏面用フィルム2」が「貼着」された「半導体ウェハ4」は,上記ウ,エを考慮すると,本願発明1の「保護膜付きワーク」に相当する。
さらに,引用発明の「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着」することは,上記ウ,エを考慮すると,本願発明1の「保護膜付きワークを製造」しているといえる。
カ 引用発明の「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して,これを接着保持させ固定」することは,上記ウ,エ,オを考慮すると,本願発明1の「保護膜形成フィルムを使用してワークに保護膜を形成すること」に相当する。
キ 引用発明では,半導体裏面用フィルム2が貼着された半導体ウェハ4のダイシングを行い,半導体チップ5を製造しており,引用発明の「半導体ウェハ4のダイシング」することは,上記オを考慮すると,本願発明1の「前記保護膜付きワークを加工」することに相当し,引用発明の「半導体チップ5」は,本願発明1の「前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物」といえる。
ク 引用発明の「半導体チップの不具合」と,本願発明1の「クラック」とは,「半導体チップの不具合」であることで共通である。
ケ 引用発明の「ダイシングテープ」は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,前記粘着剤層上に設けられた半導体裏面用フィルム2とを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1の一部であり,上記イ,エ,クを考慮すると,引用発明の「ダイシングテープ側から赤外線を照射し,そのときの透視画像を赤外線カメラにより捕捉することにより,半導体チップの不具合を検出する」ことは,本願発明1の「赤外線を利用し,前記保護膜を介して」「検査を行うこと」といえる。
コ 引用発明の「検査工程」は,本願発明1の「検査方法」に相当する。
サ すると,本願発明1と引用発明とは,下記シの点で一致し,下記スの点で相違する。
シ 一致点
「波長550nmの光線透過率が20%以下である保護膜形成フィルムを使用してワークに保護膜を形成することにより,保護膜付きワークを製造し,
前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物について,赤外線を利用し,前記保護膜を介して半導体チップの不具合の検査を行うことができる検査方法。」
ス 相違点
(ア)相違点1
本願発明1では,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」であるのに対し,引用発明では,そうではない点。
(イ)相違点2
本願発明1では,保護膜を介して「目視によって発見できないクラック」の検査を行うのに対し,引用発明では,そうではない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1,2について,あわせて判断する。
(ア)相違点1に係る構成である保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」であることについては,引用文献1,及び,刊行物6-8のいずれにも記載も示唆もない。
(イ)引用文献1には,「即ち,本発明に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム(以下,「一体型フィルム」と称することがある)は,凹凸加工面を有する基材及びこの基材上に積層された粘着剤層を有するダイシングテープと,このダイシングテープの粘着剤層上に積層された半導体裏面用フィルムとを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムであって,前記ダイシングテープのヘイズが45%以下である。当該一体型フィルムでは,凹凸加工面を有する基材と粘着剤層とで構成されたダイシングテープのヘイズを45%以下としているので,半導体チップの検査工程における光線透過率を向上させることができる。その結果,光線照射による半導体チップの視認性を高めることができ,半導体チップにおける不具合の発生の検出を効率的に行うことができる。なお,本発明において,光線は赤外線を含む概念である。」(第5の1(1)【0010】)ことが記載されており,引用発明において,ダイシングテープのヘイズを小さくして光線透過率を向上させ光線照射による半導体チップの視認性を向上させることは考慮されているが,ダイシングテープの粘着層上に積層された半導体裏面用フィルム自体の赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係については何ら着目されていないから,当業者が半導体裏面用フィルムの赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係について認識することはなく,引用発明において,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」とする動機付けがない。
(ウ)刊行物6-8には,赤外光を利用した検査方法が記載されているが,刊行物6-8いずれの文献にも,フリップチップ型の裏面を保護フィルムにより保護する半導体チップを対象とすることは記載されておらず,半導体裏面用フィルムの赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係については何ら着目されていないから,当業者が赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係について認識することはなく,引用発明において,刊行物6-8に記載された赤外光を利用した検査方法を採用し,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」とする動機付けがない。
(エ)本願明細書の発明の詳細な説明には,「一方,半導体チップの裏面には,通常,半導体ウエハに対して施されたバックグラインド加工による研削痕が残っている。半導体チップの外観の観点から,かかる研削痕は目視によって見えないことが望ましく,上記の保護膜によって隠蔽されることが望ましい。」(本願明細書【0007】)ことが記載されており,本願の課題は,半導体チップ裏面の研磨痕を保護膜によって隠蔽することで目視によって見えなくして外観を高めることであると認められる。
引用文献1には,「半導体裏面用フィルム2は,可視光透過率が20%より大きいと,光線通過により,半導体素子に悪影響を及ぼす恐れがある。」(第5の1(1)【0072】)ことは記載されているが,引用発明は,半導体チップ裏面の研磨痕を保護膜によって隠蔽することで目視によって見えなくして外観を高めることを認識しておらず,引用発明において,半導体チップの不具合を保護膜を介して目視によって発見できないクラックとする動機付けがない。
なお,引用文献1には,「得られた半導体チップ付きダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムについて,ダイシングテープ側から光学顕微鏡を用いてダイシングストリートの観察を行った。」(第5の1(1)【0157】)ことが記載されており,光学顕微鏡は可視光を目視で観察する方法であるから,引用文献1の保護膜は,可視光透過率が20%より小さいとはいえ,保護膜を介して目視によって半導体チップの不具合を発見できるものであるといえる。
(オ)本願発明1は,相違点1,2に係る構成を備えることによって,「ワークまたは当該ワークを加工して得られる加工物に存在するクラック等の赤外線による検査が可能であり,かつワークまたは加工物に存在する研削痕が目視によって見えない保護膜を形成することができる。」(本願明細書【0022】)という格別の効果を奏すると認められる。

(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1,及び,刊行物6-8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,前記1と同様の理由により,引用文献1,及び,刊行物6-8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明6について
(1)本願発明6と引用発明との対比
ア 引用発明の「基材31」,「粘着剤層32」,「ダイシングテープ3」は,本願発明6の「基材」,「粘着剤層」,「粘着シート」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3」は,上記アを考慮すると,本願発明6の「基材の一方の面側に粘着剤層が積層されてなる粘着シート」といえる。
ウ 引用発明の「半導体裏面用フィルム2」は,「半導体裏面用フィルムは,半導体チップ等の半導体素子の裏面の保護及び強度向上等のために用いられる。」(第5の1(1)【0001】)ものであるから,本願発明6の「保護膜形成フィルム」に相当する。
エ 引用発明の「前記粘着剤層上に設けられた半導体裏面用フィルム2」は,ダイシングテープ3の粘着剤層に設けられた半導体裏面用フィルム2であるから,上記アを考慮すると,本願発明6の「前記粘着シートの前記粘着剤層側に積層された保護膜形成フィルム」といえる。
オ 引用発明の「可視光(波長:400nm?800nm)の光線透過率(可視光透過率)が20%以下(0%?20%)の範囲」は,本願発明6の「波長550nmの光線透過率は,10%以下」の範囲で共通である。
カ 引用発明の「ダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1」は,本願発明6の「保護膜形成用複合シート」に相当する。
キ 引用発明の「半導体ウェハ4」は,本願発明6の「ワーク」に相当する。
ク 引用発明は,「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して」いるから,半導体ウェハ4に貼着された「半導体裏面用フィルム2」を有するといえる。そして,引用発明の半導体ウェハ4に貼着された「半導体裏面用フィルム2」は,本願発明6の「保護膜」に相当する。
ケ 引用発明は,「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して」いるから,「半導体裏面用フィルム2」が「貼着」された「半導体ウェハ4」を有しているといえる。そして,引用発明の「半導体裏面用フィルム2」が「貼着」された「半導体ウェハ4」は,上記ウ,エを考慮すると,本願発明6の「保護膜付きワーク」に相当する。
さらに,引用発明の「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着」することは,上記キ,クを考慮すると,本願発明1の「保護膜付きワークを製造」しているといえる。
コ 引用発明の「半導体裏面用フィルム2上に半導体ウェハ4を貼着して,これを接着保持させ固定」することは,上記キ,ク,ケを考慮すると,本願発明6の「保護膜形成フィルムを使用してワークに保護膜を形成すること」に相当する。
サ 引用発明では,半導体裏面用フィルム2が貼着された半導体ウェハ4のダイシングを行い,半導体チップ5を製造しており,引用発明の「半導体ウェハ4のダイシング」することは,上記ケを考慮すると,本願発明6の「前記保護膜付きワークを加工」することに相当し,引用発明の「半導体チップ5」は,本願発明6の「前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物」といえる
シ 引用発明の「半導体チップの不具合」と,本願発明6の「クラック」とは,「半導体チップの不具合」の点で共通である。
ス 引用発明の「ダイシングテープ」は,基材31上に粘着剤層32が設けられたダイシングテープ3と,前記粘着剤層上に設けられた半導体裏面用フィルム2とを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム1の一部であり,上記イ,エ,クを考慮すると,引用発明の「ダイシングテープ側から赤外線を照射し,そのときの透視画像を赤外線カメラにより捕捉することにより,半導体チップの不具合を検出する」ことは,本願発明6の「赤外線を利用し,前記保護膜を介して」「検査を行うこと」といえる。
セ 引用発明の「検査工程」は,本願発明6の「検査方法」に相当する。
ソ すると,本願発明6と引用発明とは,下記タの点で一致し,下記チの点で相違する。
タ 一致点
「基材の一方の面側に粘着剤層が積層されてなる粘着シートと,前記粘着シートの前記粘着剤層側に積層された保護膜形成フィルムとを備え,前記保護膜形成フィルムの波長550nmの光線透過率は,10%以下である保護膜形成用複合シートを使用してワークに保護膜を形成することにより,保護膜付きワークを製造し,
前記保護膜付きワークを加工して得られた加工物について,赤外線を利用し,前記保護膜を介して半導体チップの不具合の検査を行うことを特徴とする検査方法。」
チ 相違点
(ア)相違点1
本願発明6では,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」であるのに対し,引用発明では,そうではない点。
(イ)相違点2
本願発明6では,「目視によって発見できないクラック」の検査を行うのに対し,引用発明では,そうではない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1,2について,あわせて判断する。
(ア)相違点1に係る構成である保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」であることについては,引用文献1,刊行物6-8のいずれにも記載も示唆もない。
(イ)引用文献1には,「即ち,本発明に係るダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルム(以下,「一体型フィルム」と称することがある)は,凹凸加工面を有する基材及びこの基材上に積層された粘着剤層を有するダイシングテープと,このダイシングテープの粘着剤層上に積層された半導体裏面用フィルムとを備えるダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムであって,前記ダイシングテープのヘイズが45%以下である。当該一体型フィルムでは,凹凸加工面を有する基材と粘着剤層とで構成されたダイシングテープのヘイズを45%以下としているので,半導体チップの検査工程における光線透過率を向上させることができる。その結果,光線照射による半導体チップの視認性を高めることができ,半導体チップにおける不具合の発生の検出を効率的に行うことができる。なお,本発明において,光線は赤外線を含む概念である。」(第5の1(1)【0010】)ことが記載されており,引用発明において,ダイシングテープのヘイズを小さくして光線透過率を向上させ光線照射による半導体チップの視認性を向上させることは考慮されているが,ダイシングテープの粘着層上に積層された半導体裏面用フィルム自体の赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係については何ら着目されていないから,当業者が半導体裏面用フィルムの赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係について認識することはなく,引用発明において,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」とする動機付けがない。
(ウ)刊行物6-8には,赤外光を利用した検査方法が記載されているが,刊行物6-8いずれの文献にも,フリップチップ型の裏面を保護フィルムにより保護する半導体チップを対象とすることは記載されておらず,半導体裏面用フィルムの赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係については何ら着目されていないから,当業者が赤外波長の選択及び赤外線透過率の関係について認識することはなく,引用発明において,刊行物6-8に記載された赤外光を利用した検査方法を採用し,保護膜形成フィルムの「波長1600nmの光線透過率が25%以上」とする動機付けがない。
(エ)本願明細書の発明の詳細な説明には,「一方,半導体チップの裏面には,通常,半導体ウエハに対して施されたバックグラインド加工による研削痕が残っている。半導体チップの外観の観点から,かかる研削痕は目視によって見えないことが望ましく,上記の保護膜によって隠蔽されることが望ましい。」(本願明細書【0007】)ことが記載されており,本願の課題は,半導体チップ裏面の研磨痕を保護膜によって隠蔽することで目視によって見えなくして外観を高めることであると認められる。
引用文献1には,「半導体裏面用フィルム2は,可視光透過率が20%より大きいと,光線通過により,半導体素子に悪影響を及ぼす恐れがある。」(第5の1(1)【0072】)ことは記載されているが,引用発明は,半導体チップ裏面の研磨痕を保護膜によって隠蔽することで目視によって見えなくして外観を高めることを認識しておらず,引用発明において,半導体チップの不具合を保護膜を介して目視によって発見できないクラックとする動機付けがない。
なお,引用文献1には,「得られた半導体チップ付きダイシングテープ一体型半導体裏面用フィルムについて,ダイシングテープ側から光学顕微鏡を用いてダイシングストリートの観察を行った。」(第5の1(1)【0157】)ことが記載されており,光学顕微鏡は可視光を目視で観察する方法であるから,引用文献1の保護膜は,可視光透過率が20%より小さいとはいえ,保護膜を介して目視によって半導体チップの不具合を発見できるものであるといえる。
(オ)本願発明6は,相違点1,2に係る構成を備えることによって,「ワークまたは当該ワークを加工して得られる加工物に存在するクラック等の赤外線による検査が可能であり,かつワークまたは加工物に存在する研削痕が目視によって見えない保護膜を形成することができる。」(本願明細書【0022】)という格別の効果を奏すると認められる。

(3)まとめ
したがって,本願発明6は,引用文献1,及び,刊行物6-8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明7-9について
本願発明7-9は,本願発明6の発明特定事項をすべて含むものであるから,前記3と同様の理由により,引用文献1,及び,刊行物6-8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本願発明10-12について
本願発明10-12は,本願発明1または6の発明特定事項をすべて含むものであるから,前記1または3と同様の理由により,引用文献1,及び,刊行物6-8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定について
1 理由(特許法第29条第2項)について
前記「第6 対比及び判断」のとおりであるから,本願発明1ないし12は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 まとめ
したがって,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。

第8 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-06 
出願番号 特願2013-159997(P2013-159997)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 河合 俊英
加藤 浩一
発明の名称 保護膜形成フィルム、保護膜形成用シートおよび検査方法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 志賀 正武  

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